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特許7557139高圧水素環境下での高サイクル疲労試験を可能とする回転曲げ疲労試験装置
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  • 特許-高圧水素環境下での高サイクル疲労試験を可能とする回転曲げ疲労試験装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】高圧水素環境下での高サイクル疲労試験を可能とする回転曲げ疲労試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/20 20060101AFI20240919BHJP
   G01N 17/00 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
G01N3/20
G01N17/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021045278
(22)【出願日】2021-03-18
(65)【公開番号】P2022144335
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(72)【発明者】
【氏名】窪田 和正
(72)【発明者】
【氏名】川上 遼
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特公昭36-020441(JP,B1)
【文献】特公昭47-012714(JP,B1)
【文献】実開昭58-144251(JP,U)
【文献】特開2012-184992(JP,A)
【文献】川上 遼,水素環境下における回転曲げ疲労試験方法の開発及び低合金鋼SCM435の高サイクル疲労特性に及ぼす水素の影響に関する研究,九州大学博士論文,2021年06月11日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/20
G01N 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧水素を充填した試験容器内で高圧水素環境下での疲労特性を評価するための試験が可能な疲労試験装置であって、
前記容器内に配置された棒状の試験片が回転可能に固定され、前記試験片の鉛直下部方向に荷重を負荷することにより、前記試験片に曲げモーメントを負荷しつつ回転できるように構成されており、
前記試験片への回転力をマグネットドライブ方式によるマグネットドライブにより伝達するようにするとともに、前記マグネットドライブと前記試験片との間を、両端にユニバーサルジョイントを配置した伸縮可能な回転軸で接続したことを特徴とする高圧水素環境下での高サイクル疲労試験を可能とする回転曲げ疲労試験装置。
【請求項2】
前記試験片のドライブ側に、多大なトルク負荷時にトルクの負荷を遮断できるトルクリミッタ機構を有することを特徴とする請求項1に記載の高圧水素環境下での高サイクル疲労試験を可能とする回転曲げ疲労試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧水素ガス環境において、鋼材等の金属材料の高サイクル疲労試験を可能とする回転曲げ疲労試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年温暖化防止の観点から、ガソリンを燃料とするレシプロエンジンを用いた自動車から、走行中に二酸化炭素を排出しない電気自動車、燃料電池を用いた自動車や、二酸化炭素の排出を大幅に減らすことのできるハイブリッド車、プラグインハイブリッド車の開発が盛んに進められている。その中でも燃料電池を用いた自動車は、走行中に二酸化炭素を全く排出しないため、将来の温暖化を防止できる自動車として、開発が盛んに進められている。
【0003】
しかしながら、燃料電池自動車は、水素を燃料とし、水素を高圧な状態で充填したタンクを用いるため、配管継手やバルブ等、高圧水素ガスに接触する部位に用いる鋼材には、水素環境下でも機械的特性が大きく低下しない材料の開発が不可欠であり、特に長期間の使用を保証するためには、高サイクルでの疲労試験が可能な疲労試験装置の開発が強く望まれている。すなわち、水素は従来から鋼材の機械的特性の低下に大きく影響する元素として知られているため、水素の影響が小さく、高圧水素環境下でも優れた特性の得られる鋼材の開発が不可欠となるためである。
【0004】
従来から知られている高圧水素環境における金属材料の機械的性質を試験し測定する手段としては、高圧水素ガスを充填した高圧の試験容器に、油圧サーボ式疲労試験機に接合された移動ロッドを挿入した構造の試験装置がある。この装置では、試験容器内の試験片に、移動ロッドを介して油圧サーボが生み出す荷重を伝達し、試験容器内にて金属材料の引張試験や軸荷重型の疲労試験を行うことができる試験装置であり、市販もされている(例えば、非特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】松岡三郎,松永久生,山辺純一郎,濱田繁,飯島高志,“115MPa水素ガス中での低合金鋼SCM435とSNCM439の各種強度特性および設計指針の提案”,日本機械学会論文集,Vol.83,No.854(2017).
【文献】窪田和正,”高圧水素環境における材料試験機の導入”,愛知製鋼技報Vol.36,No.1(2020).
