(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】コーティング材組成物、シリコーンゴム成形品、及び燃料電池用セパレータ
(51)【国際特許分類】
C09D 183/05 20060101AFI20240924BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20240924BHJP
C08L 83/07 20060101ALI20240924BHJP
H01M 8/0221 20160101ALI20240924BHJP
H01M 8/0228 20160101ALI20240924BHJP
H01M 8/0284 20160101ALI20240924BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20240924BHJP
C08L 23/16 20060101ALI20240924BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20240924BHJP
【FI】
C09D183/05
C08L83/05
C08L83/07
H01M8/0221
H01M8/0228
H01M8/0284
C09K3/10 G
C08L23/16
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2021135639
(22)【出願日】2021-08-23
【審査請求日】2023-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】堀田 昌克
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/122487(WO,A1)
【文献】特表2009-509305(JP,A)
【文献】特開平6-093249(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0139687(US,A1)
【文献】特開2008-204819(JP,A)
【文献】特開2004-055428(JP,A)
【文献】特開2001-354764(JP,A)
【文献】特開2002-309092(JP,A)
【文献】特開2019-175842(JP,A)
【文献】特開2009-026654(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
C08L 23/16
C08L 83/05
C08L 83/07
H01M 8/0221
H01M 8/0228
H01M 8/0284
C09K 3/10
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)非共役ポリエンと、エチレンと、α-オレフィンとのランダム共重合体からなるエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体:100質量部、
(B)1分子中にヒドロシリル基を2個以上有し、かつ、前記ヒドロシリル基が、炭素数1~30のシルアルキレン結合または炭素数6~30のシルアリーレン結合を介して他のケイ素原子と結合しているものであり、かつ、シロキサン結合を有さないものである有機ケイ素化合物:前記(A)成分中の付加反応性不飽和基と前記(B)成分中のヒドロシリル基とのモル比が、ヒドロシリル基/不飽和基=0.5~5.0となる量、及び
(C)付加反応触媒:前記(A)成分に対して金属原子換算で0.5~1,000ppmとなる量
を含むものであることを特徴とするコーティング材組成物。
【請求項2】
前記(A)成分中の付加反応性不飽和基の含有量が、0.001~0.2mol/100gであることを特徴とする請求項1に記載のコーティング材組成物。
【請求項3】
前記(A)成分がエチレン・プロピレン・5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコーティング材組成物。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のコーティング材組成物の硬化皮膜を有するものであることを特徴とするシリコーンゴム成形品。
【請求項5】
燃料電池用セパレータであって、
セパレータ用基材、該セパレータ用基材の片面又は両面に形成されたシリコーンゴム層、及び該シリコーンゴム層の前記セパレータ用基材に接する面と反対側の表面に形成された請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のコーティング材組成物の硬化皮膜を含むものであることを特徴とする燃料電池用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング材組成物、シリコーンゴム成形品、及び燃料電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、車載用内燃機関の代替技術として該燃料電池でモーターを駆動する市販車が登場するに至っている。この固体高分子型燃料電池を構成する部品の中にセパレータがある。セパレータは、一般的に平板の両面又は片面に複数の並行する溝を形成してなるものであり、燃料電池セル内のガス拡散電極で発電した電気を外部へ伝達する役割を担う。それと共に、発電の過程で上記溝中に生成した水を排水し、燃料電池セルへ流入する反応ガスの流通路として確保するという役割も担っている。燃料電池用のセパレータは、より小型化が要求されている。また、多数のセパレータを重ね合わせて使用するため、耐久性に優れ、長期間使用できるセパレータ用シール材料が要求されている。
