(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーおよびその製造方法、スルホン酸基含有含フッ素ポリマーおよびその製造方法、固体高分子電解質膜、膜電極接合体ならびに固体高分子形燃料電池
(51)【国際特許分類】
C08F 214/26 20060101AFI20240918BHJP
C08F 216/14 20060101ALI20240918BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20240918BHJP
H01M 8/1004 20160101ALI20240918BHJP
H01M 8/1039 20160101ALI20240918BHJP
【FI】
C08F214/26
C08F216/14
H01M8/10 101
H01M8/1004
H01M8/1039
(21)【出願番号】P 2021553492
(86)(22)【出願日】2020-10-21
(86)【国際出願番号】 JP2020039549
(87)【国際公開番号】W WO2021079904
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2019192095
(32)【優先日】2019-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】平居 丈嗣
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 貢
(72)【発明者】
【氏名】渡部 浩行
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-181128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 214/18-214/28
C08F 216/00-216/14
H01M 8/10-8/1067
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器内において、ラジカル重合開始剤の存在下、下式m1で表されるモノマーと、テトラフルオロエチレンとを150~200℃の温度で共重合させて、フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーを製造する方法であって、
前記共重合中、前記反応器内における前記ラジカル重合開始剤の濃度が、前記共重合を開始する前の前記反応器内に仕込まれていた前記式m1で表されるモノマーの質量の2.5質量ppm以下を維持するように、前記ラジカル重合開始剤を前記反応器内に連続的または逐次的に添加し、
前記テトラフルオロエチレンの全添加量に対する、前記式m1で表されるモノマーの全添加量のモル比が、1.5~20であることを特徴とする、フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーの製造方法。
CF
2=CFCF
2O-Q
1-SO
2F (m1)
式m1中、Q
1は、単結合、または、エーテル結合性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキレン基である。
【請求項2】
反応器内において、ラジカル重合開始剤の存在下、下式m1で表されるモノマーと、テトラフルオロエチレンとを150~200℃の温度で共重合させて、フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーを製造する方法であって、
前記反応器内に仕込んだ前記式m1で表されるモノマーの全添加量に対する、前記反応器内に仕込んだ前記ラジカル重合開始剤の全添加量の比率は、共重合時間1時間あたり平均で0.01~4質量ppmであり、
前記テトラフルオロエチレンの全添加量に対する、前記式m1で表されるモノマーの全添加量のモル比が、1.5~20であることを特徴とする、フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーの製造方法。
CF
2=CFCF
2O-Q
1-SO
2F (m1)
式m1中、Q
1は、単結合、または、エーテル結合性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキレン基である。
【請求項3】
前記式m1で表されるモノマーが下式m11で表されるモノマーである、請求項1または2に記載のフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーの製造方法。
CF
2=CFCF
2O(CF
2)
xSO
2F (m11)
式m11中、xは、1~12の整数である。
【請求項4】
前記ラジカル重合開始剤が、ビス(ペルフルオロアルキル)ペルオキシドまたはジアルキルペルオキシドである、請求項1~3のいずれか1項に記載のフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーの製造方法。
【請求項5】
下式f1で表される単位と、テトラフルオロエチレンに基づく単位と、を有するフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーであって、
前記フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーのQ値が、0.2~60.0mm
3/秒であり、
前記フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマー中の全単位に対する前記式f1で表される単位の割合が21~59モル%であることを特徴とする、フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマー。
ただし、前記Q値は、フローテスタを用い、前記フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーを断面積1cm
2のシリンダに充填し、260℃で30kg荷重下、2.94MPaの圧力で内径1mm、長さ1mmのノズルより押出し、その際の単位時間内に押出される容量(mm
3/秒)を意味する。
【化1】
式f1中、Q
1は、単結合、または、エーテル結合性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキレン基である。
【請求項6】
前記フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマー中の前記フルオロスルホニル基を酸型スルホン酸基にした場合の酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーのイオン交換容量が、1.45~2.50ミリ当量/グラム乾燥樹脂である、請求項5に記載のフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマー。
【請求項7】
前記式f1で表される単位が下式f11で表される単位である、請求項5または6に記載のフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマー。
【化2】
式f11中、xは、1~12の整数である。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法によって製造されたフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーのフルオロスルホニル基をスルホン酸基に変換することを特徴とする、スルホン酸基含有含フッ素ポリマーの製造方法。
【請求項9】
下式u1で表される単位と、テトラフルオロエチレンに基づく単位と、を有するスルホン酸基含有含フッ素ポリマーであって、
前記スルホン酸基含有含フッ素ポリマー中のスルホン酸基をフルオロスルホニル基とした場合のフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーのQ値が、0.2~60.0mm
3/秒であり、
前記スルホン酸基含有含フッ素ポリマー中の全単位に対する前記式u1で表される単位の割合が21~59モル%であることを特徴とする、スルホン酸基含有含フッ素ポリマー。
ただし、前記Q値は、フローテスタを用い、前記フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーを断面積1cm
2のシリンダに充填し、260℃で30kg荷重下、2.94MPaの圧力で内径1mm、長さ1mmのノズルより押出し、その際の単位時間内に押出される容量(mm
3/秒)を意味する。
【化3】
式u1中、Q
1は、単結合、または、エーテル結合性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキレン基であり、Z
+は、H
+、金属イオン、またはアンモニウムイオンである。
【請求項10】
前記スルホン酸基含有含フッ素ポリマー中のスルホン酸基が酸型スルホン酸基であって、該酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーのイオン交換容量が、1.45~2.50ミリ当量/グラム乾燥樹脂である、請求項9に記載のスルホン酸基含有含フッ素ポリマー。
【請求項11】
前記式u1で表される単位が下式u11で表される単位である、請求項9または10に記載のスルホン酸基含有含フッ素ポリマー。
【化4】
式u11中、xは、1~12の整数であり、Z
+は、H
+、金属イオン、またはアンモニウムイオンである。
【請求項12】
請求項9~11のいずれか1項に記載のスルホン酸基含有含フッ素ポリマーと液状媒体とを含む液状組成物。
【請求項13】
セリウム原子およびマンガン原子からなる群より選択される1種以上をさらに含む、請求項12に記載の液状組成物。
【請求項14】
請求項9~11のいずれか1項に記載のスルホン酸基含有含フッ素ポリマーを含み、
前記スルホン酸基含有含フッ素ポリマーの前記スルホン酸基が酸型スルホン酸基であることを特徴とする、固体高分子電解質膜。
【請求項15】
補強材をさらに含む、請求項14に記載の固体高分子電解質膜。
【請求項16】
膜厚が5~200μmである、請求項14または15に記載の固体高分子電解質膜。
【請求項17】
セリウム原子およびマンガン原子からなる群より選択される1種以上をさらに含む、請求項14~16のいずれか1項に記載の固体高分子電解質膜。
【請求項18】
触媒およびイオン交換基を有するポリマーを含む触媒層を有するアノードと、触媒およびイオン交換基を有するポリマーを含む触媒層を有するカソードと、前記アノードと前記カソードとの間に配置されたイオン交換基を有するポリマーを含む固体高分子電解質膜と、を含む膜電極接合体であって、
前記アノードに含まれる前記イオン交換基を有するポリマー、前記カソードに含まれる前記イオン交換基を有するポリマー、および、前記固体高分子電解質膜に含まれる前記イオン交換基を有するポリマーからなる群から選択される少なくとも1種のポリマーが、請求項9~11のいずれか1項に記載のスルホン酸基含有含フッ素ポリマーであることを特徴とする、膜電極接合体。
【請求項19】
請求項18に記載の膜電極接合体を含むことを特徴とする、固体高分子形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーおよびその製造方法、酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーおよびその製造方法、固体高分子電解質膜、膜電極接合体ならびに固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、例えば、2つのセパレータの間に膜電極接合体を挟んでセルを形成し、複数のセルをスタックした構造をもつ。膜電極接合体は、触媒層を有するアノードおよびカソードと、アノードとカソードとの間に配置された固体高分子電解質膜と、を含む。固体高分子電解質膜は、酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーを膜状にして得られる。
このような酸型スルホン酸基を有するポリマーの製造方法として、特許文献1には、テトラフルオロエチレンおよびCF2=CFCF2OCF2CF2SO2Fで表されるモノマーをラジカル重合開始剤の存在下で100~200℃の温度で共重合させた後、-SO2F基を加水分解して、酸型化してスルホン酸基に変換する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、固体高分子形燃料電池の発電効率を向上させる点から、導電性の高い固体高分子電解質膜が求められている。また、固体高分子形燃料電池において発電を行う際には、固体高分子電解質膜は高温高湿の条件にさらされるため、固体高分子電解質膜を構成する酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーには熱水耐性が求められる。
本発明者らが、特許文献1に記載の製造方法で得られた酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーを用いて得られた固体高分子電解質膜を評価したところ、導電性および熱水耐性は不十分なものであり改善の余地があった。具体的には、0.08S/cm以上の高い導電性を得るためにイオン交換容量の高い固体高分子電解質膜とした場合、熱水耐性が著しく低下するため、特許文献1に記載の製造方法では0.08S/cm以上の高い導電性と熱水耐性を両立した固体高分子電解質膜は得られなかった。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みて、導電性および熱水耐性に優れた固体高分子電解質膜を製造できるフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーおよびその製造方法、酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーおよびその製造方法、固体高分子電解質膜、膜電極接合体ならびに固体高分子形燃料電池の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、ラジカル重合開始剤(以下、「開始剤」ともいう。)の存在下で後述の式m1で表されるモノマーとテトラフルオロエチレンとを共重合してフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーを製造する際に、共重合温度を所定範囲内にして、共重合中の反応器内における開始剤の濃度が、重合開始前に反応器内に仕込まれていた式m1で表されるモノマーの質量の2.5質量ppm以下を維持するように、テトラフルオロエチレンの全添加量に対する式m1で表されるモノマーの全添加量のモル比を所定範囲内にすれば、導電性および熱水耐性に優れた固体高分子電解質膜を製造できるフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーが得られることを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
[1] 反応器内において、ラジカル重合開始剤の存在下、後述の式m1で表されるモノマーと、テトラフルオロエチレンとを150~200℃の温度で共重合させて、フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーを製造する方法であって、上記共重合中、上記反応器内における上記ラジカル重合開始剤の濃度が、上記共重合を開始する前の上記反応器内に仕込まれていた上記式m1で表されるモノマーの質量の2.5質量ppm以下を維持するように、上記ラジカル重合開始剤を上記反応器内に連続的または逐次的に添加し、上記テトラフルオロエチレンの全添加量に対する、上記式m1で表されるモノマーの全添加量のモル比が、1.5~20であることを特徴とする、フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーの製造方法。
