(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】顔料組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 17/00 20060101AFI20240925BHJP
C09D 11/326 20140101ALI20240925BHJP
C09C 3/10 20060101ALI20240925BHJP
C09C 3/04 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
C09D17/00
C09D11/326
C09C3/10
C09C3/04
(21)【出願番号】P 2020116968
(22)【出願日】2020-07-07
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】内藤 和香奈
(72)【発明者】
【氏名】鳫林 秀樹
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-121237(JP,A)
【文献】特開2004-026927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 3/00- 3/12
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸価120~180mgKOH/g及び重量平均分子量8000~12000を有し、酸基を有する中和率0~10質量%の樹脂成分と、顔料成分と、塩基性化合物と、液状媒体とを混合することによって、前記樹脂成分の酸基が中和された第1の原料組成物を製造する工程A、
前記第1の原料組成物をローターステーター型処理機または超音波分散機で処理することによって第2の原料組成物を製造する工程B、及び、前記第2の原料組成物を、
前記第2の原料組成物同士を衝突させる構成を備えた斜向衝突型分散機で処理する工程Cを有することを特徴とする、前記顔料成分が前記樹脂成分によって液状媒体中に分散された顔料組成物の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂成分が、芳香族環式構造と(メタ)アクリル酸由来の構造単位を有するものである請求項1に記載の顔料組成物の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂成分は、前記樹脂成分の全量に対して芳香族環式構造を50~95質量%有するものである請求項2に記載の顔料組成物の製造方法。
【請求項4】
前記斜向衝突型分散機は、50~245MPaの範囲の圧力で、前記第2の原料組成物同士を衝突させる構成を備えたものである請求項1に記載の顔料組成物の製造方法。
【請求項5】
前記第2の原料組成物同士を斜向衝突させる構成を備えた分散機に、前記第2の原料組成物を繰り返し投入し処理する回数(パス回数)が、1~8回の範囲である請求項1または4に記載の顔料組成物の製造方法。
【請求項6】
前記ローターステーター型処理機が、インライン式処理機である請求項1に記載の顔料組成物の製造方法。
【請求項7】
前記顔料組成物がインクジェット印刷インク用の顔料組成物である請求項4~6のいずれか1項に記載の顔料組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
顔料組成物は、インクジェット印刷等の各種印刷において用いられる。顔料組成物の製造方法としては、顔料成分及び液状媒体を含有する原料組成物を分散機により処理することにより顔料組成物を得る方法が知られている(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
顔料組成物に対しては、印刷時の吐出ノズルの目詰まり等を抑制して良好な吐出安定性を得る観点から、粗大粒子数が少ないことが求められる。
【0005】
粗大粒子数の低減には、顔料、顔料分散樹脂等の樹脂成分及び液状媒体を含有する原料組成物を、長時間分散処理をしたり、繰り返し分散機に投入し処理する方法が効果的である。
【0006】
しかし、前記方法では、顔料組成物やインク等の生産効率を向上させることができない場合があった。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、顔料組成物に含まれうる粗大粒子の数を低減でき、経時的な粗大粒子の数の増加による保存安定性の低下を防止でき、顔料組成物の生産効率の向上とを両立可能な顔料組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、酸価120~180mgKOH/g及び重量平均分子量8000~12000を有し、酸基を有する中和率0~10質量%の樹脂成分と、顔料成分と、塩基性化合物と、液状媒体とを混合することによって、前記樹脂成分の酸基が中和された第1の原料組成物を製造する工程A、前記第1の原料組成物をローターステーター型処理機またはビーズミル処理機または超音波分散機またはディスパーで処理することによって第2の原料組成物を製造する工程B、及び、前記第2の原料組成物を、前記第2の原料組成物同士を衝突させる構成または前記第2の原料組成物を硬質体に衝突させる構成を備えた分散機で処理する工程Cを有することを特徴とする、前記顔料成分が前記樹脂成分によって液状媒体中に分散された顔料組成物の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の顔料組成物の製造方法によれば、顔料組成物に含まれうる粒子径1.0μm以上の粗大粒子の数を低減でき、経時的な粗大粒子の数の増加による保存安定性の低下を防止でき、顔料組成物の生産効率の向上とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】ローターステーター型の処理機の一例を示す模式断面図である。
【
図2】ローターステーター型の処理機におけるステーターの例を示す模式側面図である。
【
図3】ローターステーター型の処理機における粉砕処理又は解砕処理を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸、及び、それに対応するメタクリル酸の総称を表し、「(メタ)アクリレート」等の他の類似の表現においても同様である。
【0013】
本発明の顔料組成物の製造方法は、酸価120~180mgKOH/g及び重量平均分子量8000~12000を有し、酸基を有する中和率0~10質量%の樹脂成分と、顔料成分と、塩基性化合物と、液状媒体とを混合することによって、前記樹脂成分の酸基が中和された第1の原料組成物を製造する工程A、前記第1の原料組成物をローターステーター型処理機またはビーズミル処理機または超音波分散機またはディスパーで処理することによって第2の原料組成物を製造する工程B、及び、前記第2の原料組成物を、前記第2の原料組成物同士を衝突させる構成または前記第2の原料組成物を硬質体に衝突させる構成を備えた分散機で処理する工程Cを有することを特徴とする。
【0014】
前記方法で得られた顔料組成物は、前記顔料成分が前記顔料分散樹脂等の樹脂成分によって、水等の液状媒体中に分散したもの(具体的には水性顔料分散体)を指す。前記顔料組成物は、インクを製造するための材料に用いてもよく、前記顔料組成物そのものをインクとして用いてもよい。前記顔料組成物は、例えば、印刷用インクや前記印刷用インクを製造するために使用することが好ましく、インクジェット印刷用インクやインクジェット印刷用インクを製造するために使用することがより好ましい。
【0015】
前記顔料組成物を前記インクジェット印刷用インクの製造用に使用する場合、前記顔料組成物は、前記顔料組成物の全量に対する固形分の比率が1質量%~60質量%の範囲であることが好ましく10質量%~30質量%の範囲であることがより好ましい。
【0016】
はじめに、本発明の工程Aについて説明する。
【0017】
工程Aは、酸価120~180mgKOH/g及び重量平均分子量8000~12000を有し、酸基を有する中和率0~10質量%の樹脂成分と、顔料成分と、塩基性化合物と、液状媒体とを混合することによって、前記樹脂成分の酸基が中和された第1の原料組成物を製造する工程である。ここで、前記工程Aの代わりに、予め前記酸基が塩基性化合物によって中和された樹脂成分の水分散体または水溶液を用意し、前記水分散体等と顔料等とを混合する工程を経て得られた原料組成物を用いた場合、原料組成物の泡立ちによって原料組成物に加わる剪断力が若干低下し、顔料成分への樹脂成分の吸着量が若干低下し、顔料組成物の保存安定性が低下する場合がある。
【0018】
前記工程Aの実施形態としては、例えば以下の(i)~(iii)が挙げられる。
(i)水や有機溶剤等の液状媒体と、塩基性化合物またはその水溶液とを混合して混合物を製造する。前記混合物に、前記顔料分散樹脂等の樹脂成分と顔料成分とをそれぞれ別々に供給、または、前記顔料分散樹脂等の樹脂成分と顔料成分とをあらかじめ混合したものを供給し混合する工程。
(ii)水や有機溶剤等の液状媒体と、前記顔料分散樹脂等の樹脂成分と顔料成分とを混合して混合物を製造する。前記混合物に、塩基性化合物またはその水溶液とを混合する工程。
(iii)水や有機溶剤等の液状媒体と、顔料成分とを混合して混合物を製造する。前記混合物に前記顔料分散樹脂等の樹脂成分を混合して混合物を製造する。前記混合物に、塩基性化合物またはその水溶液とを混合する工程。
【0019】
前記顔料分散樹脂等の樹脂成分と、顔料成分と、塩基性化合物と、液状媒体とを混合する際には、それらを一括して容器へ供給し混合してもよく、それらの一部または全部を逐次供給し混合してもよい。
【0020】
前記顔料分散樹脂等の樹脂成分は、予め中和された分散体や水溶液の形態で容器に供給させるのではなく、固体状(粉末状)の形態で容器に供給されることが、原料組成物への剪断力が向上し、顔料成分に樹脂成分が吸着しやすく、顔料組成物の保存安定性が向上するため好ましい。
【0021】
