(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】液体吐出装置、画像形成装置及び駆動波形生成方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/015 20060101AFI20240925BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
B41J2/015 101
B41J2/14 301
(21)【出願番号】P 2020188172
(22)【出願日】2020-11-11
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】秋山 幸太
【審査官】牧島 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-238728(JP,A)
【文献】特開2001-150654(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0016128(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動波形に基づいて各ノズルの各駆動部を駆動させて液滴を吐出する吐出ヘッドを備えた液体吐出装置であって、
それぞれサイズが異なる液滴を生成するための複数種類の駆動波形を、負極側が共通接地された各前記駆動部の正極側に供給する少なくとも2つの波形供給部
と、
前記吐出ヘッド毎、又は、液滴を吐出する所定の領域毎に、サイズの異なる液滴の存在比を変更するヘッド駆動制御部と、
を備え、
前記波形供給部は、
前記吐出ヘッドの全ノズルの前記駆動部のうち、所定数の前記駆動部を第1のサイズの液滴を吐出するように駆動した際の前記第1のサイズの液滴の吐出速度を「A」とし、
前記吐出ヘッドの全ノズルの前記駆動部のうち、所定数の前記駆動部を、前記第1のサイズよりも大きな第2のサイズの液滴を吐出するように駆動した際の前記第2のサイズの液滴の吐出速度を「B」とし、
前記吐出ヘッドの全ノズルの前記駆動部のうち、所定数の前記駆動部を前記第1のサイズの液滴を吐出するように駆動すると共に、残りの駆動部を前記第2のサイズの液滴を吐出するように駆動した際の前記第1のサイズの液滴の吐出速度を「C」とし、
前記吐出ヘッドの全ノズルの前記駆動部のうち、所定数の前記駆動部を前記第2のサイズの液滴を吐出するように駆動すると共に、残りの駆動部を前記第1のサイズの液滴を吐出するように駆動した際の前記第2のサイズの液滴の吐出速度を「D」とし、
前記液滴を吐出させるための吐出パルスのタイミングが、|A-C|<|B-D|の条件を満たす範囲内のタイミングとなる駆動波形で各前記駆動部を駆動すること
を特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記波形供給部は、
第1の波形供給部及び第2の波形供給部を備え、
前記第1の波形供給部は、前記第1のサイズ及び前記第2のサイズの間のサイズとなる第3のサイズの液滴を生成するための駆動波形、及び、前記第2のサイズの駆動波形を前記駆動部に供給し、
前記第2の波形供給部は、前記第1のサイズの駆動波形を前記駆動部に供給すること
を特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記波形供給部は、
第1の波形供給部及び第2の波形供給部を備え、
前記第1の波形供給部は、前記第2のサイズの駆動波形を前記駆動部に供給し、
前記第2の波形供給部は、前記第1のサイズ及び前記第2のサイズの間のサイズとなる第3のサイズの液滴を生成するための駆動波形、及び、前記第1のサイズの液滴を生成するための駆動波形を前記駆動部に供給すること
を特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記波形供給部は、
第1の波形供給部及び第2の波形供給部を備え、
前記第1の波形供給部は、前記第1のサイズ及び前記第2のサイズの駆動波形を前記駆動部に供給し、
前記第2の波形供給部は、前記第1のサイズ及び前記第2のサイズの間のサイズとなる第3のサイズの液滴を生成するための駆動波形を前記駆動部に供給し、
前記吐出ヘッドの全ノズルの前記駆動部のうち、所定数の前記駆動部を前記第3のサイズの液滴を吐出するように駆動した際の前記第3のサイズの液滴の吐出速度を「A」とし、
前記吐出ヘッドの全ノズルの前記駆動部のうち、所定数の前記駆動部を、前記第2のサイズの液滴を吐出するように駆動した際の前記第2のサイズの液滴の吐出速度を「B」とし、
前記吐出ヘッドの全ノズルの前記駆動部のうち、所定数の前記駆動部を前記第3のサイズの液滴を吐出するように駆動すると共に、残りの駆動部を前記第2のサイズの液滴を吐出するように駆動した際の前記第3のサイズの液滴の吐出速度を「C」とし、
前記吐出ヘッドの全ノズルの前記駆動部のうち、所定数の前記駆動部を前記第2のサイズの液滴を吐出するように駆動すると共に、残りの駆動部を前記第3のサイズの液滴を吐出するように駆動した際の前記第2のサイズの液滴の吐出速度を「D」とし、
前記液滴を吐出させるための吐出パルスのタイミングが、|A-C|<|B-D|の条件を満たす範囲内のタイミングとなる駆動波形で各前記駆動部を駆動すること
を特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記第1のサイズの駆動波形は、液滴を吐出する対象物と前記吐出ヘッドの相対速度差を「Vs」、液滴を吐出するノズルから前記対象物までの距離を「Td」、前記第1のサイズの狙いの吐出速度を「Vj」、前記吐出ヘッドのスキャン方向の解像度を「Res」とし、前記第1のサイズの液滴の狙い速度からのずれである「ΔVj」が、「Res/(2×25.4×10-3)≧Vs×((Td/Vj)-(Td/(Vj+ΔVj)))」の条件を満たす駆動波形であること
を特徴とする請求項1から請求項4のうち、いずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記吐出ヘッドは、シアン、マゼンタ、イエロー及びブラックの各色のインクを吐出し、
前記ヘッド駆動制御部は、前記吐出ヘッドのうち、イエローのインクを吐出する吐出ヘッドとして、他の色のインクを吐出する吐出ヘッドと比べて、吐出する液滴のサイズが小さな吐出ヘッドを選択すること
を特徴とする請求項
1~5のうち、いずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
請求項1~請求項
6のうち、いずれか一項に記載の液体吐出装置を備え、
液滴を吐出する吐出対象物の搬送方向に対して直交する主走査方向に前記液体吐出装置の前記吐出ヘッドを移動させて画像形成を行うシリアルエンジン方式の画像形成装置。
【請求項8】
請求項1~請求項
6のうち、いずれか一項に記載の液体吐出装置を備え、
前記液体吐出装置は、液滴を吐出する吐出対象物の搬送方向に対して直交する主走査方向に沿って所定の長さ分のノズル列から液滴を吐出して画像形成を行うラインエンジン方式の画像形成装置。
【請求項9】
駆動波形に基づいて各ノズルの各駆動部を駆動させて液滴を吐出する吐出ヘッドと、それぞれサイズが異なる液滴を生成するための複数種類の駆動波形を、負極側が共通接地された各前記駆動部の正極側に供給する少なくとも2つの波形供給部
と、前記吐出ヘッド毎、又は、液滴を吐出する所定の領域毎に、サイズの異なる液滴の存在比を変更するヘッド駆動制御部と、を備えた液体吐出装置の駆動波形生成方法であって、
駆動波形生成部が、
前記吐出ヘッドの全ノズルの前記駆動部のうち、所定数の前記駆動部を第1のサイズの液滴を吐出するように駆動した際の前記第1のサイズの液滴の吐出速度を「A」とし、
前記吐出ヘッドの全ノズルの前記駆動部のうち、所定数の前記駆動部を、前記第1のサイズよりも大きな第2のサイズの液滴を吐出するように駆動した際の前記第2のサイズの液滴の吐出速度を「B」とし、
前記吐出ヘッドの全ノズルの前記駆動部のうち、所定数の前記駆動部を前記第1のサイズの液滴を吐出するように駆動すると共に、残りの駆動部を前記第2のサイズの液滴を吐出するように駆動した際の前記第1のサイズの液滴の吐出速度を「C」とし、
