(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池電極用導電材ペースト、リチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用電極およびリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20240918BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240918BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240918BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240918BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20240918BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M10/052
H01M10/0566
(21)【出願番号】P 2021509138
(86)(22)【出願日】2020-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2020011819
(87)【国際公開番号】W WO2020196115
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2019064407
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100209679
【氏名又は名称】廣 昇
(72)【発明者】
【氏名】足立 祐輔
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/018887(WO,A1)
【文献】特開2014-130702(JP,A)
【文献】国際公開第2015/029835(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/191080(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散剤(A)、分散剤(B)、導電性カーボン、および溶媒を含むリチウムイオン二次電池電極用導電材ペーストであって、
前記分散剤(A)が、1分子当たりの平均で、芳香族炭化水素単環を2個以上15個以下有し、硫黄原子および窒素原子の少なくとも一方を含有する官能基を2個以上15個以下有する化合物であり、
前記分散剤(B)が
、下記の式(1):
【化1】
(式(1)中、Yは水素原子又は置換されていてもよい炭化水素基であり、X
1
及びX
2
は、それぞれ、独立して水素原子、ハロゲン原子又は置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基であるか、或いはX
1
及びX
2
は共同して芳香環を形成し、X
1
及びX
2
が共同して芳香環を形成しない場合、X
1
及びX
2
はそれぞれ同一でもよく、相異なっていてもよい。)
で示される構造を有する化合物を含む、リチウムイオン二次電池電極用導電材ペースト。
【請求項2】
前記分散剤(A)の重量平均分子量が、500以上5000以下である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池電極用導電材ペースト。
【請求項3】
前記導電性カーボン100質量部当たり、前記分散剤(A)を0.1質量部以上50.0質量部以下含む、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池電極用導電材ペースト。
【請求項4】
前記分散剤(B)が化合物(b)を更に含み、
前記化合物(b)が、芳香族炭化水素単環を1個以上2個以下有し、硫黄原子および窒素原子の少なくとも一方を含有する官能基を1個有し、
前記化合物(b)の分子量が、50以上500以下である、請求項1~3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池電極用導電材ペースト。
【請求項5】
前記導電性カーボン100質量部当たり、前記分散剤(B)を0.01質量部以上25.00質量部以下含む、請求項1~4のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池電極用導電材ペースト。
【請求項6】
前記導電性カーボンがカーボンナノチューブを含む、請求項1~5のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池電極用導電材ペースト。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブのBET比表面積が、10m
2/g以上400m
2/g以下である、請求項6に記載のリチウムイオン二次電池電極用導電材ペースト。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブの平均長さが、1.0μm以上60.0μm以下である、請求項6または7に記載のリチウムイオン二次電池電極用導電材ペースト。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブのアスペクト比が、50以上1000以下である、請求項6~8のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池電極用導電材ペースト。
【請求項10】
電極活物質と、請求項1~9のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池電極用導電材ペーストとを含む、リチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物。
【請求項11】
請求項10に記載のリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物を用いて形成した電極合材層を有する、リチウムイオン二次電池用電極。
【請求項12】
正極、負極、セパレータおよび電解液を備えるリチウムイオン二次電池であって、
前記正極および前記負極の少なくとも一方が請求項11に記載のリチウムイオン二次電池用電極である、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池電極用導電材ペースト、リチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用電極およびリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池(以下、単に「二次電池」と略記する場合がある)は、小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。特に近年、リチウムイオン二次電池は、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)のエネルギー源として注目されており、一層の高性能化が求められている。そのため、近年では、リチウムイオン二次電池の更なる高性能化を目的として、電極などの電池部材の改良が検討されている。
【0003】
ここで、例えばリチウムイオン二次電池用の電極は、通常、集電体と、集電体上に形成された電極合材層とを備えている。そして、電極合材層は、通常、電極活物質、導電材、バインダーなどを分散媒に分散また溶解させてなる電極用スラリー組成物を集電体上に塗布し、乾燥させて電極活物質および導電材などをバインダーで結着することにより形成されている。
そこで、二次電池の更なる性能向上を達成すべく、従来から、電極用スラリー組成物を改良する試みがなされている。具体的には、電極用スラリー組成物に配合するバインダーとして、複数種のバインダーを使用する技術が報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1では、電極合材層を形成するための電極用スラリー組成物に配合するバインダーとして、フッ素系重合体と、ニトリルゴム又は水素添加ニトリルゴムとの混合物を使用し、ニトリルゴム又は水素添加ニトリルゴムが高い接着性を有することと、フッ素系重合体が繊維状態で結合することとの相乗効果により電極の性能を改善して、二次電池のエネルギー密度及びサイクル特性を向上させることが提案されている。
【0005】
一方で、電極用スラリー組成物の製造手順を変更することで、二次電池の更なる性能向上を図る試みもなされている。具体的には、バインダーと導電材が溶剤中に溶解又は分散してなる導電材ペーストを調製し、当該導電材ペーストと電極活物質をあわせて得られる電極用スラリー組成物を用いることで、二次電池の各種性能を向上させる技術が報告されている(例えば、特許文献2~4参照)。
【0006】
特許文献2では、フッ素系重合体と、水素添加ニトリルゴムとの混合物をバインダーとして含む正極用スラリーの調製に際し、フッ素系重合体の有機溶剤溶液と、水素添加ニトリルゴムと、導電材とを予め混合して導電材ペーストを得た後、当該導電材ペーストと正極活物質とを混合して正極用スラリーを調製することにより、正極の性能を改善して大電流放電での電池容量の減少が少ない二次電池を提供することが提案されている。
【0007】
また特許文献3では、正極活物質としてのリチウム含有遷移金属酸化物、フッ素系重合体などの第一のバインダーAおよび分散媒を含むペーストAと、導電材としてのカーボンブラック、水素添加ニトリルゴムなどの第二のバインダーBおよび分散媒を含むペーストB(導電材ペースト)とをそれぞれ調製し、ペーストAとペーストBを混合して得られる正極用スラリー組成物を正極の形成に用いることによって、導電材の表面にフッ素系重合体との親和性の低い水素添加ニトリルゴムを配置し、フッ素系重合体による導電材の凝集を抑制することが提案されている。
【0008】
さらに特許文献4では、導電材およびバインダーを含む導電材ペーストを調製し、得られた導電材ペーストを溶剤で希釈した後、正極活物質としてのリチウム-遷移金属の複合酸化物を投入し、攪拌して正極用スラリー組成物を調製することにより、正極合材層中の導電材の分散性を向上させると共に電解液が浸透しうる微細な空孔を増加させ、正極のイオン導電性を確保することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平9-63590号公報
【文献】特許第4502311号
【文献】特許第3585122号
【文献】特開2001-283831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで、上述した導電材ペースト中の導電材としては、化学的安定性に優れる観点から、カーボンナノチューブ等の導電性カーボンを好適に用いることができる。
そして、導電材として導電性カーボンを用いる場合、導電性カーボンの凝集および沈降などを抑制して、導電材ペースト中に導電性カーボンを良好に分散させることが求められる。導電材ペースト中に導電性カーボンを良好に分散させることにより、導電材ペーストおよび当該導電材ペーストを用いて調製したスラリー組成物の経時安定性を高め、導電材ペーストおよびスラリー組成物の長期保存および長期輸送が可能となる。また、導電材ペースト中に導電性カーボンを良好に分散させることにより、導電材ペーストを用いて調製したスラリー組成物を用いて電極合材層を形成した場合に、当該電極合材層中に導電性カーボンを良好に分散させて、良好な導電パスを形成できるため、リチウムイオン二次電池のサイクル特性等の電池特性を向上させることができる。
しかしながら、上記従来技術の導電材ペーストにおいては、導電性カーボンを分散させる点において改善の余地があった。
【0011】
そこで、本発明は、導電性カーボンが良好に分散されたリチウムイオン二次電池電極用導電材ペーストおよびリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、二次電池の電池特性を十分に向上させ得るリチウムイオン二次電池用電極およびサイクル特性等の電池特性に優れたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、芳香族炭化水素単環および所定の官能基を1分子当たりの平均でそれぞれ所定の個数有する分散剤(A)、イソチアゾリン系化合物を含む分散剤(B)、導電性カーボン、および溶媒を含む導電材ペーストであれば、導電性カーボンが良好に分散されることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のリチウムイオン二次電池電極用導電材ペーストは、分散剤(A)、分散剤(B)、導電性カーボン、および溶媒を含むリチウムイオン二次電池電極用導電材ペーストであって、前記分散剤(A)が、1分子当たりの平均で、芳香族炭化水素単環を2個以上15個以下有し、硫黄原子および窒素原子の少なくとも一方を含有する官能基を2個以上15個以下有する化合物であり、前記分散剤(B)がイソチアゾリン系化合物を含むことを特徴とする。このように、芳香族炭化水素単環および所定の官能基を1分子当たりの平均でそれぞれ所定の個数有する分散剤(A)、イソチアゾリン系化合物を含む分散剤(B)、導電性カーボン、および溶媒を含む導電材ペーストは、導電性カーボンが良好に分散されている。
なお、芳香炭化水素単環、並びに、硫黄原子および窒素原子の少なくとも一方を含有する官能基の分散剤(A)1分子当たりの平均個数は、本明細書に記載の方法により測定することができる。
【0014】
ここで、本発明のリチウムイオン二次電池電極用導電材ペーストは、前記分散剤(A)の重量平均分子量が、500以上5000以下であることが好ましい。このように、分散剤(A)の重量平均分子量が上記所定範囲内であれば、導電材ペーストの過度な粘度上昇を抑制しつつ、導電材ペースト中に導電性カーボンを更に良好に分散させると共に、導電材ペーストを含むスラリー組成物を用いて負極を形成した場合に、二次電池の負極でのリチウム金属の析出を抑制することができる。
なお、分散剤(A)の重量平均分子量は、本明細書の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0015】
また、本発明のリチウムイオン二次電池電極用導電材ペーストは、前記導電性カーボン100質量部当たり、前記分散剤(A)を0.1質量部以上50.0質量部以下含むことが好ましい。このように、導電材ペースト中の分散剤(A)の含有量が上記所定範囲内であれば、電材ペースト中に導電性カーボンを更に良好に分散させつつ、導電材ペーストの過度な粘度上昇を抑制することができる。
【0016】
