IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ UBE三菱セメント株式会社の特許一覧

特許7556775塩素バイパス設備、セメントクリンカ製造装置、及びセメントクリンカの製造方法
<>
  • 特許-塩素バイパス設備、セメントクリンカ製造装置、及びセメントクリンカの製造方法 図1
  • 特許-塩素バイパス設備、セメントクリンカ製造装置、及びセメントクリンカの製造方法 図2
  • 特許-塩素バイパス設備、セメントクリンカ製造装置、及びセメントクリンカの製造方法 図3
  • 特許-塩素バイパス設備、セメントクリンカ製造装置、及びセメントクリンカの製造方法 図4
  • 特許-塩素バイパス設備、セメントクリンカ製造装置、及びセメントクリンカの製造方法 図5
  • 特許-塩素バイパス設備、セメントクリンカ製造装置、及びセメントクリンカの製造方法 図6
  • 特許-塩素バイパス設備、セメントクリンカ製造装置、及びセメントクリンカの製造方法 図7
  • 特許-塩素バイパス設備、セメントクリンカ製造装置、及びセメントクリンカの製造方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】塩素バイパス設備、セメントクリンカ製造装置、及びセメントクリンカの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/60 20060101AFI20240918BHJP
   F27D 17/00 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
C04B7/60
F27D17/00 104G
F27D17/00 105G
F27D17/00 105K
F27D17/00 104D
F27D17/00 104A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020213527
(22)【出願日】2020-12-23
(65)【公開番号】P2022099642
(43)【公開日】2022-07-05
【審査請求日】2023-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】末益 猛
(72)【発明者】
【氏名】藤永 祐太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祥介
(72)【発明者】
【氏名】村上 浩平
(72)【発明者】
【氏名】大場 康太
【審査官】三村 潤一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/046200(WO,A1)
【文献】特開2018-131374(JP,A)
【文献】特開平09-175847(JP,A)
【文献】特開2003-277106(JP,A)
【文献】特開2017-141132(JP,A)
【文献】特開2008-121924(JP,A)
【文献】実開昭51-128353(JP,U)
【文献】特開昭59-053586(JP,A)
【文献】特開2013-147401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/43 - 7/60
F27D 17/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントキルンの窯尻、ライジングダクト又はこれらの間からキルン排ガスを抽気する抽気口と、
前記抽気口から抽気された抽気ガスの温度を770℃以上に維持した状態で前記抽気ガスに含まれる原料ダストの粗粉を前記抽気ガスから分離して原料ダストの微粉を含む抽気ガスを得る分級部と、
前記原料ダストの微粉を含む前記抽気ガスが流通する流路に旋回流が生じるように冷却ガスを導入する冷却ガス導入部と、を備え
前記冷却ガス導入部は、軸体と、前記冷却ガスの流路内において回動又は揺動可能に当該軸体に取り付けられる部材とを有する、塩素バイパス設備。
【請求項2】
セメントキルンの窯尻、ライジングダクト又はこれらの間からキルン排ガスを抽気する抽気口と、
前記抽気口から抽気された抽気ガスの温度を770℃以上に維持した状態で前記抽気ガスに含まれる原料ダストの粗粉を前記抽気ガスから分離して原料ダストの微粉を含む抽気ガスを得る分級部と、
前記原料ダストの微粉を含む前記抽気ガスが流通する流路に旋回流が生じるように冷却ガスを導入する冷却ガス導入部と、を備え、
前記冷却ガス導入部は、前記冷却ガスの流路を構成する流路壁の貫通孔において挿抜可能に構成される板状部材、及び、前記冷却ガスの流路を構成する変形可能な流路壁の少なくとも一つを有する、塩素バイパス設備。
【請求項3】
前記冷却ガス導入部は、前記流路への前記冷却ガスの導入方向、導入位置及び導入量の少なくとも一つを調節可能に構成される、請求項1又は2に記載の塩素バイパス設備。
【請求項4】
セメントキルンの窯尻、ライジングダクト又はこれらの間からキルン排ガスを抽気する抽気口と、
前記抽気口から抽気された抽気ガスの温度を770℃以上に維持した状態で前記抽気ガスに含まれる原料ダストの粗粉を前記抽気ガスから分離して原料ダストの微粉を含む抽気ガスを得る分級部と、
前記原料ダストの微粉を含む前記抽気ガスが流通する流路に旋回流が生じるように冷却ガスを導入する冷却ガス導入部と、を備え、
前記冷却ガス導入部における前記冷却ガスの流路が前記冷却ガスの流通方向に沿って複数に区画されており、
前記冷却ガス導入部は、複数に区画された各流路からの前記冷却ガスの導入量を個別に調節可能に構成される、塩素バイパス設備。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の塩素バイパス設備を備えるセメントクリンカ製造装置。
【請求項6】
