(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20240918BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240918BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20240918BHJP
C08K 5/20 20060101ALI20240918BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20240918BHJP
C08L 23/00 20060101ALI20240918BHJP
C08L 27/18 20060101ALI20240918BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20240918BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20240918BHJP
C08J 3/22 20060101ALI20240918BHJP
B29C 48/76 20190101ALI20240918BHJP
【FI】
C08L67/02
C08K3/04
C08K5/098
C08K5/20
C08K7/14
C08L23/00
C08L27/18
C08L63/00 Z
C08J5/00 CFD
C08J3/22
B29C48/76
(21)【出願番号】P 2024506401
(86)(22)【出願日】2023-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2023009095
(87)【国際公開番号】W WO2023171754
(87)【国際公開日】2023-09-14
【審査請求日】2024-03-21
(31)【優先権主張番号】P 2022038163
(32)【優先日】2022-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 莉奈
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-052341(JP,A)
【文献】特開平05-271521(JP,A)
【文献】特開平11-029696(JP,A)
【文献】特表2002-500237(JP,A)
【文献】国際公開第2011/162145(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08J 3/00-3/28、5/00-5/02、
5/12-5/22、99/00
B29C 48/00-48/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、(B)カルボン酸アルカリ金属塩を0.1~5質量部、(C)カーボンブラックを0.1~6質量部、(D)ガラス繊維を55質量部以上および(E)撥水剤を0.01~2質量部含有
し、(E)撥水剤の臨界表面張力が40mN/m以下であることを特徴とするポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
(B)カルボン酸アルカリ金属塩に対する(E)撥水剤の含有量の質量比(E)/(B)が0.2~1.3である請求項1に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
(E)撥水剤がポリテトラフルオロエチレンである請求項1または2に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
(B)カルボン酸アルカリ金属塩がカルボン酸ナトリウムである請求項1または2に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
(B)カルボン酸アルカリ金属塩がモンタン酸アルカリ金属塩である請求項1または2に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項6】
(B)カルボン酸ナトリウムがモンタン酸ナトリウムである請求項
4に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項7】
(B)モンタン酸アルカリ金属塩がモンタン酸ナトリウムである請求項
5に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項8】
さらに、離型剤を、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、0.1~3質量部含有する請求項1または2に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項9】
離型剤がポリオレフィン系化合物または脂肪族カルボン酸アミドである請求項
8に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項10】
離型剤が脂肪族カルボン酸アミドである請求項
8に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項11】
(C)カーボンブラックのDBP吸油量が40~80cm
3/100gである請求項1または2に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項12】
さらに、エポキシ化合物を、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、0.1~4質量部含有する請求項1または2に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項13】
エポキシ化合物が、ビスフェノールA型エポキシ化合物である請求項
12に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1または2に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の成形体。
【請求項15】
成形体の表面の水に対する接触角が80°以上である請求項
14に記載の成形体。
【請求項16】
屋外で使用される製品用である請求項
14に記載の成形体。
【請求項17】
(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂に、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂と(C)カーボンブラックとを含有する着色剤組成物を配合する工程を有する請求項1または2に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法。
【請求項18】
請求項1または2に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物を、押出機を用いて製造する方法であって、該押出機が2以上のベントを有することを特徴とするポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物及び成形体に関し、詳しくは、耐候性に優れたポリエチレンテレフタレート樹脂組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート樹脂(以下、PETと略記することもある。)は、機械的特性、電気特性などが優れている他、耐薬品性、耐熱性なども優れているので、各種の電気・電子機器部品、自動車、列車、電車などの車両用内外装部品、その他の一般工業製品製造用材料として、広く使用されている。さらに、例えば車両用の無塗装外装部品のような外観が求められる部品にも使用され、その利用範囲も拡大されている。
【0003】
屋外で使用される外装部品には、耐候性に優れていること、部品が退色し難いこと、製品の光沢が低下し難いこと、表面に強化充填材が浮き出さないこと、外観が変化し難いこと等の耐候性が、長期間持続することが求められる。特に、PETを用いた部品には、強い太陽光、激しい温度変化、激しい風雨などに曝される屋外で使用される場合でも、長期間に亘って、上記した優れた性能をそのまま維持することが強く要請されている。
【0004】
特許文献1には、ポリエチレンテレフタレート20~80重量%、無機充填材60重量%以下及び(C)乳化重合法により製造されたポリテトラフルオロエチレン樹脂0.05~10重量%から成る、高い流動性を備えながら、成形に際し、バリの発生の少ないポリエチレンテレフタレート(PET)系樹脂組成物が開示されている。しかしながら、特許文献1のPET系樹脂組成物においては、耐候性等、屋外用外装部品に強く求められる性能に関しては十分には考慮されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高度の耐候性を有するポリエチレンテレフタレート樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、ポリエチレンテレフタレート樹脂に、カルボン酸アルカリ金属塩、カーボンブラック、ガラス繊維、及び撥水剤をそれぞれ特定の量で配合したポリエチレンテレフタレート樹脂組成物が、長期間に亙って優れて耐候性を有することを見出し、本発明に到達した。
