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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】メタロセンホウ素多置換誘導体
(51)【国際特許分類】
   C07F 5/02 20060101AFI20240920BHJP
   C07F 17/00 20060101ALI20240920BHJP
   C07F 19/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C07F5/02 D CSP
C07F17/00
C07F19/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019237249
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021104977
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】503092180
【氏名又は名称】学校法人関西学院
(73)【特許権者】
【識別番号】521180485
【氏名又は名称】エスケーマテリアルズジェイエヌシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】畠山 琢次
(72)【発明者】
【氏名】笹田 康幸
(72)【発明者】
【氏名】後藤 真由美
(72)【発明者】
【氏名】馬場 大輔
【審査官】谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/078092(WO,A1)
【文献】特開2019-043940(JP,A)
【文献】特開2013-183010(JP,A)
【文献】Appel, Andrea; Noth, Heinrich,Synthesis and structures of new borylferrocenes, and structures of 2-chalcogeno-bis(aminoboryl)[3]ferrocenophanes and 1,1'-tris(dimethylaminoboryl)[3]ferrocenophane[1,2].,Zeitschrift fuer Anorganische und Allgemeine Chemie ,2010年,636(13-14),p.2329-2342
【文献】Mulvaney, J. E.; Bloomfield, Jordan J.; Marvel, C. S.,Poly(benzborimidazolines).,Journal of Polymer Science ,1962年,62,p.59-72
【文献】Fabrizi de Biani, et al.,Multistep Redox Processes and Intramolecular Charge Transfer in Ferrocene-Based 2,2'-Bipyridylboronium Salts.,Organometallics,1997年,16(22),p.4776-4787
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 5/02
C07F 17/00
C07F 19/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
いずれかのシクロペンタジエニル環にホウ素において結合しているホウ素含有置換基を2つ以上有するメタロセンホウ素多置換誘導体であって、
前記ホウ素含有置換基の少なくとも1つが下記式(a)~(e)のいずれかで表される基であり、
式(a)~(e)のいずれかで表される基以外のホウ素含有置換基として、-B(OH) 2 、-B(OR a 2 、式(f)~(q)のいずれかで表される基、フッ化ホウ素基、および-BI 2 からなる群より選択されるホウ素含有置換基を少なくとも1つ含み、
a は、炭素数1~9のアルキルであり、
式(a)~式(q)中、*は結合位置を示し、R 1 ~R 8 は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、水酸基、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アリール、またはヘテロアリールを示す、
メタロセンホウ素多置換誘導体。
【化1】
【請求項2】
前記ホウ素含有置換基の少なくとも1つが式(a)で表される基である、請求項1に記載のメタロセンホウ素多置換誘導体。
【請求項3】
式(10)で表される、請求項2に記載のメタロセンホウ素多置換誘導体;
【化2】
式(10)中、MはFe、Ni、Ru、Mn、Cr、Co、Os、またはVであり、
1は、それぞれ独立して、水素、-B(OH)2、-B(ORa2、式(a)~(q)のいずれかで表される基、フッ化ホウ素基、または-BI2であり、
ただし、少なくとも1つのY1-B(OH) 2 、-B(OR a 2 、式(f)~(q)のいずれかで表される基、フッ化ホウ素基、または-BI 2 である。
【請求項4】
式(a)~(e)のいずれかで表される基以外のホウ素含有置換基として、-B(OH)2、式(n)で表される基、フッ化ホウ素基、および-BI2からなる群より選択されるホウ素含有置換基を少なくとも1つ含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のメタロセンホウ素多置換誘導体。
【請求項5】
1 ~R 8 、それぞれ独立して、水素、炭素数1~9のアルキル、炭素数1~9のアルコキシ、炭素数2~8のアルケニル、フェニル、ナフチル、アントラセニル、ピレニル、トリフェニレニル、クリセニル、ペリレニル、カルバゾリル、ジベンゾフラニル、またはジベンゾチオフェニルである、請求項1~4のいずれか一項に記載のメタロセンホウ素多置換誘導体。
【請求項6】
1~R8が、それぞれ独立して、水素または炭素数1~9のアルキルである、請求項5に記載のメタロセンホウ素多置換誘導体。
【請求項7】
式(n)で表される基を含み、式(n)においてR 1 ~R 4 は、いずれもメチルである、請求項1~6のいずれか一項に記載のメタロセンホウ素多置換誘導体。
【請求項8】
