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特許7557650(メタ)アクリル系重合体の再生装置、(メタ)アクリル系重合体の再生方法、および(メタ)アクリル基を有するモノマーの製造方法
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  • 特許-(メタ)アクリル系重合体の再生装置、(メタ)アクリル系重合体の再生方法、および(メタ)アクリル基を有するモノマーの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】(メタ)アクリル系重合体の再生装置、(メタ)アクリル系重合体の再生方法、および(メタ)アクリル基を有するモノマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/12 20060101AFI20240919BHJP
【FI】
C08J11/12
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2024078240
(22)【出願日】2024-05-13
【審査請求日】2024-05-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角谷 英則
(72)【発明者】
【氏名】安富 陽一
(72)【発明者】
【氏名】塚本 昌利
(72)【発明者】
【氏名】徳永(江本) 雄一
【審査官】葛谷 光平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2024/071036(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/176813(WO,A1)
【文献】特開平11-092588(JP,A)
【文献】特開平11-148084(JP,A)
【文献】特開2014-12781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J11/00-11/28
B29B17/00-17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル系重合体の熱分解を行って熱分解ガスを得る熱分解部と、
前記熱分解部に供給される(メタ)アクリル系重合体を乾燥する原料乾燥部と、
前記熱分解ガスから熱媒に熱を移動させる熱交換部と、
前記熱媒を移送する移送ラインと、を備え、前記移送ラインは熱媒を前記原料乾燥部に移送する、(メタ)アクリル系重合体の再生装置。
【請求項2】
前記原料乾燥部の容量は、前記熱分解部における時間当たりの処理量の4倍以上である、請求項に記載の再生装置。
【請求項3】
前記原料乾燥部は撹拌機を有する、請求項に記載の再生装置。
【請求項4】
前記移送ラインは原料乾燥部の上部又は下部に熱媒を移送する、請求項に記載の再生装置。
【請求項5】
前記熱分解部で生成する未分解残渣を処理する未分解残渣処理部をさらに備え、前記移送ラインは熱媒を前記未分解残渣処理部に移送する、請求項1に記載の再生装置。
【請求項6】
前記熱分解部で生成する熱分解ガスを処理するガス処理部をさらに備え、前記移送ラインは熱媒を前記ガス処理部に移送する、請求項1に記載の再生装置。
【請求項7】
(メタ)アクリル系重合体の熱分解を行って熱分解ガスを得る熱分解部と、
前記熱分解部で生成する未分解残渣を処理する未分解残渣処理部と、
前記熱分解ガスから熱媒に熱を移動させる熱交換部と、
前記熱媒を移送する移送ラインと、を備え、前記移送ラインは熱媒を前記未分解残渣処理部に移送する、(メタ)アクリル系重合体の再生装置。
【請求項8】
(メタ)アクリル系重合体の熱分解を行って熱分解ガスを得る熱分解部と、
前記熱分解部で生成する熱分解ガスを処理するガス処理部と、
前記熱分解ガスから熱媒に熱を移動させる熱交換部と、
前記熱媒を移送する移送ラインと、を備え、前記移送ラインは熱媒を前記ガス処理部に移送する、(メタ)アクリル系重合体の再生装置。
【請求項9】
前記移送ラインは熱媒を循環させる、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の再生装置。
【請求項10】
前記移送ラインは温度計及び流量調整弁を有する、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の再生装置。
【請求項11】
前記移送ラインは熱媒に含まれる液体、当該液体が気化した気体又は異物の除去装置を備える、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の再生装置。
【請求項12】
前記移送ラインは熱媒の温度を調節する温度調節部を有する、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の再生装置。
【請求項13】
前記移送ラインは断熱処理されている、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の再生装置。
【請求項14】
前記熱媒は気体又は液体である、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の再生装置。
【請求項15】
(メタ)アクリル系重合体の熱分解を行って熱分解ガスを得る熱分解工程と、
前記熱分解工程で熱分解される(メタ)アクリル系重合体を乾燥する原料乾燥工程と、
前記熱分解ガスから熱媒に熱を移動させる熱交換工程と、
前記熱媒を移送する移送工程と、を含み、前記移送工程で移送される熱媒は(メタ)アクリル系重合体の乾燥に利用される、(メタ)アクリル系重合体の再生方法。
【請求項16】
(メタ)アクリル系重合体の熱分解を行って熱分解ガスを得る熱分解工程と、
前記熱分解工程で生成する未分解残渣を処理する残渣処理工程と、
前記熱分解ガスから熱媒に熱を移動させる熱交換工程と、
前記熱媒を移送する移送工程と、を含み、前記移送工程で移送される熱媒は未分解残渣の処理に利用される、(メタ)アクリル系重合体の再生方法。
【請求項17】
