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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】治療支援装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 37/00 20060101AFI20240924BHJP
【FI】
A61M37/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020143018
(22)【出願日】2020-08-26
(65)【公開番号】P2022038485
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-07-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公開の事実1:2019年11月12日に第36回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウム講演論文集のウェブサイト(http://www.sensorsymposium.org/dl/dl.html)に掲載 公開の事実2:2019年11月19日の第36回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウムのポスターセッションII(17:05-18:35 ポスター会場(コングレスセンター3F 31会議室))にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】小西 聡
(72)【発明者】
【氏名】水原 美穂
【審査官】鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-105797(JP,A)
【文献】特開2007-117188(JP,A)
【文献】特開2008-154849(JP,A)
【文献】特表2005-528137(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象生物の体内に導入されて、前記体内の生体組織の治療に用いられる装置であって、
前記生体組織との間に前記生体組織に作用させる成分を有する流体を保持する保持空間を形成するように、前記生体組織を被覆する本体と、
前記保持空間に前記流体を供給する供給部と、
前記保持空間に保持された前記流体の前記保持空間からの流出を防止するために、前記保持空間の周囲において前記本体を前記生体組織に固定させる固定部と、
を備え
前記本体は、
前記保持空間の上方において、内部に内部空間を有する上面および下面と、
前記内部空間の空気を吸引するために吸引チューブが接続されるコネクタと、
前記上面と前記下面との接触を抑制するよう前記上面又は前記下面の少なくとも一方に設けられ、他方に向けて突出して形成された構造体と、を有し、
さらに、前記固定部は、前記内部空間を介して前記コネクタに接続され、内側を陰圧にすることによって外側から内側に向かって発生する吸引力によって前記本体を前記生体組織に吸着固定させる1又は複数の吸引孔を有する、
治療支援装置。
【請求項2】
前記保持空間に保持された前記流体を前記保持空間から排出する排出部をさらに備える
請求項1に記載の治療支援装置。
【請求項3】
前記本体は、フィルム状である
請求項1又は2に記載の治療支援装置。
【請求項4】
前記構造体は、前記内部空間において分散配置されている
請求項1に記載の治療支援装置。
【請求項5】
対象生物の体内に導入されて、前記体内の生体組織の治療に用いられる装置であって、
前記生体組織との間に前記生体組織に作用させる成分を有する流体を保持する保持空間を形成するように、前記生体組織を被覆する本体と、
前記保持空間に前記流体を供給する供給部と、
前記保持空間に保持された前記流体の前記保持空間からの流出を防止するために、前記保持空間の周囲において前記本体を前記生体組織に固定させる固定部と、
を備え、
前記固定部は、前記本体を前記生体組織に吸着固定させる1又は複数の吸引孔を含み、
前記本体は、第1の流路断面積を有する流路を有し、吸引チューブが接続されるコネクタを有し、
前記複数の吸引孔は前記コネクタに、前記第1の流路断面積よりも大きい第2の流路断面積を有する内部空間を介して接続されている
