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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】車両用ガラス装置
(51)【国際特許分類】
   B60S 1/02 20060101AFI20240925BHJP
   B60J 1/20 20060101ALI20240925BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20240925BHJP
   H05B 3/84 20060101ALI20240925BHJP
   H01Q 1/22 20060101ALN20240925BHJP
   H01Q 1/32 20060101ALN20240925BHJP
【FI】
B60S1/02 400Z
B60J1/20 C
B60J1/00 Z
H05B3/84
H01Q1/22 C
H01Q1/32 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021534016
(86)(22)【出願日】2020-07-20
(86)【国際出願番号】 JP2020028001
(87)【国際公開番号】W WO2021015155
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019137170
(32)【優先日】2019-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】上田 芳人
(72)【発明者】
【氏名】橋本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 文範
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-114484(JP,A)
【文献】特開昭52-147622(JP,A)
【文献】特開平08-213260(JP,A)
【文献】特開2016-030494(JP,A)
【文献】特開2015-095794(JP,A)
【文献】特開2019-016867(JP,A)
【文献】特開2010-154498(JP,A)
【文献】国際公開第2019/181623(WO,A1)
【文献】特開2016-063416(JP,A)
【文献】特開2004-193680(JP,A)
【文献】特開2009-033735(JP,A)
【文献】特開2016-195299(JP,A)
【文献】特開平03-082422(JP,A)
【文献】国際公開第2009/001798(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60S 1/02
B60J 1/00
B60J 1/20
H05B 3/84
H01Q 1/22
H01Q 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用のガラス板と、
前記ガラス板の平面視において、情報デバイスの信号を透過する透過領域に少なくとも一部が配置される電熱線と、前記電熱線に接続される第1端子及び第2端子とを含む電熱部と、
前記電熱部と接続する線条エレメントと、を備え、
前記線条エレメントは、第1接点を備える第1線条エレメントを有し、当該第1線条エレメントは、前記第1接点において前記電熱部と接続しており
前記第1線条エレメントは、導体部と容量結合する容量結合部を含み、開放端及び閉ループの少なくとも1つを含む形状であり、
前記電熱線から前記第1接点、前記第1線条エレメント前記容量結合部、前記導体部の順に高周波的に接続される経路が形成されている、
車両用ガラス装置。
【請求項2】
前記導体部は、前記第2端子、前記電熱線、及び前記ガラス板が取り付けられる車両の導電性ボディの端部の少なくとも1つを用いて構成される、請求項1に記載の車両用ガラス装置。
【請求項3】
前記第1接点は、前記第1端子に接続されている、請求項1又は2に記載の車両用ガラス装置。
【請求項4】
前記線条エレメントは、前記第1接点と異なる第2接点を備える第2線条エレメントをさらに備え、当該第2線条エレメントは、前記第2接点において前記電熱部と接続し、開放端及び閉ループの少なくとも1つを含む形状であり、
前記導体部は、前記第2端子、前記電熱線及び前記ガラス板が取り付けられる車両の導電性ボディの端部、及び前記第2線条エレメントの少なくとも1つを用いて構成される、請求項1~3のいずれか1項に記載の車両用ガラス装置。
【請求項5】
前記第2接点は、前記第2端子に含まれる、請求項4に記載の車両用ガラス装置。
【請求項6】
前記線条エレメントは、前記第1線条エレメントが前記第2線条エレメントを囲うようにして、互いに接続せずに前記容量結合部を形成する、請求項4又は5に記載の車両用ガラス装置。
【請求項7】
前記第1線条エレメントは、U字形状を含み、
前記第2線条エレメントの少なくとも一部は、前記U字形状の内部に延在する、請求項6に記載の車両用ガラス装置。
【請求項8】
前記第1端子はアース部であり、前記第2端子は給電部である、請求項1~7のいずれか1項に記載の車両用ガラス装置。
【請求項9】
前記容量結合部と、前記導体部とは、30mm以下の間隔で近接している、請求項1~8のいずれか1項に記載の車両用ガラス装置。
【請求項10】
前記容量結合部は、20mm以上の長さを有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の車両用ガラス装置。
【請求項11】
前記ガラス板は、平面視において、前記線条エレメントの少なくとも一部と重なるように設けられ、可視光を遮断する遮光部をさらに備える、請求項1~10のいずれか1項に記載の車両用ガラス装置。
【請求項12】
前記ガラス板は、前記車両用のフロントガラスである、請求項1~11のいずれか1項に記載の車両用ガラス装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ガラス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車には、フロントガラス(ウィンドシールド)、ダッシュボード等に、車内外の状況を記録するための撮像装置が標準的に取り付けられる傾向がある。また、撮像装置以外にも、衝突防止等の目的で車外の障害物を検知する等のセンサを含む安全機能を備える装置が自動車に導入されることも検討されている。
【0003】
撮像装置は、運転者の視界を妨げないように、例えば、フロントガラスの上部に取り付けられる構成が挙げられる。撮像装置が取り付けられるフロントガラスの撮像領域は、撮像装置が車外の状況をクリアに撮像するため、例えば、可視光を透過する透過領域内に配置される。また、当該撮像領域は、車外の気候の状況によっては、霜や氷が付着したり、曇りが生じたりしてしまうことがある。撮像領域に霜や氷が付着したり、曇りが生じたりしてしまうと、撮像装置が撮像した画像の品質は劣化してしまう。そこで、撮像装置が撮像する画像の品質劣化を防ぐために、撮像領域には、電熱線(ヒータ線)が配置される場合がある。電熱線(ヒータ線)は、直流電圧が印加され、電熱線の抵抗によって加熱されることにより、防氷、防曇の効果が得られる(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-114484号公報
【文献】米国特許第7731373号明細書
【文献】特表2019-512837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
撮像装置等は、内部に電子回路等を備えている。この電子回路は、動作時に設計上意図しない電磁波を発生し、この電磁波はいわゆるノイズである。ノイズは、電子回路から直接放射されるか、または、電子回路近傍の導体を介して車両内に伝わる。とくに、撮像装置においては、該装置のノイズが電熱線に伝わりやすく、これが電熱線に伝わると電熱線から再放射される。このような現象から、電熱線は、副次的(不可避的)に、所定の周波数のノイズを放射するノイズ発生源となってしまう。
【0006】
ここで、撮像装置の近傍には、例えば、AMやFM、欧州規格のDAB(Digital Audio Broadband)、DTV(Digital Television)等の2GHz未満の周波数帯域の放送波を受信するアンテナ(電装品)が集約される場合があり得る。電熱線(ヒータ線)から放射されるノイズは、例えば、上記の放送波の周波数帯域のノイズを含み得るため、放送波の受信感度を劣化させたり、また、放送波の周波数帯域以外の周波数帯域であっても、車車間通信のセンサ等に影響を及ぼしたりするおそれがあり、誤動作を引き起こす原因ともなりかねない。
【0007】
本発明は、簡便な構成で電熱線から放射されるノイズを低減できる車両用ガラス装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下[1]~[12]の構成を有する車両用ガラス装置を提供する。
[1]
車両用のガラス板と、
前記ガラス板の平面視において、情報デバイスの信号を透過する透過領域に少なくとも一部が配置される電熱線と、前記電熱線に接続される第1端子及び第2端子とを含む電熱部と、
前記電熱部と接続する線条エレメントと、を備え、
前記線条エレメントは、前記電熱部の第1接点と接続して延在する第1線条エレメントを有し、
前記第1線条エレメントは、導体部と容量結合する容量結合部を含み、開放端及び閉ループの少なくとも1つを含む形状である、車両用ガラス装置。