請求項に記載のセメントクリンカ製造装置を用いてセメントクリンカを製造するセメントクリンカの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塩素バイパス設備及びその運転方法、セメントクリンカ製造装置、並びにセメントクリンカの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントクリンカの製造装置では、各種廃棄物を原料及び燃料として用いることの取り組みが進められている。このような事情から、セメントキルンに持ち込まれる塩素量は増加する傾向にある。多くのセメントクリンカ製造装置にはセメントキルン内の塩素を低減するために塩素バイパス設備が設置されており、この塩素バイパス設備で抽気された抽気ガスから効率的に塩素を除去する技術が検討されている。特許文献1では、キルン排ガス流路から抽気した抽気ガスの温度を770℃以上に維持した状態で抽気ガスから粗粉を分離し、その後、600℃以下に冷却して塩素バイパスダストを分離する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-55900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、ダストの粗粉を分離した後の抽気ガスの温度を770℃以上にしているが、このような高温の抽気ガスを冷却するとKCl及びNaCl等の揮発した塩素分が析出又は原料ダストの微粉の表面に析出し、それらが塩素バイパスダスト(クリンカダスト)となる。この塩素分が表面に析出した直後のクリンカダストは非常に付着性が強く、流路壁面にコーチングを生成することが懸念される。また、揮発した塩素分が流路壁面で析出し、そこに原料ダストが付着してコーチングが生成されることも懸念される。
【0005】
そこで、本開示では、コーチングの生成を抑制し、安定的に運転することが可能な塩素バイパス設備及びその運転方法を提供する。また、本開示では、そのような塩素バイパス設備を備えることによって、セメントクリンカを安定的に製造することが可能なセメントクリンカ製造装置及びセメントクリンカの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る塩素バイパス設備は、セメントキルンの窯尻、ライジングダクト又はこれらの間からキルン排ガスを抽気する抽気口と、抽気口から抽気された抽気ガスの温度を770℃以上に維持した状態で抽気ガスに含まれる原料ダストの粗粉を抽気ガスから分離して原料ダストの微粉を含む抽気ガスを得る分級部と、原料ダストの微粉を含む抽気ガスが流通する流路に旋回流が生じるように冷却ガスを導入する冷却ガス導入部と、を備える。
【0007】
上記塩素バイパス設備は、抽気ガスの温度を770℃以上に維持した状態で抽気ガスに含まれる原料ダストの粗粉を分離する分級部を有する。この分級部では、KCl及びNaCl等の塩素分が揮発した状態で、原料ダストの粗粉を抽気ガスから分離することができる。このため、抽気ガス中の原料ダスト量が増加した場合であっても、KCl及びNaCl等の揮発した塩素分が原料ダストの表面に析出する前に分級部で原料ダストの粗粉を分離することができる。したがって、クリンカダスト量の増加とクリンカダストの塩素濃度低下を抑制することができる。これによって、水洗設備にて処理するクリンカダスト量の増加を抑制し、クリンカダストの処理コストを抑えることができる。
【0008】
このような分級部において得られる原料ダストの微粉を含む抽気ガスが冷却ガスと混合されると、KCl及びNaCl等の揮発した塩素分が析出又は原料ダストの微粉の表面に析出し、クリンカダストが生じる。この塩素分が表面に析出した直後のクリンカダストは非常に付着性が強く、流路壁面にコーチングを生成することが懸念される。また、揮発した塩素分が流路壁面で析出し、そこに原料ダストが付着してコーチングが生成されることも懸念される。このため、上記塩素バイパス設備では、流路壁面に沿って旋回流が生じるように冷却ガスを導入する冷却ガス導入部を備える。これによって、流路壁面には旋回流の冷却ガスを流通させて高温の抽気ガスからの壁面保護を行い、流路中央に高温の抽気ガスを流通させる。このように、流路内における抽気ガスの流通領域の周囲に冷却ガスの流通領域が生じるようになる。抽気ガスと冷却ガスの流通領域の境界では微量のクリンカダストができるが、流路壁面の旋回流がエアーカーテンとなって、クリンカダストが流路壁面に付着しコーチングとなることを抑制することができる。したがって、塩素バイパス設備を安定的に運転することができる。
【0009】
冷却ガス導入部は、流路への冷却ガスの導入方向、導入位置及び導入量の少なくとも一つを調節可能に構成されることが好ましい。分級部を通過した抽気ガスは、流路壁面のコーチング付着抑制の観点から、分級部の近傍で流路の外周部に旋回流を形成する冷却ガスを導入することが好ましい。しかし、抽気ガスの流量に対して冷却ガスを過剰に取り込んだ場合、冷却ガスが逆流して分級部に流入し、分級部内にコーチングが生成されることが懸念される。また、冷却ガスが分級部に流入することで、KCl及びNaCl等の揮発した塩素分が原料ダストの粗粉の表面に析出し、その原料ダストの粗粉をキルンに戻した場合は塩素分が再びキルンに戻ってしまうことが問題になる。そこで、抽気ガスの流量に応じて、流路への冷却ガスの導入方向、導入位置及び導入量の少なくとも一つを調節して旋回流の強さを変えることによって、分級部へ冷却ガスが流入することを抑制しつつ、分級部の直前まで冷却ガスの旋回流を維持し、流路のコーチング付着を抑制することができる。これによって、塩素バイパス設備を一層安定的に運転することができる。分級部と冷却ガス導入部の間に断熱部を設けてもよい。断熱部を設けた場合は、断熱部に冷却ガスの旋回流が流入しないように、流路への冷却ガスの導入方向、導入位置及び導入量の少なくとも一つを調節して旋回流の強さを変えることで、断熱部内及び流路でのコーチング付着を抑制することができる。
【0010】
冷却ガス導入部は、軸体と、冷却ガスの流路内において回動又は揺動可能に当該軸体に取り付けられる部材とを有することが好ましい。これによって、高い自由度で抽気ガスの流路に導入される冷却ガスの導入方向を変更し、旋回流の強さや分布を高い精度で調節することができる。したがって、流路の内壁面へのクリンカダストの付着が抑制でき、流路内のコーチングの発生を一層抑制することができる。また、分級部へ冷却ガスが流入したり、下流側のダクトや設備の熱負荷が増加したりすることを抑制することができる。これによって、塩素バイパス設備を一層安定的に運転することができる。
【0011】
