(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線
(51)【国際特許分類】
H01R 4/20 20060101AFI20240924BHJP
H01R 4/62 20060101ALI20240924BHJP
H01R 13/03 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
H01R4/20
H01R4/62 A
H01R13/03 A
(21)【出願番号】P 2020214574
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2023-09-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】関谷 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】樋口 優
【審査官】山下 寿信
(56)【参考文献】
【文献】実公昭50-001409(JP,Y1)
【文献】特開2019-169364(JP,A)
【文献】特開2020-027758(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/18
H01R 4/62
H01R 13/03
H01R 43/048
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム電線の導線がアルミニウム圧着端子の管状の挿入部に圧着された導線圧着部を有するアルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線であって、
前記導線の組成は、A1070であり、
前記アルミニウム圧着端子の組成は、A1050またはA1070であり、
前記アルミニウム電線の長手方向に垂直な前記導線圧着部の横断面において、
前記アルミニウム圧着端子の前記挿入部は、圧着凹部と対向する圧着凹部対向部に、前記アルミニウム電線の前記導線と接触し、平均結晶粒径が
10μm以上35μm以下である内側領域と、前記内側領域の外側に隣接し、平均結晶粒径が
80μm以上120μm以下である外側領域とを有
し、
前記内側領域の厚さh1と前記外側領域の厚さh2との合計厚さ(h1+h2)に対する前記内側領域の厚さh1の比(h1/(h1+h2))×100は、10%以上70%以下である
ことを特徴とするアルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線。
【請求項2】
前記横断面における前記内側領域のビッカース硬さの平均値は、25以上である、請求項
1に記載のアルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線。
【請求項3】
前記横断面における前記内側領域のビッカース硬さの平均値は、50以下であり、前記横断面における前記外側領域のビッカース硬さの平均値は、25未満である、請求項1
または2に記載のアルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、配電用電線の導線には、高い導電性を有する銅や銅合金などの銅系材料が用いられている。近年では、軽量化の観点から、アルミニウムの導線(以下、アルミニウム導線ともいう)が用いられることがある。
【0003】
一方で、異種金属であるアルミニウム導線と銅端子とを接続すると、通電時の温度上昇によって、導線と端子との間に熱膨張差が発生し、接続部に機械的なずれが生じることがある。接続部でずれが生じると、ずれを生じる前に大気中で自然酸化被膜を有していたアルミニウム導線の酸化被膜部分が銅端子と接触することや、ずれを生じる前に銅端子と接触していたアルミニウム導線の接続部分が銅端子から離れて非接触状態となって大気中で酸化することなどによって、接続部の電気抵抗が高くなり、さらに発熱、あるいは最悪の場合には発火事故を招く恐れがある。
【0004】
このような問題を回避するため、アルミニウム導線と接続する端子には、銅端子の代わりにアルミニウム端子が用いられている。例えば、アルミニウム端子は、アルミニウム電線の導体を挿入して接続する管状の挿入部と、端子台に接続するためのボルト穴を有する平板状の羽子板部とから主に構成されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、導体および絶縁層を含み、端部において導体が露出する電線と、露出している導体と圧着接続する圧着部を有する端子と、を備え、端子がアルミニウム材料からなり、圧着部が80MPa以下の引張強度を有する、端子付き電線が記載されている。また、特許文献2には、素線から成る導体および被覆を備える電線と、導体の端部に取り付けられた圧縮端子と、を備え、素線は、アルミニウムを主成分とする第1の材料から成り、圧縮端子のうちの少なくとも導体に接する部分は、アルミニウムを主成分とする第2の材料から成り、第1の材料は、第2の材料より引張強度が大きい、端子付電線が記載されている。
【0006】
上記のように、特許文献1~2では、アルミニウム導体を挿入部に挿入し、挿入部の複数箇所に対して外側から圧力をかけ、挿入部をかしめることによって、電線と圧着端子とを接続させる。しかしながら、これらの方法では、挿入部の複数箇所に圧力を加えて、端子の挿入部と電線とを圧縮接続しているため、端子と電線との接続には大きな力が必要になる。そして、端子を圧縮するための装置が大掛かりとなり、配線スペースの限られた電線敷設現場でこれらの方法を実施するには、作業性が悪い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-169364号公報
