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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】窒化珪素基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/587 20060101AFI20240919BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
C04B35/587
H05K1/03 610D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023102488
(22)【出願日】2023-06-22
(62)【分割の表示】P 2020540197の分割
【原出願日】2019-08-05
(65)【公開番号】P2023126262
(43)【公開日】2023-09-07
【審査請求日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2018160246
(32)【優先日】2018-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】青木 克之
(72)【発明者】
【氏名】深澤 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】門馬 旬
(72)【発明者】
【氏名】岩井 健太郎
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/117553(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/584-35/596
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
20時間以上かけて、平均粒径D50が1μm以下となるように窒化珪素粉末と焼結助剤粉末を混合し、さらにバインダを添加して原料混合体を調整する混合工程と、
前記原料混合体のシート成形体を脱脂する脱脂工程と、
焼結温度が1800℃以上1950℃以下の範囲内で、脱脂された前記シート成形体を焼結する焼結工程と、
前記焼結工程の後の冷却工程と、を備え、
1300℃から前記焼結工程の間の圧力の変化量が0.3MPa以下であり、かつ前記焼結工程において前記冷却工程を行う前までの間の圧力の変化量が0.3MPa以下であり、
前記焼結工程までの間において、1350℃から1600℃までの昇温速度が50℃/h以下であり、1650℃から前記焼結温度までの昇温速度が50℃/h以下であり、
前記シート成形体の焼結によって得られた窒化珪素基板の板厚は、0.1mm以上0.4mm以下である、窒化珪素基板の製造方法。
【請求項2】
前記窒化珪素基板の任意の断面又は表面の観察領域50μm×50μmにおいて、全輪郭がみえる任意の50個の窒化珪素結晶粒子における、内部に転位欠陥部を有する前記窒化珪素結晶粒子の数の割合が、0%以上10%以下であり、
前記転位欠陥部を有する前記窒化珪素結晶粒子の前記数に対する、前記転位欠陥部の占有面積率が5%以下である前記窒化珪素結晶粒子の数の割合が、70%以上である、請求項に記載の窒化珪素基板の製造方法。
【請求項3】
前記転位欠陥部において、珪素、酸素および窒素を除く成分が10mol%以上検出されない、請求項に記載の窒化珪素基板の製造方法。
【請求項4】
前記窒化珪素基板の任意の断面の観察領域300μm×300μmにおいて、窒化珪素結晶粒子の長径の最大値が60μm以下である、請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の窒化珪素基板の製造方法。
【請求項5】
前記窒化珪素基板の任意の断面の観察領域300μm×300μmにおいて、それぞれの粒界相の面積が9μm以下である、請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の窒化珪素基板の製造方法。
【請求項6】
前記窒化珪素基板の絶縁耐圧は25kV/mm以上である、請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の窒化珪素基板の製造方法。
【請求項7】
前記窒化珪素基板の熱伝導率は80W/(m・K)以上である、請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の窒化珪素基板の製造方法。
【請求項8】
前記窒化珪素基板の3点曲げ強度は600MPa以上である、請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の窒化珪素基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、窒化珪素基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パワー半導体は、高出力化が進んでいる。また、パワー半導体を搭載したパワーモジュールは、パワー密度が年々高くなっている。モジュールのパワー密度は、パワー密度=V×I×n/Mにより求められる。ここで、Vは、定格耐電圧(V)である。Iは、定格電流@△Tj-c=125℃(A)である。nは、モジュール内のパワー半導体の数である。また、Mは、モジュールの体積(cm)である。
パワーモジュールのパワー密度を高くするには、モジュール内のパワー半導体の数を増やすか、モジュールの体積を小さくすることが必要である。前述のように半導体素子は、高出力化している。このため、発熱量も大きくなっている。これに伴い、半導体素子を搭載する絶縁回路基板には、放熱性、耐熱性、および絶縁性の向上が求められるようになっている。
国際公開第2015/060274号公報(特許文献1)には、窒化珪素基板が開示されている。特許文献1では、厚み方向の粒界相の分布量を制御することにより、絶縁性のバラツキを改善している。
特許文献1には、常温(25℃)と250℃での1000V印可時の体積固有抵抗値の比が示されている。常温での体積固有抵抗値をρv1、250℃での体積固有抵抗値をρv2としたとき、ρv2/ρv1が0.20以上となっている。このため、特許文献1の窒化珪素基板は、高温環境下での絶縁性にも優れている。
一方、半導体素子については、更なる大電流化が進められている。半導体素子を搭載する回路基板は、高温環境下での耐熱サイクル特性(TCT)特性が求められている。国際公開第2017/056360号公報(特許文献2)では、銅板側面の形状、ろう材はみ出し部のサイズおよび硬さなどを制御した窒化珪素回路基板が開示されている。特許文献2では-40℃から250℃のTCT試験において優れた耐久性を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015/060274号公報