本発明は、以下の通りである。
【0008】
1.(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、(B)カルボン酸アルカリ金属塩を0.1~5質量部、(C)カーボンブラックを0.1~6質量部、(D)ガラス繊維を55質量部以上および(E)撥水剤を0.01~2質量部含有することを特徴とするポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
2.(B)カルボン酸アルカリ金属塩に対する(E)撥水剤の含有量の質量比(E)/(B)が0.2~1.3である上記1に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
3.(E)撥水剤の臨界表面張力が40mN/m以下である上記1または2に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
4.(E)撥水剤がポリテトラフルオロエチレンである上記1~3のいずれかに記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
5.(B)カルボン酸アルカリ金属塩がカルボン酸ナトリウムである上記1~4のいずれかに記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
6.(B)カルボン酸アルカリ金属塩がモンタン酸アルカリ金属塩である上記1~4のいずれかに記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
7.(B)カルボン酸ナトリウムがモンタン酸ナトリウムである上記5に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
8.(B)モンタン酸アルカリ金属塩がモンタン酸ナトリウムである上記6に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
9.さらに、離型剤を、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、0.1~3質量部含有する上記1~8のいずれかに記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
10.離型剤がポリオレフィン系化合物または脂肪族カルボン酸アミドである上記9に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
11.離型剤が脂肪族カルボン酸アミドである上記9に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
12.(C)カーボンブラックのDBP吸油量が40~80cm3/100gである上記1~11のいずれかに記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
13.さらに、エポキシ化合物を、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、0.1~4質量部含有する上記1~12のいずれかに記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
14.エポキシ化合物が、ビスフェノールA型エポキシ化合物である上記13に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
15.上記1~14のいずれかに記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の成形体。
16.成形体の表面の水に対する接触角が80°以上である上記15に記載の成形体。
17.屋外で使用される製品用である上記15または16に記載の成形体。
18.(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂に、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂と(C)カーボンブラックとを含有する着色剤組成物を配合する工程を有する上記1~14のいずれかに記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法。
19.上記1~14の何れかに記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物を、押出機を用いて製造する方法であって、該押出機が2以上のベントを有することを特徴とするポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は、高度に優れた耐候性を有し、長期に亙る耐候試験の後の色変化(色差、ΔE*)が極めて小さく、ガラス繊維の浮き等の外観劣化がなく、また耐衝撃性に優れる。このため特に屋外で使用する外装用部品等として特に好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について、詳述する。
本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、(B)カルボン酸アルカリ金属塩を0.1~5質量部、(C)カーボンブラックを0.1~6質量部、(D)ガラス繊維を55質量部以上、および(E)撥水剤を0.01~2質量部含有することを特徴とする。
【0011】
[(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂]
ポリエチレンテレフタレート樹脂は、全構成繰り返し単位に対するテレフタル酸及びエチレングリコールからなるオキシエチレンオキシテレフタロイル単位(以下「ET単位」と称す場合がある。)の比率(以下「ET比率」と称す場合がある。)が好ましくは90当量%以上であるポリエチレンテレフタレート樹脂であり、本発明におけるポリエチレンテレフタレート樹脂はET単位以外の構成繰り返し単位を10当量%未満の範囲で含んでいてもよい。ポリエチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸又はその低級アルキルエステルとエチレングリコールとを主たる原料として製造されるが、他の酸成分及び/又は他のグリコール成分を併せて原料として用いてもよい。
【0012】
テレフタル酸以外の酸成分としては、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-フェニレンジオキシジ酢酸及びこれらの構造異性体、マロン酸、コハク酸、アジピン酸等のジカルボン酸及びその誘導体、p-ヒドロキシ安息香酸、グリコール酸等のオキシ酸又はその誘導体が挙げられる。
【0013】
また、エチレングリコール以外のジオール成分としては、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール;1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,2-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,3-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,4-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,5-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,6-デカヒドロナフタレンジメタノール、2,7-デカヒドロナフタレンジメタノール、テトラリンジメタノール、ノルボルナンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロドデカンジメタノール等の脂環式ジオール類;ビスフェノールA、ビスフェノールS等の芳香族ジヒドロキシ化合物誘導体等が挙げられる。
【0014】
共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂としては、例えば、エチレングリコール/イソフタル酸/テレフタル酸共重合体(イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート)等が挙げられる。
【0015】
上記のようなテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体とエチレングリコールとを含む原料は、エステル化触媒又はエステル交換触媒の存在下におけるエステル化反応又はエステル交換反応により、ビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレーテ及び/又はそのオリゴマーを形成させ、その後、重縮合触媒及び安定剤の存在下で高温減圧下に溶融重縮合を行ってポリマーとされる。
【0016】