【0009】
[2]前記導体部は、前記第1端子、前記第2端子、前記電熱線、及び前記ガラス板が取り付けられる車両の導電性ボディの端部の少なくとも1つを用いて構成される、[1]に記載の車両用ガラス装置。
【0010】
[3]前記第1接点は、前記第1端子に含まれる、[1]又は[2]に記載の車両用ガラス装置。
【0011】
[4]
前記線条エレメントは、前記第1接点と異なる前記電熱部の第2接点と接続して延在し、開放端及び閉ループの少なくとも1つを含む形状である第2線条エレメントをさらに備え、
前記導体部は、前記第1端子、前記第2端子、前記電熱線及び前記ガラス板が取り付けられる車両の導電性ボディの端部、及び前記第2線条エレメントの少なくとも1つを用いて構成される、[1]~[3]のいずれか1項に記載の車両用ガラス装置。
【0012】
[5]前記第2接点は、前記第2端子に含まれる、[4]に記載の車両用ガラス装置。
【0013】
[6]前記線条エレメントは、前記第1線条エレメントが前記第2線条エレメントを囲うようにして、互いに接続せずに前記容量結合部を形成する、[4]又は[5]に記載の車両用ガラス装置。
【0014】
[7]
前記第1線条エレメントは、U字形状を含み、
前記第2線条エレメントの少なくとも一部は、前記U字形状の内部に延在する、[6]に記載の車両用ガラス装置。
【0015】
[8]前記第1端子はアース部であり、前記第2端子は給電部である、[1]~[7]のいずれか1項に記載の車両用ガラス装置。
【0016】
[9]前記容量結合部と、前記導体部とは、30mm以下の間隔で近接している、[1]~[8]のいずれか1項に記載の車両用ガラス装置。
【0017】
[10]前記容量結合部は、20mm以上の長さを有する、[1]~[9]のいずれか1項に記載の車両用ガラス装置。
【0018】
[11]前記ガラス板は、平面視において、前記線条エレメントの少なくとも一部と重なるように設けられ、可視光を遮断する遮光部をさらに備える、[1]~[10]のいずれか1項に記載の車両用ガラス装置。
【0019】
[12]前記ガラス板は、前記車両用のフロントガラスである、[1]~[11]のいずれか1項に記載の車両用ガラス装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一態様によれば、簡便な構成で電熱線から放射されるノイズを低減できる車両用ガラス装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1の実施形態(例1)にかかる車両用ガラス装置の構成例を示す全体概略図である。
図2】第1の実施形態(例1)にかかる車両用ガラス装置の構成例を示す拡大図である。
図3】第1の実施形態(例1)にかかる車両用ガラス装置、及びデフォルト構成の電波放射特性を示す図である。
図4】例2(比較例)にかかる車両用ガラス装置の構成例を示す図である。
図5】例2(比較例)にかかる車両用ガラス装置、及びデフォルト構成の電波放射特性を示す図である。
図6】例3にかかる車両用ガラス装置の構成例を示す図である。
図7】例3にかかる車両用ガラス装置の電波放射特性、及びデフォルト構成の電波放射特性を示す図である。
図8】例4にかかる車両用ガラス装置の構成例を示す図である。
図9】例4にかかる車両用ガラス装置の電波放射特性、及びデフォルト構成の電波放射特性を示す図である。
図10】例5にかかる車両用ガラス装置の構成例を示す図である。
図11】例5にかかる車両用ガラス装置の電波放射特性、及びデフォルト構成の電波放射特性を示す図である。
図12】例6にかかる車両用ガラス装置の構成例を示す図である。
図13】例6にかかる車両用ガラス装置の電波放射特性、及びデフォルト構成の電波放射特性を示す図である。
図14】例7にかかる車両用ガラス装置の構成例を示す図である。
図15】例7にかかる車両用ガラス装置の電波放射特性、及びデフォルト構成の電波放射特性を示す図である。
図16】第1の実施形態の変形例にかかる車両用ガラス装置の構成例を示す図である。
図17】第1の実施形態の変形例にかかる車両用ガラス装置の構成例を示す図である。
図18】第2の実施形態(例8)にかかる車両用ガラス装置の構成例を示す図である。
図19】第2の実施形態(例8)にかかる車両用ガラス装置、及びデフォルト構成の電波放射特性を示す図である。
図20】例9にかかる車両用ガラス装置の構成例を示す図である。
図21】例9にかかる車両用ガラス装置の電波放射特性、及びデフォルト構成の電波放射特性を示す図である。
図22】第3の実施形態(例10)にかかる車両用ガラス装置の構成例を示す図である。
図23】第3の実施形態(例10)にかかる車両用ガラス装置、及びデフォルト構成の電波放射特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。但し、本発明が以下の実施形態に限定されない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。また、各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。なお、各実施形態において、平行、水平、垂直などの方向には、本発明の効果を損なわない程度のずれが許容される。
【0023】
(第1の実施形態)
図1及び図2を用いて、第1の実施形態にかかる車両用ガラス装置100の構成例について説明する。
[例1]
図1は、第1の実施形態(例1)にかかる車両用ガラス装置の構成例を示す全体概略図であり、フロントガラスが自動車に取り付けられた状態の車外視の図である。図2は、第1の実施形態(例1)にかかる車両用ガラス装置の構成例を示す拡大図である。
【0024】
車両用ガラス装置100は、自動車等の車両の窓ガラスに配置される装置である。図1に示すように、車両用ガラス装置100は、例えば、自動車のフロントガラスに配置される。車両用ガラス装置100は、ガラス板1と、電熱部10と、線条エレメント20とを備える。
【0025】
ガラス板1は、車両用ガラス装置100が配置される窓ガラスであり、例えば、車両用のフロントガラスである。ガラス板1は、車両の導電性ボディ2に取り付けられており、車体筐体に形成されたボディフランジに固定される。なお、導電性ボディ2は、主に金属ボディが挙げられるが、導電性を有する材料であれば金属に限らずカーボン等でもよい。図1において、ガラス板1の中央上部の車内側には、図示しない撮像装置等の情報デバイスが備えられる。そして、ガラス板1は、情報デバイスの信号を透過するための透過領域Rが設けられる。なお、図1図2において、透過領域Rは、上辺の長さよりも下辺の長さが長い六角形の領域を例示しているが、透過領域Rは任意の形状に設定できる。
【0026】
ここで、透過領域Rは、車内に設置された情報デバイスが、車外からガラス板1を透過して電波を受信したり、車外へガラス板1を透過して信号を送信したりするときに、ガラス板1において、少なくとも該信号の透過領域を含む領域として定義できる。また、図1に示すように、車両用ガラス装置100は、平面視において、ガラス板1の透過領域Rの周辺に可視光を遮断する遮光部3を有してもよい。この場合、透過領域Rは、電熱線11を含むとともに遮光部3の内縁で囲まれた領域として定義してもよい。なお、図1に示すように、遮光部3は、ガラス板1の平面視で透過領域Rを囲うとともに、ガラス板1の全ての外周縁から内側に所定の幅を有する連続的な領域を例示できるが、この構成に限らない。また、遮光部3は、後述する各例の線条エレメントの少なくとも一部と重なるように配置されると、線条エレメントが視認されにくくなることで見栄えがよくなり好ましく、線条エレメント全てと重なるように配置されるとより好ましい。さらに、視認されにくい効果を高めるために、遮光部3は、後述する給電部12とアース部13の少なくとも一方と重なるとより好ましく、給電部12とアース部13の両方と重なるとさらに好ましい。
【0027】
また、遮光部3は、具体的にガラス板1の面に遮光膜が形成され、該遮光膜としては、例えば、黒色セラミックス等のセラミックスを使用できる。とくに、ガラス板1がフロントガラスの場合、ガラス板1は、第1のガラス板と第2のガラス板で中間膜を挟んだ、いわゆる合わせガラスが用いられる。中間膜としては、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)等が使用できる。また、ガラス板1が合わせガラスであって、ガラス板1の車外から車内に向かって、第1のガラス板、中間膜および第2のガラス板がこの順に積層されている場合、遮光膜は、第2のガラス板の車内側(中間膜とは反対側)の表面、および/または、第1のガラス板の中間膜側の表面に形成できる。なお、本明細書では、ガラス板1は、車両用のフロントガラスとして記載をするが、フロントガラス以外の車両用の窓ガラス(例えば、リアガラス)でもよい。さらに、透過領域Rは、ガラス板1の中央上部の場所に設けられることとして記載をするが、ガラス板1の中央上部以外の場所に設けられてもよい。
【0028】
次に、図2を参照して、電熱部10及び線条エレメント20について説明する。図2は、図1に示す車両用ガラス装置100のうち、透過領域R、電熱部10及び線条エレメント20が含まれる部分を拡大した図である。なお、以降の説明において、方向を示す記載が含まれるが、当該方向は、ガラス板1の平面視における方向を示している。
【0029】