前記工程Aで使用する樹脂成分としては、中和率0~10質量%の樹脂成分を使用する。すなわち、前記樹脂成分としては、前記樹脂成分が有する酸基の全部または大部分が塩基性化合物によって中和されていないものを使用する。前記樹脂成分としては、中和率が0~10質量%のものを使用することが好ましく、0~5質量%のものを使用することがより好ましく、0~0.1質量%のものを使用することが好ましく、0質量%のものを使用することが、原料組成物への剪断力が向上し、顔料成分に樹脂成分が吸着しやすく、顔料組成物の保存安定性が向上するため好ましい。
【0022】
ここで、前記中和率とは、下記式によって算出された値を指す。
【0023】
中和率[%]=((塩基性化合物の質量[g]×56×1000)/(樹脂成分の酸価×塩基性化合物の当量×(樹脂成分の質量[g]))×100
【0024】
一方、前記工程Aを経て得られた第1の原料組成物に含まれる樹脂成分の酸基は、前記工程Aの過程で塩基性化合物によって中和される。第1の原料組成物に含まれる樹脂成分の中和率は、50~100質量%の範囲であることが好ましく、80~100質量%の範囲であることが好ましく、90~100質量%の範囲であることが、前記液状媒体に対する前記樹脂成分の溶解性を向上するうえで特に好ましい。
【0025】
前記工程Aを経て得られた第1の原料組成物に含まれる顔料分散樹脂の中和率が上記範囲であると、前記樹脂成分が水を含む液状媒体に溶解または分散しやすくなり、顔料成分の表面への吸着が促進され、良好な分散状態を維持しやすい。その結果、顔料組成物における固形分の経時的な沈降の発生を防止する優れた保存安定性を得やすく、インクにおける固形分の経時的な沈降の発生を防止しやすく、インク吐出初期におけるインク吐出ノズルの目詰まり等を引き起こすことを抑制しやすく(優れた初期吐出安定性を得やすい)、経時的なインク吐出ノズルの目詰まり等を引き起こすことを抑制しやすい(優れた経時吐出安定性を得やすい)。
【0026】
顔料分散樹脂等の樹脂成分としては、酸価120~180mgKOH/gのものを使用する。これにより、顔料分散樹脂等の樹脂成分の顔料成分への吸着性を高めることができ、液状媒体(例えば、水及び水溶性有機溶剤を含む液状媒体)への適度な親和性を得やすいことから、良好な分散状態を維持しやすい。そのため、顔料組成物における固形分の経時的な沈降の発生を防止する優れた保存安定性を得やすく、インクにおける固形分の経時的な沈降の発生を防止しやすく、インク吐出初期におけるインク吐出ノズルの目詰まり等を引き起こすことを抑制しやすく(優れた初期吐出安定性を得やすい)、経時的なインク吐出ノズルの目詰まり等を引き起こすことを抑制しやすい(優れた経時吐出安定性を得やすい)。
【0027】
前記樹脂成分の酸価は、120~180の範囲であることが好ましく、150~180の範囲であることが、顔料組成物における固形分の経時的な沈降の発生を防止する優れた保存安定性を得やすく、インクにおける固形分の経時的な沈降の発生を防止しやすく、インク吐出初期におけるインク吐出ノズルの目詰まり等を引き起こすことを抑制しやすく、経時的なインク吐出ノズルの目詰まり等を引き起こすことを抑制しやすいため特に好ましい。
【0028】
酸価は、カルボキシ基、スルホ基、リン酸基等のアニオン性基に由来する酸価であることが好ましい。酸価は、溶剤としてジエチルエーテルの代わりにテトラヒドロフランを用いること以外は、日本工業規格「K0070:1992. 化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法」に従って測定された数値であり、顔料分散樹脂等の樹脂成分1gを完全に中和するのに必要な水酸化カリウムの量(mg)を指す。
【0029】
顔料分散樹脂等の樹脂成分としては、重量平均分子量が8000~12000のものを使用する。これにより、近接する顔料成分との凝集が抑制され、顔料組成物における固形分の経時的な沈降の発生を防止する優れた保存安定性を得やすく、インクにおける固形分の経時的な沈降の発生を防止しやすく、インク吐出初期におけるインク吐出ノズルの目詰まり等を引き起こすことを抑制しやすく(優れた初期吐出安定性を得やすい)、経時的なインク吐出ノズルの目詰まり等を引き起こすことを抑制しやすい(優れた経時吐出安定性を得やすい)。「重量平均分子量」とは、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法で測定される値であり、標準物質として使用するポリスチレンの分子量に換算した値である。
【0030】
前記樹脂成分の重量平均分子量は、8000~12000の範囲であることが好ましく、8500~11000の範囲であることが、顔料組成物における固形分の経時的な沈降の発生を防止する優れた保存安定性を得やすく、インクにおける固形分の経時的な沈降の発生を防止しやすく、インク吐出初期におけるインク吐出ノズルの目詰まり等を引き起こすことを抑制しやすく、経時的なインク吐出ノズルの目詰まり等を引き起こすことを抑制しやすいため特に好ましい。
【0031】
原料組成物は、樹脂成分を含有することができる。樹脂成分としては、顔料分散樹脂、バインダー樹脂等が挙げられる。樹脂成分としては、従来知られた樹脂を使用できるが、例えばラジカル重合体を使用することができ、芳香族環式構造又は複素環式構造を有するラジカル重合体を使用することが好ましい。この場合、顔料分散樹脂等の樹脂成分と顔料成分との間のπ-π相互作用や疎水性相互作用等によって顔料分散樹脂等の樹脂成分が顔料成分に吸着しやすくなり、顔料組成物における固形分の経時的な沈降の発生を防止する優れた保存安定性を得やすく、インクにおける固形分の経時的な沈降の発生を防止しやすく、インク吐出初期におけるインク吐出ノズルの目詰まり等を引き起こすことを抑制しやすく(優れた初期吐出安定性を得やすい)、経時的なインク吐出ノズルの目詰まり等を引き起こすことを抑制しやすい(優れた経時吐出安定性を得やすい)。
【0032】
芳香族環式構造又は複素環式構造としては、例えば、芳香族環式構造又は複素環式構造を有する単量体を使用することによってラジカル重合体に導入された環式構造が挙げられる。芳香族環式構造は、ベンゼン環構造が好ましく、スチレン由来の構造がより好ましい。芳香族環式構造又は複素環式構造を有するラジカル重合体である樹脂成分を使用することによって、顔料分散樹脂等の樹脂成分の顔料成分への吸着性を高めることができ、顔料組成物における固形分の経時的な沈降の発生を防止する優れた保存安定性を得やすく、インクにおける固形分の経時的な沈降の発生を防止しやすく、インク吐出初期におけるインク吐出ノズルの目詰まり等を引き起こすことを抑制しやすく(優れた初期吐出安定性を得やすい)、経時的なインク吐出ノズルの目詰まり等を引き起こすことを抑制しやすい(優れた経時吐出安定性を得やすい)。
【0033】
顔料分散樹脂等の樹脂成分として使用可能なラジカル重合体としては、例えば、各種単量体をラジカル重合することによって得られた重合体を使用することができる。
【0034】
単量体としては、顔料分散樹脂等の樹脂成分に芳香族環式構造を導入する場合であれば、芳香族環式構造を有する単量体を使用することができ、複素環式構造を導入する場合であれば、複素環式構造を有する単量体を使用することができる。
【0035】
芳香族環式構造を有する単量体としては、スチレン、p-tert-ブチルジメチルシロキシスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p -tert-ブトキシスチレン、m-tert-ブトキシスチレン、p-tert-(1-エトキシメチル)スチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、p-フロロスチレン、α-メチルスチレン、p-メチル-α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等が挙げられる。
【0036】
複素環式構造を有する単量体としては、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン等のビニルピリジン系単量体などが挙げられる。
【0037】
ラジカル重合体として、芳香族環式構造及び複素環式構造の両方を有する重合体を使用する場合、単量体として、芳香族環式構造を有する単量体、及び、複素環式構造を有する単量体を組み合わせて使用することができる。
【0038】
顔料分散樹脂等の樹脂成分としては、芳香族環式構造を有するラジカル重合体が好ましい。そのため、単量体としては、芳香族環式構造を有する単量体が好ましく、スチレン、α-メチルスチレン及びtert-ブチルスチレンからなる群より選ばれる少なくとも一種がより好ましい。
【0039】
芳香族環式構造又は複素環式構造を有する単量体の含有量は、顔料分散樹脂等の樹脂成分の顔料成分への吸着性をより一層高める観点から、単量体の全量を基準として、20質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50~95質量%が更に好ましい。
【0040】
顔料分散樹脂等の樹脂成分としては、後述の範囲の酸価を有するラジカル重合体を製造する観点から、単量体として、酸基を有する単量体を使用することができる。
【0041】
酸基を有する単量体としては、例えば、カルボキシ基、スルホ基、リン酸基等を有する単量体が挙げられる。酸基を有する単量体としては、カルボキシ基を有する単量体が好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸からなる群より選ばれる少なくとも一種がより好ましい。これらの場合、顔料組成物における固形分の経時的な沈降の発生を防止する優れた保存安定性を得やすく、インクにおける固形分の経時的な沈降の発生を防止しやすく、インク吐出初期におけるインク吐出ノズルの目詰まり等を引き起こすことを抑制しやすく(優れた初期吐出安定性を得やすい)、経時的なインク吐出ノズルの目詰まり等を引き起こすことを抑制しやすい(優れた経時吐出安定性を得やすい)。
【0042】
酸基を有する単量体の含有量は、後述の範囲の酸価を有するラジカル重合体を得やすい観点から、樹脂成分の製造に使用可能な単量体の全量を基準として、5~80質量%が好ましく、5~60質量%がより好ましく、5~50質量%が更に好ましい。
【0043】
