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特許7559559二次電池電極用バインダー組成物、二次電池電極用導電材ペースト組成物、二次電池電極用スラリー組成物、二次電池用電極、及び二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】二次電池電極用バインダー組成物、二次電池電極用導電材ペースト組成物、二次電池電極用スラリー組成物、二次電池用電極、及び二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20240925BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240925BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240925BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20240925BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20240925BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20240925BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/13
H01M4/04 A
H01M4/02 Z
H01M10/0566
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020563071
(86)(22)【出願日】2019-12-12
(86)【国際出願番号】 JP2019048776
(87)【国際公開番号】W WO2020137594
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2018245971
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】中井 章人
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-204573(JP,A)
【文献】特開2004-178879(JP,A)
【文献】特開2010-146870(JP,A)
【文献】特開2014-203804(JP,A)
【文献】国際公開第2017/010093(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/168615(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/165578(WO,A1)
【文献】特開2010-047767(JP,A)
【文献】特開平06-228403(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62、10/0566
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体を含む二次電池正極用バインダー組成物であって、
前記重合体が、ニトリル基含有単量体単位、芳香族ビニル単量体単位、及び直鎖アルキレン構造単位を含有するとともに、
JIS K6229に従い、前記重合体についてメタノールによる抽出を行ってから、乾燥させて、測定対象としての重合体を得て、当該測定対象としての重合体を、温度150℃で20分間加熱したときの発生ガスをガスクロマトグラフィー-質量分析法で測定し、検量線法に従って、メルカプタン量を測定した場合に、得られたメルカプタン量が、前記重合体の質量を基準として、1ppm以上50ppm以下であり、
前記重合体における、前記ニトリル基含有単量体単位の含有割合が5質量%以上70質量%以下であり、前記芳香族ビニル単量体単位の含有割合が1質量%以上50質量%以下であり、前記直鎖アルキレン構造単位の含有割合が、10質量%以上60質量%以下である、
二次電池正極用バインダー組成物。
【請求項2】
前記重合体は、N-メチルピロリドンに対して溶解させた場合の不溶解分率が、1質量%以下である、請求項1に記載の二次電池正極用バインダー組成物。
【請求項3】
前記重合体の重量平均分子量が10,000以上2,000,000以下である、請求項1又は2に記載の二次電池正極用バインダー組成物。
【請求項4】
導電材と、請求項1~3の何れかに記載の二次電池正極用バインダー組成物と、を含む二次電池正極用導電材ペースト組成物。
【請求項5】
前記導電材が、カーボンナノチューブを含む、請求項4に記載の二次電池正極用導電材ペースト組成物。
【請求項6】
正極活物質と、溶媒と、請求項1~3の何れかに記載の二次電池正極用バインダー組成物と、を含む二次電池正極用スラリー組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の二次電池正極用スラリー組成物を用いて形成した正極合材層を備える、二次電池用正極。
【請求項8】
正極、負極、電解液及びセパレータを備え、
前記正極が請求項7に記載の二次電池用正極である、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池電極用バインダー組成物、二次電池電極用導電材ペースト組成物、二次電池電極用スラリー組成物、二次電池用電極、及び二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの二次電池は、小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。そのため、近年では、二次電池の更なる高性能化を目的として、電極などの電池部材の改良が検討されている。
【0003】
ここで、リチウムイオン二次電池などの二次電池に用いられる電極は、通常、集電体と、集電体上に形成された電極合材層(正極合材層又は負極合材層)とを備えている。そして、この電極合材層は、例えば、電極活物質と、結着材を含むバインダー組成物などとを分散媒に分散させてなるスラリー組成物を用いて形成される。
【0004】
そこで、近年では、二次電池の更なる性能の向上を達成すべく、電極合材層の形成に用いられるバインダー組成物の改良が試みられている。
具体的には、例えば特許文献1では、所定の構造を有し、所定の性状を満たすニトリル基含有共重合体ゴムの製造方法であって、メタセシス反応前のニトリル基含有共重合体ゴムを、所定の構造を有する連鎖移動剤の存在下でメタセシス反応させることを特徴とする、ニトリル基含有共重合体ゴムの製造方法が記載されている。特許文献1にかかる製造方法では、重合に際して、乳化剤を用いた乳化重合を実施することが好ましく、さらに、任意の重合開始剤及び分子量調整剤等を用い得る点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6330801号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上記従来の正極用バインダー組成物を用いても、導電材ペースト又はスラリー組成物中における導電材の分散性、及び高温下における分散安定性を十分に高めることが難しかった。さらに、上記従来の正極用バインダー組成物を用いて作成した正極には、二次電池の内部抵抗を一層低減するという点で改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、導電材の分散性及び高温下での分散安定性が充分に高い導電材ペーストを調製可能である、二次電池電極用バインダー組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、導電材の分散性及び高温下での分散安定性が充分に高く、更に、二次電池を形成した場合に内部抵抗を低減せしめる電極を作成し得る、二次電池電極用導電材ペースト組成物を提供することを目的とする。
さらにまた、本発明は、二次電池を形成した場合に得られる二次電池の内部抵抗を低減せしめる電極を作成し得る、二次電池電極用スラリー組成物を提供することを目的とする。
そして、本発明は、二次電池を形成した場合に得られる二次電池の内部抵抗を低減せしめる電極及びかかる電極を備える二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、ニトリル基含有単量体単位、芳香族ビニル単量体単位、及び直鎖アルキレン構造単位を含み、且つ、残留メルカプタン量が所定の範囲内である、重合体を含む二次電池電極用バインダー組成物によれば、導電材の分散性及び高温下での分散安定性が充分に高い導電材ペーストを調製可能であり、更に、二次電池を形成した場合に得られる二次電池の内部抵抗を低減せしめる電極を作成することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の二次電池電極用バインダー組成物は、重合体を含む二次電池電極用バインダー組成物であって、前記重合体が、ニトリル基含有単量体単位、芳香族ビニル単量体単位、及び直鎖アルキレン構造単位を含有するとともに、前記重合体における残留メルカプタン量が、前記重合体の質量を基準として、1ppm以上50ppm以下である、ことを特徴とする。このように、バインダー組成物に含まれる重合体が、ニトリル基含有単量体単位、芳香族ビニル単量体単位、及び直鎖アルキレン構造単位を含み、且つ、親水性基含有単量体単位を含まなければ、かかるバインダー組成物を用いて、導電材の分散性及び高温下での分散安定性が充分に高い導電材ペーストを調製可能であり、更に、二次電池の内部抵抗を低減せしめる電極を作成することが可能である。
なお、重合体における「残留メルカプタン量」は、実施例に記載の方法により測定することができる。また、重合体が「単量体単位を含有する」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に単量体由来の構造単位が含まれている」ことを意味する。また、「直鎖アルキレン構造単位を含有する」とは、重合体中に一般式:-Cn2n-[但し、nは整数]で表わされる直鎖アルキレン構造のみで構成される繰り返し単位が含まれていることを意味する。さらにまた、重合体における単量体単位及び構造単位の含有の有無、及び含有割合は、例えば、1H-NMRにより判定又は測定することができる。
【0010】
