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特許7559767非水系分散液、積層体の製造方法及び成形物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】非水系分散液、積層体の製造方法及び成形物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/18 20060101AFI20240925BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20240925BHJP
   C08L 71/12 20060101ALI20240925BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20240925BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240925BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
C08L27/18
C08L79/08
C08L71/12
C08L67/00
C08K3/013
B32B27/30 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021556073
(86)(22)【出願日】2020-11-06
(86)【国際出願番号】 JP2020041572
(87)【国際公開番号】W WO2021095662
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2019204148
(32)【優先日】2019-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020016452
(32)【優先日】2020-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020077293
(32)【優先日】2020-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】光永 敦美
(72)【発明者】
【氏名】笠井 渉
(72)【発明者】
【氏名】結城 創太
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/131809(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/017801(WO,A1)
【文献】特開2011-225710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/00-27/24
C08L 79/00-79/08
C08L 71/12
C08L 67/00
C08K 3/013
B32B 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
380℃における溶融粘度が1×10Pa・s以下であるテトラフルオロエチレン系ポリマーの平均粒子径が10μm以下であるパウダーと、芳香族性ポリマーと、無機フィラーとを含有し、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量、前記芳香族性ポリマーの含有量及び前記無機フィラーの含有量が、それぞれ5質量%超であ
前記無機フィラーが、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化ベリリウム、酸化ケイ素、酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛及び酸化チタンからなる群から選ばれる少なくとも1種の無機化合物を含むフィラーであり、
前記テトラオロエチレン系ポリマー、前記芳香族性ポリマー及び前記無機フィラーの合計での含有量が30~75質量%であり、
前記芳香族性ポリマーの含有量に対する前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量の比が、0.25~1.0であり、
前記芳香族性ポリマーの含有量に対する前記無機フィラーの含有量の比が、0.25~1.0である、非水系分散液。
【請求項2】
前記芳香族性ポリマーが、芳香族性ポリイミド、芳香族性ポリアミック酸、芳香族性ポリエステル又はポリフェニレンエーテルである、請求項に記載の非水系分散液。
【請求項3】
前記芳香族性ポリマーが、液晶ポリマーである、請求項又はに記載の非水系分散液。
【請求項4】
芳香族炭化水素、アミド、ケトン及びエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の非水系分散媒を含有する、請求項のいずれか1項に記載の非水系分散液。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の非水系分散液を、基材の表面に塗布し加熱して、ポリマー層を形成し、前記基材と前記ポリマー層とを、この順で有する積層体を得る、積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のテトラフルオロエチレン系ポリマー及び無機フィラーを含む非水系分散液と、かかる非水系分散液から形成されるポリマー層を有する積層体の製造方法と、所定の微小な空隙を有する成形物とに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンとペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)とのコポリマー(PFA)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマー(FEP)等のテトラフルオロエチレン系ポリマーは、離型性、電気特性、撥水撥油性、耐薬品性、耐候性、耐熱性等の物性に優れており、種々の産業用途に利用されている。
これらの物性を基材の表面に付与するために使用されるコーティング剤として、PTFEのパウダーを含む非水系分散液が知られている。特許文献1には、その分散安定性を向上させる観点から、さらに、Al、SiO、CaCO、ZrO、SiC、Si及びZnOからなる群から選ばれる少なくとも1種の無機化合物(セラミックス)の無機フィラーを含む非水系分散液が記載されている。
【0003】
特許文献2及び3には、硬化前のエポキシ樹脂を主成分として含有し、PTFEのパウダー及びシリカフィラーを充填成分として含有する非水系分散液(熱硬化性組成物)が開示されている。
これらの特許文献には、主成分である硬化前のエポキシ樹脂に基づく、非水系分散液の物性(粘度、分散性等)や、それから形成されるポリマー層の物性(線膨張性、密着性、電気特性等)について記載されている。しかし、これらの特許文献には、エポキシ樹脂に代えて各種ポリマーを使用する態様については何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-194017号公報
【文献】特開2017-165876号公報
【文献】特開2016-166347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非水系分散液に含まれる無機フィラーの含有量を多くすれば、それから形成される成形物において、無機フィラーに基づく物性も高度に発現すると期待できる。しかし、特許文献1の段落0019に記載の通り、非水系分散液中の無機フィラーの含有量を多くすると、その分散安定性が低下して、充分な特性を有する成形物を得がたい。
