(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】放射線遮蔽体、放射線遮蔽体の製造方法、及び放射線遮蔽構造体
(51)【国際特許分類】
G21F 1/02 20060101AFI20240924BHJP
G21F 3/00 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
G21F1/02
G21F3/00 N
(21)【出願番号】P 2023212965
(22)【出願日】2023-12-18
(62)【分割の表示】P 2022539477の分割
【原出願日】2021-07-27
【審査請求日】2023-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2020126588
(32)【優先日】2020-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 幸洋
(72)【発明者】
【氏名】石井 努
(72)【発明者】
【氏名】日塔 光一
(72)【発明者】
【氏名】上松 幹夫
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-175698(JP,A)
【文献】特開2001-242288(JP,A)
【文献】特開2017-138266(JP,A)
【文献】特開2016-108200(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0011288(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 1/02
G21F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性子線、X線、及びγ線を遮蔽する放射線遮蔽体であって、
10体積%以上90体積%以下のガドリニウムを具備し、
平均粒径、平均長さ、又は平均厚さが5mm未満であり、第1の賦活剤を含有する第1のガドリニウム化合物を含む、第1の骨材と、
平均粒径、平均長さ、又は平均厚さが5mm以上であり、第2の賦活剤を含有する第2のガドリニウム化合物を含む、第2の骨材と、を有する、
放射線遮蔽体。
【請求項2】
前記第1の骨材は、前記第1のガドリニウム化合物の第1の焼結体を含み、
前記第2の骨材は、前記第2のガドリニウム化合物の第2の焼結体を含み、
前記第1の焼結体および前記第2の焼結体のそれぞれは、6.5g/cm
3以上の密度を有する、請求項1に記載の放射線遮蔽体。
【請求項3】
中性子線、X線、及びγ線を遮蔽する放射線遮蔽体であって、
10体積%以上90体積%以下のガドリニウムを具備し、
前記ガドリニウムと賦活剤とを含有するガドリニウム化合物のHIP焼結体
を含む、放射線遮蔽体。
【請求項4】
前記ガドリニウム化合物は、酸化ガドリニウム、ガドリニウムガリウムガーネット、酸硫化ガドリニウム、及びケイ酸ガドリニウムからなる群より選ばれる少なくとも一つのガドリニウム化合物を含む
、請求項3に記載の放射線遮蔽体。
【請求項5】
前記第1及び第2のガドリニウム化合物のそれぞれは、酸化ガドリニウム、ガドリニウムガリウムガーネット、酸硫化ガドリニウム、ケイ酸ガドリニウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含み、
前記第1及び第2のガドリニウム化合物は、互いに同じ又は異なる、請求項
1に記載の放射線遮蔽体。
【請求項6】
タングステン、ビスマス、鉛、モリブデン、及びヘビアロイからなる群より選ばれる少なくとも一つを更に具備する、請求項1ないし請求項
5のいずれか一項に記載の放射線遮蔽体。
【請求項7】
前記放射線遮蔽体は、コンクリートである、請求項1ないし請求項
6のいずれか一項に記載の放射線遮蔽体。
【請求項8】
中性子線、X線、及びγ線を遮蔽する放射線遮蔽体の製造方法であって、
セメントと、
平均粒径、平均長さ、又は平均厚さが5mm未満であり、第1の賦活剤を含有する第1のガドリニウム化合物を含む、第1の骨材と、
平均粒径、平均長さ、又は平均厚さが5mm以上であり、第2の賦活剤を含有する第2のガドリニウム化合物を含む、第2の骨材と、
水と、
を混合する工程を具備し、
前記セメントに対する前記第1の骨材の体積比率は、2以上3以下であり、
前記セメントに対する前記第2の骨材の体積比率は、4以上6以下であり、
前記セメントに対する前記水の体積比率は、0.5以上0.6以下である、
製造方法。
【請求項9】
前記第1のガドリニウム化合物および前記第2のガドリニウム化合物は、HIP処理を用いて形成される、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記第1及び第2のガドリニウム化合物のそれぞれは、酸化ガドリニウム、ガドリニウムガリウムガーネット、酸硫化ガドリニウム、ケイ酸ガドリニウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含み、
前記第1及び第2のガドリニウム化合物は、互いに同じ又は異なる、請求項
8又は請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
一体的に組み合わされた複数の放射線遮蔽ブロックを具備し、
前記複数の放射線遮蔽ブロックのそれぞれは、請求項1ないし請求項