電熱部10は、透過領域Rの防氷及び防曇を目的として設けられ、電熱線11と、給電部12と、アース部13とを含む。なお、本明細書において、給電部12とアース部13の組合せは、第1端子と第2端子ともいう。つまり、第1端子が給電部12であれば、第2端子がアース部13であり、第1端子がアース部13であれば、第2端子が給電部12である。電熱線11は、少なくとも一部が透過領域Rに配置される。なお、ガラス板1の平面視における電熱線11の配置パターンは、透過領域Rの大きさや外縁形状に応じ、防氷及び防曇効果を発揮するとともに、例えば、情報デバイスとして可視光の映像信号を受信する撮像装置への映り込みが無視できる程度の密度で適宜配置できる。電熱線11は、給電部12から直流電圧が印加され、電熱線11の抵抗によって加熱されることで、透過領域Rを加熱する。また、給電部12およびアース部13は、図示しない電気配線(ハーネス等)を介して、透過領域R近傍から離れて配置される直流電源へ接続される。なお、アース部13に接続される側のアース部側電気配線は、直流電源付近に接続してアースを取る配置でもよく、導電性ボディ2の任意の位置に接続してアースを取る配置でもよい。電熱線11は、図示しない撮像装置等の情報デバイス内の電子回路等からノイズが入力されると、入力されたノイズは、電熱線11を介して再放射される。
【0030】
次に、透過領域Rの近傍に、FM、DAB、及びDTVの周波数帯域の放送波を受信するアンテナが配置される構成について考える。電熱線11を介して放射される電波は、例えば、FM、DAB及びDTVの放送波を受信するアンテナ等に対するノイズとなり得る。FMの周波数帯域は、76MHz~108MHzであり、DAB(Band III)の周波数帯域は、174MHz~240MHzであり、DTVの周波数帯域は、470MHz~710MHzである。なお、以降の説明において、76MHz~108MHz、174MHz~240MHz及び470MHz~710MHzをあわせた周波数帯域を「放送波の周波数帯域」と称する。なお、DABは、「Band III」(174MHz~240MHz)と「L-Band」(1452MHz~1492MHz)の規格があるが、本明細書ではとくにことわりがない場合、「Band III」の周波数帯域として説明する。
【0031】
なお、透過領域Rの近傍に配置されるアンテナは、上記放送波用に限らず、760MHzの周波数帯域のITS(Intelligent Transport Systems)用のアンテナでもよく、4G LTE(Long Term Evolution)から5G-sub6の周波数帯域の通信インフラの利用に合わせたアンテナでもよい。4G LTE用アンテナとしては、4G LTEのグローバルで使用される周波数帯として698MHz~960MHz、1790MHz~2690MHzの電波を送受するアンテナが例示できる。また、5G-sub6として、5.9GHzの周波数帯を送受し車車間通信および路車間通信に用いられるV2X(Vehicle to Everything)対応アンテナ、C(Cellular)-V2X対応アンテナも例示できる。このように、透過領域Rの近傍に配置されるアンテナは、4Gから5G-sub6までの700MHz~6GHzにわたる任意の周波数帯の電波を送受できるアンテナが挙げられる。さらに、透過領域Rの近傍に配置されるアンテナは、5Gとして6GHz以上の周波数帯域の電波を送受する、高速かつ大容量の通信インフラの利用に合わせたC2X対応アンテナでもよく、例えば、28GHzの周波数帯の電波を送受するアンテナでもよい。
【0032】
電熱線11は、透過領域Rを加熱するように配置されており、ガラス板1を車両に取り付けた際に、透過領域Rがガラス板1の上部に位置するとき、例えば、次のように配置できる。電熱線11は、給電部12から垂直方向の下向きに延び、点11aから水平方向に透過領域R内に向けて延びている。電熱線11は、透過領域R内では、点11aから点11bまで、直線状のパーツがS字状に連結された形状となっており、点11bから点11cまでは、透過領域Rの外縁と略平行に配置される。電熱線11は、点11cからアース部13に向けて垂直方向の上向きに延びて配置される。なお、電熱線11は、透過領域Rを加熱するように配置されていればよいため、上記のような形状に限らない。なお、ガラス板1が合わせガラスの場合、例えば、電熱線11は、第2のガラス板の中間膜とは反対側の表面(車内側の表面)に配置できる。また、ガラス板1が、第2のガラス板の中間膜とは反対側の表面、および/または、第1のガラス板の中間膜側の表面に遮光膜が形成される場合も、電熱線11は、第2のガラス板の中間膜とは反対側の表面(車内側の表面)に配置できる。
【0033】
給電部12およびアース部13は、電熱線11と接続する端子であり、これらの端子間に電位差を与え、電熱線11に直流電圧を印加する。なお、図1図2において、電熱線11が加熱できれば、給電部12とアース部13との位置が置き換わった構成でもよい。
【0034】
線条エレメント20は、非加熱性のエレメント(導線)であり、上記の端子間に直流電圧が印加されても直流電流が流れないエレメントである。図2の例では、線条エレメント20は、それの一端である(電熱部10との)第1接点がアース部13に接続されており、他端が開放端となっている。なお、本実施形態では、線条エレメント20の一端がアース部13に接続される構成として説明するが、線条エレメント20の一端が給電部12に接続される構成でもよい。つまり、線条エレメント20は、給電部12及びアース部13のうち、いずれか一方の端子と接続される構成でもよい。さらに、線条エレメント20の一端、つまり第1接点は、電熱部10に位置していればよく、給電部12及びアース部13に限らず、電熱線11に位置してもよく、以降の実施形態においても、給電部12及びアース部13に限らず、電熱線11に第1接点を位置させてもよい。また、本実施形態の車両用ガラス装置100において、(第1接点と接続する)1つのみ存在する線条エレメント20は、「第1線条エレメント」又は、単に「線条エレメント」ともいう。
【0035】
例1において、線条エレメント20は、L字状の形状をしており、一部が導電性ボディ2の端部2aと、例えば、30mm以下で導電性ボディ2と接しない間隔で近接して配置される。具体的には、線条エレメント20は、点20aを線条エレメント20と電熱部10との接点(第1接点)とし、点20aから点20bまで垂直方向に導電性ボディ2の端部2aに近づく方向に延在し、点20bから点20cまで導電性ボディ2の端部2aと近接して、アース部13から遠ざかる方向で水平方向に延在している。
【0036】
線条エレメント20のうち、導電性ボディ2の端部2aと近接する部分(点20bから点20cまでの部分)は、容量結合部21を構成する。つまり、導電性ボディ2の端部2aは導体部を構成し、線条エレメント20の容量結合部21は、該導体部と所定の容量値により容量結合される。換言すると、容量結合部21は、導電性ボディ2の端部2aを導体部として高周波的に接続されており、導電性ボディ2との間隔が0mm超30mm以下の部分として定義できる。
【0037】
このように、車両用ガラス装置100は、容量結合部21を設けることで、発生したノイズが容量結合部21を介して導電性ボディ2に高周波的に接続されるため、電熱線11から(再)放射されるノイズを低減できる。具体的には、不図示の直流電源は、不図示の電気配線(ハーネス等)を介して給電部12、アース部13に接続されるが、線条エレメント20を配置することで、下記(1)に加え、下記(2)を含む経路によって放射ノイズを低減できる。ここで、下記(1)の経路に記載する「接地導体」とは、車両の金属ボディ等のアース電位と等価となる任意の導体部分を指す。
(1)(直流電源と給電部12を接続する)電気配線、給電部12、電熱線11、アース部13、そして(アース部13から接地導体へ接続する)電気配線の順に接続される経路
(2)(直流電源と給電部12を接続する)電気配線、給電部12、電熱線11、線条エレメント20(容量結合部21)そして車両の導電性ボディ2の順に接続される経路
【0038】
なお、ガラス板1の平面視において、導電性ボディ2の端部2aは、ガラス板1の端部よりも内側に配置されて、線条エレメント20の容量結合部21が導電性ボディ2に隠れる場合がある。この場合でも、容量結合部21と導電性ボディ2とは、ガラス板1の厚さ方向に間隙を有するので、この間隙が0mm超30mm以下であればよい。容量結合部21は、例えば、20mm以上の長さを有しており、電熱線11の配置及び電熱線11の長さにより、容量結合部21の長さを適宜調整できる。容量結合部21の長さは、20mm以上が好ましく、50mm以上がより好ましい。また、容量結合部21の長さはとくに制限はないが、線条エレメント20が必要以上に長くならない程度であればよく、例えば600mm以下であればよい。なお、容量結合部21と導電性ボディ2の端部2aとの間隔は、0mm超20mm以下が好ましく、0mm超10mm以下がより好ましい。なお、導体部と容量結合部21との間隔、容量結合部21の長さについては、後述する各例、各実施形態においても同様の範囲で設定するとよい。
【0039】
次に、車両用ガラス装置100の電波放射特性について説明する。車両用ガラス装置100の電波放射特性を評価するため、線条エレメント20を備える車両用ガラス装置100と、車両用ガラス装置100に対して、線条エレメント20を有さない構成との電波放射特性を比較して説明する。なお、以降の説明において、車両用ガラス装置100に対して、線条エレメント20を有さない構成、すなわち、ガラス板1に電熱部10のみ有する構成を「デフォルト構成」と称する。
【0040】
