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特許7559325水酸化ニッケル粒子の焼成方法及びこれを用いた酸化ニッケル微粉末の製造方法
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  • 特許-水酸化ニッケル粒子の焼成方法及びこれを用いた酸化ニッケル微粉末の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】水酸化ニッケル粒子の焼成方法及びこれを用いた酸化ニッケル微粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/04 20060101AFI20240925BHJP
   F27D 17/00 20060101ALI20240925BHJP
   F27D 19/00 20060101ALI20240925BHJP
   B01D 53/50 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
C01G53/04
F27D17/00 104G
F27D19/00 Z
B01D53/50 200
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020003824
(22)【出願日】2020-01-14
(65)【公開番号】P2021109811
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 研哉
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 哲也
(72)【発明者】
【氏名】木道 雄太郎
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-012625(JP,A)
【文献】特公昭48-006395(JP,B1)
【文献】特開2018-162173(JP,A)
【文献】国際公開第2017/010192(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 53/04
F27D 17/00
F27D 19/00
B01D 53/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非還元性ガスからなる雰囲気ガスが導入された焼成炉内で硫酸成分を含む水酸化ニッケル粒子を焼成して酸化ニッケル粒子を生成しながら、該焼成炉から排出される排気ガスを集塵装置及びその後段の硫酸回収装置で処理する水酸化ニッケル粒子の焼成方法であって、
前記雰囲気ガスが空気の場合は前記焼成炉での焼成温度を850~950℃とし、前記雰囲気ガスが酸素分圧1kPa以下の場合は前記焼成炉での焼成温度を750~950℃とし、
前記排気ガスの温度を、前記集塵装置から排出されるまでは、前記排気ガスを流体との直接熱交換で冷却するものを除いて硫酸露点温度を超えるように管理し、前記集塵装置から排出されて前記硫酸回収装置に導入されるまでの間に硫酸露点温度以下となるように管理することを特徴とする水酸化ニッケル粒子の焼成方法。
【請求項2】
前記非還元性ガスが、空気、窒素、二酸化炭素、水蒸気、アルゴン、及びヘリウムから選ばれる1種を主成分とすることを特徴とする、請求項1に記載の水酸化ニッケル粒子の焼成方法。
【請求項3】
前記雰囲気ガスの酸素分圧が1kPaを超えて21kPa未満の範囲内の場合は、前記焼成炉での焼成温度を800~950℃とすることを特徴とする、請求項2に記載の水酸化ニッケル粒子の焼成方法。
【請求項4】
前記硫酸成分を含む水酸化ニッケル粒子は、硫酸ニッケル水溶液と水酸化ナトリウム溶液とを混ぜ合わせることで生じる晶析により生成することを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の水酸化ニッケル粒子の焼成方法。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の水酸化ニッケル粒子の焼成方法により得た焼結体の形態を有する酸化ニッケル粒子に対して、解砕処理を行って酸化ニッケル微粉末を得ることを特徴とする酸化ニッケル微粉末の製造方法。
【請求項6】
前記酸化ニッケル微粉末は、硫黄含有量が100質量ppm以下であり、平均粒径D50が0.6μm以下であり、比表面積が2.0m/g以上であることを特徴とする、請求項に記載の酸化ニッケル微粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品や固体酸化物形燃料電池の電極等に用いる酸化ニッケル微粉末の中間原料となる水酸化ニッケル粒子の焼成方法、及びこれを用いた酸化ニッケル微粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化ニッケル微粉末は、電子部品用材料を始めとして様々な用途に用いられており、例えば電子部品用材料の用途では、複合金属酸化物であるフェライト部品を挙げることができる。フェライト部品は、酸化ニッケル微粉末を酸化鉄、酸化亜鉛等の他の原料と混合した後、焼成することにより製造することができる。このフェライト部品の製造方法のように、複数の粉末原料を混合して焼成する工程では、固相の拡散反応で焼成反応が律速されるので、該粉末原料はより微細な形態を有していることが一般的に好ましい。その理由は、粉末原料の形態が微細であれば他の材料との接触確率が高くなると共に粒子の活性が高くなり、低温で且つ短時間の処理であっても均一に反応を進めることができるからである。このように、複合金属酸化物の原料に用いる粉末には、粒径の小さな微粉末を用いることが製造効率を高めるうえで重要な要件となる。