さらに、本発明のリチウムイオン二次電池電極用導電材ペーストは、前記分散剤(B)が化合物(b)を更に含み、前記化合物(b)が、芳香族炭化水素単環を1個以上2個以下有し、硫黄原子および窒素原子の少なくとも一方を含有する官能基を1個有し、前記化合物(b)の分子量が、50以上500以下であることが好ましい。このように、分散剤(B)が、上記所定の構造および分子量を有する化合物(b)を更に含めば、導電材ペースト中に導電性カーボンを更に良好に分散させることができる。
【0017】
また、本発明のリチウムイオン二次電池電極用導電材ペーストは、前記導電性カーボン100質量部当たり、前記分散剤(B)を0.01質量部以上25.00質量部以下含むことが好ましい。このように、導電材ペースト中の分散剤(B)の含有量が上記所定範囲内であれば、導電材ペーストの過度な粘度上昇を抑制しつつ、導電材ペースト中に導電性カーボンを更に良好に分散させると共に、導電材ペーストを含むスラリー組成物を用いて負極を形成した場合に、二次電池の負極でのリチウム金属の析出を抑制することができる。
【0018】
さらに、本発明のリチウムイオン二次電池電極用導電材ペーストは、前記導電性カーボンがカーボンナノチューブを含むことが好ましい。このように、導電性カーボンがカーボンナノチューブを含めば、二次電池のサイクル特性を高めることができる。
【0019】
また、本発明のリチウムイオン二次電池電極用導電材ペーストは、前記カーボンナノチューブのBET比表面積が、10m2/g以上400m2/g以下であることが好ましい。このように、カーボンナノチューブのBET比表面積が上記所定範囲内であれば、二次電池のサイクル特性を高めつつ、導電材ペーストを含むスラリー組成物を用いて負極を形成した場合に、二次電池の負極でのリチウム金属の析出を抑制することができる。
なお、本発明において、「BET比表面積」とは、BET法を用いて測定した窒素吸着比表面積を指し、ASTM D3037-81に準拠して測定することができる。
【0020】
さらに、本発明のリチウムイオン二次電池電極用導電材ペーストは、前記カーボンナノチューブの平均長さが、1.0μm以上60.0μm以下であることが好ましい。このように、カーボンナノチューブの平均長さが上記所定の範囲内であれば、導電材ペースト中に導電性カーボンを更に良好に分散させると共に、二次電池のサイクル特性を高めることができる。
なお、本発明において、「カーボンナノチューブの平均長さ」は、TEM(透過型電子顕微鏡)を使用し、無作為に選択したカーボンナノチューブ100本の最大径(長径)を測定し、平均値を算出することにより求めることができる。
【0021】
また、本発明のリチウムイオン二次電池電極用導電材ペーストは、前記カーボンナノチューブのアスペクト比が、50以上1000以下であることが好ましい。このように、カーボンナノチューブのアスペクト比が上記所定範囲内であれば、導電材ペースト中に導電性カーボンを更に良好に分散させると共に、二次電池のサイクル特性を高めることができる。
なお、本発明において、「カーボンナノチューブのアスペクト比」は、TEM(透過型電子顕微鏡)を使用し、無作為に選択したカーボンナノチューブ100本の最大径(長径)と、最大径に直交する方向の外径(短径)とを測定し、長径と短径の比(長径/短径)の平均値を算出することにより求めることができる。
【0022】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物は、電極活物質と、上述したいずれかのリチウムイオン二次電池電極用導電材ペーストとを含むことを特徴とする。このように、電極活物質と、上述したいずれかのリチウムイオン二次電池電極用導電材ペーストとを含むリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物は、導電性カーボンが良好に分散されている。
【0023】
さらに、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のリチウムイオン二次電池用電極は、上述したリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物を用いて形成した電極合材層を有することを特徴とする。このように、上述したリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物を用いて形成した電極合材層を有するリチウムイオン二次電池用電極は、二次電池の電池特性を十分に向上させることができる。
【0024】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極、セパレータおよび電解液を備えるリチウムイオン二次電池であって、前記正極および前記負極の少なくとも一方が上述したリチウムイオン二次電池用電極であることを特徴とする。このように、上述したリチウムイオン二次電池用電極を備えるリチウムイオン二次電池は、サイクル特性等の電池特性に優れている。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、導電性カーボンが良好に分散されたリチウムイオン二次電池電極用導電材ペーストおよびリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、二次電池の電池特性を十分に向上させ得るリチウムイオン二次電池用電極およびサイクル特性等の電池特性に優れたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明のリチウムイオン二次電池電極用導電材ペースト(以下、単に「導電材ペースト」と略記する場合がある)は、リチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物を製造する際の材料として用いられる。そして、本発明のリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物(以下、単に「スラリー組成物」と略記する場合がある)は、本発明の導電材ペーストを用いて調製される。加えて、本発明のリチウムイオン二次電池用電極(以下、単に「電極」と略記する場合がある)は、本発明のスラリー組成物を用いて製造される。そして、本発明の電極は、本発明のスラリー組成物を用いて形成された電極合材層を有することを特徴とする。また、本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明の電極を備えることを特徴とする。
【0027】
(リチウムイオン二次電池電極用導電材ペースト)
本発明のリチウムイオン二次電池電極用導電材ペーストは、芳香族炭化水素単環および所定の官能基を1分子当たりの平均でそれぞれ所定の個数有する分散剤(A)、イソチアゾリン系化合物を含む分散剤(B)、導電性カーボン、および溶媒を含むことを特徴とする。
【0028】
このように、芳香族炭化水素単環および所定の官能基を1分子当たりの平均でそれぞれ所定の個数有する分散剤(A)、イソチアゾリン系化合物を含む分散剤(B)、導電性カーボン、および溶媒を含む導電材ペーストは、導電性カーボンが良好に分散されている。したがって、本発明の導電材ペーストおよび当該導電材ペーストを用いて調製したスラリー組成物は、経時安定性に優れ、長期保存および長期輸送が可能である。また、本発明の導電材ペーストを用いて調製したスラリー組成物を用いて電極合材層を形成した場合、当該電極合材層中に導電性カーボンを良好に分散させて、良好な導電パスを形成できるため、リチウムイオン二次電池のサイクル特性等の電池特性を向上させることができる。
【0029】
さらに、本発明の導電材ペーストを用いて調製したスラリー組成物を用いて負極を形成した場合に、二次電池の負極でのリチウム金属の析出を抑制することができる。
【0030】
なお、本発明の導電材ペーストは、上述した分散剤(A)、分散剤(B)、導電性カーボン、および溶媒以外のその他の成分を更に含んでいてもよい。例えば、本発明の導電材ペーストがその他の成分として電極活物質を含む場合、導電材ペーストの全固形分100質量部中の電極活物質の含有量は、10質量部以下であることが好ましく、0質量部であることがより好ましい。即ち、本発明の導電材ペーストは、電極活物質を含まないことがより好ましい。ここで、電極活物質とは、例えば、本発明のリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物が含み得るものとして後述する電極活物質などを指す。
【0031】
<分散剤(A)>
分散剤(A)は、1分子当たりの平均で、芳香族炭化水素単環、並びに、硫黄原子および窒素原子の少なくとも一方を含有する官能基を、それぞれ所定の個数有する化合物である。
ここで、分散剤(A)は、鎖状の分子構造を有するため、導電性カーボンの表面に吸着して、立体保護層を形成することができる。したがって、導電材ペーストが分散剤(A)を含むことにより、導電性カーボンの凝集および沈降などを抑制して、導電材ペースト中に導電性カーボンを分散させることができる。
【0032】
<<芳香族炭化水素環を構成する環>>
分散剤(A)は、1分子当たりの平均で、芳香族炭化水素単環を所定の個数有する。ここで、本発明における芳香族炭化水素単環は、芳香環構造を構成する芳香族炭化水素単環を指す。
そして、「芳香環構造」は、Huckel則に従う広義の芳香族性を有する環状構造、すなわち、π電子を(4n+2)個有する環状共役構造(芳香族炭化水素環構造)、及び、カルバゾール環等の、硫黄、酸素、窒素等のヘテロ原子の孤立電子対がπ電子系に関与して芳香族性を示すもの(芳香族複素環構造)を意味する。
【0033】
ここで、芳香族炭化水素単環を有する芳香族炭化水素環構造としては、ベンゼン環等の1個の芳香族炭化水素単環で構成される構造;ナフタレン環等の2個の芳香族炭化水素単環で構成される構造;アントラセン環等の3個の芳香族炭化水素単環で構成される構造;などが挙げられる。中でも、溶媒や導電性カーボンとの親和性の観点から、分散剤(A)は、2個の芳香族炭化水素単環で構成される芳香族炭化水素環構造を有することが好ましく、ナフタレン環を有することがより好ましい。
【0034】
また、芳香族炭化水素単環を有する芳香族複素環構造としては、カルバゾール環等が挙げられる。なお、カルバゾール環を構成する3個の単環のうち、2個のベンゼン環のそれぞれと一部の構造を共有する1個の5員複素環は、本発明における「芳香族炭化水素単環」には該当しないものとする。したがって、分散剤(A)1分子中において、カルバゾール環は芳香族炭化水素単環を2個のみ有する構造として扱うものとする。なお、ピロール環、フラン環、チオフェン環、イミダゾール環、ピリジン環等の芳香族複素環構造は、窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)等を含有する芳香族複素単環のみからなる構造であり、本発明における芳香族炭化水素単環は有しないものとする。
【0035】
さらに、上述した芳香環構造以外の環構造であって、芳香環構造と少なくとも一部の構造を共有する環構造を構成する単環は、「芳香族炭化水素単環」には該当しないものとする。
例えば、ベンゾシクロブテン環を構成する2個の環のうち、1個のベンゼン環と一部の構造を共有する4員環は、本発明における「芳香族炭化水素単環」には該当しないものとする。したがって、分散剤(A)1分子中において、ベンゾシクロブテン環は、ベンゼン環1個を有する構造、即ち、芳香族炭化水素単環を1個のみ有する構造として扱うものとする。同様に、例えば、フルオレン環を構成する3個の単環のうち、2個のベンゼン環のそれぞれと一部の構造を共有する5員環は、本発明における「芳香族炭化水素単環」には該当しないものとする。したがって、分散剤(A)1分子中において、フルオレン環は、ベンゼン環2個を有する構造、即ち、芳香族炭化水素単環を2個のみ有する構造として扱うものとする。
【0036】
そして、分散剤(A)は、1分子当たりの平均で、芳香族炭化水素単環を所定の個数有するように、上述した芳香環構造を有していればよく、1種類の芳香環構造を1個または複数個有していてもよいし、複数種類の芳香環構造をそれぞれ1個または複数個有していてもよい。
【0037】
分散剤(A)は、1分子当たりの平均で、芳香族炭化水素単環を2個以上有することが必要であり、3個以上有することが好ましく、4個以上有することがより好ましく、5個有することが更に好ましく、15個以下有することが必要であり、12個以下有することが好ましく、10個以下有することがより好ましく、8個以下有することが更に好ましく、7個以下有することが一層好ましい。芳香族炭化水素単環の分散剤(A)1分子当たりの平均個数が上記下限以上であると、分散剤(A)の導電性カーボンに対する吸着性を高め、導電性カーボンの沈降を抑制することで、導電材ペースト中に導電性カーボンを良好に分散させることができる。一方、芳香族炭化水素単環の分散剤(A)1分子当たりの平均個数が上記上限以下であると、導電性カーボンの表面に十分な立体保護層を形成することで、導電材ペーストの過度な粘度上昇を抑制することができる。
なお、芳香族炭化水素単環の分散剤(A)1分子当たりの平均個数は、1H-NMR測定により求めることができる。
【0038】
<<硫黄および窒素の少なくとも一方を含有する官能基>>
分散剤(A)は、1分子当たりの平均で、硫黄原子および窒素原子の少なくとも一方を含有する官能基(以下、「S/N含有官能基」と略記することがある)を所定の個数有する。
【0039】
ここで、S/N含有官能基は、硫黄原子および窒素原子の一方のみを含有する官能基であってもよいし、硫黄原子および窒素原子の両方を含有する官能基であってもよいが、導電材ペーストの過度な粘度上昇を抑制すると共に、形成される電極のピール強度を高める観点から、硫黄原子のみを含有する官能基であることが好ましい。
即ち、分散剤(A)は、S/N含有官能基として、S含有官能基(窒素原子を含有せず、硫黄原子を含有する官能基)、N含有官能基(硫黄原子を含有せず、窒素原子を含有する官能基)、S+N含有官能基(硫黄原子および窒素原子の両方を含有する官能基)からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有していればよいが、導電材ペーストの過度な粘度上昇を抑制すると共に、形成される電極のピール強度を高める観点から、S含有官能基のみを有していることが好ましい。
【0040】
ここで、窒素原子を含有せず、硫黄原子を含有する官能基(S含有官能基)としては、スルホン酸基〔-SO3H(スルホ基とも称する)〕およびその塩〔例えば、スルホン酸ナトリウム基(-SO3Na)など);チオール基(-SH);アシルチオ基〔-S-CO-R。ここで、Rは任意の置換基(ただし、窒素原子および/または窒素原子を含有する官能基を除く)を表す。〕;スルフィド基(-S-);ジスルフィド基(-S-S-)、テトラスルフィド基(-S-S-S-S-)等のポリスルフィド基〔-(S)n-〕;などが挙げられる。また、S含有官能基は、例えばチエニル基などの、硫黄原子を含有する芳香族複素環構造を有する官能基であってもよい。
