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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】引抜加工方法及び引抜加工装置
(51)【国際特許分類】
   B21C 9/00 20060101AFI20240925BHJP
   B21C 1/22 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
B21C9/00 M
B21C1/22 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020214002
(22)【出願日】2020-12-23
(65)【公開番号】P2022099924
(43)【公開日】2022-07-05
【審査請求日】2023-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】山本 学
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 朋宏
(72)【発明者】
【氏名】高田 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】横山 哲也
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-077109(JP,U)
【文献】実開平03-076605(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 9/00
B21C 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流端面から下流方向に貫通した引抜孔を有するダイスの上流側において断面円形状の棒状ワークの外表面にその上側から潤滑油を連続的に供給しながら、前記ワークを前記ダイスの前記引抜孔に通すことにより、前記ワークを引抜加工する引抜加工方法であって、
前記ワークの前記外表面に供給された前記潤滑油が前記引抜孔への進入時に前記引抜孔から上流側に排出される排出油と、前記ワークの前記外表面に供給された前記潤滑油が前記引抜孔への進入前に前記ワークの前記外表面から落下する落下油とを余剰油というとき、
前記ダイスの上流側における前記ワークの前記外表面に対して下側に離間した位置に配置された受け部材で前記余剰油を、前記余剰油が前記ワークの前記外表面の下部に接触するように且つ前記受け部材上の前記余剰油が前記受け部材の上流端側から落下するように受けた状態で、前記ワークを前記ダイスの前記引抜孔に通す引抜加工方法。
【請求項2】
上流端面から下流方向に貫通した引抜孔を有するダイスと、前記ダイスの上流側において断面円形状の棒状ワークの外表面にその上側から潤滑油を連続的に供給する潤滑油供給器とを具備し、
前記ワークの前記外表面に供給された前記潤滑油が前記引抜孔への進入時に前記引抜孔から上流側に排出される排出油と、前記ワークの前記外表面に供給された前記潤滑油が前記引抜孔への進入前に前記ワークの前記外表面から落下する落下油とを余剰油というとき、
前記ダイスの上流側における前記ワークの前記外表面に対して下側に離間した位置に配置され受け部材を更に具備し
前記受け部材は、前記余剰油が前記ワークの前記外表面の下部に接触するように且つ前記受け部材上の前記余剰油が前記受け部材の上流端側から落下するように前記余剰油を受けるものである引抜加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引抜管等の棒状引抜材の製造に用いられる引抜加工方法及び引抜加工装置に関する。
【0002】
なお本明細書及び特許請求の範囲では、「上流」及び「下流」とはそれぞれ棒状ワークの引抜方向における上流及び下流を意味する。さらに本明細書及び特許請求の範囲では、「棒状ワーク」の語は、文中に特に明示する場合を除き、管棒状ワーク(素管)及び中実の棒状ワークの双方を含む意味で用いられる。また本明細書では、「棒状引抜材」の語は、文中に特に明示する場合を除き、管棒状引抜材(引抜管)及び中実の棒状引抜材の双方を含む意味で用いられる。さらに本明細書では、「アルミニウム」の語は、文中に特に明示する場合を除き、純アルミニウム及びアルミニウム合金の双方を含む意味で用いられる。