後述の式m1中、Q1は、単結合、または、エーテル結合性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキレン基である。
[2] 反応器内において、ラジカル重合開始剤の存在下、後述の式m1で表されるモノマーと、テトラフルオロエチレンとを150~200℃の温度で共重合させて、フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーを製造する方法であって、
上記反応器内に仕込んだ上記式m1で表されるモノマーの全添加量に対する、上記反応器内に仕込んだ上記ラジカル重合開始剤の全添加量の比率は、共重合時間1時間あたり平均で0.01~4質量ppmであり、
上記テトラフルオロエチレンの全添加量に対する、上記式m1で表されるモノマーの全添加量のモル比が、1.5~20であることを特徴とする、フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーの製造方法。
後述の式m1中、Q1は、単結合、または、エーテル結合性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキレン基である。
[3] 上記式m1で表されるモノマーが後述の式m11で表されるモノマーである、[1]または[2]に記載のフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーの製造方法。
後述の式m11中、xは、1~12の整数である。
[4] 上記ラジカル重合開始剤が、ビス(ペルフルオロアルキル)ペルオキシドまたはジアルキルペルオキシドである、[1]~[3]のいずれかに記載のフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーの製造方法。
[5] 後述の式f1で表される単位と、テトラフルオロエチレンに基づく単位と、を有するフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーであって、上記フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーのQ値が、0.2~60.0mm3/秒であり、上記フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマー中の全単位に対する上記式f1で表される単位の割合が21~59モル%であることを特徴とする、フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマー。
ただし、上記Q値は、フローテスタを用い、上記フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーを断面積1cm2のシリンダに充填し、260℃で30kg荷重下、2.94MPaの圧力で内径1mm、長さ1mmのノズルより押出し、その際の単位時間内に押出される容量(mm3/秒)を意味する。
後述の式f1中、Q1は、単結合、または、エーテル結合性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキレン基である。
[6] 上記フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマー中の上記フルオロスルホニル基を酸型スルホン酸基にした場合の酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーのイオン交換容量が、1.45~2.50ミリ当量/グラム乾燥樹脂である、[5]に記載のフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマー。
[7] 上記式f1で表される単位が後述の式f11で表される単位である、[5]または[6]に記載のフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマー。
後述の式f11中、xは、1~12の整数である。
[8] [1]~[4]のいずれかに記載の製造方法によって製造されたフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーのフルオロスルホニル基をスルホン酸基に変換することを特徴とする、スルホン酸基含有含フッ素ポリマーの製造方法。
[9] 後述の式u1で表される単位と、テトラフルオロエチレンに基づく単位と、を有するスルホン酸基含有含フッ素ポリマーであって、上記スルホン酸基含有含フッ素ポリマー中のスルホン酸基をフルオロスルホニル基とした場合のフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーのQ値が、0.2~60.0mm3/秒であり、上記スルホン酸基含有含フッ素ポリマー中の全単位に対する上記式u1で表される単位の割合が21~59モル%であることを特徴とする、スルホン酸基含有含フッ素ポリマー。
ただし、上記Q値は、フローテスタを用い、上記フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーを断面積1cm2のシリンダに充填し、260℃で30kg荷重下、2.94MPaの圧力で内径1mm、長さ1mmのノズルより押出し、その際の単位時間内に押出される容量(mm3/秒)を意味する。
後述の式u1中、Q1は、単結合、または、エーテル結合性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキレン基であり、Z+は、H+、金属イオン、またはアンモニウムイオンである。
[10] 上記スルホン酸基含有含フッ素ポリマー中のスルホン酸基が酸型スルホン酸基であって、該酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーのイオン交換容量が、1.45~2.50ミリ当量/グラム乾燥樹脂である、[9]に記載のスルホン酸基含有含フッ素ポリマー。
[11] 上記式u1で表される単位が後述の式u11で表される単位である、[9]または[10]に記載のスルホン酸基含有含フッ素ポリマー。
後述の式u11中、xは、1~12の整数であり、Z+は、H+、金属イオン、またはアンモニウムイオンである。
[12] [9]~[11]のいずれかに記載のスルホン酸基含有含フッ素ポリマーと液状媒体とを含む液状組成物。
[13] 液状媒体が炭素数1~4のアルコールと水との混合物からなる、[12]に記載の液状組成物。
[14] セリウム原子およびマンガン原子からなる群より選択される1種以上をさらに含む、[12]または[13]に記載の液状組成物。
[15] [9]~[11]のいずれかに記載のスルホン酸基含有含フッ素ポリマーを含み、
スルホン酸基含有含フッ素ポリマーのスルホン酸基が酸型スルホン酸基であることを特徴とする、固体高分子電解質膜。
[16] 補強材をさらに含む、[15]に記載の固体高分子電解質膜。
[17] 補強材がPTFE多孔体からなる、[16]に記載の固体高分子電解質膜。
[18] 膜厚が5~200μmである、[15]~[17]のいずれかに記載の固体高分子電解質膜。
[19] セリウム原子およびマンガン原子からなる群より選択される1種以上をさらに含む、[15]~[18]のいずれかに記載の固体高分子電解質膜。
[20] 触媒およびイオン交換基を有するポリマーを含む触媒層を有するアノードと、触媒およびイオン交換基を有するポリマーを含む触媒層を有するカソードと、アノードとカソードとの間に配置されたイオン交換基を有するポリマーを含む固体高分子電解質膜と、を含む膜電極接合体であって、
アノードに含まれるイオン交換基を有するポリマー、カソードに含まれるイオン交換基を有するポリマー、および、固体高分子電解質膜に含まれるイオン交換基を有するポリマーからなる群から選択される少なくとも1種のポリマーが、[9]~[11]のいずれかに記載のスルホン酸基含有含フッ素ポリマーであることを特徴とする、膜電極接合体。
[21] [20]に記載の膜電極接合体であって、
アノードおよびカソードの少なくとも一方の触媒層に含まれるイオン交換基を有するポリマーが、環状エーテル構造を含む単位を有し、スルホン酸型官能基を有するポリマーであり、
固体高分子電解質膜に含まれるイオン交換基を有するポリマーが、[9]~[11]のいずれかに記載のスルホン酸基含有含フッ素ポリマーである、膜電極接合体。
[22] 環状エーテル構造を含む単位が、後述の式u12で表される単位または後述の式u22で表される単位を含む、[21]に記載の膜電極接合体。
後述の式u12中、R21は、炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基または炭素-炭素結合間にエーテル結合性酸素原子を有する炭素数2~6のペルフルオロアルキレン基であり、R22は、フッ素原子、炭素数1~6のペルフルオロアルキル基、炭素-炭素結合間にエーテル結合性酸素原子を有する炭素数2~6のペルフルオロアルキル基または-R21(SO2X(SO2Rf)a)-M+で表される基である。M+は、H+、1価の金属カチオンまたは1以上の水素原子が炭化水素基で置換されていてもよいアンモニウムイオンであり、Rfは、エーテル結合性酸素原子を有してもよい直鎖または分岐のペルフルオロアルキル基であり、Xは、酸素原子、窒素原子または炭素原子であり、Xが酸素原子の場合a=0であり、Xが窒素原子の場合a=1であり、Xが炭素原子の場合a=2である。
後述の式u22中、sは、0または1であり、R51およびR52はそれぞれ独立に、フッ素原子、炭素数1~5のペルフルオロアルキル基または互いに連結して形成されたスピロ環(ただし、sが0の場合)であり、R53およびR54はそれぞれ独立に、フッ素原子または炭素数1~5のペルフルオロアルキル基であり、R55は、フッ素原子、炭素数1~5のペルフルオロアルキル基または炭素数1~5のペルフルオロアルコキシ基である。
[23] スルホン酸基含有含フッ素ポリマーのスルホン酸基が酸型スルホン酸基である、[20]~[22]のいずれかに記載の膜電極接合体。
[24] [20]~[23]のいずれかに記載の膜電極接合体を含むことを特徴とする、固体高分子形燃料電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、導電性および熱水耐性に優れた固体高分子電解質膜を製造できるフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーおよびその製造方法、酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーおよびその製造方法、固体高分子電解質膜、膜電極接合体ならびに固体高分子形燃料電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の膜電極接合体の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の用語の定義は、特に断りのない限り、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「塩型スルホン酸基」とは、塩型のスルホン酸基(-SO3
-M+。ただし、M+は金属イオン又はアンモニウムイオンである。)を意味する。
「酸型スルホン酸基」とは、酸型のスルホン酸基(-SO3
-H+)を意味する。
「スルホン酸基」とは、塩型スルホン酸基および酸型スルホン酸基の総称であり、本明細書において、塩型または酸型の規定なく単に「スルホン酸基」と記載される場合は、上記総称である-SO3
-Z+(ただし、Z+は、H+、金属イオン、またはアンモニウムイオンである。)で表される基を意味する。
ポリマーにおける「単位」は、モノマーが重合することによって形成された、該モノマー1分子に由来する原子団を意味する。単位は、重合反応によって直接形成された原子団であってもよく、重合反応によって得られたポリマーを処理することによって該原子団の一部が別の構造に変換された原子団であってもよい。なお、個々のモノマーに由来する構成単位を、そのモノマー名に「単位」を付した名称で記載する場合がある。
式u1で表される単位を単位u1と記す。他の式で表される単位も同様に記す。
式m1で表されるモノマーをモノマーm1と記す。他の式で表される単位も同様に記す。
「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
「Aの全添加量」とは、ポリマーの重合に使用するために反応器内に添加したAの全添加量を意味し、例えば、Aを重合前および重合中に反応器内に添加する場合には、重合前に反応器内に添加したAの添加量、および、重合中に反応器内に添加したAの添加量の合計量を意味する。なお、「A」は重合に使用する成分であり、例えば、後述のTFE、モノマーm1、または、開始剤が挙げられる。
「生産性指標(Rp)」とは、共重合前および共重合中に仕込んだSO2F基を有するモノマーの合計量の100gあたり、かつ重合時間の1時間あたりに生成するポリマー量(g)を示す。
【0011】
「共重合時間」とは、共重合を開始する時点から、共重合を停止する時点までの時間を意味する。
「共重合を開始する時点」としては、反応器内を所定温度以上にした後にモノマーおよび開始剤を所定圧力下で反応器内に共存させた時点、および、モノマーと開始剤を反応器内に共存させた後に反応器内を所定温度以上にした時点等が挙げられる。なお、所定温度とは、80℃以上、かつ、[(開始剤の10時間半減期温度)-30]℃以上の温度を意味する。所定圧力とは、モノマーであるテトラフルオロエチレンの分圧が0.02MPa以上である圧力を意味する。
「共重合を停止する時点」としては、反応器内を所定温度未満にした時点、モノマーであるテトラフルオロエチレンをパージした時点、および、反応器内に重合禁止剤を添加した時点等が挙げられる。なお、テトラフルオロエチレンのパージは、テトラフルオロエチレンの分圧を0.01MPa以下にすることを意味する。
なお、共重合を停止した後、可逆的な操作(例えば、反応器内を所定温度以上に再度昇温する、テトラフルオロエチレンを再度添加する等)によって再び共重合が開始した場合は、重合時間に算入する。
【0012】
[第1実施形態に係るフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーの製造方法]
本発明の第1実施形態に係るフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーの製造方法は、反応器内において、開始剤の存在下、モノマーm1と、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」ともいう。)とを150~200℃の温度で共重合させて、フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーを製造する方法である。
また、上記共重合中、上記反応器内における上記開始剤の濃度が、上記共重合を開始する前の上記反応器内に仕込まれていた上記モノマーm1の質量の2.5質量ppm以下を維持するように、上記開始剤を上記反応器内に連続的または逐次的に添加する。
また、上記TFEの全添加量に対する、上記モノマーm1の全添加量のモル比が、1.5~20である。
第1実施形態における製造方法によって得られたフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーを、本明細書において「ポリマーFx」ともいう。
【0013】
本製造方法によれば、導電性および熱水耐性に優れた固体高分子電解質膜を製造できるフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーを製造できる。
特許文献1の実施例では開始剤が比較的高い濃度で使用されていた。しかし、本発明者らは、開始剤の使用量を低濃度とすることによって、導電性が高く且つ熱水耐性が良好なポリマーが得られることを見出した。