中でも、導電性カーボンの表面に十分な立体保護層を形成して、導電材ペーストの過度な粘度上昇を抑制する観点から、S含有官能基は、スルホン酸基およびその塩であることが好ましく、スルホン酸ナトリウム基(-SO3Na)であることがより好ましい。
なお、分散剤(A)はこれらの官能基のうちの1種のみを有していてもよいし、複数種類を有していてもよい。
また、上述したS含有官能基は、硫黄原子を複数個有していたとしても、いずれも、分散剤(A)1分子中において、「硫黄原子を含有する官能基」1個として扱うものとする。
【0041】
また、硫黄原子を含有せず、窒素原子を含有する官能基(N含有官能基)としては、置換または非置換のアミノ基〔-NH2、-NHR1、-NR1R2、-N+R1R2R3。ここで、R1~R3は任意の置換基(ただし、窒素原子および/または窒素原子を含有する官能基を除く)を表す。〕、置換または非置換のイミノ基〔=NH、=NR4。ここで、R4は任意の置換基(ただし、窒素原子および/または窒素原子を含有する官能基を除く)を表す。〕;ピロール基、ピリジル基、ピラゾール基、イミダゾール基、カルバゾール基等の、窒素原子を含む芳香族複素環構造を有する官能基;ニトロ基(-NO2);ニトリル基(-CN);などが挙げられる。
中でも、導電性カーボンの表面に十分な立体保護層を形成して、導電材ペーストの過度な粘度上昇を抑制する観点から、N含有官能基は、窒素原子を含む芳香族複素環構造を有する官能基であることが好ましく、イミダゾール基であることがより好ましい。
なお、分散剤(A)はこれらの官能基のうちの1種のみを有していてもよいし、複数種類を有していてもよい。
そして、上述したN含有官能基は、窒素原子を複数有していたとしても、いずれも、分散剤(A)1分子中において、「窒素原子を含有する官能基」1個として扱うものとする。
また、上述した置換または非置換のアミノ基およびイミノ基には、例えば、カルバモイル基(-CONH2)等の他の官能基の一部の構造として存在する置換または非置換のアミノ基およびイミノ基も含まれるものとする。
【0042】
さらに、硫黄原子および窒素原子の両方を含有する官能基(S+N含有官能基)としては、チアゾリジン基、イソチアゾリジン基、チアゾ-ル基、イソチアゾ-ル基等の硫黄原子および窒素原子の両方を含有する芳香族複素環構造を含有する官能基などが挙げられる。なお、分散剤(A)はこれらの官能基のうちの1種のみを有していてもよいし、複数種類を有していてもよい。なお、上述したS+N含有官能基は、いずれも、分散剤(A)1分子中において、「硫黄原子および窒素原子の両方を含有する官能基」1個として扱うものとする。
【0043】
そして、分散剤(A)は、1分子当たりの平均で、硫黄原子および窒素原子の少なくとも一方を含有する官能基を2個以上有することが必要であり、3個以上有することが好ましく、4個以上有することがより好ましく、15個以下有することが必要であり、14個以下有することが好ましく、13個以下有することがより好ましく、10個以下有することが更に好ましい。S/N含有官能基の分散剤(A)1分子当たりの平均個数が上記下限以上であると、導電性カーボンの表面に十分な立体保護層を形成することで、導電材ペーストの過度な粘度上昇を抑制することができる。一方、S/N含有官能基の分散剤(A)1分子当たりの平均個数が上記上限以下であると、分散剤(A)の導電性カーボンに対する吸着性を高め、導電性カーボンの沈降を抑制することで、導電材ペースト中に導電性カーボンを良好に分散させることができる。
なお、S/N含有官能基の分散剤(A)1分子当たりの平均個数は、13C-NMR測定により求めることができる。
【0044】
<<重量平均分子量>>
分散剤(A)の重量平均分子量は、500以上であることが好ましく、600以上であることがより好ましく、5000以下であることが好ましく、4000以下であることがより好ましく、3000以下であることが更に好ましい。分散剤(A)の重量平均分子量が上記下限以上であれば、導電性カーボンの表面に十分な立体保護層を形成することで、導電材ペーストの過度な粘度上昇を抑制することができる。一方、分散剤(A)の重量平均分子量が上記上限以下であれば、分散剤(A)の導電性カーボンに対する吸着性を更に高め、導電性カーボンの沈降を更に抑制することで、導電材ペースト中に導電性カーボンを更に良好に分散させることができる。また、分散剤(A)の重量平均分子量が上記上限以下であれば、導電材ペーストを含むスラリー組成物を用いて負極を形成した場合に、二次電池の負極でのリチウム金属の析出を更に抑制することができる。
【0045】
また、分散剤(A)の20質量%水溶液の25℃、60rpmでの粘度は、5mPa・s以上であることが好ましく、8mPa・s以上であることがより好ましく、10mPa・s以上であることが更に好ましく、15mPa・s以上であることが一層好ましく、150mPa・s以下であることが好ましく、80mPa・s以下であることがより好ましく、50mPa・s以下であることが更に好ましい。分散剤(A)の20質量%水溶液の粘度が上記下限以上であれば、導電材カーボンの沈降が抑制される。一方、分散剤(A)の20質量%水溶液の粘度が上記上限以下であれば、導電性カーボンの分散性が向上する。
なお、分散剤(A)の20質量%水溶液の25℃、60rpmでの粘度は、本明細書の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0046】
<<分散剤(A)の製造方法>>
分散剤(A)の製造方法としては、芳香族炭化水素単環およびS/N含有官能基をそれぞれ1分子当たりの平均で上述した所定の個数を有する化合物が得られる限り、特に限定されることはなく、例えば、
(1)芳香族炭化水素単環を有する単量体と、S/N含有官能基を有する単量体とを重合させて、または、芳香族炭化水素単環と、S/N含有官能基との両方を有する単量体同士を重合させて、重合体としての分散剤(A)を得る方法(重合法);
(2)芳香族炭化水素単環およびS/N含有官能基の両方を有する単量体(例えば、ナフタレンスルホン酸)を、ホルムアルデヒド等のその他の単量体と縮合反応させて、縮合物としての分散剤(A)を得る方法(縮合法);
などを採用することができる。
以下、上記(1)重合法、および、(2)縮合法のそれぞれについて詳述する。
【0047】
〔(1)重合法〕
(1)重合法では、芳香族炭化水素単環を有する単量体と、S/N含有官能基を有する単量体とを重合させて、または、芳香族炭化水素単環と、S/N含有官能基との両方を有する単量体同士を重合させて、重合体としての分散剤(A)を得る。得られた重合体はそのまま分散剤(A)として使用することもできるし、当該重合体に水酸化ナトリウム水溶液などの塩基性水溶液を添加して中和することで得られるナトリウム塩など塩を分散剤(A)として使用することもできる。
【0048】
ここで、芳香族炭化水素単環を有する単量体としては、スチレン等の1個の芳香族炭化水素単環を有する単量体;ビニルナフタレン(1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン)、ビニルフルオレン、ビニルカルバゾール等の2個の芳香族炭化水素単環を有する単量体;ビニルアントラセン等の3個の芳香族炭化水素単環を有する単量体;などを用いることができる。中でも、溶媒や導電性カーボンとの親和性の観点から、2個の芳香族炭化水素単環を有する単量体を用いることが好ましく、ビニルナフタレンを用いることがより好ましい。
【0049】
また、硫黄原子および窒素原子の少なくとも一方を含有する官能基を有する単量体としては、硫黄原子および窒素原子のいずれか一方のみを含有する官能基を有する単量体、並びに、硫黄原子および窒素原子の両方を含有する官能基を有する単量体のいずれを用いることもできるが、導電材ペーストの過度な粘度上昇を抑制すると共に、形成される電極のピール強度を高める観点から、硫黄原子のみを含有する官能基を有する単量体を用いることが好ましい。
【0050】
窒素原子を含有せず、硫黄原子を含有する官能基(S含有官能基)を有する単量体としては、ビニルスルホン酸(エチレンスルホン酸)、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸およびその塩などを用いることができる。中でも、導電性カーボンに対する吸着能、芳香族炭化水素単環を有する単量体との重合性の観点から、アリルスルホン酸およびその塩を用いることが好ましい。
【0051】
硫黄原子を含有せず、窒素原子を含有する官能基(S含有官能基)を有する単量体としては、1-ビニルピリジン、2-ビニルピリジン、3-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、1-ビニルイミダゾール、2-ビニルイミダゾール等の芳香族複素環構造を有する単量体;ジメチルアミノプロピルアクリルアミド;などを用いることができる。中でも、導電性カーボンに対する吸着能、芳香族炭化水素単環を有する単量体との重合性の観点から、芳香族複素環構造を有する単量体を用いることが好ましく、1-ビニルイミダゾールを用いることがより好ましい。
【0052】
硫黄原子および窒素原子の両方を含有する官能基を有する単量体としては、例えば、アクリルアミドジメチルプロパンスルホン酸などを用いることができる。
【0053】
さらに、芳香族炭化水素単環と、硫黄原子および窒素原子の少なくとも一方を含有する官能基との両方を有する単量体としては、例えば、スチレンスルホン酸、ビニルナフタレンモノスルホン酸、ビニルナフタレンジスルホン酸、ビニルナフタレントリスルホン酸、ビニルアントラセンモノスルホン酸、ビニルアントラセンジスルホン酸、ビニルアントラセントリスルホン酸等の芳香族スルホン酸を用いることができる。
【0054】
なお、(1)重合法では、本発明の所望の効果が得られる範囲内で、上述した単量体以外のその他の単量体を使用してもよいものとする。
【0055】
そして、(1)重合法では、分散剤(A)は、上述した単量体を含む単量体組成物を重合して形成される重合体として得ることができる。
ここで、単量体組成物中の各単量体の含有割合は、得られる重合体としての分散剤(A)が1分子当たりの平均で芳香族炭化水素単環およびS/N含有官能基をそれぞれ上述した所定の個数有するように、適宜調整することができる。
重合様式は、特に制限なく、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。各重合法において、必要に応じて既知の乳化剤や重合開始剤を使用することができる。
【0056】
ここで、重合体の分子量制御の観点から、重合開始剤としては、アゾ系重合開始剤、過硫酸塩を用いることが好ましく、アゾビス系重合開始剤を用いることがより好ましく、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシ)バレロニトリルを用いることが特に好ましい。なお、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシ)バレロニトリルとしては、例えば、富士フイルム和光純薬社製「V-70」などの市販品を用いることができる。
【0057】
重合開始剤の使用量は、使用する全単量体100質量部に対して、2質量部以上60質量部以下であることが好ましい。重合開始剤の使用量が上記下限以上であれば、得られる重合体としての分散剤(A)は分散性に優れる。一方、重合開始剤の使用量が上記上限以下であれば、得られる重合体としての分散剤(A)は、1分子当たりの平均で芳香族炭化水素単環およびS/N含有官能基をそれぞれ上述した所定の個数有することができる。
【0058】
(1)重合法により製造された重合体としての分散剤(A)には、使用した単量体に由来する構造単位(単量体単位)が含まれるものとする。
【0059】
なお、分散剤(A)が複数種類の単量体を共重合して製造される重合体である場合において、重合体としての分散剤(A)全体に占めるある単量体に由来する構造単位(単量体単位)の質量比率は、別に断らない限り、通常は、その重合体の重合に用いる全単量体に占める当該ある単量体の質量比率(仕込み比)と一致する。
【0060】
〔(2)縮合法〕
(2)縮合法では、芳香族炭化水素単環およびS/N含有官能基の両方を有する単量体を、その他の単量体と縮合反応させて、縮合物としての分散剤(A)を得る。
【0061】
ここで、芳香族炭化水素単環およびS/N含有官能基の両方を有する単量体としては、例えば、ナフタレンスルホン酸およびその塩などを好適に用いることができる。なお、ナフタレンスルホン酸は、公知の方法により、ナフタレンと硫酸とを反応させて、ナフタレンにスルホン酸基を導入することにより得ることができる。
また、上記単量体と縮合反応し得るその他の単量体としては、ホルムアルデヒド等を用いることができる。
【0062】
ナフタレンスルホン酸等の芳香族炭化水素単環およびS/N含有官能基の両方を有する単量体と、その他の単量体との縮合反応は、公知の方法により行なうことができる。
例えば、芳香族炭化水素単環およびS/N含有官能基の両方を有する単量体としてのナフタレンスルホン酸に対して、その他の単量体としてのホルムアルデヒドの水溶液(ホルマリン)を滴下しながら、加熱を行なうことで、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物を得ることができる。なお、得られたナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物はそのまま分散剤(A)として用いることができるが、得られたナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物に対して、水酸化ナトリウム水溶液および/または水酸化カリウム水溶液を添加して中和することで得られるナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩および/またはカリウム塩を分散剤(A)として用いることもできる。
【0063】
<<分散剤(A)の配合量>>
本発明の導電材ペーストは、導電性カーボン100質量部当たり、分散剤(A)を0.1質量部以上含むことが好ましく、0.5質量部以上含むことがより好ましく、1.0質量部以上含むことが更に好ましく、10.0質量部以上含むことが一層好ましく、50.0質量部以下含むことが好ましく、40.0質量部以下含むことがより好ましく、20.0質量部以下含むことが更に好ましい。導電材ペースト中の分散剤(A)の配合量が上記下限以上であれば、導電性カーボンの表面に吸着する分散剤(A)の量が増加するため、導電性カーボンの沈降等を更に抑制することで、導電材ペースト中に導電性カーボンを更に良好に分散させることができる。一方、導電材ペースト中の分散剤(A)の配合量が上記上限以下であれば、導電性カーボンの表面に十分な立体保護層を形成することで、導電材ペーストの過度な粘度上昇を抑制することができる。
【0064】
<分散剤(B)>
