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特許7557166修正研磨加工方法および修正研磨加工装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】修正研磨加工方法および修正研磨加工装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/10 20120101AFI20240919BHJP
   B24B 1/04 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
B24B37/10
B24B1/04 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020034252
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021133490
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】594066637
【氏名又は名称】夏目光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】大出 龍一郎
(72)【発明者】
【氏名】松澤 雄介
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 寛和
(72)【発明者】
【氏名】三村 秀和
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-025998(JP,A)
【文献】国際公開第2016/199612(WO,A1)
【文献】特開平09-225800(JP,A)
【文献】特開2013-006267(JP,A)
【文献】特開平02-198758(JP,A)
【文献】特開昭62-193761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/00 - 37/34
B24B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
局所的に研磨加工可能な回転ツールを、スラリー状の研磨加工液をワークとの間に供給しつつ、数値制御で走査加工する修正研磨加工方法において、
前記ワークを圧電アクチュエータにより振幅1μm以上30μm以下で揺動させながら加工を行うことを特徴とする、修正研磨加工方法。
【請求項2】
前記揺動の振動数を、0.1Hz以上とした、請求項1記載の修正研磨加工方法。
【請求項3】
前記研磨加工液が、平均粒径5μm以上の有機粒子からなる砥粒を液体中に分散させた研磨加工液である、請求項1又は2記載の修正研磨加工方法。
【請求項4】
前記液体が、純水または水を主成分とする液体である、請求項記載の修正研磨加工方法。
【請求項5】
走査されない静止状態で局所的にワークを研磨できるワーク研磨用の回転ツールと、
該回転ツールとワークとの間に、スラリー状の研磨加工液を供給する加工液供給手段と、
前記ワークをXYZ方向に移動可能に保持するワーク保持機構と、
該ワーク保持機構に保持されたワークを圧電アクチュエータにより振幅1μm以上30μm以下で揺動させる揺動手段とを備え、
前記揺動手段によって揺動するワークに対し、前記ワーク保持機構を数値制御して走査加工する、修正研磨加工装置。
【請求項6】
前記揺動手段が、
前記ワークを保持する保持体を、前記揺動方向に沿って案内するガイド機構と、
前記保持体を前記揺動方向に沿って振動させる振動アクチュエータと、
よりなる請求項記載の修正研磨加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、局所的に研磨加工可能な回転ツールにより数値制御で走査加工する修正研磨加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズやミラーなどの光学素子の表面形状は、光の集光性能や強度変化に大きく影響を及ぼす。一方で、要求される表面形状は様々である。特に非球面や自由曲面形状は、従来のすり合わせ研磨による作製は難しい。そこで、局所的に研磨加工可能な回転ツールを、スラリー状の研磨加工液を間に供給しつつ、ワーク(被加工物)に押し付けながら全面にわたって数値制御で走査加工する修正研磨加工が行われている。
