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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】測定装置および測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 17/34 20200101AFI20240924BHJP
   G01C 3/06 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
G01S17/34
G01C3/06 120Q
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020138140
(22)【出願日】2020-08-18
(65)【公開番号】P2022034379
(43)【公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】小松崎 晋路
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義将
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 知隆
【審査官】藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-034546(JP,A)
【文献】特開2001-166043(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0208257(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48 - 7/51
17/00 - 17/95
G01C 3/00 - 3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数変調レーザ光を出力するレーザ装置と、
前記レーザ装置が出力する前記周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として、前記周波数変調レーザ光を分岐させる分岐部と、
前記測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合してビート信号を発生させるビート信号発生部と、
前記ビート信号を周波数解析する周波数解析部と、
前記計測対象物がない状態において前記ビート信号発生部が出力した基準信号を周波数信号に変換した基準周波数信号を記憶する記憶部と、
前記周波数解析部が前記ビート信号を周波数解析した結果に基づき、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を算出する算出部と
前記測定光を出射する出射端面と前記計測対象物との間に設けられており、前記出射端面から前記計測対象物に前記測定光が照射することを遮断可能なシャッター部と、
前記シャッター部を制御して、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を算出する場合は前記シャッター部を開けて前記測定光を前記計測対象物に照射させ、前記基準周波数信号を取得する場合は前記シャッター部を閉じて前記測定光を遮断する制御部と
を備え、
前記ビート信号発生部は、前記出射端面から反射された端面反射光と前記参照光とが混合して発生する基準ビート信号を含む信号を前記基準信号として出力し、
前記周波数解析部は、前記ビート信号を周波数信号に変換した後の信号レベルから前記基準周波数信号の信号レベルを周波数毎に差し引いてから前記ビート信号の周波数を特定する、測定装置。
【請求項2】
前記制御部は、予め定められた時間が経過したことに応じて前記シャッター部を閉じて前記測定光を遮断し、前記周波数解析部が変換した周波数信号を記憶部に記憶して前記基準周波数信号を更新させる、請求項に記載の測定装置。
【請求項3】
前記算出部は、前記周波数解析部が前記ビート信号を周波数解析することにより得られた前記ビート信号の周波数ν(m、d)を用いて、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差dを次式により算出し、
【数1】
ここで、cは光速、νsは前記周波数変調レーザ光の周波数シフト量、νcは1/τRT、τRTは前記レーザ装置の共振器を光が1周する時間、mは前記周波数変調レーザ光の縦モード番号の間隔である、
請求項1または2に記載の測定装置。
【請求項4】
計測対象物までの距離を測定する測定装置の測定方法であって、
周波数変調レーザ光を出力するステップと、
前記周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として、前記周波数変調レーザ光を分岐させるステップと、
前記計測対象物がない状態において、前記測定光を出射する出射端面から反射された端面反射光と、前記参照光とを混合して基準ビート信号を含む信号を基準信号として出力するステップと、
前記基準信号を周波数信号に変換した情報を基準周波数信号として記憶するステップと、
前記測定光を前記計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合して複数のビート信号を発生させるステップと、
前記ビート信号を周波数変換した周波数信号の信号レベルから前記基準周波数信号の信号レベルを周波数毎に差し引いた周波数信号を、周波数解析するステップと、
周波数解析した結果に基づき、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を算出するステップと
前記出射端面と前記計測対象物との間に設けられており、前記出射端面から前記計測対象物に前記測定光が照射することを遮断可能なシャッター部を制御して、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を算出する場合は前記シャッター部を開けて前記測定光を前記計測対象物に照射させるステップと、