7のいずれか一項に記載の放射線遮蔽体を有する、放射線遮蔽構造体。
【請求項12】
請求項1ないし請求項
7のいずれか一項に記載の放射線遮蔽体と、
ホウ素又は鉄を含む第2の放射線遮蔽体と、
を具備する、放射線遮蔽構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、放射線遮蔽体、放射線遮蔽体の製造方法、及び放射線遮蔽構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線遮蔽体に使われる材料は、放射線が遮蔽材料に当たったときには当該放射線を散乱又は吸収して放射線量の透過を減衰させる物質からなる。放射線は、α線、β線、γ線、X線、中性子線等の総称を指す。その中でも中性子線は物質と反応してα線、β線、γ線、X線を直接又は二次的に放出する。従って、中性子線を遮蔽するためには、中性子のみの遮蔽だけではなくα線、β線、γ線、X線の遮蔽も考える必要がある。これら放射線と物質との相互作用は、放射線の種類やエネルギーの大きさによっても異なる。中でもγ線、X線、中性子線は物質を透過する性質が高いため、これらを遮蔽する物質が研究開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】岡田清,“遮蔽用構築材料としてのセメント・コンクリート”,材料試験,日本材料試験協会,1956年12月,第5巻,第39号,p.743-748
【発明の概要】
【0005】
発明が解決しようとする課題の一つは、中性子、X線、及びγ線を効率的に遮蔽することである。
【0006】
実施形態の放射線遮蔽体は、10体積%以上90体積%以下のガドリニウムを具備し、ガドリニウムと賦活剤とを含有するガドリニウム化合物を有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】放射線遮蔽コンクリート1の構成を概略的に示す断面図である。
【
図3】中サイズ粗骨材6と大サイズ細骨材7を示す図である。
【
図5】ホウ素の同位体における中性子エネルギーと反応断面積との関係を示す図を示す図である。
【
図6】ホウ素の同位体における中性子エネルギーと反応断面積との関係を示す図を示す図である。
【
図7】ホウ素の同位体における中性子エネルギーと反応断面積との関係を示す図を示す図である。
【
図8】ホウ素の同位体における中性子エネルギーと反応断面積との関係を示す図を示す図である。
【
図9】ガドリニウムの同位体における中性子エネルギーと反応断面積との関係を示す図である。
【
図10】ガドリニウムの同位体における中性子エネルギーと反応断面積との関係を示す図である。
【
図11】ガドリニウムの同位体における中性子エネルギーと反応断面積との関係を示す図である。
【
図12】ガドリニウムの同位体における中性子エネルギーと反応断面積との関係を示す図である。
【
図13】ガドリニウムの同位体における中性子エネルギーと反応断面積との関係を示す図である。
【
図14】ガドリニウムの同位体における中性子エネルギーと反応断面積との関係を示す図である。
【
図15】ホウ素化合物とガドリニウム化合物の熱中性子透過率の比較を示す図である。
【
図16】ガドリニウムの中性子捕獲γ線を説明するための模式図である。
【
図17】ガドリニウムの中性子捕獲γ線を説明するための模式図である。
【
図18】遮蔽材料5cm厚さのγ線エネルギーと透過割合を示す図である。
【
図19】コンクリートブロック10の構造例を示す上面模式図を示す図である。
【
図20】コンクリートブロック10の他の構造例を示す正面模式図である。
【
図21】コンクリートブロック10の別の構造例を示す側面模式図である。
【
図22】コンクリートブロック構造体の構造例を示す模式図である。
【
図23】コンクリートブロック構造体の構造例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定しない。また、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下の説明において参照する図面において、各構成部材の大きさや厚みは説明の便宜上の値であり、必ずしも実際の寸法や比率を示さない。
【0009】
実施形態の一つは、放射線を遮蔽する放射線遮蔽体とその製造方法に関し、更に詳細には、原子炉又は加速器、ラジオアイソトープ線源、放射性廃棄物から発生する放射線で特に中性子や中性子と反応して発生する二次的なγ線、X線の放射線遮蔽コンクリートや放射線遮蔽コンクリートの製造方法に関する。
【0010】
X線、γ線はその発生の仕方で呼び名が異なるが(以降X線とγ線をまとめてγ線と表記する)、物質との反応は原子番号Zの大きさに依存し、同じエネルギーのγ線であれば原子番号Zや密度が大きいほど反応断面積が大きくなり遮蔽能力は高くなる。従って軽元素のカーボンやアルミニウムよりもタングステン、ビスマス、鉛やモリブデンがγ線の遮蔽材として使用されている。X線やγ線の場合、密度が同程度であれば、原子番号Zが近い元素では透過率(遮蔽効果)がほぼ同じとなる。またX線は、原子のK殻やL殻などの電子殻の軌道に応じて吸収端が異なるエネルギーで透過量が異なるが、同位体での区別はない。更にX線やγ線のエネルギーが高いほど透過率が高くなる(遮蔽効率が悪くなる)。
【0011】