【背景技術】
【0003】
複写機、レーザビームプリンタ、ファクシミリ装置などの電子写真装置に用いられる感光ドラム基体は断面円形状の金属管からなり、その外表面にOPC層などの感光層がその厚さが均一になるように薄く塗工される。この感光ドラム基体として主にアルミニウム引抜管が用いられる。
【0004】
この引抜管を製造する方法としては、管棒状ワークとしての素管をダイスの引抜孔に通すことにより素管を引抜加工する方法が知られている。さらに、ダイスの引抜孔の内側に素管の内表面を加工するプラグが配置されて引抜加工が行われる場合もある(例えば特許文献1及び2参照)。
【0005】
また、従来の引抜加工方法では、図4A及び4Bに示すように、素管120の外表面120aとダイス102との摩擦、焼付きなどを低減するため、引抜加工時にダイス102の上流側において素管120の外表面120aにその上側に配置されたノズル107から潤滑油109を連続的に吐出供給することにより潤滑油109を素管120の外表面120aにその全周に亘って塗布することが一般的である。
【0006】
なお、図4A中の矢印Dは素管120の引抜方向を示している。符号103はダイス102の引抜孔である。図4B中の符号105はプラグ(図示せず)を支持した支持ロッドである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-181112号公報
【文献】特開2013-43219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
而して、上述した引抜管122には、その外表面122aに厚さが均一な感光層を塗工するため、高い表面品質が要求される。
【0009】
しかしながら、上述した従来の引抜加工方法では、素管120の外表面120aへの潤滑油109の供給量についての不慮の変動、潤滑油109の供給時における潤滑油109中へのエアーの巻込み、ノズル107の位置ずれなどが原因で素管120の外表面120a、特に外表面120aの下部に潤滑油109の塗布が不十分な部分が発生することがあった。この場合、素管120の外表面120aが部分的に潤滑油切れの状態になり、その結果、引抜管122の外表面122aに潤滑油切れによる微小な焼付きが発生し易かった。
【0010】
本発明は上述した技術背景に基づいてなされたもので、本発明の目的は棒状引抜材(例:引抜管)の外表面に潤滑油切れによる焼付きが発生するのを抑制することができる引抜加工方法及び引抜加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下の手段を提供する。
【0012】
1) 上流端面から下流方向に貫通した引抜孔を有するダイスの上流側において断面円形状の棒状ワークの外表面にその上側から潤滑油を連続的に供給しながら、前記ワークを前記ダイスの前記引抜孔に通すことにより、前記ワークを引抜加工する引抜加工方法であって、
前記ワークの前記外表面に供給された前記潤滑油が前記引抜孔への進入時に前記引抜孔から上流側に排出される排出油と、前記ワークの前記外表面に供給された前記潤滑油が前記引抜孔への進入前に前記ワークの前記外表面から落下する落下油とを余剰油というとき、
前記ダイスの上流側における前記ワークの前記外表面に対して下側に離間した位置に配置された受け部材で前記余剰油を、前記余剰油が前記ワークの前記外表面の下部に接触するように受けた状態で、前記ワークを前記ダイスの前記引抜孔に通す引抜加工方法。
【0013】
2) 上流端面から下流方向に貫通した引抜孔を有するダイスと、前記ダイスの上流側において断面円形状の棒状ワークの外表面にその上側から潤滑油を連続的に供給する潤滑油供給器とを具備し、
前記ワークの前記外表面に供給された前記潤滑油が前記引抜孔への進入時に前記引抜孔から上流側に排出される排出油と、前記ワークの前記外表面に供給された前記潤滑油が前記引抜孔への進入前に前記ワークの前記外表面から落下する落下油とを余剰油というとき、
