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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】3次元映像表示装置
(51)【国際特許分類】
   H04N 13/307 20180101AFI20240919BHJP
   H04N 13/398 20180101ALI20240919BHJP
   G02B 3/00 20060101ALI20240919BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20240919BHJP
   G02B 30/50 20200101ALI20240919BHJP
【FI】
H04N13/307
H04N13/398
G02B3/00 A
G02F1/13 505
G02B30/50
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020190094
(22)【出願日】2020-11-16
(65)【公開番号】P2022079114
(43)【公開日】2022-05-26
【審査請求日】2023-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 隼人
(72)【発明者】
【氏名】大村 拓也
(72)【発明者】
【氏名】岡市 直人
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 久幸
(72)【発明者】
【氏名】河北 真宏
【審査官】塚本 丈二
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-199417(JP,A)
【文献】特開2017-078776(JP,A)
【文献】特開2010-204447(JP,A)
【文献】特開2014-182300(JP,A)
【文献】特開2013-003588(JP,A)
【文献】特開2019-133028(JP,A)
【文献】特表2016-519324(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0295308(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0021796(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 13/30-13/398
G02B 3/00
G02F 1/13
G02B 30/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の奥行き表示範囲に対応する要素画像群を時分割で表示する3次元映像表示装置であって、
要素画像で構成された前記要素画像群を表示する表示手段と、
二次元状に配列された要素レンズで構成され、前記要素レンズが凸レンズとして機能するレンズ状態又は前記要素画像の光を透過する透過状態を切り替え可能なレンズアレイと、を備え、
前記レンズアレイは、前記表示手段からの距離が異なるように、前記奥行き表示範囲毎に備えられ、
前記表示手段に近い前記レンズアレイは、前記表示手段から遠い前記レンズアレイより、前記要素レンズ同士の間隔が短く、かつ、前記要素レンズの焦点距離が短いことを特徴とする3次元映像表示装置。
【請求項2】
前記レンズアレイは、前記要素レンズとしての液晶レンズで構成されていることを特徴とする請求項1に記載の3次元映像表示装置。
【請求項3】
それぞれの前記レンズアレイの前段に配置され、前記表示手段からの光の偏光方向を切り替える偏光切替素子、をさらに備え、
前記レンズアレイは、
前記要素レンズが、前記偏光方向に応じて焦点距離の正負が変化する偏光回折レンズと、前記偏光回折レンズ毎に配置された凸レンズとで構成されていることを特徴とする請求項1に記載の3次元映像表示装置。
【請求項4】
前記表示手段と前記表示手段に最も近いレンズアレイとの間に配置され、前記表示手段からの光の偏光方向を切り替える偏光切替素子、をさらに備え、
前記レンズアレイは、2つ備えられ、