一方、中性子線は、原子番号Zには特に関係せず、特定の元素同位体で反応割合が異なる。このため、同じ元素であっても同位体の違いや中性子のエネルギーの違いによって、反応や吸収の割合が変化し、中性子線の透過率(遮蔽効果)の割合が異なる。この反応割合は、中性子と物質の相互作用をあらわす指標として中性子断面積(単位:バーン(b)、1b=10-24cm2)が用いられる。中性子断面積に原子数密度ρを乗算することにより規定される値は、巨視的断面積Σ(cm-1)と呼ばれ、X線の線減弱係数に対応する。
【0012】
上記元素は、例えば、γ線との反応割合が低い水素やリチウム、ホウ素などである。リチウムの場合は天然存在比7.6%の同位体であるリチウム6(Li-6)が反応し、ホウ素の場合は天然存在比20%の同位体であるホウ素10(B-10)が反応し、天然存在比92.4%であるリチウム7(Li-7)や天然存在比80%であるB-11は中性子とほとんど反応しない。中性子用の遮蔽材料としてはリチウムやホウ素の化合物が主に利用されている。γ線の場合は原子番号Zの大きさに依存するが、同位体の存在割合には特に依存していない。従って中性子との反応割合を大きくするためには、天然のホウ素から同位体B-10を90%以上濃縮して使用など、反応する同位体の割合を濃縮して使用する場合がある。
【0013】
γ線の場合も中性子の場合も一般的には、中性子の同位体で特有の共鳴吸収を行う場合を除いて、放射線のエネルギーが高くなると反応割合が低くなり、遮蔽能力も小さくなる。このため、高いエネルギーの放射線を遮蔽するためには遮蔽体を厚くする必要がある。
【0014】
実用化されている遮蔽体にはセメント・コンクリートの他にも樹脂やゴムの中に放射線との反応材料を入れて遮蔽体を構成する場合がある。遮蔽用材料としてコンクリートが有利なことは、構造的強度、遮蔽能、加工性と適応性が優れているためであり、他面、欠点としては、更に密実な材料と比べて遮蔽体が厚いことがある。この欠点を補うため各種重量コンクリート、特殊セメントの研究が昭和31年に行われている。
【0015】
コンクリートは、セメント、水、粗骨材、細骨材、混和材料から構成される。体積で占める割合で最も多いのが粗骨材、次に細骨材でセメント、水、混和材料がこれらの隙間に入る。一般的に用いられる粗骨材や細骨材は砂利や砂となっているが、採取される場所により化学的な成分が異なり、アルミニウムやカルシウムなどの酸化物や珪酸塩、炭酸塩等の岩石鉱物である。砂も、川砂と海砂があり、塩分が異なるが基本的には岩石の風化によって粒子が小さくなることで形成される。セメントとしては、ポルトランドセメント、アルミナセメント等が知られる。これらのセメントは、水との化学反応で硬化が進み、硬化後は水中でも強度が低下しない性質を有する。
【0016】
放射線遮蔽用には重量コンクリートが用いられる。上記したように、原子番号Zが大きく密度が高い方がγ線を遮蔽する効果が高いため、粗骨材や細骨材には、鉄の組成比が高く密度が3~4g/cm3の褐鉄鋼(2Fe2O3・3H2O)、密度が4.6~5.1g/cm3の磁鉄鉱(Fe3O4)、密度が4.2~4.4g/cm3の重晶石(BaSO4)、更に密度が高い7.5g/cm3の方鉛鉱(PbS)が用いられ、密度が7.6~7.8g/cm3の鉄塊、鉄片、鋼球なども用いられている。これらの材料を用いた骨材は、γ線に対する遮蔽効果が一般の軽量骨材と比べて高いが、熱中性子に対しての遮蔽効果は低い。熱中性子吸収用の骨材としては、密度が2.42g/cm3のコルマナイト(別名:コレマナイト)(B2O3)、密度が2.9g/cm3のタンブリ石(B2O3)、密度が2.25g/cm3のパイレックス(登録商標)(B2O3)、密度が2.5g/cm3の炭化ホウ素(B4C)がある。これらの材料を用いた骨材は、軽量骨材であり、これだけだとγ線の遮蔽効率が悪くなるため、重量骨材と混ぜられる。これにより、全体の体積中に存在するとともに中性子と反応する同位体の割合は更に低くなり、遮蔽体を厚くしなければならない。
【0017】
放射線遮蔽コンクリートは、α線、β線、γ線、X線の遮蔽だけでなく中性子線も遮蔽できることを求められる。また、通常のコンクリート構造物と異なり、放射線が照射されるため、放射線劣化について健全性を考慮しなければならない。高線量である放射線がコンクリートに照射されるとその放射線のエネルギーが吸収されて発熱が起こる。それに伴い、骨材やセメントペーストで膨張・収縮が繰り返され、脆化したり割れが発生したりする。また、放射線分解が起こり、特に水や水素を含む樹脂では化学結合が破壊され水素ガスが発生し、遊離して脆化が起こる。放射線により電離作用が起こると分子レベルで別の物質と化学反応を起こし劣化につながる。
【0018】
特に中性子の場合には、別の核種に変わる場合がある。例えば、中性子吸収材としてよく用いられるホウ素は、同位体のB-10が中性子と反応するとα線を放出してリチウムの同位体Li-7になり、Li-7から478keVの即発γ線が放出される。更に、中性子の場合は、原子炉を中性子源とした熱中性子(0.025eV付近)から加速器中性子源やラジオアイソトープ(RI)中性子源、宇宙環境における太陽からの高エネルギー中性子までエネルギーの扱うレベルが異なる。エネルギーが高くなると反応の仕方も異なるため、リチウムやホウ素でも遮蔽が難しくなり、中性子の減速材を混ぜてエネルギーを下げてから遮蔽するなど工夫が必要となる。γ線の遮蔽には重量骨材を中心とした放射線遮蔽用コンクリートでもよいが、中性子も遮蔽するためには従来からのリチウムやホウ素を含む軽量骨材との最適な組み合わせが必要となっている。
【0019】
