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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】分散液及び積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/18 20060101AFI20240925BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20240925BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20240925BHJP
   C08K 5/01 20060101ALI20240925BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240925BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240925BHJP
   C08J 3/11 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
C08L27/18
C08L83/04
C08L101/12
C08K5/01
C08K3/013
B32B27/30 D
C08J3/11 CEW
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020178938
(22)【出願日】2020-10-26
(65)【公開番号】P2022069962
(43)【公開日】2022-05-12
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100173532
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 彰文
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和可子
(72)【発明者】
【氏名】栗原 舞
(72)【発明者】
【氏名】結城 創太
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111423676(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111378240(CN,A)
【文献】特開2003-082220(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110690450(CN,A)
【文献】特表2011-520882(JP,A)
【文献】特開2007-277115(JP,A)
【文献】特開2005-334688(JP,A)
【文献】特表2005-504819(JP,A)
【文献】特表2005-533044(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/12- 27/20
C08K 3/00- 13/08
C08F 14/18- 14/28
B32B 27/00- 27/42
C08J 3/00- 3/28
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素含有量が70質量%以上である、カルボニル基含有基又は水酸基含有基を有するテトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと、イソアルカン、テルペン、α-オレフィン、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイルからなる群から選ばれる少なくとも1種の、動粘度が1000mm・s-1以下であり、かつ、沸点が100~300℃である液体化合物とを含み、前記パウダーが分散した、分散液。
【請求項2】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、主鎖の炭素数1×10個あたり、10~5000個のカルボニル基含有基を有するポリマーである、請求項1に記載の分散液。
【請求項3】
前記パウダーの平均粒子径が、20μm以下である、請求項1又は2に記載の分散液。
【請求項4】
前記パウダーの比表面積が、25m/g以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項5】
前記液体化合物が、イソアルカン又はジメチルシリコーンオイルである、請求項1~のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項6】
前記液体化合物が、イソデカン、イソドデカン、イソテトラデカン、イソヘキサデカン、直鎖ジメチルシリコーンオイル又は環状ジメチルシリコーンオイルである、請求項1~のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項7】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーの含有量に対する、前記液体化合物の含有量の比が1以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項8】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーの含有量が、20質量%以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項9】
前記分散液が、さらに無機フィラー又は芳香族ポリマーを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項10】
前記分散液が、さらにノニオン性界面活性剤を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項11】
粘度が、50~10000mPa・sである、請求項1~のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項12】
成分分散層率が、60%以上である、請求項1~11のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項13】
