(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】曝気槽のメンテナンス管理方法及び装置
(51)【国際特許分類】
C02F 3/20 20230101AFI20240925BHJP
【FI】
C02F3/20 Z
(21)【出願番号】P 2020090654
(22)【出願日】2020-05-25
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】大月 孝之
(72)【発明者】
【氏名】鏡 つばさ
(72)【発明者】
【氏名】藤江 幸一
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106396150(CN,A)
【文献】中国実用新案第206970297(CN,U)
【文献】実開昭57-020667(JP,U)
【文献】特開平03-169389(JP,A)
【文献】久保田宏ほか,旋回流式エアレーションタンク内散気性能指標の実測,下水道協会誌,Vol.17, No.197,1980年10月,pp31-42
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00- 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
散気装置を有する曝気槽における該散気装置の性能を回復させるメンテナンスの要否を判定する方法であって、
前記散気装置における空気供給圧を計測し、
酸素溶解効率に相関した散気性能指標を検出し、
検出された散気性能指標
及び空気供給圧計測値に基づいて散気装置のメンテナンスの要否を判定する曝気槽のメンテナンス管理方法。
【請求項2】
前記散気性能指標は、以下の式(3)により定められた値である請求項1の曝気槽のメンテナンス管理方法。
【数1】
φ:散気性能指標[m]
h:散気装置の水深[m]
ν
m
:酸素の比容[Nm
3
/kg]
Cs:飽和溶存酸素濃度[kg/m
3
]
C:混合液中の溶存酸素濃度[kg/m
3
]
Z
0
:吹き込み空気中の酸素モル分率[-]
OTE:酸素移動効率[-]
式(3)において、酸素移動効率OTEは下記式(1)により求められた値である。
【数2】
OTE:酸素移動効率[-]
Z
0
:吹き込み空気中の酸素モル分率[-]
Z:排ガス中の酸素モル分率[-]
【請求項3】
前記散気装置のメンテナンスを行わない場合における、その後の所定期間内の曝気電力費用Aを算出し、
メンテナンスを行った場合における、その後の所定期間内の曝気電力費用とメンテナンス費用との合計費用Bを算出し、
BとAとを比較し、BがAよりも小さいならば前記メンテナンスを行うことを特徴とする請求項1又は2の曝気槽のメンテナンス管理方法。
【請求項4】
前記BがAよりも所定金額以上小さいときに前記メンテナンスを行う請求項3の曝気槽のメンテナンス管理方法。
【請求項5】
前記メンテナンスは、前記散気装置を構成する散気管の洗浄又は交換である請求項1~4のいずれかの曝気槽のメンテナンス管理方法。
【請求項6】
散気装置を有する曝気槽における該散気装置の性能を回復させるメンテナンスの要否を判定する装置であって、
前記散気装置における空気供給圧を計測する圧力計と、
酸素溶解効率に相関した散気性能指標を検出する検出手段と、
検出された散気性能指標
及び該圧力計の計測値に基づいて散気装置のメンテナンスの要否を判定する判定手段と
を有する曝気槽のメンテナンス管理装置。
【請求項7】
前記散気性能指標は、以下の式(3)により定められた値である請求項6の曝気槽のメンテナンス管理装置。
【数3】
φ:散気性能指標[m]
h:散気装置の水深[m]
ν
m
:酸素の比容[Nm
3
/kg]
Cs:飽和溶存酸素濃度[kg/m
3
]
C:混合液中の溶存酸素濃度[kg/m
3
]
Z
0
:吹き込み空気中の酸素モル分率[-]
OTE:酸素移動効率[-]
式(3)において、酸素移動効率OTEは下記式(1)により求められた値である。
【数4】
OTE:酸素移動効率[-]
Z
0
:吹き込み空気中の酸素モル分率[-]
Z:排ガス中の酸素モル分率[-]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曝気槽に設けられた散気装置のメンテナンスの要否を判定する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
好気性生物処理には、浮遊法(活性汚泥法)、流動床担体法など各種の処理方法があるが、いずれの処理方法においても、散気管による曝気を伴う処理が一般的である。