顔料分散樹脂等の樹脂成分の製造に使用可能な単量体としては、上述の単量体以外に、必要に応じて、その他の単量体を使用することができる。その他の単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルブチル(メタ)アクリレート、1,3-ジメチルブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-メチルブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、3-エトキシプロピル(メタ)アクリレート、3-エトキシブチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エチル-α-(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、グリセリン(メタ)アクリレート、ビスフェノールA(メタ)アクリレート、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、酢酸ビニル等が挙げられる。これらの単量体は、1種単独又は2種以上組合せ使用することができる。その他の単量体としては、このようなアクリレート又はメタクリレートを1種単独で用いてもよく、アクリレートとメタクリレートとを組み合わせて用いてもよい。
【0044】
顔料分散樹脂等の樹脂成分としては、単量体のラジカル重合によって形成される構造が線状(リニア)である重合体、分岐(グラフト)した構造を有する重合体、架橋した構造を有する重合体等を使用することができる。それぞれの重合体においてモノマー配列は特に限定することはなく、ランダム型配列又はブロック型配列の重合体を使用することができる。
【0045】
架橋構造を有する重合体は、単量体として、架橋性官能基を有する単量体を使用することによって製造することができる。架橋性官能基を有する単量体としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリ(オキシエチレンオキシプロピレン)グリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンのアルキレンオキシド付加物のトリ(メタ)アクリレート等の、多価アルコールのポリ(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート;ジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0046】
顔料分散樹脂等の樹脂成分としては、上述の単量体由来の構造単位を有する重合体を使用できるが、アニオン性基を有する単量体、及び、芳香族環式構造又は複素環式構造を有する単量体のみを重合して得られる重合体が好ましい。
【0047】
顔料分散樹脂等の樹脂成分としては、スチレン由来の構造単位と(メタ)アクリル酸由来の構造単位とを有する重合体が好ましく、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、及び、スチレン-(メタ)アクリル酸系エステル-(メタ)アクリル酸共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種がより好ましい。スチレン由来の構造単位と(メタ)アクリル酸由来の構造単位とを有する重合体は、後述の範囲の酸価を有することが好ましい。スチレン由来の構造単位中の芳香環部位が顔料成分の表面に強固に吸着し、(メタ)アクリル酸由来の構造単位中のカルボキシ基が水と良好な親和性を有することにより良好な分散安定化が得られやすい。これにより、顔料組成物における固形分の経時的な沈降の発生を防止する優れた保存安定性を得やすく、インクにおける固形分の経時的な沈降の発生を防止しやすく、インク吐出初期におけるインク吐出ノズルの目詰まり等を引き起こすことを抑制しやすく(優れた初期吐出安定性を得やすい)、経時的なインク吐出ノズルの目詰まり等を引き起こすことを抑制しやすい(優れた経時吐出安定性を得やすい)。
【0048】
スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体としては、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、及び、スチレン-アクリル酸-メタクリル酸共重合体のいずれも使用できるが、スチレン-アクリル酸共重合体及びスチレン-アクリル酸-メタクリル酸共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましい。この場合、顔料成分との吸着力、及び、水中での分散力を調整しやすく、その結果、顔料組成物における固形分の経時的な沈降の発生を防止する優れた保存安定性を得やすく、インクにおける固形分の経時的な沈降の発生を防止しやすく、インク吐出初期におけるインク吐出ノズルの目詰まり等を引き起こすことを抑制しやすく(優れた初期吐出安定性を得やすい)、経時的なインク吐出ノズルの目詰まり等を引き起こすことを抑制しやすい(優れた経時吐出安定性を得やすい)。
【0049】
スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体において、スチレン由来の構造単位、アクリル酸由来の構造単位及びメタクリル酸由来の構造単位の合計量は、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の構造単位の全量を基準として、80~100質量%が好ましく、90~100質量%がより好ましい。
【0050】
ラジカル重合の際の各単量体のラジカル重合率(反応率)は、ほぼ同一とし、各単量体の使用割合(仕込み割合)が、ラジカル重合体を構成する各単量体由来の構造単位の割合と同一であるとみなす。
【0051】
ラジカル重合体は、例えば、上述の単量体を、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の方法でラジカル重合することによって製造することができる。
【0052】
ラジカル重合体を製造する際には、必要に応じて、公知慣用の重合開始剤、連鎖移動剤(重合度調整剤)、界面活性剤、消泡剤等を使用することができる。
【0053】
重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、ベンゾイルパーオキサイド、ジブチルパーオキサイド、ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。重合開始剤の含有量は、ラジカル重合体の製造に使用する単量体の全量を基準として0.1~10質量%が好ましい。
【0054】
溶液重合法で得られたラジカル重合体を使用する場合、顔料分散樹脂等の樹脂成分としては、溶液重合法で得られたラジカル重合体溶液に含まれる溶剤を除去した後、乾燥及び粉砕して微粒子化したラジカル重合体を使用することができる。微粒子化されたラジカル重合体である樹脂成分は、水溶性有機溶剤及び塩基性化合物を組み合わせて使用する場合に、第0の工程で塩基性化合物により中和され、水溶性有機溶剤を含む液状媒体に溶解し、液状媒体で濡れた顔料成分の表面への吸着が進行する。その結果、顔料組成物における固形分の経時的な沈降の発生を防止する優れた保存安定性を得やすく、インクにおける固形分の経時的な沈降の発生を防止しやすく、インク吐出初期におけるインク吐出ノズルの目詰まり等を引き起こすことを抑制しやすく(優れた初期吐出安定性を得やすい)、経時的なインク吐出ノズルの目詰まり等を引き起こすことを抑制しやすい(優れた経時吐出安定性を得やすい)。
【0055】
顔料分散樹脂等の樹脂成分としては、目の大きさ(直径)が1mm以下のメッシュ状のふるいにより分級した樹脂成分が好ましい。
【0056】
顔料分散樹脂等の樹脂成分の含有量は、前記第1の原料組成物に含まれる顔料成分100質量部に対して、5~200質量部が好ましく、10~100質量部がより好ましい。これにより、液状媒体(例えば水)に対する十分な親和性によって良好な分散状態を維持しやすく、顔料分散樹脂等の樹脂成分が顔料成分に吸着しやすいことから、顔料組成物における固形分の経時的な沈降の発生を防止する優れた保存安定性を得やすく、インクにおける固形分の経時的な沈降の発生を防止しやすく、インク吐出初期におけるインク吐出ノズルの目詰まり等を引き起こすことを抑制しやすく(優れた初期吐出安定性を得やすい)、経時的なインク吐出ノズルの目詰まり等を引き起こすことを抑制しやすい(優れた経時吐出安定性を得やすい)。また、顔料成分に吸着しない遊離した顔料分散樹脂等の樹脂成分の量を減少させ、インクの吐出性が向上しやすい。さらに、遊離した顔料分散樹脂等の樹脂成分による顔料成分の凝集を抑制しやすく、インクを安定化しやすい。
【0057】
次に、前記工程Aで使用する塩基性化合物について説明する。
【0058】
前記塩基性化合物は、中和率0~10質量%の樹脂成分が有する酸基を中和するために使用する。
【0059】
塩基性化合物としては、無機系塩基性化合物、有機系塩基性化合物等を使用することができる。無機系塩基性化合物としては、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物;カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;カルシウム、バリウム等の炭酸塩などが挙げられる。有機系塩基性化合物としては、トリエタノールアミン、N,N-ジメタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン等のアミノアルコール類;モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン等のモルホリン類;N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、ピペラジンヘキサハイドレート等のピペラジン;水酸化アンモニウムなどが挙げられる。塩基性化合物は、顔料分散樹脂等の樹脂成分の中和効率に優れるため、顔料分散樹脂等の樹脂成分が吸着した顔料成分の水等の液状媒体中での分散安定性が向上しやすい観点から、アルカリ金属水酸化物(水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等)が好ましく、水酸化カリウムがより好ましい。
【0060】
