(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】樹脂積層体の製造方法及び包装容器の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/16 20060101AFI20240924BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240924BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20240924BHJP
B32B 37/00 20060101ALI20240924BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
B32B27/16
B32B27/36
B32B27/32 C
B32B37/00
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2020182471
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2023-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】藤森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100155066
【氏名又は名称】貞廣 知行
(72)【発明者】
【氏名】永井 貴久
(72)【発明者】
【氏名】府中 純子
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-266626(JP,A)
【文献】特開2014-100917(JP,A)
【文献】特開2011-098549(JP,A)
【文献】特開2001-260297(JP,A)
【文献】国際公開第2011/046143(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/009947(WO,A1)
【文献】特表2010-510777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 63/00-63/48、65/00-65/82
B65D 65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルを形成材料とする第1層の表面を改質する工程と、
前記改質した前記表面に、ポリオレフィンを形成材料とする第2層を直接積層させて貼
合する工程と、を少なくとも有し、
前記改質する工程に
先立って、和周波発生分光法を用いた測定で求められる芳香族アミン由来のC-N結合の強度が0.03以上となるまで、前記表面を改質処理する
処理条件を決定する予備実験工程を有し、
前記改質する工程では、前記予備実験工程において決定された前記処理条件に基づいて前記表面を改質処理する、樹脂積層体の製造方法。
【請求項2】
請求項
1に記載の樹脂積層体の製造方法により、前記樹脂積層体を製造する工程と、
前記樹脂積層体の前記第2層を内側として、前記樹脂積層体を容器状に成型する工程と、を有する、包装容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂積層体、包装容器、樹脂積層体の製造方法及び包装容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2種以上の樹脂の積層体(樹脂積層体)は、液体調味料、液体洗剤、及び液体状の化粧品等、種々の液体状製品を入れる包装容器の材料として用いられている。
【0003】
従来、上述の樹脂積層体としては、接着剤やアンカーコート剤を介して2種類以上の樹脂フィルムを貼り合わせた構成の積層体が知られている。接着剤やアンカーコート剤を用いて製造した樹脂積層体は、樹脂フィルム間の剥離強度を十分に高くすることが可能となる。一方、接着剤やアンカーコート剤を用いると、樹脂積層体の製造過程において、VOC(揮発性有機化合物)が発生する。
【0004】
