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特許7557375血液分析装置、コンピュータープログラム、および血液分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】血液分析装置、コンピュータープログラム、および血液分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/49 20060101AFI20240919BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20240919BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240919BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
G01N33/49 Z
G01N33/49 A
G01N33/68
C12M1/34 D
C12M1/34 F
C12Q1/06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020563091
(86)(22)【出願日】2019-12-13
(86)【国際出願番号】 JP2019049054
(87)【国際公開番号】W WO2020137640
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2018246186
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122345
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 繁久
(72)【発明者】
【氏名】西森 正志
(72)【発明者】
【氏名】ニシムラ タニカワ ジュン イバン
(72)【発明者】
【氏名】大橋 彰華
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-525674(JP,A)
【文献】国際公開第2012/016333(WO,A1)
【文献】特開2018-200322(JP,A)
【文献】特開2018-072337(JP,A)
【文献】CRUZ, L.A.B. et al.,Distinct inflammatory profile underlies pathological increases in creatinine levels associated with,PLOS Neglected Tropical Diseases,2018年03月29日,Vol.12/No.3/e0006306,pp.1-14
【文献】CASTBERG, F.C. et al.,Malaria causes long-term effects on markers of iron status in children: a critical assessment of exi,Malaria Journal,2018年12月11日,Vol.17/No.464,pp.1-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
C12M 1/34
C12Q 1/06
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液分析装置であって、
分析すべき血液検体の検査測定値を受入れる測定値受入れ部を有し、
前記検査測定値は、前記血液検体を含有する試料液中におけるCRPパラメーター値に基づくCRP値と、前記血液検体を含有する試料液中の粒子の体積測定値とを含む所定の血液検査項目のそれぞれについての測定値であり、
前記測定値受入れ部は、前記血液検体を含有する試料液中におけるCRPパラメーター値を受入れるCRP値受入れ部と、前記血液検体を含有する試料液中の粒子の体積測定値を受入れる、体積値受入れ部とを有し、
当該血液分析装置は、前記体積測定値および前記CRP値についての特定の検査測定値に基づいて、前記血液検体のマラリア陽性の可能性を判定する判定部を有
前記判定部は、前記体積測定値に基づく体積度数分布における所定の体積範囲内に度数ピーク部が存在し、かつ、前記CRPパラメーター値に基づくCRP値が予め定められた閾値以上である場合に、前記血液検体がマラリア陽性の可能性が高いと判定する、
前記血液分析装置。
【請求項2】
白血球測定チャンバーを、第1の粒子測定部としてさらに有し、
該白血球測定チャンバーでは、供給される血液検体が赤血球を溶解する溶血処理を施されかつ希釈されて前記試料液が形成され、該試料液中の白血球およびそれ以外の粒子のそれぞれの体積が測定され、
体積値受入れ部は、前記第1の粒子測定部から前記体積測定値を受入れる、
請求項に記載の血液分析装置。
【請求項3】
前記CRPパラメーター値を測定するCRP測定部を、さらに有し、
前記CRP値受入れ部は、前記CRP測定部から前記CRPパラメーター値を受入れる、
請求項またはに記載の血液分析装置。
【請求項4】
前記判定部は、
下記の第1の学習済みモデル(M1)によって、所定の血液検査項目の中から特定された、マラリア陽性に対して関連性を持った重要検査項目を用い、かつ、
前記の重要検査項目についての検査測定値に基づいて、前記血液検体のマラリア陽性の可能性を判定するように構成され、
ここで、前記第1の学習済みモデル(M1)は、
教師データとして、
マラリア陽性であることが既知である血液検体(A)を測定対象として前記所定の血液検査項目について得られた検査測定値(A1)と、該検査測定値(A1)がマラリア陽性の血液検体のものであるという情報(A2)と、
マラリア陰性であることが既知である血液検体(B)を測定対象として前記所定の血液検査項目について得られた検査測定値(B1)と、該検査測定値(B1)がマラリア陰性の血液検体のものであるという情報(B2)と
を用い、
前記所定の血液検査項目のうちのどの血液検査項目がマラリア陽性に関連性を持っているかを機械学習させることによって形成されている、
請求項1に記載の血液分析装置。
【請求項5】
前記重要検査項目が、
分析すべき血液検体中の白血球の体積度数分布における25fL~45fLの体積範囲に、度数ピークが存在するか否か、
分析すべき血液検体中の白血球数、
分析すべき血液検体中の血小板数、および、
分析すべき血液検体のCRP値
からなる群から選択される1以上を含んでいる、
請求項に記載の血液分析装置。
【請求項6】
前記判定部は、
下記の第2の学習済みモデル(M2)によって特定された、マラリア陽性に対する所定の血液検査項目のそれぞれの関連性の度合いを用い、
前記所定の血液検査項目についての検査測定値と、前記の特定された関連性の度合いとに基づいて、前記血液検体のマラリア陽性の可能性を判定するように構成され、
ここで、前記第2の学習済みモデル(M2)は、
教師データとして、
マラリア陽性であることが既知である血液検体(A)を測定対象として前記所定の血液検査項目について得られた検査測定値(A1)と、該検査測定値(A1)がマラリア陽性の血液検体のものであるという情報(A2)と、
マラリア陰性であることが既知である血液検体(B)を測定対象として前記所定の血液検査項目について得られた検査測定値(B1)と、該検査測定値(B1)がマラリア陰性の血液検体のものであるという情報(B2)と
を用い、
前記所定の血液検査項目のうちのどの血液検査項目が何程の度合いでマラリア陽性に関連性を持っているかを機械学習させることによって形成されている、
請求項1に記載の血液分析装置。
【請求項7】
分析すべき血液検体の検査測定値を受入れるステップであって、該検査測定値が、前記血液検体を含有する試料液におけるCRPパラメーター値と、前記血液検体を含有する試料液中の粒子の体積測定値とを含む所定の血液検査項目のそれぞれについての測定値である前記ステップと、
前記体積測定値に基づく体積度数分布におけるマラリア原虫に特有の体積範囲内に度数ピーク部が存在するかどうかを判定するステップと、
前記CRPパラメーター値に基づくCRP値が、予め定められた閾値以上であるかどうかを判定するステップと、
前記度数ピーク部が存在し、かつ、前記CRP値が前記閾値以上である場合に、前記血液検体がマラリア陽性の可能性が高いと判定するステップとを、
コンピューターに実行させるコンピュータープログラム。
【請求項8】
前記判定するステップは、
下記の第1の学習済みモデル(M1)によって、所定の血液検査項目の中から特定された、マラリア陽性に対して関連性を持った重要検査項目を用い、かつ、
前記の重要検査項目についての検査測定値に基づいて、前記血液検体のマラリア陽性の可能性を判定するステップを有し、
ここで、前記第1の学習済みモデル(M1)は、
教師データとして、
マラリア陽性であることが既知である血液検体(A)を測定対象として前記所定の血液検査項目について得られた検査測定値(A1)と、該検査測定値(A1)がマラリア陽性の血液検体のものであるという情報(A2)と、
マラリア陰性であることが既知である血液検体(B)を測定対象として前記所定の血液検査項目について得られた検査測定値(B1)と、該検査測定値(B1)がマラリア陰性の血液検体のものであるという情報(B2)と
を用い、
前記所定の血液検査項目のうちのどの血液検査項目がマラリア陽性に関連性を持っているかを機械学習させることによって形成されている、
請求項に記載のコンピュータープログラム。
【請求項9】
前記判定するステップは、
下記の第2の学習済みモデル(M2)によって特定された、マラリア陽性に対する所定の血液検査項目のそれぞれの関連性の度合いを用い、
前記所定の血液検査項目についての検査測定値と、前記の特定された関連性の度合いとに基づいて、前記血液検体のマラリア陽性の可能性を判定するステップを有し、
ここで、前記第2の学習済みモデル(M2)は、
教師データとして、
マラリア陽性であることが既知である血液検体(A)を測定対象として前記所定の血液検査項目について得られた検査測定値(A1)と、該検査測定値(A1)がマラリア陽性の血液検体のものであるという情報(A2)と、
マラリア陰性であることが既知である血液検体(B)を測定対象として前記所定の血液検査項目について得られた検査測定値(B1)と、該検査測定値(B1)がマラリア陰性の血液検体のものであるという情報(B2)と
を用い、
前記所定の血液検査項目のうちのどの血液検査項目が何程の度合いでマラリア陽性に関連性を持っているかを機械学習させることによって形成されている、
請求項に記載のコンピュータープログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液検体がマラリア陽性である可能性を有するかどうかを判定する機能を備えた血液分析装置、血液検体がマラリア陽性である可能性を判定するための、コンピュータープログラムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において、「マラリア陽性」とは、血液中にマラリア原虫が存在する状態をいい、「マラリア陰性」とは、血液中にマラリア原虫が存在しない状態をいう。以下、血液検体がマラリア陽性の可能性を有するものであるかどうかの判定を「マラリア判定」ともいう。
