(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】正極活物質およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240918BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240918BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
(21)【出願番号】P 2023544137
(86)(22)【出願日】2022-02-03
(86)【国際出願番号】 KR2022001710
(87)【国際公開番号】W WO2022169270
(87)【国際公開日】2022-08-11
【審査請求日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】10-2021-0017094
(32)【優先日】2021-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ジ・フン・ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ヒョク・イ
(72)【発明者】
【氏名】ウォン・シグ・ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ドゥク・ギュン・モク
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-259605(JP,A)
【文献】特開2019-149349(JP,A)
【文献】特開2015-072800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13- 4/62
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム以外の遷移金属の全モル数に対して60モル%以上のニッケルを含み、一次粒子が凝集した二次粒子の形状であるリチウム遷移金属酸化物を含み、
前記リチウム遷移金属酸化物は、下記式1を満たす、正極活物質:
[式1]
【数1】
前記式1中、
前記x、yは、前記二次粒子の断面SEMイメージ分析から得られ、前記xは、前記二次粒子の内部に分布する閉鎖型空隙のうち面積が0.002μm
2を超える空隙をすべて含む長方形の最小面積(単位:μm
2)であり、前記yは、前記二次粒子の内部に分布する閉鎖型空隙のうち面積が0.002μm
2を超える空隙の面積(単位:μm
2)の総和である。
【請求項2】
前記式1において、20≦x≦400である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記式1において、0.01≦y≦5.0である、請求項1または2に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記二次粒子の内部に分布する閉鎖型空隙のうち面積が0.002μm
2を超える空隙の平均空隙面積が、0.01μm
2/個~0.1μm
2/個である、請求項1から3のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記リチウム遷移金属酸化物は、下記化学式1で表される組成を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の正極活物質:
[化学式1]
Li
aNi
x1Co
y1M1
z1M2
w1O
2
前記化学式1中、M1は、MnおよびAlから選択される一つ以上であり、M2は、B、Zr、Y、Mo、Cr、V、W、TaおよびNbから選択される一つ以上であり、0.9≦a≦1.2、0.6≦x1≦1.0、0≦y1≦0.4、0≦z1≦0.4、0≦w1≦0.2であり、x1+y1+z1+w1=1である。
【請求項6】
前記化学式1において、0.85≦x1<1.0、0<y1<0.15、0<z1<0.15である、請求項5に記載の正極活物質。
【請求項7】
(A)遷移金属の全モル数に対して60モル%以上のニッケルを含み、一次粒子が凝集した二次粒子の形状である遷移金属水酸化物を含み、結晶粒のアスペクト比が4.0~10.0である正極活物質前駆体を準備するステップと、
(B)前記正極活物質前駆体とリチウム含有原料物質を混合し焼成して、リチウム遷移金属酸化物を製造するステップとを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記遷移金属水酸化物は、下記化学式2で表される組成を有する、請求項7に記載の正極活物質の製造方法:
[化学式2]
Ni
x2Co
y2M1’
z2M2’
w2(OH)
2
前記化学式2中、M1'は、MnおよびAlから選択される一つ以上であり、M2'は、B、Zr、Y、Mo、Cr、V、W、TaおよびNbから選択される一つ以上であり、0.6≦x2≦1.0、0≦y2≦0.4、0≦z2≦0.4、0≦w2≦0.2であり、x2+y2+z2+w2=1である。
【請求項9】
前記化学式1において、0.85≦x2<1.0、0<y2<0.15、0<z2<0.15である、請求項8に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項10】
請求項1から6のいずれか一項に記載の正極活物質を含む、リチウム二次電池用正極。
【請求項11】
請求項10に記載の正極を含む、リチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年2月5日付けの韓国特許出願第10-2021-0017094号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されている全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、正極活物質およびその製造方法に関し、より具体的には、結晶粒のアスペクト比が制御された正極活物質前駆体から製造されて二次粒子に含まれる空隙が特定の条件を満たす正極活物質、その製造方法および前記正極活物質を含む正極およびリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
モバイル機器に関する技術開発と需要の増加に伴い、エネルギー源として二次電池の需要が急激に増加している。このような二次電池のうち、高いエネルギー密度と電圧を有し、サイクル寿命が長く、自己放電率が低いリチウム二次電池が商用化し、広く使用されている。
【0004】
リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウム遷移金属酸化物が用いられており、中でも、作用電圧が高く容量特性に優れたLiCoO2のリチウムコバルト酸化物が主に使用されている。しかし、LiCoO2は、脱リチウムによる結晶構造の不安定化のため、熱的特性が非常に劣っており、また、高価であるため、電気自動車などの分野における動力源として大量使用するには限界がある。
【0005】