ここで、本発明の二次電池電極用バインダー組成物において、前記重合体は、N-メチルピロリドンに対して溶解させた場合の不溶解分率が、1質量%以下である、ことが好ましい。重合体をN-メチルピロリドンに対して溶解させた場合の不溶解分率(以下、単に「不溶解分率」とも称することがある。)が1質量%以下であれば、得られるスラリー組成物の塗工性を高めることができる。なお、重合体の「不溶解分率」は、実施例に記載した方法により測定することができる。
【0011】
また、本発明の二次電池電極用バインダー組成物において、重合体の重量平均分子量が10,000以上2,000,000以下であることが好ましい。重合体の重量平均分子量が10,000以上2,000,000以下であれば、得られる二次電池の内部抵抗を一層低減することができるとともに、得られる導電材ペースト中での導電材の分散性を一層高めることができる。なお、重合体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0012】
また、この発明は上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の二次電池電極用導電材ペースト組成物は、導電材と、上述した何れかの二次電池電極用バインダー組成物と、を含むことを特徴とする。ペースト組成物が上述した何れかの二次電池電極用バインダー組成物を含んでいれば、導電材の分散性及び高温下での分散安定性が充分に高く、且つ、二次電池を形成した場合に内部抵抗を低減せしめる電極を作成し得る。
【0013】
ここで、本発明の二次電池電極用導電材ペースト組成物において、導電材が、カーボンナノチューブを含んでいても良い。ペースト組成物が上記バインダー組成物を含んでいれば、導電材としてのカーボンナノチューブをペースト組成物中において良好に分散させることができる。
【0014】
また、この発明は上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の二次電池電極用スラリー組成物は、電極活物質と、溶媒と、上述した何れかの二次電池電極用バインダー組成物と、を含むことを特徴とする。スラリー組成物が上述した何れかの二次電池電極用バインダー組成物を含んでいれば、高温下での分散安定性が充分に高く、且つ、二次電池を形成した場合に得られる二次電池の内部抵抗を低減せしめる電極を作成し得る。
【0015】
更に、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の二次電池用電極は、上述した二次電池電極用スラリー組成物を用いて形成した電極合材層を備えることを特徴とする。このように、上述した二次電池電極用スラリー組成物を用いて形成した電極は、二次電池を形成した場合に得られる二次電池の内部抵抗を低減させることができる。
【0016】
そして、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の二次電池は、正極、負極、電解液及びセパレータを備え、前記正極又は負極の少なくとも一方が上述した二次電池用電極であることを特徴とする。このように、上述した二次電池用電極を使用すれば、二次電池の内部抵抗が低く、出力特性に優れる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、導電材の分散性及び高温下での分散安定性が充分に高い導電材ペーストを調製可能である、二次電池電極用バインダー組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、導電材の分散性及び高温下での分散安定性が充分に高く、更に、二次電池を形成した場合に内部抵抗を低減せしめる電極を作成し得る、二次電池電極用導電材ペースト組成物を提供することができる。
さらにまた、本発明によれば、二次電池を形成した場合に得られる二次電池の内部抵抗を低減せしめる電極を作成し得る、二次電池電極用スラリー組成物を提供することができる。
そして、本発明によれば、二次電池を形成した場合に得られる二次電池の内部抵抗を低減せしめる電極及びかかる電極を備える二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の二次電池電極用バインダー組成物は、二次電池電極用導電材ペースト組成物(以下、単に「導電材ペースト」とも称することがある。)、及び二次電池電極用スラリー組成物(以下、単に「スラリー組成物」とも称することがある。)を調製する際に好適に用いることができる。そして、本発明の二次電池電極用バインダー組成物を用いて調製した二次電池電極用スラリー組成物は、リチウムイオン二次電池等の二次電池の正極を形成する際に好適に用いることができる。更に、本発明の二次電池は、本発明の二次電池電極用スラリー組成物を用いて形成した二次電池用電極を用いたことを特徴とする。
【0019】
(二次電池電極用バインダー組成物)
本発明の二次電池電極用バインダー組成物は、重合体を含む二次電池電極用バインダー組成物であって、重合体が、繰り返し単位として、ニトリル基含有単量体単位、芳香族ビニル単量体単位、及び直鎖アルキレン構造単位を含有するとともに、重合体における残留メルカプタン量が、重合体の質量を基準として、1ppm以上50ppm以下である、ことを特徴とする。かかる組成の重合体を含むバインダー組成物によれば、導電材の分散性及び高温下での分散安定性が充分に高い導電材ペーストを調製可能である。さらに、上記重合体を含有するスラリー組成物によれば、二次電池を形成した場合に内部抵抗が低い電極を形成することができる。これらの利点は、上述した重合体の特定の組成及び性状に起因して奏されうる。中でも、重合体における残留メルカプタン量が上記範囲内であることで、かかる重合体を導電材ペーストに含有させた場合に導電材の分散性を効果的に高めることができるとともに、及び高温条件下で導電材ペーストが増粘することを効果的に抑制することができる。さらに、残留メルカプタン量が上記範囲内である重合体を用いてスラリー組成物を調製することで、得られるスラリー組成物における導電材の分散性及び高温下での分散安定性を高めることができるとともに、スラリー組成物の塗工性を高めることができる。さらに、重合体が、ニトリル基含有単量体単位を含むことで、重合体の、N-メチルピロリドン等の有機溶媒に対する溶解性を適度に高めることができ、導電材ペースト又はスラリー組成物の粘度を適切な範囲内に調節することが可能となる。その結果、導電材ペースト又はスラリー組成物中における導電材等の固形分の分散性を高めることができる。さらにまた、重合体が、芳香族ビニル単量体単位を含むことで、導電材ペースト又はスラリー組成物を調製した際に、導電材等の固形分の分散性を高めることができる。そして、重合体が、直鎖アルキレン構造単位を含むことで、かかる重合体を含む導電材ペースト及びスラリー組成物の高温条件下における粘度上昇を効果的に抑制することができる。
【0020】
<重合体>
重合体は、結着材として機能する成分であり、バインダー組成物を用いて調製した二次電池電極用スラリー組成物を使用して集電体上に電極合材層を形成することにより製造した電極において、電極合材層に含まれる成分が電極合材層から脱離しないように保持する。そして、重合体は、ニトリル基含有単量体単位、芳香族ビニル単量体単位、及び直鎖アルキレン構造単位を含有することを必要とする。さらに、重合体は、所定の方法で測定した残留メルカプタン量が、重合体の質量を基準として、1ppm以上50ppm以下であることを必要とする。なお、重合体は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、任意に、その他の単量体単位を含んでいてもよい。また、重合体は、ニトリル基含有単量体と、芳香族ビニル単量体と、共役ジエン単量体と、を含む単量体組成物を重合して得た重合体を、既知の方法で水素化してなる水添重合体であることが好ましい。
【0021】
[ニトリル基含有単量体単位]
ニトリル基含有単量体単位は、ニトリル基含有単量体由来の繰り返し単位である。そして、重合体は、ニトリル基含有単量体単位を含有しているので、N-メチルピロリドン等の有機溶媒に対する溶解性が高く、得られるスラリー組成物の粘度を良好に高めることができるとともに、経時的な粘度変化を抑制することにより、スラリー組成物の粘度安定性も良好に高めることができる。
【0022】
ここで、ニトリル基含有単量体単位を形成し得るニトリル基含有単量体としては、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体が挙げられる。具体的には、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β-エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル;α-クロロアクリロニトリル、α-ブロモアクリロニトリルなどのα-ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリルなどのα-アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。これらの中でも、重合体の結着力を高める観点からは、ニトリル基含有単量体としては、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。
これらは、単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
そして、重合体中のニトリル基含有単量体単位の含有割合は、重合体中の全繰り返し単位を100質量%とした場合に、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。重合体中のニトリル基含有単量体単位の含有割合を上記下限値以上とすれば、重合体の、N-メチルピロリドン等の有機溶媒に対する溶解性が適度に高まり、導電材ペースト又はスラリー組成物を調製した場合のこれらの粘度を適切な範囲内に調節することが可能となる。その結果、導電材ペースト又はスラリー組成物中における導電材等の固形分の分散性を高めることができる。さらに、かかるスラリー組成物を用いて電極を形成した場合に、重合体により良好な結着力を発揮することができ、電極のピール強度を高めることができる。また、重合体中のニトリル基含有単量体単位の含有割合を上記上限値以下とすれば、二次電池の出力特性を一層高めることができる。これは、重合体中におけるニトリル基含有単量体単位の含有割合が上記上限値以下である場合には、重合体の電解液膨潤度が過度に高まることを良好に抑制することができ、二次電池の内部抵抗を低減することができるためであると推察される。