療支援装置。
【請求項6】
前記内部空間は、前記複数の吸引孔を前記保持空間の周囲において互いに連通させる第1の領域を有する
請求項5に記載の治療支援装置。
【請求項7】
前記内部空間は、前記第1の領域の側領域である第2の領域をさらに有する
請求項6に記載の治療支援装置。
【請求項8】
前記内部空間は、前記複数の吸引孔を前記保持空間と重なる範囲において互いに連通させる
請求項5に記載の治療支援装置。
【請求項9】
前記本体は、
第1フィルムと、
前記第1フィルムに積層され、前記第1フィルムとの間に前記内部空間を形成する第2フィルムと、
前記第2フィルムに積層され、前記保持空間の周囲を画定し、前記第2フィルムとともに前記保持空間を形成する第3フィルムと、を有する
請求項5~8のいずれか一項に記載の治療支援装置。
【請求項10】
対象生物の体内に導入されて、前記体内の生体組織の治療に用いられる装置であって、
前記生体組織との間に前記生体組織に作用させる成分を有する流体を保持する保持空間を形成するように、前記生体組織を被覆する本体と、
前記保持空間に前記流体を供給する供給部と、
前記保持空間に保持された前記流体の前記保持空間からの流出を防止するために、前記保持空間の周囲において前記本体を前記生体組織に固定させる固定部と、
を備え、
前記固定部は、
前記本体を前記生体組織に吸着固定させる1又は複数の吸引孔と、
前記本体を前記生体組織に吸着固定させる前記吸引孔内に設けられ、前記本体を前記生体組織に固定するための穿刺部と、を含む
治療支援装置。
【請求項11】
前記穿刺部は、前記穿刺部による固定を補助する構造を有する
請求項10に記載の治療支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、治療支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体、特にヒト(以下、患者)の治療において、患部の生体組織に作用させる成分を有する流体を患部まで供給し、保持する必要のある場合がある。流体は、例えば、薬剤や洗浄液や細胞などである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-117188号公報
【発明の概要】
【0004】
患部が体内である場合、患部に上記流体を供給するために生体を侵襲することが考えられる。しかしながら、患者の身体的負担の軽減やQOL(Quality of Life)向上のため、侵襲を抑えて体内の患部に薬剤等の上記流体を供給し、保持することが望まれる。
【0005】
ある実施の形態に従うと、治療支援装置は、対象生物の体内に導入されて、体内の生体組織の治療に用いられる装置であって、生体組織との間に生体組織に作用させる成分を有する流体を保持する保持空間を形成するように、生体組織を被覆する本体と、保持空間に流体を供給する供給部と、保持空間に保持された流体の保持空間からの流出を防止するために、保持空間の周囲において本体を生体組織に固定させる固定部と、を備える。
【0006】
更なる詳細は、後述の実施形態として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施の形態に係る治療支援装置の概略図である。
図2図2は、図1の概略図におけるA-A断面概略図である。
図3図3は、発明者らによるピラーの形態の違いによる吸着固定の検証に用いられたピラーの条件を表した図である。
図4図4は、図3の条件での吸着固定の可否の結果を表した図である。
図5図5は、図3の条件での本体の弾性力の検証の結果を表した図である。
図6図6は、図2のA部分の他の例に係る拡大概略図である。
図7図7は、発明者らによる穿刺部の形態の違いによるせん断方向の固定力の検証に用いられた治療支援装置の形状を表した図である。
図8図8は、発明者らによる、図7の治療支援装置を用いたせん断方向の固定力の測定結果を表した図である。
図9図9は、本体の積層構造を説明する概略図である。
図10図10は、積層構造の本体の第1フィルムの概略図である。
図11図11は、積層構造の本体の第2フィルムの概略図である。
図12図12は、積層構造の本体の第3フィルムの概略図である。
図13図13は、治療支援装置を用いた治療支援方法を説明するための図である。