【0003】
また、固体高分子型燃料電池の発電部である膜/電極接合体(MEA)は、燃料極(アノード極)/電解質膜/空気極(カソード極)から構成されているが、電解質膜としては、主にスルホン酸基を有するフッ素系ポリマーが使用される。固体高分子型燃料電池セパレータに使用されるシール材料には、この電解質膜に由来する硫酸及びフッ化水素酸に対する耐性が求められる。
【0004】
固体高分子型燃料電池セパレータ用シール材料としては、シリコーンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、フッ素ゴム等が提案されている。中でもシリコーンゴムは、成形性、耐熱性・耐寒性、弾性、圧縮永久歪性、耐水蒸気性等種々の特性に優れ、付加型液状シリコーンゴム組成物を硬化して得られるシリコーンゴムが広く検討されている。耐酸性の向上に関してもシリコーンレジンやハイドロタルサイトの添加が検討されている(特許文献1、特許文献2)が、ポリジメチルシロキサンの主骨格であるシロキサン結合が高濃度のフッ化水素酸に対して極めて切断されやすいという欠点を克服できていない。また、エチレン・プロピレン・ジエンゴムとヒドロシリコーン化合物で架橋させる例もある(特許文献3)が、フッ化水素酸によりヒドロシリコーン内のシロキサン結合が破断されるため、十分な耐酸性を得ることは難しい。
【0005】
さらに、シリコーンゴムの外周を耐フッ化水素酸性に優れるエチレンプロピレンゴムやフッ素ゴムでシールすることが提案されている(特許文献4、特許文献5)が、この手法では、形状が複雑である、両材料の硬さや圧縮挙動を揃えることが難しい、温度領域によっては挙動が異なるといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-309092号公報
【文献】特開2017-016813号公報
【文献】特開2019-175842号公報
【文献】特開2008-204819号公報
【文献】特開2009-026654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまで、シリコーンゴム単体では十分な耐フッ化水素酸性が得られていない。また、シリコーンゴムと他樹脂を併用する構造は複雑で、実用的にはかなり厳しい面がある。
【0008】
以上のことから、特に耐フッ化水素酸性に優れる耐酸性材料およびそれをコートしたシリコーンゴム部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、
(A)非共役ポリエンと、エチレンと、α-オレフィンとのランダム共重合体からなるエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体:100質量部、
(B)1分子中にヒドロシリル基を2個以上有し、かつ、前記ヒドロシリル基が、炭素数1~30のシルアルキレン結合または炭素数6~30のシルアリーレン結合を介して他のケイ素原子と結合しているものであり、かつ、シロキサン結合を有さないものである有機ケイ素化合物:前記(A)成分中の付加反応性不飽和基と前記(B)成分中のヒドロシリル基とのモル比が、ヒドロシリル基/不飽和基=0.5~5.0となる量、及び
(C)付加反応触媒:前記(A)成分に対して金属原子換算で0.5~1,000ppmとなる量
を含むものであるコーティング材組成物を提供する。
【0010】
このようなコーティング材組成物であれば、特に耐フッ化水素酸性に優れる耐酸性材料およびそれをコートしたシリコーンゴム部材を提供することができる。
【0011】
また、前記(A)成分中の付加反応性不飽和基の含有量が、0.001~0.2mol/100gであることが好ましい。
【0012】
このような不飽和基の含有量であれば、十分な強度が得られ、かつ、必要な柔軟性が得られやすい。
【0013】
また、前記(A)成分がエチレン・プロピレン・5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体であることが好ましい。
【0014】
本発明では、このような(A)成分を用いることが好ましい。
【0015】
また本発明では、上記のコーティング材組成物の硬化皮膜を有するものであるシリコーンゴム成形品を提供する。
【0016】
本発明のコーティング材組成物は、シリコーンゴム成形品の被覆に好適に用いることができる。
【0017】
また本発明では、燃料電池用セパレータであって、
セパレータ用基材、該セパレータ用基材の片面又は両面に形成されたシリコーンゴム層、及び該シリコーンゴム層の前記セパレータ用基材に接する面と反対側の表面に形成された上記のコーティング材組成物の硬化皮膜を含むものである燃料電池用セパレータを提供する。
【0018】
本発明のコーティング材組成物は、燃料電池用セパレータ用のシール材料として特に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、耐フッ化水素酸性に優れるコーティング材組成物、特にはEPDMゴムコーティング材組成物およびそれをコートしたシリコーンゴム成形品を提供することができる。特には、燃料電池用セパレータのシール材として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
上述のように、特に耐フッ化水素酸性に優れる耐酸性材料およびそれをコートしたシリコーンゴム部材の開発が求められていた。