エステル化触媒は、テレフタル酸がエステル化反応の自己触媒となるため特に使用する必要はない。また、エステル化反応は、エステル化触媒と後述する重縮合触媒の共存下に実施することも可能であり、また、少量の無機酸等の存在下に実施することができる。エステル交換触媒としては、ナトリウム、リチウム等のアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属塩、亜鉛、マンガン等の金属化合物が好ましく使用されるが、中でも得られるポリエチレンテレフタレートの外観上、マンガン化合物が特に好ましい。
【0017】
重縮合触媒としては、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、コバルト化合物、錫化合物、アルミニウム化合物等の反応系に可溶な化合物が単独又は組み合わせて使用される。重縮合触媒としては、色調及び透明性等の観点からアンチモン系触媒または、アルミニウム触媒が特に好ましい。これらの重縮合触媒には重合中の分解反応を抑制するために安定剤を併用してもよく、安定剤としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート等のリン酸エステル類、トリフェニルホスファイト、トリスドデシルホスファイト等の亜リン酸エステル類、メチルアシッドホスフェート、ジブチルホスフェート、モノブチルホスフェート酸性リン酸エステル、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸等のリン化合物の1種又は2種以上が好ましい。
【0018】
上記の触媒の使用割合は、全重合原料中、触媒中の金属の質量として、通常1~2000ppm、好ましくは3~500ppmの範囲とされ、安定剤の使用割合は、全重合原料中、安定剤中のリン原子の質量として、通常10~1000ppm、好ましくは20~200ppmの範囲とされる。触媒及び安定剤の供給は、原料スラリー調製時の他、エステル化反応又はエステル交換反応の任意の段階において行うことができる。更に、重縮合反応工程の初期に供給することもできる。
【0019】
ポリエチレンテレフタレート樹脂の固有粘度(IV)は通常0.3~1.5dl/gの範囲にあるが、本発明で用いる(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂としては、IVが0.4~1.2dl/gのものが好ましい。IVが0.4dl/gを下回る場合は強度が低下しやすく、また1.2dl/gを超える場合は流動性が不十分となりやすい。より好ましいIVは0.45~1.0dl/gであり、更には0.5~0.9dl/gであることが好ましい。
なお、ポリエチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(質量比)の混合溶媒中、30℃で測定する値である。
【0020】
[(B)カルボン酸アルカリ金属塩]
カルボン酸アルカリ金属塩のカルボン酸としては、飽和脂肪族カルボン酸、不飽和脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸、鎖式カルボン酸、環式カルボン酸等が挙げられる。中でも飽和脂肪族カルボン酸または芳香族カルボン酸が結晶核剤としての効果が高い点から好ましい。飽和脂肪族カルボン酸または芳香族カルボン酸としては、モンタン酸、ベヘン酸、ステアリン酸、安息香酸等が挙げられ、中でもモンタン酸が結晶核剤としての効果が高く、ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品外観が良好であり、衝撃強度も高くなるため好ましい。
アルカリ金属としては、ナトリウム、リチウム、カリウム等が挙げられる。中でもナトリウムが結晶核剤としての効果が高い点から好ましい。
カルボン酸アルカリ金属塩としては、カルボン酸ナトリウムが結晶化温度の向上効果が高く、基礎物性が向上する傾向から好ましく、さらにモンタン酸ナトリウムは成形品外観が良好となり、また衝撃強度も高くなる点から好ましい。
【0021】
本発明のカルボン酸アルカリ金属塩の結晶化温度は100℃以上が好ましく、130℃以上がさらに好ましく、170℃以上がさらに好ましく、210℃以上であれば結晶核剤としての効果が高まることから特に好ましい。また結晶化温度は300℃以下が好ましく、250℃以下がさらに好ましく、230℃以下であれば成形品外観が良好となることから好ましい。結晶化温度は、JIS K7121に基づいて示差走査熱量測定機(DSC)を用いて測定することが出来る。具体的には、窒素雰囲気下で40℃から300℃まで昇温速度20℃/分で昇温し、300℃で3分保持した後、降温速度-20℃/分で40℃まで降温し、昇温時の結晶化による最大ピークの温度を結晶化温度Tcとして求めることが出来る。示差走査熱量測定機は、(株)日立ハイテクサイエンス社製「DSC7020」を用いることが出来る。
【0022】
(B)カルボン酸アルカリ金属塩の含有量は、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、0.1~5質量部である。このような範囲で含有することで、強度を向上させることができる。含有量は、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上であり、好ましくは4質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下、中でも2質量部以下、中でも1.5質量部以下、1質量部以下、0.8質量部以下、0.6質量部以下、特に0.5質量部以下が好ましい。
【0023】
[(C)カーボンブラック]
本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は、カーボンブラックを含有する。
カーボンブラックを含有することで、ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物及び成形体の耐侯性や外観が向上する。
【0024】
カーボンブラックは、その種類、原料種、製造方法に制限はなく、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のいずれをも使用することができる。その数平均粒子径には特に制限はないが、5~60nmであることが好ましい。このように数平均粒子径が所定の範囲にあるカーボンブラックを用いることにより、高温下でブリスターが発生し難い組成物を得ることができる。
なお、数平均粒子径は、ASTM D3849規格(カーボンブラックの標準試験法-電子顕微鏡法による形態的特徴付け)に記載の手順によりアグリゲート拡大画像を取得し、このアグリゲート画像から単位構成粒子として3,000個の粒子径を測定し、算術平均して求めることができる。
【0025】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(単位:m2/g)は、通常1000m2/g未満が好ましく、中でも50~400m2/gであることが好ましい。窒素吸着比表面積を1000m2/g未満にすることで、ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の流動性や成形品の外観が向上する傾向にあり好ましい。
なお、窒素吸着比表面積はJIS K6217に準拠して測定することができる。
また、カーボンブラックのDBP(ジブチルフタレート)吸油量は、300cm3/100g未満であることが好ましく、中でも30~200cm3/100gであることが好ましく、40~80cm3/100gであることがさらに好ましい。DBP吸収量を300cm3/100g未満にすることで、本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の流動性や成形品の外観が向上する傾向にあり好ましい。
なお、DBP吸収量(単位:cm3/100g)はJIS K6217に準拠して測定することができる。
また使用するカーボンブラックは、そのpHについても特に制限はないが、通常、2~10であり、3~9であることが好ましく、4~8であることがさらに好ましい。
【0026】
カーボンブラックは、一種を単独でまた2種以上併用して使用することができる。更にカーボンブラックは、バインダーを用いて顆粒化することも可能であり、他の樹脂中に高濃度で溶融混練したマスターバッチでの使用も可能である。溶融混練したマスターバッチを使用することによって、押出時のハンドリング性改良、樹脂組成物中への分散性改良、耐候性の改良、基礎物性の向上等が達成できる。上記樹脂としては、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等が挙げられ、中でもポリエステル樹脂が好ましく、その中でもポリエチレンテレフタレート樹脂が最も好ましい。
マスターバッチ中のカーボンブラックの含有量は10~80質量%であることが好ましく、20~70質量%がより好ましく、25~50質量%がさらに好ましい。
【0027】