すなわち、モノマーm1とTFEとの共重合中において、開始剤の濃度を所定値以下になるように維持することで、TFEとモノマーm1との共重合における停止反応が起こりにくくなると考えられる。その結果、ポリマーFxの分子量が高くなるので、ポリマーFxのフルオロスルホニル基を酸型化して得られる酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマー(以下、「ポリマーHAx」ともいう。)によって製造される固体高分子電解質膜の熱水耐性が向上したと推測される。
また、通常、開始剤の使用量を減らすと重合速度が低下し生産性が大きく低下するが、驚いたことに本発明の方法によれば工業実施可能なレベルの重合速度で共重合を行うことができた。
すなわち、開始剤の濃度が上述のように低い場合であっても、モノマーm1とTFEとの共重合温度を150~200℃という高温にすることで、ポリマーFxの製造時における反応速度の低下を抑制できる。
また、TFEの全添加量に対するモノマーm1の全添加量のモル比を1.5~20とすることで、ポリマーFx中におけるモノマーm1に基づく単位の含有量が高くなるので、ポリマーHAxのイオン交換容量が高くなる。その結果、ポリマーHAxによって製造される固体高分子電解質膜の導電性が向上したと考えられる。
さらに驚いたことに、ポリマーの化学的耐久性もさらに優れていることを見出した。
【0014】
<モノマーm1>
モノマーm1は、下式m1で表されるモノマーである。
CF2=CFCF2O-Q1-SO2F (m1)
式m1中、Q1は、単結合、または、エーテル結合性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキレン基である。
ペルフルオロアルキレン基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。
ペルフルオロアルキレン基の炭素数は、ポリマーHAxのイオン交換容量の低下を抑制でき、導電性により優れた固体高分子電解質膜が得られる点で、1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~4が特に好ましい。
ペルフルオロアルキレン基がエーテル結合性酸素原子を有する場合、酸素原子の個数は、1個であっても2個以上であってもよく、2個以下が好ましい。また、酸素原子は、ペルフルオロアルキレン基の炭素-炭素結合間に位置していてもよい。
【0015】
モノマーm1は、ポリマーFxの製造が容易であり、工業的実施が容易である点で、モノマーm11が好ましく、モノマーm11-1が特に好ましい。
【0016】
【0017】
式m11中、xは、1~12の整数であり、1~6の整数が好ましく、1~4の整数が特に好ましい。
【0018】
<他のモノマー>
本製造方法において、TFEおよびモノマーm1以外のモノマー(以下、「他のモノマー」ともいう。)を用いてもよい。
【0019】
他のモノマーとしては、ポリマーの化学的耐久性を高める観点からペルフルオロモノマーであることが好ましく、ポリマーへの導入量を高くできることからペルフルオロアリルエーテルまたはペルフルオロビニルエーテルであることがより好ましく、ポリマーの物性改良が容易であることから、ペルフルオロアリルエーテルがさらに好ましい。なお、ペルフルオロビニルエーテルは150~200℃においては自己連鎖移動による連鎖移動剤として働くことがあるため、物性改良だけでなく、分子量調節の目的で用いてもよい。
他のモノマーの具体例は、以下の通りである。
CF2=CFCF2O(CF2)n1F、
CF2=CF(CF2)n2F、
CF2=CFCF2[OCF2CF(CF3)]n3OCF2CF2CF3、
CF2=CFO(CF2)n4CF3、
CF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF2)n5CF3、
CF2=CF[OCF2CF(CF3)]n6O(CF2)3F、
【0020】
【0021】
上記式中、n1は1~4の整数であり、n2は1~11の整数であり、n3は1または2であり、n4は1~9の整数であり、n5は1~9の整数であり、n6は2または3であり、n7は1~6の整数である。
【0022】
<開始剤>
開始剤としては、例えば、ビス(フルオロアシル)ペルオキシド、ビス(ペルフルオロアルキル)ペルオキシド(例えば、(CF3)3COOC(CF3)3)、ビス(クロロフルオロアシル)ペルオキシド、ジアルキルペルオキシド(例えば、(CH3)3COOC(CH3)3)、ペルオキシエステル、アゾ化合物、過硫酸塩が挙げられ、固体高分子電解質膜の化学的耐久性を高めるという点で、ビス(ペルフルオロアルキル)ペルオキシド、ジアルキルペルオキシドが好ましく、開始剤の入手性に優れ低コストという点、より分解開始温度が高く高温での重合が可能な点で、ジアルキルペルオキシドが特に好ましい。ジアルキルペルオキシドの中では、より連鎖移動性が低い観点から、(CH3)3COOC(CH3)3が最も好ましい。
開始剤は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0023】
<共重合>
共重合法の具体例としては、バルク重合法、溶液重合法、懸濁重合方法、乳化重合法が挙げられ、重合溶媒の連鎖移動性に起因するポリマーFxの分子量の低下が避けられる点から、重合溶媒を実質的に用いないバルク重合法が好ましい。
溶液重合法を採用する場合、連鎖移動定数の低い重合溶媒を用いることが好ましい。このような重合溶媒としては、炭素原子、フッ素原子、酸素原子および窒素原子以外の原子を有しない化合物が挙げられる。具体的には、パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリプロピルアミン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロオクタン、パーフルオロデカン、パーフルオロドデカン、パーフルオロ(2,7-ジメチルオクタン)、パーフルオロデカリン、パーフルオロシクロヘキサン、パーフルオロ(1,3-ジメチルシクロヘキサン)、パーフルオロ(1,3,5-トリメチルシクロヘキサン)、パーフルオロジメチルシクロブタン(構造異性を問わない。)、パーフルオロ(2-ブチルテトラヒドロフラン)、パーフルオロベンゼン、液化二酸化炭素、超臨界二酸化炭素が挙げられる。
【0024】
また、重合溶媒として、水素原子の数が少ないハイドロフルオロカーボン、水素原子の数が少ないハイドロクロロフルオロカーボン、水素原子の数が少ないハイドロフルオロエーテルを用いてもよい。
水素原子の数が少ないハイドロフルオロカーボンの具体例としては、1H-パーフルオロヘキサン、1H-パーフルオロオクタン、1H,4H-パーフルオロブタン、2H,3H-パーフルオロペンタン、3H,4H-パーフルオロ(2-メチルペンタン)、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタンが挙げられる。
水素原子の数が少ないハイドロクロロフルオロカーボンの具体例としては、1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパンが挙げられる。
水素原子の数が少ないハイドロフルオロエーテルの具体例としては、HCF2CF2OCH2CF3、n-C3F7OCH3、n-C3F7OCHFCF3、n-C3F7OCH2CF3、n-C4F9OCH3、iso-C4F9OCH3、n-C4F9OCH2CH3、n-C4F9OCH2CF3、CF3OCF(CF3)CF2OCH3、n-C3F7OCF(CF3)CF2OCHFCF3が挙げられる。
また、水素原子を有しないクロロフルオロカーボンを用いてもよい。
【0025】
モノマーm1とTFEとの共重合温度は、150~200℃であり、モノマーの反応速度がより向上する点で、155℃以上が好ましく、160℃以上が特に好ましく、開始剤の分解速度を抑制し易く、共重合の制御が容易になる点で、190℃以下が好ましく、180℃以下が特に好ましい。
【0026】
重合圧力は、共重合温度およびポリマーHAxのイオン交換容量に応じて適宜設定されるが、ポリマーFxの収率の向上およびポリマーHAxのイオン交換容量の向上の点で、TFEの分圧として0.02~1.2MPaが好ましい。重合圧力は、0.1~1.9MPaGが好ましい。
【0027】
本製造方法においては、反応器内に予めモノマーm1を仕込み、その後、共重合を開始する。
開始剤は、共重合を開始する前にモノマーm1とともに反応器内に添加してもよいし、モノマーm1が仕込まれている反応器内に添加してもよい。
TFEおよび必要に応じて用いる他のモノマーは、共重合を開始する前にモノマーm1とともに反応器内に添加してもよいし、モノマーm1が仕込まれている反応器内に添加してもよいし、モノマーm1の共重合が開始した後に反応器内に添加してもよい。
モノマー(TFE、モノマーm1および必要に応じて用いる他のモノマー)および開始剤は、反応器内に連続添加してもよいし、逐次添加してもよい。
ここで、本発明において、「逐次的に添加」とは、重合に使用する添加対象物(例えば、モノマー、開始剤)を分割して間欠的に添加する方法であって、添加対象物を添加する期間と、添加対象物を添加しない期間と、を交互に繰り返し、添加対象物を添加する期間が2回以上ある添加方法を意味する。
また、本発明において、「連続的に添加」とは、重合に使用する添加対象物(例えば、モノマー、開始剤)を所定期間内に間断なく添加する方法であって、所定期間外に添加対象物を添加しない添加方法を意味する。
【0028】
TFEの全添加量に対するモノマーm1の全添加量のモル比は、1.5~20であり、ポリマーHAxのイオン交換容量がより向上する点で、1.7以上が好ましく、2.0以上がより好ましく、2.2以上が特に好ましく、固体高分子電解質膜の機械的耐久性が向上する点、またポリマーFxの収率の向上の点で、15以下が好ましく、10以下がより好ましく、8以下が特に好ましい。
反応器内に他のモノマーを添加する場合、TFEの全添加量またはモノマーm1の全添加量に対する、他のモノマーの全添加量のモル比は、本発明の効果がより発揮できる点で、0.01~0.5が好ましく、0.05~0.2が特に好ましい。
【0029】
本発明においては、モノマーm1とTFEとの共重合中、反応器内における開始剤の濃度が、上記共重合を開始する前の反応器内に仕込まれていたモノマーm1の質量の2.5質量ppm以下を維持するように、開始剤を反応器内に連続的または逐次的に添加する。
共重合中における開始剤の濃度が2.5質量ppm以下であれば、固体高分子電解質膜の熱水耐性が優れる。また予期しなかった効果として、固体高分子電解質膜の化学的耐久性にも優れることを見出した。化学的耐久性に優れる理由は未だ明らかとなっていないが、反応器内における開始剤の濃度が低くなることで、連鎖移動によってポリマー中に取り込まれる開始剤由来の化学構造部位の割合が減少し、ポリマーHAxの劣化しやすい部位が減少するためと推測される。
【0030】
共重合中における開始剤の濃度は、固体高分子電解質膜の熱水耐性および化学的耐久性をより向上できる点で、上記共重合を開始する前の反応器内に仕込まれていたモノマーm1の質量の2.5質量ppm以下が好ましく、2質量ppm以下がより好ましく、1.5質量ppm以下が特に好ましい。
共重合中における開始剤の濃度は、モノマーの重合速度をより向上する点および重合を良好に進行させる点で、上記共重合を開始する前の反応器内に仕込まれていたモノマーm1の質量の0.01質量ppm以上が好ましく、0.05質量ppm以上がより好ましく、0.1質量ppm以上が特に好ましい。
【0031】
開始剤を逐次的に添加または連続的に添加する場合は、添加量の制御性および共重合の安全性の観点から、開始剤をモノマー(モノマーm1および必要に応じて用いる他のモノマー)または重合溶媒で希釈して添加することが好ましく、重合溶媒の連鎖移動性に起因するポリマーFxの分子量の低下が避けられる点、共重合反応の進行によりモノマーm1の濃度が減少することに伴う重合速度の低下を軽減できる点、などから、モノマーm1で希釈することが好ましい。逐次添加または連続添加に用いる開始剤溶液の開始剤の濃度は、添加量の制御性および共重合の安全性を高める観点から、10~10000質量ppmが好ましく、50~3000質量ppmがより好ましく、100~1000質量ppmが特に好ましい。
【0032】
ここで、ラジカル重合反応の理論によると開始剤の熱分解は、一次反応と近似できる。そのため、共重合開始前の反応器内に仕込まれていたモノマーm1の質量に対する、共重合開始から単位時間経過後の反応器内における開始剤の濃度[I]は、下式1によって算出される。
[I]=[I0]×exp(-Kd・t) 式1
[I]:共重合開始前の反応器内に仕込まれていたモノマーm1の質量に対する、共重合開始から単位時間経過後の反応器内における開始剤の濃度[質量ppm]
[I0]:共重合開始前の反応器内に仕込まれていたモノマーm1の質量に対する、単位時間の開始時点の反応器内における開始剤の濃度[質量ppm]
Kd:分解速度係数
t:単位時間
なお、expは指数関数を意味する。
ここで、単位時間の開始時点としては、例えば、共重合を開始した時点や、開始剤の逐次添加直後の時点が挙げられる。
【0033】
上記式1中、Kd(分解速度係数)は、下式2によって算出される。
Kd=A×exp(-Ea/RT) 式2
R:8.314[J・K-1・mol-1]
T:温度[K]
Ea:活性化エネルギー[kJ/mol]
A:頻度因子[h-1]
Kdは、開始剤の種類および共重合温度によって定義される係数である。Kdの算出に使用する式2中のAおよびEaは、溶媒や開始剤の濃度等の反応場の環境により変化することが知られているが、本明細書においては、溶媒であるベンゼンに開始剤を溶解させた開始剤溶液(開始剤の濃度:0.10[mol/L])を用いた熱分解速度測定によって得られる値を使用する。
例えば、開始剤として、(CH3)3COOC(CH3)3(以下、「tBPO」ともいう。)を用いた場合、Eaは155.8[kJ/mol]、Aは2.23×1019[h-1]であり、10時間半減期温度は123.7℃である。そうすると、tBPOを用いて、共重合温度160℃(T=160+273.15=433.15[K])でモノマーm1を共重合する場合、式2にEa、AおよびTの値を代入すると、Kdは3.62[h-1]となる。
他の開始剤の例を列挙すると、(CH3)3COOC(CH3)2-C6H4-C(CH3)2OOC(CH3)3を用いた場合、Eaは166.3[kJ/mol]、Aは9.93×1020[h-1]であり、10時間半減期温度は119.2℃である。C6H5-C(CH3)2OOC(CH3)2-C6H5を用いた場合、Eaは158.0[kJ/mol]、Aは1.06×1020[h-1]であり、10時間半減期温度は116.4℃である。CH3CH2CH2C(CH3)2OOC(CH3)2CH2CH2CH3を用いた場合、Eaは154.5[kJ/mol]、Aは3.71×1019[h-1]であり、10時間半減期温度は116.4℃である。(CH3)3COOC(CH3)2CH2CH2C(CH3)2OOC(CH3)3を用いた場合、Eaは152.0[kJ/mol]、Aは1.39×1019[h-1]であり、10時間半減期温度は117.9℃である。(CH3)3COOC(CH3)2C6H5を用いた場合、Eaは173.1[kJ/mol]、Aは7.59×1021[h-1]であり、10時間半減期温度は119.5℃である。(CH3)3COOC(CH3)2C≡CC(CH3)2OOC(CH3)3を用いた場合、Eaは151.3[kJ/mol]、Aは3.36×1018[h-1]であり、10時間半減期温度は128.4℃である。(CF3)3COOC(CF3)3(PFtBPO)を用いた場合、Eaは148.8[kJ/mol]、Aは5.68×1019[h-1]であり、10時間半減期温度は98.5℃である。
【0034】
次に、開始剤を共重合中に逐次添加する場合を例に挙げて、逐次添加における開始剤の添加量の設定方法の一例を示す。