【0021】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体と、シルアルキレン結合またはシルアリーレン結合を有するヒドロシリル基を持った有機ケイ素化合物と、付加反応触媒とを含むEPDM(エチレンプロピレンジエンモノマー)ゴムコーティング材組成物が、フッ化水素酸に対する耐久性に特に優れることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0022】
即ち、本発明は、(A)非共役ポリエンと、エチレンと、α-オレフィンとのランダム共重合体からなるエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体:100質量部、(B)1分子中にヒドロシリル基を2個以上有し、かつ、前記ヒドロシリル基が、炭素数1~30のシルアルキレン結合または炭素数6~30のシルアリーレン結合を介して他のケイ素原子と結合しているものであり、かつ、シロキサン結合を有さないものである有機ケイ素化合物:前記(A)成分中の付加反応性不飽和基と前記(B)成分中のヒドロシリル基とのモル比が、ヒドロシリル基/不飽和基=0.5~5.0となる量、及び(C)付加反応触媒:前記(A)成分に対して金属原子換算で0.5~1,000ppmとなる量を含むものであるコーティング材組成物である。
【0023】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
[(A)エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体]
本発明における(A)成分はエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体であり、主剤となるポリマーである。
【0025】
α-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ブテン、1-ヘキセン等が例示できるが、炭素原子数3~10が好ましく、特にプロピレン、1-ブテンが好ましく、さらにプロピレンが好ましい。これらα-オレフィンは1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0026】
非共役ポリエンとしては、5-ビニル-2-ビニルノルボルネン、1,4-ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン等が例示できるが、ヒドロシリル基への反応性が良好で、共重合体自体の耐熱性も向上することから5-ビニル-2-ビニルノルボルネンが好ましい。これら非共役ポリエンは1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0027】
(A)成分としては、エチレン・プロピレン・5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体が好ましい。
【0028】
エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体におけるエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエンの構成比は以下の条件を満たすことが好ましい。
(I)エチレンとα-オレフィンの総モル数に対するエチレンの比率が、30~90mol%が好ましく、特に40~80mol%が好ましい。
(II)エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体に占める非共役ポリエン量に関しては、ヒドロシリル基への付加反応性不飽和基の含有量が0.001~0.2mol/100gとなる量が好ましく、特に0.002~0.1mol/100gが特に好ましい。
【0029】
(I)がこの範囲内であればガラス転移温度が低く抑えられ、車載用途として適している。また、(II)において、不飽和基の含有量が0.001mol/100g以上であれば十分な強度が得られ、また0.2mol/100g以下であれば必要な柔軟性が得られやすい。
【0030】
エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体の分子量に関しては、数平均分子量Mn(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算)が、300~8,000、特に500~6,000であることが好ましい。数平均分子量を300以上とすることで必要なゴム強度が得られる。一方、製造性の観点から8,000以下が好ましい。
【0031】
[(B)ヒドロシリル基を有する有機ケイ素化合物]
本発明における(B)成分は、ヒドロシリル基を有する有機ケイ素化合物であり、前記(A)成分と付加反応して硬化皮膜を形成する架橋剤として配合されるものである。
【0032】
前記(B)成分は、1分子中に2個以上のヒドロシリル基を有することが特徴であり、好ましくは2~30個、より好ましくは2~20個、さらに好ましくは2~10個、きわめて好ましくは2~5個有する。加えて、前記ヒドロシリル基は、炭素数1~30、好ましくは2~20、より好ましくは2~10のシルアルキレン結合、または炭素数6~30、好ましくは6~20、より好ましくは6~10のシルアリーレン結合を介して他のケイ素原子と結合していることを特徴とする。
【0033】
ここで、ヒドロシリル基がシルアルキレン結合またはシルアリーレン結合を介して結合する「他のケイ素原子」とは、有機ケイ素化合物中に含まれる他のケイ素原子であればいずれでもよく、別のヒドロシリル基を構成するケイ素原子であってもよいし、それ以外のケイ素原子であってもよい。
【0034】
またシルアルキレン結合とは、あるケイ素原子と他のケイ素原子とがアルキレン基によって連結されて結合した構造をいい、シルアリーレン結合とは、あるケイ素原子と他のケイ素原子とがアリーレン基によって連結されて結合した構造をいう。