これに対し、近年では、労働環境保全の観点及び環境保護の観点から、剥離強度を担保した上で、VOCを発生させずに樹脂積層体を製造する技術が検討されている。例えば、ポリアミド樹脂フィルムとポリエステル樹脂フィルムの積層体を製造する際、両フィルムが対向する表面のうち少なくとも一方の表面に電子線を照射して貼り合わせることにより、接着剤を介さずに圧着する製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、電子線により改質されたフィルム表面の状態について、十分な剥離強度を示すためにどの程度の改質が必要か基準の記載が無い。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、接着剤やアンカーコート剤を用いることなく十分な剥離強度を示す樹脂積層体を提供することを目的とする。また、このような樹脂積層体を材料とする包装容器を提供することを併せて目的とする。また、剥離強度を担保した上で、VOCの発生を抑制して樹脂積層体を製造する樹脂積層体の製造方法を提供することを併せて目的とする。また、剥離強度を担保した上で、VOCの発生を抑制して包装容器を製造する包装容器の製造方法を提供することを併せて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様は、以下の態様を包含する。
【0009】
[1]ポリエステルを形成材料とする第1層と、ポリオレフィンを形成材料とする第2層と、を少なくとも有し、前記第1層と前記第2層とは、直接接して積層され、前記第1層の表面のうち前記第2層と接する面は、和周波発生分光法を用いた測定で求められる芳香族アミン由来のC-N結合の強度が0.03以上である、樹脂積層体。
【0010】
[2][1]に記載の樹脂積層体を材料とする、包装容器。
【0011】
[3]ポリエステルを形成材料とする第1層の表面を改質する工程と、前記改質した前記表面に、ポリオレフィンを形成材料とする第2層を直接積層させて貼合する工程と、を少なくとも有し、前記改質する工程では、和周波発生分光法を用いた測定で求められる芳香族アミン由来のC-N結合の強度が0.03以上となるまで、前記表面を改質処理する、樹脂積層体の製造方法。
【0012】
[4][3]に記載の樹脂積層体の製造方法により、前記樹脂積層体を製造する工程と、前記樹脂積層体の前記第2層を内側として、前記樹脂積層体を容器状に成型する工程と、を有する、包装容器の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、接着剤やアンカーコート剤を用いることなく十分な剥離強度を示す樹脂積層体を提供することができる。また、このような樹脂積層体を材料とする包装容器を提供することができる。また、剥離強度を担保した上で、VOCを発生させずに樹脂積層体を製造する樹脂積層体の製造方法を提供することができる。また、剥離強度を担保した上で、VOCの排出を抑制して包装容器を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本実施形態の樹脂積層体1を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、樹脂積層体1を用いて形成される包装容器50を示す模式図である。
【
図3】
図3は、実施形態の樹脂積層体1の製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本実施形態の樹脂積層体1を示す概略断面図である。樹脂積層体1は、第1層11及び第2層12を有する。さらに、樹脂積層体1は、印刷層14及び中間層15を有してもよい。第1層11、印刷層14及び中間層15をあわせた構成を、基材10と称することがある。
【0016】
第1層11は、第2層12と直接接して積層している。「直接」とは、第1層11と第2層12との間に、接着剤又はアンカーコート剤が介在していないことを意味し、「直接接して」とは、第1層11と第2層12が、接着剤又はアンカーコート剤を介することなく接することを意味する。
【0017】
(第1層)
第1層11は、熱可塑性樹脂を形成材料とする。
熱可塑性樹脂は、ポリエステルであることが好ましい。ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネートなどが挙げられ、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0018】
第1層11は、発明の効果を損なわない範囲において、ポリエステルの他に任意成分として生分解性樹脂やバイオマス由来の成分を含んでもよい。
【0019】