【文献】特開2020-27758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示の目的は、アルミニウム圧着端子をかしめる力を小さくしても、アルミニウム電線とアルミニウム圧着端子との接続信頼性が良好であるアルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1] アルミニウム電線の導線がアルミニウム圧着端子の管状の挿入部に圧着された導線圧着部を有するアルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線であって、前記アルミニウム電線の長手方向に垂直な前記導線圧着部の横断面において、前記アルミニウム圧着端子の前記挿入部は、圧着凹部と対向する圧着凹部対向部に、前記アルミニウム電線の前記導線と接触し、平均結晶粒径が50μm未満である内側領域と、前記内側領域の外側に隣接し、平均結晶粒径が50μm以上である外側領域とを有することを特徴とするアルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線。
[2] 前記横断面において、前記内側領域の厚さh1と前記外側領域の厚さh2との合計厚さ(h1+h2)に対する前記内側領域の厚さh1の比(h1/(h1+h2))×100は、70%以下である、上記[1]に記載のアルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線。
[3] 前記横断面における前記内側領域のビッカース硬さの平均値は、25以上である、上記[1]または[2]に記載のアルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線。
[4] 前記横断面における前記内側領域のビッカース硬さの平均値は、50以下であり、前記横断面における前記外側領域のビッカース硬さの平均値は、25未満である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載のアルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、アルミニウム圧着端子をかしめる力を小さくしても、アルミニウム電線とアルミニウム圧着端子との接続信頼性が良好であるアルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態のアルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線の要部構成の一例を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、実施例1で製造したアルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線を構成する導線圧着部の横断面を観察した光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態に基づき詳細に説明する。
【0013】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、アルミニウム圧着端子の挿入部における内側の組織に着目することによって、アルミニウム圧着端子をかしめる力を小さくしても、アルミニウム電線とアルミニウム圧着端子との接続信頼性が良好であることを見出し、かかる知見に基づき本開示を完成させるに至った。
【0014】
実施形態のアルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線は、アルミニウム電線の導線がアルミニウム圧着端子の管状の挿入部に圧着された導線圧着部を有するアルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線であって、前記アルミニウム電線の長手方向に垂直な前記導線圧着部の横断面において、前記アルミニウム圧着端子の前記挿入部は、圧着凹部と対向する圧着凹部対向部に、前記アルミニウム電線の前記導線と接触し、平均結晶粒径が50μm未満である内側領域と、前記内側領域の外側に隣接し、平均結晶粒径が50μm以上である外側領域とを有する。
【0015】
図1は、実施形態のアルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線の要部構成の一例を示す斜視図である。
図2は、
図1のA-A断面図である。
図1~2に示すように、アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線1は、導線圧着部2を有する。導線圧着部2では、アルミニウム電線10の導線12がアルミニウム圧着端子20の管状の挿入部21に圧着されている。
【0016】
図1に示すように、アルミニウム電線10は、導線12と、導線12の外周を覆う絶縁被覆部13と、絶縁被覆部13の外周を覆うシース14とを有する。アルミニウム電線10の一端側では、導線12の外周を覆う絶縁被覆部13と絶縁被覆部13の外周を覆うシース14とがアルミニウム電線10から剥ぎ取られて、導線12が露出している。
【0017】
アルミニウム圧着端子20の一端側には、アルミニウム電線10の一端側で露出している導線12を挿入する管状の挿入部21が設けられている。アルミニウム電線10の導線12がアルミニウム圧着端子20の挿入部21に挿入している状態で、アルミニウム圧着端子20の挿入部21がかしめられると、挿入部21は、導線12の外周を覆うように、アルミニウム電線10に圧着する。アルミニウム圧着端子20の挿入部21が導線12に圧着すると、導線圧着部2が形成される。アルミニウム圧着端子20は、導線圧着部2を介して、導線12と電気的に接続される。