かかる傾向は、非水系分散液中のPTFE及び無機フィラーのそれぞれの含有量を高めると顕著になり、さらに他の成分(特許文献1の段落0019に記載の各種成分等)をブレンドすると一層顕著になる点を、本発明者らは知見した。そのため、テトラフルオロエチレン系ポリマーに基づく物性(電気特性、耐熱性等)と無機フィラー(低線膨張性、電気特性等)に基づく物性とを高度に具備する成形物が、かかる非水系分散液から形成できないという課題があった。
【0006】
また、特許文献2及び3に記載のエポキシ樹脂を含む非水系分散液に関して、エポキシ樹脂に代えて各種ポリマーを使用すれば、テトラフルオロエチレン系ポリマーに基づく物性に加えて、添加するポリマー及びシリカに基づく物性を、形成されるポリマー層に付与できると考えられた。各成分に基づく物性をポリマー層に良好に発現させるためには、非水系分散液中の3成分の含有量をそれぞれできる限り多くするのが好ましい。
しかし、この場合、非水系分散液の粘度の上昇や、沈降物又は凝集物の生成が起こりやすく、形成されるポリマー層の物性も充分に発現しないばかりか、剛性が著しく低下するという課題を、本発明者らは知見した。
【0007】
本発明者らは、所定のテトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと、所定粒子径の無機フィラーとを使用すれば、両者の含有量が高くとも、分散安定性と、芳香族性ポリマー等の他のポリマーとのブレンド性とに優れた非水系分散液が得られる点と、かかる非水系分散液からはテトラフルオロエチレン系ポリマー及び無機フィラーの物性を高度に具備した成形物が得られる点とを知見した。さらに、本発明者らは、非水系分散液が他のポリマーを含む場合、成形物は、他のポリマーの物性も高度に具備する点も知見した。
本発明の目的は、かかる非水系分散液の提供、及び、物性(電気特性、低線膨張性、耐熱性等)に優れた緻密な成形物の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] 380℃における溶融粘度が1×10Pa・s以下であるテトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと、平均粒子径が0.10μm超である無機フィラーと、液状分散媒とを含み、前記ポリマーの含有量及び前記無機フィラーの含有量が、それぞれ5質量%超である、非水系分散液。
[2] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、テトラフルオロエチレンに基づく単位及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含むポリマーである、[1]の非水系分散液。
[3] 前記パウダーが、平均粒子径が6μm以下であり、かつ、粒子径10μm以上の粒子を実質的に含まないパウダーである、[1]又は[2]の非水系分散液。
[4] 前記無機フィラーが、酸化ケイ素又はメタ珪酸マグネシウムを含む無機フィラーである、[1]~[3]のいずれかの非水系分散液。
[5] 前記無機フィラーが、平均粒子径が0.10μm超10μm未満であり、かつ、粒子径25μm以上の粒子を実質的に含まない略真球状の無機フィラーであるか、又は、平均長径が1μm以上、かつ、アスペクト比が5以上である鱗片状の無機フィラーである、[1]~[4]のいずれかの非水系分散液。
[6] 前記液状分散媒が、アミド、ケトン及びエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の液状分散媒である、[1]~[5]のいずれかの非水系分散液。
[7] 前記無機フィラーの含有量が、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量以下である、[1]~[6]のいずれかの非水系分散液。
[8] 380℃における溶融粘度が1×10Pa・s以下であるテトラフルオロエチレン系ポリマーの平均粒子径が10μm以下であるパウダーと、芳香族性ポリマーと、無機フィラーとを含有し、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量、前記芳香族性ポリマーの含有量及び前記無機フィラーの含有量が、それぞれ5質量%超である、非水系分散液。
[9] 前記芳香族性ポリマーが、芳香族性ポリイミド、芳香族性ポリアミック酸、芳香族性ポリエステル又はポリフェニレンエーテルである、[8]に記載の非水系分散液。
[10] 前記芳香族性ポリマーが、液晶ポリマーである、[8]又は[9]の非水系分散液。
[11] 前記無機フィラーが、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化ベリリウム、酸化ケイ素、酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛及び酸化チタンからなる群から選ばれる少なくとも1種の無機化合物を含むフィラーである、[8]~[10]のいずれかの非水系分散液。
[12] 芳香族炭化水素、アミド、ケトン及びエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の非水系分散媒を含有する、[8]~[11]のいずれかの非水系分散液。
[13] [1]~[12]のいずれかの非水系分散液を、基材の表面に塗布し加熱して、ポリマー層を形成し、前記基材と前記ポリマー層とを、この順で有する積層体を得る、積層体の製造方法。
[14] ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含むテトラフルオロエチレン系ポリマーと、平均粒子径が0.10μm超である無機フィラーとを含み、空隙率が5体積%以下である、成形物。
[15] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量に対する、前記無機フィラーの含有量の質量比が、1.5以下である、[14]の成形物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、テトラフルオロエチレン系ポリマー及び無機フィラーの物性を高度に具備する成形物を成形できる、両者の含有量が高く、分散安定性と、他のポリマー等とのブレンド性とに優れた非水系分散液が得られる。また、かかる物性を高度に具備した成形物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の用語は、以下の意味を有する。
「平均粒子径(D50)」は、対象物(パウダー又は無機フィラー)を水中に分散させ、レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置(堀場製作所社製、LA-920測定器)によって求められる対象物の体積基準累積50%径である。すなわち、レーザー回折・散乱法によって対象物の粒度分布を測定し、パウダーの粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
「98%累積体積粒径(D98)」「90%累積体積粒径(D90)」及び「10%累積体積粒径(D10)」は、同様にして求められるパウダー又は無機フィラーの体積基準累積98%径及び体積基準累積10%径である。
「粒度分布」は、同様にして求められる各粒子径区間における粒子量(%)をプロットした曲線により示される分布である。
「溶融温度(融点)」は、示差走査熱量測定(DSC)法でポリマーを分析して求められる、融解ピークの最大値に対応する温度である。
「ガラス転移点」は、動的粘弾性測定(DMA)法でポリマーを分析して測定される値である。
「比表面積」は、ガス吸着法(BET法)によって無機フィラーを分析して求められる値である。
「略真球状の無機フィラー」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した際に、長径に対する短径の比が0.7以上である球形の粒子の占める割合が95%以上である無機フィラーを意味する。