前記要素レンズが、前記偏光方向に応じて焦点距離の正負が変化する偏光回折レンズと、前記偏光回折レンズ毎に配置された凸レンズとで構成されていることを特徴とする請求項1に記載の3次元映像表示装置。
【請求項5】
何れか一つの前記レンズアレイがレンズ状態となり、他の前記レンズアレイが透過状態となるように、前記レンズアレイの状態を時分割で切り替える切替制御手段と、
レンズ状態の前記レンズアレイに対応した奥行き表示範囲の前記要素画像群を前記表示手段に同期して表示させる映像切替手段と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の3次元映像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の奥行き表示範囲毎に要素画像群を時分割で表示する3次元映像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、3Dメガネを用いた二眼方式を筆頭として、多種多様な3次元映像表示方式が知られている。なかでも、光線再生により3次元映像を再生するライトフィールドディスプレイの1つとして、インテグラル方式が提案されている。
【0003】
このインテグラル方式は、表示デバイスの前面に多数の微小なレンズで構成されたレンズアレイを配置することで、水平・垂直に視差を有する自然な3次元映像を再生できる。また、インテグラル方式では、表示デバイスの画素密度やレンズアレイの設計により、3次元映像の表示特性が定まる。このインテグラル方式の課題として、3次元映像を深い奥行き位置で再生したとき、3次元映像の空間解像度が低下することが知られている。視域角を狭めることなく深い奥行位置で空間解像度を高くするには、レンズアレイのレンズピッチを長くし、焦点距離を長くすればよい。この場合、奥行きが浅い位置における3次元映像の空間解像度が低下するため、全ての奥行き表示範囲において空間解像度が高い3次元映像を再生することは困難である。
【0004】
そこで、前記した課題を解決するために、時分割表示技術を用いて、深い奥行き位置における3次元映像の空間解像度特性を向上させる従来技術が提案されている(例えば、非特許文献1)。この従来技術では、1枚のレンズアレイと複数台の液晶ディスプレイを使用し、各液晶ディスプレイに要素画像群をフレームシーケンシャルで順次表示する。すなわち、従来技術では、複数台の液晶ディスプレイとレンズアレイとの距離に応じて空間解像度が高くなる奥行き位置がそれぞれ異なることを利用し、各液晶ディスプレイで再生した3次元映像を時分割で表示する。これにより、従来技術では、広い奥行き表示範囲において空間解像度が高い3次元映像を再生できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Applied Optics, Vol. 45, No. 18, June 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記した従来技術では、光線が各液晶ディスプレイを通過する際、液晶ディスプレイの画素開口周辺の遮蔽部などにより光線の輝度が大きく低下するために、非常に明るいバックライトを使用しないと表示映像が暗くなるという課題がある。また、従来技術では、液晶ディスプレイごとに映像の再生装置が必要になるため、システムの構成が大規模化し、複雑になるという課題がある。
【0007】
そこで、本発明は、空間解像度が高く、輝度の低下を抑制し、構成が簡易な3次元映像表示装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明に係る3次元映像表示装置は、所定の奥行き表示範囲に対応する要素画像群を時分割で表示する3次元映像表示装置であって、要素画像で構成された要素画像群を表示する表示手段と、二次元状に配列された要素レンズで構成され、要素レンズが凸レンズとして機能するレンズ状態又は要素画像の光を透過する透過状態を切り替え可能なレンズアレイと、を備える構成とした。
【0009】
