(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】癌治療薬
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20240920BHJP
C07K 7/08 20060101ALI20240920BHJP
C12N 15/64 20060101ALI20240920BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240920BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240920BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20240920BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240920BHJP
C12P 21/02 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
C12N15/12
C07K7/08 ZNA
C12N15/64 Z
C07K19/00
C12N15/62 Z
A61K38/17
A61P35/00
C12P21/02 A
(21)【出願番号】P 2023067718
(22)【出願日】2023-04-18
(62)【分割の表示】P 2019541049の分割
【原出願日】2018-09-10
【審査請求日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2017174125
(32)【優先日】2017-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(72)【発明者】
【氏名】中村 透
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-500947(JP,A)
【文献】特表2009-502735(JP,A)
【文献】J. Biol. Chem.,2001年,Vol.276, No.8,p.5836-5840
【文献】Cancer Res.,2006年04月01日,Vol.66, No.7,p.3764-3772
【文献】Oncotarget,2016年07月28日,Vol.8, No.31,p.50460-50475
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
A61K 38/17
A61P 35/00
C12P 21/02
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C16orf74蛋白の部分アミノ酸配列
からなるペプチドであって、C16orf74蛋白の7位のシステインに対応するシステインおよび14位のシステインに対応するシステインのいずれかを含み、C16orf74蛋白のダイマー形成を阻害するものであり、長さが12~20アミノ酸であるペプチド。
【請求項2】
請求項1記載のペプチドの変異ペプチドであって、該部分アミノ酸配列のアミノ酸配列において1個
ないし3個のアミノ酸が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列を含み、C16orf74蛋白のダイマー形成を阻害するものであるペプチド。
【請求項3】
C16orf74蛋白の部分アミノ酸配列
からなるペプチドであって、配列番号:2に示すアミノ酸配列のN末端から7番目および14番目のシステインが別のアミノ酸に置換されているアミノ酸配列を含み、C16orf74蛋白のダイマー形成を阻害するものであり、長さが12~20アミノ酸であるペプチド。
【請求項4】
請求項3記載のペプチドの変異ペプチドであって、該部分配列のアミノ酸配列において1個
ないし3個のアミノ酸が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列を含み、C16orf74蛋白のダイマー形成を阻害するものであるペプチド。
【請求項5】
C16orf74蛋白の部分アミノ酸配列
からなるペプチドであって、C16orf74蛋白の7位のシステインに対応するシステインおよび14位のシステインに対応するシステインの両方を含み、C16orf74蛋白のダイマー形成を阻害するものであり、長さが12~20アミノ酸であるペプチドの変異ペプチドであって、該部分アミノ酸配列において1個