【0003】
従来より、血液検体に対してマラリア判定を行う機能を備えた血液分析装置が知られている(特許文献1、2など)。特許文献1、2に記載された血液分析装置では、マラリア陽性の血液中に存在するマラリア原虫を特定の体積を持った粒子とみなし、患者の血液検体から調製した試料液中に何程の体積の粒子が何程の度数で存在しているかについての体積度数分布を分析し、該体積度数分布に基づいて自動的にマラリア判定を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2007-525674号公報
【文献】特開2007-024844号公報
【文献】特開平11-101798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らが、前記のような従来のマラリア判定を行う機能を備えた血液分析装置について詳細に検討したところ、そのような血液分析装置は、マラリア判定を行うために比較的高機能で高価な構成を有することが必須であり、よって、マラリア判定機能を日常的に必要とする地域に広く普及させるのには適していなかった。よって、より機能の少ない安価な構成の装置でもマラリア判定を行うことが可能な判定方法が必要であることがわかった。
【0006】
本発明の課題は、上記の問題を解決し、安価な構成でありながらもマラリア判定を行うことが可能な血液分析装置を提供し、かつ、該血液分析装置のためのコンピュータープログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の主たる構成は、次のとおりである。
〔1〕血液分析装置であって、
分析すべき血液検体の検査測定値を受入れる測定値受入れ部を有し、
前記検査測定値は、CRPパラメーター値に基づくCRP値と、血液細胞の計数値とを含む所定の血液検査項目のそれぞれについての測定値であり、
前記測定値受入れ部は、前記血液検体を含有する試料液中におけるCRPパラメーター値を受入れるCRP値受入れ部を有し、
当該血液分析装置は、CRP値以外の血液検査項目についての検査測定値、および/または、CRP値についての特定の検査測定値に基づいて、前記血液検体のマラリア陽性の可能性を判定する判定部を有する、
前記血液分析装置。
〔2〕前記測定値受入れ部は、前記血液検体を含有する試料液中の粒子の体積測定値を受入れる、体積値受入れ部を有し、
前記判定部は、前記体積測定値に基づく体積度数分布における所定の体積範囲内に、度数ピーク部が存在する場合、または、前記CRPパラメーター値に基づくCRP値が予め定められた閾値以上である場合に、前記血液検体がマラリア陽性の可能性が高いと判定する、
前記〔1〕に記載の血液分析装置。
〔3〕白血球測定チャンバーを、第1の粒子測定部としてさらに有し、
該白血球測定チャンバーでは、供給される血液検体が赤血球を溶解する溶血処理を施されかつ希釈されて前記試料液が形成され、該試料液中の白血球およびそれ以外の粒子のそれぞれの体積が測定され、
体積値受入れ部は、前記第1の粒子測定部から前記体積測定値を受入れる、
前記〔2〕に記載の血液分析装置。
〔4〕前記CRPパラメーター値を測定するCRP測定部を、さらに有し、
前記CRP値受入れ部は、前記CRP測定部から前記CRPパラメーター値を受入れる、
前記〔2〕または〔3〕に記載の血液分析装置。
〔5〕前記体積測定値に基づく体積度数分布における所定の体積範囲内に度数ピーク部が存在し、かつ、前記CRPパラメーター値に基づくCRP値が予め定められた閾値以上である場合には、前記判定部は、前記血液検体がマラリア陽性の可能性が高いと判定する、
前記〔2〕~〔4〕のいずれかに記載の血液分析装置。
〔6〕前記判定部は、
下記の第1の学習済みモデル(M1)によって、所定の血液検査項目の中から特定された、マラリア陽性に対して関連性を持った重要検査項目を用い、かつ、
前記の重要検査項目についての検査測定値に基づいて、前記血液検体のマラリア陽性の可能性を判定するように構成され、
ここで、前記第1の学習済みモデル(M1)は、
教師データとして、
マラリア陽性であることが既知である血液検体(A)を測定対象として前記所定の血液検査項目について得られた検査測定値(A1)と、該検査測定値(A1)がマラリア陽性の血液検体のものであるという情報(A2)と、
マラリア陰性であることが既知である血液検体(B)を測定対象として前記所定の血液検査項目について得られた検査測定値(B1)と、該検査測定値(B1)がマラリア陰性の血液検体のものであるという情報(B2)と
を用い、
前記所定の血液検査項目のうちのどの血液検査項目がマラリア陽性に関連性を持っているかを機械学習させることによって形成されている、
前記〔1〕に記載の血液分析装置。
〔7〕前記重要検査項目が、
分析すべき血液検体中の白血球の体積度数分布における25fL~45fLの体積範囲に、度数ピークが存在するか否か、
分析すべき血液検体中の白血球数、
分析すべき血液検体中の血小板数、および、
分析すべき血液検体のCRP値
からなる群から選択される1以上を含んでいる、
前記〔6〕に記載の血液分析装置。
〔8〕前記判定部は、
下記の第2の学習済みモデル(M2)によって特定された、マラリア陽性に対する所定の血液検査項目のそれぞれの関連性の度合いを用い、
前記所定の血液検査項目についての検査測定値と、前記の特定された関連性の度合いとに基づいて、前記血液検体のマラリア陽性の可能性を判定するように構成され、
ここで、前記第2の学習済みモデル(M2)は、
教師データとして、
マラリア陽性であることが既知である血液検体(A)を測定対象として前記所定の血液検査項目について得られた検査測定値(A1)と、該検査測定値(A1)がマラリア陽性の血液検体のものであるという情報(A2)と、
マラリア陰性であることが既知である血液検体(B)を測定対象として前記所定の血液検査項目について得られた検査測定値(B1)と、該検査測定値(B1)がマラリア陰性の血液検体のものであるという情報(B2)と
を用い、
前記所定の血液検査項目のうちのどの血液検査項目が何程の度合いでマラリア陽性に関連性を持っているかを機械学習させることによって形成されている、
前記〔1〕に記載の血液分析装置。
〔9〕分析すべき血液検体の検査測定値を受入れるステップであって、前記検査測定値が、CRP値と血液細胞の計数値とを含む所定の血液検査項目のそれぞれについての測定値である、前記ステップと、
CRP値以外の特定の血液検査項目についての検査測定値、および/または、CRP値についての検査測定値に基づいて、前記血液検体のマラリア陽性の可能性を判定するステップとを、
コンピューターに実行させるコンピュータープログラム。
〔10〕前記血液検体を含有する試料液中の粒子の体積測定値を受入れるステップと、
前記試料液におけるCRPパラメーター値を受け入れるステップと、
前記体積測定値に基づく前記体積度数分布におけるマラリア原虫に特有の体積範囲内に度数ピーク部が存在するかどうかを判定するステップと、
前記CRPパラメーター値に基づくCRP値が、予め定められた閾値以上であるかどうかを判定するステップと、
前記度数ピーク部が存在する場合、または、前記CRP値が前記閾値以上である場合に、前記血液検体がマラリア陽性の可能性が高いと判定するステップとを、
コンピューターに実行させる、
前記〔9〕に記載のコンピュータープログラム。
〔11〕前記度数ピーク部が存在し、かつ、前記CRP値が前記閾値以上である場合に、前記血液検体がマラリア陽性の可能性が高いと判定するステップを、コンピューターに実行させるコンピュータープログラムをさらに有する、前記〔10〕に記載のコンピュータープログラム。
〔12〕前記判定するステップは、
下記の第1の学習済みモデル(M1)によって、所定の血液検査項目の中から特定された、マラリア陽性に対して関連性を持った重要検査項目を用い、かつ、
前記の重要検査項目についての検査測定値に基づいて、前記血液検体のマラリア陽性の可能性を判定するステップを有し、
ここで、前記第1の学習済みモデル(M1)は、
教師データとして、
マラリア陽性であることが既知である血液検体(A)を測定対象として前記所定の血液検査項目について得られた検査測定値(A1)と、該検査測定値(A1)がマラリア陽性の血液検体のものであるという情報(A2)と、
マラリア陰性であることが既知である血液検体(B)を測定対象として前記所定の血液検査項目について得られた検査測定値(B1)と、該検査測定値(B1)がマラリア陰性の血液検体のものであるという情報(B2)と
を用い、
前記所定の血液検査項目のうちのどの血液検査項目がマラリア陽性に関連性を持っているかを機械学習させることによって形成されている、
前記〔9〕に記載のコンピュータープログラム。
〔13〕前記判定するステップは、
下記の第2の学習済みモデル(M2)によって特定された、マラリア陽性に対する所定の血液検査項目のそれぞれの関連性の度合いを用い、
前記所定の血液検査項目についての検査測定値と、前記の特定された関連性の度合いとに基づいて、前記血液検体のマラリア陽性の可能性を判定するステップを有し、
ここで、前記第2の学習済みモデル(M2)は、
教師データとして、
マラリア陽性であることが既知である血液検体(A)を測定対象として前記所定の血液検査項目について得られた検査測定値(A1)と、該検査測定値(A1)がマラリア陽性の血液検体のものであるという情報(A2)と、
マラリア陰性であることが既知である血液検体(B)を測定対象として前記所定の血液検査項目について得られた検査測定値(B1)と、該検査測定値(B1)がマラリア陰性の血液検体のものであるという情報(B2)と
を用い、
前記所定の血液検査項目のうちのどの血液検査項目が何程の度合いでマラリア陽性に関連性を持っているかを機械学習させることによって形成されている、
前記〔9〕に記載のコンピュータープログラム。
〔14〕分析すべき血液検体の検査測定値を準備するステップを有し、前記検査測定値は、CRP値と血液細胞の計数値とを含む所定の血液検査項目のそれぞれについての測定値であり、かつ、
CRP値以外の特定の血液検査項目についての検査測定値、および/または、CRP値についての検査測定値に基づいて、前記血液検体のマラリア陽性の可能性を判定するステップを有する、
血液分析方法。
〔15〕前記判定するステップは、
下記の第1の学習済みモデル(M1)によって、所定の血液検査項目の中から特定された、マラリア陽性に対して関連性を持った重要検査項目を用い、かつ、
前記の重要検査項目についての検査測定値に基づいて、前記血液検体のマラリア陽性の可能性を判定するステップを有し、
前記第1の学習済みモデル(M1)は、
教師データとして、
マラリア陽性であることが既知である血液検体(A)を測定対象として前記所定の血液検査項目について得られた検査測定値(A1)と、該検査測定値(A1)がマラリア陽性の血液検体のものであるという情報(A2)と、
マラリア陰性であることが既知である血液検体(B)を測定対象として前記所定の血液検査項目について得られた検査測定値(B1)と、該検査測定値(B1)がマラリア陰性の血液検体のものであるという情報(B2)と
