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特許7558527金属積層造形用ガスおよび金属積層構造物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】金属積層造形用ガスおよび金属積層構造物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 10/32 20210101AFI20240924BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240924BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20240924BHJP
   B29C 64/371 20170101ALI20240924BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240924BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20240924BHJP
【FI】
B22F10/32
B22F1/00 M
B22F1/00 S
B22F10/28
B29C64/371
B33Y10/00
B33Y30/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020170816
(22)【出願日】2020-10-08
(65)【公開番号】P2022062643
(43)【公開日】2022-04-20
【審査請求日】2023-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000158312
【氏名又は名称】岩谷産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(72)【発明者】
【氏名】森澤 誠
(72)【発明者】
【氏名】吉田 佳史
(72)【発明者】
【氏名】澤田 俊
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 直子
(72)【発明者】
【氏名】中野 禅
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/203275(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0147688(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 8/00
B22F 10/00-12/90
B23K 26/00-26/70
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ溶融法による金属粉体の積層造形において用いられるシールドガスであって、
体積%以上18体積%以下の水素ガスと、82体積%以上93%体積以下の不活性ガスと、を含有し、前記不活性ガスがアルゴンガスを含有する、シールドガス。
【請求項2】
アルゴンガスの含有割合が82体積%以上93%体積以下である、請求項1に記載のシールドガス。
【請求項3】
前記シールドガスが、水素ガスとアルゴンガスとからなる、請求項1または請求項2に記載のシールドガス。
【請求項4】
金属粉体を準備する工程と、
金属積層造形装置において、シールドガスの存在下で前記金属粉体にレーザ光を照射し、前記金属粉体を溶融させる工程と、を含み、
前記シールドガスが、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のシールドガスである、
金属積層構造物の製造方法。
【請求項5】
前記金属粉体が、ニッケル合金またはステンレス鋼である、請求項4に記載の金属積層構造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属積層造形用ガスおよび金属積層構造物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粉末を材料として積層構造物を作製することが公知である。この製造方法は、金属積層造形等と称される。また、金属積層造形の際に、シールドガスを用いることが知られている(たとえば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-184634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂の粉末を材料とする積層造形は、実用的な方法、条件およびコストが実現されつつある。一方、金属粉末を材料とする積層造形では、造形速度や作製される構造物の物性等においてさらなる向上が望まれている。そこで、金属積層造形を速く確実に実施できること、そのために用いるガスおよび製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に従った金属積層造形用ガスは、レーザ溶融法による金属粉体の積層造形において用いられるシールドガスであって、2体積%以上20体積%以下の水素ガスと、80体積%以上98%体積以下の不活性ガスと、を含有する。