分散剤(B)は、イソチアゾリン系化合物を含み、任意で、所定の構造および分子量を有する化合物(b)を更に含み得る。
【0065】
<<イソチアゾリン系化合物>>
分散剤(B)はイソチアゾリン系化合物を含んでいる。
イソチアゾリン系化合物は、導電材ペースト中において、導電性カーボンの表面のうち、上述した分散剤(A)が吸着していない領域に対して吸着し得る成分である。したがって、導電材ペーストが分散剤(B)としてイソチアゾリン系化合物を含むことにより、導電性カーボンの凝集および沈降などを良好に抑制して、導電材ペースト中に導電性カーボンを良好に分散させることができる。また、導電材ペーストが分散剤(B)としてイソチアゾリン系化合物を含むことにより、導電材ペーストを含むスラリー組成物を用いて負極を形成した場合に、二次電池の負極でのリチウム金属の析出を抑制することができる。
なお、本発明におけるイソチアゾリン系化合物は、上述した分散剤(A)に該当しない化合物であるものとする。
【0066】
ここで、イソチアゾリン系化合物は、具体的には、下記の式(1)で示される構造を有する
【化1】
(式(1)中、Yは水素原子又は置換されていてもよい炭化水素基であり、X
1及びX
2は、それぞれ、独立して水素原子、ハロゲン原子又は置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基であるか、或いはX
1及びX
2は共同して芳香環を形成する。なお、X
1及びX
2が共同して芳香環を形成しない場合、X
1及びX
2はそれぞれ同一でもよく、相異なっていてもよい。)
【0067】
式(1)において、Yの炭化水素基としては、例えば炭素数1~10のアルキル基(メチル基等)、炭素数2~6のアルケニル基(ビニル基、アリル基等)、炭素数2~6のアルキニル基(エチニル基、プロピニル基等)、炭素数3~10のシクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、炭素数6~14のアリール基(フェニル基)等が挙げられる。
そして上記Yの炭化水素基は水素原子の一部又は全部が置換基により置換されていてもよい。このような置換基としては、例えばヒドロキシル基、ハロゲン原子(例えば塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、シアノ基、アミノ基、カルボキシル基、炭素数1~4のアルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基等)、炭素数6~10のアリールオキシ基(例えばフェノキシ基等)、炭素数1~4のアルキルチオ基(例えばメチルチオ基、エチルチオ基等)及び炭素数6~10のアリールチオ基(例えばフェニルチオ基等)等が挙げられる。なお、Yの炭化水素基が複数の置換基を有する場合、置換基はそれぞれ同一でもよく、相異なっていてもよい。
【0068】
ここで式(1)において、Yはメチル基または水素原子であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0069】
式(1)において、X1及びX2のハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
式(1)において、X1及びX2の炭素数1~6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。なお、これらアルキル基は水素原子の一部又は全部が置換基により置換されていてもよい。このような置換基としては、Yの炭化水素基における置換基として上述したものと同様のものが挙げられる。
式(1)において、X1及びX2が共同して形成する芳香環としては、ベンゼン環等が挙げられる。
以下、X1及びX2が共同して芳香環を形成する式(1)の化合物を、「芳香環-イソチアゾリン系化合物」といい、X1及びX2が共同して芳香環を形成しない式(1)の化合物を、「非芳香環-イソチアゾリン系化合物」という。
【0070】
ここで式(1)において、X1及びX2は、それぞれ水素原子であるか、又は、共同して芳香環を形成していることが好ましく、そして、導電材ペースト中に導電性カーボンを更に良好に分散させると共に、二次電池の負極でのリチウム金属の析出を更に抑制する観点からは、X1及びX2は、共同して芳香環を形成していることがより好ましく、すなわち、イソチアゾリン系化合物は、芳香環-イソチアゾリン系化合物であることが好ましい。
【0071】
〔ベンゾイソチアゾリン系化合物〕
そして、芳香環-イソチアゾリン系化合物としては、X1及びX2が芳香環としてベンゼン環を形成した、下記式(2)で示される構造を有するベンゾイソチアゾリン系化合物が好ましい。
【0072】
【化2】
(式(2)中、Yは式(1)の場合と同様であり、X
3~X
6はそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、カルボキシル基、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基のうちのいずれかである。なお、X
3~X
6はそれぞれ同一でもよく、相異なっていてもよい。)
【0073】
式(2)において、X3~X6のハロゲン原子としては、式(1)におけるX1及びX2と同様のものが挙げられる。
式(2)において、炭素数1~4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基が挙げられる。
式(2)において、炭素数1~4のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。
【0074】
ここで式(2)において、YおよびX3~X6は水素原子であることが好ましい。
【0075】
〔イソチアゾリン系化合物の具体例〕
そして、式(1)で表されるイソチアゾリン系化合物としては、例えば5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(MIT)、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-エチル-4-イソチアゾリン-3-オン、4,5-ジクロロ-2-シクロヘキシル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-エチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-t-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンなどの非芳香環-イソチアゾリン系化合物;1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン(BIT)、N-メチル-1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンなどの芳香環-イソチアゾリン系化合物が挙げられる。これは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0076】
そしてこれらの中でも、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(MIT)、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン(BIT)が好ましく、導電材ペースト中に導電性カーボンを一層良好に分散させると共に、二次電池の負極でのリチウム金属の析出を一層抑制する観点からは、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン(BIT)が特に好ましい。
【0077】
<<化合物(b)>>
分散剤(B)は、上述したイソチアゾリン系化合物に加えて、所定の構造および分子量を有する化合物(b)を含むことが好ましい。分散剤(B)が当該化合物(b)を更に含むことにより、導電性カーボンの凝集および沈降などを更に良好に抑制して、導電材ペースト中に導電性カーボンを更に良好に分散させることができる。
なお、化合物(b)は、上述した分散剤(A)およびイソチアゾリン系化合物のいずれにも該当しない化合物である。ここで、化合物(b)が、上述したイソチアゾリン系化合物にも該当する化合物であった場合には、化合物(b)には該当せず、イソチアゾリン系化合物に該当するものとする。
【0078】
ここで、化合物(b)は、芳香族炭化水素単環を1個以上2個以下有する。そして、導電材ペースト中に導電性カーボンをより一層、良好に分散させる観点から、化合物(b)は芳香族炭化水素単環を1個有することが好ましい。したがって、化合物(b)は、1分子当たりで芳香族炭化水素単環を1個以上2個以下有するように、「分散剤(A)」の項で上述した芳香環構造(芳香族炭化水素環構造および/または芳香族複素環構造)を有している。
【0079】
また、化合物(b)は、硫黄原子および窒素原子の少なくとも一方を含有する官能基を1個有する。なお、化合物(b)が有する硫黄原子および窒素原子の少なくとも一方を含有する官能基は、例えば、「分散剤(A)」の項で上述したS/N含有官能基のいずれかである。
【0080】
さらに、化合物(b)の分子量は、50以上500以下であり、好ましくは100以上であり、より好ましくは150以上であり、また、好ましくは400以下であり、より好ましくは300以下である。化合物(b)の分子量が50以上であれば、導電材ペースト中の導電性カーボンの沈降を抑制することができる。一方、化合物(b)の分子量が500以下であれば、導電材ペースト中に導電性カーボンを一層良好に分散させることができる。
【0081】
化合物(b)としては、上述した所定の構造および分子量を有する限り、特に限定されず、例えば、トルエンスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウム等を用いることができる。中でも、導電材ペースト中に導電性カーボンを一層良好に分散させる観点から、トルエンスルホン酸ナトリウムおよびナフタレンスルホン酸ナトリウムを用いることが好ましく、トルエンスルホン酸ナトリウムを用いることがより好ましい。なお、これらの化合物は、1種単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0082】
<<イソチアゾリン系化合物と化合物(b)との関係>>
分散剤(B)が化合物(b)を含む場合、分散剤(B)中におけるイソチアゾリン系化合物に対する化合物(b)の質量比(化合物(b)/イソチアゾリン系化合物)は、1/10以上であることが好ましく、1/5以上であることがより好ましく、1/3以上であることが更に好ましく、1/1以上であることが一層好ましく、10/1以下であることが好ましく、5/1以下であることがより好ましく、3/1以下であることが更に好ましい。イソチアゾリン系化合物に対する化合物(b)の質量比(化合物(b)/イソチアゾリン系化合物)が上記下限以上であれば、導電材ペースト中に導電性カーボンを更に良好に分散させることができる。一方、イソチアゾリン系化合物に対する化合物(b)の質量比(化合物(b)/イソチアゾリン系化合物)が上記上限以下であれば、導電性ペーストの貯蔵時のpH安定性が高まる。
【0083】
<<分散剤(B)の配合量>>
本発明の導電材ペーストは、導電性カーボン100質量部当たり、分散剤(B)を0.01質量部以上含むことが好ましく、0.05質量部以上含むことがより好ましく、0.10質量部以上含むことが更に好ましく、0.50質量部以上含むことが一層好ましく、1.00質量部以上含むことがより一層好ましく、25.00質量部以下含むことが好ましく、20.00質量部以下含むことがより好ましく、3.00質量部以下含むことが更に好ましい。導電材ペースト中の分散剤(B)の配合量が上記下限以上であれば、導電性カーボンの表面に吸着する分散剤(B)の量が増加するため、導電性カーボンの沈降等を更に抑制することで、導電材ペースト中に導電性カーボンを更に良好に分散させることができる。また、導電材ペースト中の分散剤(B)の配合量が上記下限以上であれば、導電材ペーストを含むスラリー組成物を用いて負極を形成した場合に、二次電池の負極でのリチウム金属の析出を更に抑制することができる。一方、導電材ペースト中の分散剤(B)の配合量が上記上限以下であれば、導電材ペーストの過度な粘度上昇を抑制することができる。
【0084】
<導電性カーボン>
導電性カーボンは、電極合材層中で電極活物質同士の電気的接触を確保するための炭素材料である。なお、導電性カーボンは、後述の本発明のスラリー組成物が含む電極活物質とは異なる成分である。
【0085】
そして、導電性カーボンとしては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、炭素繊維、カーボンフレーク、炭素超短繊維(例えば、カーボンナノチューブや気相成長炭素繊維など)等を用いることができる。中でも、二次電池のサイクル特性を更に高める観点から、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と略記する場合がある)を用いることが好ましい。なお、カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブおよび多層カーボンナノチューブのいずれを用いることもできる。
【0086】
ここで、導電性カーボンとして好適に使用し得るCNTのBET比表面積は、10m2/g以上であることが好ましく、30m2/g以上であることがより好ましく、50m2/g以上であることが更に好ましく、400m2/g以下であることが好ましく、350m2/g以下であることがより好ましく、250m2/g以下であることが更に好ましく、200m2/g以下であることが一層好ましい。CNTのBET比表面積が上記下限以上であれば、導電材ペーストを含むスラリー組成物を用いて負極を形成した場合に、二次電池の負極でのリチウム金属の析出を更に抑制することができる。一方、CNTのBET比表面積が上記上限以下であれば、電解液の分解反応を抑制し、二次電池のサイクル特性を更に高めることができる。
【0087】
また、CNTの平均長さは、1.0μm以上であることが好ましく、2.0μm以上であることがより好ましく、5.0μm以上であることが更に好ましく、15.0μm以上であることが一層好ましく、60.0μm以下であることが好ましく、40.0μm以下であることがより好ましく、30.0μm以下であることが更に好ましい。CNTの平均長さが上記下限以上であれば、電極合材層中で良好な導電パスを形成できるため、二次電池のサイクル特性を更に高めることができる。一方、CNTの平均長さが上記上限以下であれば、導電材ペースト中に導電性カーボンとしてのCNTを更に良好に分散させることができる。
【0088】