泡沫体積比率が、10%以下である、請求項1~12のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の分散液を基材の表面と接触させ、加熱して、ポリマー層を形成し、前記基材と前記ポリマー層とを有する積層体を得る、積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のテトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーを含む分散液と積層体の製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロエチレン系ポリマーは、電気絶縁性、撥水撥油性、耐薬品性、耐熱性等の物性に優れている。そのパウダーが分散媒中に分散した分散液は、レジスト、接着剤、電気絶縁層、潤滑剤、インク、塗料等を形成するための材料として有用である。しかし、テトラフルオロエチレン系ポリマーは、表面エネルギーが低く、そのパウダーは、凝集しやすい。このため、液物性がバランスした分散液を得ることは難しい。
特許文献1には、分散液の分散性を向上させる観点から、特定の添加剤を含む非水系分散液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2016/159102号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の分散液も、分散性以外の液物性は、未だ充分ではない。本発明者らは、極性分散媒を使用した分散液は、パウダーの含有量を高めやすい一方で、増粘しやすい、泡立ちやすい、長期保管時にパウダーが凝集しやすい傾向にある点を知見した。また、非極性分散媒を使用した分散液は、これらの傾向は抑制されやすい一方で、パウダーの含有量を高めにくい、塗工時の濡れ広がり性等のハンドリング性が低下しやすい傾向にあることを知見した。
【0005】
本発明者らは、鋭意検討した結果、所定の炭化水素又はシリコーンオイルを分散媒とし、テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーを分散した分散液は、種々の液物性が高度にバランスする点を見出した。また、かかる分散液から形成される積層体は、テトラフルオロエチレン系ポリマーの物性を高度に発現し、特に電気特性に優れる点を見い出した。
本発明は、所定のテトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと、所定の炭化水素又はシリコーンオイルである液体化合物とを含む分散液、及び、それから形成される積層体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] フッ素含有量が70質量%以上であるテトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと、イソアルカン、テルペン、α-オレフィン、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイルからなる群から選ばれる少なくとも1種の、動粘度が1000mm・s-1以下であり、かつ、沸点が100~300℃である液体化合物とを含み、前記パウダーが分散した、分散液。
[2] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、カルボニル基含有基を有する、[1]の分散液。
[3] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、主鎖の炭素数1×106個あたり、10~5000個のカルボニル基含有基を有するポリマーである、[1]又は[2]の分散液。
[4] 前記パウダーの平均粒子径が、20μm以下である、[1]~[3]のいずれかの分散液。
[5] 前記パウダーの比表面積が、25m/g以下である、[1]~[4]のいずれかの分散液。
[6] 前記液体化合物が、イソアルカン又はジメチルシリコーンオイルである、[1]~[5]のいずれかの分散液。
[7] 前記液体化合物が、イソドデカン、イソヘキサデカン、直鎖ジメチルシリコーンオイル又は環状ジメチルシリコーンオイルである、[1]~[6]のいずれかの分散液。
[8] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーの含有量に対する、前記液体化合物の含有量の比が1以上である、[1]~[7]のいずれかの分散液。
[9] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーの含有量が、20質量%以上である、[1]~[8]のいずれかの分散液。
[10] 前記分散液が、さらに無機フィラー又は芳香族ポリマーを含む、[1]~[9]のいずれかの分散液。
[11] 前記分散液が、さらにノニオン性界面活性剤を含む、[1]~[10]のいずれかの分散液。
[12] 粘度が、50~10000mPa・sである、[1]~[10]のいずれかの分散液。
[13] 成分分散層率が、60%以上である、[1]~[12]のいずれか1項に記載の分散液。
[14] 泡沫体積比率が、10%未満である、[1]~[13]のいずれか1項に記載の分散液。
[15] [1]~[14]の分散液を基材の表面と接触させ、加熱して、ポリマー層を形成し、前記基材と前記ポリマー層とを有する積層体を得る、積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、所定のテトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと、所定の液体化合物とを含む、液物性(分散安定性、ハンドリング性、長期保管性等)が高度にバランスした分散液が得られる。また、テトラフルオロエチレン系ポリマーの物性を高度に発現する積層体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下の用語は、以下の意味を有する。
「ポリマーのガラス転移点(Tg)」は、動的粘弾性測定(DMA)法でポリマーを分析して測定される値である。
「ポリマーの溶融温度(融点)」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定した融解ピークの最大値に対応する温度である。