かかる構成によれば、レンズアレイは、表示手段からの距離が異なるように、奥行き表示範囲毎に備えられている。そして、表示手段に近いレンズアレイは、表示手段から遠いレンズアレイより、要素レンズ同士の間隔が短く、かつ、要素レンズの焦点距離が短くなっている。すなわち、表示手段に近いレンズアレイは、レンズピッチ及び焦点距離が短いので、浅い奥行き位置において空間解像度が高い3次元映像を再生できる。一方、表示手段から遠いレンズアレイは、レンズピッチ及び焦点距離が長いので、深い奥行き位置において空間解像度が高い3次元映像を再生できる。
【0010】
従って、3次元映像表示装置では、異なる奥行き表示範囲で空間解像度が高くなる要素画像群を時分割表示することで、全ての奥行き表示範囲で空間解像度が高い3次元映像を再生できる。さらに、3次元映像表示装置では、表示手段が1台だけなので構成が簡易になり、表示手段から出射した要素画像群の光が他の表示手段を通過しないため、輝度の低下を抑制できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、空間解像度が高く、輝度の低下を抑制し、構成が簡易な3次元映像表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態に係る3次元映像表示装置の概略構成図である。
図2】従来の立体表示装置において、(a)はナイキスト周波数を説明する説明図であり、(b)は観視空間周波数を説明する説明図である。
図3】従来の立体表示装置において、最大空間周波数を説明する説明図である。
図4】従来の立体表示装置において、視域角を説明する説明図である。
図5図1の3次元映像表示装置において、最大空間周波数を説明する説明図である。
図6】第2実施形態に係る3次元映像表示装置の概略構成図である。
図7】第2実施形態において、(a)はレンズ状態を説明する説明図であり、(b)は透過状態を説明する説明図である。
図8】第3実施形態に係る3次元映像表示装置の概略構成図である。
図9】第3実施形態において、(a)は前段のレンズアレイをレンズ状態とする説明図であり、(b)は後段のレンズアレイをレンズ状態とする説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の各実施形態について図面を参照して説明する。但し、以下に説明する各実施形態は、本発明の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本発明を以下のものに限定しない。また、同一の手段には同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0014】
(第1実施形態)
[3次元映像表示装置の構成]
図1を参照し、第1実施形態に係る3次元映像表示装置1の構成を説明する。
3次元映像表示装置1は、所定の奥行き表示範囲に対応する要素画像群を時分割で表示するものである。図1に示すように、3次元映像表示装置1は、表示手段2と、レンズアレイ3(3,3)と、同期制御装置4とを備える。
【0015】
表示手段2は、要素画像で構成された要素画像群を表示する一般的な表示デバイスである。また、表示手段2は、後記する映像切替手段41からの指令に応じて、後記するレンズ状態のレンズアレイ3に対応した奥行き表示範囲の要素画像群を時分割で表示する。例えば、表示手段2として、液晶ディスプレイ、有機EL(organic Electro Luminescence)ディスプレイなどの直視型表示デバイスを使用できる。本実施形態では、表示手段2は、後記する焦点距離f,fが一致する箇所に配置されている。
【0016】
レンズアレイ3は、二次元状に配列された要素レンズ30で構成されたものである。また、レンズアレイ3は、後記する切替制御手段40からの指令に応じて、レンズ状態又は透過状態を切り替え可能なレンズ/透過切替レンズアレイである。
なお、レンズ状態とは、要素画像の光に対して、各要素レンズ30が凸レンズとして機能する状態のことである。また、透過状態とは、各要素レンズ30が要素画像の光を透過する状態のことである。
【0017】