ここで、車両用ガラス装置100と、デフォルト構成との特性を比較するため、50MHzから1600MHzまでの周波数帯域におけるS11パラメータの値をシミュレーションで算出し、算出されたS11パラメータの値を電波放射特性とした。具体的に、車両用ガラス装置100と、デフォルト構成とについて、給電部12から電熱線11に入力される信号の電力と、アース部13から出力される信号の電力とに基づいて、上記周波数帯域におけるS11パラメータの値を算出した。
【0041】
まず、50MHz~1600MHzまでの周波数帯域のうち、上記に定義した「放送波の周波数帯域」において、電熱線11から放射されるノイズの大きさを確認するために、S11パラメータの閾値を-3dBとして設定した。そして、車両用ガラス装置100と、デフォルト構成とについて、S11パラメータの値が閾値以下となる周波数帯域の合計値を算出することで、車両用ガラス装置100(線条エレメント20)の効果を評価した。なお、図2の車両用ガラス装置100における線条エレメント20は、具体的に、以下のように設定した。
点20a~点20bの距離:75mm
点20b~点20c(容量結合部21)の距離:300mm
容量結合部21と導電性ボディ2の端部2aとの間隔:10mm
【0042】
また、電熱部10は、各々以下のような配置とした。なお、電熱部10の配置については、後述の[例2]以降も同じである。
導電性ボディ2の端部2a~給電部12の距離:60mm
導電性ボディ2の端部2a~アース部13の距離:85mm
給電部12の領域:21mm×14mm
アース部13の領域:21mm×14mm
給電部12~点11aの距離:65mm
アース部13~点11cの距離:30mm
点11a~点11cの距離:950mm
透過領域Rにおける電熱線11の上下(垂直)方向の長さ:160mm
透過領域Rにおける電熱線11の左右(水平)方向の長さ:200mm
【0043】
図3は、第1の実施形態(例1)にかかる車両用ガラス装置100の電波放射特性(実施例)、及びデフォルト構成の電波放射特性(比較例)を示す図である。なお、放送波の周波数帯域の電波放射特性を確認するために、図3には、放送波の周波数帯域を含む70MHz~720MHzの電波放射特性のみを記載している。また、以降に示す電波放射特性の図についても同様に、放送波の周波数帯域を含む70MHz~720MHzの電波放射特性のみを記載し、その他の周波数範囲については図示を省略する。
【0044】
図3において、実線は、車両用ガラス装置100の電波放射特性を示す線であり、点線は、デフォルト構成の電波放射特性を示す線である。なお、後述する電波放射特性を示す図(グラフ)についても、実線は各例にかかる車両用ガラス装置の電波放射特性を示し、点線はデフォルト構成の電波放射特性を示す。横軸は周波数を示しており、縦軸はS11パラメータの値を示している。図3に示すように、本例の車両用ガラス装置100のS11パラメータの値は、とくにFMの周波数帯域において、デフォルト構成のS11パラメータの値よりも全体的に大きい。S11パラメータの値が大きいことは、電熱線11からノイズの放射が小さいことを表しており、本例の車両用ガラス装置100は、とくにFMの周波数帯域において、デフォルト構成よりもノイズを低減できる。
【0045】
この結果に基づくと、車両用ガラス装置100について、放送波の周波数帯域のうち、S11パラメータの値が-3dBの閾値以下となる周波数帯域の合計値は74MHzであった。一方、デフォルト構成について、放送波の周波数帯域のうち、閾値以下となる周波数帯域の合計値は95MHzであった。ここで、閾値以下となる周波数帯域の合計値が小さいほど、電熱線11からのノイズ放射が少ないことを表しており、線条エレメント20を備える車両用ガラス装置100は、デフォルト構成よりも算出した合計値が小さく、ノイズを低減できる。
【0046】
ここで、図4及び図5を用いて、比較例である例2にかかる車両用ガラス装置110について説明する。
[例2](比較例)
図4は、例2にかかる車両用ガラス装置110の構成例を示す図であり、図2に対応する部分拡大図である。図5は、例2にかかる車両用ガラス装置110、及びデフォルト構成の電波放射特性を示す図である。
【0047】
図4に示すように、例2にかかる車両用ガラス装置110は、車両用ガラス装置100と同様に、電熱部10及び線条エレメント30を備える。なお、図4及び以降の車両用ガラス装置の構成例を示す図において、簡略化するために、透過領域R及び遮光部3の図示を省略する。線条エレメント30は、一端が給電部12に接続され水平方向に延在しており、他端が開放端となっている。線条エレメント30は、線条エレメント20と異なり、導電性ボディ2の端部2aに近接して配置されておらず、容量結合部を備えない構成である。なお、図4の車両用ガラス装置100における線条エレメント30は、具体的に、以下のように設定した。
線条エレメント30の長さ:150mm
線条エレメント30と導電性ボディ2の端部2aとの間隔:60mm
【0048】
図5は、比較例である例2にかかる車両用ガラス装置110及びデフォルト構成の電波放射特性を示す図である。図5に示すように、車両用ガラス装置110は、デフォルト構成と同様の電波放射特性となった。つまり、車両用ガラス装置110は、車両用ガラス装置100がノイズを低減可能なFMの周波数帯域において、顕著にノイズを低減できない。このように、車両用ガラス装置110は、線条エレメント30を備える構成であるが、容量結合部を有さない構成であるため、車両用ガラス装置100よりも顕著にノイズを低減できない。
【0049】
次に、比較例である例2にかかる車両用ガラス装置110について、例1と同様に、放送波の周波数帯域において、S11パラメータの値が-3dBの閾値以下となる周波数帯域の合計値を算出した。この結果に基づくと、放送波の周波数帯域において、車両用ガラス装置110のS11パラメータの値が閾値以下となる周波数帯域の合計値は90MHzであった。車両用ガラス装置110は、線条エレメント30を備える構成であるが、容量結合部を有さない構成であるため、車両用ガラス装置100と比較しても顕著にノイズを低減できない。
【0050】
以上説明したように、例1(実施例)、例2(比較例)について要約すると、車両用ガラス装置100は、線条エレメント20を備え、線条エレメント20が容量結合部21を備える構成であるため、電熱線11から放射されるノイズを低減できる。一方で、車両用ガラス装置110は、線条エレメント30が容量結合部を備えない構成であるため、電熱線11から放射されるノイズを顕著に低減できない。
【0051】
以下、第1の実施形態にかかる車両用ガラス装置100の他の構成例を説明する。
[例3]
図6は、例3にかかる車両用ガラス装置120の構成例を示す図であり、図2に対応する部分拡大図である。図7は、例3にかかる車両用ガラス装置120の電波放射特性、及びデフォルト構成の電波放射特性を示す図である。
【0052】
図6に示すように、車両用ガラス装置120は、電熱部10と、線条エレメント40とを備える。線条エレメント40は、「第1線条エレメント」又は、単に「線条エレメント」ともいう。線条エレメント40は、一端がアース部13に接続され、他端が開放端となっている。つまり、線条エレメント40と電熱部10との接点はアース部13に含まれており、線条エレメント40は、開放端を有する形状をしている。線条エレメント40は、線条エレメント20と同様に、一部が導電性ボディ2の端部2aと近接する部分(導体部)と容量結合する容量結合部41を構成する。
【0053】
線条エレメント40は、線条エレメント20と異なり、容量結合部41を構成する部分に開放端が含まれず、容量結合部41からさらに線条エレメントが延在する構成であり、略C字状の形状をしている。具体的には、線条エレメント40は、点40aを線条エレメント40と電熱部10との接点とし、点40aから点40bに向けて垂直方向に導電性ボディ2の端部2aに近づく方向に延在する。そして、線条エレメント40は、点40bから点40cまで水平方向に導電性ボディ2の端部2aと近接してアース部13から遠ざかる方向に延在し、点40bから点40cまでの部分が容量結合部41を構成する。さらに、線条エレメント40は、点40cから点40dまで垂直方向に導電性ボディ2の端部2aから遠ざかる方向に延在し、点40dから点40eまで水平方向にアース部13に近づく方向に延在している。なお、図6の車両用ガラス装置120における線条エレメント40は、具体的に、以下のように設定した。
点40a~点40bの距離:75mm
点40b~点40c(容量結合部41)の距離:300mm
容量結合部41と導電性ボディ2の端部2aとの間隔:10mm
点40c~点40dの距離:150mm
点40d~点40eの距離:100mm
【0054】
図7に示すように、車両用ガラス装置120のS11パラメータの値は、FMの周波数帯域において全体的にデフォルト構成のS11パラメータの値よりも大きい。すなわち、車両用ガラス装置120は、FMの周波数帯域においてデフォルト構成よりもノイズを低減できる。このように、車両用ガラス装置120が備える線条エレメント40が、容量結合部41を構成する部分からさらに延在する(略C字状の)構成としても、車両用ガラス装置100と同様に、簡便な構成で電熱線11から放射されるノイズを低減できる。
【0055】
この結果に基づくと、車両用ガラス装置120について、放送波の周波数帯域のうち、S11パラメータの値が-3dBの閾値以下となる周波数帯域の合計値は61MHzであった。上記のように、デフォルト構成では、S11パラメータの値が閾値以下となる周波数帯域の合計値は95MHzであるため、車両用ガラス装置120は、電熱線11から放射されるノイズを低減できる。