生分解性樹脂としては、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)及びポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)共重合樹脂(PHBH)などが挙げられる。
【0020】
第1層11の厚さは、5μm以上100μm以下が好ましい。
【0021】
第1層11の一方の面11aは、窒素雰囲気下において後述する改質処理が施されている。面11aは、第1層11において第2層12と接する面である。窒素雰囲気下において面11aに改質処理すると、雰囲気中の窒素分子(N2)と面11aに露出する熱可塑性樹脂とが反応し、新たにC-N結合を形成する。
【0022】
面11aが改質処理されていることは、和周波発生分光法(SFG分光法)により確認することができる。具体的には、面11aは、SFG分光法を用いて測定した芳香族アミン由来のC-N結合の強度が0.03以上である。また、芳香族アミン由来のC-N結合の強度は0.5以下である。
【0023】
SFG分光法は、具体的には以下の条件において測定する。本実施形態においては、SFG分光法を用いて測定した芳香族アミン由来のC-N結合の強度として、下記条件で測定した値を採用する。
【0024】
(C-N結合の強度の測定方法)
測定に用いる狭帯域可視光ω1は、励起用光源であるSpitfire ProXP(Spectra Physics社、3.5W、1kHz)と、ω1用フィルター(中心波長795nm、帯域幅1.5nm)とを用いて調整する。
【0025】
また、測定に用いる広帯域赤外光ω2は、励起用光源であるSpitfire ProXPと、ω2用フィルター(Spectra-Physics社、TOPAS C and DFG1)とを用いて調整する。
【0026】
光源の赤外レーザー強度は、狭帯域可視光ω1、広帯域赤外光ω2ともに3.6mWとする。狭帯域可視光ω1はs偏光、広帯域赤外光ω2はp偏光である。
【0027】
狭帯域可視光ω1及び広帯域赤外光ω2をサンプルフィルムに照射し、サンプルフィルムから和周波ω3を発生させる。和周波ω3はs偏光である。
【0028】
上記操作で生じる和周波について、検出部で検出する。検出部は、分光器としてHR320(Jobin Yvon社)、CCDとしてSpec10(Princeton Instrument社)を用いる。
【0029】
上記方法により得られるサンプルフィルムの和周波のスペクトル(和周波スペクトル)が得られる。和周波スペクトルは、和周波の波数(cm-1)に対する和周波の強度(a.u.)の対応関係を示す。
【0030】
また、サンプルフィルムの設置位置に何も試料を置かず、測定装置のバックグラウンドについて上記操作を行い、和周波を1回測定する。
さらに、サンプルフィルムの代わりに、金ミラーについて上記操作を行い、和周波を1回測定する。
【0031】
サンプルフィルムの和周波スペクトルから、バックグラウンドの和周波スペクトルを引き、得られるスペクトルについてSavitzky-Golay変換によりスムージング処理を実施する。得られたスペクトルを、処理スペクトル1とする。
【0032】
同様に、金ミラーの和周波スペクトルから、バックグラウンドの和周波スペクトルを引き、得られるスペクトルについてSavitzky-Golay変換によりスムージング処理を実施する。得られたスペクトルを、処理スペクトル2とする。
【0033】
その後、各波長において、処理スペクトル1の和周波の強度を、処理スペクトル2の和周波の強度で割ることで、処理スペクトル1の和周波の強度を処理スペクトル2の和周波の強度で規格化し、新たなスペクトルを得る。得られたスペクトルに対しローレンツ関数を用いてピークフィッティングを行い、芳香族アミン由来のC-N結合に帰属される「1286cm-1付近」のピーク強度を求める。
【0034】
上記操作をサンプルフィルムに対して0.5mm間隔で10か所にて実施し、それぞれ「1286cm-1付近」のピーク強度を求める。求められる10のピーク強度の内、最も高強度のデータを、サンプルフィルムのデータとして採用する。
【0035】
樹脂積層体1では、SFG分光法を用いて測定した芳香族アミン由来のC-N結合の強度が0.03以上となるほど、面11aに改質処理を施している。樹脂積層体1は、第1層11の面11aについてSFG分光法を用いて測定した芳香族アミン由来のC-N結合の強度が0.03以上であることで、第1層11と第2層12との界面において十分な剥離強度を示す。