【0003】
酸化ニッケル微粉末の用途は、上記のフェライト部品等の電子部品以外にも広がっており、例えば環境及びエネルギーの両方に配慮した新しい発電システムとして期待されている固体酸化物形燃料電池の電極材料に酸化ニッケル微粉末が用いられている。一般に、固体酸化物形燃料電池のセルスタックは、空気極、固体電解質及び燃料極からなる単セルが順次積層された構造を有している。この燃料極には、例えばニッケル又は酸化ニッケルと、安定化ジルコニアからなる固体電解質とを混合したものが用いられている。発電時はこの燃料極において水素や炭化水素等の燃料ガスによる還元でニッケルメタルが生じ、ニッケルと固体電解質と空隙とからなる三相界面が燃料ガス及び酸素の反応場になるため、燃料極に用いる原料粉末には、上記のフェライト部品として用いる場合と同様に粒径の小さな微粉末を用いることが発電効率を高めるうえで重要な要件となる。
【0004】
更に、上記の電極材料の用途に用いる酸化ニッケル微粉末は、その不純物元素の含有量が低いことが求められている。不純物元素の中でも特に塩素(Cl)や硫黄(S)は、電極に利用されている銀と反応して電極劣化を生じさせたり、焼成工程において焼成炉を腐食させたりすることがあるため、できるだけ低減することが望ましい。また、従来の用途であるフェライト部品においても、近年、電子部品がますます高機能化する傾向にあるため、原料に用いる酸化ニッケル微粉末の不純物元素の含有量をより一層低減することが求められている。
【0005】
このような状況の下、例えば特許文献1には、フェライト材料の原料となるフェライト粉の段階において、その硫黄成分の含有量をS換算で300~900ppmにし、塩素成分の含有量をCl換算で100ppmにする技術が提案されている。この特許文献1のフェライト材料は、低温焼成においても添加物を用いることなく高密度化を図ることができ、これを原料として作製されるフェライト磁心及び積層チップ部品は、耐湿性及び温度特性に優れていると記載されている。
【0006】
一方、酸化ニッケル微粉末の製造段階において不純物含有量を低減させるため、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、炭酸ニッケル、水酸化ニッケル等のニッケル塩類又はニッケルメタル粉を、酸化性雰囲気下で焼成する方法が一般的に採用されている。例えば、特許文献2には、原料としての硫酸ニッケルに対して、450~600℃での仮焼による脱水工程と、1000~1200℃での焙焼による硫酸ニッケルの分解工程とを明確に分離した乾式法による酸化ニッケル粉末の製造方法が提案されている。この製造方法によれば、硫黄の含有量が低く且つ平均粒径が小さい酸化ニッケル粉末を安定して製造できると記載されている。
【0007】
上記の乾式法による製造方法に対して一部湿式法で酸化ニッケル微粉末を製造する方法として、硫酸ニッケルや塩化ニッケル等のニッケル塩を含む水溶液を、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリで中和して水酸化ニッケル粒子を晶析させ、これを焙焼する方法も提案されている。例えば、特許文献3には、硫酸ニッケル水溶液をアルカリで中和して水酸化ニッケル粒子を生成し、得られた水酸化ニッケル粒子を、850℃を超え1050℃未満の温度で熱処理して酸化ニッケル粒子の焼結体を生成し、得られた酸化ニッケル粒子の焼結体を解砕することで酸化ニッケル微粉末を製造する方法が提案されている。
【0008】
また、特許文献4には、硫酸ニッケル水溶液をアルカリで中和することで得た水酸化ニッケル粒子をペレット化した後、ローラーハースキルン等で非還元性ガスを導入しながら750~950℃の温度で熱処理することで酸化ニッケル微粉末を製造する方法が提案されている。これらの酸化ニッケル微粉末の製造方法では、中和されずに残留した硫酸ニッケルを主とする硫酸塩が熱処理時の焼結を抑制し、例えば大気雰囲気において熱処理温度が850℃を超えれば硫酸ニッケルは分解されるので、粒径の微細化と硫黄の含有量の制御の両立が可能になると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2002-198213号公報
【文献】特開2004-123488号公報
【文献】特許5907169号公報
【文献】特開2019-099394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の特許文献2の製造方法により不純物含有量の低い酸化ニッケル微粉末を得ることができるものの、この製造方法は2段階に分けて熱処理を行う必要があるため生産コストが高くなるという問題を抱えている。また、硫黄の含有量を低減するために焙焼温度を高くすると粒子が粗大になり、粒子の粗大化を抑えるために焙焼温度を下げると硫黄の含有量が高くなるため、粒径と硫黄の含有量とを同時に最適値に制御することは困難であった。