中性子の散乱には、大きく分けて干渉性散乱と非干渉性散乱との二つの特性がある。多くの元素では干渉性散乱が支配的である。干渉性断面積が大きな元素は回折による散乱が主となり、中性子エネルギーの違いでブラッグ(Bragg)エッジが現れる。非干渉性散乱は、原子運動との散乱であり、中性子のエネルギーに等価な中性子速度vに反比例して断面積が増えていく。これは「1/v法則」といわれ、例えば、B-10やLi-6などの元素では1/v法則に対応し、エネルギーが高く(速度vが速く)なると反応しにくくなり遮蔽の効率は悪くなる。これらの散乱断面積に加えて、元素同位体によって異なる中性子エネルギー領域で現れる共鳴捕獲による吸収断面積がある。
【0020】
一般に、中性子源から出力される中性子線には、様々なエネルギーの中性子が含まれ、1MeVよりも小さいエネルギーでは1/v法則や共鳴吸収などレゾナンス領域での反応(主に中性子と反応してγ線が放出される反応、以下この反応を(n,γ)反応と記す)となるが、1MeV以上ではこれらの反応とは異なる閾値反応(1個の中性子と反応して2個の中性子を放出する(n,2n)反応や中性子と反応してプロトンが放出する(n,p)反応、中性子と反応してα線が放出される(n,α)反応など)が起こる。特にγ線との反応と異なり中性子との反応ではホウ素がリチウムになったり、硫黄がリンになったり元素が変わることや元々は放射性物質でなかった元素が放射性物質になることがある。放射性物質になり放射線を出す割合が壊変に伴い半分になるまでの時間指標を半減期で表示する。半減期がミリ秒単位やナノ秒単位であればほぼ瞬間に放射性物質ではなくなるために特に問題とならないが、高線量で照射されて半減期の長い物質となると遮蔽体自体が長期にわたり放射線放出源となってしまい遮蔽体としての役割を満足しない。
【0021】
中性子遮蔽材料として用いられているコルマナイト(別名:コレマナイト)(B2O3)やタンブリ石(B2O3)、パイレックス(登録商標)(B2O3)、炭化ホウ素(B4C)の中性子反応体はホウ素である。天然のホウ素には、天然存在比19.9%であるホウ素10(B-10)と、天然存在比80.1%であるホウ素11(B-11)と、の同位体が存在する。中性子エネルギーとの反応割合(断面積:Cross Section、単位:barns)を示す核データJENDL-4.0は、日本原子力研究開発機構の各データ研究グループのホームページ(https://wwwndc.jaea.go.jp/jendl/j40/J40_J.html#Reports)から確認できる。(参考文献:K. Shibata, O. Iwamoto, T. Nakagawa, N. Iwamoto, A. Ichihara, S. Kunieda, S. Chiba, K. Furutaka,N. Otuka, T. Ohsawa, T. Murata, H. Matsunobu, A. Zukeran, S. Kamada, and J. Katakura:"JENDL-4.0: A New Library for Nuclear Science and Engineering," J. Nucl. Sci. Technol. 48(1), 1-30 (2011).)
【0022】
熱中性子領域において、B-10の反応断面積は、B-11の反応断面積よりも約6桁大きい。但し、1MeVを超えるエネルギーが高い領域では、B-10の反応断面積は、B-11の反応断面積とほぼ同じとなる。B-10は、中性子と反応してα線を放出してLi-7となる。この反応は、より正確には10B(n,α)7*Li反応と記載される。7*Liは、(n,α)反応による初期反跳エネルギー840keVを付与され、そして0.105psという短寿命で運動しながら478keVの即発γ線を放出して基底状態のLi-7になる。従って、放射線の遮蔽という観点から天然の鉱物等を用いる場合、その中に存在するホウ素の原子数、そして中性子と反応割合が高いB-10の同位体割合と中性子エネルギーに依存した断面積、これらの積で遮蔽効率が決まる。また、中性子のエネルギーが高いと断面積が小さくなることから高エネルギーの中性子を水素や炭素といった減速材で中性子との衝突回数でエネルギーを下げて効率よく反応させることが重要となる。更に478keVの即発γ線を出すことから、このγ線に対しても遮蔽を考えなければならない。ホウ素を含む鉱物の密度は約2.5g/cm3と鉄を含む鉱物と比べても約1/3程度であり、原子番号ZもZ=5と小さいため、X線やγ線との相互作用で重要な質量減弱係数μ/ρ(μ:線吸収係数、ρ:物質の密度)は一般的にZの3~4乗に比例すると言われる。従って、γ線に対する遮蔽効果は低くなる。
【0023】
実施形態の一つでは、熱中性子に対する反応断面積が元素の中で一番大きいガドリニウム(Gd)に着目し、原子番号Z=64であることからγ線に対する遮蔽効果も高くなる点に着目する。ガドリニウムは希土類元素のレアアースで希少金属である。天然に存在する同位体は、天然存在割合が2.18%であるガドリニウム154(Gd-154)、天然存在割合が14.80%であるガドリニウム155(Gd-155)、天然存在割合が20.47%であるガドリニウム156(Gd-156)、天然存在割合が15.65%であるガドリニウム157(Gd-157)、天然存在割合が24.84%であるガドリニウム158(Gd-158)、天然存在割合が21.86%であるガドリニウム(Gd-160)の6種類の同位体である。中性子のエネルギーが0.0253eVである熱中性子領域において、Gd-157の反応断面積がB-10の反応断面積よりも66倍大きく、Gd-155の反応断面積がB-10の反応断面積よりも15.8倍が大きい。100eVから1keV付近のエネルギーである領域において、Gd-157及びGd-155は、他のGd同位体も同様に複数の共鳴吸収ピークを有し、B-10よりも反応断面積が大きくなる。
