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特許7558868ICP発光分光分析測定の結果の解析方法及びICP発光分光分析測定の結果の解析システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】ICP発光分光分析測定の結果の解析方法及びICP発光分光分析測定の結果の解析システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/73 20060101AFI20240924BHJP
【FI】
G01N21/73
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021053253
(22)【出願日】2021-03-26
(65)【公開番号】P2022150584
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2023-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】500240357
【氏名又は名称】住鉱テクノリサーチ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】槙 孝一郎
(72)【発明者】
【氏名】蓮野 亜美
(72)【発明者】
【氏名】阿賀 亜希子
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-161486(JP,A)
【文献】特開2006-317371(JP,A)
【文献】特開2007-078640(JP,A)
【文献】特開平10-300659(JP,A)
【文献】特開2014-119457(JP,A)
【文献】特開2008-267829(JP,A)
【文献】国際公開第2017/191699(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62 - G01N 21/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象に対するICP発光分光分析測定の結果として測定対象中の各元素について得られた分析値を解析する方法であって、
前記各元素に対し、前記ICP発光分光分析測定にかけたときの共存元素による影響が少なく感度が高い波長を複数用意するピーク波長準備工程と、
前記複数のピーク波長に対し、前記ICP発光分光分析測定にかけたときの共存元素の影響が少なく感度の高い順に優先順位を設定する優先順位設定工程と、
前記各元素に対して前記複数のピーク波長の各々における前記分析値を得る分析値取得工程と、
前記分析値が近いもの同士へと前記複数のピーク波長を仲間分けする仲間分け工程と、
一つの仲間に属するピーク波長の数が最も多い仲間を選択し、該仲間中のピーク波長のうち最も前記優先順位が高いピーク波長を選択するピーク波長選択工程と、
選択されたピーク波長に対応する分析値を採用する分析値決定工程と、
を有する、ICP発光分光分析測定の結果の解析方法。
【請求項2】
前記ピーク波長選択工程において前記優先順位が2位以下のピーク波長が選択された場合、且つ、該優先順位が1位のピーク波長での分析値と該2位以下のピーク波長での分析値との間の差分値が所定値以下の場合、該2位以下のピーク波長を該1位のピーク波長と置き換えるサルベージ工程を有し、
前記分析値決定工程では、前記サルベージ工程後に得られたピーク波長に対応する分析値を採用する、請求項1に記載のICP発光分光分析測定の結果の解析方法。
【請求項3】
前記仲間分け工程前の前記複数のピーク波長をイオン線と中性原子線とでグループ分けするグループ分け工程と、
各前記グループ内での分析値の平均値における前記グループ間での差分値が、各元素に対して設定した所定値以下であればICP発光分光分析測定の結果を有効とするグループ有効性評価工程と、
を有する、請求項1又は2に記載のICP発光分光分析測定の結果の解析方法。
【請求項4】
前記一つの仲間に属するピーク波長の数が最も多い仲間からピーク波長が任意に一つ除外されたと仮定したとき、該仲間内で残った他のピーク波長の分析値が仲間であり続けるか否かを評価する異常値発見工程を有し、
異常値である分析値及びその分析値に対応するピーク波長は、前記ピーク波長選択工程前に除外する、請求項1~3のいずれか一つに記載のICP発光分光分析測定の結果の解析方法。
【請求項5】