【文献】国際公開第2017/056360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2では、銅板側面形状やろう材はみ出し部サイズの制御にはエッチング加工を用いていた。エッチング加工では、エッチング液を用いて金属板やろう材層を除去していく。通常、金属板のエッチング液とろう材層のエッチング液は異なる。それぞれ、エッチング加工に適したエッチング液を使っていく。このため、窒化珪素基板は、様々なエッチング液にさらされることになる。
エッチング加工を施した窒化珪素回路基板は、TCT特性は優れるものの、絶縁性が低下が発生していた。この原因を追究したところ、エッチング液により、窒化珪素基板がダメージを受けている現象があることが判明した。本発明は、このような課題に対応するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態にかかる窒化珪素基板の製造方法は、20時間以上かけて、平均粒径D50が1μm以下となるように窒化珪素粉末と焼結助剤粉末を混合し、さらにバインダを添加して原料混合体を調整する混合工程と、前記原料混合体のシート成形体を脱脂する脱脂工程と、1300℃から焼結工程の間の圧力の変化量が0.3MPa以下、かつ、焼結温度が1800℃以上1950℃以下の範囲内で、脱脂された前記シート成形体を焼結する焼結工程と、を備え、前記シート成形体の焼結によって得られた窒化珪素基板の板厚は、0.1mm以上0.4mm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
実施形態にかかる製造方法によれば、転位欠陥部を有する窒化珪素結晶粒子の割合が低い窒化珪素基板が製造される。これにより、窒化珪素基板のエッチング液への耐久性を向上させることができる。このため、窒化珪素基板を薄型化したとしても、絶縁性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】転位欠陥部を有する窒化珪素結晶粒子を例示する概念図。
図2】窒化珪素結晶粒子の長径を例示する概念図。
図3】実施形態にかかる窒化珪素回路基板の一例を示す図。
図4】実施形態にかかる窒化珪素回路基板の別の一例を示す図。
図5】実施形態にかかる半導体装置の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
実施形態にかかる窒化珪素基板の製造方法は、20時間以上かけて、平均粒径D50が1μm以下となるように窒化珪素粉末と焼結助剤粉末を混合し、さらにバインダを添加して原料混合体を調整する混合工程と、前記原料混合体のシート成形体を脱脂する脱脂工程と、1300℃から焼結工程の間の圧力の変化量が0.3MPa以下、かつ、焼結温度が1800℃以上1950℃以下の範囲内で、脱脂された前記シート成形体を焼結する焼結工程と、を備え、前記シート成形体の焼結によって得られた窒化珪素基板の板厚は、0.1mm以上0.4mm以下であることを特徴とする。
【0009】
窒化珪素焼結体は、窒化珪素結晶粒子と粒界相を有している。粒界相は、主に焼結助剤の成分から構成される。粒界相は焼結工程において、焼結助剤が反応して形成される。反応は、焼結助剤同士の間、焼結助剤と窒化珪素との間、または焼結助剤と不純物酸素との間で起こる。
実施形態にかかる窒化珪素基板は、観察領域50μm×50μmにおいて、全輪郭がみえる任意の50個の窒化珪素結晶粒子における、内部に転位欠陥部を有する窒化珪素結晶粒子の数の割合が、0%以上20%以下であることを特徴とする。
【0010】
転位欠陥の観察は、窒化珪素焼結体の任意の断面または表面で行われる。
イオンミリング加工またはFIB(集束イオンビーム)加工で、表面粗さRaが1μm以下になるように、窒化珪素焼結体の任意の断面または表面を加工する。加工した断面または表面を、評価面とする。
次に、評価面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察する。TEMによる観察時の倍率は、10000倍以上とする。評価は、50μm×50μmの領域を観察して行う。一視野で50μm×50μmの領域が観察できないときは、領域を複数に分けて観察しても良い。評価では、一つの観察領域(50μm×50μm)を観察した後、その領域から1000μm以上離れた別の領域を観察する。つまり、50μm×50μmの領域を2箇所以上観察して、転位欠陥部を有する窒化珪素結晶粒子(欠陥粒子)の数の割合を算出する。
転位欠陥部の有無は、TEMの観察画像の暗視野と明視野の観察により判別する。転位欠陥部は、暗視野では白く見え、明視野では黒く反転して見える。このように、暗視野と明視野を切り替えたときに画素の色が反転する部位を、転位欠陥部とする。
【0011】
図1は、転位欠陥部を有する窒化珪素結晶粒子を例示する概念図である。図1において、1は窒化珪素結晶粒子である。2は、転位欠陥部である。図1に示すように、実施形態にかかる窒化珪素基板の窒化珪素焼結体では、窒化珪素結晶粒子1の内部に転位欠陥部2が存在しうる。
窒化珪素結晶粒子内に転位欠陥部があると、窒化珪素基板の絶縁性が低下する。転位欠陥部は、結晶中に含まれる結晶欠陥である。結晶欠陥は、格子欠陥(Lattice Defect)とも呼ばれている。結晶欠陥は、原子配列の乱れまたは不純物によって起きる。転位欠陥部は、安定した結晶構造に欠陥が生じて発生するため、絶縁性が低下する原因となる。転位欠陥部は少量であれば、絶縁性に悪影響を与えない。その一方で、転位欠陥部は、エッチング液によりダメージを受け易い。転位欠陥部がダメージを受けると、より大きな窒化珪素組織の欠陥に進展する。実施形態にかかる窒化珪素基板の厚さは、0.40mm以下である。このような薄型基板の表面で転位欠陥部に起因する組織欠陥が生じると、その部分の絶縁性が大幅に低下してしまう。
実施形態にかかる窒化珪素基板では、任意の50μm×50μmという微小領域において、転位欠陥部を有する窒化珪素結晶粒子の数の割合が0%以上20%以下である。任意の観察領域50μm×50μmにおける前記割合が0%以上20%以下ということは、どこの50μm×50μmの領域を観察したとしても、その数の割合が0%以上20%以下であることを示している。
【0012】