【0024】
ガドリニウムの主な反応は、ホウ素と異なり中性子と反応してγ線を放出する(n,γ)反応(断面積を表す図の中でcaptureと表記されているデータ)である。ホウ素の場合は(n,α)反応で7*Liが生成され、Li-7になる過程で478keVの即発γ線を出していたが、Gdの場合、154Gd(n,γ)155Gd反応、155Gd(n,γ)156Gd反応、156Gd(n,γ)157Gd反応、157Gd(n,γ)158Gd反応によりそれぞれ生成されるGd-155、Gd-156、Gd-157、Gd-158は、安定同位体であり、壊変に伴ってβ線やγ線を放出しない。158Gd(n,γ)159Gd反応により生成されるガドリニウム159(Gd-159)は、β壊変に伴って安定同位体であるテルビウム(Tb-159)になる。この壊変でβ線のエネルギー970.6keV(62%)、912.6keV(26%)、607.09keV(12%)、622.42keV(0.31%)が放出され、γ線のエネルギー363.55keV(11.4%)、58keV(2.15%)、348.16keV(0.234%)、226.01keV(0.215%)が放出される。特に熱中性子領域で反応断面積が大きいGd-157とGd-155は(n,γ)反応で8MeVの中性子捕獲γ線を放出する。
【0025】
このγ線の放出モードは(1)連続スペクトル(93.8%)と(2)離散スペクトル(6.2%)の2つに大別される。ほとんどが(1)の連続スペクトルであり、不安定な複合核から安定な基底レベルまで8MeVの単一エネルギーではなく高いエネルギーから低いエネルギーにわたって放出割合が高い。(2)離散スペクトルは5.62MeV+2.25MeV(1.3%)、5.88MeV+1.99MeV(1.6%)、6.74MeV+1.11MeV(3.2%)、7.87MeV(0.02%)である。離散スペクトルのエネルギーは高いがその割合は低い。
【0026】
放射線の遮蔽技術において、遮蔽の目的が人や検出機器などの装置機器が放射線によって損傷を受けないようにすることが好ましい。原子番号Zが大きい物質を透過するような高いエネルギーのγ線は、軽元素で構成される人体組織や薄膜の検出器素子を透過する。すなわち、保護対象である物質中での放射線による線エネルギー付与(LET: Linear Energy Transfer)が少なければ、透過する物質にエネルギーが与えられることが少なく、ダメージとならない。LETは、放射線が物質中を通過する途中で物質にエネルギーをどれだけ与えるかを表す。逆にLETが大きくなるほど、物質に与えられるエネルギーが大きくなり、必然的に人の細胞や組織に与える損傷も大きくなることに繋がる。このことを生物学的効果比(RBE:Relative Biological Effectiveness)が大きくなると表し、LETが大きくなるほど、RBEも大きくなる。
【0027】
ダメージの程度にもよるが、このような遮蔽による保護の目的から考えると、高いエネルギーのγ線の場合にはγ線遮蔽材を透過してしまっても、遮蔽の目的が達成できることになる。例えば、2MeVと500keVのγ線は発生時点で単色のエネルギー(厳密にはエネルギーの幅を有する)であっても、γ線と物質との相互作用から光電効果やコンプトン散乱等によりエネルギーが減衰し、低いエネルギー領域まで広がる。特に低いエネルギー領域では、γ線の遮蔽材料としては、500keVのγ線の方が2MeVのγ線よりもより多く反応して減衰する。そして、数百keV以下のγ線はエネルギーが低いほど人体やセンサーなど機器に対するLETやRBEが大きくなる。
【0028】
更に、減衰率を具体的に計算で求める。エネルギーが50keV、100keV、500keV、2MeVのγ線を、鉄、鉛、炭化ホウ素、酸化ガドリニウムをそれぞれ含み、厚さが5cmであって均一な密度の遮蔽材で遮蔽する場合、2MeVでは炭化ホウ素が6割まで減衰、鉄や酸化ガドリニウムで2割、鉛では1割以下まで減衰する。500keVでは炭化ホウ素が3割5分程度であるのに対して他の鉄、鉛、酸化ガドリニウムは0.5割(1/20)よりも少なくなる。更に低いエネルギー100keVでは、炭化ホウ素が1割以下に減衰していないが、その他は鉄で4×10の-7乗(4×10-7)以下、酸化ガドリニウムで1×10の-42乗(1×10-42)以下、鉛では2×10の-137乗(2×10-137)以下となる。更にエネルギーが低くなればより減衰する。実際のコンクリート遮蔽体はセメント、水、粗骨材、細骨材、混和材料から構成されるため均一な密度で構成することは難しい。粗骨材に鉄の塊を用いたとしても細骨材やセメント、水、混和材料のセメントペースト部分で密度が低くなる。
【0029】
このように、中性子を遮蔽し、更にγ線も遮蔽するコンクリートは、骨材としてホウ素を含む中性子吸収材料だけではγ線を遮蔽するための能力が低く、逆に密度が高い鉄等を含む骨材の重量コンクリートでは中性子を遮蔽する性能が低くなるため、両方合わせて用いるようになる。
【0030】
