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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】ガラス板の製造方法、及び転写型
(51)【国際特許分類】
   C03B 23/023 20060101AFI20240925BHJP
【FI】
C03B23/023
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2021061398
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022157273
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】福士 恭基
(72)【発明者】
【氏名】金杉 諭
(72)【発明者】
【氏名】柳原 一貴
(72)【発明者】
【氏名】増田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】小松 寛
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-511389(JP,A)
【文献】国際公開第2016/141041(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B23/02-23/037
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲面形状を含むガラス板の製造方法であって、
長手方向に独立に移動自在で且つ互いに平行な3本以上の第1ピンを含む第1ピン群を備える第1転写型を準備することと、
各前記第1ピンの先端を第1原型の曲面に当て、各前記第1ピンの位置を調節し、固定することと、
各前記第1ピンの位置を固定したまま、各前記第1ピンと前記第1原型を分離することと、
前記固定した各前記第1ピンの前記先端を上に向けて、前記第1転写型の上に前記ガラス板を載せることと、
前記ガラス板を加熱し、前記固定した各前記第1ピンの前記先端に沿って前記ガラス板を曲げ成形することと、
を含む、ガラス板の製造方法。
【請求項2】
前記ガラス板の自重で前記ガラス板を曲げ成形する、請求項1に記載のガラス板の製造方法。
【請求項3】
前記ガラス板の自重と空気圧で前記ガラス板を曲げ成形する、請求項1に記載のガラス板の製造方法。
【請求項4】
前記ガラス板の上方に配置した上型をプレス機で下方に押し、前記上型と前記第1転写型とで前記ガラス板を挟んでプレス成形する、請求項1に記載のガラス板の製造方法。
【請求項5】
長手方向に独立に移動自在で且つ互いに平行な3本以上の第2ピンを含む第2ピン群を備える第2転写型を準備することと、
各前記第2ピンの先端を第2原型の曲面に当て、各前記第2ピンの位置を調節し、固定することと、
各前記第2ピンの位置を固定したまま、各前記第2ピンと前記第2原型を分離することと、
前記固定した各前記第2ピンの前記先端を下に向けて、前記第2転写型を前記ガラス板の上に載せることと、
前記固定した各前記第2ピンの前記先端に沿って前記ガラス板を曲げ成形することと、
を含む、請求項1に記載のガラス板の製造方法。
【請求項6】
前記第1転写型と前記第2転写型の一方にガイドロッドが固定され、前記第1転写型と前記第2転写型の他方にガイド穴が固定され、
前記ガイドロッドを前記ガイド穴に挿入することで、前記第1転写型に対して前記第2転写型を鉛直方向に案内することを含む、請求項5に記載のガラス板の製造方法。
【請求項7】
各前記第1ピンの前記先端は、上に凸のドーム状の曲面を含み、その曲面で前記ガラス板を支える、請求項1~5のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法。
【請求項8】
前記固定した隣り合う前記第1ピンの中心線同士のピッチは、5mm~30mmである、請求項1~7のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法。
【請求項9】
前記第1ピン群と前記ガラス板との間に耐熱布を敷くことを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法。
【請求項10】
前記耐熱布は、厚みが0.3mm~1.0mmであり、面密度が100g/m~1400g/mであり、通気度が20cc/(cm・sec)~200cc/(cm・sec)である、請求項9に記載のガラス板の製造方法。
【請求項11】
前記ガラス板を曲げ成形する際に、前記ガラス板を予め設定された成形温度で加熱し、
前記成形温度は、10Pa・s~1012Pa・sの粘度範囲に相当する温度範囲内で設定される、請求項1~10のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法。
【請求項12】
曲面形状を含むガラス板の製造に用いられる転写型であって、
長手方向に独立に移動自在で且つ互いに平行な3本以上のピンを含むピン群と、
各前記ピンの位置固定する固定具と、を備える、転写型。
【請求項13】