【0035】
なお(B)成分は、一般的なシリコーンにあるシロキサン結合を有さない。これにより、本発明のコーティング材組成物の耐酸性、特には耐フッ化水素酸性が飛躍的に向上する。
【0036】
(B)成分の具体的な構造として、下記式(1-1)に示される2個のヒドロシリル基が、アルキレン基またはアリーレン基で連結した有機ケイ素化合物を例示することができる。
【0037】
【化1】
(式中、Rは炭素数1~30のアルキレン基、または炭素数6~30のアリーレン基から選ばれる基である。)
【0038】
式(1-1)中、Rとしては炭素数2~6のアルキレン基、またはフェニレン基が特に好ましい。式(1-1)で示される有機ケイ素化合物の具体例としては以下のような化合物が挙げられる。
【0039】
【0040】
その他、(B)成分の具体的な構造として、下記式(1-2)に示される有機ケイ素化合物を例示することができる。
【0041】
【化3】
(式中、Rは炭素数1~30のアルキレン基、または炭素数6~30のアリーレン基から選ばれる基である。R
1はメチル基またはフェニル基である。R
2は炭素数1~30のアルキレン基である。xは2~4の整数である。)
【0042】
式(1-2)中、Rとしては炭素数2~6のアルキレン基、またはフェニレン基が特に好ましく、R2としてはエチレン基、プロピレン基が特に好ましい。式(1-2)で示される有機ケイ素化合物の具体例としては以下のような化合物が挙げられる。
【0043】
【0044】
その他、(B)成分の具体的な構造として、下記式(1-3)に示される有機ケイ素化合物を例示することができる。
【0045】
【化5】
(式中、Rは炭素数1~30のアルキレン基、または炭素数6~30のアリーレン基から選ばれる基である。Zは炭素原子数10~30の2価の炭化水素基であり、芳香族環、酸素原子を含んでいてもよい。)
【0046】
式(1-3)中、Rとしては炭素数2~6のアルキレン基、またはフェニレン基が特に好ましい。式(1-3)で示される有機ケイ素化合物の具体例としては以下のような化合物が挙げられる。
【0047】
【0048】
この(B)成分の配合量は、(A)成分中の付加反応性不飽和基と(B)成分中のヒドロシリル基とのモル比が、ヒドロシリル基/不飽和基=0.5~5.0、特に0.8~3.0になるように配合することが好ましい。この比が0.5より小さい場合には、得られる硬化物の強度が著しく低下する恐れがあり、5.0より大きい場合には、得られるゴム硬化物の柔軟性が失われて、シール性が不十分となる恐れがある。また、(B)成分は1種だけを用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0049】
また(B)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.5~50質量部であることが好ましい。(B)成分の配合量がこの範囲内であれば、より十分な耐フッ化水素酸性を得ることができる。
【0050】
[(C)付加反応触媒]
付加反応触媒は、(A)成分のエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体に含まれる不飽和基と(B)成分の有機ケイ素化合物に含まれるヒドロシリル基とを付加反応させるためのヒドロシリル化触媒である。上記付加反応触媒としては、白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と1価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒等の白金族金属系触媒が挙げられるが、特に白金系触媒が好ましい。
【0051】
(C)成分の配合量は、(A)成分に対して金属原子換算で0.5~1,000ppmとなる量である。触媒の添加量は付加反応を促進できればよく、通常、(A)成分に対して白金族金属量(質量換算)として、0.5~1,000ppmが好ましく、1~500ppm程度がより好ましい。0.5ppm未満では付加反応が十分促進されず、硬化が不十分となる場合があり、1,000ppmを超えて配合しても、反応性に対する効果が変わらない場合があり、不経済となるおそれがある。
【0052】
[その他の成分]
また、本発明のコーティング材組成物には、その他の成分として、必要に応じてシリカ、石英粉、珪藻土、カーボン、炭酸カルシウム、酸化カルシウム等の充填剤や、パラフィン系プロセスオイル等の可塑剤、窒素含有化合物やアセチレン化合物、リン化合物、ニトリル化合物、カルボキシレート、錫化合物、水銀化合物、硫黄化合物、エチニルシクロヘキサノール等のヒドロシリル化反応制御剤等を配合することも可能である。
【0053】
[コーティング材組成物]
本発明のコーティング材組成物を製造する方法としては特に限定はされないが、上述の(A)~(C)成分、及びその他の成分を、常法に従って混合することによって製造することができる。
【0054】
本発明のコーティング材組成物は、そのままコーティングしても良いし、溶剤で希釈してからコーティングしても良い。希釈する場合の溶剤としては、各成分が溶解するものを任意に選ぶことができるが、溶解性に優れる炭化水素系溶剤が好ましい。その中でもシリコーンゴム層にコートした際にシリコーンゴムの膨潤を抑制できる脂肪族炭化水素系溶剤が特に好ましく、n-ヘキサンやn-ヘプタンがさらに好ましい。溶液とした際の塗布方法としては、刷毛塗り又はスプレー塗工等が挙げられる。
【0055】