さらに、CNTのアスペクト比は、50以上であることが好ましく、100以上であることがより好ましく、150以上であることが更に好ましく、1000以下であることが好ましく、800以下であることがより好ましく、500以下であることが更に好ましく、350以下であることが一層好ましい。CNTのアスペクト比が上記下限以上であれば、電極合材層中で良好な導電パスを形成できるため、二次電池のサイクル特性を更に高めることができる。一方、CNTのアスペクト比が上記上限以下であれば、導電材ペースト中に導電性カーボンとしてのCNTを更に良好に分散させることができる。
【0089】
<溶媒>
導電材ペーストに使用する溶媒としては、特に限定されることなく、水および有機溶媒のいずれを用いることもできる。そして、有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、アミルアルコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン(NMP)などのアミド系極性有機溶媒、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、パラジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類などが挙げられる。これらの溶媒は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
中でも、スラリー組成物の安定性の観点から、溶媒としては、水を用いることが好ましい。
【0090】
<その他の成分>
導電材ペーストには、上記成分の他に、例えば、粘度調整剤、補強材、酸化防止剤、電解液の分解を抑制する機能を有する電解液添加剤などの成分を混合してもよい。これらの他の成分は、公知のものを使用することができる。
【0091】
<導電材ペーストの調製方法>
本発明の導電材ペーストは、上述の分散剤(A)、分散剤(B)、溶媒および任意のその他の成分を混合することによって調製することができる。
ここで、混合方法には特に制限は無く、例えば、ディスパー、ミル、ニーダーなどの一般的な混合装置を用いることができる。また、混合にあたり、混合順序には特に制限は無い。
例えば、本発明の導電材ペーストは、上述の分散剤(A)、分散剤(B)、溶媒および任意のその他の成分を、ディスパーを用いて攪拌しながら混合した後、更にビーズミルを用いて混合することで調製することができる。なお、ディスパーを用いた混合は、例えば、回転数2000rpm以上5000rpm以下、攪拌時間5分以上120分以下の条件で実施することができる。また、ビーズミルを用いた混合は、例えば、直径0.03mm~5mmのジルコニアビーズを使用して、回転数100~1000rpm、処理時間15分間~3時間の条件で実施することができる。
【0092】
<導電材ペーストの粘度>
導電材ペーストは、25℃、60rpmでの粘度が200mPa・s以上であることが好ましく、400mPa・s以上であることがより好ましく、10000mPa・s以下であることが好ましく、8000mPa・s以下であることがより好ましく、5000mPa・s以下であることが更に好ましい。導電材ペーストの粘度が上記範囲内であれば、導電材ペーストの経時安定性が良好となる。
なお、導電材ペーストの60rpm(回転数)での粘度は、JIS Z8803:1991に準じて単一円筒形回転粘度計(「B型粘度計」とも称する。スピンドル形状:4)により測定することができる。
ここで、導電材ペーストの25℃、60rpmでの粘度は、混合時に添加する溶媒の量、導電材ペーストの固形分濃度、並びに分散剤(A)および分散剤(B)の種類および量によって調整可能である。
【0093】
<導電材ペーストの固形分濃度>
導電材ペーストは、固形分濃度が1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、また50質量%以下であることが好ましい。
導電材ペーストの固形分濃度を上記範囲内とすることで、導電材ペースト中に導電性カーボンを更に良好に分散させることができる。
【0094】
(リチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物)
本発明のリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物は、電極活物質と、上述したリチウムイオン二次電池電極用導電材ペーストとを含み、任意に、上記電極活物質および導電材ペースト以外のその他の成分を更に含んでいてもよい。
【0095】
したがって、本発明のスラリー組成物には、少なくとも、上述した導電材ペーストに含まれていた成分(分散剤(A)、分散剤(B)、導電性カーボン、および溶媒)が含有されている。
そして、スラリー組成物中の全固形分に対する導電性カーボンの割合は、0.05質量%以上であることが好ましく、0.10質量%以上であることがより好ましく、2.0質量%以下であることが好ましく、1.2質量%以下であることがより好ましい。スラリー組成物中の全固形分に対する導電性カーボンの割合が上記下限以上であれば、電極合材層において導電パスが良好に形成され、二次電池のサイクル特性を高めることができる。一方、スラリー組成物中の全固形分に対する導電性カーボンの割合が上記上限以下であれば、電極の単位面積当たりの電極活物質の量を増加させて、二次電池の容量を高めることができる。
また、スラリー組成物中の全固形分に対する分散剤(A)の割合は、0.001質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.50質量%以下であることが好ましく、0.25質量%以下であることがより好ましい。スラリー組成物中の全固形分に対する分散剤(A)の割合が上記下限以上であれば、導電性カーボンの表面に吸着する分散剤(A)の量が増加するため、導電性カーボンの沈降等を更に抑制することで、スラリー組成物中に導電性カーボンを更に良好に分散させることができる。一方、スラリー組成物中の全固形分に対する分散剤(A)の割合が上記上限以下であれば、導電性カーボンの表面に十分な立体保護層を形成することで、スラリー組成物の過度な粘度上昇を抑制することができる。
さらに、スラリー組成物中の全固形分に対する分散剤(B)の割合は、0.0005質量%以上であることが好ましく、0.002質量%以上であることがより好ましく、0.15質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。スラリー組成物中の全固形分に対する分散剤(B)の割合が上記下限以上であれば、導電性カーボンの表面に吸着する分散剤(B)の量が増加するため、導電性カーボンの沈降等を更に抑制することで、スラリー組成物中に導電性カーボンを更に良好に分散させることができる。一方、スラリー組成物中の全固形分に対する分散剤(B)の割合が上記上限以下であれば、スラリー組成物の過度な粘度上昇を抑制することができる。
【0096】
そして、上述した導電材ペーストを含む本発明のスラリー組成物は、導電性カーボンが良好に分散されている。したがって、本発明のスラリー組成物は、経時安定性に優れ、長期保存および長期輸送が可能である。また、本発明のスラリー組成物を用いて電極合材層を形成した場合、当該電極合材層中に導電性カーボンを良好に分散させて、良好な導電パスを形成できるため、リチウムイオン二次電池のサイクル特性等の電池特性を向上させることができる。
【0097】
さらに、本発明のスラリー組成物を用いて負極を形成した場合に、二次電池の負極でのリチウム金属の析出を抑制することができる。したがって、本発明のスラリー組成物はリチウムイオン二次電池用の負極の製造に好適に用いることができる。即ち、本発明のリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物は、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物であることが好ましい。
【0098】
<電極活物質>
電極活物質は、リチウムイオン二次電池の電極において電子の受け渡しをする物質である。そして、電極活物質としては、通常は、リチウムを吸蔵および放出し得る物質を用いる。
ここで、本発明のスラリー組成物がリチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物である場合、電極活物質としては正極活物質を用い、本発明のスラリー組成物がリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物である場合、電極活物質としては負極活物質を用いる。
【0099】
正極活物質としては、特に限定されることなく、既知の正極活物質を用いることができる。
例えばリチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、特に限定されることなく、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO2)、Co-Ni-Mnのリチウム含有複合酸化物、Ni-Mn-Alのリチウム含有複合酸化物、Ni-Co-Alのリチウム含有複合酸化物、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、オリビン型リン酸マンガンリチウム(LiMnPO4)、Li1+xMn2-xO4(0<X<2)で表されるリチウム過剰のスピネル化合物、Li[Ni0.17Li0.2Co0.07Mn0.56]O2、LiNi0.5Mn1.5O4等が挙げられる。
【0100】
上述した中でも、リチウムイオン二次電池の電池容量などを向上させる観点からは、正極活物質としてリチウム含有コバルト酸化物(LiCoO2)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO2)、Co-Ni-Mnのリチウム含有複合酸化物、Ni-Co-Alのリチウム含有複合酸化物、Li[Ni0.17Li0.2Co0.07Mn0.56]O2またはLiNi0.5Mn1.5O4を用いることが好ましい。
なお、正極活物質の配合量や粒径は、特に限定されることなく、従来使用されている正極活物質と同様とすることができる。
【0101】
また、リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、例えば、炭素系負極活物質、金属系負極活物質、およびこれらを組み合わせた負極活物質などが挙げられる。
【0102】
ここで、炭素系負極活物質とは、リチウムを挿入(「ドープ」ともいう。)可能な、炭素を主骨格とする活物質をいい、炭素系負極活物質としては、例えば炭素質材料と黒鉛質材料とが挙げられる。
【0103】
そして、炭素質材料としては、例えば、易黒鉛性炭素や、ガラス状炭素に代表される非晶質構造に近い構造を持つ難黒鉛性炭素などが挙げられる。
ここで、易黒鉛性炭素としては、例えば、石油または石炭から得られるタールピッチを原料とした炭素材料が挙げられる。具体例を挙げると、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチ系炭素繊維、熱分解気相成長炭素繊維などが挙げられる。
また、難黒鉛性炭素としては、例えば、フェノール樹脂焼成体、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、擬等方性炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成体(PFA)、ハードカーボンなどが挙げられる。
【0104】
更に、黒鉛質材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などが挙げられる。
ここで、人造黒鉛としては、例えば、易黒鉛性炭素を含んだ炭素を主に2800℃以上で熱処理した人造黒鉛、MCMBを2000℃以上で熱処理した黒鉛化MCMB、メソフェーズピッチ系炭素繊維を2000℃以上で熱処理した黒鉛化メソフェーズピッチ系炭素繊維などが挙げられる。
【0105】
また、金属系負極活物質とは、金属を含む活物質であり、通常は、リチウムの挿入が可能な元素を構造に含み、リチウムが挿入された場合の単位質量当たりの理論電気容量が500mAh/g以上である活物質をいう。金属系活物質としては、例えば、リチウム金属、リチウム合金を形成し得る単体金属(例えば、Ag、Al、Ba、Bi、Cu、Ga、Ge、In、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Sr、Zn、Tiなど)およびその合金、並びに、それらの酸化物、硫化物、窒化物、ケイ化物、炭化物、燐化物などが用いられる。これらの中でも、金属系負極活物質としては、ケイ素を含む活物質(シリコン系負極活物質)が好ましい。シリコン系負極活物質を用いることにより、リチウムイオン二次電池を高容量化することができるからである。
【0106】
シリコン系負極活物質としては、例えば、ケイ素(Si)、ケイ素を含む合金、SiO、SiOx、Si含有材料を導電性カーボンで被覆または複合化してなるSi含有材料と導電性カーボンとの複合化物などが挙げられる。なお、これらのシリコン系負極活物質は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類上を組み合わせて用いてもよい。
なお、負極活物質の配合量や粒子径は、特に限定されることなく、従来使用されている負極活物質と同様とすることができる。
【0107】
そして、リチウムイオン二次電池の容量を高める観点から、負極活物質としては、黒鉛質材料とシリコン系負極活物質とを併用することが好ましく、人造黒鉛とSiOxとを併用することが特に好ましい。
負極活物質として黒鉛質材料とシリコン系負極活物質とを併用する場合、スラリー組成物中の全固形分に対する黒鉛質材料の割合は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。スラリー組成物中の全固形分に対する黒鉛質材料の割合が上記下限以上であれば、黒鉛質材料に対するシリコン系負極活物質の緩衝作用を低減し、二次電池の容量を高め、サイクル特性を向上させることができる。一方、スラリー組成物中の全固形分に対する黒鉛質材料の割合が上記上限以下であれば、二次電池のサイクル特性を十分に高く確保することができる。
また、上記の場合、スラリー組成物中の全固形分に対するシリコン系負極活物質の割合は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。スラリー組成物中の全固形分に対するシリコン系負極活物質の割合が上記下限以上であれば、電極の単位面積当たりの電極活物質の量を増加させて、二次電池の容量を高めることができる。一方、スラリー組成物中の全固形分に対するシリコン系負極活物質の割合が上記上限以下であれば、二次電池のサイクル特性を十分に高く確保することができる。
【0108】
<その他の成分>
本発明のリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物は、上記成分の他に、「リチウムイオン二次電池電極用導電材ペースト」の項でその他の成分として挙げたものを含んでいてもよい。