【0056】
[例4]
図8は、例4にかかる車両用ガラス装置130の構成例を示す図であり、図2に対応する部分拡大図である。図9は、例4にかかる車両用ガラス装置130の電波放射特性、及びデフォルト構成の電波放射特性を示す図である。
【0057】
図8に示すように、車両用ガラス装置130は、電熱部10と、線条エレメント50とを備える。線条エレメント50は、「第1線条エレメント」又は、単に「線条エレメント」ともいう。線条エレメント50は、一端がアース部13に接続され、他端が開放端となっている。線条エレメント50は、線条エレメント20と同様に、一部が導電性ボディ2の端部2aと近接する部分(導体部)と容量結合する容量結合部51を構成する。
【0058】
線条エレメント50は、線条エレメント20と形状が異なり、略J字状又は略C字状の形状をしている。具体的には、線条エレメント50は、点50aを線条エレメント50と電熱部10との接点とし、点50aから点50bに向けて水平方向に延在する。そして、線条エレメント50は、点50bから点50cまで垂直方向に導電性ボディ2の端部2aに近づく方向に延在し、点50cから点50dまで水平方向に導電性ボディ2の端部2aと近接しながら延在している。線条エレメント50は、透過領域R(電熱部10)の上部において導電性ボディ2の端部2aと近接し、点50cから点50dまでの部分が容量結合部51を構成する。なお、図8の車両用ガラス装置130における線条エレメント50は、具体的に、以下のように設定した。
点50a~点50bの距離:100mm
点50b~点50cの距離:75mm
点50c~点50d(容量結合部51)の距離:200mm
容量結合部51と導電性ボディ2の端部2aとの間隔:10mm
【0059】
図9に示すように、車両用ガラス装置130のS11パラメータの値は、FMの周波数帯域において、デフォルト構成のS11パラメータの値よりも大きい。すなわち、車両用ガラス装置130は、車両用ガラス装置100と同様に、FMの周波数帯域では、デフォルト構成よりもノイズを低減できる。
【0060】
この結果に基づくと、車両用ガラス装置130について、放送波の周波数帯域のうち、S11パラメータの値が-3dBの閾値以下となる周波数帯域の合計値は58MHzであった。上記のようにデフォルト構成では、S11パラメータの値が閾値以下となる周波数帯域の合計値は95MHzであるため、車両用ガラス装置130は、電熱線11から放射されるノイズを低減できる。
【0061】
[例5]
図10は、例5にかかる車両用ガラス装置の構成例を示す図であり、図2に対応する部分拡大図である。図11は、例5にかかる車両用ガラス装置の電波放射特性、及びデフォルト構成の電波放射特性を示す図である。
【0062】
図10に示すように、車両用ガラス装置140は、電熱部10と、線条エレメント60とを備える。線条エレメント60は、「第1線条エレメント」又は、単に「線条エレメント」ともいう。車両用ガラス装置140は、例4にかかる車両用ガラス装置130とほぼ同様の構成をしている。線条エレメント60は、線条エレメント50と異なり、給電部12に接続された構成をしている。つまり、線条エレメント60は、点60aを線条エレメント60と電熱部10との接点として給電部12に接続されている。線条エレメント60の形状は、例4にかかる車両用ガラス装置130における線条エレメント50と同様の形状をしているため説明を割愛する。なお、線条エレメント60も、線条エレメント50と同様に導電性ボディ2の端部2aと一部が近接して配置されており、導電性ボディ2の端部2aを導体部として当該導体部と容量結合する容量結合部61を構成する。なお、図10の車両用ガラス装置140における線条エレメント60は、具体的に、以下のように設定した。
点60a~点60bの距離:200mm
点60b~点60cの距離:50mm
点60c~点60d(容量結合部61)の距離:300mm
容量結合部61と導電性ボディ2の端部2aとの間隔:10mm
【0063】
図11に示すように、車両用ガラス装置140のS11パラメータの値は、FMの周波数帯域のうち、80MHz付近及び100MHz付近、DAB周波数帯域のうち230MHz付近において、デフォルト構成のS11パラメータの値よりも大きい。このように、線条エレメント50と電熱部10との接点が、アース部13ではなく、給電部12に含まれる構成としても、車両用ガラス装置100と同様の効果を有する。
【0064】
この結果に基づくと、車両用ガラス装置140について、放送波の周波数帯域のうち、S11パラメータの値が-3dBの閾値以下となる周波数帯域の合計値は35MHzであった。上記のようにデフォルト構成では、S11パラメータの値が閾値以下となる周波数帯域の合計値は95MHzであるため、車両用ガラス装置140は、電熱線11から放射されるノイズを低減できる。
【0065】
[例6]
図12は、例6にかかる車両用ガラス装置の構成例を示す図であり、図2に対応する部分拡大図である。図13は、例6にかかる車両用ガラス装置の電波放射特性、及びデフォルト構成の電波放射特性を示す図である。
【0066】
図12に示すように、車両用ガラス装置150は、電熱部10と、線条エレメント70とを備える。線条エレメント70は、「第1線条エレメント」又は、単に「線条エレメント」ともいう。線条エレメント70は、アース部13に接続されており、アース部13との接点のみに接続された閉ループを含む形状をしている。具体的には、線条エレメント70は、点70aを線条エレメント70と電熱部10との接点とし、点70aから点70bに向けて垂直方向に導電性ボディ2の端部2aに近づく方向に延在し、点70bから点70cに向けて導電性ボディ2の端部2aに近接して水平方向に延在している。線条エレメント70は、点70cから点70dに向けて垂直方向に導電性ボディ2の端部2aから遠ざかる方向に延在し、点70dから点70aに向けて水平方向に延在し、長方形状の閉ループを形成している。
【0067】
線条エレメント70は、線条エレメント20と同様に、一部が導電性ボディ2の端部2aと近接する点70bから点70cまでの部分が導体部と容量結合する容量結合部71を構成する。なお、図12の車両用ガラス装置150における線条エレメント70は、具体的に、以下のように設定した。
点70a~点70bの距離:75mm
点70b~点70c(容量結合部71)の距離:300mm
点70c~点70dの距離:75mm
点70d~点70aの距離:300mm
容量結合部71と導電性ボディ2の端部2aとの間隔:10mm
【0068】
図13に示すように、車両用ガラス装置150のS11パラメータの値は、FMの周波数帯域において全体的にデフォルト構成のS11パラメータの値よりも大きい。すなわち、車両用ガラス装置150は、FMの周波数帯域においてデフォルト構成よりもノイズを低減できる。このように、車両用ガラス装置150が備える線条エレメント70が閉ループを含む形状に構成しても、電熱線11から放射されるノイズを低減できる。
【0069】
この結果に基づくと、車両用ガラス装置150について、放送波の周波数帯域のうち、S11パラメータの値が-3dBの閾値以下となる周波数帯域の合計値は56MHzであった。上記のようにデフォルト構成では、S11パラメータの値が閾値以下となる周波数帯域の合計値は95MHzであるため、車両用ガラス装置150は、電熱線11から放射されるノイズを低減できる。
【0070】
[例7]
図14は、例7にかかる車両用ガラス装置の構成例を示す図であり、図2に対応する部分拡大図である。図15は、例7にかかる車両用ガラス装置の電波放射特性、及びデフォルト構成の電波放射特性を示す図である。
【0071】
図14に示すように、車両用ガラス装置160は、電熱部10と、線条エレメント80とを備える。線条エレメント80は、「第1線条エレメント」又は、単に「線条エレメント」ともいう。線条エレメント80は、一端が給電部12に接続し、他端が開放端を有する形状をしている。具体的には、線条エレメント80は、点80aを線条エレメント80と電熱部10との接点とし、点80aから点80bまで水平方向に延在し、点80bから点80cまで垂直方向に導電性ボディ2の端部2aから遠ざかる方向に延在している。また、線条エレメント80は、点80cから点80dまで水平方向にアース部13に近づく方向に延在し、点80dから点80eまで、電熱線11の一部と略平行に配置されている。
【0072】
このように、車両用ガラス装置160は、電熱線11の一部と容量結合する容量結合部81を有することで、下記(1)に加え、下記(2)を含む経路によって、電熱線11から(再)放射されるノイズを低減できる。
(1)(直流電源と給電部12を接続する)電気配線、給電部12、電熱線11、アース部13、そして(アース部13から接地導体へ接続する)電気配線の順に接続される経路
(2)(直流電源と給電部12を接続する)電気配線、給電部12、線条エレメント80(容量結合部81)、電熱線11の一部、アース部13そして(アース部13から接地導体へ接続する)電気配線の順に接続される経路
【0073】
線条エレメント80は、ハッチングされた部分(点80dから点80eまでの部分)が電熱線11と容量結合する容量結合部81を構成する。なお、図14の車両用ガラス装置160における線条エレメント80は、具体的に、以下のように設定した。
点80a~点80bの距離:55mm
点80a~点80bのエレメントと導電性ボディ2の端部2aとの間隔:60mm