カーボンブラックの含有量は、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、0.01~6質量部である。このような量で含有することにより、耐候試験後の変色が抑えられ、かつ、外観が良好となる。含有量は、好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.3質量部以上、中でも0.5質量部以上、特に0.7質量部以上が好ましく、また、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、中でも1.5質量部以下、特に1質量部以下が好ましい。
【0028】
[(D)ガラス繊維]
本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は、ガラス繊維を含有する。
ガラス繊維としては、Aガラス、Eガラス、ジルコニア成分含有の耐アルカリガラス組成や、チョップドストランド、ロービングガラス、熱可塑性樹脂とガラス繊維の(長繊維)マスターバッチ等の配合時のガラス繊維の形態を問わず、公知のいかなるガラス繊維も使用可能である。中でも本発明に用いるガラス繊維としては、本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の熱安定性を向上させる目的から無アルカリガラス(Eガラス)が好ましい。
【0029】
ガラス繊維の数平均繊維長は1mm以上10mm以下であることが好ましく、1.5~6mmであることがより好ましく、2~5mmであることがさらに好ましい。
数平均繊維長が10mmを超えると成形体の表面からのガラス繊維の脱落が発生しやすく、生産性が低下しやすい。数平均繊維長が1mm未満では、ガラス繊維のアスペクト比が小さいため、機械的強度の改良が不十分となりやすい。
【0030】
ガラス繊維の直径は3~20μmであることが好ましい。これらは、従来公知の任意の方法に従い、ガラス繊維のストランドを、具体的には例えばハンマーミルやボールミルで粉砕することにより製造できる。ガラス繊維の直径が3μm未満の場合は、同様に機械的強度の改良が不十分で、20μmを超えると外観が低下しやすい。ガラス繊維の直径は、より好ましくは5~15μm、さらに好ましくは、6~14μmである。
【0031】
ガラス繊維は、ポリエチレンテレフタレート樹脂との密着性を向上させる目的で、アミノシラン、エポキシシラン等のシランカップリング剤などにより表面処理を行うことができる。
【0032】
また、ガラス繊維は、通常はこれらの繊維を多数本集束したものを、所定の長さに切断したチョップドストランド(チョップドガラス繊維)として用いることが好ましく、このとき使用するガラス繊維は収束剤を配合することが好ましい。収束剤を配合することで成形体の生産安定性が高まる利点に加え、良好な機械物性を得ることができる。
収束剤としては、特に制限はないが、例えばウレタン系、エポキシ系、アクリル系等の収束剤が挙げられる。中でも、ウレタン系、エポキシ系収束剤がより好ましく、エポキシ系収束剤がさらに好ましい。
【0033】
チョップドストランド(チョップドガラス繊維)のカット長についても特に制限はないが、通常1~10mm、好ましくは1.5~6mm、より好ましくは2~5mmである。
【0034】
ガラス繊維は、繊維断面が実質的に真円形の、具体的には繊維断面の扁平率(長径/短径)が1以上1.5未満の断面がほぼ円形のガラス繊維であってもよい。この際の扁平率は1~1.4が好ましく、1~1.2がより好ましく、1~1.1が特に好ましい。
【0035】
また、ガラス繊維は、断面形状が扁平であるガラス繊維であることも、流動性の点から好ましく、具体的には繊維断面の長径の平均値が10~50μm、長径と短径の比(長径/短径)の平均値が1.5以上8以下であるような扁平断面ガラス繊維が挙げられる。
【0036】
ガラス繊維としては、ガラス繊維ミルドファイバー(Milled Fiber)といわれるものも好ましく、これは、詳しくは、ミルドガラスファイバーは、ガラス単繊維(フィラメント)を数十本から数千本束ねたガラス繊維のストランドを、所定の長さに切断したガラス繊維チョップドストランドを、粉砕したものである。この際のガラス繊維チョップドストランドは、前述したように収束剤により表面処理されたものが好ましい。
【0037】
ミルドガラスファイバーは、好ましくは、平均繊維径に対する平均繊維長の比(アスペクト比)が10以下の短繊維である。ミルドガラスファイバーのアスペクト比は、好ましくは8以下、より好ましくは7以下であり、好ましくは2.5以上であり、より好ましくは3以上である。アスペクト比が、10を超える場合は、ソリや異方性が大きくなる他、成形体外観が悪化する傾向にある。
また、ミルドガラスファイバーの平均繊維径は、数平均繊維径で好ましくは1~25μmであり、より好ましくは5~17μmであり、平均長さは、好ましくは1~500μm、より好ましくは10~300μm、更に好ましくは20~200μmである。平均繊維径が1μm未満の短繊維のミルドガラスファイバーでは、成形加工性が損なわれやすく、また、平均繊維径が25μmより大きいと、外観が損なわれやすく、補強効果が不十分となる傾向がある。
【0038】
ガラス繊維の好ましい含有量は、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、55質量部以上である。55質量部以上の量で含有することにより、強度を向上させることができる。ガラス繊維の含有量は、好ましくは60質量部以上、より好ましくは70質量部以上、特に80質量部以上が好ましく、好ましくは150質量部以下、中でも140質量部以下、130質量部以下、120質量部以下、110質量部以下、特には100質量部以下であることが好ましい。
【0039】
[(E)撥水剤]
本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は、(E)撥水剤を含有している。該撥水剤として臨界表面張力が40mN/m以下である撥水剤を含有することにより、耐候性をさらに向上させるので好ましい。臨界表面張力が低い値であるほど、撥水剤の撥水性がよく、これを含有するポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の耐候性が向上することが見出された。
【0040】
一般に、ある物体の表面にある液体を滴下したときに、接触角θ(液滴が物体の表面の界面でなす角度)がθ=0°になるような液体の表面張力を、その物体の臨界表面張力という。従って、撥水剤の臨界表面張力は、撥水剤から成形された成形体の表面に滴下された液体の接触角θが0°になるような液体の表面張力である。なお、前記成形体はフィルム状であってもよい。
例えば前記成形体を温度23℃、湿度60%RHの恒温室内で24時間静置して状態を調整した後、接触角計(協和界面科学社製「DropMaster DM500」)にて、表面張力の異なる複数の液体で接触角θを測定し、Zismanプロットを作成し、cosθ=1(θ=0°)になる値、すなわち臨界表面張力を求めることが出来る。
(E)撥水剤の臨界表面張力が40mN/m以下であると、撥水剤の接触角θが大きくなり、撥水効果が大きく、これが耐候性が良くなる理由と考えられる。
【0041】
(E)撥水剤として、好ましい例はシリコーン系撥水剤であり、特に好ましくは、ベースとなる樹脂中にシリコーン樹脂を含有する組成物からなるものが好ましい。シリコーン樹脂としては、オルガノポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン等が挙げられ、中でも、ジメチルポリシロキサンが好適に用いられる。ベースとなる樹脂としては、熱可塑性樹脂、例えば低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等、各種のポリオレフィン系樹脂等が好ましく挙げられる。
【0042】
(E)撥水剤として、特に好ましいのはポリテトラフルオロエチレンである。
ポリテトラフルオロエチレンとしては、フィブリル形成能を有するものが好ましい。フィブリル化したポリテトラフルオロエチレンは耐候性の向上効果が大であり、またその補強効果によって耐衝撃性を向上させることができる。
【0043】
ポリテトラフルオロエチレンは、共重合成分としてヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、フルオロアルキルエチレン及びパーフルオロアルキルビニルエーテル等の含フッ素オレフィン、パーフルオロアルキル(メタ)アクリレート等の含フッ素アルキル(メタ)アクリレート等を用いることができる。このような共重合成分の含有量は、ポリテトラフルオロエチレン中の全テトラフルオロエチレンに対して、好ましくは10質量%以下である。
【0044】
なお、ポリテトラフルオロエチレンには懸濁重合と乳化重合の2種の製法があり、懸濁重合品と乳化重合品では、懸濁重合品の方が、押出時にポリテトラフルオロエチレンが凝集しにくく、凝集による耐衝撃性の低下を起こしにくい点で好ましい。
【0045】