「無機フィラーのアスペクト比」は、平均粒子径(D50)を無機フィラーの短径長(短手方向の長さ)で除して求められる比である。例えば、鱗片状である異方性フィラーのアスペクト比は、そのD50を、その平均短径(短手直径の平均値)で除して求められる。
「粘度」は、B型粘度計を用いて測定される、25℃で回転数が30rpmの条件下で測定される液状物の粘度である。
「チキソ比」は、回転数が30rpmの条件で測定される液状物の粘度を、回転数が60rpmの条件で測定される液状物の粘度で除して算出される値である。
「空隙率」は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察される成形物の断面における、空隙部分の面積の割合(%)である。
「十点平均粗さ(Rzjis)」は、JIS B 0601:2013の附属書JAに規定されるである。
「誘電正接」は、SPDR法により、24℃、50%RHの環境下にて、周波数10GHzで測定される値である。
「モノマーに基づく単位」とは、モノマーの重合により形成された上記モノマーに基づく原子団を意味する。単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって上記単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。以下、モノマーaに基づく単位を、単に「モノマーa単位」とも記す。
【0011】
本発明の非水系分散液(以下、「本分散液」とも記す。)は、380℃における溶融粘度が1×10Pa・s以下であるテトラフルオロエチレン系ポリマー(以下、「Fポリマー」とも記す。)のパウダー(以下、「Fパウダー」とも記す。)と、無機フィラーとを含む。
【0012】
本分散液の第1の態様(以下、「本分散液(1)」とも記す。)は、Fパウダーと、平均粒子径が0.10μm超である無機フィラーとを含む。以下、本分散液(1)における、FポリマーをFポリマー(1)と、FパウダーをFパウダー(1)と、無機フィラーをフィラー(1)とも記す。
本分散液(1)における、Fポリマー(1)の含有量及びフィラー(1)の含有量は、それぞれ5質量%超である。
本分散液(1)において、Fパウダー(1)及びフィラー(1)は分散している。
【0013】
本分散液(1)は、Fポリマー(1)及びフィラー(1)のそれぞれを多量に含み、分散安定性に優れ、Fポリマー(1)及びフィラー(1)のそれぞれの物性を高度に具備した成形物(後述する本発明の成形物等)を形成できる。その理由は必ずしも明確ではないが、以下の様に考えられる。
Fポリマー(1)は、380℃における溶融粘度が低く、非熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーに比較して、物理的な応力(剪断応力等)と経時的な状態変化との影響を受けにくく、Fパウダー(1)は分散安定性が高い。
本分散液(1)は、かかるFパウダー(1)を多量に含み、平均粒子径が所定値を上回るフィラー(1)とFパウダー(1)との相互作用が相対的に高まりやすい状態にあるとも言える。つまり、平均粒子径が所定値以下の無機フィラーが多量に含まれると、かかる無機フィラー同士の凝集作用が単に高まり分散性が損なわれるが、フィラー(1)であれば、多量に含まれるFパウダー(1)との間の緩い凝集作用(相互作用)が相対的に高まり、両者の少なくとも一部に疑似的な2次粒子が形成されて安定化すると考えられる。
その結果、本分散液(1)は、分散安定性と、他の成分を添加した際のブレンド性とに優れていると考えられる。
【0014】
本分散液(1)からは、両者の物性を高度に具備した成形物が形成できる。その理由は必ずしも明確ではないが、以下の様に考えられる。
Fポリマー(1)は、TFE単位を含む結晶性ポリマーとも言え、成形物において、微小な球晶を形成しやすい。かかる球晶の表面のミクロな凹凸構造により、成形物において、フィラー(1)と球晶とは、完全に密着せずに、少なくとも一部は微小な空隙を介して、均一に分布していると考えられる。つまり、かかる微小な空隙がバッファーとなり、成形物における両者(Fポリマー(1)及びフィラー(1))の物性を高度に発現させていると考えられる。具体的には、フィラー(1)がシリカフィラー等の低線膨張係数の無機フィラーであれば、成形物は、フィラー(1)による反りの生じにくさと、Fポリマー(1)による諸物性(耐熱性、電気特性等)とを高度に具備し得る。
かかる成形物は、プリント基板材料又はその部材として好適に使用できる。
【0015】
本分散液(1)におけるFポリマー(1)は、テトラフルオロエチレン(TFE)に基づく単位(TFE単位)を含有する、380℃における溶融粘度が1×10Pa・s以下であるポリマーである。Fポリマー(1)は、TFE単位のみからなっていてもよく、TFE単位と他の単位を含有していてもよい。
Fポリマー(1)の380℃における溶融粘度は、5×10Pa・s以下が好ましく、1×10Pa・s以下がより好ましい。溶融粘度は、1×10Pa・s以上が好ましく、1×10Pa・s以上がより好ましい。この場合、Fパウダー(1)とフィラー(1)との親和性が向上しやすい。
Fポリマー(1)としては、TFE単位及びPAVE単位を含むポリマーが好ましい。
PAVEは、CF=CFOCF(PMVE)、CF=CFOCFCF又はCF=CFOCFCFCF(PPVE)が好ましい。
Fポリマー(1)の溶融温度(融点)は、260~320℃が好ましく、285~320℃がより好ましい。
Fポリマー(1)のガラス転移点は、75~125℃が好ましく、80~100℃がより好ましい。
【0016】
Fポリマー(1)は、TFE単位及びPAVE単位以外のモノマーに基づく単位を、さらに有するのが好ましい。
上記モノマーとしては、オレフィン(エチレン、プロピレン等)、クロロトリフルオロエチレン、フルオロオレフィン(ヘキサフルオロプロピレン、フルオロアルキルエチレン等)、後述する酸素含有極性基を有するモノマーが挙げられる。
フルオロアルキルエチレンの具体例としては、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CF(CFH、CH=CF(CFHが挙げられる。
【0017】
Fポリマー(1)は、酸素含有極性基を有するのが好ましい。酸素含有極性基は、Fポリマー(1)が含有する単位に含まれていてもよく、ポリマー主鎖の末端基に含まれていてもよい。後者のFポリマー(1)としては、重合開始剤、連鎖移動剤等に由来する末端基として極性官能基を有するFポリマーや、プラズマ処理や電離線処理によって調製された、酸素含有極性基を有するFポリマーが挙げられる。
Fポリマー(1)が、酸素含有極性基を有すれば、本分散液におけるFパウダー(1)の分散性が優れる。
酸素含有極性基は、水酸基含有基、カルボニル基含有基、又はホスホノ基含有基が好ましく、本分散液の分散性と成形物表面の接着性との観点から、水酸基含有基又はカルボニル基含有基がより好ましく、カルボニル基含有基が特に好ましい。
水酸基含有基は、アルコール性水酸基含有基が好ましく、-CFCHOH、-C(CFOH又は1,2-グリコール基(-CH(OH)CHOH)がより好ましい。
カルボニル基含有基は、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、イソシアネート基、カルバメート基(-OC(O)NH)、酸無水物残基(-C(O)OC(O)-)、イミド残基(-C(O)NHC(O)-等)又はカーボネート基(-OC(O)O-)が好ましい。
【0018】
酸素含有極性基を有するFポリマー(1)は、酸素含有極性基を有するモノマーに基づく単位を有するのが特に好ましい。かかるFポリマー(1)は、成形物の接着性と耐熱性とを向上させやすい。