例えば、レンズアレイ3は、要素レンズ30としての液晶レンズを二次元アレイ状に配列したものを使用できる。ここで、液晶レンズは、液晶がレンズ状の空間に封入されており、印加した電圧に応じて実効的な屈折率を変化させて、レンズ状態又は透過状態を切り替えることができる。また、液晶レンズは、入射光の偏光状態を変えることで、レンズ状態又は透過状態を切り替えてもよい。
【0018】
また、レンズアレイ3は、表示手段2からの距離が異なるように、奥行き表示範囲毎に備えられている。本実施形態では、表示手段2に近いレンズアレイ3、及び、表示手段2から遠いレンズアレイ3というように、2つのレンズアレイ3が備えられている。
【0019】
ここで、表示手段2に近いレンズアレイ3は、表示手段2から遠いレンズアレイ3より、レンズピッチ(要素レンズ30同士の間隔)が短く、かつ、要素レンズ30の焦点距離が短くなっている。図1に示すように、レンズアレイ3のレンズピッチpは、レンズアレイ3のレンズピッチpよりも短くなっている。ここでは、レンズピッチpがレンズピッチpの半分なので、レンズアレイ3に対してレンズアレイ3が2倍の個数の要素レンズ30を備える。また、レンズアレイ3を構成する要素レンズ30の焦点距離fは、レンズアレイ3を構成する要素レンズ30の焦点距離fよりも短くなっている。
【0020】
なお、図1では、図面を見やすくするため、レンズアレイ3の要素レンズ30が1212個、レンズアレイ3の要素レンズ30が6個になっているが、多数の要素レンズ30を備えてもよい(例えば、数百個以上)。
【0021】
同期制御装置4は、要素画像群の表示タイミングと、レンズ状態又は透過状態の切替タイミングをフレーム単位で同期させるものであり、切替制御手段40と、映像切替手段41とを備える。例えば、同期制御装置4は、視聴者Aがフリッカーを知覚しない速度=N×60Hzで切り替えを行う(但し、レンズアレイ3の個数N)。
【0022】
切替制御手段40は、何れか一つのレンズアレイ3がレンズ状態となり、他のレンズアレイ3が透過状態となるように、レンズアレイ3の状態を時分割で切り替えるものである。本実施形態では、切替制御手段40は、レンズアレイ3がレンズ状態でレンズアレイ3が透過状態の場合と、レンズアレイ3が透過状態でレンズアレイ3がレンズ状態の場合とを交互に切り替える。
【0023】
映像切替手段41は、レンズ状態のレンズアレイ3に対応した奥行き表示範囲の要素画像群を表示手段2に同期して表示させるものである。ここで、映像切替手段41は、レンズアレイ3がレンズ状態の場合、レンズアレイ3に対応した奥行き表示範囲の要素画像群を表示手段2に表示させる。また、映像切替手段41は、レンズアレイ3がレンズ状態の場合、レンズアレイ3に対応した奥行き表示範囲の要素画像群を表示手段2に表示させる。なお、レンズアレイ31,に対応した奥行き表示範囲の要素画像群は、予め記憶されていることとする。
【0024】
[3次元映像表示装置による時分割表示]
以下、3次元映像表示装置1による時分割表示の前提として、インテグラル方式の空間解像度特性について説明する。
最初に、インテグラル方式の空間解像度特性の理解を容易にするために、空間解像度特性を示す指標である最大空間周波数、ナイキスト周波数及び観視空間周波数を説明する。
【0025】
最大空間周波数βmax[cycles per radian(cpr)]は、以下の式(1)で表される。但し、βはナイキスト周波数[cpr]、βは観視空間周波数[cpr]である。また、minは、指定されたパラメータのうちの最小値を返す関数である。
【0026】
【数1】
【0027】
図2には、インテグラル方式を採用した従来の立体表示装置9を図示した。立体表示装置9は、要素画像群を表示する表示デバイス90と、要素レンズ91が二次元状に配列されたレンズアレイ92とを備える。
【0028】
ナイキスト周波数βは、図2(a)に示すように、3次元映像Bが要素レンズ91でサンプリングされることによる空間周波数を示し、以下の式(2)で表される。なお、pはレンズアレイ92のレンズピッチ、Lは視聴者Aからレンズアレイ92までの視聴距離である。
【0029】
【数2】
【0030】