ないし3個のアミノ酸が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列を含み、C16orf74蛋白のダイマー形成を阻害するものであるペプチド。
【請求項6】
膜透過性ペプチドが結合されている、請求項1~5のいずれか1項記載のペプチド。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項記載のペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項7記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項記載のペプチド、請求項7記載のポリヌクレオチド、または請求項8記載のベクターを含む癌治療用医薬組成物。
【請求項10】
請求項6記載のペプチドを含む癌治療用医薬組成物。
【請求項11】
腹腔内投与される請求項10記載の癌治療用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の治療薬および癌の治療薬のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの癌の治療成績は未だ高いとは言えない。例えば、膵癌は、従来の化学療法では根治を得ることができず、また新規分子標的治療薬も、従来の化学療法との併用により、数週間の延命効果が得られるのみであり、有望な新規治療薬の開発が急務である。発明者らは臨床検体を用いた網羅的な遺伝子発現解析から、膵癌の悪性度に強くかかわる新規遺伝子Homo sapiens chromosome 16 open reading frame 74 (C16orf74)を同定し、蛋白発現や機能解析から、膵癌の治療標的分子としての有用性を報告した(非特許文献1)。しかしC16orf74をターゲットとした新規治療法は確立されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Nakamura T, et al. Oncotarget. 2016 Jul 28. [Epub ahead of print]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
効果的な癌の治療を行うことが課題であった。詳細には、C16orf74をターゲットとした新規治療薬を見出すことが課題であった。また、優れた癌治療薬を簡単にスクリーニングする方法を見出すことも課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、C16orf74蛋白が細胞膜直下に局在し、ホモダイマーを形成していることを見出した。本発明者らは、このダイマー形成を阻害することで、C16orf74の機能を阻害し、癌細胞増殖抑制が可能ではないかと考え、ダイマー形成阻害剤について鋭意研究を重ねた。その結果、C16orf74蛋白のN末端側のアミノ酸配列に膜透過性ペプチドを結合したペプチドが、C16orf74蛋白のダイマー形成を阻害し、癌細胞の増殖を効果的に抑制することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下のものに関する:
(1)C16orf74蛋白の部分アミノ酸配列を含むペプチドであって、C16orf74蛋白の7位のシステインに対応するシステインおよび14位のシステインに対応するシステインのいずれかまたは両方を含み、C16orf74蛋白のダイマー形成を阻害するものであるペプチド;
(2)C16orf74蛋白の7位のシステインに対応するシステインおよび14位のシステインに対応するシステインの両方を含むものである(1)記載のペプチド;
(3)長さが12~20アミノ酸である(2)記載のペプチド;
(4)配列番号:2に示すアミノ酸配列を含む(3)記載のペプチド;
(5)(1)~(4)のいずれかに記載のペプチドの変異ペプチドであって、配列番号:1に示すアミノ酸配列の部分アミノ酸配列において1個~数個のアミノ酸が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列を含み、C16orf74蛋白のダイマー形成を阻害するものであるペプチド;
(6)膜透過性ペプチドが結合されている、(1)~(5)のいずれか記載のペプチド;