上記モノマーは、水酸基含有基又はカルボニル基含有基を有するモノマーが好ましく、カルボニル基含有基を有するモノマーがより好ましい。
カルボニル基含有基を有するモノマーは、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(別称:無水ハイミック酸;以下、「NAH」とも記す。)又は無水マレイン酸が好ましく、NAHがより好ましい。
Fポリマー(1)としては、TFE単位及びPAVE単位を含み、全単位に対してPAVE単位を1~10モル%含む、溶融温度が260~320℃であるポリマーが好ましく、TFE単位、PAVE単位及び酸素含有極性基を有するモノマーに基づく単位を含むポリマー、95.0~98.0モル%のTFE単位及び2.0~5.0モル%のPAVE単位からなるポリマー、TFE単位及びPMVE単位を含むポリマーがより好ましい。
【0019】
これらのポリマーは、特に、物理的な応力と経時的な状態変化との影響を受けにくく、その分散性もより優れている。また、フィラー(1)との相互作用が相対的に高まりやすいため、分散液の分散安定性を向上させやすい。
さらに、成形物において緻密な球晶を形成しやすく、成形物の物性を向上させやすい。具体的には、Fポリマー(1)による諸物性(耐熱性、電気特性等)とフィラー(1)による諸物性(低線膨張率、誘電特性等)とを高度に具備した成形物を形成しやすく、かかる成形物は、プリント基板材料又はその部材として好適に使用できる。
【0020】
本分散液(1)におけるFパウダー(1)は、Fポリマー(1)以外の成分を含んでいてもよく、Fポリマー(1)からなるのが好ましい。Fポリマー(1)以外の成分としては、液晶性ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシドが挙げられる。
【0021】
Fパウダー(1)は、無機物と複合体を形成していてもよい。無機物としては、酸化物、窒化物、金属単体、合金及びカーボンが好ましく、酸化ケイ素(シリカ)、金属酸化物(酸化ベリリウム、酸化セリウム、アルミナ、ソーダアルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン等)、窒化ホウ素、及びメタ珪酸マグネシウム(ステアタイト)がより好ましく、シリカ及び窒化ホウ素がさらに好ましく、シリカが特に好ましい。この場合、本分散液(1)の分散性が向上しやすい。Fパウダー(1)と無機物との複合体は、Fポリマー(1)をコアとし、このコアの表面に、無機物を有する粒子が好ましい。かかる粒子は、例えば、Fポリマー(1)のパウダーと無機物のパウダーとを合着(衝突、凝集等)させて得られる。
無機物は、フィラー(1)に含まれていてもよい。言い換えれば、Fパウダー(1)とフィラー(1)とが複合体を形成していてもよい。
【0022】
Fパウダー(1)は、1種を単独で用いてもよく、2種の混合物であってもよい。Fパウダー(1)は、全単位に対して、TFE単位を90~98モル%、PAVE単位を1~9.97モル%及び酸素含有極性基を有するモノマーに基づく単位を0.01~3モル%、それぞれ含有するポリマーのパウダーと、PTFEのパウダーとの混合物であってもよい。この場合のPTFEは、低分子量PTFEであるのが好ましい。
【0023】
Fパウダー(1)のD50は、0.1μm以上が好ましく、0.3μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。Fパウダー(1)のD50は、6μm以下が好ましく、4μm以下がより好ましく、3μm以下がさらに好ましい。この場合、Fパウダー(1)とフィラー(1)との相互作用が亢進して、本分散液(1)の分散安定性がより向上しやすい。
Fパウダー(1)は、粗大粒子を実質的に含まないのが好ましい。Fパウダー(1)における粗大粒子の粒子径は、10μm以上が好ましく、6μm以上がより好ましい。言い換えれば、Fパウダー(1)の98%粒径は、10μm未満が好ましく、6μm未満がより好ましい。本分散液(1)に粗大粒子が含まれなければ、Fパウダー(1)とフィラー(1)との相互作用が亢進して、その分散安定性がより向上しやすい。
【0024】
本分散液(1)における、Fパウダー(1)の含有量は、5質量%超であり、7質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、25質量%以上がさらに好ましい。Fパウダー(1)の含有量は、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。この場合、本分散液(1)におけるFパウダー(1)の分散性が優れる。Fパウダー(1)の含有量が、かかる範囲にあれば、Fパウダー(1)とフィラー(1)との相互作用がより相対的に高まり、その分散安定性がより向上しやすい。また、成形物におけるFポリマー(1)の物性が顕著に発現しやすい。
【0025】
本分散液(1)におけるフィラー(1)は、窒化物フィラー又は無機酸化物フィラーが好ましく、窒化ホウ素フィラー、酸化ベリリウムフィラー(ベリリアフィラー)、酸化ケイ素フィラー(シリカフィラー)、金属酸化物(酸化セリウム、アルミナ、ソーダアルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン等)フィラー又はメタ珪酸マグネシウムフィラー(ステアタイトフィラー)がより好ましく、シリカフィラー又はメタ珪酸マグネシウムフィラー(ステアタイトフィラー)がさらに好ましい。これらのフィラーは、焼成されたセラミックスフィラーであってもよい。かかるフィラー(1)は、Fパウダー(1)との相互作用が亢進しやすく、本分散液(1)の分散安定性がより向上しやすい。また、その成形物において、フィラー(1)に基づく物性が顕著に発現しやすい。
【0026】
フィラー(1)は、1種を用いてもよく、D50又は種類の異なる2種以上を用いてもよい。
フィラー(1)は、酸化ケイ素又はメタ珪酸マグネシウム(ステアタイト)を含むのが好ましい。酸化ケイ素及びステアタイトは、Fポリマー(1)との相互作用が亢進しやすく、それを含むフィラー(1)は、本分散液(1)の分散安定性をより向上させやすい。また、その成形物において、酸化ケイ素又はステアタイトの物性を顕著に発現させやすい。
フィラー(1)における、酸化ケイ素又はメタ珪酸マグネシウムの含有量は、50質量%以上が好ましく、75質量%がより好ましい。酸化ケイ素又はメタ珪酸マグネシウムの含有量は、100質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましい。
フィラー(1)を水に添加したとき、その水のpHは、酸性、中性、アルカリ性のいずれを示してもよく、中性又はアルカリ性を示すのが好ましい。
【0027】
フィラー(1)は、その表面の少なくとも一部が、表面処理されているのが好ましい。かかる表面処理に用いられる表面処理剤としては、多価アルコール(トリメチロールエタン、ペンタエリストール、プロピレングリコール等)、飽和脂肪酸(ステアリン酸、ラウリン酸等)、そのエステル、アルカノールアミン、アミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン等)、パラフィンワックス、シランカップリング剤、シリコーン、ポリシロキサン、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、スズ、チタニウム、アンチモン等の酸化物、それらの水酸化物、それらの水和酸化物、それらのリン酸塩が挙げられる。
【0028】
フィラー(1)は、シランカップリング剤で表面処理されている無機フィラーであるのが好ましい。かかるフィラー(1)は、Fパウダー(1)との親和性に優れ、本分散液(1)の分散性を向上させやすい。また、それを含む本分散液(1)から成形物を形成する際のFポリマー(1)の溶融焼成において、熱分解してガスが発生することでフィラー(1)の流動が促され、成形物の均一性が向上しやすいと考えられる。