冷却ガス導入部は、冷却ガスの流路を構成する流路壁の貫通孔において挿抜可能に構成される板状部材、及び、冷却ガスの流路を構成する変形可能な流路壁の少なくとも一つを有することが好ましい。これによって、シンプルな装置構成で抽気ガスの流路への冷却ガスの導入方向、導入位置及び導入量の少なくとも一つを変更し、旋回流の強さや分布を高い精度で調節することができる。したがって、流路内壁面へのクリンカダストの付着が抑制でき、流路内のコーチングの発生を抑制することができる。また、分級部への冷却ガス流入抑制や、下流側のダクトや設備の熱負荷の抑制によって、塩素バイパス設備を一層安定的に運転することができる。
【0012】
冷却ガス導入部における冷却ガスの流路が冷却ガスの流通方向に沿って複数に区画されていることが好ましい。また、冷却ガス導入部は、複数に区画された各流路からの冷却ガスの導入量が個別に調節可能に構成されていることが好ましい。これによって、高い自由度で抽気ガスの流路に導入される冷却ガスの導入方向を変更し、旋回流の強さや分布を高い精度で調節することができる。したがって、流路内壁面へのクリンカダスト付着抑制、及び抽気ガスと冷却ガスの混合状態向上から、流路内のコーチングの発生を抑制することができる。また、分級部への冷却ガス流入抑制、及び、下流側のダクトや設備の熱負荷の抑制によって、塩素バイパス設備を一層安定的に運転することができる。
【0013】
塩素バイパス設備は、分級部で分離された原料ダストの粗粉をセメントキルン側に戻す循環流路を備えることが好ましい。抽気ガスの温度を770℃以上に維持した状態で抽気ガスに含まれる原料ダストの粗粉を分離してセメントキルン側に循環流路で戻すため、塩素分は揮発した状態であり、原料ダストの粗粉をセメントクリンカ原料として有効活用することができる。
【0014】
塩素バイパス設備は、抽気ガスと冷却ガスとを含む混合ガスに含まれるクリンカダストを回収する回収部と、回収部の下流側で混合ガスを吸引する吸引部と、を備えることが好ましい。吸引部による吸引によって、クリンカダストを回収することができる。また、分級部によって原料ダストの粗粉が分離されているため、回収部で回収されるクリンカダスト量の増加とクリンカダストの塩素濃度低下を抑制することができる。これによって、水洗設備にて処理するクリンカダスト量の増加を抑制し、クリンカダストの処理コストを抑えることができる。
【0015】
本開示の一側面に係るセメントクリンカ製造装置は、上述のいずれかの塩素バイパス設備を備える。このため、上記塩素バイパス設備は安定的な運転が可能であることから、これを備えるセメントクリンカ製造装置は、セメントクリンカを安定的に製造することができる。
【0016】
本開示の一側面に係るセメントクリンカの製造方法は、上記セメントクリンカ製造装置を用いてセメントクリンカを製造する。このため、セメントクリンカを安定的に製造することができる。
【0017】
本開示の一側面に係る塩素バイパス設備の運転方法は、セメント原料をセメントキルンで焼成する際に発生するキルン排ガスを抽気して抽気ガスを得る抽気工程と、抽気ガスの温度を770℃以上に維持した状態で分級して抽気ガスに含まれる原料ダストの粗粉を抽気ガスから分離し、原料ダストの微粉を含む抽気ガスを得る分級工程と、原料ダストの微粉を含む抽気ガスが流通する流路に旋回流が生じるように冷却ガスを導入する冷却ガス導入工程と、抽気ガスと冷却ガスとを含む混合ガスに含まれるクリンカダストを回収するダスト回収工程と、を有する。
【0018】
上記運転方法は、抽気ガスの温度を770℃以上に維持した状態で抽気ガスに含まれる原料ダストの粗粉を分離する分級工程を有する。この分級工程では、KCl及びNaCl等の揮発した塩素分が原料ダストの表面に析出する前に、原料ダストの粗粉を抽気ガスから分離することができる。このため、抽気ガスに含まれる原料ダストの粗粉がクリンカダストとして回収されることを抑制することができる。これによって、水洗すべきクリンカダストの量を低減させ、クリンカダストの水洗処理コストを抑えることができる。
【0019】
このような分級工程において得られる原料ダストの微粉を含む抽気ガスには、冷却ガスを取り入れ、KCl及びNaCl等の揮発した塩素分を析出又は原料ダストの微粉の表面に析出させてクリンカダストを得る。この塩素分が表面に析出した直後のクリンカダストは非常に付着性が強く、流路壁面にコーチングを生成することが懸念される。また、揮発した塩素分が流路壁面で析出し、そこに原料ダストが付着してコーチングが生成されることも懸念される。上記運転方法では、上記流路に旋回流が生じるように冷却ガスを導入する冷却ガス導入工程を有する。これによって、流路壁面へのクリンカダストの付着が抑制できる。したがって、塩素バイパス設備を安定的に運転することができる。
【発明の効果】
【0020】
コーチングの生成を抑制し、安定的に運転することが可能な塩素バイパス設備及びその運転方法を提供することができる。また、そのような塩素バイパス設備を備えることによって、セメントクリンカを安定的に製造することが可能なセメントクリンカ製造装置及びセメントクリンカの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】一実施形態に係る塩素バイパス設備とこれを備えるセメントクリンカ製造装置を示す図である。
図2】冷却ガス導入部が接続される抽気ガスの流路の径方向断面を示す断面図である。
図3】冷却ガス導入部の例を示す図である。
図4】冷却ガス導入部の例を示す図である。
図5】冷却ガス導入部の例を示す図である。
図6】冷却ガス導入部の例を示す図である。
図7】冷却ガス導入部の例を示す図である。
図8】冷却ガス導入部の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、場合により図面を参照して、本開示の一実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。また、本明細書における「上流」、「下流」、「上流側」及び「下流側」とは、抽気ガス、冷却ガス又はこれらの混合ガスの流通方向に基づくものである。
【0023】