【0003】
散気管を用いた曝気槽の運転を継続すると、汚泥などにより散気孔が目詰まったり、散気管内に汚泥が堆積したりすることにより、散気管の通気差圧(圧損)が増加することがある。散気管の差圧が増大すると、必要量の散気空気量を維持するためのブロワ等の送気装置の電力消費量が多くなり、運転コストが増大してしまう。また、散気装置の最大酸素移動能力が低下するため、設計で想定した最大処理能力が発揮できなくなる。そのため、散気管に目詰まりなどが発生した場合には、曝気槽の液抜き、濾材の抜き出し等を行った後に、散気管を槽外へ取り出して洗浄または交換を行う(特許文献1,2)
特許文献3には、散気管の目詰まりを画像や圧損に基づいて検出し、散気管を洗浄することが記載されている。
【0004】
非特許文献1には、散気管の散気性能指標を風量、オフガス酸素濃度に基づき計測する手法について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-43789号公報
【文献】特開平11-156389号公報
【文献】特開2019-188273号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】久保田宏他,旋回式エアレーションタンク内散気性能指標の実測,下水道協会誌,Vol17,No.197,1980-10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
散気管に目詰まりなどが発生すると差圧が上がるため、特許文献3のように、散気管の差圧を検知することで散気管のメンテナンス作業が必要であることを検知することができる。
【0008】
しかし、散気管の差圧上昇が検知されないにも拘わらず散気装置による槽内液への酸素移動量が低下し、曝気槽の処理性能が低下する場合がある。
【0009】
例えば、散気管の開口部の破損・脱落により実質的に開口径が拡大し気泡径が粗大化する、気泡径が粗大化すると気液の接触面積が低下して槽内液への酸素移動量が低下する。散気管への配管の腐食により配管に穴が開き空気漏れが生じ散気管への風量が低下すると、散気装置による槽内液への酸素移動量が低下する。このような状況下では、差圧上昇は起こらないが、散気装置による槽内液への酸素移動量が低下し、曝気槽の処理性能が低下することになる。このため、必要量の散気空気量を維持するためのブロワ等の送気装置の電力消費量が多くなり、運転コストが増大してしまう。また、散気装置の最大酸素移動能力が低下するため、設計で想定した最大処理能力が発揮できなくなる。このような状況を検出するためには、非特許文献1に類する手法で散気装置自体の酸素溶解性の性能指標を計測することで散気管のメンテナンスが必要であることを検知することができる。
【0010】
これらの散気装置の性能劣化現象の発生頻度や発生するまでの期間は散気管の種類、施工方法、散気用の配管の素材選定、曝気を行う対象の排水清浄等の違いにより実機毎に異なると考えられ、適宜実機での性能確認が必要である。
【0011】
散気管の実機における酸素移動量は、主に散気管の設置水深及び運転条件としての風量及び反応槽バルク水の溶存酸素濃度(以下DOと記す)に依存することが知られている。散気管の設置水深は、装置の水深や散気管の底面からの設置高さにより決定されるため、実機毎に異なる。処理に必要な風量は実機毎に、また、同じ装置でも時間的に変化する原水負荷及び微生物膜利用処理の場合微生物の維持量に影響を受ける。DOは負荷や風量や装置の維持管理状態等様々な要因で時間的に変化する。結果、同じ散気装置を利用した場合でも酸素移動量は実機により異なり、統一した閾値で良否の判断ができない問題がある。この問題に対処するため、散気装置の風量及び設置水深及びDOに依存しない散気性能指標を散気管の性能劣化に利用することが望ましい。
【0012】
本発明は、散気装置の設置水深及び風量及びDOに依存しない散気装置の散気性能指標を検出し、検出した散気性能指標に基づいて散気装置のメンテナンス作業(洗浄または交換など)の要否を判定する曝気槽のメンテナンス管理方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の曝気槽のメンテナンス管理方法は、散気装置を有する曝気槽における該散気装置の性能を回復させるメンテナンスの要否を判定する方法であって、散気装置の設置水深及び風量及びDOに依存しない散気性能指標を検出し、検出された散気性能指標に基づいて散気装置のメンテナンスの要否を判定する。