【0011】
特許文献3や4の製造方法では、微細な粒子径を有すると共に硫黄の含有量が制御された酸化ニッケル微粉末を得ることができるものの、該酸化ニッケル微粉末は舞い上がりやすいため、排気ガスと共に無視できない量の酸化ニッケル微粉末が排出されるため、電気集塵機などの集塵装置で該酸化ニッケル微粉末を排気ガスから分離して回収する必要がある。
【0012】
ところで、上記の特許文献3や4の熱処理では、熱処理温度がいずれも750℃を超えることから、該熱処理に生ずる排気ガスには水酸化ニッケルの分解により発生するHOと、硫酸ニッケルの分解により発生するSOとを含むことになる。この排気ガスに含まれるSOのうち、SOは排気ガス中のHOと反応させて硫酸として回収することができるので比較的容易に排気ガスを無害化することができる。
【0013】
しかしながら、このようにして生成した硫酸が上記の集塵装置で回収した酸化ニッケル微粉末を腐食させたり、該排気ガスが接するダクトや配管系等を腐食させたりする問題が生ずることがあった。これらダクトや配管系等が腐食すると、これにより溶出した鉄やクロムが上記集塵装置で回収した酸化ニッケル微粉末に混入し、製品の品質を低下させるおそれがあった。
【0014】
本発明は上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、工業上広く用いられる硫酸ニッケルから生成した水酸化ニッケル粒子を原料として用いて酸化ニッケル微粒子を製造する際に発生するSOを含んだ排気ガスから、該排気ガスに伴って排出される酸化ニッケル微粉末を品質を損なうことなく回収することが可能な水酸化ニッケル粒子の焼成方法及びこれを用いた酸化ニッケル微粉末の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明に係る水酸化ニッケル粒子の焼成方法は、非還元性ガスからなる雰囲気ガスが導入された焼成炉内で硫酸成分を含む水酸化ニッケル粒子を焼成して酸化ニッケル粒子を生成しながら、該焼成炉から排出される排気ガスを集塵装置及びその後段の硫酸回収装置で処理する水酸化ニッケル粒子の焼成方法であって、前記雰囲気ガスが空気の場合は前記焼成炉での焼成温度を850~950℃とし、前記雰囲気ガスが酸素分圧1kPa以下の場合は前記焼成炉での焼成温度を750~950℃とし、前記排気ガスの温度を、前記集塵装置から排出されるまでは、前記排気ガスを流体との直接熱交換で冷却するものを除いて硫酸露点温度を超えるように管理し、前記集塵装置から排出されて前記硫酸回収装置に導入されるまでの間に硫酸露点温度以下となるように管理することを特徴としている。
【0016】
また、本発明に係る酸化ニッケル微粉末の製造方法は、上記の本発明に係る水酸化ニッケル粒子の焼成方法により得た焼結体の形態を有する酸化ニッケル粒子に対して、解砕処理を行って酸化ニッケル微粉末を得ることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、酸化ニッケル粒子を製造する際に発生するSOを含んだ排気ガスから、該排気ガスに伴って排出される酸化ニッケル微粉末をその品質を損なうことなく回収することができる。これにより、フェライト部品などの電子部品材料や固体酸化物形燃料電池の電池材料の原料に適した高品質の酸化ニッケル微粉末を効率よく作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る水酸化ニッケル粒子の焼成方法に好適に用いられる焼成設備の模式的フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る硫酸成分を含んだ水酸化ニッケル粒子の焼成方法及びこの焼成方法を用いた酸化ニッケル微粉末の製造方法について説明した後、酸化ニッケル微粉末の製造方法により作製した酸化ニッケル微粉末の物性について説明する。
【0020】
1.硫酸成分を含んだ水酸化ニッケル粒子の焼成方法
本発明の実施形態に係る硫酸成分を含んだ水酸化ニッケル粒子の焼成方法では、硫酸成分を含む水酸化ニッケル粒子を原料として用い、この水酸化ニッケル粒子を焼成炉に装入すると共に、該焼成炉内に雰囲気ガスとして好ましくは非還元性ガスを導入しながら所定の温度条件で焼成処理を行う。これにより、水酸化ニッケルが熱分解して酸化ニッケル粒子及びHOガスが生成されると共に、硫酸成分が熱分解してSOガスが発生する。
【0021】
そのため、該焼成炉から排出される排気ガスには、上記の水酸化ニッケルの熱分解により発生するHOガスと、硫酸成分の熱分解により発生するSOガスとを含んでいる。この排気ガスに含まれるSOは大気汚染物質であるため排出基準が定められている。また、上記熱分解で生成される酸化ニッケル粒子は、一部の微細な粒子が上記排気ガスの気流に同伴して排出される。この排気ガスに同伴して排出される微細な酸化ニッケル粒子は、そのまま大気に放出されると製品の収率が低下する。
【0022】
そこで、焼成炉から排出される排気ガスは、一般的に排ガス処理設備に導入され、そこで先ずバグフィルター、電気集塵機などの集塵装置で該排気ガスに含まれる微細な酸化ニッケル粒子を回収した後、硫酸回収装置に導入して上記SOのうちのSOをHOと反応させて硫酸を生成している。なお、上記硫酸回収装置で処理された後の排ガスは、必要に応じて更に無害化のために除害装置に導入され、該排ガス中に残留するSOなどのSOが排出基準を満たすまで除去される。