前記仲間分け工程前の前記複数のピーク波長のうち対応する分析値が検量線範囲外の異常な分析値である場合、該異常な分析値以外の正常な分析値のみを有効とする不適切値省略工程を有する、請求項1~4のいずれか一つに記載のICP発光分光分析測定の結果の解析方法。
【請求項6】
前記分析値は濃度である、請求項1~5のいずれか一つに記載のICP発光分光分析測定の結果の解析方法。
【請求項7】
前記ピーク波長選択工程において前記優先順位が2位以下のピーク波長が選択された場合、且つ、該優先順位が1位のピーク波長での分析値と該2位以下のピーク波長での分析値との間の差分値が所定値以下の場合、該2位以下のピーク波長を該1位のピーク波長と置き換えるサルベージ工程を有し、
前記分析値決定工程では、前記サルベージ工程後に得られたピーク波長に対応する分析値を採用し、
前記仲間分け工程前の前記複数のピーク波長をイオン線と中性原子線とでグループ分けするグループ分け工程と、
各前記グループ内での分析値の平均値における前記グループ間での差分値が、各元素に対して設定した所定値以下であればICP発光分光分析測定の結果を有効とするグループ有効性評価工程と、
を有し、
前記一つの仲間に属するピーク波長の数が最も多い仲間からピーク波長が任意に一つ除外されたと仮定したとき、該仲間内で残った他のピーク波長の分析値が仲間であり続けるか否かを評価する異常値発見工程を有し、
異常値である分析値及びその分析値に対応するピーク波長は、前記ピーク波長選択工程前に除外し、
前記仲間分け工程前の前記複数のピーク波長のうち対応する分析値が検量線範囲外の異常な分析値である場合、該異常な分析値以外の正常な分析値のみを有効とする不適切値省略工程を有し、
前記分析値は濃度である、請求項1に記載のICP発光分光分析測定の結果の解析方法。
【請求項8】
測定対象に対するICP発光分光分析測定の結果として測定対象中の各元素について得られた分析値を解析するシステムであって、
前記各元素に対し、前記ICP発光分光分析測定にかけたときの共存元素による影響が少なく感度が高い波長を複数得るピーク波長取得部と、
前記複数のピーク波長に対し、前記ICP発光分光分析測定にかけたときの共存元素による影響が少なく感度の高い順に優先順位を設定する優先順位設定部と、
前記各元素に対して前記複数のピーク波長の各々における前記分析値を得る分析値取得部と、
前記分析値が近いもの同士へと前記複数のピーク波長を仲間分けする仲間分け部と、
一つの仲間に属するピーク波長の数が最も多い仲間を選択し、該仲間中のピーク波長のうち最も前記優先順位が高いピーク波長を選択するピーク波長選択部と、
選択されたピーク波長に対応する分析値を採用する分析値決定部と、
を有する、ICP発光分光分析測定の結果の解析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICP発光分光分析測定の結果の解析方法及びICP発光分光分析測定の結果の解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1においては、試料に対する励起により発光させて分光器等により分光し、定量元素(目的元素)のスペクトル線の特定波長における強度を測定して含有元素の種類および量を分析する発光分光分析において、共存元素の近接スペクトル線の重なりによる定量元素の測定への影響を補正するに際し、測定毎に補正係数算出用試料を同時に測定し、補正係数をその都度求めて補正している(特許文献1の[0012])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-45287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、試料中の元素濃度を高精度に定量分析する場合には、ICP発光分光分析法や原子吸光光度法、ICP質量分析法を用いる場合が多い。特に、特許文献1が[0019]で取り扱うICP発光分光分析装置はダイナミックレンジが広く、金属材料の主要構成元素の組成評価を目的とする場合の主要構成元素評価により適している。また、最近の該装置は、より高感度になり、耐マトリックス性にも優れている。そのため、該装置は不純物分析にも多く用いられている。
【0005】
特許文献1の[0003]-[0005]に記載の内容に基づけば、各元素に対し、一つの特定波長を決定している。そして、該特定波長によって得られる強度(ピーク)から、予め得ておいた検量線を基に各元素の濃度を測定結果として得ている。この測定結果の一例としては、測定対象中の各元素の濃度がある。