前記吐出ヘッドの全ノズルの前記駆動部のうち、所定数の前記駆動部を前記第2のサイズの液滴を吐出するように駆動すると共に、残りの駆動部を前記第1のサイズの液滴を吐出するように駆動した際の前記第2のサイズの液滴の吐出速度を「D」とし、
前記液滴を吐出させるための吐出パルスのタイミングが、|A-C|<|B-D|の条件を満たす範囲内のタイミングとなる前記駆動波形を生成すること
を特徴とする駆動波形生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置、画像形成装置及び駆動波形生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日において、インクジェットヘッドを備えたプリンタ装置、ファクシミリ装置、複写装置及びプロッタ装置等の画像形成装置(画像記録装置)が知られている。このインクジェットヘッドを備えた画像形成装置では、各ノズルの駆動素子の負極側を共通電極として接地する。そして、サイズの異なる複数の液滴を吐出させるための各駆動波形を、それぞれ別のアンプ回路で生成し、各ノズルの駆動素子の正極側に、選択的に供給する。これにより、駆動波形長を短くでき、生産性の向上を図ることができる。
【0003】
また、特許文献1(特開平9-104125号公報)には、色毎に駆動波形による吐出滴サイズの階調数を変更する画像出力装置が開示されている。この画像出力装置は、データ転送又はデータ処理の負荷を最小限に抑えることができ(システムコストを抑制でき)、印字画質の向上を図ることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、各ノズルの駆動素子の負極側が共通電極とされて接地されている画像形成装置の場合、ノズルの駆動素子と接地との間に抵抗分が存在する。特に、ノズルの駆動素子の近傍は高い抵抗分が存在する。このような抵抗分に対して一方のサイズの液滴を吐出するための駆動波形の電流が流れると、負極側に電位変動が生ずる。負極側に電位変動が生ずると、他方のサイズの液滴を吐出するための駆動波形で駆動素子を駆動した際に、駆動素子が予定とは異なる変位を示し、液滴の吐出速度が変化する。これにより、液滴の着弾精度が悪化し、画像品質が低下する問題があった。
【0005】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、液滴の吐出速度を適正化して、液滴の着弾精度の向上を図り、牽いては、画像品質の向上を図ることが可能な液体吐出装置、画像形成装置及び駆動波形生成方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、駆動波形に基づいて各ノズルの各駆動部を駆動させて液滴を吐出する吐出ヘッドを備えた液体吐出装置であって、それぞれサイズが異なる液滴を生成するための複数種類の駆動波形を、負極側が共通接地された各駆動部の正極側に供給する少なくとも2つの波形供給部と、前記吐出ヘッド毎、又は、液滴を吐出する所定の領域毎に、サイズの異なる液滴の存在比を変更するヘッド駆動制御部と、を備え、波形供給部は、吐出ヘッドの全ノズルの駆動部のうち、所定数の駆動部を第1のサイズの液滴を吐出するように駆動した際の第1のサイズの液滴の吐出速度を「A」とし、吐出ヘッドの全ノズルの駆動部のうち、所定数の駆動部を、第1のサイズよりも大きな第2のサイズの液滴を吐出するように駆動した際の第2のサイズの液滴の吐出速度を「B」とし、吐出ヘッドの全ノズルの駆動部のうち、所定数の駆動部を第1のサイズの液滴を吐出するように駆動すると共に、残りの駆動部を第2のサイズの液滴を吐出するように駆動した際の第1のサイズの液滴の吐出速度を「C」とし、吐出ヘッドの全ノズルの駆動部のうち、所定数の駆動部を第2のサイズの液滴を吐出するように駆動すると共に、残りの駆動部を第1のサイズの液滴を吐出するように駆動した際の第2のサイズの液滴の吐出速度を「D」とし、液滴を吐出させるための吐出パルスのタイミングが、|A-C|<|B-D|の条件を満たす範囲内のタイミングとなる駆動波形で各駆動部を駆動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、液滴の吐出速度を適正化して、液滴の着弾精度の向上を図り、牽いては、画像品質の向上を図ることができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1の実施の形態の画像形成装置の要部を上面側から透視した状態の図である。
【
図2】
図2は、第1の実施の形態の画像形成装置を、用紙の搬送方向に沿って縦切りにした状態の断面図である。
【
図3】
図3は、液体吐出部の液室の長手方向に沿って記録ヘッドを切断した状態の断面図である。
【
図4】
図4は、液体吐出部の液室の短手方向に沿って記録ヘッドを切断した状態の断面図である。
【
図5】
図5は、液体吐出部の液室の平面方向に沿って記録ヘッドを切断した状態の断面図である。
【
図6】
図6は、第1の実施の形態の画像形成装置の要部のブロック図である。
【
図7】
図7は、小滴駆動時における吐出パルスのタイミング、及び、圧電素子の負極側の電位変動を示す図である。
【
図8】
図8は、大滴及び小滴の混在駆動時における、大滴駆動の吐出パルスのタイミング、及び、圧電素子の負極側の電位変動を示す図である。
【
図9】
図9は、最も波形ゆがみの影響が大きい駆動条件における大滴及び小滴の速度変化を示す図である。
【
図10】
図10は、駆動波形の選択動作を説明するための図である。
【
図11】
図11は、第5の実施の形態となるラインエンジン方式の画像形成装置を、用紙の搬送方向に沿って縦切りにした状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、実施の形態となる画像形成装置の説明をする。
【0010】
[第1の実施の形態]
(全体構成)
図1は、第1の実施の形態の画像形成装置の要部を上面側から透視した状態の図である。
図2は、第1の実施の形態の画像形成装置を、用紙(吐出対象物の一例)の搬送方向に沿って縦切りにした状態の断面図である。この
図1及び
図2に示す第1の実施の形態の画像形成装置は、用紙の搬送方向に対して直交する主走査方向に、吐出ヘッドを移動させて液滴を吐出する、いわゆるシリアルエンジン方式の画像形成装置である。第1の実施の形態の画像形成装置は、左右の側板221A、221Bに横架した一対のガイド部材であるガイドロッド231、232により、矢印で示すキャリッジ主走査方向に沿って、キャリッジ233を摺動自在に保持している。キャリッジ233は、主走査モータにより、タイミングベルトを介して駆動される。これにより、キャリッジ233は、キャリッジ主走査方向に沿った移動走査を行う。
【0011】
キャリッジ233には、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色のインク滴を吐出するための記録ヘッド234a、234b(区別しないときは「記録ヘッド234」という。)が設けられている。記録ヘッド234は、吐出ヘッドの一例である。記録ヘッド234は、複数のノズルからなるノズル列を主走査方向に対して直交する副走査方向に配列して形成されている。各ノズルは、インク滴吐出方向が下方となるように、記録ヘッド234に設けられている。
【0012】
記録ヘッド234は、それぞれ2列分のノズル列を有する。このうち、記録ヘッド234aの一方のノズル列はブラック(K)の液滴を吐出し、他方のノズル列はシアン(C)の液滴を吐出する。また、記録ヘッド234bの一方のノズル列は、マゼンタ(M)の液滴を吐出し、他方のノズル列はイエロー(Y)の液滴を吐出する。
【0013】
また、キャリッジ233には、記録ヘッド234のノズル列に対応して各色のインクを供給するためのヘッドタンク235a、235b(区別しないときは「ヘッドタンク35」という。)が設けられている。このヘッドタンク235には、各色のインクカートリッジ210k、210c、210m、210yから各色のインクが、各色の供給チューブ236を介して供給される。
【0014】
次に、第1の実施の形態の画像形成装置には、
図2に示すように、給紙トレイ202の用紙積載部(圧板)241上に積載された用紙242を給紙するための給紙部が設けられている。この給紙部は、用紙積載部241から用紙242を1枚ずつ分離給送する半月コロ(給紙コロ)243と、給紙コロ243に対向して設けられた、摩擦係数の大きな材質からなる分離パッド244とを備えている。分離パッド244は、給紙コロ243側に付勢されている。
