(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】ケーブル,断線検知システムおよび断線検知方法
(51)【国際特許分類】
H01B 7/32 20060101AFI20240925BHJP
H02G 1/06 20060101ALN20240925BHJP
【FI】
H01B7/32 Z
H02G1/06
(21)【出願番号】P 2021053372
(22)【出願日】2021-03-26
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深作 泉
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-095273(JP,A)
【文献】特開2011-018545(JP,A)
【文献】特開2021-048122(JP,A)
【文献】特開2004-087436(JP,A)
【文献】特開2008-218274(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/32
H02G 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断線検知機能を有するケーブルであって、
撚られた複数の素線によって形成され、断線検知の対象となるターゲット導体と、
撚られた複数の素線によって形成され、前記ターゲット導体の比較対象となるリファレンス導体と、
前記ターゲット導体および前記リファレンス導体の周囲に介在を介して設けられるシースと、を備え、
前記リファレンス導体を形成する前記素線は、前記ターゲット導体を形成する前記素線と同一の素材により形成されている一方、前記ターゲット導体を形成する前記素線に比べて、屈曲に対して断線し難
く、
前記リファレンス導体の前記素線の直径寸法が前記ターゲット導体の前記素線の直径寸法よりも小さく、かつ前記リファレンス導体の前記素線の撚りピッチが前記ターゲット導体の前記素線の撚りピッチよりも小さい、
ケーブル。
【請求項2】
請求項1に記載のケーブルにおいて、
前記リファレンス導体
を形成する前記複数の素線の周囲は、樹脂材料からなる絶縁被膜で覆われている、
ケーブル。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のケーブルにおいて、
前記リファレンス導体の外径寸法よりも大きな内径寸法を有する中空チューブを備え、
前記リファレンス導体が前記中空チューブの内部に収容されている、
ケーブル。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のケーブルにおいて、
前記リファレンス導体の周囲に複数の前記ターゲット導体が設けられている、
ケーブル。
【請求項5】
ケーブルの断線を検知する断線検知システムであって、
前記ケーブルは、撚られた複数の素線によって形成され、断線検知の対象となるターゲット導体と、撚られた複数の素線によって形成され、前記ターゲット導体の比較対象となるリファレンス導体と、前記ターゲット導体および前記リファレンス導体の周囲に介在を介して設けられるシースと、を備え、前記リファレンス導体を形成する前記素線は、前記ターゲット導体を形成する前記素線と同一の素材により形成されている一方、前記ターゲット導体を形成する前記素線に比べて、屈曲に対して断線し難いものであり、
一方向および他方向に揺動して、前記ケーブルを一方向および他方向に屈曲させる揺動機構と、
前記ターゲット導体および前記リファレンス導体に電気的に接続されるコントローラと、
前記コントローラに設けられ、前記ターゲット導体の抵抗値および前記リファレンス導体の抵抗値をそれぞれ測定する抵抗値測定部と、
前記抵抗値測定部の測定結果に基づいて、前記ターゲット導体および前記リファレンス導体の相対抵抗値を算出し、当該相対抵抗値の変化から前記ターゲット導体の断線を判定する断線判定部と、
を備える、
断線検知システム。
【請求項6】
請求項5に記載の断線検知システムにおいて、
前記断線判定部には、前記相対抵抗値の比較対象となる閾値が格納されており、算出した前記相対抵抗値が前記閾値以上になると、前記断線判定部は前記ターゲット導体が断線したと判定する、
断線検知システム。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の断線検知システムにおいて、
前記断線判定部は、算出した前記相対抵抗値の時系列データを、移動平均を用いて平滑化する処理を実行する、
断線検知システム。
【請求項8】
請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の断線検知システムにおいて、
前記揺動機構が、産業用ロボットを形成する第1腕部と第2腕部との間に設けられる関節機構であり、
前記コントローラが、前記産業用ロボットを統括的に制御するロボット用コントローラである、
断線検知システム。
【請求項9】
ケーブルの断線を検知する断線検知方法であって、
前記ケーブルは、撚られた複数の素線によって形成され、断線検知の対象となるターゲット導体と、撚られた複数の素線によって形成され、前記ターゲット導体の比較対象となるリファレンス導体と、前記ターゲット導体および前記リファレンス導体の周囲に介在を介して設けられるシースと、を備え、前記リファレンス導体を形成する前記素線は、前記ターゲット導体を形成する前記素線と同一の素材により形成されている一方、前記ターゲット導体を形成する前記素線に比べて、屈曲に対して断線し難いものであり、