【0006】
ICP発光分光分析装置には大きく分けて4つの干渉が存在する。物理干渉、化学干渉、イオン化干渉、分光干渉が存在する。
【0007】
干渉の中でも特に分光干渉は、測定対象の組成によって、度合いが大きく異なる。これは、測定結果が誤報告となるリスクが高いことを意味する。分光干渉とは、共存成分の発光スペクトルと目的とするスペクトル線とが重なる現象を指す。
【0008】
特許文献1に記載の特定波長は、ICP発光分光分析装置による測定結果に対する分析(以降、解析ともいう。)時にそれらの干渉の影響を受けていない波長を一つ選択した結果の波長であると推察される。
【0009】
従来、上記解析は人の手で行われており、上記解析は人の手で行われるのが正確である。但し、ピークに対する解析をピーク1本ずつ手作業で行う必要がある。そして、最適な波長を一つ選択する。これは、解析に人手がかかり、効率化が課題となることを意味する。
【0010】
しかし、上記分析(例えば最適波長の選択、即ち波長解析)には干渉を見抜く力量が必要である。これは、上記解析に多くの時間を要することを意味する。そもそも、上記解析可能な人材を育成するのに多くの時間を要する。
【0011】
本発明の課題は、ICP発光分光分析測定の結果の解析の精度は維持しつつも該解析を可能な限り自動化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様は、
測定対象に対するICP発光分光分析測定の結果として測定対象中の各元素について得られた分析値を解析する方法であって、
前記各元素に対し、前記ICP発光分光分析測定にかけたときの共存元素による影響が少なく感度が高い波長を複数用意するピーク波長準備工程と、
前記複数のピーク波長に対し、前記ICP発光分光分析測定にかけたときの共存元素の影響が少なく感度の高い順に優先順位を設定する優先順位設定工程と、
前記各元素に対して前記複数のピーク波長の各々における前記分析値を得る分析値取得工程と、
前記分析値が近いもの同士へと前記複数のピーク波長を仲間分けする仲間分け工程と、
一つの仲間に属するピーク波長の数が最も多い仲間を選択し、該仲間中のピーク波長のうち最も前記優先順位が高いピーク波長を選択するピーク波長選択工程と、
選択されたピーク波長に対応する分析値を採用する分析値決定工程と、
を有する、ICP発光分光分析測定の結果の解析方法である。
【0013】
本発明の第2の態様は、
前記ピーク波長選択工程において前記優先順位が2位以下のピーク波長が選択された場合、且つ、該優先順位が1位のピーク波長での分析値と該2位以下のピーク波長での分析値との間の差分値が所定値以下の場合、該2位以下のピーク波長を該1位のピーク波長と置き換えるサルベージ工程を有し、
前記分析値決定工程では、前記サルベージ工程後に得られたピーク波長に対応する分析値を採用する、第1の態様に記載のICP発光分光分析測定の結果の解析方法である。
【0014】
本発明の第3の態様は、
前記仲間分け工程前の前記複数のピーク波長をイオン線と中性原子線とでグループ分けするグループ分け工程と、
各前記グループ内での分析値の平均値における前記グループ間での差分値が、各元素に対して設定した所定値以下であればICP発光分光分析測定の結果を有効とするグループ有効性評価工程と、
を有する、第1又は第2の態様に記載のICP発光分光分析測定の結果の解析方法である。
【0015】
本発明の第4の態様は、
前記一つの仲間に属するピーク波長の数が最も多い仲間からピーク波長が任意に一つ除外されたと仮定したとき、該仲間内で残った他のピーク波長の分析値が仲間であり続けるか否かを評価する異常値発見工程を有し、
異常値である分析値及びその分析値に対応するピーク波長は、前記ピーク波長選択工程前に除外する、第1~第3のいずれか一つの態様に記載のICP発光分光分析測定の結果の解析方法である。
【0016】
本発明の第5の態様は、
前記仲間分け工程前の前記複数のピーク波長のうち対応する分析値が検量線範囲外の異常な分析値である場合、該異常な分析値以外の正常な分析値のみを有効とする不適切値省略工程を有する、第1~第4のいずれか一つの態様に記載のICP発光分光分析測定の結果の解析方法である。
【0017】
本発明の第6の態様は、
前記分析値は濃度である、第1~第5のいずれか一つの態様に記載のICP発光分光分析測定の結果の解析方法である。
【0018】
本発明の第7の態様は、