【0006】
本開示に従った金属積層構造物の製造方法は、金属粉体を準備する工程と、金属積層造形装置において、シールドガスの存在下で前記金属粉体にレーザ光を照射し、金属粉体を溶融させる工程と、を含み、シールドガスは前述のシールドガスである。
【発明の効果】
【0007】
上記シールドガスおよび上記製造方法によれば、金属積層造形を速く、確実に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示における金属積層構造物の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図2図2は、金属積層造形装置の一例を示す模式図である。
図3図3は、金属溶融試験装置を示す模式図である。
図4図4は、金属溶融試験装置のチャンバーを示す模式図である。
図5図5は、レーザ照射による金属溶融時のスパッタ飛散の例を示す図である。
図6図6は、レーザ照射による金属の溶融状態を示す図である。
図7図7は、金属溶融試験で得られた金属凝固物の断面の例を示す図である。
図8図8は、金属積層構造物の断面の例を示す図である。
図9図9は、レーザ走査速度と金属積層構造物の相対密度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施形態の概要]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。本開示のシールドガスは、レーザ溶融法による金属粉体の積層造形において用いられるシールドガスであって、2体積%以上20体積%以下の水素ガスと、80体積%以上98%体積以下の不活性ガスと、を含有する。
【0010】
従来、金属積層造形方法の1つとして、レーザ溶融法が知られている。レーザ溶融法の1つであるSLM(Selective Laser Melting)法は、造形装置のステージ上に載置された金属粉体にレーザ光を照射して金属粉体を溶融させ、次いで凝固させることによって金属層を形成し、これを繰り返すことによって金属積層構造物を作製する方法である。また、SLM法において、造形チャンバー内にシールドガスを導入し、シールドガス雰囲気下で金属層を形成させることが公知である。シールドガスは、造形チャンバー内から酸素を排除することを主な目的として使用されている。造形チャンバー内に酸素が存在すると、金属粉体の酸化等の意図しない反応が生じることがあるためである。シールドガスとして、窒素やアルゴンなどの不活性ガスを用いることが知られている。
【0011】
一方で、SLM法によって得られる金属積層構造物は、機械的強度や密度等の物性において、また製造効率において、さらなる向上が望まれていた。この課題に対して、本発明者らは、不活性ガスに加えて水素を特定の割合で含有するシールドガスを用いることによって、レーザ光によって溶融した金属粉末の連続性が良好で、また、凝固状態も良好な金属層が得られることを見出した。さらに発明者らは、前記のシールドガスによれば、積層速度を大きくした場合でも積層構造物の密度の低下が少なく、良好な物性の積層構造物が得られることを見出した。特定の理論に拘束されるものではないが、金属粉体にレーザ光を照射する時に、金属粉体の近傍に存在するシールドガスがプラズマ化されること、また、プラズマ化のために消費されるエネルギーがシールドガスの組成によって異なることが、本発明の効果と関連すると考えられている。本開示のシールドガスによれば、良好な溶融状態の金属溶融物を得ることができ、また、高速で積層を行う場合にも積層構造物の密度の低下が少ない。
【0012】
不活性ガスは、アルゴンガスであってもよい。金属積層造形において、シールドガスの種類金属溶融時の温度や金属粉体の組成(含有元素)によっては、意図しない金属化合物が形成されることがある。これに対して、不活性ガスがアルゴンである場合、意図しない金属化合物が生成されるおそれが少なく、幅広い条件で安定的に金属積層体を製造できる。また、シールドガスは、水素ガスと不活性ガスからなるものであってもよい。但し、不可避の不純物成分を含むことを妨げない。シールドガスが水素ガスと不活性ガスからなる場合、金属粉末における意図しない反応が抑制され、安定に積層構造物を得られる。
【0013】
また本開示の製造方法は、金属粉体を準備する工程と、金属積層造形装置において、シールドガスの存在下で前記金属粉体にレーザ光を照射し、前記金属粉体を溶融させる工程と、を含み、シールドガスが、前記のシールドガスである。本開示の製造方法によれば、良好な溶融状態の金属を得ることができ、固化後の緻密性が高く、また、高速で積層を行う場合でも高い密度を有する金属積層構造物が得られる。