図1は、一実施形態に係る塩素バイパス設備とこれを備えるセメントクリンカ製造装置を示す図である。塩素バイパス設備90は、セメントクリンカ製造装置100の予熱仮焼部40のライジングダクト42に接続される。塩素バイパス設備90は、セメントクリンカ製造装置100内の塩素分等の揮発成分をクリンカダストとして回収し、セメントクリンカ製造装置100内の塩素分を低減する。
【0024】
塩素バイパス設備90は、ライジングダクト42からキルン排ガスを抽気する抽気口21Aと、抽気口21Aから抽気された、原料ダストの粗粉、及び、粗粉よりも小さい粒径を有する微粉を含む抽気ガスが流通する抽気管21と、抽気ガスの温度を770℃以上に維持した状態で抽気ガスに含まれる原料ダストの粗粉を抽気ガスから分離して原料ダストの微粉を含む抽気ガスを得る分級部22と、原料ダストの微粉を含む抽気ガスが流通する流路24に旋回流が生じるように冷却ガスを導入する冷却ガス導入部10とを備える。
【0025】
抽気口21Aから抽気された抽気ガスは、原料ダスト、並びにKCl及びNaCl等の揮発した塩素分を含む。抽気ガスは抽気管21を流通し分級部22に導入される。抽気管21は、抽気プローブと称されるものであってもよい。抽気ガスは、770℃以上の温度を維持した状態で分級部22において原料ダストの粗粉を分離する。分級部22は例えばサイクロンであってよい。原料ダストの粗粉の粒径は、例えば、18μm以上であってもよい。好ましくは16μm以上であってもよく、さらに好ましくは14μm以上であってよい。原料ダストの微粉の粒径は、上述の粗粉の粒径よりも小さい。クリンカダストの塩素濃度は粒径によって異なっており、クリンカダストの粗粉は、微粉に比べて塩素濃度が低い。そのため、塩素濃度の低い原料ダストの粗粉を分離し、分離したクリンカダストの粗分をセメントキルン側に循環流路27で戻すことで、セメントキルン50への塩素の持ち込みを低減しつつ、水洗されるクリンカダストの量の増加を抑制することができる。
【0026】
770℃以上の温度を有する抽気ガスは原料ダストを含有する。原料ダストは、セメントクリンカの原料となるものであるため、分級部22によって分離された原料ダストの粗粉は、循環流路27を流通してセメントキルン50の窯尻52に導入される。このように、抽気口21Aから抽気された原料ダストの粗粉を窯尻52に戻すことによって、抽気ガスに含まれる原料ダストの粗粉をセメントクリンカの製造に用いることができる。なお、原料ダストの粗粉は窯尻52ではなく、ライジングダクト42、仮焼炉44、又はキルン本体56に戻してもよい。また、循環流路27を複数設けて原料ダストの粗粉を複数箇所に戻してもよい。分級部22で抽気ガスから分離される原料ダストの粗粉の表面にKCl及びNaCl等の揮発した塩素分が析出することを抑制する観点から、分級部22において原料ダストの粗粉を分離する際の抽気ガスの温度は、好ましくは820℃、より好ましくは860℃以上に維持されることが好ましい。分級部22の出口における抽気ガスが上記温度を有することが好ましい。
【0027】
分級部22における第2抽気ガスは十分に高い温度を有しているため、KCl及びNaCl等の塩素分はガスとして含まれている。分級部22において原料ダストの粗粉を分離することによって得られる、原料ダストの微粉とガス状の塩素分を含む抽気ガスは、流路24を流通し冷却ガス導入部10で冷却される。冷却ガス導入部10では、円管26で構成される流路24に冷却ガス11の流路が接続され、原料ダストの微粉を含む抽気ガスと冷却ガスが混合される。冷却ガス11は、原料ダストの微粉を含む抽気ガスが流通する流路24の内壁面の周方向に沿うように導入される。これによって、流路24に旋回流が生じ、流路24の内壁面にクリンカダストが付着してコーチングが発生することを抑制することができる。このような旋回流は、流路24の外周部にエアーカーテンを形成し、770℃以上という高温の抽気ガスから流路24を構成する円管26の内壁面を保護することができる。
【0028】
冷却ガス導入部10において、抽気ガスは冷却ガス11と混合され冷却される。抽気ガスと冷却ガス11との混合によって得られる混合ガスの温度は、設備の耐熱性の観点から600℃以下であってよく、500℃以下であってもよい。冷却ガス11は、常温の空気であってよく、工場等で発生する排気ガスを含むものであってもよい。排気ガスとしては、例えば、セメント製造工場に持ち込まれた下水汚泥等の含水汚泥の受け入れ、貯蔵及び発酵時に発生する臭気ガス、後述の吸引部74及び他工程の吸引部から排出される排出ガス等が挙げられる。これらの一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
図2は、冷却ガス導入部が接続される抽気ガスの流路の径方向断面を示す断面図である。原料ダストの粗粉が分離され原料ダストの微粉を含む抽気ガスが流通する流路24は円管26によって構成される。図2に示すような流路24(円管26)の径方向断面で見たときに、冷却ガス導入部10の流路壁37は、円管26の接線方向と平行方向に伸びるように、円管26に接続されている。円管26に接続された冷却ガス導入部10は、流路壁37で区画される流路12内を流通する冷却ガス11を流路24内に導入する。導入された冷却ガス11は、流路24において抽気ガスと合流しながら旋回流SFを形成する。旋回流SFの旋回軸は、円管26で構成される流路24の中心軸Pと一致する。中心軸Pの軸方向に沿って流通する抽気ガスは、冷却ガス11が合流すると温度が低下して、KCl及びNaCl等の揮発した塩素分が析出又は原料ダストの微粉の表面に析出する。これによって、クリンカダストができる。流路24では旋回流SFが生じていることから、流路24を構成する円管26の内壁面26Wにクリンカダストが付着してコーチングが発生することを抑制することができる。
【0030】
