(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】液滴吐出装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240918BHJP
B41J 29/38 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
B41J2/01 305
B41J2/01 451
B41J2/01 401
B41J29/38
(21)【出願番号】P 2021023560
(22)【出願日】2021-02-17
【審査請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100186853
【氏名又は名称】宗像 孝志
(72)【発明者】
【氏名】堀江 泰介
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-142442(JP,A)
【文献】特開2008-114547(JP,A)
【文献】特開2021-84312(JP,A)
【文献】特開2021-146614(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0286072(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
B41J 29/00-29/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体を搬送する搬送部と、
前記搬送部によって搬送される媒体に液滴を吐出する液滴吐出部と、
媒体の搬送速度に相関する検出値を出力する搬送速度センサと、
前記搬送速度センサから出力された前記検出値に基づいて、前記液滴吐出部による液滴の吐出タイミングを制御するコントローラとを備える液滴吐出装置において、
前記コントローラは、
前記搬送速度センサから直近に出力された複数の前記検出値の移動平均値を算出し、
複数の前記検出値の変化量に基づいて、算出した前記移動平均値を補正し、
補正した前記移動平均値に基づいて、前記吐出タイミングを生成し、
生成した前記吐出タイミングで前記液滴吐出部に液滴を吐出させることを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項2】
前記コントローラは、前記移動平均値を補正する処理において、前記移動平均値の算出に用いた複数の前記検出値のうち、最も新しい前記検出値と最も古い前記検出値との差に係数を乗じた値を、算出した前記移動平均値に加算することを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
前記コントローラは、前記移動平均値を補正する処理において、前記移動平均値の算出に用いた複数の前記検出値のうち、直近の2つの前記検出値の差に係数を乗じた値を、算出した前記移動平均値に加算することを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
前記コントローラは、前記移動平均値を補正する処理において、複数の前記検出値のうち、時間的に隣接する2つの前記検出値の複数の組それぞれについて、2つの前記検出値の差分に過去の組ほど小さい係数を乗じた値を、算出した前記移動平均値に加算することを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
前記搬送部は、外周面で媒体を担持して回転する回転部材を備え、
前記液滴吐出部は、前記回転部材の外周面に対面して配置され、
前記搬送速度センサは、
前記回転部材と一体回転するエンコーダスケールと、
前記エンコーダスケールを読み取って前記検出値を出力するエンコーダセンサとで構成され、
前記エンコーダセンサは、前記回転部材の周方向において、前記液滴吐出部と同じ位置配置されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の液滴吐出装置。
【請求項6】
前記液滴吐出部は、前記回転部材の周方向に離間した位置に設置されて、各々が異なる種類の液滴を吐出する複数の吐出ヘッドを備え、
前記搬送速度センサは、前記回転部材の周方向において、複数の前記吐出ヘッドそれぞれと同じ位置に配置された複数の前記エンコーダセンサを備え、