揺動機構を一方向および他方向に揺動させ、前記ケーブルを一方向および他方向に屈曲させる第1ステップと、
前記第1ステップの動作により時系列的に変化する前記ターゲット導体および前記リファレンス導体の抵抗値をそれぞれ測定する第2ステップと、
前記第2ステップで得た前記ターゲット導体および前記リファレンス導体のそれぞれの前記抵抗値から相対抵抗値を算出するとともに、当該相対抵抗値と予め定められた閾値とを比較して、前記相対抵抗値が前記閾値以上になると、前記ターゲット導体が断線したと判定する第3ステップと、
を備える、
断線検知方法。
【請求項10】
請求項9に記載の断線検知方法において、
前記第3ステップで前記ターゲット導体が断線したと判定するまで、前記第2ステップを繰り返し実行する、
断線検知方法。
【請求項11】
請求項9または請求項10に記載の断線検知方法において、
前記揺動機構が、産業用ロボットを形成する第1腕部と第2腕部との間に設けられる関節機構であり、
前記産業用ロボットを統括的に制御するロボット用コントローラが、前記第1ステップないし第3ステップの処理を実行する、
断線検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断線検知機能を有するケーブル,断線検知システムおよび断線検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種ケーブルの1つとして、断線検知機能を有するケーブルが知られている。断線検知機能を有するケーブルは、屈曲動作を繰り返す可動部等で用いられることが多い。例えば、断線検知機能を有するケーブルは、産業用ロボットの腕部の関節部分(屈曲部分)等に設けられ、当該ケーブル内の素線の断線が発生し始めたことの検知を可能とする。この結果、ケーブル内の素線の断線に起因する産業用ロボットの動作不良や、動作不良に伴う不具合の発生が予防される。このような、断線検知機能を有するケーブルの一例が、特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1に記載された断線検知機能付ケーブルは、複数の素線を撚り合わせた導体を有する検知線と、複数の素線を撚り合わせた導体を有する被検知線と、を備えている。そして、検知線は、被検知線よりも早く断線するように設定されている。したがって、検知線の抵抗値を測定し、その変化を見ることで被検知線の断線を予測することができる。具体的には、抵抗値に増加傾向が見られる場合、検知線が断線しており、近いうちに被検知線も断線するであろうと予測できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1に記載された技術では、検知線の抵抗値の増加傾向を把握することで、被検知線の断線を予測している。しかしながら、検知線の断線に伴う抵抗値の増加は僅かであり、断線の初期段階において断線の有無を正確に判断することは困難であった。例えば、検知線を形成する素線の「50%以上」が断線しないと断線の判断ができなかった。また、抵抗値は環境温度の変化によっても大きく変化するため、この環境温度の変化が、断線の誤検知を招くノイズとなっていた。例えば、25℃の環境温度から「1℃」上昇するだけで、抵抗値が「0.4%~0.7%」も上昇してしまう。
【0006】
本発明の目的は、環境温度の変化に関わらず、断線の初期段階においても断線を正確に検知可能なケーブル,断線検知システムおよび断線検知方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のケーブルでは、断線検知機能を有するケーブルであって、撚られた複数の素線によって形成され、断線検知の対象となるターゲット導体と、撚られた複数の素線によって形成され、前記ターゲット導体の比較対象となるリファレンス導体と、前記ターゲット導体および前記リファレンス導体の周囲に介在を介して設けられるシースと、を備え、前記リファレンス導体を形成する前記素線は、前記ターゲット導体を形成する前記素線と同一の素材により形成されている一方、前記ターゲット導体を形成する前記素線に比べて、屈曲に対して断線し難い。
【0008】
本発明の他の態様では、前記リファレンス導体の前記素線の直径寸法が前記ターゲット導体の前記素線の直径寸法よりも小さく、かつ前記リファレンス導体の前記素線の撚りピッチが前記ターゲット導体の前記素線の撚りピッチよりも小さい。
【0009】
本発明の他の態様では、前記リファレンス導体の外径寸法よりも大きな内径寸法を有する中空チューブを備え、前記リファレンス導体が前記中空チューブの内部に収容されている。
【0010】
本発明の他の態様では、前記リファレンス導体の周囲に複数の前記ターゲット導体が設けられている。
【0011】
本発明の断線検知システムでは、ケーブルの断線を検知する断線検知システムであって、前記ケーブルは、撚られた複数の素線によって形成され、断線検知の対象となるターゲット導体と、撚られた複数の素線によって形成され、前記ターゲット導体の比較対象となるリファレンス導体と、前記ターゲット導体および前記リファレンス導体の周囲に介在を介して設けられるシースと、を備え、前記リファレンス導体を形成する前記素線は、前記ターゲット導体を形成する前記素線と同一の素材により形成されている一方、前記ターゲット導体を形成する前記素線に比べて、屈曲に対して断線し難いものであり、一方向および他方向に揺動して、前記ケーブルを一方向および他方向に屈曲させる揺動機構と、前記ターゲット導体および前記リファレンス導体に電気的に接続されるコントローラと、前記コントローラに設けられ、前記ターゲット導体の抵抗値および前記リファレンス導体の抵抗値をそれぞれ測定する抵抗値測定部と、前記抵抗値測定部の測定結果に基づいて、前記ターゲット導体および前記リファレンス導体の相対抵抗値を算出し、当該相対抵抗値の変化から前記ターゲット導体の断線を判定する断線判定部と、を備える。