転位欠陥部を有する窒化珪素結晶粒子の数の割合が20%を超えると、窒化珪素基板の絶縁性が低下する。実施形態にかかる窒化珪素基板の板厚は、0.4mm以下である。基板が薄いため、転位欠陥部が多いと絶縁性が低下する。特許文献1で示しているように、窒化珪素基板に部分的な絶縁性のばらつきがあると、絶縁性の低い部分に電界集中が起きる。特許文献1では、基板の厚み方向の粒界相の分布割合を制御している。これに対し、実施形態では、転位欠陥部を有する窒化珪素結晶粒子の数の割合を制御している。
このため、観察領域50μm×50μmに存在する窒化珪素結晶粒子において、内部に転位欠陥部を有する窒化珪素結晶粒子の数の割合が0%以上10%以下であることが好ましい。最も好ましくは、前記割合が0%である。つまり、転位欠陥部を有する窒化珪素結晶粒子がないことにより、窒化珪素基板の絶縁性を高めることができる。なお、互いに1000μm以上離れた2箇所以上の領域を、観察対象とする。また、観察領域50μm×50μmの少なくとも一部を写したTEM写真において、輪郭が全て写っていない窒化珪素結晶粒子は、数の割合の計算には用いない。例えば、輪郭が写真の端で切れている窒化珪素結晶粒子は、数の割合の計算には用いない。また、全ての輪郭が写っている窒化珪素結晶粒子が50個確認できたときに、その50個の窒化珪素結晶粒子における、転位欠陥部を有する窒化珪素結晶粒子の数の割合を求める。つまり、輪郭がすべて写っている窒化珪素結晶粒子が50個確認できるまで観察する。1つの観察領域50μm×50μmにおいて、全輪郭が写っている50個の窒化珪素結晶粒子を観察できないときは、別の観察領域50μm×50μmにおいて、全輪郭が写っている50個の窒化珪素結晶粒子を観察する。観察領域50μm×50μmに50個を超える窒化珪素結晶粒子が写っているときには、任意の50個の窒化珪素結晶粒子が選択される。実施形態にかかる窒化珪素焼結体では、任意の50個の窒化珪素結晶粒子における、転位欠陥部を有する窒化珪素結晶粒子の数の割合が、0%以上20%以下である。これは、観察領域50μm×50μmに50個を超える窒化珪素結晶粒子が写っているときには、どの50個の窒化珪素結晶粒子を選択したとしても、転位欠陥部を有する窒化珪素結晶粒子の数の割合が0%以上20%以下であることを示す。
【0013】
また、転位欠陥部では、珪素、酸素および窒素を除く成分が1μm以上の塊になっていないことが好ましい。また、転位欠陥部では、珪素、酸素および窒素を除く成分が10mol%以上検出されないことが好ましい。
珪素、酸素および窒素を除く成分とは、粒界相を構成する成分のことである。粒界相は、主に焼結助剤から構成される。このため、珪素、酸素および窒素を除く成分は、焼結助剤の金属成分に対応する。例えば、焼結助剤として酸化イットリウム(Y)を用いた場合、珪素、酸素および窒素を除く成分は、イットリウム(Y)である。
また、珪素、酸素および窒素を除く成分が1μm以上の塊になっていないということは、転位欠陥部において、粒界相を構成している金属成分の塊が1μm未満(0μm含む)になっていることを示している。また、複数の焼結助剤を用いた場合であっても、珪素、酸素および窒素を除く成分が1μm以上の塊になっていないことが好ましい。これは、焼結助剤成分が転位欠陥部の核になっていないことを示している。このため、転位欠陥部においては、粒界相を構成している金属成分の塊が、1μm未満、さらには0.2μm以下であることが好ましい。
また、珪素、酸素および窒素を除く成分が10mol%以上検出されないこととは、転位欠陥部において、焼結助剤の金属成分が10mol%未満(0mol%含む)であることを示す。例えば、焼結助剤として酸化イットリウム(Y)を用いた場合、転位欠陥部はイットリウム(Y)が10mol%未満(0mol%含む)であることを示す。また、複数の焼結助剤を用いた場合は、焼結助剤の金属成分の合計が10mol%未満であることが好ましい。これは、焼結助剤成分が転位欠陥部の核になっていないことを示している。
また、転位欠陥部において、粒界相を構成している金属成分の塊が1μm未満(0μm含む)かつ10mol%未満(0mol%含む)になっていることが好ましい。
【0014】
焼結助剤成分が転位欠陥部の核になっていないことにより、エッチング液への耐久性は向上する。転位欠陥部の珪素、酸素および窒素を除く成分のサイズおよび濃度の分析は、EDX(エネルギー分散型X線分析)またはWDS(波長分散型X線分析)で行う。EPMA(電子線マイクロアナライザー)を組合せて分析を行ってもよい。
【0015】
また、転位欠陥部を有する窒化珪素結晶粒子の数に対する、転位欠陥部の占有面積率が5%以下である窒化珪素結晶粒子の数の割合は、70%以上であることが好ましい。前述のように、転位欠陥部を有する窒化珪素結晶粒子の数が少なければ、絶縁性低下の原因とはならない。その一方で、一つの窒化珪素結晶粒子内に大きな転位欠陥部があると、絶縁性が低下する可能性がある。このため、一つの窒化珪素結晶粒子内の転位欠陥部の占有面積率は、5%以下が好ましい。また、転位欠陥部を有する窒化珪素結晶粒子の数に対する、転位欠陥部の占有面積率が5%以下である窒化珪素結晶粒子の数の割合が70%以上であると、絶縁性を低下させずに、応力緩和効果を得ることができる。この割合も、観察領域50μm×50μmにおいて求める。
つまり、最初に、1つの観察領域50μm×50μmにおいて、全ての輪郭が写っている任意の50個の窒化珪素結晶粒子を観察する。次に、観察した50個の窒化珪素結晶粒子のそれぞれに、転位欠陥部が存在するか確認する。また、個々の窒化珪素結晶粒子をTEM観察する倍率は10000倍とする。一個の窒化珪素結晶粒子が一つの画像に収まらないときは複数に分けて撮影してもよい。観察した50個の窒化珪素結晶粒子における、転位欠陥部を有する窒化珪素結晶粒子の数の割合を計算する。この割合が、0%以上20%以下であることが好ましい。続いて、転位欠陥部を有する窒化珪素結晶粒子が存在する場合には、それらの窒化珪素結晶粒子のそれぞれについて、転位欠陥部の占有面積率を計算する。転位欠陥部を有する窒化珪素結晶粒子の数に対する、転位欠陥部の占有面積率が5%以下である窒化珪素結晶粒子の数の割合を計算する。この割合が、70%以上であることが好ましい。1つの観察領域50μm×50μmにおいて、全輪郭がみえる50個の窒化珪素結晶粒子が無いときは、別の観察領域50μm×50μmにおいて、全輪郭がみえる50個の窒化珪素結晶粒子を探す。ある観察領域50μm×50μmにおいて、転位欠陥部を有する窒化珪素結晶粒子の数の割合、転位欠陥部の占有面積率などを測定した後は、その観察領域から1000μm以上離れた別の観察領域50μm×50μmを観察する。実施形態にかかる窒化珪素基板では、任意の断面のいずれの観察領域50μm×50μmにおいても、転位欠陥部を有する窒化珪素結晶粒子の数の前記割合が0%以上20%以下である。また、転位欠陥部の占有面積率が5%以下である窒化珪素結晶粒子の数の前記割合が、70%以上である。