シランカップリング剤は、官能基を有するシランカップリング剤が好ましく、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン又は3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランがより好ましい。
【0029】
フィラー(1)のD50は、0.10μm超であり、0.15μm以上が好ましく、0.30μm以上がより好ましい。フィラー(1)のD50は、10μm未満が好ましく、1.8μm以下がより好ましく、1.5μm以下がさらに好ましい。この場合、本分散液(1)におけるFパウダー(1)の分散性が優れる。フィラー(1)のD50が、かかる範囲にあり、Fパウダー(1)のD50と近似していれば、両者の相互作用がより相対的に高まり、その分散安定性がより向上しやすい。
【0030】
フィラー(1)は、粗大粒子を実質的に含まないのが好ましい。フィラー(1)における粗大粒子の粒径は、25μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。言い換えれば、フィラー(1)の98%粒径は、25μm未満が好ましく、20μm未満がより好ましく、10μm未満がさらに好ましい。この場合、本分散液(1)におけるフィラー(1)の分散性が優れる。本分散液(1)に粗大粒子が含まれなければ、Fパウダー(1)とフィラー(1)との相互作用が亢進して、その分散安定性がより向上しやすい。
【0031】
フィラー(1)のD50は、Fパウダー(1)のD50以下であるのが好ましい。この場合、両者の相互作用がより相対的に高まり、その分散安定性がより向上しやすい。さらに、成形物において、フィラー(1)がより均一に分布しやすくなり、その物性が顕著に発現しやすい。
具体的には、フィラー(1)のD50が0.10μm超かつ1μm以下であり、Fパウダー(1)のD50が1μm以上かつ3μm以下であるのが好ましい。
フィラー(1)の比表面積は、1~20m/gが好ましく、5~8m/gがより好ましい。この場合、本分散液(1)中でフィラー(1)が濡れやすくなり、Fパウダー(1)との相互作用が亢進しやすい。また、本分散液(1)から形成される成形物において、フィラー(1)とFポリマー(1)とがより均一に分布しやすく、両者の物性がバランスよく発現しやすい。
【0032】
フィラー(1)の形状は、略真球状であるのが好ましい。略真球状であるフィラー(1)の95%以上を占める球形の粒子において、長径に対する短径の比は、0.8以上が好ましく、0.9以上がより好ましい。上記比は、1未満が好ましい。フィラー(1)が高度に略真球状であれば、本分散液(1)中でフィラー(1)が濡れやすくなり、Fパウダー(1)との相互作用が亢進しやすい。また、成形物において、フィラー(1)とFポリマー(1)とがより均一に分布しやすく、両者の物性がバランスよく発現しやすい。
【0033】
フィラー(1)の形状は、鱗片状であるのが好ましい。鱗片状であるフィラー(1)のアスペクト比は、5以上が好ましく、10以上がより好ましい。アスペクト比は、1000以下が好ましい。
鱗片状であるフィラー(1)の平均長径(長手方向の直径の平均値)は、1μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましい。平均長径は、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。平均短径は、0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましい。平均短径は、1μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。この場合、本分散液(1)中でフィラー(1)が濡れやすくなり、Fパウダー(1)との相互作用が亢進しやすい。また、成形物において、フィラー(1)とFポリマー(1)とがより均一に分布しやすく、両者の物性がバランスよく発現しやすい。
鱗片状のフィラー(1)は、単層構造であってもよく、複層構造であってもよい。
【0034】
また、フィラー(1)の内部構造は、緻密状、中空状、ハニカム状のいずれであってもよい。中空状のフィラー(1)の中空率(粒子1個当たりの空隙の体積割合の平均値)は、40~80%が好ましい。また、中空状のフィラー(1)の粒子強度は、20MPa以上が好ましい。粒子強度は、加圧プレスした際の中空状フィラーの残存率が50%時の粒子強度である。粒子強度は、中空状フィラーの見掛け密度と、中球状フィラーを加圧プレスして得られるペレットの見掛け密度とから算出できる。
【0035】
フィラー(1)は、焼結無機フィラー(焼結されている無機フィラー)が好ましい。換言すれば、セラミックスを形成しているのが好ましい。
フィラー(1)の含水率は、0.3質量%以下が好ましく、0.1質量%以下がより好ましい。含水率は、0質量%以上が好ましい。この場合、本分散液(1)中でフィラー(1)が濡れやすくなり、Fパウダー(1)との相互作用が亢進しやすい。また、成形物において、フィラー(1)とFポリマー(1)とがより均一に分布しやすく、両者の物性がバランスよく発現しやすい。
【0036】
フィラー(1)の好適な具体例としては、D50が0.10μm超であるシリカフィラー(アドマテックス社製の「アドマファイン」シリーズ等)、ジカプリン酸プロピレングリコール等のエステルで表面処理されたD50が0.10μm超である酸化亜鉛(堺化学工業株式会社製の「FINEX」シリーズ等)、D50が0.10μm超かつ0.5μm以下であり98%粒径が1μm未満の略真球状溶融シリカフィラー(デンカ社製の「SFP」シリーズ等)、多価アルコール及び無機物で被覆処理されたD50が0.10μm超かつ0.5μm以下であるルチル型酸化チタンフィラー(石原産業社製の「タイペーク」シリーズ等)、アルキルシランで表面処理されたD50が0.10μm超のルチル型酸化チタンフィラー(テイカ社製の「JMT」シリーズ等)、D50が0.10μm超のステアタイトフィラー(日本タルク社製の「BST」シリーズ等)、D50が0.10μm超の窒化ホウ素フィラー(昭和電工社製の「UHP」シリーズ、デンカ製の「HGP」シリーズ、「GP」シリーズ等)が挙げられる。
【0037】
本分散液(1)に含まれる無機フィラーの好適な態様としては、フィラー(1)(以下、「フィラー(11)」とも記す。)を含み、さらに、D50が1μm未満であり、かつ、フィラー(11)よりD50が小さい無機フィラー(以下、「異なるフィラー」とも記す。)を含む態様が挙げられる。この場合、フィラー(11)による本分散液(1)の分散安定性の向上と、異なるフィラーによる緻密な成形物の形成能とがバランスして、得られる成形物の諸物性(耐水性、低線膨張性、電気特性等)が一層向上しやすい。なお、異なるフィラーは、D50がフィラー(11)より小さい無機フィラーであればよく、その材質は、フィラー(11)と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0038】
フィラー(11)のD50は、1μm以上であるのが好ましく、1μm以上10μm未満であるのがより好ましい。
また、異なるフィラーは、そのD50が0.10μm超である場合、フィラー(11)よりD50が小さい別のフィラーであるのが好ましく、シリカフィラーであるのがより好ましい。また、そのD50が0.10μm以下である場合は、シリカフィラーであるのが好ましい。異なるフィラーのD50は、0.01μm以上1μm未満であるのが好ましい。
【0039】
また、かかる好適な態様におけるフィラー(1)は、多峰性の粒度分布を有していてもよい。この場合、緻密な成形物を形成しやすい観点から、粒度分布における峰のうち、フィラー(11)に起因する峰が最も高いのが好ましい。