前記コントローラは、複数の前記吐出ヘッドそれぞれの前記吐出タイミングを、対応する前記エンコーダセンサから出力される前記検出値に基づいて制御することを特徴とする請求項5に記載の液滴吐出装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の液滴吐出装置を備え、
前記液滴吐出部は、インク滴を吐出することによって、媒体に画像を形成することを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、媒体を搬送する搬送部と、搬送部によって搬送された媒体に向けてインクを吐出するインク吐出部と、を備える画像形成装置が知られている。このような画像形成装置において、搬送部による媒体の搬送速度がバラつくと、インク吐出部から吐出されたインクが媒体の目標位置に着弾しないことがある。
【0003】
そこで、インクが吐出されてから媒体へ着弾するときの目標位置に対するずれ量を一定にする目的で、媒体の搬送速度に基づいてインク吐出部の吐出タイミングを補正する技術がある(例えば、特許文献1を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吐出タイミングの補正方法の1つとして、媒体の搬送速度の移動平均値を用いる方法がある。しかしながら、過去の搬送速度に基づいて算出される移動平均値は、現在の搬送速度(搬送量)に対して「遅れ」を含む。そのため、移動平均値に基づいて吐出タイミングを補正する従来技術では、インクを目標位置に着弾させることができず、印刷品質が低下するという課題がある。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、媒体の搬送速度の検出誤差を低減して、目標位置に液滴を着弾させることが可能な液滴吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、媒体を搬送する搬送部と、前記搬送部によって搬送される媒体に液滴を吐出する液滴吐出部と、媒体の搬送速度に相関する検出値を出力する搬送速度センサと、前記搬送速度センサから出力された前記検出値に基づいて、前記液滴吐出部による液滴の吐出タイミングを制御するコントローラとを備える液滴吐出装置において、前記コントローラは、前記搬送速度センサから直近に出力された複数の前記検出値の移動平均値を算出し、複数の前記検出値の変化量に基づいて、算出した前記移動平均値を補正し、補正した前記移動平均値に基づいて、前記吐出タイミングを生成し、生成した前記吐出タイミングで前記液滴吐出部に液滴を吐出させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、媒体の検出誤差を低減して、目標位置に液滴を着弾させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の概略構成図。
【
図4】インクジェット記録装置のハードウェア構成図。
【
図7】本実施形態に係る信号周期、補正前移動平均値、補正前誤差、補正後移動平均値、及び補正後誤差の対応関係を示す図。
【
図8】理想的な信号周期に基づいて算出される搬送速度の推移、補正前移動平均値に基づいて算出される搬送速度の推移、補正後移動平均値に基づいて算出される搬送速度の推移を示す図。
【
図9】変形例1に係る信号周期、補正前移動平均値、補正前誤差、補正後移動平均値、及び補正後誤差の対応関係を示す図。
【
図10】変形例2に係る信号周期、補正前移動平均値、補正前誤差、補正後移動平均値、及び補正後誤差の対応関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置(画像形成装置、液滴吐出装置)1の概略構成図である。
図1に示すように、インクジェット記録装置1は、給紙部10と、画像形成部20と、乾燥部30と、排紙部40とを備える。インクジェット記録装置1は、給紙部10から給紙される用紙P(媒体)に対して、画像形成部20がインクを吐出することで画像を形成する。そして、インクジェット記録装置1は、用紙P上に付着したインクを乾燥部30で乾燥させた後、用紙Pを排紙部40に排紙する。
【0010】
給紙部10は、複数の用紙Pが積載される給紙トレイ11と、給紙トレイ11から用紙Pを1枚ずつ分離して送り出す給送装置12と、用紙Pを画像形成部20へ送り込むレジストローラ対13とを備えている。給送装置12には、ローラやコロを用いた装置、エア吸引を利用した装置など、給送機能を有する公知のあらゆる給送装置を採用できる。