【0018】
アルミニウム圧着端子20の他端側には、例えば貫通穴22aを備える平板状の羽子板部22が設けられている。羽子板部22の貫通穴22aにボルトなどの締結部材を挿通することによって、アルミニウム圧着端子20が不図示の端子台に電気的に接続される。
【0019】
アルミニウム電線10の導線12は、少なくとも1つ以上の素線11から構成される。導線12は、
図1に示すような複数の素線11を撚り合わせた撚線でもよいし、複数の素線11の束でもよいし、1本の素線11でもよい。
【0020】
アルミニウム電線10の長手方向Lに垂直な導線12の横断面の外径は、
図1に示すような円形でもよいし、平形でもよい。また、導線12は、圧縮されていてもよい。
【0021】
導線12について、電気抵抗を低くし、通電時の発熱を抑える観点から、アルミニウム電線10を構成する素線11の組成、すなわち導線12の組成は、99.5質量%以上、好ましくは99.7質量%以上のAl(アルミニウム)を含む。例えば、導線12はA1050やA1070であることが好ましい。
【0022】
また、導線12の組成は、Alに加えて、Ti、B、V、Fe、Si、Cu、Mn、MgおよびZnからなる群より選択される1種以上の元素を含有してもよい。
【0023】
Ti(チタン)およびB(ホウ素)からなる群より選択される1種以上の元素の合計含有量が0.001質量%以上であると、鋳造工程で得られるアルミニウム鋳塊中の結晶粒を微細化し、その後に行われる冷間伸線時に割れや断線を抑制できる。上記元素の合計含有量が0.100質量%以下であると、高い延性および高い導電性を維持できる。
【0024】
V(バナジウム)の含有量が0.001質量%以上であると、鋳造工程時に溶湯から不純物を容易に除去できる。Vの含有量が0.100質量%以下であると、導線12の高い延性および高い導電性を維持できる。
【0025】
Fe(鉄)、Si(ケイ素)、Cu(銅)、Mn(マンガン)、Mg(マグネシウム)およびZn(亜鉛)からなる群より選択される1種以上の元素の合計含有量が0.001質量%以上であると、導線12の引張強度および疲労強度が増加する。そのため、キャブタイヤケーブルやエレベーターケーブルのように、電線接続後にアルミニウム電線10を屈曲させて使用しても、屈曲による導線12の断線を抑制できる。上記元素の合計含有量が0.500質量%未満であると、伸線加工性の低下および導電率の低下を抑制できる。
【0026】
上述した成分以外の残部は不可避不純物である。不可避不純物は、製造工程上、不可避的に含まれうることもあり、含有量によっては導線12の導電率および強度を低下させる要因にもなりうるため、不可避不純物の含有量は少ないことが好ましい。不可避不純物としては、例えば、Li(リチウム)、Ni(ニッケル)、Cr(クロム)などの元素が挙げられる。なお、上記不可避不純物の含有量の上限は、上記元素の合計で、好ましくは0.500質量%未満である。
【0027】
また、アルミニウム圧着端子20について、電気抵抗を低くし、通電時の発熱を抑える観点から、アルミニウム圧着端子20の組成は、99.5質量%以上、好ましくは99.7質量%以上のAlを含む。例えば、導線12はA1050やA1070であることが好ましい。
【0028】
また、アルミニウム圧着端子20の組成は、Alに加えて、Ti、B、V、Fe、Si、Cu、Mn、MgおよびZnからなる群より選択される1種以上の元素を含有してもよい。
【0029】
TiおよびBからなる群より選択される1種以上の元素の合計含有量が0.001質量%以上であると、鋳造工程で得られるアルミニウム鋳塊中の結晶粒を微細化し、その後に行われる冷間伸線時に割れを抑制できる。上記元素の合計含有量が0.100質量%以下であると、高い延性および高い導電性を維持できる。
【0030】
Vの含有量が0.001質量%以上であると、鋳造工程時に溶湯から不純物を容易に除去できる。Vの含有量が0.100質量%以下であると、アルミニウム圧着端子20の高い延性および高い導電性を維持できる。
【0031】
Fe、Si、Cu、Mn、MgおよびZnからなる群より選択される1種以上の元素の合計含有量が0.001質量%以上であると、アルミニウム圧着端子20の耐久強度が増加する。そのため、何回も繰り返し接続して使用され、軽量化のために小型化、薄型化したアルミニウム圧着端子20が折れたり曲がったりすることを抑制できる。上記元素の合計含有量が0.500質量%未満であると、導電率の低下を抑制できる。
【0032】
上述した成分以外の残部は不可避不純物である。不可避不純物の含有量によってはアルミニウム圧着端子20の導電率および強度を低下させる要因にもなりうるため、不可避不純物の含有量は少ないことが好ましい。不可避不純物としては、例えば、Li、Ni、Crなどの元素が挙げられる。なお、上記不可避不純物の含有量の上限は、上記元素の合計で、好ましくは0.500質量%未満である。
【0033】
図1~2に示すように、アルミニウム電線10の長手方向Lに垂直な導線圧着部2の横断面において、アルミニウム圧着端子20の挿入部21は、圧着凹部23と対向する圧着凹部対向部24に、内側領域25と外側領域26とを有する。内側領域25では、アルミニウム電線10の導線12と接触し、平均結晶粒径が50μm未満である。外側領域26では、内側領域25の外側に隣接し、平均結晶粒径が50μm以上である。
【0034】
アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線1では、アルミニウム電線10の導線12がアルミニウム圧着端子20の挿入部21に挿入している状態で、挿入部21に対して一方向から力をかけて、導線12と挿入部21とを圧着させる。このように、挿入部21に対して一方向から力をかけることによって形成される導線圧着部2の横断面の形状は、挿入部に対して複数方向から力をかける、いわゆる圧縮端子における導線圧着部の横断面の形状とは異なる。
【0035】
上記のように、導線圧着部2は、挿入部21に対して一方向から力をかけることによって形成される。挿入部21が一方向からの力をかけられると、挿入部21の一部分が窪む。導線圧着部2の横断面において、圧着凹部23は、挿入部21の窪んだ部分である。また、
図2に示すように、圧着凹部対向部24は、挿入部21内の導線12を介して圧着凹部23と対向する部分である。
【0036】
圧着凹部対向部24では、挿入部21の内側から外側に向かって、内側領域25と外側領域26とが存在する。挿入部21の内側に存在すると共に導線12と接触する内側領域25の平均結晶粒径は、50μm未満である。挿入部21の外側に存在する外側領域26の平均結晶粒径は、50μm以上である。外側領域26に比べて、内側領域25の結晶粒径の平均値は小さい。
【0037】
また、導線12と挿入部21とが圧着される前の挿入部21の横断面の形状は、
図2と異なり、圧着凹部23が形成されていない。圧着される前の挿入部21の横断面では、内側領域25は挿入部21の内側全周に亘って存在し、外側領域26は挿入部21の外側全周に亘って存在する。内側全周に亘って存在する内側領域25と外側全周に亘って存在する外側領域26とを有する圧着前の挿入部21が一方向からの力を受けて導線12と圧着されると、導線圧着部2の圧着凹部23に比べて、圧着凹部対向部24では、圧着される前の挿入部21の結晶状態が維持されやすい。
【0038】
このような結晶状態を有する挿入部21を備えるアルミニウム圧着端子20と導線12を備えるアルミニウム電線10との圧着機構について、本発明者らは以下のように考えている。
【0039】
導線圧着部2では、アルミニウム電線10の導線12とアルミニウム圧着端子20の挿入部21は、一方向からの力によって押しつぶされた後、互いの接触圧力(接圧)によって接合されている。ここで、物の変形においては、外力を除荷すると元に戻ろうとする力(弾性変形)が働く。そして、その弾性変形の方向が導線12と挿入部21とで異なることにより、接圧が生じる。この接圧は、アルミニウム電線10に通電したときの温度上昇により弱くなることがある。これは、材料を構成する原子の運動が温度上昇により活発化し、原子配列が整理されることで、弾性変形が弱くなるためであると考えられる。このような接圧の低下を応力緩和と呼ぶ。一般に、挿入部21に与えられている加工量が大きいほど、応力緩和の変化率(応力緩和率)が大きい。
【0040】
加工量とは、圧着前の導線12や挿入部21に負荷されている加工量と、圧着によって加えられる変形量との総和である。圧着前の導線12に負荷されている加工量と圧着前の挿入部21に負荷されている加工量とが異なる場合、温度上昇による応力緩和率は互いに相違する。
【0041】
また、アルミニウム電線10の通電のオン/オフによる高温状態と低温状態とを繰り返すことによって、熱膨張と熱収縮が生じ、その際に導線12と挿入部21との接触界面に微小なずれが生じる。ずれが生じると、ずれを生じる前に大気中で自然酸化被膜を有していた導線12の酸化被膜部分が挿入部21と接触することや、ずれを生じる前に挿入部21と接触していた導線12の接続部分が挿入部21から離れて非接触状態となって大気中で酸化することなどによって、接続部の電気抵抗が高くなり、さらに発熱することがある。
【0042】
このような熱膨張と熱収縮の際に、導線12の応力緩和率と挿入部21の応力緩和率とが異なると、導線12と挿入部21との接触界面における微小なずれの量が大きくなり、このようなずれの量はアルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線1の温度上昇に寄与すると考えた。一方で、導線12の応力緩和率と挿入部21の応力緩和率とが同じあるいは近い値であると、熱膨張と熱収縮の際に、導線12と挿入部21との接触界面における微小なずれの量が小さくなり、接圧が維持されるため、アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線1の温度上昇を抑制できる。そのため、アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線1を長時間使用しても、電気抵抗の上昇や発熱が抑えられ、アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線1を安定して使用することができる。一般的に、配電線用のアルミニウム電線10の導線12には、純アルミニウムに対して、破断強度を上げるために加工量を大きく引張強度を高めた硬材が用いられる。
【0043】
こうしたことから、挿入部21の加工量を導線12の加工量に近づけるためには、挿入部21の圧着時のかしめに加えて、圧着前の挿入部21が加工された状態(強加工状態)である必要がある。具体的には、導線12と挿入部21との接触界面でのずれを引き起こさないように、導線12と接触する挿入部21の内側部分において残留ひずみが大きい状態であることが求められる。
【0044】
ここで、残留ひずみとは、外力を除荷した後でも物体内に存在する応力(残留応力)により生じるひずみのことで、金属組織をミクロで見ると結晶配列の乱れが原因である。その一つの評価指標として結晶粒径の違いがあり、結晶粒が小さいほど結晶粒界が多数存在するため、材料全体として結晶配列の乱れが大きいことを意味する。
【0045】