(メタ)アクリル系重合体の熱分解を行って熱分解ガスを得る熱分解工程と、
前記熱分解工程で生成する熱分解ガスを処理するガス処理工程と、
前記熱分解ガスから熱媒に熱を移動させる熱交換工程と、
前記熱媒を移送する移送工程と、を含み、前記移送工程で移送される熱媒は熱分解ガスの処理に利用される、(メタ)アクリル系重合体の再生方法。
【請求項18】
(メタ)アクリル系重合体の熱分解を行って熱分解ガスを得る熱分解工程と、
前記熱分解工程で熱分解される(メタ)アクリル系重合体を乾燥する原料乾燥工程と、
前記熱分解ガスから熱媒に熱を移動させる熱交換工程と、
前記熱媒を移送する移送工程と、を含み、前記移送工程で移送される熱媒は(メタ)アクリル系重合体の乾燥に利用される、(メタ)アクリル基を有するモノマーの製造方法。
【請求項19】
(メタ)アクリル系重合体の熱分解を行って熱分解ガスを得る熱分解工程と、
前記熱分解工程で生成する未分解残渣を処理する残渣処理工程と、
前記熱分解ガスから熱媒に熱を移動させる熱交換工程と、
前記熱媒を移送する移送工程と、を含み、前記移送工程で移送される熱媒は未分解残渣の処理に利用される、(メタ)アクリル基を有するモノマーの製造方法。
【請求項20】
(メタ)アクリル系重合体の熱分解を行って熱分解ガスを得る熱分解工程と、
前記熱分解工程で生成する熱分解ガスを処理するガス処理工程と、
前記熱分解ガスから熱媒に熱を移動させる熱交換工程と、
前記熱媒を移送する移送工程と、を含み、前記移送工程で移送される熱媒は熱分解ガスの処理に利用される、(メタ)アクリル基を有するモノマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、(メタ)アクリル系重合体の再生装置、(メタ)アクリル系重合体の再生方法、および(メタ)アクリル基を有するモノマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル基を有するモノマーを重合して得られる(メタ)アクリル系重合体は、透明性に優れており、さらには耐候性にも優れている。よって、(メタ)アクリル系重合体は、自動車用部品、看板標識、表示装置等を構成する部材の材料として、広く用いられている。
【0003】
近年の資源価格の高騰、さらには環境問題に対する意識の高まりに伴って、上記のとおりの種々の用途に用いられた(メタ)アクリル系重合体を含む製品(成形体)を回収してリサイクル(再資源化)する動きが広まっている。
【0004】
(メタ)アクリル系重合体を含む成形体のリサイクルの方法としては、例えば、回収された成形体に対し、再度、成形工程を実施して新たな成形体を製造するマテリアルリサイクル、回収された成形体を熱分解(解重合)して得られる(メタ)アクリル基を有するモノマーを回収し、このモノマーを用いて新たな成形体を製造するケミカルリサイクル、および回収された成形体を燃焼して得られる燃焼エネルギーを直接的な熱源あるいは発電機により変換された電力として利用するサーマルリサイクルが挙げられる。
【0005】
(メタ)アクリル系重合体は、300℃から500℃程度の比較的低い温度で加熱することによって熱分解物であるモノマーを高収率で回収することができるため、ケミカルリサイクルによるリサイクルに適している。
【0006】
例えば、特許文献1には、(メタ)アクリル系重合体を含む樹脂製品を加熱窯内で加熱して得られたガス状の熱分解物を冷却して液化し、次いで液化した熱分解物を蒸留により精製する工程を経て(メタ)アクリル基を有するモノマーを回収する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-321571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
(メタ)アクリル系重合体のリサイクルシステムの普及促進の観点から、リサイクル処理に消費されるエネルギーの利用効率を高めることは重要な課題の一つである。
上記事情に鑑み、本開示の一実施形態は、リサイクル処理に消費されるエネルギーの利用効率に優れる(メタ)アクリル系重合体の再生装置、(メタ)アクリル系重合体の再生処理方法、および(メタ)アクリル酸エステルの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施形態が含まれる。
<1>(メタ)アクリル系重合体の熱分解を行って熱分解ガスを得る熱分解部と、
前記熱分解ガスから熱媒に熱を移動させる熱交換部と、
前記熱媒を移送する移送ラインと、を備える、(メタ)アクリル系重合体の再生装置。
<2>前記熱分解部に供給される(メタ)アクリル系重合体を乾燥する原料乾燥部をさらに備え、前記移送ラインは熱媒を前記原料乾燥部に移送する、<1>に記載の再生装置。
<3>前記原料乾燥部の容量は、前記熱分解部における時間当たりの処理量の4倍以上である、<2>に記載の再生装置。
<4>前記原料乾燥部は撹拌機を有する、<2>又は<3>に記載の再生装置。
<5>前記移送ラインは原料乾燥部の上部又は下部に熱媒を移送する、<2>~<4>のいずれか1項に記載の再生装置。
<6>前記熱分解部で生成する未分解残渣を処理する未分解残渣処理部をさらに備え、前記移送ラインは熱媒を前記未分解残渣処理部に移送する、<1>に記載の再生装置。
<7>前記熱分解部で生成する熱分解ガスを処理するガス処理部をさらに備え、前記移送ラインは熱媒を前記ガス処理部に移送する、<1>に記載の再生装置。
<8>前記移送ラインは熱媒を循環させる、<1>~<7>のいずれか1項に記載の再生装置。
<9>前記移送ラインは温度計及び流量調整弁を有する、<1>~<8>のいずれか1項に記載の再生装置。
<10>前記移送ラインは熱媒に含まれる液体、当該液体が気化した気体又は異物の除去装置を備える、<1>~<9>のいずれか1項に記載の再生装置。
<11>前記移送ラインは熱媒の温度を調節する温度調節部を有する、<1>~<10>のいずれか1項に記載の再生装置。
<12>前記移送ラインは断熱処理されている、<1>~<11>のいずれか1項に記載の再生装置。
<13>前記熱媒は気体又は液体である、<1>~<12>のいずれか1項に記載の再生装置。