前記基準周波数信号を取得する場合は前記シャッター部を閉じて前記測定光を遮断するステップと
を有する、測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定装置および測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
共振器内に周波数シフタが設けられ、時間の経過とともに発振周波数が線形に変化する複数の縦モードレーザを出力する周波数シフト帰還レーザ(FSFL:Frequency Shifted Feedback Laser)が知られている。また、このような周波数シフト帰還レーザを用いた光学式の距離計が知られている(例えば、特許文献1および非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3583906号明細書
【非特許文献】
【0004】
【文献】原武文,「FSFレーザによる距離センシングとその応用」,オプトニューズ,Vol.7,No.3,2012年,pp.25-31
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光学式距離計は、周波数シフト帰還レーザを参照光と測定光とに分岐して、測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と参照光とを混合してビート信号を発生させていた。そして、光学式距離計は、ビート信号の周波数を特定することにより、当該光学式距離計から計測対象物までの距離を測定していた。このような光学式距離計において、測定光を計測対象物に向けて出射する出射端で反射光が発生してしまうことがあった。出射端の反射光は、測定光の反射光と同様に、参照光と混合してビート信号を発生させてしまうことがあり、光学式距離計の測定精度を低減させてしまうことがあった。
【0006】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、光学式距離計においてレーザ光の出射端における反射光が生じても、簡便な構成で測定精度の低減を抑制できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様においては、周波数変調レーザ光を出力するレーザ装置と、前記レーザ装置が出力する前記周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として、前記周波数変調レーザ光を分岐させる分岐部と、前記測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合してビート信号を発生させるビート信号発生部と、前記ビート信号を周波数解析する周波数解析部と、前記計測対象物がない状態において前記ビート信号発生部が出力した基準信号を周波数信号に変換した基準周波数信号を記憶する記憶部と、前記周波数解析部が前記ビート信号を周波数解析した結果に基づき、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を算出する算出部とを備え、前記周波数解析部は、前記ビート信号を周波数信号に変換した後の信号レベルから前記基準周波数信号の信号レベルを周波数毎に差し引いてから前記ビート信号の周波数を特定する、測定装置を提供する。
【0008】
前記ビート信号発生部は、前記測定光を出射する出射端面から反射された端面反射光と前記参照光とが混合して発生する基準ビート信号を含む信号を前記基準信号として出力してもよい。
【0009】
前記測定装置は、前記出射端面と前記計測対象物との間に設けられており、前記出射端面から前記計測対象物に前記測定光が照射することを遮断可能なシャッター部と、前記シャッター部を制御して、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を算出する場合は前記シャッター部を開けて前記測定光を前記計測対象物に照射させ、前記基準周波数信号を取得する場合は前記シャッター部を閉じて前記測定光を遮断する制御部とを更に備えてもよい。
【0010】
前記制御部は、予め定められた時間が経過したことに応じて前記シャッター部を閉じて前記測定光を遮断し、前記周波数解析部が変換した周波数信号を記憶部に記憶して前記基準周波数信号を更新させてもよい。
【0011】
前記算出部は、前記周波数解析部が前記ビート信号を周波数解析することにより得られた前記ビート信号の周波数ν(m、d)を用いて、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差dを次式により算出してもよく、
【数1】
ここで、cは光速、νsは前記周波数変調レーザ光の周波数シフト量、νcは1/τRT、τRTは前記レーザ装置の共振器を光が1周する時間、mは前記周波数変調レーザ光の縦モード番号の間隔である。
【0012】
本発明の第2の態様においては、計測対象物までの距離を測定する測定装置の測定方法であって、周波数変調レーザ光を出力するステップと、前記周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として、前記周波数変調レーザ光を分岐させるステップと、前記計測対象物がない状態において、前記測定光を出射する出射端面から反射された端面反射光と、前記参照光とを混合して基準ビート信号を含む信号を基準信号として出力するステップと、前記基準信号を周波数信号に変換した情報を基準周波数信号として記憶するステップと、前記測定光を前記計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合して複数のビート信号を発生させるステップと、前記ビート信号を周波数変換した周波数信号の信号レベルから前記基準周波数信号の信号レベルを周波数毎に差し引いた周波数信号を、周波数解析するステップと、周波数解析した結果に基づき、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を算出するステップとを有する、測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光学式距離計においてレーザ光の出射端における反射光が生じても、簡便な構成で測定精度の低減を抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係る測定装置100の構成例を計測対象物10と共に示す。