また、ポリテトラフルオロエチレンとして、有機重合体で被覆されたポリテトラフルオロエチレンを使用することもできる。有機重合体被覆ポリテトラフルオロエチレン(あるいはポリテトラフルオロエチレン-有機重合体複合物ともいう。)は、公知の種々の方法により製造でき、例えば(i)ポリテトラフルオロエチレン粒子水性分散液と有機系重合体粒子水性分散液とを混合して、凝固またはスプレードライにより粉体化して製造する方法、(ii)ポリテトラフルオロエチレン粒子水性分散液存在下で、有機系重合体を構成する単量体を重合した後、凝固またはスプレードライにより粉体化して製造する方法、(iii)ポリテトラフルオロエチレン粒子水性分散液と有機系重合体粒子水性分散液とを混合した分散液中で、エチレン性不飽和結合を有する単量体を乳化重合した後、凝固またはスプレードライにより粉体化して製造する方法、等が挙げられる。
ポリテトラフルオロエチレンを被覆する有機系重合体としては、スチレン、(メタ)アルキルアクリレート、アクリロニトリル等の一種または2種以上の単量体からなる重合体、エラストマー等が挙げられる。
【0046】
しかし、ポリテトラフルオロエチレンは、有機重合体で被覆されていないポリテトラフルオロエチレンの方が、耐衝撃性の改良効果が大きいことから、好ましい。
【0047】
ポリテトラフルオロエチレンはD[3,2]粒径が0.01~300μmの範囲にあることが、ポリテトラフルオロエチレンの分散性が高まるため、ポリテトラフルオロエチレンの凝集による耐衝撃性の低下を抑制する点から好ましく、より好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは1μm以上、一層好ましくは10μm以上、より一層好ましくは12μm以上であり、好ましくは200μm以下、さらに好ましくは100μm以下、中でも40μm以下、特には30μm以下、さらには20μm以下であることが好ましい。
ポリテトラフルオロエチレンのD[3,2]粒径は、本発明においては溶融混練前の原料のD[3,2]粒径である。
【0048】
ポリテトラフルオロエチレンは、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で併用してもよい。
【0049】
(E)撥水剤の含有量は、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、0.01~2質量部であり、好ましくは0.03質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、特に0.08質量部以上が好ましく、好ましくは1.5質量部以下、中でも1質量部以下、0.8質量部以下、0.5質量部以下、特には0.4質量部以下が好ましい。
また、(E)撥水剤の含有量と(B)カルボン酸アルカリ金属塩の含有量の比、(E)撥水剤/(B)カルボン酸アルカリ金属塩は0.01以上、好ましくは0.1以上、0.2以上が耐加水分解性を良好にすることからより好ましく、5以下、好ましくは2以下、1.3以下が成形品外観を良好にするためさらに好ましい。
【0050】
[安定剤]
本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は、安定剤を含有することが、さらに色相の悪化を防止やさらなる熱安定性の向上、あるいは機械的強度低下を防止するので好ましい。
安定剤としては、リン系安定剤およびフェノール系安定剤が好ましい。
【0051】
リン系安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜リン酸エステル、リン酸エステル等が挙げられ、中でも有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物又は有機ホスホナイト化合物が好ましい。
【0052】
有機ホスフェート化合物としては、好ましくは、下記一般式:
(R1O)3-nP(=O)OHn
(式中、R1は、アルキル基又はアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。nは0~2の整数を示す。)
で表される化合物またはその金属塩が挙げられる。より好ましくは、R1が炭素原子数8~30の長鎖アルキルアシッドホスフェート化合物が挙げられる。炭素原子数8~30のアルキル基の具体例としては、オクチル基、2-エチルヘキシル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、トリアコンチル基等が挙げられる。金属塩としてはアルカリ土類金属や亜鉛、鉛、錫の塩、特には亜鉛塩が好ましい。
【0053】
長鎖アルキルアシッドホスフェート化合物としては、例えば、オクチルアシッドホスフェート、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、デシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、オクタデシルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ベヘニルアシッドホスフェート、フェニルアシッドホスフェート、ノニルフェニルアシッドホスフェート、シクロヘキシルアシッドホスフェート、フェノキシエチルアシッドホスフェート、アルコキシポリエチレングリコールアシッドホスフェート、ビスフェノールAアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、ジプロピルアシッドホスフェート、ジイソプロピルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジ-2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジラウリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、ジフェニルアシッドホスフェート、ビスノニルフェニルアシッドホスフェート等又はその金属塩が挙げられる。これらの中でも、オクタデシルアシッドホスフェートが好ましく、このものは例えばADEKA社の商品名「アデカスタブ AX-71」(オクタデシルアシッドホスフェート)、城北化学工業社製の商品名「JP-518Zn」(オクタデシルアシッドホスフェートZn塩)等として市販されている。
【0054】
有機ホスファイト化合物としては、好ましくは、下記一般式:
R2O-P(OR3)(OR4)
(式中、R2、R3及びR4は、それぞれ水素原子、炭素原子数1~30のアルキル基又は炭素原子数6~30のアリール基であり、R2、R3及びR4のうちの少なくとも1つは炭素原子数6~30のアリール基である。)
で表される化合物が挙げられる。
【0055】
有機ホスファイト化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイト、トリエチルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(2-エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、モノフェニルジデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、水添ビスフェノールAフェノールホスファイトポリマー、ジフェニルハイドロジェンホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニルジ(トリデシル)ホスファイト)、テトラ(トリデシル)4,4’-イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジラウリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(4-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、水添ビスフェノールAペンタエリスリトールホスファイトポリマー、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。これらの中でも、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく、このものは、例えばADEKA社製、商品名「PEP-36」として市販されている。
【0056】
有機ホスホナイト化合物としては、好ましくは、下記一般式:
R5-P(OR6)(OR7)
(式中、R5、R6及びR7は、それぞれ水素原子、炭素原子数1~30のアルキル基又は炭素原子数6~30のアリール基であり、R5、R6及びR7のうちの少なくとも1つは炭素原子数6~30のアリール基である。)
で表される化合物が挙げられる。
【0057】
有機ホスホナイト化合物としては、テトラキス(2,4-ジ-iso-プロピルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-n-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-iso-プロピルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-n-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、およびテトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト等が挙げられる。