そこで、実施形態では、放射線遮蔽体としてコンクリートを用い、コンクリートを構成する骨材(粗骨材と細骨材)にガドリニウム化合物を用いる。特に、粒径が大きな粗骨材や細骨材を構成するために、Hot Isostatic Pressing:熱間静水圧加圧(HIP)処理してセラミック化した材料を用いることが好ましい。このため骨材の密度は6.5g/cm3以上となっている。一般的なコンクリートの配合はセメント、細骨材(砂)、粗骨材(砂利)の体積比でセメントを1とした場合1:2~3:4~6となっている。実際の製作時の状況で細骨材とセメントペースト(セメントと水)が粗骨材の空隙に入り込むため、セメントペーストと細骨材の粗骨材に対する割合を調整する。よって、セメントに対する細骨材の体積比率は、2以上3以下が好ましい。セメントに対する粗骨材の体積比率は、4以上6以下が好ましい。実施形態の放射線遮蔽体は、所謂モルタルであってもよい。
【0031】
セメントに対する水の体積比率は、0.5以上0.6以下が好ましい。水の量はセメントに対する比率として50~60%が目安である。すなわち、コンクリート製品のボリュームを100%とすると細骨材と粗骨材とを合わせた骨材の割合は85~90%であり、水は5%程度である。従って、高密度である骨材が中性子とγ線を遮蔽する材料となり、更にエネルギーが高い中性子は水で散乱して減速して骨材で吸収されるようになる。また、特にこの骨材は、X線やγ線用の検出器として用いられるシンチレータ製造時の削り片や削り粉など粉末原料からHIP処理せずに既にHIP処理した廃材や製品となったシンチレータの検査不良品や製品寿命を迎えて交換した廃棄される材料を用いて製作が可能となるため、原材料の粉から製作する場合に比べて安価にできるだけでなく、環境廃棄物の処理としても有効である。
【0032】
実施形態の放射線遮蔽体であるコンクリートは、コンクリートに対し、10体積%以上90体積%以下のガドリニウム元素を含む。含有量が10体積%未満では、放射線を遮蔽する効果が十分でなく、たとえコンクリートの厚みを増やしても、実効性を得るためには厚くなりすぎ実用的ではなくなる。また含有量が90体積%を超えるとコンクリートとしての強度が低下する。望ましい含有率は30体積%以上70体積%以下である。コンクリートに含まれるガドリニウム元素の含有量は次のように計測される。
【0033】
非破壊で放射線遮蔽体を構成する組成を分析する方法や含有するガドリニウム元素を計測する方法は、対象物にX線を照射して発生するガドリニウム固有の蛍光X線を検出する蛍光X線分析が挙げられる。蛍光X線分析により精度よく簡便に組成や元素を求められる。また、中性子線を用いて、対象物に照射する中性子強度と対象物の厚さに対して透過する中性子強度の割合から放射線遮蔽体内で反応するガドリニウム原子数密度を測定してガドリニウム同位体の含有割合を求めることが可能である。更に詳細に同位体の割合を分析する方法としては、ガドリニウム同位体固有の共鳴吸収エネルギーの透過量を中性子による飛行時間法で求めることも可能である。
【0034】
ガドリニウム化合物は、例えば密度が6.5g/cm3以上であって、水に溶けないセラミック、又は焼結体を粗骨材と細骨材に用いた重量コンクリートで形成される。例えば密度7.4g/cm3の酸化ガドリニウム(Gd2O3:以下GOと略す)、密度7.09g/cm3のガドリニウムガリウムガーネット(Gd3Ga5O12:以下GGGと略す)、密度7.3g/cm3の酸硫化ガドリニウム(Gd2O2S:以下GOSと略す)、密度6.7g/cm3のケイ酸ガドリニウム(Gd2SiO5:以下GSOと略す)が挙げられる。また、これらを母材としてプラセオジムやテルビウム、ユーロピウム、セリウム等をとして混ぜた蛍光体材料も含まれる。なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや実施形態の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換した態様もまた、本発明の態様として有効である。
【0035】
実施形態の放射線遮蔽体は、タングステン(W)、ビスマス(Bi)、鉛(Pb)、モリブデン(Mo)、ヘビアロイ(Heavy Alloy)からなる群より選ばれる少なくとも一つを更に含有していてもよい。ヘビアロイは、主成分であるタングステンと、ニッケル、銅、鉄等の元素と、を含有するタングステン基合金の焼結体であって、高密度であり、高放射線遮蔽性を有する。これらの元素又は材料は、γ線を遮蔽するため、中性子線を遮蔽するガドリニウムと共に放射線遮蔽体に含有することにより、γ線及び中性子線を含む放射線の遮蔽効果を高めることが可能である。
【0036】
実施形態の放射線遮蔽体であるコンクリートを製造する方法は、平均粒径、平均長さ、又は平均厚さが5mm未満である粉末状の骨材は細骨材としてそのまま用い、平均粒径、平均長さ、又は平均厚さが5mm以上のセラミック又は焼結体は、そのまま粗骨材として用いる、又は砕いて5mm未満にして細骨材として用いる。逆に平均粒径、平均長さ、又は平均厚さが5mm未満の粉体の場合は、HIP処理してセラミック又は焼結体を作製し、破砕又は切削して平均粒径、平均長さ、又は平均厚さが5mm以上の粗骨材を作製して用いることができる。ここで用いるガドリニウム化合物は、X線やγ線用の蛍光体や検出器のセンサー又は増感紙などの製品として用いられる。このように、ガドリニウム化合物は、製造上で発生する切削屑や不良品等の廃棄物や、使用していた製品が規定の発光量が得られないためや、傷や破損のために交換したり、装置の廃棄に伴って廃棄される材料を集めて用いられる。例えばX線用のシンチレータとして細い柱状のGOSシンチレータを複数バンドルしたセンサーは5mm以上のサイズであることからそのまま又は砕いて用いることが可能となり、GOS粉末にバインダーを混ぜて樹脂面又はガラス面などに塗布して使用するセンサーや増感紙では、表面や裏面の樹脂やガラスを除いて塗布されたペースト状のGOS蛍光体を剥離させて粉砕して利用することが可能となる。細骨材と粗骨材に含まれるガドリニウム化合物は、互いに同じ又は異なっていてもよい。