具体的には、フィラー(1)は、0.8μm以下の領域と1μm以上の領域とに峰をそれぞれ有する二峰性の粒度分布を有する状態で含まれているのが好ましく、上記状態、かつ、後者の峰が前者の峰より高い二峰性の粒度分布を有する状態で含まれているのがより好ましい。
【0040】
また、かかる好適な態様におけるフィラー(1)は、その少なくとも一部がFパウダー(1)の表面に付着するか、その表面に少なくとも一部のFパウダー(1)が付着するかして含まれていてもよい。この場合、本分散液(1)は、Fパウダー(1)とフィラー(1)とのコンポジット体を含むとも言え、その分散安定性が一層向上して、それから形成される成形物の諸物性(耐水性、低線膨張性、電気特性等)がさらに向上しやすい。
【0041】
さらに、かかる好適な態様における、フィラー(11)の含有量に対する、異なるフィラーの含有量の質量比は、0.1以上が好ましく、0.4以上がより好ましい。また、上記質量比は、1以下が好ましく、0.8以下がより好ましい。この場合、本分散液(1)の分散安定性と成形物の物性とがバランスしやすい。
【0042】
本分散液(1)におけるフィラー(1)の含有量は、5質量%超であり、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、25質量%以上がさらに好ましい。フィラー(1)の含有量は、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。フィラー(1)の含有量が、かかる範囲にあれば、Fパウダー(1)とフィラー(1)との相互作用がより相対的に高まり、その分散安定性がより向上しやすい。また、成形物においてフィラー(1)の物性が顕著に発現しやすい。
【0043】
本分散液(1)におけるフィラー(1)の含有量は、Fポリマー(1)の含有量以下であるのが好ましい。この場合、成形物において、Fポリマー(1)をマトリックスとし、フィラー(1)が均一に分布した成形物が形成されやすく、両者の物性がバランスよく発現しやすい。
具体的には、フィラー(1)の含有量が5質量%以上25質量%以下であり、Fポリマー(1)の含有量が25質量%超50質量%以下であるのが好ましい。
【0044】
本分散液(1)は、さらに、Fポリマー(1)と異なる他の樹脂(ポリマー)を含むのが好ましい。この場合の本分散液(1)から得られる成形物では、他の樹脂が均一に分散し、他の樹脂に基づく特性が良好に発揮されやすい。
他の樹脂は、熱硬化性樹脂であってもよく、熱可塑性樹脂であってもよい。
他の樹脂としては、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、エラストマー、ポリイミド、ポリアミック酸、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシド、液晶ポリエステル、Fポリマー以外のフルオロポリマーが挙げられる。
【0045】
他の樹脂は、ポリイミド又はポリアミック酸が好ましく、熱可塑性ポリイミドがより好ましい。この場合、その成形物において、空隙率が低下して緻密になり、Fポリマー(1)とフィラー(1)との物性が顕著に発現しやすい。また、本分散液(1)から成形物を形成する際に、Fパウダー(1)の粉落ちも抑制され、その接着性もより向上しやすい。
この場合の本分散液(1)におけるポリイミド又ポリアミック酸の含有量は、1~30質量%が好ましく、5~25質量%がより好ましい。Fポリマー(1)の含有量に対するポリイミドの含有量の質量比は、1.0以下が好ましく、0.1~0.7がより好ましい。
他の樹脂を含む場合の本分散液(1)は、本分散液(1)と他の樹脂のパウダーとを混合して製造してもよく、本分散液(1)と、他の樹脂を含むワニスとを混合して製造してもよい。
他の樹脂は、芳香族性ポリマーであるのが好ましい。芳香族性ポリマーの定義及び範囲は、その好適な態様も含めて、後述する本分散液(2)における芳香族性ポリマー(ARポリマー)と同様である。
【0046】
本分散液(1)における液状分散媒は、非水系の液状分散媒であり、Fパウダー(1)及びフィラー(1)の分散媒として機能する、25℃で不活性な液体化合物である。かかる液体化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合してもよい。
液体化合物の沸点は、125~250℃が好ましい。この場合、本分散液(1)から成形物を形成する際に、Fパウダー(1)とフィラー(1)とを緻密にパッキングさせやすく、成形物の物性が向上しやすい。
【0047】
液体化合物としては、アミド、ケトン及びエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。その具体例としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、酢酸ブチル、メチルイソプロピルケトンが挙げられる。
本分散液(1)が、さらに芳香族性ポリマーを含む場合、特に、芳香族性の熱可塑性ポリイミドを含む場合、液状化合物は、アミドと、ケトン又はエステルを含むのが好ましく、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド又はN-メチル-2-ピロリドンと、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、γ-ブチロラクトン又は酢酸ブチルと含むのがより好ましい。
本分散液(1)における液状分散媒の含有量は、25質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。液状分散媒の含有量は、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。液状分散媒の含有量がかかる範囲にあれば、Fパウダー(1)とフィラー(1)との相互作用が亢進して、本分散液(1)の分散安定性がより向上しやすい。
【0048】
本分散液(1)は、さらに界面活性剤を含むのが好ましく、ノニオン性界面活性剤を含むのがより好ましい。
ノニオン性界面活性剤は親水部位として、アルコール性水酸基、オキシアルキレン基(以下、「AO基」とも記す。)を有するのが好ましく、親水部位として、アルコール性水酸基とAO基とを有するのがより好ましい。
かかる界面活性剤は、AO基を介する液状分散媒との親和性(相互作用)がより向上し、本分散液(1)の分散性を高めやすい。
AO基は、1種のAO基から構成されていてもよく、2種以上のAO基から構成されていてもよい。後者の場合、種類の違うAO基は、ランダム状に配置されていてもよく、ブロック状に配置されていてもよい。
【0049】
界面活性剤の疎水部位は、アセチレン含有基、ペルフルオロアルキル基、ペルフルオロアルケニル基が好ましい。
具体的には、界面活性剤は、アセチレン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤又はフッ素系界面活性剤が好ましく、シリコーン系界面活性剤がより好ましい。
この場合、Fパウダー(1)及びフィラー(1)と、界面活性剤とが高度に相互作用するため、本分散液(1)の分散安定性がより向上しやすいだけでなく、両者(Fポリマー(1)及びフィラー(1))の物性が、成形物において、顕著に発現しやすい。
【0050】
ノニオン性界面活性剤の重量平均分子量は、1000~80000が好ましい。
ノニオン性界面活性剤がAO基を有する場合、AO基の含有量は、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。AO基の含有量は、50質量%以下が好ましい。この場合、ノニオン性界面活性剤の液状分散媒に対する親和性がさらに向上し、本分散液(1)におけるFパウダー(1)及びフィラー(1)の分散性がより高まりやすい。