【0024】
[芳香族ビニル単量体単位]
芳香族ビニル単量体単位は、芳香族ビニル単量体由来の繰り返し単位である。そして、芳香族ビニル単量体単位を含む重合体は、導電材ペースト又はスラリー組成物中にて、導電材等の固形分の分散性を高めることができる。
【0025】
ここで、芳香族ビニル重合単位を形成し得る単量体としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族ビニル単量体が挙げられる。これらの中でも、他の単量体との共重合性が良好で、重合体の分岐、連鎖、及び分子間架橋などの副反応が比較的小さいため、スチレンが好ましい。
【0026】
そして、重合体の芳香族ビニル単量体単位の含有割合は、重合体中の全繰り返し単位を100質量%とした場合に、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましい。重合体中の芳香族ビニル単量体単位の含有割合を上記下限値以上とすれば、導電材ペースト又はスラリー組成物を調製した際に、導電材等の固形分の分散性を効果的に高めることができる。さらに、重合体中の芳香族ビニル単量体単位の含有割合を上記上限値以下とすることによっても、導電材ペースト又はスラリー組成物を調製した際に、導電材等の固形分の分散性を効果的に高めることができる。
【0027】
[直鎖アルキレン構造単位]
直鎖アルキレン構造単位(以下、単に「アルキレン構造単位」とも称することがある。)は、一般式:-Cn2n-[但し、nは整数]で表わされる直鎖アルキレン構造のみで構成される繰り返し単位である。そして、重合体は、直鎖アルキレン構造単位を有しているので、スラリー組成物中にて、導電材等の固形分が、スラリー組成物の調製後に時間をおいた場合に凝集等することを抑制することができ、スラリー組成物の分散安定性を高めることができる。なお、かかる効果をより一層良好に奏する観点から、直鎖アルキレン構造単位は、炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位であることが好ましく、上記一般式においてnが4以上の整数であることが好ましい。
【0028】
そして、重合体への直鎖アルキレン構造単位の導入方法は、特に限定はされないが、例えば以下の(1)又は(2)の方法:
(1)共役ジエン単量体を含む単量体組成物から重合体を調製し、当該重合体に水素添加することで、共役ジエン単量体単位を直鎖アルキレン構造単位に変換する方法
(2)1-ブテン、1-ヘキセンなどの1-オレフィン単量体を含む単量体組成物から重合体を調製する方法
が挙げられる。これらの共役ジエン単量体や1-オレフィン単量体は、それぞれ、単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、(1)の方法が重合体の製造が容易であり好ましい。
【0029】
なお、上記(1)の方法に用い得る共役ジエン単量体としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンなどの共役ジエン化合物が挙げられる。中でも、1,3-ブタジエンが好ましい。すなわち、直鎖アルキレン構造単位は、共役ジエン単量体単位を水素化して得られる構造単位(共役ジエン水素化物単位)であることが好ましく、1,3-ブタジエン単位を水素化して得られる構造単位(1,3-ブタジエン水素化物単位)であることがより好ましい。そして、水素化は、後述するような公知の方法を用いて行なうことができる。
【0030】
そして、重合体における、直鎖アルキレン構造単位の含有割合が、重合体中の全繰り返し単位(構造単位と単量体単位との合計)を100質量%とした場合に、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。直鎖アルキレン構造単位の含有割合を上記下限値以上とすることで、導電材ペースト及びスラリー組成物の高温条件下における粘度上昇を効果的に抑制することができる。また、直鎖アルキレン構造単位の含有割合を上記上限値以下とすることで、重合体の、N-メチルピロリドン等の有機溶媒に対する溶解性を適度に高めることができ、導電材ペースト又はスラリー組成物の粘度を適切な範囲内に一層効果的に調節することが可能となる。その結果、導電材ペースト又はスラリー組成物中における導電材等の固形分の分散性を一層効果的に高めることができる。
【0031】
なお、上述したように、重合体が共役ジエンを含有する単量体組成物を重合して得た重合体を水素化してなる水添重合体である場合には、かかる水添重合体は、直鎖アルキレン構造単位と、その他の共役ジエンに由来する単位(例えば、未水添の共役ジエン単位を含む)とを含みうる。この場合には、水添重合体における、直鎖アルキレン構造単位と、その他の共役ジエンに由来する単位との合計含有割合(以下、「共役ジエン由来の単位の含有割合」とも称する)が、「直鎖アルキレン構造単位の含有割合」について上述した好適な含有割合の範囲内であることが好ましい。共役ジエン由来の単位の含有割合との合計割合を上記範囲内とすることで、直鎖アルキレン構造単位の含有割合の上下限値について説明したような、効果を奏することができる。
【0032】
[その他の単量体単位]
また、その他の単量体単位を形成し得るその他の単量体としては、特に限定されることなく、上述した単量体と共重合可能な既知の単量体、例えば、親水性基含有単量体、(メタ)アクリル酸エステル単量体、フッ素含有単量体、(メタ)アクリルアミド化合物、及びエポキシ基含有不飽和化合物などが挙げられる。
なお、これらの単量体は一種単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。また、本明細書において「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味する。
【0033】
そして、重合体中のその他の単量体単位の含有割合は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下であり、0質量%であっても良い。特に、重合体がその他の単量体単位として、酸性基含有単量体単位を含む場合には、重合体中の酸性基含有単量体単位の含有割合は、10質量%以下であることが好ましい。
【0034】
なお、「その他の単量体単位」を構成し得る単量体の一例として列挙した「親水性基含有単量体」とは、酸性基及び水酸基等の親水性基を含んでなる単量体である。酸性基としては、カルボン酸基、スルホン酸基、及びリン酸基などが挙げられる。
【0035】
カルボン酸基を有する単量体としては、モノカルボン酸及びその誘導体や、ジカルボン酸及びその酸無水物並びにそれらの誘導体などが挙げられる。
モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。
モノカルボン酸誘導体としては、2-エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α-アセトキシアクリル酸、β-trans-アリールオキシアクリル酸、α-クロロ-β-E-メトキシアクリル酸、β-ジアミノアクリル酸などが挙げられる。
ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。
ジカルボン酸誘導体としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸や、マレイン酸メチルアリル、マレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキルなどのマレイン酸エステルが挙げられる。
ジカルボン酸の酸無水物としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。
また、カルボン酸基を有する化合物としては、加水分解によりカルボキシル基を生成する酸無水物も使用できる。
その他、マレイン酸モノエチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸ジブチル、フマル酸モノエチル、フマル酸ジエチル、フマル酸モノブチル、フマル酸ジブチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸ジシクロヘキシル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸モノブチル、イタコン酸ジブチルなどのα,β-エチレン性不飽和多価カルボン酸のモノエステル及びジエステルも挙げられる。
【0036】
スルホン酸基を有する単量体としては、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸-2-スルホン酸エチル、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。
なお、本発明において「(メタ)アリル」とは、アリル及び/又はメタリルを意味する。
【0037】
リン酸基を有する単量体としては、リン酸-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸メチル-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸エチル-(メタ)アクリロイルオキシエチルなどが挙げられる。
なお、本発明において「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイル及び/又はメタクリロイルを意味する。
【0038】