を用い、
前記所定の血液検査項目のうちのどの血液検査項目がマラリア陽性に関連性を持っているかを機械学習させることによって形成されている、
前記〔14〕に記載の血液分析方法。
〔16〕前記判定するステップは、
下記の第2の学習済みモデル(M2)によって特定された、マラリア陽性に対する所定の血液検査項目のそれぞれの関連性の度合いを用い、
前記所定の血液検査項目についての検査測定値と、前記の特定された関連性の度合いとに基づいて、前記血液検体のマラリア陽性の可能性を判定するステップを有し、
ここで、前記第2の学習済みモデル(M2)は、
教師データとして、
マラリア陽性であることが既知である血液検体(A)を測定対象として前記所定の血液検査項目について得られた検査測定値(A1)と、該検査測定値(A1)がマラリア陽性の血液検体のものであるという情報(A2)と、
マラリア陰性であることが既知である血液検体(B)を測定対象として前記所定の血液検査項目について測定して得られた検査測定値(B1)と、該検査測定値(B1)がマラリア陰性の血液検体のものであるという情報(B2)と
を用い、
前記所定の血液検査項目のうちのどの血液検査項目が何程の度合いでマラリア陽性に関連性を持っているかを機械学習させることによって形成されている、
前記〔14〕に記載の血液分析方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、安価な装置構成でありながらもマラリア判定が可能となる。
従来では、マラリア判定に対して、CRP値と体積度数分布とを相補的に用いるのが有効であることが見出されていなかったため、粒子の体積度数分布とCRP値とをマラリア判定の条件として互いに関連付けることはされていなかった。これに対して、本発明では、粒子の体積度数分布とCRP値の両方に基づいてマラリア判定を行えば、マラリア判定の精度または信頼性が相乗的に改善されることを見出している。
【0009】
本発明の好ましい態様では、(マラリア陽性であることが既知である血液検体の所定の血液検査項目に関する各検査測定値と、マラリア陽性であるという事実との相関関係)、および、(マラリア陰性であることが既知である血液検体の所定の血液検査項目に関する各検査測定値と、マラリア陰性であるという事実との相関関係)を、人工知能に機械学習させて、所定の血液検査項目とマラリア陽性との関連性(所定の血液検査項目のうちのどの血液検査項目が、マラリア陽性に関連性を持っているか、または、マラリア陽性にどの程度関連性を持っているか)についての学習済みモデルを構築する。そして、その学習済みモデルによって、所定の血液検査項目(即ち、種々の血液検査項目)のなかから、マラリア陽性に対して関連性を持った特定の血液検査項目(重要検査項目)を選択させ、該特定の検査測定値をマラリア判定に用いている。これにより、従来、医師や技師などの医療従事者が経験的に重要であるとしてマラリア判定に用いていた血液検査項目に加えて、新たな血液検査項目をマラリア陽性の判定のために加えることが可能になり、マラリア判定の精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の血液分析装置の好ましい構成の一例を示すブロック図である。
図2図2は、本発明の血液分析装置の動作を示すフローチャートである。該フローチャートは、本発明のコンピュータープログラムの構成を説明するためのフローチャートでもある。
図3図3は、試料液(溶血処理を施されかつ希釈された血液検体)中の粒子の体積度数分布図において、マラリア原虫の存在に起因して現れる度数ピーク部の例を示すグラフ図である。同図では、粒子の体積が小さい領域の度数分布を示している。
図4図4は、試料液中の粒子の体積度数分布図においてマラリア原虫の存在に起因して現れる度数ピーク部の高さと、その試料液のCRP値との関係を示す散布図である。
図5図5は、試料液中の粒子の体積度数分布図において、マラリア原虫の存在に起因して現れる度数ピーク部の高さが、マラリア原虫の種類によって変化することを示すグラフ図である。
図6図6は、デングウイルス陽性の血液検体から作成された試料液中の粒子の体積度数分布図において、デングウイルス感染に起因して現れる度数ピーク部の例を示すグラフ図である。同図では、図3と同様、粒子の体積が小さい領域の度数分布を示している。
図7図7は、マラリア陽性の血液検体と、デング熱陽性の血液検体のそれぞれのCRP値を示した箱ヒゲ図である。図7(a)は、マラリア陽性の血液検体に関するグラフ図であり、図7(b)は、デング熱陽性の血液検体に関するグラフ図である。
図8図8は、〔マラリア陽性の血液の白血球を計数して得られる体積度数分布のグラフにおいて、25fL~45fLの体積範囲に現れる度数ピークの高さ〕と、〔該血液の単位体積当たりに含まれるマラリア原虫の数〕との間の相関関係を示すグラフ図である。
図9図9は、本発明の血液分析方法のステップを示すフローチャートである。該フローチャートは、本発明のコンピュータープログラムの好ましい態様を説明するためのフローチャートでもある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔本発明の血液分析装置の構成例〕
先ず、本発明の血液分析装置(以下、当該装置ともいう)について、実施例を挙げながら詳細に説明する。
図1に構成の一例を示すように、当該装置は、測定値受入れ部410と判定部430とを少なくとも有して構成される。測定値受入れ部410は、分析すべき血液検体についての所定の検査測定値を受入れるように構成された部分であって、CRP値受入れ部を含んでいる。図1の例では、測定値受入れ部410は、体積値受入れ部とCRP値受入れ部を有している。
【0012】
前記検査測定値は、所定の血液検査項目(従来公知の種々の血液検査項目)のそれぞれについての測定値である。本発明の好ましい態様では、CRP値と血液細胞の計数値が、該所定の血液検査項目に含まれるが、CRP値が含まれない場合があってもよい。検査測定値は、血液測定装置から出力されたままの電気信号の値であってよく、また、それを演算処理した値、さらには、それらを医療従事者がわかるような単位を持った値へと換算した値であってもよい。
【0013】
判定部430は、分析すべき血液検体のマラリア判定を行う部分である。該判定部は、(CRP値以外の血液検査項目についての検査測定値)および(CRP値についての検査測定値)のうちの一方または両方に基づいて、該マラリア判定を行うように構成された部分である。
【0014】
図1に示す例では、当該装置は、血液検体M1を収容した検体容器X1を所定位置に受け入れ、該検体容器X1中の血液検体M1を測定し分析するように構成された装置であり、粒子測定およびCRP値の測定を行うための測定機構部10(第1の粒子測定部11と、CRP測定部13を含む)と、それを制御しかつ測定値を分析するための制御部20(分析部40を含む)とを有する。図1の例では、第1の粒子測定部11は白血球測定チャンバー(以下、WBCチャンバーともいう)であり、CRP測定部13は、CRP測定チャンバー(以下、CRPチャンバーともいう)である。また図1の例では、好ましい態様として、第2の粒子測定部12がさらに設けられており、該第2の粒子測定部12は、赤血球測定チャンバー(RBCチャンバーともいう)である。当該装置全体の詳細な説明は後述する。図1に示す構成の中でも、当該装置は、分析部中に、後述の体積値受入れ部と、CRP値受入れ部と、判定部とを少なくとも有することが重要である。
【0015】
第1の粒子測定部(WBCチャンバー)11は、測定対象の試料液中の粒子(白血球を含んだ粒子)のそれぞれの体積を測定し、各粒子の体積測定値を出力するよう構成されている。第1の粒子測定部11で測定される試料液は、溶血処理を施した血液検体M1を含有するものであり、好ましい態様では、血液検体M1に溶血処理を施しかつそれを希釈したものである。図1に示す第1の粒子測定部11は、測定用の容器(チャンバー)に各粒子の体積を測定するための粒子計数機構が設けられていることを表している。
【0016】
CRP測定部(CRPチャンバー)13は、血液検体M1のCRP値に対応する指示値であるCRPパラメーター値を測定し、その測定値を出力するように構成されている。図1に示すCRP測定部13は、測定用の容器(チャンバー)にCRPパラメーター値を測定するための光学的デバイスが設けられていることを表している。
【0017】
分析部40は、体積値受入れ部と、CRP値受入れ部と、判定部430とを少なくとも有する。図1に示す例では、体積値受入れ部とCRP値受入れ部は、測定値受入れ部410に含まれている。図1に示す例では、該分析部40は、度数分布計算部421と、CRP値決定部423を有している。度数分布計算部421は、第1の粒子測定部11から各粒子の体積測定値を受入れて、血液検体M1における粒子(白血球を含む粒子)の体積度数分布を計算する。マラリア陽性の血液検体では、この粒子にマラリア原虫が混在している。CRP値決定部423は、CRP測定部13から出力されるCRPパラメーター値を受入れて、血液検体M1のCRP値を決定する。このため、図1の例では、分析部40に測定値受入れ部(体積値受入れ部とCRP値受入れ部を含む)410と測定値処理部420とが設けられている。
【0018】
測定値受入れ部(体積値受入れ部とCRP値受入れ部を含む)410は、測定機構部10中の各測定部(11、12、13)から出力される測定値を演算処理可能なデータとして受け入れる。測定値受入れ部410は、ハードウェアとしてのインターフェースと、受け入れた測定値の信号を測定値のデータセットとして保持するソフトウェア(コンピュータープログラム)とを有して構成されてよい。測定値受入れ部410は、受け入れた各測定値を、記憶装置(図示せず)に格納してもよい。
測定値処理部420は、第1の度数分布計算部421と、CRP値決定部423とを含んでいる。また、図1の例では、測定値処理部420は、第2の度数分布計算部422をも含んでいる。
第1の度数分布計算部421は、WBCチャンバー11から出力された測定値を処理し、溶血処理された血液検体M1中の粒子(白血球、マラリア原虫)の体積度数分布を計算する。
CRP値決定部423は、CRPチャンバー13から出力された測定値(CRPパラメーター)を処理し、CRP値を決定する。
第2の度数分布計算部422は、第2の粒子測定部(RBCチャンバー)から出力された測定値を処理し、血液検体M1における粒子(赤血球、血小板を含む粒子)の体積度数分布を計算する。
【0019】
判定部430は、測定値処理部420によって得られた血液分析値(とりわけ、第1の度数分布計算部421によって得られた体積度数分布と、CRP値決定部423によって得られたCRP値)が、次の(i)、(ii)の条件のどちらか一方を満たす場合に、血液検体M1がマラリア陽性である可能性が高いと判定する。また、好ましい態様では、次の(i)、(ii)の条件の両方を満たす場合に、血液検体M1がマラリア陽性である可能性が高い(または、血液検体M1がマラリア陽性である可能性がより高い)と判定する。
(i)前記体積度数分布におけるマラリア原虫に特有の体積範囲内に度数ピーク部が存在すること。