【0109】
さらに、本発明のスラリー組成物は、その他の成分として、増粘剤および結着材を含んでいてもよい。
増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の公知の増粘剤を用いることができるが、サイクル特性の向上とスラリー安定性の観点から、ヒドロキシエチルアクリルアミド-アクリル酸-アクリルアミド共重合体を用いることが好ましい。そして、スラリー組成物中の全固形分に対する増粘剤の割合は、電池抵抗の増大を抑制する観点から、7.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以下であることがより好ましい。また、スラリー組成物中の全固形分に対する増粘剤の割合は0.5質量%以上とすることができる。
また、結着材としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等の公知の結着材を用いることができるが、電池でのリチウムイオン移動抵抗低減の観点から、脂肪族共役ジエン/芳香族ビニル系共重合体(脂肪族共役ジエン単量体に由来する構造単位および芳香族ビニル単量体に由来する単位を合計で50質量%以上含む重合体)などの粒子状重合体を用いることが好ましい。そして、スラリー組成物中の全固形分に対する結着材の割合は、電池抵抗の増大を抑制する観点から、7.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以下であることがより好ましい。また、スラリー組成物中の全固形分に対する結着材の割合は0.5質量%以上とすることができる。
【0110】
また、本発明のスラリー組成物は、上記成分の他に、当該スラリー組成物の調製時に任意に追加された溶媒を含んでいてもよい。なお、追加する溶媒としては、導電材ペーストに含まれ得る溶媒と同様のものを使用することができる。
【0111】
<スラリー組成物の調製方法>
導電材ペーストに対して、上述の電極活物質と、任意に、その他の成分および追加の溶媒とを混合して、本発明のスラリー組成物を得るにあたり、混合方法には特に制限は無く、例えば、ディスパー、ミル、ニーダーなどの一般的な混合装置を用いることができる。
スラリー組成物の調製の際に、電極活物質を導電性カーボンや分散剤と同時に一括混合するのではなく、導電性カーボンや分散剤を含む導電材ペーストを調製した後で、導電材ペーストに電極活物質を添加して混合することで、スラリー組成物の経時安定性の悪化を抑制することができる。さらに、導電性カーボンの分散状態が、一括混合で作製した際よりも均一化され、スラリー組成物の製造バッチ間の粘度や濃度の違いを小さく抑えることができる。そのため、工業的に同程度の粘度および固形分のスラリー組成物を作製し易くなる。
また、集電体上への塗工性を確保する観点から、スラリー組成物の固形分濃度は30質量%以上90質量%以下であることが好ましい。
なお、導電材ペーストの量(固形分相当量)と電極活物質の量との比率は、スラリー組成物中の全固形分に対する各成分(導電性カーボンなど)の割合が上述した所定範囲内に収まるように、適宜に調整することができる。
【0112】
(リチウムイオン二次電池用電極)
本発明のリチウムイオン二次電池用電極は、上述したリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物を用いて形成した電極合材層を有することを特徴とする。より具体的に、本発明のリチウムイオン二次電池用電極は、集電体と、集電体上に形成された電極合材層とを備え、電極合材層は、上述したリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物を用いて形成されている。したがって、本発明のリチウムイオン二次電池用電極が備える電極合材層には、少なくとも、電極活物質と、導電材ペーストに含まれていた固形成分(分散剤(A)、分散剤(B)、および導電性カーボン)とが含有されている。そして、当該電極合材層中における各成分の好適な含有割合は、スラリー組成物中の全固形分に対する各成分の割合と同じである。
【0113】
本発明の電極は、上述したリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物を用いて形成した電極合材層を有しているため、二次電池にサイクル特性等の電池特性を十分に発揮させることができる。
また、本発明の電極は、リチウムイオン二次電池用正極であってもよいし、リチウムイオン二次電池用負極であってもよい。特に、リチウムイオン二次電池用負極として本発明の電極を用いた場合、負極でのリチウム金属の析出を抑制することができるため、本発明の電極はリチウムイオン二次電池用負極として好適に使用することができる。
【0114】
<リチウムイオン二次電池用電極の製造方法>
本発明のリチウムイオン二次電池用電極は、例えば、上述したスラリー組成物を集電体の少なくとも一方の面に塗布する工程(塗布工程)と、集電体の少なくとも一方の面に塗布されたスラリー組成物を乾燥して集電体上に電極合材層を形成する工程(乾燥工程)とを経て製造される。
【0115】
<<塗布工程>>
上記スラリー組成物を集電体上に塗布する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。具体的には、塗布方法としては、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などを用いることができる。この際、スラリー組成物を集電体の片面だけに塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。塗布後乾燥前の集電体上のスラリー膜の厚みは、乾燥して得られる電極合材層の厚みに応じて適宜に設定しうる。
【0116】
ここで、スラリー組成物を塗布する集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が用いられる。具体的には、集電体としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などからなる集電体を用い得る。なお、前記の材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0117】
<<乾燥工程>>
集電体上のスラリー組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。このように集電体上のスラリー組成物を乾燥することで、集電体上に電極合材層を形成し、集電体と電極合材層とを備えるリチウムイオン二次電池用電極を得ることができる。
【0118】
なお、乾燥工程の後、金型プレスまたはロールプレスなどを用い、電極合材層に加圧処理を施してもよい。加圧処理により、電極合材層と集電体との密着性を向上させることができる。
さらに、電極合材層が硬化性の重合体を含む場合は、電極合材層の形成後に前記重合体を硬化させることが好ましい。
【0119】
(リチウムイオン二次電池)
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、セパレータと、電解液とを備え、正極および負極の少なくとも一方が、上述した本発明のリチウムイオン二次電池用電極であることを特徴とする。そして、本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明のリチウムイオン二次電池用電極を備えているので、サイクル特性などの電気的特性に優れる。
【0120】
<電極>
ここで、本発明のリチウムイオン二次電池に使用し得る、上述した本発明のリチウムイオン二次電池用電極以外の電極としては、特に限定されることなく、二次電池の製造に用いられている既知の電極を用いることができる。具体的には、上述したリチウムイオン二次電池用電極以外の電極としては、既知の製造方法を用いて集電体上に電極合材層を形成してなる電極を用いることができる。
【0121】
<電解液>
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。支持電解質としては、例えば、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlCl4、LiClO4、CF3SO3Li、C4F9SO3Li、CF3COOLi、(CF3CO)2NLi、(CF3SO2)2NLi、(C2F5SO2)NLiなどが挙げられる。なかでも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すので、LiPF6、LiClO4、CF3SO3Liが好ましく、LiPF6が特に好ましい。なお、電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0122】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルエチルカーボネート(EMC)等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;などが好適に用いられる。またこれらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いのでカーボネート類を用いることが好ましい。
なお、電解液中の電解質の濃度は適宜調整することができる。また、電解液には、既知の添加剤、例えばフルオロエチレンカーボネート(FEC)やビニレンカーボネート(VC)などを添加してもよい。
【0123】
<セパレータ>
セパレータとしては、特に限定されることなく、例えば特開2012-204303号公報に記載のものを用いることができる。これらの中でも、セパレータ全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、二次電池内の電極活物質の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)の樹脂からなる微多孔膜が好ましい。
【0124】
<二次電池の製造方法>
本発明の二次電池は、例えば、正極と、負極とを、セパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより製造することができる。二次電池の内部の圧力上昇、過充放電等の発生を防止するために、必要に応じて、ヒューズ、PTC素子等の過電流防止素子、エキスパンドメタル、リード板などを設けてもよい。二次電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例】
【0125】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
また、複数種類の単量体を共重合して重合体を製造する場合において、重合体全体に占めるある単量体に由来する構造単位(単量体単位)の質量比率は、別に断らない限り、通常は、その重合体の重合に用いる全単量体に占める当該ある単量体の質量比率(仕込み比)と一致する。
実施例および比較例において、芳香族炭化水素単環の分散剤(A)1分子当たりの平均個数、硫黄原子および窒素原子の少なくとも一方を含有する官能基の分散剤(A)1分子当たりの平均個数、分散剤(A)の重量平均分子量、分散剤(A)の20質量%水溶液の粘度、導電材ペーストの粘度上昇抑制、導電材ペースト中の導電性カーボンの沈降抑制、電極(負極)のピール強度、リチウム金属の析出抑制、二次電池のサイクル特性は、それぞれ以下の方法を使用して評価した。
【0126】
<芳香族炭化水素単環の分散剤(A)1分子当たりの平均個数>
芳香族炭化水素単環の分散剤(A)1分子当たりの平均個数は、1H-NMR測定により求めた。具体的には、分散剤(A)30mgを測定溶媒(CDCl3)1mLに溶解して、1H-NMR測定を行い、芳香族炭化水素由来のプロトンに由来するピークの面積強度から求めた。
【0127】
<硫黄原子および窒素原子の少なくとも一方を含有する官能基の分散剤(A)1分子当たりの平均個数>
硫黄原子および窒素原子の少なくとも一方を含有する官能基(S/N含有官能基)の分散剤(A)1分子当たりの平均個数は、13C-NMR測定により求めた。具体的には、分散剤(A)30mgを測定溶媒(CDCl3)1mLに溶解して、13C-NMR測定を行い、硫黄原子または窒素原子に由来するピークの面積強度から求めた。
【0128】
<分散剤Aの重量平均分子量>
分散剤(A)の重量平均分子量を、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した。まず、溶離液約5mL中に、分散剤(A)を固形分濃度で約0.5g/Lとなるように加えて、室温で緩やかに溶解させた。目視にて分散剤(A)が溶解したことを確認した後、0.45μmフィルターを用いて穏やかに濾過を行い、測定用試料を調製した。そして、当該測定試料を用いて、GPC測定を行った。さらに、標準物質でのGPC測定の結果より作成した検量線に基づいて、標準物質換算値としての分散剤(A)の重量平均分子量を算出した。
なお、GPCの測定条件は、以下の通りである。
<<測定条件>>
カラム:Shodex OHpak SB-G、SB-807HQ、およびSB-806MHQ(いずれも昭和電工社製)を3本直列に繋いで用いた。
溶離液:0.1Mトリス緩衝液(0.1M塩化カリウム添加)
流速:0.5mL/分
分散剤(A)測定用試料の濃度:0.5g/L(固形分濃度)
注入量:200μL
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折率検出器RI(東ソー社製、製品名「RI-8020」)
標準物質:単分散プルラン(昭和電工社製)
【0129】
<分散剤(A)の20質量%水溶液の粘度>
濃度を20質量%に調整した分散剤(A)の水溶液を、温度25℃の恒温槽内に2時間静置し、B型粘度計を用いて、スピンドル回転速度60rpm、スピンドル回転開始後60秒間後の条件で測定した。
【0130】
<導電材ペーストの粘度上昇抑制>
各実施例および比較例において、導電材ペーストの製造直後の粘度η1を、B型粘度計を用いて、温度25℃、スピンドル回転速度60rpm、スピンドル回転開始後60秒間後の条件で測定した。
次いで、前記ペーストを、25℃にて12ヶ月間静置保管した後、上記と同様の方法により粘度測定を行い、測定された粘度をη2とした。
そして、式:η3=η2/η1により算出される粘度比率η3を求め、下記の基準により、導電材ペーストの粘度上昇を評価した。なお、粘度比率η3の値が1.0に近いほど、ペーストの粘度上昇が良好に抑制されていることを示す。
A:粘度比率η3が1.1未満
B:粘度比率η3が1.1以上1.5未満
C:粘度比率η3が1.5以上2.0未満
D:粘度比率η3が2.0以上
【0131】
<導電材ペースト中の導電性カーボンの沈降抑制>