メタロセン中の金属がFeである、請求項1~7のいずれか一項に記載のメタロセンホウ素多置換誘導体。
【請求項9】
以下のいずれかの式で表されるメタロセンホウ素多置換誘導体。
【化3】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタロセンホウ素多置換誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
フェロセンなどのメタロセンはシクロペンタジエニルアニオンを配位子として有する有機金属化合物であり、触媒などの用途が知られている。一方、有機ホウ素化合物は、有機合成における重要な合成中間体として知られているほか、近年は発光材料として数多くの化合物が合成され、有機電界発光素子などの有機デバイスに使用されている。
【0003】
ホウ素化メタロセン化合物については特許文献1に、ホウ素化フェロセン化合物をフッ化物またはシアン化物のセンサーに使用することについて開示されている。
【0004】
ホウ素化フェロセン化合物の製造方法としては、特許文献1にn-BuLiを用いた方法が開示されている。さらに特許文献2には三ヨウ化ホウ素を用いた方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2008/78092号
【文献】特開2019-43940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ホウ素化メタロセン化合物の一例としてホウ素多置換体が特許文献1に開示されている。しかし、特許文献1に記載のn-BuLiを用いる方法の場合は、非常に低温での反応条件が必要のため実用的ではない。また、特許文献2にはフェロセンのホウ素単置換体を製造した例が示されているがホウ素多置換体を製造した例の記載はない。
本発明は新規メタロセンホウ素多置換誘導体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討し三ヨウ化ホウ素を原料メタロセンに反応させる課程を含む方法によって、ホウ素上に窒素が2つ置換した構造を有するホウ素含有置換基を有するメタロセンホウ素多置換誘導体を新規化合物として得た。そして、さらに検討を重ね、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下のようなメタロセンホウ素多置換誘導体、それを用いたメタロセン誘導体の製造方法を提供するものである。
【0008】
<1>メタロセンホウ素多置換誘導体であって、
いずれかのシクロペンタジエニル環にホウ素において結合しているホウ素含有置換基を2つ以上有し、
前記ホウ素含有置換基の少なくとも1つが下記式(a)~(e)のいずれかで表される基である、メタロセンホウ素多置換誘導体。
【0009】
【化1】
(式(a)~式(e)中、*は結合位置を示し、R1~R8は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、水酸基、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アリール、またはヘテロアリールを示す。)
【0010】
<2>前記ホウ素含有置換基の少なくとも1つが式(a)で表される基である、<1>に記載のメタロセンホウ素多置換誘導体。
【0011】
<3>式(10)で表される、<2>に記載のメタロセンホウ素多置換誘導体;
【化2】
【0012】
式(10)中、MはFe、Ni、Ru、Mn、Cr、Co、Os、またはVであり、
1は、それぞれ独立して、水素、-B(OH)2、-B(ORa2、式(a)~(q)のいずれかで表される基、フッ化ホウ素基、または-BI2であり、
ただし、少なくとも1つのY1は水素以外の基であり、
aは、水素または炭素数1~30のアルキルであり、当該アルキルにおける任意の-CH2-は-O-、-S-、-CO-、>N-Rまたは-SiH2-で置換されていてもよく、任意の-CH2CH2-は-CH=CH-または-C≡C-で置換されていてもよく、前記>N-RのRはアルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいアリール、アルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいヘテロアリール、またはハロゲンで置換されていてもよいアルキルであり、Ra中、少なくとも1つの水素はハロゲンで置換されていてもよく、
式(a)~式(q)中、*は結合位置を示し、R1~R8は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、水酸基、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アリール、またはヘテロアリールを示す。
【0013】
【化3】
【0014】
<4>式(a)~(e)のいずれかで表される基以外のホウ素含有置換基として、-B(OH)2、-B(ORa2、式(f)~(q)のいずれかで表される基、フッ化ホウ素基、および-BI2からなる群より選択されるホウ素含有置換基を少なくとも1つ含み、
aは、水素または炭素数1~30のアルキルであり、当該アルキルにおける任意の-CH2-は-O-、-S-、-CO-、>N-Rまたは-SiH2-で置換されていてもよく、任意の-CH2CH2-は-CH=CH-または-C≡C-で置換されていてもよく、前記>N-RのRはアルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいアリール、アルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいヘテロアリール、またはハロゲンで置換されていてもよいアルキルであり、Ra中、少なくとも1つの水素はハロゲンで置換されていてもよく、
式(f)~式(q)中、*は結合位置を示し、R1~R8は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、水酸基、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アリール、またはヘテロアリールを示す、<1>~<3>のいずれかに記載のメタロセンホウ素多置換誘導体。
【0015】
【化4】
【0016】