前記塩基性化合物は、前記工程Aで使用される際には、予め水に溶解または分散した形態で使用されることが好ましい。
【0061】
前記塩基性化合物は、前記第1の原料組成物に含まれる樹脂成分の中和率が50~100質量%の範囲となる量を使用することが好ましく、80~100質量%の範囲となる量を使用することが好ましく、90~100質量%の範囲となる量を使用することが、前記液状媒体に対する前記樹脂成分の溶解性を向上するうえで特に好ましい。
【0062】
次に、前記工程Aで使用する顔料成分について説明する。
【0063】
顔料成分としては、顔料及び顔料誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
【0064】
顔料としては、無機顔料又は有機顔料を使用することができる。無機顔料としては、酸化鉄、カーボンブラック(例えば、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の公知の方法によって製造されたカーボンブラック)、酸化チタンなどが挙げられる。有機顔料としては、アゾ顔料(不溶性アゾ顔料(モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、ピラゾロン顔料等)、ベンズイミダゾロン顔料、ベータナフトール顔料、ナフトールAS顔料、縮合アゾ顔料など)、多環式顔料(キナクリドン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、イソインドリン顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料等)、フタロシアニン顔料、染料キレート(塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどが挙げられる。これらの無機顔料及び有機顔料は、印刷用インク(例えばインクジェット印刷用インク)の製造に好適に用いることができる。顔料としては、1種単独又は2種以上組み合わせ使用することができる。
【0065】
カーボンブラックとしては、三菱ケミカル株式会社製の#2300、#980、#960、#900、#52、#45L、#45、#40、#33、MA100、MA8、MA7等;キャボット社製のRegalシリーズ、Monarchシリーズ等;オリオン・エンジニアドカーボンズ株式会社製のColor Black FW1、Color Blackシリーズ、Printexシリーズ、Special Blackシリーズ、NIPEXシリーズ等を使用することができる。
【0066】
顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、138、150、151、154、155、174、180、185等のイエロー顔料を使用することができる。
【0067】
顔料としては、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、146、149、150、168、176、184、185、202、209、213、269、282等のマゼンタ顔料を使用することができる。
【0068】
顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、22、60、63、66等のシアン顔料を使用することができる。
【0069】
顔料としては、C.I.ピグメントオレンジ5、13、16、17、34、36、43、51、64、71等のオレンジ顔料を使用することができる。
【0070】
顔料としては、C.I.ピグメントバイオレット1、3、5:1、16、19、23、38等のバイオレット顔料を使用することができる。
【0071】
顔料としては、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36、50、58等のグリーン顔料を使用することができる。
【0072】
顔料としては、ドライ顔料(ドライパウダーの状態の顔料)又はウェット顔料(ウェットケーキの状態の顔料)を使用することができる。マゼンタ顔料としては、粗大粒子数を効率よく低減しやすい観点、及び、固形分の所望の物性(粗大粒子数、粒子径等)を有する顔料組成物を前記工程Cを経て得るための時間を短縮化しやすい観点から、ウェット顔料が好ましい。シアン顔料としては、粗大粒子数を効率よく低減しやすい観点、及び、固形分の所望の物性(粗大粒子数、粒子径等)を有する顔料組成物を前記工程Cを経て得るための時間を短縮化しやすい観点から、ドライ顔料が好ましい。顔料としては、2種以上を含む混合物又は固溶体を使用することもできる。
【0073】
前記顔料成分としては、上記した顔料とともに顔料誘導体を組み合わせ使用することができる。
【0074】
前記顔料誘導体としては、顔料に官能基を導入した化合物を使用することができる。顔料誘導体を与える顔料としては、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、アントラキノン系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料等が挙げられる。官能基としては、カルボキシ基、スルホ基、アミノ基、ニトロ基、酸アミド基、カルボニル基、カルバモイル基、フタルイミド基、スルホニル基等が挙げられる。顔料誘導体は、顔料組成物又はインクに、経時的な粗大粒子の発生防止と、顔料成分等の経時的な沈降の発生防止とを可能にする分散安定性を付与することができる。
【0075】
顔料成分の一次粒子径は、顔料成分の経時的な沈降をより一層効果的に抑制しやすい観点から、1.0μm以下が好ましく、0.01~0.5μmがより好ましい。一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を使用して測定した数平均粒子径の値を指す。
【0076】
顔料成分は、第1の原料組成物の全量を基準として、1~50質量%が好ましく、10~30質量%がより好ましく、15~25質量%が更に好ましい。これらの場合、適度な流動性を得やすいことから各プロセスで効率的かつ均一な処理を行うことができ、顔料組成物における固形分の経時的な沈降の発生を防止する優れた保存安定性を得やすく、インクにおける固形分の経時的な沈降の発生を防止しやすく、インク吐出初期におけるインク吐出ノズルの目詰まり等を引き起こすことを抑制しやすく(優れた初期吐出安定性を得やすい)、経時的なインク吐出ノズルの目詰まり等を引き起こすことを抑制しやすい(優れた経時吐出安定性を得やすい)。
【0077】
次に、前記工程Aで使用する液状媒体について説明する。
【0078】
液状媒体としては、水性媒体(水等)、有機溶剤などを使用することができる。本発明の顔料組成物を製造する際に分散機として高圧ホモジナイザーを用いる場合、高圧力がかかることから高沸点溶剤(例えば、沸点100℃以上の溶剤)を用いることが好ましい。
【0079】
水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等のイオン交換水;超純水等が挙げられる。水としては、顔料組成物又はインクを長期保存する場合においてカビ又はバクテリアの発生を防止しやすい観点から、紫外線照射、過酸化水素添加等によって滅菌された水を用いることが好ましい。
【0080】
前記水は、本発明の顔料組成物に含まれる液状媒体の全量に対して10~90質量%の範囲で使用することが好ましく、15~80質量%の範囲で使用することが、水性インクを製造するうえで好ましい。
【0081】
有機溶剤としては、水溶性有機溶剤を使用することができる。水溶性有機溶剤は、顔料成分の表面を効率的に濡らしやすく、水に溶解した樹脂成分(例えば樹脂中和物)が顔料成分に吸着しやすくなり、所望の物性に到達するまでの時間を短縮しやすい。
【0082】
水溶性有機溶剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール等のジオール類;ラウリン酸プロピレングリコール等のグリコールエステル;ジエチレングリコールモノエチル、ジエチレングリコールモノブチル、ジエチレングリコールモノヘキシル、カルビトール等のジエチレングリコールエーテル類;プロピレングリコールエーテル、ジプロピレングリコールエーテル又はトリエチレングリコールエーテルを含むセロソルブ等のグリコールエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、ブチルアルコール、ペンチルアルコール等のアルコール類(グリコール類を除く);スルホラン、エステル、ケトン、γ-ブチロラクトン等のラクトン類;N-(2-ヒドロキシエチル)ピロリドン、2-ピロリドン等のラクタム類;グリセリン及びそのポリアルキレンオキサイド付加物などが挙げられる。水溶性有機溶剤は、1種単独又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0083】
水溶性有機溶剤の含有量は、前記第1の原料組成物に含まれる顔料成分100質量部に対して、10~500質量部が好ましく、15~200質量部がより好ましく、15~150質量部がより好ましい。前記範囲の水溶性有機溶剤を使用することによって、前記顔料成分の表面への前記樹脂成分の吸着率が向上し、顔料組成物における固形分の経時的な沈降の発生を防止する優れた保存安定性を得やすく、インクにおける固形分の経時的な沈降の発生を防止しやすく、インク吐出初期におけるインク吐出ノズルの目詰まり等を引き起こすことを抑制しやすく(優れた初期吐出安定性を得やすい)、経時的なインク吐出ノズルの目詰まり等を引き起こすことを抑制しやすい(優れた経時吐出安定性を得やすい)。前記吸着率を向上させることのできる水溶性有機溶剤としては、例えばトリエチレングリコール、グリセリン、2-ピロリドン、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、1,5-ペンタンジオール等が挙げられる。
【0084】
また、顔料組成物を製造する際に高圧ホモジナイザーを使用する場合や、前記顔料組成物を用いて得られたインクジェット印刷インクを、後述するサーマルタイプのインクジェット印刷方式に適用する場合、前記有機溶剤としては、沸点が100℃以上の高沸点溶剤を使用することが好ましい。また、前記有機溶剤として沸点100℃以上の高沸点溶剤を使用することが、顔料の濡れを促進する結果、顔料に樹脂が吸着されやすくなり保存安定性等が向上するうえで好ましい。