<14>(メタ)アクリル系重合体の熱分解を行って熱分解ガスを得る熱分解工程と、
前記熱分解ガスから熱媒に熱を移動させる熱交換工程と、
前記熱媒を移送する移送工程と、を含む、(メタ)アクリル系重合体の再生方法。
<15>(メタ)アクリル系重合体の熱分解を行って熱分解ガスを得る熱分解工程と、
前記熱分解ガスから熱媒に熱を移動させる熱交換工程と、
前記熱媒を移送する移送工程と、を含む、(メタ)アクリル基を有するモノマーの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、リサイクル処理に消費されるエネルギーの利用効率に優れる(メタ)アクリル系重合体の再生装置、(メタ)アクリル系重合体の再生処理方法、および(メタ)アクリル酸エステルの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】再生装置の構成の一例を示す概略的な図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
本開示の第1実施形態は、
(メタ)アクリル系重合体の熱分解を行って熱分解ガスを得る熱分解部と、
前記熱分解ガスから熱媒に熱を移動させる熱交換部と、
前記熱媒を移送する移送ラインと、を備える、(メタ)アクリル系重合体の再生装置である。
【0013】
本実施形態の再生装置は、再生装置に供給される(メタ)アクリル系重合体を熱分解物してモノマーを回収するケミカルリサイクルに使用される。
(メタ)アクリル系重合体のケミカルリサイクルにおいては、(メタ)アクリル系重合体の熱分解を生じさせるために(メタ)アクリル系重合体を加熱する。
従来の再生装置では、(メタ)アクリル系重合体の加熱により生じた熱分解ガスをそのまま冷却して液化する。これに対し、本実施形態の再生装置は、熱分解ガスの熱を熱媒に移動させる熱交換部と、熱媒を移送する移送ラインと、を備えている。このため、本実施形態の再生装置では、熱分解ガスから熱媒が受け取った熱を移送ラインによって所望の部位に移動させ、所望の目的に利用することができる。
【0014】
熱分解部で生じた熱の移送先は、特に制限されない。熱の移送先としては、例えば、熱分解部に供給される(メタ)アクリル系重合体を乾燥する原料乾燥部、熱分解部で生成する未分解残渣を処理する未分解残渣処理部、熱分解部で生成する熱分解ガスを処理するガス処理部などが挙げられる。
【0015】
熱分解部に供給される(メタ)アクリル系重合体を乾燥する原料乾燥部では、(メタ)アクリル系重合体に含まれる液体を除去する。液体としては、水分又は有機溶媒が挙げられる。ケミカルリサイクルで得られる(メタ)アクリル系重合体の熱分解物ガスには、原料として供給される(メタ)アクリル系重合体に付随する水分又は有機溶媒が混入するおそれがある。熱分解ガスに含まれている液体の量が多いと、例えば、液体を除去するための処理に消費されるエネルギー量が増大する。したがって、熱分解部に供給される前の段階で原料乾燥部により原料に含まれる液体をできるだけ除去することが望ましい。
さらに、原料に多く液体が含まれていると、熱分解部の原料投入口付近に液化成分が付着し、それにより原料が堆積して閉塞のリスクが生じる。したがって、原料を熱分解部に投入する前に原料に含まれる液体をできるだけ除去することが望ましい。
さらに、スクラップとして回収される原料には様々な種類の樹脂が含まれる恐れがある。このような樹脂には熱分解によってハロゲン系化合物が発生する樹脂も含まれる恐れがある。ハロゲン系化合物は、水と反応することで強酸となり、設備などを腐食・劣化する恐れがある。したがって、この点からも原料を熱分解部に投入する前に原料に含まれる液体をできるだけ除去することが望ましい。
熱分解部で生じた熱を原料乾燥部に移送することで、熱分解部で生じた熱を原料の乾燥に利用することができる。
【0016】
熱分解部で生成する未分解残渣を処理する未分解残渣処理部では、熱分解部で熱分解ガスとともに生成する未分解残渣の処理を行う。
熱分解部で生じた熱を未分解残渣処理部に移送することで、熱分解部で生じた熱を未分解残渣の処理に利用することができる。未分解残渣の処理への熱の利用方法としては、後述するが、少なくとも熱分解部から未分解残渣処理部までの間又は未分解残渣処理部の温度調整が挙げられる。
【0017】
熱分解部で生成する熱分解ガスを処理するガス処理部では、熱分解ガスの処理を行う。熱分解ガスの処理として具体的には、熱分解ガスの液化(冷却)、熱分解ガスの精製などが挙げられる。
熱分解部で生じた熱をガス処理部に移送することで、熱分解部で生じた熱を熱分解ガスの処理に利用することができる。熱分解ガスの処理への熱の利用方法としては、例えば、液化した熱分解物を再度気化させて精製する工程が挙げられる。
【0018】
((メタ)アクリル系重合体)
本開示において「(メタ)アクリル系重合体」は、(メタ)アクリル基を有するモノマーに由来する構造単位を有する重合体を意味する。
本開示において「(メタ)アクリル」には、アクリル、メタクリルおよびこれらの組み合わせが含まれる。
【0019】
(メタ)アクリル系重合体は、(メタ)アクリル単独重合体であっても(メタ)アクリル共重合体であってもよい。
(メタ)アクリル単独重合体としては、例えば、炭素原子数1~4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルに由来する単量体単位のみを含む(メタ)アクリル単独重合体が挙げられる。
(メタ)アクリル共重合体としては、例えば、炭素原子数1~4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルに由来する単量体単位の割合が85質量%以上100質量%未満であり、炭素原子数1~4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルに由来する単量体単位と共重合可能な他のビニル単量体に由来する単量体単位の割合が0質量%を超えて15質量%以下である(メタ)アクリル共重合体が挙げられる。
【0020】
炭素原子数1~4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル」とは、例えばCH=C(CH)COOR(Rは炭素原子数1~4のアルキル基である。)で表される化合物である。