<5>式(a)~(e)のいずれかで表される基以外のホウ素含有置換基として、-B(OH)2、式(n)で表される基、フッ化ホウ素基、および-BI2からなる群より選択されるホウ素含有置換基を少なくとも1つ含む、<4>に記載のメタロセンホウ素多置換誘導体。
<6>Raが炭素数1~9のアルキルであり、
1~R8が、それぞれ独立して、水素、炭素数1~9のアルキル、炭素数1~9のアルコキシ、炭素数2~8のアルケニル、フェニル、ナフチル、アントラセニル、ピレニル、トリフェニレニル、クリセニル、ペリレニル、カルバゾリル、ジベンゾフラニル、またはジベンゾチオフェニルである、<1>~<5>のいずれかに記載のメタロセンホウ素多置換誘導体。
<7>R1~R8が、それぞれ独立して、水素または炭素数1~9のアルキルである、<6>に記載のメタロセンホウ素多置換誘導体。
<8><1>~<7>のいずれかに記載のメタロセンホウ素多置換誘導体を含む有機デバイス。
<9>いずれかのシクロペンタジエニル環に結合している置換基として二種以上の置換基を有するメタロセン多置換誘導体の製造方法であって、<4>または<5>に記載のメタロセンホウ素多置換誘導体を製造中間体として用いる、製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明により新規メタロセンホウ素多置換誘導体が提供される。本発明のメタロセンホウ素多置換誘導体は、種々のメタロセン多置換誘導体製造のための合成中間体として用いることができる。また、本発明のメタロセンホウ素多置換誘導体は、有機電界発光素子などの有機デバイスで使用される発光材料または電荷輸送材料などの用途が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、本明細書において構造式の説明における「水素」は「水素原子(H)」を意味する。
【0019】
本明細書において化学構造や置換基を炭素数で表すことがあるが、化学構造に置換基が置換した場合や、置換基にさらに置換基が置換した場合などにおける炭素数は、化学構造や置換基それぞれの炭素数を意味し、化学構造と置換基の合計の炭素数や、置換基と置換基の合計の炭素数を意味するものではない。例えば、「炭素数Xの置換基Aで置換された炭素数Yの置換基B」とは、「炭素数Yの置換基B」に「炭素数Xの置換基A」が置換することを意味し、炭素数Yは置換基Aおよび置換基Bの合計の炭素数ではない。また例えば、「置換基Aで置換された炭素数Yの置換基B」とは、「炭素数Yの置換基B」に「(炭素数限定がない)置換基A」が置換することを意味し、炭素数Yは置換基Aおよび置換基Bの合計の炭素数ではない。
【0020】
1.メタロセンホウ素多置換誘導体
メタロセンは2つのシクロペンタジエニルアニオンを配位子として有する有機金属化合物であり、本発明においてメタロセン中の金属としては2配位の金属が好ましい。メタロセン中の金属がFeである化合物はフェロセンである。メタロセンホウ素多置換誘導体はメタロセンに少なくとも2つのホウ素含有置換基が置換しているメタロセン誘導体であり、メタロセンホウ素四置換誘導体はメタロセンに4つのホウ素含有置換基が置換しているメタロセン誘導体である。ホウ素含有置換基はホウ素でシクロペンタジエニル環に結合しているものとする。シクロペンタジエニル環に2つのホウ素含有置換基が置換するとき、ホウ素含有置換基の置換位置は2つのシクロペンタジエニル環それぞれの1位と3位であることが好ましい。すなわち、メタロセンホウ素多置換誘導体がメタロセンホウ素四置換誘導体であるとき、1,1',3,3'-置換体であることが好ましい。また、メタロセンホウ素多置換誘導体が2つのホウ素含有置換基を有するとき、2つのホウ素含有置換基は同一のシクロペンタジエニル環に結合していてもよく、異なるシクロペンタジエニル環に結合していてもよいが、異なるシクロペンタジエニル環に結合していることが好ましい。
【0021】
メタロセンホウ素多置換誘導体の立体構造はホウ素含有置換基の種類および数によって異なり特に限定されない。
メタロセンホウ素多置換誘導体は置換するホウ素含有置換基の数および種類によって、エネンチオマーまたはジアステレオマーが存在し得るが、記載されている構造式にかかわらず、いずれの純粋な形態の任意の立体異性体、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体などは、いずれも本発明の範囲に包含されるものとする。
【0022】
本発明のメタロセンホウ素多置換誘導体は、いずれかのシクロペンタジエニル環にホウ素において結合しているホウ素含有置換基を2つ以上有し、前記ホウ素含有置換基の少なくとも1つが式(a)~(e)のいずれかで表される基である。本発明のメタロセンホウ素多置換誘導体は、ホウ素含有置換基を2つ以上有し、2~6個有することが好ましく、2~4個含むことが好ましい。本発明のメタロセンホウ素多置換誘導体は、式(a)~(e)のいずれかで表される基を1つ以上有し、1~4個有することが好ましく、1~3個有することがより好ましい。式(a)~(e)のいずれかで表される基のうち、式(a)で表される基が特に好ましい。
本発明のメタロセンホウ素多置換誘導体は、ホウ素含有置換基以外の置換基を有していてもよい。
【0023】
本発明のメタロセンホウ素多置換誘導体は式(a)~(e)のいずれかで表される基以外のホウ素含有置換基として、-B(OH)2、-B(ORa2、式(f)~(q)のいずれかで表される基、フッ化ホウ素基、および-BI2からなる群より選択される選択される他のホウ素含有置換基を少なくとも1つ含むことが好ましい。カップリング反応で他の置換基に変換できる置換基と変換できない置換基とを同時に有する構造であり、多様なメタロセン多置換誘導体の製造のための製造中間体として特に有用であるからである。例えば-B(OH)2などの上記のホウ素含有置換基はカップリング反応で様々な置換基に変換できるが式(a)~(e)のいずれかで表される基は,カップリング反応で変換できない。これを利用して、カップリング反応できるホウ素含有置換基だけを先に変換し、その後式(a)~(e)のいずれかで表される基を-B(OH)2等に変換することによって、別の置換基をカップリング反応により導入できるからである。すなわち、式(a)~(e)のいずれかで表される基とともに上記の他のホウ素含有置換基をともに有するメタロセンホウ素多置換誘導体を出発物質として、異なる置換基が位置に導入されたメタロセン多置換誘導体を得ることができる。