また、その塗布量は塗布方法、塗工回数、コーティング材組成物の濃度等により調整することができ、乾燥、硬化後の硬化物の塗工量が、0.05~5g/m2が好ましく、0.1~2g/m2が特に好ましい。0.05g/m2以上とすればシリコーンゴム層の劣化を十分に抑制でき、5g/m2以下とすればシリコーンゴム層に優れた弾性や圧縮永久歪性を与えることができる。
【0056】
本発明のコーティング材組成物の硬化条件は、通常、100~200℃で10秒~2時間であり、120~180℃で20秒~30分間程度で硬化成形することが好ましい。また、硬化成形後(即ち、1次硬化後)に、接着性や硬化物の硬化性向上を目的にポストキュア(2次硬化)を実施してもよい。ポストキュアの条件は、前記(A)成分の耐熱温度を考慮すると、80~180℃で30分~10時間であり、100~150℃で1~8時間程度が好ましい。
【0057】
また、(A)、(B)、(C)成分を含む組成物は、コーティング材としてではなく、単独のEPDM成型物として用いても良い。
【0058】
[シリコーンゴム成形品]
また本発明では、本発明のコーティング材組成物の硬化皮膜を有するものであるシリコーンゴム成形品を提供する。
【0059】
シリコーンゴム成形品の表面に、本発明のコーティング材組成物の硬化皮膜を形成することにより、前記シリコーンゴムに耐酸性、特には耐フッ化水素酸性を付与することができるため、好ましく用いられる。
【0060】
前記シリコーンゴムとしては、特に限定されないが、通常市販されている付加硬化型シリコーンゴム、パーオキサイド硬化型シリコーンゴム、縮合硬化型シリコーンゴム、紫外線硬化型シリコーンゴムなどが挙げられる。中でも成型性が良好で、圧縮永久歪に優れる付加硬化型シリコーンゴムが好ましい。付加硬化型シリコーンゴムとしては、下記(a)~(d)成分を含むシリコーンゴム組成物が挙げられる。
【0061】
[(a)アルケニル基含有オルガノポリシロキサン]
(a)成分はケイ素原子と結合するアルケニル基を1分子中に2個以上含有するオルガノポリシロキサンであり、弾性シール層(シリコーンゴム硬化物)を形成する主剤(ベースポリマー)である。このオルガノポリシロキサンとしては、下記平均組成式(I)で示されるものを用いることができる。
R1
aSiO(4-a)/2 …(I)
(式中、R1は互いに同一又は異種の炭素数1~10、好ましくは1~8の1価炭化水素基であり、aは1.5~2.8、好ましくは1.8~2.5、より好ましくは1.95~2.05の範囲の正数である。)
【0062】
ここで、上記R1で示される1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基が挙げられる。なお、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子で置換してもよい。中でも、全R1の90%以上、特にはアルケニル基を除く全R1基が、メチル基であることが好ましい。
【0063】
また、R1のうち2個以上がアルケニル基(炭素数2~8のものが好ましく、さらに好ましくは2~6であり、特に好ましくはビニル基である。)であることが必要である。また、オルガノポリシロキサン中のアルケニル基の含有量は、5.0×10-6mol/g~5.0×10-3mol/g、特に1.0×10-5mol/g~1.0×10-3mol/gであることが好ましい。アルケニル基の量が5.0×10-6mol/g以上であればゴム硬度が高く、十分なシール性が得られ、5.0×10-3mol/g以下であれば架橋密度が高くなりすぎて脆いゴムとなってしまうことがない。
【0064】
なお、前記アルケニル基は、分子鎖末端のケイ素原子に結合していても、分子鎖途中のケイ素原子に結合していても、両者に結合していてもよいが、少なくとも分子鎖両末端のケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するものであることが好ましい。
【0065】
また、このオルガノポリシロキサンの構造は、基本的には直鎖状構造を有することが好ましいが、分岐状の構造、環状構造又は三次元網状構造等であってもよい。分子量については特に限定はなく、室温(25℃)において粘度の低い液状のものから、粘度の高い生ゴム状のものまで使用できるが、好ましくはオルガノポリシロキサンの重量平均重合度が100~2,000、特に150~1,500であるものが好ましい。重量平均重合度が100以上であれば、シリコーンゴム硬化物が適度な弾性を有し十分なシール性が得られ、2,000以下であれば、シリコーンゴム組成物が高粘度となり成形が困難となることがない。このオルガノポリシロキサンが三次元網状構造のものである場合には、該オルガノポリシロキサンは、同様の理由により、重量平均分子量が10万以下(通常、3,000~100,000)、5,000~50,000程度であることがより好ましい。なお、上記の重量平均重合度又は重量平均分子量は、通常、トルエンを展開溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析による分子量分布(重合度分布)測定におけるポリスチレン換算値として求めることができる。
【0066】
[(b)オルガノハイドロジェンポリシロキサン]
(b)成分は、1分子中に3個以上のケイ素原子と結合する水素原子(ヒドロシリル基)を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。分子中のヒドロシリル基が、上記(a)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基とヒドロシリル付加反応により架橋し、組成物を硬化させるための架橋剤として作用するものである。
【0067】
この(b)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、下記平均組成式(II)