ノニオン性界面活性剤がアルコール性水酸基を有する場合、その水酸基価は、100mgKOH/g以下が好ましく、50mgKOH/g以下がより好ましい。水酸基価は、10mgKOH/g以上が好ましい。
【0051】
ノニオン性界面活性剤がフッ素系界面活性剤である場合、そのフッ素含有量は、20~50質量%がより好ましい。
ノニオン性フッ素系界面活性剤としては、下式(F)で表される化合物と下式(H)で表される化合物とのコポリマーが好ましい。
CH=CHR-C(O)O-Q-X ・・・ (F)
CH=CHR-C(O)-(Q-OH ・・・ (H)
は、水素原子又はメチル基を表す。
は、アルキレン基又はオキシアルキレン基を表す。
は、のペルフルオロアルキル基又はペルフルオロアルケニル基を表す。
は、水素原子又はメチル基を表す。
は、オキシアルキレン基を表す。
mは、1~120の整数を表す。
【0052】
式(F)で表される化合物の具体例としては、CH=C(CH)C(O)OCHCH(CFF、CH=C(CH)C(O)OCHCH(CFF、CH=C(CH)C(O)OCHCHCHCHOCF(CF)C(=C(CF)(CF(CF)、CH=C(CH)C(O)OCH(CH)OCH(CFFが挙げられる。
式(H)で表される化合物の具体例としては、CH=C(CH)C(O)(OCHCHOH、CH=C(CH)C(O)(OCHCHOH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH23OHが挙げられる。
上記コポリマーの製造に使用する、各化合物(モノマー)の量は、その種類と、上述した界面活性剤の物性(フッ素含有量、AO基含有量、水酸基価等)とに応じて、適宜決定すればよい。
【0053】
かかるノニオン性界面活性剤の具体例としては、「フタージェント」シリーズ(ネオス社製)、「サーフロン」シリーズ(AGCセイミケミカル社製)、「メガファック」シリーズ(DIC社製)、「ユニダイン」シリーズ(ダイキン工業社製)、「BYK-347」、「BYK-349」、「BYK-378」、「BYK-3450」、「BYK-3451」、「BYK-3455」、「BYK-3456」(ビックケミー・ジャパン社製)、「KF-6011」、「KF-6043」(信越化学社製)が挙げられる。
本分散液(1)が界面活性剤を含む場合、本分散液(1)における界面活性剤の含有量は、1~15質量%が好ましい。界面活性剤の含有量がかかる範囲にあれば、Fパウダー(1)とフィラー(1)との相互作用が亢進して、本分散液(1)の分散安定性がより向上しやすい。
【0054】
本分散液(1)は、上述した成分以外にも、チキソ性付与剤、消泡剤、シランカップリング剤、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、表面処理剤、粘度調節剤、難燃剤、有機フィラー等の添加剤を含んでいてもよい。上述した作用機構により、本分散液(1)は、かかる添加剤を含む場合においても、その分散安定性が優れ、それから形成される成形物において、Fポリマー(1)及びフィラー(1)の物性が高度に発現する。
【0055】
本分散液(1)の含水率は、20000ppm以下が好ましく、8000ppm以下がより好ましく、5000ppm以下がさらに好ましい。本分散液(1)の含水率は、0ppm以上が好ましい。この場合、本分散液(1)の分散安定性が一層向上しやすい。
本分散液(1)の粘度は、50mPa・s以上が好ましく、100mPa・s以上がより好ましい。本分散液(1)の粘度は、1000m・Pa以下が好ましく、800m・Pa以下がより好ましい。この場合、本分散液(1)の分散安定性が一層向上しやすい。
本分散液(1)のチキソ比は、1.0以上が好ましい。本分散液(1)のチキソ比は、3.0以下が好ましく、2.0以下がより好ましい。本分散液(1)は、上述した作用機構により、かかるチキソトロピー性に優れた液状組成物を形成しやすい。
【0056】
本分散液(1)は、Fパウダー(1)とフィラー(1)と液状分散媒とを混合して製造でき、Fパウダー(1)を含む非水系分散液とフィラー(1)を含む非水系分散液とを、それぞれ調製し、両者を混合して製造するのが好ましい。この場合、Fパウダー(1)とフィラー(1)との相互作用が亢進して、分散安定性に優れた本分散液(1)を調製しやすい。また、この場合、それぞれの非水系分散液は、上述した界面活性剤を含むのが好ましい。
なお、芳香族性ポリマー等の他の樹脂を、本分散液(1)にさらに含有させる場合は、Fパウダー(1)を液状分散媒に予め分散させる際に同時に添加するか、Fパウダー(1)を分散させる前の液状分散媒に予め添加しておくのが好ましい。
【0057】
本分散液(1)の具体的な製造方法としては、Fパウダー(1)と、フィラー(1)と、異なるフィラーと、液状分散媒とを混合する、製造方法が挙げられる。この混合に際しては、予めFパウダー(1)と液状分散媒とを混合して非水系分散液を形成してもよく、予めフィラー(11)と上記異なるフィラーとを混合してもよい。
【0058】
本分散液の第2の態様(以下、「本分散液(2)」とも記す。)は、Fポリマーの平均粒子径が10μm以下であるパウダーと、芳香族性ポリマー(以下、「ARポリマー」とも記す。)と、無機フィラーと、液状分散媒とを含有する。以下、本分散液(2)における、FポリマーをFポリマー(2)と、FパウダーをFパウダー(2)と、無機フィラーをフィラー(2)とも記す。
なお、本分散液(2)において、Fパウダー(2)及びフィラー(2)は、それぞれ分散しており、ARポリマーは、溶解又は高度に分散している。
そして、Fポリマー(2)の含有量、ARポリマーの含有量及びフィラー(2)の含有量が、それぞれ5質量%超である。
本分散液(2)は、3成分(Fポリマー(2)、ARポリマー及びフィラー(2)の3成分;以下、同様である。)のそれぞれの含有量が多い、分散性に優れた非水系分散液であり、それから得られるポリマー層(成形品)は、3成分に基づく良好な物性を高度に具備し、剛性に優れている。その理由は必ずしも明確ではないが、以下の様に考えられる。
【0059】
ARポリマー及び無機フィラーは、それ自体、非水系分散液中への所定の分散性又は溶解性を示す反面、その含有量が高くなると、その安定性や、非水系分散液の性状を低下させやすい。具体的には、ARポリマーの含有量が高くなると、非水系分散液の粘度、チキソ比を上昇させ、その安定性を損ないやすい。また、無機フィラーの含有量が高くなると、それ自体が凝集又は沈降して、非水系分散液の安定性を損ないやすくなる。
かかる状態の非水系分散液に、さらに、表面張力の乏しいテトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーを多量に分散させると、各成分の凝集や、非水系分散液の相分離を誘引してしまう。かかる傾向は、上記パウダーを分散させるために非水系分散液に物理的な応力(剪断応力等)をかけた場合に顕著になる。
【0060】
一方、Fポリマー(2)は、溶融粘度が所定の範囲にあり可塑性を有しており、そのパウダーは、物理的な応力の影響を受けにくく、分散性に優れている。
本分散液(2)では、かかるFポリマー(2)の微粒状のパウダーを高い含有量で含む。換言すれば、本分散液(2)は、Fポリマー(2)を緻密に(高密度で)含むため、3成分間の相互作用が緩やかに高まりやすい。よって、本分散液(2)は、分散安定性とハンドリング性とに優れると考えられる。さらに、それから形成されるポリマー層において、3成分が高密度かつ均一に充填されやすい。そのため、本分散液(2)から形成される成形物(ポリマー層等)は、3成分の物性を高度に具備しつつ、耐折性、低線膨張性等の剛性に優れていると考えられる。
以上のような効果は、後述する本分散液(2)の好ましい態様において、より顕著に発現する。
【0061】
Fポリマー(2)及びFパウダー(2)の定義及び範囲は、好適な態様も含めて、Fポリマー(1)及びFパウダー(1)のそれらと同様である。