一方、観視空間周波数βは、図2(b)に示すように、3次元映像Bが表示デバイス90の画素でサンプリングされることによる空間周波数を示し、以下の式(3)で表される。なお、fはレンズアレイ92の焦点距離、gは表示デバイス90の画素ピッチ、zは3次元映像Bの奥行き位置である。また、奥行き位置zは、視聴者Aの側が正である。
【0031】
【数3】
【0032】
図3には、画素ピッチg=50μm、レンズピッチp=0.3mm、焦点距離f=1.5mm、視聴距離L=2000mmのときの空間解像度特性のグラフの一例を図示した。奥行き位置の原点(z=0)は、レンズアレイ92が位置する面(レンズアレイ面)である。但し、図3では、最大空間周波数βmaxの単位を[cycles per radian (cpr)]から[cycles per degree (cpd)]に変換している。
【0033】
図3に示すように、最大空間周波数βmaxは、3次元映像Bの奥行き位置zが浅いとき、ナイキスト周波数βとなる。一方、3次元映像Bの奥行き位置zが深くなると、ナイキスト周波数βよりも観視空間周波数βの影響が支配的になり、最大空間周波数βmaxが低下する。
【0034】
インテグラル3D映像の視域角について説明する。図4に示すように、インテグラル3D映像の視域角θは、レンズアレイ92のレンズピッチpと焦点距離fとによって決まり、以下の式(4)で表される。
【0035】
【数4】
【0036】
次に、3次元映像表示装置1による要素画像群の時分割表示について説明する。
ここで、表示手段2に近いレンズアレイ3をレンズ状態にした場合を考える。この場合、式(2)のナイキスト周波数βが高くなるため、浅い奥行き位置zでは、3次元映像Bの空間解像度が高くなる。一方、式(3)の観視空間周波数βが低くなるため、深い奥行き位置zでは、3次元映像Bの空間解像度が低くなる。
【0037】
また、レンズアレイ3をレンズ状態にした場合と比べて、表示手段2から遠いレンズアレイ3をレンズ状態にした場合を考える。浅い奥行き位置zで3次元映像Bの空間解像度が低くなる代わりに、深い奥行き位置zで3次元映像Bの空間解像度が高くなる。
【0038】
以上より、3次元映像表示装置1は、あるフレームにおいて、レンズアレイ3をレンズ状態にして、浅い奥行き位置zの3次元映像Bのみを再生する。そして、3次元映像表示装置1は、次のフレームにおいて、レンズアレイ3をレンズ状態にして、深い奥行き位置zの3次元映像Bのみを再生する。このようにして、3次元映像表示装置1では、要素画像群を時分割表示することで、全ての奥行き位置zにおいて、高い最大空間解像度で3次元映像Bを再生できる。
【0039】
なお、各レンズアレイ3で再生する3次元映像Bの視域角θは、同一にする必要がある。3次元映像Bの視域角θが異なる場合、最も視域角θが狭いレンズアレイ3と同一の視域角θになってしまい、光線再生が非効率的になる。図1の3次元映像表示装置1では、前記した式(4)に基づいて、以下の式(5)となるように、各レンズアレイ3,3のレンズピッチPと焦点距離fを設定する必要がある。
【0040】
【数5】
【0041】
3次元映像表示装置1が再生する3次元映像Bの空間解像度特性と各レンズアレイ3の奥行き表示範囲とのグラフを図5に図示した。図5の例では、レンズアレイ3のレンズピッチpが0.3mmで焦点距離fが1.5mm、レンズアレイ3のレンズピッチpが0.6mmで焦点距離fが3.0mmである。両レンズアレイ3で再生される3次元映像Bの視域角θは、式(4)より、約11度である。また、表示手段2の画素ピッチgが50μm、視聴距離Lが2000mmである。
【0042】
前記した式(1)~式(3)より、レンズアレイ3の最大空間解像度βmax1とレンズアレイ3の最大空間解像度βmax2とを算出すると、最大空間解像度βmax1,βmax2の交点の奥行き位置zが-16mmと19mmとになる。このため、レンズアレイ3は、-16~19mmの奥行き表示範囲Rで3次元映像Bを再生する。また、レンズアレイ3は、奥行き表示範囲Rより深い奥行き表示範囲Rで3次元映像Bを再生する。
【0043】
なお、3次元映像表示装置1の奥行き表示範囲は、図5の例に限定されないことは言うまでもない。