【0003】
修正研磨加工では、予めワークと同質の材料に回転ツールを走査せずに研磨加工することで静止加工痕を得、この静止加工痕を単位時間当たりに置き換えた単位加工形状を得る。そして、この単位加工形状とワーク上の形状誤差(修正目標形状)とをデコンボリューション(逆畳み込み積分)計算することで回転ツールの滞留時間(走査速度)を算出し、この滞留時間分布に沿って回転ツールを走査する、というプロセスにより目的の形状へと修正加工を行う(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
修正研磨加工では、ツール摩耗や加工液(スラリー)の供給方法によって発生する、加工レートの不安定性を抑えることが重要となる。特に、酸化セリウムやシリカなどの一般的な研磨砥粒を用いた場合、砥粒の分散性の悪さが加工レートの不安定性の要因となる。この課題に対し、本発明者は既に、アクリルなどの有機粒子を砥粒として用いるOrganic Abrasive Machining(OAM法)を開発した(特許文献2を参照。)。有機粒子を用いるメリットは、水と比重が近いため粒子の分散性が非常に高い、工作物と比べて柔らかく加工傷が付きにくい、有機溶剤に溶解するため加工後の除去が容易、安価で入手し易いといった点が挙げられる。
【0005】
上記OAM法では、アクリル粒子を用いて100μm空間分解能の修正研磨加工が達成されている。しかしながら、このOAM法においても、図6に示す通り、静止加工痕にツールの回転方向に依存する縞が発生する。この結果、修正研磨加工の走査ピッチを上げると、研磨加工後の表面粗さはツール回転方向に異方性が見られ、わずかに悪化してしまう。このため、走査ピッチを上げることができず、加工の効率化が図れないといった課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-22005号公報
【文献】特許第6446590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、静止加工痕での縞の発生を抑え、修正研磨加工の走査ピッチを上げても表面粗さに異方性が出ず、加工の効率化を図ることができる修正研磨加工方法および修正研磨加工装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上述の課題を解決するべく鋭意検討した結果、ワークを揺動させることにより加工を平均化して縞の発生、ひいては異方性を抑制し、表面粗さを改善できる可能性があることを着想し、揺動による静止加工痕の変化を調査した結果、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち本発明は、以下の発明を包含する。
【0010】
(1) 局所的に研磨加工可能な回転ツールを、スラリー状の研磨加工液を間に供給しつつ、数値制御で走査加工する修正研磨加工方法において、前記ワークを揺動させながら加工を行うことを特徴とする、修正研磨加工方法。
【0011】
(2) 前記揺動の振動数を、0.1Hz以上とした、(1)記載の修正研磨加工方法。
【0012】
(3) 前記揺動の振幅を、1μm以上とした、(1)又は(2)記載の修正研磨加工方法。
【0013】
(4) 前記研磨加工液が、平均粒径5μm以上の有機粒子からなる砥粒を液体中に分散させた研磨加工液である、(1)~(3)の何れかに記載の修正研磨加工方法。
【0014】
(5) 前記液体が、純水または水を主成分とする液体である、(1)~(4)の何れかに記載の修正研磨加工方法。
【0015】
(6) 走査されない静止状態で局所的にワークを研磨できるワーク研磨用の回転ツールと、
該回転ツールとワークとの間に、スラリー状の研磨加工液を供給する加工液供給手段と、前記ワークをXYZ方向に移動可能に保持するワーク保持機構と、該ワーク保持機構に保持されたワークを揺動させる揺動手段とを備え、前記揺動手段によって揺動するワークに対し、前記ワーク保持機構を数値制御して走査加工する、修正研磨加工装置。
【0016】
(7) 前記揺動手段が、前記ワークを保持する保持体を、前記揺動方向に沿って案内するガイド機構と、前記保持体を前記揺動方向に沿って振動させる振動アクチュエータと、よりなる(6)記載の修正研磨加工装置。
【発明の効果】
【0017】