前記固定具は、前記ピン群を囲む外枠と、前記外枠の内側に突出し、隣り合う前記ピン同士を押し付け合わせる可動キーと、を含む、請求項12に記載の転写型。
【請求項14】
前記固定具は、前記可動キーを介して前記ピンを押すねじを更に含み、
前記外枠は、前記ねじがねじ込まれるネジ穴を含む、請求項13に記載の転写型。
【請求項15】
前記固定具は、前記可動キーを介して前記ピンを押すシリンダを更に含む、請求項13に記載の転写型。
【請求項16】
前記固定具は、前記外枠に耐熱布を取り付ける取付プレートを含む、請求項13~15のいずれか1項に記載の転写型。
【請求項17】
前記固定具は、前記ピンが1本ずつ挿通される挿通穴が複数形成された配列プレートを含む、請求項12~16のいずれか1項に記載の転写型。
【請求項18】
前記ピンは、前記挿通穴に挿通される中間軸と、前記中間軸の長手方向一端に取り外し可能に取り付けられるヘッドと、前記中間軸の長手方向他端に設けられるフランジと、を含み、前記ヘッドを前記ガラス板に向けて設けられる、請求項17に記載の転写型。
【請求項19】
前記ピンは、中空構造を有する、請求項12~18のいずれか1項に記載の転写型。
【請求項20】
各前記ピンの先端は、ドーム状の曲面を含み、その曲面で前記ガラス板を支える、請求項12~19のいずれか1項に記載の転写型。
【請求項21】
前記固定具で前記ピンを固定した状態で、隣り合う前記ピンの中心線同士のピッチは、5mm~30mmである、請求項12~20のいずれか1項に記載の転写型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガラス板の製造方法、及び転写型に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の曲げ成形装置は、加熱器と、第1ピン群と、第1ガイド板と、第1可動板と、第1移動機構と、を備える。加熱器は、成形板を加熱する。第1ピン群は、成形板の第1主表面に接触する3本以上の第1ピンを含む。第1ガイド板は、3本以上の第1ピンを互いに平行に支持すると共に、3本以上の第1ピンをそれぞれの長手方向に独立に移動自在に支持する。第1可動板は、第1ガイド板を基準として成形板とは反対側に配置される。第1可動板には、第1ピン群と接触する第1曲面を有する第1成形型が取り付けられる。第1移動機構は、第1ピンの長手方向に、第1可動板を第1ガイド板に対し移動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2020/080305号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、第1成形型の上向きの曲面で各第1ピンの下端を押し上げ、各第1ピンの位置を所望の位置に調節する。その状態で、第1ピン群の上にガラス板を載せ、各第1ピンの上端に沿ってガラス板を曲げ成形する。
【0005】
例えば、複数枚のガラス板を異なるピン群の上に載せて、各ガラス板を曲げ成形する場合、ピン群ごとに、ピン群を構成する各ピンの位置調節に用いる原型を用意することになってしまう。それゆえ、原型の数が多くなってしまう。
【0006】
本開示の一態様は、ピン群を構成する各ピンの位置調節に用いる原型の数を削減する、技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係るガラス板の製造方法は、曲面形状を含むガラス板の製造方法であり、下記(A)~(E)を含む。(A)長手方向に独立に移動自在で且つ互いに平行な3本以上の第1ピンを含む第1ピン群を備える第1転写型を準備する。(B)各前記第1ピンの先端を第1原型の曲面に当て、各前記第1ピンの位置を調節し、固定する。(C)各前記第1ピンの位置を固定したまま、各前記第1ピンと前記第1原型を分離する。(D)前記固定した各前記第1ピンの前記先端を上に向けて、前記第1転写型の上に前記ガラス板を載せる。(E)前記ガラス板を加熱し、前記固定した各前記第1ピンの前記先端に沿って前記ガラス板を曲げ成形する。
【0008】
本開示の一態様に係る転写型は、曲面形状を含むガラス板の製造に用いられる転写型である。転写型は、長手方向に独立に移動自在で且つ互いに平行な3本以上のピンを含むピン群と、各前記ピンの位置固定する固定具と、を備える。

【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様によれば、ピン群を構成する各ピンの位置を固定する。各ピンの位置を固定したまま各ピンと原型とを分離でき、原型を再利用できる。従って、原型の数を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、一実施形態に係るガラス板の製造方法を示すフローチャートである。
図2図2は、第1転写型の一例を示す斜視図である。
図3図3は、図2の第1転写型を上から見た図である。
図4図4は、図3のIV-IV線に沿った断面図である。
図5図5は、図1のステップS102の一例を示す断面図である。
図6図6は、図1のステップS104の一例を示す断面図である。
図7図7は、図1のステップS105の一例を示す断面図である。
図8図8は、第2転写型の一例を示す断面図である。