R2
bHcSiO(4-b-c)/2 …(II)
(式中、R2は互いに同一又は異種の炭素数1~10、好ましくは1~8の1価炭化水素基である。また、bは0.7~2.1、cは0.001~1.0、かつb+c=0.8~3.0を満足する正数である。)
で示され、1分子中に3個以上(通常、3~300個)、好ましくは3~100個、より好ましくは3~50個のヒドロシリル基を有するものが好適に用いられる。
【0068】
ここで、R2の1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基などが挙げられる。なお、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子で置換してもよい。中でも、全R2の90%以上、特には全R2基が、メチル基であることが好ましい。また、bは好ましくは0.8~2.0、cは好ましくは0.01~1.0、b+cは好ましくは1.0~2.5である。
【0069】
なお、この(b)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、分子中にヒドロシリル基以外の官能性基(例えば、アルケニル基、エポキシ基、フェニレン骨格等の多価芳香族環等)を通常含有しない。
【0070】
また、オルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、又は三次元網目状のいずれの構造であってもよく、1分子中のケイ素原子の数又は重合度が2~300(個)、特に4~150個程度の室温(25℃)で液状(通常、25℃で1,000mPa・s以下、好ましくは0.1~500mPa・s程度)のものが好適に用いられる。ここで言う粘度は、JIS K 7117-1:1999記載の回転粘度計(例えば、BL型、BH型、BS型、コーンプレート型等)による値である。なお、ケイ素原子に結合する水素原子は分子鎖末端、分子鎖の途中のいずれに位置していてもよく、両方に位置するものであってもよい。
【0071】
上記(b)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)メチルシラン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)フェニルシラン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、(CH3)2HSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH3)2HSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C6H5)SiO3/2単位とからなる共重合体、上記の例示化合物において、メチル基の一部又は全部が他のアルキル基やフェニル基等で置換されたもの等が挙げられる。
【0072】
この(b)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量は、(a)成分100質量部に対して0.5~20質量部、好ましくは0.6~15質量部であるが、特に、(a)成分中のアルケニル基と、(b)成分中のヒドロシリル基とのモル比が、ヒドロシリル基/アルケニル基=0.8~3.0、特に1.0~1.5になるように配合することが好ましい。この比が0.8以上3.0以下であれば、得られるゴム硬化物の圧縮永久歪を抑制できるので、十分なシール性が得られる。
【0073】
[(c)付加反応触媒]
付加反応触媒は、(a)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンに含まれるアルケニル基と(b)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンに含まれるヒドロシリル基とを付加反応させるためのヒドロシリル化触媒である。上記付加反応触媒としては、上記(C)成分と同様のものが例示される。具体的には、白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と1価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒等の白金族金属系触媒が挙げられるが、特に白金系触媒が好ましい。
【0074】
触媒の添加量は付加反応を促進できればよく、通常、(a)成分に対して白金族金属量(質量換算)として、0.5~1,000ppmが好ましく、1~500ppm程度がより好ましい。0.5ppm以上とすれば付加反応が十分促進されて硬化が十分となり、1,000ppm以下とすれば、添加した分だけ反応性に対する効果が得られるので、経済的である。
【0075】
[(d)ヒュームドシリカ]
(d)成分のヒュームドシリカは、シリコーンゴムに十分な強度を与えるために必須なものである。ヒュームドシリカのBET法による比表面積は、50~400m2/gであり、好ましくは100~350m2/gである。50m2/g以上であれば耐酸性が良好になり、また400m2/g以下であれば圧縮永久歪が小さくなる。
【0076】
これらヒュームドシリカはそのまま用いても構わないが、表面疎水化処理剤で予め処理したものを使用したり、あるいは(a)成分との混練時に表面処理剤を添加して処理することにより使用することが好ましい。これら表面処理剤は、アルキルアルコキシシラン、アルキルクロロシラン、アルキルシラザン、シランカップリング剤、チタネート系処理剤、脂肪酸エステル等公知のいかなるものを1種で用いてもよく、また2種以上を同時又は異なるタイミングで用いても構わない。
【0077】