【0023】
本発明の実施形態の水酸化ニッケル粒子の焼成方法では、上記の排気ガスの温度を、上記集塵装置から排出されるまでは硫酸による腐食が生じないようにするため該排気ガスの硫酸露点温度を超えるように温度管理し、該集塵装置から排出されて該硫酸回収装置に導入されるまでの間にSOを硫酸として効率よく回収すべく該排気ガスの硫酸露点温度以下となるように温度管理する。以下、かかる本発明の実施形態の水酸化ニッケル粒子の焼成方法に用いる原料、該焼成方法を行う焼成設備、及びその焼成条件について詳細に説明する。
【0024】
(1)原料
本発明の実施形態の水酸化ニッケル粒子の焼成方法に用いる原料は、硫酸成分を含む水酸化ニッケル粒子である。この硫酸成分は主として硫酸ニッケルからなり、水酸化ニッケル粒子の内部や表面部に主に存在している。その理由は、後述するように、水酸化ニッケル粒子は、一般的に硫酸ニッケル水溶液をナトリウムを含む塩基性溶液で中和し、これにより生ずる晶析により生成されるため、未反応の硫酸ニッケルが水酸化ニッケル粒子に残留するからである。なお、原料に用いる水酸化ニッケル粒子は、上記晶析により生成されるものに限定するものではなく、例えば水酸化ニッケル粒子に硫酸ニッケル粒子を混合したものを用いてもよい。
【0025】
上記のように、硫酸成分を含んだ水酸化ニッケル粒子を用いることで、該水酸化ニッケル粒子から熱分解により酸化ニッケル粒子が生成した後の該酸化ニッケル粒子同士の焼結を、該硫酸成分の作用により抑制することができる。硫酸ニッケルなどの硫酸成分は、焼成温度を上記水酸化ニッケルが熱分解される温度よりも高くすることで熱分解が生じやすくなるので、例えば硫酸ニッケルが熱分解される温度以上で焼成処理することで、硫黄品位の低い酸化ニッケル微粉末を得ることができる。
【0026】
水酸化ニッケル粒子中の硫酸成分の含有量としては、硫黄含有量で0.5~2.0質量%であるのが好ましい。この硫黄含有量が0.5質量%未満では、上記の焼結抑制効果が不十分になり、酸化ニッケル微粉末が得られないことがある。逆に、この硫黄含有量は2.0質量%を超えてもよいが、この場合は焼成処理時に発生するSOガス量が増大するため、その処理負荷が増大するので生産コストの観点から好ましくない。原料として用いる水酸化ニッケル粒子の形態は乾燥した粉粒体に限定されるものではなく、洗浄及び脱水後のケーキ状湿潤物や、水酸化ニッケル粒子からなる成形体等の種々の形態のものを用いることができる。
【0027】
(2)焼成設備
本発明の実施形態の水酸化ニッケル粒子の焼成方法で用いる焼成設備は、図1に示すように、上記の硫酸成分を含む水酸化ニッケル粒子の焼成処理を所定の雰囲気ガスの存在下で行って酸化ニッケル粒子を生成する焼成炉1と、該焼成炉1の排気口から排出される排気ガスから該排ガスに同伴して排出される微細な酸化ニッケル粒子を回収する集塵装置2と、該集塵装置で微細な酸化ニッケル粒子が除去された後の排気ガスを処理して硫酸を生成する硫酸回収装置3と、該硫酸回収装置3で処理された排ガスに含まれる大気汚染物質を排出基準を満たす程度まで除去する除害装置4とから構成され、これら装置間はダクトや配管によって互いに接続されている。
【0028】
この焼成炉1の構造は、雰囲気ガスを連続的に炉内に導入しながら焼成処理を行うことができるものであれば特に限定はなく、例えば被焼成物を充填した容器をプッシャーで押すことで炉内を一端部から他端部に搬送するタイプのプッシャー炉や、被焼成物を充填した容器を炉内に設けたローラー群により該炉内を一端部から他端部に搬送するタイプのローラーハースキルン、あるいは中心軸が水平方向から僅かに傾いた状態で回転可能に据付けられた円筒状回転体を該中心軸を中心として回転させながら、被焼成物を上方側の一端部から投入することで、該被焼成物を転動させて焼成するタイプのロータリーキルン等の転動炉を挙げることができる。これら焼成炉は、いずれも高い生産性が得られるので、一般的に生産量等に応じて選択される。
【0029】
上記の焼成炉1には給気口が設けられており、ここから導入される大気などの雰囲気ガスにより非還元性雰囲気下において焼成処理が行われる。この雰囲気ガスは該焼成処理により生ずるガスと共に排気ガスとして焼成炉1の排気口から排出される。具体的には、焼成炉1の内部では原料に含まれる水酸化ニッケル及び硫酸ニッケルに対して、非還元性雰囲気下における焼成処理により以下の[式1]~[式3]の反応式に示す熱分解が生じ、これにより酸化ニッケルが生成すると共に、SOやSOなどのSOガス、水蒸気(HO)及び酸素(O)が発生する。
【0030】
[式1]
Ni(OH)→NiO+H
[式2]
2NiSO→2NiO+2SO+O
[式3]
NiSO→NiO+SO
【0031】
上記の熱分解により生ずるガスは、焼成炉1内の雰囲気中に放出されて上記給気口から導入される雰囲気ガスに混ざるため、効率よく焼成処理を進めるために該給気口から連続的に雰囲気ガスを導入すると共に、上記排気口から連続的に排気ガスを排出するのが好ましい。すなわち、ル・シャトリエの原理によれば、焼成炉1内の雰囲気の水蒸気分圧、SO分圧、及び酸素分圧が低ければ低いほど上記反応式1~3の反応はより右方向に進むので、焼成処理により生じた上記の水蒸気、SO、及び酸素を含んだガスを焼成炉1内の気流にのせて速やかに該排気口に移動させて排気することができれば、焼成炉1内の雰囲気中のこれら水蒸気、SO、及び酸素の分圧が低下するので、水酸化ニッケルや硫酸ニッケルの熱分解を促進することができる。