(7)(1)~(6)のいずれかに記載のペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(8)(7)記載のポリヌクレオチドを含むベクター;
(9)C16orf74蛋白のダイマー形成を阻害する物質を含む癌治療用医薬組成物;
(10)(1)~(6)のいずれかに記載のペプチド、(7)記載のポリヌクレオチド、または(8)記載のベクターを含む癌治療用医薬組成物;
(11)(6)記載のペプチドを含む癌治療用医薬組成物;
(12)腹腔内投与される(11)記載の癌治療用医薬組成物;
(13)下記工程:
(a)候補薬剤の存在下および不存在下でC16orf74蛋白のモノマーを細胞内で発現させてダイマーを形成させ、
(b)細胞内のダイマー形成量を測定し、次いで
(c)候補薬剤の不存在下と比較して、候補薬剤の存在下においてダイマー形成量が減少した場合に、候補薬剤が癌治療薬である可能性があると判定する
を含む、癌治療薬のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の癌治療薬を用いると、癌の治療成績を飛躍的に向上させることができる。また、本発明の癌治療薬のスクリーニングを用いると、優れた癌治療薬を簡単に見つけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、C16oef74蛋白のダイマー形成を示すイムノブロッティングである。C16-A、C16-B、C16-Cは3つの並行した実験系を示す。
【
図2】
図2は、本発明のペプチドによるC16oef74蛋白のダイマー形成阻害を示すイムノブロッティングである。
【
図3】
図3は、膵癌細胞における本発明のペプチドによるC16oef74蛋白のダイマー形成阻害を示すグラフである。縦軸は、ペプチド無添加時を1とした相対ダイマー形成量である。
【
図4】
図4は、本発明のペプチドによる膵癌細胞の浸潤能の抑制を示す写真(左)およびグラフ(右)である。グラフの縦軸は、ペプチド無添加時を1とした相対浸潤量である。
【
図5】
図5は、動物における腫瘍蛍光強度の経時変化(移植7日後、14日後、21日後、28日後、35日後)を示すグラフである。縦軸は蛍光強度の変化倍率である。
【
図6】
図6は、動物における腫瘍重量を示すグラフである。
【
図7】
図7は、動物における腫瘍体積を示すグラフである。
【
図8】
図8は、動物における腫瘍重量を示すグラフである。
【
図9】
図9は、動物における腫瘍の蛍光像の経時変化を示す。
【
図10】
図10は、動物における腫瘍蛍光強度の経時変化を示すグラフである。
【
図12】
図12は、動物における播種結節数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、1の態様において、C16orf74蛋白のアミノ酸配列(配列番号:1)の部分アミノ酸配列を含むペプチドであって、C16orf74蛋白の7位のシステインに対応するシステインおよび14位のシステインに対応するシステインのいずれかまたは両方を含むものであるペプチド(以下、前記ペプチドを「本発明のペプチド」と略称することがある)に関する。ただし、本発明のペプチドは、C16orf74蛋白の全アミノ酸配列(配列番号:1)と同一のものではない。この態様の本発明のペプチドの具体例として、C16orf74蛋白の部分アミノ酸配列からなるペプチドであって、C16orf74蛋白の7位のシステインに対応するシステインに対応するシステインおよび14位のシステインに対応するシステインのいずれかまたは両方を含むものであるペプチドが挙げられる。本明細書において、C16orf74蛋白中のアミノ酸の位置は、そのN末端アミノ酸メチオニンを1位として起算したものである。本明細書において、本発明のペプチド中のアミノ酸を、「C16orf74蛋白のx位のアミノ酸に対応するアミノ酸」として表すことがある。なお本明細書において特に断らないかぎり、C16orf74蛋白という場合は野生型のヒトC16orf74蛋白のモノマーをいうものとする。
【0010】
C16orf74蛋白の部分アミノ酸配列は、配列番号:1に示すC16orf74蛋白のアミノ酸配列の一部分である。本発明のペプチドは、C16orf74蛋白のN末端から7番目(7位)のシステインに対応するシステインおよび14番目(14位)のシステインに対応するシステインのいずれかまたは両方を含む。好ましくは、本発明のペプチドは、C16orf74蛋白の7位に対応するシステインおよび14位に対応するシステインの両方を含む。これらのシステインはC16orf74蛋白のダイマー形成にかかわっていると考えられる。本発明のペプチドは、C16orf74蛋白のダイマー形成を阻害する。