前記ピーク波長選択工程において前記優先順位が2位以下のピーク波長が選択された場合、且つ、該優先順位が1位のピーク波長での分析値と該2位以下のピーク波長での分析値との間の差分値が所定値以下の場合、該2位以下のピーク波長を該1位のピーク波長と置き換えるサルベージ工程を有し、
前記分析値決定工程では、前記サルベージ工程後に得られたピーク波長に対応する分析値を採用し、
前記仲間分け工程前の前記複数のピーク波長をイオン線と中性原子線とでグループ分けするグループ分け工程と、
各前記グループ内での分析値の平均値における前記グループ間での差分値が、各元素に対して設定した所定値以下であればICP発光分光分析測定の結果を有効とするグループ有効性評価工程と、
を有し、
前記一つの仲間に属するピーク波長の数が最も多い仲間からピーク波長が任意に一つ除外されたと仮定したとき、該仲間内で残った他のピーク波長の分析値が仲間であり続けるか否かを評価する異常値発見工程を有し、
異常値である分析値及びその分析値に対応するピーク波長は、前記ピーク波長選択工程前に除外し、
前記仲間分け工程前の前記複数のピーク波長のうち対応する分析値が検量線範囲外の異常な分析値である場合、該異常な分析値以外の正常な分析値のみを有効とする不適切値省略工程を有し、
前記分析値は濃度である、第1の態様に記載のICP発光分光分析測定の結果の解析方法である。
【0019】
本発明の第8の態様は、
測定対象に対するICP発光分光分析測定の結果として測定対象中の各元素について得られた分析値を解析するシステムであって、
前記各元素に対し、前記ICP発光分光分析測定にかけたときの共存元素による影響が少なく感度が高い波長を複数得るピーク波長取得部と、
前記複数のピーク波長に対し、前記ICP発光分光分析測定にかけたときの共存元素による影響が少なく感度の高い順に優先順位を設定する優先順位設定部と、
前記各元素に対して前記複数のピーク波長の各々における前記分析値を得る分析値取得部と、
前記分析値が近いもの同士へと前記複数のピーク波長を仲間分けする仲間分け部と、
一つの仲間に属するピーク波長の数が最も多い仲間を選択し、該仲間中のピーク波長のうち最も前記優先順位が高いピーク波長を選択するピーク波長選択部と、
選択されたピーク波長に対応する分析値を採用する分析値決定部と、
を有する、ICP発光分光分析測定の結果の解析システムである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ICP発光分光分析測定の結果の解析の精度は維持しつつも該解析を可能な限り自動化できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本実施形態に係る解析方法のフローチャートである。
図2図2は、好適例に係る解析方法のフローチャートである。
図3図2は、好適例及び変形例に係る解析方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本実施形態に係る解析方法のフローチャートである。
【0023】
本実施形態は、測定対象に対するICP発光分光分析測定の結果として測定対象中の各元素について得られた分析値を解析する方法に係る。特に本実施形態は、各元素に対して複数のピーク波長について得られた分析値を基に、一のピーク波長及びそのピーク波長に対応する分析値を選択しつつ、その有効性を評価する方法に係る。それ以外の内容(例えば分析値を得る際の検量線の作製、内部標準物質の使用、分析値の再現性の確認等)は、ICP発光分光分析測定に係る公知の手法を採用しても構わない。本明細書において「~」は所定の値以上且つ所定の値以下を指す。
【0024】
本実施形態においては、まず、各元素に対し、ICP発光分光分析測定にかけたときの共存元素による影響が少なく感度が高い波長を複数用意するピーク波長準備工程を行う。
【0025】
「共存元素による影響」とは共存元素のピークが各元素のピークに重なる分光干渉や共存元素が各元素の発光現象へ影響する励起干渉を意味する。「共存元素による影響が少なく感度が高い波長(以降、「感度が高い波長」と省略して記載することもある。)」は、例えば所定の元素を含有させた試料をICP発光分光分析測定にかけたときにピーク(の頂点)における波長(ピーク波長)を意味する。該ピーク波長の数は複数である。
【0026】
該複数のピーク波長に対し、ICP発光分光分析測定にかけたときの共存元素による影響が少なく感度の高い順に優先順位を設定する優先順位設定工程を行う。ピーク波長準備工程と優先順位設定工程とをまとめて準備工程と称してもよい。
【0027】