前記ダイスの上流側における前記ワークの前記外表面に対して下側に離間した位置に配置され、前記余剰油が前記ワークの前記外表面の下部に接触するように前記余剰油を受ける受け部材を更に具備している引抜加工装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明は以下の効果を奏する。
【0015】
前項1では、受け部材で余剰油を余剰油が棒状ワークの外表面の下部に接触するように受けることにより、潤滑油がワークの外表面にその全周に亘って確実に塗布される。この状態でワークをダイスの引抜孔に通すことにより、棒状引抜材の外表面に潤滑油切れによる焼付きが発生するのを抑制することができる。
【0016】
前項2では、前項1に記載の引抜加工方法に好適に用いられる引抜加工装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る引抜加工装置を用いて素管を引抜加工する途中の状態を示す概略図である。
図2A図2Aは、潤滑油の供給量が少量である場合において同引抜加工装置を用いて素管を引抜加工する途中の状態を示す素管及びダイスの概略斜視図である。
図2B図2B図2A中のA-A線概略断面図である。
図3A図3Aは、潤滑油の供給量が少量である場合において受け部材を備えていない引抜加工装置を用いて素管を引抜加工する途中の状態を示す素管及びダイスの概略斜視図である。
図3B図3B図3A中のA-A線概略断面図である。
図4A図4Aは、従来の引抜加工方法により素管を引抜加工する場合における素管及びダイスの概略斜視図である。
図4B図4B図4A中のA-A線概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の一実施形態について図面を参照して以下に説明する。
【0019】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る引抜加工装置1は、棒状ワーク(詳述すると管棒状ワーク)としての断面円形状の素管20を玉引き方式(プラグ引き)で引抜加工するものである。
【0020】
すなわち、引抜加工装置1は、引抜孔3を有するダイス2と、ダイス2の引抜孔3の内側に配置されるプラグ4と、プラグ4を支持する支持ロッド5と、素管20を引抜方向Dに牽引する牽引装置10と、潤滑油9を素管20の外表面20aに供給する潤滑油供給器6とを具備する。引抜加工時において素管20は水平状に配置されるとともにその中心軸線Oに沿って引抜方向Dに引き抜かれる。
【0021】
ダイス2はダイス保持具(図示せず)に保持されている。ダイス2の上流端面2aは素管20の引抜方向Dに対して垂直に形成されている。ダイス2の引抜孔3は素管20の外表面20aを加工(詳述すると縮径加工)するものであり、ダイス2の中心部にダイス2の上流端面2aから下流方向に貫通して設けられている。
【0022】
さらに、引抜孔3は、アプローチ部3aとベアリング部3bとリリーフ部3cとを有するとともに、この記載の順に下流方向に並んで設けられている。
【0023】
引抜孔3において、アプローチ部3aは下流側に向かってその直径が漸次減少するように形成されており、詳述すると下流側に向かって略テーパ状に形成されている。ベアリング部3bは素管20の外表面20a及び外径寸法を仕上げ加工する部位であり、ダイス軸と略平行に形成されている。リリーフ部3cは引抜孔3の出口部を形成する部位であり、素管20と接触しないようにするため下流側に向かってその直径が漸次増大するように形成されており、詳述すると下流側に向かって略逆テーパ状に形成されている。
【0024】
素管20は金属などからなるものであり、具体的にはアルミニウムからなる。素管20の断面形状は上述したように円形状であり、素管20が引抜加工されることで断面円形状の引抜管22が棒状引抜材(詳述すると管棒状引抜材)として得られる。この引抜管22は例えば感光ドラム基体に用いられる。
【0025】
素管20の外径は限定されるものではなく、通常は10mm~60mmの範囲である。
【0026】