水酸基を有する単量体としては、(メタ)アリルアルコール、3-ブテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オールなどのエチレン性不飽和アルコール;アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸-2-ヒドロキシプロピルなどのエチレン性不飽和カルボン酸のアルカノールエステル類;一般式CH2=CR1-COO-(Cn2nO)m-H(式中、mは2~9の整数、nは2~4の整数、R1は水素又はメチル基を表す)で表されるポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル類;2-ヒドロキシエチル-2’-(メタ)アクリロイルオキシフタレート、2-ヒドロキシエチル-2’-(メタ)アクリロイルオキシサクシネートなどのジカルボン酸のジヒドロキシエステルのモノ(メタ)アクリル酸エステル類;2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、2-ヒドロキシプロピルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;(メタ)アリル-2-ヒドロキシエチルエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシプロピルエーテルなどのアルキレングリコールのモノ(メタ)アリルエーテル類;ジエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アリルエーテルなどのポリオキシアルキレングリコール(メタ)モノアリルエーテル類;グリセリンモノ(メタ)アリルエーテル、(メタ)アリル-2-クロロ-3-ヒドロキシプロピルエーテルなどの、(ポリ)アルキレングリコールのハロゲン及びヒドロキシ置換体のモノ(メタ)アリルエーテル;オイゲノール、イソオイゲノールなどの多価フェノールのモノ(メタ)アリルエーテル及びそのハロゲン置換体;(メタ)アリル-2-ヒドロキシエチルチオエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシプロピルチオエーテルなどのアルキレングリコールの(メタ)アリルチオエーテル類;などが挙げられる。
【0039】
なお、上述したニトリル基含有単量体単位、芳香族ビニル単量体単位、及び直鎖アルキレン構造単位には、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基及び水酸基等の親水性基は含まれなくてもよい。
【0040】
[ヨウ素価]
また、重合体は、ヨウ素価が80mg/100mg以下であることが好ましく、70mg/100mg以下であることがより好ましく、50mg/100mg以下であることが更に好ましい。ヨウ素価が上記上限値以下である重合体によれば、導電材の分散性が一層高い導電材ペーストを調製可能であり、ひいては、スラリー組成物を調製した場合にもかかるスラリー組成物中における導電材の分散性を高めることができる。ここで、重合体のヨウ素価は、例えば、2mg/100mg以上でありうる。また、重合体のヨウ素価は、重合体が水添重合体である場合には、水添条件を変更することにより、調節することができる。なお、重合体の「ヨウ素価」は、JIS K6235(2006)に準拠して測定することができる。
【0041】
[重量平均分子量]
さらにまた、重合体は、重量平均分子量が、10,000以上であることが好ましく、20,000以上であることがより好ましく、2,000,000以下であることが好ましく、1,500,000以下であることがより好ましく、1,000,000以下であることが更に好ましい。重合体の重量平均分子量が上記下限値以上であれば、導電材の分散性が一層高い導電材ペーストを調製することができる。また、重合体の重量平均分子量が上記下限値以上であれば、重合体が電解液に対して過度に膨潤することを抑制し、得られる二次電池の内部抵抗が高まることを効果的に抑制することができる。また、重合体の重量平均分子量が上記上限値以下であれば、導電材ペーストを調製した際に、導電材ペーストの粘度が高まり導電材の分散性を低下させることを効果的に抑制することができる。これにより、電極中にて良好な導電パスを形成することが可能となり、得られる二次電池の内部抵抗が高まることを効果的に抑制することができる。
【0042】
[NMP不溶解分率]
さらにまた、重合体は、N-メチルピロリドンに対して溶解させた場合の不溶解分率が、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることが好ましく、0.2以下であることがより好ましい。重合体の不溶解分率が上記上限値以下であれば、導電材の分散性が一層高い導電材ペーストを調製することができる。更に、重合体の不溶解分率が上記上限値以下であれば、塗工性に一層優れるスラリー組成物を調製することができ、得られる二次電池の内部抵抗を一層低減することができる。
【0043】
[残留メルカプタン量]
そして、重合体は、所定の方法に従って測定した残留メルカプタン量が、重合体の質量を基準として、1ppm以上であることを必要とし、2ppm以上であることが好ましく、50ppm以下であることを必要とし、30ppm以下であることが好ましく、23ppm以下であることがより好ましい。重合体の残留メルカプタン量が上記下限値以上であれば、導電材の分散性が十分に高い導電材ペーストを調製可能である。また、重合体の残留メルカプタン量が上記上限値以下であれば、導電材ペーストに含有させた場合に高温条件下で導電材ペーストが増粘することを効果的に抑制することができる。さらに、残留メルカプタン量が上記上限値以下である重合体を配合することで、得られるスラリー組成物の塗工性を高めることもできる。
【0044】
ここで、重合体にメルカプタンを含有させるための方途としては、重合体を任意の方法に従って重合する際の分子量調整剤として、メルカプタン化合物を配合することが挙げられる。分子量調整剤として用い得るメルカプタン化合物としては、特に限定されることなく、メルカプト基を有する化合物を好ましく用いることができ、例えば、オクチルメルカプタン、2,2,4,6,6-ペンタメチル-4-ヘプタンチオール、2,4,4,6,6-ペンタメチル-2-ヘプタンチオール、2,3,4,6,6-ペンタメチル-2-ヘプタンチオール、2,3,4,6,6-ペンタメチル-3-ヘプタンチオール、t-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、などの炭素数8~12のメルカプト基を有する化合物;2,2,4,6,6-ペンタメチル-4-オクタンチオール、2,2,4,6,6,8,8-ヘプタメチル-4-ノナンチオールなどの炭素数13~16のメルカプト基を有する化合物が挙げられる。これらは、一種で、或いは複数種を併用して用いられうる。なお、分子量調整剤として複数種のメルカプタン化合物を用いた場合には、上記「残留メルカプタン量」は、複数種のメルカプタン化合物の合計量に相当する。
【0045】
[重合体の調製方法]
なお、上述した重合体の調製方法は特に限定されないが、例えば、上述した単量体を含む単量体組成物を、上記のようなメルカプタン化合物を含む分子量調整剤、任意の添加剤の存在下において重合して重合体を得た後、得られた重合体を水素化(水素添加)することで調製することができる。
【0046】
ここで、重合体の調製に用いる単量体組成物中の各単量体の含有割合は、重合体中の各繰り返し単位の含有割合に準じて定めることができる。
そして、重合様式は、特に制限なく、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。中でも、乳化剤を用いた乳化重合法に従って重合体を調製することが好ましい(例えば、特許第633801号参照)。
更に、重合体の水素化方法は、特に制限なく、触媒を用いる一般的な方法である、油層水素化法、水層直接水素化法、及び、水層間接水素化法(例えば、国際公開第2013/080989号等参照)等を使用することができる。
【0047】
さらに、重合体に直鎖アルキレン構造単位を導入する際に、上述した(1)の方法(即ち、共役ジエン単量体単位を水素化することで直鎖アルキレン構造単位に変換する方法)を採用する場合には、重合体の複分解反応、即ち、メタセシス反応を実施した後に水素化を行うことが好ましい。重合体の複分解反応は、特に限定されることなく、例えば、特許第4509792号及び国際公開第2016/103730号に記載の方法及び触媒を用いて行うことができる。具体的には、重合体の複分解反応は、触媒及びコ(co-)オレフィンの存在下にて実施することができる。ここで、複分解反応の触媒としては、既知のルテニウム系触媒を用いることができる。中でも、複分解反応の触媒としては、二塩化ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウム、1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)-2-(イミダゾリジニリデン)(ジクロロフェニルメチレン)(トリシクロへキシルホスフィン)ルテニウムなどのGrubbs触媒を用いることが好ましい。また、コオレフィンとしては、エチレン、イソブタン、1-ヘキサンなどの炭素数2~16のオレフィンを用いることができる。また、複分解反応後に水素化を行う際の水素化触媒としては、例えばWilkinson触媒((PPh33RhCl)等の既知の均質水素化触媒を用いることができる。
【0048】
[溶媒]
バインダー組成物は、溶媒を含有していても良い。溶媒としては、特に限定されることなく、有機溶媒を用いることができる。そして、有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、アミルアルコールなどのアルコール類、アセトン、エチルメチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン(NMP)などのアミド系極性有機溶媒、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、パラジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。中でも、溶媒としては、NMPが好ましい。
【0049】
[その他の成分]
本発明のバインダー組成物は、上記成分の他に、上記重合体とは組成の異なる重合体、及び、特開2013-179040号公報に記載されたような既知の添加剤等の成分を含有していてもよい。また、これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0050】
例えば、上記重合体とは組成の異なる重合体としては、親水性基含有単量体単位を含む重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素含有重合体、ポリアクリロニトリル、及びポリメチルメタクリレート等が挙げられる。これらの重合体は、親水性基含有単量体単位を含有するか、或いは、ニトリル基含有単量体単位、芳香族ビニル単量体単位、及び直鎖アルキレン構造単位のうちの少なくとも一つを非含有であるかという点で、上記重合体とは異なる。
【0051】
<バインダー組成物の調製方法>