【0011】
本発明のペプチドの長さは特に制限されないが、5~30アミノ酸が好ましく、8~25アミノ酸がより好ましく、12~20アミノ酸がさらに好ましい。このような好ましい本発明のペプチドの例としては、C16orf74蛋白の1、2、3、4または5位のいずれかのアミノ酸から15、16、17、18、19または20位のいずれかのアミノ酸までのアミノ酸配列を含むペプチドが挙げられる。その一例としては、配列番号:2に示すアミノ酸配列を含むペプチドが挙げられるが、これに限られない。
【0012】
本発明のペプチドは変異ペプチドであってもよい。本発明の変異ペプチドは、C16orf74蛋白のダイマー形成を阻害する。本発明のペプチドの変異ペプチドは、野生型C16orf74蛋白のアミノ酸配列(配列番号:1に示すアミノ酸配列)の部分アミノ酸配列において1個ないし数個のアミノ酸が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列(野生型C16orf74蛋白の変異アミノ酸配列)を含む。数個とは、例えば2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個または9個を意味する。ただし、本発明のペプチドの変異ペプチドは、野生型C16orf74蛋白の7位および/または14位のシステインに対応するシステインを保持している。本発明の変異ペプチドの具体例として、野生型C16orf74蛋白の変異アミノ酸配列からなるペプチドが挙げられる。
【0013】
アミノ酸置換の場合、保存的アミノ酸置換が好ましい。保存的アミノ酸置換の例としては以下のものが挙げられる:置換されるアミノ酸が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換されるアミノ酸が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、置換されるアミノ酸が極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、置換されるアミノ酸が塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、置換されるアミノ酸が酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、置換されるアミノ酸がヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間で置換されるもの。
【0014】
本発明のペプチドの変異ペプチドは、非天然アミノ酸を含むものであってもよく、任意のアミノ酸残基が修飾されているものであってもよく、あるいは標識が付されていてもよい。
【0015】
当業者は、化学合成法や遺伝子工学的手法等を用いて、本発明のペプチドおよびその変異ペプチドを作製することができる。
【0016】
本発明のペプチドまたはその変異ペプチドに膜透過性ペプチドが結合されていてもよい。このようなペプチドは、癌細胞に効率良く輸送され、癌細胞内におけるC16orf74蛋白のダイマー形成を阻害することができる。
【0017】
膜透過性ペプチドは、本発明のペプチドを癌細胞内に輸送することができるペプチドであればいずれのペプチドであってもよい。膜透過性ペプチドは公知である。本発明のペプチドに結合させる膜透過性ペプチドは公知の膜透過性ペプチドであってもよい。様々な膜透過性ペプチドが市販されている。膜透過ペプチドの例としては、TATペプチド、8個~11個のアルギニンからなるペプチドなどが挙げられるがこれらに限定されない。
【0018】
膜透過性ペプチドを、本発明のペプチドまたはその変異ペプチドのN末端、C末端、内部アミノ酸残基のいずれに結合させてもよいが、好ましくはN末端アミノ酸残基に結合させる。膜透過性ペプチドの結合は、本発明のペプチドまたはその変異ペプチドのN末端アミノ酸残基に直接結合させてもよく、スペーサーを介して結合させてもよい。スペーサーは公知のものであってもよく、例えば数個のグリシンからなるペプチドであってもよい。
【0019】