【0021】
炭素原子数1~4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルと共重合可能なビニル単量体とは、炭素原子数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルと共重合可能であり、かつビニル基を有する単量体である。
【0022】
炭素原子数1~4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸sec-ブチル、およびメタクリル酸イソブチルが挙げられる。炭素原子数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルは、好ましくはメタクリル酸メチルである。
【0023】
炭素原子数1~4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルと共重合可能なビニル単量体としては、例えば、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸モノグリセロールなどのメタクリル酸エステル(ただし、炭素原子数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルを除く。);アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸モノグリセロール等のアクリル酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの不飽和カルボン酸またはこれらの酸無水物;アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ジアセトンアクリルアミド、メタクリル酸ジメチルアミノエチル等の窒素含有モノマー;アリルグリシジルエーテル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有単量体;スチレン、α-メチルスチレンなどのスチレン系単量体が挙げられる。
【0024】
(メタ)アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸メチル(MMAまたはMA)の重合体であるポリ(メタ)アクリル酸メチル(PMMAまたはPMA)であってもよい。
【0025】
再生装置に供給される(メタ)アクリル系重合体は、(メタ)アクリル系重合体の成形体の状態であってもよい。成形体の種類は特に制限されず、キャスト成形体、押出成形体、射出成形体等の公知の成形体から選択できる。
【0026】
(メタ)アクリル系重合体の成形体は、(メタ)アクリル系重合体のみからなっても、(メタ)アクリル系重合体と、(メタ)アクリル系重合体と異なる成分を含んでいてもよい。
(メタ)アクリル系重合体と異なる成分としては、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリエステル等の(メタ)アクリル系重合体と異なる重合体、添加剤等が挙げられる。
添加剤としては、フィラー、着色剤、紫外線防止剤、離型剤等が挙げられる。
【0027】
再生装置に供給される(メタ)アクリル系重合体は、スクラップの状態であってもよく、圧縮物の状態であってもよい。本開示において「スクラップ」とは、所定の用途に使用された後に回収された廃棄品、製品の製造工程で発生する不良品や端材、これらの廃棄品、不良品及び端材の粉砕物などを意味する。「圧縮物」とは、スクラップに記載した物を圧縮した物を意味する。スクラップ及び圧縮物は、熱分解処理に適するように形状およびサイズが調整されていてもよい。
【0028】
以下、本実施形態の再生装置に含まれる構成要素について説明する。
【0029】
(熱分解部)
本実施形態の再生装置は、熱分解部を含む。熱分解部は、(メタ)アクリル系重合体の熱分解を行ってガス状の熱分解物(熱分解ガス)に変換する。
本開示において(メタ)アクリル系重合体の熱分解とは、加熱によって(メタ)アクリル系重合体をモノマーに分解することを意味する。
【0030】
熱分解部としては、(メタ)アクリル系重合体を熱分解する機能を有する装置を特に制限なく使用できる。
(メタ)アクリル系重合体の熱分解に採用される方式(プロセス)としては、溶融金属バスプロセス(Molten metal bath process)、ニーダープロセス、流動床プロセス、マイクロ波プロセス、押出機プロセス等が挙げられる。
【0031】
熱分解部の材質は特に制限されず、公知の材質を特に制限なく採用することができる。
熱分解部に供給される(メタ)アクリル系重合体が塩素および水を含有する場合は、塩素と水分との反応により塩酸が発生するおそれがある。このため、熱分解部の(メタ)アクリル系重合体又はその熱分解ガスと接触する部分は、耐腐食性に優れる材質からなることが好ましい。耐腐食性に優れる材質としては、Ti、Zr、Ta、ハステロイ(登録商標)等が挙げられる。
【0032】
熱分解部で(メタ)アクリル系重合体の熱分解を実施する際の条件は特に限定されず、処理対象の(メタ)アクリル系重合体の性状、組成等を考慮して設定できる。
【0033】
熱分解部の方式としてマイクロ波プロセスを採用する場合、例えば、反応器の外側からマイクロ波を照射して、(メタ)アクリル系重合体の熱分解を行う。マイクロ波を使用することで、通常の加熱プロセスとは異なり、対象物に光速かつ直接・選択的にエネルギーを与えることができる。(メタ)アクリル系重合体のようなプラスチックは、一般的にマイクロ波に対する吸収能力が低い。このため、マイクロ波に対する吸収能力の高い成分を(メタ)アクリル系重合体に添加して熱分解を促してもよい。
【0034】
熱分解の処理効率の観点からは、熱分解部は、押出機であることが好ましい。
本開示において「押出機」とは、筒状の部材(シリンダ)の内部に配置されたスクリューを回転させて、シリンダの上流側から投入された原料を溶融状態にして下流側に搬送する機構を備える装置を意味する。
【0035】