「D50」は、パウダー又はフィラーの平均粒子径であり、レーザー回折・散乱法によって求められる対象物の体積基準累積50%径である。すなわち、レーザー回折・散乱法によって対象物の粒度分布を測定し、対象物の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
「D90」は、パウダー又はフィラーの累積体積粒径であり、「D50」と同様にして求められる対象物の体積基準累積90%径である。
「比表面積」は、ガス吸着(定容法)BET多点法で粒子を測定し算出される値であり、NOVA4200e(Quantachrome Instruments社製)を使用して求められる。
「粘度」は、B型粘度計を用いて、25℃で回転数が30rpmの条件下で分散液について測定される値である。測定を3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
「チキソ比」は、B型粘度計を用いて、25℃で回転数が30rpmの条件で分散液について測定される粘度ηを、回転数が60rpmの条件で測定される粘度ηで除して算出される値である。それぞれの粘度の測定は、3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
「動粘度」は、ウベローデ粘度計を用いて、25℃で液体化合物について測定される値である。測定を3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
「モノマーに基づく単位」とは、モノマーの重合により形成された前記モノマーに基づく原子団を意味する。単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって前記単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。以下、モノマーaに基づく単位を、単に「モノマーa単位」とも記す。
「成分分散層率」は、18mLの液状組成物を内容積30mLのスクリュー管に入れ、25℃にて14日静置した際、静置前後の、スクリュー管中の液状組成物全体の高さと分散層の高さとから、以下の式により算出される値である。なお、静置後に成分分散層が確認されず、状態に変化がない場合には、液状組成物全体の高さに変化がないとして、成分分散層率は100%とする。成分分散層率が大きいほど分散安定性に優れる。
成分分散層率(%)=(分散層の高さ)/(液状組成物全体の高さ)×100
「泡沫体積比率」は、1013.25hPaかつ20℃における分散液の体積(V)と、それを0.003MPaまで減圧した際の泡を合わせた体積(V)とを測定し、以下の算出式で求められる値である。
泡沫体積比率[%]=100×(V-V)/Vである。
【0009】
本発明の分散液(以下、「本分散液」とも記す。)は、フッ素含有量が70質量%以上であるテトラフルオロエチレン系ポリマー(以下、「Fポリマー」とも記す。)のパウダー(以下、「Fパウダー」とも記す。)と、イソアルカン、テルペン、α-オレフィン、ジメチルシリコーンオイル及びメチルフェニルシリコーンオイルからなる群から選ばれる少なくとも1種の、動粘度が1000mm・s-1以下であり、かつ、沸点が100~300℃である液体化合物とを含む。本分散液において、Fパウダーは分散している。
本分散液は、換言すれば、低表面張力かつ低極性である液体化合物を分散媒とする、凝集と増粘とが生じ難く、分散安定性、ハンドリング性、長期保管安定性等の液物性が高度にバランスした分散液であり、Fパウダーが上記液体化合物中に分散した分散液とも言える。
【0010】
本発明におけるFポリマーは、フッ素含有量が70質量%以上であり、テトラフルオロエチレン(TFE)に基づく単位(TFE単位)を含むポリマーである。
Fポリマーのフッ素含有量は、74質量%以上であるのが好ましい。フッ素原子含有量の上限は、76質量%であるのが好ましい。かかるフッ素含有量が高いFポリマーは、電気特性、耐熱性等の物性に優れる一方で、表面張力が低く他の成分との親和性が著しく低い。本発明によれば、液物性に優れた、かかるFポリマーの分散液が得られる。
【0011】
Fポリマーは、熱溶融性であってよく、非熱溶融性であってもよく、熱溶融性のポリマーであるのが好ましい。熱溶融性のFポリマーの溶融温度は、200℃以上が好ましく、260℃以上がより好ましい。Fポリマーの溶融温度は、325℃以下が好ましく、320℃以下がより好ましい。かかる場合、本分散液が液物性に優れやすく、本分散液から緻密な成形物を形成しやすい。
Fポリマーのガラス転移点は、50℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましい。Fポリマーのガラス転移点は、150℃以下が好ましく、125℃以下がより好ましい。
【0012】
Fポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、TFE単位とエチレンに基づく単位とを含むポリマー、TFE単位とプロピレンに基づく単位とを含むポリマー、TFE単位とペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)に基づく単位(PAVE単位)とを含むポリマー(PFA)、TFE単位とヘキサフルオロプロピレンに基づく単位とを含むポリマー(FEP)、TFE単位とフルオロアルキルエチレンに基づく単位とを含むポリマー、TFE単位とクロロトリフルオロエチレンに基づく単位とを含むポリマーが挙げられ、PFA又はFEPが好ましく、PFAがより好ましい。上記ポリマーは、さらに他のコモノマーに基づく単位を含んでいてもよい。
PAVEとしては、CF=CFOCF、CF=CFOCFCF又はCF=CFOCFCFCF(PPVE)が好ましく、PPVEがより好ましい。
【0013】
PTFEは、数平均分子量が1~20万の低分子量PTFEであってもよい。なお、PTFEの数平均分子量は、下式(1)に基づいて算出される値である。
Mn = 2.1×1010×ΔHc-5.16 ・・・ (1)
式(1)中、Mnは、PTFEの数平均分子量を、ΔHcは、示差走査熱量分析法により測定されるPTFEの結晶化熱量(cal/g)を、それぞれ示す。PTFEは、TFE単位以外の単位を微量含んでいてもよい。