優先順位は、各元素において用意された複数のピーク波長に対して設定される。感度が高い順とは、具体的には、共存元素の影響が少ないピーク波長の中で、定量下限が最も低くなる分析値(及びその分析値に対応するピーク波長)を1位とする。「定量下限が最も低くなる分析値」は、バックグランド強度に対して最大強度が最も大きいピークと言い換えてもよい。そして、次に定量下限が低くなる分析値及び対応するピーク波長を2位、その次の分析値及び対応するピーク波長を3位、というように順位を設定する。順位を設定するのは複数のピーク波長における総数であってもよいし、一部(例えば上位5位まで)であってもよい。
【0028】
各元素に対して複数のピーク波長の各々における分析値を得る分析値取得工程を行う。分析値取得工程は、ICP発光分光分析測定により分析値を得る公知の手法を採用して構わない。該分析値は、測定対象中における各元素の濃度が好ましい。
【0029】
分析値取得工程により得られた分析値が近いもの同士へと複数のピーク波長を仲間分けする仲間分け工程を行う。
【0030】
仲間分け工程の具体的な内容は以下の通りである。例えば一つの元素に対し5つのピーク波長(例:λ1~λ5(単位:nm)、上記優先順位はλ1、λ2・・・の順とする。)が用意された場合、5つのピーク波長に対応する5つの分析値(例:C1~C5(単位:mg/l))を2つの仲間(以降、集団ともいう。)に分ける。
【0031】
2つの仲間に分ける具体的な手法としては、各分析値が2つの集団の各々に属する場合分けを行い、各場合における各集団の分析値の平均値を求め、該平均値からの差分が最も小さくなる場合の分析値の仲間分けの場合を採用する。2つの集団に分ける際には、3つの分析値と2つの分析値の集団、又は4つの分析値と1つの分析値の集団に分ける。各集団を構成する分析値の数が同数でも構わないし、3つ以上の集団に分かれることもある。
【0032】
一つの仲間に属するピーク波長の数が最も多い仲間を選択し、該仲間中のピーク波長のうち最も優先順位が高いピーク波長を選択するピーク波長選択工程を行う。各集団を構成する分析値の数が同数の場合は両集団を選択したうえで最も優先順位が高いピーク波長が所属する集団を選択し且つ該最も優先順位が高いピーク波長を選択する。
【0033】
仲間分け工程において、C2~C4(ピーク波長λ2~λ4)という仲間α、C1、C5(ピーク波長λ1、λ5)という仲間βへと仲間分けがされた場合を想定する。この場合、一つの仲間に属するピーク波長の数が最も多い仲間、即ちC2~C4(ピーク波長λ2~λ4)という仲間αを、ピーク波長選択工程にてまずは選択する。そして、仲間αにおける分析値に対応するピーク波長のうち最も優先順位が高いピーク波長即ちλ2を、ピーク波長選択工程にて選択する。つまり、一つのピーク波長のみをピーク波長選択工程にて選択する。
【0034】
そして、このピーク波長選択工程により選択されたピーク波長に対応する分析値を採用する分析値決定工程を行う。これにより、ICP発光分光分析測定の結果の解析の精度は維持しつつも該解析を可能な限り自動化できる。
【0035】
以下、好適例を挙げる。
図2は、好適例に係る解析方法のフローチャートである。
【0036】
ピーク波長選択工程において優先順位が2位以下のピーク波長が選択された場合、且つ、該優先順位が1位のピーク波長での分析値と該2位以下のピーク波長での分析値との間の差分値が所定値以下の場合、該2位以下のピーク波長を該1位のピーク波長と置き換えるサルベージ工程を行うのが好ましい。
【0037】
サルベージ工程の一環としてのサルベージ可否判定工程を行うのが好ましい。サルベージ可否判定工程では、ピーク波長選択工程で選択されたピーク波長の優先順位が2位以下か否かを調べる(サルベージ可否判定工程(1))。上記の例だと、ピーク波長選択工程において優先順位が2位のピーク波長が選択されており、サルベージ可否判定工程(1)ではYESと判定される。
【0038】
そして、ピーク波長の選択優先順位が1位のピーク波長での分析値と該2位のピーク波長での分析値との間の差分値が所定値以下であるか否かを調べる(サルベージ可否判定工程(2))。所定値以下の場合(即ち該1位のピーク波長での分析値と該2位のピーク波長での分析値との間に大差が無い場合)、感度の高さを優先し、該1位のピーク波長(λ1)での分析値(C1)を救い上げて採用する(サルベージ本工程)。これが、サルベージ工程の主旨である。
【0039】