当業者は、化学合成法や遺伝子工学的手法等の公知の手法を用いて、膜透過性ペプチドが結合された本発明のペプチドまたはその変異ペプチドを作製することができる。
【0020】
本発明は、もう1つの態様において、本発明のペプチド、その変異ペプチド、またはそれらに膜透過性ペプチドが結合されたペプチドをコードするポリヌクレオチドに関する。ポリヌクレオチドの製造方法は公知であり、当業者は、例えば化学合成法を用いてこれらのポリヌクレオチドを製造することができる。
【0021】
本発明は、もう1つの態様において、上記のポリヌクレオチドを含むベクターに関する。上記のポリヌクレオチドを含む発現ベクターを癌細胞に導入して、癌細胞内におけるC16orf74蛋白のダイマー形成を阻害してもよい。ベクターは様々なものが知られ、市販もされているので、適宜選択して用いることができる。
【0022】
上で述べたように、本発明者らは、C16orf74蛋白のダイマー形成を阻害することにより癌細胞の増殖を効果的に抑制できるという知見を得た。本発明は、さらなる態様において、C16orf74蛋白のダイマー形成を阻害する物質を含む癌治療用医薬組成物に関する。
【0023】
本発明の癌治療用医薬組成物によって治療されうる癌は、C16orf74を発現する癌であればその種類は限定されない。本発明の癌治療用医薬組成物によって治療されうる癌の例として、膵癌、膀胱癌、頸部癌、口腔舌扁平上皮癌などが挙げられる。
【0024】
本発明の医薬組成物に含まれるC16orf74蛋白のダイマー形成を阻害する物質は特に限定されないが、好ましい例として、本発明のペプチド、その変異ペプチド、それらに膜透過性ペプチドを結合させたペプチド、これらのペプチドをコードするポリヌクレオチド、およびかかるポリヌクレオチドを含むベクターが挙げられる。「C16orf74蛋白のダイマー形成を阻害する」とは、好ましくはC16orf74蛋白のダイマー形成を30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上阻害することをいう。
【0025】
公知の手段、方法を用いて、様々な剤形の本発明の医薬組成物を製造することができる。好ましくは、本発明の医薬組成物は液剤であり、例えば注射剤、輸液剤などであってもよい。より好ましくは、本発明の医薬組成物は注射剤である。
【0026】
本発明の医薬組成物の投与経路は特に限定されず、様々な経路で投与することができる。好ましくは、本発明の医薬組成物は腹腔内投与される。
【0027】
本発明の医薬組成物の特別な例として、膜透過性ペプチドが結合された本発明のペプチドまたはその変異ペプチドを含む、癌治療用医薬組成物が挙げられる。かかる医薬組成物は腹腔内投与した場合に効果を発揮しうる。
【0028】
本発明の医薬組成物の投与量は、癌の増殖を抑制する量であってもよく、あるいは、癌を縮小ないし消失させる量であってもよい。かかる投与量は、患者の癌の状態、体重等を考慮して、医師が定めることができる。一例として、成人に腹腔内投与する場合、1日当たり約1mg~数十mg/kg(体重)の本発明のペプチドが投与されるよう、本発明の医薬組成物を患者に与えてもよい。
【0029】
本発明の医薬組成物を、他の抗癌剤および/または抗癌治療と併用してもよい。
【0030】
本発明は、さらなる態様において、C16orf74蛋白のダイマー形成を阻害する物質を癌患者に投与することを含む、該患者における癌の治療方法を提供する。
【0031】
本発明は、さらなる態様において、癌の治療用医薬組成物の製造のための、C16orf74蛋白のダイマー形成を阻害する物質の使用を提供する。
【0032】
本発明は、さらなる態様において、癌の治療に用いられるC16orf74蛋白のダイマー形成を阻害する物質を提供する。
【0033】
本発明は、さらにもう1つの態様において、
下記工程:
(a)候補薬剤の存在下および不存在下でC16orf74蛋白のモノマーを細胞内で発現させてダイマーを形成させ、
(b)細胞内のダイマー形成量を測定し、次いで
(c)候補薬剤の不存在下と比較して、候補薬剤の存在下においてダイマー形成量が減少した場合に、候補薬剤が癌治療薬である可能性があると判定する
を含む、癌治療薬のスクリーニング方法に関する。
【0034】