【0024】
上記定義において、Raは、水素または炭素数1~30のアルキルであり、当該アルキルにおける任意の-CH2-は-O-、-S-、-CO-、>N-Rまたは-SiH2-で置換されていてもよく、任意の-CH2CH2-は-CH=CH-または-C≡C-で置換されていてもよく、前記>N-RのRはアルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいアリール、アルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいヘテロアリール、またはハロゲンで置換されていてもよいアルキルであり、Ra中、少なくとも1つの水素はハロゲンで置換されていてもよい。
また、式(a)~(q)は以下のとおりである。
【0025】
【化5】
【0026】
式(a)~式(q)中、*は結合位置を示し、R1~R8は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、水酸基、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アリール、またはヘテロアリールを示す。
【0027】
aおよびR1~R8において、「アルキル」としては、直鎖および分岐鎖のいずれでもよく、例えば、炭素数1~24の直鎖アルキルまたは炭素数3~24の分岐鎖アルキルが挙げられる。炭素数1~18のアルキル(炭素数3~18の分岐鎖アルキル)が好ましく、炭素数1~9のアルキル(炭素数3~9の分岐鎖アルキル)がより好ましく、炭素数1~6のアルキル(炭素数3~6の分岐鎖アルキル)がさらに好ましく、炭素数1~4のアルキル(炭素数3~4の分岐鎖アルキル)が特に好ましい。
【0028】
具体的な「アルキル」としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、t-ペンチル、n-ヘキシル、1-メチルペンチル、4-メチル-2-ペンチル、3,3-ジメチルブチル、2-エチルブチル、n-ヘプチル、1-メチルヘキシル、n-オクチル、t-オクチル、1-メチルヘプチル、2-エチルヘキシル、2-プロピルペンチル、n-ノニル、2,2-ジメチルヘプチル、2,6-ジメチル-4-ヘプチル、3,5,5-トリメチルヘキシル、n-デシル、n-ウンデシル、1-メチルデシル、n-ドデシル、n-トリデシル、1-ヘキシルヘプチル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル、n-オクタデシル、n-エイコシルなどが挙げられる。
【0029】
1~R8において、「アルケニル」としては、直鎖および分岐鎖のいずれでもよく、例えば、炭素数2~24の直鎖アルケニルまたは炭素数3~24の分岐鎖アルケニルが挙げられる。炭素数2~18のアルケニル(炭素数3~18の分岐鎖アルケニル)が好ましく、炭素数2~9のアルケニル(炭素数3~9の分岐鎖アルケニル)がより好ましく、炭素数2~6のアルケニル(炭素数3~6の分岐鎖アルケニル)がさらに好ましく、炭素数2~4のアルケニル(炭素数3~4の分岐鎖アルケニル)が特に好ましい。
【0030】
具体的な「アルケニル」としては、ビニル、アリル、1-プロペニル、2-プロペニル、イソプロペニル、1-メチル-1-プロペニル、2-メチル-1-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1,3-ブタジエニル、3-メチル-1-ブテニル、2-メチル-1-ブテニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、1-メチル-1-ペンテニル、2-メチル-1-ペンテニル、3-メチル-1-ペンテニル、4-メチル-1-ペンテニル、1-ヘキセニル、2-ヘキセニル、3-ヘキセニル、4-ヘキセニル、5-ヘキセニル、1-ヘプテニル、2-ヘプテニル、3-ヘプテニル、4-ヘプテニル、5-ヘプテニル、6-ヘプテニル、1-オクテニル、2-オクテニル、3-オクテニル、4-オクテニル、5-オクテニル、6-オクテニル、7-オクテニルなどが挙げられる。これらのうち、ビニル、アリルが好ましい。
【0031】
1~R8において、「アルコキシ」としては、例えば、炭素数1~24の直鎖または炭素数3~24の分岐鎖のアルコキシが挙げられる。炭素数1~18のアルコキシ(炭素数3~18の分岐鎖のアルコキシ)が好ましく、炭素数1~9のアルコキシ(炭素数3~9の分岐鎖のアルコキシ)がより好ましく、炭素数1~6のアルコキシ(炭素数3~6の分岐鎖のアルコキシ)がさらに好ましく、炭素数1~4のアルコキシ(炭素数3~4の分岐鎖のアルコキシ)が特に好ましい。
【0032】
具体的な「アルコキシ」としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、s-ブトキシ、t-ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシなどが挙げられる。
【0033】
1~R8において、「ハロゲン」としては、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素が挙げられる。
【0034】
1~R8において、具体的な「アリール」としては、単環系であるフェニル、二環系であるビフェニリル、縮合二環系であるナフチル(1-ナフチルまたは2-ナフチル)、三環系であるテルフェニリル(m-テルフェニリル、o-テルフェニリルまたはp-テルフェニリル)、縮合三環系である、アセナフチレニル、フルオレニル、フェナレニル、フェナントレニル、縮合四環系であるトリフェニレニル、ピレニル、ナフタセニル、縮合五環系であるペリレニル、ペンタセニルなどが挙げられる。
【0035】