【0058】
フェノール系安定剤としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-ネオペンチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)等が挙げられる。
【0059】
中でも、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。このようなフェノール系酸化防止剤としては、具体的には、例えば、BASF社製(商品名、以下同じ)「イルガノックス1010」、「イルガノックス1076」、ADEKA社製「アデカスタブAO-50」、「アデカスタブAO-60」等が挙げられる。
【0060】
安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0061】
安定剤の含有量は、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、好ましくは0.001~1質量部である。安定剤の含有量が0.001質量部未満であると、樹脂組成物の熱安定性や相溶性の改良が期待しにくく、成形時の分子量の低下や色相悪化が起こりやすく、1質量部を超えると、過剰量となりシルバーの発生や、色相悪化が更に起こりやすくなる傾向がある。安定剤の含有量は、より好ましくは0.001~0.7質量部であり、更に好ましくは、0.005~0.6質量部である。
【0062】
[離型剤]
本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は、離型剤を含有することが好ましい。
離型剤としては、ポリエステル樹脂に通常使用される既知の離型剤が利用可能であるが、中でも、脂肪族カルボン酸アミド、ポリオレフィン系化合物、脂肪酸エステル系化合物などが挙げられる。これらの離型剤の中では、ポリオレフィン系化合物または、脂肪族カルボン酸アミド系化合物が好ましく、特に、脂肪族カルボン酸アミドは離型性が良好であり、かつ耐候試験後の変色が小さいことから好ましい。
【0063】
ポリオレフィン系化合物としては、パラフィンワックス及びポリエチレンワックスから選ばれる化合物が挙げられ、中でも、重量平均分子量が、700~10000、更には900~8000のものが好ましい。
【0064】
脂肪酸エステル系化合物としては、飽和又は不飽和の1価又は2価の脂肪族カルボン酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類等の脂肪酸エステル類やその部分鹸化物等が挙げられる。中でも、炭素数11~28、好ましくは炭素数17~21の脂肪酸とアルコールで構成されるモノ又はジ脂肪酸エステルが好ましい。
【0065】
脂肪酸としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸等が挙げられる。また、脂肪酸は、脂環式であってもよい。
【0066】
アルコールとしては、飽和又は不飽和の1価又は多価アルコールを挙げることができる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の1価又は多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和1価アルコール又は多価アルコールが更に好ましい。ここで脂肪族とは、脂環式化合物も含有する。
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2-ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0067】
なお、上記のエステル化合物は、不純物として脂肪族カルボン酸及び/又はアルコールを含有していてもよく、複数の化合物の混合物であってもよい。
【0068】
脂肪酸エステル系化合物の具体例としては、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンジベヘネート、グリセリン-12-ヒドロキシモノステアレート、ソルビタンモノベヘネート、ぺンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ステアリルステアレート、エチレングリコールモンタン酸エステル等が挙げられる。
【0069】
脂肪族カルボン酸アミドとしては、例えば、高級脂肪族モノカルボン酸および/または多塩基酸とジアミンとの脱水反応によって得られる化合物が挙げられる。
【0070】
高級脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数16以上の飽和脂肪族モノカルボン酸およびヒドロキシカルボン酸が好ましく、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、12-ヒドロキシステアリン酸などが挙げられる。
【0071】
多塩基酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ピメリン酸、アゼライン酸などの脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキシルコハク酸などの脂環族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0072】
ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、トリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、フェニレンジアミン、イソホロンジアミン等が挙げられる。
【0073】
カルボン酸アミド系化合物としては、ステアリン酸とセバシン酸とエチレンジアミンを重縮合してなる化合物が好ましく、ステアリン酸2モルとセバシン酸1モルとエチレンジアミン2モルを重縮合させた化合物がさらに好ましい。また、N,N’-メチレンビスステアリン酸アミドやN,N’-エチレンビスステアリン酸アミドのようなジアミンと脂肪族カルボン酸とを反応させて得られるビスアミド系化合物の他、N,N’-ジオクタデシルテレフタル酸アミド等のジカルボン酸アミド化合物も好適に使用し得る。
【0074】
離型剤の含有量は、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1~3質量部であるが、0.2~2.5質量部であることがより好ましく、更に好ましくは0.5~2質量部である。0.1質量部未満であると、溶融成形時の離型不良により表面性が低下しやすく、一方、3質量部を超えると、樹脂組成物の練り込み作業性が低下しやすく、また成形体の外観が悪化しやすい。
【0075】
[エポキシ化合物]
本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は、エポキシ化合物を含有することが好ましい。
エポキシ化合物としては、1分子中に1個以上のエポキシ基を有するものであればよく、通常はアルコール、フェノール類又はカルボン酸等とエピクロロヒドリンとの反応物であるグリシジル化合物や、オレフィン性二重結合をエポキシ化した化合物を用いればよい。
エポキシ化合物としては、ポリエステル樹脂に通常使用される既知の化合物が利用可能であるが、中でも、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、グリシジルエーテル類、グリシジルエステル類、エポキシ化ブタジエン重合体、レゾルシン型エポキシ化合物等が挙げられる。これらのエポキシ化合物の中では、特に、ビスフェノールA型エポキシ化合物が好ましい。
【0076】
ビスフェノールA型エポキシ化合物としては、ビスフェノールA-ジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA-ジグリシジルエーテル等が挙げられ、ビスフェノールF型エポキシ化合物としては、ビスフェノールF-ジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールF-ジグリシジルエーテル等が挙げられる。
ノボラック型エポキシ化合物としては、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物等を例示できる。
【0077】
脂環式エポキシ化合物の例としては、ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシド、3,4-エポキシシクロヘキシル-3,4-シクロヘキシルカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンジエポキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0078】