図3図4図5は、冷却ガス導入部の例を示す図である。図3図4及び図5に示される冷却ガス導入部は、流路24を流通する抽気ガスG1に冷却ガス11を混合して混合ガスG2を得る。770℃以上の温度を有する抽気ガスG1は、KCl及びNaCl等の揮発した塩素分と原料ダストの微粉を含有する。図3(A),(B)及び図4の冷却ガス導入部10A,10B,10Cは、いずれも、冷却ガス11の流路12内に軸体と軸体に回動又は揺動可能に取り付けられる部材とを有する。図3(A)の冷却ガス導入部10Aは、軸体31と冷却ガス11の流路12内において回動又は揺動可能に軸体31に取り付けられる板状部材32を有する。軸体31と板状部材32は、流路24に導入される冷却ガス11の風向を調節する機能を有することから、風向調節部30Aということもできる。このような風向調節部30Aを備える冷却ガス導入部10Aは、冷却ガス11の圧力損失を十分に小さくできるため、冷却ガス11の流量を大きくして旋回流SFを強くすることができる。板状部材32は、例えばフィンであってよい。軸体31は、流路12内に設けられてもよいし、流路12の外部に設けられてもよい。
【0031】
図3(B)の冷却ガス導入部10Bは、軸体31と冷却ガス11の流路12内において回動又は揺動可能に軸体31に取り付けられる円筒状部材33とを有する。軸体31と円筒状部材33は、流路24に導入される冷却ガス11の風向を調節する機能を有することから、風向調節部30Bということもできる。このような風向調節部30Bを備える冷却ガス導入部10Bは、冷却ガス11の導入方向を高い精度で調節することができる。したがって、流路24内の旋回流SFの強さ及び分布を緻密に制御することが可能となり、塩素バイパス設備90を、より一層安定的に運転することができる。円筒状部材33は、中央部分33aに、同心円状に円筒状の風向調節体を一つ又は複数有していてもよい。
【0032】
図4の冷却ガス導入部10Cは、軸体31とこれに回動又は揺動可能に取り付けられるゲート部材35とを有する。軸体31とゲート部材35は、流路24に導入される冷却ガス11の風向を調節する機能を有することから、風向調節部30Cということもできる。ゲート部材35は、冷却ガス11の流路12を絞って、冷却ガス11の導入方向と導入量を調節する機能を有する。これによって、流路24内の旋回流SFの強さ及び分布を緻密に制御することが可能となり、塩素バイパス設備90を、より一層安定的に運転することができる。ゲート部材35の形状は特に限定されず、冷却ガス11の導入方向と導入量の少なくとも一方を調節可能な形状のものを適宜用いることができる。例えば、通常のボール弁の弁体に用いられるボール状の部材であってもよい。
【0033】
図5(A)の冷却ガス導入部10Dは、冷却ガス11の流路12の流路24との接続部に変形可能な流路壁37Aとを有する。流路壁37Aは、流路24に導入される冷却ガス11の風向を調節する機能を有することから、風向調節部30Dということもできる。流路壁37Aは、例えばジャバラ状部材で構成されていてもよいし、ホース状部材で構成されていてもよい。流路12を流通する冷却ガス11の流通方向を変えることによって、流路24と流路12の接続部における冷却ガス11の導入方向を調節することができる。
【0034】
図5(B)の冷却ガス導入部10Eは、冷却ガス11の流路12を構成する流路壁37に形成された貫通孔において挿抜可能であり、流路12内への挿入長さが調節可能に構成される板状部材31aを有する。板状部材31aは、流路24に導入される冷却ガス11の風向を調節する機能を有することから、風向調節部30Eということもできる。図5(B)に示すように互いに対向するように設けられた貫通孔に挿入される一対の板状部材31aが流路12内に所定の長さで挿入された状態であれば、冷却ガス11の導入方向を流路24の上流側にすることができる。一方、一対の板状部材31aを流路12内から抜いて、代わりに一対の板状部材31bが流路12内に所定の長さで挿入すれば、冷却ガス11の導入方向を流路24の下流側に変えることができる。
【0035】
冷却ガス導入部は上述のものに限定されない。例えば、上述の例を組み合わせてもよいし、パンカールーバー型又はウエーブルーバー型の風向調節部を備えてもよい。冷却ガス導入部は、冷却ガス11の導入量を制御するダンパー等の流量調節部を備えていてもよい。これによって、セメントキルン50の運転状況、抽気ガス中のダストの濃度、及び抽気ガスの流量等に応じて冷却ガス11の導入量を適宜調節することができる。
【0036】
図6図7図8は、冷却ガス導入部の別の例を示す図である。図6の冷却ガス導入部10Fは、流路24を構成する円管状の流路壁の内壁面の周方向に沿うように冷却ガス11を導入する。冷却ガス11は流路24内に旋回流SF1,SF2を生成するとともに、分級部22から流路24に流入した抽気ガスG1と合流して混合ガスG2となる。旋回流SF1,SF2の旋回軸と円管26で構成される流路24の中心軸は一致する。混合ガスG2は、流路24の内部を旋回しながら流路24の長手方向に沿って移動する。この例では、互いに反対方向に向かう2つの旋回流SF1,SF2を示しているが、旋回流は1つであってもよい。また、図3図5の例においても、図6に示されるように旋回流は2つであってもよい。
【0037】
図6の冷却ガス導入部10Fの流路壁37Bは、流路24を構成する円管26との接続部に、冷却ガス11の流通方向に沿って冷却ガス11の流路12を拡げる拡張部16を有する。拡張部16の下流において、流路12は、区画体39によって、冷却ガス11の流通方向に沿って複数に区画されている。区画体39は、区画された各流路15a,15b,15c,15d,15e,15fのそれぞれが、隣り合う流路と隔離可能な部材(例えば板状部材)で構成されてよい。このように流路12を区画体39で複数に区画することによって冷却ガス11が整流されるため、流路24における旋回流SF1,SF2をより安定化させることができる。
【0038】
流路15a,15b,15c,15d,15e,15f(以下、纏めて「15a~15f」と称する。)は、それぞれ、流路24への冷却ガス11の導入量を調節する調節部11a,11b,11c,11d,11e,11f(以下、纏めて「11a~11f」と称する。)を有する。調節部11a~11fは、それぞれ独立して冷却ガス11の導入量を調節可能に構成される。これによって、冷却ガス導入部10Fは、冷却ガス11の導入量を調節できる。また、調節部11a~11fが、流路15a~15fの一部を選択的に全閉とすれば、冷却ガス導入部10Fは、流路24への冷却ガス11の導入位置も調節することもできる。
【0039】