工程(a)で用いる細胞はC16orf74蛋白のモノマーを発現する細胞であれば、いずれの細胞であってもよく、好ましくは癌細胞である。多くの癌細胞は公知であり、それらを用いてもよい。あるいは癌の臨床サンプルから得たものであってもよい。C16orf74蛋白発現が弱いかあるいはない細胞を用いる場合は、C16orf74蛋白のモノマーを強制発現させてもよい。C16orf74蛋白の強制発現は、それをコードする遺伝子を発現ベクターに入れて細胞に導入することによって行うことができる。C16orf74蛋白のモノマーを強制発現させることにより、スクリーニングの結果をより明確にすることができる。
【0035】
候補薬剤はいかなる種類の物質であってもよい。候補薬剤がペプチドである場合は、それに膜透過性ペプチドを結合させたものを用いてもよい。膜透過性ペプチドを結合させることによってペプチドが細胞内に輸送されるので、候補物質を細胞に注入する工程を省略することができる。また、候補薬剤がペプチドである場合は、ペプチドをコードするポリヌクレオチドを発現ベクターに入れたものを用いてもよい。
【0036】
候補薬剤の存在下および不存在下で細胞を培養することにより、細胞内でC16orf74蛋白のダイマーを形成させることができる。細胞の培養条件は、細胞の種類などのファクターを考慮して、当業者が容易に定めうる。
【0037】
工程(b)において細胞内のC16orf74蛋白のダイマー形成量を測定する。ダイマー形成量の測定は、公知の方法にて、培養細胞のサイセート中のC16orf74蛋白のダイマーを検出することにより行うことができる。例えばNativeポリアクリルアミドゲル電気泳動を用いてC16orf74蛋白のダイマーを検出することができる。
【0038】
工程(c)において、候補薬剤の存在下におけるC16orf74蛋白のダイマー形成量と、候補薬剤の不存在下におけるC16orf74蛋白のダイマー形成量を比較し、候補薬剤の存在下においてダイマー形成量が減少した場合に、候補薬剤が癌治療薬である可能性があると判定する。ダイマー形成量の減少は、ダイマー形成が阻害されたと解される。ダイマー形成量が例えば50%以上、60%以上あるいは70%以上減少した場合に、候補薬剤が癌治療薬である可能性があると判定してもよい。
【0039】
本発明のスクリーニング方法において、C16orf74蛋白のダイマー形成を阻害しないペプチド(例えば配列番号:6)をネガティブコントロールとして用いてもよい。
【0040】
本明細書中の用語は、特に断らない限り、医学や生化学の分野で通常に理解されている意味を有するものとする。本明細書において、アミノ酸配列の表記は1文字法または3文字法によるが、これらは公知である。
【0041】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、実施例は本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0042】
(1)C16orf74蛋白のダイマー形成の検証
プルダウンアッセイをこの検証に用いた。C16orf74蛋白にFlagタグを付した蛋白を発現するベクター(pCAGGS-C16orf74-3×Flag)とC16orf74蛋白にHAタグを付した蛋白を発現するベクター(pCAGGS-C16orf74-HA)をHEK293T細胞にコトランスフェクションし、24時間後に細胞ライセートを得て、HA抗体を付けたアガロースビーズで免疫沈降を行った。得られた免疫沈降生成物を電気泳動にかけ、Flag抗体でブロッティングした。実験を3つの系で並行して行った。結果を
図1に示す。図中MOCKはpCAGGSの空ベクターにFlagタグ、HAタグを付してHEK293T細胞にコトランスフェクションしたものである。目標の高さ(120kDa)にFlagタグが付いたC16orf74蛋白のバンドを認めた。この結果から、Flagタグを付したC16orf74蛋白とHAタグ付きのC16orf74蛋白が直接結合していることが示された。
【0043】
(2)本発明のペプチドの作成
化学合成法により、C16orf74蛋白のN末端から15番目のアミノ酸までのアミノ酸配列MGLKMSCLKGFQMCV(配列番号:2)とポリアルギニンシグナルRRRRRRRRRRR(配列番号:3)をGGGタグを介して結合し、ペプチドRRRRRRRRRRR-GGG-MGLKMSCLKGFQMCV(配列番号:4)を得た。同様にして、ポリアルギニンシグナルRRRRRRRRR(配列番号:5)を結合し、ペプチドRRRRRRRRR-GGG-MGLKMSCLKGFQMCV(配列番号:6)を得た。
【0044】