【0014】
金属粉体はニッケル合金またはステンレス鋼であってもよい。ニッケル合金またはステンレス鋼は、レーザ吸収性を有するためレーザで溶融が可能であり、また、過大なエネルギーを必要することなく溶融可能であるという点で好ましい。コストメリットを考慮すると、ニッケル合金がとりわけ好ましい。
【0015】
[実施形態の具体例]
以下に、本開示のシールドガスないし製造方法の一例を説明する。
[シールドガス]
本開示におけるシールドガスは、レーザ溶融法による金属粉体の積層造形において用いられるシールドガスである。本開示のシールドガスは、2体積%以上20体積%以下の水素ガスと、80体積%以上98%体積以下の不活性ガスと、を含有する。不活性ガスに含有される水素ガスの割合が2体積%以上20体積%以下であるとき、レーザ照射による金属の溶融状態が良好で、凝固した際の割れが少なく、良好な性状の金属層が得られる。水素ガスの割合は、3体積%以上19体積%以下であることがより好ましく、7体積%以上18体積%以下であることがさらに好ましい。
【0016】
従来、シールドガスとして、空気に対して熱伝導度の高いガスである水素やヘリウムを用いて生産性を向上させる提案があった(例えば特許文献1)。この提案では、シールドガスとして100%水素ないしヘリウムを用いる検討がされている。これに対して本開示は、不活性ガスに対して水素を一定範囲の濃度で含むシールドガスを用いた時に、レーザ光によって溶融される金属の溶融固化の状態が良好になることを見出している。
【0017】
本開示のシールドガスにおいて、不活性ガスとしては、ヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガス等を用いることができる。不活性ガスは、1種類のガスでもよく、2種以上が組み合わされてもよい。不活性ガスとして、アルゴンガスを用いることが好ましい。不活性ガスは、シールドガス中に80体積%以上98%体積以下の割合で含まれる。不活性ガスの割合は、81体積%以上97体積%以下であることがより好ましく、82体積%以上93体積%以下であることがさらに好ましい。
【0018】
本開示のシールドガスにおいて、不活性ガスおよび水素ガスの含有割合の和は、シールドガスに対して95体積%以上であれば好ましく、97体積%以上であればより好ましく、100体積%であることがさらに好ましい。発明の効果を有する限りにおいて、不活性ガスおよび水素ガス以外の成分を含んでもよい。また、微量の不可避不純物成分を含んでもよい。
【0019】
[製造装置]
図2に、本開示の製造方法のために使用される金属積層造形装置の一例の模式図を示す。図2は、金属積層構造物の造形装置の構成の一例を示す模式図である。図2に示すように、造形装置は、レーザ照射源1と、反射板2と、造形チャンバー3と、ステージ4と、シールドガス供給源5と、循環路6と、循環装置7と、を備える。シールドガス供給源5と造形チャンバー3とは、管路L1で接続されている。造形チャンバー3には、管路L2が接続している。シールドガスは、ガス供給源5から管路L1を介して造形チャンバー3に供給される。造形チャンバー3は密閉可能であり、造形チャンバー3の内部はシールドガスで充填されうる。また、充填されたシールドガスは、循環路6および循環装置7を通って循環しうる。さらに、余剰のシールドガスは管路L2から排出されうる。
【0020】
ステージ4は、造形チャンバー3の内部に備えられる。ステージ4は、上下方向に昇降可能である。ステージ4に、材料供給機構(不図示)から原料である金属粉体が供給される。レーザ照射源1から出射されるレーザ光は、反射板2によって屈折され、ステージ4上の金属粉体に照射される。反射板2は、その向きおよび角度が可変である。反射板2は、予め設定されたプログラムその他の制御機構によって制御される。反射板2の向きおよび角度が変化することによって、ステージ4上に載置される金属粉体の所定の位置にレーザ光が照射される。
【0021】
シールドガス供給源5は、管路L1を介して造形チャンバー3と接続されている。シールドガス供給源5は、予め所定の割合で混合された混合ガスであるシールドガスを供給する形態にできる。また、別の形態として、シールドガス供給源5は、水素ガスを供給する管路と、不活性ガスを供給する管路と、それらを合流する管路と、を含んでもよい。
【0022】
[製造方法]
図1は、本開示に従う製造方法の流れを示す。本開示の製造方法は、金属粉体を準備する工程(S10)と、金属積層造形装置において、シールドガスの存在下で前記金属粉体にレーザ光を照射し、前記金属粉体を溶融させる工程(S20)と、を含む。シールドガスとして、前述した水素ガスと不活性ガスとを含有するシールドガスを用いる。
【0023】
本開示の製造方法に供する金属粉体としては、発明の効果を有する限り特に制限されないが、例えばニッケル合金またはステンレス鋼の粉体を好ましく用いることができる。具体的には例えば、インコネル718、インコネル626、SUS316、SUS316L、SUS304、SUS304L、ハステロイC276を例示できる。