1~R8において、「ヘテロアリール」としては、例えば、ピロリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、イミダゾリル、オキサジアゾリル、チアジアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、ピラゾリル、ピリジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、ピラジニル、トリアジニル、インドリル、イソインドリル、1H-インダゾリル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、1H-ベンゾトリアゾリル、キノリニル、イソキノリニル、シンノリニル、キナゾリニル、キノキサリニル、フタラジニル、ナフチリジニル、プリニル、プテリジニル、カルバゾリル、アクリジニル、フェノキサチイニル、フェノキサジニル、フェノチアジニル、フェナジニル、インドリジニル、フラニル、ベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、ジベンゾフラニル、ナフトベンゾフラニル、チオフェニル、ベンゾチオフェニル、イソベンゾチオフェニル、ジベンゾチオフェニル、ナフトベンゾチオフェニル、フラザニル、チアントレニルなどが挙げられる。
【0036】
式(a)~式(q)中、R1~R8は、それぞれ独立して、水素、炭素数1~9のアルキル、炭素数1~9のアルコキシ、炭素数2~8のアルケニル、フェニル、ナフチル、アントラセニル、ピレニル、トリフェニレニル、クリセニル、ペリレニル、カルバゾリル、ジベンゾフラニル、またはジベンゾチオフェニルであることが好ましい。R1~R8は、それぞれ独立して、水素または炭素数1~9のアルキルであることがより好ましい。式(a)においては、R1~R8は、いずれも水素であることがさらに好ましい。式(e)においては、R1~R4はいずれも水素であり、かつR5およびR6は、いずれも水素であるか、またはいずれか一方が水素で他方がメチルであることがさらに好ましい。また、式(n)においては、R1~R4は、いずれもメチルであることがさらに好ましい。
【0037】
-B(ORa2におけるRaとしては炭素数1~9のアルキルが好ましい。
フッ化ホウ素基としては、-BF3 -が塩を形成した基が挙げられ、例えば、-BF3Li、-BF3Na、-BF3Kが好ましく、BF3Kがより好ましい。
式(m)は塩を形成していればよく、Li塩、Na塩、K塩があげられ、K塩が好ましい。
【0038】
本発明のメタロセンホウ素多置換誘導体は、上述のように少なくとも1つの式(a)で表される基を有することが好ましく、例えば、式(10)で表されるメタロセンホウ素多置換誘導体であることが好ましい。
【0039】
【化6】
【0040】
式(10)中、MはFe、Ni、Ru、Mn、Cr、Co、Os、またはVであり、
1は、それぞれ独立して、水素、-B(OH)2、-B(ORa2、上記式(a)~(q)のいずれかで表される基、フッ化ホウ素基、または-BI2であり、Ra、R1~R8の定義および好ましい範囲は、それぞれ上記と同様である。
式(10)において少なくとも1つのY1は水素以外の基である。式(10)において上側のシクロペンタジエニル環に結合する2つのY1のいずれかが少なくとも水素以外の基であることが好ましい。
【0041】
本発明のメタロセンホウ素多置換誘導体の具体例としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。なお、下記構造は一例である。
【0042】
【化7】
【0043】
【化8】
【0044】
【化9】
【0045】
【化10】
【0046】
【化11】
【0047】
【化12】
【0048】
【化13】
【0049】
【化14】
【0050】
【化15】
【0051】
【化16】
【0052】
さらに具体的な例としては、以下の化合物が挙げられる。
【0053】
【化17】
【0054】
【化18】
【0055】
【化19】
【0056】
【化20】
【0057】
【化21】
【0058】
【化22】
【0059】
【化23】
【0060】
【化24】
【0061】
【化25】
【0062】
【化26】
【0063】
2.メタロセンホウ素多置換誘導体の製造方法
本発明のメタロセンホウ素多置換誘導体は公知のいずれの方法で製造してもよいが、メタロセン化合物に三ヨウ化ホウ素を反応させる工程を含む方法で製造することが好ましい。メタロセン化合物に三ヨウ化ホウ素を反応させることにより、二ヨウ化ホウ素置換メタロセンを得ることができる。さらに、この二ヨウ化ホウ素置換メタロセンにおける-BI2の少なくとも一つを-B(OH)2、-B(ORa2、式(f)~(q)のいずれかで表される基、またはフッ化ホウ素基に置換する反応等を行う。そして、置換された基の少なくとも1つを式(a)~(e)のいずれかで表される基に変換する反応を行うことにより、本発明のメタロセンホウ素多置換誘導体を得ることができる。
【0064】
2-1.二ヨウ化ホウ素置換メタロセン
上記のように、メタロセン化合物に三ヨウ化ホウ素を反応させることにより二ヨウ化ホウ素置換メタロセンを得ることができる。ここで出発物質であるメタロセン化合物はホウ素含有置換基で置換されていないものであることが好ましい。
例えば、メタロセン化合物を4モル当量超の三ヨウ化ホウ素と反応させることによって、二ヨウ化ホウ素四置換メタロセンを得ることができる。
【0065】
三ヨウ化ホウ素の添加量は製造するメタロセンホウ素多置換誘導体におけるホウ素含有置換基の数により調整すればよい。例えば、ホウ素含有置換基を4つ有するメタロセンホウ素多置換誘導体の製造のときは、二ヨウ化ホウ素四置換メタロセン5モル当量超であることが好ましく、8モル当量超であることがより好ましく、10モル当量超であることがさらに好ましい。上限としては、50モル当量以下程度であることが好ましく、20モル当量以下程度であることがより好ましい。
【0066】
上記製造方法では反応を促進させる目的で、ルイス酸を添加してもよい。ルイス酸としては、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、トリフルオロメタンスルホン酸銀(I)、塩化鉄(III)または臭化鉄(III)等が好ましい。
【0067】
上記製造方法で用いられる反応溶媒は、反応自体を阻害しないものであればよく、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンおよびオクタン、ノナン、デカン、ウンデカンおよびドデカン等の炭化水素、クロロベンゼンや1,2-ジクロロベンゼン、2,4-ジクロロトルエンおよび1,2,4-トリクロロベンゼン等のハロゲン化された芳香族炭化水素等の一般的な溶媒から選択して、単独で、または複数の溶媒を混合して用いることができる。また、反応溶媒を使用せず反応基質のみで反応させることもできる。