各実施例および比較例において、製造直後の導電材ペースト(固形分濃度5.00質量%)を専用セルチューブに入れ、当該セルチューブの口を密閉した。以下の条件で遠心分離を実施した。
遠心機:日立工機株式会社製、製品名「CS150NX」
回転数:110,000rpm
遠心分離時間:60分間
温度:25℃
上記遠心分離の前後で、下記のL1およびL2の距離を定規で測定した。
L1:遠心分離前のセルチューブの内部における、導電材ペーストの液面から、セルチューブの底面までの距離
L2:遠心分離後のセルチューブの内部における、導電材ペーストの上澄み透明部分の上面(液面)から下面(沈殿部分との境界面)までの距離
そして、L2/L1の値を算出し、下記の基準により、導電材ペースト中の導電性カーボンの沈降抑制の評価を行なった。なお、L2/L1の値が小さいほど、導電材ペースト中において導電性カーボンの沈降が抑制され、導電性カーボンが良好に分散されていることを示す。
A:0.1未満
B:0.1以上0.2未満
C:0.2以上0.5未満
D:0.5以上
なお、対照として、本実施例で結着材として用いた粒子状重合体(スチレン-ブタジエン系共重合体、固形分濃度5%の水溶液とした)も同時に遠心分離にかけて、上記と同様の評価を行ったところ、評価結果はDであった。
【0132】
<電極(負極)のピール強度>
各実施例および比較例で作製した負極をそれぞれ、幅1cm×長さ10cmの矩形に切り、得られた試験片を、負極合材層の面を上にして固定した。固定した試験片の負極合材層の表面にセロハンテープを貼り付けた後、試験片の一端からセロハンテープを50mm/分の速度で180°方向に引き剥がしたときの応力を測定した。同様の測定を5回行い、その平均値をピール強度とし、以下の基準により評価した。
A:ピール強度が10N/m以上
B:ピール強度が8N/m以上10N/m未満
C:ピール強度が4N/m以上8N/m未満
D:ピール強度が4N/m未満
【0133】
<リチウム金属の析出抑制>
各実施例及び比較例において作製した、ラミネートセル型のリチウムイオン二次電池を、電解液注液後、25℃の環境下で、24時間静置させた後に、0.1Cの定電流法により、セル電圧4.35Vまで充電し、セル電圧2.75Vまで放電する充放電の操作を行った。
次に、-10℃の環境下で、1.5Cの定電流法によりセル電圧4.35Vまで充電(CCCV充電 0.05Cカット)し、セル電圧2.75Vまで同レートで放電(CC放電)する充放電の操作を5回繰り返した。最後に、25℃の環境下で0.2Cの定電流法によりセル電圧4.35Vまで充電した。
上記操作後のリチウムイオン二次電池のセルを分解して負極を取り出し、画像処理により、負極表面全体のうち、リチウム金属が析出している部分(Li金属析出部分)の占める割合を算出した。負極表面全体のうちLi金属析出部分の占める割合が小さいほど、リチウムイオン二次電池の負極においてリチウム金属の析出が抑制されていることを示す。
A:Li金属析出部分の占める割合が負極表面全体の3%未満である
B:Li金属析出部分の占める割合が負極表面全体の3%以上10%未満である
C:Li金属析出部分の占める割合が負極表面全体の10%以上30%未満である
D:Li金属析出部分の占める割合が負極表面全体の30%以上である
【0134】
<二次電池のサイクル特性>
各実施例及び比較例において作製した、ラミネートセル型のリチウムイオン二次電池を、電解液注液後、25℃の環境下で、24時間静置させた後に、0.1Cの定電流法により、セル電圧4.35Vまで充電し、セル電圧2.75まで放電する充放電の操作を行い、初期容量C0を測定した。さらに、45℃の環境下で、1.0Cの定電流法により、セル電圧4.35Vまで充電し、セル電圧2.75Vまで放電する充放電を繰り返し、100サイクル後の容量C2を測定した。そして、式:C3(%)=(C2/C0)×100により容量維持率C3を算出した。このC3の値が大きいほど、リチウムイオン二次電池がサイクル特性に優れることを示す。
A:容量維持率C3が96%以上
B:容量維持率C3が90%以上96%未満
C:容量維持率C3が80%以上90%未満
D:容量維持率C3が80%未満
【0135】
(実施例1)
<重合法による分散剤(A)の調製>
ガラス製1Lフラスコに、イオン交換水100部、ターシャリーブタノール500部、トルエン200部を投入して、温度60℃に加熱し、流量100mL/分の窒素ガスでフラスコ内を置換した。次に、芳香族炭化水素単環を有する単量体としての1-ビニルナフタレン21部、硫黄原子含有官能基を有する単量体としてアリルスルホン酸79部を混合して得られた混合物を、フラスコ内に注入した。上記混合物に対して、窒素バブリング(流量1L/分、40分間の条件にて)を実施し、その後、重合開始剤としての2,2’-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシ)バレロニトリル(富士フイルム和光純薬株式会社製「V-70」)の5%アセトニトリル溶液500部(「V-70」の固形分相当量で25部)をフラスコ内に添加して、重合反応を開始した。
反応開始から2時間後、温度を75℃に昇温、維持し、重合反応を進めた。前記重合開始剤を追加した4時間後、フラスコを空気中に開放して重合反応を停止させた。生成した重合体をアセトンで析出させた。得られた析出物を水酸化ナトリウム10%水溶液で添加し、温度80℃で6時間撹拌しながら、pH8.0に調整することで、分散剤(A)としての重合体のナトリウム塩を得た。
得られた分散剤(A)を用いて、芳香族炭化水素単環の分散剤(A)1分子当たりの平均個数、S/N含有官能基の分散剤(A)1分子当たりの平均個数、分散剤(A)の重量平均分子量、および、分散剤(A)の20質量%水溶液の粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0136】
<増粘剤の調製>
ガラス製1Lフラスコに、イオン交換水789部を投入して、温度40℃に加熱し、流量100mL/分の窒素ガスでフラスコ内を置換した。次に、アミド基含有単量体としてのアクリルアミド45部、カルボン酸基含有単量体としてのアクリル酸25部、水酸基含有単量体としてのヒドロキシエチルアクリルアミド30部を混合して、フラスコ内に注入した。その後、重合開始剤としての過硫酸カリウムの2.5%水溶液8.9部をシリンジでフラスコ内に添加した。前記重合開始剤の添加から15分後に、重合促進剤としてのテトラメチルエチレンジアミンの2.0%水溶液22.2部をシリンジで添加し、重合反応を開始した。
前記重合開始剤を添加した4時間後、重合開始剤としての過硫酸カリウムの2.5%水溶液4.4部をフラスコ内に追加し、更に重合促進剤としてのテトラメチルエチレンジアミンの2.0%水溶液11.1部を追加して、温度を60℃に昇温し、維持して、重合反応を進めた。前記重合開始剤を追加した3時間後、フラスコを空気中に開放して重合反応を停止させ、得られた重合体に対して、水酸化リチウムを8%水溶液で添加し、温度80℃で6時間撹拌しながら、pH8.0まで調整して、増粘剤としてのヒドロキシエチルアクリルアミド-アクリル酸-アクリルアミド共重合体を得た。
【0137】
<結着材の調製>
攪拌機付き5MPa耐圧容器Aに、芳香族ビニル単量体としてのスチレン3.15部、脂肪族共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン1.66部、その他の単量体としてのイタコン酸0.1部、乳化剤としてのラウリル硫酸ナトリウム0.2部、イオン交換水20部、および、重合開始剤としての過硫酸カリウム0.03部を入れ、十分に攪拌して単量体組成物1を得た後、60℃に加温して重合(1段目の重合)を開始させ、6時間反応させてシード粒子を得た。
上記の反応後、上記耐圧容器Aを75℃に加温しつつ、別の容器Bにて、芳香族ビニル単量体としてのスチレン56.85部、脂肪族共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン33.84部、その他の単量体としてのイタコン酸3.4部、連鎖移動剤としてのtert-ドデシルメルカプタン0.25部、および乳化剤としてのラウリル硫酸ナトリウム0.35部を混合して単量体組成物2を得て、当該単量体組成物2の容器Bから耐圧容器Aへの添加を開始し、これと同時に、重合開始剤としての過硫酸カリウム1部の耐圧容器Aへの添加を開始することで2段目の重合を開始した。
また、2段目の重合を開始から4時間後(単量体組成物全体のうち70%添加後)、耐圧容器Aに2-ヒドロキシエチルアクリレート1部を1時間半に亘って加えた。
すなわち、結着材調製時の重合反応では合計で、芳香族ビニル単量体としてのスチレン60部、脂肪族共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン35.5部、その他単量体単位としてイタコン酸3.5部および2-ヒドロキシエチルアクリレート1部を用いた。
2段目の重合開始から5時間半後、単量体組成物2の全量の添加を完了し、その後、さらに85℃に加温して6時間反応させた。
重合転化率が97%になった時点で冷却し反応を停止した。この重合体を含む混合物に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応の単量体の除去を行った。その後さらに冷却し、結着材としての粒子状重合体(スチレン-ブタジエン系共重合体)を得た。
【0138】
<導電材ペーストの製造>
導電性カーボンとして多層カーボンナノチューブ(BET比表面積:200m2/g、平均長さ:15μm、アスペクト比:350)100部と、上記で得られた分散剤(A)10部(固形分相当)と、分散剤(B)としてのイソチアゾリン系化合物である1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン0.50部(固形分相当)と、分散剤(B)としての化合物(b)であるp-トルエンスルホン酸ナトリウム0.50部(固形分相当)と、溶媒としての適量のイオン交換水とを添加し、ディスパーにて撹拌(3000rpm、60分)し、その後、直径1mmのジルコニアビーズを用いたビーズミルにより、周速8m/sにて1時間混合することにより、リチウムイオン二次電池用導電材ペーストを製造した。なお、B型粘度計を用いて導電材ペーストの粘度を測定したところ、温度25℃、60rpmでの粘度は500mPa・sであった。また、導電材ペーストの固形分濃度は5.0質量%であった。
得られた導電材ペーストを用いて、導電材ペーストの粘度上昇抑制、および、導電材ペースト中の導電性カーボンの沈降抑制を評価した。結果を表1に示す。
【0139】
<スラリー組成物の製造>
ディスパー付きのプラネタリーミキサーに、電極活物質(負極活物質)として、黒鉛質材料である人造黒鉛(体積平均粒子径:24.5μm、比表面積:4m2/g)67.55部、および、シリコン系負極活物質であるSiOx28.95部を加え、さらに、上記で得られた増粘剤を固形分相当量で2.0部加え、イオン交換水で固形分濃度58%になるように調整し、60分混合した。次に、上記で得られた導電材ペーストを多層カーボンナノチューブ相当量で0.5部添加し、混合した。さらに、イオン交換水で固形分濃度50%に調整し、上記で得られた結着材1.0部(固形分相当量)を添加し、15分間混合して混合液を得た。これを減圧下で脱泡処理して、流動性の良いリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物(固形分濃度:48%)を得た。
【0140】
<負極の製造>
上述のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を、コンマコーターで、厚さ18μmの銅箔(集電体)の上に、乾燥後の膜厚が105μm、塗布量が10mg/cm2になるように塗布した。このスラリー組成物が塗布された銅箔を、0.5m/分の速度で温度75℃のオーブン内を2分間、さらに温度120℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより、銅箔上のスラリー組成物を乾燥させ、負極原反を得た。この負極原反をロールプレスで圧延して、負極合材層の厚みが80μmである負極を得た。
得られた負極を用いて、電極(負極)のピール強度を測定および評価した。結果を表1に示す。
【0141】
<正極の製造>
プラネタリーミキサーに、正極活物質としてのスピネル構造を有するLiCoO2を95部、正極合材層用結着材としてのPVDF(ポリフッ化ビニリデン)を固形分相当量で3部、導電材としてのアセチレンブラックを2部、および、溶媒としてのN-メチルピロリドンを20部加えて混合し、リチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物(本発明の二次電池用スラリー組成物ではない)を得た。
得られたリチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物を、コンマコーターで、厚さ20μmのアルミニウム箔(集電体)上に、乾燥後の膜厚が100μm程度になるように塗布した。このリチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物が塗布されたアルミニウム箔を、0.5m/分の速度で温度60℃のオーブン内を2分間、さらに温度120℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより、アルミニウム箔上のリチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物を乾燥させ、正極原反を得た。この正極原反をロールプレスで圧延して、正極合材層の厚みが70μmである正極を得た。
【0142】
<セパレータの用意>
単層のポリプロピレン製セパレータ(幅65mm、長さ500mm、厚さ25μm;乾式法により製造;気孔率55%)を用意した。このセパレータを、5cm×5cmの正方形に切り抜いて、下記のリチウムイオン二次電池に使用した。
【0143】
<リチウムイオン二次電池の製造>
電池の外装として、アルミニウム包材外装を用意した。上記で得られた正極を、4cm×4cmの正方形に切り出して、集電体側の表面がアルミニウム包材外装に接するように配置した。次に、正極の正極合材層の面上に、上記で用意した正方形のセパレータを配置した。さらに、上記で得られた負極を、4.2cm×4.2cmの正方形に切り出して、これをセパレータ上に、負極合材層側の表面がセパレータに向かい合うよう配置した。その後、電解液としての濃度1.0MのLiPF6溶液(溶媒はエチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)=1/2(体積比)の混合溶媒。添加剤としてフルオロエチレンカーボネート(FEC)およびビニレンカーボネート(VC)をそれぞれ2体積%(溶媒比)含有。)を充填した。さらに、アルミニウム包材の開口を密封するために、150℃のヒートシールをしてアルミニウム包材外装を閉口し、ラミネートセル型のリチウムイオン二次電池を製造した。
