IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ディスコの特許一覧

<>
  • 特許-研削装置 図1
  • 特許-研削装置 図2
  • 特許-研削装置 図3
  • 特許-研削装置 図4
  • 特許-研削装置 図5
  • 特許-研削装置 図6
  • 特許-研削装置 図7
  • 特許-研削装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】研削装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 47/12 20060101AFI20240918BHJP
   B24B 7/04 20060101ALI20240918BHJP
   B24B 49/12 20060101ALI20240918BHJP
   B24B 49/10 20060101ALI20240918BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
B24B47/12
B24B7/04 A
B24B49/12
B24B49/10
H01L21/304 631
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020174546
(22)【出願日】2020-10-16
(65)【公開番号】P2022065818
(43)【公開日】2022-04-28
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】弁理士法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 裕之
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-049445(JP,A)
【文献】特開2009-255239(JP,A)
【文献】特開平04-236819(JP,A)
【文献】特開平04-312211(JP,A)
【文献】特開平02-236019(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0100110(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 7/00-7/08,41/00-51/00;
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保持面によってウェーハを保持するチャックテーブルと、スピンドルの先端に装着された環状の研削砥石の下面によって、該保持面に保持されたウェーハを所定の厚みに研削する研削手段と、該チャックテーブルと該研削手段とを該保持面に垂直な方向に相対的に移動させる研削送り手段と、制御手段と、を備える研削装置であって、
該研削手段は、
該スピンドルと、該スピンドルを回転させる回転手段と、該スピンドルを回転可能にエアによって非接触で支持するスラストベアリングおよびラジアルベアリングを形成するスピンドルハウジングと、を備え、
該スラストベアリングは、
該スピンドルの軸方向に直交する該スピンドルの外側面と、該スピンドルの該外側面に対して該軸方向において対向し該軸方向に直交する該スピンドルハウジングの内側面との間の該軸方向の隙間にエアを供給するエア供給部と、
該隙間を形成している該軸方向に直交する該スピンドルの外側面または該軸方向に直交する該スピンドルハウジングの内側面を該軸方向に移動させることによって、該隙間の該軸方向の距離を変更する隙間変更機構と、
該隙間の該軸方向の距離を測定する距離測定手段と、を備え、
該制御手段は、
該研削送り手段によって該研削手段を該チャックテーブルの該保持面に接近させ、該保持面に保持されたウェーハの上面に該研削砥石の下面を接触させる際、および、該ウェーハを所定の厚みに研削している際に、該隙間変更機構によって、該隙間の該軸方向の距離を、予め設定した距離とする第1制御部と、
該ウェーハを所定の厚みに研削した後に、該研削送り手段によって該研削手段を該チャックテーブルの該保持面に接近させる移動を停止させると共に、該隙間変更機構によって該隙間の該軸方向の距離を予め設定した距離よりも拡げて該スピンドルを該軸方向に移動可能にし、該ウェーハにかかる荷重を小さくしながらウェーハを研削する第2制御部と、
を備える研削装置。
【請求項2】
該距離測定手段は、該隙間に供給されたエアの圧力を検知する圧力センサであって、
該第1制御部は、該隙間を狭める際には、該圧力センサによって検知される圧力値が予め設定した値よりも大きくなるように、該隙間変更機構を制御する一方、
該第2制御部は、該隙間を拡げる際には、該圧力センサによって検知される圧力値が予め設定した値よりも小さくなるように、該隙間変更機構を制御する、
請求項1記載の研削装置。
【請求項3】
該距離測定手段は、該スラストベアリングを形成する該隙間の一方の面から他方の面に向かって測定光を投光する投光部と、該測定光における該他方の面での反射光を受光する受光部とによって、該隙間の該距離を測定する、
請求項1記載の研削装置。
【請求項4】
該距離測定手段は、該スラストベアリングを形成する該隙間の一方の面から他方の面に向かって超音波振動を発振する超音波振動発振器と、該超音波振動が該他方の面で反射されることによって形成される反射超音波振動を受振する受振部と、によって該隙間の該距離を測定する、
請求項1記載の研削装置。
【請求項5】
該隙間変更機構は、
該スピンドルハウジングにおける該スピンドルの該外側面に対向する部分に設けられ、供給される直流電力の電圧値に応じて該軸方向に沿って伸縮する圧電アクチュエータと、
該圧電アクチュエータの表面に該軸方向に沿って移動可能に設けられている可動部と、を備え、
該可動部は、該スピンドルハウジングの該内側面としての可動部表面を備えており、
直流電源からの直流電力を、その電圧値を調整しながら該圧電アクチュエータに供給する電圧調整部を備えている、
請求項1記載の研削装置。
【請求項6】
該隙間変更機構は、
該スピンドルにおける該スピンドルハウジングの該内側面に対向する部分に設けられ、供給される直流電力の電圧値に応じて該軸方向に沿って伸縮する圧電アクチュエータと、
該圧電アクチュエータの表面に該軸方向に沿って移動可能に設けられている可動部と、を備え、
該可動部は、該スピンドルの該外側面としての可動部表面を備えており、
直流電源からの直流電力を、その電圧値を調整しながら該圧電アクチュエータに供給する電圧調整部を備えている、