言い換えると、実施形態にかかる窒化珪素基板では、50μm×50μmという微小領域においても、窒化珪素結晶粒子の転位欠陥部のサイズを制御している。
【0016】
また、一つの窒化珪素結晶粒子内の転位欠陥部の占有面積率の測定には、前述のTEM写真の暗視野像を用いる。暗視野像では、転位欠陥部は白く観察される。暗視野像で観察される一つの窒化珪素結晶粒子において、白く見える領域の面積と黒く見える領域の面積の合計を、その窒化珪素結晶粒子の面積とする。暗視野像で白く見える領域の面積を、転位欠陥部の面積とする。(転位欠陥部の面積/窒化珪素結晶粒子の面積)×100(%)を、転位欠陥部の占有面積率とする。また、この占有面積率の測定には、画像処理ソフトを使う。画像解析ソフトとして、Image-jまたはそれと同等以上の解像度を有するものを用いる。
【0017】
また、窒化珪素焼結体の任意の断面の観察領域300μm×300μmにおいて、窒化珪素結晶粒子の長径は60μm以下、さらには25μm以下であることが好ましい。また、窒化珪素焼結体の任意の断面の観察領域300μm×300μmにおいて、窒化珪素結晶粒子の長径の平均は、1μm以上10μm以下の範囲内であることが好ましい。また、窒化珪素焼結体の任意の断面の単位面積300μm×300μmにおいて、個々の粒界相の面積は、9μm以下であることが好ましい。粒界相の面積とは、複数の窒化珪素結晶粒子で囲まれた領域の面積を意味する。
窒化珪素結晶粒子の長径が60μm以下であるということは、長径が60μmを超えた窒化珪素結晶粒子がないことを示す。つまり、60μmを超えた粗大粒がない状態を示す。前述のように、転位欠陥部を少なくすることにより、絶縁性を向上させている。大きな粗大粒を存在させないことにより、部分的な絶縁性のばらつきを抑制することができる。このため、窒化珪素結晶粒子の長径は、60μm以下、さらには25μm以下が好ましい。
また、窒化珪素結晶粒子の長径の平均は、1μm以上10μm以下の範囲内であることが好ましい。長径の平均が1μm未満では、窒化珪素結晶粒子が小さすぎてしまい熱伝導率が低下する。また、長径の平均が10μmを超えると、熱伝導率は向上するものの、強度が低下する可能性がある。
また、窒化珪素基板の任意の断面の観察領域300μm×300μmにおいて、個々の粒界相の面積は、9μm以下であることが好ましい。粒界相の面積が9μmを超えると、絶縁性のばらつきの原因となる可能性がある。粒界相と窒化珪素結晶粒子は、絶縁性が異なる。このため、あまり粒界相が大きいと、窒化珪素結晶粒子の転位欠陥部を抑制した効果が小さくなる。このため、粒界相の面積は、9μm以下、さらには5μm以下が好ましい。
【0018】
窒化珪素結晶粒子の長径と粒界相の面積は、SEM写真を使って測定する。窒化珪素基板の任意の断面のSEM写真を撮る。断面は、表面粗さRaが1μm以下の研磨面にする。SEM写真の倍率は、1000倍以上に設定する。推奨されるSEM写真の倍率は、4000倍である。一視野で300μm×300μmの領域を撮影できないときは、300μm×300μmの領域を複数に分けて撮影しても良い。断面の一方向における長さが300μm未満であるときは、その一方向における観察領域の長さを可能な限り長くしたうえで、90000μmの観察領域を観察する。窒化珪素結晶粒子の長径は、90000μmの観察領域における観察結果に基づいて測定する。
図2に示すように、長径は、一つの窒化珪素結晶粒子の外縁上の任意の2点を結んで得られる線分のうち、最も長い線分の長さである。観察領域300μm×300μmのSEM写真に写る個々の窒化珪素結晶粒子の長径を測定する。輪郭がSEM写真の端で切れて全体が写っていない窒化珪素結晶粒子は、カウントの対象外とする。図2において、3は、窒化珪素結晶粒子1の長径を示す。それらの長径の最大値が60μm以下、さらには25μm以下であることが好ましい。また、個々の窒化珪素結晶粒子の長径の平均を計算する。長径の平均は、1μm以上10μm以下であることが好ましい。
SEM写真において、窒化珪素結晶粒子と粒界相は、コントラストの違いで判別できる。窒化珪素結晶粒子は濃い灰色、粒界相は薄い灰色に写る。SEM写真を画像解析することにより、粒界相の面積を求めることができる。具体的には、2値化した画像を、画像解析ソフトにより解析する。二値画像では、窒化珪素結晶粒子は黒色、粒界相は白色で表わされる。3個以上の窒化珪素結晶粒子で囲われた領域を粒界相として、その面積を求める。つまり、窒化珪素結晶粒子の2粒子間に存在する粒界相は除いて面積を求める。また、画像解析ソフトとして、Image-jまたはそれと同等以上の解像度を有するものを用いる。
【0019】
以上の構成を有することにより、熱伝導率80W/(m・K)以上、3点曲げ強度600MPa以上とすることができる。つまり、熱伝導率および強度を低下させずに、絶縁性を向上させることができる。
なお、熱伝導率は、JIS-R-1611(2010)のフラッシュ法に準じて測定する。JIS-R-1611(2010)は、ISO18755(2005)に対応する。また、3点曲げ強度は、JIS-R-1601(2008)に準じて測定する。JIS-R-1601(2008)は、ISO14704(2000)に対応する。
焼結助剤の含有量は、酸化物換算で15質量%以下が好ましい。焼結助剤の含有量が15質量%を超えると、粒界相の割合が増え、転位欠陥を有する窒化珪素結晶粒子を少なくする効果が低下する。また、焼結助剤は、希土類元素、マグネシウム、チタン、ハフニウム、アルミニウム、及びカルシウムから選ばれる1種または2種以上であることが好ましい。それぞれ金属単体を酸化物に換算して、合計量を15質量%以下にする。焼結助剤の含有量は、0.1質量%以上であることが好ましい。焼結助剤の含有量が0.1質量%未満では、添加効果が不十分となる可能性がある。このため、焼結助剤の含有量は、酸化物換算で0.1質量%以上15質量%以下、さらには2質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
また、窒化珪素基板の板厚は、0.1mm以上0.4mm以下であることが好ましい。また、窒化珪素基板に回路部を設けて窒化珪素回路基板とすることが好ましい。
窒化珪素基板は、半導体素子を実装するためのものである。半導体素子の実装方法としては、回路部を設ける方法が挙げられる。また、半導体素子を窒化珪素基板で圧接する方法もある。
【0020】
実施形態にかかる窒化珪素基板は、回路部を有する窒化珪素回路基板に用いることが好ましい。回路部を形成する方法としては、ろう材を用いて金属板を接合する方法、金属ペーストを用いたメタライズ方法などが挙げられる。