得られたリチウムイオン二次電池を用いて、リチウム金属の析出抑制および二次電池のサイクル特性を評価した。結果を表1に示す。
【0144】
(実施例2~6、8~10、17、比較例1~4)
実施例1の分散剤(A)調製において、使用する単量体の種類および量並びに重合開始剤の量を表3に示す通りに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、分散剤(A)、増粘剤、結着材、導電材ペースト、負極、正極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池を調製乃至製造した。そして、実施例1と同様にして各種測定および評価を行った。結果を表1、2に示す。
【0145】
(実施例7)
実施例1の導電材ペーストの調製において、重合法により調製された分散剤(A)10部(固形分相当)に代えて、下記の縮合法により調製された分散剤(A)10部(固形分相当)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、増粘剤、結着材、導電材ペースト、負極、正極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池を調製乃至製造した。そして、実施例1と同様にして各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。
<縮合法による分散剤(A)の調製>
反応容器にナフタレン1モルを仕込み、120℃に昇温し、25%発煙硫酸1.15モル(硫酸換算)を滴下しながら、160℃まで昇温して160℃で3時間反応させて、芳香族炭化水素単環およびS含有官能基の両方を有する単量体としてのナフタレンスルホン酸を得た。得られたナフタレンスルホン酸を90℃に冷却し、そこに水を3モル加え、90℃にて、その他の単量体(ホルムアルデヒド)を含む水溶液である37%ホルマリン1.0モル(ホルムアルデヒド換算)を滴下しながら100℃まで昇温して25時間反応させた後、水を加えて縮合物を得た。40℃に冷却して、水酸化ナトリウム24%および水酸化カリウム24%の水溶液を等モル加えてpH9に調整し、固形分濃度を40%とすることで、縮合法により調製された縮合物としての分散剤(A)を得た。
得られた分散剤(A)を用いて、芳香族炭化水素単環の分散剤(A)1分子当たりの平均個数、硫黄原子および窒素原子の少なくとも一方を含有する官能基の分散剤(A)1分子当たりの平均個数、分散剤(A)の重量平均分子量、および、分散剤(A)の20質量%水溶液の粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0146】
(実施例11、12)
実施例1の導電材ペーストの調製において、分散剤(A)の配合量(固形分相当)を表1に示す通りに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、分散剤(A)、増粘剤、結着材、導電材ペースト、負極、正極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池を調製乃至製造した。そして、実施例1と同様にして各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0147】
(実施例13、14)
実施例1の導電材ペーストの調製において、分散剤(B)としてのイソチアゾリン系化合物および化合物(b)の配合量(固形分相当)を表1に示す通りに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、分散剤(A)、増粘剤、結着材、導電材ペースト、負極、正極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池を調製乃至製造した。そして、実施例1と同様にして各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0148】
(実施例15)
実施例1の導電材ペーストの調製において、分散剤(B)として、化合物(b)(p-トルエンスルホン酸ナトリウム)を使用せず、イソチアゾリン系化合物である1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン0.5部(固形分相当)のみを使用したこと以外は、実施例1と同様にして、分散剤(A)、増粘剤、結着材、導電材ペースト、負極、正極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池を調製乃至製造した。そして、実施例1と同様にして各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0149】
(実施例16)
実施例7の導電材ペーストの調製において、分散剤(B)として、化合物(b)(p-トルエンスルホン酸ナトリウム)を使用せず、イソチアゾリン系化合物である1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン0.5部(固形分相当)のみを使用したこと以外は、実施例7と同様にして、分散剤(A)、増粘剤、結着材、導電材ペースト、負極、正極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池を調製乃至製造した。そして、実施例7と同様にして各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0150】
(実施例18~23)
実施例1の導電材ペーストの調製において、使用する多層CNTのBET比表面積、平均長さ、およびアスペクト比をそれぞれ表2に示す通りに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、分散剤(A)、増粘剤、結着材、導電材ペースト、負極、正極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池を調製乃至製造した。そして、実施例1と同様にして各種測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0151】
(実施例24)
実施例1の導電材ペーストの調製において、導電性カーボンとして、多層CNT100部に代えて、カーボンブラック(体積平均粒子径D50:20nm、BET比表面積:60m2/g)100部を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、分散剤(A)、増粘剤、結着材、導電材ペースト、負極、正極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池を調製乃至製造した。そして、実施例1と同様にして各種測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0152】
(比較例5)
実施例1の導電材ペーストの調製において、分散剤(B)としての化合物(b)(p-トルエンスルホン酸ナトリウム)およびイソチアゾリン系化合物(1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン)をいずれも使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、分散剤(A)、増粘剤、結着材、導電材ペースト、負極、正極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池を調製乃至製造した。そして、実施例1と同様にして各種測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0153】
(比較例6)
実施例1の導電材ペーストの調製において、分散剤(B)として、イソチアゾリン系化合物(1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン)を使用せず、化合物(b)であるp-トルエンスルホン酸ナトリウム0.50部(固形分相当)のみを使用したこと以外は、実施例1と同様にして、分散剤(A)、増粘剤、結着材、導電材ペースト、負極、正極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池を調製乃至製造した。そして、実施例1と同様にして各種測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0154】
(比較例7)
実施例1の導電材ペーストの調製において、芳香族炭化水素単環およびS/N含有官能基を1分子当たりの平均でそれぞれ所定の個数有する分散剤(A)10部(固形分相当)に代えて、下記の方法により調製された、芳香族炭化水素単環の1分子当たりの平均個数が所定範囲を超え、S/N含有官能基を有しない分散剤(A)10部(固形分相当)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、増粘剤、結着材、導電材ペースト、負極、正極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池を調製乃至製造した。そして、実施例1と同様にして各種測定および評価を行った。結果を表2に示す。
<芳香族炭化水素単環の1分子当たりの平均個数が所定範囲を超え、S/N含有官能基を有しない分散剤(A)の調製>
攪拌機付き反応容器に、ブタノール93.4部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱して、芳香族炭化水素単環を有する単量体としてのスチレン30.0部、その他の単量体としてのアクリル酸70.0部、および、重合開始剤としての2,2-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル(富士フイルム和光純薬社製「V-601」)4.5部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、さらに110℃で3時間反応させた後、上記の重合開始剤0.5部をさらに添加し、110℃で1時間反応を続けて、分散剤(A)としての重合体を含む溶液を得た。
得られた分散剤(A)を用いて、芳香族炭化水素単環の分散剤(A)1分子当たりの平均個数、硫黄原子および窒素原子の少なくとも一方を含有する官能基の分散剤(A)1分子当たりの平均個数、分散剤(A)の重量平均分子量、および、分散剤(A)の20質量%水溶液の粘度を測定した。結果を表2に示す。
【0155】
(比較例8)
実施例1の導電材ペーストの調製において、芳香族炭化水素単環およびS/N含有官能基を1分子当たりの平均でそれぞれ所定の個数有する分散剤(A)10部(固形分相当)に代えて、下記の方法により調製された、芳香族炭化水素単環およびS/N含有官能基の1分子当たりの平均個数がいずれも所定範囲を超えている分散剤(A)10部(固形分相当)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、増粘剤、結着材、導電材ペースト、負極、正極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池を調製乃至製造した。そして、実施例1と同様にして各種測定および評価を行った。結果を表2に示す。
<芳香族炭化水素単環およびS/N含有官能基の1分子当たりの平均個数がいずれも所定範囲を超えている分散剤(A)の調製>
攪拌機付き反応容器に、n-ブタノール200.0部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱して、芳香族炭化水素単環を有する単量体としてのスチレン100.0部、2-アクリルアミド-2-メチルプロピルスルホン酸60.0部、ジメチルアミノエチルメタクリレート40.0部、および、重合開始剤としての2,2-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル(富士フイルム和光純薬社製「V-601」)12.0部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、さらに110℃で3時間反応させた後、上記重合開始剤0.6部をさらに添加し、110℃で1時間反応を続けて、重合体を含む溶液を得た。
さらに、室温(23℃)まで冷却した後、重合体を含む溶液に対してジメチルアミノエタノール23.3部(重合体に含まれるスルホン酸基を100%中和する量)添加して中和を行なった。さらに、水を400部添加した後、100℃まで加熱し、n-ブタノールを水と共沸させてn-ブタノールを留去し、分散剤(A)としての重合体を含む溶液を得た。
得られた分散剤(A)を用いて、芳香族炭化水素単環の分散剤(A)1分子当たりの平均個数、硫黄原子および窒素原子の少なくとも一方を含有する官能基の分散剤(A)1分子当たりの平均個数、分散剤(A)の重量平均分子量、および、分散剤(A)の20質量%水溶液の粘度を測定した。結果を表2に示す。
【0156】
【0157】
【0158】
【0159】
表1、2より、芳香族炭化水素単環およびS/N含有官能基を1分子当たりの平均でそれぞれ所定の個数有する分散剤(A)、イソチアゾリン系化合物を含む分散剤(B)、導電性カーボン、および溶媒を含む実施例1~24の導電材ペーストであれば、導電性カーボンが良好に分散されることが分かる。
一方、S/N含有官能基を1分子当たりの平均で所定の個数有するものの、芳香族炭化水素単環を1分子当たりの平均で所定の個数有しない分散剤(A)を使用した比較例1、2の導電材ペーストでは、導電性カーボンが良好に分散されないことが分かる。
また、芳香族炭化水素単環を1分子当たりの平均で所定の個数有するものの、S/N含有官能基を1分子当たりの平均で所定の個数有しない分散剤(A)を使用した比較例3、4の導電材ペーストでも、導電性カーボンが良好に分散されないことが分かる。
さらに、芳香族炭化水素単環およびS/N含有官能基のいずれも1分子当たりの平均で所定の個数有しない分散剤(A)を使用した比較例7、8の導電材ペーストでも、導電性カーボンが良好に分散されないことが分かる。
また、分散剤(B)としてのイソチアゾリン系化合物を使用しなかった比較例5、6の導電材ペーストも、導電性カーボンが良好に分散されないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0160】
本発明によれば、導電性カーボンが良好に分散されたリチウムイオン二次電池電極用導電材ペーストおよびリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、二次電池の電池特性を十分に向上させ得るリチウムイオン二次電池用電極およびサイクル特性等の電池特性に優れたリチウムイオン二次電池を提供することができる。