押出機の種類は特に制限されず、公知の二軸押出機または一軸押出機を利用できる。(メタ)アクリル系重合体の熱分解を効率よく行う観点からは、押出機は、二軸同方向回転押出機、二軸異方向回転押出機などの二軸押出機であることが好ましい。
押出機を構成するシリンダ、スクリュー等の構成要素としては、公知の構成を特に制限なく採用することができる。
【0036】
押出機の圧力は、空気の系内への漏れ込み防止および熱分解ガスの系外への漏洩防止の観点から、好ましくは0.005MPa~1.5MPaであり、より好ましくは0.01MPa~0.3MPaである。
【0037】
押出機のシリンダ内温度は、熱分解の処理効率の観点から、通常は400℃~500℃とすることができる。熱分解の対象が純粋な(メタ)アクリル系重合体である場合には、好ましくは450℃~470℃である。
【0038】
押出機のスクリュー回転数は、押出機の安定運転の観点から、通常は500rpm~1500rpmとすることができる。熱分解の対象が純粋な(メタ)アクリル系重合体である場合には、好ましくは500rpm~1000rpmである。
【0039】
押出機への(メタ)アクリル系重合体の供給量は、押出機の規模によって異なり、通常は10kg/時間~5000kg/時間とすることができる。例えば、押出機のシリンダの径が47mmである場合には、好ましくは40kg/時間~90kg/時間である。
【0040】
(熱交換部)
本実施形態の再生装置は、熱交換部を含む。熱交換部は、熱分解部で生じた熱分解ガスから熱媒に熱を移動させる。
熱交換部において、熱分解ガスから熱媒に熱を移動させる方法は特に制限されない。例えば、プレート式熱交換器、多管式熱交換器、二重管式熱交換器、コイル式熱交換器、スパイラル式熱交換器、蓄熱式熱交換器などの公知の熱交換器を使用して熱分解ガスの熱を熱媒に移動させてもよい。
熱分解ガスの熱を移動させる熱媒としては、気体又は液体のいずれを使用してもよい。
熱交換部で熱媒に熱を移動させる前の熱分解ガスの温度は、例えば、300℃~400℃であってもよい。
熱交換部で熱媒に熱を移動させた後の熱分解ガスの温度は、例えば、100℃~350℃であってもよい。
熱交換部は、独立した装置であっても、他の装置(例えば、ガス処理部に含まれる冷却器)と一体化していてもよい。すなわち、熱分解ガスに含まれる成分の少なくとも一部が熱交換部で熱媒に熱を移動させる際に液化されてもよい。
【0041】
(移送ライン)
本実施形態の再生装置は、移送ラインを含む。移送ラインは、熱交換部で熱分解ガスから熱を受け取った熱媒を移送する。
移送ラインによる熱媒の移送先は特に制限されない。例えば、後述する原料乾燥部、未分解残渣処理部、ガス処理部などの再生装置を構成する部位に熱媒を移送してもよい。
移送ラインは、ボイラー設備、発電設備のような再生装置を構成しない装置に熱媒を移送してもよい。
移送ラインによる熱媒の移送先は、1か所であっても2か所以上であってもよい。
【0042】
移送ラインは、熱媒を循環させるものであってもよい。具体的には、移送ラインは熱媒を熱交換部から移送先に向けて移送するラインと、移送先から熱交換部に向けて熱媒を移送するラインと、を含むものであってもよい。
移送ラインは、熱媒の移送を促進するための装置を有してもよい。熱媒の移送を促進するための装置をしては送気部(ブロワー)、ポンプ等が挙げられる。
【0043】
移送ラインは、温度計及び流量調整弁を有していてもよい。移送ラインが温度計及び流量調整弁を有していることで、所望の温度の熱媒を所望の流量で移送先に移送することができる。
【0044】
移送ラインは、熱媒の温度を調節する温度調節部を有していてもよい。移送ラインが温度調節部を有していることで、熱媒の温度を所望の温度に調節することができる。
移送ラインが原料乾燥部に熱媒を移送する場合、熱媒の温度を60℃~120℃の範囲に調節してもよい。
移送ラインが未分解残渣処理部又はガス処理部に熱媒を移送する場合、熱媒の温度を150℃~300℃の範囲に調節してもよい。熱媒の温度は、例えば、未分解残渣が溶融される温度範囲に適宜調整することができる。
【0045】
移送ラインは、断熱処理されていてもよい。移送ラインが断熱処理されていることで、熱媒が熱分解ガスから受け取った熱を効率よく移送先に移送することができる。断熱処理された移送ラインの構成として具体的には、熱媒を移送する配管の周囲に断熱材が配置されている構成、熱媒を移送する配管が2重構造になっており外側の層が断熱機能を有する構成などが挙げられる。
【0046】
移送ラインは、熱媒に含まれる水分又は有機溶媒等の液体、これが気化した気体又は異物の除去装置を有していてもよい。移送ラインが液体、気体又は異物の除去装置を有していることで、熱媒に混入した液体、気化した気体又は異物を除去することができ、熱媒を持続的に利用することができる。液体、気体又は異物の除去装置としては、吸着剤、吸収剤、金属触媒、フィルター等の公知の手段を特に制限なく、必要に応じて組み合わせて使用することができる。
【0047】
(原料乾燥部)
本実施形態の再生装置は、原料乾燥部を含んでいてもよい。原料乾燥部は、熱分解部に供給される(メタ)アクリル系重合体に含まれる液体(例えば、水、有機溶媒など)を乾燥して除去する。
以下、(メタ)アクリル系重合体に含まれる液体を乾燥して除去する処理を「(メタ)アクリル系重合体の乾燥処理」ともいう。
本開示において、(メタ)アクリル系重合体の乾燥処理には、(メタ)アクリル系重合体に含まれる液体を部分的に除去する処理と、(メタ)アクリル系重合体に含まれる液体を完全に除去する処理とが含まれる。
【0048】
乾燥処理前の(メタ)アクリル系重合体の液体含有率は特に制限されない。例えば、乾燥処理前の(メタ)アクリル系重合体の水液体含有率が5質量%以上、10質量%、又は15質量%以上であると、乾燥処理を行うことの効果がより大きい。液体が水の場合、上記液体含有率は水分含有率となる。
(メタ)アクリル系重合体の乾燥処理は、例えば、乾燥処理後の(メタ)アクリル系重合体の液体含有率が1質量%以下となるように行うことが好ましく、0.5質量%以下となるように行うことがより好ましく、0.1質量%以下となるように行うことがさらに好ましい。