【0006】
上記試験装置においては、高圧の水素ガスを充填した試験容器に移動ロッドが挿入された構造となっている。移動ロッドは、試験片への荷重の負荷及び除荷に伴い試験容器に対して移動する。移動ロッドの変位と高圧水素ガスの試験容器内への封じ込めを両立させるため、試験容器においてはロッドが貫入する位置にフッ素樹脂等を材質とするリップシールを設けている。シールにより移動ロッドと試験容器の間の隙間を完全に塞ぐことで、水素ガスを漏らさずに移動ロッドが移動でき、試験容器内部の試験片に試験応力を伝える構造となっている。
【0007】
上記の文献等に記載された試験装置では低歪速度引張(SSRT;Slow Strain Rate Tensile)試験、低サイクル疲労試験、疲労き裂進展試験等を行うことができるが、その試験片に荷重を加える回数すなわち移動ロッドの移動回数は、比較的少ない試験に留まっている。このような比較的回数の少ない試験であれば、試験機のメンテナンス時に定期的にリップシールを交換することで、問題なく試験を実施することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来技術には、以下の問題がある。
燃料電池自動車等の高圧水素部品では高サイクルでの繰返し応力が負荷されることを想定した設計を行う必要があり、当然の如く、高圧水素環境における高サイクル領域での疲労特性の把握が必須となる。しかしながら、前記した従来の試験装置では、繰返し数が比較的少ない試験では、問題なく実施することができるものの、高サイクル疲労試験を行おうとすると、現状のシールの寿命では、そのような高サイクルに耐えることができず、容器内の水素圧力の維持が困難となるため、試験が困難となる。
【0009】
また、繰返し数の観点のみならず、試験周波数の観点においても、シール材の耐久性の問題により、試験周波数を高めることができず、高くとも1Hz程度とする必要がある。この試験周波数では、一般的に疲労限とみなされる繰返し数1000万回の疲労試験を行おうとすると、多大な時間を必要とするため、高い試験周波数であって、高サイクルの疲労試験が可能な試験装置の開発が強く望まれていた。
【0010】
本発明は、上記問題を解決するために成されたものであり、応力の繰返し数が低サイクル領域は勿論のこと、繰返し数1000万回以上の高サイクル領域の疲労特性についても、高速で高圧水素環境中の金属材料の疲労試験を実施できる、疲労試験装置を新規に提案することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明の高圧水素環境下での高サイクル疲労試験を可能とする回転曲げ疲労試験装置は、高圧水素を充填した試験容器内に配置された棒状の試験片が回転可能に固定され、前記試験片の鉛直下部方向に荷重を負荷することにより、前記試験片に一定の曲げモーメントを負荷しつつ回転できるように構成されており、前記試験片への回転力をマグネットドライブ方式によるマグネットドライブにより伝達するようにするとともに、前記マグネットドライブと前記試験片との間を、両端にユニバーサルジョイントを配置した伸縮可能な回転軸で接続したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
従来の疲労試験装置では、高圧水素が充填された試験容器内にロッドを挿入し、そのロッドが試験容器に対して入ったり出たりする構造となっていた。このため、ロッドと試験容器の間の界面に高圧水素の漏れを防ぐ動的なシールを設ける必要があり、このシールの寿命が短いために、高サイクルの疲労試験が出来ないことが問題となっていた。また、このようなロッドの出し入れによる動きでは、試験周波数を高める点で限界があることも効率良く高サイクル疲労試験を行う上で問題であった。そこで、本発明では、外力の与え方を、試験速度を高速化しやすい回転による試験方法(従来の回転曲げ疲労試験装置を応用)に変更するとともに、回転動作を加える回転軸自体を直接試験容器壁に貫入させるのではなく、回転軸と一体になった試験片を試験容器内に配置し、その回転軸の端部はホルダ(以下内周ホルダーと記す)に収容し、試験容器に対しては完全に固定され、試験容器壁の一部となるように内周ホルダーを接続し、その内周ホルダー内に収容した回転軸端部に磁石を固定し、さらに外側に設けた外周ホルダー内に配置した磁石を回転させることにより、磁力により非接触で回転させる、マグネットドライブ方式を利用することにより、回転軸に組み付けられた試験片を回転運動させる構造を考案した。