グリシジルエーテル類の具体例としては、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のモノグリシジルエーテル;ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル等のジグリシジルエーテル類が挙げられる。
【0079】
グリシジルエステル類としては、安息香酸グリシジルエステル、ソルビン酸グリシジルエステル等のモノグリシジルエステル類;アジピン酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、オルトフタル酸ジグリシジルエステル等のジグリシジルエステル類等が挙げられる。
【0080】
エポキシ化ブタジエン重合体としては、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化スチレン-ブタジエン系共重合体、エポキシ化水素化スチレン-ブタジエン系共重合体等を例示できる。
レゾルシン型エポキシ化合物としてはレゾルシンジグリシジルエーテル等が例示できる。
【0081】
また、エポキシ化合物は、グリシジル基含有化合物を一方の成分とする共重合体であってもよい。例えばα,β-不飽和酸のグリシジルエステルと、α-オレフィン、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステルからなる群より選ばれる一種または二種以上のモノマーとの共重合体が挙げられる。
【0082】
また、エポキシ化合物としては、エポキシ当量50~10000g/eq、重量平均分子量8000以下のエポキシ化合物が好ましい。エポキシ当量が50g/eq未満のものは、エポキシ基の量が多すぎるため樹脂組成物の粘度が高くなり、逆にエポキシ当量が10000g/eqを超えるものは、エポキシ基の量が少なくなるため、ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の耐加水分解性を向上させる効果が十分に発現しにくい傾向にある。エポキシ当量は、好ましくは、100g/eq以上であり、更に好ましくは120g/eq以上であり、更に好ましくは、150g/eq以上であり、最も好ましくは、170g/eq以上である。好ましくは、7000g/eq以下であり、更に好ましくは、5000g/eq以下であり、更に好ましくは1000g/eq以下であり、より好ましくは500g/eq以下であり、より好ましくは300g/eq以下であり、最も好ましくは200g/eq以下である。また、重量平均分子量が8000を超えるものは、ポリエチレンテレフタレート樹脂との相溶性が低下し、成形品の機械的強度が低下する傾向にある。重量平均分子量は、より好ましくは7000以下であり、さらに好ましくは6000以下であり、さらに好ましくは3000以下であり、さらに好ましくは1000以下であり、さらに好ましくは500以下であり、最も好ましくは400以下である。
【0083】
エポキシ化合物としては、ビスフェノールAやノボラックとエピクロロヒドリンとの反応から得られる、ビスフェノールA型エポキシ化合物やノボラック型エポキシ化合物が好ましい。中でも、ビスフェノールA型エポキシ化合物が、耐加水分解性、耐候試験後の変色、成形品の表面外観の点から特に好ましい。
【0084】
エポキシ化合物を含有する場合の含有量は、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、好ましくは0.1~4質量部であり、0.2質量部以上がより好ましく、中でも0.3質量部以上、0.4質量部以上、0.5質量部以上、最も好ましくは0.6質量部以上である。また、3.5質量部以下がより好ましく、3質量部以下がさらに好ましく、中でも2.0質量部以下、特に1.0質量部以下が好ましい。エポキシ化合物が0.1質量部以上であれば、成形品の機械的強度が向上するために好ましい。エポキシ化合物の含有量が4質量部より多いと架橋化が進行し成形時の流動性が悪くなりやすい。
【0085】
さらに、ポリエチレンテレフタレート樹脂の末端COOH基に対するエポキシ化合物のエポキシ基の当量比(エポキシ基/COOH基)は、0.2~2.7の範囲にあることが好ましい。当量比が0.2を下回ると耐加水分解性が悪くなりやすく、2.7を上回ると成形性が不安定となりやすい。エポキシ基/COOH基は、より好ましくは0.3以上であり、2.5以下である。
【0086】
[その他成分]
本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物には、必要に応じて本発明の効果を阻害しない範囲内で、上記した以外の他の樹脂添加剤を含有することもできる。他の樹脂添加剤としては、紫外線吸収剤、カーボンブラック以外の顔料、滑剤、触媒失活剤、帯電防止剤、発泡剤、可塑剤、難燃剤、難燃助剤等が挙げられる。
【0087】
本発明において、ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物には、必要に応じて本発明の効果を阻害しない範囲内で、前記した樹脂以外の、他の熱可塑性樹脂等を含有することができる。他の熱可塑性樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。これらは、1種でも2種類以上であってもよい。
【0088】
ただし、前記した必須成分の樹脂以外の他の樹脂を含有する場合の含有量は、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、30質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは25質量部以下、さらには20質量部以下、中でも10質量部以下、特には5質量部以下、2質量部以下とすることが最も好ましい。
【0089】
[ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の製造]
ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物を製造するには、特定の方法に限定されるものではないが、前記した必須成分、並びに、必要に応じて配合されるその他成分を混合し、次いで溶融・混練する。
カーボンブラックの分散性、成形体の耐候試験後の退色、引張強度、曲げ強度、シャルピー衝撃強度等の機械的物性の点から、(C)カーボンブラックを配合する際は、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂に、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂と(C)カーボンブラックとを含有する着色剤組成物、即ちマスターバッチとして配合することが好ましい。
【0090】
溶融・混練方法としては、例えば、前記した必須成分、並びに、必要に応じて配合されるその他の成分をヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、V型ブレンダー、タンブラー等により均一に混合した後、一軸又は多軸混練押出機、ロール、バンバリーミキサー、ラボプラストミル(ブラベンダー)等で溶融・混練する方法が挙げられる。溶融混練する際の温度は200~300℃の範囲が好ましく、220~290℃の範囲がより好ましい。
また、押出機を用いて製造する場合は、該押出機が2以上のベントを有していることが、成形体の引張強度、曲げ強度、シャルピー衝撃強度等の機械的物性の点から好ましい。
本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の結晶化温度は、200~230℃であるのが成形体の外観及び機械的物性が良好となる点から好ましい。特に207~210℃であるのが好ましい。
【0091】
[成形体]
上記したポリエチレンテレフタレート樹脂組成物を用いて成形体を製造する方法は、ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用でき、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、インサート成形法、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法等が挙げられるが、射出成形法が特に好ましい。
【0092】
成形体としては、射出成形体、押出成形体、シート、パイプ、各種フィルム等が挙げられる。これら成形体の形状、大きさ、厚み等は任意である。
成形体は、成形体の表面の水に対する接触角が80°以上であるのが好ましい。接触角が80°以上であるとより撥水効果が大きく、耐候性が良好となる。
【0093】
成形体としては、電気電子部品、自動車部品その他の電装部品、機械部品、家電製品の部品として、利用できる。そして、本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は耐候性に優れ、耐衝撃性や外観にも優れるので、屋外で使用される製品、特に自動車用外装部品、例えば、グレージング、アウターハンドル、ドアミラースティ、フェンダー、ガーニッシュ、バンパー、ルーフレール等に好適に使用できる。
【実施例】
【0094】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の記載例に限定して解釈されるものではない。