【0049】
(メタ)アクリル系重合体を乾燥させる際に、温度、相対湿度、気流、気圧等の(メタ)アクリル系重合体の周囲環境の条件の1つ又は2つ以上を調節して(メタ)アクリル系重合体に含まれる液体の蒸発を促進してもよい。(メタ)アクリル系重合体の乾燥後の液体量をコントロールしやすい観点から、温度又は気流のいずれか一方を調整する方法を少なくとも採用する方法が好ましく、温度及び気流の両方を調整する方法を採用してもよい。
(メタ)アクリル系重合体の乾燥を促進するために、(メタ)アクリル系重合体を加熱してもよい。この場合、(メタ)アクリル系重合体の加熱は、移送ラインによって原料乾燥部に移送された熱媒を用いて行ってもよい。
原料の乾燥を効率よく行う観点から、移送ラインは原料乾燥部の上部又は下部に熱媒を移送することが好ましく、下部に移送することがより好ましい。本開示において原料乾燥部の下部とは、重力方向において原料と接触する部位(例えば、原料を収容する容器の底部、原料を搬送するコンベアの底部など)を意味する。
原料の乾燥を効率よく行う観点から、原料乾燥部は撹拌機を備えてもよい。
【0050】
原料を十分に乾燥するために、原料を乾燥する時間は4時間以上とすることが好ましい。原料乾燥部の容量は、熱分解部における時間当たりの処理量の4倍以上であってもよい。
【0051】
原料の乾燥を効率よく行う観点から、原料乾燥部において原料と熱媒とを接触させることが好ましい。具体的には、移送ラインの開口部から放出された熱媒を原料と接触させることが好ましい。
原料と熱媒との接触は、閉鎖空間で実施しても、開放空間で実施してもよい。
原料と熱媒とを接触させる場合、原料と接触させた後の熱媒は移送ラインによって回収されても、移送ラインによって回収されなくてもよい。
【0052】
〈原料乾燥の具体例〉
以下、移送ラインで熱媒を原料乾燥部に移送する形態の具体例を記載するが、本発明の実施形態は以下の例に限られず、同様の効果が得られるよう適宜設計変更を行うことができる。
【0053】
熱媒が気体であって、移送ラインが原料乾燥部の上部に熱媒を移送させる場合、熱媒を移送ラインから導出して原料と接触させる形態としてもよい。この形態としては、例えば、原料に熱媒を吹き付ける形態が挙げられる。この形態では、吹き付けた熱媒を回収してもよいし、大気開放してもよい。
熱媒が気体であって、移送ラインが原料乾燥部の下部に熱媒を移送させる場合、下記(1)又は(2)の形態としてもよい。
(1)熱媒を移送ラインから導出して原料に接触させる形態
(2)原料乾燥部に移送ラインを配置する形態
(1)の形態では、熱媒を回収してもよいし、大気開放してもよい。(2)の形態では、例えば、移送ラインを原料乾燥部の周壁に沿って配置して乾燥部又は乾燥部内の原料を加熱する方法、移送ラインが原料と接触するように配置して原料を加熱する方法などが挙げられる。この場合、移送ライン上の断熱材は、設けないか効率よく乾燥できる程度に設けるなど、適宜調整すればよい。
【0054】
熱媒が液体であって、移送ラインが原料乾燥部の上部に熱媒を移送させる場合、原料乾燥部に移送ラインを配置する形態としてもよい。この形態としては、例えば、移送ラインを原料乾燥部の周壁に沿って配置して乾燥部又は乾燥部内の原料を加熱する方法、移送ラインが原料と接触するように配置して原料を加熱する方法などが挙げられる。この場合、移送ライン上の断熱材は、設けないか効率よく乾燥できる程度に設けるなど、適宜調整すればよい。
熱媒が液体であって、移送ラインが原料乾燥部の下部に熱媒を移送させる場合、上部に熱媒を移送させる場合と同様の形態が挙げられる。
【0055】
(ガス処理部)
本開示の再生装置は、熱分解部で発生する熱分解ガスを処理するガス処理部を備えていてもよい。
熱分解ガスの処理方法は特に制限されず、公知の方法から選択できる。
熱分解ガスを処理する手段としては、熱分解ガスを冷却して液化する冷却部、熱分解物ガスに含まれる(メタ)アクリル基を有するモノマーの純度を高めるための精製部、冷却により液化した(メタ)アクリル基を有するモノマーを貯蔵するタンク等の公知の手段を特に制限なく、必要に応じて組み合わせて採用することができる。
ガス処理部は、熱分解ガスを冷却する冷却部、及び熱分解ガスを精製する精製部からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0056】
〈ガス処理部での具体例〉
以下、移送ラインで熱媒をガス処理部、具体的には精製部に移送する形態の具体例を記載する。本発明の実施形態は以下の例に限られず、同様の効果が得られるよう適宜設計変更を行うことができる。
【0057】
熱媒をガス処理部、特に精製部に移送する場合、下記(1)又は(2)の形態としてもよい。
(1)精製部で精製する組成物を加熱する形態
(2)精製部を加熱する形態
(1)の形態としては、精製部で精製する組成物の一部を精製部から導出して精製部の上部から精製部に導入して循環させる装置又は配管において、当該装置又は配管を熱媒で加熱する方法が挙げられる。
(2)の形態としては、移送ラインを精製部の外部周壁に沿って配置して精製部を加熱する方法がある。
いずれの形態においても、移送ライン上の断熱材は、設けないか効率よく乾燥できる程度に設けるなど、適宜調整すればよい。
【0058】
(原料供給部)
本開示の再生装置は、原料としての(メタ)アクリル系重合体を熱分解部に供給する原料供給部をさらに備えていてもよい。
原料の供給方法は特に制限されず、公知の方法から選択できる。
原料供給部は、原料の破砕等の加工を行う加工器、原料に含まれる異物を検知する検知器、原料の投入量を制御する計量器等を備えてもよい。
原料供給部は、上述した原料乾燥部と一体化していてもよく、原料乾燥部と独立した装置であってもよい。原料供給部が独立した装置である場合、原料供給部は原料乾燥部より前(上流)に設けられてもよく、原料乾燥部の後(下流)に設けられてもよい。
【0059】
(不純物ガス処理部)
本開示の再生装置は、熱分解部で発生する不純物ガスを処理する不純物ガス処理部を備えていてもよい。
本開示において不純物ガスとは、熱分解部で発生する熱分解ガスに含まれる(メタ)アクリル基を有するモノマー以外の成分をいう。不純物ガスとしては、塩素ガス、水蒸気などが挙げられる。