図9図9は、図1のステップS103の変形例を示す断面図である。
図10図10は、図1のステップS104の変形例を示す断面図である。
図11図11は、図1のステップS105の変形例を示す断面図である。
図12図12は、固定具の変形例を示す断面図である。
図13図13(A)は例1で得られたガラス板の透過像であり、図13(B)は例2で得られたガラス板の透過像であり、図13(C)は例3で得られたガラス板の透過像であり、図13(D)は例4で得られたガラス板の透過像であり、図13(E)は例5で得られたガラス板の透過像であり、図13(F)は例6で得られたガラス板の透過像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図面において同一の又は対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略することがある。また、各図面において、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向は互いに垂直な方向であって、X軸方向及びY軸方向は水平方向であり、Z軸方向は鉛直方向である。Z軸正方向が鉛直上方向であり、Z軸負方向が鉛直下方向である。
【0012】
図1を参照して、一実施形態に係るガラス板の製造方法について説明する。図1に示すように、ガラス板の製造方法は、ステップS101~S104を含む。ステップS101は、第1転写型1を準備することを含む。第1転写型1は、例えば、図2図4に示すように、第1ピン群2と、第1固定具3と、を備える。
【0013】
第1ピン群2は、長手方向に独立に移動自在で且つ互いに平行な3本以上の第1ピン21を含む。第1固定具3は、各第1ピン21の位置を移動可能に固定する。各第1ピン21の位置を調節でき、様々な曲面形状のガラス板9(図6参照)を成形できる。また、ガラス板9の曲面形状と、目標の曲面形状との偏差を測定し、その偏差が小さくなるように各第1ピン21の位置を微調節することも可能である。
【0014】
ガラス板9の厚さは、0.2mm以上が好ましく、0.8mm以上がより好ましく、1mm以上が更に好ましい。ガラス板9の厚さは、5mm以下が好ましく、3mm以下がより好ましく、2mm以下が更に好ましい。ガラス板9の曲率半径は、50mm以上が好ましく、100mm以上がより好ましく、200mm以上が更に好ましい。ガラス板9の曲率半径は、例えば10000mm以下である。
【0015】
各第1ピン21は、例えばZ軸方向に平行に配置される。各第1ピン21の長手方向は、例えばZ軸方向である。各第1ピン21の長手方向から見たときに、複数本の第1ピン21は、図3に示すように千鳥配列されるが、行列配列されてもよい。
【0016】
各第1ピン21の長手方向から見たときに、各第1ピン21の先端(例えば第1ヘッド26)は、円形状であるが、多角形状(例えば三角形状、四角形状、又は六角形状)であってもよい。後者の場合、隣り合う第1ピン21の先端同士を安定して押し付け合わせることができる。一方、前者の場合、隣り合う第1ピン21の間に隙間を形成でき、第1ピン群2の熱容量を低減でき、第1ピン群2を短時間で昇温できる。
【0017】
図4に示すように、各第1ピン21の先端は、上に凸のドーム状の曲面22を含み、その曲面22でガラス板9を下から支える。第1ピン21の曲面22と側面23の角24でガラス板9を支える場合に比べて、ガラス板9に局所的な応力集中が生じるのを抑制できる。曲面22は例えば半球状であり、その曲率半径はガラス板9の曲率半径などを考慮して決められる。なお、ドーム状の曲面22は、上に凸の複曲面であればよく、非球面状であってもよい。
【0018】
第1固定具3は、各第1ピン21のZ軸方向位置を移動可能に固定する。第1固定具3は、例えば、第1外枠31と、第1可動キー32と、を含む。第1外枠31は、第1ピン群2を囲む。第1可動キー32は、図5に示すように第1外枠31の内側に突出し、隣り合う第1ピン21同士を押し付け合わせる。
【0019】
第1外枠31は、例えば四角枠である。第1可動キー32は、第1外枠31の互いに対向する2つの側壁のうち、一方の側壁から、他方の側壁に向けて突出し、隣り合う第1ピン21同士を押し付け合わせる。第1外枠31は、図示しないが円枠、又は楕円枠であってもよく、枠の形状は特に限定されない。
【0020】
第1可動キー32は、例えばX軸方向に移動可能である。作業者又は作業ロボットは、第1可動キー32をX軸正方向に移動させることで、各第1ピン21をX軸正方向に寄せ集め、隣り合う第1ピン21同士を押し付け合わせる。その結果、各第1ピン21のZ軸方向位置を固定できる。
【0021】
また、作業者又は作業ロボットは、第1可動キー32をX軸負方向に移動させることで、各第1ピン21のZ軸方向における位置固定を解除する。各第1ピン21のZ軸方向位置を調節でき、様々な曲面形状のガラス板9を成形できる。
【0022】
第1固定具3は、第1可動キー32を介して第1ピン21を押す第1ネジ33を更に含んでもよい。この場合、第1外枠31は、第1ネジ33がねじ込まれる第1ネジ穴34を含む。第1ネジ33は、例えばイモネジである。
【0023】