そのため、圧着前における挿入部21の内側全周の領域で、平均結晶粒径が50μm未満であると、挿入部21の内側全周で残留ひずみが大きい状態となり、挿入部21の内側の応力緩和率が導線12の応力緩和率と同じあるいは近い値となる。その結果、アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線1を長時間使用しても、接圧が維持されるためにアルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線1の接続信頼性が良好であり、電気抵抗の上昇や発熱が抑えられ、アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線1を安定して使用することができる。
【0046】
そのため、内側領域25の平均結晶粒径は50μm未満とする。内側領域25の平均結晶粒径が50μm以上であると、接圧の変化が大きく、電気抵抗の上昇や発熱が大きくなってしまう可能性がある。また、内側領域25の平均結晶粒径は、導線12の加工量に合わせて小さいことが好ましく、具体的には、40μm未満であることが好ましく、30μm未満であることがさらに好ましい。
【0047】
また、アルミニウム電線10とアルミニウム圧着端子20との圧着では、施工現場における作業者の作業性の観点から、一方の手でアルミニウム電線10を持ちながら、他方の手で圧着工具を持って、アルミニウム圧着端子20の挿入部21をかしめることが求められている。そのためには、軽い圧着工具を用いてもアルミニウム電線10とアルミニウム圧着端子20との接続信頼性が良好であるように、アルミニウム電線10とアルミニウム圧着端子20との圧着に必要な力を小さくすることが望まれている。一般に、結晶粒径と材料の硬さや強度との関係は、ホール・ペッチの式で表されており、結晶粒径が大きいほど、材料が柔らかくなる。仮に、挿入部21の内側から外側に亘って、すなわち挿入部21の全領域において、平均結晶粒径が50μm未満であると、挿入部21自体が硬くなり、圧着に必要な力が大きくなるため、作業性が悪い。
【0048】
そのため、圧着前における挿入部21の内側全周の領域で、平均結晶粒径が50μm未満であることに加えて、圧着前における挿入部21の外側全周の領域で、平均結晶粒径が50μm以上であると、高温耐久後の温度上昇の抑制など、アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線1の接続信頼性を向上できると共に、アルミニウム電線10とアルミニウム圧着端子20との圧着に必要な力を下げることができる。そのため、外側領域26の平均結晶粒径は50μm以上とする。
【0049】
また、導線圧着部2の横断面において、内側領域25の厚さh1と外側領域の厚さh2との合計厚さ(h1+h2)に対する内側領域25の厚さh1の比(h1/(h1+h2))×100は、好ましくは70%以下である。内側領域25の厚さh1と外側領域の厚さh2との合計厚さ(h1+h2)は、挿入部21の圧着凹部対向部24における厚さhに相当する。上記比(h1/(h1+h2))×100が70%以下であると、アルミニウム電線10とアルミニウム圧着端子20との圧着に必要な力をさらに下げることができるため、作業性がさらに向上する。また、上記比(h1/(h1+h2))×100が30%以上であると、高温耐久後の温度上昇の抑制など、アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線1の接続信頼性を向上できる。上記から、接続信頼性と圧着に必要な力の低減との両立を達成する目的で、上記比(h1/(h1+h2))×100は好ましくは30%以上70%以下である。
【0050】
ここで、圧着凹部対向部24の厚さh、内側領域25の厚さh1、外側領域26の厚さh2の測定箇所は、以下のように特定する。
図2に示すように、圧着凹部23の両側の凸部が共に接するように直線を引く。両側の凸部の接点を両端とする線の中点Aから、その線に垂直に圧着凹部対向部24に向かって直線Sを引く。圧着凹部対向部24の端子領域内における、直線Sの長さを圧着凹部対向部24の厚さhとする。同様に、圧着凹部対向部24の内側領域25における、直線Sの長さを内側領域25の厚さh1、圧着凹部対向部24の外側領域26における、直線Sの長さを外側領域26の厚さh2とする。
【0051】
また、導線圧着部2の横断面における内側領域25のビッカース硬さの平均値は、好ましくは25以上である。上記内側領域25のビッカース硬さの平均値が25以上であると、アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線1の高温耐久後の温度上昇を抑制できるため、アルミニウム電線10とアルミニウム圧着端子20との接続信頼性がさらに向上する。
【0052】
また、導線圧着部2の横断面における内側領域25のビッカース硬さの平均値は、好ましくは60以下、より好ましくは50以下であり、かつ、導線圧着部2の横断面における外側領域26のビッカース硬さの平均値は、好ましくは25未満である。上記内側領域25のビッカース硬さの平均値が60以下であると、アルミニウム電線10とアルミニウム圧着端子20との圧着に必要な力をさらに下げることができるため、作業性がさらに向上し、内側領域25のビッカース硬さの平均値が50以下であると、上記作業性が一層向上する。また、上記外側領域26のビッカース硬さの平均値が25未満であると、アルミニウム電線10とアルミニウム圧着端子20との圧着に必要な力をさらに下げることができるため、作業性がさらに向上する。
【0053】