請求項1記載の研削装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
チャックテーブルの保持面に保持されたウェーハを研削砥石によって研削する研削装置では、特許文献1および2に開示のように、スピンドルの先端に装着された研削砥石を、大きな力でウェーハに押し付けて研削を実施することにより、ウェーハを、短時間で所定の厚みすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-132232号公報
【文献】特開2008-049445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このように研削すると、ウェーハの被研削面からデバイスが形成される面に向かって、ダメージ層と呼ばれる複数のひび割れが形成される可能性がある。このダメージ層が厚く形成されると、ダメージ層がデバイスの性能に悪影響を及ぼす。
【0005】
したがって、本発明の目的は、研削砥石によってウェーハを短時間で所定の厚みに研削する際に被研削面に形成されるダメージ層を、薄くすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の研削装置(本研削装置)は、保持面によってウェーハを保持するチャックテーブルと、スピンドルの先端に装着された環状の研削砥石の下面によって、該保持面に保持されたウェーハを所定の厚みに研削する研削手段と、該チャックテーブルと該研削手段とを該保持面に垂直な方向に相対的に移動させる研削送り手段と、制御手段と、を備える研削装置であって、該研削手段は、該スピンドルと、該スピンドルを回転させる回転手段と、該スピンドルを回転可能にエアによって非接触で支持するスラストベアリングおよびラジアルベアリングを形成するスピンドルハウジングと、を備え、該スラストベアリングは、該スピンドルの軸方向に直交する該スピンドルの外側面と、該スピンドルの該外側面に対して該軸方向において対向し該軸方向に直交する該スピンドルハウジングの内側面との間の該軸方向の隙間にエアを供給するエア供給部と、該隙間を形成している該軸方向に直交する該スピンドルの外側面または該軸方向に直交する該スピンドルハウジングの内側面を該軸方向に移動させることによって、該隙間の該軸方向の距離を変更する隙間変更機構と、該隙間の該軸方向の距離を測定する距離測定手段と、を備え、該制御手段は、該研削送り手段によって該研削手段を該チャックテーブルの該保持面に接近させ、該保持面に保持されたウェーハの上面に該研削砥石の下面を接触させる際、および、該ウェーハを所定の厚みに研削している際に、該隙間変更機構によって、該隙間の該軸方向の距離を、予め設定した距離とする第1制御部と、該ウェーハを所定の厚みに研削した後に、該研削送り手段によって該研削手段を該チャックテーブルの該保持面に接近させる移動を停止させると共に、該隙間変更機構によって該隙間の該軸方向の距離を予め設定した距離よりも拡げて該スピンドルを該軸方向に移動可能にし、該ウェーハにかかる荷重を小さくしながらウェーハを研削する第2制御部と、を備える。
【0007】
本研削装置では、該距離測定手段は、該隙間に供給されたエアの圧力を検知する圧力センサであってもよく、該第1制御部は、該隙間を狭める際には、該圧力センサによって検知される圧力値が予め設定した値よりも大きくなるように、該隙間変更機構を制御してもよく、第2制御部は、該隙間を拡げる際には、該圧力センサによって検知される圧力値が予め設定した値よりも小さくなるように、該隙間変更機構を制御してもよい。
【0008】
本研削装置では、該距離測定手段は、該スラストベアリングを形成する該隙間の一方の面から他方の面に向かって測定光を投光する投光部と、該測定光における該他方の面での反射光を受光する受光部とによって、該隙間の該距離を測定してもよい。
【0009】
本研削装置では、該距離測定手段は、該スラストベアリングを形成する該隙間の一方の面から他方の面に向かって超音波振動を発振する超音波振動発振器と、該超音波振動が該他方の面で反射されることによって形成される反射超音波振動を受振する受振部と、によって該隙間の該距離を測定してもよい。
また、本研削装置では、該隙間変更機構は、該スピンドルハウジングにおける該スピンドルの該外側面に対向する部分に設けられ、供給される直流電力の電圧値に応じて該軸方向に沿って伸縮する圧電アクチュエータと、該圧電アクチュエータの表面に該軸方向に沿って移動可能に設けられている可動部と、を備えていてもよく、該可動部は、該スピンドルハウジングの該内側面としての可動部表面を備えていてもよく、直流電源からの直流電力を、その電圧値を調整しながら該圧電アクチュエータに供給する電圧調整部が備えられていてもよい。
また、本研削装置では、該隙間変更機構は、該スピンドルにおける該スピンドルハウジングの該内側面に対向する部分に設けられ、供給される直流電力の電圧値に応じて該軸方向に沿って伸縮する圧電アクチュエータと、該圧電アクチュエータの表面に該軸方向に沿って移動可能に設けられている可動部と、を備えていてもよく、該可動部は、該スピンドルの該外側面としての可動部表面を備えていてもよく、直流電源からの直流電力を、その電圧値を調整しながら該圧電アクチュエータに供給する電圧調整部が備えられていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本研削装置では、隙間変更機構により、スピンドルの軸方向に直交する方向のスピンドルの外側面とスピンドルハウジングの内側面との隙間(スラスト隙間)の距離を調整することが可能である。そして、制御手段の第1制御部は、保持面に保持されているウェーハの上面に研削砥石の下面を接触させる際、および、ウェーハを所定の厚みに研削している際に、隙間変更機構によって、スラスト隙間の距離を、所定距離としている。これにより、研削加工の際に、スピンドルハウジングに、高剛性のスラストベアリングを形成することができる。したがって、研削加工の開始前および加工中に、高荷重を受けたスピンドルが傾くことを抑制することができる。これにより、ウェーハの上面を、高荷重で研削することができる。
【0011】
また、本研削装置では、ウェーハを所定の厚みに研削した後、たとえばエスケープカット加工およびスパークアウト加工の際に、第2制御部が、隙間変更機構を制御して、スラスト隙間の距離を、所定距離よりも拡げている。これにより、研削砥石にかかる荷重を小さくすることができる。したがって、たとえば、エスケープカット加工およびスパークアウト加工において、小さい荷重を受けている研削砥石によって、ウェーハの上面を、なぞるように研削することができる。これにより、ウェーハの上面に形成されるダメージ層を薄くすることが可能となるとともに、ウェーハの上面の中心に凹みが形成されることを、抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】研削装置の構成を示す斜視図である。