【0014】
Fポリマーは、カルボニル基含有基又は水酸基含有基を有するのが好ましく、カルボニル基含有基を有するのがより好ましい。かかるFポリマーのパウダーは、パウダー同士の間の静電反発が抑制され、高度な流動状態にある液体化合物の浸透作用による安定効果を受けやすく、本分散液の液物性を一層向上させやすい。
カルボニル基含有基又は水酸基含有基は、Fポリマー中のモノマー単位に含まれていてもよく、ポリマーの主鎖の末端基に含まれていてもよい。後者の態様としては、重合開始剤、連鎖移動剤等に由来する末端基として前記極性基を有するFポリマーや、コロナ処理、プラズマ処理、電離線処理又は放射線処理されたFポリマーが挙げられる。
【0015】
水酸基含有基は、アルコール性水酸基を含有する基が好ましく、-CFCHOH又は-C(CFOHがより好ましい。
カルボニル基含有基は、カルボニル基(>C(O))を含有する基であり、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、イソシアネート基、カルバメート基(-OC(O)NH)、酸無水物残基(-C(O)OC(O)-)、イミド残基(-C(O)NHC(O)-等)又はカーボネート基(-OC(O)O-)が好ましく、酸無水物残基がより好ましい。
Fポリマーにおけるカルボニル基含有基の数は、主鎖の炭素数1×10個あたり、10~5000個が好ましく、100~3000個がより好ましく、50~1500個がさらに好ましい。この場合、上述した作用機構が亢進して、本分散液の液物性が一層向上しやすい。
【0016】
Fポリマーとしては、PAVE単位を含み、全単位に対してPAVE単位を1.5~5モル%含む、溶融温度が280~320℃のポリマーが好ましく、PAVE単位を1.5~5モル%含み、カルボニル基含有基又は水酸基を有する、溶融温度が280~320℃であるポリマーがより好ましい。
Fポリマーの好適な態様としては、TFE単位と、PAVE単位と、カルボニル基含有基又は水酸基を有するモノマーとを含むポリマーが挙げられる。上記ポリマーは、全単位に対して、TFE単位を90~98モル%、PAVE単位を1.5~9.97モル%、及び上記モノマーに基づく単位を0.01~3モル%、それぞれ含むのが好ましい。上記モノマーは、無水イタコン酸、無水シトラコン酸又は5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(別称:無水ハイミック酸;以下、「NAH」とも記す。)が好ましい。
かかるポリマーの具体例としては、国際公開第2018/16644号に記載されるポリマーが挙げられる。
【0017】
本法におけるFパウダーは、Fポリマーを含むパウダーであり、Fポリマーのみからなるパウダーであってもよく、Fポリマーと、Fポリマーとは異なる樹脂又は無機フィラーとを含むパウダーであってもよい。なお、Fパウダー(特に、前者のFパウダー)には、Fポリマーの製造において使用された成分(重合に際して使用した、界面活性剤、重合開始剤の残渣等)は含まれていてもよい。
FパウダーにおけるFポリマーの含有量は、60質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。Fポリマーの含有量の上限は、100質量%である。
【0018】
Fポリマーとは異なる樹脂としては、芳香族ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシド、マレイミドが挙げられる。
無機物としては、酸化ケイ素(シリカ)、金属酸化物(酸化ベリリウム、酸化セリウム、アルミナ、ソーダアルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン等)、窒化ホウ素、メタ珪酸マグネシウム(ステアタイト)が挙げられる。
Fポリマーとは異なる樹脂又は無機物を含むFパウダーは、Fポリマーをコアとし上記樹脂又は無機物をシェルに有するコアシェル構造を有するか、Fポリマーをシェルとし、上記樹脂又は無機物をコアに有するコアシェル構造を有するのが好ましい。かかるFパウダーは、例えば、Fポリマーのパウダーと、上記樹脂又は無機物のパウダーとを合着(衝突、凝集等)させて得られる。
【0019】
FパウダーのD50は、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、6μm以下がさらに好ましく、3μm以下が特に好ましい。FパウダーのD50は、0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましい。また、FパウダーのD90は、100μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、8μm以下がさらに好ましい。
Fパウダーの比表面積は、25m/g以下が好ましく、1~8m/gがより好ましく、1~3m/gがさらに好ましい。
D50、D90及び比表面積のそれぞれが、上記範囲にあるFパウダーであれば、液物性により優れた分散液が得られる。
【0020】
本発明における液体化合物は、イソアルカン、テルペン、α-オレフィン、ジメチルシリコーンオイル及びメチルフェニルシリコーンオイルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であり、動粘度が1000mm・s-1以下であり、沸点が100~300℃である。なお、液体化合物とは、1013.25hPa、25℃にて液体である化合物を意味する。
【0021】
液体化合物の動粘度は、0mm・s-1超が好ましく、0.1mm・s-1以上がより好ましく、1mm・s-1以上がさらに好ましい。動粘度は、100mm・s-1以下が好ましく、10mm・s-1以下がより好ましい。
液体化合物の沸点は、120℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましい。沸点は、250℃以下が好ましく、220℃以下がより好ましい。
液体化合物の、動粘度及び沸点のそれぞれが、上記範囲にあれば、高度な流動状態にある液体化合物の浸透作用によって、Fパウダーが充分に濡れ広がり易くなり、本分散液の液物性が一層向上して、本分散液から平滑性に優れた緻密な成形物が得られ易い。
【0022】
液体化合物は、イソアルカン又はジメチルシリコーンオイルが好ましい。