以上にしてなる本願発明によれば、ワークを、回転ツールの回転方向に交差する方向にワークを揺動させながら加工を行うことで、該回転ツールによる静止加工痕での縞の発生が抑えられるため、数値制御で走査加工する際の走査ピッチを上げても、表面粗さに異方性が出ず、修正研磨加工の効率化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の代表的実施形態に係る修正研磨加工装置を示す正面図。
図2a】左側は揺動なしの静止加工痕の表面観察画像、右側は深さプロファイルを示すグラフ。
図2b】左側は揺動の振幅1μmの静止加工痕の表面観察画像、右側は深さプロファイルを示すグラフ。
図2c】左側は揺動の振幅5μmの静止加工痕の表面観察画像、右側は深さプロファイルを示すグラフ。
図2d】左側は揺動の振幅10μmの静止加工痕の表面観察画像、右側は深さプロファイルを示すグラフ。
図2e】左側は揺動の振幅20μmの静止加工痕の表面観察画像、右側は深さプロファイルを示すグラフ。
図2f】左側は揺動の振幅30μmの静止加工痕の表面観察画像、右側は深さプロファイルを示すグラフ。
図3a】左側は揺動なしの静止加工痕の表面観察画像、右側は深さプロファイルを示すグラフ。
図3b】左側は揺動の振動数0.1Hzの静止加工痕の表面観察画像、右側は深さプロファイルを示すグラフ。
図3c】左側は揺動の振動数1Hzの静止加工痕の表面観察画像、右側は深さプロファイルを示すグラフ。
図3d】左側は揺動の振動数10Hzの静止加工痕の表面観察画像、右側は深さプロファイルを示すグラフ。
図4a】左側は揺動なし、走査ピッチ10μmの走査加工痕の表面観察画像、右側は拡大像。
図4b】左側は揺動あり、走査ピッチ10μmの走査加工痕の表面観察画像、右側は拡大像。
図4c】左側は揺動なし、走査ピッチ50μmの走査加工痕の表面観察画像、右側は拡大像。
図4d】左側は揺動あり、走査ピッチ50μmの走査加工痕の表面観察画像、右側は拡大像。
図5】(a)は10μmピッチの走査加工におけるPSD、(b)は50μmピッチの走査加工におけるPSD。
図6】(a)は従来のOAM法における静止加工痕の表面観察画像、(b)は走査加工前後の表面粗さを示す画像。
図7】走査加工の方法を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
【0020】
本発明の代表的実施形態に係る修正研磨加工装置1は、図1に示すように、ワーク9に対して局所的に押し付けられるワーク研磨用の回転ツール2と、回転ツール2とワーク9との間に、スラリー状の研磨加工液を供給する加工液供給手段3と、ワーク9をXYZ方向に移動可能に保持するワーク保持機構4と、ワーク保持機構4に保持されたワーク9を揺動させる揺動手段5とを備えている。
【0021】
本実施形態では、OAM法(特許第6446590号公報記載の局所研磨加工方法)に、揺動手段5を組み合わせて構成したものについて説明するが、本発明は、このようなOAM法を用いたものに限定されるものではなく、EEM加工(Elastic Emission Machining)法や磁性流体研磨加工方法(特公平2-25745号公報)、その他の種々の局所研磨加工法に揺動手段を組み合わせて構成することが可能である。特に、工具ツールとワーク表面が直接接触せず、もしくは強い接触力を生じず、高速で揺動することが可能な修正研磨加工法に組み合わせて構成することが有効である。なお、本実施形態のOAM法に関する構成に関しては、上記特許第6446590号公報の記載が参照により援用される。
【0022】
回転ツール2は、ゴム等の弾性素材よりなる回転体20と、先端に該回転体20が設けられ、該回転体20を回転させる軸方向に長い軸体21と、基端側で該軸体21を支持しつつ軸中心に回転させる回転支持部22とより構成されており、回転体20の外周面をワーク9側に押し当てることで、軸体21が湾曲し、該湾曲した軸体21の弾性復元力により回転体20がワーク9側に押し付け付勢される。図中符号70は錘、71の電子天秤であり、回転体20のワーク9への押し付け荷重(及び荷重変化)を電子天秤71で詳細に測定し、パソコン10に記録できるように構成されている。
【0023】
回転体20は、ワーク9に対面する外周面における研磨作用領域の外径(領域内の最大直径)が5.0mm以下になるように構成され、回転体の直径(外周面の最大直径)は従来の回転ツールの直径と比較して小径に設定されている。具体的な弾性素材としては、フッ素ゴムを用いることが好ましい。回転体20の形状は、球状、部分球状、断面円のリング形状(トロイダル形状)その他、種々の形状が採用できる。