図2】スピンドルユニットの構成を示す説明図である。
図3】隙間変更機構の構成を示す説明図である。
図4】研削砥石の高さの時間変化を示すグラフである。
図5】スピンドルユニットの他の構成を示す説明図である。
図6】隙間変更機構の他の構成を示す説明図である。
図7】距離測定手段の他の構成を示す説明図である。
図8】距離測定手段のさらに他の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に示すように、本実施形態にかかる研削装置1は、被研削物としてのウェーハ100を研削するための装置である。ウェーハ100は、たとえば半導体ウェーハである。図1においては下方を向いているウェーハ100の表面101は、複数のデバイスを保持しており、保護テープ103が貼着されることによって保護されている。ウェーハ100の裏面102は、研削加工が施される被研削面となる。
【0014】
研削装置1は、直方体状の基台10、および、上方に延びるコラム11を備えている。
【0015】
基台10の上面側には、開口部13が設けられている。そして、開口部13内には、保持手段としてのチャックテーブル31が配置されている。チャックテーブル31は、ウェーハ100を保持する保持面32を備えている。
【0016】
チャックテーブル31の保持面32は、ポーラス材からなり、吸引源(図示せず)に連通されることにより、ウェーハ100を吸引保持する。すなわち、チャックテーブル31は、保持面32によってウェーハ100を保持する。
【0017】
また、チャックテーブル31は、下方に設けられた図示しない支持部材により、保持面32によってウェーハ100を保持した状態で、保持面32の中心を通りZ軸方向に延在するテーブル中心軸を中心として回転可能である。したがって、ウェーハ100は、保持面32に保持されて保持面32の中心を回転軸として回転される。
【0018】
チャックテーブル31の周囲には、チャックテーブル31とともにY軸方向に沿って移動されるカバー板39が設けられている。また、カバー板39には、Y軸方向に伸縮する蛇腹カバー12が連結されている。そして、チャックテーブル31の下方には、図示しないY軸方向移動手段が配設されている。Y軸方向移動手段は、チャックテーブル31をY軸方向に沿って移動させる。
【0019】
本実施形態では、チャックテーブル31は、大まかにいえば、保持面32にウェーハ100を載置するための前方(-Y方向側)の載置位置と、ウェーハ100が研削される後方(+Y方向側)の研削位置との間を、Y軸方向移動手段によって、Y軸方向に沿って移動される。
【0020】
また、図1に示すように、基台10上の後方(+Y方向側)には、コラム11が立設されている。コラム11の前面には、ウェーハ100を研削する研削手段70、および、研削送り手段50が設けられている。
【0021】
研削送り手段50は、チャックテーブル31と研削手段70とを、保持面32に垂直なZ軸方向(研削送り方向)に、相対的に移動させる。本実施形態では、研削送り手段50は、チャックテーブル31に対して、研削手段70をZ軸方向に移動させるように構成されている。
【0022】
研削送り手段50は、Z軸方向に平行な一対のZ軸ガイドレール51、このZ軸ガイドレール51上をスライドするZ軸移動テーブル53、Z軸ガイドレール51と平行なZ軸ボールネジ52、Z軸モータ54、および、Z軸移動テーブル53の前面(表面)に取り付けられた支持ケース56を備えている。支持ケース56は、研削手段70を支持している。
【0023】
Z軸移動テーブル53は、Z軸ガイドレール51にスライド可能に設置されている。Z軸移動テーブル53の後面側(裏面側)には、図示しないナット部が固定されている。このナット部には、Z軸ボールネジ52が螺合されている。Z軸モータ54は、Z軸ボールネジ52の一端部に連結されている。
【0024】
研削送り手段50では、Z軸モータ54がZ軸ボールネジ52を回転させることにより、Z軸移動テーブル53が、Z軸ガイドレール51に沿って、Z軸方向に移動する。これにより、Z軸移動テーブル53に取り付けられた支持ケース56、および、支持ケース56に支持された研削手段70も、Z軸移動テーブル53とともにZ軸方向に移動する。
【0025】
研削手段70は、スピンドルハウジング71、スピンドル72および回転モータ73を含む、スピンドルユニット78を備えている。スピンドルユニット78は、支持ケース56に固定されている。
【0026】
スピンドルハウジング71は、Z軸方向に延びるように支持ケース56に保持されている。スピンドル72は、チャックテーブル31の保持面32と直交するようにZ軸方向に延び、スピンドルハウジング71に回転可能に支持されている。回転モータ73は、スピンドル72を回転させる回転手段の一例であり、スピンドル72の上端側に連結されている。この回転モータ73により、スピンドル72は、軸方向であるZ軸方向に延びる回転軸を中心として回転する。
【0027】
研削手段70は、さらに、スピンドル72の下端に取り付けられたホイールマウント74、および、ホイールマウント74に支持された研削ホイール75を備えている。
【0028】
ホイールマウント74は、円板状に形成されており、スピンドル72の下端(先端)に固定されている。ホイールマウント74は、研削ホイール75を支持している。
【0029】
研削ホイール75は、外径がホイールマウント74の外径と略同径を有するように形成されている。研削ホイール75は、金属材料から形成された円環状のホイール基台(環状基台)76を含む。ホイール基台76の下面には、全周にわたって、加工具の一例である研削砥石77が固定されている。
【0030】
研削砥石77は、環状に形成されており、その中心を通りZ軸方向に延びる回転軸を中心として、スピンドル72、ホイールマウント74、およびホイール基台76を介して、回転モータ73によって回転され、研削位置に配置されているチャックテーブル31に保持されたウェーハ100を研削する。
【0031】
このように、研削装置1では、研削砥石77が、ホイールマウント74、およびホイール基台76を介して、スピンドル72の先端に装着されている。そして、研削手段70では、スピンドル72の先端に装着された環状の研削砥石77の下面によって、保持面32に保持されたウェーハ100を所定の厚みに研削する。