点80b~点80cの距離:47mm
点80c~点80dの距離:35mm
点80d~点80e(容量結合部81)の距離:150mm
容量結合部81と電熱線11との間隔:10mm
【0074】
図15は、例7にかかる車両用ガラス装置160及びデフォルト構成の電波放射特性を示す図である。図15に示すように、車両用ガラス装置160のS11パラメータの値は、DTVの周波数帯域のうち、470MHz~500MHz、600MHz付近及び650MHz~710MHzにおいて、デフォルト構成のS11パラメータの値よりも大きい。すなわち、車両用ガラス装置160は、DTVの周波数帯域においてデフォルト構成よりもノイズを低減できる。このように、線条エレメント80が、電熱線11の一部と容量結合する容量結合部81を有する構成としても、車両用ガラス装置100と同様に、簡便な構成で電熱線11から放射されるノイズを低減できる。
【0075】
この結果に基づくと、車両用ガラス装置160について、放送波の周波数帯域のうち、S11パラメータの値が-3dBの閾値以下となる周波数帯域の合計値は35MHzであった。上記のように、デフォルト構成では、S11パラメータの値が閾値以下となる周波数帯域の合計値は95MHzであるため、車両用ガラス装置160は、電熱線11から放射されるノイズを低減できる。
【0076】
(変形例1)
第1の実施形態では、車両用ガラス装置が備える線条エレメントは、導電性ボディ2の端部2a、及び電熱線11の少なくとも一方と近接する配置として説明したが、次のような構成でもよい。
【0077】
図16は、第1の実施形態の変形例1にかかる車両用ガラス装置170の構成例を示す図であり、電熱部15と線条エレメント90とを備える。線条エレメント90は、「第1線条エレメント」又は、単に「線条エレメント」ともいう。車両用ガラス装置170は、第1の実施形態における電熱部10が電熱部15に置き換わっており、第1の実施形態における給電部12が給電部17に置き換わった構成をしている。
【0078】
給電部17は、車両の幅方向(水平方向)に向けて垂直方向に所定の幅を有して延在した横長の形状をなしている。なお、本変形例における該所定の幅は、線条エレメント20~80の線幅よりも広い。線条エレメント90は、一端がアース部13に接続され、給電部17の一部分と近接して配置されている。つまり、給電部17のうち、水平方向に延在した一部分が導体部を構成し、線条エレメント90は、当該導体部と容量結合する容量結合部91を含むように構成されている。このような構成としても、線条エレメント90は、容量結合部91を有する構成であり、第1の実施形態と同様にノイズを低減できる。
【0079】
さらに、給電部17は縦長の形状でもよく、その場合、例えば、線条エレメント90の一部が垂直方向に延在して給電部17と近接し、容量結合部91を有する構成でもよい。また、給電部17と線条エレメント90によってできる、線条エレメント90の容量結合部91は、水平方向や垂直方向に限らず、任意の方向で近接して与えてもよい。なお、図16では、給電部17は、水平方向に延在しており、L字状の形状をしているが、横長の矩形状でもよく、任意に設定できる。また、図16において、給電部17とアース部13とが入れ替わった構成でもよい。具体的には、給電部17がアース部13に置き換わり、アース部13が給電部17と置き換わり、線条エレメント90が給電部17に接続され、線条エレメント90がアース部13と容量結合する構成でもよい。
【0080】
(変形例2)
第1の実施形態では、車両用ガラス装置が備える線条エレメントは、開放端を有する形状又は閉ループの形状であるとして説明をしたが、開放端及び閉ループの両方を含む形状でもよい。
【0081】
図17は、第1の実施形態の変形例2にかかる車両用ガラス装置180の構成例を示す図であり、電熱部10と線条エレメント95とを備える。線条エレメント95は、「第1線条エレメント」又は、単に「線条エレメント」ともいう。線条エレメント95は、アース部13と接続されており、点95aを線条エレメント95と電熱部10との接点としている。なお、線条エレメント95は、給電部12と接続された構成でもよい。
【0082】
線条エレメント95は、点95aから点95bまで水平方向に延在し、点95b、点95c、点95d、点95eそして点95bに戻る順路によりできる(矩形状の)閉ループを構成している。また、線条エレメント95は、点95dから点95fまで導電性ボディ2の端部2aと近接して水平方向に延在している。なお、線条エレメント95のうち、点95cから点95fまでの部分は、導電性ボディ2の端部2aと容量結合する容量結合部96を構成する。
【0083】
このように、線条エレメント95は、点95aから点95bまでの線状のエレメント、点95dから点95fまでの線状のエレメント、及び点95b~点95eまでの閉ループを構成するループ状のエレメントが結合された形状をしても第1の実施形態と同様にノイズを低減できる。
【0084】
なお、図17において、線条エレメント95は、点95dから点95fまでの部分を有さない形状でもよい。つまり、線条エレメント95が、点95aから点95bまでの線状のエレメントと、上記の閉ループ状のエレメントとが結合された形状でもよい。また、線条エレメント95は、点95aから点95bまでの部分を有さない形状でもよい。つまり、線条エレメント95が、点95bにおいてアース部13と接続され、上記の閉ループ状のエレメントと、点95dから点95fまでの線状のエレメントとが結合された形状でもよい。
【0085】
(第2の実施形態)
続いて、図18を用いて、第2の実施形態にかかる車両用ガラス装置200の構成例について説明する。
[例8]
図18は、第2の実施形態にかかる車両用ガラス装置の構成例を示す図であり、図2に対応する部分拡大図である。図18に示すように、車両用ガラス装置200は、電熱部10と、線条エレメント210と、線条エレメント220とを備える。電熱部10は、第1の実施形態と同様であるため、説明を割愛する。
【0086】
線条エレメント210及び220は、第1の実施形態と同様に、非加熱性のエレメントであり、給電部12とアース部13との間に直流電圧が印加されても直流電流が流れないエレメントである。線条エレメント210は、それの一端である(電熱部10との)第1接点が給電部12に接続されており、他端が開放端となっている。また、線条エレメント220は、それの一端である(電熱部10との)第2接点がアース部13に接続されており、他端が開放端となっている。換言すると、線条エレメント210と電熱部10との接点は給電部12に含まれ、線条エレメント220と電熱部10との接点はアース部13に含まれる。なお、第1接点は、第1の実施形態と同様に、電熱部10に位置していればよく、第2接点も同様に電熱部10に位置していればよい。つまり、本例では、第1接点が給電部12に位置しており、第2接点がアース部13に位置しているが、この組み合わせに限らず、第1接点と第2接点のいずれか一方又は両方が電熱線11に位置してもよい。
【0087】
さらに、線条エレメント210及び220のそれぞれは、開放端及び閉ループの両方を含む形状でもよく、開放端を有さずに、閉ループを含む形状でもよい。また、線条エレメント210及び220のそれぞれは、第1の実施形態の変形例2において説明した線条エレメント95と同様の形状でもよい。つまり、線条エレメント210及び220のそれぞれは、開放端及び閉ループの少なくとも1つを含む形状でもよい。
【0088】
図18に示すように、線条エレメント210及び線条エレメント220は、それぞれ少なくとも一部が、容量結合部211及び容量結合部221を有する。すなわち、線条エレメント210は導体部を構成し、線条エレメント220のうち、線条エレメント210と近接する部分は該導体部と容量結合する容量結合部221を構成する。また、線条エレメント220は導体部を構成し、線条エレメント210のうち、線条エレメント220と近接する部分は該導体部と容量結合する容量結合部211を構成する。このように、第2の実施形態にかかる車両用ガラス装置200は、2つの線条エレメントの一部が互いに近接し、2つの線条エレメントのそれぞれは、他方の線条エレメントを導体部として、当該導体部と容量結合する容量結合部を構成する。
【0089】
このように、車両用ガラス装置200は、2つの線条エレメント210、220によって容量結合する容量結合部211、221を有することで、下記(1)に加え、下記(2)を含む2つの経路によって、電熱線11から(再)放射されるノイズを低減できる。
(1)(直流電源と給電部12を接続する)電気配線、給電部12、電熱線11、アース部13、そして(アース部13から接地導体へ接続する)電気配線の順に接続される経路
(2)(直流電源と給電部12を接続する)電気配線、給電部12、線条エレメント210(容量結合部211)、線条エレメント220(容量結合部221)、アース部13そして(アース部13と直流電源を接続する)電気配線の順に接続される経路
【0090】
なお、図18における本実施形態において、線条エレメント210及び線条エレメント220は、いずれか一方が第1線条エレメントで、他方が第2線条エレメントである。すなわち、第1線条エレメントが給電部12と接続する線条エレメントであれば、第2線条エレメントがアース部13と接続する線条エレメントであるが、第1線条エレメントがアース部13と接続する線条エレメントであれば、第2線条エレメントが給電部12と接続する線条エレメントである。さらに、本実施形態では、第1線条エレメントと第2線条エレメントを含めて、単に「線条エレメント」ともいう。なお、図18の車両用ガラス装置200における線条エレメント210は、一端が給電部12と接続して水平方向に延在して開放端を有し、線条エレメント220は、一端がアース部13と接続して水平方向に延在して開放端を有する。線条エレメント210及び線条エレメント220は、具体的に、以下のように設定した。