図14図14は、治療支援装置を用いた治療支援方法を説明するための図である。
図15図15は、治療支援装置を用いた治療支援方法を説明するための図である。
図16図16は、発明者らによる流体の保持の検証に用いられた治療支援装置の形状を表した図である。
図17図17は、発明者らによる、図16の治療支援装置を用いた流体の保持の検証結果を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<1.治療支援装置の概要>
【0009】
(1)実施の形態に係る治療支援装置は、対象生物の体内に導入されて、体内の生体組織の治療に用いられる装置であって、生体組織との間に生体組織に作用させる成分を有する流体を保持する保持空間を形成するように、生体組織を被覆する本体と、保持空間に流体を供給する供給部と、保持空間に保持された流体の保持空間からの流出を防止するために、保持空間の周囲において本体を生体組織に固定させる固定部と、を備える。
【0010】
生体組織に作用させる成分を有する流体は、例えば、薬剤や洗浄液や細胞などである。流体は、液体、気体、これらの混合物、固体の混じった液体又は気体、などである。また、液体は、ゲル状などの粘性の高いものも含む。
【0011】
生体組織との間に保持空間を形成するように生体組織を被覆し、保持空間に保持された流体の保持空間からの流出を防止するために、保持空間の周囲において本体を生体組織に固定させることによって、保持空間に上記流体が保持される。保持空間に上記流体が保持されることは、発明者らによって検証も行われた。その結果、生体組織に上記流体が接する状態を保持することができ、その流体を用いた生体組織への治療を有効に支援することができる。
【0012】
(2)好ましくは、治療支援装置は、保持空間に保持された流体を保持空間から排出する排出部をさらに備える。これにより、治療の必要に応じで流体を排出することができ、治療を有効に支援することができる。
【0013】
(3)好ましくは、本体は、フィルム状である。これにより、対象生物の体内への導入が容易になり、治療の支援に用いられやすくなる。
【0014】
(4)好ましくは、固定部は、本体を生体組織に吸着固定させる1又は複数の吸引孔を含む。吸引孔が設けられることによって、本体は生体組織に吸着固定される。これにより、確実に固定させることができる。
【0015】
(5)好ましくは、本体は、第1の流路断面積を有する流路を有し、吸引チューブが接続されるコネクタを有し、複数の吸引孔はコネクタに、第1の流路断面積よりも大きい第2の流路断面積を有する内部空間を介して接続されている。これにより、吸引孔からの気流は、コネクタから外部に吸引される前に、内部空間において緩衝される。これにより、内部の気圧が均一になりやすい。つまり、吸引チューブによる吸引力が、複数の吸引孔に均等に作用するようになる。その結果、本体が生体組織にバランスよく吸着固定され、内部の流体の流出が効果的に防止される。
【0016】
(6)好ましくは、内部空間は、複数の吸引孔を保持空間の周囲において互いに連通させる第1の領域を有する。これにより、吸引孔からの気流は、コネクタから外部に吸引される前に、内部空間において緩衝される。
【0017】
(7)好ましくは、内部空間は、第1の領域の内側領域である第2の領域をさらに有する。これにより、吸引孔からの気流は、コネクタから外部に吸引される前に、内部空間において緩衝される。
【0018】
(8)好ましくは、内部空間は、複数の吸引孔を保持空間と重なる範囲において互いに連通させる。これにより、吸引孔からの気流は、コネクタから外部に吸引される前に、内部空間において緩衝される。
【0019】
(9)好ましくは、本体は、第1フィルムと、第1フィルムに積層され、第1フィルムとの間に内部空間を形成する第2フィルムと、第2フィルムに積層され、保持空間の周囲を画定し、第2フィルムとともに保持空間を形成する第3フィルムと、を有する。これにより、本体を容易に製造できる。
【0020】
(10)好ましくは、内部空間は、第1フィルムと第2フィルムとの接触を抑制するよう第1フィルムと第2フィルムとの少なくとも一方に設けられた構造体を有する。構造体を有することにより、第1フィルムと第2フィルムとの接触が抑制される。これにより、第1フィルムと第2フィルムとの間の内部空間を確保でき、内部空気の吸引を可能にする。その結果、吸引による固定を可能にできる。