【0085】
前記高沸点溶剤としては、例えばグリセリン、2-ピロリドン、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、1,5-ペンタンジオール等を使用することができる。
【0086】
前記液状媒体としては、より一層優れた保存安定性を備え、インク吐出初期におけるインク吐出ノズルの目詰まり等を引き起こすことを抑制しやすいインクやその製造に使用する顔料組成物を得るうえで、下記範囲内の分散項(δD1)と極性項(δP1)と水素結合項(δH1)とを備えた液状媒体を使用することが好ましい。
【0087】
前記液状媒体(a)の分散項(δD1)としては、好ましくは12~24、より好ましくは14~21、特に好ましくは16~19の範囲である。
【0088】
前記液状媒体(a)の極性項(δP1)としては、好ましくは4~17、より好ましくは6~15、特に好ましくは8~13の範囲である。
【0089】
前記液状媒体(a)の水素結合項(δH1)としては、好ましくは6~43、より好ましくは9~35、特に好ましくは9~30の範囲である。
【0090】
前記範囲内の分散項(δD1)と極性項(δP1)と水素結合項(δH1)とを備えた液状媒体としては、例えばトリエチレングリコール、グリセリン、2-ピロリドン、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、1,5-ペンタンジオール等を使用することができる。
【0091】
なお、前記液状媒体の分散項(δD1)と極性項(δP1)と水素結合項(δH1)の値は、コンピュータソフトウェアであるHansen Solubility Parameters in Practice 4th Edition 4.1.07(HSPiP)に収録された値である。
【0092】
前記範囲の分散項(δD1)と極性項(δP1)と水素結合項(δH1)とを備えた液状媒体は、前記顔料組成物に含まれる液状媒体の全量に対して10~95質量%の範囲で使用することが好ましく、15~80質量%の範囲で使用することがより好ましい。
【0093】
前記顔料組成物に含まれる液状媒体は、本発明の顔料組成物の全量に対して30~98質量%の範囲で使用することが好ましく、60~95質量%の範囲で使用することが、水性インクを製造するうえで好ましい。
【0094】
本発明の顔料組成物に使用する液状媒体としては、前記した水を、前記高沸点溶剤や、前記分散項(δD1)と極性項(δP1)と水素結合項(δH1)とを備えた液状媒体等と組み合わせ使用することが、前記顔料分散樹脂等の樹脂成分が顔料成分の表面に吸着しやすくなるため好ましい。とりわけ、本発明の顔料組成物を製造する際に高圧ホモジナイザーを使用する場合や、前記顔料組成物を用いて得られたインクジェット印刷インクを、後述するサーマルタイプのインクジェット印刷方式に適用する場合には、前記液状媒体としては、前記した水を、前記高沸点溶剤や、前記分散項(δD1)と極性項(δP1)と水素結合項(δH1)とを備えた液状媒体等と組み合わせ使用することが、顔料の濡れを促進する結果、顔料に樹脂が吸着されやすくなり保存安定性等が向上するうえで好ましい。
【0095】
前記液状媒体としては、粗大粒子数を効率よく低減しやすい観点、及び、固形分の所望の物性(粗大粒子数、粒子径等)を有する顔料組成物を前記工程Cを経て得るための時間を短縮化しやすい観点から、下記の少なくとも一つを満たすことが好ましい。
【0096】
・液状媒体は、グリコール類、ラクタム類及びグリセリンからなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0097】
・液状媒体は、トリエチレングリコール、トリエチレングリコール及びジプロピレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0098】
・液状媒体は、N-(2-ヒドロキシエチル)ピロリドン及び2-ピロリドンからなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0099】
・顔料成分がカーボンブラックを含む場合、液状媒体は、N-(2-ヒドロキシエチル)ピロリドン、2-ピロリドン、トリエチレングリコール及びグリセリンからなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0100】
・顔料成分がマゼンタ顔料を含む場合、液状媒体は、2-ピロリドン、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール及びグリセリンからなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0101】
・顔料成分がシアン顔料を含む場合、液状媒体(a)は、ジプロピレングリコール、N-(2-ヒドロキシエチル)ピロリドン、2-ピロリドン、トリエチレングリコール及びグリセリンからなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0102】
・顔料成分がイエロー顔料を含む場合、液状媒体(a)は、プロピレングリコールやN-(2-ヒドロキシエチル)ピロリドン、2-ピロリドン、トリエチレングリコール及びグリセリンからなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0103】
次に、前記工程Bについて説明する。
【0104】
前記工程Bは、前記工程Aで得られた第1の原料組成物を後述する処理機で処理することによって第2の原料組成物を製造する工程である。
【0105】
前記工程Bでは凝集した顔料を粉砕または解砕する工程である。なお、前記粉砕(crushing)は、例えば、一体である塊を砕く処理を意味する。解砕(cracking)は、例えば、凝集物を解きほぐす処理を意味する。
【0106】
後述する工程Cで使用する第2の原料組成物として、予め工程Bで処理された第1の原料組成物を使用することが、前記工程Cにおいて第2の原料組成物を分散機に何度も繰り返し投入し処理する回数を大幅に低減でき、その結果、顔料組成物やインクの生産効率を著しく向上させるうえで好ましい。
【0107】
一方、工程Aや工程Bを経ずに得た粗大粒子を多く含有する原料組成物を、前記工程Cにおいて前記分散機で処理すると、前記分散機中で配管詰まり等の不具合が生じる可能性が懸念される。そのため、このような不具合を回避する観点から、工程Cにおいて前記分散機を用いて前記顔料成分を顔料分散樹脂等の樹脂成分で液状媒体中に分散させる工程に先立って、前処理として予備粉砕又は予備解砕を行う工程A及び工程Bを経て得られた原料組成物を使用することが有効である。
【0108】
前記工程Bで使用可能な前記処理機としては、例えばローターステーター型処理機またはビーズミル処理機または超音波分散機またはディスパー等を使用することができ、ローターステーター型処理機を使用することが、顔料の粉砕または解砕をより一層効率よく行うことができ、その結果、粗大粒子数の低減された顔料組成物を効率よく製造することができるため好ましい。
【0109】
前記ローターステーター型処理機では、後述のとおり、ローターとステーターとの間において、粗大粒子を含有する第1の原料組成物に対してせん断力が付与されることにより粗大粒子が粉砕又は解砕される。そのため、前記ローターステーター型処理機を用いて工程Bを経た後に、前記工程Cを経ることによれば、顔料組成物における粗大粒子数をより一層効率よく低減可能であり、粒子径1.0μm以上の粗大粒子の数をより一層低減することができる。また、前記ローターステーター型処理機を用いて工程Bを経た後に、前記工程Cを経ることによれば、粗大粒子数が少ない顔料組成物を得るための処理時間の増加を抑制することにより、粗大粒子数が少ない顔料組成物を生産性よく得ることができる。また、前記ローターステーター型処理機を用いて工程Bを経た後に、前記工程Cを経ることによれば、粒子径0.5μm以上の粗大粒子の数を低減することもできる。粗大粒子数の低減率の評価に際しては、同一の組成の第1の原料組成物を粉砕又は解砕したときの粗大粒子数の低減率を対比する。各種処理機で顔料組成物を処理する場合、最大回転数の約8割の回転数を用いて処理機の性能差を対比できる。
【0110】
前記ローターステーター型処理機を用いて工程Bを経た後に、前記工程Cを経ることによれば、顔料組成物の粘度を低減しつつ顔料組成物における粗大粒子数を効率よく低減できる。前記ローターステーター型処理機を用いて工程Bを経た後に、前記工程Cを経ることによれば、粉砕処理又は解砕処理により得られた顔料組成物における固形分の粒子径を低減することができる。前記ローターステーター型処理機を用いて工程Bを経た後に、前記工程Cを経ることによれば、粉砕処理又は解砕処理により得られた顔料組成物における優れた保存安定性(固形分の分散安定性)を得ることができる。
【0111】
前記ローターステーター型処理機を用いて工程Bを経た後に、前記工程Cを経ることによれば、顔料組成物の組成、及び、顔料成分に対する顔料分散樹脂等の樹脂成分の質量割合が同一である条件で比較した際に高い印刷濃度を得ることができる。また、前記ローターステーター型処理機を用いて工程Bを経た後に、前記工程Cを経ることによれば、顔料成分に対する前記顔料分散樹脂等の樹脂成分の高い吸着率を得ることができる。
【0112】
本発明では、前記工程Bにおいて、ローターステーター型処理機またはビーズミル処理機または超音波処理機またはディスパーを用い、前記顔料をあらかじめ粉砕または解砕した第2の原料組成物を使用し、前記工程Cを経ることによって、顔料組成物における粗大粒子数を効率よく更に低減することが可能である。また、前記工程Bにおいて、ローターステーター型処理機またはビーズミル処理機または超音波処理機またはディスパーを用い、前記顔料をあらかじめ粉砕または解砕した第2の原料組成物を使用し、前記工程Cを経ることによって、固形分の所望の物性(粗大粒子数、粒子径等)を有する顔料組成物を製造するための時間を短縮化できる。
【0113】