【0095】
以下の実施例及び比較例で使用した原料は、以下の表1、2の通りである。
【0096】
【0097】
【0098】
(実施例1~21、比較例1~9)
[ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物ペレットの製造]
上記表1、2に記した各成分のうち、ガラス繊維以外の各成分を表3~6に記した割合(質量比)で配合し、タンブラーミキサーにて20分均一に混合した後、日本製鋼所社製二軸押出機「TEX30α」に供給するとともに、表3~6に記載した割合でガラス繊維を二軸押出機途中より溶融樹脂中へサイドフィードで供給した。また、押出機中のサイドフィーダー上流側、下流側に1つずつ真空ベントを設置し、それぞれ真空度-0.08MPa(ゲージ圧)でベントした。
スクリュー回転数300rpm、バレル温度280℃の条件で混練し、ストランド状に押出された溶融樹脂を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化し、ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを得た。
【0099】
(実施例22)
[ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物ペレットの製造]
前記表1、2に記した各成分のうち、ガラス繊維以外の各成分を表5に記した割合(質量比)で配合し、タンブラーミキサーにて20分均一に混合した後、日本製鋼所社製二軸押出機「TEX30α」に供給するとともに、表5に記載した割合でガラス繊維を二軸押出機途中より溶融樹脂中へサイドフィードで供給した。また、押出機中の真空ベントはサイドフィーダーの上流側、下流側に1つずつ真空ベントを設置し、上流側ベンドを開放(ゲージ圧:0MPa)し、下流側ベントを真空度-0.08MPa(ゲージ圧)でベントした。
スクリュー回転数300rpm、バレル温度280℃の条件で混練し、ストランド状に押出された溶融樹脂を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化し、ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを得た。
【0100】
[ハコ型離型性:最大離型抵抗値]
上記で得られたペレットを130℃で5時間乾燥させた後、日本製鋼所社製射出成形機(型締め力50T)を用い、シリンダー温度290℃、金型温度143℃、冷却時間20秒の条件にて、厚み1.5mmt、外寸30×50×15mm深さで表面がシボ加工(シボ高さ15μmのシボ加工)された箱型成形品を成形し、イジェクターピンの突出しで離型させた時の最大離型抵抗値(単位:MPa)を離型抵抗として評価した。最大離型抵抗値が10MPa以下であれば、実製品としたときに問題ないレベルと判断できる。
【0101】
[引張強さ]
上記で得られた樹脂組成物ペレットを、130℃で5時間乾燥した後、射出成形機(日精樹脂工業社製「J-85AD-60H」)にて、シリンダー温度280℃、金型温度140℃の条件下で、ISO多目的試験片(4mm厚)を射出成形した。
上記で得られたISO多目的試験片について、ISO規格527-1およびISO527-2に準拠して、引張強さ(単位:MPa)を測定した。
【0102】
[加水分解処理後の引張強さ]
上記で得られた多目的試験片(4mm厚み)を高加速寿命試験装置(平山社製PC-R8D)を用い、121℃、2atm、100%RHで25時間処理後、JIS K7161の規格に基づいて湿熱試験後の引張さ(単位:MPa)を測定した。
以下のA、Bの2段階で評価判定した。
A:加水分解処理後の引張強さが67MPa以上であるもの
B:加水分解処理後の引張強さが67MPa未満であるもの
【0103】
[ノッチ付きシャルピー衝撃強度(単位:kJ/m2)]
得られたペレットを130℃で5時間乾燥後、日本製鋼所社製射出成形機「J-85AD-60H」を使用して、シリンダー温度280℃、金型温度140℃の条件で、ISO多目的試験片(厚さ4mm)を成形した。その後、ISO179に準拠して、得られた多目的試験片を用いてノッチ付きシャルピー衝撃試験用の試験片を作成し、常温(23℃)でのノッチ付シャルピー衝撃強度を測定した。
ノッチ付シャルピー衝撃強度が9kJ/m2以上で高いものを「A」
9kJ/m2未満で低いものを「B」として、2段階で評価判定した。
【0104】
[ノッチ無しシャルピー衝撃強度(単位:kJ/m2)]
得られたペレットを130℃で5時間乾燥後、日本製鋼所社製射出成形機「J-85AD-60H」を使用して、シリンダー温度280℃、金型温度140℃の条件で、ISO多目的試験片(厚さ4mm)を成形した。その後、ISO179に準拠して、得られた多目的試験片を用いてノッチ付きシャルピー衝撃試験用の試験片を作成し、常温(23℃)でのノッチ無しシャルピー衝撃強さを測定した。
ノッチ無しシャルピー衝撃強さが、44kJ/m2以上で高いものを「A」
44kJ/m2未満で低いものを「B」として、2段階で評価判定した。
【0105】
[耐候試験後変色性(ΔE*)]
得られたペレットを130℃で5時間乾燥後、日本製鋼所社製射出成形機「J-100AD-60H」を用い、シリンダー温度280℃の条件で、シボ付き試験片(縦60mm×横60mm×厚み2mm及びシボ高さ15μmのシート)を射出成形した。スガ試験機株式会社製「サンシャインウェザオ試験機」を使用して、ブラックパネル温度63℃、120分間に18分間連続して雨を降らせることを1サイクル(2時間)とし、シボ面を表としてセットし、所定の時間で取り出した。分光測色色差計(コニカミノルタ社製「CM-3600d」)を使用し、その試験片の耐光性試験前と試験後のSCI法に基づく色差(ΔE*)を次式で評価した。
ΔE*=((ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2)1/2
ΔE*が小さいほど変色性が小さく耐熱変色性に優れており、以下の基準で評価判定した。
以下のA-Cの3段階で、評価判定した。
A:耐候試験後のΔE*が8.5以下
B:ΔE*が8.5超、9.0未満
C:ΔE*が9以上
【0106】
[耐候試験後の表面状態]
耐候試験後の試験片の表面状態を、目視観察により、耐候試験前の試験片と比較し、以下の基準で評価判定した。
以下のA-Cの3段階で、評価判定した。
A:色変化が小さく、ガラス繊維に浮きもない
B:色変化は小さいが、耐候試験前と比較し、ガラス繊維の浮き量が増大している
C:色変化が大である
【0107】
[DSCを用いた結晶化温度測定]
ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の結晶化温度を、JIS K7121に基づいて示差走査熱量測定機(DSC)を用いて測定した。窒素雰囲気下で40℃から300℃まで昇温速度20℃/分で昇温し、300℃で3分保持した後、降温速度-20℃/分で40℃まで降温した。昇温時の結晶化による最大ピークの温度を結晶化温度Tcとして求めた。融解時のピークより融点Tmを求めた。示差走査熱量測定機は、(株)日立ハイテクサイエンス社製「DSC7020」を用いた。
【0108】
[撥水性]
得られたペレットを130℃で5時間乾燥後、日本製鋼所社製射出成形機「J-100AD-60H」を用い、シリンダー温度280℃の条件で、試験片(縦60mm×横60mm×厚み2mm、表面が平滑な試験片)を射出成形した。成形品を温度23℃、湿度60%RHの恒温室内で24時間静置して状態を調整した後、接触角計(共和界面科学社製「DropMaster DM500」にて、純水1μLを滴下して接触角を測定した。
【0109】
[成形品の外観]
得られたペレットを130℃で5時間乾燥後、日本製鋼所社製射出成形機「J-100AD-60H」を用い、シリンダー温度280℃の条件で、シボ付き試験片(縦60mm×横60mm×厚み2mm及びシボ高さ15μmのシート)を射出成形した。成形品のシボ面を確認し、シボ転写性を確認した。
以下のA-Cの3段階で、評価判定した。
A:全てのシボが転写されており、エジェクターピンの跡も付いていないもの
B:全てのシボが転写されているものの、エジェクターピンの跡が付いているもの
C:一部シボに潰れが見られ、表面が光沢を帯びているものまたは、エジェクターピンの跡が付いているもの。
【0110】
[総合評価]
上記ノッチ付きシャルピー衝撃強度、耐候試験後変色性及び耐候試験後の表面状態の3項目の評価結果から、総合評価として、以下のAからEの5段階で評価判定した。
A:Aが3つ
B:耐候試験後変色性と耐候試験後の表面状態の評価がどちらもAで、ノッチ付きシャルピー衝撃強度の評価がB
C:耐候試験後変色性または耐候試験後の表面状態の評価のどちらかがAでどちらかがB
D:Aが1つ、Cが2つ
E:Aがない
以上の結果を、下記の表3以下に示す。
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は、耐候性に優れるので、屋外で使用される部品、特に車両用外装部品等に好適に使用できる。