【0011】
給送装置12により給紙トレイ11から送り出された用紙Pは、その先端がレジストローラ対13に到達した後、レジストローラ対13が所定のタイミングで駆動されることにより、画像形成部20へ給紙される。なお、本実施形態において、給紙部10は、画像形成部20へ用紙Pを送り出す機能を備えていれば、特にその構成は限定されない。
【0012】
画像形成部20は、用紙搬送ドラム21(回転部材)と、インク吐出部22(液滴吐出部)と、受け取り胴24と、受け渡し胴25とを備えている。用紙搬送ドラム21、受け取り胴24、及び受け渡し胴25は、搬送部の一例である。受け取り胴24は、給紙部10から用紙Pを受け取る。用紙搬送ドラム21は、受け取り胴24が受け取った用紙Pを外周面で担持して搬送する円筒形状の回転部材である。インク吐出部22は、用紙搬送ドラム21によって搬送された用紙Pに向けてインクを吐出する。受け渡し胴25は、用紙搬送ドラム21によって搬送された用紙Pを乾燥部30へ受け渡す。
【0013】
給紙部10から画像形成部20へ搬送されてきた用紙Pは、受け取り胴24の表面に設けられた用紙グリッパによって先端が把持され、受け取り胴24の表面移動に伴って搬送される。受け取り胴24により搬送された用紙Pは、用紙搬送ドラム21との対向位置で用紙搬送ドラム21へ受け渡される。
【0014】
用紙搬送ドラム21の表面にも用紙グリッパが設けられており、用紙Pの先端が用紙グリッパによって把持される。また、用紙搬送ドラム21の表面には、複数の吸引孔が分散して形成されている。各吸引孔には、吸引装置26によって用紙搬送ドラム21の内側へ向かう吸い込み気流が発生する。用紙Pは、この吸い込み気流により用紙搬送ドラム21の表面に吸着される。受け取り胴24から用紙搬送ドラム21へ受け渡された用紙Pは、用紙グリッパによって先端が把持されると共に、吸い込み気流によって用紙搬送ドラム21の表面に吸着して、用紙搬送ドラム21の表面移動に伴って搬送される。
【0015】
インク吐出部22は、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(ブラック)、白色、金色などの複数色のインクを吐出して画像を形成する。インク吐出部22は、インクの色(液滴の種類)ごとに個別の吐出ヘッド23A,23B,23C,23D,23E,23Fを備えている。吐出ヘッド23A~23Fは、インクジェット記録装置1に装着された各色のインクカートリッジから供給されたインクを吐出する。吐出ヘッド23A~23Fは、液体を吐出するものであれば、その構成に制限はなく、あらゆる構成のものを採用することができる。
【0016】
吐出ヘッド23A~23Fは、画像データに応じた駆動信号により吐出動作が制御される。用紙搬送ドラム21によって搬送された用紙Pがインク吐出部22との対向領域を通過する際に、各吐出ヘッド23A~23Fの下面(ノズル面)に設けられたノズルから各色インクが吐出される。これにより、当該画像データに応じた画像が用紙P上に形成される。吐出ヘッド23A~23Fは、公知の構成のものを用いることができる。
【0017】
なお、本実施形態において、画像形成部20は、用紙P上に液体を付着させて画像を形成する機能を備えていればよく、液体を吐出させ、あるいは液体を付着させる構成を特に限定するものではない。
【0018】
乾燥部30は、乾燥機構部31と、吸引搬送機構部32とを備えている。乾燥機構部31は、画像形成部20で用紙P上に付着したインクを乾燥させる。吸引搬送機構部32は、画像形成部20から搬送されてくる用紙Pを排紙部40側に搬送する。すなわち、画像形成部20から搬送されてきた用紙Pは、吸引搬送機構部32に受け取られた後、吸引搬送機構部32により乾燥機構部31を通過するように搬送され、排紙部40へ受け渡される。乾燥機構部31を通過する際、用紙P上のインクには乾燥処理が施され、インク中の水分等の液分が蒸発し、用紙P上にインクが固着するとともに、用紙Pのカールが抑制される。
【0019】
排紙部40は、複数の用紙Pが積載される排紙トレイ41を備えている。吸引搬送機構部32により乾燥部30から搬送されてくる用紙Pは、排紙トレイ41上に順次積み重ねられて保持される。なお、本実施形態において、排紙部40は、用紙Pを排紙する機能を備えていればよく、その構成を特に限定するものではない。