【0012】
本発明の他の態様では、前記断線判定部には、前記相対抵抗値の比較対象となる閾値が格納されており、算出した前記相対抵抗値が前記閾値以上になると、前記断線判定部は前記ターゲット導体が断線したと判定する。
【0013】
本発明の他の態様では、前記断線判定部は、算出した前記相対抵抗値の時系列データを、移動平均を用いて平滑化する処理を実行する。
【0014】
本発明の他の態様では、前記揺動機構が、産業用ロボットを形成する第1腕部と第2腕部との間に設けられる関節機構であり、前記コントローラが、前記産業用ロボットを統括的に制御するロボット用コントローラである。
【0015】
本発明の断線検知方法では、前記ケーブルは、撚られた複数の素線によって形成され、断線検知の対象となるターゲット導体と、撚られた複数の素線によって形成され、前記ターゲット導体の比較対象となるリファレンス導体と、前記ターゲット導体および前記リファレンス導体の周囲に介在を介して設けられるシースと、を備え、前記リファレンス導体を形成する前記素線は、前記ターゲット導体を形成する前記素線と同一の素材により形成されている一方、前記ターゲット導体を形成する前記素線に比べて、屈曲に対して断線し難いものであり、揺動機構を一方向および他方向に揺動させ、前記ケーブルを一方向および他方向に屈曲させる第1ステップと、前記第1ステップの動作により時系列的に変化する前記ターゲット導体および前記リファレンス導体の抵抗値をそれぞれ測定する第2ステップと、前記第2ステップで得た前記ターゲット導体および前記リファレンス導体のそれぞれの前記抵抗値から相対抵抗値を算出するとともに、当該相対抵抗値と予め定められた閾値とを比較して、前記相対抵抗値が前記閾値以上になると、前記ターゲット導体が断線したと判定する第3ステップと、を備える。
【0016】
本発明の他の態様では、前記第3ステップで前記ターゲット導体が断線したと判定するまで、前記第2ステップを繰り返し実行する。
【0017】
本発明の他の態様では、前記揺動機構が、産業用ロボットを形成する第1腕部と第2腕部との間に設けられる関節機構であり、前記産業用ロボットを統括的に制御するロボット用コントローラが、前記第1ステップないし第3ステップの処理を実行する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、環境温度の変化に関わらず、断線の初期段階においても断線を正確に検知することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】(a)はケーブルの構造を説明する断面図、(b)はケーブルの仕様を示す表である。
【
図3】
図2のコントローラの具体例を説明する図である。
【
図5】断線検知システムの動作を説明するフローチャートである。
【
図6】ターゲット導体の抵抗値およびリファレンス導体の抵抗値の変化を示すグラフである。
【
図7】
図6のそれぞれの抵抗値の比(相対抵抗値)の変化を示すグラフである。
【
図8】
図7の相対抵抗値の変化を、移動平均を用いて平滑化(変化を明瞭化)したグラフである。
【
図9】本発明に係るケーブル,断線検知システムおよび断線検知方法を適用した産業用ロボットの概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0021】
図1(a)はケーブルの構造を説明する断面図、(b)はケーブルの仕様を示す表を、
図2は断線検知システムの概要を示す図を、
図3は
図2のコントローラの具体例を説明する図を、
図4は
図2の揺動部材の動作を説明する図を、
図5は断線検知システムの動作を説明するフローチャートを、
図6はターゲット導体の抵抗値およびリファレンス導体の抵抗値の変化を示すグラフを、
図7は
図6のそれぞれの抵抗値の比(相対抵抗値)の変化を示すグラフを、
図8は
図7の相対抵抗値の変化を、移動平均を用いて平滑化(変化を明瞭化)したグラフを、
図9は本発明に係るケーブル,断線検知システムおよび断線検知方法を適用した産業用ロボットの概要図をそれぞれ示している。
【0022】
図1(a),(b)に示されるケーブル10は、断線検知機能を備えたケーブルであり、例えば、
図9に示される産業用ロボット100において、特に大きく屈曲される第1腕部110と第2腕部120との間の関節機構130の近傍に配置される。具体的には、ケーブル10は、関節機構130を揺動させるサーボモータSMや、第2腕部120の先端部分に設けられた把持機構140を作動させるリニアアクチュエータLA等を駆動するための駆動電流や制御信号等を流す。ここで、
図2ないし
図4および
図9では、ケーブル10を分かり易くするために、当該ケーブル10に網掛けを施している。
【0023】
図1(a)に示されるように、断線検知機能付きのケーブル10は、合計4本のターゲット(Target)導体20と、1本のリファレンス(Reference)導体30と、中空チューブ40と、介在50と、シース60と、を備えている。ここで、介在50は、シース60の内部に詰め込まれ、ターゲット導体20およびリファレンス導体30(中空チューブ40)の周囲に設けられている。これにより、ターゲット導体20およびリファレンス導体30(中空チューブ40)の配置を安定させたり、ケーブル10の強度を高めたりしている。