【0013】
この結果、内周ホルダーは、試験容器に対し完全固定されているので、従来の試験装置のように動的なシールを設ける必要がなく、シールの寿命を心配する必要がなくなり、高圧水素ガスの漏れの心配をすることもなく、かつ試験周波数を高めやすい回転動作により試験を行うので、高圧水素環境下での高サイクル疲労試験を短時間に効率良く行うことに成功したものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明である回転曲げ疲労試験装置の一実施例を説明する側面図である。
図2図1の、マグネットドライブ部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明である高圧水素環境下での高サイクル疲労試験を可能とする回転曲げ疲労試験装置の実施の形態について説明する。
【0016】
(試験容器)
試験容器は、回転曲げ疲労試験の試験片を、回転曲げ疲労試験中において高圧水素ガス雰囲気下とするための試験容器である。
低圧の水素ガス雰囲気においては、高圧の水素ガス雰囲気と比較して、軸荷重型の疲労試験機におけるシールの問題は軽微となる。従来のシールによる高圧水素ガスの漏れ防止で寿命が顕著な問題となるのは、水素ガスの圧力が10MPa以上の場合である。一方で、燃料電池自動車は70MPaの高圧水素ガスを用いることから、高圧水素ガスの圧力が70MPa以上の場合で疲労試験を可能とすることが必要となるが、前記した通り本発明では試験片を回転させるのに、マグネットドライブ方式を採用し、動的なシールによる漏れ防止を必要としないので、70MPa以上の圧力であっても、漏れ発生の心配をする必要がなく、繰返し数1000万回以上の高サイクルの疲労試験を行うことが可能となる。
【0017】
なお、試験容器に用いる材質は、水素ガスによる脆化の影響を受け難く、高圧水素を安全に充填するのに必要な壁厚をできるだけ薄く抑え、かつ質量を低減させるために、高強度なSUH660を用いることが望ましい。
【0018】
(回転動力源)
本発明の回転曲げ疲労試験装置において、マグネットドライブを起動させ、試験片を回転させるモータは、試験容器の外部に配置されるモータによって行う。なお使用するモータは、万が一の事故を防止する観点から防爆モータを用いるとともに、疲労試験周波数の制御のため、インバーター制御可能にすることが望ましい。尚、マグネットドライブの回転数を可変制御出来るように、モータの極数の最適化や、必要に応じて減速ギアを設けることが好ましい。これにより、例えば600~2000rpmというように可変制御可能なモータとすることができる。
【0019】
(マグネットドライブ)
高圧試験容器内に、動的なシールを用いることなく、回転動力源の回転力を伝達するための部品であり、磁石を用いて、内周ホルダー内に設けられ、試験片に直接接続された回転軸に動力を伝達する部品である。なお、この部品は従来、撹拌機として利用されていたものである。
【0020】
本発明では、高圧水素ガスを用いるため、高圧ガスと直接接触するマグネットドライブの内周ホルダーの材質としては、試験容器と同様に、SUH660を用いることが望ましい。
【0021】
尚、回転動力源であるモータとマグネットドライブの間の接続には、試験周波数を担保するため、タイミングベルト等のすべりにより回転数が変化しない伝達方法が望ましい。
【0022】
尚、マグネットドライブの回転数をあまりに遅くすると、回転曲げ疲労試験機構の共振周波数に近くなり、試験片に意図しない応力が生じることから不都合であり、また、あまりに速くすると、磁場が回転することにより生じる渦電流による発熱が大きくなり、試験装置を構成しにくくなるため、マグネットドライブの回転数は600~2000rpmの範囲が好ましい。
【0023】
(カップリング機構)
高圧試験容器内に突き出たマグネットドライブの内周ホルダー内に収容された回転軸と同回転軸上で結合し、試験片側に回転力を伝達するための部品である。
【0024】
カップリング機構は、例えば、マグネットドライブの内周ホルダー内回転軸の先端をスプライン形状とし、カップリング側をスプラインの溝を受ける形状とすることで実現できる。