前記LiCoO2の代わりに使用するための材料として、リチウムマンガン複合金属酸化物(LiMnO2またはLiMn2O4など)、リチウムリン酸鉄化合物(LiFePO4など)またはリチウムニッケル複合金属酸化物(LiNiO2など)などが開発されている。中でも、約200mAh/gの高い可逆容量を有することから大容量の電池の実現が容易なリチウムニッケル複合金属酸化物に関する研究開発がより活発になされている。しかし、前記LiNiO2は、LiCoO2に比べて熱安定性が劣り、充電状態で外部からの圧力などによって内部短絡が生じると、正極活物質自体が分解し、電池の破裂および発火を引き起こす問題があった。そのため、LiNiO2の優れた可逆容量は維持し、且つ低い熱安定性を改善するための方法として、ニッケルの一部をコバルトで置換したLiNi1-αCoαO2(α=0.1~0.3)またはニッケルの一部をMn、CoまたはAlで置換したリチウムニッケルコバルト金属酸化物が開発されている。最近、Li[NiaCobMnc]O2、Li[NiaCobAlc]O2、Li[NiaCobMncAld]O2のように、2種以上の遷移金属を含むリチウム複合遷移金属酸化物が開発され広く使用されている。
【0006】
前記2種以上の遷移金属を含むリチウム複合遷移金属酸化物は、通常、数十個~数百個の一次粒子が凝集した球状の二次粒子の形状に製造され、前記二次粒子は空隙を含むが、二次粒子の空隙のサイズ、分布などに応じて、電解質との接触面積の変化による反応性および粒子の強度など正極活物質の物性が変化する。そのため、BET分析、水銀圧入法などにより二次粒子に含まれる空隙を分析し、これを用いて正極活物質の性能を向上しようとする研究が試みられている。
【0007】
しかし、BET分析、水銀圧入法などによる空隙分析の場合、二次粒子に含まれる空隙のサイズは測定が可能であるが、二次粒子内に空隙がどのように位置するかは知ることができず、正極活物質の性能の制御が難しいという問題がある。
【0008】
したがって、より優れた特性を有する正極活物質を開発するためには、二次粒子に含まれる空隙のサイズだけでなく、空隙の位置が制御された正極活物質の開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、二次粒子に含まれる空隙が特定の条件を満たし、電池の初期容量特性を改善することができる正極活物質を提供することである。
【0010】
また、本発明の他の課題は、結晶粒のアスペクト比が特定の条件を満たす正極活物質前駆体を使用して前記正極活物質を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、リチウム以外の遷移金属の全モル数に対して60モル%以上のニッケルを含み、一次粒子が凝集した二次粒子の形状であるリチウム遷移金属酸化物を含み、
前記リチウム遷移金属酸化物は、下記式1を満たす正極活物質を提供する。
[式1]
【数1】
前記式1中、
前記x、yは、前記二次粒子の断面SEMイメージ分析から得られ、前記xは、前記二次粒子の内部に分布する閉鎖型空隙のうち面積が0.002μm
2を超える空隙をすべて含む長方形の最小面積(単位:μm
2)であり、前記yは、前記二次粒子の内部に分布する閉鎖型空隙のうち面積が0.002μm
2を超える空隙の面積(単位:μm
2)の総和である。
【0012】
また、本発明は、(A)遷移金属の全モル数に対して60モル%以上のニッケルを含み、一次粒子が凝集した二次粒子の形状である遷移金属水酸化物を含み、結晶粒のアスペクト比が4.0~10.0である正極活物質前駆体を準備するステップと、
(B)前記正極活物質前駆体とリチウム含有原料物質を混合し焼成して、リチウム遷移金属酸化物を製造するステップとを含む前記正極活物質の製造方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、前記正極活物質を含むリチウム二次電池用正極および前記正極を含むリチウム二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、二次粒子に含まれる空隙が特定の条件を満たして、正極活物質の初期容量特性に優れる。具体的には、正極活物質の初期放電容量および初期充放電効率に優れる。
【0015】
本発明は、結晶粒のアスペクト比が特定の条件を満たす正極活物質前駆体を使用して、二次粒子に含まれる空隙が特定の条件を満たす正極活物質を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施例1で製造した正極活物質のうち一個の二次粒子の断面SEMイメージおよび空隙のサイズ、位置分布を示した図である。
【
図2】本発明の実施例2で製造した正極活物質のうち一個の二次粒子の断面SEMイメージおよび空隙のサイズ、位置分布を示した図である。
【
図3】本発明の比較例1で製造した正極活物質のうち一個の二次粒子の断面SEMイメージおよび空隙のサイズ、位置分布を示した図である。
【
図4】本発明の比較例2で製造した正極活物質のうち一個の二次粒子の断面SEMイメージおよび空隙のサイズ、位置分布を示した図である。
【
図5】本発明の比較例3で製造した正極活物質のうち一個の二次粒子の断面SEMイメージおよび空隙のサイズ、位置分布を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書および特許請求の範囲にて使用されている用語や単語は、通常的もしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適宜定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念に解釈すべきである。
【0018】
本明細書において、「含む」、「備える」または「有する」などの用語は、実施された特徴、数字、ステップ、構成要素またはこれらを組み合わせたものが存在することを指すためのものであって、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、ステップ、構成要素、またはこれらを組み合わせたものなどの存在または付加可能性を予め排除しないものと理解すべきである。
【0019】
本発明において、「結晶粒」は、規則的な原子配列を有する単結晶粒子の単位を意味する。
【0020】
前記結晶粒のサイズは、正極活物質前駆体粉末をX線回折分析して得られたXRDデータをリートベルト解析(Rietveld refinement)方法で分析して測定した値であり、前記結晶粒のアスペクト比は、XRDデータで示されるすべてのピークの半値幅(full width at half-maximum、FWHM)を楕円形モデリング(ellipsoid modelling)を適用して変形したシェラーの式に適用して計算された結晶粒の短軸の長さ(c)に対する長軸の長さ(a)の比(a/c)である。
【0021】
結晶粒のサイズとアスペクト比は、具体的には、下記のような方法で求めることができる。
【0022】