【0015】
また、第1の実施の形態の画像形成装置は、給紙部から給紙された用紙242を、記録ヘッド234の下方側に送り込むために、用紙242を案内するガイド部材245と、カウンタローラ246とを備えている。また、第1の実施の形態の画像形成装置は、搬送ガイド部材247と、先端加圧コロ249を有する押さえ部材248とを備えている。また、第1の実施の形態の画像形成装置は、給送された用紙242を静電吸着して記録ヘッド234に対向する位置に搬送するための搬送ベルト251を備えている。
【0016】
搬送ベルト251は、無端状ベルトであり、搬送ローラ252とテンションローラ253との間に掛け渡されている。また、第1の実施の形態の画像形成装置には、搬送ベルト251の表面を帯電させるための帯電ローラ256が設けられている。この帯電ローラ256は、搬送ベルト251の表層に接触し、搬送ベルト251の回動に従動して回転するように設けられている。副走査モータによってタイミングベルトを介して搬送ローラ252が回転駆動されることで、搬送ベルト251がベルト搬送方向(副走査方向)に周回移動する。
【0017】
また、第1の実施の形態の画像形成装置は、記録ヘッド234で記録された用紙242を排紙するための排紙部を備えている。この排紙部は、搬送ベルト251から用紙242を分離するための分離爪261と、排紙ローラ262及び排紙コロ263とを備えている。また、排紙ローラ262の下方には、排紙トレイ203が設けられている。
【0018】
また、第1の実施の形態の画像形成装置の背面部には、両面ユニット271が着脱自在に装着されている。この両面ユニット271は、搬送ベルト251の逆方向回転で戻される用紙242を取り込んで反転させ、再度カウンタローラ246と搬送ベルト251との間に給紙する。両面ユニット271の上面は、手差しトレイ272が設けられている。
【0019】
また、
図1に示すように、キャリッジ233の走査方向に沿った一方の端部側となる非印字領域には、記録ヘッド234のノズルの状態を維持し回復させるための維持回復機構281が設けられている。この維持回復機構281には、記録ヘッド234の各ノズル面をキャピングするための各キャップ部材(以下「キャップ」という。)282a、282b(区別しないときは「キャップ282」という。)が設けられている。また、維持回復機構281には、ノズル面をワイピングするためのワイパーブレード283と、空吐出した液滴を排液するための空吐出受け284が設けられている。空吐出は、増粘して記録に適さない液滴を排液するために行われる。
【0020】
また、キャリッジ233の走査方向に沿った他方の端部側となる非印字領域には、空吐出された排液の液体回収容器であるインク回収ユニット(空吐出受け)288が設けられている。このインク回収ユニット288は、記録ヘッド234のノズル列方向に沿った開口部289を備えている。
【0021】
このような第1の実施の形態の画像形成装置は、給紙トレイ202から用紙242が1枚ずつ分離され、略鉛直上方に給紙される。給紙された用紙242は、ガイド245で案内され、搬送ベルト251とカウンタローラ246との間に挟まれて搬送される。また、用紙242は、更に先端を搬送ガイド237で案内され、先端加圧コロ249で搬送ベルト251に押し付けられ、略90°分、搬送方向が転換処理される。
【0022】
このとき、帯電ローラ256に対して、プラス電位及びマイナス電位が交互に繰り返し印加される(交番電圧が印加される)。これにより、搬送ベルト251上には、周回方向である副走査方向に、プラス電位及びマイナス電位が所定の幅の帯状に交互に帯電された帯電電圧パターンが形成される。この帯電電圧パターンが形成された搬送ベルト251上に用紙242が給送されると、用紙242が搬送ベルト251に吸着され、搬送ベルト251の周回移動により、用紙242が副走査方向に搬送される。
【0023】
そこで、キャリッジ233を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド234を駆動することにより、停止している用紙242にインク滴を吐出して1行分の文字又は画像等のオブジェクトの記録を行い、用紙242を所定量搬送後、次の行のオブジェクトの記録を行う。記録終了信号を受信し又は記録領域に対する用紙242の後端の到達を検出すると記録動作が終了となり、用紙242が排紙トレイ203に排紙される。
【0024】
(記録ヘッドの構成)
次に、記録ヘッド234の説明をする。
図3は、液体吐出部の液室の長手方向に沿って記録ヘッド234を切断した状態の断面図である。
図4は、液体吐出部の液室の短手方向に沿って記録ヘッド234を切断した状態の断面図である。
図5は、液体吐出部の液室の平面方向に沿って記録ヘッド234を切断した状態の断面図である。
【0025】
この
図3~
図5に示すように、記録ヘッド234は、インク供給口1-1及び共通液室1-2となる彫り込みを形成したフレーム1を有する。また、記録ヘッド234は、流体抵抗部2-1及び圧力発生室2-2となる彫り込みと、ノズル3-1に連通する連通口2-3を形成した流路板2とを有する。また、記録ヘッド234は、ノズル3-1を形成するノズル板と、凸部6-1、ダイアフラム部6-2及びインク流入口6-3を有する振動板6とを有する。また、記録ヘッド234は、振動板6に接着層7を介して接合された圧電素子5と、圧電素子5を固定しているベース4を有する。ベース4は、チタン酸バリウム系セラミックからなり、圧電素子5が2列に配置されて接合されている。
【0026】
圧電素子5は、厚さが10~50μmの1層のチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)で形成された圧電層と、厚さが数μmの1層の銀パラジューム(AgPd)で形成された内部電極層とを交互に積層して形成されている。内部電極層は、両端で外部電極に接続されている。
【0027】
圧電素子5は、ハーフカットのダイシング加工により櫛歯上に分割され、駆動部5-6及び支持部5-7(非駆動部)が交互に形成されている。外部電極の外側は、ハーフカットのダイシング加工により分割され、切り欠き加工等により長さが制限された複数の個別電極となっている。他方はダイシングでは分割されずに導通しており、共通電極5-5となっている。
【0028】
駆動部の個別電極には、フレキシブル基板(FPC)8が半田接合されている。また、共通電極5-5は、圧電素子5の端部に設けられた電極層を介してFPC8の接地電極(GND電極)に接合されている。FPC8には、ドライバ回路(ドライバIC)が設けられている。ドライバICは、駆動部5-6に対して駆動電圧を印加制御する。
【0029】
振動板6は、薄膜のダイアフラム部6-2を備えている。このダイアフラム部6-2の中央部には、駆動部5-6(圧電素子5)と接合するための島状凸部(アイランド部)6-1が設けられている。また、振動板6は、支持部に接合する梁を含む厚膜部と、電鋳工法によりNiメッキ膜を2層重ねることで形成されたインク流入口6-3となる開口部とを備えている。一例ではあるが、ダイアフラム部の厚さは、3um、幅は35um(片側)である。
【0030】
振動板6の島状凸部6-1と圧電素子5の可動部5-6、及び、振動板6とフレーム1は、ギャップ材を含んだ接着層7をパターニングすることで接着されている。
【0031】
流路板2は、シリコン単結晶基板で形成されている。流路板2は、流体抵抗部2-1及び圧力発生室2-2を彫り込み、また、ノズル3-1に対する位置に連通口2-3をエッチング工法でパターニングして形成されている。エッチングで残された部分は、圧力発生室2-2の隔壁2-4となる。また、この記録ヘッド234には、エッチング幅を狭くすることで形成された流体抵抗部2-1が設けられている。
【0032】
ノズルプレート3は、例えば電鋳工法によるNiメッキ膜等の金属材料で形成されている。ノズルプレート3には、インク滴を吐出するための微細な吐出口であるノズル3-1が多数形成されている。一例ではあるが、このノズル3-1の内部形状(内側形状)は、ホーン形状(略円柱形状又は略円錘台形状でもよい。)となっている。また、一例ではあるが、ノズル3-1の径は、インク滴出口側の直径で約20~35μmとなっている。また、一例ではあるが。各列のノズルピッチは150dpi(dots per inch)となっている。