【0024】
すなわち、ケーブル10は、ターゲット導体20およびリファレンス導体30の周囲に介在50を介してシース60を有する構造を採用する。ここで、介在50は、紐状となった紙や綿花を原料とする綿糸等により形成され、シース60は、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)等のゴム材料により形成されている。
【0025】
合計4本のターゲット導体20は、駆動電流や制御信号等を流すメインの導体であり、断線を評価したい断線検知の対象となっている。
【0026】
ターゲット導体20は、
図1(a),(b)に示されるように、線径(直径寸法)が0.08mmの合計19本の撚られた素線21を備えている。合計19本の素線21は、銅合金やアルミ材料により形成され、所定の撚りピッチで撚ってある。なお、素線21の撚りピッチは、後述するリファレンス導体30を形成する素線31の撚りピッチよりも大きくなっている。このように、複数の素線21を所定のピッチで撚ることで、ターゲット導体20を大きく屈曲させた際の素線21に掛かる負荷を軽減(断線を抑制)している。
【0027】
ここで、撚りピッチとは、一の素線が任意の位置A(図示せず)から導体の外周に沿って螺旋状に導体を一周し、位置Aと同じ方向の位置B(図示せず)に戻ってくるとき、位置Aから位置Bに至る導体の長手方向に沿った長さのことである。
【0028】
また、ターゲット導体20を形成する素線21の周囲は、ETFE(エチレンテトラフルオロエチレン)等の樹脂材料からなる絶縁被膜22で覆われている。絶縁被膜22は、その内部に設けられる素線21を保護し、かつ絶縁する機能を有する。そして、合計4本のターゲット導体20は、リファレンス導体30(中空チューブ40)の周囲に、略等間隔(略90度間隔)で配置されている。
【0029】
また、1本のリファレンス導体30は、ターゲット導体20の比較対象(抵抗値を比較する比較対象)となるサブの導体であり、ケーブル10の中心部分に配置されている。リファレンス導体30には、駆動電流や制御信号等は流れず、ターゲット導体20の断線検知の際に、断線検知用の検査信号(直流信号)が流れる。
【0030】
リファレンス導体30は、
図1(a),(b)に示されるように、素線21よりも小径で線径(直径寸法)が0.05mmの合計7本の撚られた素線31を備えている。合計7本の素線31は、ターゲット導体20の素線21と同一の素材からなり、銅合金やアルミ材料により形成され、かつ所定の撚りピッチで撚ってある。なお、素線31の撚りピッチは、ターゲット導体20の素線21の撚りピッチよりも小さくなっている。
【0031】
このように、リファレンス導体30を形成する複数の素線31の撚りピッチを、ターゲット導体20を形成する複数の素線21の撚りピッチよりも小さくすることで、リファレンス導体30の大きな屈曲に対する耐久性(耐屈曲性)を高めている。つまり、撚りピッチが小さい方が、大きな屈曲に対して、素線1本1本の長手方向に掛かる負荷を低減(断線を抑制)することが可能となっている。
【0032】
このように、リファレンス導体30の大きな屈曲に対する耐久性(耐屈曲性)を高める理由は、リファレンス導体30を抵抗値の比較対象として、ターゲット導体20の断線による抵抗値上昇の検知を精度良く行うためである。仮に、リファレンス導体30を形成する素線31の一部が断線すると、当該リファレンス導体30の抵抗値(比較対象となる抵抗値)は大きく変動してしまい、よって、ターゲット導体20の断線検知が正確に行えなくなる。したがって、リファレンス導体30は、ケーブル10の通常使用の範囲内において、断線してはならないものとなっている。言い換えれば、ケーブル10の屈曲に対して、リファレンス導体30の素線31はターゲット導体20の素線21に比べて断線し難くなっている。
【0033】
また、リファレンス導体30を形成する素線31の周囲は、ETFE等の樹脂材料からなる絶縁被膜32で覆われている。絶縁被膜32は、その内部に設けられる素線31を保護し、かつ絶縁する機能を有する。そして、リファレンス導体30は、合計4本のターゲット導体20に囲まれて、これらの中心部分に配置されている。これにより、ケーブル10の大きな屈曲に対して、リファレンス導体30に掛かる負荷を、ターゲット導体20に掛かる負荷よりも低減(断線を抑制)することが可能となっている。
【0034】
さらには、リファレンス導体30は、中空チューブ40の内部に所定の隙間Sを介して収容されている。具体的には、中空チューブ40は、リファレンス導体30の外径寸法よりも大きな内径寸法を有している。これにより、リファレンス導体30は、中空チューブ40の内部において、ケーブル10の径方向に移動自在となっている。
【0035】
中空チューブ40は、ETFE等の樹脂材料により形成され、当該中空チューブ40の内部では、ETFE等の樹脂材料からなる絶縁被膜32を備えたリファレンス導体30が、滑り良く移動自在となっている。このように、中空チューブ40の内部に所定の隙間Sを介してリファレンス導体30を収容し、かつ中空チューブ40および絶縁被膜32を、互いに滑りの良い同一のETFE製とすることで、ケーブル10の大きな屈曲に対して、リファレンス導体30に掛かる負荷を低減(断線を抑制)することを可能としている。
【0036】