【0020】
本実施形態のインクジェット記録装置1は、給紙部10、画像形成部20、乾燥部30、排紙部40から構成されているが、他の機能部を適宜追加してもよい。インクジェット記録装置1は、例えば、給紙部10と画像形成部20との間に画像形成の前処理を行う前処理部を備えてもよいし、乾燥部30と排紙部40との間に画像形成の後処理を行う後処理部を備えてもよい。
【0021】
前処理部としては、例えば、インクと反応して滲みを抑制するための処理液を用紙Pに塗布する処理液塗布処理を行うものなどが挙げられる。但し、前処理の内容は、前述の例に限定されない。後処理部としては、例えば、画像形成部20で画像が形成された用紙Pを反転させて再び画像形成部20へ送って用紙Pの両面に画像を形成するための用紙反転搬送処理、あるいは画像が形成された複数枚の用紙Pを綴じる処理などが挙げられる。但し、後処理の内容は、前述の例に限定されない。
【0022】
なお、本実施形態では、インクジェット記録装置1を画像形成装置の例として説明している。しかしながら、画像形成装置は、シート材の被乾燥面に向けて液体を吐出する液滴吐出部を備えていればよく、吐出された液滴によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されない。他の例として、画像形成装置は、それ自体意味を持たないパターン等を形成するものでもよい。
【0023】
媒体は、材質を限定されるものではなく、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど、液体が一時的でも付着可能なものであればよい。媒体は、例えば、フィルム製品、衣料用等の布製品、壁紙や床材等の建材、皮革製品などでもよい。本実施形態においては、液体が一時的でも付着可能なものを「媒体」と称している。また、「液滴」の具体例は、インク吐出部22から吐出されるインクに限定されず、前処理部で用いられる処理液などでもよい。すなわち、本発明は、目標位置に液滴を着弾させる液滴吐出装置に広く適用できる。
【0024】
また、「吐出ヘッド」とは、吐出孔(ノズル)から液体を吐出または噴射する機能部品である。液体を吐出するエネルギー発生源として、圧電アクチュエータ、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、振動板と対向電極からなる静電アクチュエータなどの吐出エネルギー発生手段を使用することができる。但し、使用する吐出エネルギー発生手段は、前述の例に限定されない。
【0025】
次に、
図2及び
図3を参照して、画像形成部20が備える各種センサについて説明する。
図2は、画像形成部20の要部側面図である。
図3は、画像形成部20の要部平面図である。なお、吐出ヘッド23A、23B、23C、23D、23E、23Fの平面図は共通するので、
図3ではこれらを代表して「吐出ヘッド23」として図示する。画像形成部20は、第1エンコーダ201と、第2エンコーダ211(搬送速度センサ)と、先端位置センサ220とを備える。
【0026】
第1エンコーダ201は、エンコーダホイール202と、エンコーダセンサ203とで構成されるロータリエンコーダである。エンコーダホイール202は、用紙搬送ドラム21の軸21aに取り付けられている。また、エンコーダホイール202の外周面には、N極及びS極が周方向に交互に配列されている。エンコーダセンサ203は、エンコーダホイール202の外周面に対面する位置に配置されている。
【0027】
エンコーダホイール202は、用紙搬送ドラム21と一体回転する。そして、エンコーダセンサ203は、エンコーダホイール202の外周面に配列されたN極及びS極を読み取って、パルス信号(第1検出値)をコントローラ100(
図4参照)に出力する。第1エンコーダ201は、用紙搬送ドラム21の単位時間当たりの回転量(すなわち、回転速度)を検出するセンサの一例である。
【0028】
第2エンコーダ211は、エンコーダスケール212と、複数の吐出ヘッド23A~23Fそれぞれに対応付けられた複数のエンコーダセンサ213とで構成されるリニアエンコーダである。エンコーダスケール212は、用紙搬送ドラム21の軸方向の端部(吐出ヘッド23と対面する領域の外)に配置されている。また、エンコーダスケール212は、用紙搬送ドラム21の外周面に沿って周方向に延設されている。エンコーダセンサ213は、エンコーダスケール212に対面する位置に配置されている。また、エンコーダセンサ213は、用紙搬送ドラム21の周方向において、対応する吐出ヘッド23と同じ位置に配置されている。さらに、エンコーダセンサ213は、用紙搬送ドラム21の軸方向において、対応する吐出ヘッド23に隣接して配置されている。