【0024】
金属粉体の粒径は、発明の効果を有する限り特に制限されないが、例えば、粒径の中心値が30μm~80μmである金属粉体を用いることができ、60μm以下であれば好ましく、30μm~60μmであればより好ましい。また、金属粉体は、ガスアトマイズ法で製造された球形あるいは球形に近い形状を有することが好ましい。
【0025】
1つの実施形態において、金属積層構造物の原料となる金属粉体は、造形装置の造形チャンバー3の内部に備えられる材料供給機構のタンク(不図示)に収容される。ステージ4は、タンク内に嵌め込まれており、タンク内で上下に昇降する。金属粉体の準備工程S10において、タンクに充填された金属粉体の中でステージ4が昇降することによって、ステージ4の上に所定量の金属粉体が供給される。なお、金属粉体の準備工程はこのような形態に限られない。例えば、ステージ4の上方に材料供給機構が備えられていてもよい。この場合、材料供給機構からステージ4上に所定量の金属粉体が散布され、次いでステージ4上に散布された金属粉体が所定の厚みとなるように均一化されてもよい。
【0026】
積層造形に先立って、造形チャンバー3内をシールドガスで満たす。具体的には例えば、真空ポンプを用いて、造形チャンバー3を真空(例えば1.5×10-2Pa以下)まで排気し、次いで、シールドガスでパージする。パージを実施した後、積層造形の終了まで連続的あるいは間欠的に、シールドガスを5L/min~10L/min程度、造形チャンバー3内で循環させることが好ましい。なお、本実施の形態においては、シールドガスの流量を前記の範囲とできるが、シールドガスの流量はこの範囲に制限されない。シールドガスの流量は、使用する装置、造形チャンバーの大きさやシールドガスに求められる機能等に応じて適宜選択できる。例えば、シールドガスの流れを利用して、レーザ照射による金属粉体の溶融時に発生する金属ヒュームや、金属酸化物由来の酸素を除去する場合もある。シールドガスの流量は、例えば、1L/min~400L/minの間で選択できる。
【0027】
次いで、ステージ4上の金属粉体にレーザ光を照射する。レーザ光の強度は特に制限されないが、例えば、50W~500Wのレーザ光を照射することができる。同時に、反射板2を動かすことによって、レーザ光の照射位置を移動させる。作製しようとする構造物の平面構造に応じてレーザ光の照射位置を制御することによって、所望の形状を有する金属層を得る。また別の態様として、レーザ照射位置を固定し、ステージを移動させることによって、ステージ4上の金属粉体の異なる位置に順次レーザ光が当たるようにしてもよい。レーザ光の移動速度(走査速度)は、本発明の効果が得られる限り特に制限されないが、例えば、0.1~5000mm/sとすることができ、100~360mm/sであればより好ましい。
【0028】
レーザ光を照射された金属粉体は溶融する。この時、照射位置やその近傍においてスパッタが発生するが、スパッタの発生は少ないことが好ましい。スパッタが発生すると、タンク中の金属粉体やステージ上に細かい金属粒子が混入ないし付着し、積層構造物の品質に悪影響を及ぼす原因となるためである。ここで、本開示のシールドガスを用いると、レーザ光の照射時に飛散するスパッタが少ないことが確認されている。また、溶融した金属粉体は流動性を有し、溶融部分の一部分ないし全体が一体化する。この時、溶融状態が不良である場合、粉体が粒状に変化するのみとなって連続した層を形成できず、緻密性の低い積層構造物しか得ることができない。これに対して、本開示のシールドガスを用いると、安定して連続性の高い溶融金属が形成される傾向がある。
【0029】
溶融した金属は温度の低下とともに凝固するが、凝固の過程で割れが発生することがある。割れの発生は、積層構造物の作製不能や積層構造物の強度が損なわれる原因となるため好ましくない。ここで、本開示のシールドガスを用いると、凝固割れが低減され、良好な凝固状態の金属層が得られる。
【0030】
レーザ光を照射し、金属粉体を溶融固化させる工程(S20)と、金属粉体を準備する工程(S10)とを繰り返し実施することで、金属層を順次積層させる。具体的には例えば、一層の金属層が生成された後、ステージ4が所定の距離分、下方に移動する。次いで、再びステージ4上に金属粉体が準備され(S10)、レーザ光が照射される(S20)。所望の寸法の金属積層構造体となるまで積層を繰り返し、金属積層構造物を得る(S30)。
【0031】
なお、上記の製造方法はレーザ溶融法のうちSLM法(Laser-based Powder Bed Fusion of metals (PBF-LB/M)とも定義される)に基づいて説明しているが、本開示のシールドガスの適用は、SLM法に限定されない。
【実施例
【0032】
<1.金属溶融試験>
[装置]