図2】本実施形態に係るレーザ装置110の構成例を示す。
図3】本実施形態に係るレーザ装置110が出力するレーザ光の一例を示す。
図4】本実施形態に係る測定装置100が検出するビート信号の周波数と、光ヘッド部140および計測対象物10の間の距離dとの関係の一例を示す。
図5】本実施形態に係るビート信号発生部150および周波数解析部160の構成例を示す。
図6】本実施形態に係るビート信号発生部150および周波数解析部160の直交検波の概略の一例を示す。
図7】本実施形態に係る周波数解析部160が、ビート信号発生部150が発生させたビート信号を周波数変換した周波数信号の一例を示す。
図8】本実施形態に係る記憶部190が記憶している基準周波数信号の一例を示す。
図9】本実施形態に係る周波数解析部160が距離測定用信号から基準周波数信号を差し引いた結果の一例を示す。
図10】本実施形態に係る測定装置100の変形例を計測対象物10と共に示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[測定装置100の構成例]
図1は、本実施形態に係る測定装置100の構成例を計測対象物10と共に示す図である。測定装置100は、当該測定装置100および計測対象物10の間の距離を光学的に測定する。また、測定装置100は、計測対象物10に照射するレーザ光の位置を走査して、計測対象物10の三次元的な形状を計測してもよい。測定装置100は、レーザ装置110と、分岐部120と、光サーキュレータ130と、光ヘッド部140と、ビート信号発生部150と、周波数解析部160と、算出部170と、表示部180と、記憶部190とを備える。
【0016】
レーザ装置110は、レーザ共振器を有し、複数のモードの周波数変調レーザ光を出力する。レーザ装置110は、共振器内に周波数シフタが設けられ、時間の経過とともに発振周波数が線形に変化する複数の縦モードレーザを出力する。レーザ装置110は、一例として、周波数シフト帰還レーザである。周波数シフト帰還レーザについては後述する。
【0017】
分岐部120は、レーザ装置110が出力する周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として、周波数変調レーザ光を分岐させる。分岐部120は、一例として、1入力2出力の光ファイバ型の光カプラである。図1の例において、分岐部120は、測定光を光サーキュレータ130に供給し、参照光をビート信号発生部150に供給する。
【0018】
光サーキュレータ130は、複数の入出力ポートを有する。光サーキュレータ130は、例えば、一のポートに入力した光を次のポートから出力させ、当該次のポートから入力する光を更に次のポートから出力させる。図1は、光サーキュレータ130が3つの入出力ポートを有する例を示す。この場合、光サーキュレータ130は、分岐部120から供給される測定光を光ヘッド部140に出力する。また、光サーキュレータ130は、光ヘッド部140から入力する光をビート信号発生部150へと出力する。
【0019】
光ヘッド部140は、光サーキュレータ130から入力する光を計測対象物10に向けて照射する。光ヘッド部140は、一例として、コリメータレンズを有する。この場合、光ヘッド部140は、光ファイバを介して光サーキュレータ130から入力する光をコリメータレンズでビーム状に調節してから出力する。
【0020】
また、光ヘッド部140は、計測対象物10に照射した測定光の反射光を受光する。光ヘッド部140は、受光した反射光をコリメータレンズで光ファイバに集光して光サーキュレータ130に供給する。この場合、光ヘッド部140は、共通の1つのコリメータレンズを有し、当該コリメータレンズで、測定光を計測対象物10に照射し、また、計測対象物10からの反射光を受光してよい。なお、光ヘッド部140および計測対象物10の間の距離をdとする。
【0021】
これに代えて、光ヘッド部140は、集光レンズを有してもよい。この場合、光ヘッド部140は、光ファイバを介して光サーキュレータ130から入力する光を計測対象物10の表面に集光する。そして、光ヘッド部140は、計測対象物10の表面で反射した反射光の少なくとも一部を受光する。光ヘッド部140は、受光した反射光を集光レンズで光ファイバに集光して光サーキュレータ130に供給する。この場合においても、光ヘッド部140は、共通の1つの集光レンズを有し、当該集光レンズで、測定光を計測対象物10に照射し、また、計測対象物10からの反射光を受光してよい。
【0022】
ビート信号発生部150は、測定光を計測対象物10に照射して反射された反射光を光サーキュレータ130から受けとる。また、ビート信号発生部150は、分岐部120から参照光を受けとる。ビート信号発生部150は、反射光および参照光を混合してビート信号を発生させる。ビート信号発生部150は、例えば、光電変換素子を有し、ビート信号を電気信号に変換して出力する。
【0023】
ここで、反射光は、光ヘッド部140から計測対象物10までの距離を往復しているので、参照光と比較して少なくとも距離2dに応じた伝搬距離の差が生じることになる。レーザ装置110が出力する光は、時間の経過とともに発振周波数が線形に変化するので、参照光および反射光の発振周波数は、当該伝搬距離の差に対応する伝搬遅延に応じた周波数差が生じる。ビート信号発生部150は、このような周波数差に対応するビート信号を発生させる。
【0024】
周波数解析部160は、ビート信号発生部150が発生させたビート信号を周波数解析する。周波数解析部160は、例えば、ビート信号をデジタル信号に変換し、変換したデジタル信号を周波数信号に周波数変換する。そして、周波数解析部160は、周波数変換した周波数信号を解析してビート信号の周波数を検出する。ここで、ビート信号の周波数をνとする。
【0025】