【0033】
ノズルプレート3のインク吐出面(ノズル表面側)には、撥水性の表面処理が施された撥水処理層3-2が設けられている。撥水処理層3-2としては、例えばPTFE-Ni共析メッキ(ニッケルテフロン(登録商標)共折メッキ)、フッ素樹脂の電着塗装、蒸発性のあるフッ素樹脂(例えばフッ化ピッチなど)を蒸着コートしたもの等を用いることができる。また、撥水処理層3-2としては、シリコン系樹脂・フッ素系樹脂の溶剤塗布後の焼き付け等のインク物性に応じて選定した撥水処理膜を設けることができる。これにより、インクの滴形状及び飛翔特性を安定化し、高品位の画像品質を得ることができる。
【0034】
インク供給口1-1及び共通液室1-2となる彫り込みを形成するフレーム1は、樹脂成形で形成されている。
【0035】
このような記録ヘッド234においては、記録信号に応じた駆動波形(10V~50Vのパルス電圧)を駆動部5-6に印加する。これにより、駆動部5-6に積層方向の変位が生じ、振動板3を介して加圧されることで圧力発生室2-2の圧力が上昇し、ノズル3-1からインク等の液滴が吐出される。
【0036】
液滴の吐出が終了すると、圧力発生室2-2内の圧力が低減し、液滴の流れの慣性と駆動パルスの放電過程によって圧力発生室2-2内に負圧が発生してインク充填行程へ移行する。このとき、インクタンクから供給されたインクは、共通液室1-2に流入し、共通液室1-2からインク流入口6-3を経て流体抵抗部2-1を通り、圧力発生室2-2内に充填される。
【0037】
流体抵抗部2-1は、吐出後の残留圧力振動の減衰に効果が有る反面、表面張力による最充填(リフィル)に対して抵抗になる。流体抵抗部2-1を適宜に選択することで、残留圧力の減衰とリフィル時間のバランスを調整でき、次のインク滴吐出動作に移行するまでの時間(駆動周期)を短くできる。
【0038】
(要部の電気構成)
図6は、第1の実施の形態の画像形成装置の要部のブロック図である。この
図6は、記録ヘッド234、記録ヘッド234を駆動制御する制御部100及び制御部100に対して各敵種の駆動波形データを設定する駆動波形設定制御部170の電気構成を示している。この
図6に示すように、制御部100は、画像情報及び印刷開始コマンドに基づいて、記録ヘッド234の各ノズルの滴種(大滴、中滴、小滴)を指定する滴種マップを生成する画像マップ生成部101を有している。
【0039】
また、制御部100は、大滴用の波形、中滴用の波形又は小滴用の波形を選択する駆動波形選択部104を有している。駆動波形選択部104は、画像マップ生成部101から供給された画像情報と、温度検知部152で検知された温度に基づき、駆動波形格納部103に記憶されている大滴用の波形、中滴用の波形又は小滴用の波形を選択する。そして、この選択した波形を示す駆動波形データを、第1のデジタル/アナログ変換部(第1のD/A変換部)105及び第2のデジタル/アナログ変換部(第2のD/A変換部)106に供給する。
【0040】
また、制御部100は、第1のD/A変換部105から供給される駆動波形信号の電流及び電圧を増幅する第1のアンプ回路107、及び、第2のD/A変換部106から供給される駆動波形信号の電流及び電圧を増幅する第2のアンプ回路108を有している。第1のアンプ回路107及び第2のアンプ回路108は、波形供給部の一例である。
【0041】
また、制御部100は、画像マップ生成部101により生成された滴種マップと、駆動波形選択部104により選択された駆動波形データに基づいて、記録ヘッド234のアンプ接続制御部161を制御するヘッド駆動制御部109を有している。
【0042】
これに対して、記録ヘッド234は、各ノズルから液滴を吐出させるための圧電素子5を有している。各圧電素子5の負極側は、上述のように共通電極5-5となっており、FPC8の接地電極(GND電極)に接合されている(負極側は、共通接地されている)。
【0043】
また、記録ヘッド234は、第1のアンプ回路107からの駆動波形信号を各圧電素子5の正極側の個別電極に供給する第1のスイッチ162a、及び、第2のアンプ回路108からの駆動波形信号を各圧電素子5の正極側の個別電極に供給する第2のスイッチ162bを有している。
【0044】
また、記録ヘッド234は、ヘッド駆動制御部109の制御に基づいて、いずれかのアンプ回路107、108からの駆動波形信号が、各圧電素子5に供給されるように、第1のスイッチ162a及び第2のスイッチ162bを切り替え制御するアンプ接続制御部161を有している。
【0045】
なお、吐出液滴の出力結果を重視する商業用途印刷及び産業用途印刷等においては、吐出対象物上の所定の面積における均一の液量濃度を達成するために、「シェーディング補正」と呼ばれる記録ヘッド234内の吐出量を調整する吐出補正を実施することがある。ヘッド駆動制御部109は、記録ヘッド234毎、又は、液滴を吐出する所定の領域毎に、サイズの異なる液滴の存在比を変更するようにアンプ接続制御部161を制御することでシェーディング補正を実行制御する。すなわち、吐出対象物上での液量濃度は、定量測定され、その結果が、ヘッド駆動制御部109にフィードバックされる。ヘッド駆動制御部109は、フィードバックされた液量濃度に基づいて、記録ヘッド234毎、又は、液滴を吐出する所定の領域毎に、サイズの異なる液滴の存在比を変更するようにアンプ接続制御部161を制御する。
【0046】
一例であるが、液量の定量評価は、例えば紙又はフィルム上においては、印刷対象物に画像を印刷し、印刷対象物の光学濃度を、分光測色計を用いて測定する。また、吐出補正のフィードバック制御は、画像マップ生成部101、又は、より上級機種となるパーソナルコンピュータ等の機器により、液滴の有無及びサイズ等の配置パターンを、液量濃度が希望する範囲内に収まるように調整することで行う。
【0047】
なお、吐出補正のフィードバック制御は、駆動波形格納部103に記憶されている駆動波形信号のパターンデータをヘッド単位、又は、各D/A換部105、106単位で調整することで行ってもよい。また、吐出補正のフィードバック制御は、各アンプ回路107、108単位で増幅率を変化させることで実行可能である。
【0048】
一方、駆動波形設定制御部170は、駆動波形の設計時において、各ノズルから液滴が吐出される速度(滴速度)を検出する滴速度検出部171と、滴種毎に複数パターンの駆動波形データが記憶された駆動波形メモリ172を有している。また、駆動波形設定制御部170は、滴速度検出部171により検出された各ノズルの滴速度に基づいて、大滴及び小滴の混在駆動時に、大滴よりも小滴の方が狙いの速度からの変動が小さくなるように、駆動波形メモリ172に記憶されている駆動波形を選択して駆動波形格納部103に設定する駆動波形設定部173を有している。これにより、駆動ノズル数が変動しても狙いに近い速度の小滴を吐出可能な駆動波形を設定でき、画質の向上を図ることができる。
【0049】
なお、
図6においては、第1の実施の形態の画像形成装置が駆動波形設定制御部170を備えるように図示しているが、第1の実施の形態の画像形成装置とは物理的に異なる外部機器として駆動波形設定制御部170を設けてもよい。
【0050】
また、駆動波形メモリ172及び駆動波形設定部173は、駆動波形生成部の一例である。
【0051】
(共通電極構成による問題)
ここで、インクジェット方式の画像形成装置では、吐出の駆動周波数向上のために、波形長の短縮が必要である。このため、1つの共通駆動波形から大滴、小滴を選択的に切り出す方式ではなく、
図6を用いて説明したような、複数のアンプ回路107,108で異なる駆動波形を同時に生成し、いずれかのスイッチ162a、162bを介して各圧電素子5に、選択的に駆動波形を印加する方式が用いられる。
【0052】
この方式においては、選択された駆動波形により圧電素子5の個別電極及び共通電極間に生ずる電位差により、圧電素子5が変位し、そのエネルギーでインク等の液滴が吐出される。
【0053】
一方、
図6を用いて説明した回路構成では、圧電素子5の個別電極には、複数の駆動波形信号を選択する各スイッチ162a、162bが接続される。これに対し、圧電素子5の共通電極5-5は、第1のアンプ回路107からの駆動波形を選択する場合、及び、第2のアンプ回路108からの駆動波形を選択する場合の、いずれの場合も共通で使用される。