【0029】
エンコーダスケール212は、用紙搬送ドラム21と一体回転する。また、エンコーダスケール212には、N極及びS極が延設方向に交互に配列されている。エンコーダセンサ213は、エンコーダスケール212に配列されたN極及びS極を読み取って、パルス信号(第2検出値)をコントローラ100に出力する。第2エンコーダ211は、用紙搬送ドラム21の単位時間当たりの回転量(すなわち、回転速度)を検出するセンサの他の例である。
【0030】
用紙搬送ドラム21の単位時間の回転量は、用紙搬送ドラム21に担持されて搬送される用紙Pの単位時間の搬送量(すなわち、搬送速度)と相関がある。本実施形態では、第2エンコーダ211によるパルス信号の出力間隔(以下、「信号周期」と表記する。)を、搬送速度に相関のある検出値として説明する。すなわち、信号周期が短いほど搬送速度が速く、信号周期が長いほど搬送速度が遅いことを示す。
【0031】
但し、搬送速度に相関のある検出値は、前述の例に限定されず、第2エンコーダ211から単位時間あたりに出力されるパルス信号の数であってもよい。また、第2エンコーダ211のパルス信号に代えて、第1エンコーダ201のパルス信号を、検出値として用いてもよい。さらに、第1エンコーダ201及び第2エンコーダ211は、磁気式に限定されず、光学式であってもよい。
【0032】
先端位置センサ220は、吐出ヘッド23A~23Fより用紙Pの搬送方向の上流側において、用紙搬送ドラム21に対面して配置されている。先端位置センサ220は、用紙搬送ドラム21に担持して搬送される用紙Pの先端の位置を検出し、検出結果をコントローラ100に出力する。
【0033】
図4は、インクジェット記録装置1のハードウェア構成図である。
図4に示すように、インクジェット記録装置1は、CPU(Central Processing Unit)101、RAM(Random Access Memory)102、ROM(Read Only Memory)103、HDD(Hard Disk Drive)104、及びI/F105が共通バス109を介して接続されている構成を備える。
【0034】
CPU101は演算手段であり、インクジェット記録装置1全体の動作を制御する。RAM102は、情報の高速な読み書きが可能な揮発性の記憶媒体であり、CPU101が情報を処理する際の作業領域として用いられる。ROM103は、読み出し専用の不揮発性の記憶媒体であり、ファームウェア等のプログラムが格納されている。HDD104は、情報の読み書きが可能であって記憶容量が大きい不揮発性の記憶媒体であり、OS(Operating System)や各種の制御プログラム、アプリケーションプログラムなどが格納される。
【0035】
インクジェット記録装置1は、ROM103に格納された制御プログラム、HDD104などの記憶媒体からRAM102にロードされた情報処理プログラム(アプリケーションプログラム)などをCPU101が備える演算機能によって処理する。その処理によって、インクジェット記録装置1の種々の機能モジュールを含むソフトウェア制御部が構成される。このようにして構成されたソフトウェア制御部と、インクジェット記録装置1に搭載されるハードウェア資源との組み合わせによって、インクジェット記録装置1の機能を実現する機能ブロックが構成される。すなわち、CPU101、RAM102、ROM103、及びHDD104は、インクジェット記録装置1の動作を制御するコントローラ100を構成する。
【0036】
I/F105は、給紙部10と、画像形成部20と、乾燥部30とを、共通バス109に接続するインタフェースである。すなわち、コントローラ100は、I/F105を通じて給紙部10、画像形成部20、及び乾燥部30を制御することによって、画像データで示される画像を用紙Pに形成する画像形成処理を実行する。画像データは、例えば、通信インタフェースを通じて外部装置(例えば、PC)から受信してもよいし、インクジェット記録装置1が搭載するスキャナが原稿を読み取って生成したものでもよい。
【0037】