算出部170は、周波数解析部160がビート信号を周波数解析した結果に基づき、参照光と測定光との伝搬距離の差を検出する。算出部170は、ビート信号の周波数νに基づき、光ヘッド部140から計測対象物10までの距離dを算出する。周波数解析部160および算出部170の少なくとも一部は、集積回路等で構成されていることが望ましい。周波数解析部160および算出部170の少なくとも一部は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)、DSP(Digital Signal Processor)、および/またはCPU(Central Processing Unit)を含む。
【0026】
表示部180は、算出部170の算出結果を表示する。表示部180は、ディスプレイ等を有し、算出結果を表示してよい。また、表示部180は、記憶部190等に算出結果を記憶させてもよい。表示部180は、ネットワーク等を介して外部に算出結果を供給してもよい。
【0027】
記憶部190は、周波数解析部160および算出部170が動作の過程で生成する、または動作の過程で利用する、中間データ、算出結果、設定値、閾値、およびパラメータ等を記憶してもよい。記憶部190は、測定装置100内の各部の要求に応じて、記憶したデータを要求元に供給してもよい。
【0028】
記憶部190は、CPU等が周波数解析部160および算出部170の少なくとも一部として動作する場合、周波数解析部160および算出部170として機能するOS(Operating System)、およびプログラムの情報を格納してもよい。また、記憶部190は、当該プログラムの実行時に参照されるデータベースを含む種々の情報を格納してもよい。例えば、コンピュータは、記憶部190に記憶されたプログラムを実行することによって、周波数解析部160および算出部170として機能する。
【0029】
記憶部190は、例えば、コンピュータ等のBIOS(Basic Input Output System)等を格納するROM(Read Only Memory)、および作業領域となるRAM(Random Access Memory)を含む。また、記憶部190は、HDD(Hard Disk Drive)および/またはSSD(Solid State Drive)等の大容量記憶装置を含んでもよい。また、コンピュータは、GPU(Graphics Processing Unit)等を更に備えてもよい。
【0030】
以上の測定装置100は、計測対象物10に照射した測定光の反射光と、参照光との間の周波数差を解析することにより、測定装置100および計測対象物10の間の距離dを測定可能とする。即ち、測定装置100は、非接触および非破壊の光学式距離計を構成できる。測定装置100のより詳細な構成について次に説明する。
【0031】
[レーザ装置110の構成例]
図2は、本実施形態に係るレーザ装置110の構成例を示す。図2のレーザ装置110は、周波数シフト帰還レーザの一例を示す。レーザ装置110は、レーザ共振器を有し、当該レーザ共振器内でレーザ光を発振させる。レーザ装置110のレーザ共振器は、周波数シフタ112と、増幅媒体114と、WDMカプラ116と、ポンプ光源117と、出力カプラ118とを含むレーザ共振器を有する。
【0032】
周波数シフタ112は、入力する光の周波数を略一定の周波数だけシフトする。周波数シフタ112は、一例として、音響光学素子を有するAOFS(Acousto-Optic Frequency Shifter)である。ここで、周波数シフタ112による周波数シフト量を+νとする。即ち、周波数シフタ112は、共振器を周回する光の周波数を、1周回毎にνだけ周波数が増加するようにシフトさせる。
【0033】
増幅媒体114は、ポンプ光が供給され、入力光を増幅する。増幅媒体114は、一例として、不純物が添加された光ファイバである。不純物は、例えば、エルビウム、ネオジウム、イッテルビウム、テルビウム、ツリウム等の希土類元素である。また、増幅媒体114は、WDMカプラ116を介してポンプ光源117からポンプ光が供給される。出力カプラ118は、共振器内でレーザ発振した光の一部を外部に出力する。
【0034】
即ち、図2に示すレーザ装置110は、共振器内に周波数シフタ112を有するファイバリングレーザを構成する。レーザ装置110は、共振器内にアイソレータを更に有することが望ましい。また、レーザ装置110は、予め定められた波長帯域の光を通過させる光バンドパスフィルタを共振器内に有してもよい。このようなレーザ装置110が出力するレーザ光の周波数特性について次に説明する。
【0035】
図3は、本実施形態に係るレーザ装置110が出力するレーザ光の一例を示す。図3は、時刻tにおいてレーザ装置110が出力するレーザ光の光スペクトルを左側に示す。当該光スペクトルにおいては、横軸が光強度、縦軸が光の周波数を示す。また、光スペクトルの複数の縦モードを番号qで示す。複数の縦モードの周波数は、略一定の周波数間隔で並ぶ。ここで、光が共振器を1周する時間をτRT(=1/ν)とすると、複数の縦モードは、次式のように1/τRT(=ν)間隔で並ぶことになる。なお、νは、時刻tにおける光スペクトルの初期周波数とする。また、νは、レーザ共振器の共振周波数νである。
【数2】
【0036】
図3は、レーザ装置110が出力する複数の縦モードの時間経過にともなう周波数の変化を右側に示す。図3の右側においては、横軸が時間、縦軸が周波数を示す。即ち、図3は、レーザ装置110が出力するレーザ光の周波数の時間的な変化を右側に示し、当該レーザ光の時刻tにおける瞬時周波数を左側に示したものである。
【0037】
レーザ装置110は、共振器内の光が共振器を1周する毎に、周波数シフタ112が周回する光の周波数をνだけ増加させる。即ち、時間がτRT経過する毎に、各モードの周波数はνだけ増加するので、周波数の時間変化dν/dtは、ν/τRTと略等しくなる。したがって、(数2)式で示した複数の縦モードは、時間tの経過に伴って、次式のように変化する。
【数3】
【0038】
[距離測定処理の詳細]