ろう材を用いて金属板を接合する方法としては、活性金属接合法が挙げられる。
金属板が銅板であるとき、活性金属は、Ti(チタン)、Hf(ハフニウム)、Zr(ジルコニウム)、及びNb(ニオブ)から選ばれる1種または2種以上を用いる。活性金属とAg(銀)およびCu(銅)を混合して活性金属ろう材とする。また、必要に応じ、Sn(錫)、In(インジウム)、及びC(炭素)から選ばれる1種または2種以上を添加しても良い。
また、活性金属の中ではTi(チタン)が好ましい。Tiは窒化珪素基板と反応して窒化チタン(TiN)を形成することにより、接合強度を高めることができる。Tiは窒化珪素基板と反応性が良く、接合強度を高めることができる。
また、Ag+Cu+活性金属=100質量%としたとき、Agの含有率が40質量%以上80質量%以下、Cuの含有率が15質量%以上60質量%以下、Tiの含有率が1質量%以上12質量%以下の範囲内であることが好ましい。また、In、Snを添加する場合は、InおよびSnから選ばれる少なくとも一つの元素の含有率が5質量%以上20質量%以下の範囲であることが好ましい。Cが添加されるときには、Cの含有率が、0.1質量%以上2質量%以下の範囲であることが好ましい。つまり、Ag+Cu+Ti+Sn(またはIn)+C=100質量%としたとき、Agの含有率が40質量%以上73.9質量%以下、Cuの含有率が15質量%以上45質量%以下、Tiの含有率が1質量%以上12質量%以下、Sn(またはIn)の含有率が5質量%以上20質量%以下、Cの含有率が0.1質量%以上2質量%以下の範囲内であることが好ましい。ここではTiを用いたろう材の組成について説明したが、Tiの一部または全部を他の活性金属に置き換えてもよい。
また、金属板がアルミニウム板であるとき、活性金属はSi(珪素)またはMg(マグネシウム)から選ばれる1種または2種の元素となる。これら活性金属とAl(アルミニウム)を混合して活性金属ろう材とする。
【0021】
窒化珪素基板上に活性金属ろう材を塗布し、金属板を配置する。次に、金属板が配置された窒化珪素基板を600℃以上900℃以下で加熱し、金属板を窒化珪素基板に接合する。これにより、銅板またはアルミニウム板を接合することができる。また、接合時には、真空中(10-2Pa以下)で加熱することが好ましい。必要に応じ、エッチング工程などで回路パターンを形成しても良い。
また、金属ペーストを用いたメタライズ方法としては、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、W(タングステン)、又はMo(モリブデン)などの金属ペーストを塗布して、加熱により回路部を形成する方法である。
金属板を接合する方法では、板厚の厚い金属板を基板に接合することができる。これにより、通電容量を向上させることができる。その一方で回路パターンの形成にはエッチング処理などの工程が必要となる。また、メタライズ法は、回路パターンを形成したい箇所にペーストを塗布することができる。このため、複雑な形状のパターンを形成できる。その一方で、回路部を厚くするのが困難であるため、通電容量を向上させ難い。メタライズ法の一種として、金属メッキ法を用いる方法もある。回路部の形成方法は、目的に応じて適宜選択できる。
【0022】
上記のように回路部に金属板を用いた場合、金属板のエッチングとろう材層のエッチングの2種類のエッチング加工が必要になる。
例えば、銅板をエッチングする際は、塩化第二銅または塩化第二鉄が使われる。また、活性金属ろう材層をエッチングする際は、過酸化水素水、フッ化アンモニウム、フッ化水素などが使われる。さらに、硫酸、塩酸、硝酸などの酸溶液を化学研磨液として使う場合もある。また、エッチングレジストを除去するために、窒化珪素回路基板を薬液に漬けることもある。このように、窒化珪素回路基板は、2種または3種以上の薬液にさらされる。また、銅板の側面形状やろう材はみ出し部のサイズを最適化するために、エッチングの回数を増やすこともある。特に、銅板の厚さが0.8mm以上と厚くなるとエッチング回数の増加、エッチングの長時間化、又はエッチング液の高濃度化などの対応が必要になる。また、通常、活性金属ろう材のエッチング液として、pH5~6程度のものが使われている。pH5以下のエッチング液を用いることや、pH1程度の化学研磨液と組合せることなどにより、エッチング時間を短くすることも行われている。このため、pH5以下のエッチング液を用いたエッチング工程が増加する傾向にある。しかし、活性金属ろう材のエッチングは、窒化珪素基板への負荷も大きい。
実施形態にかかる窒化珪素基板は、転位欠陥部を少なくしてあるので、窒化珪素結晶粒子がエッチング加工により受けるダメージを低減できる。このため、エッチング加工による窒化珪素基板の絶縁性の低下を抑制できる。このため、実施形態にかかる窒化珪素基板は、エッチング加工による負荷が特に増加する厚さ0.8mm以上の金属板を回路部に使用した窒化珪素回路基板に好適である。また、窒化珪素基板の板厚を0.40mm以下と薄くすることにより、窒化珪素基板の熱抵抗を低減できる。窒化珪素基板の板厚を0.30mm以下と薄くすることにより、さらに熱抵抗を下げることができる。実施形態にかかる窒化珪素基板は、転位欠陥部を少なくしてあるので、エッチング液への耐久性が優れている。このため、窒化珪素基板の板厚が薄い場合でもおり、エッチング加工による絶縁性の低下を抑制できる。なお、窒化珪素基板の板厚は、0.1mm以上であることが好ましい。板厚が0.1mm未満であると、窒化珪素基板の強度が低下する。
【0023】
次に、実施形態にかかる窒化珪素基板の製造方法について説明する。窒化珪素基板の製造方法は以下の例に限定されない。窒化珪素基板を歩留り良く得るための方法として、以下の製造方法が挙げられる。
まずは、原料粉末を用意する。原料粉末には、窒化珪素粉末および焼結助剤粉末が必要となる。焼結助剤は、希土類元素、マグネシウム、チタン、ハフニウム、アルミニウム、及びカルシウムから選ばれる1種または2種以上であることが好ましい。それぞれ金属単体を酸化物に換算して、合計量を15質量%以下にする。なお、焼結助剤の添加量の下限値は0.1質量%以上であることが好ましい。焼結助剤量が0.1質量%未満では、添加効果が不十分となる可能性がある。このため、焼結助剤の添加量は0.1質量%以上15質量%以下が好ましい。
【0024】
また、窒化珪素粉末については、α化率が80質量%以上であり、平均粒径が0.4μm以上2.5μm以下であり、不純物酸素含有量が2質量%以下であることが好ましい。不純物酸素含有量は、1.0質量%以下、さらには0.1質量%以上0.8質量%以下であることがより好ましい。不純物酸素含有量が2質量%を超えると、不純物酸素と焼結助剤との反応が起きて、必要以上に粒界相が形成される可能性がある。