(ii)CRP値が、予め定められた閾値以上であること。
詳細は後述するが、上記(i)および(ii)の条件判定を行うために、図1の例では、判定部430には、条件判定部431と、参照データ保持部432と、決定部433が設けられている。参照データ保持部432には、CRP値の判定のための閾値など、条件判定部431が判定するために参照すべきデータが格納されている。
条件判定部431は、参照データ保持部432に保持された必要なデータを参照し、上記(i)、(ii)の条件判定を行う。
決定部433は、条件判定部431による条件判定の結果を受け入れ、上記(i)および(ii)の条件のどちらか一方だけが満たされた場合には、「マラリア陽性の可能性が高い」との判定を選択する。尚、上記(i)および(ii)の条件が両方ともに満たされなかった場合には、「マラリア陽性ではない」との判定を選択してもよい。上記(i)および(ii)の条件がどちらも満たされた場合にも、「マラリア陽性の可能性が高い」との判定を選択してもよい。しかし、上記(i)および(ii)の条件がどちらも満たされた場合は、どちらか一方だけを満たす場合よりも、マラリア陽性である可能性がより高い(または、マラリア陽性である可能性が高いという判定自体の精度がより高い)。よって、上記(i)および(ii)の条件がどちらも満たされた場合には、どちらか一方だけが満たされる場合に対して判定上の差をつけるために、「マラリア陽性の可能性がより高い」、代替的には「マラリア陽性である」との判定を選択してもよい。図1の例では、分析部40は、判定結果出力部440を有し、それを通じて、決定部433によって選択された判定結果が、表示装置50などの周辺機器や、通信機器、外部コンピューターなどに出力される。
分析部の他の態様として、測定値受入れ部410は、既に計算された度数分布を受け入れても良い。また、CRPパラメーター値は、CRP値そのものであってもよい。
【0020】
以上の構成を有することによって、当該装置は、安価な構成でありながらもマラリア判定を行うことが可能である。当該装置は、第1の粒子測定部と、CRP測定部と、制御部(分析部を含む)だけを備えるだけの分析装置であってよく、マラリア判定の結果だけを出力するマラリア判定専用の分析装置であってもよいが、図1に例示するように、従来公知の血液分析装置にマラリア判定のための分析機能を加えた構成を有し、全血算の分析とCRP値の分析とマラリア判定とを行う装置であることが好ましい。図1に示す例では、WBCチャンバー11、RBCチャンバー12、CRPチャンバー13を備えた血液分析装置において、WBCチャンバー11が第1の粒子測定部として利用されている。これは、WBCチャンバーでは、そもそも血液検体を溶血処理し(赤血球を溶血剤で溶解する処理を施し)希釈して試料液が形成されて白血球の計数が行われるので、赤血球内に潜んでいたマラリア原虫を露出させて粒子として計数するのに適しているからである。また、RBCチャンバー12で計数される血小板の測定結果を、マラリア判定の精度や信頼性をより高めるために利用することが好ましい(後述)。
【0021】
〔粒子計数機構〕
粒子の計数とは、粒子の数をただ単純にカウントするだけではなく、粒子ごとの体積を測定することを含む。これにより、何程の体積の粒子が何程の数だけ存在しているか(即ち、粒子の体積度数分布)の分析が可能になる。該体積度数分布における「度数」とは、各体積(または後述のチャンネル)ごとの粒子の数である。
粒子測定部における粒子計数機構としては、インピーダンス法(電気抵抗法)を実行する機構(粒子がアパーチャーを通過するときの該アパーチャー内の電気的特性(インピーダンス)の変化を利用して、該粒子の体積を測定する機構)、フローサイトメトリーを実行する機構(フローセルの流路を進む試料液中の粒子に所定の照射光を照射し、その結果得られる光散乱や光吸収度などの光学的特性から、該粒子の体積を測定する機構)、集光型フローインピーダンス法(各粒子をインピーダンス法とフローサイトメトリーとによって測定し得るよう、1つの流路にインピーダンス法とフローサイトメトリーを実施する機構を混在させた機構)が挙げられる。これらの粒子計数機構の中でも、インピーダンス法を実行する機構は、安価であり、また、度数分布の中からマラリア原虫に特有の度数ピーク部を見つけるためには有用な機構である。
【0022】
〔当該装置に搭載される粒子測定部〕
図1の例では、第1の粒子測定部(WBCチャンバー)は、後述のインピーダンス法によって粒子の計数を行うように構成されている。分析部は、白血球を、図5の体積度数分布に示すように、リンパ球、単球、顆粒球に分類し(白血球3分類)、それらの度数分布の状態を分析結果として表示し得るように構成される。また、RBCチャンバーでは血小板も計数されてよく、WBCチャンバーはヘモグロビン濃度(Hgb)を測定し得るよう構成されてもよい。その他、赤血球容積(MCV)、ヘマトクリット値(Hct)など、従来の血液分析装置と同様の項目を測定し得るよう構成されてもよい。
また、当該装置には、顆粒球を好中球、好酸球、好塩基球へと分類するための粒子測定部(測定チャンバー)が追加されてもよい。そのような粒子測定部としては、LMNEチャンバー(細胞染色技術と粒子計数機構(とりわけ集光型フローインピーダンス法を行う機構)を用いて、リンパ球、単球、好中球、好酸球に関する計数を行う測定チャンバー)や、BASOチャンバー(溶血剤により、好塩基球以外の成分を溶血、収縮させ、粒子計数機構によって好塩基球を計数する測定チャンバー)が挙げられる。
インピーダンス法を実施するよう構成された2つの測定チャンバー(RBCチャンバーと、白血球3分類を行うためのWBCチャンバー)と、CRPチャンバーとを備えた血液分析装置は、安価な構成で、血液の基本的な分析が可能であるから、マラリア判定と医療の診断とに有用な好ましい血液分析装置を安価に提供することが可能になる。
【0023】
〔当該装置に搭載されるCRP測定部〕
CRPチャンバーは、血液検体のCRP値に対応するCRPパラメーター値を測定するよう構成される。そのようなCRPパラメーター値を測定チャンバーで得る方法としては、CRPラテックス免疫比濁RATE法などが挙げられる。例えば、CRPラテックス免疫比濁RATE法では、免疫測定用のラテックス試薬(例えば、抗ヒトCRP感作ラテックス免疫試薬など)がチャンバー内の血液検体に加えられる。チャンバーの下部壁面には光照射部と光検出部が備えられ、検出された透過光の強度がCRPパラメーター値として出力される。このCRPパラメーター値は、分析部40のCRP値決定部423において、CRP値に対応付けられる。他の態様として、CRP測定部は、CRP値決定部を有し、CRPパラメーター値をCRP値に変換したデータとして出力してもよい。
血液分析装置におけるCRP値の測定技術自体については、上記特許文献3など、従来公知の技術を参照することができる。
【0024】
〔測定機構部〕
測定機構部10の各部は、制御部20に含まれた機構制御部30によって制御されて作動する。機構制御部30と分析部40は、協働して、機構制御部30に測定を行わせ、血液の分析を行いかつマラリア判定を行う。
図1の例では、測定機構部(破線で囲んで示唆している)10は、CRPチャンバー13、RBCチャンバー12、WBCチャンバー11に加えて、分注機構14を有する。分注機構14は、サンプリングノズル15と移動機構16とを有し、該移動機構は、サンプリングノズル15を水平方向、上下方向に移動され得るよう、水平移動機構16aと垂直移動機構16bとを有して構成されている。サンプリングノズル15は、機構制御部30による制御の下、検体容器10、試薬容器、赤血球測定チャンバー、白血球測定チャンバーに移動し、血液検体、試薬液、チャンバー内で作り出した試料液などの吸引と吐出を行なう細長い管である。
その他、測定機構部10には、測定に必要な試薬を収容した試薬容器(複数)、希釈機構、吸引/吐出用のポンプ、シリンジ、電磁バルブなどが適宜設けられる(これらは図示を省略している)。測定機構部については、上記特許文献3など、従来公知の粒子分析装置、血液分析装置、血球計数装置を参照することができる。
【0025】
〔制御部〕
制御部は、ロジック回路等によって構築されたものであってもよいが、コンピューターが適切である。該コンピューターでは、測定機構部の各部の動作を制御するように、かつ、分析のための演算を行うように構成されたコンピュータープログラムが実行される。
【0026】
〔当該装置の主たる作動と分析の流れ〕
図2は、当該装置の動作の概要を例示するフローチャートである。該フローチャートの例では、CRP値の分析ステップs1~s4と、粒子測定(白血球計数)の分析ステップs5~s8とが並行して示されているが、これら2つの系列の作動は直列的であってもよい。各ステップに付された番号は、識別のためである。実際には、RBCチャンバーやさらなる測定チャンバーが加えられ、各チャンバーには所定の順番で血液検体が分配され、そこで試料液が形成され(WBCチャンバーで希釈された血液検体の一部がRBCチャンバーに移され、そこでさらに希釈されるといったように、チャンバー間での試料液の移動も含まれる)、その後、各チャンバー内では独立的に測定が進行し、測定に要する時間も各チャンバーごとに独立的である。以下、図1の装置における主たる作動と分析の流れの一例を説明する。
【0027】
〔CRP値の分析ステップs1~s4〕
(ステップs1)
サンプリングノズル(以下、ノズル)が、CRPパラメーター値を測定するために動作し、CRPパラメーター値の測定に必要な試薬(試薬容器は図示せず)と、検体容器X1中の血液検体M1とを、それぞれ所定量だけCRP測定部(CRPチャンバー)13に供給し、そこでCRPパラメーター値を測定するための試料液が形成される。ノズルの洗浄は適宜行われる。
【0028】
(ステップs2)
CRPチャンバーでCRPパラメーター値が測定され、測定値が分析部へ出力される。
【0029】
(ステップs3)
分析部40(測定値受入れ部410)が、CRPパラメーター値(吸光度)を受入れる。
【0030】
(ステップs4)
分析部40(測定値処理部420のCRP値決定部423)が、CRPパラメーター値からCRP値を決定する。CRP値決定部423は、CRPパラメーター値をCRP値へと変換するための参照テーブルを有していてもよい。
【0031】
〔粒子の体積度数分布の分析ステップs5~s8〕
(ステップs5)
ノズルが、第1の粒子測定部(WBCチャンバー)11に、検体容器X1中の血液検体M1を所定量だけ供給し、そこへ所定量の希釈液(水、生理食塩水、リン酸緩衝希釈液など)が供給されて、血液検体M1が希釈される。図2のフローチャートには細部の動作を具体的に示していないが、WBCチャンバーで希釈された血液検体の一部がRBCチャンバーに移され、そこでさらに希釈されて、赤血球と血小板の計数が行われる。これらの希釈倍率は従来公知の計数技術を参照してよい。WBCチャンバーでは、希釈された血液検体に、さらに赤血球を溶解(溶血)する溶血剤が加えられ、赤血球が溶解した試料液が形成される。
【0032】
(ステップs6)