【0036】
剥離強度(単位:N/inch)は、JIS K 6854-1「接着剤 はく離接着強さ試験方法 第一部:90度はく離」に規定された測定方法に準じて測定することができる。
【0037】
第1層11は、他方の面11bに金属蒸着層を有していてもよい。面11bは、第1層11において第2層12と接する面とは反対の面である。金属蒸着層は、例えばアルミニウム蒸着層を採用することができる。
【0038】
(第2層)
第2層12は、ポリオレフィンを主な形成材料とする。第2層12は、樹脂積層体1を他の部材(別の樹脂積層体1である場合を含む)と貼り合わせる際のシーラント層や接着層として機能してもよい。
【0039】
製造方法については後述するが、第2層12はポリオレフィンフィルムであってもよく、ポリオレフィンの押出樹脂層であってもよい。
【0040】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン及び環状ポリオレフィンなどが挙げられる。
【0041】
第2層12は、発明の効果を損なわない範囲において、ポリオレフィンの他に任意成分として生分解性樹脂やバイオマス由来の成分を含んでもよい。
【0042】
生分解性樹脂としては、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)及びポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)共重合樹脂(PHBH)などが挙げられる。
【0043】
第2層12の厚さは、10μm以上500μm以下が好ましい。
【0044】
(印刷層)
印刷層14は、熱可塑性樹脂を形成材料とするフィルムの面14aに印刷用インキやレーザー等を用いて、文字や図柄を印刷した層である。
【0045】
印刷層14において文字や図柄の印刷に用いる印刷用インキは、バインダー樹脂として、熱可塑性樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂などの各種インキバインダー樹脂を含んでいてもよい。さらに印刷用インキは、各種顔料、乾燥剤、安定剤等の添加剤などを含む。
【0046】
印刷層14において、文字や図柄は、例えば、オフセット印刷法、グラビア印刷法及びスクリーン印刷法などの公知の印刷方法にて形成される。文字や図柄を構成する部分の厚さは、通常、0.05μm以上2.0μm以下程度とすることができる。
【0047】
印刷層14の厚さは、5μm以上100μm以下が好ましい。
【0048】
印刷層14の面14aは、酸化処理が施されていてもよい。面14aが酸化処理されていることは、和周波発生分光法により確認することができる。言い換えると、面14aは、和周波発生分光法により確認できる程度にまで酸化していてもよい。酸化処理は、上述した公知の方法を採用することができる。
【0049】
(中間層)
中間層15は、第1層11の面11b及び印刷層14の面14aに接し、第1層11及び印刷層14と積層している。
【0050】
中間層15の形成材料は、ポリエチレンを採用することができる。ポリエチレンは、1種のポリエチレンのみで構成されていてもよく、2種以上のポリエチレンが混合した組成物であってもよい。
【0051】
中間層15の厚さは、10μm以上500μm以下が好ましい。
【0052】
中間層15において印刷層14と対向する面15aは、オゾン処理に代表される酸化処理が施されている。面15aが酸化処理されていることは、和周波発生分光法により確認することができる。言い換えると、面15aは、和周波発生分光法により確認できる程度にまで酸化している。
【0053】
(包装容器)
図2は、上述の樹脂積層体1を用いて形成される包装容器50を示す模式図である。包装容器50では、樹脂積層体1が有する第2層12が容器内側に面し、印刷層14が容器外側に露出している。
【0054】
包装容器50は、所定寸法に裁断された2枚の樹脂積層体1を、それぞれの第2層12を対向させて重ね合わせ、三辺をヒートシールすることで得られる。
図2では、ヒートシールした部分を符号Aで示している。
【0055】
また、包装容器50は、公知の方法で製造した自立型のスタンディングパウチとしてもよい。
【0056】
(樹脂積層体の製造方法)