また、これらヒュームドシリカの配合量は、(a)成分100質量部に対し、5~30質量部であり、10~30質量部が好ましく、12~28質量部がより好ましい。配合量を5質量部以上とすることで、より十分なゴム強度が得られ、30質量部以下とすれば、圧縮永久歪が小さくなり、良好なシール性が得られる。
【0078】
シリコーンゴム組成物には、その他の成分として、必要に応じて沈降シリカ、シリコーンレジン等の補強剤、石英粉、珪藻土、炭酸カルシウム等の充填剤や、窒素含有化合物やアセチレン化合物、リン化合物、ニトリル化合物、カルボキシレート、錫化合物、水銀化合物、硫黄化合物、エチニルシクロヘキサノール等のヒドロシリル化反応制御剤、酸化鉄、酸化セリウム等の耐熱剤、ジメチルシリコーンオイル等の内部離型剤、接着性付与剤、チクソ性付与剤等を配合することも可能である。
【0079】
付加硬化型シリコーンゴム組成物としては、(a)~(d)成分、さらに必要に応じて任意成分を均一に混合することによって調製することができる。得られたシリコーンゴム組成物は、室温(25℃)において、通常20~5,000Pa・s、好ましくは30~1,000Pa・s程度の粘度を有するものであればよい。なお、粘度は回転粘度計により測定し得る。また、その成型方法としては、圧縮成型や注入成型、射出成型等が挙げられる。
【0080】
上記材料の硬化温度は、通常、100~220℃で10秒~2時間であり、120~200℃で20秒~30分間程度で硬化成形することが好ましい。また、シリコーンゴム組成物を硬化成形後(即ち、1次硬化後)に、接着性や硬化物の圧縮永久歪向上を目的にポストキュア(2次硬化)を実施してもよい。ポストキュアの条件は、通常、100~220℃で30分~100時間であり、120~200℃で1~8時間程度が好ましい。
【0081】
[燃料電池用セパレータ]
また本発明では、燃料電池用セパレータであって、セパレータ用基材、該セパレータ用基材の片面又は両面に形成されたシリコーンゴム層、及び該シリコーンゴム層の前記セパレータ用基材に接する面と反対側の表面に形成された本発明のコーティング材組成物の硬化皮膜を含むものである燃料電池用セパレータを提供する。
【0082】
以下、本発明の燃料電池セパレータの製造方法について説明する。本発明の燃料電池セパレータは、セパレータ基材の片面もしくは両面にシリコーンゴム層を有し、該シリコーンゴム層に本発明のコーティング材組成物、特にはEPDMゴムコーティング材組成物の硬化皮膜を形成したものである。
【0083】
セパレータ基材として使用される金属としては、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、ニッケル、ステンレススチール、真鍮、チタン等種々挙げることができるが、耐酸性が必要であるため、ステンレススチールのように耐腐食性のあるもの、又は表面を改質したもの等が好適に使用される。
【0084】
上記シリコーンゴム層の厚さは、通常50~5,000μm、特に100~3,000μm程度とすることが好ましい。
【0085】
上記セパレータ基材へのシリコーンゴム層の形成方法としては、上記シリコーンゴム組成物を圧縮成型や注入成型、射出成型等により、シール形状に成型し、セパレータと組み合わせる方法や、スクリーン印刷、インサート成型などによりセパレータとシール材が一体化したものを得る方法等が挙げられる。
【0086】
このようにして得られたシリコーンゴム層に、本発明のコーティング材組成物の硬化皮膜を形成する方法としては、ディッピング、コーティング(刷毛塗りやスプレー塗布)、スクリーン印刷などが挙げられる。
【0087】
以上のような方法で製造された燃料電池用セパレータは、特に固体高分子型燃料電池用のセパレータとして好適である。固体高分子型燃料電池は、その電解質膜として、スルホン酸基を有するフッ素系ポリマーを用いることを想定している。スルホン酸基を有するフッ素系ポリマーとしては、例えば、テトラフルオロエチレンとパーフルオロ[2-(フルオロスルフォニルエトキシ)プロピルビニルエーテル]との共重合体等が挙げられ、この共重合体としては、テュポン株式会社製のNafion(登録商標)等が挙げられる。本発明のEPDMゴムコーティング材組成物およびそれをコートしたシリコーンゴム部材は、この電解質膜に由来する硫酸及びフッ化水素酸に対する耐性を有する。
【実施例】
【0088】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0089】
下記に示す成分を用いて、EPDMゴムコーティング材組成物を調製した。
【0090】
[(A)エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体]
構造の異なるエチレン・プロピレン・5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体を2種類準備した(EPDM-1とEPDM-2)。EPDM-1の平均構造は、エチレン:プロピレン=65:35(モル比)、ビニル基含有量=0.088mol/100g、数平均分子量=900。EPDM-2の平均構造は、エチレン:プロピレン=65:35(モル比)、ビニル基含有量=0.044mol/100g、数平均分子量=3,200。
【0091】
[(B)ヒドロシリル基を有する有機ケイ素化合物]
下記式(2)で示される有機ケイ素化合物を準備した。
【化7】
(ヒドロシリル基量:0.0035mol/g)
【0092】
比較例として、下記式(3)、(4)で示される有機ケイ素化合物を準備した。
【化8】
(ヒドロシリル基量:0.0081mol/g)
【化9】
(ヒドロシリル基量:0.0070mol/g)
【0093】
[(C)付加反応触媒]