ダイス2の引抜孔3には素管20が通され、これにより素管20が引抜加工される。本実施形態では、引抜加工装置1は上述したように玉引き方式のものであることから、詳述すると素管20はダイス2の引抜孔3とプラグ4との間隙11に通されることにより素管20が引抜加工される。以下では、素管20が通される上述の間隙11を説明の便宜上「引抜間隙11」という。
【0027】
プラグ4は素管20内に配置されて素管20の内表面を加工するものである。プラグ4の形状は略玉状乃至略長玉状である。
【0028】
支持ロッド5は素管20内において水平状に配置されている。支持ロッド5の先端部にプラグ4が固定状態に設けられ、これによりプラグ4が支持ロッド5に支持されている。
【0029】
牽引装置10は、素管20の先端部に形成された小径の口付け部20bを把持するチャック部材10aと、チャック部材10aに引抜方向Dの牽引力を付与する駆動源(例:油圧シリンダ)10bとを備えている。そして、ダイス2の引抜孔3(詳述すると引抜間隙11)に通された素管20の口付け部20bをチャック部材10aで把持した状態で駆動源10bによりチャック部材10aに引抜方向Dの牽引力を付与することにより、素管20がその口付け部20bから引抜方向Dに牽引され、素管20がダイスの引抜孔3(引抜間隙11)に通される。
【0030】
潤滑油供給器6は、素管20の引抜加工時にダイス2の上流側において潤滑油9を素管20の外表面20aに向かってその上側から連続的に吐出することで当該外表面20aに潤滑油9を所定の供給量で連続的に供給するものである。
【0031】
潤滑油9は、素管20の外表面20aとダイス2との摩擦、焼付きなどを低減するためのものであり、引抜油とも呼ばれている。
【0032】
潤滑油供給器6の構成について詳述すると次のとおりである。
【0033】
潤滑油供給器6は、潤滑油9を素管20の外表面20aに向かって吐出して当該外表面20aに供給する供給ノズル7と、供給ノズル7に潤滑油9を送るポンプ(図示せず)と、供給ノズル7から素管20の外表面20aへの潤滑油9の供給量(吐出量)を調整する調整器8とを有している。
【0034】
調整器8は、ポンプから供給ノズル7に潤滑油9を送る送り管6aに介設された流量調整弁を備えている。流量調整弁は電磁弁、手動弁などからなる。
【0035】
供給ノズル7は、ダイス2の上流側において素管20の外表面20aに対して上側に離間した位置に、供給ノズル7の先端に形成された供給口7aを下に向けて配置されている。詳述すると、供給ノズル7の供給口7aは、素管20の中心軸線Oに交差する鉛直線上における素管20の外表面20aに対して上側に離間した位置に下向きに配置されている。供給ノズル7の当該位置を以下では供給ノズル7の適正位置という。供給ノズル7が適正位置に配置された状態では、潤滑油9は供給ノズル7の供給口7aから素管20の外表面20aに向かって素管20の中心軸線Oに交差する鉛直線に沿って下向きに吐出される。
【0036】
供給ノズル7の供給口7aの断面形状は例えば円形状である。供給口7aの直径は限定されるものでなく、通常は8mm~40mmの範囲である。
【0037】
引抜加工装置1では、図2A及び2Bに示すように、引抜加工時において引抜方向Dに移動している素管20の外表面20aに向けて供給ノズル7(詳述すると供給ノズル7の供給口7a)から潤滑油9が吐出されて当該外表面20aに供給される。すると、潤滑油9は重力の作用により素管20の外表面20aに沿って下方向に流動することで当該外表面20aに塗布される。
【0038】
そして、素管20の外表面20aに供給された潤滑油9の一部は、引抜孔3(詳述すると引抜間隙11)への進入時に引抜孔3で切られて引抜孔3から上流側に排出されるとともに、引抜孔3への進入前に素管20の外表面20aから落下する。
【0039】
ここで以下では、供給ノズル7から素管20の外表面20aに供給された潤滑油9のうち引抜孔3への進入時に引抜孔3から上流側に排出される部分を潤滑油9の排出油といい、引抜孔3への進入前に素管20の外表面20aから落下する部分を潤滑油9の落下油といい、両者をまとめて潤滑油9の余剰油9aという。
【0040】
引抜加工装置1は、潤滑油9の余剰油9aがダイス2の上流側における素管20の外表面20aの下部(詳述すると素管20の外表面20aの少なくとも下端部)に接触するように余剰油9aを受ける受け部材15を更に具備している。