また、C16orf74蛋白と結合できないように設計したペプチドも合成した。ペプチドRRRRRRRRRRR-GGG-MGLKMSALKGFQMAV(配列番号:7)は、配列番号:2のアミノ酸配列のN末端から7番目および14番目のシステインをアラニンに変換したペプチドである。ペプチドRRRRRRRRRRR-GGG-MGLKMAAAKGFQAAA(配列番号:8)は、配列番号:2のアミノ酸配列のN末端から7番目と14番目のシステインに加えて、それらの前後1つずつのアミノ酸をアラニンに変換したものである。
【0045】
(3)本発明のペプチドによるC16orf74蛋白のダイマー形成阻害
pCAGGS-C16orf74-3×FlagおよびpCAGGS-C16orf74-HAをHEK293T細胞にトランスフェクトし、40μMのペプチドRRRRRRRRR-GGG-MGLKMSCLKGFQMCV(配列番号:6)の存在下および不存在下で24時間培養し、その後(1)に記載したのと同様の方法でダイマーのバンドを検出した。
図2に示すように、40μMのペプチド存在下(
図2ではDN-peptideと表記)ではバンドが薄くなり、ダイマー形成が阻害されたことが確認された。
【0046】
様々な濃度のペプチドRRRRRRRRRRR-GGG-MGLKMSCLKGFQMCV(配列番号:4)(
図3では11R-C16orf74-DBと表記)、ペプチドRRRRRRRRRRR-GGG-MGLKMSALKGFQMAV(配列番号:7)(
図3では11R-C16orf74 C7A-C14Aと表記)およびペプチドRRRRRRRRRRR-GGG-MGLKMAAAKGFQAAA(配列番号:8)(
図3では11R-C16orf74-6-8A-13-15Aと表記)を用いて上記(3)と同様の実験を行って、C16orf74蛋白のダイマー形成阻害について調べた。細胞として4種のヒト膵癌細胞(PK-1、PK-9、Panc-1、Miapaca-2)および正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)を用いた。結果を
図3に示す。
11R-C16orf74-DBは4種の膵癌細胞においてC16orf74蛋白のダイマーの形成を濃度依存的に阻害した。PK-1、PK-9においては30μMの濃度でダイマー形成を約60%阻害した。Panc1、Miapaca2においては40μMの濃度でダイマー形成を60%以上阻害した。NHDFにおいては膵癌細胞よりも弱いダイマー形成阻害が見られた。
11R-C16orf74 C7A-C14Aについては、PK-1、PK-9においてダイマー形成阻害が見られたが、11R-C16orf74-DBを用いた場合よりも阻害が弱かった。Panc1、Miapaca2、NHDFにおいてはダイマー形成阻害がほとんど見られなかった。
11R-C16orf74-6-8A-13-15Aについては、いずれの細胞においてもダイマー形成阻害は見られなかった。
【0047】
(4)本発明のペプチドによる膵癌細胞の浸潤能の抑制
本発明のペプチドRRRRRRRRRRR-GGG-MGLKMSCLKGFQMCV(配列番号:4)がヒト膵癌細胞(PK-1、PK-9、Panc-1、Miapaca-2)の浸潤能に及ぼす影響について、マトリゲルを用いて調べた。
図4に示すように、本発明のペプチドは、いずれの細胞に対しても濃度依存的に浸潤を阻害した。
【0048】
(5)本発明のペプチドによる腫瘍増殖抑制
(5-1)癌細胞を背部に移植した動物における本発明のペプチドの腫瘍増殖抑制効果
ヒト膵癌細胞(PK-9)をヌードマウス(Balb/cA Jcl nu/nu mice、メス、販売元CLEA Japan)の背部に移植した。移植7日後から35日後まで、本発明のペプチドRRRRRRRRRRR-GGG-MGLKMSCLKGFQMCV(配列番号:4)、ペプチドRRRRRRRRRRR-GGG-MGLKMAAAKGFQAAA(配列番号:8)またはPBSを週5回腹腔内投与した。この期間中、動物の体重および腫瘍体積を測定し、腫瘍の蛍光像を得た。移植35日後に腫瘍を摘出し、重量を測定した。動物の体重は、本発明のペプチドを投与した群のほうが、他の投与群よりも増加傾向を示した。腫瘍蛍光強度の経時変化を
図5に示す。本発明のペプチドを投与した群(
図5ではDBと表示)の蛍光強度は増加せず、腫瘍が増殖しなかったことが示された。配列番号:8のペプチドを投与した群(
図5ではAAAと表示)およびPBS投与群(
図5ではNCと表示)では蛍光強度が増加し、腫瘍が増殖したことが示された。腫瘍重量を