【0032】
しかしながら、上記のように連続的に雰囲気ガスを焼成炉1に導入しながら連続的に排気ガスを排出すると、これにより形成される焼成炉1内の気流が微細な形態を有する酸化ニッケル粒子を舞い上げやすくなり、一部の酸化ニッケル粒子が排気ガスに伴って排気口から排出される。そのため、図1に示すように、焼成炉1の排気口から排出される排気ガスは、先ず集塵装置2に導入されて同伴する酸化ニッケル粒子が回収された後、後段の硫酸回収装置3に導入されて該排気ガスに含まれるSOから硫酸が生成される。硫酸回収装置3から排出される排ガスは、必要に応じて除害装置4に導入されて除害化が行われる。なお、場合によっては、原料の水酸化ニッケル粒子が未反応のまま排気ガスに含まれることがある。
【0033】
上記のように排気ガスから酸化ニッケル粒子を回収する集塵装置2の集塵方式には特に限定はなく、遠心力を応用したサイクロン、静電気を応用した電気集塵機、フィルタによる気固分離を応用した濾過式集塵機(バグフィルター)などを採用することができるが、酸化ニッケル粒子の捕集率を簡易に高めることができるうえ、回収した酸化ニッケル粒子を比較的低コストに再利用することが可能な濾過式集塵機が好ましい。この濾過式集塵機に用いるフィルタの材質には、後述するように排気ガスの温度を硫酸露点温度を超えるように維持する必要があることから、該温度条件下で使用できるように耐熱性を有するものが用いられ、例えばセラミックス製のフィルタが好適に用いられる。
【0034】
本発明の実施形態に係る硫酸成分を含んだ水酸化ニッケル粒子の焼成方法では、排気ガスの温度を、集塵装置2から排出されるまでは硫酸露点温度を超えるように温度管理する。その理由は、集塵装置2で処理される際の排気ガスの温度が硫酸露点温度以下であれば、該排気ガスに含まれるSOにより容易に硫酸を生成し、この生成した硫酸で集塵装置2で回収される酸化ニッケル粒子が腐食したり、該硫酸によって溶出した配管成分(鉄やクロム等)が該硫酸ニッケル粒子に混入したりするおそれがあるからである。
【0035】
上記の温度管理を行うことにより、集塵装置2において回収した酸化ニッケル粒子を、焼成炉1から排出される大部分の酸化ニッケル粒子と混合したり、上記焼成工程の原料として再利用したりすることができる。なお、排気ガスの硫酸露点温度は、市販の露点計での測定により求めてもよいし、該排気ガスのSO濃度及びHO濃度をガスクロマトグラフィー等のガス組成測定装置で測定し、これら濃度を予め作成した検量線に照合することで求めてもよい。
【0036】
上記集塵装置2の後段に位置する硫酸回収装置3は、排気ガス中に含まれる水蒸気及びSOから硫酸を生成する装置であり、その具体的な装置構成には特に限定はなく、公知の技術を利用することができる。例えば、循環する濃硫酸や水にSOを吸収させて硫酸を生成する湿式の装置や、水蒸気が凝集する時にSOと反応して硫酸となる原理を利用する装置を用いることができる。なお、上記のようにしてSOを吸収や反応させる前段に、触媒などを用いてSOをSOに酸化させる処理を行ってもよい。このようにしてSOから硫酸を回収する硫酸回収装置3では、排気ガスの温度がその水蒸気が結露する温度、すなわち硫酸露点温度より低くなっているのが望ましい。そこで、該排気ガスの温度を、集塵装置2から排出されて硫酸回収装置3に導入されるまでの間に硫酸露点温度以下となるように管理する。
【0037】
除害装置4は、上記硫酸回収装置3から排出される排ガス中のSO等の硫黄酸化物をその排出基準を満たすまで除去するものである。該除害装置4でSO等の硫黄酸化物を除去する方法には特に限定はなく、公知の方法を用いることができる。例えば、充填塔内を循環するアルカリ水溶液に排ガスを気液接触させる吸収中和法を挙げることができる。
【0038】
(3)焼成条件
本発明の実施形態の焼成方法では、生成した酸化ニッケルが還元されてニッケルになるのを防止するため、焼成炉1内に連続的に非還元性ガスを導入することで該焼成炉1内の焼成処理時の雰囲気を非還元性雰囲気にするのが好ましく、大気雰囲気又は低酸素分圧雰囲気にするのがより好ましい。また、大気雰囲気の場合は焼成温度、すなわち焼成炉1内の雰囲気温度が850~950℃の範囲内であるのが好ましく、低酸素分圧雰囲気の場合は焼成温度が750~950℃の範囲内であるのが好ましい。なお、上記の焼成温度は焼成炉1内に設けた温度計で計測することができる。以下、上記の焼成条件が好ましい理由について反応メカニズムの観点から説明する。
【0039】
水酸化ニッケル粒子は、600℃以上の温度で酸化ニッケルに変化するが、硫酸ニッケルは、大気雰囲気の場合は850℃以上の温度で熱分解し、低酸素分圧の非還元性雰囲気の場合は約750℃以上の温度で熱分解する。このように、焼成炉1内の雰囲気が異なると熱分解する温度が異なるのは、上記[式2]や[式3]から分かるように、雰囲気ガス中のSOやOの分圧が低下するほど、硫酸ニッケルが分解する反応が促進されるためである。
【0040】