前記工程Bにおいて前記処理機を用いた処理工程における温度は、粗大粒子数を効率よく低減しやすい観点、固形分の所望の物性(粗大粒子数、粒子径等)を有する顔料組成物を前記工程Cを経て得るまでの時間を短縮化しやすい観点、及び、顔料分散樹脂等の樹脂成分の溶解が促進されることにより顔料成分に対する顔料分散樹脂等の樹脂成分の吸着率が向上しやすく、優れた保存安定性が得られやすい観点から、下記の範囲が好ましい。温度は、25℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましく、40℃以上が更に好ましく、50℃以上が特に好ましく、55℃以上が極めて好ましく、60℃以上が非常に好ましい。温度は、80℃以下が好ましく、75℃以下がより好ましく、70℃以下が更に好ましく、65℃以下が特に好ましく、60℃以下が極めて好ましい。これらの観点から、温度は、25~80℃が好ましく、50~80℃がより好ましく、60~80℃が更に好ましい。
【0114】
前記工程Bで使用可能なローターステーター型処理機は、回転可能なブレード部を有するローターと、当該ブレード部の外周側に配置された壁部を有するステーターと、を備える。処理機は、粉砕機、解砕機、分散機等のいずれであってもよい。ローター及びステーターは、市販されているいかなる形状のものも使用でき、異なる形状又は同一形状のものを組み合わせて使用できる。形状に応じて原料組成物の搬送性、シェアレート(微細化能力)、微細化時の発熱量等に違いがあるため、第1の原料組成物の性状に合わせて組み合わせを選択することができる。通常、歯数の多いローターで微細化しやすく、発熱量が大きくなる。
【0115】
図1(
図1(a)及び
図1(b))は、ローターステーター型処理機の一例を示す模式断面図である。
図1に示すローターステーター型処理機100は、中心軸10、ローター20及びステーター30を備える。中心軸10、ローター20及びステーター30の構成材料としては、金属材料、セラミック等が挙げられる。
【0116】
中心軸10は、長尺部材であり、例えば鉛直方向に延びている。中心軸10は、ローター20及びステーター30を支持している。
【0117】
ローター20は、ローター20の外周部において中心軸10の長手方向に延びる環状(例えば円環状)のブレード部22と、ブレード部22と中心軸10とを接続する接続部24と、を有している。ブレード部22は、中心軸10を中心に回転できる。ブレード部22は、ブレード部22を貫通する開口(貫通孔)22aを有しており、例えば、ブレード部22の周方向に沿って間隔(例えば等間隔)をおいて複数の開口22aを有している。開口22aの開口方向は、径方向に対して傾斜していてよい。開口22aにおける鉛直方向上方側の端部は、ローター20を構成する部材が配置されることなく開放されていてよい。開口22aの数、配置及び形状は、特に限定されない。
【0118】
ローターステーター型処理機のローターにおけるブレード部の配置及び形状は、特に限定されない。例えば、ブレード部は、ローターの外周部に配置された環状の部材に限られず、ローターの中心部から外周部に延びる形状を有してよい。ローターは、ローターの中心部から外周部に延びる形状のブレード部を複数有してよい。ローターの中心部から外周部に延びる形状のブレード部は、流線形状であってよい。
【0119】
ステーター30は、ステーター30の外周部において中心軸10の長手方向に延びる環状(例えば円環状)の壁部32と、壁部32と中心軸10とを接続する接続部34と、を有している。壁部32は、ローターステーター型処理機100におけるブレード部22の外周側に配置されている。壁部32は、壁部32を貫通する開口(貫通孔)32aを有しており、例えば、壁部32の周方向に沿って間隔(例えば等間隔)をおいて複数の開口32aを有している。開口32aの開口方向は、径方向に対して傾斜していてよい。
【0120】
ステーターにおける壁部の開口の数、配置及び形状は、特に限定されない。
図2は、ローターステーター型処理機におけるステーター(ステーターの壁部)の例を示す模式側面図である。ステーターの壁部の例としては、アレイ状に配置された開口(例えば、正方形状等の矩形状の開口)を有する壁部(
図2(a))、一列に配置された複数の長方形状の開口を有する壁部(
図2(b))、一列に配置された複数の円形状(例えば真円状)の開口を有する壁部(
図2(c))等が挙げられる。開口の形状としては、矩形状(正方形状、長方形状等)、円形状(真円状、楕円状等)などが挙げられる。
【0121】
ステーターは、ステーターの外周部において中心軸の長手方向に延びる複数の環状(例えば円環状)の壁部を有してよい。例えば、ステーターは、上述の壁部32を第1の壁部として備え、ローターステーター型処理機における第1の壁部の外周側に配置された第2の壁部を備えてよく、ローターステーター型処理機における第2の壁部の外周側に配置された第3の壁部を更に備えてよい。壁部の数は、特に限定されず、4以上であってもよい。
【0122】
図3は、ローターステーター型処理機における粉砕処理又は解砕処理を説明するための模式図であり、
図1に示すローターステーター型処理機100の外周部の一部を拡大して示す模式図である。ローターステーター型処理機100では、例えば、顔料成分及び液状媒体を含有する第1の原料組成物が中心軸10の周囲に供給された後、
図3に示すように、第1の原料組成物が、ローター20のブレード部22の開口22aを経由(図中、流路F1)してブレード部22とステーター30の壁部32との間の空間に達する。そして、この空間において、ブレード部22の回転運動に起因して生じるせん断力が粗大粒子P(固形分)に付与されることにより粗大粒子Pが粉砕又は解砕される。その後、粉砕又は解砕された粒子を含む組成物の一部は、壁部32の開口32aを経由(図中、流路F2)して壁部32の外周側に流出し、組成物の残部は、ブレード部22と壁部32との間の空間を更に進行してせん断力によって粒子が更に粉砕又は解砕される。これにより、ローターステーター型処理機100の粉砕処理又は解砕処理により、前記第1の原料組成物に含まれる顔料成分が粉砕又は解砕される。
【0123】
ローター及びステーターで構成される処理部により与えられるシェアレート(微細化能力)は、粗大粒子数を効率よく低減しやすい観点、処理後の固形分の粒子径を低減しやすい観点、顔料組成物の粘度を低減しやすい観点、及び、顔料組成物における優れた保存安定性を得やすい観点から、50000s-1以上が好ましく、75000s-1以上がより好ましく、90000s-1以上が更に好ましく、100000s-1以上が特に好ましく、120000s-1以上が極めて好ましく、150000s-1以上が非常に好ましく、170000s-1以上がより一層好ましい。シェアレートの上限値は、例えば、400000s-1以下であってよく、250000s-1以下であってよい。これらの観点から、シェアレートは、50000~400000s-1が好ましい。シェアレート[s-1]は、ローターのブレード部の周速度[m/s]をブレード部とステーターの壁部との間隔[m]で除することにより得ることができる。
【0124】
ローターステーター型処理機は、ローター及びステーターで構成される処理部(粉砕部又は解砕部)を複数有してよい。シェアレートの低い処理部からシェアレートの高い処理部に向けて前記第1の原料組成物を流すことにより詰まりを抑制しやすいことから粗大粒子数を効率よく低減しやすい。ローターステーター型処理機は、鉛直方向に延びる中心軸に沿って複数の処理部を有してよい(多段の処理部を有してよい)。ローターステーター型処理機が中心軸に沿って複数の処理部を有する場合、粗大粒子数を効率よく低減しやすい観点から、鉛直方向下方に向かうほどシェアレートが高い処理部を配置することが好ましい。
【0125】
ローターステーター型処理機は、インライン式処理機であってよく、バッチ式処理機であってよい。インライン式処理機では、前記第1の原料組成物が連続的に供給され、例えば、処理経路(例えば、粉砕処理経路及び解砕処理経路。例えば配管)の途中に処理機を設置し、第1の原料組成物を連続的に処理(粉砕処理又は解砕処理)することができる。インライン式処理機では、第1の原料組成物の全体が強制的に処理機を通過するため、主にローター周辺のみが処理されるバッチ式処理機と比較して短時間で前記第1の原料組成物の全体を均一に処理しやすい。インライン式処理機によれば、粗大粒子数を効率よく低減しやすいことから、前記工程Bで使用する処理機の配管詰まりを抑制しやすい。インライン式処理機によれば、顔料組成物の粘度を低減しやすい。インライン式処理機では、原料組成物が循環してもよい。バッチ式処理機では、原料組成物が断続的に供給され、処理(粉砕処理又は解砕処理)毎に前記第1の原料組成物が入れ替えられる。
【0126】
ローターステーター型処理機としては、IKA株式会社製の機器名「magic LAB」(インライン式、最大周速度:41m/s、最大回転数:26000rpm);シルバーソンニッポン株式会社製の機器名「VERSO」(ハイシアーインラインミキサー、インライン式、最大周速度:20m/s、最大回転数:10000rpm);シルバーソンニッポン株式会社製の機器名「L5M-A」(バッチ式、最大周速度:20m/s、最大回転数:10000rpm)等が挙げられる。IKA株式会社製の処理機としては、UTRモジュール(ULTRA-TURRAX)、DRモジュール(DISPAX-REACTOR)、MKモジュール、MKOモジュール、CMXモジュールを備えた処理機を使用できる。DRモジュールは、ローター及びステーターで構成される処理部(ステージ)を3段有しており、ローター及びステーターの組み合わせによりシェアレートを調整できることから、粗大粒子数を効率よく低減しやすい。例えば、鉛直方向上方から順に2P/4M/6Fの処理部を用いることにより、鉛直方向下方に向かうほどシェアレートが高い処理部を配置することができる。
【0127】
前記ローターステーター型処理機としては、最大回転数が1000~30000rpmの範囲のものを使用することが好ましく、3000~25000rpmの範囲のものを使用することがより好ましく、8000~20000rpmの範囲のものを使用することが、粗大粒子数を効率よく低減しやすい観点、処理後の固形分の粒子径を低減しやすい観点、顔料組成物の粘度を低減しやすい観点、及び、顔料組成物における優れた保存安定性を得やすい観点で特に好ましい。