開始剤としてtBPOを使用し、共重合開始前の反応器内に仕込まれていたモノマーm1の質量を1000g、共重合開始前の反応器内に仕込まれていたモノマーm1の質量に対する、共重合開始時点の反応器内における開始剤の濃度を2.0質量ppm(すなわち、式1の[I0]に相当)とする場合、共重合開始時点の反応器内におけるtBPOの質量は、2mgである。この条件で160℃で共重合を開始した後、0.5時間(すなわち、式1のtに相当する)経過後のtBPOの濃度(すなわち、式1の[I]に相当)は、共重合開始前の反応器内に仕込まれていたモノマーm1の質量に対して、0.327質量ppmとなる。
そうすると、tBPOの添加毎に、添加直後のtBPOの濃度を、共重合開始前の反応器内に仕込まれていたモノマーm1の質量に対する、共重合開始時点の反応器内におけるtBPOの濃度である2.0質量ppmと同濃度にしたい場合には、1.67mgのtBPOを添加すればよい。つまり、tBPOの濃度は、0.5時間毎に2.0質量ppmまで回復する。
【0035】
次に、開始剤を連続添加する場合を例に挙げて、連続添加における開始剤の添加速度[mg/h]すなわち、1時間当たりの開始剤の添加量を設定する方法の一例を示す。
式1を微分することによって、開始剤の減少率を求めることができる。
開始剤の減少率=-[Io]×Kd[質量ppm/h]
例えば、開始剤としてtBPOを使用し、共重合開始前の反応器内に仕込まれていたモノマーm1の質量を1000g、共重合開始前の反応器内に仕込まれていたモノマーm1の質量に対する、共重合開始時点の反応器内における開始剤の濃度を2.0質量ppm(すなわち、式1の[I0]に相当する)とし、この条件で160℃で共重合する場合、開始剤の減少率は、-7.24[質量ppm/h]となり、これを質量に変換すると、7.24mg[mg/h]となる。つまり、7.24[mg/h]の速度でtBPOを連続添加すれば、共重合開始前の反応器内に仕込まれていたモノマーm1の質量に対する、共重合中における開始剤の濃度は2.0質量ppmに維持されることになる。
【0036】
なお、前述の開始剤の添加量の設定方法に従い逐次添加または連続添加を行った場合、共重合の進行に伴い生成するポリマー、および後述の開始剤の希釈に伴い反応器内へ添加されるモノマーまたは溶媒等の成分量の増加により、反応器内の全てのモノマー、溶媒、および生成するポリマーの合計量に対する開始剤の濃度は共重合の進行に伴い減少していく。この場合においても、本発明の定義の通り、反応器内における開始剤の濃度が、上記共重合を開始する前の反応器内に仕込まれていたモノマーm1の質量の2.5質量ppm以下を維持するように、開始剤を反応器内に連続的または逐次的に添加すれば、発明の効果は達成することができる。
【0037】
反応器内に仕込んだモノマーm1の全添加量に対する、反応器内に仕込んだ開始剤の全添加量の比率は、本発明の効果がより発揮される点で、共重合時間1時間あたり平均で0.01~4質量ppmが好ましく、0.1~3質量ppmがより好ましく、0.5~2.5質量ppmが特に好ましい。
【0038】
本発明の製造方法における生産性指標(Rp)は、生産性を高める観点から0.5以上が好ましく、0.6以上がより好ましく、0.7以上が特に好ましい。また共重合中の不均一性を抑制する観点から、Rp値は5.0以下が好ましく、4.0以下がより好ましく、3.0以下が特に好ましい。
【0039】
ポリマーFxの製造後、ポリマーFxとフッ素ガスとを接触させて、ポリマーFxの不安定末端基をフッ素化してもよい。これにより、ポリマーFxを用いて得られるポリマーHAxの分解がより抑えられるので、固体高分子電解質膜の化学的耐久性がより向上する。
ここで、不安定末端基とは、連鎖移動反応によって形成される基、開始剤に由来する基等であり、具体的には、-COOH、-CF=CF2、-COF、-CF2Hが挙げられる。
フッ素ガスは、不活性ガス(窒素、ヘリウム、二酸化炭素等)で希釈することが好ましい。
ポリマーFxとフッ素ガスとを接触させる際の温度は、150~200℃が好ましく、170~190℃が特に好ましい。ポリマーFxとフッ素ガスとの接触時間は、1分~1週間が好ましく、1~50時間が特に好ましい。
【0040】
[第2実施形態に係るフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーの製造方法]
本発明の第2実施形態に係るフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーの製造方法は、反応器内において、開始剤の存在下、モノマーm1と、TFEとを150~200℃の温度で共重合させて、フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーを製造する方法である。
また、反応器内に仕込んだ上記モノマーm1の全添加量に対する、反応器内に仕込んだ上記開始剤の全添加量の比率は、共重合時間1時間あたり平均で0.01~4質量ppmである。
また、上記TFEの全添加量に対する、上記モノマーm1の全添加量のモル比が、1.5~20である。
第2実施形態における製造方法によって得られたフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーを、本明細書において「ポリマーFy」ともいう。
【0041】
本製造方法によれば、導電性および熱水耐性に優れた固体高分子電解質膜を製造できる。
特許文献1の実施例では開始剤が比較的高い濃度で使用されていた。しかし、本発明者らは、開始剤の使用量を低濃度とすることによって、導電性が高く且つ熱水耐性が良好なポリマーが得られることを見出した。
すなわち、反応器内に仕込んだモノマーm1の全添加量に対する、反応器内に仕込んだ上記開始剤の全添加量の比率を所定範囲内にすることで、TFEとモノマーm1との共重合における停止反応が起こりにくくなると考えられる。その結果、ポリマーFyの分子量が高くなるので、ポリマーFyのフルオロスルホニル基を酸型化して得られる酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマー(以下、「ポリマーHAy」ともいう。)によって製造される固体高分子電解質膜の熱水耐性が向上したと推測される。
また、通常、開始剤の使用量を減らすと重合速度が低下し生産性が大きく低下するが、驚いたことに本発明の方法によれば工業実施可能なレベルの重合速度で共重合を行うことができた。
すなわち、開始剤の濃度が上述のように低い場合であっても、モノマーm1とTFEとの共重合温度を150~200℃という高温にすることで、ポリマーFyの製造時における反応速度の低下を抑制できる。
また、TFEの全添加量に対するモノマーm1の全添加量のモル比を1.5~20とすることで、ポリマーFy中におけるモノマーm1に基づく単位の含有量が高くなるので、ポリマーHAyのイオン交換容量が高くなる。その結果、ポリマーHAyによって製造される固体高分子電解質膜の導電性が向上したと考えられる。
さらに驚いたことに、ポリマーの化学的耐久性もさらに優れていることを見出した。
【0042】
第2実施形態における製造方法は、「上記共重合中、上記反応器内における上記開始剤の濃度が、上記共重合を開始する前の上記反応器内に仕込まれていた上記モノマーm1の質量の2.5質量ppm以下を維持するように、上記開始剤を上記反応器内に連続的または逐次的に添加する。」ことに代えて、「反応器内に仕込んだ上記モノマーm1の全添加量に対する、反応器内に仕込んだ上記開始剤の全添加量の比率は、共重合時間1時間あたり平均で0.01~4質量ppmである。」ことを必須の構成とする以外は、第1実施形態における製造方法と同様である。
また、第2実施形態における製造方法で使用する各成分およびその好適態様についても、第1実施形態における製造方法で使用する各成分と同様である。
【0043】
反応器内に仕込んだモノマーm1の全添加量に対する、反応器内に仕込んだ開始剤の全添加量の比率は、共重合時間1時間あたり平均で0.01~4質量ppmであり、本発明の効果がより発揮される点から、0.1~3質量ppmが好ましく、0.5~2.5質量ppmが特に好ましい。
【0044】
第2実施形態における製造方法では、本発明の効果がより発揮される点から、第1実施形態における製造方法と同様に、上記共重合中、上記反応器内における上記開始剤の濃度が、上記共重合を開始する前の上記反応器内に仕込まれていた上記モノマーm1の質量の2.5質量ppm以下を維持するように、上記開始剤を上記反応器内に連続的または逐次的に添加してもよい。
【0045】
[フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマー]
ポリマーFxおよびFyは、以下に示す特徴を有するフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマー(以下、「ポリマーF1」ともいう。)であるのが好ましい。なお、以下において、ポリマーFxおよびFyを「ポリマーF」と総称する場合がある。
すなわち、ポリマーF1は、単位f1と、TFE単位とを有するポリマーであり、ポリマーF1のQ値が0.2~60.0mm3/秒であり、ポリマーF1中の全単位に対する単位f1の割合が21~59モル%であることを特徴とするポリマーである。
ポリマーF1のフルオロスルホニル基を酸型スルホン酸基にした酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマー(以下、「ポリマーHA1」ともいう。)を用いれば、導電性および熱水耐性に優れた固体高分子電解質膜を製造できる。
【0046】
【化2】
式f1におけるQ
1の定義は、上述の式m1におけるQ
1と同義である。
【0047】
単位f1は、ポリマーF1の製造が容易であり、工業的実施が容易である点で、単位f11が好ましく、単位f11-1が特に好ましい。
【0048】
【0049】
式f11におけるxは、上述の式m11におけるxと同義である。
【0050】
ポリマーF1は、上述の他のモノマーに基づく単位(他のモノマー単位)を有していてもよい。
【0051】
TFE単位の含有量は、ポリマーF1中の全単位に対して、41~79モル%が好ましく、63~78モル%がより好ましく、66~76モル%が特に好ましい。下限値以上であれば、固体高分子電解質膜の含水率が低下し、機械的耐久性がより向上する。上限値以下であれば、固体高分子電解質膜の導電性がより優れる。
単位f1の含有量は、ポリマーF1中の全単位に対して、21~59モル%であり、22~37モル%が好ましく、24~34モル%が特に好ましい。下限値以上であれば、固体高分子電解質膜の導電性がより優れ、上限値以下であれば、固体高分子電解質膜の含水率が低下し、機械的耐久性がより向上する。
ポリマーF1が他のモノマー単位を有する場合、他のモノマー単位の含有量は、本発明の効果がより発揮できる点で、ポリマーF1中の全単位に対して、0.01~10モル%が好ましく、0.1~8モル%がより好ましく、0.5~5モル%が特に好ましい。
【0052】
ポリマーF1のQ値は、フローテスタを用い、ポリマーF1を断面積1cm2のシリンダに充填し、260℃で30kg荷重下、2.94MPaの圧力で内径1mm、長さ1mmのノズルより押出し、その際の単位時間内に押出される容量(mm3/秒)を意味する。
Q値は、MFR(メルトフローレート)に類似する指標であって、分子量に相関がある値である。ポリマーF1のQ値が低いほど、ポリマーF1の分子量が大きく、ポリマーF1のQ値が高いほど、ポリマーF1の分子量が小さいことを意味する。
ポリマーF1のQ値は、0.2~60.0mm3/秒が好ましく、0.5~55mm3/秒がより好ましく、0.8~50mm3/秒がさらに好ましく、3.0~45mm3/秒が特に好ましい。ポリマーF1のQ値が上記範囲内にあれば、ポリマーF1の分子量が充分に高いため、固体高分子電解質膜の熱水耐性がより優れる。
【0053】
ポリマーHA1のイオン交換容量は、1.45~2.50ミリ当量/グラムが好ましく、1.50~2.00ミリ当量/グラムがより好ましく、1.55~1.90ミリ当量/グラムが特に好ましい。下限値以上であれば、ポリマーHA1の導電率がより高くなるため、固体高分子形燃料電池の固体高分子電解質膜とした際に充分な電池出力が得られる。上限値以下であれば、固体高分子電解質膜とした際に機械的強度が優れる。
ポリマーHA1のイオン交換容量は、後述の実施例欄に記載の方法によって求められる。
【0054】
[スルホン酸基含有含フッ素ポリマーの製造方法]
本発明のスルホン酸基含有含フッ素ポリマーの製造方法は、上述のポリマーFのフルオロスルホニル基をスルホン酸基に変換する方法が挙げられる。
ポリマーFのフルオロスルホニル基をスルホン酸基に変換する方法の一例としては、上述のポリマーFのフルオロスルホニル基を加水分解して塩型スルホン酸基とする方法、または、上述のポリマーFの製造方法によって製造されたポリマーFのフルオロスルホニル基を加水分解して塩型スルホン酸基とし、上記塩型スルホン酸基を酸型化して酸型スルホン酸基とする方法が挙げられる。
本製造方法によって得られたスルホン酸基含有含フッ素ポリマーを、本明細書において「ポリマーH」ともいう。
前者の方法によれば、ポリマーH中のスルホン酸基が塩型スルホン酸基である塩型スルホン酸基含有含フッ素ポリマー(以下、「ポリマーHB」ともいう。)が得られ、後者の方法によれば、ポリマーH中のスルホン酸基が酸型スルホン酸基である酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマー(すなわち、ポリマーHAxまたはポリマーHAy。以下において、ポリマーHAxおよびポリマーHAyをポリマーHAと総称する場合がある。)が得られる。
ポリマーHは、上述のポリマーFを用いて得られたポリマーである。そのため、ポリマーHによれば、導電性および熱水耐性に優れるとともに、化学的耐久性にも優れた固体高分子電解質膜を製造できる。
【0055】
加水分解は、例えば、溶媒中にてポリマーFと塩基性化合物とを接触させて行う。塩基性化合物の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミンが挙げられる。溶媒の具体例としては、水、水と極性溶媒との混合溶媒が挙げられる。極性溶媒の具体例としては、アルコール(メタノール、エタノール等)、ジメチルスルホキシドが挙げられる。
酸型化は、例えば、塩型スルホン酸基を有するポリマーを、塩酸、硫酸、硝酸等の水溶液に接触させて行う。
加水分解および酸型化における処理温度は、0~120℃が好ましい。加水分解または酸型化の後に、ポリマーを水洗することが好ましい。
【0056】
ポリマーHに不純物として含まれ得る有機物を除去するために、加水分解後の塩型のまま、または、酸型化の後に、ポリマーを過酸化水素水に浸漬するなどの処理によって、有機物を分解してもよい。
過酸化水素水中の過酸化水素の濃度は、0.1~30質量%が好ましく、1質量%以上10質量%未満が特に好ましい。過酸化水素水中の過酸化水素の濃度が上記範囲の下限値以上であれば、有機物を分解する効果が充分である。過酸化水素水中の過酸化水素の濃度が上記範囲の上限値以下であれば、ポリマーHが分解しにくい。
過酸化水素水の温度は、15~90℃が好ましく、40℃以上80℃未満が特に好ましい。過酸化水素水の温度が上記範囲の下限値以上であれば、有機物を分解する効果が充分である。過酸化水素水の温度が上記範囲の上限値以下であれば、過酸化水素が分解しにくい。
ポリマーHを過酸化水素水に浸漬する時間は、ポリマーHの厚さと、含まれる有機物の量にもよるが、例えば、ポリマーHが厚さ50μmの膜の場合、0.5~100時間が好ましい。浸漬する時間が0.5時間以上であれば、膜内部の有機物まで分解が進行しやすい。浸漬する時間が100時間以下であれば、生産性の点で好ましい。
過酸化水素水に浸漬した後に、ポリマーHを水洗することが好ましい。水洗に用いる水としては、超純水が好ましい。また、水洗前に酸型化処理を行ってもよい。
上記の処理を終えた最終的なポリマーHの形状は、粉末状であってもよく、ペレット状であってもよく、膜状であってもよい。
【0057】
[スルホン酸基含有含フッ素ポリマー]
ポリマーHは、以下に示す特徴を有するスルホン酸基含有含フッ素ポリマー(以下、「ポリマーH1」ともいう。)であるのが好ましい。