図3]に模式図を示す金属溶融試験装置30を用いた。図3の金属溶融試験装置30は、内部に金属粉体を保持できるステージチャンバー33と、レーザ発振器31と、ステージチャンバー33にレーザを照射するレーザヘッド35と、を備える。ステージチャンバー33の内部に、金属粉体を収容する粉体バケット81が載置される。また、ステージチャンバー33に向けてX線を照射するX線管71を備える。ステージチャンバー33を挟んでX線管71と対向する位置に、イメージインテンシファイア72が備えられる。イメージインテンシファイア72に接続してカメラ73が備えられる。イメージインテンシファイア72において可視画像に変換されたX線像が、カメラ73によって記録される。
溶融試験装置30において、ステージチャンバー33に備えられるステージは、XY方向(装置における水平方向)に移動可能である。移動速度は0~1000mm/sの範囲で選択可能である。ステージに設置される粉体バケット81は、長さ120mm×高さ10mm×幅3mmの内部寸法を有し、金属粉体が充填される。レーザ発振器31のレーザ出力は、0~500Wの範囲で選択可能である。
【0033】
[試験1]
(1)金属溶融試験装置30の粉体バケット81に、インコネル718(粒径45(中心値)~63μm、山陽特殊製鋼製)を詰め込み、ステージチャンバー33内に設置した。シールドガスとして、水素ガス(JIS K 0512-1995)とアルゴンガス(JIS Z3253:2011 I1相当)とを混合し、水素3体積%およびアルゴン97体積%を含有するガスを準備した。このシールドガスを用いて、5L/minの流量で10分以上、チャンバー内をパージした。次いで、チャンバー内部を5L/minのガス流通状態にした。
(2)次いで、粉体バケット81を移動速度7.5mm/秒で水平方向に移動させながら、バケット81中の金属粉体に対して出力150Wのレーザ光を照射した。レーザ光のスポット径は33μm(設計値)とした。同時に、X線透視観察装置(図3、4参照)及び二色温度計(Thermera NIR、株式会社三井フォトニクス製)を使用して、金属の溶融状態を直接観察した。
具体的な装置としては、[図3]、[図4]に模式的に示すとおり、レーザヘッド35、X線管71およびイメージインテンシファイア72、二色温度計をそれぞれ固定した。また、ステージチャンバー33内で金属粉体50を収容した粉体バケット81を水平方向に移動させた。この構成によって、金属粉体50に対してレーザ光のスポットが相対的に移動しながら照射されるようにした。このようにしてレーザ光によって溶融された金属粉体の溶融部を連続的に観察した。X線管71は、金属粉体試料に対して水平方向に固定し、溶融状態および溶融深さを観察した。二色温度計(不図示)は金属粉体試料に対して垂直上方向に固定し、溶融時の温度分布等を測定した。
(3)得られた金属凝固物について、目視にて外観を観察した。また、得られた金属凝固物を、熱硬化性樹脂を用いて固定し、断面方向に研磨し、光学顕微鏡を用いて断面を観察した。
【0034】
[試験2~試験11]
シールドガスの組成を[表1]のとおりとした以外は試験1と同様に、金属溶融試験を行った。試験1~試験7は本開示の実施例であり、試験8~試験11は本開示の比較例である。
【0035】
【表1】
【0036】
[評価]
二色温度計によって、溶融時の温度およびスパッタ量を確認した。X線透視観察装置によって、溶融状態(溶融物の連続性や溶融深さ)を確認した。また、前記(3)のとおり、目視にて得られた金属凝固物の外観を観察し、光学顕微鏡にて金属凝固物の断面を観察した。
【0037】
[結果]
二色温度計による観察結果の一部を[図5]に示す。画像において白く現れる部分が、スパッタの一部である。[図5]に示されるとおり、シールドガスとして3%H/Arを用いた場合(試験1)には、シールドガスとしてArのみを用いた場合(試験11)よりも、スパッタの飛散量が明らかに少なかった。スパッタが少ないことは、積層造形物を作る際に製品品質を確保できると考えられた。
【0038】
X線透過観察装置による溶融金属の観察によれば、シールドガスとして3%H/Arを用いた場合(試験1)は、シールドガスとしてArのみを用いた場合(試験11)よりも、溶融物の連続性が高いことが確認された。溶融金属の観察結果を[図6]に示す。なお、図6では理解容易のために金属溶融物を白枠で示している。
【0039】
得られた金属凝固物の目視による外観観察では、シールドガスとして7%、10%、16.6%、18%H/Arを用いた各場合(試験3~試験6)において、連続性が高く、硬い金属凝固物が得られた。特に、シールドガスとして10%H/Arを用いた場合(試験4)、外観(凝固物の連続性)および脆さの点で最も良好な金属凝固物が得られた。一方、H濃度が20%を超えるシールドガスを用いた場合(試験8~試験10)は、金属凝固物の連続性が低く、ばらばらの状態となった。
【0040】