より具体的に説明すると、焼成処理時の焼成炉1内の雰囲気が空気雰囲気の場合は、空気雰囲気(大気雰囲気)である1気圧から換算すれば酸素分圧が21kPaになるので硫酸ニッケルの分解温度が840℃になる。そのため、焼成温度850℃未満の空気雰囲気の焼成処理では硫酸ニッケルの熱分解が進行しにくくなって酸化ニッケル粒子内に硫黄成分が残留し、硫黄含有量100質量ppm以下の酸化ニッケル微粉末が得られないことがある。逆に焼成温度が950℃を超えると、水酸化ニッケル粒子の熱分解により生成した酸化ニッケル粒子同士の焼結が進行しすぎ、この焼結により生じた二次粒子に対して、次工程の解砕工程において所望の粒径サイズまで解砕したり一次粒子まで微細化したりするのが困難になる。その結果、電子部品材料や電池材料の用途に適した比表面積及びD50を有する粉末が得られなくなるおそれがある。
【0041】
一方、上記[式2]からも分かるように、酸素分圧がより低い雰囲気下で焼成すれば硫酸ニッケルの分解がより促進されるので、焼成処理時の焼成炉1内の雰囲気が低酸素分圧雰囲気の場合は、焼成温度を上記の空気雰囲気の場合よりも下げても硫黄含有量が上記空気雰囲気の場合と同程度に低減された酸化ニッケル粉末を得ることができる。よって、焼成処理時のエネルギー消費量を抑えることができる。
【0042】
具体的には、酸素分圧が1kPaまで低下した非還元性雰囲気では、硫酸ニッケルの分解温度が750℃になる。従って、焼成温度750℃の焼成処理では酸素分圧1kPa以下の非還元性雰囲気が好ましく、0.5kPa以下の非還元性雰囲気がより好ましく、100Pa以下の非還元性雰囲気が更に好ましい。この酸素分圧が1kPaを超えると、焼成温度750℃未満の温度条件では硫酸ニッケルの熱分解が不十分になり、硫黄含有量100質量ppm以下の酸化ニッケル微粉末が得られないことがある。
【0043】
但し、焼成処理時の焼成炉内雰囲気の酸素分圧が1kPaを超えても、低酸素分圧の非還元性雰囲気であれば焼成温度を800℃以上にすることで硫酸ニッケルを熱分解できる条件が存在する。この場合、熱分解に要する時間を考慮し、950℃以下の温度範囲内で焼成温度を選択することが好ましい。
【0044】
上記酸素分圧が21kPa以下の場合、焼成温度が950℃を超えると、上記の空気雰囲気の場合と同様に、水酸化ニッケル粒子の熱分解により得られる酸化ニッケル粒子の焼結が進行しすぎ、この焼結により得た二次粒子の解砕等による微細化が困難になり、電子部品材料や電池材料の用途に適した所望の比表面積やD50を有する粉末が得られなくなるおそれがある。なお、酸素分圧の下限値には特に限定はないが、10Paとすれば十分に酸化ニッケル粉末の硫黄含有量を低減することができる。もちろん酸素分圧が更に低い場合を除外するものではない。
【0045】
上記の焼成炉1に導入する非還元性ガスは、具体例には、空気、窒素、二酸化炭素、水蒸気、アルゴン、及びヘリウムから選ばれる1種を主成分とするガスであるのが好ましい。この場合、空気、窒素、二酸化炭素、水蒸気、アルゴン、及びヘリウムから選ばれる1種のガスをそのまま焼成炉1に導入してもよいし、空気以外の窒素、二酸化炭素、水蒸気、アルゴン、又はヘリウムが主成分のときは、酸素分圧21kPa未満、好ましくは酸素分圧1kPa以下の範囲内で酸素を含有させて焼成炉1に導入してもよい。あるいは、焼成炉1内を減圧雰囲気にして酸素分圧21kPa未満、好ましくは酸素分圧1kPa以下になるように、該焼成炉1内の雰囲気ガスの排気量を調整してもよい。
【0046】
2.酸化ニッケル微粉末の製造方法
次に、本発明の実施形態に係る酸化ニッケル微粉末の製造方法について説明する。この酸化ニッケル微粉末の製造方法は、硫酸ニッケル水溶液と水酸化ナトリウム溶液とを混ぜ合わせて中和反応を生じさせることにより水酸化ニッケル粒子を晶析させる晶析工程と、該晶析工程で得た硫酸成分を含む水酸化ニッケル粒子を、前述したように所定の雰囲気ガスが導入された焼成炉内で焼成して酸化ニッケル粉末を生成する焼成工程と、該焼成工程で得た酸化ニッケル粉末の焼結体を解砕して酸化ニッケル微粉末を得る解砕工程とを有している。なお、上記の焼成工程の原料に用いる硫酸成分を含む水酸化ニッケル粒子は、上記の晶析工程以外の方法により生成したものを用いてもよい。
【0047】
上記の製造方法により得られる酸化ニッケル微粉末は、ニッケル鍍金等に広く用いられる硫酸ニッケル水溶液から晶析により生成した硫酸成分を含む水酸化ニッケル粒子を原料に用いても、硫黄含有量を100質量ppm以下に抑えることができ、レーザー散乱法で測定した平均粒径D50(粒度分布上における粒子量の体積積算50%での粒径)を0.6μm以下にすることができる。また、比表面積を2m/g以上にすることができる。これにより、電子部品材料や固体酸化物形燃料電池の電極用材料等の用途として好適な酸化ニッケル微粉末を得ることができる。以下、かかる本発明の実施形態の酸化ニッケル微粉末の製造方法を構成する晶析工程、焼成工程、及び解砕工程のうち、すでに説明した焼成工程を除いて詳細に説明する。
【0048】
(1)晶析工程
晶析工程は、反応槽内において原料としての硫酸ニッケル水溶液と、水酸化ナトリウム溶液とを混合して中和反応を生じさせることにより、水酸化ニッケル粒子を晶析させる工程である。原料として用いる硫酸ニッケルには、例えば硫酸ニッケル六水和物等を用いることができるが、生成する酸化ニッケル微粉末は最終的に電子部品用材料や電池用材料として用いられることから、その腐食防止のため、硫酸ニッケル中に含まれる不純物は100質量ppm未満であることが望ましい。