作業者又は作業ロボットは、第1ネジ33を回転させることで、第1可動キー32を移動でき、隣り合う第1ピン21同士を押し付け合わせることができる。その状態で第1ネジ33の回転を停止すれば、第1ネジ33が第1可動キー32を押し続ける。よって、反力による第1可動キー32の押し戻しを防止できる。
【0024】
なお、図示しないが、第1固定具3は、第1ネジ33の代わりに、第1シリンダを更に含んでもよい。第1シリンダは、シリンダチューブと、シリンダチューブの内部を移動するピストンと、ピストンと共に移動するロッドと、を有する。第1シリンダは、空気圧又は油圧などで、第1可動キー32を介して第1ピン21を押す。
【0025】
第1固定具3は、第1ピン21が1本ずつ挿通される第1配列穴35が複数形成された第1配列プレート36を含んでもよい。第1配列プレート36は、例えば不図示のボルトなどで第1外枠31に対して固定される。複数の第1配列穴35は、複数本の第1ピン21と同様に、千鳥配列されるが、行列配列されてもよい。第1配列穴35の水平方向位置(X軸方向位置及びY軸方向位置)で第1ピン21の水平方向位置を規制でき、第1ピン21を所望のパターンで配列できる。
【0026】
第1ピン21は、第1配列穴35に挿通される第1中間軸25と、第1中間軸25の長手方向一端に取り外し可能に取り付けられる第1ヘッド26と、第1中間軸25の長手方向他端に設けられる第1フランジ27と、を含んでもよい。第1ピン21は、第1ヘッド26をガラス板9に向けて設けられる。
【0027】
第1ヘッド26は、上に凸のドーム状の曲面22を含み、その曲面22でガラス板9を下から支える。隣り合う第1ヘッド26は、その側面23で押し付け合わされる。第1ヘッド26は、取り外し可能であるので、破損しても交換できる。
【0028】
例えば、第1ヘッド26は、曲面22とは反対向きの面に、ネジ穴28を含む。第1中間軸25は、ネジ穴28にねじ込まれるネジ軸を含む。これにより、第1ヘッド26は、第1中間軸25に取り外し可能に取付けられる。
【0029】
第1ヘッド26と第1フランジ27は、第1中間軸25が第1配列穴35から抜けるのを防止する。第1ヘッド26と第1フランジ27の各々の直径は、第1配列穴35の直径よりも大きい。
【0030】
第1ヘッド26は、ネジ穴28に続く中空穴29を更に含んでもよい。つまり、第1ヘッド26は、中空構造を有してもよい。第1ヘッド26の熱容量を低減でき、第1ヘッド26の昇温時間を短縮できる。
【0031】
ところで、詳しくは後述するが、第1転写型1は、ガラス板9と共に外側から加熱される。昇温速度が速い場合、昇温の途中で、第1外枠31及び第1可動キー32の温度が、その内側の第1ピン21の温度よりも高くなることがある。
【0032】
そこで、第1外枠31及び第1可動キー32は、第1ピン21よりも、平均線膨張係数の低い材料で形成されてもよい。これにより、昇温の途中で、第1外枠31などが第1ピン群2よりも広がるのを制限でき、隣り合う第1ピン21同士を押し付け合わせる力が緩むのを制限できる。平均線膨張係数は、室温(例えば20℃)から、ガラス板9の成形温度までの線膨張係数の平均値である。
【0033】
但し、昇温速度が遅い場合、第1外枠31及び第1可動キー32と、その内側の第1ピン群2とは、同程度の温度になる。従って、第1外枠31及び第1可動キー32と、第1ピン21とは、同じ材料で形成されてもよい。
【0034】
第1ピン21、第1外枠31、又は第1可動キー32は、金属(例えば、ステンレス鋼、耐熱鋼、若しくは超硬合金)、セラミック(例えば炭化珪素、窒化ケイ素、若しくは石英)、又はカーボンなどで形成される。
【0035】
ステンレス鋼は、マルテンサイト系とオーステナイト系のいずれでもよい。マルテンサイト系の平均線膨張係数は、オーステナイト系の平均線膨張係数よりも小さい。超硬合金は、例えば炭化タングステンである。
【0036】
第1ピン21、第1外枠31、又は第1可動キー32は、母材と、母材の上に形成されるコーティング膜とを含んでもよく、複数の材料で形成されてもよい。コーティング膜は、母材の少なくとも一部を覆えばよい。コーティング膜は、金属膜、セラミック膜、又はカーボン膜などである。
【0037】
ステップS102は、図5に示すように、各第1ピン21の先端を第1原型4の曲面41に当て、各第1ピン21のZ軸方向位置を調節し、固定することを含む。各第1ピン21のZ軸方向位置は、本実施形態では第1固定具3によって固定されるが、溶接などによって固定されてもよい。
【0038】
第1固定具3又は溶接などによって各第1ピン21のZ軸方向位置を固定すれば、ガラス板9を第1転写型1の上に載せる前に、第1転写型1と第1原型4を分離でき、分離した第1原型4を再利用できる。従って、例えば複数枚のガラス板9を異なる第1転写型1の上に載せて、各ガラス板9を曲げ成形する場合に、第1原型4の数を削減できる。
【0039】
第1原型4は、第1転写型1とは異なり、加熱されない。それゆえ、第1原型4は、第1転写型1よりも、耐熱性の低い材料で形成でき、低コスト及び短期間で製造できる。第1原型4は、例えば3Dプリンターで製造され、その材料としては例えば樹脂が用いられる。なお、第1原型4は、切削加工、又は射出成形などで製造されてもよい。また、第1原型4の材料は、樹脂には限定されず、カーボン、又は金属(例えばステンレス鋼又はアルミニウムなど)であってもよい。