【0032】
次に、本実施形態のスピンドルユニット78について、より詳細に説明する。
図2に示すように、スピンドルユニット78は、直立姿勢のスピンドル72、スピンドル72を覆っており、スピンドル72を支持するスピンドルハウジング71、スピンドル72の下端部分を覆うスピンドルカバー66、および、スピンドル72を回転駆動する回転モータ73を備えている。
【0033】
スピンドル72は、回転軸の方向であるZ軸方向に延びている。スピンドル72の中間部分には、大径の第1円板部81が形成されている。また、スピンドル72の下端部分にも、大径の第2円板部82が形成されている。
【0034】
スピンドル72の上端には、回転モータ73が連結されている。回転モータ73は、スピンドル72の上端部分に設けられたロータ85と、ステータ86とを有している。ステータ86に所定の電圧を印加することにより、ロータ85が回転し、スピンドル72が、その回転軸を中心として回転する。
【0035】
また、ステータ86は、冷却ジャケット87を介して、スピンドルハウジング71の内周面に設けられている。冷却ジャケット87内には、多数の冷却水路88が形成されている。これらの冷却水路88によって、回転モータ73が冷却される。
【0036】
スピンドルハウジング71におけるスピンドル72の上端近傍には、回転検知センサ89が設けられている。回転検知センサ89は、スピンドル72の上端に取り付けられた被検知部90に対向可能に設けられている。回転検知センサ89は、被検知部90の回転移動を検知することにより、スピンドル72の回転を検知するように構成されている。
【0037】
スピンドル72の先端(下端)には、上述したホイールマウント74が連結されている。ホイールマウント74には、研削砥石77を含む研削ホイール75が装着されている。
【0038】
スピンドル72の上端には、研削水源130に連通される研削水導入路131が取り付けられている。また、研削水導入路131は、スピンドル72、ホイールマウント74およびホイール基台76内に設けられている研削水路132に連通されている。このような構造により、研削水源130からの研削水が、研削水導入路131および研削水路132を介して、研削砥石77に供給される。
【0039】
スピンドルハウジング71は、スピンドル72を囲繞し、エアベアリングによりスピンドル72を回転自在に支持するように構成されている。
【0040】
スピンドルハウジング71は、その下端部分に、環状部91を備えている。環状部91は、スピンドル72の第1円板部81と第2円板部82との間に入り込むように、かつ、第1円板部81および第2円板部82と環状部91との間に僅かな隙間が形成されるように、スピンドルハウジング71に設けられている。
【0041】
また、スピンドルハウジング71は、エア供給源110に接続されたエア供給路111に連通されている、ラジアルベアリングを構成する複数のラジアル側エア噴出口93を備えている。
【0042】
エア供給路111は、スピンドルユニット78の外部から環状部91を含むスピンドルハウジング71の内部に延びるように形成されており、開閉バルブ112および逆止弁113を備えている。
【0043】
ラジアル側エア噴出口93は、環状部91に、スピンドル72における第1円板部81と第2円板部82との間に延びるラジアル側面84に対向するように設けられており、エア供給路111に接続されている。
【0044】
ラジアル側エア噴出口93は、スピンドル72のラジアル側面84とスピンドルハウジング71の環状部91との間の隙間であるラジアル隙間300に向けて開口されている。ラジアル側エア噴出口93が、このラジアル隙間300に向けてラジアル方向に高圧のエアを噴出することにより、スピンドルハウジング71とスピンドル72との間であるラジアル隙間300に、スピンドル72を回転可能にエアによって非接触で支持するラジアルベアリングが形成される。
【0045】
また、スピンドルハウジング71は、スラストベアリングを構成する複数の隙間変更機構120を備えている。
【0046】
隙間変更機構120は、スピンドルハウジング71のスラスト凹部95内に設けられている。スラスト凹部95および隙間変更機構120は、スピンドルハウジング71の環状部91に、スピンドル72の第1円板部81および第2円板部82に対向するように形成されている。
【0047】
図3に、第1円板部81に対向する隙間変更機構120の構成を示す。図3に示すように、隙間変更機構120は、スラスト凹部95の底面96に固定されている圧電アクチュエータ121、スピンドル72の軸方向であるZ軸方向に可動な可動部122、および、可動部122とスラスト凹部95の側面97との間に配されているシール材125、を備えている。
【0048】
可動部122は、圧電アクチュエータ121の表面に設けられている。可動部122は、第1円板部81に対向する可動部表面124を備えている。この可動部表面124は、Z軸方向に直交する方向のスピンドルハウジング71の内側面の一例である。
【0049】
この可動部表面124には、スピンドル72の第1円板部81(第2円板部82)の表面である円板部表面83が対向している。この円板部表面83は、Z軸方向に直交する方向のスピンドル72の外側面の一例である。
【0050】
可動部122は、この可動部表面124に、エア供給路111に接続されている複数のスラスト側エア噴出口123を備えている。スラスト側エア噴出口123は、エア供給部の一例である。すなわち、スラスト側エア噴出口123は、スピンドルハウジング71の可動部表面124とスピンドル72の円板部表面83との間の隙間であるスラスト隙間301に向けて開口されており、このスラスト隙間301に向けてエアを供給する。
【0051】
すなわち、スラスト側エア噴出口123が、スラスト隙間301に向けてスラスト方向であるZ軸方向に高圧のエアを噴出することにより、スピンドルハウジング71の可動部表面124とスピンドル72の円板部表面83との間であるスラスト隙間301に、スピンドル72を回転可能にエアによって非接触で支持するスラストベアリングが形成される。
【0052】
このように、研削手段70のスピンドルハウジング71は、スピンドル72を回転可能にエアによって非接触で支持するスラストベアリングおよびラジアルベアリングを形成し、これらのベアリングを含む。また、スラストベアリングは、エア供給部としてのスラスト側エア噴出口123、および、隙間変更機構120を含む。
【0053】
また、可動部122は、スラスト凹部95内において、Z軸方向に沿って移動可能に設けられている。シール材125は、可動部122の移動の際に、可動部122の側面を封止するためのものである。