本実施形態の樹脂積層体の製造方法は、ポリエステルを形成材料とする第1層の表面を、窒素雰囲気下で改質する工程と、第1層の改質した表面に、ポリオレフィンを形成材料とする第2層を直接積層させて貼合する工程と、を少なくとも有する。
以下、順に説明する。
【0057】
(改質する工程)
改質する工程の処理対象である第1層は、ポリエステルを形成材料とする。第1層には、ポリエステルを形成材料とする樹脂フィルムを好適に用いることができる。
【0058】
第1層の表面の改質方法は、プラズマ処理であってもよく、コロナ処理であってもよい。改質する工程は、第1層の表面について和周波発生分光法を用いて測定したとき、求められる芳香族アミン由来のC-N結合の強度が0.03以上となるまで行う。また、改質方法は、同じ結果が得られる処理であれば、プラズマ処理、コロナ処理に限らない。
【0059】
窒素雰囲気下で上記改質処理を行うと、雰囲気中の窒素分子の一部がプラズマ状態を経て第1層表面の高分子の主鎖や側鎖と反応する。その結果、第1層の表面の高分子には、雰囲気中の窒素分子に由来する窒素原子が導入され、C-N結合が生成すると考えられる。C-N結合は分極しているため、上記改質処理の後の第1層表面は、処理前と比べて極性が高くなると想定される。
また、ポリエステルが芳香環を含む場合、芳香環と窒素原子とが反応すると芳香族アミンを形成しやすいと考えられる。
【0060】
改質する工程では、C-N結合の生成を阻害しないようにするため、雰囲気中の酸素ガス濃度は体積比2%以下が好ましく、体積比50ppm以下がより好ましい。
【0061】
また、雰囲気中には、酸素原子を含む気体を導入しないことが好ましい。「酸素原子を含む気体」としては、CO2やN2Oが挙げられる。
【0062】
(貼合する工程)
貼合する工程で用いる第2層は、ポリオレフィンを形成材料とする。第2層には、ポリオレフィンを形成材料とする樹脂フィルムと、ポリオレフィンを押出成形機で溶融しTダイから膜状に押し出した溶融樹脂膜と、のいずれも用いることができる。
【0063】
製造する樹脂積層体を包装材料として用いる場合、第2層の材料は、シーラント層として使用可能なヒートシーラブルポリオレフィンやポリプロピレンが好ましい。
【0064】
樹脂フィルムを第2層とする場合、改質した第1層の表面に第2層を重ね、第1層と第2層との積層体を、加熱ロールとピンチロールの2つのロール間で加熱しながら圧着することで樹脂積層体が得られる。
【0065】
溶融樹脂膜を第2層とする場合、第2層を溶融押出しながら、改質した第1層の表面に積層する。第1層と第2層との積層体を、冷却ロールとピンチロールの2つのロール間で冷却しながら圧着することで樹脂積層体が得られる。
【0066】
また、第1層の表面に第2層を重ね、さらに第2層の表面に他の樹脂フィルムを重ねた多層積層体を、冷却ロールとピンチロールの2つのロール間で冷却しながら圧着することで樹脂積層体としてもよい。この場合、第2層が第1層と共に他の樹脂フィルムにも貼り付く。
【0067】
第2層の第1層と接触する面は、オゾン処理されることが好ましい。第2層が溶融樹脂膜である場合、改質した第1層の表面に溶融樹脂膜を重ねる前に、溶融樹脂膜の表面のうち第1層と接触する面をオゾン処理することが好ましい。
【0068】
オゾン処理は、オゾンによる溶融樹脂膜の表面の酸化処理である。オゾン処理は、Tダイから吐出される溶融樹脂膜のMD方向下流側にオゾン発生装置を設置し、溶融樹脂膜が第1層と接触する前に行うとよい。
【0069】
オゾンの発生方法は、特に制限はないが、大気雰囲気下で紫外線照射することにより、UV/オゾン処理を行うことが好ましい。
【0070】
UV/オゾン処理では、低圧水銀ランプ、Xeエキシマランプ等の紫外線を発生させる光源を用いて、第2層の表面に紫外線を照射する。これにより、第2層の表面の高分子において結合が分解される。また、紫外線照射により酸素が分解してオゾンが発生し、第2層の表面がオゾンにより酸化される。
【0071】
第2層の表面をオゾン処理することにより表面の高分子が酸化され、第2層の表面にはカルボニル基やカルボキシ基などの酸素官能基が生じる。これらの基は極性が高いため、上述の改質処理を施した第1層の表面と静電的に強く引き合い、第1層と第2層とを好適に貼り合わせることができる。
【0072】
図3は、本実施形態の樹脂積層体1の製造方法を示す工程図である。
図3に示す工程図では改質処理として、プラズマ処理を行うこととしている。
【0073】