イソアルカンは、主鎖に対して分岐鎖を有するアルカンであり、Fポリマーに対する親和性と、その流動性によるFパウダーに対する浸透作用とが高度にバランスし、本分散液の液物性を一層向上させやすい。
ジメチルシリコーンオイル又はメチルフェニルシリコーンオイル(特に、ジメチルシリコーンオイル)は、それ自身の界面活性作用によって、Fパウダーの分散性を向上させ、本分散液の液物性を一層向上させやすい。
【0023】
イソアルカンとしては、イソデカン、イソドデカン、イソテトラデカン又はイソヘキサデカンが好ましい。これらのイソアルカンは、上述の作用機構を亢進させやすい。
テルペンとしては、モノテルペン、ジテルペン、トリテルペンが好ましく、リモネン、又はスクアレンがより好ましい。
α-オレフィンとしては、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン又は1-ヘキサデセンが好ましい。
【0024】
ジメチルシリコーンオイルとしては、直鎖ジメチルシリコーンオイル又は環状ジメチルシリコーンオイルが好ましい。これらのシリコーンオイルは、上述の作用機構を亢進させやすい。
直鎖ジメチルシリコーンオイルとしては、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンが挙げられる。
環状ジメチルシリコーンオイルとしては、デカメチルシクロペンタシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサンが挙げられる。
メチルフェニルシリコーンオイルとしては、ジフェニルジメチコン、ジフェニルシロキシフェニルトリメチコンが挙げられる。
【0025】
本分散液におけるFパウダーの含有量は、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。Fパウダーの含有量は、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。分散液におけるFパウダーの含有量が高くとも、上述した作用機構により、本分散液は、液物性に優れており、それから任意の成形物(厚いポリマー層等)を形成しやすい。
本分散液における液体化合物の含有量は、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましい。液体化合物の含有量は、80質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。
本分散液におけるFパウダーの含有量に対する、液体化合物の含有量の比は、1以上が好ましく、1.5以上がより好ましい。含有量の比は、4以下が好ましく、3以下がより好ましい。
液体化合物の含有量及び上記比のそれぞれが、かかる範囲にあれば、上述した作用機構が亢進しやすく、本分散液の液物性が一層向上しやすい。
【0026】
本分散液の粘度は、50mPa・s以上が好ましく、100mPa・s以上がより好ましい。本分散液の粘度は、10000mPa・s以下が好ましく、5000mPa・s以下がより好ましく、1000mPa・s以下がさらに好ましい。この場合、本分散液は、塗工性に優れるため、任意の厚さを有するポリマー層等の成形物を形成しやすい。
本分散液のチキソ比は、1.0以上が好ましい。本分散液のチキソ比は、3.0以下が好ましく、2.0以下がより好ましい。この場合、本分散液は、塗工性に優れるだけでなく、その均質性にも優れるため、より緻密なポリマー層等の成形物を形成しやすい。
【0027】
本分散液の成分分散層率は、60%以上が好ましく、70%以上がより好ましい。成分分散層率の上限は、100%である。本分散液は、分散安定性に優れるため、かかる成分分散層率に調整しやすい。
本分散液の泡沫体積比率は、10%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。泡沫体積比率は、0%以上が好ましい。この場合、本分散液から形成される成形物が緻密になりやすく、また、成形物中で成分が均一に分布しやすい。泡沫体積比率は、本分散液を脱気して調整してもよい。
上述した作用機構により、本発明によれば、粘度、チキソ比、成分分散層率及び泡沫体積比率のそれぞれが、上記範囲にある分散液が容易に得られる。
【0028】
本分散液は、さらに無機フィラーを含むのが好ましい。この場合、本分散液の液物性がより向上しやすく、また、本分散液から形成する成形物において、無機フィラーの物性が良好に発現しやすい。
無機フィラーは、酸化物、窒化物、金属単体、合金及びカーボンを含む無機フィラーが好ましく、酸化ケイ素(シリカ)、金属酸化物(酸化ベリリウム、酸化セリウム、アルミナ、ソーダアルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン等)、窒化ホウ素、及びメタ珪酸マグネシウム(ステアタイト)を含む無機フィラーがより好ましく、アルミニウム、マグネシウム、ケイ素、チタン、亜鉛から選択される元素の少なくとも1種を含有する無機酸化物を含む無機フィラーがさらに好ましく、シリカ及び窒化ホウ素を含む無機フィラーが特に好ましく、シリカを含む無機フィラーが最も好ましい。また、無機フィラーは、セラミックスであってもよい。無機物は、1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。2種以上の無機フィラーを混合する場合、2種のシリカを含む無機フィラー用いてもよく、シリカと金属酸化物とを含む無機フィラーを用いてもよい。
【0029】
無機フィラーは、粒子状であるのが好ましく、無機フィラーの形状は、粒状、針状(繊維状)、板状のいずれであってもよい。無機フィラーの具体的な形状としては、球状、鱗片状、層状、平板状、葉片状、杏仁状、柱状、鶏冠状、等軸状、葉状、雲母状、ブロック状、平板状、楔状、ロゼット状、網目状、角柱状が挙げられる。無機フィラーは、中空状であってもよく、中空状の無機フィラーと、非中空状の無機フィラーとを含んでもよい。無機フィラーの形状としては、球状又は鱗片状が好ましい。
無機フィラーのD50は、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。無機フィラーのD50は、0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましい。