より具体的には、所定の隙間Sを設けることで、例えば、ケーブル10を半径r1(図示せず)の円弧状に屈曲させた場合に、リファレンス導体30は半径r1よりも大きい半径r2(図示せず)の円弧状に屈曲される(r1<r2)。さらに、例えば、ケーブル10の長手方向における複数箇所であらゆる方向に屈曲されたとしても、リファレンス導体30は中空チューブ40の内部で滑り良く移動可能なため、リファレンス導体30の長手方向全域に応力を分散させる(応力集中を回避)することが可能となっている。
【0037】
上述のように形成されたケーブル10は、
図2ないし
図4に示される断線検知システム70を用いることで、ターゲット導体20(
図1(a)参照)の断線状態を検知可能となっている。以下、断線検知システム70について、図面を用いて詳細に説明する。
【0038】
断線検知システム70は、地面(図示せず)に対して垂直に設置されたベース部材71を備えている。ベース部材71の略中央部には、電動モータ72が取り付けられており、当該電動モータ72の回転軸72aは、地面に対して平行となる方向に延びている。そして、回転軸72aの先端部分には、略円板状に形成された揺動部材73の揺動中心が固定されている。これにより、回転軸72aを揺動駆動することで、
図2中矢印F方向(一方向)および矢印R方向(他方向)に、揺動部材73が揺動される。ここで、揺動部材73が本発明における揺動機構に相当する。
【0039】
揺動部材73には、略円柱形状に形成された一対の曲げ部材73aが固定されている。これらの曲げ部材73aは、揺動部材73の表面から回転軸72aの軸方向に所定高さで突出されており、一対の曲げ部材73aの間には、ケーブル10が略隙間無く入り込むようになっている。これにより、一対の曲げ部材73aは、揺動部材73の揺動駆動に伴い回転軸72aを中心にそれぞれ揺動し、それぞれの曲げ部材73aの周囲に、検査対象となるケーブル10が巻き掛けられる。よって、ケーブル10は、矢印F方向および矢印R方向に屈曲される。なお、ケーブル10の屈曲具合は、一対の曲げ部材73aの半径r(例えば、10mm)により決まる。つまり、本実施の形態では、ケーブル10は、半径rの円弧状に屈曲される。
【0040】
揺動部材73の径方向外側には、ケーブル10の先端側が固定されるケーブル固定部73bが一体に設けられている。ケーブル固定部73bは、断線検知システム70が
図2に示される基準状態(ニュートラルの状態)において、ケーブル10を、一対の曲げ部材73aの間に入り込んだ状態で、かつ地面に対して垂直となるように真っ直ぐに保持している。
【0041】
また、ベース部材71の地面寄りの部分(
図2の下方)には、ケーブル10を移動自在に支持する支持部材71aが一体に設けられている。支持部材71aは、断線検知システム70の基準状態において、真っ直ぐになったケーブル10の基端側に配置されている。このように、支持部材71aを設けることで、ケーブル10の基端側に引っ掛けられる重錘74(例えば、50g)が、揺動部材73の揺動時において、例えば、図中左右方向に大きく揺れ動くことが防止される。つまり、重錘74は、ケーブル10を一対の曲げ部材73aの周囲に沿わせて半径rで精度良く屈曲させるための機能を有する。
【0042】
また、断線検知システム70は、コントローラ75を備えている。コントローラ75は、電動モータ72の回転方向および回転速度を制御するとともに、検査対象となるケーブル10のターゲット導体20およびリファレンス導体30のそれぞれに電気的に接続される。コントローラ75は、ターゲット導体20の抵抗値R1およびリファレンス導体30の抵抗値R2(
図6参照)を、断線検知システム70の作動中にそれぞれ個別に継続して測定する。そして、測定したそれぞれの抵抗値R1,R2を解析して、その解析結果からターゲット導体20の断線を判定する。
【0043】
具体的には、コントローラ75は、抵抗測定部(抵抗値測定部)76および判定部(断線判定部)77を備えている。抵抗測定部76は、ターゲット導体20の抵抗値R1およびリファレンス導体30の抵抗値R2を、それぞれ個別に測定する部分であり、詳しくは
図3に示されるような構造を採用する。なお、
図2および
図3では、抵抗測定部76を1つのみ示しているが、ターゲット導体20およびリファレンス導体30のそれぞれに対応して2つ設けられる。抵抗測定部76は、直流信号源76a(例えば、直流定電圧源)と、入力抵抗76bと、抵抗値検出器76cと、を備えている。
【0044】
直流信号源76aは、入力抵抗76bを介してターゲット導体20およびリファレンス導体30に個別に直流信号を印可する。そして、抵抗値検出器76cでは、ターゲット導体20およびリファレンス導体30から出力された信号(例えば、電圧信号)を所定のゲインで増幅して、これにより、ターゲット導体20の抵抗値R1およびリファレンス導体30の抵抗値R2の時系列的な変化をそれぞれ測定する(
図6参照)。抵抗測定部76における抵抗値R1,R2の測定は、断線検知システム70の作動中(揺動部材73の揺動中)において継続して行われる。
【0045】
抵抗測定部76において測定したターゲット導体20の抵抗値R1およびリファレンス導体30の抵抗値R2は、それぞれ判定部77に出力される。判定部77では、入力されたそれぞれの抵抗値R1,R2(測定結果)に基づいて、ターゲット導体20およびリファレンス導体30の相対抵抗値(R1/R2)を算出する(
図7参照)。つまり、判定部77は、それぞれの抵抗値R1,R2の比を算出する。
【0046】
また、判定部77は、算出された相対抵抗値の時系列データを、移動平均を用いて平滑化する処理を実行する(