塩化白金酸の2-エチルヘキサノール溶液(濃度5質量%)を準備した。
【0094】
[その他の成分]
・ヒドロシリル化反応制御剤…1-エチニル-1-シクロヘキサノール
・希釈用有機溶剤…n-ヘキサン
【0095】
[EPDMゴムコーティング材組成物の調製]
[調製例1]
(A)成分としてEPDM-1 100g、(B)成分として上記式(2)で示される有機ケイ素化合物27g、(C)成分として塩化白金酸の2-エチルヘキサノール溶液(濃度5質量%)を0.2g[白金金属換算(A)成分に対して40ppm]、ヒドロシリル化反応制御剤として1-エチニル-1-シクロヘキサノール0.4gをn-ヘキサン150gに溶解し、コーティング材1を調製した。
【0096】
[調製例2]
(A)成分としてEPDM-2 100g、(B)成分として上記式(2)で示される有機ケイ素化合物23g、(C)成分として塩化白金酸の2-エチルヘキサノール溶液(濃度5質量%)を0.2g[白金金属換算(A)成分に対して40ppm]、ヒドロシリル化反応制御剤として1-エチニル-1-シクロヘキサノール0.4gをn-ヘキサン300gに溶解し、コーティング材2を調製した。
【0097】
[比較調製例1]
調製例1に記載の上記式(2)で示される有機ケイ素化合物に替えて、上記式(3)で示される有機ケイ素化合物12.6gを用いた他は調製例1と同様の方法でコーティング材3を調製した。
【0098】
[比較調製例2]
調製例1に記載の上記式(2)で示される有機ケイ素化合物に替えて、上記式(4)で示される有機ケイ素化合物14.5gを用いた他は調製例1と同様の方法でコーティング材4を調製した。
【0099】
[シリコーンゴム組成物]
(a1)分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された重量平均重合度が500であるジメチルポリシロキサン70質量部、(d)BET比表面積が200m2/gであるヒュームドシリカ(日本アエロジル社製、アエロジル200)30質量部、ヘキサメチルジシラザン5質量部、ジビニルテトラメチルジシラザン0.2質量部、水2.0質量部を25℃で30分間混合後、150℃に昇温して3時間撹拌を続け、冷却した。さらに、これに上記(a1)ジメチルポリシロキサン15質量部、(a2)分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、側鎖メチル基の10mol%がビニル基に置換された重量平均重合度が200であるジメチルポリシロキサン5質量部を混合後、3本ロールで分散処理を施し、シリコーンゴムベースを得た。このシリコーンゴムベース100質量部に、(b)架橋剤として側鎖にヒドロシリル基を18個有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(重合度40、ヒドロシリル基量0.0073mol/g)を1.3質量部[ヒドロシリル基/アルケニル基=1.2]、反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノール0.05質量部を添加し、15分間撹拌を続け、さらに(c)白金触媒(白金金属換算濃度:1質量%)0.1質量部を混合し、液状のシリコーンゴム組成物を得た。
【0100】
[シリコーンゴム硬化物の作製]
シリコーンゴム組成物を120℃×10分間でプレス成形し、厚さ2.0mmのシリコーンゴムシートを成形し、さらにオーブン内で200℃×4時間のポストキュアを実施した。これを25mm×50mmの大きさにカットし、シリコーンゴム試験片とした。
【0101】
[実施例1、2、及び比較例1~3]
[コーティングサンプルの作製]
シリコーンゴム試験片を各コーティング材に室温(25℃)下で10秒間浸漬後、30分間風乾した(実施例1:コーティング材1、実施例2:コーティング材2、比較例1:コーティングなし、比較例2:コーティング材3、比較例3:コーティング材4)。さらにオーブン内で120℃×30分間加熱することでコーティングサンプルを得た。コーティング前後の重量変化を試験片の表面積で除することでコーティング量(単位:g/m2)を算出した。
【0102】
[耐酸試験]
60質量%フッ化水素酸を純水で希釈し、フッ化水素濃度2,500ppm(質量)の浸漬液を調製した。上記で作製したシリコーンゴム試験片およびコーティングサンプルを、上記浸漬液に95℃で120時間浸漬した。浸漬試験後、試験片を純水でよく水洗し、オーブン内で120℃×2時間乾燥させた。浸漬試験前後の試験片について、質量(浸漬試験前を100質量%とした質量減少%)及び表面状態を比較した。質量変化に関しては、各条件で3本ずつ試験を実施し、中間値を採用した。試験結果を表1に示す。
【0103】
【0104】
ヒドロシリル基が他のケイ素原子とシルアリーレン結合を介して結合し、かつ、シロキサン結合を有しない構造の有機ケイ素化合物(式(2))を用いた実施例1,2は、いずれも耐酸試験後も光沢を保ち、重量減少率も抑制された。それに対して、コーティング層を有しない比較例1は耐酸試験後に外観が白化、重量も著しく減少した。ヒドロシリル基が他のケイ素原子とシルアルキレン結合やシルアリーレン結合ではなくシロキサン結合を介して結合した構造の有機ケイ素化合物(式(3))を用いた比較例2は耐酸試験後もEPDMが試験片上に残留するため重量減少は抑制されるものの、表面の光沢が失われて艶消しとなった。比較例3はヒドロシリル基が他のケイ素原子とシロキサン結合を介して結合した構造の有機ケイ素化合物(式(4))のEPDMとの相溶性が悪いためにコーティング溶液が白濁し、硬化不良が発生した。
【0105】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。