不純物ガスの処理方法は特に制限されず、公知の方法から選択できる。
不純物ガスを処理する手段としては、吸着剤、吸収剤、金属触媒、フィルター等の公知の手段を特に制限なく、必要に応じて組み合わせて採用することができる。
吸着剤として具体的には、アルミナ、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化鉄、水酸化鉄、炭素、ゼオライト、酸化鉄および/または金属鉄と炭素とからなる複合体、酸化カルシウムと炭素とからなる複合体、酸化鉄および/または金属鉄と炭酸カルシウムおよび/または酸化カルシウムと炭素とからなる複合体などが挙げられる。
吸収剤として具体的には、還元剤と塩基とを含む水溶液が挙げられる。この水溶液と熱分解ガスとを接触させることで、熱分解ガス中の不純物を吸収することができる。塩基は、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウム(NaHCO)からなる群から選択することが好ましい。また還元剤は、亜硫酸ナトリウム、過酸化水素、チオ硫酸ナトリウム及び重亜硫酸(又は亜硫酸水素)ナトリウム(NaHSO)からなる群から選択することが好ましい。
不純物ガス処理部で使用する吸着剤又は吸収剤は、1種でも2種以上であってもよい。
【0060】
熱分解ガスからの不純物ガスの除去効率を高める観点からは、吸着剤又は吸収剤は、熱分解ガスとの接触面積が大きいことが好ましい。かかる観点から、吸着剤又は吸収剤は粒子状であることが好ましい。
【0061】
(分縮部)
本開示の再生装置は、熱分解ガスに含まれる不純物の少なくとも一部を凝縮する分縮部をさらに備えていてもよい。
分縮部は、例えば、熱分解ガスを(メタ)アクリル基を有するモノマーの凝縮点以上、かつ、熱分解ガスに含まれる不純物の凝縮点未満の温度まで冷却するものであってもよい。
再生装置が分縮部を備えていることで、例えば、熱分解部から排出される熱分解ガスに含まれ、かつ、(メタ)アクリル酸エステルを主成分とするモノマーよりも高い温度で凝縮する不純物(以下、高凝縮点不純物ともいう)を選択的に凝縮させることができる。すなわち、分縮部は、熱分解ガスを(メタ)アクリル基を有するモノマーを含む気体中に不純物が凝縮して形成される液滴が存在する状態(ミスト状)に変換することができる。
【0062】
分縮部によって冷却された後の熱分解ガスの温度は、熱分解ガスに含まれる成分の種類に応じて設定できる。例えば、熱分解ガスが(メタ)アクリル基を有するモノマーとして(メタ)アクリル酸メチルを含む場合には、分縮部によって冷却された後の熱分解ガスの温度は100℃~420℃とすることが好ましく、100℃~300℃とすることがより好ましく、100℃~200℃とすることがさらに好ましい。
【0063】
分縮部によって冷却された後の熱分解ガスから凝縮した不純物を除去してもよい。不純物を除去する方法は特に制限されず、公知の方法により実施することができる。
例えば、熱分解ガスに液滴の状態で含まれる不純物をデミスター、重力沈降分級機等の捕集装置で捕集してもよい。
【0064】
(残渣貯蔵部)
本開示の再生装置は、熱分解部から排出された残渣を貯蔵する残渣貯蔵部をさらに備えていてもよい。
残渣の貯蔵方法は特に制限されず、公知の方法から選択できる。
残渣貯蔵部は、残渣を処分可能な状態に加工する加工器等を備えてもよい。
残渣の貯蔵方法は特に制限されず、公知の方法から選択できる。
【0065】
〈残渣貯蔵部での具体例〉
以下、移送ラインで熱媒を残渣貯蔵部に移送する形態の具体例を記載する。本発明の実施形態は以下の例に限られず、同様の効果が得られるよう適宜設計変更を行うことができる。
【0066】
熱媒を残渣貯蔵部に移送する場合、下記(1)又は(2)の形態としてもよい。
(1)熱分解部の残渣排出口から残渣貯蔵部までの間を加熱する形態
(2)残渣貯蔵部を加熱又は保温のように温度調整する形態
(1)及び(2)の各形態としては、未分解残渣を残渣貯蔵部に移送又は保管する際に、未分解残渣の温度を溶融温度以上、かつ発火点未満の温度に調整すること、またこの温度にて未分解残渣を保温する方法が挙げられる。
(1)の形態としては、移送ラインを熱分解部の残渣排出口から残渣貯蔵部までの間の領域(例えば配管)の周壁に沿って移送ラインを配置し、当該領域を加熱又は保温する方法が挙げられる。
(2)の形態としては、残渣貯蔵部の周壁に沿って移送ラインを配置し、残渣貯蔵部を加熱又は保温する方法がある。
いずれの形態においても、移送ライン上の断熱材は、設けないか効率よく乾燥できる程度に設けるなど、適宜調整すればよい。
【0067】
<第2実施形態>
本開示の第2実施形態は、
(メタ)アクリル系重合体の熱分解を行って熱分解ガスを得る熱分解工程と、
前記熱分解ガスから熱媒に熱を移動させる熱交換工程と、
前記熱媒を移送する移送工程と、を含む、(メタ)アクリル系重合体の再生方法である。
本実施形態の再生方法は、第1実施形態の再生装置を用いて実施してもよい。
【0068】
熱分解工程、熱交換工程及び移送工程の実施に関する詳細及び好ましい態様は、第1実施形態の再生装置における熱分解部、熱交換部及び移送ラインに関する詳細及び好ましい態様と同様である。
【0069】
本実施形態の再生方法は、熱分解工程で熱分解される(メタ)アクリル系重合体を乾燥する原料乾燥工程をさらに備えてもよい。この場合、移送工程で移送される熱媒は(メタ)アクリル系重合体の乾燥に利用されてもよい。
【0070】
本実施形態の再生方法は、熱分解工程で生成する未分解残渣を処理する残渣処理工程をさらに備えてもよい。この場合、移送工程で移送される熱媒は未分解残渣の処理に利用されてもよい。
【0071】
本実施形態の再生方法は、熱分解工程で生成する熱分解ガスを処理するガス処理工程をさらに備えてもよい。この場合、移送工程で移送される熱媒は熱分解ガスの処理に利用されてもよい。
【0072】
本実施形態の再生方法は、(メタ)アクリル系重合体を供給する原料供給工程、熱分解部で発生する不純物ガスを処理する不純物ガス処理工程、及び/又は熱分解ガスに含まれる不純物の少なくとも一部を凝縮する分縮工程をさらに備えてもよい。