また、3次元映像表示装置1は、奥行き表示範囲を3つ以上設定してもよい。この場合、3次元映像表示装置1では、奥行き表示範囲と同数のレンズアレイ3を備えると共に、各奥行き表示範囲に対応した要素画像群を表示手段2で時分割表示すればよい。
【0044】
[作用・効果]
以上のように、3次元映像表示装置1では、異なる奥行き表示範囲で空間解像度が高くなる要素画像群を時分割することで、全ての奥行き表示範囲で空間解像度が高い3次元映像Bを再生できる。さらに、3次元映像表示装置1では、表示手段2が1台だけなので構成が簡易になり、表示手段2から出射した要素画像群の光が他の表示手段を通過しないため、輝度の低下を抑制できる。
【0045】
(第2実施形態)
[3次元映像表示装置の構成]
図6を参照し、第2実施形態に係る3次元映像表示装置1Bの構成について、第1実施形態と異なる点を説明する。
3次元映像表示装置1Bは、偏光方向に応じて時分割で表示する点が、第1実施形態と異なる。図6に示すように、3次元映像表示装置1Bは、表示手段2と、レンズアレイ3B(3B,3B)と、同期制御装置4Bと、偏光切替素子5(5,5)とを備える。なお、表示手段2は、第1実施形態と同様のため、説明を省略する。
【0046】
まず、偏光切替素子5を説明する。
偏光切替素子5は、それぞれのレンズアレイ3の前段に配置され、表示手段2からの光の偏光方向を切り替えるものである。ここで、偏光切替素子5がレンズアレイ3Bの前段に配置され、偏光切替素子5がレンズアレイ3Bの前段に配置されている。また、偏光切替素子5は、後記する切替制御手段40Bからの同期信号に応じて、偏光方向を水平偏光又は垂直偏光に切り替える。
【0047】
レンズアレイ3Bは、表示手段2からの距離が異なるように、奥行き表示範囲毎に備えられたものである。本実施形態では、表示手段2に近いレンズアレイ3B、及び、表示手段2から遠いレンズアレイ3Bというように、2つのレンズアレイ3Bが備えられている。
【0048】
また、レンズアレイ3Bは、要素レンズ30Bが、偏光回折レンズ31と、凸レンズ32とで構成されている。つまり、レンズアレイ3Bは、要素レンズ30Bとしての偏光回折レンズ31及び凸レンズ32が二次元状に配列されている。ここで、表示手段2に近いレンズアレイ3Bは、表示手段2から遠いレンズアレイ3Bより、レンズピッチが短く、かつ、要素レンズ30Bの焦点距離が短くなっている。例えば、レンズアレイ3Bに対して、レンズアレイ3Bは、2倍の個数の要素レンズ30Bを備える。
【0049】
偏光回折レンズ31は、偏光方向に応じて焦点距離の正負が変化するレンズである。例えば、偏光回折レンズ31は、周期的に配向された液晶ポリマーで構成できる(Optica, Vol. 2, No. 11, pp. 958-964, November 2015)。また、偏光回折レンズ31として、直線偏光の代わりに円偏光の方向に応じて焦点距離の正負が切り替わる偏光回折レンズを用いてもよい。このとき、偏光切替素子5は、表示手段2からの光を右円偏光または左円偏光に切替える。
凸レンズ32は、偏光回折レンズ31毎に配置されたものであり、例えば、一般的な凸レンズである。
【0050】
なお、レンズアレイ3Bは、前段に配置された偏光切替素子5と組み合わせることで、第1実施形態と同様にレンズ状態又は透過状態の切り替えが可能となっており、その詳細を後記する。
【0051】
同期制御装置4Bは、要素画像群の表示タイミングと、レンズ状態又は透過状態の切替タイミングとをフレーム単位で同期させるものであり、切替制御手段40Bと、映像切替手段41とを備える。なお、映像切替手段41は、第1実施形態と同様のため、説明を省略する。
【0052】
切替制御手段40Bは、何れか一つのレンズアレイ3Bがレンズ状態となり、他のレンズアレイ3Bが透過状態となるように、レンズアレイ3Bの状態を時分割で切り替えるものである。本実施形態では、切替制御手段40Bは、映像切替手段41と同期するように、レンズ状態又は透過状態の切替タイミングを示す同期信号を偏光切替素子5,5に出力する。これにより、切替制御手段40Bは、レンズアレイ3Bがレンズ状態でレンズアレイ3Bが透過状態の場合と、レンズアレイ3Bが透過状態でレンズアレイ3Bがレンズ状態の場合とを切り替えることができる。
【0053】