先ず、正極活物質前駆体に対してX線回折分析を行って、XRDデータを得る。この際、前記X線回折分析は、Malyer panalytical社製のEmpyreon XRD装置を用いて、下記のような条件で行われることができる。
【0023】
<X線回折分析の条件>
光源:Cu-ターゲット、45kV、40mA出力
検出器:GaliPIX3D
試料準備:約5g程度の試料を直径2cmのホルダーに充填し、回転ステージ(rotation stage)にロード
測定時間:約30分
測定領域:2θ=15゜~85゜
【0024】
結晶粒径は、Malvern社製のXRDデータrefinementプログラムであるHighscoreを用いて求めることができ、具体的には、XRDデータに示されるすべてのピークの半値幅をCaglioti equationでフィッティング(fitting)して求めることができる。
【0025】
結晶粒のアスペクト比は、正極活物質前駆体をX線回折分析して得られたXRDデータに示されるすべてのピークの半値幅を下記式2に適用した後、最小二乗近似法により得られた短軸の長さcと長軸の長さaから求めることができる。
【0026】
【0027】
前記式2中、d(hkl)は、当該ピークでの半値幅、h、k、lは、当該ピークの結晶面でのミラー指数、Κは、シェラー定数、θは、ブラッグ角(bragg angle)、λは、X線波長、aは、結晶粒の長軸の長さ、cは、結晶粒の短軸の長さである。
【0028】
本発明において、「一次粒子」は、走査電子顕微鏡(SEM)により正極活物質前駆体の断面を観察した時に、1個の塊として区別される最小粒子の単位を意味し、一つの結晶粒からなることもでき、複数個の結晶粒からなることもできる。
【0029】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0030】
本発明者らは、二次粒子に含まれる空隙が特定の条件を満たした時に、本発明による正極活物質を含む電池の初期容量特性を改善することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0031】
正極活物質
本発明による正極活物質は、リチウム以外の遷移金属の全モル数に対して60モル%以上のニッケルを含み、一次粒子が凝集した二次粒子の形状であるリチウム遷移金属酸化物を含み、
前記リチウム遷移金属酸化物は、下記式1を満たす。
【0032】
【0033】
前記式1中、
前記x、yは、前記二次粒子の断面SEMイメージ分析から得られ、前記xは、前記二次粒子の内部に分布する閉鎖型空隙のうち面積が0.002μm2を超える空隙をすべて含む長方形の最小面積(単位:μm2)であり、前記yは、前記二次粒子の内部に分布する閉鎖型空隙のうち面積が0.002μm2を超える空隙の面積(単位:μm2)の総和である。この際、前記x、yは、正極活物質をイオンミリング(Ion milling)で加工した後、SEM(FEI社製、Quanta FEG 250)で空隙を含む二次粒子の断面のSEMイメージを取得し、これをImage J商用プログラムを活用して、Image threshold 1~2%の条件で分析して得ることができる。
【0034】
前記式1の条件を満たす場合、前記正極活物質を含む電池の初期容量特性に優れる。具体的には、前記正極活物質を含む電池の初期放電容量および初期充放電効率に優れる。これは前記式1の条件を満たして、二次粒子の内部に分布する空隙が二次粒子の内部で均一に分布する場合、正極活物質と電解質の接触面積が拡大し、リチウムの挿入および脱離が活発に起こるためである。
【0035】
一方、結晶粒のアスペクト比が特定の条件を満たす正極活物質前駆体を使用して正極活物質を製造する場合、前記リチウム遷移金属酸化物が前記式1の条件を満たすことができる。
【0036】
前記リチウム遷移金属酸化物は、一次粒子が凝集してなる二次粒子の形状を有する。前記リチウム遷移金属酸化物が一次粒子が凝集した二次粒子の形状に形成される場合、高い比表面積を有し、且つ高い圧延密度を実現することができ、これを適用した時に、体積当たりのエネルギー密度を増加させることができる。
【0037】
本発明によると、前記式1中、20≦x≦400、具体的には40≦x≦225、さらに具体的には100≦x≦225であることができる。xが前記範囲内である場合、二次粒子内の空隙が均一に分布される利点がある。
【0038】
本発明によると、前記式1中、0.01≦y≦5.0、具体的には0.05≦y≦3.0、さらに具体的には0.1≦y≦1.5であることができる。yが前記範囲内である場合、適正な空隙を含んで電気化学的活性度を有するとともに粒子強度を確保する利点がある。
【0039】
本発明によると、前記二次粒子の内部に分布する閉鎖型空隙のうち面積が0.002μm2を超える空隙の平均空隙面積が0.01μm2/個~0.1μm2/個であることができる。前記平均空隙面積は、具体的には0.015μm2/個~0.08μm2/個、さらに具体的には0.018μm2/個~0.05μm2/個であることができる。前記平均空隙面積が前記範囲内である場合、正極活物質と電解質の適切な接触面積を確保することができる利点がある。この際、前記平均空隙面積は、前記空隙の面積の総和を空隙個数で除した値を意味する。
【0040】
本発明によると、前記リチウム遷移金属酸化物は、下記化学式1で表される組成を有することができる。
【0041】
[化学式1]
LiaNix1Coy1M1z1M2w1O2
【0042】
前記化学式1中、M1は、MnおよびAlから選択される一つ以上であり、M2は、B、Zr、Y、Mo、Cr、V、W、TaおよびNbから選択される一つ以上であり、0.9≦a≦1.2、0.6≦x1≦1.0、0≦y1≦0.4、0≦z1≦0.4、0≦w1≦0.2であり、x1+y1+z1+w1=1である。
【0043】
前記M1は、具体的にはMnであるか、MnとAlの組み合わせであることができる。
【0044】
前記aは、遷移金属の全モル数に対するLiのモル数の比を示し、0.9≦a≦1.2、具体的には1.0≦a≦1.2、さらに具体的には1.0≦a≦1.1であることができる。
【0045】
前記x1は、遷移金属の全モル数に対するNiのモル数の比を示し、0.6≦x1<1、具体的には0.8≦x1<1、さらに具体的には0.85≦x1<1であることができる。
【0046】
前記y1は、遷移金属の全モル数に対するCoのモル数の比を示し、0≦y1≦0.4、具体的には0<y1<0.2、さらに具体的には0<y1<0.15であることができる。
【0047】
前記z1は、遷移金属の全モル数に対するM1のモル数の比を示し、0≦z1≦0.4、具体的には0<z1<0.2、さらに具体的には0<z1<0.15であることができる。
【0048】
前記w1は、遷移金属の全モル数に対するM2のモル数の比を示し、0≦w1≦0.2、具体的には0≦w1≦0.05であることができる。
【0049】
リチウム遷移金属酸化物が前記化学式1で表される組成を有する時に、高容量特性を示すことができる。
【0050】