例えば、流路24の上流側に位置する流路15a,15b,15cからの冷却ガス11の流量が、流路24の下流側に位置する流路15d,15e,15fからの冷却ガス11の流量よりも多くなるように調節部11a~11fで調節すると、旋回流SF2を強くすることができる。一方、流路24の下流側に位置する流路15d,15e,15fからの冷却ガス11の流量が、流路24の上流側に位置する流路15a,15b,15cからの冷却ガス11の流量よりも多くなるように調節部11a~11fで調節すると、旋回流SF1を強くすることができる。
【0040】
例えば、旋回流SF1の方が強く形成されるように冷却ガス11の導入を継続すると、流路24の上流側(分級部22側)の内壁面26Wにクリンカダストが付着する場合がある。この場合、調節部11a~11fによって、冷却ガス11の導入位置を流路24の上流側に変更したり、流路24の上流側に位置する流路15a,15b,15cからの冷却ガスの流量を増やしたりすることによって、旋回流SF2を強くすることができる。これによって、流路24の上流側の内壁面26Wに付着するクリンカダストを旋回流SF2で除去することができる。流路24の上流側の内壁面26Wに付着するクリンカダストは、流路24の下流側に混合ガスG2として導出されてもよい。
【0041】
流路24内に導入された冷却ガス11(又は、冷却ガス11と抽気ガスG1との混合ガスG2)の分級部22への逆流は少ない方が好ましい。これによって、分級部22の温度が低下して、分級部22で分離される原料ダストの粗粉の表面にKCl及びNaCl等の塩素分が析出することを抑制することができる。このため、例えば、抽気ガスの流量に対して冷却ガスを過剰に取り込み、冷却ガス11の分級部22への逆流が増加した場合には、調節部11a~11fによって、流路24の上流側に位置する流路15a,15b,15cからの冷却ガス11の流量を減らし又は導入を停止し、下流側に位置する流路15d,15e,15fからの冷却ガス11の流量を増やす又は導入を開始すればよい。これによって、分級部22で分離される原料ダストの粗粉の表面にKCl及びNaCl等の塩素分が析出することを抑制することができる。
【0042】
図7の冷却ガス導入部10Gは、図6の冷却ガス導入部10Fと同様に、冷却ガス11の流通方向に沿って冷却ガス11の流路12を拡げる拡張部16を有する。拡張部16の下流において、流路12は、区画体39によって、冷却ガス11の流通方向に沿って流路15a~15fに区画されている。各流路15a~15fには、それぞれ、調節部11a~11fが設けられている。調節部11a~11fは、軸体31と流路12内において回動又は揺動可能に軸体31に取り付けられる板状部材32とをそれぞれ有する。このような調節部11a~11fは、各流路15a~15fからの冷却ガス11の導入量をそれぞれ個別に調節することができる。
【0043】
図7では、一部の流路(流路15a~15c)が調節部11a~11cによって閉鎖されており、他部の流路(流路15d~15f)のみが開放されている。この場合、流路15a~15cからは冷却ガス11が供給されず、流路15d~15fのみから冷却ガス11を供給することができる。この状態から、例えば、調節部11a~11fの少なくとも一部を調節し、流路15a~15cの少なくとも一つから冷却ガス11の導入を開始したり、流路15d~15fの少なくとも一つからの冷却ガス11の導入を停止したりすれば、流路24への冷却ガス11の導入位置及び導入量を調節することができる。
【0044】
このように、図6及び図7の冷却ガス導入部10F,10Gは、流路15a~15fとこれらの個別に設けられた調節部11a~11fを有することによって、高い自由度で流路24への冷却ガス11の導入位置及び導入量を変更し、旋回流の強さ及び分布を緻密に制御することができる。したがって、塩素バイパス設備90を一層安定的に運転することができる。
【0045】
冷却ガス導入部10F,10Gにおける調節部11a~11fは、冷却ガス11の導入量を調節可能な構造を有していてればよい。例えば、ボール弁、ゲート弁、又はバタフライ弁のような通常のバルブで構成されてもよいし、ダンパーで構成されていてもよい。
【0046】
冷却ガス11の流通方向に沿う流路15a~15fの長さL(図7)は、各流路15a~15fの幅Dの5倍以上であることが好ましい。これによって、拡張部16によって冷却ガス11の流れが乱れても,流路15a~15fにおいて冷却ガス11の流れを十分に整流することができる。
【0047】
図8は、冷却ガスの12が伸びる方向に沿って、流路12を切断したときの冷却ガス導入部10Hの断面構造を示している。図8の冷却ガス導入部10Hは、図7の冷却ガス導入部10Gと同様に、冷却ガス11の流通方向に沿って冷却ガス11の流路12を拡げる拡張部16を有する。図8の冷却ガス導入部10Hは、拡張部16の下流において、調節部11gを備える。調節部11gは、冷却ガス11の流路12を構成する流路壁37Bに互いに対向するように形成された貫通孔36において挿抜可能であり、流路12内への挿入長さが調節可能に構成される一対の板状部材38A,38Bを有する。一対の板状部材38A,38Bは、それぞれ独立に、冷却ガス11の流通方向とは直交する方向に沿ってスライド可能に図示しない支持部によって支持されている。
【0048】
板状部材38A,38Bを流路12内に挿入し、冷却ガス11の流路12を絞ることによって、板状部材38A,38Bの間には、絞り部18が形成される。板状部材38A,38Bを矢印方向(流路24の長手方向)に沿ってスライドさせることによって、絞り部18の位置を流路24の長手方向に沿って移動させることができる。冷却ガス導入部10Hは、このような構造を有する調節部11gを有することによって、流路24に導入される冷却ガス11の導入位置を調節することができる。また、調節部11gで絞り部18の幅を変えることによって、冷却ガス11の導入量を調節することもできる。冷却ガス11の導入量の調節と導入位置の調節を併せて行ってもよい。
【0049】
絞り部18は、調節部11gのように複数の挿入部材で構成されてもよいし、例えば穴が形成された1枚の挿入部材で構成されていてもよい。また、冷却ガス11を流路24に大量に導入する必要があるときは、板状部材38A,38Bは、流路12から完全に抜いてもよい。また、冷却ガス導入部10Hは、拡張部16を有していなくてもよい。ただし、拡張部16を有することによって、冷却ガス11の流路24への導入位置の調節幅を大きくすることができる。