【0040】
第1原型4の曲面41は、単曲面(single curved surface)でもよいし、複曲面(double curved surface)でもよい。単曲面は、円柱面などであり、所定の方向に一定の断面形状を有する。一方、複曲面は、X軸方向に垂直な断面でもY軸方向に垂直な断面でも曲線状の断面形状を有する。
【0041】
ステップS103は、各第1ピン21のZ軸方向位置を固定したまま、各第1ピン21と第1原型4を分離することを含む。分離した第1原型4を再利用できる。従って、例えば複数枚のガラス板9を異なる第1転写型1の上に載せて、各ガラス板9を曲げ成形する場合に、第1原型4の数を削減できる。
【0042】
ステップS104は、図6に示すように、ステップS102で固定した各第1ピン21の先端(例えば第1ヘッド26)を上に向けて、第1転写型1の上にガラス板9を載せることを含む。第1転写型1は、ガラス板9を下から支える下型である。
【0043】
ステップS104は、第1転写型1とガラス板9の間に、耐熱布5を敷くことを含んでもよい。耐熱布5は、例えば、ステンレス鋼繊維又はシリカ繊維を含む不織布である。耐熱布5を敷くことで、第1ピン21の痕がガラス板9に付くのを抑制できる。
【0044】
耐熱布5は、厚みが0.3mm~1.5mmであり、面密度が100g/m~1400g/mであり、通気度が20cc/(cm・sec)~200cc/(cm・sec)である。通気度は、日本工業規格JIS R3240:2013に準拠して測定する。
【0045】
耐熱布5が上記の物性を有すれば、第1ピン21とガラス板9の間での熱移動を抑制でき、ガラス板9の熱応力を緩和でき、かつガラス板9を複曲形状に曲げ成形する際に耐熱布5のしわの発生を抑制できる。
【0046】
耐熱布5の厚みは、好ましくは0.5mm~1.0mmである。耐熱布5の面密度は、好ましくは500g/m~1000g/mである。耐熱布5の通気度は、好ましくは20cc/(cm・sec)~160cc/(cm・sec)である。
【0047】
ステップS105は、図7に示すように、ガラス板9を加熱し、ステップS102で固定した各第1ピン21の先端に沿ってガラス板9を曲げ成形することを含む。ステップS102で固定した隣り合う第1ピン21の中心線同士のピッチP(不図示)は、5mm~30mmである。ピッチPは、本実施形態では第1ピン21の直径に等しいが、後述するように第1ピン21の直径よりも大きくてもよい。
【0048】
ピッチPが5mm以上であれば、第1ピン21の太さが十分に太く、第1ピン21の変形を抑制できる。一方、ピッチPが30mm以下であれば、隣り合う第1ピン21同士の間でガラス板9が局所的に垂れ下がるのを抑制できる。ピッチPは、好ましくは5mm~20mmである。
【0049】
ステップS105は、第1転写型1の上にガラス板9を載せた状態で、第1転写型1を加熱炉の内部に入れ、ガラス板9を加熱することを含む。加熱炉は、バッチ式でも連続式でもよい。加熱炉は、第1転写型1を搬送するコンベアを備えてもよく、連続搬送式であってもよい。連続搬送式の加熱炉は、搬送路に沿って複数のゾーンに区画される。ガラス板9は、第1転写型1と共に搬送されながら、加熱される。
【0050】
ステップS105は、ガラス板9を予め設定された成形温度で加熱することを含んでもよい。成形温度は、例えば10Pa・s~1012Pa・sの粘度範囲に相当する温度範囲内で設定される。ガラスの粘度が10Pa・s以上であれば、各第1ピン21の痕がガラス板9に付くのを抑制できる。一方、ガラスの粘度が1012Pa・s以下であれば、ガラス板9を曲げ成形できる。ガラスの粘度は、好ましくは108.5dPa・s~1011.5dPa・sである。
【0051】
ステップS105は、例えばガラス板9の自重でガラス板9を曲げ成形することを含む。ガラス板9の上面をプレス機などで押す場合とは異なり、プレス機の接触痕がガラス板9に付くのを防止できる。
【0052】
ステップS105は、ガラス板9の自重と空気圧でガラス板9を曲げ成形することを含んでもよい。例えば、ガラス板9の周縁に圧縮空気を吹き付ければ、ガラス板9の周縁を確実に曲げることができる。
【0053】
ステップS105は、本実施形態ではプレス機を用いないが、プレス機を用いてもよい。プレス機は、例えば連続搬送式の加熱炉の一つのゾーンに設けられる。プレス機は、ガラス板9の上方に配置した上型を下方に押し、上型と第1転写型1とでガラス板9を挟んでプレス成形する。上型は、プレス機に取付けられるが、ガラス板9の上に載せられガラス板9と共に搬送されてもよい。後者の場合、上型は、後述する第2転写型6であってもよい。
【0054】
次に、図8図11を参照して、第2転写型6及び第2転写型6を用いたガラス板の製造方法について説明する。第2転写型6は、第1転写型1と組み合わせて用いる。この場合、ステップS101は、第2転写型6を準備することを含む。第2転写型6は、第1転写型1と同様に構成され、例えば、図8に示すように、第2ピン群7と、第2固定具8と、を備える。
【0055】