【0024】
軸体21は、ステンレス等の金属シャフトを用いることができる。本実施形態では、軸体21の先端部をトロイダル形状の回転体20に嵌め込んで固定し、かつ該軸体21の基端部を回転支持部22に固定することにより回転ツール11が構成されている。回転支持部22は電動モータなどを用いることができる。そして、回転体20とワーク被加工面90との間に介在する砥粒が、回転体20に押さえつけられながら被加工面90上を転動して被加工面90を研磨する。
【0025】
加工液供給手段3は、噴出ノズル30と、該ノズルから噴射してワーク被加工面90に当って落下する研磨加工液8を受け入れる、噴出ノズル30の周りの回収槽31と、回収槽31に受け入れて回収された研磨加工液8を再度、噴出ノズル30に供給して上方に噴出させるスラリー循環ポンプ35とよりなる加工液噴射ユニットが構成されている。研磨加工液8はこれら噴出ノズル30、ワーク被加工面90、回収槽31およびポンプ35の間を循環する。
【0026】
研磨加工液8の液体は、有機粒子の分散性の点で純水または水を主成分とする液体であることが好ましい。有機粒子は、種々のものを採用でき、とくに高分子材料からなるアクリル粒子、ウレタン粒子、スチレン粒子など、密度1g/cm3に近いものが好ましい。なかでもウレタンやアクリル(密度は共に1.2g/cm3)がより好ましい。異なる素材の有機粒子を混合してもよい。また、有機粒子の平均粒径は、5μm以上30μm以下が好ましい。
【0027】
ワーク保持機構4は、被加工面90を下方に向けたワーク9を上方位置においてXYZ方向に移動可能に保持するX軸ステージ41、Y軸ステージ43及びZ軸ステージ42の3軸自動ステージより構成されている。ワーク保持機構4にワーク9を保持したまま回動させる回動機構(回転ステージ;θステージ)を付与すれば、ワークの位置に加えて姿勢を変えることができ、より加工の自由度を高めることができる。ワーク保持機構4や回転ツール2の支持台60の動作などを図示しないコンピュータにより数値制御することにより、回転ツール2と接触した状態のワーク9を動かし、被加工面90を自動で走査加工するように構成されている。
【0028】
揺動手段5は、ワーク9を保持する保持体40を揺動方向に沿って案内するガイド機構51と、保持体40を揺動方向に沿って振動させる振動アクチュエータ52とを備えている。ガイド機構51はリニアガイドが好適であり、振動アクチュエータ52には圧電アクチュエータが好適である。圧電アクチュエータに正弦波の交流電流を流すことで、圧電アクチュエータの変位がガイド機構51を通じてワークに伝達され、ワークをガイド機構51の案内方向に沿って揺動させる。圧電アクチュエータとしては、たとえばメカノトランスフォーマ社製の変位拡大機構型圧電アクチュエータなどを好適に用いることができる。
【0029】
揺動の振動数は0.1Hz以上、振幅は1μm以上とすることが好ましい。本実施形態では、ガイド機構51による揺動の案内方向は、回転ツール2の被加工面90に沿った回転接線方向に直交する方向にまっすぐな方向とされ、この方向に揺動されることになるが、本発明はこのような揺動方向に限定されない。揺動の態様も直線往復以外に曲線往復、無端状(ループ状)に回転揺動など、種々の態様が可能である。
【実施例
【0030】
<静止加工痕試験1>
図1に示した加工装置を用い、揺動の振幅のみ変えて、静止加工痕(ツールの走査を停止した加工)の違いを確認する実験を行った結果について説明する。
【0031】
(加工条件)
・ワークの素材:石英ガラス
・研磨加工液:平均粒径10μmのアクリル粒子を10wt%で純水と混合したスラリー
・回転ツールの回転体の素材:フッ素ゴム
・回転ツールの回転体の外径:3mm
・回転ツールの押し込み深さ:400μm
・回転ツールの回転速度:2000rpm
・ワーク揺動の振動数(圧電アクチュエータに入力する正弦波交流電流の周波数):1Hz
・ワーク揺動の振幅:0μm(揺動なし)/1μm/5μm/10μm/20μm/30μm
・加工時間:5分
(結果)