【0050】
上述の冷却ガス導入部10A~10Hにおける冷却ガス11の導入方向、導入位置及び導入量の少なくとも一つの調節は、例えば、抽気ガスの流路24、分級部22、抽気管21、ライジングダクト42、セメントキルン50(窯尻52)の運転情報を計測する計測部に基づいて行ってよい。例えば、分級部22の運転情報(例:温度)に基づいて、オペレータが、冷却ガス11の導入方向、導入位置及び/又は導入量をマニュアルで調節してもよく、制御部を用いて自動で調節してもよい。
【0051】
計測部が計測する運転情報としては、温度、圧力、抽気ガスの成分、抽気ガスの流量、ダスト濃度及び画像等が挙げられる。具体的には、抽気管21、分級部22及び流路24の内部又は表面の温度、ライジングダクト42及び窯尻52におけるキルン排ガスの温度、抽気口21Aから抽気管21内に流入するキルン排ガスの温度、並びに、抽気管21及び分級部22内部の画像等が挙げられる。計測部としては、例えば、温度センサ、圧力センサ、ガス成分センサ、流速センサ、及びカメラ等が挙げられる。
【0052】
塩素バイパス設備90は、計測部で計測された運転情報に基づいて、冷却ガス導入部10A~10Hに冷却ガス11の導入方向、導入位置、及び導入量の少なくとも一つを調節する制御信号を出力する制御部を備えてもよい。制御部は、通常のコンピュータシステムであってよく、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及び入出力インターフェイスなどを備えてよい。
【0053】
制御部を備えることによって、冷却ガス導入部10A~10Hは、冷却ガス11の導入方向、導入位置及び/又は導入量を自動で制御することができる。例えば、分級部22と流路24の接続部付近の温度T1を計測部で計測し、温度T1が下限を下回った場合には、冷却ガス11の導入位置及び/又は導入方向を流路24の下流側の方に変更してもよい。或いは、冷却ガス11の導入量を減らしてもよい。これによって、分級部22の温度が下がり過ぎることを回避できる。一方、温度T1が上限を上回った場合には、冷却ガス11の導入位置及び/又は導入方向を流路24の上流側の方に変更してもよい。或いは、冷却ガス11の導入量を増やしてもよい。これによって、分級部22と流路24の接続部付近まで旋回流を発生させることで、クリンカダストの付着によるコーチングの生成を抑制できる。
【0054】
図1に示すように、塩素バイパス設備90は、冷却ガス導入部10の下流に抽気ガスと冷却ガスとが合流して得られる混合ガスを冷却する冷却部70と、混合ガスに含まれるクリンカダスト(塩素バイパスダスト)を混合ガスから回収する回収部72と、混合ガスを吸引する吸引部74とを備える。冷却部70は水冷式又は空冷式の熱交換器であってよい。吸引部74としては、シロッコファン及びターボファンなどの通常の吸引ファンが挙げられる。
【0055】
冷却部70は、冷却ガス11と抽気ガスが合流して得られる混合ガスを、例えば260℃未満、好ましくは200℃未満に冷却する。その後、混合ガスは回収部72に導入される。回収部72は、バグフィルタであってよく、湿式スクラバ等の湿式集塵器であってもよい。回収部72で回収されたクリンカダストは、水洗処理がなされた後、セメント組成物に配合してもよいし、セメント原料として用いてもよい。
【0056】
図1のセメントクリンカ製造装置100は、塩素バイパス設備90と、セメント原料を予熱及び仮焼する予熱仮焼部40と、予熱及び仮焼されたセメント原料を焼成してセメントクリンカを得るセメントキルン50と、セメントキルン50で得られたセメントクリンカを冷却するクリンカクーラ60とを備える。予熱仮焼部40は、4つのサイクロンC1,C2,C3,C4(プレヒータ)と仮焼炉44とを有する。
【0057】
セメントキルン50の窯尻52と予熱仮焼部40の仮焼炉44とは、ライジングダクト42で接続されている。ライジングダクト42と窯尻52の接続部近傍には、セメントキルン50で発生するキルン排ガスを抽気して、キルン排ガスに含まれるダストを回収する塩素バイパス設備90の抽気口21Aが設けられている。抽気口21Aには、抽気管21が接続されている。セメントクリンカ製造装置100は、塩素バイパス設備90を備えることによって、セメントクリンカ製造装置100内の塩素分を低減することができる。
【0058】
サイクロンC1とサイクロンC2との接続部から導入されるセメント原料は、サイクロンC1、サイクロンC2、サイクロンC3、ライジングダクト42、仮焼炉44、及びサイクロンC4を流通してセメントキルン50の窯尻52に導入される。セメントキルン50では、予熱及び仮焼されたセメント原料が、窯尻52とは反対側に設けられたバーナ54の燃焼によって加熱されセメントクリンカとなる。得られたセメントクリンカは、クリンカクーラ60で冷却される。クリンカクーラ60によって冷却された後、セメントクリンカが得られる。
【0059】
セメントクリンカ製造装置100は、塩素バイパス設備90を備えるため、安定的な運転が可能であり、安定的にセメントクリンカを製造することができる。また、原料ダストを有効利用して、セメントクリンカの収量を増やすことができる。また、クリンカダストが低減され、クリンカダストの処理コストを低減することができる。なお、本実施形態では、抽気口21Aがライジングダクト42に設けられているが、これに限定されない。例えば、抽気口21Aは窯尻52に設けられてもよく、窯尻52とライジングダクト42の間(又は境界部)に設けられてもよい。
【0060】
一実施形態に係るセメントクリンカの製造方法は、セメントクリンカ製造装置100を用いて行うことができる。この製造方法は、予熱仮焼部40でセメント原料を予熱及び仮焼する予熱仮焼工程と、予熱及び仮焼されたセメント原料を、窯尻52からキルン本体56に導入し、セメントクリンカを製造する焼成工程と、焼成工程で発生するキルン排ガスを抽気して抽気ガスを得る抽気工程と、原料ダストの粗粉及び原料ダストの微粉を含む抽気ガスを分級部22に導入し、770℃以上の温度を維持した状態で当該抽気ガスから原料ダストの粗粉を分離する分級工程と、原料ダストの粗粉が分離された抽気ガスが流通する流路に旋回流が生じるように冷却ガスを導入する冷却ガス導入工程と、抽気ガスと冷却ガスが合流して得られる混合ガスを冷却する冷却工程と、冷却工程で冷却された混合ガスに含まれるクリンカダストを回収するダスト回収工程と、分級工程で分離された原料ダストの粗粉をセメントキルン50側に戻す循環工程と、を有する。また、焼成工程で得られたセメントクリンカを、クリンカクーラ60で冷却するクリンカ冷却工程を有してよい。