図5は、コントローラ100の機能ブロック図である。
図5に示すように、コントローラ100は、検出値取得手段501と、移動平均値算出手段502と、移動平均値補正手段503と、吐出タイミング生成手段504と、吐出制御手段505とを備える。
【0038】
検出値取得手段501は、第2エンコーダ211からのパルス信号の出力間隔を、信号周期(検出値)として取得し、取得した信号周期をRAM102に記憶させる。信号周期は、時間的に隣接する2つのパルス信号の出力時刻の差(sec)である。検出値取得手段501は、先端位置センサ220で用紙Pの先端が検知されたタイミングで、信号周期の取得を開始する。また、検出値取得手段501は、用紙Pに対する画像の形成が終了するまで、信号周期の取得を継続する。
【0039】
なお、検出値取得手段501で取得される信号周期は、例えば、エンコーダスケール212のピッチのバラつきや外部ノイズなどによって変動する可能性がある。すなわち、RAM102に記憶された信号周期は、理想的な信号周期(図示省略)に対して誤差を含む可能性がある。
【0040】
移動平均値算出手段502は、RAM102に記憶された複数の信号周期の移動平均値を算出し、算出した移動平均値(以下、「補正前移動平均値」と表記する。)を信号周期と対応付けてRAM102に記憶させる。本実施形態では、直近の4個の信号周期の平均値を移動平均値とする。但し、移動平均値を算出するための信号周期の数は4個に限定されず、2以上の任意の数に設定される。
【0041】
移動平均値補正手段503は、RAM102に記憶された補正前移動平均値を補正し、補正した移動平均値(以下、「補正後移動平均値」と表記する。)を、信号周期と対応付けてRAM102に記憶させる。より詳細には、移動平均値補正手段503は、補正前移動平均値の算出に用いた複数の信号周期の変化量に基づいて、補正前移動平均値を補正する。補正前移動平均値の具体的な補正方法は、
図7を用いて後述する。
【0042】
吐出タイミング生成手段504は、RAM102に記憶された補正後移動平均値に基づいて、吐出ヘッド23の吐出タイミング(吐出周波数)を生成する。吐出周波数(Hz)は、例えば、補正後移動平均値に基づいて特定される媒体の搬送速度V(mm/sec)と、画像データの解像度d(dpi)とを、下記式1に代入することによって生成される。
【0043】
F=V÷(25.4×d) ・・・(式1)
【0044】
吐出制御手段505は、吐出タイミング生成手段504によって生成された吐出タイミングで、吐出ヘッド23にインク滴を吐出させる。すなわち、搬送速度が速いほど吐出ヘッド23の吐出タイミングが早く(吐出周波数が高く)、搬送速度が遅いほど吐出ヘッド23の吐出タイミングが遅く(吐出周波数が低く)なる。
【0045】
なお、検出値取得手段501、移動平均値算出手段502、移動平均値補正手段503、吐出タイミング生成手段504、及び吐出制御手段505は、複数の吐出ヘッド23A~23Fそれぞれに対して、前述の処理を並行して実行する。すなわち、コントローラ100は、吐出ヘッド23それぞれの吐出タイミングを、当該吐出ヘッド23に対応付けられたエンコーダセンサ213の検出値に基づいて制御する。
【0046】
次に、
図6~
図8を参照して、本実施形態に係る画像形成処理を説明する。
図6は、画像形成処理のフローチャートである。
図7は、本実施形態に係る信号周期、補正前移動平均値、補正前誤差、補正後移動平均値、及び補正後誤差の対応関係を示す図である。
図8は、理想的な信号周期に基づいて算出される搬送速度の推移、補正前移動平均値に基づいて算出される搬送速度の推移、補正後移動平均値に基づいて算出される搬送速度の推移を示す図である。
【0047】
まず、コントローラ100は、用紙搬送ドラム21を回転させることによって、受け取り胴24を介して給紙部10から受け取った用紙Pの搬送を開始する(S601)。そして、コントローラ100は、先端位置センサ220によって用紙Pの先端が検知されるまで(S602:No)、以降の処理の実行を待機する。
【0048】
次に、コントローラ100は、先端位置センサ220によって用紙Pの先端が検知された後(S602:Yes)、ステップS603~S607の各処理を実行する。すなわち、検出値取得手段501が信号周期を取得する(S603)。次に、移動平均値算出手段502が補正前移動平均値を算出する(S604)。次に、移動平均値補正手段503が補正前移動平均値を補正する(S605)。次に、吐出タイミング生成手段504が吐出タイミングを生成する(S606)。次に、吐出制御手段505が吐出ヘッド23にインク滴を吐出させる(S607)。