【0054】
圧電アクチュエータ121には、図2および図3に示すように、電力線142が接続されている。この電力線142は、直流電源140、および、この直流電源140を制御するための電圧調整部141に接続されている。すなわち、電圧調整部141は、電力線142を介して、各圧電アクチュエータ121に電気的に接続されている。電圧調整部141は、直流電源140からの直流電力を、その電圧値を調整しながら、電力線142を介して、圧電アクチュエータ121に伝達する。
【0055】
圧電アクチュエータ121は、電圧調整部141から供給された直流電力の電圧値に応じて、スラスト方向であるZ軸方向に伸縮する。すなわち、圧電アクチュエータ121は、Z軸方向に伸縮することにより、その表面に設けられている可動部122を、Z軸方向に移動させる。可動部122がZ軸方向に沿って移動することにより、スピンドル72の円板部表面83に垂直なZ軸方向におけるスラスト隙間301の距離(幅;スピンドル72の軸方向における距離)、すなわち、可動部表面124と円板部表面83との間の距離が変動される。以下では、スラスト隙間301のZ軸方向における距離を、単にスラスト隙間301の距離と称する。
【0056】
このように、圧電アクチュエータ121は、スピンドルハウジング71に配置され、スラストベアリングを形成するスピンドルハウジング71の可動部表面124をZ軸方向に移動させるものである。そして、隙間変更機構120は、圧電アクチュエータ121を用いてスピンドルハウジング71の可動部表面124をスピンドル72の軸方向であるZ軸方向に移動させることによって、スラスト隙間301の距離を変更するように構成されている。
【0057】
また、隙間変更機構120の可動部122には、図2および図3に示すように、その第1円板部81(第2円板部82)に対向する可動部表面124に、圧力素子115が備えられている。この圧力素子115は、スピンドルユニット78の外部の圧力測定部116に接続されている。
【0058】
圧力素子115は、可動部表面124とスピンドル72の円板部表面83との間のスラスト隙間301のエア圧力に応じた電気信号を生成し、圧力測定部116に伝達する。圧力測定部116は、この電気信号に基づいて、このスラスト隙間301のエア圧力を測定する。
【0059】
これら圧力素子115および圧力測定部116は、スラスト隙間301に供給されたエアの圧力(すなわち、スラスト隙間301の圧力)を検知する圧力センサを構成する。この圧力センサは、スラスト隙間301の距離を測定する距離測定手段の一例であり、スラストベアリングに含まれる。
【0060】
すなわち、スラスト隙間301の圧力は、実質的に、スラスト隙間301の距離に対応する。たとえば、スラスト隙間301の距離が比較的に長い場合には、スラスト隙間301の圧力は、比較的に小さくなる。一方、スラスト隙間301の距離が比較的に短い場合には、スラスト隙間301の圧力は、比較的に高くなる。
したがって、圧力測定部116は、圧力素子115によってスラスト隙間301の圧力を測定することによって、スラスト隙間301の距離を測定することが可能である。
【0061】
また、図1および図3に示すように、研削装置1は、制御手段20を有している。制御手段20は、上述した研削装置1の各部材を制御することにより、研削装置1による研削加工を制御する。また、制御手段20は、第1制御部21および第2制御部22を備えている。
【0062】
以下に、第1制御部21および第2制御部22の機能とともに、制御手段20の制御による研削装置1における研削加工について説明する。
【0063】
本実施形態では、まず、作業者は、載置位置にあるチャックテーブル31の保持面32(図1参照)に、ウェーハ100を、裏面102が上向きとなるように保持させる。
【0064】
次に、制御手段20は、図示しないY軸方向移動手段を制御して、チャックテーブル31を、研削位置に配置されるようにY軸方向に移動させる。研削位置では、チャックテーブル31の保持面32に保持されたウェーハ100の回転中心に、研削砥石77が位置づけられる。
【0065】
また、制御手段20は、研削手段70の回転モータ73を制御して、スピンドル72とともに研削ホイール75(研削砥石77)を回転させる。さらに、制御手段20は、回転手段34により、チャックテーブル31の保持面32(ウェーハ100)を回転させる。
【0066】
次に、制御手段20は、研削送り手段50を用いて、原点高さ位置にある研削手段70を、チャックテーブル31に近づける。
【0067】
図4に、研削砥石77の高さ(研削砥石77の下面(研削面)の高さ)の時間変化を示す。図4に示すように、制御手段20は、まず、研削砥石77の高さが、所定のエアカット開始高さH1となるまで、研削手段70を、比較的に高速の初期速度V1で、チャックテーブル31に近づくように降下させる(時間範囲T1)。
【0068】
また、この際、制御手段20は、圧力素子115および圧力測定部116によってスラスト隙間301の圧力を測定することによりスラスト隙間301の距離を測定しながら、電圧調整部141を制御して、スラスト隙間301の距離を調整する。このとき、制御手段20は、たとえば、スラスト隙間301の距離が予め設定した比較的に広い初期距離となるように、電圧調整部141を制御して、各圧電アクチュエータ121に供給する直流電力の電圧を調整する。この段階でスラスト隙間301を、予め設定した比較的に広い初期距離(たとえば50μm)に拡げることにより、研削加工の前に、スピンドル72を円滑に回転させることができる。
なお、制御手段20は、この段階で、スラスト隙間301を、初期距離よりも狭い予め設定した所定距離(たとえば10μm)とするような制御を実施してもよい。
【0069】
研削砥石77がエアカット開始高さH1に到達した後、制御手段20の第1制御部21は、研削送り手段50を用いて、研削手段70の降下速度を、初期速度V1よりも遅い加工送り速度である第1研削速度V2に設定する。そして、第1制御部21は、研削送り手段50によって、研削手段70をチャックテーブル31に接近させる(時間範囲T2)。すなわち、第1制御部21は、研削手段70の降下速度を、初期速度V1から第1研削速度V2に遅くする。
【0070】
時間範囲T2では、研削砥石77は、まだウェーハ100に接触しておらず、エアカットがなされている。この際、第1制御部21は、電圧調整部141を制御して、隙間変更機構120によって、スラスト隙間301の距離を、予め設定した所定距離(たとえば10μm)に狭める。この所定距離は、比較的に狭い距離であり、スピンドルハウジング71に高剛性のスラストベアリングを形成することができるような距離である。