【0068】
上記製造方法は、適切な反応温度にて実施されることが望ましい。すなわち、-78℃から、使用される反応基質あるいは溶媒の沸点までの間で実施されることが操作を簡便にする点で好ましい。反応速度と副生成物の生成量とのバランスを考慮すると、20℃から250℃の間で実施されることがより好ましい。上記製造方法は大気中でも実施できるが、窒素およびアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で実施されることが好ましい。
【0069】
2-2.二ヨウ化ホウ素置換メタロセンの反応
上記のように得られる二ヨウ化ホウ素置換メタロセンに、水、アルコール、ジオール(Ra-OH)、ジカルボン酸(OH-R10-OH)、またはフッ化アルカリ金属(LiF,NaF,KFなど)等を反応させることにより本発明のメタロセンホウ素多置換誘導体の製造のためのさらなる製造中間体を得ることができる。例えば、二ヨウ化ホウ素四置換メタロセン(Y)に、水、アルコール(Ra-OH)またはジオールもしくはジカルボン酸(OH-R10-OH)を反応させることで、下記式(1-1)で表されるボロン酸化合物、ボロン酸エステル化合物(1-2)または下式(1-4)で表されるボロン酸エステル化合物をそれぞれ製造することができる。これらの化合物の置換基をさらに後述のように、式(a)~(e)のいずれかで表される基に変換し、本発明のメタロセンホウ素多置換誘導体を得ることができる。なお、各式中の符号は上で定義したとおりである。
【0070】
【化27】
【0071】
反応に使用する水またはアルコール「Ra-OH」におけるRaは、上述のRaと同義である。
【0072】
使用可能なアルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、シクロブタノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、1-ペンタノール、2-エチル-2-プロパノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、4-メチル-2-ペンタノール、3,3-ジメチル-1-ブタノール、2-エチル-1-ブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、1-オクタノール、1,1,3,3-テトラメチル-1-ブタノール、2-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、2-プロピル-1-ペンタノール、1-ノナノール、2,2-ジメチル-1-ヘプタノール、2,6-ジメチル-4-ヘプタノール、3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール、1-デカノール、1-ウンデカノール、2-ウンデカノール、1-ドデカノール、1-トリデカノール、6-トリデカノール、1-テトラデカノール、1-ヘプタデカノール、1-ヘキサデカノール、1-ヘプタデカノール、1-オクタデカノール、1-ノナデカノール、1-エイコサノールなどが挙げられる。
【0073】
反応に使用するジオール「OH-R10-OH」におけるR10は、炭素数1~30のアルキレンまたは炭素数6~16のアリーレンであり、前記アルキレンにおける任意の-CH2-は-O-、-S-、-CO-、>N-Rまたは-SiH2-で置換されていてもよく、任意の-CH2CH2-は-CH=CH-または-C≡C-で置換されていてもよく、少なくとも1つの水素はハロゲンで置換されていてもよく、前記アリーレンにおける少なくとも1つの水素は炭素数1~10のアルキルまたはハロゲンで置換されていてもよい。ここで、前記>N-RのRはアルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいアリール、アルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいヘテロアリール、またはアルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいアルキルである。
【0074】
炭素数1~30のアルキレンとしては、上記Raとして説明した「炭素数1~30のアルキル」の二価の基が挙げられる。
【0075】
炭素数6~16のアリーレンとしては、具体的には、1,2-フェニレン、1,4-フェニレン、1,2-ナフチレン、2,3-ナフチレンおよび4,5-ナフチレンなどが挙げられる。
【0076】
使用可能なジオールの具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、ベンゾピナコール、ピナコール、1-(1-ヒドロキシシクロヘキシル)-シクロヘキサン-1-オール、1-(4-メトキシフェニル)-2-メチルプロパン-1,2-ジオール、2-メチル-ブタン-2,3-ジオール、ピナコール、N-フェニルジエタノールアミンなどが挙げられ、使用可能なジカルボン酸の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、こはく酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、リンゴ酸、イタコン酸、フマル酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、フタル酸、N-メチルイミノ二酢酸などが挙げられる。
【0077】
エステル化においては、反応を促進させる目的で、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、テトラメチルピペリジン、ペンタメチルピペリジン、N,N-ジメチル-p-トルイジン等のブレンステッド塩基を添加してもよいし、予め、アルコール「Ra-OH」またはジオールもしくはジカルボン酸「OH-R10-OH」を金属塩としてから用いてもよい。
【0078】