【0054】
このため、一方のアンプ回路(107又は108)による駆動波形で圧電素子5を駆動した際に、接地と圧電素子5の負極側との間の抵抗分に電流が流れ、圧電素子5の負極側の電位が変動する。そして、この電位の変動が生じた状態で、他方のアンプ回路により生成された別の駆動波形で圧電素子5を駆動すると、圧電素子5に印加される電位差が予定していた電位差とは異なる電位差となる。これにより、予定していた吐出速度とは異なる吐出速度で液滴が吐出され、液滴の着弾精度が悪化し、画像品質が低下する問題を生ずる。
【0055】
図7に示す実線のグラフは、小滴用の駆動波形に基づいてアンプ回路で生成される電位(圧電素子5の正極側の電位)のグラフである。また、
図7に点線で示すグラフは、上述の圧電素子5の負極側の電位変動を示すグラフである。
図7中、電位差A及び電位差B等で示すように、小滴用の駆動波形による電位と負極側の電位との電位差で圧電素子5が駆動され、記録ヘッド234の液室に設けられたアクチュエータが変形する。電位差が小さいときには、液室体積は大きく拡張された状態になり、液室内の圧力は低下する。電位差が大きいときには液室体積は小さくなり、液室内の圧力が高まり、液滴が吐出される。
【0056】
このとき、アンプ回路で生成された駆動波形に対応する電位が圧電素子5に印加されると、容量性負荷であるアクチュエータには電流が発生する。そして、その電流によって電圧降下が発生し、接地されている共通電極5-5の近傍の電位が、
図7に点線のグラフで示すように変動する。記録ヘッド234のアクチュエータは、圧電素子5の正極側及び負極側の電位差により、圧電素子5を介して駆動される。このため、
図7に示すように共通電極5-5に電位変動Cを生ずると、圧電素子5に印加される電位差が、電位差Bで示すように低下し、その分だけアクチュエータの変位量が小さくなる。
【0057】
図7に電位差Bとして示す駆動波形は、液室を収縮させて液滴を吐出させる吐出パルスを示している。ノズルから吐出される液滴は、この吐出パルスによる電位差に対応する滴速度及びタイミング(吐出タイミング)で吐出される。この際、負極側の電位変動の影響で電位差が小さくなると、液室の収縮が不十分となるため、液滴の吐出速度が遅くなる。このように、1つの圧電素子5に同時に印加される駆動波形が1種類だけの場合、吐出時の電流の影響で、液滴の吐出速度が遅くなる。なお、電流量は駆動するノズルの数が増えるほど大きくなるため、駆動するノズルの数が多いほど、速度変動の影響も大きい。
【0058】
一方、大滴用の駆動波形及び小滴用の駆動波形に基づいて、1つのノズルから大滴及び小滴を同時に吐出する場合、大滴と小滴のタイミングによって、液滴の速度変動の影響度は変化する。
図8に示す実線のグラフは、大滴及び小滴を吐出する混在駆動時における、大滴吐出の際の電位を示すグラフである。また、
図8に示す点線のグラフは、
図5に図示した小滴吐出の際の共通電極5-5の電位を示すグラフである。
【0059】
図8に示す電位差Cは、小滴用の駆動波形により、最も大きく変動した共通電極5-5の電位差を示している。この電位差Cのタイミングは、大滴用の駆動波形による駆動時に、記録ヘッド234の液室が最も拡張するタイミングである。このタイミングで、圧電素子5に印加される電位差が低下すると、液室はより大きく拡張する。これにより、次回、液室が収縮する際に、拡張から収縮への変動幅が大きくなり、吐出される液滴の速度は速くなる。
【0060】
このように、異なるアンプ回路で大滴用及び小滴用等の異なる液滴用の駆動波形をそれぞれ生成し、各駆動波形で共通電極5-5を備えた1つのヘッドを駆動すると、大滴及び小滴の吐出速度は、互いの駆動波形の影響を受けて変化する不都合を生ずる。
【0061】
次に、上述の負極側の電位変動による液滴の速度変動量は、大滴及び小滴のタイミングで変化する。このため、大滴及び小滴に、それぞれ速度変動を生じないタイミングを選択することが考えられる。しかし、そのようなタイミングの選択は、大変困難である。このことを説明する。
【0062】
図9は、最も波形ゆがみの影響が大きい駆動条件における大滴及び小滴の速度変化を示すグラフである。具体的には、この
図9のグラフは、例えば一つのアンプ回路で320個のノズルを駆動する記録ヘッドのグラフである。そして、このグラフは、1個のノズルを小滴吐出駆動し、残り319個のノズルを大滴吐出駆動した際の小滴の速度(小滴プロット)と、1個のノズルを大滴吐出駆動し、残り319個のノズルを小滴吐出駆動した際の大滴の速度(大敵プロット)を、小滴に対する大滴のタイミングを変更しながら測定したグラフである。
【0063】
この
図9のグラフに示すように、小滴は-0.1μsのタイミングを選択したときに、希望する速度(狙い速度)となり、大滴は+0.2μsのタイミングを選択したときに希望する速度(狙い速度)となることが分かる。
【0064】
しかし、この
図9のグラフの横軸は、大滴及び小滴の駆動波形の吐出パルスの相対的なタイミングである。このため、小滴及び大滴のタイミングを独立に選択することはできず、大滴及び小滴の両方に対して、波形歪みによる狙い速度からの吐出速度変動をゼロにするタイミングは選択することは困難となる。
【0065】
(駆動波形の設定動作)
このようなことから第1の実施の形態の画像形成装置は、駆動波形設計時において、駆動波形設定制御部170が、以下のように駆動波形を決定し、駆動波形格納部103に設定(記憶)している。
図10は、駆動波形の選択動作を説明するための図である。
【0066】
駆動波形設計時において、駆動波形設定制御部170は、上述のシェーディング補正を行う記録ヘッド234において、大滴及び小滴の2種類の駆動波形の吐出パルスのタイミングを決定する際に、滴速度検出部171で検出された以下の条件A~条件Dの滴速度を取得する。そして、駆動波形設定制御部170は、
図10に実線の枠で囲んで示す範囲X内に、吐出パルス(
図7又は
図8参照)のタイミングを備えた駆動波形を選択し、駆動波形格納部103に設定する。
【0067】
図10に実線の枠で囲んで示す範囲Xは、以下の式(1)の条件が成立する範囲である。駆動波形設定制御部170の駆動波形設定部173は、駆動波形設計時に滴速度検出部171で検出された各ノズルから吐出された大滴及び小滴の滴速度に基づいて、駆動波形メモリ172に記憶されている各駆動波形のうち、吐出パルスのタイミングが範囲X内となる駆動波形を選択し、駆動波形格納部103に設定する。
【0068】
|A-C|<|B-D|・・・・・・式(1)
【0069】
この式(1)において、「A」は、n個のノズルを小滴駆動した際の滴速度(小滴速度)であり、「B」は、n個数のノズルを大滴駆動した際の滴速度(大滴速度)である。また、「C」は、n個のノズルを小滴駆動し、残りのノズルを大滴駆動した際における小滴速度であり、「D」は、n個のノズル大滴駆動し、残りのノズルを小滴駆動した際における大滴速度である。
【0070】
なお、「n」は、記録ヘッド234において、1つのアンプ回路(第1のアンプ回路107又は第2のアンプ回路108)で駆動する最大ノズル数未満の自然数である。
【0071】
すなわち、駆動波形設定部173は、この式(1)に示すように、滴速度検出部171で検出された各ノズルから吐出された大滴及び小滴の滴速度に基づいて、小滴だけでノズルを駆動した際の小滴速度と、大滴及び小滴の混在駆動時の小滴速度との差の絶対値(|A-C|)を算出する。また、駆動波形設定部173は、大滴だけでノズルを駆動した際の大滴速度と、大滴及び小滴の混在駆動時の大滴速度との差の絶対値(|B-D|)を算出する。そして、駆動波形設定部173は、駆動波形メモリ172に記憶されている各駆動波形のうち、|B-D|よりも|A-C|が小さくなるような駆動波形を選択する。この選択した駆動波形は、
図7又は
図8に示した吐出パルスのタイミングが、
図10に示す範囲X内となる駆動波形である。駆動波形設定部173は、選択した駆動波形を駆動波形格納部103に設定する。
【0072】
大滴及び小滴の混在駆動を行うと、大滴よりも小滴の方が狙いの速度からの変動が小さくなる。このため、小滴は駆動ノズル数が変動しても、狙いに近い速度で吐出でき、画質の向上を図ることができる。
【0073】