第2ピン群7は、長手方向に独立に移動自在で且つ互いに平行な3本以上の第2ピン71を含む。第2固定具8は、各第2ピン71の位置を移動可能に固定する。各第2ピン71の位置を調節でき、様々な曲面形状のガラス板9を成形できる。また、ガラス板9の曲面形状と、目標の曲面形状との偏差を測定し、その偏差が小さくなるように各第2ピン71の位置を微調節することも可能である。
【0056】
各第2ピン71は、例えばZ軸方向に平行に配置される。各第2ピン71の長手方向は、例えばZ軸方向である。各第2ピン71の長手方向から見たときに、複数本の第2ピン71は、千鳥配列されるが、行列配列されてもよい。
【0057】
図8に示すように、各第2ピン71の先端は、下に凸のドーム状の曲面72を含み、その曲面72でガラス板9を上から押す。第2ピン71の曲面72と側面73の角74でガラス板9を押す場合に比べて、ガラス板9に局所的な応力集中が生じるのを抑制できる。
【0058】
第2固定具8は、各第2ピン71のZ軸方向位置を移動可能に固定する。第2固定具8は、例えば、第2外枠81と、第2可動キー82と、を含む。第2外枠81は、第2ピン群7を囲む。第2可動キー82は、図9に示すように第2外枠81の内側に突出し、隣り合う第2ピン71同士を押し付け合わせる。
【0059】
第2固定具8は、第2可動キー82を介して第2ピン71を押す第2ネジ83を更に含んでもよい。この場合、第2外枠81は、第2ネジ83がねじ込まれる第2ネジ穴84を含む。第2ネジ83は、例えばイモネジである。
【0060】
なお、図示しないが、第2固定具8は、第2ネジ83の代わりに、第2シリンダを更に含んでもよい。第2シリンダは、シリンダチューブと、シリンダチューブの内部を移動するピストンと、ピストンと共に移動するロッドと、を有する。第2シリンダは、空気圧又は油圧などで、第2可動キー82を介して第2ピン71を押す。
【0061】
第2固定具8は、第2ピン71が1本ずつ挿通される第2配列穴85が複数形成された第2配列プレート86を含んでもよい。第2配列プレート86は、例えば不図示のボルトなどで第2外枠81に対して固定される。複数の第2配列穴85は、複数本の第2ピン71と同様に配列される。
【0062】
第2ピン71は、第2配列穴85に挿通される第2中間軸75と、第2中間軸75の長手方向一端に取り外し可能に取り付けられる第2ヘッド76と、第2中間軸75の長手方向他端に設けられる第2フランジ77と、を含んでもよい。第2ピン71は、第2ヘッド76をガラス板9に向けて設けられる。
【0063】
第2ヘッド76は、下に凸のドーム状の曲面72を含み、その曲面72でガラス板9を上から押す。隣り合う第2ヘッド76は、その側面73で押し付け合わされる。第2ヘッド76は、取り外し可能であるので、破損しても交換できる。
【0064】
例えば、第2ヘッド76は、曲面72とは反対向きの面に、ネジ穴78を含む。第2中間軸75は、ネジ穴78にねじ込まれるネジ軸を含む。これにより、第2ヘッド76は、第2中間軸75に取り外し可能に取付けられる。
【0065】
第2ヘッド76と第2フランジ77は、第2中間軸75が第2配列穴85から抜けるのを防止する。第2ヘッド76と第2フランジ77の各々の直径は、第2配列穴85の直径よりも大きい。
【0066】
第2ヘッド76は、ネジ穴78に続く中空穴79を更に含んでもよい。つまり、第2ヘッド76は、中空構造を有してもよい。第2ヘッド76の熱容量を低減でき、第2ヘッド76の昇温時間を短縮できる。
【0067】
第2外枠81及び第2可動キー82は、第2ピン71よりも、平均線膨張係数の低い材料で形成されてもよい。但し、第2外枠81及び第2可動キー82と、第2ピン71とは、同じ材料で形成されてもよい。
【0068】
第2ピン71、第2外枠81、又は第2可動キー82は、金属(例えば、ステンレス鋼、耐熱鋼、若しくは超硬合金)、セラミック(例えば炭化珪素、窒化ケイ素、若しくは石英)、又はカーボンなどで形成される。
【0069】
第2ピン71、第2外枠81、又は第2可動キー82は、母材と、母材の上に形成されるコーティング膜とを含んでもよく、複数の材料で形成されてもよい。コーティング膜は、母材の少なくとも一部を覆えばよい。
【0070】
ステップS102は、図9に示すように、各第2ピン71の先端を第2原型4Aの曲面41Aに当て、各第2ピン71のZ軸方向位置を調節し、固定することを含む。各第2ピン71のZ軸方向位置は、本実施形態では第2固定具8によって固定されるが、溶接などによって固定されてもよい。
【0071】
第2固定具8又は溶接などによって各第2ピン71のZ軸方向位置を固定すれば、第2転写型6をガラス板9の上に載せる前に、第2転写型6と第2原型4Aを分離でき、分離した第2原型4Aを再利用できる。従って、例えば複数枚のガラス板9の上に異なる第2転写型6を載せて、各ガラス板9を曲げ成形する場合に、第2原型4Aの数を削減できる。
【0072】
第2原型4Aは、第2転写型6とは異なり、加熱されない。それゆえ、第2原型4Aは、第2転写型6よりも、耐熱性の低い材料で形成でき、低コスト及び短期間で製造できる。第2原型4Aは、例えば3Dプリンターで製造され、その材料としては例えば樹脂が用いられる。なお、第2原型4Aは、切削加工、又は射出成形などで製造されてもよい。また、第2原型4Aの材料は、樹脂には限定されず、カーボン、又は金属(例えばステンレス鋼又はアルミニウムなど)であってもよい。