上記製造方法で用いられる反応溶媒は、反応自体を阻害しないものであればよく、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカンおよびドデカン等の炭化水素、クロロベンゼンや1,2-ジクロロベンゼン、2,4-ジクロロトルエンおよび1,2,4-トリクロロベンゼン等のハロゲン化された芳香族炭化水素等を筆頭にジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル、ベンゼン、トルエン、アセトニトリル等の一般的な有機溶媒から選択して、単独でまたは複数の溶媒を混合して用いることができる。また、反応溶媒を使用せず反応基質のみで反応させることもできる。
【0079】
上記製造方法は、適切な反応温度にて実施されることが望ましい。すなわち、-78℃から使用される溶媒の沸点の間で実施されることが操作を簡便にする点で好ましい。反応速度と副生成物の生成量とのバランスを考慮すると、0℃から100℃の間で実施されることがより好ましい。上記製造方法は大気中でも実施できるが、窒素およびアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で実施されることが好ましい。
【0080】
二ヨウ化ホウ素置換メタロセンに一価のアルコールを作用させることによって、所望のホウ酸エステルを得ることができる。作用させる一価アルコールの添加量は、例えば、二ヨウ化ホウ素置換メタロセンが二ヨウ化ホウ素四置換メタロセンである場合、8モル当量超であればよく、10モル当量超であることがより好ましく、15モル当量超であることがさらに好ましい。上限としては、100モル当量以下程度であることが好ましく、50モル当量以下程度であることがより好ましい。
【0081】
二ヨウ化ホウ素置換メタロセンに二価のアルコールもしくは二価のカルボン酸を作用させることによって、所望のホウ酸エステルを得ることができる。作用させる二価のアルコールもしくは二価のカルボン酸の添加量は、例えば、二ヨウ化ホウ素置換メタロセンが二ヨウ化ホウ素四置換メタロセンである場合、4モル当量超であればよく、8モル当量超であることがより好ましく、10モル当量超であることがさらに好ましい。上限としては、50モル当量以下程度であることが好ましく、20モル当量以下程度であることがより好ましい。
【0082】
上記製造方法では、通常の化学操作で用いられる方法により、反応終了後の反応系から生成物を単離することができる。たとえば、反応液に水を加えて反応を停止させた後、有機溶媒で反応系から抽出することができる。反応生成物は必要に応じて再結晶、蒸留、シリカゲルクロマトグラフィー等の精製操作を単独またはこれらを組み合わせて行うことにより、より純度の高いボロン酸またはボロン酸エステル等にすることもできる。あるいは反応生成物を精製することなく官能基を変換して、より精製が容易な化合物に変換した後、上述した精製操作を単独またはこれらを組み合わせて行うことにより、望ましい化合物を得ることもできる。
【0083】
式(1-4)で表されるボロン酸エステル化合物のより具体的な例としては、下記ジオール(n')~(q')を(Y)と反応させることによって得られる、式(n)~式(q)をホウ素含有置換基として有する下記式(1-n)、(1-p)、(1-p)、および(1-q)で表される化合物を挙げることができる。
【0084】
【化28】
【0085】
2-3.ボロン酸化合物(1-1)を利用した製法
式(1-1)で表されるボロン酸化合物は、酸や酸化剤に対してより安定な化合物へと変換することも可能である。例えば、ジアミン、ジカルボン酸、カルボン酸、またはフッ化水素カリウム等と反応させることにより、ホウ素含有置換基が-BF3Kまたは式(a)~式(l)で表される基である化合物を得ることも可能である。これらの化合物群は、様々な化合物を製造するための出発物質として使用することできる。例として、-BF3K、式(a)および式(l)をホウ素含有置換基として有する化合物(1-3)、(1-a)、および(1-l)を下記に挙げる。なお、-BF3Kの代わりにその他のフッ化ホウ素基(-BF3Li、-BF3Na)を有するメタロセンホウ素多置換誘導体も同様に製造することができる。
【0086】
【化29】
【0087】
ボロン酸化合物(1-1)や上記の化合物(1-n)にさらに式(a)~(e)のいずれかで表される基に変換する反応を行うことにより、本発明のメタロセンホウ素多置換誘導体を得ることができる。化合物(1-n)と等量のジアミノナフタレン(a′)とを反応させ、化合物(1-a-1)へ変換する例を下記に記す。
【0088】
【化30】
【0089】
2-4.その他の製造中間体
以下に本発明のメタロセンホウ素多置換誘導体の製造中間体等として用いることができるメタロセンホウ素四置換誘導体の例を示す。
【0090】
【化31】
【0091】
【化32】
【0092】
【化33】
【0093】
【化34】
【0094】
【化35】
【0095】
【化36】
【0096】
【化37】
【0097】
【化38】
【0098】
【化39】
【0099】
【化40】
【0100】
【化41】
【0101】
【化42】
【0102】
【化43】
【0103】
さらに具体的な例としては、以下の化合物が挙げられる。
【0104】
【化44】
【0105】
【化45】
【0106】
【化46】
【0107】
【化47】
【0108】
【化48】
【0109】
【化49】
【0110】
【化50】
【0111】
【化51】
【0112】
【化52】
【0113】
【化53】
【実施例
【0114】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明していくが、本発明はこれらに限定されない。
【0115】
合成例(1):1,1',3,3'-テトラキス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェロセン(フェロセン-1,1',3,3'-(Bpin)4)(化合物No.4)の合成
【化54】
【0116】
窒素雰囲気下、フェロセン(37.2mg、0.20mmol)、三ヨウ化ホウ素(940mg、2.4mmol)および1,2,4-トリクロロベンゼン(2.0ml)の入ったシュレンクを150℃に加熱し、16時間撹拌した。反応溶液を室温まで冷却し、ヨウ化水素を減圧留去した。反応溶液を0℃に冷却し、キャニュラーを用いてトリエチルアミン(4.00ml、29mmol)、ピナコール(851mg、7.2mmol)を加えた。室温で30分間撹拌した後、溶媒を減圧留去して粗生成物を得た。得られた粗生成物に対してヘキサン洗浄、GPC(溶離液;1,2-ジクロロエタン)による精製を行うことで1,1',3,3'-テトラキス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェロセン((化合物No.4)、42.8mg、収率31%)を茶色固体として得た。