【0030】
無機フィラーの好適な具体例としては、シリカフィラー(アドマテックス社製の「アドマファイン(登録商標)」シリーズ等)、ジカプリン酸プロピレングリコール等のエステルで表面処理された酸化亜鉛(堺化学工業株式会社製の「FINEX(登録商標)」シリーズ等)、球状溶融シリカ(デンカ社製の「SFP(登録商標)」シリーズ等)、多価アルコール及び無機物で被覆処理された酸化チタン(石原産業社製の「タイペーク(登録商標)」シリーズ等)、アルキルシランで表面処理されたルチル型酸化チタン(テイカ社製の「JMT(登録商標)」シリーズ等)、中空状シリカフィラー(太平洋セメント社製の「E-SPHERES」シリーズ、日鉄鉱業社製の「シリナックス」シリーズ、エマーソン・アンド・カミング社製「エココスフイヤー」シリーズ等)、タルクフィラー(日本タルク社製の「SG」シリーズ等)、ステアタイトフィラー(日本タルク社製の「BST」シリーズ等)、窒化ホウ素フィラー(昭和電工社製の「UHP」シリーズ、デンカ社製の「デンカボロンナイトライド」シリーズ(「GP」、「HGP」グレード)等)が挙げられる。
【0031】
無機フィラーの表面は、シランカップリング剤で表面処理されていてもよい。シランカップリング剤としては、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
無機フィラーを含有する場合、本分散液における無機フィラーの含有量は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。含有量は、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。
【0032】
本分散液は、さらに芳香族ポリマーを含むのが好ましい。芳香族ポリマーは、本分散液中に溶解していてもよく、分散していてもよい。この場合、本分散液の液物性がより向上しやすく、また、本分散液から形成される成形物が低線膨張性とUV吸収性を向上しやすい。
芳香族ポリマーは、芳香族ポリイミド、芳香族マレイミド、スチレンエラストマーのような芳香族エラストマー又は芳香族ポリアミック酸が好ましく、芳香族ポリイミド、芳香族マレイミド、ポリフェニレンエーテル、スチレンエラストマーのような芳香族エラストマーがより好ましく、芳香族ポリイミド又は芳香族ポリアミック酸がさらに好ましい。芳香族ポリイミドは、熱可塑性であってもよく、熱硬化性であってもよい。熱可塑性のポリイミドとは、イミド化が完了した、イミド化反応がさらに生じないポリイミドを意味する。
【0033】
芳香族ポリイミドの具体例としては、「ネオプリム(登録商標)」シリーズ(三菱ガス化学社製)、「スピクセリア(登録商標)」シリーズ(ソマール社製)、「Q-PILON(登録商標)」シリーズ(ピーアイ技術研究所製)、「WINGO」シリーズ(ウィンゴーテクノロジー社製)、「トーマイド(登録商標)」シリーズ(T&K TOKA社製)、「KPI-MX」シリーズ(河村産業社製)、「ユピア(登録商標)-AT」シリーズ(宇部興産社製)が挙げられる。
スチレンエラストマーとしては、スチレン-ブタジエン共重合体、水添-スチレン-ブタジエン共重合体、水添-スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物、およびスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体の水素添加物等が挙げられる。
芳香族ポリマーを含有する場合、本分散液における芳香族ポリマーの含有量は、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましい。含有量は、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0034】
本分散液は、界面活性剤を実質的に含有しないのが好ましい。界面活性剤を実質的に含有しないとは、本分散液中の界面活性剤の濃度が1質量%を超えない、という意味である。本分散液における界面活性剤の含有量は、1質量%未満であり、0.5質量%以下が好ましく、0質量%がより好ましい。この場合、本分散液は、消泡性に優れやすい。また、本分散液から形成される成形物中で界面活性剤が残存しにくく、成形物が電気特性に優れやすい。
上述した作用機構により、本発明によれば、かかる分散液が容易に得られる。
【0035】
なお、本分散液が界面活性剤を含む場合、界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤が好ましい。
界面活性剤の親水部位は、オキシアルキレン基又はアルコール性水酸基を有するのが好ましい。
オキシアルキレン基は、1種から構成されていてもよく、2種以上から構成されていてもよい。後者の場合、種類の違うオキシアルキレン基は、ランダム状に配置されていてもよく、ブロック状に配置されていてもよい。
オキシアルキレン基は、オキシエチレン基が好ましい。
【0036】
界面活性剤の疎水部位は、アセチレン基、ポリシロキサン基、ペルフルオロアルキル基又はペルフルオロアルケニル基を有するのが好ましく、ポリシロキサン基を有するのがより好ましい。
換言すれば、界面活性剤は、アセチレン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤又はフッ素系界面活性剤が好ましく、シリコーン系界面活性剤がより好ましい。この場合、界面活性剤がFパウダー及び液体化合物と良好に相互作用して、本分散液が分散安定性に優れやすい。
【0037】
本分散液は、上記成分以外にも、チキソ性付与剤、粘度調節剤、消泡剤、シランカップリング剤、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、表面処理剤、難燃剤、各種フィラー等の他の成分をさらに含んでいてもよい。
本分散液は、Fパウダーと液体化合物とを混合して製造できる。本分散液は、Fパウダーと液体化合物とを含む液状組成物を混練して得られるペーストと、液体化合物とを混合して得るのが好ましい。
【0038】
液状組成物の調製に使用する液体化合物は、上述の液体化合物であってもよく、上述の液体化合物以外の液体化合物であってもよい。