[レンズ状態又は透過状態の切り替え]
図7を参照し、レンズアレイ3Bにおけるレンズ状態又は透過状態の切り替えを詳細に説明する。
【0054】
偏光回折レンズ31は、入射する光線の偏光方向に応じて、焦点距離の正負が切り替わるという特徴がある。ここで、凸レンズ32の焦点距離をfとする。また、水平偏光の光線が入射したときの偏光回折レンズ31の焦点距離を+fとし、垂直偏光の光線が入射したときの偏光回折レンズ31の焦点距離を-fとする。
【0055】
図7(a)に示すように、偏光切替素子5が入射光の偏光方向を水平偏光に切り替えた場合、入射光は、偏光回折レンズ31及び凸レンズ32で構成された要素レンズ30Bの焦点距離f/2に集光する。つまり、レンズアレイ3Bはレンズ状態となり、レンズアレイとして機能する。
【0056】
一方、図7(b)に示すように、偏光切替素子5が入射光の偏光方向を垂直偏光に切り替えた場合、偏光回折レンズ31の焦点距離が負のため、後段の凸レンズ32との間でレンズ作用が相殺される。つまり、レンズアレイ3Bは透過状態となり、入射光が屈折することなく通過する。
【0057】
なお、3次元映像表示装置1Bでは、水平偏光の光線が入射したときの偏光回折レンズ31の焦点距離を-fとし、垂直偏光の光線が入射したときの偏光回折レンズ31の焦点距離を+fとしてもよい。この場合、偏光切替素子5が入射光の偏光方向を水平偏光に切り替えた場合、レンズアレイ3Bは透過状態となり、入射光が屈折することなく通過する。一方、偏光切替素子5が入射光の偏光方向を垂直偏光に切り替えた場合、レンズアレイ3Bはレンズ状態となり、レンズアレイとして機能する。
【0058】
[作用・効果]
以上のように、3次元映像表示装置1Bは、偏光回折レンズ31及び凸レンズ32で構成されたレンズアレイ3Bと偏光切替素子5とを一組として、これらを複数組備えることで、多層のレンズ/透過切替レンズアレイを実現できる。その結果、3次元映像表示装置1Bは、第1実施形態と同様、全ての奥行き表示範囲で空間解像度が高い3次元映像Bを再生できる。さらに、3次元映像表示装置1Bでは、表示手段2が1台だけなので構成が簡易になり、表示手段2から出射した要素画像群の光が他の表示手段を通過しないため、輝度の低下を抑制できる。
【0059】
(第3実施形態)
[3次元映像表示装置の構成]
図8を参照し、第3実施形態に係る3次元映像表示装置1Cの構成について、第2実施形態と異なる点を説明する。
3次元映像表示装置1Cは、偏光切替素子5Cを1つのみ備える点が、第2実施形態と異なる。図8に示すように、3次元映像表示装置1Cは、表示手段2と、レンズアレイ3C(3C,3C)と、同期制御装置4Cと、偏光切替素子5Cとを備える。なお、表示手段2は、第2実施形態と同様のため、説明を省略する。
【0060】
まず、偏光切替素子5Cを説明する。
偏光切替素子5Cは、表示手段2と表示手段2に最も近いレンズアレイ3Cとの間に配置され、表示手段2からの光の偏光方向を切り替えるものである。なお、偏光切替素子5Cの構成自体は、第2実施形態と同様のため、これ以上の説明を省略する。
【0061】
レンズアレイ3Cは、2つ備えられている。ここで、表示手段2から遠いレンズアレイ3Cは、表示手段2に近いレンズアレイ3Cの後段に配置されている。また、第2実施形態と異なり、レンズアレイ3C,3Cの間には、偏光切替素子が配置されていない。
【0062】
また、レンズアレイ3Cは、要素レンズ30Cが、偏光回折レンズ31と、凸レンズ32とで構成されたものである。つまり、レンズアレイ3Cは、要素レンズ30Cとしての偏光回折レンズ31及び凸レンズ32が二次元状に配列されている。ここで、表示手段2に近いレンズアレイ3Cは、表示手段2から遠いレンズアレイ3Cより、レンズピッチが短く、かつ、要素レンズ30Cの焦点距離が短くなっている。なお、レンズアレイ3Cの構成自体は、第2実施形態と同様のため、これ以上の説明を省略する。
【0063】
同期制御装置4Cは、要素画像群の表示タイミングと、レンズ状態又は透過状態の切替タイミングとをフレーム単位で同期させるものであり、切替制御手段40Cと、映像切替手段41とを備える。なお、映像切替手段41は、第1実施形態と同様のため、説明を省略する。