また、焼結助剤には希土類化合物を使うことが好ましい。希土類化合物は、窒化珪素結晶粒子の長径制御に重要な材料である。希土類化合物粉末の添加量は、酸化物換算で3質量%以上10質量%以下、さらには5質量%以上9質量%以下に制御することが好ましい。なお、酸化物換算は、希土類元素をRとしたとき、Rにて換算する。
また、窒化珪素結晶粒子が粒成長する過程において、窒化珪素結晶粒子の表面に希土類元素が配位しやすい状態を形成することが必要になる。表面に配位とは、窒化珪素の表面元素に希土類元素(希土類元素化合物含む)が隣接することである。窒化珪素結晶粒子の表面に希土類元素が配位することで、窒化珪素結晶粒子と希土類元素との間の反応及び焼結助剤同士の反応を促進させることができる。原料粉としては、微粉形態が好ましく、平均粒子径D50を1.0μm以下、さらには0.4μm以下に制御することが好ましい。また、粉末ではなく、アルコキシド化合物などの溶液を用いて湿式にて混合し、窒化珪素結晶粒子表面に希土類元素を化学結合させることも効果的な手法となる。
また、必要に応じ、マグネシウム、チタン、ハフニウム、アルミニウム、及びカルシウムから選ばれる1種または2種以上を含む化合物の粉末を添加する。また、これら化合物の添加量は合計で5質量%以下であることが好ましい。また、これらの化合物は、酸化物または炭酸化物であることが好ましい。焼結助剤の構成元素として酸素を含むと、焼結助剤同士の反応、または窒化珪素粉末中の不純物酸素と焼結助剤の反応により、酸化物液相が形成される。これにより、窒化珪素結晶粒子の緻密化を促進することができる。
希土類化合物は焼結を促進する効果がある。また、マグネシウム、チタン、ハフニウム、アルミニウム、又はカルシウムを含む化合物は、焼結温度の低温化、粒界相強化などの効果を有する。
【0025】
上記原料粉末を混合し、さらにバインダを添加して原料混合体を調製する。原料粉末は、窒化珪素粉末と焼結助剤粉末の混合粉末である。焼結工程で、窒化珪素結晶粒子の粒成長を制御するためには、混合粉末が均一に混合されている必要がある。混合工程は、ボールミルなどを用いて解砕混合していく。解砕応力が大きすぎると、窒化珪素粉末に転位欠陥部が形成されてしまい、焼結後の窒化珪素粒子に転位欠陥部が残存しやすくなる。このため、混合工程は、20時間以上かけて、平均粒径D50が1μm以下となるように実行することが好ましい。また、混合時間の上限は特に限定されないが、60時間以下が好ましい。60時間を超えて混合してもよいが、製造時間が長くなりすぎる。平均粒径D50の測定は、レーザ回析/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製)を用いることが好ましい。
【0026】
次に、原料混合体を成形する成形工程を行う。原料混合体の成形法としては、汎用の金型プレス法、冷間静水圧プレス(CIP)法、又はシート成形法(例えば、ドクターブレード法、ロール成形法)などが適用できる。また、必要に応じ、原料混合体を、トルエン、エタノール、又はブタノールなどの溶媒と混合する。ドクターブレード法は、厚さ0.40mm以下の基板の量産に適している。
次に上記成形工程の後、成形体の脱脂工程を行う。脱脂工程では、非酸化性雰囲気中、温度500℃以上800℃以下で1時間以上4時間以下加熱して、予め添加していた大部分の有機バインダの脱脂を行う。非酸化性雰囲気としては、窒素ガス雰囲気中、アルゴンガス雰囲気中などが挙げられる。必要であれば大気雰囲気などの酸化雰囲気で処理し、脱脂体に残存する有機物量を制御する。
また、有機バインダとしては、ブチルメタクリレート、ポリビニルブチラール、又はポリメチルメタクリレートなどが挙げられる。また、原料混合体(窒化珪素粉末と焼結助剤粉末との合計量)を100質量%としたとき、有機バインダの添加量は3質量%以上28質量%以下であることが好ましい。
有機バインダの添加量が3質量%未満では、バインダ量が少なすぎて成形体の形状を維持するのが困難となる。このような場合、成形体を多層化して量産性を向上することが困難となる。
一方、バインダ量が28質量%を超えて多いと、脱脂工程により脱脂処理された後の成形体の空隙が大きくなり、窒化珪素基板のポアが大きくなる。このため、有機バインダの添加量は、3質量%以上28質量%以下、さらには3質量%以上17質量%以下の範囲内が好ましい。
次に、脱脂処理された成形体は焼成容器内に収容され、焼成炉内において非酸化性雰囲気中で焼結工程が行われる。焼結工程における温度は、1800℃以上1950℃以下の範囲内であることが好ましい。非酸化性雰囲気としては、窒素ガス雰囲気、または窒素ガスを含む還元性雰囲気が好ましい。また、焼成炉内は、加圧雰囲気であることが好ましい。
焼結温度が1800℃未満の低温状態で焼成すると、窒化珪素結晶粒子の粒成長が十分でなく、緻密な焼結体が得難い。一方、焼結温度が1950℃より高温度で焼成すると、炉内雰囲気圧力が低い場合には、窒化珪素がSiとNに分解する可能性がある。このため、焼結温度は、上記範囲内に制御することが好ましい。また、焼結時間は、7時間以上20時間以下の範囲内が好ましい。
【0027】
焼結工程を行う際、1350℃から1600℃までの昇温速度を、50℃/h以下にすることが好ましい。1350℃から1600℃までの温度域で、焼結助剤を主とする液相が生成される。このため、昇温速度の制御により、窒化珪素結晶粒子表面への液相の拡散を促進させることができる。
また、1650℃から焼結温度までの昇温速度は、50℃/h以下であることが好ましい。昇温速度を50℃/h以下にすることにより、均一な粒成長が促進されて粗大粒の生成を抑制できるとともに、窒化珪素結晶粒子に転位欠陥部が形成されることを抑制できる。
また、1300℃から1650℃までの昇温速度を、第一の昇温速度とする。1650℃から焼結温度までの昇温速度を、第二の昇温速度とする。第一の昇温速度は、第二の昇温速度以上であることが好ましい。第二の昇温速度を第一の昇温速度と同じかそれよりも遅くすることで、粗大粒の発生を抑制する効果を向上させることができる。粒成長は、窒化珪素結晶粒子表面に拡散した液相を介して進行する。よって、1650℃から焼結温度までの昇温速度を、液相の拡散に効果的な第一昇温速度に維持、又はそれよりも遅い第二昇温速度に設定することで、均質な粒成長が促される。これにより、粗大粒の発生を抑制する効果を向上させることができる。