すなわち、ポリマーH1は、単位u1と、TFE単位とを有するポリマーである。また、ポリマーH1中のスルホン酸基をフルオロスルホニル基とした場合のフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマー(すなわち、ポリマーF1)のQ値は、0.2~60.0mm3/秒である。また、ポリマーH1中の全単位に対する単位u1の割合は、21~59モル%である。
ポリマーH1は、ポリマーH1中のスルホン酸基が酸型スルホン酸基である酸型スルホン酸基含フッ素ポリマー(すなわち、ポリマーHA1)であってもよく、ポリマーH1中のスルホン酸基が塩型スルホン酸基である塩型スルホン酸基含有含フッ素ポリマー(以下、「ポリマーHB1」ともいう。)であってもよい。
ポリマーH1によれば、導電性および熱水耐性に優れるとともに、化学的耐久性にも優れた固体高分子電解質膜を製造できる。
【0058】
【化4】
式u1におけるQ
1は、上述の式m1におけるQ
1と同義であり、Z
+は、H
+、金属イオン、またはアンモニウムイオンである。金属イオンとしてはアルカリ金属が好ましい。
【0059】
単位u1は、ポリマーH1の製造が容易であり、工業的実施が容易であり、導電性および熱水耐性により優れた固体高分子電解質膜を製造できる点で、単位u11が好ましく、単位u11-1が特に好ましい。
【0060】
【0061】
式u11におけるxは、上述の式m11におけるxと同義である。また、式u11および式u11-1におけるZ+は、上述の式u1におけるZ+と同義である。
【0062】
ポリマーH1は、上述の他のモノマーに基づく単位(他のモノマー単位)を有していてもよい。
ポリマーH1中の各単位の含有量は、ポリマーF1中の各単位の含有量と同様であるのが好ましい。
【0063】
ポリマーH1におけるQ値の定義および好適態様は、ポリマーF1と同様である。より具体的には、ポリマーH1中のスルホン酸基をフルオロスルホニル基とした場合のフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーのQ値が、ポリマーF1のQ値と同様である。
【0064】
ポリマーH1におけるイオン交換容量の測定方法および好適態様は、ポリマーHA1と同様である。なお、ポリマーHB1の塩型スルホン酸基を酸型スルホン酸基にした場合の酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーは、ポリマーHA1である。
【0065】
[固体子分子電解質膜]
本発明の固体高分子電解質膜は、上述のポリマーHA1を含む。
本発明の固体高分子電解質膜はポリマーHA1を含むので、導電性および熱水耐性に優れるとともに、化学的耐久性にも優れる。
【0066】
固体高分子電解質膜の膜厚は、5~200μmが好ましく、10~130μmが特に好ましい。上記範囲の下限値以上であれば、充分な水素ガスバリア性を確保できる。上記範囲の上限値以下であれば、膜抵抗を充分に小さくできる。
【0067】
固体高分子電解質膜の導電率は、0.08S/cm以上が好ましく、0.09S/cm以上がより好ましく、0.1S/cm以上が特に好ましい。上記の値以上であれば、膜抵抗が充分に低い固体高分子電解質膜となり、発電性能に優れた燃料電池とすることができる。上限値は特に限定されないが、通常0.5S/cmである。
【0068】
固体高分子電解質膜の熱水耐性の指標である質量減少率は、10%以下が好ましく、7%以下がより好ましく、6%以下が特に好ましい。質量減少率が上記の値以下であれば、燃料電池の運転中に生成する高温水への膜の溶出量が充分に抑制でき、性能低下しにくい長寿命の燃料電池とすることができる。
【0069】
固体高分子電解質膜は、補強材をさらに含んでいてもよい。補強材の具体例としては、多孔体、繊維、織布、不織布が挙げられる。
補強材は、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」ともいう。)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(以下、「PFA」ともいう。)、ポリエーテルエーテルケトン(以下、「PEEK」ともいう。)、および、ポリフェニレンサルファイド(以下、「PPS」ともいう。)からなる群から選択される材料から構成されるのが好ましく、PTFEの多孔体であることがより好ましい。
【0070】
固体高分子電解質膜は、耐久性をさらに向上させるために、セリウム原子およびマンガン原子からなる群より選択される1種以上の金属、金属化合物または金属イオンを含んでいてもよい。セリウム原子およびマンガン原子は、固体高分子電解質膜の劣化を引き起こす原因物質である過酸化水素またはヒドロキシルラジカルやヒドロペルオキシルラジカルを分解すると考えられている。
固体高分子電解質膜は、乾燥を防ぐための保水剤として、シリカまたはヘテロポリ酸(例えば、リン酸ジルコニウム、リンモリブデン酸、リンタングステン酸)を含んでいてもよい。固体高分子電解質膜に保水剤を含ませる方法としては、保水剤を含む溶液と固体高分子電解質膜とを接触させる方法、後述の液状組成物に保水剤を含ませる方法が挙げられる。
【0071】
後述の液状組成物から後述のキャスト法で固体高分子電解質膜を得る場合、固体高分子電解質膜を安定化するために、固体高分子電解質膜の製造後に熱処理を行うことが好ましい。熱処理の温度は、ポリマーHA1の種類にもよるが、130~200℃が好ましい。熱処理の温度が130℃以上であれば、ポリマーHA1の含水量が適切となる。熱処理の温度が200℃以下であれば、スルホン酸基の熱分解が抑えられ、固体高分子電解質膜の優れた導電性を維持できる。
固体高分子電解質膜は、必要に応じて過酸化水素水で処理してもよい。処理の方法は、前述のポリマーH1の処理と同じ方法を用いることができる。
【0072】
固体高分子電解質膜の製造方法の一例としては、ポリマーHA1を含む液状組成物を基材フィルムまたは触媒層の表面に塗布し、乾燥する方法(キャスト法)が挙げられる。
固体高分子電解質膜が補強材を含む場合の製造方法の一例としては、ポリマーHA1を含む液状組成物を補強材に含浸し、乾燥する方法が挙げられる。
[液状組成物]
【0073】
液状組成物は、ポリマーHA1と、液状媒体と、を含むのが好ましい。液状組成物におけるポリマーHA1は、液状媒体中に分散していてもよいし、液状媒体中に溶解していてもよい。
液状媒体の具体例としては、水および有機溶媒が挙げられる。液状媒体には、水のみを用いてもよいし、有機溶媒のみを用いてもよいし、水と有機溶媒との混合溶媒を用いてもよいが、水と有機溶媒との混合溶媒を用いるのが好ましい。
液状媒体として水を含む場合、液状媒体に対するポリマーHA1の分散性または溶解性が向上しやすい。液状媒体として有機溶媒を含む場合、割れにくい電解質膜が得られやすい。
【0074】
有機溶媒としては、割れにくい電解質膜が得られやすい点から、アルコールが好ましく、有機溶媒の蒸発を容易にする観点から、炭素数が1~4のアルコールがより好ましい。
炭素数が1~4のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロパノール、2,2,3,3-テトラフルオロ-1-プロパノール、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、3,3,3-トリフルオロ-1-プロパノールが挙げられる。
有機溶媒は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0075】
液状媒体が水と有機溶媒の混合溶媒である場合、水の含有量は、液状媒体の全質量に対して、10~99質量%が好ましく、20~99質量%が特に好ましい。
液状媒体が水と有機溶媒の混合溶媒である場合、有機溶媒の含有量は、1~90質量%が好ましく、1~80質量%が特に好ましい。
水および有機溶媒の含有量が上記範囲内であれば、液状媒体に対するポリマーHA1の分散性または溶解性に優れ、かつ、割れにくい固体高分子電解質膜が得られやすい。
【0076】
ポリマーHA1の含有量は、液状組成物の全質量に対して、1~50質量%が好ましく、3~30質量%が特に好ましい。上記範囲の下限値以上であれば、製膜時に厚みのある膜を安定して得られる。上記範囲の上限値以下であれば、液状組成物の粘度が適切となる。
【0077】
液状組成物は、ポリマーH1と液状媒体とを混合して得られる。
混合方法としては、例えば、大気圧下、又はオートクレーブ等で密閉した状態下において、液状媒体中のポリマーH1に撹拌等のせん断を加える方法が挙げられる。
撹拌時の温度は、0~250℃が好ましく、20~150℃がより好ましい。必要に応じて、超音波等のせん断を付与してもよい。
【0078】
液状組成物は、液状組成物から作製される固体高分子電解質膜の耐久性をより向上させるために、セリウム原子およびマンガン原子からなる群より選択される1種以上の金属、金属化合物または金属イオンを含んでいてもよい。
【0079】
[膜電極接合体]
本発明の膜電極接合体は、触媒およびイオン交換基を有するポリマーを含む触媒層を有するアノードと、触媒およびイオン交換基を有するポリマーを含む触媒層を有するカソードと、上記アノードと上記カソードとの間に配置されたイオン交換基を有するポリマーを含む固体高分子電解質膜と、を含む。
以下において、本発明の膜電極接合体の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0080】
図1は、本発明の膜電極接合体の一例を示す断面図である。膜電極接合体10は、触媒層11およびガス拡散層12を有するアノード13と、触媒層11およびガス拡散層12を有するカソード14と、アノード13とカソード14との間に、触媒層11に接した状態で配置される固体高分子電解質膜15とを含む。
【0081】
触媒層11に含まれる触媒の具体例としては、カーボン担体または金属酸化物からなる担体に、白金、白金合金またはコアシェル構造を有する白金を含む触媒を担持した担持触媒、酸化イリジウム触媒、酸化イリジウムを含有する合金、コアシェル構造を有する酸化イリジウムを含有する触媒が挙げられる。カーボン担体としては、カーボンブラック粉末が挙げられる。金属酸化物からなる担体としては、アルミニウム、スズ、亜鉛、ニッケル、コバルト、鉄、チタン、セリウム、ジルコニウム、パラジウム、ランタン、ニオブ、タンタル、アンチモン等の金属の単体または複合体の酸化物が挙げられる。また、カーボンアロイ触媒等の電極触媒活性を有する非金属触媒を用いてもよい。
触媒層11に含まれるイオン交換基を有するポリマーとしては、イオン交換基を有する含フッ素ポリマーが挙げられ、上述のポリマーHA1を用いることも好ましい。
触媒層11に含まれるイオン交換基を有するポリマーとして上述のポリマーHA1を用いる場合、アノードの触媒層に含まれるイオン交換基を有するポリマー、および、カソードの触媒層に含まれるイオン交換基を有するポリマーのうち少なくとも一方がポリマーHA1であればよい。
ポリマーHA1のイオン交換容量の好ましい範囲は、前述の値と同様である。下限値以上であれば、ポリマーHA1の導電率がより高くなるため、触媒層として用いた場合に充分な電池出力が得られる。上限値以下であれば、触媒層として用いた場合に発電時のフラッディングの発生を抑制できる。
また、ポリマーHA1の前駆体であるポリマーF1のQ値の好ましい範囲も、前述の値と同様である。ポリマーF1のQ値が上記範囲内にあれば、ポリマーF1の分子量が充分に高いため、触媒層の熱水耐性がより優れ、発電により生じる高温水への溶解によるポリマーの系外への溶出、およびそれに伴う経時的な発電性能の低下を抑制することができる。
【0082】
触媒層11に含まれるイオン交換基を有するポリマーとしては、環状エーテル構造単位を有し、スルホン酸型官能基を有するポリマーを用いることも好ましい。
環状エーテル構造単位は、酸素透過性により優れた触媒層が得られる点から、単位u11、単位u12、単位u13、単位u22および単位u24からなる群より選択される少なくとも1種の単位を含むのが好ましく、単位u12および単位u22がより好ましく、単位u22が特に好ましい。
【0083】
【0084】
R11およびR14は、それぞれ独立して、エーテル結合性酸素原子を有してもよい1価のペルフルオロ有機基、フッ素原子または-R17SO2X(SO2Rf)a
-M+で表される基である。
1価のペルフルオロ有機基としては、ペルフルオロアルキル基が好ましい。ペルフルオロアルキル基がエーテル結合性酸素原子を有する場合、酸素原子の個数は、1個であっても2個以上であってもよい。また、酸素原子は、ペルフルオロアルキル基の炭素-炭素結合間に位置していてもよく、炭素原子結合末端に位置していてもよい。ペルフルオロアルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよいが、直鎖状であるのが好ましい。
R17は、エーテル結合性酸素原子を有してもよい2価のペルフルオロ有機基である。有機基は、炭素原子を1個以上有する基である。2価のペルフルオロ有機基としては、ペルフルオロアルキレン基が好ましい。ペルフルオロアルキレン基がエーテル結合性酸素原子を有する場合、酸素原子の個数は、1個であっても2個以上であってもよい。また、酸素原子は、ペルフルオロアルキレン基の炭素-炭素結合間に位置していてもよく、炭素原子結合末端に位置していてもよい。ペルフルオロアルキレン基は、直鎖状であっても分岐状であってもよいが、直鎖状であるのが好ましい。
M+は、H+、1価の金属カチオン(例えば、カリウムイオン、ナトリウムイオン)または1以上の水素原子が炭化水素基(例えば、メチル基、エチル基)で置換されていてもよいアンモニウムイオンであり、高導電性の観点から、H+が好ましい。
Rfは、エーテル結合性酸素原子を有してもよい直鎖または分岐のペルフルオロアルキル基である。ペルフルオロアルキル基の炭素数は、1~8が好ましく、1~6が特に好ましい。2個以上のRfを有する場合、2個以上のRfは互いに同一であっても異なっていてもよい。
Xは、酸素原子、窒素原子または炭素原子であって、Xが酸素原子の場合a=0であり、Xが窒素原子の場合a=1であり、Xが炭素原子の場合a=2である。
-(SO2X(SO2Rf)a)-M+基の具体例としては、スルホン酸基(-SO3
-M+基)、スルホンイミド基(-SO2N(SO2Rf)-M+基)、または、スルホンメチド基(-SO2C(SO2Rf)2)-M+基)が挙げられる。
R12、R13、R15およびR16はそれぞれ独立に、エーテル結合性酸素原子を有してもよい1価のペルフルオロ有機基またはフッ素原子である。1価のペルフルオロ有機基としては、ペルフルオロアルキル基が好ましい。R15およびR16は、重合反応性が高い点から、少なくとも一方がフッ素原子であるのが好ましく、両方がフッ素原子であるのが特に好ましい。
式u11中、2個のR17が含まれる場合、2個のR17は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0085】
単位u11は、単位u11-1または単位u11-2が好ましい。
【0086】
【0087】
【0088】
式u12中、R21は、炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基または炭素-炭素結合間にエーテル結合性酸素原子を有する炭素数2~6のペルフルオロアルキレン基である。ペルフルオロアルレン基がエーテル結合性酸素原子を有する場合、酸素原子の個数は、1個であっても2個以上であってもよい。ペルフルオロアルレン基は、直鎖状であっても分岐状であってもよいが、直鎖状であるのが好ましい。
R22は、フッ素原子、炭素数1~6のペルフルオロアルキル基、炭素-炭素結合間にエーテル結合性酸素原子を有する炭素数2~6のペルフルオロアルキル基または-R21(SO2X(SO2Rf)a)-M+で表される基である。ペルフルオロアルキル基がエーテル結合性酸素原子を有する場合、酸素原子の個数は、1個であっても2個以上であってもよい。ペルフルオロアルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよいが、直鎖状であるのが好ましい。式(u12)中、2個のR21を含む場合、2個のR21は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