一方、本発明による正極活物質は、上述のリチウム遷移金属酸化物の表面にコーティング層をさらに含むことができる。リチウム遷移金属酸化物の表面にコーティング層をさらに含む場合、前記コーティング層によりリチウム遷移金属酸化物と電解液の接触が遮断されて、電解液との副反応による遷移金属の溶出およびガスの発生を減少させることができる。
【0051】
前記コーティング層は、Li、B、W、Al、Zr、Na、S、PおよびCoからなる群から選択される1種以上のコーティング元素を含むことができる。
【0052】
正極活物質の製造方法
本発明による正極活物質の製造方法は、(A)遷移金属の全モル数に対して60モル%以上のニッケルを含み、一次粒子が凝集した二次粒子の形状である遷移金属水酸化物を含み、結晶粒のアスペクト比が4.0~10.0である正極活物質前駆体を準備するステップと、
(B)前記正極活物質前駆体とリチウム含有原料物質を混合し焼成して、リチウム遷移金属酸化物を製造するステップとを含む。
【0053】
本発明による正極活物質の製造方法のように、結晶粒のアスペクト比が特定の条件を満たす正極活物質前駆体を使用する場合、二次粒子に含まれる空隙が特定の条件を満たす正極活物質を製造することができる。具体的には、前記正極活物質前駆体の結晶粒のアスペクト比が4.0~10.0、具体的には4.0~9.0、さらに具体的には4.0~8.0である場合、製造される正極活物質の二次粒子に含まれる空隙が前記式1を満たすことができる。これは、結晶粒のアスペクト比が大きい正極活物質前駆体とリチウム含有原料物質をともに焼成する時に、正極活物質前駆体の二次粒子の内部および表面部に存在する一次粒子の結晶化および結晶成長が均一に行われるためである。
【0054】
前記正極活物質前駆体の結晶粒のアスペクト比が4.0未満の場合には、正極活物質の二次粒子内の空隙が均一に分布しない問題があり、10.0超の場合には、正極活物質が過剰な空隙を含むようになる問題がある。
【0055】
一方、前記正極活物質前駆体の結晶粒のアスペクト比は、正極活物質前駆体の製造時に、アンモニア/遷移金属の投入モル比、共沈反応時の温度、遷移金属含有溶液に含まれる遷移金属の全モル数に対するニッケルのモル比および共沈反応時のpH条件などに応じて制御されることができる。
【0056】
前記遷移金属水酸化物は、一次粒子が凝集してなる二次粒子の形状を有するものである。前記遷移金属水酸化物が一次粒子が凝集した二次粒子の形状に形成される場合、製造される遷移金属酸化物が高い比表面積を有し、且つ高い圧延密度を実現することができる。
【0057】
本発明によると、前記遷移金属水酸化物は、下記化学式2で表される組成を有することができる。
【0058】
[化学式2]
Nix2Coy2M1’z2M2’w2(OH)2
【0059】
前記化学式2中、M1'は、MnおよびAlから選択される一つ以上であり、M2'は、B、Zr、Y、Mo、Cr、V、W、TaおよびNbから選択される一つ以上であり、0.6≦x2≦1.0、0≦y2≦0.4、0≦z2≦0.4、0≦w2≦0.2であり、x2+y2+z2+w2=1である。
【0060】
前記M1は、具体的にはMnであるか、MnとAlの組み合わせであることができる。
【0061】
前記x2は、遷移金属の全モル数に対するNiのモル数の比を示し、0.6≦x2<1、具体的には0.8≦x2<1、さらに具体的には0.85≦x2<1であることができる。
【0062】
前記y2は、遷移金属の全モル数に対するCoのモル数の比を示し、0≦y2≦0.4、具体的には0<y2<0.2、さらに具体的には0<y2<0.15であることができる。
【0063】
前記z2は、遷移金属の全モル数に対するM1のモル数の比を示し、0≦z2≦0.4、具体的には0<z2<0.2、さらに具体的には0<z2<0.15であることができる。
【0064】
前記w2は、遷移金属の全モル数に対するM2のモル数の比を示し、0≦w2≦0.2、具体的には0≦w2≦0.05であることができる。
【0065】
遷移金属水酸化物が前記化学式1で表される組成を有する時に、製造される正極活物質が高容量特性を示すことができる。
【0066】
前記リチウム含有原料物質は、例えば、炭酸リチウム(Li2CO3)、水酸化リチウム(LiOH)、LiNO3、CH3COOLiおよびLi2(COO)2からなる群から選択される少なくとも一つ以上であることができ、好ましくは、炭酸リチウム(Li2CO3)、水酸化リチウム(LiOH)またはこれらの組み合わせであることができる。
【0067】
正極活物質の製造時に、前記正極活物質前駆体とリチウム含有原料物質は、1:1~1:1.2、または1:1~1:1.1のモル比で混合することができる。リチウム含有原料物質が前記範囲内である場合、製造される正極活物質の容量が改善することができ、未反応のLiの副生成物が最小化することができる。
【0068】
前記焼成は、700℃~1000℃の温度で行うことができる。焼成温度が前記範囲内である場合、原料物質間の反応が十分に行われることができ、粒子が均一に成長することができる。
【0069】
前記焼成は、5時間~35時間行うことができる。焼成時間が前記範囲内である場合、高結晶性の正極活物質を得ることができ、粒子のサイズが適当であり、生産効率が改善することができる。
【0070】
本発明による正極活物質の製造方法は、(B)ステップにより製造されたリチウム遷移金属酸化物を水洗溶液で水洗し、乾燥させるステップをさらに含むことができる。前記水洗工程は、(B)ステップにより製造されたリチウム遷移金属酸化物に存在する残留リチウムなどの副生成物を除去するための工程であり、前記乾燥工程は、水洗工程を経て水分を含む正極活物質から水分を除去するための工程である。
【0071】
また、本発明による正極活物質の製造方法は、乾燥したリチウム遷移金属酸化物にコーティング元素含有原料物質を混合し熱処理して、コーティング層を形成するステップをさらに含むことができる。これにより、前記リチウムの遷移金属酸化物の表面にコーティング層が形成された正極活物質を製造することができる。
【0072】
前記コーティング元素含有原料物質に含まれる金属元素は、Zr、B、W、Mo、Cr、Nb、Mg、Hf、Ta、La、Ti、Sr、Ba、Ce、F、P、SおよびYなどであることができる。前記コーティング元素含有原料物質は、前記金属元素を含む酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハライド、硫化物、水酸化物、酸化物またはオキシ水酸化物などであることができる。例えば、前記金属元素がBである場合、ホウ酸(H3BO3)などが使用されることができる。
【0073】
前記コーティング元素含有原料物質は、前記乾燥したリチウム遷移金属酸化物に対して200ppm~2000ppmの重量で含まれることができる。コーティング元素含有原料物質の含量が前記範囲内である場合、電池の容量が改善することができ、生成されたコーティング層が、電解液とリチウム遷移金属酸化物との直接的な反応を抑制して、電池の長期性能特性が改善することができる。
【0074】
前記熱処理は、200℃~400℃の温度で行うことができる。熱処理温度が前記範囲内である場合、遷移金属酸化物の構造的安定性を維持しながらコーティング層を形成させることができる。前記熱処理は、1時間~10時間行うことができる。熱処理時間が前記範囲内である場合、適切なコーティング層が形成されることができ、生産効率が改善することができる。