さらに詳しく説明する。画像形成装置は、記録ヘッド234の特性に応じて、大滴及び小滴の比率を変更して濃度のずれを補正するシェーディング補正が行われることが多い。このシェーディング補正では、液滴サイズが大きい傾向(ヘッド毎の特性)の記録ヘッドに対しては小滴を多めに使用し、液滴サイズが小さい傾向(ヘッド毎の特性)の記録ヘッドに対しては、大滴を多めに使用するように調整することで、各記録ヘッド間の画像濃度の差を補正する。小滴の速度変動を優先的に低減する理由は、シェーディング補正を実施する場合、全ノズルを大滴で駆動することは、基本的には無く、低濃度から高濃度までの画像は、全て小滴を中心に形成されるためである。
【0074】
最も大滴が多くなる最高濃度を印刷するときでも、ヘッドから吐出される液滴サイズが、平均又はそれより大きめのヘッドにおいては、全ての画素を大滴で埋めるわけではなく、小滴を多く混ぜて画像形成をする。大滴が支配的に使用される可能性があるのは、ヘッドの特性として、滴サイズがヘッド製造規格値の下限に相当するヘッドだけである。加えて、一般的な画像形成では、高濃度領域で、且つ、単色の部分だけに大滴が多用される。従って、大滴は小滴と比べて、画像形成において使用頻度が低いため、実際の画像品質への影響は小滴より小さい。
【0075】
このようなことから、小滴の吐出速度変動を優先的に調整することで、小滴の吐出速度を適正化することができる。このため、液滴の着弾精度の向上させることができ、牽いては、画像品質の向上を図ることができる。
【0076】
また、駆動波形設定部173は、
図10に示す小滴の狙い速度からのずれである「ΔVj」が、以下の式(2)の条件を満たすような駆動波形を選択して駆動波形格納部103に設定する。これにより、小滴駆動を行う第1のアンプ回路107又は第2のアンプ回路108は、以下の式(2)の条件を満たすような駆動波形で各圧電素子5を駆動する。
【0077】
Res/(2×25.4×10-3)≧Vs×((Td/Vj)-(Td/(Vj+ΔVj)))…式(2)
【0078】
この式(2)のうち、「Vs」は、印刷対象物とヘッドの相対速度差[m/s](Velocity of substrate)であり、「Td」は、ノズルから印刷対象物までの距離[m](Through Distance)である。また、「Vj」は、小滴の狙いの吐出速度[m/s](Velocity of jetting)であり、「Res」は、印刷対象物のヘッドスキャン方向の解像度[dpi]である。
【0079】
この式(2)の条件を満たす駆動波形で小滴駆動を行うことで、着弾ずれ量を、印刷解像度から計算されるドット配置間隔に対して半分以下とすることができる。このため、ドットの意図しない重なりによる色の変化及び濃度の変化を大幅に抑制することができる。また、この式(2)の条件を満たすことで、小滴より優先度は低いが、大滴の狙い速度からのずれも抑制でき、より高品質な画像を得ることができる。
【0080】
(滴サイズの小さなヘッドをYellowのインク吐出用として選択する動作)
また、Black,Cyan,Magenta,Yellowの4色を用いて画像を形成する場合、
図6に示すヘッド駆動制御部109は、他の色を吐出するヘッドと比べて、相対的に滴サイズが小さなヘッドを、Yellowのインクを吐出するヘッドとして選択する。すなわち、ヘッドの製造ばらつきの中で、滴サイズの小さなヘッドは、シェーディング補正をする際に大滴を多く使う。このため、駆動制御部109は、滴サイズの小さなヘッドを、着弾位置がずれても影響が出にくいYellowのインクの吐出用として選択して使用する。これにより、歩留まりを悪化させることなく、より高品質な画像を得ることができる。
【0081】
(第1の実施の形態の効果)
以上の説明から明らかなように、第1の実施の形態の画像形成装置は、駆動波形設定部173が、滴速度検出部171で検出された各ノズルから吐出された大滴及び小滴の滴速度に基づいて、小滴だけでノズルを駆動した際の小滴速度と、大滴及び小滴の混在駆動時の小滴速度との差の絶対値(|A-C|)を算出する。また、駆動波形設定部173は、大滴だけでノズルを駆動した際の大滴速度と、大滴及び小滴の混在駆動時の大滴速度との差の絶対値(|B-D|)を算出する。そして、駆動波形設定部173は、駆動波形メモリ172に記憶されている各駆動波形のうち、|B-D|よりも|A-C|が小さくなるような駆動波形を選択して各圧電素子を駆動する。
【0082】
大滴及び小滴の混在駆動を行うと、大滴よりも小滴の方が狙いの速度からの変動が小さくなる。このため、小滴は駆動ノズル数が変動しても、狙い速度に近い速度で吐出できる。このため、液滴の吐出速度を適正化することができ、液滴の着弾精度の向上を通じて画像品質の向上を図ることができる。
【0083】
また、第1のアンプ回路107及び第2のアンプ回路108の計2つのアンプ回路で、大滴、中滴及び小滴の3種類の液滴を打ち分けることができる。このため、必要とするアンプ回路を2つに削減できる分、画像形成装置の構成を簡素化でき、また、製造コストの低コスト化を図ることができる。
【0084】
また、Black,Cyan,Magenta,Yellowの4色を用いて画像を形成する場合、
図6に示すヘッド駆動制御部109は、他の色を吐出するヘッドと比べて、相対的に滴サイズが小さなヘッドを、Yellowのインクを吐出するヘッドとして選択する。これにより、印刷画像に対して、着弾位置のずれの影響を出にくくすることができ、歩留まりを悪化させることなく、より高品質な画像を得ることができる。
【0085】
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施の形態の画像形成装置の説明をする。上述の第1の実施の形態と以下に説明する第2の実施の形態とでは、駆動波形の吐出パルスの決定の仕方が異なり、構成及び動作を上述と同じである。このため、以下、差異となる駆動波形の吐出パルスの決定の仕方の説明のみ行い、重複説明は省略する。
【0086】
上述の第1の実施の形態の画像形成装置では、大滴及び小滴を打ち分けることとしたが、第2の実施の形態の画像形成装置は、大滴、中滴及び小滴の3つの滴種の液滴を打ち分けるようになっている。また、第2の実施の形態の画像形成装置は、このような3つの滴種を、
図6に示した第1のアンプ回路107及び第2のアンプ回路108の2つのアンプ回路で打ち分ける。この場合、一つの液種の液滴を一方のアンプ回路を駆動して吐出し、他の二つの液種の液滴を他方のアンプ回路を駆動して吐出する。
【0087】
3つの滴種の液滴のうち、2つの滴種の液滴は、2つの滴種共、他方のアンプ回路を共通の駆動波形で駆動して吐出される。このため、2つの滴種の液滴における駆動波形の吐出パルスのタイミング(
図7及び
図8参照)は、同一のタイミングとなる。従って、残り1つの滴種との相対的な吐出パルスのタイミングを考えればよい。
【0088】
すなわち、大滴、中滴、小滴を使用する画像システムにおいても、上述したように、全ノズルを、大滴を吐出するように駆動することは、基本的には行われない。低濃度から高濃度領域までの画像は、主に中滴及び小滴を用いて形成される。このため、大滴よりも、中滴及び小滴の滴速度が狙いからずれないように、吐出パルスのタイミングを設定することが好ましい。
【0089】
すなわち、例えば第1のアンプ回路107を共通の駆動波形で駆動して大滴及び中滴を生成し、第2のアンプ回路108を小滴用の駆動波形で駆動して小滴を生成する。なお、第1のアンプ回路107を小滴用の駆動波形で駆動して小滴を生成し、第2のアンプ回路108を共通の駆動波形で駆動して大滴及び中滴を生成してもよい。
【0090】
この場合、第2の実施の形態の画像形成装置の駆動波形設定部173は、駆動波形設計時に滴速度検出部171で検出された各ノズルから吐出された大滴及び小滴の滴速度に基づいて、駆動波形メモリ172に記憶されている各駆動波形のうち、吐出パルスのタイミングを以下の式(3)の条件が成立する範囲内(=
図10に示した範囲X内)とする駆動波形を選択し、駆動波形格納部103に設定する。
【0091】
|A-C|<|B-D|・・・・・・式(3)
【0092】
この式(3)において、「A」は、n個のノズルを小滴駆動した際の滴速度(小滴速度)であり、「B」は、n個数のノズルを大滴駆動した際の滴速度(大滴速度)である。また、「C」は、n個のノズルを小滴駆動し、残りのノズルを大滴駆動した際における小滴速度であり、「D」は、n個のノズル大滴駆動し、残りのノズルを小滴駆動した際における大滴速度である。