本発明のバインダー組成物は、上述した成分と溶媒とを混合させることにより調製することができる。混合方法としては、特に限定されることなく、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどの混合機を用いた混合方法が挙げられる。
【0052】
(二次電池電極用導電材ペースト組成物)
本発明の二次電池電極用導電材ペースト組成物(以下、単に「導電材ペースト組成物」とも称することがある。)は、上述した本発明のバインダー組成物と、導電材と、を含むことを特徴とする。本発明の導電材ペースト組成物は、本発明のバインダー組成物を含むため、導電材の分散性が充分に高く、且つ、高温下での分散安定性に優れており、更に、二次電池を形成した場合に内部抵抗を低減せしめる電極を作成し得る。
【0053】
<導電材>
導電材は、電極合材層における電極活物質同士の電気的接触を促進するために配合されうる成分である。導電材としては、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラックなど)、グラファイト、炭素繊維、カーボンフレーク等の導電性炭素材料;各種金属のファイバー、箔などを用いることができる。中でも、導電材としては炭素繊維を含むことが好ましく、カーボンナノチューブや気相成長炭素繊維のような炭素超短繊維を含むことがより好ましく、カーボンナノチューブを含むことがより好ましい。
これらは一種単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
そして、導電材のBET比表面積は、好ましくは100m2/g以上、より好ましくは150m2/g以上であり、通常、2500m2/g以下である。導電材のBET比表面積が上記下限値以上であれば、電極合材層中において良好な導電パスを形成し、二次電池の出力特性を更に向上させることができる。また、導電材のBET比表面積が上記上限値以下であれば、導電材の凝集を抑制して、導電材の分散性を確保することができる。
【0055】
なお、通常、BET比表面積が大きい導電材や、カーボンナノチューブ等の繊維状の導電材は、凝集し易く、分散させ難い。しかし、本発明の二次電池電極用スラリー組成物では、上述した所定の組成及び性状を満たす重合体を含むバインダー組成物を用いているので、BET比表面積が大きい導電材であっても良好かつ安定的に分散させることができる。
【0056】
<その他の成分>
導電材ペーストに配合し得るその他の成分としては、特に限定することなく、本発明のバインダー組成物に配合し得るその他の成分と同様のものが挙げられる。また、その他の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0057】
<導電材ペーストの製造方法>
導電材ペーストは、上述した本発明のバインダー組成物と、導電材と、溶媒等の任意のその他の成分とを混合することにより、調製することができる。混合方法としては、特に限定されることなく、<バインダー組成物の調製方法>の項目にて上述した混合方法が挙げられる。ここで、導電材ペーストにおける導電材と、上記した特定組成の重合体との含有比率は、導電材の含有量を100質量部として、重合体が1質量部以上(即ち、導電材の含有質量の1/100以上)であることが好ましく、2質量部以上(即ち、導電材の含有質量の1/50以上)がより好ましく、5質量部以上(即ち、導電材の含有質量の1/20以上)が更に好ましく、100質量部以下(即ち、導電材の含有質量と同等以下)であることが好ましく、50質量部以下(即ち、導電材の含有質量の半分以下)がより好ましく、25質量部以下(即ち、導電材の含有質量の1/4以下)がさらに好ましい。また、導電材ペーストの固形分濃度は、例えば、1質量%以上であり、2質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、30質量%以下であり、25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。また、導電材ペーストの粘度はレオメーター(Anton Paar社製 MCR302)にて、温度25℃、せん断速度0.1s-1の条件下で粘度を測定した場合、通常10000Pa・s以下であり、好ましくは5000Pa・s以下、より好ましくは1000Pa・s以下であり、さらに好ましくは500Pa・s未満であり、特に好ましくは250Pa・s未満であり、通常50Pa・s以上である。
【0058】
(二次電池電極用スラリー組成物)
本発明の二次電池電極用スラリー組成物は、電極活物質と、溶媒と、上述したバインダー組成物とを含み、任意に、導電材やその他の成分を更に含有する。即ち、本発明の二次電池電極用スラリー組成物は、電極活物質と、溶媒と、上述した重合体とを含み、任意に、導電材やその他の成分を更に含有する。そして、本発明の二次電池電極用スラリー組成物は、上述したバインダー組成物を含んでいるので、二次電池を形成した場合に得られる二次電池の内部抵抗を低減せしめる電極を作成し得る。
なお、以下では、一例として二次電池電極用スラリー組成物がリチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物である場合について説明するが、本発明は下記の一例に限定されるものではない。
【0059】
<電極活物質>
電極活物質は、二次電池の電極において電子の受け渡しをする物質である。そして、リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、通常は、リチウムを吸蔵及び放出し得る物質を用いる。
【0060】
具体的には、リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、特に限定されることなく、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn24)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO2)、Co-Ni-Mnのリチウム含有複合酸化物、Ni-Mn-Alのリチウム含有複合酸化物、Ni-Co-Alのリチウム含有複合酸化物、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、オリビン型リン酸マンガンリチウム(LiMnPO4)、Li1+xMn2-x4(0<X<2)で表されるリチウム過剰のスピネル化合物、Li[Ni0.17Li0.2Co0.07Mn0.56]O2、LiNi0.5Mn1.54等の既知の正極活物質が挙げられる。なお、Co-Ni-Mnのリチウム含有複合酸化物としては、Li(Ni0.5Co0.2Mn0.3)O2、Li(Ni1/3Co1/3Mn1/3)O2などが挙げられる。
上述した中でも、二次電池の電池容量などを向上させる観点からは、正極活物質としては、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO2)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO2)、Co-Ni-Mnのリチウム含有複合酸化物、Li[Ni0.17Li0.2Co0.07Mn0.56]O2又はLiNi0.5Mn1.54を用いることが好ましく、Co-Ni-Mnのリチウム含有複合酸化物を用いることがより好ましい。
なお、正極活物質の配合量や粒径は、特に限定されることなく、従来使用されている正極活物質と同様とすることができる。
【0061】
<導電材>
導電材としては、(二次電池電極用導電材ペースト組成物)の項目にて上述したものを好適に用いることができる。
【0062】
<バインダー組成物>
バインダー組成物としては、上述した本発明の二次電池電極用バインダー組成物を用いる。
【0063】
<溶媒>
溶媒としては、本発明の二次電池電極用バインダー組成物に含有されうる溶媒として列挙した各種溶媒と同じものを用いることができる。
【0064】
<含有比率>
スラリー組成物における、導電材の含有比率は、電極活物質の含有量を100質量部として、0.01質量部以上20質量部以下であることが好ましい。導電材の比率が上記下限値以上であれば、正極活物質同士の電気的接触を促進することができる。また、導電材の配合量が上記上限値以下であれば、スラリー組成物の塗工性を高めることができる。
また、スラリー組成物における重合体の好適な含有比率は、<導電材ペーストの製造方法>の項目にて上述した、導電材に対する重合体の好適な範囲、及び本段落の冒頭で説明した電極活物質と導電材との間の含有比率より導出されうる好適な範囲内でありうる。
【0065】
<その他の成分>
スラリー組成物に配合し得るその他の成分としては、特に限定することなく、本発明のバインダー組成物に配合し得るその他の成分と同様のものが挙げられる。また、その他の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。中でも、二次電池電極用スラリー組成物がリチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物である場合には、上述した重合体(以下、「所定の重合体」と称することがある。)に加えて、第2の重合体として、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素含有重合体を併用することが好ましい。その他の成分として第2の重合体を併用する場合における、所定の重合体の使用量は、所定の重合体及び第2の重合体の合計含有量を100質量%として、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0066】
<スラリー組成物の製造方法>
上述したスラリー組成物は、上記各成分を有機溶媒などの溶媒中に溶解又は分散させることにより調製することができる。例えば、<バインダー組成物の調製方法>の項目にて説明したような、既知の分散又は混合方法により、上記各成分と溶媒とを混合することにより、スラリー組成物を調製することができる。また、例えば、本発明の導電材ペーストに対して、電極活物質と、上記のような任意の成分とを添加し、上記のような既知の分散又は混合方法に供することによっても、スラリー組成物を調製することができる。なお、スラリー組成物の調製に用いる溶媒としては、バインダー組成物に含まれている溶媒を使用してもよい。ここで、調製時における、各成分の添加順序は、特に限定されることなく、上記各成分を一括混合しても良いし、段階的に混合しても良い。導電材の分散性を高める観点から、上述した導電材ペーストを得てから、かかる導電材ペーストに対して正極活物質、並びに、溶媒及び第2の重合体等の任意成分を添加して混合する工程を行うことが好ましい。なお、スラリー組成物の粘度(JIS Z8803:1991に準じて単一円筒形回転粘度計により測定。温度:25℃、回転数:60rpm)は、1500mPa・s以上が好ましく、4000mPa・s以上がより好ましく、20000mPa・s以下が好ましく、5000mPa・s以下がより好ましい。