第1の粒子測定部(WBCチャンバー)11で粒子計数が行われ、各粒子の体積が測定され、測定値が分析部へ出力される。尚、WBCチャンバーでは、比色法(ノンシアン法)を行うための光学装置によってヘモグロビン濃度が測定され、測定値が出力されてもよい。一方、第2の粒子測定部(RBCチャンバー)12でも粒子計数が行われ、各粒子の体積が測定され、測定値が分析部へ出力される。
【0033】
(ステップs7)
分析部40(測定値受入れ部410)が、各粒子測定部から粒子体積測定値などの測定結果を受入れる。
【0034】
(ステップs8)
分析部40(測定値処理部420の度数分布計算部421)が、WBCチャンバーからの粒子体積測定値を処理し、白血球を含む粒子の体積度数分布を計算する。一方、第2の度数分布計算部422は、RBCチャンバーからの粒子体積測定値を処理し、赤血球と血小板の体積度数分布を計算する。これらの体積度数分布は、出力されてもよく、ヒストグラムとして表示されてもよい。
【0035】
〔判定部430でのマラリア判定の分析ステップs9~s15〕
図2のフローチャートに示す条件判定は、先に上記(i)の条件についての判定を行いその結果に対してそれぞれ上記(ii)の条件についての判定を行う場合の例であって、体積度数分布に関する条件判定と、CRP値に関する条件判定の順番は、逆であっても、同時並行であってもよい。
【0036】
(ステップs9)
図2のフローチャートの例では、判定部430の条件判定部431は、ステップs9において、WBCチャンバーでの測定で得られた体積度数分布が、上記(i)の条件(マラリア原虫に特有の体積範囲内に度数ピーク部が存在すること)を満たすかどうかを判定する。
【0037】
(ステップs10)
ステップs9で、条件判定部431が度数ピーク部がある(YES)と判定した場合、条件判定部431は、ステップs10において、上記(ii)の条件(CRP値が予め定められた閾値以上であること)を満たすかどうかを判定する。
【0038】
(ステップs11)
ステップs10で、条件判定部431がCRP値が閾値以上である(YES)と判定した場合、上記(i)の条件と上記(ii)の条件とを共に満たしたのであるから、決定部433は、ステップs11において、「マラリア陽性の可能性がより高い」との判定結果を選択する。この判定結果は、マラリア陽性の可能性に段階を設けた好ましい一例であって、ステップs11、s12、s14において、全て同様に「マラリア陽性の可能性が高い」との判定結果を選択してもよい。
【0039】
(ステップs12)
ステップs10で、条件判定部431がCRP値が閾値以上でない(NO)と判定した場合、決定部433は、ステップs12において、「マラリア陽性の可能性が高い」との判定結果を選択する。
【0040】
(ステップs13)
一方、ステップs9で、条件判定部431が度数ピーク部が無い(NO)と判定した場合、条件判定部431は、ステップs13において、上記(ii)の条件(CRP値が予め定められた閾値以上であること)を満たすかどうかを判定する。
【0041】
(ステップs14)
ステップs13でCRP値が閾値以上である(YES)と判定した場合、決定部433は、ステップs14において、「マラリア陽性の可能性が高い」との判定結果を選択する。
【0042】
(ステップs15)
ステップs13で、条件判定部431がCRP値が閾値以上でない(NO)と判定した場合、決定部433は、ステップs15において、「マラリア陽性ではない」との判定結果を選択する。
【0043】
以上のステップによって、マラリア判定が好ましく実行される。
【0044】
〔上記(i)、(ii)の条件の詳細な説明〕
後述の実験例1および図3の体積度数分布図に示すとおり、本発明では、試料液(溶血処理を施されかつ希釈された血液検体)中の粒子の体積度数分布図における所定の範囲で、マラリア原虫の存在に起因して、特有の度数ピーク部が現れる場合があることを知見した。図3の体積度数分布図の例では、マラリア陽性の血液検体において、25fL(フェムトリットル)~45fLに対応するチャンネル14~26の範囲内、特に、30fL~40fLに対応するチャンネル17~23の範囲内に、明らかな度数ピーク部が現れている(「チャンネル」は後述する)。図3の例では、該度数ピーク部の中心は、チャンネル20付近に集中している。これは、赤血球の溶解によって、赤血球内に含まれていたマラリア原虫が試料液中に浮遊し、それが粒子として計数された結果である。尚、チャンネル40付近を中心とする度数ピーク部は、リンパ球の存在を示しており、マラリア原虫に特有の度数ピーク部は、リンパ球の度数ピーク部に対して、体積が小さい側の隣に存在している。
【0045】
〔チャンネル〕
粒子の体積を示す体積測定値は、具体的な数値ではなく、体積測定値の最小値(ゼロであってもよい)から最大値までの全幅を256段階(0~255)や1024段階(0~1023)などに区分することが好ましい。これにより、制御部(コンピューター)によって度数分布を求める処理を行う際のデータの取り扱いが容易になる。前記のように区分された各区間をチャンネルと呼ぶ。本明細書では、体積区間の名称として、0チャンネル~255チャンネルを用いた例を挙げている。図3図6では、全チャンネル0~255のうち、粒子の体積が小さい領域(チャンネル0~100)の度数分布を示している。
【0046】
〔マラリア原虫に特有の度数ピーク部の存在〕
本発明において、粒子の体積度数分布における度数ピーク部が存在するとは、典型的には、体積度数分布のグラフ曲線(各チャンネルの度数を滑らかにつないだ曲線)の接線の傾きが正または負の部分の途中に、該傾きが0の部分が存在する状態をいい、より顕著な状態では、極大値をとる部分が存在することをいう。図3のグラフ曲線のとおり、度数ピーク部よりも体積が小さい側のチャンネルの度数は、度数ピーク部の度数よりも少なく、よって、度数ピーク部よりも体積が小さい側の接線の傾きはプラス(正)となっている。
マラリア原虫に特有の度数ピーク部の高さは、その度数ピーク部に対し体積が大きい側で隣接する谷部の底からの度数を基準とする高低差(peak to valley)によって決定することが好ましいが、度数ゼロを基準とした高さ(=度数ピーク部の度数の値それ自体)であってもよいし、また、予め定められた度数を基準とした高さなどであってもよい。
【0047】
〔第1の閾値:マラリア原虫に特有の度数ピーク部の高さの下限値〕
本発明者らの実験によれば、マラリア原虫に特有の度数ピーク部の高さ(peak to valley)は、例えば、1以上である。即ち、体積度数分布のグラフ曲線が、マラリア原虫に特有の体積範囲内において、単調に増加せず、変曲点のように曲線の方向が変化するような部分(度数ピーク部の高さがゼロ)が存在する場合には、マラリア陽性の可能性が疑われるが、本発明では、度数ピーク部の高さ(peak to valley)の判定の下限値として、実験に基づく適切な値である1を採用している。この下限値「1」は、参照データ保持部432に予め格納されていてもよい。また、この下限値は、当該装置の操作者によって適宜変更されてよい。
度数ピーク部が存在する場合、判定部はマラリア陽性の可能性が高いと判定し、CRP値の判定結果と共に、最終的なマラリア判定がなされる。
【0048】
〔閾値:マラリア陽性に特有のCRP値の下限値〕
健常者のCRP値は、一般に0mg/L~5mg/L程度である。本発明者らの実験によれば、マラリア陽性の血液検体は、50mg/L程度の高いCRP値を示す場合もある。実験の結果からは、マラリア陽性の可能性が高いと判定し得る適切な閾値(判定の下限値)は、例えば、5mg/Lよりも高い値~50mg/Lであり、より好ましい閾値は、20mg/L~30mg/Lが挙げられる。該閾値は、これらの範囲から選択することができる。後述の実験例2では、CRP値26mg/Lを閾値(判定の下限値)として採用し、CRP値がその閾値以上であれば、マラリア陽性の可能性が高いと判定している。採用された閾値は、参照データ保持部432に予め格納される。該閾値は、当該装置の操作者によって適宜変更されてよい。
【0049】
〔マラリア原虫に特有の度数ピーク部とCRP値との関連性〕
後述の実験例2および図4の散布図に示すとおり、本発明では、粒子の体積度数分布とCRP値の両方に基づいてマラリア判定を行えば、マラリア判定の精度または信頼性が相乗的に改善されることを見出している。
本発明者らの研究によれば、図4の散布図において、白血球とマラリア原虫とが存在する粒子の体積度数分布の度数ピーク部の高さが1以上である全ての場合に、マラリア陽性の可能性が高いと判定することが好ましい。また、該体積度数分布において、CRP値が26mg/L以上である全ての場合に、マラリア陽性の可能性が高いと判定することが好ましい。また、図4の散布図において、白血球とマラリア原虫とが存在する粒子の体積度数分布の度数ピーク部の高さが1以上であって、かつ、CRP値が26mg/L以上である場合に、マラリア陽性の可能性が高い(または、より高い)と判定することが好ましい。
【0050】
〔マラリア判定の結果の表示〕
マラリア判定の結果の表示は、「(マラリア)陽性」、「(マラリア)陽性の可能性が高い」といったように、当該血液分析装置の操作者または分析結果を見る者が、マラリア陽性かどうかを理解できる表示や記号であってよい。
また、度数ピーク部の高さ(peak to valley)がより高いほど、および/または、CRP値がより高いほど、マラリア陽性の可能性の度合いが高いように表示してもよい。
【0051】
〔マラリア原虫の種類の判別〕
マラリア原虫には多数の種類があるが、ヒトに感染して臨床的問題となるのは主として熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)、三日熱マラリア原虫(P. vivax)、卵形マラリア原虫(P. ovale)、四日熱マラリア原虫(P. malariae)である。
これらのマラリア原虫のうち、本発明では、後述の実験例3および図5の度数分布図に示すとおり、熱帯熱マラリア原虫と三日熱マラリア原虫との間で、前記度数ピーク部の高さに明らかな差異が存在すること、および、三日熱マラリア原虫の度数の方が、熱帯熱マラリア原虫の度数よりも高い傾向にあることを知見した。そこで、本発明の好ましい態様では、分析部にマラリア原虫判別部をさらに設けてもよい。該マラリア原虫判別部は、マラリア原虫に特有の前記体積範囲内における度数ピーク部の高さに基づいてマラリア原虫の種類を判別することが可能である。図1の例では、該マラリア原虫判別部は、判定部430中の条件判定部431中に含まれている。
【0052】
〔血小板の分析によるマラリア判定の補正〕
WBCチャンバーでは、血小板も計数される。血小板が凝集すると、マラリア原虫と同等の1つの大きい粒子となる場合がある。本発明では、マラリア原虫に特有の前記体積範囲内における度数ピーク部に、凝集した血小板の度数が含まれている可能性に着目した。血小板を分析することで、前記度数ピーク部の高さから、凝集した血小板の度数を減じて、該度数ピーク部の高さを補正することが可能である。
【0053】
〔マラリア陽性とデングウイルス陽性との区別〕