【0021】
(11)好ましくは、構造体は、内部空間において分散配置されている。構造体は、例えば、径方向の複数位置において周方向の連通が確保されるよう設けられている。これにより、内部空間の確保と、吸引による気流の確保とが可能になる。
【0022】
(12)好ましくは、構造体は、第1フィルムと第2フィルムとのうちのいずれか一方フィルムから突出して形成されている。これにより、本体の柔軟性の確保と吸引による気流の確保とが可能になる。
【0023】
(13)好ましくは、固定部は、吸引孔内に設けられた、生体組織への穿刺部を含む。これにより、吸引された生体組織の面に平行なせん断方向の固定力を確保することができる。
【0024】
(14)好ましくは、穿刺部は、穿刺部による固定を補助する構造を有する。固定を補助する構造は、生体組織に穿刺した穿刺部の抜けが防がれる構造であって、例えば、穿刺部の先端に設けられたアンカー構造である。アンカー構造は、フック又は棘のように形作られた先端の構造を指す。具体的には、アンカー構造は、穿刺部の末端から、穿刺部に対して鋭角に突設された部分を指す。これにより、穿刺した後の生体組織からの穿刺部の抜けが防止され、穿刺部による固定が補助される。
【0025】
<2.治療支援装置の例>
【0026】
本実施の形態に係る治療支援装置100は、対象生物の体内に導入されて、体内の生体組織の治療に用いられることによって、生体組織に作用させる成分を有する流体を用いた患部の治療を支援する装置である。
【0027】
図1及び図2を参照して、治療支援装置100は、本体10を有する。本体10は、治療時に、患部である生体組織200との間に保持空間20を形成するように、生体組織200を被覆する。保持空間20は、生体組織200に作用させる成分を有する流体を保持するための空間である。
【0028】
この流体は、例えば、薬剤や洗浄液や細胞などである。流体は、液体、気体、これらの混合物、固体の混じった液体又は気体、などである。また、液体は、ゲル状などの粘性の高いものも含む。以降の説明では、この流体を薬剤等とも称する。
【0029】
本体10は、フィルム状である。本体10の、保持空間20が形成される側、つまり、治療時に生体組織200側に向く面を下面、反対側を上面12とする。本体10の下面側は、保持空間2の周囲の側面24と、保持空間2の上面25とを有する。また、本体10の上面12周囲の外周面を側面26とする。なお、ここでの「面」は、二次元の面を含むフィルム状の薄膜を指すものとする。
【0030】
治療支援装置100は、供給部30を有する。供給部30は、保持空間20に薬剤等を供給するために用いられる部材である。供給部30は、内部を薬剤等が通過可能な内空を有するシリコンチューブであって、外部から保持空間20まで挿入されている。供給部30は、図示しないポンプに接続されている。ポンプの駆動によって内部を薬剤等が通過し、保持空間20に薬剤等が供給される。
【0031】
治療支援装置100は、排出部40を有する。排出部40は、保持空間20に保持された薬剤等を保持空間20から排出するために用いられる部材である。排出部40は、内部を薬剤等が通過可能な内空を有するシリコンチューブであって、外部から保持空間20まで挿入されている。排出部40は、図示しないポンプに接続されている。ポンプの駆動によって内部を薬剤等が通過し、保持空間20から薬剤等が排出される。
【0032】
なお、供給部30と排出部40とは兼用されてもよいし、入れ替え可能であってもよい。
【0033】
治療支援装置100は、保持空間20に保持された薬剤等の保持空間20からの流出を防止するための固定部50を有する。固定部50は、保持空間20の周囲において本体10を生体組織200に固定させる。
【0034】
固定部50は、一例として、本体10を生体組織200に吸着固定させる。そのため、固定部50は、吸引孔51を有する。吸引孔51は、内側を陰圧にすることによって外側から内側に向かう吸引力を発生させ、当接した生体組織200をその吸引力によって吸引して生体組織200に対して本体10を固定させる。
【0035】
固定部50は、一例として、複数の吸引孔51を有する。複数の吸引孔51は、図1に示されるように、保持空間20の周囲に等間隔に配置される。他の例として、固定部50は、1つの吸引孔51を有する。1つの吸引孔51は、一例として、保持空間20の周囲全体である。