【0049】
上記硫酸ニッケルに適量の水を加えて混合することで水溶液を調製する。この調製の際、硫酸ニッケル水溶液中のニッケルの濃度は、特に限定するものではないが、ニッケル濃度で50~150g/Lにするのが好ましい。このニッケル濃度が50g/L未満では生産性が低くなりすぎる。逆にこのニッケル濃度が150g/Lを超えると硫酸ニッケル水溶液中の陰イオン濃度が高くなりすぎて晶析により生成される水酸化ニッケル中の硫黄含有量が高くなる。その結果、これを中間原料として作製される酸化ニッケル微粉末中の不純物となる硫黄含有量が、前述した100質量ppm以下に抑えられなくなる場合がある。なお、中和に用いる水酸化ナトリウムの溶媒には特に限定はなく、水でもよいし、水にアルコール等の水溶性有機溶媒を混合させたものでもよい。
【0050】
上記晶析工程において、均質な水酸化ニッケル粒子を効率よく生産するために連続晶析法を採用するのが好ましい。その際、水酸化ナトリウム溶液とニッケル塩水溶液である硫酸ニッケル水溶液とを予め調製しておき、反応槽内において十分に撹拌されている液に、これら予め調製した両方の液を並行して連続的に添加する、いわゆるダブルジェット方式で添加するのが好ましい。
【0051】
即ち、反応槽内に予め貯めておいたニッケル塩水溶液及び水酸化ナトリウム溶液のうちのいずれか一方に対してもう一方を添加することで中和反応を行うのではなく、反応槽内において十分に攪拌されている乱流状態の液体に、好適には該攪拌を継続しながらニッケル塩水溶液と水酸化ナトリウム溶液とを同時並行的に且つ連続的に添加することで中和反応を行うのが好ましい。この場合、反応槽内に予め入れておく液体は、純水に水酸化ナトリウムを添加して所定のpHに調整したものが好ましい。
【0052】
上記中和反応時は、反応槽内の反応液のpHを8.3~9.0の範囲内に調整することが好ましい。このpHが8.3より低いと、水酸化ニッケル粒子中に残存する硫酸イオン等の陰イオン成分の濃度が増大し、これらが後段の焼成工程の際に大量のSO等となって焼成炉の本体を傷めるおそれがある。逆にこのpHが9.0より高くなると、析出する水酸化ニッケル粒子が微細になりすぎ、この微細な水酸化ニッケル粒子を含むスラリーを例えば濾過装置で固液分離する際に濾過性がすぐに低下したり、後段の焼成工程で焼結が進みすぎて後述する解砕工程で処理しても微細な酸化ニッケル微粉末を得ることが困難になったりすることがある。
【0053】
なお、上記の好適な中和条件であるpH9.0以下では反応後の水溶液中に僅かにニッケル成分が残存することがあるが、この場合は、上記の晶析がほぼ完了した後にpHを10程度まで上げることによって、上記の濾過により得られる濾液中のニッケル成分を低減させることができる。また、上記の中和反応時はpHをほぼ一定に保つことが好ましく、特にその変動幅が設定値を中心としてプラスマイナス0.2の範囲内となるように一定に制御することが好ましい。pHの変動幅がこれより大きくなると、不純物が増大したり酸化ニッケル粉末の比表面積が低下したりするおそれがある。
【0054】
上記の中和反応時の反応液の温度には特に制約がなく、室温程度でもよいが、50~70℃の範囲内であれば水酸化ニッケル粒子を十分に成長させることができるので好ましい。これにより、水酸化ニッケル粒子に硫黄分が過度に含有されるのを防止できるうえ、水酸化ニッケル粒子にナトリウムなどの不純物が巻き込まれるのを抑えることができるので、最終的に得られる酸化ニッケル微粉末の不純物品位を低減することができる。この液温が50℃未満では水酸化ニッケル粒子の成長が不十分になって、水酸化ニッケル粒子に巻き込まれる硫黄分等の不純物の量が多くなるおそれがある。逆にこの液温が70℃を超えると水の蒸発量が増加し、水溶液中の硫黄分等の不純物濃度が高くなるため、生成した水酸化ニッケル粒子中の硫黄分等の不純物品位が高くなるおそれがある。
【0055】
上記の晶析工程では、中和反応の反応時間を0.2~5時間にするのが好ましい。ここで中和反応の反応時間とは、所定の中和反応条件が維持される時間であり、例えば連続式完全混合槽型の反応槽で中和反応を行う場合は、その有効容量を硫酸ニッケル水溶液とアルカリ水溶液との合計供給量で除して得られる時間であり、この場合は滞留時間に相当する。例えば、オーバーフロー部を設けることで有効容積が10Lに維持されている反応槽に硫酸ニッケル水溶液とアルカリ水溶液とを合計20L/hで供給する場合、反応時間は10/20=0.5時間になる。
【0056】
この反応時間が0.2時間未満では水酸化ニッケル粒子に残存する硫黄分の量が増加しやすくなり、逆に5時間を超えると水酸化ニッケル粒子に残存するナトリウムの量が増加しやすくなる。よって、いずれの場合においても最終的に得られる酸化ニッケル微粉末の不純物品位が増大するおそれがある。上記中和反応の終了後は晶析により得た水酸化ニッケル粒子を含む沈殿物若しくはスラリーをフィルタープレス、遠心分離機、濾過器等の固液分離手段に導入し、ここで固液分離処理を行って水酸化ニッケル粒子群からなる固形分側を湿潤状態の塊の形態(以降、ケーキ又は湿潤ケーキとも称する)で回収する。
【0057】