本実施形態に係る測定装置100は、(数3)式で示すような周波数成分を出力するレーザ装置110を用いて、光ヘッド部140および計測対象物10の間の距離dを測定する。ここで、参照光および反射光の間の光路差が、距離dを往復した距離2dだけであり、距離2dに対応する伝搬遅延をΔtとする。即ち、時刻tにおいて、測定光が計測対象物10から反射して戻ってきた場合、戻ってきた反射光は、時刻tよりも時間Δtだけ過去の周波数と略一致するので、次式で示すことができる。
【数4】
【0039】
一方、時刻tにおける参照光は、(数3)式と同様に次式で示すことができる。ここで、参照光をνq’(t)とした。
【数5】
【0040】
ビート信号発生部150は、このような反射光および参照光を重畳させるので、(数4)式の複数の縦モードと(数5)式で示す複数の縦モードとの間の複数のビート信号が発生することになる。このようなビート信号の周波数をν(m,d)とすると、ν(m,d)は、(数4)式および(数5)式より次式で示すことができる。なお、mを縦モード番号の間隔(=q-q’)とし、Δt=2d/c、cを光速とした。
【数6】
【0041】
(数6)式より、距離dは、次式のように示される。ここで、1/τRT=νとした。
【数7】
【0042】
(数7)式より、縦モード番号の間隔mを判別すれば、ビート信号の周波数観測結果から距離dを算出できることがわかる。なお、間隔mは、レーザ装置110の周波数シフト量νを変化させた場合のビート信号の変化を検出することで、判別することができる。このような間隔mの判別方法は、特許文献1等に記載されているように既知であるから、ここでは詳細な説明を省略する。
【0043】
観測されるビート信号は常に正の周波数であるから、計算上、負の周波数側に発生するビート信号は、正側に折り返され、イメージ信号として観測される。このようなイメージ信号の発生について、次に説明する。
【0044】
図4は、本実施形態に係る測定装置100が検出するビート信号の周波数と、光ヘッド部140および計測対象物10の間の距離dとの関係の一例を示す。図4の横軸は距離dを示し、縦軸はビート信号の周波数ν(m,d)を示す。図4の実線で示す複数の直線は、(数7)式に示したように、距離dに対するビート信号の周波数ν(m,d)の関係を、複数のm毎に示したグラフである。
【0045】
図4のように、mの値に応じた複数のビート信号が発生する。しかしながら、反射光および参照光のそれぞれに含まれる複数の縦モードは、略一定の周波数間隔νで並ぶので、mの値が等しい複数のビート信号は周波数軸上では略同一の周波数に重畳されることになる。例えば、周波数0からνの間の周波数帯域を観測した場合、複数のビート信号は略同一の周波数に重畳されて、1本の線スペクトルとして観測される。
【0046】
これに加えて、0よりも小さい負の領域のビート信号の周波数ν(m,d)は、周波数の絶対値がイメージ信号として更に観測される。即ち、図4の縦軸が0よりも小さい領域のグラフは、周波数0を境界として折り返される。図4は、折り返されたイメージ信号を、複数の点線で示す。折り返された複数のイメージ信号は、正負が反転するだけなので、観測される周波数軸上では折り返される前の周波数の絶対値と同一の周波数に重畳される。例えば、周波数0からνの間の周波数帯域を観測した場合、このようなビート信号およびイメージ信号は、周波数がそれぞれν/2にならない限り、それぞれ異なる周波数に位置する。
【0047】
このように、周波数0からνの間の観測帯域においては、ビート信号ν(m,d)と、ビート信号ν(m,d)とはmの値が異なるイメージ信号ν(m’,d)の2本の線スペクトルが発生する。ここで、一例として、m’=m+1である。この場合、ビート信号発生部150が直交検波を用いることで、このようなイメージ信号をキャンセルできる。そこで直交検波を用いたビート信号発生部150および周波数解析部160について、次に説明する。
【0048】
図5は、本実施形態に係るビート信号発生部150および周波数解析部160の構成例を示す。ビート信号発生部150は、反射光および参照光を直交検波する。ビート信号発生部150は、光90度ハイブリッド152と、第1光電変換部154と、第2光電変換部156とを有する。
【0049】
光90度ハイブリッド152は、入力する反射光および参照光をそれぞれ2つに分岐させる。光90度ハイブリッド152は、分岐させた一方の反射光と、分岐させた一方の参照光とを光カプラ等で合波して第1ビート信号を発生させる。また、光90度ハイブリッド152は、分岐させた他方の反射光と、分岐させた他方の参照光とを光カプラ等で合波して第2ビート信号を発生させる。ここで、光90度ハイブリッド152は、分岐させた2つの参照光の間に90度の位相差を生じさせてから、ビート信号を発生させる。光90度ハイブリッド152は、例えば、分岐させた2つの参照光のうちいずれか一方に、π/2波長板を介してから反射光とそれぞれ合波させる。
【0050】
第1光電変換部154および第2光電変換部156は、合波した反射光および参照光を受光して電気信号に変換する。第1光電変換部154および第2光電変換部156のそれぞれは、フォトダイオード等でよい。第1光電変換部154および第2光電変換部156のそれぞれは、一例として、バランス型フォトダイオードである。図5において、第1光電変換部154が第1ビート信号を発生させ、第2光電変換部156が第2ビート信号を発生させるものとする。以上のように、ビート信号発生部150は、位相を90度異ならせた2つの参照光と反射光とをそれぞれ合波させて直交検波し、2つのビート信号を周波数解析部160に出力する。
【0051】
周波数解析部160は、2つのビート信号を周波数解析する。ここでは、周波数解析部160が、第1ビート信号をI信号とし、第2ビート信号をQ信号として周波数解析する例を説明する。周波数解析部160は、第1フィルタ部162、第2フィルタ部164、第1AD変換器202、第2AD変換器204、クロック信号供給部210、および信号処理部220を有する。
【0052】