【0036】
本体10は、内部空間23を有する。内部空間23は、複数の吸引孔51を保持空間20と重なる範囲において互いに連通させる第1の領域22を含む。第1の領域22は、本体10の内部の保持空間20の上方、つまり、上面25と上面12との間の空間である。また、内部空間23は、複数の吸引孔51それぞれから伸び、第1の領域22に結合される流路54をさらに含む。
【0037】
本体10は、内部空間23に吸引チューブ11Aを接続するためのコネクタ11を有する。コネクタ11に接続された吸引チューブ11Aが内部空間23内の空気を吸引することによって、内部空間23は陰圧になる。
【0038】
複数の吸引孔51は、内部空間23を介してコネクタ11に接続されている。そのため、内部空間23が陰圧になることによって、吸引孔51は、当接された生体組織200を内側に向けて吸引する。
【0039】
詳しくは、吸引チューブ11Aがコネクタ11に接続されて吸引することによって、コネクタ11には、内部空間23から外部に向かう流路R1が生じる。流路R1は第1の流路断面積S1を有する。
【0040】
コネクタ11に流路R1が生じることによって、コネクタ11が接続している内部空間23には流路が生じる。内部空間23の流路は、第1の流路断面積S1より大きい第2の流路断面積S2(S1<S2)を有する。
【0041】
詳しくは、図1図2に示されたように、コネクタ11が第1の領域22と連通する位置に設けられている場合、コネクタ11に流路R1が生じることによって、コネクタ11に連続している第1の領域22には、コネクタ11に向かう第1の流路R21が生じる。さらに、第1の流路R21が生じることによって、第1の領域22に連続している複数の流路54には、第1の領域22に向かう第2の流路R22が生じる。
【0042】
図2のA部分の拡大模式図に示されるように、コネクタ11に接続された吸引チューブ11Aが内部空間23内の空気を吸引することによって、内部空間23には、吸引孔51からコネクタ11に向かう流路R22,R21,R1が生じ、その結果、吸引孔51は、当接された生体組織200を吸引することになる。
【0043】
第1の流路断面積S1より第2の流路断面積S2が大きい(S1<S2)ことで、吸引孔51からの気流は、コネクタ11から外部に吸引される前に、内部空間23において緩衝される。これにより、内部の気圧が均一になりやすい。つまり、吸引チューブ11Aによる吸引力が、複数の吸引孔51に均等に作用するようになる。その結果、本体10が生体組織200にバランスよく吸着固定され、内部の薬剤等の流出が効果的に防止される。
【0044】
なお、内部空間23の構成は、複数の吸引孔51がコネクタ11の流路断面積S1より流路断面積が大きい内部空間を経てコネクタ11に流路が接続されていれば他の構成でもよい。例えば、図2に点線で示されたように、内部空間23は、保持空間20の周囲において複数の吸引孔51を互いに連通させる第2の領域21をさらに有してもよい。第2の領域21は、本体10の内部の、このような構成であっても、吸引チューブ11Aによる吸引力を複数の吸引孔51に均等に作用させることができる。
【0045】
図2のB部分の拡大模式図に示されるように、内部空間23の第1の領域22には、ピラー13が設けられている。ピラー13は、上面12と上面25とのうちのいずれか一方から他方に向けて突出して形成された構造物である。図2の例では、上面12から上面25に向かって伸び、高さが上面25と上面12との間隔より小さい。これにより、本体10の柔軟性の確保と吸引による気流の確保とが可能になる。
【0046】
ピラー13が設けられることによって、吸引によって第1の領域22が陰圧となったときでも上面25と上面12とが密着して内部空間23が狭くなることを防止できる。これにより、本体10を剛性の低いフィルムを用いて後述するように形成しても内部空間23が確保され、固定部50による吸着固定を可能にする。
【0047】
ピラー13は、内部空間23の第1の領域22において分散配置されている。詳しくは、図3に示されるように、ピラー13は、第1の領域22の径方向の複数位置において周方向との連通が確保されるよう設けられている。これにより、内部空間23の確保と、吸引による気流の確保と、が可能になる。
【0048】