また、導線圧着部2の横断面における、内側領域25のビッカース硬さの平均値と外側領域26のビッカース硬さの平均値との差は、好ましくは5以上、より好ましくは10以上である。上記差が5以上であると、アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線1の高温耐久後の温度上昇の抑制、およびアルミニウム電線10とアルミニウム圧着端子20との圧着に必要な力の低減の効果のバランスがさらに良好である。内側領域25のビッカース硬さおよび外側領域26のビッカース硬さの測定箇所は、直線S上である。
【0054】
次に、アルミニウム圧着端子20の製造方法について説明する。アルミニウム圧着端子20の製造方法では、主に、第1鍛造工程S1、熱処理工程S2、第2鍛造工程S3、打ち抜き工程S4、およびめっき工程S5を有する。
【0055】
第1鍛造工程S1では、アルミニウム丸棒軟質材の中心部を鍛造によって圧縮し、挿入部21を成形する。成形された挿入部21の内側では、加工されて材料の変形が著しいのに対し、挿入部21の外側では、比較的変形が抑制される。微視的に観察すると、材料の変形とは、材料を構成する結晶粒の変形であるから、挿入部21の内側全周に亘って、結晶粒径が小さくなる。さらに、次工程で熱処理を施したとしても、変形が抑制された領域の原子に比べて、加工によって著しく変形した領域の原子の方が熱処理時の温度によって再結晶しやすく、多数の再結晶粒が形成する。そのため、著しく変形した領域、すなわち、挿入部21の内側において、結晶粒径が小さくなる。また、鍛造後に、挿入部の内側を切削加工して挿入部の径を拡張してもよいし、挿入部の外側を切削加工してもよい。
【0056】
第1鍛造工程S1の後に実施される熱処理工程S2では、熱処理によってアルミニウム圧着端子20の全体を軟化させて組織を均質化する効果がある。熱処理工程S2は、アルミニウム圧着端子20の製造方法において、必須の工程ではなく、任意の工程である。
【0057】
熱処理工程S2の後に実施される第2鍛造工程S3では、鍛造によって、挿入部21と反対側の端部を圧縮し、平板状の羽子板部22を成形する。
【0058】
第2鍛造工程S3の後に実施される打ち抜き工程S4では、打ち抜きによって、羽子板部22に貫通穴22aを開ける。
【0059】
打ち抜き工程S4の後に実施されるめっき工程S5では、アルミニウム圧着端子20にめっきを施す。一例として、ダブルジンケート処理にてNi-Pめっきを施し、その上に密着性向上のためのCuストライクめっきを施し、最表層にはSnめっきを施す。他の例として、ダブルジンケート処理にてCuめっきを施し、最表層にはSnめっきを施す。ダブルジンケート処理とは、アルミニウムにめっきを施す方法であり、亜鉛を先にめっきした後に、亜鉛との置換により対象のめっきを施すものである。こうして、アルミニウム圧着端子20が得られる。
【0060】
次に、アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線1の製造方法について説明する。アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線1の製造方法では、主に、コンパウンド挿入工程S10および圧着工程S12を有する。
【0061】
コンパウンド挿入工程S10では、導線12と挿入部21との密着性の向上のために、挿入部21内にコンパウンド材を挿入する。コンパウンド材は、主に鉱油および亜鉛粉末で構成され、導線12と挿入部21とを良好に接続するために用いられる。コンパウンド材が挿入部21内に設けられると、アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線1の良好な導電性の確保、導線12の酸化被膜および挿入部21の酸化被膜の破壊、導線圧着部2の防水などの役割を果たす。
【0062】
コンパウンド挿入工程S10の後に実施される圧着工程S11では、導線12を挿入部21に挿入し、圧着工具を用いて挿入部21に一方向から力をかけて、導線12と挿入部21とを圧着する。一方向から力をかける圧着によって、従来の圧縮より、挿入部21の内側の結晶粒の変形が促進され、圧着凹部23と反対側の圧着凹部対向部24の内側領域25において、結晶粒がさらに小さくなる。挿入部21の窪んだ部分である圧着凹部23の窪み量が大きいほど、換言すると圧着時の押込み力が大きいほど、内側領域25の結晶粒が小さくなる傾向にある。導線圧着部2の横断面において、圧着凹部23側の中点Aと、直線Sと圧着凹部23との交点との距離で表される圧着深さdは5mm以上であることが好ましい。
【0063】
このようなアルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線1は、アルミニウム圧着端子20をかしめる力を小さくしても、アルミニウム電線10とアルミニウム圧着端子20との良好な接続信頼性が求められている、電線端末接続や電線接続に好適に使用される。
【0064】
以上説明した実施形態によれば、アルミニウム圧着端子の挿入部の組織に着目し、導線圧着部の横断面において、アルミニウム圧着端子の挿入部が平均結晶粒径50μm未満である内側領域と平均結晶粒径50μm以上である外側領域とを有することによって、アルミニウム圧着端子をかしめる力を小さくしても、アルミニウム電線とアルミニウム圧着端子との接続信頼性が良好である。
【0065】
以上、実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本開示の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例】
【0066】
次に、実施例および比較例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0067】