後述の実験例4および図6の度数分布図に示すとおり、本発明では、デングウイルス陽性の場合にも、白血球の度数分布に変化が生じ、マラリア原虫に特有の前記体積範囲の付近に度数ピーク部が発生することに着目している。デングウイルスは、粒子計数機構では検出し得ない微小な粒子であるが、図6の度数分布図に示すとおり、マラリア原虫に特有の前記体積範囲の付近に度数ピーク部が発生することがある。しかしながら、図3の度数分布図(マラリア陽性)と、図6の度数分布図(デングウイルス陽性)とからも明らかなとおり、マラリア陽性とデングウイルス陽性とでは、度数ピーク部の幅が互いに大きく異なる。マラリア陽性では、度数ピーク部が比較的シャープであるのに対して、デングウイルス陽性に度数ピーク部の形状は、明らかに幅が広い。
また、本発明では、マラリア陽性とデングウイルス陽性とでは、CRP値が互いに大きく異なる点に着目している。後述の実験例5および図7の箱ヒゲ図度数分布図に示すとおり、50%の数の検体が含まれる分布の中心部分(図7の箱部分)のCRP値の範囲が、マラリア陽性の場合の方がデングウイルス陽性の場合よりも大きくなっている。
以上の点から、度数ピーク部の幅に基づいて、または、該度数ピーク部の幅と前記CRP値とに基づいて、マラリア陽性の可能性が高いか、デングウイルス陽性の可能性が高いかを判別するように構成されたマラリア-デング判別部を設けることも可能である。
【0054】
〔本発明によるコンピュータープログラム〕
次に、本発明によるコンピュータープログラム(以下、当該プログラムともいう)を説明する。当該プログラムは、コンピューターが読み取り可能な媒体に記録されたものとして提供されてもよいし、他のコンピューターや外部記憶装置からネットワークを通じて提供されてもよい。
【0055】
当該プログラムは、本発明の血液分析装置の制御部においてマラリア判定を行うために好ましく用いられる。当該プログラム中の各測定のための装置や分析のための処理は、上記したとおりであり、測定と測定値の分析とマラリア判定の流れや、CRP値を判定するための閾値は、上記で説明したとおりである。
【0056】
当該プログラムは:
分析すべき血液検体の検査測定値を受入れるステップ(後述の実施例では、ステップS1~ステップS4)と;
CRP値以外の特定の血液検査項目についての検査測定値、および/または、CRP値についての検査測定値に基づいて、前記血液検体のマラリア陽性の可能性を判定するステップ(後述の実施例では、ステップS5~ステップS7)と;
をコンピューターに実行させるコンピュータープログラムである。
前記の検査測定値は、CRP値と血液細胞の計数値とを含む所定の血液検査項目のそれぞれについての測定値である。また、特定の血液検査項目とは、マラリア判定に関連性を有する血液検査項目である。
【0057】
好ましい態様では、当該プログラムは、次のステップS1~S7をコンピューターに実行させるコンピュータープログラムである。下記ステップ中の符号は、説明のために、図1に例示した当該装置の各部の符号を用いている。
【0058】
(ステップS1)
血液検体X1が溶血処理を施されてなる試料液(好ましい態様では希釈される)中の粒子(白血球を含んだ粒子)のそれぞれの体積を測定する第1の粒子測定部(WBCチャンバー)11から、各粒子の体積測定値を受け入れるステップ。
(ステップS2)
前記各粒子の体積測定値に基づいて、該粒子の体積度数分布を計算するステップ。
(ステップS3)
血液検体X1のCRP値に対応するCRPパラメーター値を測定するCRP測定部(CRPチャンバー)13から、CRPパラメーター値を受け入れるステップ。
(ステップS4)
CRPパラメーター値に基づいてCRP値を決定するステップ。
(ステップS5)
前記体積度数分布におけるマラリア原虫に特有の体積範囲内に度数ピーク部が存在するかどうかを判定するステップ。
(ステップS6)
前記決定されたCRP値が、予め定められた閾値以上であるかどうかを判定するステップ。
(ステップS7)
前記度数ピーク部が存在し、かつ、前記決定されたCRP値が閾値以上である場合に、前記血液検体がマラリア陽性である可能性が高いと判定するステップ。
以上のステップをコンピューターに実行させるコンピュータープログラムによって、従来よりも高い精度または高い信頼性にてマラリア判定を行うことが可能である。
【0059】
当該プログラムの好ましい態様では、マラリア原虫判別ステップをさらに設け、マラリア原虫に特有の体積範囲内における度数ピーク部の高さに基づいて、マラリア原虫の種類(三日熱マラリア原虫、熱帯熱マラリア原虫)を判別してもよい。
また、当該プログラムの好ましい態様では、第2の粒子測定部から受け入れた、血小板を含んだ粒子の体積度数分布を計算するステップをさらに設け、血小板が凝集してなる塊状物の体積とその度数を算出してもよい。そして、上記したように、血小板が凝集してなる塊状物の度数分布に応じて、マラリア原虫に特有の度数ピーク部の高さを補正し、マラリア陽性に関する判定を補正するステップを設けてもよい。
また、当該プログラムの好ましい態様では、マラリア-デング判別ステップをさらに設け、度数ピーク部の幅に基づいて、または、該度数ピーク部の幅と前記CRP値とに基づいて、マラリア陽性の可能性が高いか、デングウイルス陽性の可能性が高いかを判別してもよい。
【0060】
〔実験例1〕
本実験例では、血液塗抹標本を用いた形態学的診断法によってマラリア陽性であることが確認された血液検体(検体数147)に対して、溶血処理を施し、粒子(白血球)の計数を行い、測定結果から粒子の度数分布を算出した。各血液検体の体積度数分布図(チャンネル0~100までの範囲)を1つのグラフ中に重ね合わせた結果を図3のグラフに示す。
図3のグラフから明らかなとおり、チャンネル17~23に、マラリア原虫に特有の度数ピーク部が現れることがわかった。
【0061】
〔実験例2〕
実験例1で用いたマラリア陽性の血液検体に対して、粒子(白血球)の計数を行うと共に、CRP値をも測定し、各血液検体ごとに、体積度数分布図のチャンネル17~23に現れたマラリア原虫に特有の度数ピーク部の高さと、CRP値とを対応付けた。該度数ピーク部の高さは、その度数ピーク部に対し体積が大きい側で隣接する谷部の底の度数を基準とする高低差(peak to valley)によって決定した。そして、度数ピーク部の高さを横軸とし、CRP値を縦軸とする散布図に、各血液検体をプロットした。
結果の散布図を図4のグラフに示す。グラフ中の縦の破線は、度数ピーク部の高さが1であることを示す線であり、グラフ中の横の破線は、CRP値が26mg/Lであることを示す線である。
図4の散布図において、白血球とマラリア原虫とが存在する粒子の体積度数分布の度数ピーク部の高さが1以上である場合、および、CRP値が26mg/L以上である場合の領域に、マラリア陽性の検体の94%以上が含まれた。血液検体の粒子計数とCRP値測定という比較的簡易な測定により、精度よくマラリア陽性の判定ができることが分かった。
【0062】
〔実験例3〕
本実験例では、RDT(Rapid Diagnostic. Test)法によって熱帯熱マラリア原虫に感染していることが確認された血液検体falciと、三日熱マラリア原虫に感染していることが確認された血液検体vivaxに対して、それぞれ実験例1と同様に溶血処理を施し、同じ血液分析装置で粒子(白血球)の計数を行い、測定結果から粒子の度数分布を算出した。各血液検体の体積度数分布図(チャンネル1~254までの範囲)を1つのグラフ中に重ね合わせた結果を図5のグラフに示す。図5のグラフ中の太い線が血液検体vivaxに含まれた粒子の体積度数分布図であり、細い線が血液検体falciに含まれた粒子の体積度数分布図である。
図5のグラフから明らかなとおり、いずれの血液検体でも、チャンネル20付近にマラリア原虫に特有の度数ピーク部が現れるが、血液検体vivaxの方が、血液検体falciよりも度数ピーク部の高さ(peak to valley)がより高く、かつ、度数0を基準とした度数ピーク部の高さも、血液検体vivaxの方が、血液検体falciよりも高いことがわかった。
【0063】
〔実験例4〕
本実験例では、酵素免疫測定法(ELISA法)によってデングウイルス陽性であることが確認された血液検体(検体数170)に対して、溶血処理を施し、粒子(白血球)の計数を行い、測定結果から粒子の度数分布を算出した。各血液検体の代表的な体積度数分布図(チャンネル0~100までの範囲)を1つのグラフ中に重ね合わせた結果を図6のグラフに示す。
図6のグラフから明らかなとおり、図5のマラリア原虫に起因するピークと同様のチャンネル付近に、度数ピーク部が現れた。
【0064】
〔実験例5〕
本実験例では、実験例1と同様にマラリア陽性であることが確認された血液検体と、実験例4と同様にデングウイルス陽性であることが確認された血液検体に対して、それぞれのCRP値を測定した。
図7(a)は、マラリア陽性の血液検体のCRP値を示した箱ヒゲ図であり、図7(b)は、デング熱陽性の血液検体のCRP値を示した箱ヒゲ図である。また、各箱ヒゲ図において、箱の下側の横線は、CRP値の分布の小さい方から9%のラインであり、箱の下限は、25%のラインであり、箱内の横線は平均値であり、箱の上限は75%のラインであり、箱の上側の横線は91%のラインである。9%ライン以下のプロットと91%ライン以上のプロットが表示されており、同じCRP値のプロットは横方向に並べて表示されている。
図7(a)、図7(b)のグラフから、マラリア陽性とデングウイルス陽性とでは、CRP値が大きく異なっており、マラリア陽性の場合の方が、デングウイルス陽性の場合よりもCRP値が大きい方に分布していることがわかった。
【0065】
(人工知能を用いたマラリア判定の態様1)
当該装置の好ましい態様1では、マラリア判定に用いられる血液検査項目が人工知能を用いて選択される。この態様では、図1の判定部430は、後述の第1の学習済みモデルM1によって、所定の血液検査項目(種々の血液検査項目)の中から特定された、マラリア陽性(または、マラリア判定)に対して関連性を持った重要検査項目を用いる。加えて、該判定部430は、特定された重要検査項目についての検査測定値に基づいて、マラリア判定を行うように構成される。
【0066】
(第1の学習済みモデルM1)
第1の学習済みモデルM1は、次の(a1)および(b1)のデータを教師データとして用い、所定の血液検査項目のうちのどの血液検査項目がマラリア陽性に関連性を持っているかを、人工知能に機械学習させることによって形成される。
(a1)マラリア陽性であることが既知である血液検体(A)を測定対象として、前記所定の血液検査項目について得られた検査測定値(A1)と、該検査測定値(A1)がマラリア陽性の血液検体のものであるという情報(A2)。
(b1)マラリア陰性であることが既知である血液検体(B)を測定対象として、前記所定の血液検査項目について得られた検査測定値(B1)と、該検査測定値(B1)がマラリア陰性の血液検体のものであるという情報(B2)。
【0067】
第1の学習済みモデルM1によって特定された血液検査項目が、重要検査項目(即ち、マラリア陽性に関連性を持った血液検査項目)である。この態様1では、重要検査項目は、少しでもマラリア陽性に関連性を持った血液検査項目を全て含んだものであってよい。
【0068】