上述の樹脂積層体1は、第1フィルムと第2フィルムとを、接着剤又はアンカーコート剤を介することなく積層させて製造する。第1フィルムは、本発明の製造方法における「第1層」に該当し、第2フィルムは本発明の製造方法における「第2層」に該当する。
【0074】
基材フィルム10Fは、第1層11と同じ材料であり、帯状に形成された第1フィルム11Fと、印刷層14と同じ構成であり帯状に形成された印刷層14Fと、中間層15と同じ構成であり帯状に形成された中間層15Fとの積層体である。基材フィルム10Fは、枚葉に裁断すると、上述の基材10となる。
【0075】
基材フィルム10Fは、ロール状に巻き取られた巻き出しロール10Lから順次繰り出され、搬送ロール101を介して、プラズマ処理装置110に搬入される。
【0076】
プラズマ処理装置110は、チャンバー111、ロール112、プラズマ発生装置113、搬送ロール114,115を有する。チャンバー111は、ロール112、プラズマ発生装置113、搬送ロール114,115を収容する。
【0077】
プラズマ処理装置110に搬入された基材フィルム10Fは、搬送ロール114を介してロール112に巻きかけられる。チャンバー111内では、プラズマを生じさせる条件に適した雰囲気が形成される。
【0078】
プラズマ発生装置113は、ロール112に対向して配置されており、プラズマ発生装置113とロール112との間の空間にプラズマを発生させる。発生したプラズマにより、基材フィルム10Fの一面(第1フィルム11Fの一方の面11a)がプラズマ処理される。
【0079】
プラズマ処理は、雰囲気ガスを窒素(N2)とした大気圧条件下で実施する。プラズマ処理は、基材フィルム10Fの第1層11の面11aについてSFG分光法を用いて測定したとき、芳香族アミン由来のC-N結合の強度が0.03以上となるまで行う。
【0080】
プラズマ発生装置113の出力や、基材フィルム10Fの搬送速度などの処理条件については、芳香族アミン由来のC-N結合の強度が0.03以上となる条件を予備実験で確認し決定しておくとよい。
【0081】
一方の面11aがプラズマ処理された基材フィルム10Fは、搬送ロール115を介してプラズマ処理装置110から搬出される。
【0082】
なお、基材フィルム10Fの一方の面11aのプラズマ処理は、上述したように搬送行程中に連続的に行ってもよく、予め行っていてもよい。
【0083】
基材フィルム10Fは、搬送ロール102を介して、所定温度に保持された加熱ロール104及びバックアップロール105の間に供給される。
【0084】
一方、第2フィルム12Fは、第2層12と同じ材料であり帯状に形成されている。第2フィルム12Fは、未延伸ポリエチレン樹脂フィルム、未延伸ポリプロピレン樹脂フィルム、環状ポリオレフィン樹脂フィルム及び未延伸ポリエチレンと未延伸ポリプロピレンの共押し出しフィルムからなる群から選ばれる1種であると好ましい。
【0085】
第2フィルム12Fは、ロール状に巻き取られた巻き出しロール12Lから連続的に繰り出され、搬送ロール103を介して、加熱ロール104及びバックアップロール105の間に供給される。
【0086】
加熱ロール104は、第2フィルム12Fの融点よりも高い加熱温度に設定されている。基材フィルム10F及び第2フィルム12Fは、加熱ロール104及びバックアップロール105の間を通過することで、界面に接着剤及びアンカーコート剤のいずれもが塗布されることなく連続貼合される。これにより、上述の樹脂積層体1の原反1Fが得られる。
【0087】
原反1Fは、冷却ロール106,107に挟持されて冷却されながら搬送される。原反1Fは巻き取りロール1Lに搬送され、ロール状に巻き取られる。
【0088】
原反1Fは、適宜枚葉に裁断されることで、上述の樹脂積層体1となる。また、原反1Fは、ロール状に巻き取られることなく、工程下流にて裁断してもよい。
【0089】
本実施形態においては、以上のようにして樹脂積層体1が得られる。
【0090】
(包装容器の製造方法)
本実施形態の包装容器の製造方法は、上述の樹脂積層体の製造方法により、樹脂積層体を製造する工程と、樹脂積層体の第2層を内側として、樹脂積層体を容器状に成型する工程と、を有する。
【0091】
樹脂積層体を容器状に成型する工程としては、例えば、所定寸法に裁断された2枚の樹脂積層体を、それぞれ第2層を対向させて重ね合わせ、三辺をヒートシールする工程が挙げられる。このようにして得られた容器では、第2層が容器の内側となる。