【0025】
(伸縮軸とユニバーサルジョイント)
カップリングで受けたマグネットドライブの回転軸と、試験片の回転軸の角度と長さの変化を吸収しつつ、試験片に回転力を伝達する部品であり、伸縮可能な回転軸の両端に2つのユニバーサルジョイントを一列に配置することにより、角速度の不整さを打ち消しあうことができるようにしている。
すなわち、錘による曲げモーメントの負荷の影響で、マグネットドライブの回転軸先端と試験片との間は、その距離が変化するとともに、その間を接続する伸縮軸の取付角度も変化する。この際、距離の変化は伸縮軸で吸収することができるが、角度の変化は、モーターの回転速度が試験片にそのまま伝わらなくなるという影響(角速度の不整さ)をもたらす。
【0026】
そこで、本発明では、伸縮軸の両端にユニバーサルジョイントを2つ配置することで、2つのユニバーサルジョイントそれぞれから生じる角速度への影響が互いに打ち消しあうように接続することで、モーターの回転速度がほぼそのまま試験片の回転速度となるように、工夫している。この際、2つのユニバーサルジョイントは、同じ仕様のものを選択することが、より好ましい。その方が角速度の影響の打ち消しが、より確かなものになるためである。
【0027】
本発明では、試験片に曲げモーメントを負荷するため、鉛直下部方向に錘により荷重を負荷するようにしているが、この荷重は繰返し数1000万回における疲労限度を求める場合には、錘の大きさを変化させ、複数の条件で行う必要がある。試験片に曲げモーメントが負荷される等により、前記伸縮軸の角度が変化することが推定されるが、上記のように、2つのユニバーサルジョイントを伸縮軸の両端に用いることによって、前記伸縮軸の角度に関係なく、安定した試験速度での試験を可能とすることができる。なお、伸縮軸の両端に2つの同じユニバーサルジョイントが接続された部品は、市販されているので、それを用いることが可能である。
【0028】
尚、ユニバーサルジョイントを角速度の不整さをなるべく補正するように動作させるため、マグネットドライブのドリブン側回転軸は、試験片ドライブ側回転軸の位置に対して水平方向にずれがないように配置し、かつ垂直方向においては試験片ドライブ側回転軸よりも高い位置に配置するようにし、試験片ドライブ側回転軸が重錘による荷重で変位しても試験片ドライブ側回転軸に結合されたユニバーサルジョイントの位置が、マグネットドライブのドリブン側回転軸側のもう一方のユニバーサルジョイントの位置よりも高くならないようにすることが望ましい。角速度の不整さを完全に打ち消すことは困難であるが、これにより回転に伴う振動等の問題を、実験上問題のない程度まで低減することが出来る。
【0029】
(トルクリミッタ)
試験片のドライブ側(マグネットドライブのドリブン側回転軸先端部から試験片ドライブ側回転軸の間)に配置し、過大なトルクが発生した場合に、高圧試験容器保護のため、回転力を試験片側に伝えないための機構である。回転曲げ疲労試験ユニット部分に何らかの故障が生じた場合等、何等かの理由で過大なトルクが負荷された場合に、予期しない重大な故障につながる恐れがあるため、所定以上のトルクが試験片側に負荷されない構造としておくことが好ましい。
【0030】
トルクリミッタ機能を設ける方法としては、一般的な機械式のトルクリミッタを用いる場合の他、回転曲げ疲労試験に要するトルクは大きくないため、イモネジを試験片のドライブ側回転軸の側面にねじ当てて接合する構造とし、イモネジで締め付けられる回転軸側面が塑性変形することで過大トルクを逃がすような簡単な構造でトルクリミッタと同様の機能を得られるようにすることもできる。
【0031】
(重錘)
本発明の試験装置では、試験片と試験片回転軸からなる回転体に、4点曲げにより、曲げモーメントを加え、試験片に引張圧縮の試験応力を発生させるための錘を用いている。この錘を用いること自体は、公知の回転曲げ疲労試験装置でも全く同様であり、特に目新しいものではない。
【0032】
但し、本発明では、前記の通り高圧水素が充填された試験容器内に試験片だけでなく錘も収容した状態で試験を行う必要があるため、試験容器を小型化しようとすると、スペースに余裕がなく、試験前後に試験容器内へ入れたり、引き出したりすることが容易となるようにしておく必要がある。そこで、例えば錘の底部に樹脂製の車輪を設けておく等の工夫により、試験容器内への出し入れを容易にすることができる。試験中に錘は、当然の如く試験片に接続している軸にぶら下がった状態となっているが、試験片が破断した際には、落下することになる。その際、樹脂製の車輪を設けておくと、錘全体が直接試験容器に当たって容器に傷がつくことを防止することができる。