図8参照)。ここで、相対抵抗値を平滑化することで、外来ノイズ等に起因する相対抵抗値のノイズを抑制し、当該相対抵抗値の変化が明瞭化される。これにより、相対抵抗値の比較対象となる閾値Thとの比較処理を正確に行うことが可能となる。そして、判定部77には、予め閾値Thが格納されており、平滑化された相対抵抗値と閾値Thとを比較する処理を実行する。
【0047】
判定部77は、平滑化された相対抵抗値と閾値Thとの比較結果に応じて、ターゲット導体20が断線しているか否かを判定する。すなわち、判定部77は、ターゲット導体20およびリファレンス導体30の相対抵抗値(R1/R2)の変化から、ケーブル10のターゲット導体20が断線したか否かを判定する。なお、判定部77は、PCやマイコン等(図示せず)により構築されている。
【0048】
また、コントローラ75は、
図4に示されるように、電動モータ72の回転方向および回転速度を制御して、揺動部材73を矢印F方向(一方向)に90度(+90度)揺動させ、かつ揺動部材73を矢印R方向(他方向)に90度(-90度)揺動させる。
【0049】
具体的には、断線検知システム70が基準状態(
図2参照)から、揺動部材73が矢印F方向に90度揺動されると、ケーブル10は一方の曲げ部材73a(
図2の右側)の一部に巻き掛けられる。よって、
図4の左側に示されるように、ケーブル10は一方向に屈曲されて、半径rの円弧状となる。これに対し、揺動部材73が矢印R方向に90度揺動されると、ケーブル10は他方の曲げ部材73a(
図2の左側)の一部に巻き掛けられる。よって、
図4の右側に示されるように、ケーブル10は他方向に屈曲されて、半径rの円弧状となる。
【0050】
そして、コントローラ75は、上述のような揺動部材73の一方向への揺動および他方向への揺動からなる「一往復」を、約2.0秒かけて行う。すなわち、揺動部材73の揺動周期(一周期)は、約2.0秒となっている。ただし、検査対象となるケーブル10の仕様によっては、一方向および他方向に90度未満または90度よりも大きく屈曲させても良いし、揺動部材73の揺動速度を速くしたり遅くしたり任意に変更することもできる。
【0051】
次に、断線検知システム70を用いた断線検知の手順(断線検知方法)について、図面を用いて詳細に説明する。
【0052】
まず、断線検知システム70の電源を入れる(ステップS1)。次いで、検査対象となるケーブル10を、断線検知システム70に設置する。具体的には、
図2に示されるように、ケーブル10の先端側を、ケーブル固定部73bに固定する。また、ケーブル10の長手方向中央部を、一対の曲げ部材73aの間に配置しつつ、ケーブル10の基端側を、支持部材71aに支持させる。さらには、ケーブル10の基端側に重錘74を引っ掛ける(ステップS2)。
【0053】
次に、断線検知システム70を作動させるために、断線検知システム70の駆動スイッチ(図示せず)をオン操作する。これにより、断線検知システム70が作動して、揺動部材73が基準状態(
図2参照)から、一方向に90度揺動されかつ他方向に90度揺動される。ここで、一方向および他方向への90度の揺動動作1回分が、ケーブル10の屈曲回数1回分となる。つまり、揺動部材73の揺動周期(一周期)において、ケーブル10は2回屈曲される。このようにして、ケーブル10は、一方向および他方向に繰り返し屈曲される(ステップS3)。なお、ステップS3における処理が、本発明における第1ステップに相当する。
【0054】
また、断線検知システム70の駆動スイッチのオン操作に伴い、コントローラ75の抵抗測定部76が、ターゲット導体20の抵抗値R1およびリファレンス導体30の抵抗値R2をそれぞれ測定する(ステップS4)。ここで、ステップS4における処理が、本発明における第2ステップに相当する。
【0055】
このときのそれぞれの抵抗値R1,R2の時系列的な変化は、例えば、
図6に示されるグラフのようになる。
図6を観察すると、ターゲット導体20の抵抗値R1の方が、リファレンス導体30の抵抗値R2よりも小さくなっている。これは、それぞれの抵抗測定部76が、ターゲット導体20およびリファレンス導体30に対して同条件で直流信号を印可し、さらにターゲット導体20の素線21の本数が、リファレンス導体30の素線31の本数よりも多いことに起因している(
図1参照)。
【0056】
次に、それぞれの抵抗値R1,R2は、判定部77に入力される。そして、判定部77では、ステップS4の処理で得た時系列的に変化するそれぞれの抵抗値R1,R2から、相対抵抗値(R1/R2)を算出する(
図7参照)。
図7を観察すると、相対抵抗値の変動が細かい上に大きく、この状態のままでは閾値Thとの比較が困難となる。具体的には、極短時間で閾値Thを越えたり下回ったりする所謂「チャタリング現象」を発生する虞がある。
【0057】
よって、判定部77では、算出した相対抵抗値の時系列データを、移動平均を用いて平滑化する処理を実行する。そして、平滑化された相対抵抗値(
図8参照)と判定部77に予め格納された閾値Thとを比較して、平滑化された相対抵抗値が閾値Th以上になったか否かを判定する(ステップS5)。ここで、
図8を観察すると、平滑化された相対抵抗値の変動は、平滑化する前の相対抵抗値(
図7参照)の変動に対して、言わば細かいノイズが除去された状態となっている。
【0058】
これにより、相対抵抗値(平滑化後)が、閾値Th以上になったか否かの判断を、判定部77において精度良く容易に行えるようになる。よって、これによっても、判定部77(コントローラ75)に掛かる負荷を軽減可能としている。
【0059】
そして、ステップS5でnoと判定された場合にはステップS6に進み、判定部77は、ターゲット導体20(素線21)に断線が無いと判定し、かつステップS4に戻る処理を実行する。つまり、判定部77は、ステップS5でyesと判定するまで、ステップS4の処理を繰り返し実行する。