第1フィルタ部162および第2フィルタ部164は、ユーザ等が周波数解析したい周波数帯域とは異なる周波数帯域の信号成分を低減させる。ここで、ユーザ等が周波数解析したい周波数帯域を0からνとする。第1フィルタ部162および第2フィルタ部164は、例えば、周波数ν以下の信号成分を通過させるローパスフィルタである。この場合、第1フィルタ部162は、周波数νよりも高い周波数の信号成分を低減させた第1ビート信号を第1AD変換器202に供給する。また、第2フィルタ部164は、周波数νよりも高い周波数の信号成分を低減させた第2ビート信号を第2AD変換器204に供給する。
【0053】
第1AD変換器202および第2AD変換器204は、入力するアナログ信号をデジタル信号に変換する。例えば、第1AD変換器202は第1ビート信号をデジタル信号に変換し、第2AD変換器204は第2ビート信号をデジタル信号に変換する。クロック信号供給部210は、第1AD変換器202および第2AD変換器204にクロック信号を供給する。これにより、第1AD変換器202および第2AD変換器204は、受け取ったクロック信号のクロック周波数と略同一のサンプリングレートでアナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0054】
ここで、観測帯域を0からνとすると、ビート信号の周波数は、最大でもレーザ共振器の共振器周波数νである。したがって、クロック信号供給部210が、レーザ共振器の共振器周波数νの2倍以上の周波数のクロック信号を、第1AD変換器202および第2AD変換器204に供給することで、ビート信号を観測することができる。
【0055】
信号処理部220は、第1ビート信号および第2ビート信号を周波数データに変換する。信号処理部220は、一例として、第1ビート信号および第2ビート信号をそれぞれデジタルフーリエ変換(DFT)する。信号処理部220は、周波数データに変換した第1ビート信号を実部、周波数データに変換した第2ビート信号を虚部として加算し、イメージ信号を相殺する。なお、周波数解析部160は、ビート信号がデジタル信号に変換された後は、集積回路等で信号処理部220を構成してよい。以上のビート信号発生部150における直交検波と周波数解析部160における周波数解析について、次に述べる。
【0056】
図6は、本実施形態に係るビート信号発生部150および周波数解析部160の直交検波の概略の一例を示す。図6の横軸はビート信号の周波数、縦軸は信号強度を示す。図6は、I信号およびQ信号のいずれか一方の周波数スペクトルを示す。I信号およびQ信号のいずれの周波数スペクトルも、図6の上側に示すように、略同一のスペクトル形状となる。I信号およびQ信号は、例えば、周波数0からνの間の周波数帯域に、ビート信号ν(m,d)およびイメージ信号ν(m+1,d)が観測される。この場合、I信号およびQ信号は、負側の周波数0から-νの間の周波数帯域に、ビート信号-ν(m,d)およびイメージ信号の元のビート信号-ν(m+1,d)が存在する。
【0057】
ここで、I信号およびQ信号は、ビート信号発生部150が直交検波した信号成分なので、スペクトル形状が同一であっても、異なる位相情報を含む。例えば、正側の周波数0からνの間の周波数帯域において、I信号のイメージ信号ν(m+1,d)とQ信号のイメージ信号ν(m+1,d)とは、互いに位相が反転する。同様に、負側の周波数0から-νの間の周波数帯域において、I信号のビート信号-ν(m,d)とQ信号のビート信号-ν(m,d)とは、互いに位相が反転する。
【0058】
したがって、図6の下側に示すように、信号処理部220がI信号およびQ信号を用いてI+jQを算出すると、周波数0からνの間の周波数帯域において、周波数ν(m,d)のビート信号が強め合い、周波数ν(m+1,d)のイメージ信号が相殺される。同様に、周波数0から-νの間の周波数帯域において、周波数-ν(m+1,d)のビート信号が強め合い、周波数-ν(m,d)のビート信号が相殺される。
【0059】
このような信号処理部220の周波数解析結果により、周波数0からνの間の周波数帯域には1つのビート信号が周波数ν(m,d)に観測されることになる。測定装置100は、このようにして、イメージ信号をキャンセルできるので、ビート信号の周波数ν(m,d)を検出することができる。例えば、信号処理部220は、変換した周波数信号の信号強度が最も高くなる周波数をビート信号の周波数ν(m,d)として出力する。
【0060】
ここで、測定装置100が測定する距離dは、(数7)式で示されている。(数7)式より、ν、ν、およびν(m,d)の3つの周波数を用いることで、距離dが算出できることがわかる。3つの周波数のうち、ν(m,d)は、以上のように、検出できることがわかる。また、νおよびνは、レーザ装置110の部材によって定まる周波数なので、固定値として取り扱うことができる。したがって、算出部170は、周波数解析部160が検出したビート信号の周波数ν(m,d)と、予め定められたνおよびνを用いて、距離dを算出する。以上のように、測定装置100は、光ヘッド部140から計測対象物10までの距離dを測定することができる。また、測定装置100は、距離dに基準位置に対応するオフセット値を加算して、基準位置から計測対象物10までの距離を算出して出力してもよい。
【0061】
[端面反射光の影響を低減させる測定装置100]
以上の測定装置100は、光ヘッド部140から計測対象物10に向けて測定光を照射するが、光ヘッド部140の測定光を出射する出射端面で反射光が発生してしまうことがある。例えば、測定光を光ファイバから出射している場合、当該ファイバの端面で反射光が生じることがある。また、光ヘッド部140がコリメータレンズ、集光レンズ等の光学レンズを用いて測定光を出射している場合、測定光が入射するレンズの表面で反射光が生じることがある。本実施形態において、このような反射光を端面反射光とする。
【0062】
端面反射光は、測定光が計測対象物10に照射して反射された反射光と同様に、参照光と混合してビート信号を発生させてしまうことがある。この場合、ビート信号発生部150は、測定光の反射光および参照光によるビート信号と、端面反射光および参照光によるビート信号との2つのビート信号を発生させることになる。
【0063】