【0037】
ガドリニウム化合物は、賦活剤を含有していてもよい。賦活剤の例は、希土類元素等が挙げられる。希土類元素の例は、プラセオジム(Pr)、やテルビウム(Tb)、ユーロピウム(Eu)、セリウム(Ce)等が特に好ましい。
【0038】
以上のように、骨材に高密度のガドリニウム化合物を用い、高エネルギーの中性子線をセメントに混ぜる水で散乱させエネルギーを吸収し低エネルギーにすることができる放射線遮蔽体を提供することができる。実施形態の放射線遮蔽体によれば、中性子線を含む放射線の遮蔽コンクリートを環境にやさしく安価に提供できる。よって、γ線の遮蔽だけでなく中性子の遮蔽も含め、従来のγ線用遮蔽コンクリートと同等もしくはより薄いコンクリート厚さで効率的に遮蔽できる放射線遮蔽体をできるだけ安価に廃棄物を減らして提供できる。
【0039】
実施形態の他の一つは、例えば、中性子の発生を伴う施設や遮蔽を目的とした施設として原子炉や加速器施設、RI中性子源施設、核燃料施設や核燃料貯蔵施設、核シェルターがあり、医療分野でも重粒子線施設や中性子補足療法(BNCT)施設などがある。X線やγ線施設でも医療用のレントゲン施設や空港や港湾、セキュリティ関係施設など非破壊検査施設で放射線の遮蔽用として又は建物の構造材と併用して幅広く放射線遮蔽体が適用される。特にX線やγ線の遮蔽に適した重量密度が高い重量コンクリートに匹敵したγ線遮蔽能力を有しつつ中性子線も遮蔽できることから、中性子に関連する施設では別途γ線遮蔽材を用意することなく放射線遮蔽効果が高い施設が設計できる。
【0040】
図1は、放射線遮蔽コンクリート1の構成を概略的に示す断面図である。放射線遮蔽コンクリート1は、セメント2と、細骨材3と、粗骨材4と、を含む。
図2は、
図1に示す粗骨材4に用いる具体的な放射線遮蔽用セラミック粗骨材であって、大サイズ粗骨材5を示す。大サイズ粗骨材5は、酸硫化ガドリニウム(Gd
2O
2S)をHIP処理してX線又はγ線用のシンチレータ材料を作製したときに焼結体を削ることにより形成される廃棄材料である。
図3は、大サイズ粗骨材5と同様の材料で大きさが異なる放射線遮蔽用セラミック粗骨材である中サイズ粗骨材6と、更に粗骨材としては小さく細骨材としては大きい放射線遮蔽用セラミック細骨材である、大サイズ細骨材7を示す。
【0041】
図4は、小サイズ細骨材(粉末)8を示す。小サイズ細骨材8は、
図2や
図3の粗骨材又は細骨材をハンマー、ローラーミル、ボールミルなどの粉砕器で粉状にした粉体、又は原材料の粉体である。粗骨材と細骨材は、酸硫化ガドリニウムを用いるが、これを母材として賦活剤にプラセオジム(Pr)やテルビウム(Tb)やユーロピウム(Eu)を含む蛍光体を用いてもよい。HIP処理して切削で発生する廃棄材だけでなく製品不良や製品寿命を過ぎた製品廃材も骨材として用いることができる。また、酸化ガドリニウム等の粉末にバインダーを混ぜてポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂など樹脂材に均一にコーティングする増感紙の製造過程の廃材や製品寿命を過ぎた廃材も切断又は砕いて骨材とすることができる。特にPET樹脂と一緒に混ざっている場合には、PET樹脂に含まれる水素成分が中性子の散乱に寄与する。
【0042】
図5、
図6、
図7、
図8は、ホウ素の同位体における中性子エネルギーと反応断面積との関係を示す図である。中性子吸収材にホウ素を用いる場合、
図5ないし
図8に示すように天然のホウ素Bは、存在割合80.1%のB-11と19.9%のB-10の同位体からなる。そのうち中性子との反応は天然存在比19.9%のB-10である。骨材の構成分子の状態により例えばコレマナイト(B
2O
3)では5原子のうちホウ素Bは2の2/5であり、更に天然存在比19.9%であることから中性子との反応は8%となり、この8%に対して中性子と反応する断面積となる。
【0043】
図9、
図10、
図11、
図12、
図13、
図14は、ガドリニウムの同位体における中性子エネルギーと反応断面積との関係を示す図である。天然のガドリニウムGdは、
図9ないし
図14に示すように、主に6同位体で構成される。特に中性子エネルギーが低い熱中性子領域ではB-10と比べて反応断面積が10倍から100倍大きいGd-155(天然存在比14.8%)とGd-157(15.65%)合わせて30%でホウ素よりも大きく、酸硫化ガドリニウム(Gd
2O
2S)の場合ガドリニウムの原子は2/5で中性子との反応は13.3%となり、中性子の反応割合が高い。
【0044】
これらのガドリニウムの同位体は、他のガドリニウム同位体を含めて共鳴吸収ピークが数eV~数千eVにわたり広く存在し、高エネルギーの領域でも反応割合が大きくなるポイントが多くなる。ホウ素化合物の炭化ホウ素(B
4C)とガドリニウム化合物の酸硫化ガドリニウム(Gd
2O
2S)と酸化ガドリニウム(Gd