【0060】
これに対し、ステップS5でyesと判定された場合にはステップS7に進み、判定部77は、ターゲット導体20(素線21)に断線が有ったと判定、つまりターゲット導体20が断線したと判定し、かつステップS8に進む処理を実行する。ここで、ステップS5およびステップS7における処理が、本発明における第3ステップに相当する。
【0061】
なお、
図8に示されるように、判定部77は、ケーブル10の屈曲回数が20万回弱の時点において、ターゲット導体20を形成する複数の素線21(
図1参照)のうちの1本が断線したことを判定している。このように、ターゲット導体20の抵抗値R1とリファレンス導体30の抵抗値R2との相対抵抗値を利用することで、素線21が1本断線した程度での抵抗値変化が検出でき、断線の発生が容易に判定可能となっている。
【0062】
また、ターゲット導体20の素線21とリファレンス導体30の素線31とは、それぞれ同じ素材(銅合金やアルミ材料)となっており、互いに温度による抵抗値変化の係数が同じであるため、相対抵抗値を利用することで環境温度の変化に起因した抵抗値の変動をキャンセル可能としている。すなわち、コントローラ75の判定部77は、環境温度の変化に関わらず、素線21の1本の断線(断線の初期段階)を、容易に判定可能となっている。
【0063】
その後、ステップS8では、検査対象となるケーブル10の評価が終了したことを受けて、コントローラ75は、断線検知システム70の作動を自動で停止させる。その際に、PCのモニター等(図示せず)に、断線検知結果、例えば、ケーブル10のトータル屈曲回数や、断線した素線21の本数、さらには環境温度等の情報を、カラー表示等で分かり易く表示させる。このようにして、ケーブル10の緻密な評価が可能となる。その後、断線検知システム70の電源を切ることで、断線検知システム70の一連の動作が終了する(ステップS9)。
【0064】
以上のように構成されたケーブル10,断線検知システム70および断線検知方法は、例えば、
図9に示されるような産業用ロボット100に搭載(適用)することもできる。具体的には、産業用ロボット100は、第1腕部110と第2腕部120とを備えており、第1腕部110と第2腕部120との間には、関節機構130が設けられている。関節機構130には、当該関節機構130を揺動させるサーボモータSMが設けられ、当該サーボモータSMは、産業用ロボット100を統括的に制御するロボット用コントローラ150により、正逆方向に揺動駆動される。
【0065】
これにより、第2腕部120は、第1腕部110に対して、関節機構130の揺動中心CTを中心に、矢印F方向(一方向)に90度(+90度)揺動される。また、関節機構130の揺動中心CTを中心に、矢印R方向(他方向)に90度(-90度)揺動される。
【0066】
このような関節機構130の繰り返しの揺動に伴い、当該関節機構130の近傍に配置されたケーブル10は、上述と略同様に一方向および他方向へと交互に屈曲される。そして、ロボット用コントローラ150には、上述した抵抗測定部76および判定部77(図示せず)が内蔵されている。
【0067】
このように、ケーブル10および断線検知システム70を、産業用ロボット100に搭載(適用)することで、産業用ロボット100を稼働させつつ、ケーブル10の断線検知が可能となり、ひいては産業用ロボット100のメンテナンス性を向上させることが可能となる。
【0068】
なお、関節機構130が本発明における揺動機構に相当し、ロボット用コントローラ150が本発明におけるコントローラに相当する。また、ロボット用コントローラ150は、
図5におけるステップS3の処理(第1ステップ)と、ステップS4の処理(第2ステップ)と、ステップS5およびステップS7の処理(第3ステップ)を実行する。さらに、ロボット用コントローラ150は、第2腕部120の先端部分に設けられた把持機構140を作動させるリニアアクチュエータLA等の他の駆動部分についても、きめ細かく高精度で制御可能となっている。
【0069】
以上詳述したように、本実施の形態のケーブル10によれば、撚られた複数の素線21によって形成され、断線検知の対象となるターゲット導体20と、撚られた複数の素線31によって形成され、ターゲット導体20の比較対象となるリファレンス導体30と、ターゲット導体20およびリファレンス導体30の周囲に介在50を介して設けられるシース60と、を備え、リファレンス導体30を形成する素線31は、ターゲット導体20を形成する素線21と同一の素材により形成されている一方、ターゲット導体20を形成する素線21に比べて、屈曲に対して断線し難い。すなわち、リファレンス導体30は、ターゲット導体20よりも耐屈曲性が高い。
【0070】
これにより、ターゲット導体20およびリファレンス導体30の相対抵抗値(R1/R2)を解析することで、環境温度の変化に関わらず、ターゲット導体20を形成する素線21の断線の初期段階においても、断線を正確に検知可能となる。したがって、ケーブル10のメンテナンス時期等を、事前に余裕を持って把握することができ、ケーブル10の管理を容易かつ確実に行うことが可能となる。
【0071】
また、本実施の形態のケーブル10によれば、リファレンス導体30の素線31の直径寸法(0.05mm)がターゲット導体20の素線21の直径寸法(0.08mm)よりも小さく、かつリファレンス導体30の素線31の撚りピッチがターゲット導体20の素線21の撚りピッチよりも小さくなっている。