ピラー13の形態について、発明者らは、図3図4にA~Cで示される各条件で本体10を形成し、生体組織200への固定部50による吸着固定の可否について検証した。図3図4を参照して、Aでは、単体面積の最も小さなピラー13を放射状に数多く配置しており、配置されたすべてのピラー13の総面積は一番大きい。B,Cでは、Aより単体面積の大きなピラー13をAより少ない数、放射状に配置し、配置されたすべてのピラー13の総面積が概ね同じである。Bのピラー13の方がCより単体面積が小さく、配置数は多い。言い換えると、Cの方がピラー13の設置間隔が大きい。この検証の結果、図4に示されたように、C及びDの形態では固定部50による吸着固定がなされなかった。
【0049】
また、発明者らは、図3図4にA~Cで示される各条件で形成した本体10それぞれの弾性力を測定した。その結果、図5に示されたように、Aは弾性力が最も大きく、次いでB,Cが概ね同じで、Dが最も小さい結果が得られた。
【0050】
図4及び図5の結果より、本体10の柔軟性は、ピラー13の総面積に依存していることがわかった。すなわち、ピラー13の総面積が小さいほど柔軟性が大きいことがわかった。また、同じ総面積でもピラー13の設置間隔が大きいと吸着固定が困難となる。これは、ピラー13の設置間隔が大きいと薄膜構造のたわみが生じ、その結果、第1の領域22が狭くなり、流路R21が確保できないためと考えられる。よって、内部空間23の第1の領域22には、AとBとの間の条件でピラー13を設置するものとする。これにより、柔軟性と第1の領域22の維持とを両立することができる。
【0051】
本体10が生体組織200を完全に覆った状態で、コネクタ11から外部に吸引されることによって内部空間23が真空又は真空に近い状態となると、外部への吸引を停止しても内部空間23の吸引孔51に生じる吸引力によって生体組織200への吸引固着が維持される。好ましくは、吸引を停止する場合、図示しない三方弁やコックなどの弁を用いて内部空間23と外部への接続を断絶する。これにより、吸引された空気が内部空間23に逆流したり、外部流体が内部空間23にリークしたりすることが防がれ、より確実に内部空間23の真空又は真空に近い状態が維持されることになる。
【0052】
しかしながら、実際には、吸引を停止すると、体動などの外乱によって、生体組織200の面に平行なせん断方向、つまり、横方向のずれが生じたり、吸引固着が損なわれたりする場合もある。
【0053】
そこで、好ましくは、図6に示されたように、固定部50は、吸引孔51内に設けられた、生体組織200への穿刺部53を含む。穿刺部53は、例えば、シリコン製、金属製、ポリマー製マイクロニードルである。一例として、穿刺部53は、上面12の裏面側に配置され、吸引孔51から吸引して内部に入り込んだ生体組織200を内側から穿刺することによって、生体組織200に対して本体10を固定させる。
【0054】
これにより、吸引孔51によって生体組織200を吸引固着中におけるせん断方向、つまり、横方向のずれが防止される。また、上記のように吸引固着後に吸引力を低下又は停止させても固着状態を維持することができる。
【0055】
より好ましくは、穿刺部53は、穿刺部53により固定を補助する構造をさらに有する。固定を補助する構造は、一例として、図6の部分Cの拡大図に示されたように、穿刺部53の先端に設けられたアンカー構造53Aである。アンカー構造53Aは、フック又は棘のように形作られた先端の構造を指す。具体的には、アンカー構造53Aは、穿刺部53の末端から、穿刺部53に対して鋭角に突設された部分を指す。
【0056】
固定を補助する構造は、生体組織200に穿刺した穿刺部53の抜けが防がれる構造であれば他の構造であってもよい。他の例として、穿刺部53の先端の摩擦係数を大きくするように穿刺部53が構成されていることであってもよいし、穿刺部53の先端の粘性を高くするよう構成されていることであってもよい。
【0057】
穿刺部53が、先端のアンカー構造53Aのような固定を補助する構造を有すことにより、穿刺した後の生体組織200からの穿刺部53の抜けが防止され、穿刺部53による固定が補助される。
【0058】