さらに、焼結工程において、圧力の変化量が0.3MPa以下になるように、圧力を制御することが好ましい。圧力の変化量を抑制することによっても、窒化珪素結晶粒子に転位欠陥部が形成されることを抑制できる。圧力の変化は、窒化珪素結晶粒子の粒成長に影響を与える。焼結工程を常圧又は加圧で行う場合、圧力の変化量を0.3MPa以下、さらには0.1MPa以下にすることが好ましい。圧力の変化量を制御するためには、焼結雰囲気中のガス圧を制御することが有効である。窒化珪素基板の焼結工程中には、ガスが発生し易い。焼結工程においては、成形体中のバインダ、焼結助剤、窒化珪素粉末中の不純物酸素などがガス成分となる。発生したガス成分により焼結雰囲気の圧力が変化する。つまり、特に圧力を負荷しない常圧焼結であっても、発生したガス成分によっては焼結雰囲気の圧力が変化する。このため、焼結工程中の雰囲気圧力が変化しないように、発生したガス成分を除去するなどの制御が必要である。特に、1300℃以上の熱処理工程から焼結工程の間の圧力の変化量を0.3MPa以下にすることが好ましい。
【0028】
このように、昇温速度の制御又は圧力変化の抑制により、窒化珪素結晶粒子の異常粒成長を抑制することができる。
これにより、窒化珪素焼結体の任意の断面の観察領域300μm×300μmにおいて、窒化珪素結晶粒子の長径の最大値を60μm以下、さらには25μm以下に制御することができる。また、窒化珪素焼結体の任意の断面の観察領域300μm×300μmにおいて、窒化珪素結晶粒子の長径の平均を1μm以上10μm以下の範囲内に制御することができる。また、異常粒成長を抑制できるので、窒化珪素焼結体の任意の断面の観察領域300μm×300μmにおいて、個々の粒界相の面積を9μm以下、さらには5μm以下に制御することができる。
また、焼結工程後の冷却速度は適宜設定可能である。粒界相の結晶化を促進するには、冷却速度を100℃/h以下にすることが好ましい。
【0029】
図3図5は、実施形態にかかる窒化珪素回路基板の一例を示す図である。図3において、10は窒化珪素回路基板である。12は窒化珪素基板である。13は、表金属板である。14は接合層である。15は裏金属板である。図3は、2つの表金属板13を窒化珪素基板12に接合した例を示す。実施形態は、このような形に限定されるものではなく、1つ又は3つ以上の表金属板13が窒化珪素基板12に接合されても良い。各表金属板13は、配線パターンに加工されていても良い。図3の例では、さらに、裏金属板15を窒化珪素基板12に接合している。裏金属板15は、回路ではなく放熱板として機能する。裏金属板15は、必要に応じ設けることができる。
窒化珪素基板に貫通孔が設けられていても良い。窒化珪素回路基板は、表の金属板と裏の金属板が貫通孔を介して導通した構造を有することが好ましい。図4は、貫通孔を有する窒化珪素回路基板の一例を示す。図4は、貫通孔が設けられた部分における断面図である。図4において、10は窒化珪素回路基板である。12は窒化珪素基板である。13は表金属板である。14は接合層である。18は裏金属板である。19は貫通孔である。図4では、貫通孔19を介して、表金属板13と裏金属板18が導通している。図4では、複数の貫通孔19が、それぞれ、複数の表金属板13と複数の裏金属板18を接続している。実施形態は、このような構造に限定されない。窒化珪素回路基板10において、複数の表金属板13の一部に対してのみ貫通孔19が設けられていても良い。複数の裏金属板18の一部に対してのみ貫通孔19が設けられていても良い。貫通孔19の内部には、接合層14と同じ材料が充填されることが好ましい。貫通孔19の内部の構造は、表金属板と裏金属板を導通できれば、特に限定されない。このため、貫通孔19内壁にのみ金属薄膜が設けられていても良い。一方、接合層14と同じ材料を充填することにより、接合強度を向上させることができる。
実施形態にかかる窒化珪素回路基板は、半導体装置に好適である。半導体装置では、窒化珪素回路基板の金属板に、接合層を介して半導体素子が実装される。図5は、半導体装置の一例を示す。図5において、10は窒化珪素回路基板である。20は半導体装置である。21は半導体素子である。22は接合層である。23はワイヤボンディングである。24は金属端子である。図5では、窒化珪素回路基板10の金属板上に接合層22を介して半導体素子21を接合している。同様に、接合層22を介して金属端子24を接合している。隣り合う金属板同士をワイヤボンディング23で導通している。図5では、半導体素子21の他にワイヤボンディング23と金属端子24を接合している。実施形態にかかる半導体装置は、このような構造に限定されない。例えば、ワイヤボンディング23と金属端子24はどちらか一方のみが設けられていても良い。半導体素子21、ワイヤボンディング23、および金属端子24は、表金属板13にそれぞれ複数個設けても良い。裏金属板18には、半導体素子21、ワイヤボンディング23、および金属端子24を必要に応じ接合できる。金属端子24には、リードフレーム形状、凸型形状など様々な形状が適用できる。
半導体素子21又は金属端子24を接合する接合層22としては、ハンダ、ろう材などが挙げられる。ハンダは鉛フリーハンダが好ましい。ハンダの融点は、450℃以下であることが好ましい。ろう材の融点は、450℃以下であることが好ましい。融点が500℃以上のろう材を、高温ろう材を呼ぶ。高温ろう材として、Agを主成分とするものが挙げられる。
【0030】
(実施例)
(実施例1~5、参考例1)
窒化珪素粉末と焼結助剤粉末を混合した混合原料粉末を用意した。次に混合原料粉末を解砕混合し、混合原料粉末1~3を調製した。なお、解砕混合はボールミルにより行った。その結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
混合原料粉末1~3は、平均粒径D50が80%になるまでの解砕混合を20時間以上かけて行った。また、混合原料粉末4は、平均粒径D50が1μmになるまでの解砕混合を10時間と短い時間で行った。なお、平均粒径D50の測定は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製)を用いた。
次に混合原料粉末にバインダを5質量%以上10質量%以下添加し、混合原料ペーストを調整した。混合原料ペーストを用いて、ドクターブレード法によりシート成形した。シート成形体を500℃以上800℃以下で、1時間以上4時間以下の脱脂工程を行い脱脂体を調製した。
次に、表2に示した焼結工程を、窒素雰囲気中で実施した。また、焼結工程後の窒化珪素基板を分割することにより、縦50mm×横40mmの窒化珪素基板を得た。また、圧力の0.1MPaは、常圧を示している。
【0033】
【表2】
【0034】
実施例および参考例にかかる窒化珪素基板に関して、転位欠陥部、窒化珪素結晶粒子の長径、粒界相の面積、熱伝導率、3点曲げ強度、破壊靱性値、絶縁耐圧を測定した。