【0072】
これにより、リファレンス導体30を細径にすることができ、その結果、SN比(Signal/Noise)を大きくすることが可能となる。よって、コントローラ75によるターゲット導体20の断線の検知精度を良好にすることができる。また、リファレンス導体30(素線31)の屈曲に対する耐久性(耐屈曲性)をより向上させることができ、ターゲット導体20の断線検知に対する信頼性をより向上させることが可能となる。
【0073】
さらに、本実施の形態のケーブル10によれば、リファレンス導体30の外径寸法よりも大きな内径寸法を有する中空チューブ40を備え、リファレンス導体30が中空チューブ40の内部に収容されている。
【0074】
これにより、リファレンス導体30と中空チューブ40との間に隙間Sが形成され、リファレンス導体30の屈曲具合を、ケーブル10全体の屈曲具合よりも緩やかにできる。これによっても、リファレンス導体30(素線31)の屈曲に対する耐久性をより向上させることができ、ターゲット導体20の断線検知に対する信頼性をより向上させることが可能となる。
【0075】
また、本実施の形態のケーブル10によれば、リファレンス導体30の周囲に複数のターゲット導体20が設けられているので、リファレンス導体30をケーブル10の中心部分に配置することができる。したがって、リファレンス導体30の屈曲具合を、ターゲット導体20の屈曲具合よりも緩やかにできる。これによっても、リファレンス導体30(素線31)の屈曲に対する耐久性(耐屈曲性)をより向上させることができ、ターゲット導体20の断線検知に対する信頼性をより向上させることが可能となる。
【0076】
さらに、本実施の形態の断線検知システム70によれば、断線検知の対象が上述したケーブル10であり、一方向および他方向に揺動し、ケーブル10を一方向および他方向に屈曲させる揺動部材73と、ターゲット導体20およびリファレンス導体30に電気的に接続されるコントローラ75と、コントローラ75に設けられ、ターゲット導体20の抵抗値R1およびリファレンス導体30の抵抗値R2をそれぞれ測定する抵抗測定部76と、抵抗測定部76の測定結果に基づいて、ターゲット導体20およびリファレンス導体30の相対抵抗値(R1/R2)を算出し、当該相対抵抗値の変化からターゲット導体20(素線21)の断線を判定する判定部77と、を備える。
【0077】
ターゲット導体20の素線21およびリファレンス導体30の素線31が同一の素材からなり、かつ判定部77がターゲット導体20の断線検知に相対抵抗値(R1/R2)を利用するので、例えば、環境温度の変化に起因した抵抗値の大きな変動にも関わらず、コントローラ75の判定部77は、素線21の1本程度断線(断線の初期段階)を、容易に判定することができる。
【0078】
また、本実施の形態の断線検知システム70によれば、判定部77は、算出した相対抵抗値(R1/R2)の時系列データを、移動平均を用いて平滑化し、平滑化した相対抵抗値と閾値Thとを比較してターゲット導体20(素線21)の断線を判定するので、比較処理の際に、極短時間で閾値Thを越えたり下回ったりする所謂「チャタリング現象」の発生を抑えることができる。よって、判定部77は、ターゲット導体20の断線検知を精度良く行うことが可能となる。
【0079】
さらに、本実施の形態のケーブル10,断線検知システム70および断線検知方法を産業用ロボットに適用することもできる。これにより、産業用ロボット100を稼働させつつ、ケーブル10(ターゲット導体20)の断線を検知することができ、ひいては産業用ロボット100のメンテナンス性を向上させることが可能となる。
【0080】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。上記実施の形態では、ケーブル10の仕様を、
図1(a),(b)に示される仕様としたものを示したが、本発明はこれに限らない。例えば、2本のターゲット導体20および1本のリファレンス導体30を有する仕様や、ターゲット導体20の周囲にリファレンス導体30を配置した仕様、さらには複数のリファレンス導体30を有する仕様等、他の仕様のケーブルにも適用することができる。
【0081】
また、上記実施の形態では、ケーブル10を、産業用ロボット100に適用したものを示したが、本発明はこれに限らず、例えば、伸縮する懸架装置(サスペンション)を介して設けられる自動車等のインホイールモータのケーブル等、屈曲されるケーブルに適用することができる。
【0082】
その他、上記実施の形態における各構成要素の材質,形状,寸法,数,設置箇所等は、本発明を達成できるものであれば任意であり、上記実施の形態に限定されない。
【符号の説明】
【0083】
10 ケーブル
20 ターゲット導体
21 素線
22 絶縁被膜
30 リファレンス導体
31 素線
32 絶縁被膜
40 中空チューブ
50 介在
60 シース
70 断線検知システム
71 ベース部材
71a 支持部材
72 電動モータ
72a 回転軸
73 揺動部材(揺動機構)
73a 曲げ部材
73b ケーブル固定部
74 重錘
75 コントローラ
76 抵抗測定部(抵抗値測定部)
76a 直流信号源
76b 入力抵抗
76c 抵抗値検出器
77 判定部(断線判定部)
100 産業用ロボット
110 第1腕部
120 第2腕部
130 関節機構(揺動機構)
140 把持機構
150 ロボット用コントローラ(コントローラ)
CT 揺動中心
LA リニアアクチュエータ
R1,R2 抵抗値
S 隙間
SM サーボモータ
Th 閾値