上記の固液分離で回収したケーキは、必要に応じて水等の洗浄液を用いて洗浄してもよい。この場合の洗浄法にはケーキに洗浄液を加えて撹拌することでスラリーの形態で洗浄を行った後、該スラリーを固液分離手段に導入して固形分を洗浄液から分離するレパルプ洗浄が好ましい。このレパルプ洗浄により、水酸化ニッケル粒子に混在している硫酸イオン等の陰イオンやナトリウム成分を効果的に除去することができるので、最終的に得られる酸化ニッケル微粉末の不純物品位を特に低くすることが求められる場合は、焼成処理の前にレパルプ洗浄を行うのが好ましく、その場合の洗浄液には純水を用いるのがより好ましい。
【0058】
水を用いてレパルプ洗浄する場合は、水酸化ニッケル粒子に対する水の混合割合は、水酸化ニッケルに含まれるナトリウム等のアルカリ金属成分が十分に除去できるのであれば特に限定がないが、一般的には50~150gの水酸化ニッケルに対して1Lの洗浄液を混合するのが好ましく、100g程度の水酸化ニッケルに対して1Lの洗浄液を混合するのがより好ましい。上記の混合割合であれば、水酸化ニッケル中に残留するアルカリ金属等の不純物濃度を十分に低減でき且つ該水酸化ニッケル粒子を良好に分散することができる。
【0059】
また、上記のレパルプ洗浄の場合の洗浄時間についても、水酸化ニッケル粒子中の残留不純物が十分に低減可能であれば特に限定はないが、一般的には上記の洗浄液の混合割合や温度などの洗浄条件に応じて適宜調整するのが好ましい。なお、1回の洗浄でアルカリ金属等の不純物が十分に低減しない場合は、上記レパルプ洗浄を複数回繰り返すことが好ましい。特に、ナトリウム等のアルカリ金属は後段の焼成工程の熱処理ではほとんど除去できないため、この洗浄処理によって十分に除去することが好ましい。
【0060】
洗浄液に純水を用いる場合は、例えば洗浄後に測定した洗浄液の導電率が所定の値以下になるまで洗浄を繰り返すことで、不純物品位のばらつきを抑えることができる。上記のレパルプ洗浄で採用する固液分離手段にも特に限定はなく、濾過等の公知の固液分離手段を用いることができる。この固液分離手段により、再び水酸化ニッケル粒子群からなる湿潤ケーキが得られる。得られた湿潤ケーキに対して必要に応じて乾燥処理を行った後、前述した焼成工程で焼成処理を行う。この乾燥処理の条件は特に限定はなく、例えば100~150℃程度の大気雰囲気で8~24時間程度かけて乾燥するのが好ましい。
【0061】
(2)解砕工程
解砕工程は、前述した焼成工程によって生成した酸化ニッケル粒子の焼結体を破壊することで一次粒子同士の結合を分離し、これにより酸化ニッケル微粉末を得る工程である。すなわち、前述したように焼成工程では水酸化ニッケル粒子が熱分解されて酸化ニッケル粒子が生成されるが、その際、前述したように硫酸成分により酸化ニッケル粒子の粗大化が抑制されるものの、得られた微細な酸化ニッケルの一次粒子同士が高温の影響により焼結する現象がある程度発生する。この焼結により生じた二次粒子からなる焼結体の焼結部分を破壊するため、該焼成処理後の酸化ニッケル粉末に対して解砕処理を行う。この解砕処理では二次粒子同士を衝突させたり、該二次粒子に圧縮力やせん断力を加えたりすることにより所望の粒度を有する酸化ニッケル微粉末を作製する。
【0062】
この解砕処理に用いる解砕装置には特に限定はなく、一般的なものを用いることができる。例えば、容器内にビーズミルやボールミル等の解砕メディアと共に酸化ニッケル粉末を装入して該容器を回転等させて解砕処理を行う粉砕機でもよいし、解砕メディアを用いないで酸化ニッケル粉末自身の流体エネルギーを利用してせん断や粒子同士の衝突により解砕処理を行うジェットミル等の粉砕機でもよい。また、目的とする粒径サイズによっては、マスコロイダー(登録商標)等の磨砕機を用いてもよい。前工程の焼成工程で生成される酸化ニッケルの焼結体は、通常は平均粒径D50が0.3~0.6μm程度の一次粒子が凝集して焼結した二次粒子であり、例えば目標とする粉末の粒径が平均粒径D50で10~20μm程度でよい場合は磨砕機を用いることができ、ほぼ一次粒子まで解砕することが求められる場合に粉砕機を用いればよい。
【0063】
3.酸化ニッケル微粉末の物性
上記の一連の工程からなる製造方法により作製される酸化ニッケル微粉末は、制御された硫黄含有量を有すると共に、粒径が極めて小さく微細である。具体的には、上記した各工程の条件を適宜調整することで硫黄含有量を100質量ppm以下に、より好ましくは50質量ppm以下にすることができ、ほぼ一次粒子まで解砕することで、レーザー散乱法で測定した平均粒径D50を0.6μm以下に、より好ましくは0.3~0.6μmに、更に好ましくは0.35~0.50μmにすることができる。
【0064】
更に、上記の酸化ニッケル微粉末は、BET法で測定した比表面積を2.0m/g以上にすることができる。この比表面積の上限値には特に限定はないが、通常は上記で説明した製造方法で得られる酸化ニッケル微粉末は6.0m/gが上限となる。この比表面積は、解砕条件等を適宜調整することで、より好適な範囲である3.0~6.0m/gに、特に好適な範囲である3.5~5.0m/gにすることができる。このように、本発明の実施形態の製造方法により作製される酸化ニッケル微粉末は、フェライト部品用の材料に代表される電子部品材料や、固体酸化物形燃料電池の電極用材料に代表される電池材料として特に好適である。なお、固体酸化物形燃料電池の電極用材料としては、硫黄含有量が100質量ppm以下であることが好ましい。
【符号の説明】
【0065】
1 焼成炉、2 集塵装置、3 硫酸回収装置、4 除害装置
図1