液体化合物以外の液体化合物としては、アミド、ケトン又はエステルが好ましく、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、シクロヘキサノンまたはシクロペンタノンがより好ましい。
本分散液における液体化合物は、液状組成物の調製に使用される液体化合物と同じ液体化合物であるのが好ましい。この場合、本分散液の液物性がより優れやすい。
【0039】
本分散液が無機フィラー、芳香族ポリマー又は界面活性剤を含む場合、それらは、本分散液を製造するどの段階で混合してもよい。例えば、混練前の液状組成物と混合してもよく、混練中の液状組成物と混合してもよく、混練後のペーストと混合してもよく、ペーストと液体化合物との混合物に混合してもよい。
混練に際しては、ヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサー、二軸型押出混練機、石臼型混練機を使用できる。
混練に際しては、液状組成物の質量が実質的に変化しない様に混練するのが好ましく、閉鎖系で混練するのが好ましい。混練中に液状組成物の液状分が蒸発しない様に混練するのが好ましい。その結果、各成分が均一に混練され、高度に脱泡されたペーストが得られる。
【0040】
上記のようにして得られるペーストは、粘性が高く、通常、半固体状あるいは固体状の堅練品である。ペーストの粘度は、800~100000mPa・sが好ましく、10000~100000mPa・sがより好ましい。
ペーストの固形分量は、40~90質量%が好ましく、50~80質量%がより好ましい。ペーストにおける固形分量とは、ペーストから得た本分散液から形成される成形物において、固形成分を形成する物質の総量を意味する。例えば、ペーストが、Fポリマー、無機フィラー及び芳香族ポリマーを含む場合には、これらの成分の成形物における総含有量がペーストにおける固形分量となる。
ペーストと液体化合物とを混合する方法として、混練に引き続き、混錬に使用した撹拌槽と撹拌羽根とを有する混練機中でペーストと液体化合物とを混合する方法、混錬に使用した混練機からペーストを取り出し、別の混練機によってペーストと液体化合物と混合する方法等が挙げられる。混練機には、バッチ式および連続式の混練機のいずれも使用可能である。
【0041】
本分散液を、基材の表面に接触させ、加熱して、Fポリマーからなる層(以下、「F層」とも記す。)を形成すれば、基材とF層とを有する積層体が製造できる。
上記積層体の製造においては、基材の表面の少なくとも片面にF層が形成されればよく、基材の片面のみにF層が形成されてもよく、基材の両面にF層が形成されてもよい。
基材の表面は、シランカップリング剤等により表面処理されていてもよい。
本分散液の基材の表面への接触は、塗布により行うのが好ましい。
この塗布には、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、グラビアオフセット法、ナイフコート法、キスコート法、バーコート法、ダイコート法、ファウンテンメイヤーバー法、スロットダイコート法等の塗布方法を使用できる。
【0042】
F層は、加熱により上記液体化合物を除去した後に、さらに加熱によりFポリマーを焼成して形成するのが好ましい。
液体化合物の除去の温度は、できるだけ低温が好ましく、液体化合物の沸点より50~150℃低い温度が好ましい。平滑性を向上する観点から、液体化合物を除去する工程で空気を吹き付けるのが好ましい。
液体化合物を除去した後、基材をFポリマーが焼成する温度領域に加熱してF層を形成するのが好ましく、例えば、300~400℃の範囲でFポリマーを焼成するのが好ましい。すなわち、F層は、Fポリマーの焼成物を含むのが好ましい。
【0043】
F層は、上述の通り、本分散液の塗布、乾燥、焼成の工程を経て形成される。これらの各工程は、1回でも2回以上行ってもよい。
例えば、F層は、基材の表面に上記分散液を塗布し、加熱により液体化合物を除去して膜を形成する工程を2回繰り返し、厚さを大きくした膜を加熱して、Fポリマーを焼成して形成してもよい。
平滑性に優れた厚いF層を得やすい観点から、本分散液の塗布、乾燥の工程を2回行うのが好ましい。
F層の厚さは、0.1μm以上が好ましい。厚さの上限は、200μmである。この範囲において、耐クラック性に優れたF層を容易に形成できる。
【0044】
F層と基材層との剥離強度は、10N/cm以上が好ましく、15N/cm以上がより好ましい。上記剥離強度は、100N/cm以下が好ましい。本分散液を用いれば、F層におけるFポリマーの物性を損なわずに、かかる本積層体を容易に形成できる。
F層の空隙率は、5%以下が好ましく、4%以下がより好ましい。空隙率は、0.01%以上が好ましく、0.1%以上がより好ましい。なお、空隙率は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察される成形物の断面におけるSEM写真から、画像処理にてF層の空隙部分を判定し、空隙部分が占める面積をF層の面積で除した割合(%)である。空隙部分が占める面積は空隙部分を円形と近似して求められる。
【0045】
基材の材質としては、金属基板(銅、ニッケル、アルミニウム、チタン、それらの合金等の金属箔等)、樹脂フィルム(ポリイミド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリアリルスルホン、ポリアミド、ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリルエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステルアミド等のフィルム)、プリプレグ(繊維強化樹脂基板の前駆体)が挙げられる。
基材の形状としては、平面状、曲面状、凹凸状が挙げられ、さらに、箔状、板状、膜状、繊維状のいずれであってもよい。
【0046】
積層体の好適な態様としては、金属箔とその少なくとも一方の表面に形成されたF層とを有する金属張積層体、樹脂フィルムとその少なくとも一方の表面に形成されたF層とを有する多層フィルムが挙げられる。
金属張積層体における金属箔は、銅箔であるのが好ましい。かかる金属張積層体は、プリント基板材料として特に有用である。
多層フィルムにおける樹脂フィルムは、ポリイミドフィルムであるのが好ましい。かかる多層フィルムは、電線被覆材料、プリント基板材料として有用である。
【0047】