その後、第1制御部21は、研削送り手段50によって、研削手段70をチャックテーブル31の保持面32に接近させ、保持面32に保持されているウェーハ100の上面である裏面102に研削砥石77の下面を接触させる。
【0071】
すなわち、第1制御部21は、スラスト隙間301の距離が所定距離に狭くなるように、電圧調整部141を制御して、各隙間変更機構120の圧電アクチュエータ121に供給される直流電力の電圧を調整する。
【0072】
また、このスラスト隙間301の距離調整では、第1制御部21は、圧力センサである圧力素子115および圧力測定部116によって検知されるスラスト隙間301の圧力値を用いる。すなわち、第1制御部21は、検知されるスラスト隙間301の圧力値が、所定距離に応じた予め設定した圧力値となるように、電圧調整部141を介して隙間変更機構120を制御する。これにより、第1制御部21は、スラスト隙間301の距離を、所定距離に狭くすることができる。
【0073】
その後、研削砥石77がウェーハ100の裏面102に接触したとき(時刻t1)以降では、第1制御部21は、第1研削速度V2で、研削砥石77によって、ウェーハ100の裏面102を研削する(時間範囲T3;第1研削加工)。
【0074】
制御手段20は、適宜、図示しない厚み測定手段を用いて、研削されているウェーハ100の厚みを測定する。そして、ウェーハ100の厚みが所定値(目標値)に近づいた場合、制御手段20の第1制御部21は、研削送り手段50を用いて、第1研削速度V2よりも遅い第2研削速度V3で、研削手段70をチャックテーブル31に接近させる(時間範囲T4)。すなわち、第1制御部21は、研削手段70の降下速度を、第1研削速度V2から第2研削速度V3にさらに遅くして、研削加工を継続する(第2研削加工)。この第2研削加工では、第1削加工においてウェーハ100に生じたダメージが低減される。
【0075】
また、ウェーハ100を所定の厚みに研削している際(時間範囲T3,T4)にも、第1制御部21は、隙間変更機構120を制御して、スラスト隙間301の距離を、所定距離に維持する。
【0076】
ウェーハ100の厚みが所定値に到達した時刻t2において、制御手段20の第2制御部22は、研削送り手段50によって研削手段70をチャックテーブル31の保持面32に接近させる移動(降下)を停止させる。そして、第2制御部22は、いわゆるスパークアウト加工と呼ばれる加工を実施する(時間範囲T5)。
【0077】
また、この際、第2制御部22は、電圧調整部141を制御して、隙間変更機構120によって、スラスト隙間301の距離を所定距離よりも広い距離(たとえば、初期距離)に拡げる。すなわち、第2制御部22は、スラスト隙間301の距離が所定距離よりも広くなるように、電圧調整部141を制御して、各隙間変更機構120の圧電アクチュエータ121に供給される直流電力の電圧を調整する。
【0078】
また、このスラスト隙間301の距離調整では、第2制御部22は、圧力センサである圧力素子115および圧力測定部116によって検知されるスラスト隙間301の圧力値を用いる。すなわち、第2制御部22は、検知されるスラスト隙間301の圧力値が、所定距離に応じた予め設定した圧力値よりも小さくなるように、電圧調整部141を介して隙間変更機構120を制御する。これにより、第2制御部22は、スラスト隙間301の距離を、所定距離よりも拡げることができる。
【0079】
このようにスラスト隙間301の距離が拡がることにより、スピンドル72がスピンドル72の軸方向であるZ軸方向に移動可能となり、ウェーハ100にかかる荷重が小さくなる。この状態で、第2制御部22は、研削手段70の研削送り移動を停止させ、所定時間、回転する研削砥石77によってウェーハ100の裏面102を研削(スパークアウト加工)する。このようなスパークアウト加工により、第2制御部22は、ウェーハ100の裏面102における削り残しを除去する。
【0080】
その後、制御手段20の第2制御部22は、エスケープカット加工を実施する(時間範囲T6)。この際、第2制御部22は、研削砥石77によるウェーハ100の裏面102への悪影響を抑えるために、研削送り手段50を用いて、研削手段70を、予め設定されているエスケープカット加工速度V4で、ゆっくりと上方に移動させることにより、研削砥石77によってウェーハ100をエスケープカット加工する。
【0081】
また、エスケープカット加工の際(時間範囲T6)にも、第2制御部22は、隙間変更機構120を制御して、スラスト隙間301の距離を、所定距離よりも広い距離(たとえば、初期距離)に維持する。
エスケープカット加工は、たとえば、研削砥石77がウェーハ100の裏面102から離れるまで実施される。エスケープカット加工の終了後、制御手段20は、研削送り手段50を用いて、研削手段70を、比較的に高速の退避速度V5で、原点高さ位置に退避させる(時間範囲T7)。
【0082】
以上のように、本実施形態では、隙間変更機構120によって、スラスト隙間301の距離を調整することが可能である。
【0083】
そして、制御手段20の第1制御部21は、保持面32に保持されているウェーハ100の裏面102に研削砥石77の下面を接触させる際、および、ウェーハ100を所定の厚みに研削している際に、隙間変更機構120によって、スラスト隙間301の距離を、比較的に狭い所定距離(たとえば10μm)としている。
【0084】
これにより、研削加工の際に、スピンドルユニット78(スピンドルハウジング71)に、高剛性のスラストベアリングを形成することができる。したがって、研削加工の開始前および加工中に、高荷重を受けたスピンドル72が傾くことを抑制することができる。これにより、ウェーハ100の裏面102を、高荷重で研削することができる。
なお、所定距離は、上述した10μmに限られず、たとえば5μmであってもよい。所定距離をより狭くすることにより、スピンドルハウジング71に、より高剛性のスラストベアリングを形成することができる。
【0085】
また、本実施形態では、エスケープカット加工およびスパークアウト加工の際、第2制御部22が、隙間変更機構120を制御して、スラスト隙間301の距離を、所定距離よりも拡げている。これにより、研削砥石77にかかる荷重を小さくすることができる。