【0067】
(二次電池用電極)
本発明の二次電池用電極は、集電体と、集電体上に形成された電極合材層とを備え、電極合材層は上記二次電池電極用スラリー組成物を用いて形成されている。即ち、電極合材層には、少なくとも、電極活物質と、重合体とが含まれている。なお、電極合材層中に含まれている各成分は、上記二次電池電極用スラリー組成物中に含まれていたものであり、それら各成分の好適な存在比は、スラリー組成物中の各成分の好適な存在比と同じである。
そして、本発明の二次電池用電極は、本発明の二次電池電極用バインダー組成物を含むスラリー組成物を使用して作製しているので、当該電極を用いることで、内部抵抗が低い二次電池を形成することができる。
【0068】
<電極の製造方法>
なお、本発明の二次電池用電極は、例えば、上述したスラリー組成物を集電体上に塗布する工程(塗布工程)と、集電体上に塗布されたスラリー組成物を乾燥して集電体上に電極合材層を形成する工程(乾燥工程)とを経て製造される。
【0069】
[塗布工程]
上記スラリー組成物を集電体上に塗布する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。具体的には、塗布方法としては、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などを用いることができる。この際、スラリー組成物を集電体の片面だけに塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。塗布後乾燥前の集電体上のスラリー膜の厚みは、乾燥して得られる電極合材層の厚みに応じて適宜に設定しうる。
【0070】
ここで、スラリー組成物を塗布する集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が用いられる。具体的には、集電体としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などからなる集電体を用い得る。中でも、正極に用いる集電体としては、アルミニウム箔が特に好ましく、負極に用いる集電体としては銅箔が特に好ましい。なお、前記の材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0071】
[乾燥工程]
集電体上のスラリー組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥法、真空乾燥法、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。このように集電体上のスラリー組成物を乾燥することで、集電体上に電極合材層を形成し、集電体と電極合材層とを備える二次電池用電極を得ることができる。
【0072】
なお、乾燥工程の後、金型プレス又はロールプレスなどを用い、電極合材層に加圧処理を施してもよい。加圧処理により、電極合材層の密度を効果的に高めることができると共に、電極合材層と集電体との密着性を向上させることができる。さらに、電極合材層が硬化性の重合体を含む場合は、電極合材層の形成後に前記重合体を硬化させることが好ましい。
【0073】
(二次電池)
本発明の二次電池は、正極と、負極と、電解液と、セパレータとを備え、正極又は負極の少なくとも一方が本発明の二次電池用電極である。そして、本発明の二次電池は、本発明の二次電池用電極を備えているので電池特性(特に、出力特性)に優れる。
なお、以下では、一例として二次電池がリチウムイオン二次電池であり、正極が本発明の二次電池用電極よりなる場合について説明するが、本発明は下記の一例に限定されるものではない。
【0074】
<負極>
負極としては、既知の負極を用いることができる。具体的には、負極としては、例えば、金属リチウムの薄板よりなる負極や、負極合材層を集電体上に形成してなる負極を用いることができる。
なお、集電体としては、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金等の金属材料からなるものを用いることができる。また、負極合材層としては、負極活物質と結着材とを含む層を用いることができる。更に、結着材としては、特に限定されず、任意の既知の材料を用いうる。
【0075】
<電解液>
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。リチウムイオン二次電池の支持電解質としては、例えば、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlCl4、LiClO4、CF3SO3Li、C49SO3Li、CF3COOLi、(CF3CO)2NLi、(CF3SO22NLi、(C25SO2)NLiなどが挙げられる。なかでも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すので、LiPF6、LiClO4、CF3SO3Liが好ましく、LiPF6が特に好ましい。なお、電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。そして、電解液中の支持電解質の濃度(25℃)は、例えば、0.5mol/L以上2.0mol/L以下でありうる。
【0076】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;などが好適に用いられる。またこれらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いのでカーボネート類を用いることが好ましく、エチレンカーボネート、及びジエチルカーボネートの混合物を用いることが好ましい。また、電解液には、ビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート、及びエチルメチルスルホンなどの添加剤を添加することができる。
【0077】
<セパレータ>
セパレータとしては、特に限定されることなく、例えば特開2012-204303号公報に記載のものを用いることができる。これらの中でも、セパレータ全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、二次電池内の電極活物質の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)の樹脂からなる微多孔膜が好ましい。
【0078】
<二次電池の製造方法>
本発明の二次電池は、例えば、正極と、負極とを、セパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより製造することができる。二次電池の内部の圧力上昇、過充放電等の発生を防止するために、必要に応じて、ヒューズ、PTC素子等の過電流防止素子、エキスパンドメタル、リード板などを設けてもよい。二次電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例
【0079】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。なお、圧力はゲージ圧である。
そして、実施例及び比較例において、重合体の組成、残留メルカプタン量、NMPに対する不溶解分率、ヨウ素価、重量平均分子量、導電材ペーストにおける導電材の分散性、導電材ペーストの高温下での分散安定性、スラリー組成物の塗工性、及び二次電池の初期抵抗は、下記の方法で測定及び評価した。
【0080】
<重合体の組成>
全ての実施例、比較例にて、1H-NMR測定の結果、炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位(1,3-ブタジエン水素化物単位)が存在することを確認した。
<残留メルカプタン量>
重合体中に含まれる残留メルカプタン量の測定に際して、実施例、比較例で得た重合体について、JIS K6229に従い、メタノールによる抽出を行って遊離メルカプタンを除去し、乾燥させて、測定対象としての重合体を得た。このようにして得られた測定対象としての重合体を、温度150℃で20分間加熱したときの発生ガスをガスクロマトグラフィー-質量分析法で測定した。標準物についても測定を行い、保持時間、MSスペクトル、及びピーク面積から、検量線法に従って、重合体中に含まれるメルカプタン化合物の量を測定した。このようにして測定した、メルカプタン化合物の量を、重合体の質量全体を基準として、ppm単位で表1の「残留メルカプタン量」の欄に示した。なお、ガスクロマトグラフィー-質量分析法による測定の測定条件は以下の通りであった。
<<測定条件>>
分離カラム:HP-5ms(長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)
カラムオーブンの昇温温度:40℃で3分間保持した後、10℃/minで280℃まで昇温
インジェクション温度:300℃
検出器温度:280℃
測定イオン:29~550
<NMPに対する不溶解分率>
実施例、比較例で調製した重合体0.5gを、NMP100gに対して攪拌しながら80℃で加温溶解させ、不溶解分を回収した。回収した不溶解分を乾燥させた後に質量を測定し、不溶解分の質量(g)/0.5(g)×100%を算出した。
<重合体のヨウ素価>
実施例、比較例で調製した重合体の水分散液100gを、メタノール1Lで凝固させた後、温度60℃で12時間真空乾燥した。そして、得られた乾燥重合体のヨウ素価を、JIS K6235(2006)に従って測定した。
<重合体の重量平均分子量>
実施例、比較例で調製した重合体の重量平均分子量を、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した。具体的には、ポリスチレンによって標準物質で検量線を作成することにより、標準物質換算値としての重量平均分子量を算出した。なお、測定条件は、以下のとおりである。
<<測定条件>>
カラム:TSKgel α-M×2本(内径7.8mm×30cm×2本 東ソー社製)
溶離液:ジメチルホルムアミド(50mM臭化リチウム、10mMリン酸)
流速:0.5mL/min.