線条エレメント210の距離:75mm
線条エレメント210と導電性ボディ2の端部2aとの間隔:75mm
線条エレメント220(容量結合部211、221)の距離:54mm
線条エレメント210と線条エレメント220との間隔:10mm
【0091】
次に、車両用ガラス装置200の電波放射特性について説明する。車両用ガラス装置200の電波放射特性を評価するために、線条エレメント210及び220を備える車両用ガラス装置200と、デフォルト構成とについて電波放射特性を比較して説明する。第2の実施形態においても、車両用ガラス装置200と、デフォルト構成とについて、50MHzから1600MHzの各周波数に対してS11パラメータの値をシミュレーションで算出し、算出されたS11パラメータの値を電波放射特性とし、比較を行った。図19は、第2の実施形態にかかる車両用ガラス装置、及びデフォルト構成の電波放射特性を示す図である。
【0092】
図19に示すように、車両用ガラス装置200のS11パラメータの値は、DTVの周波数帯域のうち、470MHz~550MHz及び570MHz~710MHzにおいて、デフォルト構成のS11パラメータの値よりも大きい。さらに、車両用ガラス装置200のS11パラメータの値は、DABの周波数帯域のうち、230MHz~240MHzにおいて、デフォルト構成のS11パラメータの値よりも大きい。すなわち、車両用ガラス装置200は、DTVの周波数帯域及びDABの周波数帯域においてデフォルト構成よりもノイズを低減できる。すなわち、第2の実施形態にかかる車両用ガラス装置200は、線条エレメント210及び220を備え、線条エレメント210及び220によって、容量結合部211及び221を備える構成であるため、電熱線11から放射されるノイズを低減できる。
【0093】
この結果に基づくと、車両用ガラス装置200について、放送波の周波数帯域のうち、S11パラメータの値が-3dBの閾値以下となる周波数帯域の合計値は27MHzであった。上述したようにデフォルト構成では、閾値を下回る周波数帯域の合計値は95MHzであるため、車両用ガラス装置200は、デフォルト構成よりも電熱線11から放射されるノイズを低減できる。
【0094】
以下、第2の実施形態にかかる車両用ガラス装置200の他の構成例を説明する。
[例9]
図20は、例9にかかる車両用ガラス装置230の構成例を示す図であり、図2に対応する部分拡大図である。図21は、例9にかかる車両用ガラス装置230の電波放射特性、及びデフォルト構成の電波放射特性を示す図である。
【0095】
図20に示すように、車両用ガラス装置230は、電熱部10と、線条エレメント240と、線条エレメント250とを備える。線条エレメント240及び線条エレメント250は、一方を「第1線条エレメント」、他方を「第2線条エレメント」とも称し、第1線条エレメントと第2線条エレメントを含めて、単に「線条エレメント」ともいう。例9にかかる車両用ガラス装置230は、アース部13に接続された線条エレメント240の形状が、第2の実施形態にかかる車両用ガラス装置200と異なる。
【0096】
線条エレメント240は、一端がアース部13に接続され、他端が開放端となっており、U字形状を含む形状をしている。具体的には、線条エレメント240は、点240aを線条エレメント240とアース部13との接点とし、点240aから点240bに向けて水平方向に延在する。また、線条エレメント240は、点240bから点240cに向けて垂直方向に導電性ボディ2の端部2aに近づく方向に延在し、点240cから点240dに向けて水平方向に給電部12へ近づく方向に延在する。点240cから点240dまでの部分は、点240aから点240bまでの部分と平行に配置されている。
【0097】
線条エレメント250は、一端が給電部12に接続されて水平方向に延在し、他端が開放端となっている。線条エレメント250は、少なくともその一部が、給電部12との接点から線条エレメント240と接触せずに、線条エレメント240が有するU字形状の内部に延在する。つまり、線条エレメント250は、給電部12との接点から、点240bから点240cまでの部分に向けて、線条エレメント240と接触せずに水平方向に延在している。
【0098】
線条エレメント240及び250は、それぞれ少なくとも一部が、容量結合部241及び容量結合部242、容量結合部251を有する。すなわち、線条エレメント250は導体部を構成し、線条エレメント240のうち、線条エレメント250と近接する部分は該導体部と容量結合する容量結合部241及び242を構成する。また、線条エレメント240は導体部を構成し、線条エレメント250のうち点線で囲まれた部分は該導体部と容量結合する容量結合部251を構成する。
【0099】
このように、車両用ガラス装置230は、2つの線条エレメント240、250によって、容量結合する容量結合部241及び容量結合部242、容量結合部251を有することで、下記(1)に加え、下記(2)を含む経路によって、電熱線11から(再)放射されるノイズを低減できる。
(1)(直流電源と給電部12を接続する)電気配線、給電部12、電熱線11、アース部13、そして(アース部13から接地導体へ接続する)電気配線の順に接続される経路
(2)(直流電源と給電部12を接続する)電気配線、給電部12、線条エレメント250(容量結合部251)、線条エレメント240(容量結合部241および/または容量結合部242)、アース部13、そして(アース部13と直流電源を接続する)電気配線の順に接続される経路
【0100】
なお、本実施形態において、線条エレメント240及び線条エレメント250は、いずれか一方が第1線条エレメントで、他方が第2線条エレメントである。すなわち、第1線条エレメントが給電部12と接続する線条エレメントであれば、第2線条エレメントがアース部13と接続する線条エレメントであるが、第1線条エレメントがアース部13と接続する線条エレメントであれば、第2線条エレメントが給電部12と接続する線条エレメントである。なお、図20の車両用ガラス装置230における線条エレメント250は、一端が給電部12と接続して水平方向に延在して開放端を有し、線条エレメント240は、一端がアース部13と接続して線条エレメント250と接続せずそれを囲うようにU字形状をなして開放端を有する。線条エレメント240及び線条エレメント250は、具体的に、以下のように設定した。
点240a~点240bの距離:52mm
点240b~点240cの距離:20mm
点240c~点240dの距離:68mm
点240c~点240dのエレメントと導電性ボディ2の端部2aとの間隔:65mm
線条エレメント250の距離:63mm
容量結合部251の距離:42mm
線条エレメント250(容量結合部251)と点240a~点240bのエレメントとの間隔:10mm
線条エレメント250(容量結合部251)と点240c~点240dのエレメントとの間隔:10mm
【0101】
図21は、例9にかかる車両用ガラス装置230及びデフォルト構成の電波放射特性を示す図である。図21に示すように、車両用ガラス装置230のS11パラメータの値は、DTVの周波数帯域において、デフォルト構成のS11パラメータの値よりも全体的に大きい。また、車両用ガラス装置230のS11パラメータの値は、DABの周波数帯域のうち230MHz~240MHzにおいて、デフォルト構成のS11パラメータの値よりも大きい。すなわち、車両用ガラス装置230は、DABの周波数帯域及びDTVの周波数帯域において、デフォルト構成よりもノイズを低減できる。
【0102】
この結果に基づくと、例9にかかる車両用ガラス装置230について、放送波の周波数帯域のうち、S11パラメータの値が-3dBの閾値以下となる周波数帯域の合計値は27MHzであった。上記のようにデフォルト構成では、S11パラメータの値が閾値以下となる周波数帯域の合計値は95MHzであるため、車両用ガラス装置230は、電熱線11から放射されるノイズを低減できる。
【0103】
なお、例9では、線条エレメント250がU字形状をなして、線条エレメント240を囲う実施形態を挙げたがこれに限らない。例えば、線条エレメント240(第2線条エレメント)が少なくとも1点の屈曲点を含むL字状の形状を有し、線条エレメント250(第1線条エレメント)が該屈曲点を含む線条エレメント240(第2線条エレメント)を囲うように折れ曲がった形状をなしてもよい。この場合、容量結合部は、第2線条エレメントに含まれ、該屈曲点を共有する2つの線にわたって構成してもよい。このように、第1線条エレメントは、第2線条エレメントの形状に合わせて、第2線条エレメントと接続せずに囲う形状を有していれば、U字形状に限らない。
【0104】
(第3の実施形態)
続いて、第3の実施形態について説明する。第3の実施形態は、第1の実施形態と、第2の実施形態とを組み合わせた実施形態である。
【0105】
図22を用いて、第3の実施形態にかかる車両用ガラス装置300の構成例について説明する。
[例10]