すなわち、本実施形態では、エスケープカット加工およびスパークアウト加工において、小さい荷重を受けている研削砥石77によって、ウェーハ100の裏面102を、なぞるように研削している。これにより、ウェーハ100の裏面102に形成されるダメージ層を薄くすることが可能となるとともに、ウェーハ100の裏面102の中心に凹みが形成されることを抑制することができる。
【0086】
なお、上述の実施形態では、スラスト隙間301の距離を調整可能な隙間変更機構120が、スピンドルハウジング71のスラスト凹部95内に設けられている。これに関し、隙間変更機構は、スピンドル72に設けられてもよい。
【0087】
すなわち、スピンドルユニット78は、図5に示すような構成を有していてもよい。図5に示すスピンドルユニット78は、図2に示す構成において、スピンドルハウジング71の環状部91に設けられる隙間変更機構120に代えて、スピンドル72の第1円板部81および第2円板部82に設けられる隙間変更機構150を備えた構成を有している。
【0088】
図5に示すように、この構成でも、スピンドル72のラジアル側面84とスピンドルハウジング71の環状部91との間の隙間であるラジアル隙間300に向けて、ラジアル側エア噴出口93が開口されている。したがって、ラジアル隙間300に、スピンドル72を回転可能にエアによって非接触で支持するラジアルベアリングが形成される。
【0089】
また、スピンドル72は、スラストベアリングを構成する複数の隙間変更機構150を備えている。
【0090】
隙間変更機構150は、スピンドル72のスラスト凹部151内に設けられている。スラスト凹部151および隙間変更機構150は、スピンドル72の第1円板部81および第2円板部82に、スピンドルハウジング71の環状部91に対向するように形成されている。
【0091】
図6に、第1円板部81に形成された隙間変更機構150の構成を示す。図6に示すように、隙間変更機構150は、スラスト凹部151の底面152に固定されている圧電アクチュエータ121、Z軸方向に可動な可動部122、および、可動部122とスラスト凹部151の側面153との間に配されているシール材125、を備えている。
【0092】
可動部122は、圧電アクチュエータ121の表面に設けられている。可動部122は、環状部91に対向する可動部表面124を備えている。この可動部表面124は、Z軸方向に直交する方向のスピンドル72の外側面の一例である。
【0093】
この可動部表面124には、スピンドルハウジング71の環状部91の表面である環状部表面92が対向している。この環状部表面92は、Z軸方向に直交する方向のスピンドルハウジング71の内側面の一例である。
【0094】
環状部91は、この環状部表面92に、エア供給路111に接続されている複数のスラスト側エア噴出口123を備えている。各スラスト側エア噴出口123は、エア供給部の一例であり、スピンドル72の可動部表面124とスピンドルハウジング71の環状部表面92との間の隙間であるスラスト隙間301に向けてエアを供給する。これにより、可動部表面124と環状部表面92との間のスラスト隙間301に、スピンドル72を回転可能にエアによって非接触で支持するスラストベアリングが形成される。
【0095】
可動部122は、スラスト凹部151内において、Z軸方向に沿って移動可能に設けられている。シール材125は、可動部122の移動の際に、可動部122の側面を封止する。
【0096】
圧電アクチュエータ121には、図5および図6に示すように、電力線143が接続されている。この電力線143は、図5に示すように、スピンドル72に設けられた第1接点146、スピンドルハウジング71に設けられて第1接点146に電気的に接続されている第2接点145、および、第2接点145に接続された電力線142を介して、直流電源140および電圧調整部141に接続されている。
【0097】
このように、電圧調整部141は、図2に示した構成と同様に、各圧電アクチュエータ121に電気的に接続されており、直流電源140からの直流電力を、その電圧値を調整しながら、圧電アクチュエータ121に伝達する。
【0098】
なお、第1接点146と第2接点145との接点構造は、たとえば、ブラシ付き直流モータの接点構造と同様であってよい。
【0099】
圧電アクチュエータ121は、電圧調整部141から供給された直流電力の電圧値に応じて、Z軸方向に伸縮することにより、その表面に設けられている可動部122を、Z軸方向に移動させる。可動部122がZ軸方向に沿って移動することにより、スピンドル72の可動部表面124に垂直なZ軸方向におけるスラスト隙間301の距離、すなわち、可動部表面124と環状部表面92との間の距離が変動される。
【0100】
このように、図5および図6に示す構成では、圧電アクチュエータ121は、スピンドル72に配置され、スラストベアリングを形成するスピンドル72の可動部表面124を、Z軸方向に移動させる。そして、隙間変更機構150は、圧電アクチュエータ121を用いてスピンドル72の可動部表面124をZ軸方向に移動させることによって、スラスト隙間301の距離を変更するように構成されている。
【0101】
このように、本実施形態にかかる隙間変更機構は、Z軸方向に直交する方向のスピンドル72の外側面、または、スピンドルハウジング71におけるZ軸方向に直交する方向の内側面のいずれかを、Z軸方向に移動させることによって、スラスト隙間301の該軸方向の距離を変更するように構成されていればよい。
【0102】
また、図5および図6に示す構成では、スピンドルハウジング71の環状部91の環状部表面92に、スラスト隙間301のエア圧力に応じた電気信号を生成する圧力素子115が備えられている。この電気信号に基づいて、圧力測定部116が、スラストベアリングが形成されているスラスト隙間301のエア圧力を測定する。これら圧力素子115および圧力測定部116も、スラスト隙間301に供給されたエアの圧力を検知する圧力センサを構成する。
【0103】
図5および図6に示す構成のスピンドルユニット78でも、ウェーハ100に対する研削加工の際に、スラスト隙間301の距離を調整することが可能である。すなわち、第1制御部21および第2制御部22は、隙間変更機構120の圧電アクチュエータ121を用いて、スラスト隙間301の距離を調整することができる。
【0104】
たとえば、制御手段20の第1制御部21は、保持面32に保持されているウェーハ100の裏面102に研削砥石77の下面を接触させる際、および、ウェーハ100を研削する際に、隙間変更機構120によって、スラスト隙間301の距離を、所定距離に狭めることができる。これにより、スピンドルユニット78に、高剛性のスラストベアリングを形成することが可能となる。したがって、研削加工の開始前および加工中に、高荷重を受けたスピンドルが傾くことを抑制することができるので、ウェーハ100の裏面102を、高荷重で研削することができる。