本発明の一態様では、前記散気装置における空気供給圧を計測し、前記散気性能指標及び該空気供給圧計測値に基づいて散気装置のメンテナンスの要否を判定する。
【0014】
本発明の曝気槽のメンテナンス管理装置は、散気装置を有する曝気槽における該散気装置の性能を回復させるメンテナンスの要否を判定する装置であって、散気装置の設置水深及び風量及びDOに依存しない散気性能指標を検出し、検出された散気性能指標を検出する検出手段と、検出された散気性能指標に基づいて散気装置のメンテナンスの要否を判定する判定手段とを有する。
【0015】
本発明の一態様では、前記散気装置のメンテナンスを行わない場合における、その後の所定期間内の曝気電力費用Aを算出し、メンテナンスを行った場合における、その後の所定期間内の曝気電力費用とメンテナンス費用との合計費用Bを算出し、BとAとを比較し、BがAよりも小さいならば前記メンテナンスを行う。
【0016】
本発明の一態様では、記BがAよりも所定金額以上小さいときに前記メンテナンスを行う。
【0017】
本発明の一態様では、前記メンテナンスは、散気装置を構成する散気管の洗浄又は交換である。
【発明の効果】
【0018】
散気装置から散気された気体中の酸素の曝気槽内水への溶解効率が低下すると、曝気槽の処理性能が低下する。
【0019】
本発明では、曝気槽内水への酸素溶解効率と相関する散気性能指標を検出し、この散気性能指標に基づいて、散気装置の性能低下を推定し、散気装置のメンテナンスの要否を判定する。
【0020】
本発明によると、散気装置のメンテナンスの要否を適切に判定することができる。また、本発明によると、処理水の水質悪化の発生前に性能改善することも可能であり、長期的な安定処理を実現できる。
【0021】
本発明の一態様によると、散気装置のメンテナンス作業を実施する費用対効果に基づいて、散気装置のメンテナンスの要否を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明が適用される生物処理装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明では、曝気槽の酸素溶解効率に相関した散気性能指標を検出し、これに基づいて散気装置のメンテナンスの要否を判定する。
【0024】
[酸素移動効率の演算方法]
本発明の一態様では、酸素溶解効率に相関した散気性能指標として、酸素移動効率を検出(演算)する。酸素移動効率の演算方法について、
図1を用いて説明する。
【0025】
図1の生物処理装置では、被処理排水(原水)は、配管1を通じて曝気槽2に導入される。曝気槽2内には、生物膜を担持した担体Cが充填されている。曝気槽2内の底部には散気管3a,3b,3cが設置され散気装置を構成しており、ブロア4から配管5及び分岐配管5a,5b,5cを通じて空気が供給され、曝気が行われる。曝気槽2には天蓋2rが設けられている。
【0026】
生物膜によって好気的に生物処理された水は、スクリーン6を通り抜け、配管7から処理水として取り出される。
【0027】
この生物処理装置では、計測手段として、曝気槽2上部かつ天蓋2r下側の気相部ガス中の酸素濃度を測定する排ガス計24と、曝気槽2内のDO濃度を測定するDO計19と、ブロア4から散気管3a~3cへ供給される空気量を測定する風量計20と空気供給圧を測定する圧力計21が設けられている。
【0028】
<散気風量の風量計測値と排ガスの酸素濃度計測に基づく酸素移動効率の演算>
曝気風量と排ガス中の酸素濃度を計測し、酸素移動効率OTEを式1で表すことができる。
【0029】
【0030】
OTE:酸素移動効率(Oxygen Transfer Efficiency)[-]
Z0:吹き込み空気中の酸素モル分率[-]
Z:排ガス中の酸素モル分率[-]
【0031】
酸素移動効率は散気装置の設置条件及び運転条件の影響も加味した酸素溶解の性能を示している。また、曝気風量及び空気中の酸素量と同酸素移動効率から直接導くことができる処理水槽全体の酸素移動速度OTRも散気装置の酸素溶解の性能を示していると考えることができる。また、酸素移動速度は、概ね、装置運転条件により変わる散気風量及び飽和DOと計測時の計測時DOとの差に比例し、さらに散気装置の設計により決定される水深に比例することが知られている。従って、酸素移動速度を、散気風量と、飽和DOと計測時のDOとの差と、散気装置の水深で正規化すれば、運転条件及び設置条件の影響を除いた散気装置の酸素供給能力の性能が評価できることになる。散気装置の酸素供給に関わる性能の劣化を統一した閾値で管理するための指標として好適である。
【0032】