転位欠陥部の測定では、任意の断面をイオンミリング加工で表面粗さRa1μm以下に加工し、評価面とした。評価面をTEMにより観察した。TEMによる観察では、任意の観察領域50μm×50μmにおいて、互いに隣接する複数の領域をそれぞれ順次撮影した。TEM写真を撮影するときの倍率は10000倍に設定し、明視野像および暗視野像を撮影した。暗視野像で白く見える領域を、転位欠陥部とした。明視野像と暗視野像を対比することにより、一つの窒化珪素結晶粒子内の転位欠陥部の有無、占有面積率を求めた。また、転位欠陥部の占有面積率は、暗視野像を画像処理ソフトにより2値化し、(白色の画素の塊の面積/(白色の画素の塊の面積+黒色の画素の塊の面積))×100を求めることにより測定した。一つの観察領域50μm×50μmにおける観察は、輪郭がすべてみえる窒化珪素結晶粒子が50個確認されるまで行った。TEM写真の端部で見切れている窒化珪素結晶粒子(すなわち全輪郭が写っていない窒化珪素結晶粒子)は、数の割合のカウントから除外した。輪郭がすべて写っている窒化珪素結晶粒子が50個確認できると、観察領域50μm×50μmの全体を観察していない場合でも、別の観察領域をTEMにより観察した。別の観察領域として、直前の観察領域から1000μm以上離れた領域を選んだ。合計で2箇所以上の観察領域を撮影した。画像解析ソフトには、Image-jを使った。
また、転位欠陥部の核となっている元素を分析した。転位欠陥部の分析にはEDXを用いた。これにより、転位欠陥部に、珪素、酸素および窒素以外の元素が1μm以上の塊になっているか否か、10mol%以上に検出されるか否かを測定した。
【0035】
また、窒化珪素結晶粒子の長径は、任意の断面におけるSEM観察に基づいて測定した。SEM写真を撮影するときの倍率は、3000倍に設定し、300μm×300μmの領域を撮影した。SEM写真において、一つの窒化珪素結晶粒子の外縁上の任意の2点を結んで得られる線分のうち、最も長い線分の長さを長径とする。SEM写真(観察領域300μm×300μm)に写る窒化珪素結晶粒子の長径の平均を求めた。また、各窒化珪素結晶粒子の長径から最も長いものを、長径の最大値として抽出した。
また、上記SEM写真(観察領域300μm×300μm)を画像解析ソフトにより2値化し、二値画像を解析した。二値画像において、3個以上の窒化珪素結晶粒子で囲われた領域を粒界相として、その面積を求めた。また、画像解析ソフトとして、Image-jを使った。
熱伝導率は、JIS-R-1611(2010)のフラッシュ法に準じて測定した。JIS-R-1611(2010)は、ISO18755(2005)に対応する。3点曲げ強度は、JIS-R-1601(2008)に準じて測定した。また、破壊靱性は、JIS-R-1607(2015)のIF法に準じ、新原の式を用いて測定した。絶縁耐圧はJIS-C-2141に準じて2端子法にて測定した。JIS-C-2141は、IEC672-2(1980)に対応する。絶縁耐圧の測定では、先端が直径25mmの平面電極である測定端子を使用した。また、絶縁耐力の測定は、フロリナート中で行った。
その結果を表3、表4に示した。
【0036】
【表3】
【0037】
【表4】
【0038】
実施例にかかる窒化珪素基板は、転位欠陥部の割合が20%以下、さらには10%以下であった。転位欠陥部が観察された実施例(実施例2,4,5,7)では、転位欠陥部の核(珪素、酸素および窒素以外の元素)のサイズは、0.2μm以下の範囲内であった。また、実施例に係る窒化珪素焼結体の転位欠陥部の核では、珪素、酸素および窒素以外の元素は、10mol%未満であった。
窒化珪素結晶粒子の長径の最大値は、60μm以下であった。実施例にかかる窒化珪素基板では、粒界相の面積の最大値が9μm以下であり、参考例に比べて小さかった。また、熱伝導率、3点曲げ強度、絶縁耐圧についても、優れた値が得られた。
次に、実施例および参考例にかかる窒化珪素基板に、活性金属ろう材を用いて銅板(厚さ0.8mm)を両面に接合した。活性金属ろう材は、Ag(60質量%)、Cu(28質量%)、Sn(9質量%)、Ti(3質量%)からなるものを用いた。また、活性金属接合層の厚さは30μmにした。
【0039】
次に、表銅板をエッチング加工して、パターニングした。銅板のエッチング加工には、塩化第二銅溶液を用いた。また、活性金属ろう材層のエッチング加工には、フッ化アンモニウムと過酸化水素(H)を含有したエッチング溶液を用いた。
エッチング条件1では、活性金属ろう材のエッチング液のpHを、5.2以上5.8以下の範囲内にした。エッチング条件2では、活性金属ろう材のエッチング液のpHを、4.5以上5.0以下の範囲内にした。また、エッチング条件2では、塩酸を含有するpH1以上2以下の化学研磨液も使用した。すなわち、エッチング条件2によるエッチングでは、エッチング条件1に比べて、窒化珪素基板がよりダメージを受けやすい。
エッチング加工を行った後の窒化珪素回路基板における窒化珪素基板の絶縁性を、エッチング加工を行う前の窒化珪素回路基板における窒化珪素基板の絶縁性と比較して、低下率を測定した。リーク電流を測定することで、絶縁性の低下率を測定した。リーク電流は、温度25℃、湿度70%の条件下で上記窒化珪素基板の表裏間に1.5Kv-100Hzの交流電圧を印加して測定した。エッチング前後でのリーク電流の変化量が5%以下であった窒化珪素回路基板を、良品(○)とした。リーク電流の変化量が5%を超えて10%以下であって窒化珪素回路基板を、やや良品(△)とした。また、リーク電流の変化量が10%を超えた窒化珪素回路基板を、不良品(×)とした。その結果を表5に示す。
【0040】
【表5】
【0041】
実施例にかかる窒化珪素基板は、エッチング条件1及び2によるいずれのエッチング加工後であっても、絶縁性の低下が小さかった。参考例1にかかる窒化珪素基板については、エッチング条件1でエッチングしたときの絶縁性の低下は小さかった。しかし、エッチング条件2でエッチングしたときには、絶縁性の低下が見られた。また、実施例7にかかる窒化珪素基板では、粗大粒が25μmを超え、且つ粒界相の面積が9μmと大きいため、エッチング条件2でエッチングしたときには、絶縁性がやや低下した。
エッチング条件2は、銅板厚さが0.8mm以上のときに必要となる。言い換えれば、エッチング条件2は、銅板厚さが0.8mm以上の窒化珪素回路基板をエッチング加工する際に、好適である。
【0042】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これら実施形態は、例として示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組合わせて実施することができる。
図1
図2
図3
図4
図5