【0128】
前記ローターステーター型処理機としては、最大周速度が5m/s~60m/sの範囲のものを使用することが好ましく、10m/s~60m/sの範囲のものを使用することがより好ましく、15m/s~60m/sの範囲のものを使用することが、粗大粒子数を効率よく低減しやすい観点、処理後の固形分の粒子径を低減しやすい観点、顔料組成物の粘度を低減しやすい観点、及び、顔料組成物における優れた保存安定性を得やすい観点で特に好ましい。
【0129】
本実施形態に係る顔料組成物の製造装置における原料供給部は、第1の原料組成物をローターステーター型処理機に供給できれば特に限定されない。原料供給部としては、原料供給部を供給する配管、ポンプ等であってよい。
【0130】
また、前記ビーズミル分散機としては、例えばペイントシェーカー、ビーズミル、サンドミル、バスケットミル、ダイノーミル、SCミル、ナノミル、スパイクミル、アジテーターミル等を使用することができる。
【0131】
また、前記超音波分散機としては、ヒールッシャー製の機器名「UP200St」等を使用することができる。
【0132】
また、前記ディスパーとしては、プライミクス株式会社製の機器名「ホモディスパー」や英弘精機株式会社製の機器名「ディスパーマット」等を使用することができる。
【0133】
次に前記工程Cについて説明する。
【0134】
前記工程Cは、前記工程Bで得られた第2の原料組成物を、前記第2の原料組成物同士を衝突させる構成または前記第2の原料組成物を硬質体に衝突させる構成を備えた分散機で処理する工程である。
【0135】
前記工程Cで使用する前記分散機のうち、前記第2の原料組成物同士を衝突させる構成を備えた分散機としては、前記第2の原料組成物同士を斜向衝突させる構成を備えた分散機を使用することが、顔料組成物中の粗大粒子数の低減と分散粒子径の小粒径化と顔料組成物の生産効率の向上との両立を図るうえで特に好ましい。より具体的には、前記第2の原料組成物同士を斜向衝突させる構成を備えた分散機を使用することによって、前記第2の原料組成物を分散機に何度も繰り返し投入し処理する回数(いわゆるパス回数)を、従来のおよそ10~30回から、好ましくは1~8回、より好ましくは1~5回、特に好ましくは1~3回へと大幅に低減することができる。特に、顔料成分としてカーボンブラックを使用する場合、わずか1回のパス回数で粗大粒子数の低減と、分散粒子径の小粒径化とを両立した顔料組成物を得ることができる。前記第2の原料組成物同士を斜向衝突させる構成としては、斜向衝突チャンバーが挙げられる。前記分散機を用いる場合、前記原料組成物を複数方向から加圧噴射することにより、前記第2の原料組成物同士を衝突させることができる。
【0136】
前記斜向衝突チャンバーとしては、例えば、スギノマシン株式会社製の機器名「スターバースト」のチャンバーが挙げられる。斜向衝突チャンバーは、長時間使用時の後述する硬質体の摩耗を避けることができ、かつ、シングルノズルチャンバーよりも優れた剪断力を得ることができるため好ましい。
【0137】
前記分散機としては、具体的には、スギノマシン株式会社製の機器名「スターバースト」を用いることができる。
【0138】
また、本発明で使用する分散機は、前記第2の原料組成物を噴射する際に50~245MPaの範囲の圧力をかけることのできる、いわゆる高圧ホモジナイザーであることが、顔料組成物中の粗大粒子数の低減と顔料組成物の生産効率の向上との両立を図るうえで好ましい。前記圧力は、80~200MPaがより好ましく、100~200MPaが更に好ましく、130~200MPaが特に好ましい。顔料成分がカーボンブラックを含む場合、低圧力でインクジェットで吐出可能なレベル、かつ保存安定性に優れた顔料組成物を得ることができ、装置の長寿命化、及び、単位時間あたりの生産量の向上を達成しやすい。
【0139】
前記第2の原料組成物としては、顔料成分や樹脂成分等の固形分と液状媒体を含有し、それら以外の添加剤を更に含有するものを使用することができる。前記顔料組成物は、前記原料組成物と同一種の成分を含有することができる。前記原料組成物の固形分濃度は、原料組成物の全量を基準として、1~60質量%の範囲であることが好ましく、10~50質量%の範囲であることがより好ましく、15~40質量%の範囲であることが特に好ましい。
【0140】
前記した方法で得られた顔料組成物は、上述の液状媒体により所望の濃度に希釈すること、及び/又は、樹脂成分(アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂等のバインダー)、乾燥抑止剤、浸透剤、界面活性剤、防腐剤、粘度調整剤、pH調整剤、キレート剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの添加剤を添加することによってインクとして使用することができる。インクを得た後に遠心分離処理又はろ過処理を施してもよい。
【0141】
インクとしては、自動車又は建材用の塗料;インクジェット印刷用インク、オフセットインキ、グラビアインキ、フレキソインキ、シルクスクリーンインキ等の印刷インキなどが挙げられる。インクをインクジェット印刷用インクとして使用する場合、インクにおける顔料成分の含有量は、インクの全量を基準として1~10質量%が好ましい。
【0142】
乾燥防止剤としては、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、分子量2000以下のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール等が挙げられる。乾燥防止剤としては、原料組成物で使用する上述の水溶性有機溶剤と同じ化合物を使用することができる。従って、原料組成物に既に水溶性有機溶剤を使用している場合、乾燥防止剤としての役割を兼ねることができる。
【0143】
浸透剤は、被記録媒体への浸透性改良、又は、被記録媒体上でのドット径調整を目的として使用することができる。浸透剤としては、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール;エチレングリコールヘキシルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル等のアルキルアルコールのグリコールモノエーテルなどが挙げられる。
【0144】
界面活性剤は、表面張力等のインク特性を調整するために使用することができる。界面活性剤としては、特に限定されるものではなく、各種のアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられ、アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましい。界面活性剤は、1種単独又は2種類以上を組み合わせ使用することができる。
【0145】
アニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフェニルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルの硫酸エステル塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩及びスルホン酸塩、高級アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等が挙げられる。これらの具体例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、イソプロピルナフタレンスルホン酸塩、モノブチルフェニルフェノールモノスルホン酸塩、モノブチルビフェニルスルホン酸塩、ジブチルフェニルフェノールジスルホン酸塩等が挙げられる。
【0146】
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、脂肪酸アルキロールアミド、アルキルアルカノールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマー等が挙げられる。これらの中では、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルキロールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、及び、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマーからなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましい。
【0147】
その他の界面活性剤として、ポリシロキサンオキシエチレン付加物等のシリコーン系界面活性剤;パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、オキシエチレンパーフルオロアルキルエーテル等のフッ素系界面活性剤;スピクリスポール酸、ラムノリピド、リゾレシチン等のバイオサーファクタントなども使用することができる。
【実施例】
【0148】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0149】
<スチレン-アクリル酸系共重合体の作製>
(スチレン-アクリル酸系共重合体A)
攪拌装置、滴下装置及び還流装置を備えた反応容器にメチルエチルケトン100gを仕込んだ後、攪拌しながら反応容器内を窒素置換した。次に、反応容器を加温し、メチルエチルケトンを還流した状態で、滴下装置からスチレン 77g、アクリル酸10g、メタクリル酸13g及び重合触媒(和光純薬工業株式会社製、商品名:V-59)8gの混合液を2時間かけて滴下した。滴下の途中より、反応容器の温度を80℃に保った。滴下終了後、同温度で25時間更に反応を続けた。反応終了後、反応容器内を放冷した後、メチルエチルケトンを加えることによって固形分濃度50質量%の溶液を得た。さらに、この溶液を乾燥させた後、1mm以下の粉状に粉砕してスチレン-アクリル酸共重合体Aを得た。スチレン-アクリル酸共重合体Aの酸価は150mgKOH/gであり、重量平均分子量は8800であった。
【0150】