【0075】
正極
また、本発明は、本発明による正極活物質を含むリチウム二次電池用正極を提供することができる。
【0076】
具体的には、前記正極は、正極集電体と、前記正極集電体の少なくとも一面に位置し、上記の正極活物質を含む正極活物質層とを含む。
【0077】
前記正極集電体は、電池に化学的変化を引き起こさず、導電性を有するものであれば特に制限されず、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素またはアルミニウムやステンレス鋼の表面に、炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理を施したものなどが使用されることができる。また、前記正極集電体は、通常、3μm~500μmの厚さを有することができ、前記集電体の表面上に微細な凹凸を形成して、正極活物質の接着力を高めることもできる。例えば、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体など様々な形態で使用されることができる。
【0078】
前記正極活物質層は、正極活物質とともに、導電材およびバインダーを含むことができる。
【0079】
この際、前記正極活物質は、正極活物質層の全重量に対して、80重量%~99重量%、より具体的には85重量%~98重量%の含量で含まれることができる。上記の含量範囲で含まれる時に、優れた容量特性を示すことができる。
【0080】
この際、前記導電材は、電極に導電性を付与するために使用されるものであり、構成される電池において、化学変化を引き起こさず、電子伝導性を有するものであれば、特に制限なく使用可能である。具体的な例としては、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、炭素繊維などの炭素系物質;銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末または金属繊維;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;またはポリフェニレン誘導体などの伝導性高分子などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が使用されることができる。前記導電材は、正極活物質層の全重量に対して1重量%~30重量%含まれることができる。
【0081】
前記バインダーは、正極活物質粒子の間の付着および正極活物質と集電体との接着力を向上させる役割を果たす。具体的な例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-co-HFP)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化-EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、またはこれらの様々な共重合体などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が使用されることができる。前記バインダーは、正極活物質層の全重量に対して1重量%~30重量%含まれることができる。
【0082】
前記正極は、上記の正極活物質を用いる以外は、通常の正極製造方法により製造されることができる。具体的には、上記の正極活物質および選択的に、バインダーおよび導電材を溶媒の中に溶解または分散させて製造した正極活物質スラリーを正極集電体上に塗布した後、乾燥および圧延することで製造されることができる。この際、前記正極活物質、バインダー、導電材の種類および含量は、上述のとおりである。
【0083】
前記溶媒としては、当該技術分野において一般的に使用される溶媒であることができ、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、N-メチルピロリドン(NMP)、アセトン(acetone)または水などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が使用されることができる。前記溶媒の使用量は、スラリーの塗布厚さ、製造歩留まりを考慮して、前記正極活物質、導電材およびバインダーを溶解または分散させ、以降、正極の製造のための塗布時に、優れた厚さ均一度を示すことができる粘度を有するようにする程度であれば十分である。
【0084】
また、他の方法として、前記正極は、前記正極活物質層形成用スラリーを別の支持体上にキャストした後、この支持体から剥離して得られたフィルムを正極集電体上にラミネートすることで製造されることもできる。
【0085】
リチウム二次電池
また、本発明は、本発明による正極を含む電気化学素子を製造することができる。前記電気化学素子は、具体的には、電池、キャパシタなどであることができ、より具体的には、リチウム二次電池であることができる。
【0086】
前記リチウム二次電池は、具体的には、正極と、前記正極と対向して位置する負極と、前記正極と負極との間に介在されるセパレータと、電解質とを含み、前記正極は、上述のとおりであるため、具体的な説明を省略し、以下、残りの構成についてのみ具体的に説明する。
【0087】
また、前記リチウム二次電池は、前記正極、負極、セパレータの電極組立体を収納する電池容器、および前記電池容器を密封する密封部材を選択的にさらに含むことができる。
【0088】
前記リチウム二次電池において、前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に位置する負極活物質層とを含む。
【0089】
前記負極集電体は、電池に化学的変化を引き起こさず、高い導電性を有するものであれば、特に制限されず、例えば、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレス鋼の表面に、炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理を施したもの、アルミニウム-カドミウム合金などが使用されることができる。また、前記負極集電体は、通常、3μm~500μmの厚さを有することができ、正極集電体と同様、前記集電体の表面に微細な凹凸を形成して、負極活物質の結合力を強化することもできる。例えば、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体など、様々な形態で使用されることができる。
【0090】
前記負極活物質層は、負極活物質とともに、選択的に、バインダーおよび導電材を含む。
【0091】