【0064】
切替制御手段40Cは、一方のレンズアレイ3Cがレンズ状態となり、他方のレンズアレイ3Cが透過状態となるように、レンズアレイ3Cの状態を時分割で切り替えるものである。本実施形態では、切替制御手段40Cは、映像切替手段41と同期するように、レンズ状態又は透過状態の切替タイミングを示す同期信号を偏光切替素子5Cに出力する。これにより、切替制御手段40Cは、レンズアレイ3Cがレンズ状態でレンズアレイ3Cが透過状態の場合と、レンズアレイ3Cが透過状態でレンズアレイ3Cがレンズ状態の場合とを切り替えることができる。
【0065】
[レンズ状態又は透過状態の切り替え]
図9を参照し、レンズアレイ3Cにおけるレンズ状態又は透過状態の切り替えを詳細に説明する。
図9の例ではレンズアレイ3Cへの入射光と射出光が同一となるように、レンズアレイ3C,3Cの偏光回折レンズ31が設計されていることとする。また、要素レンズ30Cがレンズ状態又は透過状態に切り替わる原理は、第2実施形態と同様である。
【0066】
図9(a)に示すように、偏光切替素子5Cが入射光の偏光方向を水平偏光に切り替えた場合、前段のレンズアレイ3Cがレンズ状態になり、後段のレンズアレイ3Cが透過状態になることとする。つまり、3次元映像表示装置1Cでは、水平偏光の入射光に対して、前段のレンズアレイ3Cがレンズアレイとして機能する。
【0067】
一方、図9(b)に示すように、偏光切替素子5Cが入射光の偏光方向を垂直偏光に切り替えた場合、前段のレンズアレイ3Cが透過状態になり、後段のレンズアレイ3Cがレンズ状態になることとする。つまり、3次元映像表示装置1Cでは、垂直偏光の入射光に対して、後段のレンズアレイ3Cがレンズアレイとして機能する。
【0068】
[作用・効果]
このように、3次元映像表示装置1Cは、2つのレンズアレイ3C,3Cと、1つの偏光切替素子5Cとを備えることで、2層のレンズ/透過切替レンズアレイを実現できる。その結果、3次元映像表示装置1Cは、第2実施形態と同様、全ての奥行き表示範囲で空間解像度が高い3次元映像Bを再生できる。さらに、3次元映像表示装置1Cでは、表示手段2から出射した要素画像群の光が他の表示手段を通過しないため、輝度の低下を抑制できる。
【0069】
さらに、3次元映像表示装置1Cは、3層以上のレンズ/透過切替レンズアレイを実現できない代わりに、偏光切替素子5Cが1つだけでよいので、構成をより簡易にすることができる。
【0070】
以上、本発明の各実施形態を詳述してきたが、本発明は前記した各実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
レンズアレイにおいては、凸レンズの代わりに、より薄型な回折レンズを用いてもよい。
偏光切替素子としては、OCB方式などの応答速度が高い液晶パネルを用いることができる。
【0071】
第1,2実施形態では、2つのレンズアレイを備え、各レンズアレイの奥行き表示範囲に対応した2つの要素画像群を時分割で表示すると説明したが、これに限定されない。例えば、3次元映像表示装置は、3つ以上のレンズアレイを備え、各レンズアレイの奥行き表示範囲に対応した3つ以上の要素画像群を時分割で表示してもよい。
【0072】
第1~3実施形態では、表示手段から遠いレンズアレイに対して、表示手段に近いレンズアレイが2倍の個数の要素レンズを備えることとして説明したが、これに限定されない。例えば、表示手段から遠いレンズアレイに対して、表示手段に近いレンズアレイは、3以上の整数倍の個数、又は、小数倍の個数の要素レンズを備えてもよい。
【符号の説明】
【0073】
1,1B,1C 3次元映像表示装置
2 表示手段
3,3,3 レンズアレイ
3B,3B,3B レンズアレイ
3C,3C,3C レンズアレイ
4,4B,4C 同期制御装置
5,5,5 偏光切替素子
5C 偏光切替素子
9 立体表示装置
30 要素レンズ
40,40B,40C 切替制御手段
41 映像切替手段
90 表示デバイス
91 要素レンズ
92 レンズアレイ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9