図6に示す。本発明のペプチドを投与した群(
図6ではDBと表示)の平均腫瘍重量が約50mgであったのに対し、他の2群では約100mg~110mgであった。これらの結果から、本発明のペプチドは、インビボにおいて強力な腫瘍増殖抑制効果を有することが確認された。
【0049】
(5-2)癌細胞を皮下に注入した動物における本発明のペプチドの腫瘍増殖抑制効果
PK-9細胞をヌードマウス(Balb/cA Jcl nu/nu mice、メス、販売元CLEA Japan)の背部に注射した。注射から2週間後に本発明のペプチドRRRRRRRRRRR-GGG-MGLKMSCLKGFQMCV(配列番号:4)、ペプチドRRRRRRRRRRR-GGG-MGLKMAAAKGFQAAA(配列番号:8)またはPBSを週5回、腫瘍近傍の皮下組織に注射した(10mg/kg/mouse)。投与期間は3週間であった。投与期間終了時に腫瘍を摘出し、腫瘍重量を測定した。本発明のペプチドを投与した群では、腫瘍体積が減少し、その後一定(約100mm
3)となった(
図7の11R-DB群)。配列番号:8のペプチドおよびPBSを投与した群では、腫瘍体積は増加した(
図7の11R-7_14AAA群、PBS群)。本発明のペプチド(配列番号:4)を投与した群では平均腫瘍重量は約250mgであった(
図8の11R-DB群)。配列番号:8のペプチドおよびPBSを投与した群では、腫瘍重量も本発明のペプチドを投与した群を大きく上回った(約400mg~500mg)(
図8の11R-7_14AAA群、PBS群)。これらの結果から、本発明のペプチドは、インビボにおいて強力な腫瘍増殖抑制効果を有することが確認された。
【0050】
(5-3)癌細胞を腹膜播種した動物における本発明のペプチドの腫瘍正着および結節抑制効果
ルシフェラーゼを発現するPK-9細胞(PK-9-td Tomato-luc2)をヌードマウス(Balb/cA Jcl nu/nu mice、メス、販売元CLEA Japan)に腹腔内注射した。腹膜播種の日から35日目までの間、本発明のペプチドRRRRRRRRRRR-GGG-MGLKMSCLKGFQMCV(配列番号:4)、ペプチドRRRRRRRRRRR-GGG-MGLKMAAAKGFQAAA(配列番号:8)またはPBSを週5回、腫瘍近傍の皮下組織に注射した(1mg/kg/mouse)。腹膜播種から3、7、14、21、28および35日目に腫瘍をイメージングした。ペプチド投与期間終了時に結節数を計測した。本発明のペプチドの投与により、腫瘍細胞の生着が抑制された(
図9、
図10の11R-DB群)。配列番号:8のペプチドおよびPBSを投与した群では、腫瘍細胞の生着は抑制されなかった(
図9、
図10の11R-7_14AAA群、PBS群)。本発明のペプチドの投与により結節数が大幅に減少し、1個であった(
図11、
図12の11R-DB群)。配列番号:8のペプチドおよびPBSを投与した群では、結節数は減少せず、26~30個であった(
図11、
図12の11R-7_14AAA群、PBS群)。これらの結果から、本発明のペプチドは、インビボにおいて強力な腫瘍増殖抑制効果を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の医薬組成物およびスクリーニング方法は、癌治療医薬品や癌研究等の分野において有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0052】
配列番号:1はC16orf74蛋白の全長アミノ酸配列を示す。
配列番号:2は本発明のペプチドのアミノ酸配列の一例を示す。
配列番号:3はポリアルギニン酸シグナルのアミノ酸配列の一例を示す。
配列番号:4は膜透過性ペプチドを付加した本発明のペプチドのアミノ酸配列の一例を示す。
配列番号:5はポリアルギニン酸シグナルのアミノ酸配列の一例を示す。
配列番号:6は膜透過性ペプチドを付加した本発明のペプチドのアミノ酸配列の一例を示す。
配列番号:7は、配列番号:2のアミノ酸配列のN末端から7番目および14番目のシステインをアラニンに変換したペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号:8は、配列番号:2のアミノ酸配列のN末端から7番目と14番目のシステインに加えて、それらの前後1つずつのアミノ酸をアラニンに変換したペプチドのアミノ酸配列を示す。
【配列表】