F層の基材と反対側には、さらに他の基材を積層して、多層積層体としてもよい。
かかる多層積層体の構成としては、基材/F層/他の基材/F層/基材等が挙げられる。それぞれの層には、さらに、ガラスクロスやフィラーが含まれていてもよい。
かかる積層体は、アンテナ部品、プリント基板、航空機用部品、自動車用部品、スポーツ用具、食品工業用品、塗料、化粧品等として有用であり、具体的には、電線被覆材(航空機用電線等)、電気絶縁性テープ、石油掘削用絶縁テープ、プリント基板用材料、分離膜(精密濾過膜、限外濾過膜、逆浸透膜、イオン交換膜、透析膜、気体分離膜等)、電極バインダー(リチウム二次電池用、燃料電池用等)、コピーロール、家具、自動車ダッシュボート、家電製品等のカバー、摺動部材(荷重軸受、すべり軸、バルブ、ベアリング、歯車、カム、ベルトコンベア、食品搬送用ベルト等)、工具(シャベル、やすり、きり、のこぎり等)、ボイラー、ホッパー、パイプ、オーブン、焼き型、シュート、ダイス、便器、コンテナ被覆材として有用である。
【実施例
【0048】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
1.各成分の準備
[パウダー]
パウダー1:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に97.9モル%、0.1モル%、2.0モル%含み、カルボニル基を主鎖の炭素数1×10個当たり1000個有するポリマー1(フッ素含有量:76質量%、溶融温度:300℃)からなるパウダー(D50:2.1μm、比表面積:3m/g)
パウダー2:TFE単位及びPPVE単位を、この順に97.5モル%、2.5モル%含み、カルボニル基を主鎖の炭素数1×10個当たり40個有するポリマー2(フッ素含有量:76質量%、溶融温度305℃)からなるパウダー(D50:1.8μm、比表面積:6m/g)
【0049】
[液体化合物]
液体化合物1:イソドデカン(沸点:180℃)
液体化合物2:イソヘキサデカン(沸点:287℃)
液体化合物3:デカメチルテトラシロキサン(沸点:194℃)
液体化合物4:デカメチルシクロペンタンシロキサン(沸点:210℃)
液体化合物5:シクロヘキサン(沸点:81℃)
なお、いずれの液体化合物も、その動粘度が5mm・s-1以下である。
[界面活性剤]
界面活性剤1:ノニオン性であるポリオキシアルキレン変性ポリジメチルシロキサン
【0050】
2.分散液の製造例
[例1]
パウダー1と液体化合物1とをプラネタリーミキサーに投入し、混練して、パウダー1(34質量部)と液体化合物1(30質量部)とを含むペースト1(粘度:28000mPa・s)を得た。
ペースト1に、36質量部の液体化合物1を複数回に分けて添加して撹拌し、自転公転撹拌機にて2000rpmで1分間脱泡して、分散液1(粘度:400mPa・s)を得た。
【0051】
[例2~5、7]
パウダー、液体化合物の種類を変更した以外は、例1と同様にして、分散液2~5及び7を調製した。
[例6]
パウダー2と液体化合物1と界面活性剤1とをプラネタリーミキサーに投入し、混練して、パウダー2(34質量部)と液体化合物1(30質量部)と界面活性剤1(3質量部)とを含むペースト6(粘度:26000mPa・s)を得た。
ペースト6に、33質量部の液体化合物1を複数回に分けて添加して撹拌し、自転公転撹拌機にて2000rpmで1分間脱泡して、分散液6(粘度:400mPa・s)を得た。
【0052】
3.積層体の製造例
長尺の銅箔(厚さ18μm)の表面に、バーコーターを用いて分散液1を塗布して、ウェット膜を形成した。次いで、このウェット膜が形成された金属箔を、110℃にて5分間、乾燥炉に通し、加熱により乾燥させて、ドライ膜を得た。その後、窒素オーブン中で、ドライ膜を380℃にて3分間、加熱した。これにより、金属箔と、その表面にパウダー1の溶融焼成物を含む、成形物としてのポリマー層(厚さ:10μm)とを有する積層体1を製造した。
分散液1を、分散液2~7に変更した以外は、積層体1と同様にして、積層体2~7を製造した。
【0053】
4.評価
4-1.分散液の分散安定性の評価
各分散液18mLを、内容積30mLのスクリュー管に入れ、25℃にて14日間静置した。静置前後の、スクリュー管中の分散液の全体の高さと成分分散層の高さとから、以下の式により成分分散層率を算出した。
成分分散層率(%)=(成分分散層の高さ)/(分散液の全体の高さ)×100
なお、静置後に成分分散層が確認されず、状態に変化がない場合には、分散液の全体の高さに変化がないとして、成分分散層率は100%とする。
分散液の分散安定性を、下記の基準に従って評価した。
[評価基準]
〇:成分分散層率が90%以上である。
△:成分分散層率が60%以上80%未満である。
×:成分分散層率が60%未満である。
【0054】
4-2.分散液の泡沫体積比率の評価
各分散液について、1013.25hPaかつ20℃における分散液の体積(V)と、それを0.003MPaまで減圧した際の泡を合わせた体積(V)とを測定し、以下の式により泡沫体積比率を算出した。
泡沫体積比率[%]=100×(V-V)/V
分散液の泡沫体積比率を、下記の基準に従って評価した。
[評価基準]
〇:泡沫体積比率が5%以下である。
△:泡沫体積比率が5%超10%以下である。
×:泡沫体積比率率が10%超である。
【0055】
4-3.積層体の誘電正接の評価
各積層体について、積層体の銅箔を塩化第二鉄水溶液でエッチングにより除去して単独のポリマー層を作製し、SPDR(スプリットポスト誘電体共振)法にて、上記ポリマー層の誘電正接(測定周波数:10GHz)を測定し、下記の基準に従って評価した。
[評価基準]
〇:誘電正接が0.001以下である。
△:誘電正接が0.001超0.003以下である。
×:誘電正接が0.003超である。
それぞれの評価結果を、下表1にまとめて示す。
【0056】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0057】
上記結果から明らかなように、所定のテトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと、所定の炭化水素又はシリコーンオイルを含む本分散液は、液物性に優れており、基材に接触して得られた積層体は、低誘電正接性等の物性に優れていた。