<散気性能指標φ>
酸素移動効率実測時の酸素移動速度OTR[次元MT-1]を、散気風速[次元L3T-1]で割り、飽和DOと処理水槽のバルクDOとの濃度差[次元ML-3]で割ると、風量及び飽和DOとDOとの濃度差に対して正規化した酸素移動効率に関する無次元量が得られる。さらに同酸素移動効率の無次元量を散気装置の水深[次元L]で割ると、風量及び飽和DOとDOとの濃度差に関して正規化した酸素移動効率の無次元量を単位水深あたりの値に正規化した値[次元L-1]が得られる。さらにその逆数をとると、風量及び飽和DOとDOとの濃度差に関して正規化した酸素移動効率の無次元量を得るために必要な水深[次元L]の値が得られる。本値を本特許では散気性能指標φと呼ぶ。散気性能指標φは、散気装置の性能以外で酸素移動速度に影響を与える風量及び飽和DOと計測時のDOとの差及び水深の影響について正規化を行った散気装置自体の酸素溶解性能を示す指標と考えることができる。同指標は、上記の説明から、数値が小さい程同じ酸素移動効率を得るために必要な水深が浅く即ち酸素溶解性能が高く、数値が大きい程同じ酸素移動効率を得るための水深が深く即ち酸素溶解性能が低いことになる。
【0033】
OTRは、式1で求めたOTE及びφを利用すると、式2で表すことができる。
【0034】
【0035】
OTR:酸素移動速度(Oxygen Transfer Rate)[kg/h]
Gv:曝気風量[m3/h]
Z0:吹き込み空気中の酸素モル分率[-]
OTE:酸素移動効率[-]
νm:酸素の比容[Nm3/kg]
h:散気装置の水深[m]
φ:散気性能指標[m]
Cs:飽和溶存酸素濃度(飽和DO)[kg/m3]
C:混合液中の溶存酸素濃度[kg/m3]
【0036】
式2で利用する飽和溶存酸素濃度Csは、曝気槽の水深と水温と槽内水の塩類濃度とから算出することができる。塩類濃度は直接計測してもよいし導電率などの測定値から換算してもよい。
【0037】
式2の関係から、散気性能指標φは、OTE計測値に基づき以下の数式3により定めることができる。
【0038】
【0039】
φ:散気性能指標[m]
h:散気装置の水深[m]
νm:酸素の比容[Nm3/kg]
Cs:飽和溶存酸素濃度[kg/m3]
C:混合液中の溶存酸素濃度[kg/m3]
Z0:吹き込み空気中の酸素モル分率[-]
OTE:酸素移動効率[-]
【0040】
本発明の曝気槽のメンテナンス管理装置は、次の記憶部、費用算出部及び判定部を備えることが好ましい。記憶部はコンピュータのメモリにより構成され、費用算出部及び判定部は、コンピュータのプログラムを実行することにより構成される。該コンピュータは、前記ブロア制御装置に、又はそれとは別に設置される。
【0041】
<記憶部>
以下のデータを事前に該記憶領域に記憶させておく。
(a)装置設計時に想定した、装置処理能力を維持するために必要な酸素供給能力
qO2,max,design
(b)散気装置の性能を回復させるメンテナンス作業の費用
(c)ブロワの送風性能に依存し散気装置の閉塞状況により変化する空気供給圧に対応して変化する最大曝気風量を算出する数式モデル
(d)原水の負荷状況及び装置の微生物膜保持量により変化するDO濃度の目標値やその他の曝気強度設定値から現状の必要曝気風量及び曝気動力にかかる電力使用量を算出する数式モデル
(e)電力使用量に対応する単価データ
(f)散気装置自身の散気性能指標φの計測値(OTE及びOTR及び最大曝気風量及び現状の必要曝気風量及び曝気電力について測定項目の実測値から算出したものを含む)を連続的または定期的に得たデータ。
【0042】
<最大曝気風量計算部>
最大曝気風量計算部は、散気性能指標φおよび現状の散気装置の状況により決まる空気供給圧から算出される最大曝気風量Gv,maxから式3により酸素供給の最大能力を算出する。
【0043】
<最大酸素供給能力算出部>
最大酸素供給速度qO2,max算出部は、散気性能指標φおよびブロワの送付性能に依存し現状の散気装置の閉塞状況により変化する空気供給圧から算出される最大曝気風量Gv,maxから式4により酸素供給の最大能力を算出する。
【0044】
【0045】
qO2,max:最大酸素供給速度[kg/d]
Gv,max:ブロワ性能と現状の空気供給圧から算出される最大曝気風量[Nm3/d]
h:散気装置の水深[m]
Cs:飽和溶存酸素濃度[kg/m3]
Cmax:最大負荷における混合液中の溶存酸素濃度目標値[kg/m3]
φ:酸素溶解性指標[m]
【0046】
<判定部>