(実施例1~2、4~6)
表1に示す組成で直径24mmのアルミニウム丸棒の軟質材の中心部に対して鍛造を施して挿入部を成形した。続いて、鍛造加工による変形を受けた試料の組織を均質化するため、325℃、2時間の熱処理を施した。続いて、挿入部と反対側の端部を予め用意した金型にセットして圧縮鍛造し、羽子板部を成形した。続いて、打ち抜き加工によって、羽子板部に貫通穴を開けた。続いて、ダブルジンケート処理によってNi-Pめっきを施し、その上に密着性向上のためのCuストライクめっきを施し、最表層にはSnめっきを施した。続いて、導線と挿入部との密着性の向上のため、挿入部にコンパウンド材(コンパウンドA、古河パワーシステムズ(株)社製)を挿入した。続いて、表1に示す組成で約100mm2の導線を挿入部に挿入し、圧着工具(泉精器製作所製、REC-Li250M)を用いて表1に示す圧着深さdにて圧着し、導線圧着部を形成した。こうして、アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線を得た。
【0068】
(実施例3)
熱処理を施さなかったこと以外は実施例1と同様にして、アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線を製造した。
【0069】
(実施例7~8、実施例10)
アルミニウム丸棒の軟質材の中心部に対して鍛造を施すときに、実施例1に比べて小さい径の挿入部を成形した後、挿入部の内側を切削加工して、挿入部における平均結晶粒径50μm未満の領域および平均結晶粒径50μm以上の領域の厚さの比と平均結晶粒径とが表1になるように調整したこと以外は実施例1と同様にして、アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線を製造した。
【0070】
(実施例9)
実施例1に比べて0.5mm太いアルミニウム丸棒の軟質材を用意し、軟質材の中心部に対して鍛造を施すときに、実施例1と同じ径の挿入部を成形した後、挿入部の外側を切削加工して、挿入部における平均結晶粒径50μm未満の領域および平均結晶粒径50μm以上の領域の厚さの比と平均結晶粒径とが表1になるように調整したこと以外は実施例1と同様にして、アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線を製造した。
【0071】
(実施例11)
アルミニウム丸棒の軟質材の中心部に対して鍛造を施すときに、実施例1に比べて小さい径の挿入部を成形した後、挿入部の内側を切削加工して、挿入部における平均結晶粒径50μm未満の領域および平均結晶粒径50μm以上の領域の厚さの比と平均結晶粒径とが表1になるように調整し、熱処理を施さなかったこと以外は実施例1と同様にして、アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線を製造した。
【0072】
(実施例12)
均質化の熱処理において、100℃、2時間の熱処理を施した以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線を製造した。
【0073】
(実施例13)
均質化の熱処理において、200℃、2時間の熱処理を施した以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線を製造した。
【0074】
(実施例14)
表2に示す組成で直径19mmのアルミニウム丸棒の軟質材および60mm2の導線を用いたこと以外は実施例5と同様にして、アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線を製造した。
【0075】
(実施例15)
表3に示す組成で直径27mmのアルミニウム丸棒の軟質材および150mm2の導線を用いたこと以外は実施例1と同様にして、アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線を製造した。
【0076】
(比較例1)
アルミニウム丸棒の軟質材の中心部に対して切削加工を施して挿入部を成形したこと以外は実施例1と同様にして、アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線を製造した。
【0077】
(比較例2)
表1に示す組成のアルミニウム管の軟質材を用意し、アルミニウム管の一方の端部を挿入部に利用し、挿入部と反対側の端部をプレスして羽子板部を成形したこと以外は実施例1と同様にして、アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線を製造した。
【0078】
(比較例3)
表1に示す組成で直径24mmのアルミニウム丸棒の硬質材の中心部に対して切削加工を施して挿入部を成形したこと以外は実施例3と同様にして、アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線を製造した。
【0079】
(比較例4)
表2に示す組成で直径19mmのアルミニウム丸棒の軟質材および60mm2の導線を用い、圧着深さdを6mmとしたこと以外は比較例1と同様にして、アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線を製造した。
【0080】
(比較例5)
表3に示す組成で直径27mmのアルミニウム丸棒の軟質材および150mm2の導線を用いたこと以外は比較例1と同様にして、アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線を製造した。
【0081】
[測定および評価]