発明者らは図7に示されたように、直径2.5mmの吸引孔51に対して高さ250μmの位置に210μm四方にシリコン製のマイクロニードルを穿刺部53として2×2個、及び、3×3個配置し、吸引力(陰圧)を変化させて、それぞれのせん断方向の固定力を確認した。また、比較例として、穿刺部53を有さないものも同様の条件でせん断方向の固定力を確認した。その結果、図8に示された結果が得られた。
【0059】
詳しくは、図8を参照して、穿刺部53を有さないものよりも穿刺部53が配置されたものの方がどの陰圧に対してもせん断方向の固定力が大きいことが検証された。また、配置されたマイクロニードルの数が多い方(3×3個)が少ない(2×2個)よりもせん断方向の固定力が大きいことが検証された。そのため、複数の吸引孔51それぞれの内部に穿刺部53を配置する。これにより、せん断方向の固定力を確保することができる。
【0060】
本体10は、図9に示されるように、第1フィルム61、第2フィルム62、及び、第3フィルム63の積層構造である。第1フィルム61は、第1の領域22から上方の上面12を含む範囲である。第2フィルム62は、保持空間20の上面から吸引孔51までの範囲である。第3フィルム63は、吸引孔51から下端までの範囲である。これにより、本体10を容易に製造できる。
【0061】
各フィルム61,62,63は、一例として、シリコン樹脂であって、例えば、シリコン樹脂素材の膜と、PDMS(polydimethylsiloxane:ポリメチルシロキサン)素材の膜との積層構造である。PDMS素材は、例えば、主剤と硬化剤との重量比が10:1である。物性値の一例として、PDMSの密度は1.05g/cm^3、引張強さは6.7MPa、破断伸びT2は140%である。
【0062】
第1フィルム61、第2フィルム62、及び、第3フィルム63がPDMSなどのシリコン樹脂である場合、本体10は、これらフィルム61,62,63は、それぞれ、一例として、モールディングプロセスによって生成される。例えば、図示しない型枠にPDMSを流し込み硬化させ、型枠から硬化したPDMSを剥離することによってフィルム61,62,6361が生成される。フィルム61,62,63は、VUV(Vacuum Ultra Violet:真空紫外線)照射され、その順に積層して接合される。その際に、供給部30及び排出部40であるシリコンチューブを接合する。
【0063】
詳しくは、図10を参照して、第1フィルム61は、上面12となる薄膜78を有する。薄膜78の、積層時に第2フィルム62を向く側にピラー13となる突起70が形成されている。また、薄膜78の周縁には、積層時に第2フィルム62を向く側に延び、側面26の一部となる縁部76が形成されている。縁部76の長さは突起70より長い。ピラー13となる突起70が形成されていることによって、第1フィルム61と第2フィルム62との接触が抑制される。
【0064】
図11を参照して、第2フィルム62は、上面25となる薄膜71を有する。薄膜71の周縁には、積層時に第3フィルム63を向く側に延び、側面26の一部及び側面24の一部となる縁部77が形成されている。
【0065】
縁部77には、中心軸方向が薄膜71の法線と一致した、それぞれ流路52の一部となる複数の貫通孔72が形成されている。複数の貫通孔72は、薄膜71の円周方向に概ね一定間隔で縁部77に設けられている。
【0066】
縁部77には、さらに、延伸方向が薄膜71の半径方向と一致した、それぞれ供給部30及び排出部40を導入するための溝73,74が形成されている。溝73,74は同一の位置に形成されていてもよいし、図11に示されたように異なる位置であってもよい。
【0067】
なお、固定部50が穿刺部53を有する場合、薄膜71の一部が貫通孔72に突出し、穿刺部53となる図示しない突起が設けられていてもよい。
【0068】
図12を参照して、第3フィルム63は、側面26の一部及び側面24の一部となる勘定フィルムである。第3フィルム63には、中心軸方向が第3フィルム63の法線と一致した、それぞれ複数の吸引孔51となる複数の貫通孔75が形成されている。
【0069】
図13図15を参照して、治療支援装置100での治療支援方法について説明する。図13を参照して、第1の状態401では、治療支援装置100を対象生物の体内にかる患部200Aまで搬送する。搬送は、一例として、本体10がフィルム状であることを活かして、内視鏡などの内空を有する細い筒部材300が搬送装置として用いられる。筒部材300は、患部200Aまでの通路のサイズに応じた外径を有している。通路は、例えば、食道や大腸や血管である。