M+、Rf、Xおよびaはそれぞれ、式(u11)のM+、Rf、Xおよびaと同義である。
【0089】
単位u12の具体例としては、単位u12-1および単位u12-2が挙げられる。式中、M+は、式u11のM+と同義である。
【0090】
【0091】
【0092】
式u13中、R31は、フッ素原子、炭素数1~6のペルフルオロアルキル基、炭素-炭素結合間にエーテル結合性酸素原子を有する炭素数2~6のペルフルオロアルキル基、-R37SO2X(SO2Rf)a
-M+で表される基である。
ペルフルオロアルキル基がエーテル結合性酸素原子を有する場合、酸素原子の個数は、1個であっても2個以上であってもよい。ペルフルオロアルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよいが、直鎖状であるのが好ましい。
R37は、炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基または炭素-炭素結合間にエーテル結合性酸素原子を有する炭素数2~6のペルフルオロアルキレン基である。ペルフルオロアルレン基がエーテル結合性酸素原子を有する場合、酸素原子の個数は、1個であってもよく、2個以上であってもよい。ペルフルオロアルレン基は、直鎖状であっても分岐状であってもよいが、直鎖状であるのが好ましい。
R32~R35はそれぞれ独立に、フッ素原子、炭素数1~6のペルフルオロアルキル基、または炭素-炭素結合間にエーテル結合性酸素原子を有する炭素数2~6のペルフルオロアルキル基である。ペルフルオロアルキル基がエーテル結合性酸素原子を有する場合、酸素原子の個数は、1個であっても2個以上であってもよい。ペルフルオロアルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよいが、直鎖状であるのが好ましい。
R36は、単結合、炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基または炭素-炭素結合間にエーテル結合性酸素原子を有する炭素数2~6のペルフルオロアルキレン基である。ペルフルオロアルレン基がエーテル結合性酸素原子を有する場合、酸素原子の個数は、1個であっても2個以上であってもよい。ペルフルオロアルレン基は、直鎖状であっても分岐状であってもよいが、直鎖状であるのが好ましい。
M+、Rf、Xおよびaはそれぞれ、式(u11)のM+、Rf、Xおよびaと同義である。
【0093】
【0094】
式u22中、sは、0または1であり、0が好ましい。
R51およびR52はそれぞれ独立に、フッ素原子、炭素数1~5のペルフルオロアルキル基または互いに連結して形成されたスピロ環(ただし、sが0の場合)である。
R53およびR54はそれぞれ独立に、フッ素原子または炭素数1~5のペルフルオロアルキル基である。
R55は、フッ素原子、炭素数1~5のペルフルオロアルキル基または炭素数1~5のペルフルオロアルコキシ基である。R55は、重合反応性が高い点から、フッ素原子が好ましい。
ペルフルオロアルキル基およびペルフルオロアルコキシ基は、直鎖状であっても分岐状であってもよいが、直鎖状であるのが好ましい。
【0095】
単位u22は、単位u22-1が好ましい。
【0096】
【0097】
【0098】
式u24中、R71~R76はそれぞれ独立に、エーテル結合性酸素原子を有してもよい1価のペルフルオロ有機基またはフッ素原子である。1価のペルフルオロ有機基としては、ペルフルオロアルキル基が好ましい。ペルフルオロアルキル基がエーテル結合性酸素原子を有する場合、酸素原子の個数は、1個であっても2個以上であってもよい。また、酸素原子は、ペルフルオロアルキル基の炭素-炭素結合間に挿入されていてもよく、炭素原子結合末端に挿入されていてもよい。ペルフルオロアルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよいが、直鎖状であるのが好ましい。
R71~R74は、重合反応性が高い点から、フッ素原子であるのが好ましい。
【0099】
環状エーテル構造単位の含有量は、環状エーテル構造単位を有し、スルホン酸型官能基を有するポリマーが含む全単位に対して、燃料電池の発電効率がより優れる点から、30モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましく、50モル%以上がさらに好ましく、70モル%以上が特に好ましい。
環状エーテル構造単位の含有量の上限値は、環状エーテル構造単位を有し、スルホン酸型官能基を有するポリマーが含む全単位に対して、100モル%が好ましく、80モル%が特に好ましい。
環状エーテル構造単位を有し、スルホン酸型官能基を有するポリマーは、環状エーテル構造を含む単位を1種のみ含んでいても、2種以上を含んでいてもよい。2種以上含む場合の上記含有量は、これらの合計量を意味する。
【0100】
ガス拡散層12は、触媒層に均一にガスを拡散させる機能および集電体としての機能を有する。ガス拡散層の具体例としては、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト、チタン製の多孔体(具体的にはチタン粒子または繊維の焼結体等)が挙げられる。
ガス拡散層は、生成するガスの付着を防止するために、PTFE等によって撥水化または親水化処理したり、イオン交換基を有するポリマー等によって親水化してもよい。
図1の膜電極接合体においてはガス拡散層12が含まれるが、ガス拡散層は任意の部材であり、膜電極接合体に含まれていなくてもよい。
【0101】
固体高分子電解質膜15に含まれるイオン交換基を有するポリマーは、上述のポリマーHA1であるのが好ましい。すなわち、固体高分子電解質膜15は、上述の本発明の固体高分子電解質膜であるのが好ましい。
【0102】
アノード13およびカソード14は、上記以外の他の部材を有していてもよい。
他の部材の具体例としては、触媒層11とガス拡散層12との間に設けられるカーボン層(図示せず)が挙げられる。カーボン層を配置すれば、触媒層11の表面のガス拡散性が向上して、燃料電池の発電性能をより向上できる。
カーボン層は、例えば、カーボンと非イオン性含フッ素ポリマーとを含む。カーボンの具体例としては、繊維径1~1000nm、繊維長1000μm以下のカーボンナノファイバーが好ましい。非イオン性含フッ素ポリマーの具体例としては、PTFEが挙げられる。
【0103】
膜電極接合体の製造方法としては、例えば、固体高分子電解質膜上に触媒層を形成して、得られた接合体をさらにガス拡散層で挟み込む方法、および、ガス拡散層上に触媒層を形成して電極(アノード、カソード)とし、固体高分子電解質膜をこの電極で挟み込む方法が挙げられる。
なお、触媒層の製造方法は、触媒層形成用塗工液を所定の位置に塗布して、必要に応じて乾燥させる方法が挙げられる。触媒層形成用塗工液は、イオン交換基を有するポリマーおよび触媒を分散媒に分散させた液である。触媒層形成用塗工液は、例えば、イオン交換基を有するポリマーを含む液状組成物と、触媒の分散液とを混合することによって調製できる。触媒層形成用塗工液は、触媒層11の耐久性をさらに向上させるために、セリウム及びマンガンからなる群から選ばれる1種以上の金属、金属化合物、又は金属イオンを含んでいてもよい。
【0104】
[固体高分子形燃料電池]
本発明の固体高分子形燃料電池は、上述の膜電極接合体を含む。
本発明の固体高分子形燃料電池は、上述の膜電極接合体を含むため、発電性能および耐久性に優れる。
本発明の固体高分子形燃料電池は、膜電極接合体の両面に、ガスの流路となる溝が形成されたセパレータを有していてもよい。
セパレータの具体例としては、金属製セパレータ、カーボン製セパレータ、黒鉛と樹脂を混合した材料からなるセパレータ、各種導電性材料からなるセパレータが挙げられる。
固体高分子形燃料電池においては、カソードに酸素を含むガス、アノードに水素を含むガスを供給して発電が行われる。
なお、アノードにメタノールを供給して発電を行うメタノール燃料電池にも、上述の膜電極接合体を適用できる。
【実施例】
【0105】
以下、例を挙げて本発明を詳細に説明する。例1-1~1-6、例2-1~2-6、例3-1~3-6、例4-1~4-6、例5-1、例6-1~6-3、例8-2~8-10は実施例であり、例1-7~1-11、例2-7~2-11、例3-7~3-11、例4-7~4-11、例5-2、例6-4、例8-1、例8-11は比較例である。実施例に係るスルホン酸基含有含フッ素ポリマーを「ポリマーH」、比較例に係るスルホン酸基含有含フッ素ポリマーを「ポリマーH’」と記す。また、実施例に係るフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーを「ポリマーF」、比較例に係るフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーを「ポリマーF’」と記す。ただし本発明はこれらの例に限定されない。なお、後述する表中における各成分の配合量は、特に断りのない限り質量基準を示す。
【0106】
[イオン交換容量]
酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーを120℃で12時間真空乾燥した後、0.85mol/gの水酸化ナトリウム溶液(溶媒:水/メタノール=10/90(質量比))に浸漬して、イオン交換基を中和した。イオン交換基を中和した後の水酸化ナトリウム溶液を0.1モル/Lの塩酸で逆滴定して酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーのイオン交換容量を求めた。
【0107】
[各構成単位の割合]
フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーにおけるTFE単位、PSAE単位等の各構成単位の割合については、各ポリマーについて19F-NMRの測定結果から求めた。
19F-NMRは、282.7MHz、溶媒:ヘキサフルオロベンゼン、化学シフト基準:CFCl3の条件にて測定した。
なお、スルホン酸基含有含フッ素ポリマーにおける各構成単位の割合は、フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーと同じであった。
【0108】
[Q値、TQ値]
内径1mm、長さ1mmのノズルを備えたフローテスタ(島津製作所社製細管式レオメータ フローテスタ、CFT-500D)を用い、断面積1cm2のシリンダに充填したポリマーFまたはポリマーF’を260℃で30kg荷重下、2.94MPaの圧力でノズルより押出した。その際、ポリマーの押出される速度が安定した時の、押出されるポリマーの容量流速(mm3/秒)をQ値とした。Q値が低いほど、ポリマーの分子量が大きく、ポリマーのQ値が高いほど、ポリマーの分子量が小さいことを意味する。
また、Q値が100mm3/秒となる温度をTQ値とした。
【0109】
[導電率]
幅5mmの固体高分子電解質膜(膜厚25μm)に、5mm間隔で4端子電極が配置された基板を密着させ、公知の4端子法によって、温度:80℃、相対湿度:50%の恒温恒湿条件下にて交流:10kHz、電圧:1Vで固体高分子電解質膜の抵抗を測定し、導電率を算出した。なお、算出に用いた膜の基準寸法および膜厚は、温度:23℃、相対湿度:50%RHの条件にて測定した。
【0110】
[含水率]
固体高分子電解質膜(膜厚25μm)を80℃の温水に16時間浸漬した後、水温が25℃以下になるまで冷却した。膜を取り出し、膜の表面に付着した水をろ紙でふき取り、膜の質量W1を測定した。含水した膜を、乾燥窒素(露点-70℃以下)を流通させたグローブボックスに入れ、室温(約15~25℃)で40時間以上乾燥した後、グローブボックス内で膜の質量W2を測定した。下式から含水率を求めた。
含水率={(W1-W2)/W2}×100
【0111】
[熱水耐性]
固体高分子電解質膜(膜厚25μm)を、乾燥窒素(露点-70℃以下)を流通させたグローブボックスに入れ、室温(約15~25℃)で40時間以上乾燥させた後、グローブボックス内で質量(W1)を測定した。120mLの耐圧容器に膜が充分に浸る量の超純水と膜を入れ、耐圧容器を120℃のオーブンに入れた。24時間後、加熱を止めて水冷した後、耐圧容器から膜を抜き取り、表面の水分をろ紙(アドバンテック社製、No.2)で拭き取った。含水した膜を、乾燥窒素(露点-70℃以下)を流通させたグローブボックスに入れ、室温(約15~25℃)で40時間以上乾燥させた後、グローブボックス内で質量(W2)を測定した。質量減少率(質量%)を下式から算出した。
質量減少率={(W1-W2)/W1}×100
【0112】
[化学的耐久性]
固体高分子電解質膜を含む膜電極接合体を作製し、膜電極接合体を発電用セルに組み込み、加速試験として下記の開回路試験(OCV試験)を実施した。
電流密度0.2A/cm2に相当する水素(利用率50%)および空気(利用率50%)を、それぞれアノードおよびカソードに常圧で供給した。セル温度は90℃、アノードのガス露点は61℃、カソードのガス露点は61℃として、発電は行わずに開回路状態で運転した。その際、排出されるガスを、0.1モル/Lの水酸化カリウム水溶液に24時間バブリングし、排出されるフッ化物イオンを補足した。そして、イオンクロマトグラフでフッ化物イオン濃度を定量し、フッ化物イオンの累積排出量を算出した。
開回路試験を開始してから、200時間後のフッ化物イオンの累積排出量を電極面積で割った値から下記の基準にて耐久性の評価を行った。
○:フッ化物イオンの累積排出量が150μg/cm2以下である。
△:フッ化物イオンの累積排出量が150μg/cm2超300μg/cm2以下である。
×:フッ化物イオンの累積排出量が300μg/cm2超である。
なお、後述する表6においては、耐久性は以下の基準で評価した。
「--」:より劣る
「-」:劣る
「+」:良い
「++」:優れる
「+++」:より優れる。
【0113】
[発電特性]
膜電極接合体を発電用セルに組み込み、膜電極接合体の温度を95℃に維持し、アノードに水素ガス(利用率70%)、カソードに空気(利用率50%)を、それぞれ151kPa(絶対圧力)に加圧して供給した。ガスの加湿度は水素、空気ともに相対湿度20%RHとし、電流密度が2A/cm2のときのセル電圧を記録した。セル電圧が高いほど、固体高分子形燃料電池の発電特性に優れる。
【0114】
[湿潤-乾燥サイクル耐久性(乾湿サイクル耐久性)]
Yeh-Hung Lai,Cortney K.Mittelsteadt,Craig S.Gittleman,David A.Dillard,”VISCOELASTIC STRESS MODEL AND MECHANICAL CHARACTERIZATION OF PERFLUOROSULFONIC ACID(PFSA)POLYMER ELECTROLYTE MEMBRANES”,Proceedings of FUELCELL2005,Third International Conference on Fuel Cell Science,Engineering and Technology,FUELCELL2005,(2005),74120.に記載の方法に準じて、下記方法により湿潤-乾燥サイクル試験を行った。
各例で得られた膜電極接合体を発電用セル(電極面積25cm2)に組み込み、セル温度80℃、アノードおよびカソードのそれぞれに窒素ガスを1L/分で供給した。湿度150%RHの窒素ガスを2分間供給した後、湿度0%RHの窒素ガスを2分間供給する工程を1サイクルとして繰り返した。1000サイクルごとに窒素ガスの供給を止めて、アノードに水素を供給して加圧し、アノードカソード間に圧力差を生じさせ、水素ガスのアノードからカソードへの膜電極接合体を介したリーク量を測定した。水素ガスのリークが生じ、かつ水素ガスの単位面積単位時間あたりのリーク量で表されるクロスオーバー速度が初期値の5倍になった時点までのサイクル数を測定した。該時点でのサイクル数が多いほど、固体高分子形燃料電池の湿潤-乾燥サイクル耐久性に優れる。