【0041】
受け部材15は、ダイス2の上流側における素管20の外表面20aに対して下側に離間した位置に、受け部材15で受けられた余剰油9aが素管20の外表面20aの下部に接触するように配置されている。したがって、受け部材15自体は素管20の外表面20aに接触しておらず、これにより受け部材15が素管20の外表面20aに接触することによる引抜管22の表面品質の低下が発生しないようになっている。
【0042】
受け部材15は、図2Bに示すように、素管20の外表面20aの下部の湾曲形状に略対応して断面凹状(例:断面円弧状)に湾曲した受け面15aを有する板材からなる。受け部材15の受け面15aは水平方向に延びて形成されていてもよいし、下流側に向かって緩やかなテーパ状に形成されていてもよいし、下流側に向かって緩やかな逆テーパ状に形成されていてもよい。
【0043】
ただし本発明では、受け部材15の受け面15aの形状は上述した形状であることに限定されるものではなく、その他に例えば略円筒面状であってもよい。
【0044】
図1に示すように、受け部材15の下流端15bはダイス2の上流端面2aに近接して配置されており、詳述するとダイス2の上流端面2aに当接して配置されている。
【0045】
ここで本発明では、受け部材15の下流端15bはダイス2の上流端面2aに当接して配置されていることに限定されるものではなく、その他に例えば、受け部材15で受けられた余剰油9aが素管20の外表面20aの下部に接触しうるように受け部材15上に余剰油9aが残る程度にダイス2の上流端面2aに対して僅かに離間して配置されていてもよい。
【0046】
受け部材15で受けられた余剰油9aは、受け部材15(詳述すると受け部材15の受け面15a)上を上流方向に流れたのち受け部材15の上流端15c側から落下する。
【0047】
図1に示すように、ダイス2の上流端面2aから供給ノズル7までの距離L1は限定されるものではなく、特に150mm~1000mmの範囲であることが好ましい。
【0048】
供給ノズル7の供給口7aから素管20の外表面20aまでの距離L2は限定されるものではなく、特に30mm~200mmの範囲であることが好ましい。
【0049】
ダイス2の上流端面2aから受け部材15の上流端15cまでの距離L3は限定されるものではなく、特に100mm~800mmの範囲であることが好ましい。
【0050】
素管20の外表面20aの下端部と受け部材15の受け面15aの底部との隙間L4は限定されるものではなく、特に5mm~20mmの範囲であることが好ましい。
【0051】
潤滑油9の動粘度は限定されるものではなく、特に40℃で400mm/s~1200mm/sの範囲であることが好ましい。
【0052】
次に、本実施形態の引抜加工装置1を用いた素管20の引抜加工方法について以下に説明する。
【0053】
図1に示すように、素管20内にプラグ4を挿入するとともに、素管20の先端部の口付け部20bをダイス2の引抜孔3に挿入する。また、ダイス2の上流側において潤滑油供給器6の供給ノズル7(供給口7a)から潤滑油9を素管20の外表面20aに向かって連続的に吐出して当該外表面20aに潤滑油9を所定の供給量で連続的に供給する。
【0054】
このように潤滑油9を素管20の外表面20aに供給しながら素管20をその口付け部20bから牽引装置10により所定の速度で引抜方向Dに牽引することにより、素管20を引抜孔3(引抜間隙11)に通し、これにより素管20を所定の引抜速度で引抜加工する。この引抜加工において潤滑油9の供給量の調整は調整器8により行われる。
【0055】
引抜速度は限定されるものではなく、特に15m/min~60m/minの範囲であることが好ましい。
【0056】
この引抜加工において、引抜加工時に供給ノズル7から素管20の外表面20aに供給された潤滑油9は、上述したように重力の作用により素管20の外表面20aに沿って下方向に流動することで当該外表面20aに塗布される。こうして潤滑油9が重力の作用により塗布された領域を、以下では素管20の外表面20aの潤滑油重力塗布領域という。この領域について図2A及び2Bを参照して以下に説明する。
【0057】