第1の学習済みモデルM1によって特定された重要検査項目は、例えば、図1における参照データ保持部432に保持されていてもよいし、条件判定部431に判定条件として組み込まれていてもよい。条件判定部431は、参照データ保持部432に保持された重要検査項目を参照し、その重要検査項目に関する検査測定値を、測定値受入れ部410からまたは測定値処理部420から受け取り、予め定められた条件判定を行う。決定部433は、条件判定部431による条件判定の結果を受け入れ、マラリア判定を行う。即ち、この態様1は、学習済みモデルによって重要検査項目を予め特定しておき、該重要検査項目の検査測定値を用いて、マラリア判定を行うものである。以下の他の態様も同様である。
【0069】
本発明において、人工知能および学習済みモデルは、当該装置とは別のコンピューター(人工知能の原理に適合するように構成されたニューロコンピューターなど)において構築されることが好ましいが、当該装置内に備えられてもよい。
また、当該装置とは別のコンピューターにおいて構築された人工知能および学習済みモデルは、当該装置と通信回線を通じて接続されてもよい。
また、当該装置においてマラリア判定を行った血液検体(またはその血液検体が採取された患者から、別途採取された血液検体)に対して、従来の精密な検査手法によってより正確にマラリア判定を行い、当該装置による検査測定値と、該従来の検査手法によるマラリア判定結果とを教師データとして、人工知能にフィードバックし、学習済みモデルの学習状態をさらに更新してもよい。
【0070】
(学習済みモデルM1によって特定された重要検査項目)
学習済みモデルM1によって特定された重要検査項目としては、例えば、次に挙げる項目(e1)~(e4)が挙げられる。
(e1)分析すべき血液検体中の白血球の体積度数分布における25fL~45fLの体積範囲に、度数ピークが存在するか否か。以下、この度数ピークを、「白血球の体積度数分布におけるL1ピーク」ともいう。白血球の体積度数分布におけるL1ピークは、例えば、上記で図3を用いて説明したとおりであり、また、図5の度数分布図に「マラリア原虫に起因する度数ピーク部」として示されている。
本発明者らの研究によれば、白血球の体積度数分布におけるL1ピークの高さと、マラリア陽性の血液の単位体積当たりに含まれるマラリア原虫の数との間には、図8のグラフ図に示すような明らかな相関関係がある。L1ピークの高さは、上記で図3を用いて説明したとおり、peak to valleyによって決定された値や、度数ゼロを基準とした高さ(=度数ピーク部の度数の値それ自体)などであってもよい。
(e2)分析すべき血液検体中の白血球数。血液検査項目には、白血球を細かく分類せず、血液の特定の体積(1μLなど)中の白血球の数を測定する項目がある。マラリア陽性の血液では、白血球数は異常値(増加または減少)を示すことが知られており、従来の知見に一致する。
(e3)分析すべき血液検体中の血小板数。血液検査項目には、特定の体積(1μLなど)の血液中の血小板の数を測定する項目がある。マラリア陽性の血液では、血小板の数が異常値(減少)を示すことが知られており、従来の知見に一致する。
(e4)分析すべき血液検体のCRP値。血液検査項目には、特定の体積(1μLなど)の血清中のCRP(C反応性蛋白)の量を測定する項目がある。本発明では、マラリア判定にCRP値を用いることを初めて提案している。本発明によって明らかにされているとおり、CRP値はマラリア陽性と相関関係を持っており、マラリア陽性の血液では、CRP値は異常値(増加)を示す。
重要検査項目は、前記項目(e1)~(e4)からなる群から選択される1以上の項目を含むことができ、より正確な判定結果を得るためには、例えば、前記項目(e1)と(e2)を用いて、または、前記項目(e1)と(e3)を用いて、または、前記項目(e1)と(e4)を用いて、または、前記項目(e2)と(e3)を用いて、または、前記項目(e2)と(e4)を用いて、または、前記項目(e3)と(e4)を用いて、または、前記項目(e1)と(e2)と(e3)を用いて、または、前記項目(e1)と(e2)と(e4)を用いて、または、前記項目(e1)と(e3)と(e4)を用いて、または、前記項目(e2)と(e3)と(e4)を用いて、さらには前記項目(e1)~(e4)を全て用いて、マラリア判定を行うことが好ましい。
【0071】
(人工知能を用いたマラリア判定の態様1の変形態様)
この変形態様では、前記判定部は、第1の学習済みモデルを改変した学習済みモデルM11によって上記血液検査項目の中から特定された、マラリア陽性に対して所定の度合い以上に関連性を持った重要検査項目を用いる。そして、該判定部は、特定された重要検査項目についての検査測定値に基づいて、上記血液検体のマラリア陽性の可能性を判定するように構成される。
【0072】
この変形態様でも、上記した態様1と同様に、第1の学習済みモデルM11によって特定された重要検査項目は、例えば、図1における参照データ保持部432に保持されていてもよい。条件判定部431は、参照データ保持部432に保持された重要検査項目を参照し、その重要検査項目に関する検査測定値を、測定値受入れ部410からまたは測定値処理部420から受け取り、予め定められた条件に適合するかどうかの演算を行う。
【0073】
(第1の学習済みモデルM1を改変した学習済みモデルM11)
この学習済みモデルM11は、次の(a11)および(b11)のデータを教師データとして用い、所定の血液検査項目のうちのどの血液検査項目が何程の度合いでマラリア陽性に関連性を持っているかを、人工知能に機械学習させることによって形成される。
(a11)マラリア陽性であることが既知である血液検体(A)を測定対象として前記所定の血液検査項目について得られた検査測定値(A1)と、該検査測定値(A1)がマラリア陽性の血液検体のものであるという情報(A2)。
(b11)マラリア陰性であることが既知である血液検体(B)を測定対象として前記所定の血液検査項目について得られた検査測定値(B1)と、該検査測定値(B1)がマラリア陰性の血液検体のものであるという情報(B2)。
【0074】
この変形態様では、重要検査項目は、マラリア陽性に対して所定以上の大きい関連性を持った血液検査項目だけを含み、無視することができるような小さい関連性を持った血液検査項目を含んでいない。一方、上記態様1では、重要検査項目は、たとえ関連性が小さくとも、関連性を持つと判断された全ての血液検査項目を含んでいる。
判定部は、改変した学習済みモデルM11によって所定の血液検査項目の中から特定された、マラリア陽性に対して所定の度合い以上の大きい関連性を持った重要検査項目を用い、該重要検査項目についての検査測定値に基づいて、血液検体のマラリア判定を行うように構成される。例えば、マラリア陽性に少しでも関連性を持った全ての血液検査項目のうち、関連性の大きい方から順に上位のn個(例えば、n=1~5程度、好ましくはn=2~4程度)の項目までを重要検査項目として選択してもよいし、関連性を重み付けの係数で表し、該重み付けの係数が所定の値以上のもの(関連性が大きいもの)だけを重要検査項目として選択してもよい。
改変した学習済みモデルM11によって特定された重要検査項目は、上記した項目(e1)~(e4)と同様であってもよい。
【0075】
(人工知能を用いたマラリア判定の態様2)
当該装置の好ましい態様2では、マラリア判定に用いられる血液検査項目が人工知能を用いて選択され、さらに、マラリア陽性に対する上記血液検査項目のそれぞれの関連性の度合いが人工知能によって特定される。この態様2では、図1の判定部430は、後述の第2の学習済みモデルM2によって特定された、マラリア陽性(または、マラリア判定)に対して関連性を持った血液検査項目(重要検査項目)を用い、かつ、第2の学習済みモデルM2によって特定されたマラリア陽性(または、マラリア判定)に対する該血液検査項目のそれぞれの関連性の度合いを用いる。ここで、血液検査項目のそれぞれの関連性の度合いを特定するとは、各血液検査項目ごとに、マラリア陽性(または、マラリア判定)に対する関連性の大きさに応じた重みを特定することを意味する。そして、判定部430は、特定された重要検査項目についての検査測定値と、前記の特定された関連性の度合い(重み)とに基づいて、血液検体のマラリア判定を行うように構成される。
【0076】
この態様2では、第2の学習済みモデルM2によって特定された重要検査項目と関連性の度合い(重み)は、図1における参照データ保持部432に保持されていてもよいし、条件判定部431に判定条件として組み込まれていてもよい。
例えば、条件判定部431は、先ず、参照データ保持部432に保持された重要検査項目を参照し、その重要検査項目に関する検査測定値を、測定値受入れ部410または測定値処理部420から受け取る。次に、該条件判定部431は、各重要検査項目ごとの重みを組み込んで設定された条件に適合するかどうかの演算を行う。
【0077】
(第2の学習済みモデルM2)
第2の学習済みモデルM2は、上記した学習済みモデルM11と同じものが利用可能である。同じ学習済みモデルを利用する態様でも、上記した態様1の変形態様では、不要な血液検査項目の排除を目的としており、得られた重要検査項目は均等な条件で用いられいた。これに対して、態様2では、重要検査項目の取得と、各重要検査項目ごとの重みの取得とを目的としており、マラリア判定の際に、各重要検査項目に関するそれぞれの検査測定値に重みを付けて判定を行う。
【0078】
この態様2では、第2の学習済みモデルM2によって特定された重要検査項目の検査測定値に、各重要検査項目の関連性の度合いを重み付け係数として加え、マラリア判定のための判定式を構成し、該判定式の値に応じてマラリア判定を行ってもよい。例えば、該判定式の値に対して、閾値や状態の有無を予め設けておき、該判定式の値が該閾値以上であるか未満であるか、または、状態の有無に適合するか否かによって、マラリア判定を行ってもよい。該判定式、閾値、状態の有無などは、図1の条件判定部431や、参照データ保持部432に保持されていてもよい。
【0079】
重要検査項目が複数ある場合は、複数の重要検査項目のそれぞれの検査測定値に、それぞれに対応する重み付け係数を加えて判定式を構成し、その判定式が示す値(判定値)に応じて判定を行ってもよい。該判定式は、(f1)特定された重要検査項目の検査測定値に、それぞれの重み付け係数が、所定の演算(和、差、商、積など)に従って付与され、(f2)前記の重み付け係数が付与された検査測定値が、所定の演算(和、差、商、積)に沿って1つに結合した式であってもよい。
演算が平易でありかつ各項目の影響が当該装置の設計者、オペレーター、ユーザー等に分かりやすいという観点からは、前記の判定式は、(f1)特定された重要検査項目の検査測定値に、それぞれの重み付け係数が積の形にて付与され、(f2)重み付け係数と検査測定値との積が、和の形にて1つに結合した式が好ましい。
【0080】
即ち、この態様2は、
重要検査項目のうちの各重要検査項目(Q1、Q2、Q3、...、Qk)と、各重要検査項目に対応する重み付け係数(p1、p2、p3、...、pk)との積(p1×Q1、p2×Q2、p3×Q3、...、pk×Qk)を演算するステップ(ここで、kは1以上の整数であり、好ましい態様では、2~4程度である)と、