【0049】
なお、コントローラ100は、用紙Pに対する画像の形成が終了するまで(S608:No)、第2エンコーダ211がパルス信号を出力する度にステップS603~S607の処理を繰り返し実行する。但し、RAM102に記憶される信号周期の数が4個に達するまでは、ステップS604~S606の処理が省略される。また、吐出すべきインク滴がないタイミング(例えば、目標位置の画素が白色の場合)では、ステップS607の処理が省略される。
【0050】
さらに、本実施形態に係る移動平均値補正手段503は、例えば以下の方法で補正後移動平均値を算出する。以下、
図7のパルス信号[4]が出力されたタイミングの補正後移動平均値(=108.78)を算出する方法を説明する。なお、本実施形態では、フィードバックゲイン(係数)をG=0.5とする。但し、フィードバックゲインGは、インクジェット記録装置1の特性に応じて異なる値が設定されてもよい。
【0051】
移動平均値補正手段503は、補正前移動平均値(=104.98)の算出に用いる4つの信号周期のうち、最も新しい信号周期(=107.61)と最も古い信号周期(=100.00)との差分(=7.61)を算出する。次に、移動平均値補正手段503は、算出した差分(=7.61)にフィードバックゲインG(=0.5)を乗じた値(=3.80)を、対応する補正前平均値(104.98)に加算する。これにより、補正後移動平均値(=108.78)が得られる。
【0052】
これにより、RAM102には、
図7のテーブルのうちの信号周期、補正前移動平均値、及び補正後移動平均値が記憶される。一方、補正前誤差は、理想的な信号周期と補正前移動平均値との差である。また、補正後誤差は、理想的な信号周期と補正後移動平均値との差である。なお、理想的な信号周期と、第2エンコーダ211の現実の信号周期とは、大きな傾向が共通する。そこで、本実施形態では、単純化のために、第2エンコーダ211の現実の信号周期と、補正前移動平均値及び補正後移動平均値との差を、
図7の補正前誤差及び補正後誤差として記載している。
【0053】
図7の全ての行において、補正後誤差が補正前誤差以下となっている。すなわち、移動平均値補正手段503の処理によって、移動平均値が理想的な信号周期に近づく。そして、理想的な信号周期に基づいて算出される搬送速度の推移(破線L1)、補正前移動平均値に基づいて算出される搬送速度の推移(グレー線L2)、補正後移動平均値に基づいて算出される搬送速度の推移(黒線L3)は、
図8のようになる。
図8を参照すると、黒線L3は、グレー線L2と比較して破線L1に近づいている(すなわち、遅れが小さくなっている)。
【0054】
上記の実施形態によれば、信号周期の変化量に基づいて補正前移動平均値を補正し、補正後移動平均値に基づいて吐出タイミングを生成することによって、用紙Pの搬送速度の検出誤差を低減して、目標位置にインク滴を着弾させることができる。
【0055】
また、上記の実施形態によれば、用紙搬送ドラム21の周方向において、吐出ヘッド23と同じ位置にエンコーダセンサ213を配置することによって、吐出ヘッド23の位置における搬送速度のバラつきを適切に検出することができる。さらに、複数の吐出ヘッド23A~23Fそれぞれに対応付けてエンコーダセンサ213を設けることによって、各吐出ヘッド23の位置における搬送速度のバラつきを適切に検出することができる。
【0056】
なお、移動平均値補正手段503による移動平均値の補正方法は、補正前移動平均値の算出に用いた複数の信号周期の変化量に基づいていれば、前述の例に限定されない。以下、
図9及び
図10を参照して、変形例1、2に係る移動平均値の補正方法を説明する。なお、変形例1、2は、移動平均値補正手段503の処理が上記の実施形態と相違し、その他の構成及び処理が上記の実施形態と共通する。
【0057】
[変形例1]
図9は、変形例1に係る信号周期、補正前移動平均値、補正前誤差、補正後移動平均値、及び補正後誤差の対応関係を示す図である。以下、
図9のパルス信号[5]が出力されたタイミングの補正後移動平均値(=104.70)を算出する方法を説明する。なお、本実施形態では、フィードバックゲイン(係数)をG=0.5とする。但し、フィードバックゲインGは、インクジェット記録装置1の特性に応じて異なる値が設定されてもよい。