なお、図2Aでは、潤滑油9及びその余剰油9aの流れ状態を理解し易くするため受け部材15は仮想線(二点鎖線)で図示されている。また、図2A中のA-A線はダイス2の上流端面2aに沿う線であり、図2B図2A中のA-A線概略断面図である。
【0058】
図2B中の「G」は、ダイス2の上流端面2aの位置P(図1参照)における素管20の外表面20aの潤滑油重力塗布領域を示している。また、「θ」は、ダイス2の上流端面2aの位置Pにおける素管20の外表面20aの潤滑油重力塗布領域Gの中心角である。
【0059】
ここで、もし潤滑油9の供給量が少量であり且つ引抜加工装置1が受け部材15を備えていない場合、引抜加工時に供給ノズル7から素管20の外表面20aに供給された潤滑油9は、重量の作用により素管20の外表面20aに沿って下方向に流動することで例えば図3A及び3Bに示した状態に素管20の外表面20aに塗布される。
【0060】
図3B中の「θ」は、引抜加工装置1が受け部材15を備えていない場合において、ダイス2の上流端面2aの位置Pにおける素管20の外表面20aの潤滑油重力塗布領域Gの中心角であり、この中心角θが図2B中のθに対応している。なお図3A及び3Bでは、潤滑油重力塗布領域Gを分かり易くするため潤滑油9の余剰油9aは図示していない。
【0061】
図3Bでは、θは360°未満であり、そのため、素管20の外表面20aの略下部に潤滑油9が塗布されておらず、したがって素管20の外表面20aが部分的に潤滑油切れの状態になっている。この場合、素管20を引抜加工すると、引抜管22の外表面22aに潤滑油切れによる微小な焼付きが発生し易い。
【0062】
さらに、潤滑油9の供給時に潤滑油9中にエアーの巻込みが生じた場合、及び供給ノズル7の位置が適正位置から素管20の外表面20aの周方向の片側にずれていた場合でも、素管20の外表面20a、特に外表面20aの下部が部分的に潤滑油切れの状態になり易い。そのため、これらの場合でも、素管20を引抜加工すると、引抜管22の外表面22aに潤滑油切れによる微小な焼付きが発生し易い。
【0063】
これに対し、本実施形態の引抜加工装置1は受け部材15を備えているので、図2A及び2Bに示すように、引抜加工時において潤滑油9の余剰油9aが素管20の外表面20aの下部に接触するように受け部材15で受けられる。これにより、図2Bに示すように、ダイス2の上流端面2aの位置Pにおいて潤滑油9は、潤滑油重力塗布領域Gと受け部材15で受けられた余剰油9aが素管20の外表面20aの下部に接触することで塗布された領域Fとにより、素管20の外表面20aにその全周に亘って塗布された状態になる。この状態で素管20がダイス2の引抜孔3に通されることにより、素管20が引抜加工される。
【0064】
したがって、潤滑油9の供給量が少量である場合、潤滑油9中にエアーの巻込みが発生した場合、及び供給ノズル7の位置が適正位置に対してずれている場合でも、本実施形態の引抜加工装置1を用いて素管20を引抜加工することにより、引抜管22の外表面22aに潤滑油切れによる微小な焼付きが発生するのを抑制することができ、そのため引抜管22の表面平滑性などの表面品質を高めることができる。
【0065】
潤滑油9の供給量が不慮に少量になる原因としては、供給ノズル7に潤滑油9を送るポンプ(図示せず)の故障・不調、潤滑油9用フィルトレーションラインの整備不良、オペレーターによる潤滑油9の供給量の調整ミス(例:潤滑油タンクへのバイパスラインの弁開度の調整失敗)などが挙げられる。
【0066】
さらに、本実施形態の引抜加工方法によれば、素管20の外表面20aに少なくとも一部を接触させて潤滑油9を塗布する塗布部材(例:刷毛、スクレーパ)を用いないで潤滑油9を素管20の外表面20aに塗布するので、潤滑油9の塗布時に塗布部材が素管20の外表面20aに接触することによる不良(例:傷付き、微小異物の付着)が発生しない。そのため、引抜管22の表面品質を確実に高めることができる。
【0067】
以上で本発明の一実施形態を示したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で様々に変更可能である。
【0068】