試料濃度:約0.5g/L(固形分濃度)
注入量:200μL
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折率検出器RI(東ソー社製HLC-8320 GPC RI検出器)
検出器条件:RI:Pol(+),Res(1.0s)
分子量マーカー:東ソー社製 標準ポリスチレンキットPStQuick K
【0081】
<導電材ペーストにおける導電材の分散性>
実施例、比較例で調製した導電材ペーストの粘度について、レオメーター(Anton Paar社製 MCR302)にて、温度25℃、せん断速度0.1s-1の条件下で粘度を測定した。同一固形分濃度では、粘度が低下するほど導電材の分散性に優れる。
A:粘度が250Pa・s未満
B:粘度が250Pa・s以上500Pa・s未満
C:粘度が500Pa・s以上
【0082】
<導電材ペーストの高温分散安定性>
導電材としてのカーボンナノチューブ(比表面積:150m2/g)3.0部と、上記バインダー組成物0.6部(固形分換算量)と、NMP96.4部を、ディスパーを用いて攪拌し(3000rpm、10分)、その後、直径1mmのジルコニアビーズを用いたビーズミルを使用し、周速8m/sにて温度20℃条件下で1時間混合することにより、固形分濃度が3.6質量%の導電材ペーストを製造した。得られた導電材ペーストの粘度を、レオメーター(Anton Paar社製 MCR302)を用いてせん断速度0.1s-1の条件下で測定し、加熱前粘度η0を得た。さらに、直径1mmのジルコニアビーズを用いたビーズミルを使用し、周速8m/sにて、温度40℃条件下で、1時間混合することにより、固形分濃度が3.6質量%の導電材ペーストを製造した。そして、得られた導電材ペーストの粘度を、レオメーター(Anton Paar社製 MCR302)を用いてせん断速度0.1s-1の条件下で測定し、加熱後粘度η1を得た。このようにして得た加熱前粘度η0と、加熱後粘度η1と、に基づいて、粘度維持率Δη=(η1/η0)×100%を算出した。このようにして算出した導電材ペーストの粘度維持率が100%に近いほど、かかる導電材ペーストが高温下での分散安定性に優れており、ひいては、かかる導電材ペーストを含んでなる電極用スラリー組成物の高温下での分散安定性が優れていることを意味する。
A:粘度維持率が110%未満
B:粘度維持率が110%以上150%未満
C:粘度維持率が150%以上
【0083】
<スラリー組成物の塗工性>
実施例、比較例において正極を作製する際に、塗工を開始し、目的の目付量とした時点tの目付量をW0とした。時点tから10分間塗工を続け、時点tから10分後の時点における目付量をW1とした。W0及びW1から目付維持率ΔW=(W1/W0)×100%を算出した。目付維持率が100%に近いほど、スラリー組成物を均等に目付することができ、レベリングが容易であるため、塗工性が良好である。
A:目付維持率が105%未満
B:目付維持率が105%以上110%未満
C:目付維持率が110%以上
【0084】
<二次電池の初期抵抗>
実施例、比較例で作製した二次電池を、温度25℃の条件下、0.2Cで電池電圧が4.2Vになるまで定電流充電した後、4.2Vで充電電流が0.02Cになるまで定電圧充電を行った。続いて、0.2Cで電池電圧が3.87V(SOC50%)になるまで定電流放電を行った後、0.2C、0.5C、1.0C、2.0C、2.5C、3.0Cにてそれぞれ30秒放電後の電圧変化を測定した。各放電流及び測定した電圧変化をプロットし、その傾きを初期抵抗値(Ω)とした。算出した初期抵抗値を、以下の基準で評価した。
A:初期抵抗値が4Ω未満
B:初期抵抗値が4Ω以上6Ω未満
C:初期抵抗値が6Ω以上
【0085】
(実施例1)
<重合体の調製>
[重合体中間体の準備]
反応器に、イオン交換水180部、濃度10質量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(乳化重合用乳化剤)水溶液25部、ニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル60部、芳香族ビニル単量体としてのスチレン20部、親水性基含有単量体としてのメタクリル酸5部、及び、分子量調整剤としてのメルカプタン化合物である、t-ドデシルメルカプタンを含む、メルカプト基を有する化合物の混合物(以下、実施例及び比較例にて、「t-ドデシルメルカプタン」と略記する。)0.6部の順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン15部を仕込んだ。そして、反応器を10℃ に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部、硫酸第一鉄0.1部を仕込み、攪拌しながら重合反応を継続し、重合転化率が85%になった時点で、濃度10質量%のハイドロキノン水溶液(重合停止剤)0.1部を加えて重合反応を停止した。次いで、水温80℃で残留単量体を除去し、重合体の前駆体(粒子状重合体)の水分散液、即ちニトリルゴムのラテックスを得た。そして、得られたラテックスの一部を、ニトリルゴム分に対して12質量%となる量の硫酸マグネシウムの水溶液に加え、攪拌してラテックスを凝固した。その後、水で洗浄しつつ濾別し、得られた凝固物を温度60℃で12時間真空乾燥して、目的の重合体の中間体(重合体中間体)である、ニトリルゴムを得た。
[重合体中間体の複分解]
次に、得られたニトリルゴム9部をモノクロロベンゼン141部に溶解し、反応器に投入した。そして、反応器を温度80℃まで加熱した後、Grubbs触媒として二塩化ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムを含むモノクロロベンゼン溶液2Lを重合体100部に対するGrubbs触媒の量が0.25部となるように加えた。そして、コオレフィンとしてのエチレンで反応器内を3.5MPaに加圧し、攪拌速度600rpmでニトリルゴムの複分解反応を行った。反応中は、温度制御装置及び熱センサーに接続した冷却コイルを用いて温度を一定に維持した。
[複分解済重合体中間体の水素化]
その後、攪拌を継続しつつ反応器内を0.7MPaのH2で3回脱気した。そして、反応器の温度を130℃に上げ、Wilkinson触媒及びトリフェニルホスフィンを含有するモノクロロベンゼン溶液1Lを反応器に加えた。なお、複分解済重合体中間体100部に対するWilkinson触媒の量は0.075部とし、トリフェニルホスフィンの量は1部とした。そして、温度を138℃に上げ、水素圧8.4MPaの条件下で6時間重合体の水素化反応を行い、水添重合体である、目的の重合体を得た。反応終了後、反応器に、平均直径15μmの活性炭を0.2部加え、30分間攪拌した。その後、孔径5μmのフィルターでろ過してろ過溶液を得た。そして、ろ過溶液に水蒸気を導入し、水蒸気蒸留によりモノクロロベンゼンを回収除去し、沈殿物として生じた目的物としての重合体(水添重合体)を分離・乾燥して回収した。そして、水添重合体中の残留メルカプタン量、並びに水添重合体のヨウ素価、NMPに対する不溶解分率、及び重量平均分子量を測定した。結果を表1に示す。
【0086】
<正極用バインダー組成物の調製>
上記に従って得られた水添重合体を64部採取し、溶媒としてN-メチルピロリドン(NMP)800部を加え、温度80℃で加温溶解して、水添重合体を結着材として含む正極用バインダー組成物(NMP溶液)を得た。
【0087】
<正極用導電材ペーストの調製>
導電材としてのカーボンナノチューブ(比表面積:150m2/g)3.0部と、上記バインダー組成物0.6部(固形分換算量)と、NMP96.4部とを、ディスパーを用いて攪拌し(3000rpm、10分)、その後、直径1mmのジルコニアビーズを用いたビーズミルを使用し、周速8m/sにて1時間混合することにより、固形分濃度が3.6質量%の導電材ペーストを製造した。そして、得られた導電材ペーストについて、上記に従って導電材ペーストにおける導電材の分散性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0088】
<正極用スラリー組成物の調製>
上述のようにして得た正極用導電材ペーストを重合体固形分換算で0.04部と、正極活物質としての層状構造を有する三元系活物質(Li(Ni0.5Co0.2Mn0.3)O2、平均粒子径:10μm)100部と、第二の重合体としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)0.96部(固形分換算量)と、有機溶媒としてのNMPとを添加し、プラネタリーミキサーにて攪拌して(60rpm、30分)正極用スラリー組成物を調製した。なお、NMPの添加量は、得られる正極用スラリー組成物の粘度(JIS Z8803:1991に準じて単一円筒形回転粘度計により測定。温度:25℃、回転数:60rpm)が4000~5000mPa・sの範囲内となるように調整した。
【0089】
<正極の作製>
集電体として、厚さ20μmのアルミ箔を準備した。上記正極用スラリー組成物を、コンマコーターでアルミ箔上に乾燥後の目付量が20mg/cm2になるように1m/minで塗布し、温度90℃で20分間、温度120℃で20分間乾燥後、温度60℃で10時間加熱処理して正極原反を得た。なお、この際、上記した方法に従って、スラリー組成物の塗工性を評価した。得られた正極原反をロールプレスで圧延し、密度が3.2g/cm3の正極合材層と、アルミ箔とからなるシート状正極を作製した。なお、シート状正極の厚みは70μmであった。このシート状正極を幅4.8cm、長さ50cmに切断して、リチウムイオン二次電池用正極とした。