【0033】
(位置決めピン及び固定ベース移動用車輪)
マグネットドライブを有する側の試験容器の内壁端部に2本以上の本数の位置決めピンを設けておき、試験片回転曲げ疲労試験機構部分を試験容器に挿入する際に、疲労試験機構部分を受ける固定ベースの前記内壁端部側に位置決めの穴をあけておき、試験容器を挿入した際に、位置決めピンがささるようにしておくことで、試験容器に対して回転曲げ疲労試験機構部分が所定の位置に来るように導くことができる。これにより、疲労試験機構部分を挿入しようとした際に、試験容器内に配置されたマグネットドライブのドリブン側回転軸と回転曲げ疲労試験機構部のカップリングの接合のための位置決めを容易にすると共に、カップリングの回転に対する反トルクを打ち消す役割を担う。
【0034】
この疲労試験機構部分を挿入する際に、前記した錘だけでなく、疲労試験機構部分を受ける固定ベースの下部にも車輪を設けておくことにより、カップリングの切り離しと併せて、試験片の脱着や錘の交換等の作業を容易に行えるようにすることができる。
【0035】
(試験片ドライブ側回転軸と試験片ドリブン側回転軸)
試験片の長さを延長する部品であり、それにより試験片の長さを短くできる。見方によっては、試験片製作時の機械加工を容易とするための部品とも言える。
【0036】
発明者らは、当初、試験片を長くして回転軸と一体構造とすることで接合部を廃して回転曲げ疲労試験機構部分を小型化する検討をしたが、そのような長い試験片は精度よく機械加工できないことと、試験片の加工費用が過度に高価となることから考えを改め、一般的な回転曲げ疲労試験機と同様に、試験片を短くし、試験片の長さを延長する回転軸を設ける構造とした。
【0037】
試験時に回転し、異常振動しないように、同心度、同軸度等において高い加工性度が要求される。回転曲げ疲労試験では、試験片と回転軸は高速で回転するため、JISZ2274(1978)「金属材料の回転曲げ疲れ試験方法」では試験片を取り付けた状態で、試験片平行部中央の心振れが0.05mm以内となることを求めている。そのため、一般的に回転曲げ疲労試験機の試験片の取り付け部分にはコレットチャックが一般的に用いられており、本発明においてもコレットチャックを用いることが好ましい。
【0038】
(試験片)
本装置では、前記した試験片ドライブ側回転軸と試験片ドリブン側回転軸によって、試験片長さを調整できるようにしているので、従来の回転曲げ疲労試験装置のJIS規格である、JISZ2274(1978)「金属材料の回転曲げ疲れ試験方法」に記載され、従来から広く使われている試験形状である1号試験片であり、大気中での試験において一般的な、つかみ部φ12mm、平行部φ8mm、平行部長さ20mm程度のJIS1号試験片を用いることが出来る。これにより、過去の多数蓄積されている回転曲げ疲労試験のデータとも同一の試験片形状で試験できることから、比較検討が容易となる。
【0039】
(起動時の共振防止くさび部品)
本発明の回転曲げ疲労試験装置の試験片の回転軸は、試験片ドライブ側回転軸14(後述の図1参照)において、回転軸の位置決めのための拘束がかかっているが、その拘束は、水平方向には変位が拘束されているものの、試験片には天地方向に曲げモーメントがかかり、変形することから、天地方向には拘束されていない。そのため、装置を起動し試験片を回転させはじめると、共振周波数を通過する際に、鉛直方向に過大な振動が生じる可能性がある。そこで、くさび形状の部品を、試験片ドリブン側回転軸16(後述の図1参照)の端位置において、例えばカウンタ等の、試験片が破断した際に天側に変位する箇所の地側の隙間に差し込むことで地面側の隙間を埋め、共振時に回転軸が地面側に変位するのを制限し、共振が生じようとした際の天側と地側の振動の振幅を不一致とすることで、起動時の共振振動の発生を抑制できるようにしておくことが好ましい。
【実施例
【0040】
以下、本発明である高圧水素ガス環境において回転曲げ疲労試験を行う疲労試験装置により得られる効果を明らかにするための実施例について説明する。