前記負極活物質としては、リチウムの可逆的なインターカレーションおよびデインターカレーションが可能な化合物が使用されることができる。具体的な例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素などの炭素質の材料;Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金またはAl合金など、リチウムと合金化が可能な金属質化合物;SiOβ(0<β<2)、SnO2、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物のように、リチウムをドープおよび脱ドープすることができる金属酸化物;またはSi-C複合体またはSn-C複合体のように、前記金属質化合物と炭素質材料を含む複合物などが挙げられ、これらのいずれか一つまたは二つ以上の混合物が使用されることができる。また、前記負極活物質として、金属リチウム薄膜が使用されてもよい。また、炭素材料は、低結晶性炭素および高結晶性炭素などがいずれも使用可能である。低結晶性炭素としては、軟化炭素(soft carbon)および硬化炭素(hard carbon)が代表的であり、高結晶性炭素としては、無定形、板状、鱗片状、球状または繊維状の天然黒鉛または人造黒鉛、キッシュ黒鉛(Kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、メソ相ピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、メソ炭素微小球体(meso-carbon microbeads)、メソ相ピッチ(Mesophase pitches)および石油と石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)などの高温焼成炭素が代表的である。
【0092】
前記負極活物質は、負極活物質層の全重量に対して80重量%~99重量%含まれることができる。
【0093】
前記バインダーは、導電材、活物質および集電体の間の結合を容易にする成分であり、通常、負極活物質層の全重量に対して0.1重量%~10重量%添加されることができる。このようなバインダーの例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化-EPDM、スチレン-ブタジエンゴム、ニトリル-ブタジエンゴム、フッ素ゴム、これらの様々な共重合体などが挙げられる。
【0094】
前記導電材は、負極活物質の導電性をより向上させるための成分であり、負極活物質層の全重量に対して10重量%以下、具体的には5重量%以下で添加されることができる。このような導電材は、当該電池において化学的変化を引き起こさず、導電性を有するものであれば、特に制限されず、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン、アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの導電性素材などが使用されることができる。
【0095】
前記負極活物質層は、負極集電体上に、負極活物質、および選択的にバインダーおよび導電材を溶媒の中に溶解または分散させて製造した負極活物質層形成用スラリーを塗布し乾燥することで製造されるか、または前記負極活物質層形成用スラリーを別の支持体上にキャストした後、この支持体から剥離して得られたフィルムを負極集電体上にラミネートすることで製造されることができる。
【0096】
一方、前記リチウム二次電池において、セパレータは、負極と正極を分離し、リチウムイオンの移動通路を提供するものであり、通常、リチウム二次電池においてセパレータとして使用されるものであれば、特に制限なく使用可能であり、特に、電解質のイオン移動に対して低抵抗であるとともに、電解液の含湿能力に優れるものが好ましい。具体的には、多孔性高分子フィルム、例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体およびエチレン/メタクリレート共重合体などのポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルムまたはこれらの2層以上の積層構造体が使用されることができる。また、通常の多孔性不織布、例えば、高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布が使用されてもよい。また、耐熱性または機械的強度の確保のために、セラミック成分または高分子物質が含まれたコーティングされたセパレータが使用されてもよく、選択的に、単層または多層構造として使用されることができる。
【0097】
また、本発明で使用される電解質としては、リチウム二次電池の製造時に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体高分子電解質、ゲル型高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質などが挙げられ、これらに限定されるものではない。
【0098】
具体的には、前記電解質は、有機溶媒およびリチウム塩を含むことができる。
【0099】
前記有機溶媒としては、電池の電気化学的反応に関わるイオンが移動することができる媒質の役割を果たすものであれば、特に制限なく使用可能である。具体的には、前記有機溶媒としては、メチルアセテート(methyl acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone)、ε-カプロラクトン(ε-caprolactone)などのエステル系溶媒;ジブチルエーテル(dibutyl ether)またはテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)などのエーテル系溶媒;シクロヘキサノン(cyclohexanone)などのケトン系溶媒;ベンゼン(benzene)、フルオロベンゼン(fluorobenzene)などの芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルカーボネート(dimethylcarbonate、DMC)、ジエチルカーボネート(diethylcarbonate、DEC)、エチルメチルカーボネート(ethylmethylcarbonate、EMC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)などのカーボネート系溶媒;エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;R-CN(Rは、炭素数2~20の直鎖状、分岐状または環構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環またはエーテル結合を含むことができる)などのニトリル類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;1,3-ジオキソランなどのジオキソラン類;またはスルホラン(sulfolane)類などが使用されることができる。中でも、カーボネート系溶媒が好ましく、電池の充放電性能を高めることができる高いイオン伝導度および高誘電率を有する環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートなど)と、低粘度の直鎖状カーボネート系化合物(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートまたはジエチルカーボネートなど)の混合物がより好ましい。この場合、環状カーボネートと直鎖状カーボネートは、約1:1~約1:9の体積比で混合して使用することが、電解液が優れた性能を示すことができる。