前記のステップで演算された各項(p1×Q1、p2×Q2、p3×Q3、...、pk×Qk)の和(p1×Q1+p2×Q2+p3×Q3+...+pk×Qk)を、判定値として演算するステップと、
前記の判定値と予め設定された閾値との比較によって、血液検体がマラリア陽性の可能性が高いと判定するステップとを、
実行するように構成された装置であってもよい。
また、前記のステップをコンピューターが実行するように構成されたコンピュータープログラムであってもよく、また、これらのステップを行う血液分析方法(マラリア判定方法、マラリア陽性を推定する方法)であってもよい。
【0081】
マラリア陽性に対する関連性がより大きい重要検査項目であるほど、その重要検査項目の検査測定値は、マラリア判定により大きい影響を及ぼす。上述の判定式(p1×Q1+p2×Q2+p3×Q3+...+pk×Qk)またはその値(判定値)は、各重要検査項目の検査測定値のそれぞれの変化が及ぼす影響を総合的に数値で表している。重み付け係数(p1、p2、p3、...、pk)は、マラリア判定により大きい影響を及ぼす重要検査項目であるほど、より大きい値が付与される。換言すると、より大きい数値の重み付け係数を付与された重要検査項目が、マラリア判定により大きい影響を及ぼす。
【0082】
重要検査項目は複数であってもよい。重要検査項目が複数である場合、例えば、上記した重み付け係数が大きいものから順に所定数(例えば、1~5程度、好ましくは2~4程度)の血液検査項目を重要検査項目として採用してもよい。
重要検査項目が複数ある場合には、各重要検査項目に対応する重み付け係数を用いることで、より正確にマラリア判定を行うことができる。
その他、所定の演算や閾値などを設けて、多数の血液検査項目の中から重要検査項目を採用してもよい。
【0083】
上記した学習済みモデル(M1、M11、M2)は、ニューラルネットワーク(とりわけ、ディープラーニングを実行するように構成されたもの)など、公知の人工知能に上記した教師データを与え、それにより該人工知能に機械学習を行わせて構築することができる。人工知能に前記の教師データを与えて機械学習を行わせ、所定の血液検査項目の中から重要検査項目(およびマラリア陽性との関連性の度合い)を特定させる操作は、分類(判別)に該当する。
【0084】
人工知能による機械学習の対象となる所定の血液検査項目としては、CRP値、測定対象となる血液細胞の体積度数分布、白血球の体積度数分布におけるL1ピーク、血小板数、白血球数、赤血球数、ヘモグロビン量、ヘマトクリット値、平均赤血球容積、平均赤血球ヘモグロビン量、平均赤血球ヘモグロビン濃度、赤血球の容積粒度分布幅平均偏差、赤血球の容積粒度分布幅、平均血小板容積、血小板容積、血小板の容積粒度分布幅、大型血小板比率、大型血小板数、リンパ球数、単球数、好中球数、好酸球数、好塩基球数、リンパ球比率、単球比率、好中球比率、好酸球比率、好塩基球比率、異形リンパ球、大型幼若細胞、上記した粒子計数機構によって測定される種々の血算値など、血液学的な検査項目、生化学的な検査項目、免疫学的な検査項目をいう。これらの検査項目の中から人工知能が重要検査項目を特定する。血液検査項目は、血液分析装置に備えられた血液分析機構に応じて決定してもよい。例えば、血液分析装置にCRP測定部が含まれていない場合には、重要検査項目にCRP値が含まれていなくともよいが、赤血球測定部、白血球測定部、CRP測定部を備えた血液分析装置がより好ましく、重要検査項目としてCRP値を含むのが好ましい。
【0085】
第2の学習済みモデルによって与えられる重み付け係数としては、関連性の度合い(例えば、合計を1や100などとした場合の各関連性の度合いに応じた数値(割合)など)をそのまま採用してもよいし、関連性の度合いに所定の演算を施して重み付け係数としてもよい。
上述の態様では、複数の重要検査項目を採用した場合について説明したが、ある1つの重要検査項目の関連性の度合いが、他の重要検査項目の関連性の度合いに比べて格別に大きい場合には、特定された複数の重要検査項目の中から、関連性の度合いが格別に大きい1つの重要検査項目だけを採用するように変更してもよい。この場合、採用した1つの重要検査項目のみに重み付け係数を設定してもよい。
また、所定の演算や閾値などを設けて、重要検査項目を採用し直す基準を第2の学習済みモデルに組み込んでも良い。
【0086】
(人工知能を用いたマラリア判定のその他の態様)
学習済みモデルの構築においては、上記した態様1(または、態様1の変形態様)と態様2とを2段階に組み合わせて、第3の学習済みモデルM3を構築してもよい。即ち、該第3の学習済みモデルM3は、次の(a3)および(b3)のデータを教師データとして用い、特定された重要検査項目のうちのどの重要検査項目が何程の度合いでマラリア陽性に関連性を持っているかを、人工知能に機械学習させることによって形成される。
(a3)マラリア陽性であることが既知である血液検体(A)を測定対象として、上記第1の学習済みモデルM1(または、M11)によって特定された重要検査項目について得られた検査測定値(A11)と、該検査測定値(A11)がマラリア陽性の血液検体のものであるという情報(A21)。
(b3)マラリア陰性であることが既知である血液検体(B)を測定対象として、上記第1の学習済みモデルM1(または、M11)によって特定された重要検査項目について得られた検査測定値(B11)と、該検査測定値(B11)がマラリア陰性の血液検体のものであるという情報(B21)。
【0087】
第3の学習済みモデルM3は、第2の学習済みモデルM2を構築する際に、血液検査項目が予め第1の学習済みモデルM1によって特定されており、判定に寄与しない項目が排除されている。これにより、第3の学習済みモデルM3によって得られる重み(特定された重要検査項目のうちのどの重要検査項目が何程の度合いでマラリア陽性に関連性を持っているか)は、第2の学習済みモデルM2単独で得られる重みよりも、精度の高いマラリア判定を与えることができる場合がある。
【0088】
これに対して、上記態様2を単独に実施する場合では、全ての血液検査項目の中から重要検査項目とその重みが特定されるので、関連性が微小の血液検査項目の影響により、マラリア判定の正確さが低下する場合がある。これは関連性が微小の血液検査項目が重要検査項目として採用されないことが原因として考えられる。このような場合、関連性の度合いに対して、主成分分析やスパース最適化を適用することで、マラリア判定の正確さを改善することができる場合がある。
【0089】
上記の実施形態では、CRP値の判定のための閾値を予め実験によって求め、参照データ保持部432に格納していたが、該CRP値の判定のための閾値は、機械学習によって構築された学習済みモデルによって得たものでもよい。また、上記の人工知能を用いたマラリア判定の各態様において、マラリア判定に用いる各閾値についても同様に、種々の学習済みモデルを構築して獲得してもよい。
【0090】
(人工知能を用いたマラリア判定のコンピュータープログラム(1))
上記したコンピュータープログラムにおける判定するステップは、
上記した第1の学習済みモデルM1またはM11によって特定された、マラリア陽性に対して関連性を持った重要検査項目を用い、前記の重要検査項目についての検査測定値に基づいて、血液検体のマラリア判定を行うステップを有して構成されてよい。
重要検査項目や、マラリア判定については、当該装置の説明で述べたとおりである。
【0091】
(人工知能を用いたマラリア判定のコンピュータープログラム(2))
上記したコンピュータープログラムにおける判定するステップは、
上記した第2の学習済みモデルM2によって特定された、マラリア陽性に対する上記血液検査項目のそれぞれの関連性の度合いを用い、上記血液検査項目についての検査測定値と、前記の特定された関連性の度合いとに基づいて、上記血液検体のマラリア陽性の可能性を判定するステップを有して構成されてよい。
重要検査項目や、マラリア判定については、当該装置の説明で述べたとおりである。
【0092】
本発明によるコンピュータープログラムは、上記した装置の判定動作の種々の態様を、コンピューターに実行させるように構成される。
【0093】
(本発明の方法)
本発明による血液分析方法は、マラリア判定を行うための方法である。当該方法は、図9にフローチャートを示すように、分析すべき血液検体の検査測定値を準備するステップs20を有する。ここで、該検査測定値は、CRP値と血液細胞の計数値とを含む所定の血液検査項目のそれぞれについての測定値である。次に、当該方法は、CRP値以外の血液検査項目についての検査測定値、および/または、CRP値についての検査測定値に基づいて、前記血液検体のマラリア陽性の可能性を判定するステップs30を有する。
重要検査項目や、マラリア判定については、当該装置の説明で述べたとおりである。
【0094】
(人工知能を用いた血液分析方法におけるマラリア判定の態様1)
この態様1では、前記の判定するステップs30は、上記した第1の学習済みモデルM1によって、上記血液検査項目の中から特定された、マラリア陽性に対して関連性を持った重要検査項目を用いる。そして、該重要検査項目についての検査測定値に基づいて、上記血液検体のマラリア陽性の可能性を判定するステップを有する。
【0095】
(人工知能を用いた血液分析方法におけるマラリア判定の態様2)
この態様2では、前記の判定するステップs30は、上記した第2の学習済みモデルM2によって特定された、マラリア陽性に対する上記血液検査項目の関連性の度合いを用いる。そして、上記血液検査項目についての検査測定値と、前記の特定された関連性の度合いとに基づいて、上記血液検体のマラリア陽性の可能性を判定するステップを有する。
【0096】
上記で当該装置の説明において述べたマラリア判定のための各部の作動内容の説明は、本発明のコンピュータープログラムの説明でもあり、また、本発明の血液分析方法の説明でもある。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明によって、安価な構成でありながらもマラリア判定を行うことが可能な血液分析装置が安価に提供できるようになった。また、本発明によって、マラリア判定をより好ましくコンピューターに実行させることが可能なコンピュータープログラム、および、マラリア判定をより好ましく行うことが可能な血液分析方法が提供できるようになった。
【0098】
本出願は、日本で出願された特願2018-246186(出願日:2018年12月27日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含される。
【符号の説明】
【0099】
M1 血液検体
10 測定機構部
11 第1の粒子測定部
12 第2の粒子測定部
13 CRP測定部
14 分注機構
20 制御部
30 機構制御部
40 分析部
410 測定値受入れ部(体積値受入れ部とCRP値受入れ部を含む)
420 測定値処理部
421 度数分布計算部
423 CRP値決定部
430 判定部
440 判定結果出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9