重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法で測定される値であり、標準物質として使用するポリスチレンの分子量に換算した値である。測定は以下の装置及び条件で行った。
【0151】
送液ポンプ:LC-9A(株式会社島津製作所製)
システムコントローラー:SLC-6B(株式会社島津製作所製)
オートインジェクター:S1L-6B(株式会社島津製作所製)
検出器:RID-6A(株式会社島津製作所製)
データ処理ソフト:Sic480IIデータステーション(システムインスツルメンツ社製)
カラム:GL-R400(ガードカラム)+GL-R440+GL-R450+GL-R400M(日立化成株式会社製)
溶出溶媒:THF(テトラヒドロフラン)
溶出流量:2mL/min
カラム温度:35℃
【0152】
(スチレン-アクリル酸系共重合体B)
スチレンの使用量を77gに変更し、アクリル酸の使用量を10gに変更し、メタクリル酸の使用量を13gに変更したことを除きスチレン-アクリル酸共重合体Aと同様の手順でスチレン-アクリル酸共重合体Bを得た。スチレン-アクリル酸共重合体Bの酸価は150mgKOH/gであり、重量平均分子量は11000であった。
【0153】
(スチレン-アクリル酸系共重合体C)
スチレンの使用量を72gに変更し、アクリル酸の使用量を12gに変更し、メタクリル酸の使用量を16gに変更したことを除きスチレン-アクリル酸共重合体Aと同様の手順でスチレン-アクリル酸共重合体Cを得た。スチレン-アクリル酸共重合体Cの酸価は180mgKOH/gであり、重量平均分子量は8200であった。
【0154】
(スチレン-アクリル酸系共重合体D)
スチレンの使用量を85gに変更し、アクリル酸の使用量を15gに変更し、メタクリル酸の使用量を0gに変更したことを除きスチレン-アクリル酸共重合体Aと同様の手順でスチレン-アクリル酸共重合体Dを得た。スチレン-アクリル酸共重合体Dの酸価は90mgKOH/gであり、重量平均分子量は3500であった。
【0155】
(スチレン-アクリル酸系共重合体E)
スチレンの使用量を65gに変更し、アクリル酸の使用量を15gに変更し、メタクリル酸の使用量を20gに変更したことを除きスチレン-アクリル酸共重合体Aと同様の手順でスチレン-アクリル酸共重合体Eを得た。スチレン-アクリル酸共重合体Eの酸価は230mgKOH/gであり、重量平均分子量は30000であった。
【0156】
(スチレン-アクリル酸系共重合体F)
スチレンの使用量を88gに変更し、アクリル酸の使用量を12gに変更し、メタクリル酸の使用量を0gに変更したことを除きスチレン-アクリル酸共重合体Aと同様の手順でスチレン-アクリル酸共重合体Eを得た。スチレン-アクリル酸共重合体Fの酸価は90mgKOH/gであり、重量平均分子量は30000であった。
【0157】
(スチレン-アクリル酸系共重合体G)
スチレンの使用量を56gに変更し、アクリル酸の使用量を19gに変更し、メタクリル酸の使用量を25gに変更したことを除きスチレン-アクリル酸共重合体Aと同様の手順でスチレン-アクリル酸共重合体Gを得た。スチレン-アクリル酸共重合体Gの酸価は310mgKOH/gであり、重量平均分子量は6000であった。
【0158】
<顔料組成物の作製>
[実施例A1]
はじめに、トリエチレングリコール(δD16.5、δP12.5、δH18.5)110.0g、イオン交換水232.2g及び34質量%水酸化カリウム水溶液17.8gを混合して混合物を作製する。前記混合物に、黒色顔料(三菱ケミカル株式会社製、カーボンブラック、#960、ドライ顔料)100.0g、上述のスチレン-アクリル酸系共重合体A40gを混合することにより第1の原料組成物(顔料濃度:20質量%、固形分濃度:28質量%)を作製した。
【0159】
次に、前記工程Bにおいて、ローターステーター型処理機(IKA株式会社製、機器名:magic LAB、3段式、鉛直方向上方から順に2P/4M/6Fの処理部(ローター及びステーター)、インライン式)に前記第1の原料組成物を投入した。次に、60℃に加温しながら周速度34m/s(シェアレート:170000s-1)、回転数20000rpmで5パス処理を行うことによって第2の原料組成物(スラリー)を作製した。
【0160】
次に、前記工程Cにおいて、高圧ホモジナイザー(スギノマシン株式会社製、機器名:スターバースト、斜向衝突チャンバー)を用いて、前記第2の原料組成物を140MPaの圧力で噴出させ衝突させる処理を、1パスを施すことによって顔料組成物を得た。
【0161】
[実施例A2]
スチレン-アクリル酸共重合体Aの代わりに、スチレン-アクリル酸共重合体Bに変更したこと以外は、実施例A1と同様の方法で顔料組成物を得た。
【0162】
[実施例A3]
スチレン-アクリル酸共重合体Aの代わりに、スチレン-アクリル酸共重合体Cに変更し、イオン交換水228.8g、34質量%水酸化カリウム水溶液21.2gを使用したこと以外は、実施例A1と同様の方法で顔料組成物を得た。
【0163】
[比較例B1]
スチレン-アクリル酸共重合体Aの代わりに、スチレン-アクリル酸共重合体Dに変更し、イオン交換水239.4g、34質量%水酸化カリウム水溶液10.6gを使用したこと以外は、実施例A1と同様の方法で顔料組成物を得た。
【0164】
[比較例B2]
スチレン-アクリル酸共重合体Aの代わりに、スチレン-アクリル酸共重合体Eに変更し、イオン交換水222.9g、34質量%水酸化カリウム水溶液27.1gを使用したこと以外は、実施例A1と同様の方法で顔料組成物を得た。
【0165】
[比較例B3]
スチレン-アクリル酸共重合体Aの代わりに、スチレン-アクリル酸共重合体Fに変更し、イオン交換水239.4g、34質量%水酸化カリウム水溶液10.6gを使用したこと以外は、実施例A1と同様の方法で顔料組成物を得た。
【0166】
[比較例B4]
スチレン-アクリル酸共重合体Aの代わりに、スチレン-アクリル酸共重合体Gに変更し、イオン交換水213.5g、34質量%水酸化カリウム水溶液36.5gを使用したこと以外は、実施例A1と同様の方法で顔料組成物を得た。
【0167】
[比較例B5]
はじめに、トリエチレングリコール110.0g、イオン交換水232.4g及び34質量%水酸化カリウム水溶液17.76g、上述のスチレン-アクリル酸系共重合体A40.0gを混合してスチレン-アクリル酸系共重合体を溶解させる。前記混合物に、黒色顔料(三菱ケミカル株式会社製、カーボンブラック、#960、ドライ顔料)100.0gを混合することにより第1の原料組成物(顔料濃度:20質量%、固形分濃度:28質量%)を作製した以外は、実施例A1と同様の方法で顔料組成物を得た。
【0168】
<顔料組成物の評価>
実施例及び比較例で得られた顔料組成物及び製造途中の原料組成物の粗大粒子数、粒子径、粘度、保存安定性及び樹脂吸着率を下記方法で測定した。結果を表1及び表2に示す。
【0169】
(粗大粒子数)
粒度分布計(Particle Sizing Systems製、Accusizer 780 APS、個数カウント方式)を用いて直径1.0μm以上の粒子数及び直径0.5μm以上の粒子数を以下の手順で測定した。感度が1000~4000個/mLの範囲となるように顔料組成物をイオン交換水で希釈した。次に、粒度分布計を用いて、希釈後の顔料組成物に含まれる直径1.0μm以上の粒子数及び直径0.5μm以上の粒子数を3回測定した。続いて、粒子数の測定値にそれぞれ希釈濃度を乗じて得られる値の平均値を粗大粒子数として算出した。
【0170】
(粒子径)
顔料組成物を約4mLのセルに入れた。マイクロトラック・ベル株式会社製のナノトラック粒度分布計「UPA150」を用いて25℃環境下でレーザー光の散乱光を検出することにより粒子径を測定した。粒子径として、体積平均粒子径(Mv)、個数平均粒子径(Mn)、D50、D90及びD95を測定した。
【0171】
(粘度)
顔料組成物1.0mLをサンプルカップに入れた後、25℃の環境下で、東機産業株式会社製のTV-20型粘度計を用いて顔料組成物の粘度を測定した。
【0172】
(保存安定性)
製造直後の顔料組成物の体積平均粒子径(Mv)、粘度、及び、直径0.5μmの粗大粒子数を前記した方法で測定した。
【0173】
次に、前記顔料組成物をポリプロピレン容器に密封した後、60℃で1週間保存した。前記保存後の顔料組成物の体積平均粒子径(Mv)、粘度、及び、直径0.5μmの粗大粒子数を、前記した方法で測定した。
【0174】
製造直後の顔料組成物の体積平均粒子径(Mv)、粘度、及び、直径0.5μmの粗大粒子数に対する、前記保存後の顔料組成物の体積平均粒子径(Mv)、粘度、及び、直径0.5μmの粗大粒子数の変化率を算出した。
【0175】
前記変化率が10%の範囲内であったものは保存安定性に優れると評価でき、10%超え15%以内のものは保存安定性が良好であると評価でき、15%を超えたものは保存安定性が十分でないと評価した。
【0176】
(印刷濃度)
[インクジェット記録用インクの作製]
バッチ式遠心分離機(国産遠心機株式会社製)を用いて上述の顔料組成物を25℃、遠心力134000G、10分間の滞留時間で遠心分離した。上澄み液をデカンテーションすることにより、精製した顔料組成物を得た。遠心分離で得られた顔料組成物と、2-ピロリドン8.0gと、トリエチレングリコールモノブチルエーテル8.0gと、グリセリン3.0gと、サーフィノール440(日信化学工業株式会社製)0.5gと、イオン交換水47.2gとを混合することによってインクジェット記録用水性インクを得た。黒色顔料組成物を用いて得られたインクにおける顔料濃度は2.5質量%であり、顔料組成物を用いて得られたインクにおける顔料濃度は3.5質量%であった。
【0177】
[印刷物の作製]
インクジェット記録用インクをインクジェットプリンターENVY4500(HP Inc.製)のカートリッジに充填した。続いて、プリンターに搭載されたクリーニングを1回実施した後、市販のPPC用紙(販売:大塚商会、品番:10PPCHWA4N)に、普通紙/標準の印刷モードで、100%ベタ部を有する画像を印刷することにより印刷物を得た。
【0178】
【符号の説明】
【0179】
10…中心軸、20…ローター、22…ブレード部、22a…開口、24…接続部、30…ステーター、32…壁部、32a…開口、34…接続部、100…ローターステーター型処理機、F1,F2…流路。