【0041】
図1に本発明の一実施例である回転曲げ疲労試験装置の側面図、図2にマグネットドライブ4の拡大図を示す。
1はモータであり、タイミングベルト2を介してマグネットドライブの外周ホルダー41を回転させ、磁力により内周ホルダー47内に配置されているマグネットドライブドリブン側回転軸45を回転させ、試験片ドライブ側回転軸14に接続されている試験片15を回転させることのできる構造となっている。なお、磁力により内周ホルダー47内に配置されているマグネットドライブドリブン側回転軸45を回転させるマグネットドライブ4は、撹拌機として従来から市販されている一般的な部品であり、それ単体としては特に目新しいものではない。本実施例では、日東高圧株式会社製の撹拌機を用いている。マグネットドライブの詳細構造については、後述する。なお、本発明では、高圧の水素を扱うことから、安全を重視するため、モータ1は、防爆性能の優れたモータを採用している。
【0042】
8は、試験容器であり、図示しない水素ガスボンベと昇圧装置とが接続され、水素ガスボンベより昇圧装置により高圧となった水素ガスを供給、充填できるようになっており、容器内に高圧の水素を長時間維持した状態で収容できる構造となっている。特に、本発明では、70MPa以上の高圧水素環境での疲労試験が可能となるようにすることが必要とされているので、昇圧装置にて、99MPaまでの高圧水素を充填できるように設計されている。また、水素は鋼材を脆化させる原因となるので、本発明の試験容器8は、脆化の問題が生じにくく、かつ強度も優れた鋼種であるSUH660を用いて製造されている。
【0043】
さらに、試験容器8の図面右側には、開閉可能な試験容器開閉口10が設けられ、図示しない架台上に試験片15や錘7等を、固定ベース12とともに引き出したり、試験容器内に入れたりが容易にできるようになっている。特に疲労試験によりS-N線図を完成させるには、様々な応力で試験を繰返し行う必要があることから、1本の試験が終了する毎に、錘7を別の質量のものに変更したり、試験片15を新しい試験片と交換したりする必要があるため、その作業がしやすいように工夫されている。具体的には、試験片15等は、固定ベース12上に配置されており、固定ベース12の下部には、固定ベース移動用車輪13が取り付けられているので、右側の図示しない架台上に引き出したり、逆に中に入れたりが容易にできるようになっている。また、錘7も試験中は、試験片15に曲げモーメントを負荷するためにぶら下がった状態となっているが、試験片が寿命に達して折損すると、下に落下するため、落下時に試験容器を傷つけないよう、樹脂製の車輪11が取り付けられ、傷がつくのを防止しているとともに、架台上への出し入れも便利にできるようになっている。
【0044】
ここで、試験片15、錘7等を試験片及び錘交換のため、引き出した後、再度試験容器8内に戻す際には、マグネットドライブのドリブン側回転軸45の先端位置(ドリブン側先端部46)に位置を合わせるために、引き出す前と全く同じ位置に戻す必要がある。そこで、試験容器8の試験容器開閉口10の反対側には、2本の位置決め用ピン3が取り付けられているとともに、その位置に合うように、固定ベース12の位置決め用ピン側の側面には、図示しない位置決め用の穴が2か所開けられた状態となっており、固定ベース12を試験片15、錘7と共に、試験容器8内に移動させる際には、位置決め用ピン3が、この穴に刺さることにより、容易に位置決めできるようになっている。
【0045】
すなわち、カップリング部5は、図示しない固定ベース12上に固定された軸受により、前記の位置決め用穴との位置関係が固定されているので、位置決め用ピン3に刺さるように固定ベース12を戻すことにより、カップリング部5が、マグネットドライブのドリブン側回転軸先端部46に容易に位置が合うようになっている。
【0046】
また、試験片15は、コレットチャックにより固定できるようになっており、チャックの両側に試験片ドライブ側回転軸14と、試験片ドリブン側回転軸16が接続されている。試験容器開閉口10側の試験片ドリブン側回転軸16の先端には、回転軸の回転数に応じて累積回転数を表示できるカウンタ9が取り付けられ、その下部には、前記した通り、図示しない共振防止用のくさび部品が差し込まれ、起動時の共振を防止できるようになっている。また、試験片ドライブ側回転軸14の先端には、ユニバーサルジョイント61が取り付けられ、伸縮軸6、もう一方のユニバーサルジョイント61、カップリング部5を介して、スプライン成形されたマグネットドライブのドリブン側回転軸先端部46に接続され、マグネットドライブ4を介してモータ1による回転により試験片15が回転できる構造となっている。