サルベージ可否判定工程(2)で採用する所定値としては、絶対値を採用してもよいし、相対値を採用してもよい。相対値を採用する場合、例えば、ピーク波長選択工程において選択された優先順位が2位以下のピーク波長に対応する分析値(Cx)と該1位のピーク波長での分析値(C1)とのうち大きな値(例えばC1)から小さな値(Cx)を引いたときの差分値(C1-Cx)が、大きな値(C1)に対して10%以下(100×(C1-Cx)/C1≦10、好ましくは5%以下)と、所定値を設定してもよい。
【0040】
ピーク波長選択工程において優先順位が1位のピーク波長が選択された場合は、サルベージ可否判定工程において「NO」と判定される。その場合、サルベージ本工程は行われず、分析値決定工程にて該1位のピーク波長に対応する分析値がそのまま採用される。本実施形態のサルベージ工程は、サルベージ本工程を実際に行うか否かはともかく、少なくともサルベージ可否判定工程を有するのが好ましい。
【0041】
図3は、好適例及び変形例に係る解析方法のフローチャートである。
【0042】
仲間分け工程前の複数のピーク波長をイオン線と中性原子線とでグループ分けするグループ分け工程を行ってもよい。
【0043】
ICP発光分光分析測定ではイオンの励起と単原子の励起とに分けることが可能である。そのため、ピーク波長はイオン線と中性原子線とでグループ分け可能である。
【0044】
そのうえで、各グループ内での分析値の平均値におけるグループ間での差分値が、各元素に対して設定した所定値以下であればICP発光分光分析測定の結果を有効とするグループ有効性評価工程を行ってもよい。
【0045】
グループ有効性評価工程で採用する所定値としては、絶対値を採用してもよいし、相対値を採用してもよい。相対値を採用する場合、例えば、銅のピーク波長にはイオン線と中性原子線がありそれぞれ224.7nmと324.8nmに代表される。プラズマ内でのイオン化率を考慮すると、共存元素が多い場合にはイオン線の方が影響が少ないので中性原子線よりイオン線を優先する。この共存元素の影響を考慮すると、所定値として10%以下好ましくは5%以下となる。
【0046】
ICP発光分光分析測定ではイオンの励起と単原子の励起とに分けることが可能であるが、両グループの差が大きいということは、どちらのグループに属するかによって分析値が大きく異なることを意味する。これは、上記銅の例で示すように分析値に不確実性を生む要因となる。グループ有効性評価工程では、そのような要因を事前に排除できる。
【0047】
グループ有効性評価工程は、仲間分け工程前に行ってもよいし、ピーク波長選択工程前又は後に行ってもよいし、最後(即ちサルベージ工程後、図3が該当)に行ってもよい。仲間分け工程前に行えば、仲間分け工程以降に取り扱う分析値の候補を減らせる可能性があり、演算負荷が減らせる。
【0048】
一つの仲間に属するピーク波長の数が最も多い仲間からピーク波長が任意に一つ除外されたと仮定したとき、該仲間内で残った他のピーク波長の分析値が仲間であり続けるか否かを評価する異常値発見工程を行うのが好ましい。
【0049】
例えば3つの分析値が一つの仲間に属したとしても、3つの分析値のうち1つの分析値が残り2つの分析値に比べて小さい又は大きい値である場合もある。その場合であって、該小さい又は大きい値の分析値及びその分析値に対応するピーク波長が選択された場合は、分析値に不確実性を生む要因となる。異常値発見工程では、そのような要因を事前に排除できる。
【0050】
異常値発見工程の具体的な内容としては、例えば、上記例でいうと一つの仲間αに属するC2~C4において、仮にC3が大きな値だった場合、C2を除外した場合、仲間αにおける分析値の平均値は増加する。そうなると、残るC3とC4が、仲間分け工程で使用された規定を適用すると一つの仲間に属さない可能性がある。その一方、C3を除外した場合、残るC2、C4は似た値なので、平均値はC2、C4とほぼ同値となる。そのため、仲間分け工程で使用された規定を適用しても一つの仲間に属する。この場合、C3が異常値と判定される。なお、仲間分け工程で使用された規定の代わりに、分析値の除外の想定前の平均値からの変動%が所定値以下(10%、好ましくは5%)であるか否かの規定を採用してもよい。
【0051】
上記内容に従い異常値発見工程を行い、異常値と判定された分析値及びその分析値に対応するピーク波長は、ピーク波長選択工程前に除外するのが好ましい。異常値発見工程は、仲間分け工程前に行ってもよいし(図3が該当)、ピーク波長選択工程前に行ってもよい。仲間分け工程前に行えば、仲間分け工程以降に取り扱う分析値の候補を減らせる可能性があり、演算負荷が減らせる。なお、異常値発見工程は、ピーク波長の優先順位順に該ピーク波長に対応する分析値に対して行ってもよい。