原料供給工程、分縮工程及び不純物ガス処理工程の実施に関する詳細及び好ましい態様は、第1実施形態の再生装置における原料供給部、分縮部、及び不純物ガス処理部に関する詳細及び好ましい態様と同様である。
【0073】
本実施形態の再生方法によれば、原料に含まれる(メタ)アクリル系重合体が熱分解によって(メタ)アクリル基を有するモノマーの状態に再生される。
再生された(メタ)アクリル基を有するモノマーは、例えば、(メタ)アクリル系重合体の原料モノマーとして利用される。
【0074】
本実施形態の再生方法で得られる(メタ)アクリル基を有するモノマーは、(メタ)アクリル酸メチルを含んでもよい。
本実施形態の再生方法で得られる(メタ)アクリル基を有するモノマーは、(メタ)アクリル酸メチルと、不可避的に含まれうる(メタ)アクリル酸メチル以外のモノマー(イソ酪酸メチル、プロピオン酸メチル、アクリル酸メチル等)との混合物であってもよい。この場合、混合物中の(メタ)アクリル酸メチル以外のモノマーは除去しても、除去しなくてもよい。
【0075】
<第3実施形態>
本開示の第3実施形態は、
(メタ)アクリル系重合体の熱分解を行って熱分解ガスを得る熱分解工程と、
前記熱分解ガスから熱媒に熱を移動させる熱交換工程と、
前記熱媒を移送する移送工程と、を含む、(メタ)アクリル基を有するモノマーの製造方法である。
本実施形態の製造方法は、第1実施形態の再生装置を用いて実施してもよい。
【0076】
熱分解工程、熱交換工程及び移送工程の実施に関する詳細及び好ましい態様は、第1実施形態の再生装置における熱分解部、熱交換部及び移送ラインに関する詳細及び好ましい態様と同様である。
【0077】
本実施形態の製造方法は、熱分解工程で熱分解される(メタ)アクリル系重合体を乾燥する原料乾燥工程をさらに備えてもよい。この場合、移送工程で移送される熱媒は(メタ)アクリル系重合体の乾燥に利用されてもよい。
【0078】
本実施形態の製造方法は、熱分解工程で生成する未分解残渣を処理する残渣処理工程をさらに備えてもよい。この場合、移送工程で移送される熱媒は未分解残渣の処理に利用されてもよい。
【0079】
本実施形態の製造方法は、熱分解工程で生成する熱分解ガスを処理するガス処理工程をさらに備えてもよい。この場合、移送工程で移送される熱媒は熱分解ガスの処理に利用されてもよい。
【0080】
本実施形態の製造方法は、(メタ)アクリル系重合体を供給する原料供給工程、熱分解部で発生する不純物ガスを処理する不純物ガス処理工程、及び/又は熱分解ガスに含まれる不純物の少なくとも一部を凝縮する分縮工程をさらに備えてもよい。
原料供給工程、分縮工程及び不純物ガス処理工程の実施に関する詳細及び好ましい態様は、第1実施形態の再生装置における原料供給部、分縮部、及び不純物ガス処理部に関する詳細及び好ましい態様と同様である。
【0081】
本実施形態の製造方法によれば、原料に含まれる(メタ)アクリル系重合体の熱分解物としての(メタ)アクリル基を有するモノマーが得られる。
熱分解物として得られた(メタ)アクリル基を有するモノマーは、例えば、(メタ)アクリル系重合体の原料モノマーとして利用される。
【0082】
本実施形態の製造方法で得られる(メタ)アクリル基を有するモノマーは、例えば、(メタ)アクリル系重合体の原料モノマーとして利用される。
【0083】
本実施形態の製造方法で得られる(メタ)アクリル基を有するモノマーは、(メタ)アクリル酸メチルを含んでもよい。
本実施形態の製造方法で得られる(メタ)アクリル基を有するモノマーは、(メタ)アクリル酸メチルと、不可避的に含まれうる(メタ)アクリル酸メチル以外のモノマー(イソ酪酸メチル、プロピオン酸メチル、アクリル酸メチル等)との混合物であってもよい。この場合、混合物中の(メタ)アクリル酸メチル以外のモノマーは除去しても、除去しなくてもよい。
【0084】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について具体的に説明する。なお、各図面に示される構成要素は本開示の要旨から逸脱しない範囲で改変可能である。
【0085】
図1は、第1実施形態の再生装置の構成の一例を概略的に示す図である。図中の矢印は(メタ)アクリル系重合体の再生処理の流れ方向又は熱媒の移送方向を表す。
図1に示す再生装置100は、原料乾燥部1と、熱分解部2と、熱交換部3と、ガス処理部4と、未分解残渣処理部5と、を備えている。
図1に示す再生装置100はさらに、熱交換部3から原料乾燥部1に熱媒を移送する移送ラインAと、原料乾燥部1から熱交換部3に熱媒を移送する移送ラインBと、を備えている。
【0086】
図1に示す再生装置100では、移送ラインが熱交換部3から原料乾燥部1に熱媒を移送する移送ラインAと、原料乾燥部1から熱交換部3に熱媒を移送する移送ラインBと含んでいる(すなわち、移送ラインが循環式である)が、本開示の再生装置はこれに限定されない。例えば、移送ラインが熱交換部3から原料乾燥部1に熱媒を移送する移送ラインAのみからなってもよい。
【0087】
図1に示す再生装置100では、移送ラインが熱交換部3と原料乾燥部1との間に設けられているが、本開示の再生装置はこれに限定されない。例えば、移送ラインが熱交換部3とガス処理部4との間、又は、熱交換部3と未分解残渣処理部5との間に設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0088】
100 再生装置
1 原料乾燥部
2 熱分解部
3 熱交換部
4 ガス処理部
5 未分解残渣処理部
A、B 移送ライン
【要約】
【課題】リサイクル処理に消費されるエネルギーの利用効率に優れる(メタ)アクリル系重合体の再生装置、(メタ)アクリル系重合体の再生処理方法、および(メタ)アクリル酸エステルの製造方法を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル系重合体の熱分解を行って熱分解ガスを得る熱分解部と、前記熱分解ガスから熱媒に熱を移動させる熱交換部と、前記熱媒を移送する移送ラインと、を備える、(メタ)アクリル系重合体の再生装置。
【選択図】図1
図1