【0047】
ここで、試験容器8を貫通しているマグネットドライブのドリブン側回転軸45の位置は完全固定なのに対して、試験片15は、試験中に錘7により曲げモーメントが負荷された状態となっていることに加え、錘7の質量の大きさ等の要因でマグネットドライブのドリブン側回転軸45の軸芯の延長上には位置しなくなるだけでなく、そのずれ量も変化することになる。そこで、このずれ量を吸収しつつ、角速度の不整さを抑制する必要があるため、伸縮軸6を有し、かつ角速度の不整さを打ち消すために配置された2つの互いに同じ仕様のユニバーサルジョイント61が前記伸縮軸6の両端に設けられている。
【0048】
次にマグネットドライブ4について図2により説明する。
マグネットドライブ4は、モータ1に接続されたタイミングベルト2により回転駆動される外周ホルダー41と外周ホルダー41に外周側軸受42を介して回転可能に結合されている内周ホルダー47の2つのホルダーを有している。外周ホルダー41の内側には、外周部磁石49が固定され、内周ホルダー47内には内周側軸受48を介してマグネットドライブのドリブン側回転軸45が固定されている。そして、マグネットドライブのドリブン側回転軸に固定された内周部磁石44と、前記した外周部磁石49が互いに引き付けあうような磁力が発生するように、磁極が互いに向き合うように固定されており、外周ホルダー41の回転により、マグネットドライブのドリブン側回転軸45に回転力が付与される構造となっている。従って、モータ1が回転すると、タイミングベルト2の回転により、外周ホルダー41が回転し、それにより、マグネットドライブのドリブン側回転軸45を回転させることができるのである。このように回転させたマグネットドライブのドリブン側回転軸45の先端には、スプライン成形された先端部(マグネットドライブのドリブン側回転軸の先端部46)が設けられており、カップリング部5、ユニバーサルジョイント6、試験片ドライブ側回転軸14を経由して、試験片15に回転力を伝えることができるようになっている。
【0049】
なお、図1右側のユニバーサルジョイント61と試験片ドライブ側回転軸14との接合部は、図示しないイモネジを側面にねじ当てて接合する構造を追加しており、過大なトルクが加わった場合には、イモネジ先端部が塑性変形することで、試験機に過大な負荷がかからないよう配慮されている。
【0050】
ここで、内周ホルダー47は非磁性である必要があり、またその内部には、試験容器8内と同様に高圧水素が充填された状態となるため、試験容器8と同様に非磁性でありかつ、水素脆化特性に優れ、かつ強度の優れたSUH660を用いている。
【0051】
次に、本実施例の作用効果について説明する。
本発明の回転曲げ疲労試験装置では、試験容器8の壁の一部となるように、内周ホルダー47が固定されているものの、従来装置の移動ロッドとは異なり、試験容器8に対して完全固定状態で固定されているため、従来のように、動的なシールにより高圧ガスの漏れを防ぐことは不要となる。従って、高圧水素環境であって、1000万回以上の高サイクルの疲労試験についても、全く問題なく行うことができる。これにより、高圧水素環境において、1000万回以上で破壊しない最大応力(耐久限)を効率的に求めることが可能となり、高圧水素用の高強度鋼等の開発に大きく貢献することができるようになった。
【符号の説明】
【0052】
1:モータ、2:タイミングベルト、3:位置決め用ピン、4:マグネットドライブ、5:カップリング部、6:伸縮軸、7:錘、8試験容器、9:カウンタ、10:試験容器開閉口、11:車輪、12:固定ベース、13:固定ベース移動用車輪、14:試験片ドライブ側回転軸、15:試験片、16:試験片ドリブン側回転軸、41:外周ホルダー、42:外周側軸受、44:内周部磁石、45:マグネットドライブのドリブン側回転軸、46:マグネットドライブのドリブン側回転軸先端部、47:内周ホルダー、48:内周側軸受、49:外周部磁石、61:ユニバーサルジョイント
図1
図2