【0058】
変形例1に係る移動平均値補正手段503は、補正前移動平均値(=106.16)の算出に用いる4つの信号周期のうち、最も新しい信号周期(=104.70)と次に新しい信号周期(=107.61)との差分(=-2.91)を算出する。次に、移動平均値補正手段503は、算出した差分(=-2.91)にフィードバックゲインG(=0.5)を乗じた値(=-1.46)を、対応する補正前平均値(106.16)に加算する。これにより、補正後移動平均値(=104.70)が得られる。
【0059】
図9の全ての行において、補正後誤差が補正前誤差以下となっている。すなわち、直近の2つ信号周期の差分を用いて移動平均値を補正しても、移動平均値が理想的な信号周期に近づく。その結果、変形例1に係る移動平均値の補正方法によっても、用紙Pの搬送速度の検出誤差を低減して、目標位置にインク滴を着弾させることができる。
【0060】
[変形例2]
図10は、変形例2に係る信号周期、補正前移動平均値、補正前誤差、補正後移動平均値、及び補正後誤差の対応関係を示す図である。以下、
図10のパルス信号[4]が出力されたタイミングの補正後移動平均値(=106.03)を算出する方法を説明する。なお、本実施形態では、フィードバックゲイン(係数)をG=0.1/0.2/0.3とする。但し、フィードバックゲインGは、インクジェット記録装置1の特性に応じて異なる値が設定されてもよい。
【0061】
変形例2に係る移動平均値補正手段503は、補正前移動平均値(=104.98)の算出に用いる4つの信号周期のうち、時間的に隣接する2つの信号周期の複数の組(100.00,104.70/104.70,107.61/107.61,107.61)それぞれについて、2つの信号周期の差分(=4.7/2.91/0)を算出する。次に、移動平均値補正手段503は、各組の差分(=4.7/2.91/0)にフィードバックゲインG(0.1/0.2/0.3)を乗じた値(0.47/0.58/0)を、対応する補正前移動平均値(=104.98)に加算する。これにより、補正後移動平均値(=106.03)が得られる。なお、信号周期の差分には、過去の組ほど小さいフィードバックゲインGを乗じ、現在に近い組ほど大きいフィードバックゲインGを乗じるものとする。
【0062】
図10の全ての行において、補正後誤差が補正前誤差以下となっている。すなわち、信号周期の過去の組ほどフィードバックゲインGを小さくして移動平均値を補正しても、移動平均値が理想的な信号周期に近づく。その結果、変形例2に係る移動平均値の補正方法によっても、用紙Pの搬送速度の検出誤差を低減して、目標位置にインク滴を着弾させることができる。
【0063】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、その技術的要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。上記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者であれば、開示した内容から様々な変形例を実現することが可能である。そのような変形例も、特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0064】
1 :インクジェット記録装置
10 :給紙部
11 :給紙トレイ
12 :給送装置
13 :レジストローラ対
20 :画像形成部
21 :用紙搬送ドラム
21a :軸
22 :インク吐出部
23 :吐出ヘッド
24 :受け取り胴
25 :受け渡し胴
26 :吸引装置
30 :乾燥部
31 :乾燥機構部
32 :吸引搬送機構部
40 :排紙部
41 :排紙トレイ
100 :コントローラ
101 :CPU
102 :RAM
103 :ROM
104 :HDD
105 :I/F
109 :共通バス
201 :第1エンコーダ
202 :エンコーダホイール
203,213 :エンコーダセンサ
211 :第2エンコーダ
212 :エンコーダスケール
220 :先端位置センサ
501 :検出値取得手段
502 :移動平均値算出手段
503 :移動平均値補正手段
504 :吐出タイミング生成手段
505 :吐出制御手段
【先行技術文献】
【特許文献】
【0065】