【0092】
その後、容器に内容物を充填し、残りの1辺をヒートシール等により封止することで、内容物が充填された包装容器を製造することができる。
【0093】
以上のような構成の樹脂積層体1によれば、接着剤やアンカーコート剤を用いることなく十分な剥離強度を示す樹脂積層体を提供することができる。
【0094】
また、以上のような構成の包装容器によれば、上述の樹脂積層体を材料とすることで、十分な剥離強度を示し、且つVOCの排出が抑制された包装容器となる。
【0095】
また、上述のような樹脂積層体の製造方法によれば、剥離強度を担保した上で、VOCの排出を抑制して樹脂積層体を製造することができる。
【0096】
また、上述のような包装容器の製造方法によれば、剥離強度を担保した上で、VOCの排出を抑制して包装容器を製造することができる。
【0097】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例】
【0098】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0099】
(C-N結合の強度の測定方法)
プラズマ処理を施した面について、C-N結合の強度は、上述の(C-N結合の強度の測定方法)に記載の方法で測定した。
【0100】
<実施例1>
第1層として、アルミ蒸着ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ12μm)を用いた。ポリエチレンテレフタレートが露出した面に、窒素ガスで充満した雰囲気下でプラズマ処理(改質処理)を行った。プラズマ処理の強度は、31.3Wmin/m2とした。
【0101】
第2層として、ポリエチレンの溶融樹脂膜(温度300℃、20μm)を用いた。第2層には、第1層と貼り合わされる面にオゾン処理を行った。
【0102】
上記第1層の改質処理を行った面と、第2層のオゾン処理を行った面とを重ね合わせ、さらに、第2層の第2層と接する面とは反対側の面にポリエチレンフィルム(厚さ105μm)を重ね合わせて積層して、樹脂積層体を作成した。
【0103】
第1層の改質処理した面について、測定に用いるレーザー光をポリエチレンフィルム側から照射しC-N結合の強度を測定したところ、0.178であった。なお、狭帯域可視光ω1を入射角=38°、広帯域赤外光ω2を入射角=46°で照射した。
【0104】
<実施例2>
プラズマ処理強度を60.0Wmin/m2としたこと以外は上記実施例1と同様にして、樹脂積層体を作成した。
第1層の改質処理した面について、C-N結合の強度を測定したところ、0.034であった。
【0105】
<実施例3>
プラズマ処理強度を90.0Wmin/m2としたこと以外は上記実施例1と同様にして、樹脂積層体を作成した。
第1層の改質処理した面について、C-N結合の強度を測定したところ、0.099であった。
【0106】
<実施例4>
プラズマ処理強度を120.0Wmin/m2としたこと以外は上記実施例1と同様にして、樹脂積層体を作成した。
第1層の改質処理した面について、C-N結合の強度を測定したところ、0.155であった。
【0107】
<比較例1>
プラズマ処理を実施しなかったこと以外は上記実施例1と同様にして、樹脂積層体を作成した。
第1層の改質処理した面について、C-N結合の強度を測定したところ、検出限界以下であった。
【0108】
(剥離試験)
第1層と第2層との界面の剥離強度は、JIS K 6854-1「接着剤 はく離接着強さ試験方法 第一部:90度はく離」に規定された測定方法に準じて測定した。
【0109】
第1層と第2層とを剥離させたときの様子(剥離モード)について、以下のように評価した。
材料破壊:試験片の剥離が第1層と第2層との界面に定まらず、第1層又は第2層のいずれか一方又は両方の破損を伴った。
界面:試験片の剥離が第1層と第2層との界面で生じた。
【0110】
評価結果を表1に示す。
【0111】
【0112】
上記結果より、実施例に係る樹脂積層体は、接着剤やアンカーコート剤を用いることなく十分な剥離強度を有していることが証明された。
【0113】
以上の結果より、本発明が有用であることが確かめられた。
【符号の説明】
【0114】
1…樹脂積層体、11…第1層、11a…第2層と接する面、11F…第1フィルム(第1層)、12…第2層、12F…第2フィルム(第2層)、50…包装容器