【0115】
[略号]
モノマー、開始剤、溶媒については、以下の略語を使用する。
TFE:テトラフルオロエチレン
PSAE:CF2=CFCF2OCF2CF2SO2F
tBPO:(CH3)3COOC(CH3)3
PFtBPO:(CF3)3COOC(CF3)3
HFE-347pc-f:CF3CH2OCF2CF2H
HFC-52-13p:CF3(CF2)5H
【0116】
[ポリマーFおよびポリマーF’の製造]
ポリマーF-1~F-4およびポリマーF’-1~F’-5について、以下のようにして製造した。
【0117】
<例1-1>
空冷コンデンサー付きのオートクレーブ(以下A/Cと省略する。内容積500mL、ハステロイ製)に、PSAE(モノマー)の525.0gを入れ、液体窒素で冷却して脱気した。気相部に窒素を導入し、内温が160℃になるまでオイルバスにて加温した。このときの圧力は0.445MPa(ゲージ圧)であった。次にオートクレーブにTFEの10.67gを導入した。このときの圧力は0.89MPa(ゲージ圧)であり、重合温度におけるTFE分圧は0.445MPaとなった。
開始剤であるtBPOをPSAEに667質量ppmの濃度で溶かした開始剤溶液を0.79g添加して共重合を開始した。この時のtBPOの添加量は0.53mgであり、オートクレーブ内におけるtBPOの濃度は、共重合開始前のオートクレーブに仕込まれていたPSAEの質量の1.0質量ppmである。圧力を0.89MPa(ゲージ圧)で維持したままTFEを連続添加し、10時間重合を継続した。この間、上記開始剤溶液の0.66g(tBPO質量で0.44mg)を30分毎に19回添加し、合計8.34mgのtBPOをオートクレーブ内に導入した。つまり、共重合開始前のオートクレーブに仕込まれていたPSAEの質量に対して、tBPO濃度が添加直後に1.0質量ppmとなるように、tBPOを添加した。上記操作により、オートクレーブ内に導入したPSAEの全添加量は537.5gとなり、オートクレーブ内に導入したtBPOの全添加量は8.87mgとなった。よって、PSAEの全添加量に対するtBPOの全添加量の比率は、重合時間1時間あたり平均で1.6質量ppm(表中、「時間平均使用開始剤比率」と記した。)であった。またTFEの追加添加量は20.5gとなった。なお、共重合中の撹拌はアンカー翼により行い、撹拌回転数は250rpmとした。
内温が30℃以下になるまで冷却したのち、オートクレーブ内のガスをパージした。反応液にPSAEと等量(質量)となる550gのHFE-347pc-fを添加し、ポリマーを凝集してろ過した。その後、同量のHFE-347pc-f中でポリマーを撹拌して、HFE-347pc-fで洗浄する操作を2回繰り返した。120℃で真空乾燥して、TFEとPSAEモノマーとのコポリマーであるポリマーF-1の42.7gを得た。Q値は15.5mm3/秒であり、TQ値は300℃以上であった。結果を表1-1に示す。
【0118】
<例1-2>
例1-1における各条件を表1-1のように変更した以外は、例1-1と同様にしてポリマーF-2を得た。結果を表1-1に示す。
【0119】
<例1-3>
オートクレーブ(内容積2500mL、ステンレス製)を減圧し、PSAE(モノマー)の2625.0gを吸引してオートクレーブに仕込み、窒素ガスで0.3MPa(ゲージ圧)まで加圧し0.05MPaまで放圧する操作を5回繰り返して溶存酸素を除去させた。気相部に窒素を導入し、内温が160℃になるまでオイルバスにて加温した。このときの圧力は1.02MPa(ゲージ圧)であった。次にオートクレーブにTFEの46.9gを導入した。このときの圧力は1.36MPa(ゲージ圧)であり、重合温度におけるTFE分圧は0.34MPaとなった。
開始剤であるtBPOをPSAEに300質量ppmの濃度で溶かした開始剤溶液を4.38g添加して共重合を開始した。この時のtBPOの添加量は1.31mgであり、オートクレーブ内におけるtBPOの濃度は共重合開始前のオートクレーブに仕込まれていたPSAEの質量の0.5質量ppmとなった。圧力を1.36MPa(ゲージ圧)で維持したままTFEを連続添加し、8時間重合を継続した。この間、共重合開始前のオートクレーブに仕込まれていたPSAEの質量に対するtBPOの濃度を0.5質量ppmに維持するために、上記開始剤溶液を15.8g/h(tBPO質量で4.75mg/h)の速度で連続的に添加し、7時間後に停止した。上記操作により、オートクレーブ内に導入したPSAEの全添加量は2735.9gとなり、オートクレーブ内に導入したtBPOの全添加量は34.6mgとなった。よって、PSAEの全添加量に対するtBPOの全添加量の比率は、重合時間1時間あたり平均で1.6質量ppmであった。またTFEの追加添加量は63.1gとなった。なお、共重合中の撹拌はダブルヘリカルリボン翼により行い、撹拌回転数は150rpmとした。
内温が30℃以下になるまで冷却したのち、オートクレーブ内のガスをパージした。反応液にPSAEの1.9倍量(質量)となる5288gのHFE-347pc-fを添加し、ポリマーを凝集してろ過した。その後、同量のHFE-347pc-f中でポリマーを撹拌して、HFE-347pc-fで洗浄する操作を2回繰り返した。120℃で真空乾燥して、TFEとPSAEモノマーとのコポリマーであるポリマーF-3の171.0gを得た。Q値は15.8mm3/秒であり、TQ値は300℃以上であった。結果を表1-1に示す。
【0120】
<例1-4~1-6>
例1-3の各条件を表1-1のように変更した以外は、例1-3と同様にして、例1-4におけるポリマーF-4、例1-5におけるポリマーF-5、および例1-6におけるポリマーF-6をそれぞれ得た。ただし、例1-5においては重合開始剤としてPFtBPOを用いた。結果を表1-1に示す。
【0121】
<例1-7>
特許5217708号の例1に記載の方法で、ポリマーF’-1を製造した。
具体的には、内容積125mLのステンレス製オートクレーブに、PSAE(モノマー)の87.96gおよび開始剤としてtBPOの1.8mgを仕込み、液体窒素による冷却下、充分脱気した。オートクレーブ内におけるtBPOの濃度は、共重合開始前のオートクレーブに仕込まれていたPSAEの質量の20質量ppmとなった。その後、100℃に昇温して、TFEをオートクレーブ内に導入し、圧力を0.39MPaGに保持した。そこへ窒素ガスを加えて0.72MPaGとした。その後、145℃に昇温して0.95MPaGとした。tBPOを下記の化合物s-1に溶解した5.2質量%の開始剤溶液を30分毎に逐次添加した。1回の逐次添加量は、tBPOの固形分が0.67mgとなる量とし、合計12回添加した(なお、0.67mgは、共重合開始前のオートクレーブに仕込まれていたPSAEの質量に対するtBPOの濃度として7.6質量ppmに相当するが、145℃30分経過後のtBPOの残存率は約68%であるため、添加直後のtBPOの濃度は7.6質量ppm以上となる)。12回目を添加した後、30分経過した後に、オートクレーブ内のガスをパージし、オートクレーブを冷却して反応を終了させた。145℃で撹拌した時間は、6.5時間であった。tBPOの全添加量は、9.84mgであった。
生成物を化合物s-1で希釈した後、これに下記の化合物s-2を添加し、ポリマーF’-1を凝集してろ過した。その後、化合物s-1中でポリマーF’-1を撹拌し、化合物s-2で再凝集し、80℃で一晩減圧乾燥した。収量は10.8gであった。Q値は423mm3/秒であり、TQ値は217℃であった。結果を表1-2に示す。
CClF2CF2CHClF (s-1)
CH3CCl2F (s-2)
【0122】
<例1-8>
特許5217708号の例4に記載の方法で、ポリマーF’-2を製造した。
内容積125mLのステンレス製オートクレーブに、PSAE(モノマー)の87.96gおよび開始剤としてtBPOの0.9mgを仕込み、液体窒素による冷却下、充分脱気した。オートクレーブ内におけるtBPOの濃度は、共重合開始前のオートクレーブに仕込まれていたPSAEの質量の10質量ppmとなった。その後、100℃に昇温して、TFEをオートクレーブ内に導入し、圧力を0.35MPaGに保持した。そこへ窒素ガスを加えて0.65MPaGとした。その後、170℃に昇温して1.59MPaGとした。tBPOを化合物s-1に溶解した5.2質量%の開始剤溶液を30分毎に逐次添加した。1回の逐次添加量は、tBPOの固形分が0.33mgとなる量とし、合計12回添加した(なお、0.33mgは、共重合開始前のオートクレーブに仕込まれていたPSAEの質量に対するtBPO濃度として3.8質量ppmに相当するが、170℃30分経過後のtBPOの残存率は約1%であるため、添加直後のtBPOの濃度は3.8質量ppm以上となる)。12回目を添加した後、30分経過した後に、オートクレーブ内のガスをパージし、オートクレーブを冷却して反応を終了させた。170℃で撹拌した時間は、6.5時間であった。tBPOの全添加量は、4.86mgであった。
生成物を化合物s-1で希釈した後、これに化合物s-2を添加し、ポリマーF’-2を凝集してろ過した。その後、化合物s-1中でポリマーF’-2を撹拌し、化合物s-2で再凝集し、80℃で一晩減圧乾燥した。収量は3.5gであった。Q値は232mm3/秒であり、TQ値は240℃であった。結果を表1-2に示す。
【0123】
<例1-9>
特許5862372号の例1に記載の方法で、ポリマーF’-3を製造した。
内容積2575mLのステンレス製オートクレーブを減圧にしてから、窒素ガスで加圧パージを3回繰り返し行った後、再度減圧にしてPSAE(モノマー)の1959gを仕込んだ。その後、120℃に昇温して、オートクレーブ内に窒素ガスを導入して0.38MPaGとした。そこへTFEを0.46MPa加えて、全圧を0.84MPaGとした。
開始剤であるPFtBPOをPSAEに5質量%で溶かした開始剤溶液の3.91gを添加して共重合を開始した。この時のPFtBPOの添加量は195.50mgであり、オートクレーブ内におけるPFtBPOの濃度は、共重合開始前のオートクレーブに仕込まれていたPSAEの質量の100.0質量ppmである。圧力を0.84MPGに維持したまま、1時間毎に上記開始剤溶液の2.41gを逐次的に4回添加して、反応を5時間継続した(1回の逐次添加量は、tBPOの固形分が120.5mgとなる量である。この量は、共重合開始前のオートクレーブに仕込まれていたPSAEの質量に対するPFtBPO濃度として61.5質量ppmに相当するが、120℃1時間経過後のtBPOの残存率は約38%であるため、添加直後のPFtBPOの濃度は61.5質量ppm以上となる)。4回目を添加した後、1時間経過した後に、オートクレーブを冷却してオートクレーブ内のガスをパージし、反応を終了させた。PFtBPOの全添加量は、677.50mgであった。
生成物をHFC-52-13pで希釈した後、これにHFE-347pc-fを添加し、ポリマーF’-3を凝集してろ過した。その後、HFC-52-13p中でポリマーF’-3を撹拌し、HFE-347pc-fで再凝集し、80℃で一晩減圧乾燥した。収量323gであった。Q値は55.6mm3/秒であり、TQ値は295℃であった。結果を表1-2に示す。
【0124】
<例1-10および例1-11>
例1-1における各条件を表1-2のように変更し、共重合中の撹拌をダブルヘリカルリボン翼により250rpmで行った以外は、例1-1と同様にして、例1-10におけるポリマーF’-4および例1-11におけるポリマーF’-5を得た。結果を表1-2に示す。
【0125】
[ポリマーHおよびポリマーH’の製造]
ポリマーH-1~H-6およびポリマーH’-1~H’-5について、以下のようにして製造した。
【0126】
【0127】
【0128】
共重合開始前に仕込んだPSAEの質量に対する開始剤濃度の最大値[質量ppm]を表2に示す。
【0129】
【0130】
<例2-1>
上記のようにして得られたポリマーF-1を用いて、TQ値より10℃高い温度または260℃のうち、どちらか低い方の温度、および、4MPa(ゲージ圧)で加圧プレス成形し、ポリマーF-1の膜を得た。アルカリ水溶液(水溶液A:水酸化カリウム/水=20/80(質量比))中に、80℃にてポリマーF-1の膜を16時間浸漬させ、ポリマーF-1の-SO2Fを加水分解し、-SO3Kに変換した。さらにポリマーの膜を、3mol/Lの塩酸水溶液に50℃で30分間浸漬した後、80℃の超純水に30分間浸漬してから、10質量%の過酸化水素水溶液に80℃で16時間浸漬した。次に前述の塩酸水溶液への浸漬と超純水への浸漬のサイクルを合計5回実施し、ポリマーの-SO3Kを-SO3Hに変換した。ポリマーの膜を浸漬している水のpHが7となるまで超純水による洗浄を繰り返した。ポリマーの膜をろ紙に挟んで風乾し、例1におけるポリマーH-1の膜を得た。結果を表3に示す。
【0131】
<例2-2~例2-11>
ポリマーF-1をポリマーF-2~F-6およびF’-1~F’-5に変更し、アルカリ水溶液の種類を表3に示すように変更した以外は、例2-1と同様にして、例2-2~例2-6におけるポリマーH-2~ポリマーH-6、および、例2-7~例2-11におけるポリマーH’-1~H’-5を得た。結果を表3に示す。
なお、表3中、水溶液Aは、水酸化カリウム/水=20/80(質量比)であり、水溶液Bは、水酸化カリウム/ジメチルスルホキシド/水=15/30/55(質量比)であり、水溶液Cは、水酸化カリウム/メタノール/水=15/20/65(質量比)である。
【0132】
【0133】
[液状組成物Sおよび液状組成物S’の製造]
液状組成物S-1~S-6および液状組成物S’-1~S’-5について、以下のようにして製造した。
【0134】
<例3-1>
オートクレーブ(内容積200mL、ガラス製)に、細かく切断したポリマーH-1の膜の37g、エタノール/水の混合溶媒(50/50(質量比))の147.9gを加え、撹拌しながらオートクレーブを加熱した。110℃で4時間撹拌した後に放冷し、加圧ろ過機(ろ紙:アドバンテック東洋社製、PF040)を用いてろ過することによって、ポリマーH-1が混合溶媒に分散した液状組成物S-1の164.0gを得た。固形分濃度は20.0%であった。結果を表4に示す。
【0135】
<例3-2>
オートクレーブ(内容積200mL、ガラス製)に、細かく切断したポリマーH-2の膜の37.5g、エタノール/水の混合溶媒(50/50(質量比))の120.0gを加え、撹拌しながらオートクレーブを加熱した。110℃で3時間撹拌した後に希釈水の15.0gを加え、2時間加熱した後に放冷し、加圧ろ過機(ろ紙:アドバンテック東洋社製、PF040)を用いてろ過することによって、ポリマーH-2が混合溶媒に分散した液状組成物S-2の161.3gを得た。固形分濃度は22.1%であった。粘度は285.2mPasであった。結果を表4に示す。
【0136】
<例3-3>
オートクレーブ(内容積1L、ガラス製)に、細かく切断したポリマーH-3の膜の126.9g、エタノール/水の混合溶媒(50/50(質量比))の394.0gを加え、撹拌しながらオートクレーブを加熱した。105℃で6.5時間撹拌した後に希釈用のエタノールの5.0gと水の106.0gを加え、0.5時間加熱した後に放冷し、加圧ろ過機(ろ紙:アドバンテック東洋社製、PF040)を用いてろ過することによって、ポリマーH-3が混合溶媒に分散した液状組成物S-3の602.7gを得た。固形分濃度は19.8%であった。粘度は210.6mPasであった。結果を表4に示す。
【0137】
<例3-4>
ポリマーH-4を24.7g、エタノール/水の混合溶媒(50/50(質量比))を80.1g、希釈水を22.5gとした以外は例3-2と同様にして液状組成物S-4の122.9gを得た。固形分濃度は19.2%であった。結果を表4に示す。
【0138】
<例3-5>
ポリマーH-5を20.1g、エタノール/水の混合溶媒(40/60(質量比))を57.2g、希釈エタノールを12.0g、希釈水を16.9gとした以外は例3-3と同様にして液状組成物S-5の112.2gを得た。固形分濃度は17.9%であった。結果を表4に示す。