図7は、本実施形態に係る周波数解析部160が、ビート信号発生部150が発生させたビート信号を周波数変換した周波数信号の一例を示す。図7は、端面反射光により、ビート信号発生部150が2つのビート信号を発生させた例を示す。図7において、横軸が周波数、縦軸が信号レベルを示す。周波数信号には、計測対象物10で反射した反射光に基づくビート信号の周波数スペクトルに、端面反射光に基づくビート信号の周波数スペクトルが重畳している。ここで、計測対象物10で反射した反射光に基づくビート信号のピーク周波数をνとし、端面反射光に基づくビート信号のピーク周波数をν’とする。このように、端面反射光が発生していることにより、2つの周波数スペクトルが重畳している周波数信号を、本実施形態では距離測定用信号とする。
【0064】
周波数解析部160がこのような距離測定用信号を解析すると、2つのビート信号のうち、端面反射光に基づくビート信号ν’を解析すべきビート信号として処理してしまうことがある。この場合、算出部170が算出する距離は、光ヘッド部140から計測対象物10までの距離dとは異なってしまう。
【0065】
また、例えば、図7に示すような周波数領域において、2つの周波数スペクトルのピークが分離できない程度に2つのビート信号の周波数が近接してしまうことがある。この場合、周波数解析部160がこのようなビート信号を解析しても、計測対象物10で反射した反射光に基づくビート信号の周波数ν(m,d)を精度よく出力することができなくなってしまう。
【0066】
そこで、本実施形態に係る測定装置100は、レーザ光の出射端において端面反射光が発生しても、簡便な構成で測定精度の低減を抑制できるようにする。このような測定装置100の機能は、例えば、図1から図6を用いて説明した動作に、周波数解析部160と記憶部190とによる特定の動作を追加することで実現できる。
【0067】
ここで、測定装置100は、距離を測定するための周波数変調レーザ光を光ヘッド部140から出力し、計測対象物10がない状態においてビート信号発生部150が出力した信号を、基準信号とする。計測対象物10がない状態とは、例えば、計測対象物10を設置する前の状態、計測対象物10を除去した状態、計測対象物10が配置されている方向とは異なる方向に周波数変調レーザ光を照射した状態等である。言い換えると、レーザ装置110は周波数変調レーザ光を出力してはいるが、計測対象物10からの反射光を光ヘッド部140が受光していない状態を計測対象物10がない状態とする。
【0068】
この場合において、端面反射光が発生していると、計測対象物10がなくても、ビート信号発生部150は、測定光を出射する出射端面から反射された端面反射光と参照光とを混合してビート信号を発生させる。このような端面反射光に基づくビート信号を基準ビート信号とする。そして、ビート信号発生部150は、基準ビート信号を含む信号を基準信号として出力する。
【0069】
記憶部190は、計測対象物10がない状態においてビート信号発生部150が出力した基準信号を周波数解析部160が周波数信号に変換した基準周波数信号を記憶する。記憶部190は、基準周波数信号を予め記憶していることが望ましい。これに代えて、記憶部190は、測定装置100が計測対象物10に対する距離測定を実行した後に、計測対象物10を除去して基準信号を発生させた場合に変換された基準周波数信号を記憶してもよい。
【0070】
図8は、本実施形態に係る記憶部190が記憶している基準周波数信号の一例を示す。図8において、横軸が周波数、縦軸が信号レベルを示す。記憶部190は、図8に示すような基準信号の周波数信号を基準周波数信号として記憶する。
【0071】
そして、周波数解析部160は、ビート信号を周波数信号に変換した後の信号レベルから基準周波数信号の信号レベルを周波数毎に差し引いてからビート信号の周波数を特定する。周波数解析部160は、例えば、図7に示す距離測定用信号から、図8に示す基準周波数信号を差し引く。
【0072】
図9は、本実施形態に係る周波数解析部160が距離測定用信号から基準周波数信号を差し引いた結果の一例を示す。図9において、横軸が光の周波数、縦軸が信号レベルを示す。図9より、2つの周波数スペクトルが重畳された周波数信号から、端面反射光に基づく基準ビート信号の周波数スペクトルが差し引かれたことがわかる。これにより、周波数解析部160は、計測対象物10で反射した反射光に基づくビート信号の周波数スペクトルを解析して、当該ビート信号の周波数ν(m,d)を出力することができる。
【0073】
そして、算出部170は、周波数解析部160がビート信号を周波数解析することにより得られたビート信号の周波数ν(m、d)を用いて、参照光と測定光との伝搬距離の差dを(数7)式により算出する。以上のように、本実施形態に係る測定装置100は、ビート信号発生部150が出力する距離測定用信号の信号レベルから基準周波数信号の信号レベルを差し引くので、レーザ光の出射端における端面反射光の距離測定結果に与える影響を低減させることができる。
【0074】
例えば、周波数解析部160が端面反射光に基づく基準ビート信号を解析すべきビート信号として処理してしまうことを低減させて、光ヘッド部140から計測対象物10までの距離dを測定することができる。また、計測対象物10で反射した反射光に基づくビート信号の周波数スペクトルのピークと、基準ビート信号の周波数スペクトルのピークとが分離できない程度に近接して重畳していても、測定装置100は、重畳された光スペクトルから基準ビート信号の周波数スペクトルを差し引く。これにより、測定装置100は、計測対象物10で反射した反射光に基づくビート信号の周波数スペクトルを解析することができ、距離dを精度良く測定できる。
【0075】
[測定装置100の変形例]
以上の本実施形態における測定装置100は、計測対象物10がない状態においてビート信号発生部150が出力した基準信号を周波数信号に変換した信号を基準周波数信号として記憶する例を説明した。ここで、測定装置100は、計測対象物10に周波数変調レーザ光を照射する状態と照射しない状態とを容易に切り換えられるように構成されていてもよい。このような測定装置100について次に説明する。