2O
3)の熱中性子透過率を比較した結果を
図15に示す。
図15は、材質の厚さ毎の中性子透過率の解析結果を示す図である。厚さが20μmで炭化ホウ素の熱中性子透過率は0.40程度であるが、ガドリニウム化合物の熱中性子透過率は0.10まで減衰する。これは、ガドリニウム化合物における熱中性子の遮蔽能力が高いことを示す。
【0045】
高エネルギー中性子に対してはモデレータ(水素)で減速して熱中性子領域で吸収して効率よく遮蔽が可能となる。ホウ素やガドリニウムは中性子と反応してγ線を放出する。ホウ素は478keV、ガドリニウムは最大8MeVである。
図16及び
図17は、ガドリニウムの中性子捕獲γ線を説明するための模式図である。ガドリニウムの中性子捕獲γ線は、
図16及び
図17に示すように(1)の連続スペクトルと(2)の離散スペクトルの2種類に分けられ、主に(1)の連続スペクトルとなる。この場合、実際に8MeVが放出される割合よりもより低いエネルギー領域での発生割合が散乱などを含めて多くなる。
【0046】
図18は、遮蔽材料の厚さを5cmとしたときのγ線エネルギーと減衰割合を計算した結果を示す。8MeVでは炭化ホウ素は約2割しか遮蔽できないが、酸化ガドリニウムは鉄(Iron)同様に7割以上遮蔽できる。中性子が水素と反応して放出される2.2MeVのγ線では炭化ホウ素で4割程度に対して酸化ガドリニウムでは8割、ホウ素と反応して放出される478keVのおおよそ500keVでは炭化ホウ素で6.3割程度に対して酸化ガドリニウムでは9.8割以上遮蔽できる。医療用であって主にレントゲン装置として多く使用されるX線で100keV付近では、炭化ホウ素では9割に満たない一方で酸化ガドリニウムは鉄よりも吸収が大きく42乗分の1となり遮蔽性能が高い。
【0047】
次に、放射線遮蔽構造体の一例について説明する。まず、放射線遮蔽ブロックを準備する。放射線遮蔽ブロックは、上記放射線遮蔽体であるコンクリートにより構成される。放射線遮蔽ブロックであるコンクリートブロックは、例えば以下の方法により製造される。配合はセメント、細骨材となるガドリニウム化合物でサイズ(平均粒径)が5mm未満の粉末とガドリニウム化合物でサイズ(平均粒径)が5mm以上の粗骨材を体積比でセメントを1とした場合、体積比率を1:2~3:4~6とする。最初セメントとガドリニウム化合物の細骨材粉末をよく混ぜて水をセメントに対する比率として50~60%入れてセメントペーストとする。水は、最初からすべて加えるのではなく少しずつ混ぜ、セメントペーストに粗骨材を入れて練り具合や型に入れる状態を見て足す水の量を加減する。
【0048】
図19は、コンクリートブロック10の構造例を示す上面模式図である。
図20は、コンクリートブロック10の他の構造例を示す正面模式図である。
図21は、コンクリートブロック10の別の構造例を示す側面模式図である。
図22、
図23は、放射線遮蔽構造体であるコンクリートブロック構造体の構造例を示す模式図である。大面積や大きな部材を作る場合にはセメント枠を用いて製作するが、作製されたブロックの重量が重くなるため、ここでは更に
図19ないし
図20に示すいずれかのコンクリートブロック10を一体的に組み合わせて連結して
図22に示す壁状(板状)や
図23に示す箱状のコンクリートブロック構造体100を形成する。これらのコンクリートブロック10は、他のコンクリートブロック10と連結するための連結用貫通穴10aを有する。
【0049】
一般のコンクリートブロック構造体とは異なり、ブロック表面が平らな面同士を重ねる場合、平面と平面との隙間から放射線が漏洩する場合がある。
図19、
図20、
図21に示すブロック10は、重ねる面に凹凸構造を形成することにより、隙間から放射線が漏洩することを抑制する。更に個々のコンクリートブロック10が重くなり、面を重ねた時に倒れたり崩れたりすることを想定し、コンクリートブロック10を縦方向又は横方向に連結用貫通穴10aに鉄やステンレス等構造材を通してボルト締めなどで連結し、場合によってはこのボルトで床面に固定してアンカーを形成する。
図19、
図20、
図21の一片のサイズを50mm又は100mmと規格化し、更に遮蔽効果の状況に応じて多段に組み合わせて遮蔽体とすることができる。
【0050】
実施形態の放射線遮蔽体であるコンクリートは、単独で用いることができる他、従来のホウ素や鉄を含む重量コンクリートと合わせて放射線遮蔽体とすることもできる。実施形態の放射線遮蔽体は放射線の遮蔽能が高く、例えば放射線の発生源の周囲を実施形態の放射線遮蔽ブロックにより遮蔽体を形成した後、その背後に従来の重量コンクリートのブロックを組み合わせて放射線遮蔽構造体を形成することで、より有効に放射線を遮蔽することができる。このような組み合わせにより、遮蔽体全体の厚みなどにマージンを付与でき、遮蔽体の設置スペースへの適用性を広げることが可能となる。
【0051】
実施形態の放射線遮蔽体によれば、高エネルギーの中性子線をセメントに混ぜる水で散乱させエネルギーを吸収し低エネルギーにすることができ、元から発生する放射線に加えて中性子と反応して放出する放射線も高密度ガドリニウム化合物で効率よく吸収させることが可能であり、産業上有用である。
【符号の説明】
【0052】
1…放射線遮蔽コンクリート、2…セメント、3…細骨材、4…粗骨材、5…大サイズ粗骨材、6…中サイズ粗骨材、7…大サイズ細骨材、8…小サイズ細骨材、10…コンクリートブロック、100…コンクリートブロック構造体