【0090】
<負極の作製>
負極活物質としての球状人造黒鉛(体積平均粒子径:12μm)90部とSiOX(体積平均粒子径:10μm)10部との混合物と、結着材としてのスチレンブタジエン重合体1部と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース1部と、分散媒としての適量の水とをプラネタリーミキサーにて攪拌し、負極用スラリー組成物を調製した。
次に、集電体として、厚さ15μmの銅箔を準備した。上記負極用スラリー組成物を銅箔の両面に乾燥後の塗布量がそれぞれ10mg/cm2になるように塗布し、温度60℃で20分間、温度120℃で20分間乾燥した。その後、温度150℃で2時間加熱処理して、負極原反を得た。この負極原反をロールプレスで圧延し、密度が1.8g/cm3の負極合材層(両面)と、銅箔とからなるシート状負極を作製した。そして、シート状負極を幅5.0cm、長さ52cmに切断して、リチウムイオン二次電池用負極とした。
【0091】
<セパレータの準備>
単層のポリプロピレン製セパレータ(セルガード社製、製品名「セルガード2500」)を、120cm×5.5cmに切り抜いた。
【0092】
<リチウムイオン二次電池の製造>
上記正極と上記負極とを、上記セパレータを介在させて直径20mmの芯を用いて捲回し、捲回体を得た。そして、得られた捲回体を、10mm/秒の速度で厚さ4.5mmになるまで一方向から圧縮した。なお、圧縮後の捲回体は平面視楕円形をしており、その長径と短径との比(長径/短径)は7.7であった。
また、電解液(組成:濃度1.0MのLiPF6溶液(溶媒は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=3/7(質量比)の混合溶媒にフルオロエチレンカーボネート5質量%を添加した混合溶液であり、添加剤としてビニレンカーボネート2体積%を添加))を準備した。
その後、圧縮した捲回体をアルミ製ラミネートケース内に3.2gの非水電解液とともに収容した。そして、負極の所定の箇所にニッケルリード線を接続し、正極の所定の箇所にアルミニウムリード線を接続したのち、ケースの開口部を熱で封口し、リチウムイオン二次電池を得た。このリチウムイオン二次電池は、幅35mm、高さ48mm、厚さ5mmのパウチ形であり、電池の公称容量は700mAhであった。得られたリチウムイオン二次電池について、上記に従って、二次電池の初期抵抗を評価した。結果を表1に示す。
【0093】
(実施例2)
重合体の調製時に、各種単量体及びメルカプタン化合物の配合量を、それぞれ、アクリロニトリル55部、スチレン5部、t-ドデシルメルカプタン0.3部、1,3-ブタジエン35部に変更した以外は実施例1と同様にして、水添重合体、正極用導電材ペースト、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、二次電池用正極、二次電池用負極及び二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0094】
(実施例3)
重合体の調製時に、各種単量体及びメルカプタン化合物の配合量を、それぞれ、アクリロニトリル15部、スチレン45部、t-ドデシルメルカプタン0.8部、1,3-ブタジエン35部に変更した以外は実施例1と同様にして、水添重合体、正極用導電材ペースト、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、二次電池用正極、二次電池用負極及び二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0095】
(実施例4)
重合体の調製時に、各種単量体の配合量を、それぞれ、アクリロニトリル45部、スチレン40部、メタクリル酸0部(無添加)、1,3-ブタジエン15部に変更した以外は実施例1と同様にして、水添重合体、正極用導電材ペースト、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、二次電池用正極、二次電池用負極及び二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして各種測定及び評価を行った。結果を表1 に示す。
【0096】
(実施例5)
重合体の調製時に、重合体中間体の複分解を行わなかった。具体的には、実施例1で得られた重合体9部をモノクロロベンゼン141部に溶解し、反応器に投入した。重合体の複分解をせずに、実施例1における、[複分解済重合体中間体の水素化]の際の操作と同様の操作を行って、重合体中間体の水素化をして水添重合体を得た。得られた水添重合体を用いて、正極用導電材ペースト、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、二次電池用正極、二次電池用負極及び二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして各種測定及び評価を行った。結果を表1 に示す。
【0097】
(比較例1)
重合体の調製時に、重合体中間体の複分解を行わなかった。また、重合中間体を準備する際に、分子量調整剤としてのメルカプタン化合物である、t-ドデシルメルカプタンの配合量を2部とした。これらの点以外は、実施例1と同様にして重合体中間体を得た。得られた重合体中間体9部をモノクロロベンゼン141部に溶解し、反応器に投入した。重合体の複分解をせずに、実施例1における、[複分解済重合体中間体の水素化]の際の操作と同様の操作を行って、重合体中間体の水素化をして水添重合体を得た。得られた水添重合体を用いて、正極用導電材ペースト、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、二次電池用正極、二次電池用負極及び二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0098】
(比較例2)
重合体の調製時に分子量調整剤をα-メチルスチレンダイマーに変更した以外は実施例1と同様にして、水添重合体、正極用導電材ペースト、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、二次電池用正極、二次電池用負極及び二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0099】
(比較例3)
重合体の調製時に、スチレンを添加せず、且つ、各種単量体の配合量を、それぞれ、アクリロニトリル40部、1,3-ブタジエン55部に変更し、さらに、メルカプタン化合物の配合量を0.5部に変更した以外は実施例1と同様にして、水添重合体、正極用導電材ペースト、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、二次電池用正極、二次電池用負極及び二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0100】
表1中、
「AN」はアクリロニトリル単位を、
「ST」はスチレン単位を、
「H-BD」は1,3-ブタジエン水素化物単位である、一般式:-C24-で表される構造単位を、
「BD」はH-BD以外の1,3-ブタジエン単量体に由来する単位を、
「TDM」は、t-ドデシルメルカプタンを含む、メルカプト基を有する化合物の混合物を、
「αMSD」は、α-メチルスチレンダイマーを、
「NCM」はLi(Ni0.5Co0.2Mn0.3)O2を、
「PVdF」は、ポリフッ化ビニリデンを、
「N.D」は、検出限界以下(Not Detected)を、それぞれ示す。
【0101】
【表1】
【0102】
表1より、実施例1~5のバインダー組成物によれば、導電材の分散性及び高温下での分散安定性が充分に高い導電材ペーストを調製可能であり、更に、二次電池を形成した場合に内部抵抗を低減せしめる電極を作成し得たことが分かる。
一方、重合体に含まれる残留メルカプタン量が所定の範囲外である比較例1~2、及び芳香族ビニル単量体単位を含有しない重合体を用いた比較例3では、実施例1~5にて達成された良好な諸属性を得ることができなかったことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明によれば、導電材の分散性及び高温下での分散安定性が充分に高い導電材ペーストを調製可能である、二次電池電極用バインダー組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、導電材の分散性及び高温下での分散安定性が充分に高く、更に、二次電池を形成した場合に内部抵抗を低減せしめる電極を作成し得る、二次電池電極用導電材ペースト組成物を提供することができる。
さらにまた、本発明によれば、二次電池を形成した場合に得られる二次電池の内部抵抗を低減せしめる電極を作成し得る、二次電池電極用スラリー組成物を提供することができる。
そして、本発明によれば、二次電池を形成した場合に得られる二次電池の内部抵抗を低減せしめる電極及びかかる電極を備える二次電池を提供することができる。