【0076】
図10は、本実施形態に係る測定装置100の変形例を計測対象物10と共に示す。本変形例の測定装置100において、図1に示された本実施形態に係る測定装置100の動作と略同一のものには同一の符号を付け、説明を省略する。本変形例の測定装置100は、シャッター部310と、制御部320とを更に備える。
【0077】
シャッター部310は、測定光を出射する出射端面と計測対象物10との間に設けられており、出射端面から計測対象物10に測定光が照射することを遮断可能とする。例えば、測定装置100と計測対象物10との光学系の配置が完了した場合において、シャッター部310を開けると測定光は計測対象物10に照射可能となり、シャッター部310を閉じると測定光は遮断されて計測対象物10に照射できなくなる。
【0078】
シャッター部310は、光ヘッド部140と計測対象物10との間に設けられていてもよく、これに代えて、光ヘッド部140に設けられていてもよい。シャッター部310は、例えば、測定光を遮断するための板状部材が移動可能に設けられている。この場合、測定光の光軸上に板状部材が移動することにより、シャッター部310は閉じた状態となる。
【0079】
制御部320は、シャッター部310を制御して、参照光と測定光との伝搬距離の差dを算出する場合はシャッター部310を開けて測定光を計測対象物10に照射させる。これにより、端面反射光が発生している場合、ビート信号発生部が出力する信号を周波数解析部160が周波数変換した周波数信号は、距離測定用信号となる。また、制御部320は、基準周波数信号を取得する場合、シャッター部310を閉じて測定光を遮断する。これにより、端面反射光が発生している場合、ビート信号発生部が出力する信号を周波数解析部160が周波数変換した周波数信号は、基準周波数信号となる。
【0080】
制御部320は、例えば、シャッター部310を閉じた場合、周波数解析部160を制御して、周波数解析部160が基準ビート信号を周波数変換した基準周波数信号を記憶部190に記憶させる。また、制御部320は、例えば、シャッター部310を開けた場合、周波数解析部160を制御して、記憶部190から基準周波数信号を読み出して距離測定用信号から基準周波数信号を差し引いた周波数信号を周波数解析させる。
【0081】
これにより、以上の本変形例の測定装置100は、測定装置100または計測対象物10を移動させることなしに、計測対象物10に測定光を照射させない状態と測定光を照射させる状態とを容易に切り換えることができる。したがって、測定装置100は、端面反射光が発生しても、速やかに光ヘッド部140および計測対象物10の間の距離dを測定することができる。
【0082】
制御部320は、例えば、周波数解析部160および算出部170と同様に、FPGA、DSP、および/またはCPUを含む。なお、周波数解析部160、算出部170、および制御部320は、1つのCPUで構成されていてもよい。
【0083】
なお、測定装置100を構成している各部の定数等は、環境の変化に応じて変化することがあり、また、経時的にも変化することがある。例えば、光ファイバの長さ、光学部品の配置、電子回路素子の回路定数等は、環境的にも経時的にも変化する。この場合、端面反射光に基づく基準ビート信号の周波数は、測定装置100の内部の定数の変化に対応して変化してしまうことがある。
【0084】
この場合、記憶部190に記憶されている基準周波数信号は、変化する前の基準ビート信号の周波数信号である。したがって、距離測定用信号の信号レベルから記憶部190に記憶されている基準周波数信号の信号レベルを差し引いた周波数信号は、計測対象物10で反射した反射光に基づくビート信号の周波数スペクトルとは異なる形状の周波数スペクトルになってしまうことがある。この場合、測定装置100は、光ヘッド部140および計測対象物10の間の距離dを精度よく測定できなくなってしまう。
【0085】
そこで、本変形例の制御部320は、予め定められた時間が経過したことに応じてシャッター部310を閉じて測定光を遮断し、周波数解析部160が変換した周波数信号を記憶部190に記憶して基準周波数信号を更新させる。これにより、環境変化および/または経時的な変化により、基準周波数信号が変化しても、測定装置100は、記憶部190に記憶されている基準周波数信号を更新することにより、測定精度が低減してしまうことを抑制できる。
【0086】
なお、測定装置100は、ユーザから基準周波数信号の更新を実行することを受け付ける受付部が更に設けられていてもよい。そして、受付部が基準周波数信号の更新の実行を受け付けた場合、測定装置100は、基準周波数信号を更新する。これにより、ユーザは、意図したタイミングで基準周波数信号を更新することができ、例えば、急激な環境変動が生じても、測定精度が低減してしまうことを抑制することができる。
【0087】
以上の本変形例の測定装置100において、シャッター部310が測定光を遮断可能に設けられている例を説明したが、これに限定されることはない。例えば、シャッター部310に代えて、測定光の光の進路を変更させるミラー等が移動可能に設けられてもよい。また、測定光の光の強度を低減させるフィルタ等が移動可能に設けられてもよい。
【0088】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0089】
10 計測対象物
100 測定装置
110 レーザ装置
112 周波数シフタ
114 増幅媒体
116 WDMカプラ
117 ポンプ光源
118 出力カプラ
120 分岐部
130 光サーキュレータ
140 光ヘッド部
150 ビート信号発生部
152 光90度ハイブリッド
154 第1光電変換部
156 第2光電変換部
160 周波数解析部
162 第1フィルタ部
164 第2フィルタ部
170 算出部
180 表示部
190 記憶部
202 第1AD変換器
204 第2AD変換器
210 クロック信号供給部
220 信号処理部
310 シャッター部
320 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10