【0139】
<例3-6>
ポリマーH-6を23.0g、エタノール/水の混合溶媒(50/50(質量比))を77.0g、希釈エタノールを17.6g、希釈水を17.6gとした以外は例3-3と同様にして液状組成物S-6の135.2gを得た。固形分濃度は17.0%であった。結果を表4に示す。
【0140】
<例3-7~例3-11>
ポリマーH-1の代わりにポリマーH’-1~H’-5を用いた以外は、例3-1と同様にして、液状組成物S’-1~S’-5を得た。結果を表4に示す。
【0141】
【0142】
[固体高分子電解質膜の製造]
固体高分子電解質膜E-1~E-6および固体高分子電解質膜E-1’~E-5’について、以下のようにして製造した。
【0143】
<例4-1>
液状組成物S-1を100μmのエチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)製シート上に、ダイコーターにて塗工して製膜し、これを80℃で15分乾燥し、さらに160℃で30分の熱処理を施し、ポリマーH-1の膜(厚さ25μm)からなる固体高分子電解質膜E-1を得た。結果を表5に示す。
【0144】
<例4-2~例4-11>
液状組成物S-1の代わりに、液状組成物S-2~S-6または液状組成物S’-1~S’-5を用いた以外は、例4-1と同様にして、固体高分子電解質膜E-2~E-6および固体高分子電解質膜E’-1~E’-5を得た。結果を表5に示す。
【0145】
特開2018-55877号公報の例4に記載の方法で、イオン交換容量が1.1ミリ当量/グラムである酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーが分散した液状組成物(固形分濃度=26.0質量%、エタノール/水=60/40(質量比))を得た。カーボン粉末に白金を46質量%担持した担持触媒(田中貴金属工業社製、商品名:TEC10E50E)の20.0gに水117gを添加し、超音波を10分かけて均一に分散させた。これに上記液状組成物の30.8gを添加し、さらにエタノールを112g添加して固形分が10質量%の触媒層形成用塗工液を得た。該触媒層形成用塗工液をETFEシート上に塗布し、80℃で乾燥させ、さらに160℃で30分の熱処理を施し、白金量が0.4mg/cm2の触媒層(C-1)を作製した。
先に得られた固体高分子電解質膜の両側から上記触媒層の2枚で挟み、プレス条件:130℃、5分、1.5MPaで加熱プレスして、固体高分子電解質膜の両面に触媒層を接合し、ETFEシートを剥離して電極面積25cm2の膜触媒層接合体を得た。
該膜触媒層接合体を、2枚のガス拡散基材(NOK社製、商品名:X0086 IX92 CX320)で挟み込んで膜電極接合体を得た。該ガス拡散基材は、片側の表面にカーボンとPTFEとからなるカーボン層を有しており、該カーボン層が膜触媒層接合体の触媒層と接触するように配置した。作製した膜電極接合体を発電用セルに組み込み、上述の開回路試験により評価した。結果を表5に示す。なお「測定不能」とは、評価において膜が過度に膨潤、溶解または損傷し、数値が算出できないことを意味する。
【0146】
【0147】
表2に示す通り、共重合開始前に仕込んだPSAEの質量に対する開始剤濃度の最大値は、例1-1~1-6では2.5質量ppm以下であった一方、比較例である例1-7~1-11では3.0質量ppm以上であった。表5に示す通り、上述した製造方法で得られたポリマーFを用いた場合、ポリマーF’を用いた場合と比較して、導電性および熱水耐性に優れた固体高分子電解質膜を製造できるのが確認された。また、化学的耐久性に優れた固体高分子電解質膜を製造できるのが確認された。
また、ポリマーFのQ値が0.2~60.0mm3/秒の範囲内であって、ポリマーF中の全単位に対するPSAE単位の割合が21~59モル%であれば、ポリマーFのフルオロスルホニル基を酸型のスルホン酸基に変換して得られたポリマーHを含む固体高分子電解質膜は、導電性および熱水耐性に優れるのが確認された。また、固体高分子電解質膜が化学的耐久性に優れるのが確認された。
【0148】
[触媒層用ポリマーとしての性能評価]
ポリマーHおよびポリマーH’を触媒層用ポリマーとして含む触媒層C-2、C-3について、以下のようにして製造し、触媒層の発電特性を評価した。
【0149】
<例5-1>
カーボン粉末に白金を46質量%担持した担持触媒(田中貴金属工業社製、商品名:TEC10E50E)の3.00gに水19.2gを添加し、超音波を10分かけて均一に分散させた。これに液状組成物(S-5)の6.14gを添加し、さらにエタノールを12.8g添加して固形分が10質量%の触媒層形成用塗工液を得た。該触媒層形成用塗工液をETFEシート上に塗布し、80℃で乾燥させ、さらに160℃で30分の熱処理を施し、白金量が0.4mg/cm2の触媒層(C-2)を作製した。
【0150】
<例5-2>
白金担持触媒の分散に水の20.0gを用い、液状組成物(S’-4)の5.56gとエタノールの12.6gを添加した以外は例5-1と同様にして触媒層形成用塗工液ならびに白金量が0.4mg/cm2の触媒層(C-3)を得る。
【0151】
液状組成物S-1の代わりに、特開2018-55877号公報の例4に記載の方法で得たイオン交換容量が1.1ミリ当量/グラムである酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーが分散した液状組成物を用いた以外は、例4-1と同様にして、厚さ25μmの固体高分子電解質膜を得た。この固体高分子電解質膜の両側から上記触媒層(触媒層(C-2)または触媒層(C-3))の2枚で挟み、プレス条件:130℃、5分、1.5MPaで加熱プレスして、固体高分子電解質膜の両面に触媒層を接合し、ETFEシートを剥離して電極面積25cm2の膜触媒層接合体を得る。
該膜触媒層接合体を、2枚のガス拡散基材(NOK社製、商品名:X0086 IX92 CX320)で挟み込んで膜電極接合体を得る。該ガス拡散基材は、片側の表面にカーボンとPTFEとからなるカーボン層を有しており、該カーボン層が膜触媒層接合体の触媒層と接触するように配置する。作製した膜電極接合体を発電用セルに組み込み、上述の発電特性評価試験を行う。
触媒層(C-2)からなる膜電極接合体では、100時間後も安定した発電が可能である。一方、触媒層(C-3)からなる膜電極接合体では、発電により生じる温水へ触媒層用ポリマーが溶出し、経時的な発電電圧の低下が見られる。また触媒層用ポリマーの過度な膨潤によりフラッディングが生じ、触媒層(C-2)からなる膜電極接合体に比べて1.0A/cm2より大きい電流密度領域において発電電圧が相対的に低下する。
【0152】
[発明の最良の実施形態]
<例6-1>
液状組成物S-1に、セリウム原子の総モル数の割合がポリマーH-1中のスルホン酸基の総モル数に対して0.0067となるように炭酸セリウム水和物(Ce2(CO3)3・8H2O)を加え、50℃で24時間撹拌し、液状組成物L-1を得た。
液状組成物L-1を100μmのETFE製シート上に、ダイコーターにて塗工して製膜し、これを80℃で15分乾燥し、さらに185℃で30分の熱処理を施し、厚さ25μmの固体高分子電解質膜E-10を得た。
【0153】
<例6-2>
液状組成物S-1にセリウム原子の総モル数の割合がポリマーH-1中のスルホン酸基の総モル数に対して0.033となるように酸化セリウムを加え、直径5mmのジルコニアビーズを加えた後、遊星ビーズミルを用いて300rpmの回転数で30分混合、分散する。53μmのステンレスメッシュを用いてろ過し、液状組成物L-2を得る。
液状組成物を変更する以外は、例6-1と同様にして、厚さ25μmの固体高分子電解質膜E-11を得る。
【0154】
<例6-3>
液状組成物L-1を、ETFE製シート上にダイコーター法で塗工する。その後、直ちに延伸多孔質PTFEフィルム(厚さ10μm、空孔率80%)をその塗工層に重ねることにより延伸多孔質PTFEフィルム中に液を含浸させ、80℃のオーブン中で15分間乾燥後、さらに185℃のオーブン中で30分間熱処理を行い、厚さ15μmの固体高分子電解質膜E-12を得る。
同様に液状組成物L-2から、厚さ15μmの固体高分子電解質膜E-13を得る。
【0155】
<例6-4>
液状組成物S-1の代わりに液状組成物S’-1を用いた以外は例6-1と同様にして液状組成物L’-1を得る。また、液状組成物をL’-1へ変更する以外は例6-3と同様にして、厚さ15μmの固体高分子電解質膜E’-10を得る。
【0156】
<例7-1>
特開2018-55877号公報の例4に記載の方法で、イオン交換容量が1.1ミリ当量/グラムである酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーが分散した液状組成物(固形分濃度=26.0質量%、エタノール/水=60/40(質量比))を得た。
カーボン粉末に白金を46質量%担持した担持触媒(田中貴金属工業社製、TEC10E50E)の44gに水の217.8g、エタノールの178.2gを加え、超音波ホモジナイザーを用いて混合粉砕し、触媒の分散液を得た。触媒の分散液に、上記分散液の80.16gとエタノールの44.4gとゼオローラ-H(日本ゼオン社製)の25.32gをあらかじめ混合・混練した混合液を117.4g加え、さらに水の163.42g、エタノールの139.12gを加えて超音波ホモジナイザーを用いて混合し、固形分濃度を7質量%とし、触媒層形成用塗工液を得た。
該触媒層形成用塗工液をETFEシート上に塗布し、80℃で乾燥させ、さらに160℃で30分の熱処理を施し、白金量が0.1mg/cm2の触媒層(C-4)を作製した。
【0157】
<例7-2>
内容積230mLのステンレス製オートクレーブに、化合物(m32-1)の133.16g、化合物(m22-1)の32.67g、および溶媒(AGC社製、アサヒクリン(登録商標) AC-2000)の14.1gを仕込み、液体窒素による冷却下、充分脱気した。TFE(テトラフルオロエチレン)の3.94gを仕込んで、24℃に昇温して、化合物(s-1)に2.8質量%の濃度で溶解したラジカル重合開始剤((C3F7COO)2)の40.17mgを仕込み、AC-2000の1.1gで仕込みラインを洗浄して、反応を開始した。8時間撹拌した後、オートクレーブを冷却して反応を停止した。
生成物をAC-2000で希釈した後、これをAC-2000:メタノール=8:2(質量比)の混合液と混合し、ポリマーを凝集してろ過した。AC-2000:メタノール=7:3(質量比)の混合液中でポリマーを洗浄し、ろ過で分離後、固形分を80℃で一晩減圧乾燥し、ポリマー(p-1)を得た。
得られたポリマー(p-1)を、メタノール20質量%および水酸化カリウム15質量%を含む50℃の水溶液に40時間浸漬させることにより、ポリマー(p-1)中の-SO2F基を加水分解し、-SO3K基に変換した。ついで、該ポリマーを、3モル/Lの塩酸水溶液に室温で2時間浸漬した。塩酸水溶液を交換し、同様の処理をさらに4回繰り返し、ポリマー中の-SO3K基がスルホン酸基に変換されたポリマー(P-1)を得た。ポリマー(P-1)を構成する構成単位の組成を、19F-NMRにより分析したところ、ポリマー(P-1)中、ポリマー(P-1)に含まれる全単位に対して、モノマー(m22-1)に基づく単位の含有量は67モル%、モノマー(m32-1)に基づく単位の含有量は18モル%、TFEに基づく単位の含有量は15モル%であった。また、ポリマー(p-1)のTQ値は、275℃であった。また、ポリマー(P-1)のイオン交換容量を求めたところ、1.23ミリ当量/g乾燥樹脂であった。
ポリマー(P-1)と、水と1-プロパノールとの混合溶媒(水/1-プロパノール=50/50質量比)とをハステロイ製オートクレーブを用い、115℃で8時間、回転数150rpmで撹拌し、ポリマー(P-1)の濃度が18質量%となる分散液を調製した。
カーボン粉末に白金が46質量%含まれるように担持された触媒(田中貴金属工業社製、TEC10E50E)の10gに、超純水の49.5gとエタノールの40.5gを加え、10分間超音波を照射し、触媒の分散液を調製した。これに、上記ポリマー(P-1)の分散液の20.4gを加え、ポリマー(P-1)と触媒カーボンとの質量比(ポリマー(P-1)質量/触媒カーボン質量)を0.8に設定し、さらに超純水の20.8gとエタノールの29.8gを加え、固形分濃度を8質量%として、カソード触媒層形成用塗工液を得た。
該触媒層形成用塗工液をETFEシート上に塗布し、80℃で乾燥させ、さらに160℃で30分の熱処理を施し、白金量が0.1mg/cm2の触媒層(C-5)を作製した。
【0158】
【0159】
【0160】
<例7-3>
内容積125mLのステンレス製オートクレーブに、化合物(m22-1)の16.33g、化合物(m32-1)の72.84g、TFE(テトラフルオロエチレン)の2.0gおよびラジカル重合開始剤((C3F7COO)2)の54.0mgを仕込み、液体窒素による冷却下、充分脱気した。その後、24℃に昇温して、24時間保持した後、オートクレーブを冷却して反応を停止した。
例7-2と同様にして、ポリマー(p-2)の26.0gを得た。加水分解以降の工程も例7-2と同様にしてポリマー(P-2)、およびポリマー(P-2)からなる白金量が0.1mg/cm2の触媒層(C-6)を作製した。
【0161】
<膜電極接合体の性能評価(例8-1~8-11)>
固体高分子電解質膜E-1、E-10~E-13、E’-1およびE’-10、触媒層C-4~C-6をそれぞれ組み合わせ、固体高分子電解質膜の両側から上記触媒層の2枚で挟み、プレス条件:130℃、5分、1.5MPaで加熱プレスして、固体高分子電解質膜の両面に触媒層を接合し、ETFEシートを剥離して電極面積25cm2の膜触媒層接合体を得る。
該膜触媒層接合体を、2枚のガス拡散基材(NOK社製、商品名:X0086 IX92 CX320)で挟み込んで膜電極接合体を得る。該ガス拡散基材は、片側の表面にカーボンとPTFEとからなるカーボン層を有しており、該カーボン層が膜触媒層接合体の触媒層と接触するように配置する。作製した膜電極接合体を発電用セルに組み込み、上述の発電特性、化学的耐久性、および湿潤-乾燥サイクル耐久性を評価する。評価する膜電極接合体の一覧を表6に示す。
【0162】
【0163】
例8-1~例8-11において、発電特性の評価の順列は以下の順列であった。
例8-1<(例8-2~8-4)<例8-11<(例8-5、例8-6)<(例8-7、例8-8)<(例8-9、例8-10)
例8-1~例8-11において、化学的耐久性評価の順列は以下の順列であった。
例8-1<例8-2<例8-11<(例8-3~8-10)
例8-1~例8-11において、湿潤-乾燥サイクル耐久性評価の順列は以下の順列であった。
例8-1<(例8-2~8-4)<例8-11<(例8-5~8-10)
なお、上記( )内に記載の例は同等の効果を示す。
以上より、本発明の固体高分子電解質膜からなる膜電極接合体は、セリウム原子の添加、補強材との組み合わせによる固体高分子電解質膜の補強および薄膜化、および酸素透過性の高いポリマーからなる触媒層との組み合わせにより、性能が一層高まることが分かる。一方、従来技術による固体高分子電解質膜はプロトン伝導性が劣る。補強材との組み合わせによる固体高分子電解質膜の補強および薄膜化により膜抵抗を下げる設計により、発電の初期特性を改善することは可能であるが、電解質材料自身の熱水耐性に劣るため、長期運転時はポリマーの溶出が避けられず、本発明の固体高分子電解質膜からなる膜電極接合と比べて発電特性の低下速度が大きい。また同様の理由により、該固体高分子電解質膜からなる膜電極接合体は、湿潤-乾燥サイクル耐久性が相対的に劣ることが分かる。
なお、2019年10月21日に出願された日本特許出願2019-192095号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0164】
10 膜電極接合体
11 触媒層
12 ガス拡散層
13 アノード
14 カソード
15 固体高分子電解質膜