判定部は、散気性能指標が所定値を下回るようになったときに、散気装置のメンテナンス作業が必要であると判定する。さらに、好ましくは判定部は散気性能指標が所定値以上で良好であっても空気供給圧が所定値を上回るようになったときはディフューザーの閉塞により動力消費が増加している可能性があると判定して散気装置のメンテナンス作業が必要であると判定する。
【0047】
<費用算出部>
費用算出部は、判定部によって散気装置のメンテナンス作業が必要であると判定されたとき、散気装置のメンテナンスを行わない場合における、その後の所定期間内の曝気電力費用Aを算出する。また、メンテナンスを行った場合における、その後の所定期間内の曝気電力費用とメンテナンス費用との合計費用Bを算出する。
【0048】
メンテナンスせずに現状維持するときの費用Aを算出するには、DO濃度の目標値やその他の曝気強度設定値あるいはその実測値から、現状の単位期間当たりの曝気動力にかかる電力使用量の算出値を求める。なお、曝気動力の実測値は随時大きく変動するので、算出実行時点から所定期間過去までの曝気動力の時系列の実測値から平均値として求める。該平均値の算出実行時点から所定期間未来までの単位期間の曝気動力が該平均値で一定であると仮定するか、曝気動力の経時的な上昇を予測する数式モデルによって未来の時系列の曝気動力の予測値を求める。そして、該算出平均値または予測値と、電力の単価とに基づいて、算出実行時点から所定期間未来までの曝気動力にかかる電力費用の累計金額を算出し、費用Aとする。
【0049】
散気装置のメンテナンス作業をしたときの費用Bを算出する場合には、散気装置の性能回復により酸素溶解効率が改善するとみなして、現状より低い風量で目標のDO目標値が達成できるとしたときの算出実行時点から所定期間未来までの曝気動力の予測値を求める。そして、該予測値と、電力の単価とに基づいて、算出実行時点から所定期間未来までの曝気動力にかかる電力費用の累計金額を算出する。そして、該累計金額と、前記メンテナンス作業の費用の合算額を求め、費用Bとする。メンテナンス作業の費用には、散気装置の洗浄、または交換を行うための交換機器の費用や配送費用、処理作業の労務費用が含まれる。
【0050】
<判定部>
判定部では、以下のいずれかを満たすとき、対応する散気装置または対応する曝気槽の散気装置の性能を回復させるメンテナンス作業を行うコストメリットがあると判定する。
【0051】
(i)最大酸素供給速度qO2,max<設計時の最大酸素供給速度qO2,max,design
(ii)費用A>費用B
(iii)所定期間を変動させたとき、費用A=費用B、あるいは、費用Aと費用Bと
が所定差額以下となるときの期間が所定値以下
【0052】
なお、例えば直列2段の曝気槽のそれぞれに散気装置として散気管が2系列ずつ計4系列が設置され、各散気管へ単一のブロワから酸素含有ガス(通常は空気)が供給される場合、曝気槽のDOや排気ガス中の酸素濃度は曝気槽毎にしか測定できないので、散気系統ごとでなく、曝気槽ごとに散気性能指標を測定することになる。
【0053】
従って、ある曝気槽の散気性能指標が低下したときには、仮に1系統の散気管のみが経年劣化していたとしても、劣化した散気管を特定することはできないので、当該曝気槽に設置されている2系統の散気管を洗浄または交換することになる。
【実施例】
【0054】
図1の生物膜処理装置において、平均TOC濃度150mg/Lの電子系製造工場からの有機排水を5年間にわたって処理した。
【0055】
曝気風量を流量計20で計測し、曝気槽のDO濃度をDO計19で計測し、排ガス中の酸素濃度を排ガス計24で計測した。
【0056】
水深5m、槽内水の水温の測定値及び塩類濃度の測定値から飽和DO濃度を算出した。
【0057】
散気性能指標φを前記(2)式に基づいて定期的に、1年ごとに測定し、散気性能指標φと原水TOC負荷あたり電力消費量原単位の経年変化を表1に示した。
【0058】
【0059】
表1の通り、散気性能指標φは年々増加し、散気管群の性能が低下していることが確認され、これに伴って原水TOC負荷あたりの電力消費量原単位が年々増加することが定量的に確認された。
【0060】
散気管のメンテナンスを行う場合と行わない場合との費用を対比するには、電力消費量が向こう1年間は一定であると仮定して、電力単価データを乗じて1年間の電力費用Aを算出する。また、散気管を交換したときには、電力消費量原単位は1年目と同等であるとして1年間の電力費用を算出し、この電力費用に散気管の交換費用を加算して費用Bとする。費用A,Bを比較することで投資対効果を知ることができる。
【符号の説明】
【0061】
2 曝気槽
3,3a,3b,3c 散気管
4 ブロア