【0061】
予熱仮焼工程では、セメント原料がサイクロンC1とサイクロンC2の間の流路から導入される。セメント原料は、サイクロンC1、サイクロンC2及びサイクロンC3を流通して予熱される。その後、仮焼炉44に導入され、仮焼される。仮焼炉44には、石炭等の燃料を燃焼するバーナが設けられていてよい。仮焼炉44で仮焼されたセメント原料(仮焼原料)は、サイクロンC4に導入され加熱される。
【0062】
焼成工程では、サイクロンC4で加熱された仮焼原料が窯尻52に導入される。その後、キルン本体56において焼成されセメントクリンカとなる。抽気工程では、焼成工程で発生するキルン排ガスを抽気口21Aから抽気する。分級工程では、抽気口21Aから抽気され抽気ガスに含まれる原料ダストの粗粉を抽気ガスから分級部22で分離する。分級部22で抽気ガスから原料ダストの粗粉を分離する際の抽気ガスの温度は770℃以上、好ましくは820℃、より好ましくは860℃以上に維持する。これによって、分級部22で抽気ガスから分離される原料ダストの粗粉の表面にKCl及びNaCl等の揮発した塩素分が析出することを抑制できる。このような原料ダストの粗粉をセメントキルン50の窯尻52に戻す循環工程を行うことによって、塩素分をキルンへ戻すことなく、セメントクリンカの生産量を増やすことができる。
【0063】
冷却ガス導入工程では、原料ダストの粗粉が分離された抽気ガスに冷却ガスを合流させて混合ガスを得る。このとき、円管で構成される抽気ガス(混合ガス)の流路の内壁面の周方向に沿って冷却ガスを導入することによって、旋回流を生じさせる。これによって、流路にクリンカダストが付着してコーチングが発生することを抑制できる。冷却ガス導入工程で冷却ガスを導入することによって得られる混合ガスの温度は、設備の耐熱性の観点から600℃以下であってよく、500℃以下であってもよい。混合ガスがこのように冷却されることによって、KCl及びNaCl等の揮発していた塩素分が析出又は原料ダストの微粉の表面に析出しクリンカダストができる。
【0064】
冷却工程では、冷却部70において混合ガスを例えば260℃未満、好ましくは200℃未満に冷却する。ダスト回収工程では、回収部72において混合ガスに含まれるダストを回収する。このようにして回収されるダストはクリンカダストと称される。この製造方法によって、塩素バイパス設備90及びセメントクリンカ製造装置100を安定的に運転することができる。また、原料ダストを有効利用して、セメントクリンカを効率よく製造することができる。また、クリンカダストが低減され、クリンカダストの処理コストを低減することができる。
【0065】
一実施形態に係る塩素バイパス設備の運転方法は、上述の抽気工程、分級工程、冷却工程及びダスト回収工程を有してよい。また、上述の循環工程を有していてもよいし、上述のセメントクリンカの製造方法のいずれかの工程をさらに有していてもよい。この運転方法はセメントクリンカ製造装置100に備えらえる塩素バイパス設備90を用いて行うことができる。したがって、各工程の内容は、上述のセメントクリンカの製造方法における内容と同じであってよい。
【0066】
上述の塩素バイパス設備90及びセメントクリンカ製造装置100に関する説明内容は、上述のセメントクリンカの製造方法及び塩素バイパス設備の運転方法の説明内容にも適用される。また、上記製造方法及び運転方法の説明内容も、上述の塩素バイパス設備90及びセメントクリンカ製造装置100の説明内容に適用される。
【0067】
以上、本開示の幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、分級部22で分離された原料ダストの粗粉は循環流路27を介してセメントキルン50側に戻していたがこれに限定されない。例えば、セメント原料のタンクに入れてセメント原料として予熱仮焼部40に供給されてもよい。また、抽気ガスの流路24を構成する円管26は水平に配置されずに、水平方向に対して傾斜して配置されてもよい。塩素バイパス設備は、冷却ガス導入部10と冷却部70の間に混合チャンバを有していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本開示によれば、コーチングの生成を抑制し、安定的に運転することが可能な塩素バイパス設備及びその運転方法が提供される。また、そのような塩素バイパス設備を備えることによって、セメントクリンカを安定的に製造することが可能なセメントクリンカ製造装置及びセメントクリンカの製造方法が提供される。
【符号の説明】
【0069】
10,10A,10B,10C,10D,10E,10F,10G,10H…冷却ガス導入部、11…冷却ガス、11a,11b,11c,11d,11e,11f,11g…調節部、12,24…流路、15a,15b,15c,15d,15e,15f…流路、16…拡張部、18…絞り部、21…抽気管、21A…抽気口、22…分級部、26…円管、27…循環流路、26W…内壁面、30A,30B,30C,30D,30E…風向調節部、31…軸体、31a,31b,32…板状部材、33…円筒状部材、33a…中央部分、35…ゲート部材、36…貫通孔、37,37A…流路壁、38A,38B…板状部材、39…区画体、40…予熱仮焼部、42…ライジングダクト、44…仮焼炉、50…セメントキルン、52…窯尻、54…バーナ、56…キルン本体、60…クリンカクーラ、70…冷却部、72…回収部、74…吸引部、90…塩素バイパス設備、100…セメントクリンカ製造装置、C1,C2,C3,C4…サイクロン、G1…抽気ガス、G2…混合ガス、P…中心軸、SF,SF1,SF2…旋回流。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8