上記実施例および比較例で得られたアルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線について、下記の測定および評価を行った。結果を表1~3に示す。また、実施例1で製造したアルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線を構成する導線圧着部の横断面を観察した光学顕微鏡写真を
図3に示す。
【0082】
[1] 平均結晶粒径
まず、得られたアルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線の導線圧着部において、アルミニウム電線の長手方向に垂直な断面を切り出した。続いて、切り出した試料を樹脂で埋めて、湿式研磨およびバフ研磨によって試料表面を鏡面に仕上げた後、電解研磨およびアノーダイジング処理を行った。続いて、偏光板を挿入した光学顕微鏡を用いて、倍率100倍で圧着凹部対向部を撮影した。
【0083】
続いて、圧着凹部の両側の凸部が共に接するように直線を引いた。両側の凸部の接点を両端とする線の中点Aから、その線に垂直に圧着凹部対向部に向かって直線Sを引いた。圧着凹部対向部の端子領域内における、直線Sの長さを圧着凹部対向部の厚さhとした。続いて、圧着凹部対向部の厚さhを10等分して、それぞれの領域における直線Sと結晶粒界とが交わる数をカウントし、厚さhの10等分の長さを上記カウントした数で割って、それぞれの領域の平均結晶粒径を算出した。これらの領域のうち、50μm未満の平均結晶粒径を有する領域の平均結晶粒径の合計値を、当該領域の数で割って、挿入部の内側領域の平均結晶粒径を算出した。同様に、50μm以上の平均結晶粒径を有する領域の平均結晶粒径の合計値を、当該領域の数で割って、挿入部の外側領域の平均結晶粒径を算出した。
【0084】
[2] ビッカース硬さの平均値
平均結晶粒径の測定を行った試料を用いて、JIS Z2244に準拠し、荷重50gfにて15秒圧下し、圧痕の対角線の長さから硬さを換算した。この測定を3回(n=3)行い、これらの平均値をビッカース硬さの平均値として算出した。測定箇所は、直線S上であり、挿入部の端や測定済みの圧痕から圧痕の大きさ4個分以上を離した部分とした。
【0085】
[3] ヒートサイクル試験後の温度上昇量
高温耐久後の温度上昇の評価として、「JIS C 2810 屋内配線用電線コネクタ通則-分離不能形」に記載のヒートサイクル試験を参考に、ヒートサイクル試験を実施した。2m以上の長さのアルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線を複数本用意し、端子台を介して直列に端子同士を接続し、アルミニウム電線の温度が105℃になるような電流値を設定した。任意のアルミニウム電線の中央部分の絶縁被覆部に切れ込みを入れ、アルミニウム電線の導線に接触するように熱電対を挿入して、アルミニウム電線の温度を測定した。また、アルミニウム端子の羽子板部に熱電対をはんだ付けして、アルミニウム端子の温度を測定した。設定した電流値で1時間通電した後に1時間通電を停止する工程を1サイクルとし、25サイクル後のアルミニウム端子の温度と比較して、500サイクル後のアルミニウム端子の温度の上昇量(℃)を測定した。温度上昇量が8℃未満であれば合格とした。アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線の発熱を抑制できるという点で、温度上昇量が小さいほど良好である。
【0086】
[4] 圧着荷重
アルミニウム電線の導線とアルミニウム圧着端子の挿入部との圧着力を評価するための試験として、アルミニウム圧着端子の挿入部にアルミニウム電線の導線を挿入し、万能引張試験機(AG-100KND、島津製作所製)にて圧着ダイス(オス、メス、泉精器製作所製)を万能引張試験機の治具に取付け、表1~3に記載の圧着深さdで圧着したときに導線圧着部に負荷された荷重を求めた。圧着荷重が75kN以下を合格とした。圧着荷重が小さいほど、実際に導線と挿入部とを圧着するときの負荷が小さく、作業性が向上するため、圧着荷重は、65kN以下がより好ましく、55kN以下がより好ましい。
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
表1~3に示すように、実施例1~15では、導線圧着部の横断面において、アルミニウム圧着端子の挿入部は、50μm未満の平均結晶粒径を有する内側領域と50μm以上の平均結晶粒径を有する外側領域とを具備した。そのため、ヒートサイクル試験後の温度上昇の抑制および圧着荷重の低下がバランスよく発揮された。特に、実施例1~2、4~5、7~8、10、13~15では、内側領域の厚さh1の比(h1/(h1+h2))×100、内側領域のビッカース硬さの平均値、および外側領域のビッカース硬さの平均値が好適範囲内であったため、ヒートサイクル試験後の温度上昇の抑制および圧着荷重の低下がさらに良好であった。
【0091】
一方で、比較例1~2、4~5では、アルミニウム圧着端子の挿入部は、50μm未満の平均結晶粒径を有する内側領域を具備しなかったため、ヒートサイクル試験後の温度上昇量が大きかった。また、比較例3では、アルミニウム圧着端子の挿入部は、50μm以上の平均結晶粒径を有する外側領域を具備しなかったため、圧着荷重が大きかった。
【符号の説明】
【0092】
1 アルミニウム圧着端子付きアルミニウム電線
2 導線圧着部
10 アルミニウム電線
11 素線
12 導線
13 絶縁被覆部
14 シース
20 アルミニウム圧着端子
21 挿入部
22 羽子板部
22a 貫通穴
23 圧着凹部
24 圧着凹部対向部
25 内側領域
26 外側領域