【0052】
仲間分け工程前の複数のピーク波長のうち対応する分析値が検量線範囲外の異常な分析値である場合、該異常な分析値以外の正常な分析値のみを有効とする不適切値省略工程を行ってもよい。
【0053】
この不適切値省略工程は、仲間分け工程前に行ってもよい(図3が該当)。仲間分け工程前に行えば、仲間分け工程以降に取り扱う分析値の候補を減らせる可能性があり、演算負荷が減らせる。なお、不適切値省略工程は、ピーク波長の優先順位順に該ピーク波長に対応する分析値に対して行ってもよい。
【0054】
上記の各工程のうち分析値取得工程では、公知の手法でICP発光分光分析測定の結果としての分析値を得るために要する最低限の人力作業が必要になるものの、それ以外の工程は自動化可能である。自動化には公知のコンピュータ端末に対して公知のソフトウェアを利用して構わないが、EXPERT system(Symbolic AI)を採用するのが好ましい。該AIは、ディープラーニング等に代表される学習AIではなく、ルールによるAIである。
【0055】
なお、本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0056】
各元素のうちある元素にとってピーク波長が一つしか存在しない場合であっても、他の元素だと本実施形態を適用することになる。そのため、そのような場合も本発明の範囲に含まれる。
【0057】
例えば、本実施形態の大きな特徴の一つは最適なピーク波長選択を自動で行うことにある。そのため、本実施形態は、ICP発光分光分析測定におけるピーク波長選択方法としても技術的意義がある。
【0058】
また、本実施形態はICP発光分光分析測定の結果の解析方法に係るが、この解析方法をシステム又は該システムの内容をコンピュータにより実行させるプログラムにより実現可能である。
【0059】
ICP発光分光分析測定の結果の解析システム(或いはピーク波長選択システム)の構成の一例は以下の通りである。ICP発光分光分析測定の結果の解析方法の内容と重複する内容は記載を省略する。
・各元素に対し、ICP発光分光分析測定にかけたときの共存元素による影響が少なく感度が高い波長を複数得るピーク波長取得部
・複数のピーク波長に対し、ICP発光分光分析測定にかけたときの共存元素による影響が少なく感度の高い順に優先順位を設定する優先順位設定部
・各元素に対して複数のピーク波長の各々における分析値を得る分析値取得部
・分析値が近いもの同士へと複数のピーク波長を仲間分けする仲間分け部
・一つの仲間に属するピーク波長の数が最も多い仲間を選択し、該仲間中のピーク波長のうち最も優先順位が高いピーク波長を選択するピーク波長選択部
・選択されたピーク波長に対応する分析値を採用する分析値決定部
【0060】
好適な構成は以下の通りである。
・ピーク波長選択部において優先順位が2位以下のピーク波長が選択された場合、且つ、該優先順位が1位のピーク波長での分析値と該2位以下のピーク波長での分析値との間の差分値が所定値以下の場合、該2位以下のピーク波長を該1位のピーク波長と置き換えるサルベージ部
・グループ分け工程を行うグループ分け部
・グループ有効性評価工程を行うグループ有効性評価部
・異常値発見工程を行う異常値発見部
・不適切値省略工程を行う不適切値省略部
【0061】
上記各構成は、ICP発光分光分析測定の結果の解析システムが有する制御部により制御される。なお、本実施形態ではコンピュータに各構成が搭載される場合を例示する。その一方、本実施形態にて述べる構成のうちの一部(例えば、既存のICP発光分光分析測定装置を採用した場合の測定部)を、コンピュータに搭載するのではなく、ネットワークに接続した別構成としても構わない。
【0062】
ピーク波長取得部は、コンピュータの記録部(HDD等)であってもよい。この場合、HDDに前記データが保存される。その一方、ピーク波長取得部はHDD以外であってもよく、例えばネットワークに接続されたクラウド内に保存された前記データを読み込む機能を有する構成をピーク波長取得部としてもよい。
【0063】
分析値取得部は、試料に対するICP発光分光分析測定を行えれば限定は無い。既存のICP発光分光分析測定装置を使用しても構わない。
【0064】
ピーク波長取得部及び分析値取得部以外の上記各構成が発揮する機能は、公知のコンピュータに搭載された演算機構及び上記EXPERT system(Symbolic AI)により奏させても構わない。
図1
図2
図3