図22は、第3の実施形態にかかる車両用ガラス装置の構成例を示す図であり、図2に対応する部分拡大図である。図23は、本実施形態にかかる車両用ガラス装置300の電波放射特性、及びデフォルト構成の電波放射特性を示す図である。図22に示すように、車両用ガラス装置300は、電熱部10と、線条エレメント310と、線条エレメント320とを備える。線条エレメント310及び線条エレメント320は、一方を「第1線条エレメント」、他方を「第2線条エレメント」とも称し、第1線条エレメントと第2線条エレメントを含めて、単に「線条エレメント」ともいう。電熱部10は、第1の実施形態と同様であるため、説明を割愛する。
【0106】
線条エレメント310及び320は、第1の実施形態及び第2の実施形態と同様に、非加熱性のエレメントであり、給電部12とアース部13との間に直流電圧が印加されても直流電流が流れないエレメントである。線条エレメント310は、一端がアース部13に接続されており、他端が開放端となっている。線条エレメント310は、上述した例3における線条エレメント40と同様の形状をなしている。線条エレメント320は、一端が給電部12に接続されており、他端が開放端となっている。換言すると、線条エレメント310と電熱部10との接点は、アース部13に含まれ、線条エレメント320と電熱部10との接点は、給電部12に含まれる。また、線条エレメント310及び320は、開放端を有する形状をしている。
【0107】
なお、線条エレメント310及び320のそれぞれは、開放端及び閉ループの両方を含む形状でもよいし、開放端を有さずに、閉ループを含む形状でもよい。また、線条エレメント310及び320のそれぞれは、第1の実施形態の変形例2において説明した線条エレメント95と同様の形状でもよい。つまり、線条エレメント310及び220のそれぞれは、開放端及び閉ループの少なくとも1つを含む形状でもよい。もしくは、線条エレメント310は、例1、例3~例7のいずれかにかかるガラス装置の線条エレメントと同様の形状をしてもよい。つまり、線条エレメント310が、例1、例3~例7のいずれかにかかるガラス装置の線条エレメントに置き換えられてもよい。
【0108】
図22に示すように、線条エレメント310は、一部が導電性ボディ2(導体部)の端部2aと容量結合する、容量結合部311を有する。また、線条エレメント320は、一部が線条エレメント310(導体部)と容量結合する容量結合部312を構成する。すなわち、線条エレメント310は、2つの容量結合部を含む構成をしているとも言える。また、線条エレメント310は導体部を含み、線条エレメント320のうち、線条エレメント310と近接する部分は導体部と容量結合する容量結合部321を構成する。
【0109】
このように、車両用ガラス装置300は、線条エレメント310によって導電性ボディ2の端部2aと容量結合する容量結合部311と、2つの線条エレメント310、320によって容量結合する容量結合部312及び容量結合部321を有することで、下記(1)に加え、下記(2)及び下記(3)を含む経路によって、電熱線11から(再)放射されるノイズを低減できる。
(1)(直流電源と給電部12を接続する)電気配線、給電部12、電熱線11、アース部13、そして(アース部13から接地導体へ接続する)電気配線の順に接続される経路
(2)(直流電源と給電部12を接続する)電気配線、給電部12、電熱線11、アース部13、線条エレメント310(容量結合部311)そして車両の導電性ボディ2の順に接続される経路
(3)(直流電源と給電部12を接続する)電気配線、給電部12、線条エレメント320(容量結合部321)、線条エレメント310(容量結合部312)、アース部13、そして(アース部13と直流電源を接続する)電気配線の順に接続される経路
【0110】
なお、本実施形態において、線条エレメント310及び線条エレメント320は、いずれか一方が第1線条エレメントで、他方が第2線条エレメントである。すなわち、第1線条エレメントが給電部12と接続する線条エレメントであれば、第2線条エレメントがアース部13と接続する線条エレメントであるが、第1線条エレメントがアース部13と接続する線条エレメントであれば、第2線条エレメントが給電部12と接続する線条エレメントである。なお、図22の車両用ガラス装置300における線条エレメント320は、一端が給電部12と接続して水平方向および垂直方向に延在するL字状の形状をなして開放端を有する。また、車両用ガラス装置300における線条エレメント310は、例3における線条エレメント40と同様の形状をなす。線条エレメント310及び線条エレメント320は、具体的に、以下のように設定した。
点310a~点310bの距離:75mm
点310b~点310c(容量結合部311)の距離:300mm
容量結合部311と導電性ボディ2の端部2aとの間隔:10mm
点310c~点310dの距離:150mm
点310d~点310eの距離:50mm
点320a~点320bの距離:10mm
点320b~点320c(容量結合部312、321)の距離:50mm
容量結合部312と点320b~点320cとの間隔:10mm
【0111】
図23に示すように、車両用ガラス装置300のS11パラメータの値は、FMの周波数帯域のうち、100MHz付近においてデフォルト構成のS11パラメータの値よりも大きい。また、車両用ガラス装置300のS11パラメータの値は、DABの周波数帯域のうち、230MHz~240MHzにおいてデフォルト構成のS11パラメータの値よりも大きい。さらに、車両用ガラス装置300のS11パラメータの値は、DTVの周波数帯域のうち、470MHz~530MHz及び555MHz~710MHzにおいてデフォルト構成のS11パラメータの値よりも大きい。すなわち、車両用ガラス装置300は、放送波の周波数帯域においてデフォルト構成よりもノイズを低減できる。
【0112】
この結果に基づくと、本実施形態(例10)にかかる車両用ガラス装置300について、放送波の周波数帯域のうち、S11パラメータの値が-3dBの閾値以下となる周波数帯域の合計値は17MHzであった。上述したようにデフォルト構成では、S11パラメータの値が閾値以下となる周波数帯域の合計値は95MHzであるため、車両用ガラス装置300は、デフォルト構成よりもノイズを低減できる。
【0113】
続いて、第1の実施形態から第3の実施形態にかかる車両用ガラス装置の電波放射特性の評価結果について説明する。以下に示す表は、第1の実施形態から第3の実施形態にかかる車両用ガラス装置の電波放射特性の評価結果をまとめた表である。以下の表には、第1の実施形態から第3の実施形態にかかる車両用ガラス装置のそれぞれについて、放送波の周波数帯域、及び50MHz~1600MHzの周波数帯域において、S11パラメータの値が-3dBの閾値以下となる周波数帯域の合計値を示している。
【0114】
以下の表において、ALL Bandの列には、50MHz~1600MHzの全ての周波数帯域において、S11パラメータの値が-3dBの閾値を下回る周波数帯域の合計値を記載している。また、Broadcast Bandの列には、放送波の周波数帯域において、S11パラメータの値が-3dBの閾値以下となる周波数帯域の合計値を記載している。
【表1】
【0115】
上記のように、車両用ガラス装置100、120~160、200、230及び300は、放送波の周波数帯域において、デフォルト構成よりも数値が小さいため、デフォルト構成よりもノイズを低減できる結果となった。また、第3の実施形態にかかる車両用ガラス装置300は、第1の実施形態及び第2の実施形態にかかる車両用ガラス装置の構成を組み合わせた構成であり、放送波の周波数帯域において最もノイズを低減できる結果となった。さらに、第3の実施形態にかかる車両用ガラス装置300は、All Bandにおいても最もノイズを低減できる結果となった。
【0116】
以上説明したように、車両用ガラス装置300は、線条エレメント310及び320を備え、線条エレメント310及び320のそれぞれが容量結合部を有する構成であるため、電熱線11から放射されるノイズを低減できる。さらに、車両用ガラス装置300は、第1の実施形態及び第2の実施形態にかかる車両用ガラス装置の構成を組み合わせた構成であるため、第1の実施形態及び第2の実施形態よりも電熱線11から放射されるノイズを低減できる。すなわち、線条エレメント310が導電性ボディ2の端部2a及び線条エレメント320と近接して配置され、線条エレメント320が線条エレメント310と近接して配置されることにより、電熱線11から放射されるノイズを低減できる。したがって、第3の実施形態にかかる車両用ガラス装置300によれば、簡便な構成で電熱線11から放射されるノイズを低減できる。
【0117】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更できる。
【0118】
この出願は、2019年7月25日に出願された日本出願特願2019-137170を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0119】
1 ガラス板
2 導電性ボディ
2a 端部
3 遮光部
10、15 電熱部
11 電熱線
12、17 給電部
13 アース部
20、30、40、50、60、70、80、90、95、210、220、240、250、310、320 線条エレメント
21、41、51、61、71、81、91、96、211、221、241、242、251、311、312、321 容量結合部
100、110、120、130、140、150、160、170、180、200、230、300 車両用ガラス装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23