【0100】
前記リチウム塩は、リチウム二次電池において使用されるリチウムイオンを提供することができる化合物であれば、特に制限なく使用可能である。具体的には、前記リチウム塩は、LiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlO4、LiAlCl4、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(C2F5SO3)2、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)2、LiCl、LiI、またはLiB(C2O4)2などが使用されることができる。前記リチウム塩の濃度は、0.1M~2.0Mの範囲内で使用することが好ましい。リチウム塩の濃度が前記範囲に含まれると、電解質が適切な伝導度および粘度を有することから優れた電解質性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動することができる。
【0101】
前記電解質には、前記電解質の構成成分の他にも、電池の寿命特性の向上、電池の容量減少の抑制、電池の放電容量の向上などのために、例えば、ジフルオロエチレンカーボネートなどのハロアルキレンカーボネート系化合物、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n-グライム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N-置換オキサゾリジノン、N,N-置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2-メトキシエタノールまたは三塩化アルミニウムなどの添加剤が1種以上さらに含まれることもできる。この際、前記添加剤は、電解質の全重量に対して0.1重量%~5重量%含まれることができる。
【0102】
前記のように、本発明による正極活物質を含むリチウム二次電池は、優れた放電容量、出力特性および寿命特性を安定的に示すことから、携帯電話、ノート型パソコン、デジタルカメラなどのポータブル機器、およびハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)などの電気自動車分野などにおいて有用である。
【0103】
したがって、本発明の他の一具現例によると、前記リチウム二次電池を単位セルとして含む電池モジュールおよびこれを含む電池パックが提供される。
【0104】
前記電池モジュールまたは電池パックは、パワーツール(Power Tool);電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車、およびプラグインハイブリッド電気自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気車;または電力貯蔵用システムのいずれか一つ以上の中大型デバイスの電源として用いられることができる。
【0105】
前記リチウム二次電池の外形は、特に制限されないが、缶を使用した円筒型、角型、パウチ(pouch)型またはコイン(coin)型などであることができる。
【0106】
前記リチウム二次電池は、小型デバイスの電源として使用される電池セルに使用されるだけでなく、多数の電池セルを含む中大型電池モジュールにおいて単位電池としても好ましく使用されることができる。
【0107】
以下、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が容易に実施するように、本発明の実施例について詳細に説明する。しかしながら、本発明は、様々な相違する形態に実現されることができ、ここで説明する実施例に限定されない。
【0108】
製造例1
NiSO4、CoSO4、およびMnSO4をニッケル:コバルト:マンガンのモル比が88:5:7になるようにする量で蒸留水の中で混合し、濃度2.4Mの遷移金属水溶液を準備した。
【0109】
次いで、前記反応器に脱イオン水を入れた後、窒素ガスを反応器にパージして水中の溶存酸素を除去し、反応器内を非酸化雰囲気にした。次に、7.96M NaOHを投入して反応器内のpHが11.9を維持するようにした。
【0110】
次に、前記遷移金属水溶液を前記反応器内に510mL/hrの速度で投入し、7.96M NaOH水溶液を306mL/hr、5.08M NH4OH水溶液を96mL/hrの速度でそれぞれ投入しながら反応温度45℃、pH11.4、撹拌速度300rpmの条件で40時間共沈反応を行って、平均粒径10μmのNi0.88Co0.05Mn0.07(OH)2で表される正極活物質前駆体Aを製造した。
【0111】
製造例2
NiSO4、CoSO4、およびMnSO4をニッケル:コバルト:マンガンのモル比が88:5:7になるようにする量で蒸留水の中で混合し、濃度2.4Mの遷移金属水溶液を準備した。
【0112】
次いで、前記反応器に脱イオン水を入れた後、窒素ガスを反応器にパージして水中の溶存酸素を除去し、反応器内を非酸化雰囲気にした。次に、7.96M NaOHを投入して反応器内のpHが11.4を維持するようにした。
【0113】
次に、前記遷移金属水溶液を前記反応器内に510mL/hrの速度で投入し、7.96M NaOH水溶液を306mL/hr、5.08M NH4OH水溶液を72mL/hrの速度でそれぞれ投入しながら反応温度45℃、pH11.4、撹拌速度300rpmの条件で40時間共沈反応を行って、平均粒径10μmのNi0.88Co0.05Mn0.07(OH)2で表される正極活物質前駆体Bを製造した。
【0114】
製造例3
NiSO4、CoSO4、およびMnSO4をニッケル:コバルト:マンガンのモル比が88:5:7になるようにする量で蒸留水の中で混合し、濃度2.4Mの遷移金属水溶液を準備した。
【0115】
次いで、前記反応器に脱イオン水を入れた後、窒素ガスを反応器にパージして水中の溶存酸素を除去し、反応器内を非酸化雰囲気にした。次に、7.96M NaOHを投入して反応器内のpHが11.9を維持するようにした。
【0116】
次に、前記遷移金属水溶液を前記反応器内に510mL/hrの速度で投入し、7.96M NaOH水溶液を306mL/hr、5.08M NH4OH水溶液を204mL/hrの速度でそれぞれ投入しながら反応温度53℃、pH11.4、撹拌速度300rpmの条件で40時間共沈反応を行って、平均粒径10μmのNi0.88Co0.05Mn0.07(OH)2で表される正極活物質前駆体Cを製造した。
【0117】
製造例4