【0117】
【化55】
【0118】
NMR測定により得られた化合物No.4の構造を確認した。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ=1.34-1.35(m,48H)、4.53(d,4H)、4.59(s,2H)
13C-NMR(101MHz,CDCl3):25.0(8C+8C)、77.3(4C)、81.1(2C)、83.1(8C)
【0119】
合成例(2):1,1',3-トリス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-3'-(2,3-ジヒドロ-1H-ナフト[1,8-d,e][1,3,2]ジアザボリニル)フェロセン(フェロセン-1,1',3-(Bpin)3-3'-Bdan)(化合物No.50)の合成
【0120】
【化56】
【0121】
窒素雰囲気下,1,1',3,3'-テトラキス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェロセン(0.103g,0.15mmol),1,8-ジアミノナフタレン(23.7mg,0.15mmol),n-ブタノール(2.0ml)およびメシチレン(8.0ml)の入った30ml二口コルベンを140℃に加熱し,60時間撹拌した。反応溶液を室温まで冷却し,溶媒を減圧留去して粗生成物を得た。得られた粗生成物に対して,GPC(溶離液;1,2-ジクロロエタン)およびシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液;ヘキサン/酢酸エチル=7/1)による精製を行うことで1,1',3-トリス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-3'-(2,3-ジヒドロ-1H-ナフト[1,8-d,e][1,3,2]ジアザボリニル)フェロセン(化合物No.50、20.8mg,収率19%)を橙色固体として得た。
【0122】
【化57】
【0123】
NMR測定により得られた化合物No.50の構造を確認した。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ=1.36-1.38(m,24H),1.41-1.43(m,12H),4.42(s,1H),4.50-4.56(m,5H),6.40(d,2H),6.48(s,2H),7.02(d,2H),7.13(t,2H)
13C-NMR(101MHz,CDCl3):25.0-25.1(4C+4C),25.2(2C+2C),75.5(1C),76.9(1C),77.5(1C),78.9(1C),80.0(1C),82.7(1C),83.3-83.6(4C+1C+1C),105.3(2C),117.0(2C),120.0(1C),127.5(2C),136.5(1C),141.9(2C).
(ホウ素原子のα位に位置する炭素原子のNMRシグナルは観測されていない。)
【0124】
合成例(3):1-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-1'-(2,3-ジヒドロ-1H-ナフト[1,8-d,e][1,3,2]ジアザボリニル)フェロセン(フェロセン-1-Bpin-1'-Bdan、化合物No.74のMがFeであるもの)の合成
【化58】
【0125】
窒素雰囲気下,1,1'-ビス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェロセン(化合物No.74のMがFeであるもの、87.6mg,0.20mmol),1,8-ジアミノナフタレン(47.5mg,0.30mmol),n-ブタノール(3.0ml)およびメシチレン(12ml)の入ったオートクレーブを250℃に加熱し,4時間撹拌した。反応溶液を室温まで冷却し,溶媒を減圧留去して粗生成物を得た。得られた粗生成物に対して,シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液;ヘキサン/酢酸エチル=7/1)およびヘキサン洗浄による精製を行うことで1-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-1'-(2,3-ジヒドロ-1H-ナフト[1,8-d,e][1,3,2]ジアザボリニル)フェロセン(29.6mg,収率31%)を橙色固体として得た。
【0126】
【化59】
【0127】
NMR測定により得られた化合物の構造を確認した。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ=1.45(s,12H),4.28(t,2H),4.35(t,2H),4.38-4.39(m,4H),6.26(s,2H),6.42(d,2H),7.03(d,2H),7.14(t,2H)
13C-NMR(101MHz,CDCl3):25.1(4C),71.2(2C),72.3(2C),72.4(2C),75.2(2C),83.6(2C),105.4(2C),117.2(2C),119.7(1C),127.6(2C),136.4(1C),141.6(2C).
(ホウ素原子のα位に位置する炭素原子のNMRシグナルは観測されていない。)
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明により、新規メタロセンホウ素多置換誘導体が提供される。本発明にかかるメタロセンホウ素多置換誘導体は、有機電界発光素子、有機電界効果トランジスタ、有機薄膜太陽電池などの有機デバイスで使用される発光材料、電荷輸送材料、および半導体材料などの用途が期待でき、また2次電池の正極材料あるいは負極材料としての利用が期待できる。さらに、このような材料の合成中間体としての用途も期待でき、共役化合物との段階的なカップリングによって新たな材料への応用が期待される。また、リンや窒素を導入することで遷移金属触媒の配位子として応用も期待される。