光学顕微鏡による金属凝固物の断面観察の結果の一部を[図7]に示す。[図7]に示されるとおり、シールドガスとして7%、10%、16.6%および18%H/Arを用いた各場合(試験3~試験6)において、凝固割れの少ない良好な凝固物が得られた。特に、H濃度が7%の場合(試験3)に、最も凝固割れが少なかった。なお、凝固割れとは、溶融した金属が温度低下に従って固化し、固体金属となる際に発生する割れをいう。
【0041】
[試験12]
金属粉体としてSUS316(45(中心値)~63μm(LPW Technology製))を用い、シールドガスとして5%H/95%N(商品名リークメイト、岩谷産業株式会社製)を用いる以外は、試験1と同様に金属溶融試験を行った。
【0042】
[試験13]
シールドガスとしてN(JIS Z 3253:2011N1相当)を用いる以外は、試験12と同様に金属溶融試験を行った。
【0043】
試験12は本開示の実施例であり、試験13は本開示の比較例である。試験12は、試験13と比較して、二色温度計による観察の結果、スパッタの飛散量が少なかった。また、X線透過観察装置による溶融金属の観察の結果、試験12で得られた金属凝固物は、試験13で得られた金属凝固物よりも、溶融物の連続性が高いことが確認された。
【0044】
<2.金属積層試験>
[装置]
図2]に模式図を示す金属積層造形装置を用いた。レーザの出力は200Wとした。レーザのスポット径は100μm(設計値)とした。
[金属粉体]
インコネル718(45(中心値)~63μm(山陽特殊製鋼製))
[シールドガス]
アルゴンガス(JIS Z 3253:2011 I1 相当)
3%H/Ar(JIS Z 3253:2011 I3相当、「ティグメイト」岩谷産業株式会社製)
2%H/Ar(JIS Z 3253:2011 I3 相当、「ティグメイト」岩谷産業株式会社製)
【0045】
[積層造形方法]
(1)材料供給機構である粉体バケットに金属粉体を詰めて装置に設置した。造形ステージとコーターの隙間を0.05mm以内に調整し、間に金属粉体を敷き詰めた。
(2)造形チャンバーの内部を、真空ポンプにて真空(内部圧力1.5×10-2Pa以下)にした後、シールドガスで10分以上パージし、内部を5L/minのガス流通状態にした。
(3)シールドガスを流通させた後、レーザを起動した。レーザを走査させながら金属粉体に照射し、金属粉体を溶融固化させて金属層を形成した。
(4)1層の形成が完了した後、造形ステージを0.05mm下げ、コーターによって金属粉体を造形ステージ上に敷き詰めた。このとき、金属粉体の厚さは0.05mmにした。その後、レーザを金属粉体に照射し、金属層形成を行った。この操作を繰り返すことによって200層を積層し、7.5×5×10mmの金属積層構造物を得た。
【0046】
アルゴンガス、3%H/Ar、2%H/Arの3種類のシールドガスをそれぞれ用いて、上記の積層造形を行った。また、レーザ走査速度を、60, 90, 120, 150, 180, 270, 360, 450, 540, 900mm/秒の各速度として、上記の積層造形を行った。
【0047】
得られた金属積層構造物について、断面観察および密度の測定を行った。
断面観察は、熱硬化性樹脂を用いて得られた金属積層構造物を固定し、断面方向に研磨し、実体顕微鏡を用いて観察を行った。密度の測定はアルキメデス法によって実施した。
【0048】
図8]に、得られた金属積層構造物の一部の断面を示す。[図8]に示されるとおり、シールドガスとして3%H/Arを用いた場合、シールドガスとしてアルゴンガスを用いた場合と大きな差異は確認されず、いずれも金属積層構造物が形成された。
【0049】
図9]は、レーザ走査速度に対する、金属積層構造物の相対密度(%)のグラフである。[図9]に示されるとおり、レーザ走査速度が360mm/秒を超えると相対密度は低下する傾向にある。しかしながら、水素ガスを2%含むシールドガス(グレーで示す)、水素ガスを3%含むシールドガス(黒で示す)を用いた場合には、アルゴンガスのみ(白で示す)の場合よりも、相対密度の低下が小さかった。このことから、水素ガスを含有するシールドガスは、物性に優れた金属積層構造物の高速での製造を可能にすると考えられた。
【0050】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した意味ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0051】
1 レーザ照射源、2 反射板、3 造形チャンバー、4 ステージ、5 シールドガス供給源、6 循環路、7 循環装置、30 溶融試験装置、31 レーザ発振器、33 ステージチャンバー、35 レーザヘッド、50 金属粉体、71 X線管、72 イメージインテンシファイア、73 カメラ、81 粉体バケット、L1、L2 管路
図1
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図8
図9