また、本発明に係る引抜加工装置は必ずしもプラグを備えていなくてもよいし支持ロッドを必ずしも備えてなくてもよい。
【0069】
また、本発明に係る引抜加工方法及び引抜加工装置は、感光ドラム基体に用いられる引抜管を得るために用いられるものであることに限定されるものではなく、その他の用途(例:精密管)に用いられる引抜管を得るために用いられてもよい。
【0070】
さらに、本発明に係る引抜加工方法及び引抜加工装置により引抜加工される棒状ワークは、素管などの管棒状ワークであることに限定されるものではなく、その他に例えば、中実の棒状ワークであってもよい。棒状ワークが管棒状ワークである場合、棒状引抜材として管棒状引抜材(引抜管)が得られ、棒状ワークが中実の棒状ワークである場合、棒状引抜材として中実の棒状引抜材が得られる。
【実施例
【0071】
本発明の具体的な実施例及び比較例を以下に示す。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものでない。
【0072】
<実施例1~4>
図1に示した上記実施形態の引抜加工装置1を用い、素管20の外表面20aへの潤滑油9の供給状態を様々に変更して素管20を所定の引抜速度で引抜加工し、引抜管22を得た。なお、引抜管22は感光ドラム基体に用いられるものである。
【0073】
ここで、引抜加工装置1は上述のとおり受け部材15を備えており、またL1は300mm、L2は100mm、L3は150mm、L4は10mmであった。素管20の外径は30mmであった。供給ノズル7の供給口7aの断面形状は円形状であり、その直径は20mmであった。潤滑油9の動粘度は40℃で800mm/sであった。引抜速度は30m/minであった。
【0074】
<比較例1~4>
引抜加工装置が受け部材を備えていないことを除いて上記実施例と同様に素管を引抜加工し、引抜管を得た。
【0075】
〔評価〕
上記実施例1~4及び比較例1~4でそれぞれ得られた引抜管の表面品質として焼付き(焼付き痕)の有無を評価した。その結果を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
なお、同表中の「潤滑油の供給状態」欄において、実施例1及び比較例1の「異常なし」とは潤滑油の供給状態に異常がなかった(即ち正常であった)ことを意味している。実施例2及び比較例2の「エアーの巻込み」とは潤滑油の供給時に潤滑油中へのエアーの巻込みが発生したことを意味している。実施例3及び比較例3の「少量異常」とは、潤滑油の供給時に潤滑油の供給量が少量になるような異常が発生することにより、素管20の外表面20aの潤滑油重力塗布領域Gの中心角θ(図2B及び図3B参照)が360°未満になったことを意味している。実施例4及び比較例4の「供給ノズルの位置ずれ」とは、潤滑油を供給する供給ノズルの位置が適正位置に対して素管の外表面の周方向の片側にずれていたことを意味している。
【0078】
また「受け部材」欄において、実施例1~4の「有り」とは引抜加工装置が受け部材を備えていることを示し、比較例1~4の「無し」とは引抜加工装置が受け部材を備えていないことを示している。
【0079】
また、「評価」欄の符号の意味は次のとおりである。
【0080】
○:引抜管の外表面に焼付きが発生していない。
×:引抜管の外表面に微小な焼付きが発生した。
【0081】
同表に示すように、受け部材を備えた引抜加工装置を用いて素管を引抜加工した場合(実施例1~4)、引抜管の外表面に焼付きが発生するのを抑制できることを確認し得た。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、感光ドラム基体などに用いられる棒状引抜材を得るための引抜加工方法及び引抜加工装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0083】
1:引抜加工装置
2:ダイス
2a:ダイスの上流端面
3:引抜孔
6:潤滑油供給器
7:供給ノズル
9:潤滑油
9a:余剰油
15:受け部材
20:素管(棒状ワーク)
20a:素管の外表面
22:引抜管
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B