【0105】
また、制御手段20の第2制御部22は、エスケープカット加工およびスパークアウト加工の際、隙間変更機構120を制御して、スラスト隙間301の距離を所定距離よりも拡げることができる。これにより、研削砥石77にかかる荷重を小さくすることができるので、エスケープカット加工およびスパークアウト加工において、ウェーハ100の裏面102に形成されダメージ層を薄くすることが可能となる。さらに、ウェーハ100の裏面102の中心に凹みが形成されることを、抑制することができる。
【0106】
また、本実施形態では、距離測定手段として、スラスト隙間301に供給されたエアの圧力を検知する圧力センサとしての圧力素子115および圧力測定部116を示している。これに関し、距離測定手段は、図7示すように、光学センサを備えた構成であってもよい。図7に示す構成は、図3に示した構成において、距離測定手段として、圧力素子115および圧力測定部116に代えて、光学センサとしての投光部201および受光部202を備えている。この場合、距離測定手段は、投光部201および受光部202によって、スラスト隙間301の距離を測定する。
【0107】
図7に示す構成では、投光部201は、スラストベアリングを形成するスラスト隙間301の一方の面であるスピンドルハウジング71の可動部表面124に備えられている。投光部201は、制御手段20による制御により、矢印211に示すように、スラスト隙間301の他方の面であるスピンドル72の円板部表面83に向かって、測定光を投光する。この測定光は、円板部表面83によって反射されて反射光を形成する。
【0108】
受光部202は、矢印212に示すように、測定光における円板部表面83での反射光の一部を受光する。受光部202は、Y軸方向に延びるように形成されており、同じくY軸方向に沿って延びる受光面を有している。
【0109】
この構成では、スラスト隙間301の距離が変化して、投光部201から円板部表面83までの距離が変わると、受光部202の受光位置、すなわち、受光部202の受光面における円板部表面83からの反射光を受ける位置(Y軸方向での位置)が変化する。したがって、受光部202は、受光位置に基づいてスラスト隙間301の距離を測定して、測定結果を制御手段20に伝達することが可能である。
【0110】
また、距離測定手段は、図8示すように、超音波センサを備えた構成であってもよい。図8に示す構成は、図3に示した構成において、距離測定手段として、圧力素子115および圧力測定部116に代えて、超音波センサとしての超音波振動発振器221および受振部222を備えている。この場合、距離測定手段は、超音波振動発振器221および受振部222によって、スラスト隙間301の距離を測定する。
【0111】
図8に示す構成では、超音波振動発振器221、スラストベアリングを形成するスラスト隙間301の一方の面であるスピンドルハウジング71の可動部表面124に備えられている。超音波振動発振器221は、制御手段20による制御により、矢印231に示すように、スラスト隙間301の他方の面であるスピンドル72の円板部表面83に向かって、超音波振動を発振する。この超音波振動は、円板部表面83によって反射される。これにより、超音波振動の反射波である反射超音波振動が形成される。
受振部222は、矢印232に示すように、反射超音波振動の一部を受振する。
【0112】
この構成では、スラスト隙間301の距離が変化して、超音波振動発振器221から円板部表面83までの距離が変わると、超音波振動発振器221からの超音波振動の発信から、受振部222による反射超音波振動の受振までに要する時間が変化する。受振部222は、この時間と音速とを用いて、スラスト隙間301の距離を算出し、算出結果を制御手段20に伝達することが可能である。
【0113】
制御手段20は、図7に示した光学センサあるいは図8に示した超音波センサを用いてスラスト隙間301の距離を測定しながら、電圧調整部141を制御して、スラスト隙間301の距離を調整し、上述したような研削加工を実施することができる。
【0114】
たとえば、第1制御部21は、エアカットおよび研削加工の際(図2における時間範囲T2~4)、光学センサあるいは超音波センサによって検知されるスラスト隙間301の距離が所定距離となるように、電圧調整部141を介して隙間変更機構120を制御する。
【0115】
また、第2制御部22は、スパークアウト加工およびエスケープカット加工の際(図2における時間範囲T5,6)、光学センサあるいは超音波センサによって検知されるスラスト隙間301の距離が所定距離よりも広くなるように、電圧調整部141を介して隙間変更機構120を制御する。
【符号の説明】
【0116】
1:研削装置、10:基台、11:コラム、
31:チャックテーブル、32:保持面、
20:制御手段、21:第1制御部、22:第2制御部、
100:ウェーハ、101:表面、102:裏面、103:保護テープ、
50:研削送り手段、78:スピンドルユニット、
70:研削手段、71:スピンドルハウジング、74:ホイールマウント、
75:研削ホイール、76:ホイール基台、77:研削砥石、
72:スピンドル、81:第1円板部、82:第2円板部、
83:円板部表面、84:ラジアル側面、
73:回転モータ、85:ロータ、86:ステータ、
87:冷却ジャケット、88:冷却水路、
91:環状部、92:環状部表面、
93:ラジアル側エア噴出口、
95:スラスト凹部、96:底面、97:側面、
300:ラジアル隙間、301:スラスト隙間、
110:エア供給源、111:エア供給路、
115:圧力素子、116:圧力測定部、
120:隙間変更機構、121:圧電アクチュエータ、125:シール材、
122:可動部、124:可動部表面、123:スラスト側エア噴出口、
130:研削水源、131:研削水導入路、132:研削水路、
140:直流電源、141:電圧調整部、142:電力線、143:電力線、
145:第2接点、146:第1接点、
150:隙間変更機構、151:スラスト凹部、152:底面、153:側面、
201:投光部、202:受光部、
221:超音波振動発振器、222:受振部、
H1:エアカット開始高さ、
T1~T7:時間範囲、
V1:初期速度、V2:第1研削速度、V3:第2研削速度、
V4:エスケープカット加工速度、V5:退避速度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8