【0070】
治療支援装置100は、筒部材300の内空に、丸める、又は、折り畳むなどして小型化して格納されて患部200A付近まで搬送される(ステップS1-1)。患部200Aまで搬送された治療支援装置100が、筒部材300から取り出され生体組織200に置かれることで、本体10の弾性力によって広がる(ステップS1-2)。これにより、第2の状態402では、患部200Aを被覆するようになる(ステップS1-3)。その他、内視鏡などの操作部材を用いて患部200Aを被覆するように治療支援装置100が操作されてもよい。
【0071】
次に、図14を参照して、第3の状態403において、患部200Aを被覆するよう配置された治療支援装置100のコネクタ11に吸引チューブ11Aを接続し、内部空間23の空気を吸引する(ステップS2)。これにより、第4の状態404のように、内部空間には流路R1,R21,R22を通る気流が生じ、内部が陰圧になる。その結果、内部空間23に接続された吸引孔51が、当接された生体組織200に本体10を吸着固定させる。
【0072】
次に、図15を参照して、第5の状態405において、本体10が生体組織200に吸着固定された状態で、供給部30から薬剤等Mを保持空間20に供給する(ステップS3)。保持空間20は、吸引孔51の吸引力によって密閉されている。そのため、第6の状態406のように、供給された薬剤等Mは内部に充満する。このとき、保持空間20は患部200Aを被覆して密閉されているため、第7の状態407のように、薬剤等Mが患部200Aに接した状態が維持されることになる。
【0073】
第7の状態407においては、吸引チューブ11Aを接続して内部空間23の吸引を継続してもよい。これにより、吸着固定が維持され、薬剤等Mが患部200Aに接した状態で保持される。
【0074】
固定部50に穿刺部53が備えられている場合、第7の状態407において内部空間23の吸引を解消してもよい。この場合、吸引チューブ11Aをコネクタ11から除去してもよい。これにより、対象生物の外部から体内へと挿入された吸引チューブ11Aを取り除くことができ、治療時の不快感を抑えることができる。また、吸引孔51に当接された生体組織200の吸引による影響を抑えることができる。
【0075】
発明者らは、図16に示された治療支援装置100を用いて、薬剤等の保持の検証を行った。図16の治療支援装置100は、本体10の外径が22mm、保持空間20の内径が12mm、各吸引孔51の直径が2.5mm、供給部30としてのシリコンチューブの直径が200μm、フィルム状の本体10の厚みが630μmである。
【0076】
なお、この検証では、薬剤等の替わりに蛍光色素を用いた。その結果、図17に示されるように、保持空間20に徐々に蛍光色素が供給され、充満した状態で保持されることが確認された。従って、この治療支援装置100は、患部に対して薬剤等を接した状態で保持し、有効に治療支援が行えることが検証された。
【0077】
<3.付記>
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0078】
2 :保持空間
10 :本体
11 :コネクタ
11A :吸引チューブ
12 :上面
13 :ピラー
20 :保持空間
21 :第2の領域
22 :第1の領域
23 :内部空間
24 :側面
25 :上面
26 :側面
30 :供給部
40 :排出部
50 :固定部
51 :吸引孔
52 :流路
53 :穿刺部
53A :アンカー構造
54 :流路
61 :第1フィルム
62 :第2フィルム
63 :第3フィルム
70 :突起
71 :薄膜
72 :貫通孔
73 :溝
74 :溝
75 :貫通孔
76 :縁部
77 :縁部
78 :薄膜
100 :治療支援装置
200 :生体組織
200A :患部
300 :筒部材
401 :第1の状態
402 :第2の状態
403 :第3の状態
404 :第4の状態
405 :第5の状態
406 :第6の状態
407 :第7の状態
6361 :フィルム
M :薬剤等
R1 :流路
R21 :第1の流路
R22 :第2の流路
S1 :第1の流路断面積
S2 :第2の流路断面積
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17