【0093】
なお、「n」は、記録ヘッド234において、1つのアンプ回路(第1のアンプ回路107又は第2のアンプ回路108)で駆動する最大ノズル数未満の自然数である。
【0094】
(第2の実施の形態の効果)
大滴、中滴及び小滴の混在駆動を行うと、大滴及び中滴よりも小滴の方が狙いの速度からの変動が小さくなる。このため、小滴は駆動ノズル数が変動しても、狙いに近い速度で吐出でき、着弾精度の向上を通じて画質の向上を図ることができる他、上述の第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0095】
[第3の実施の形態]
次に、第3の実施の形態の画像形成装置の説明をする。上述の第2の実施の形態の例は、第1のアンプ回路107及び第2のアンプ回路108のうち、いずれか一方のアンプ回路を大滴駆動及び中滴駆動し、他方のアンプ回路を小滴駆動する例であった。これに対して、第3の実施の形態の例は、第1のアンプ回路107及び第2のアンプ回路108のうち、いずれか一方のアンプ回路を大滴駆動し、他方のアンプ回路を中滴駆動及び小滴駆動する例である。
【0096】
なお、上述の第2の実施の形態と以下に説明する第3の実施の形態とでは、駆動波形の吐出パルスの決定の仕方が異なり、構成及び動作を上述と同じである。このため、以下、差異となる駆動波形の吐出パルスの決定の仕方の説明のみ行い、重複説明は省略する。
【0097】
この第3の実施の形態の画像形成装置の場合、例えば第1のアンプ回路107を大滴用の駆動波形で駆動して大滴を生成し、第2のアンプ回路108を共通の駆動波形で駆動して中滴及び小滴を生成する。なお、第1のアンプ回路107を共通の駆動波形で駆動して中滴及び小滴を生成し、第2のアンプ回路108を大滴用の駆動波形で駆動して大滴を生成してもよい。
【0098】
この場合、第3の実施の形態の画像形成装置の駆動波形設定部173は、駆動波形設計時に滴速度検出部171で検出された各ノズルから吐出された大滴及び小滴の滴速度に基づいて、駆動波形メモリ172に記憶されている各駆動波形のうち、吐出パルスのタイミングを以下の式(4)の条件が成立する範囲内(=
図10に示した範囲X内)とする駆動波形を選択し、駆動波形格納部103に設定する。
【0099】
|A-C|<|B-D|・・・・・・式(4)
【0100】
この式(4)において、「A」は、n個のノズルを小滴駆動した際の滴速度(小滴速度)であり、「B」は、n個数のノズルを大滴駆動した際の滴速度(大滴速度)である。また、「C」は、n個のノズルを小滴駆動し、残りのノズルを大滴駆動した際における小滴速度であり、「D」は、n個のノズル大滴駆動し、残りのノズルを小滴駆動した際における大滴速度である。
【0101】
なお、「n」は、記録ヘッド234において、1つのアンプ回路(第1のアンプ回路107又は第2のアンプ回路108)で駆動する最大ノズル数未満の自然数である。
【0102】
(第3の実施の形態の効果)
このような第3の実施の形態の画像形成装置の場合、使用頻度の低い大滴と、使用頻度の高い中滴及び小滴に分けて2つのアンプ回路107、108を駆動できる。このため、大滴に対して、中滴及び小滴の両方の滴速度を調整することができ、より画質の向上を図ることができる。
【0103】
[第4の実施の形態]
次に、第4の実施の形態の画像形成装置の説明をする。上述の第3の実施の形態の例は、第1のアンプ回路107及び第2のアンプ回路108のうち、いずれか一方のアンプ回路を大滴駆動し、他方のアンプ回路を中滴駆動及び小滴駆動する例であった。これに対して、第4の実施の形態の例は、第1のアンプ回路107及び第2のアンプ回路108のうち、いずれか一方のアンプ回路を大滴駆動及び小滴駆動し、他方のアンプ回路を中滴駆動する例である。
【0104】
なお、上述の第3の実施の形態と以下に説明する第4の実施の形態とでは、駆動波形の吐出パルスの決定の仕方が異なり、構成及び動作を上述と同じである。このため、以下、差異となる駆動波形の吐出パルスの決定の仕方の説明のみ行い、重複説明は省略する。
【0105】
この第4の実施の形態の画像形成装置の場合、例えば第1のアンプ回路107を共通の起動波形で駆動して大滴及び小滴を生成する。また、第2のアンプ回路108を中滴用の駆動波形で駆動して中滴を生成する。なお、第1のアンプ回路107を中滴用の駆動波形で駆動して中滴を生成し、第2のアンプ回路108を共通の駆動波形で駆動して大滴及び小滴を生成してもよい。
【0106】
この場合、第4の実施の形態の画像形成装置の駆動波形設定部173は、駆動波形設計時に滴速度検出部171で検出された各ノズルから吐出された大滴及び中滴の滴速度に基づいて、駆動波形メモリ172に記憶されている各駆動波形のうち、吐出パルスのタイミングを以下の式(5)の条件が成立する範囲内(=
図10に示した範囲X内)とする駆動波形を選択し、駆動波形格納部103に設定する。
【0107】
|A-C|<|B-D|・・・・・・式(5)
【0108】
この式(5)において、「A」は、n個のノズルを中滴駆動した際の滴速度(中滴速度)であり、「B」は、n個数のノズルを大滴駆動した際の滴速度(大滴速度)である。また、「C」は、n個のノズルを中滴駆動し、残りのノズルを大滴駆動した際における中滴速度であり、「D」は、n個のノズル大滴駆動し、残りのノズルを中滴駆動した際における大滴速度である。
【0109】
なお、「n」は、記録ヘッド234において、1つのアンプ回路(第1のアンプ回路107又は第2のアンプ回路108)で駆動する最大ノズル数未満の自然数である。
【0110】
(第4の実施の形態の効果)
このような第4の実施の形態の画像形成装置は、中滴を狙いに近い速度で吐出でき、着弾精度の向上を通じて画質の向上を図ることができる他、上述の各実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0111】
[第5の実施の形態]
次に、第5の実施の形態の画像形成装置の説明をする。上述の各実施の形態は、シリアルエンジン方式の画像形成装置に対する適用例であった。これに対して、第5の実施の形態は、液滴を吐出する吐出対象物の搬送方向に対して直交する主走査方向に沿って所定の長さ分(例えば、用紙の幅方向(搬送方向と直交する方向)の長さ分)のノズル列から液滴を吐出して画像形成を行うラインエンジン方式の画像形成装置に対する適用例である。なお、上述の各実施の形態と以下に説明する第5の実施の形態は、印字方式が異なるだけである。このため、以下、両者の差異の説明のみ行い、重複説明は省略する。
【0112】
図11は、第5の実施の形態となるラインエンジン方式の画像形成装置を、用紙の搬送方向に沿って縦切りにした状態の断面図である。このラインエンジン方式の画像形成装置は、フルライン型ヘッドを備えており、装置本体内に画像形成部402及び用紙を搬送する搬送機構403等を有する。また、装置本体の一方側に多数枚の用紙405を積載可能な給紙トレイ404を備える。また、給紙トレイ404から給紙される用紙405は、副走査搬送機構403によって搬送され、画像形成部402で所定の画像が記録される。この後、装置本体の他方側に装着された排紙トレイ406に用紙405が排紙される。
【0113】
画像形成部402は、記録液となる液体を収容した液体タンク411y、411m、411c、411kを一体にし、用紙の幅方向(搬送方向と直交する方向)の長さ相当分の、ノズル列を有するライン型ヘッド412y、412m、412c、412kを備えたものである。これらのライン型ヘッド412y、412m、412c、412kはヘッドホルダ413に取り付けられている。
【0114】
ライン型ヘッド412y、412m、412c、412kは、用紙搬送方向上流側からそれぞれ例えばブラック、シアン、マゼンタ、イエローの順に各色の液滴を吐出する。なお、ライン型ヘッドとしては、各色の液滴を吐出する複数、ノズル列を所定間隔で配置した1つのヘッドを用いることもできるし、ヘッドと液体カートリッジを別体としたものを用いることもできる。
【0115】
給紙トレイ404の用紙405は、給紙コロ421によって1枚ずつ分離され、装置本体内に給紙され、用紙供給ローラによって搬送機構403に搬送される。この搬送機構403は、駆動ローラ431と従動ローラ432との間に掛け渡された搬送ベルト433と、この搬送ベルト433を帯電させるための帯電ローラ434とを有している。