【0073】
第2原型4Aの曲面41Aは、単曲面でもよいし、複曲面でもよい。第2原型4Aの曲面41Aは、第1原型4の曲面41とは異なる曲率半径を有してもよい。より詳細には、第2原型4Aの曲面41Aは、第1原型4の曲面41よりも小さい曲率半径を有してもよい。
【0074】
ステップS103は、各第2ピン71のZ軸方向位置を固定したまま、各第2ピン71と第2原型4Aを分離することを含む。分離した第2原型4Aを再利用できる。従って、例えば複数枚のガラス板9の上に異なる第2転写型6を載せて、各ガラス板9を曲げ成形する場合に、第2原型4Aの数を削減できる。
【0075】
ステップS104は、図10に示すように、ステップS102で固定した各第2ピン71の先端(例えば第2ヘッド76)を下に向けて、第2転写型6をガラス板9の上に載せることを含む。第2転写型6は、ガラス板9を上から押す上型である。
【0076】
ステップS104は、第2転写型6とガラス板9の間に、耐熱布5Aを敷くことを含んでもよい。耐熱布5Aは、耐熱布5と同様に構成される。耐熱布5Aを敷くことで、第2ピン71の痕がガラス板9に付くのを抑制できる。なお、プレス機に取り付けた上型でガラス板9をプレス成形する場合も、ガラス板9の上に耐熱布5Aを敷いてもよい。
【0077】
第2固定具8は、第2外枠81に耐熱布5Aを取り付ける取付プレート87を含んでもよい。ステップS102で固定した各第2ピン71の先端に沿って耐熱布5Aを張ることができる。
【0078】
取付プレート87は第2外枠81に固定され、耐熱布5Aは複数のボルト88などで取付プレート87に取り付けられる。各ボルト88は、耐熱布5Aの貫通穴に挿通され、取付プレート87のボルト穴にねじ込まれる。
【0079】
なお、第1固定具3は、第1外枠31に耐熱布5を取り付ける取付プレートを含まないが、含んでもよい。後者の場合、第2転写型6がガラス板9を上から押すことで、ガラス板9の下に敷かれた耐熱布5がステップS102で固定した各第1ピン21の先端に沿って曲がる。なお、第2転写型6をガラス板9の上に載せる前に、ガラス板9の下に敷かれた耐熱布5は、取付プレートによって平坦に張られる。
【0080】
ステップS104は、第1転写型1に固定されたガイドロッド11を、第2転写型6に固定されたガイド穴61に挿入することで、第1転写型1に対して第2転写型6を鉛直方向に案内することを含んでもよい。第2転写型6の傾斜などを抑制できる。
【0081】
ガイドロッド11は、3本以上設けられ、それぞれ鉛直に立てて設けられる。ガイドロッド11ごとに、ガイド穴61が設けられる。なお、ガイドロッド11とガイド穴61の配置は逆でもよい。つまり、ガイドロッド11が第2転写型6に固定され、ガイド穴61が第1転写型1に固定されてもよい。
【0082】
ステップS105は、図11に示すように、ガラス板9を加熱し、ステップS102で固定した各第2ピン71の先端に沿ってガラス板9を曲げ成形することを含む。第2転写型6の重さでガラス板9をプレスでき、ガラス板9の全体を確実に曲げることができる。
【0083】
次に、図12を参照して、第1固定具3の変形例について説明する。上記実施形態の第1固定具3は、第1外枠31と第1可動キー32とで、隣り合う第1ピン21同士を押し付け合わせ、各第1ピン21のZ軸方向位置を固定する。これに対し、本変形例の第1固定具3は、第1配列プレート36と可動プレート37とで各第1ピン21のZ軸方向位置を固定する。
【0084】
可動プレート37には、第1配列プレート36と同様に、第1ピン21が1本ずつ挿通される挿通穴38が複数形成される。複数の挿通穴38は、複数本の第1ピン21と同様に配列される。各第1ピン21の長手方向と直交する方向に可動プレート37を移動させれば、第1配列プレート36と可動プレート37とで各第1ピン21を挟持でき、各第1ピン21のZ軸方向位置を固定できる。なお、第2固定具8も、本変形例の第1固定具3と同様に構成されてもよい。
【実施例
【0085】
次に、実験データについて説明する。例1~例6では、表1に示す条件以外、同じ条件でガラス板の曲げ成形を実施した。ガラス板は、ソーダライムガラスであった。曲げ成形前のガラス板は、X軸方向寸法が300mmであり、Y軸方向寸法が200mmであり、Z軸方向寸法(厚み)が1.8mmであった。曲げ成形後のガラス板の下面の目標曲面は、単曲面であった。その単曲面は、Y軸方向に対して垂直な断面形状が曲率半径900mmであり、X軸方向に対して垂直な断面形状が直線状であった。例1~例6は、いずれも実施例である。表1に、主な条件と、結果を示す。
【0086】
【表1】
表1において、転写型が下型のみであることは、ガラス板の自重のみでガラス板を曲げ成形したことを意味し、転写型が上下両型であることは、上型の重さとガラス板の自重でガラス板を曲げ成形したことを意味する。表1において、転写型が上下両型であって、耐熱布が有であることは、耐熱布を上下両型とガラス板の間に配置したことを意味する。ηは成形温度に相当する粘度(dPa・s)である。昇温速度は、室温から成形温度まで4時間で達するように設定した。成形時間は、ガラス板を成形温度で加熱した時間である。