結果を図2(a)~図2(f)に示す。各図の左側は、各振幅におけるスポット加工痕全体の走査型白色干渉計による計測結果、右側は深さプロファイルを示している。深さプロファイルのうちツール(回転ツール)の回転と垂直方向(被加工面に沿った回転接線方向に直交する方向)のプロファイルを比較すると、揺動無しでは非常に表面粗さが粗いのに対し、揺動の振幅を増やすほど表面が滑らかになっていく様子が確認された。また、振幅が大きくなるにつれて静止加工痕のサイズが肥大化する様子も確認された。
<静止加工痕試験2>
次に、図1に示した加工装置を用い、揺動の周波数のみ変えて、静止加工痕の違いを確認する実験を行った結果について説明する。
【0032】
(加工条件)
・ワークの素材:石英ガラス
・研磨加工液:平均粒径10μmのアクリル粒子を10wt%で純水と混合したスラリー
・回転ツールの回転体の素材:フッ素ゴム
・回転ツールの回転体の外径:3mm
・回転ツールの押し込み深さ:400μm
・回転ツールの回転速度:2000rpm
・ワーク揺動の振幅:10μm
・ワーク揺動の振動数:0Hz(揺動なし)/0.1Hz/1Hz/10Hz
・加工時間:5分
(結果)
結果を、図3(a)~図3(d)に示す。各図の左側は、各振幅におけるスポット加工痕全体の走査型白色干渉計による計測結果、右側は深さプロファイルを示している。深さプロファイルのうちツール(回転ツール)の回転と垂直方向(被加工面に沿った回転接線方向に直交する方向)のプロファイルを比較すると、振動数は0.1Hzでも十分に表面粗さの改善が確認された。ただし、これ以上振動数を上げても、さらなる改善は見られなかった。これは、0.1Hzの揺動であってもも加工時間5分の間にワークは30往復しており、十分に加工の平均化作用が行われたことによると考えられる。
<走査加工痕の比較>
回転ツールを送り(ワークを移動させる)ながら、一定範囲の走査(スキャン)加工を行い、走査ピッチの違い、及び揺動の有無による表面粗さの違いを確認する実験を行った結果について説明する。
【0033】
(加工条件)
・ワークの素材:石英ガラス
・研磨加工液:平均粒径10μmのアクリル粒子を10wt%で純水と混合したスラリー
・回転ツールの回転体の素材:フッ素ゴム
・回転ツールの回転体の外径:3mm
・回転ツールの押し込み深さ:400μm
・回転ツールの回転速度:2000rpm
・ワーク揺動:揺動無し/搖動あり(振幅30μm、振動数90Hz)
・走査ピッチ:10μm/50μm(走査ピッチは図7参照)
・走査範囲:走査ピッチ10μmでは690μm四方、走査ピッチ50μmでは650μm四方
・加工時間:30分
(結果)
結果を、図4(a)~図4(d)及び図5に示す。図4の各図の左側が加工痕全体の走査型白色干渉計による計測結果であり、右側が加工部分の拡大像である。50μmピッチの揺動無しでは、走査ピッチに依存する表面粗さの悪化がみられたのに対し、50μmピッチの揺動ありでは、走査ピッチに依存する表面粗さの悪化は見られず、表面粗さが改善した。10μmピッチでは、揺動の有無で表面粗さは変わりなかった。すなわち走査ピッチに依存する表面粗さの悪化はみられず、これ以上の表面粗さの改善もなかった。
【0034】
図5は揺動方向の表面粗さのPSD(パワースペクトル密度)の比較を示す。50μmピッチの低い空間周波数では表面粗さの改善がみられるが、10μmピッチの高い周波数領域では揺動による表面粗さの改善がみられない結果が得られた。
【0035】
この結果から推測するに、揺動の平均速度が回転ツールの回転速度と比較して1.7%程度しかなく、粒子一つ一つの流れは揺動の影響をほとんど受けないことから、走査ピッチを細かくしてスポット加工時の縞の影響がそもそも出ない状況下では、搖動を加えても更なる表面粗さの向上は図れなかったのであろう。これに対し、走査ピッチを上げた場合の表面粗さの悪化については、搖動により効果的に防止できることがわかる。
【符号の説明】
【0036】
1 修正研磨加工装置
2 回転ツール
3 加工液供給手段
4 ワーク保持機構
5 揺動手段
8 研磨加工液
9 ワーク
20 回転体
21 軸体
22 回転支持部
30 噴出ノズル
31 回収槽
35 スラリー循環ポンプ
35 ポンプ
40 保持体
42 Z軸ステージ
41 X軸ステージ
43 Y軸ステージ
51 ガイド機構
52 振動アクチュエータ
70 錘
71 荷重測定装置
60 支持台
90 被加工面
図1
図2a
図2b
図2c
図2d
図2e
図2f
図3a
図3b
図3c
図3d
図4a
図4b
図4c
図4d
図5
図6
図7