【0116】
また、搬送機構403は、搬送ベルト433を画像形成部402に対向する部分で案内するガイド部材(プラテンプレート)435と、搬送ベルト433に付着した記録液(インク)を除去するための多孔質体などからなる記録液拭き取り部材(クリーニングローラ)425とを有する。
【0117】
また、搬送機構403は、用紙405を除電するための導電ゴムを主体とした除電ローラと、用紙405を搬送ベルト425側へ押える用紙押さえローラ436とを有する。また、搬送機構403の下流側には、画像が記録された用紙405を排紙トレイ406に送り出すための排紙ローラ438、439が設けられている。
【0118】
このように構成されたライン型画像形成装置においても、搬送ベルト433を帯電させて用紙405を送り込むことによって、静電力で用紙405が搬送ベルト425に吸着されて、搬送ベルト433の周回移動によって搬送され、画像形成部402によって画像が形成されて、排紙トレイ406に排紙される。
【0119】
このようなラインエンジン方式の画像形成装置であっても、上述と同様に、液滴の吐出速度を適正化及び液滴の着弾精度の向上を通じて、画像品質の向上を図ることができる。
【0120】
最後に、上述の実施の形態は、一例として提示したものであり、本発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更、省略、置き換えを行うことも可能である。
【0121】
例えば、本発明は、プリンタ装置、ファクシミリ装置、コピー機等の単機能機、又は、これらの複合機等に適用できる。また、例えば三次元プリンタ装置等の、インク以外の液体である記録液又は定着処理液等を吐出する画像形成装置、又は、その他の液体を吐出する液体吐出装置にも適用できる。いずれの場合も、上述と同様に、液滴の吐出速度の適正化及び着弾精度の向上を通じて、作成物の品質の向上を図ることができる。
【0122】
また、本願において、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッド又は液体吐出ユニットを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて、液体を吐出させる装置である。液体を吐出する装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0123】
この「液体を吐出する装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
【0124】
例えば、「液体を吐出する装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
【0125】
また、「液体を吐出する装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0126】
上記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
【0127】
上記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0128】
また、「液体」は、ヘッドから吐出可能な粘度や表面張力を有するものであればよく、特に限定されないが、常温、常圧下において、または加熱、冷却により粘度が30mPa・s以下となるものであることが好ましい。より具体的には、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やたんぱく質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、などを含む溶液、懸濁液、エマルジョンなどである。これらは、例えばインクジェット用インク、表面処理液、電子素子や発光素子の構成要素や電子回路レジストパターンの形成用液、3次元造形用材料液等の用途で用いることができる。
【0129】
また、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。
【0130】
また、「液体を吐出する装置」としては他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液を、ノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などがある。
【0131】
また、「液体吐出ヘッド(記録ヘッド234)」は、使用する圧力発生手段が限定されるものではない。例えば、上記実施形態で説明したような圧電アクチュエータ(積層型圧電素子を使用するものでもよい。)以外にも、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、振動板と対向電極からなる静電アクチュエータなどを使用するものでもよい。
【0132】
また、本願の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形等はいずれも同
義語とする。
【0133】
また、「液体吐出ユニット」とは、液体吐出ヘッドに機能部品、機構が一体化したものであり、液体の吐出に関連する部品の集合体である。例えば、「液体吐出ユニット」は、ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、主走査移動機構の構成の少なくとも一つを液体吐出ヘッドと組み合わせたものなどが含まれる。
【0134】
ここで、一体化とは、例えば、液体吐出ヘッドと機能部品、機構が、締結、接着、係合などで互いに固定されているもの、一方が他方に対して移動可能に保持されているものを含む。また、液体吐出ヘッドと、機能部品、機構が互いに着脱可能に構成されていても良い。
【0135】
例えば、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。また、チューブなどで互いに接続されて、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。ここで、これらの液体吐出ユニットのヘッドタンクと液体吐出ヘッドとの間にフィルタを含むユニットを追加することもできる。
【0136】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジが一体化されているものがある。
【0137】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドを走査移動機構の一部を構成するガイド部材に移動可能に保持させて、液体吐出ヘッドと走査移動機構が一体化されているものがある。また、液体吐出ヘッドとキャリッジと主走査移動機構が一体化されているものがある。
【0138】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドが取り付けられたキャリッジに、維持回復機構の一部であるキャップ部材を固定させて、液体吐出ヘッドとキャリッジと維持回復機構が一体化されているものがある。
【0139】
また、液体吐出ユニットとして、ヘッドタンク若しくは流路部品が取付けられた液体吐出ヘッドにチューブが接続されて、液体吐出ヘッドと供給機構が一体化されているものがある。このチューブを介して、液体貯留源の液体が液体吐出ヘッドに供給される。
【0140】
主走査移動機構は、ガイド部材単体も含むものとする。また、供給機構は、チューブ単体、装填部単体も含むものする。
【0141】
また、実施の形態及び実施の形態の変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0142】
1-2 共通液室
2-2 圧力発生室
2-3 連通口
3-1 ノズル
2-2 圧力発生室
5 圧電素子
5-5 共通電極
5-6 駆動部
6-3 インク流入口
100 制御部
101 画像マップ生成部
103 駆動波形格納部
104 駆動波形選択部
105 第1のD/A変換部
106 第2のD/A変換部
107 第1のアンプ回路
108 第2のアンプ回路
109 ヘッド駆動制御部
161 アンプ接続制御部
162a 第1のスイッチ
162b 第2のスイッチ
170 駆動波形設定制御部
171 滴速度検出部
172 駆動波形メモリ
173 駆動波形設定部
234 記録ヘッド
【先行技術文献】
【特許文献】
【0143】