【0087】
表1において、Raは日本工業規格JIS B0601:2013に記載の算術平均粗さであり、Waは日本工業規格JIS B0601:2013に記載の算術平均うねりである。Ra及びWaは、三鷹光器社製の非接触式三次元測定装置(NH-3MAS)を用いて測定した。測定ピッチは0.4μmであり、測定レンジは5000μmであった。Raは、カットオフ値を0.08mmに設定して算出した。Waは、カットオフ値を0.8mmに設定して算出した。
【0088】
ピン痕は、Raで評価した。Raが小さいほど、ピン痕が小さく、ピン痕の評価が良い。ピン痕の評価が「〇」であることは、Raが0μm以上0.002μm未満であることを表す。ピン痕の評価が「△」であることは、Raが0.002μm~0.006μmであることを表す。ピン痕の評価が「×」であることは、Raが0.006μm超であることを表す。
【0089】
うねりは、Waで評価した。Waが小さいほど、うねりが小さく、うねりの評価が良い。うねりの評価が「〇」であることは、Waが0μm以上0.0003μm未満であることを表す。うねりの評価が「△」であることは、Waが0.0003μm~0.001μmであることを表す。うねりの評価が「×」であることは、Waが0.001μm超であることを表す。
【0090】
表1において、PV(Peak to Valley)値は、実際の曲面と目標曲面との偏差の最大高低差であり、gom社製の3次元計測機ATOS(型番:ATOS Triple scan III)を用いて測定した。
【0091】
形状誤差は、PV値で評価した。PV値が小さいほど、形状誤差が小さく、形状誤差の評価が良い。形状誤差の評価が「〇」であることは、PV値が0mm以上0.5mm以下であることを表す。形状誤差の評価が「△」であることは、PV値が0.5mmよりも大きく1.5mm以下であることを表す。形状誤差の評価が「×」であることは、PV値が1.5mm超であることを表す。PV値が1.5mm以下であると、曲げガラスとしての意匠性を担保できる。PV値が0.5mm以下であると、車載用曲げガラスにおいて、車体との嵌合性を向上できる。
【0092】
例1~例6で得られたガラス板の透過像を、図13に示す。ガラス板の透過像は、ガラス板を基準としてスクリーンとは反対側に光源を設置し、スクリーンに映った像を撮像して得た。図13に示す透過像は、二値化処理したものである。透過像の黒色はピン痕を表す。
【0093】
例1~例2の結果から、ガラス板と転写型の間に耐熱布を敷くことで、ピン痕を小さくでき、且つうねりを小さくできる反面、形状誤差が大きくなることが分かる。形状誤差が大きいのは、耐熱布がガラス板の自重変形を妨げるからである。耐熱布としては、ステンレス鋼繊維からなる不織布を用いた。
【0094】
また、例1及び例3の結果から、ガラス板と転写型の間に耐熱布を敷いた場合であっても、転写型として上下両型を用いれば、上型の重さでガラス板をプレスでき、ガラス板の全体を確実に曲げることができ、形状誤差を低減できることが分かる。
【0095】
更に、例3~例5の結果から、成形温度を低くすれば、ピン痕を小さくでき、且つうねりを小さくできることが分かる。また、成形温度を低くしても、上型の重さでガラス板をプレスすれば、形状誤差の悪化を防止できることが分かる。
【0096】
次に、表2に、ガラス板を620℃で1200秒間加熱したときの、ピンピッチとPV値の関係を示す。表2に示す関係は、市販の解析ソフト(ABAQUS)を用いた粘弾性解析によって求めた。粘弾性解析に用いたガラスの物性を表3に示す。
【0097】
【表2】
【0098】
【表3】
表3に示す物性は、ソーダライムガラスの物性である。また、表2において、PV値は、曲げ成形後の実際の曲面と目標曲面との偏差の最大高低差である。目標曲面は、複曲面であった。その複曲面は、Y軸方向に垂直な断面形状が曲率半径900mmの曲線状であって、X軸方向に垂直な断面形状が曲率半径2000mmの曲線状であった。曲げ成形前のガラス板は、X軸方向寸法が82mmであり、Y軸方向寸法が43mmであり、Z軸方向寸法(厚み)が1.8mmであった。ピン先端面は、半径3mmの半球面であった。耐熱布の有無は「無」に設定した。
【0099】
表2から、PV値を1.5mm以下にするには、ピンピッチを30mm以下にすればよいことが分かる。また、PV値を0.5mm以下にするには、ピンピッチを20mm以下にすればよいことが分かる。
【0100】
以上、本開示に係るガラス板の製造方法、及び転写型について説明したが、本開示は上記実施形態などに限定されない。特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更、修正、置換、付加、削除、及び組み合わせが可能である。それらについても当然に本開示の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0101】
1 第1転写型
2 第1ピン群
21 第1ピン
3 第1固定具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13