NiSO4、CoSO4、およびMnSO4をニッケル:コバルト:マンガンのモル比が88:5:7になるようにする量で蒸留水の中で混合し、濃度2.4Mの遷移金属水溶液を準備した。
【0118】
次いで、前記反応器に脱イオン水を入れた後、窒素ガスを反応器にパージして水中の溶存酸素を除去し、反応器内を非酸化雰囲気にした。次に、7.96M NaOHを投入して反応器内のpHが11.9を維持するようにした。
【0119】
次に、前記遷移金属水溶液を前記反応器内に510mL/hrの速度で投入し、7.96M NaOH水溶液を306mL/hr、5.08M NH4OH水溶液を204mL/hrの速度でそれぞれ投入しながら反応温度60℃、pH11.4、撹拌速度300rpmの条件で40時間共沈反応を行って、平均粒径10μmのNi0.88Co0.05Mn0.07(OH)2で表される正極活物質前駆体Dを製造した。
【0120】
製造例5
NiSO4、CoSO4、およびMnSO4をニッケル:コバルト:マンガンのモル比が88:5:7になるようにする量で蒸留水の中で混合し、濃度2.4Mの遷移金属水溶液を準備した。
【0121】
次いで、前記反応器に脱イオン水を入れた後、窒素ガスを反応器にパージして水中の溶存酸素を除去し、反応器内を非酸化雰囲気にした。次に、7.96M NaOHを投入して反応器内のpHが11.9を維持するようにした。
【0122】
次に、前記遷移金属水溶液を前記反応器内に510mL/hrの速度で投入し、7.96M NaOH水溶液を306mL/hr、5.08M NH4OH水溶液を306mL/hrの速度でそれぞれ投入しながら反応温度60℃、pH11.4、撹拌速度300rpmの条件で40時間共沈反応を行って、平均粒径10μmのNi0.88Co0.05Mn0.07(OH)2で表される正極活物質前駆体Eを製造した。
【0123】
実験例1:正極活物質前駆体結晶粒のアスペクト比の確認
前記製造例1~5で製造した正極活物質前駆体に対するX線回折分析(Empyrean、Malvern panalytical社製)を行って結晶粒のアスペクト比を導出し、これを下記表1に示した。この際、X線回折分析条件および結晶粒のアスペクト比の導出方法は、上述のとおりである。
【0124】
【0125】
実施例1
製造例1で製造した正極活物質前駆体とLiOHを1:1.05のモル比で混合し、正極活物質前駆体に含まれる遷移金属の全モル数に対してAlを2mol%、Zrを0.37mol%添加した後、780℃で10時間焼成してリチウム遷移金属酸化物(組成:Li1.05Ni0.8563Co0.05Mn0.07Al0.02Zr0.0037O2)を製造した。
【0126】
次いで、前記リチウム遷移金属酸化物を水と1:0.8の重量比になるように混合し水洗した。
【0127】
水洗後、リチウム遷移金属酸化物100重量部に対してBが1000ppm含まれるようにホウ酸を混合し、これを300℃で5時間熱処理して、リチウム遷移金属酸化物の表面にBコーティング層が形成された正極活物質を製造した。
【0128】
実施例2
製造例1で製造した正極活物質前駆体の代わりに製造例2で製造した正極活物質前駆体を使用した以外は、実施例1と同じ方法で正極活物質を製造した。
【0129】
比較例1
製造例1で製造した正極活物質前駆体の代わりに製造例3で製造した正極活物質前駆体を使用した以外は、実施例1と同じ方法で正極活物質を製造した。
【0130】
比較例2
製造例1で製造した正極活物質前駆体の代わりに製造例4で製造した正極活物質前駆体を使用した以外は、実施例1と同じ方法で正極活物質を製造した。
【0131】
比較例3
製造例1で製造した正極活物質前駆体の代わりに製造例5で製造した正極活物質前駆体を使用した以外は、実施例1と同じ方法で正極活物質を製造した。
【0132】
実験例2:二次粒子に含まれる空隙の分析
実施例1~2および比較例1~3で製造した正極活物質をイオンミリング(Ion milling)で加工した後、SEM(FEI社製、Quanta FEG 250)で空隙を含む二次粒子断面のSEMイメージを取得し、これをImage J商用プログラムを活用して、Image threshold 1~2%の条件で分析し、二次粒子の内部に分布する閉鎖型空隙のうち面積が0.002μm2を超える空隙をすべて含む長方形の最小面積(x)、二次粒子の内部に分布する閉鎖型空隙のうち面積が0.002μm2を超える空隙の面積の総和(y)、空隙の個数を得た後、これを下記表2に示した。この際、1サンプル当たり最小3個以上の二次粒子を分析し、平均値を使用した。
【0133】
図1~
図5は、それぞれ、本発明の実施例1~2および比較例1~3で製造した正極活物質のうち一個の二次粒子の断面SEMイメージおよび空隙のサイズ、位置分布を示す図である。
【0134】
【0135】
実験例3:容量特性の評価
実施例1~2および比較例1~3で製造した正極活物質を用いてリチウム二次電池を製造し、これらのそれぞれに対して容量特性を評価した。
【0136】
具体的には、実施例1~2および比較例1~3それぞれの正極活物質、カーボンブラック導電材およびポリビニリデンフルオライドバインダーを97.5:1:1.5の重量比でN-メチルピロリドン溶媒の中で混合し、正極活物質層形成用スラリーを製造した。前記正極活物質層形成用スラリーを、厚さが16.5μmであるアルミニウム集電体の一面に塗布してから、130℃で乾燥した後、圧延して正極を製造した。
【0137】
一方、カーボンブラック負極活物質およびポリビニリデンフルオライドバインダーを97.5:2.5の重量比でN-メチルピロリドン溶媒の中で混合し、負極活物質層形成用スラリーを製造した。前記負極活物質層形成用スラリーを、厚さが16.5μmである銅集電体の一面に塗布してから、130℃で乾燥した後、圧延して負極を製造した。
【0138】
前記で製造した正極と負極との間に多孔性ポリエチレンセパレータを介在して電極組立体を製造した後、これを電池ケースの内部に位置させてから、前記ケースの内部に電解液を注入し、リチウム二次電池を製造した。この際、電解液として、エチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC):エチルメチルカーボネート(EMC)を3:4:3の比率で混合した有機溶媒に1MのLiPF6を溶解させた電解液を注入し、実施例1~2および比較例1~3によるリチウム二次電池を製造した。
【0139】
実施例1~2および比較例1~3のリチウム二次電池にそれぞれに対して、25℃で0.2Cの定電流で4.25Vまで充電を実施し、0.2Cの定電流で3.0Vまで放電を実施した後、これを1サイクルとし、1回目のサイクルでの充電容量および放電容量を測定し、これを下記表3に示した。また、1回目のサイクルでの放電容量を充電容量で除した値に100を乗算した値を充放電効率(%)とし、これを下記表3に示した。
【0140】
【0141】
前記表1~表3を参照すると、本発明による正極活物質は、結晶粒のアスペクト比が特定の範囲を満たす正極活物質前駆体から製造され、二次粒子に含まれる空隙が特定の条件を満たし、本発明による正極活物質を含む電池の初期放電容量および初期充放電効率特性に優れることを確認することができる。