なお、Fポリマー(2)は、数平均分子量が1万~20万であるポリテトラフルオロエチレン(以下、「低分子量PTFE」とも記す。)であってもよい。低分子量PTFEの数平均分子量は、下式(1)に基づいて算出される値である。
Mn = 2.1×1010×ΔHc-5.16 ・・・ (1)
式(1)中、Mnは、低分子量PTFEの数平均分子量を、ΔHcは、示差走査熱量分析法により測定される低分子量PTFEの結晶化熱量(cal/g)を、それぞれ示す。Fポリマー(2)が低分子量PTFEの場合、低分子量PTFEの物性が成形物(ポリマー層等)中で発現し、成形物が耐熱性と耐薬品性とに優れやすい。また、伝熱性のムラが少ない成形物を形成できる。
【0062】
Fポリマー(2)の溶融温度は、280~325℃が好ましく、285~320℃がより好ましい。
Fポリマー(2)は、TFE単位とPAVE単位を含み、全単位に対してPAVE単位を1~5モル%含む、溶融温度が260~320℃であるポリマーが好ましく、TFE単位、PAVE単位及び酸素含有極性基を有するモノマーに基づく単位を含む、酸素含有極性基を有するポリマー(1)、又は、TFE単位及びPAVE単位を含み全単位に対してPAVE単位を2.0~5.0モル%含む、酸素含有極性基を有さないポリマー(2)がより好ましい。
これらのFポリマー(2)は、そのパウダーが分散安定性に優れるだけでなく、本分散液(2)から形成される成形物において、緻密かつ均一に分布しやすい。さらに、ポリマー層において微小球晶を形成しやすく、他の成分との密着性が高まりやすい。その結果、3成分それぞれの物性を高度に具備した成形物が、より形成されやすい。
【0063】
ポリマー(1)は、全単位に対して、TFE単位を90~98モル%、PAVE単位を1~9.97モル%及び極性官能基を有するモノマーに基づく単位を0.01~3モル%、それぞれ含有するのが好ましい。
ポリマー(1)の具体例としては、国際公開第2018/16644号に記載されるポリマーが挙げられる。
【0064】
ポリマー(2)におけるPAVE単位の含有量は、全単位に対して、2.1モル%以上が好ましく、2.2モル%以上がより好ましい。
ポリマー(2)は、TFE単位及びPAVE単位のみからなり、全単位に対して、TFE単位を95.0~98.0モル%、PAVE単位を2.0~5.0モル%含有するのが好ましい。
なお、ポリマー(2)が酸素含有極性基を有さないとは、ポリマー主鎖を構成する炭素原子数の1×10個あたり、ポリマーが有する酸素含有極性基の数が、500個未満であることを意味する。上記酸素含有極性基の数は、100個以下が好ましく、50個以下がより好ましい。上記酸素含有極性基の数の下限は、通常、0個である。
ポリマー(2)は、ポリマー鎖の末端基として酸素含有極性基を生じない、重合開始剤や連鎖移動剤等を使用して製造してもよく、酸素含有極性基を有するFポリマー(重合開始剤に由来する酸素含有極性基をポリマーの主鎖の末端基に有するFポリマー等)をフッ素化処理して製造してもよい。フッ素化処理の方法としては、フッ素ガスを使用する方法(特開2019-194314号公報等を参照)が挙げられる。
【0065】
Fパウダー(2)のD50は、8μm以下が好ましく、4μm以下がより好ましい。パウダーのD50は、0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましい。
また、Fパウダー(2)のD90は、10μm以下が好ましく、6μm以下がより好ましい。
この範囲のD50及びD90において、Fパウダー(2)の流動性と分散性とが良好となり、得られるポリマー層の電気特性(低誘電率等)や耐熱性が最も発現しやすい。
【0066】
本分散液(2)におけるARポリマーは、Fポリマー(2)以外のポリマーであり、主鎖に芳香環を有するポリマーであるか、かかるポリマーを形成するプレポリマーであるのが好ましい。ARポリマーは、熱可塑性であるのが好ましい。
ARポリマーの誘電正接は、0.005以下が好ましく、0.003以下がより好ましい。なお、後述する芳香族性ポリアミック酸のような他の芳香族性ポリマーの前駆体であるポリマーの誘電正接は、その前駆体から形成される芳香族性ポリマーの誘電正接である。
ARポリマーは、芳香族性ポリイミド、芳香族性ポリアミック酸、芳香族性ポリアミドイミド、芳香族性ポリエステル、ポリフェニレンエーテル、フェノール樹脂及びジアリルフタレート樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
中でも、ARポリマーは、芳香族性ポリイミド、芳香族性ポリアミック酸、芳香族性ポリエステル又はポリフェニレンエーテルが好ましく、芳香族性ポリイミド又は芳香族性ポリアミック酸がより好ましい。
【0067】
芳香族性ポリエステルとしては、液晶ポリエステルが挙げられる。液晶ポリエステルとしては、特開2000-248056号公報の段落[0010]~[0015]に記載されるポリマーが挙げられる。
芳香族性ポリエステルの具体例としては、ジカルボン酸(テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルエーテル-4,4’-ジカルボン酸、無水酢酸等)、ジヒドロキシ化合物(4,4’-ビフェノール等)、芳香族ヒドロキシカルボン酸(4-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸等)、芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族アミノカルボン酸等の重合物が挙げられる。
芳香族性ポリエステルの具体例としては、4-ヒドロキシ安息香酸と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸との反応物、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸とテレフタル酸とアセトアミノフェンとの反応物、4-ヒドロキシ安息香酸とテレフタル酸と4,4’-ビフェノールとの反応物、2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸と4,4’-ジヒドロキシビフェニルとテレフタル酸と2,6-ナフタレンジカルボン酸との反応物が挙げられる。
液晶ポリエステルは、溶剤可溶型であってもよく、溶剤不溶型であってもよい。
液晶ポリエステルの融点は、280~340℃であるのが好ましい。
【0068】
芳香族性ポリイミドは、カルボン酸二無水物とジアミンとに基づく単位であり、両者の化合物のイミド化反応により形成された単位(イミド構造を有する単位;以下、「イミド単位」とも記す。)を有する。
なお、芳香族性ポリイミドは、イミド単位のみからなっていてもよく、イミド単位と上記両者の化合物のアミド化反応により形成された単位(アミック酸構造を有する単位;以下、「アミック酸単位」とも記す。)とを有していてもよい。
一方、芳香族性ポリアミック酸とは、アミック酸単位のみからなる芳香族性ポリイミド前駆体である。
かかる芳香族性ポリイミド又は芳香族性ポリアミック酸(以下、これらを総称して「PI類」とも記す。)において、カルボン酸二無水物及びジアミンの少なくとも一方、かつ、その少なくとも一部は、芳香族性の化合物である。
また、カルボン酸二無水物とジアミンは、それぞれ1種を使用してもよく、それぞれ複数種を使用してもよい。カルボン酸二無水物として、少なくとも1種の芳香族カルボン酸二無水物を使用するのが好ましい。
【0069】
PI類は、芳香族テトラカルボン酸の酸二無水物と、2個以上のアリーレン基が連結基を介して連結された構造を有する芳香族ジアミン、又は脂肪族ジアミンとに基づく単位を含むのが好ましい。かかるPI類は、Fポリマー(2)との親和性がより高まる傾向を示し、本分散液(2)の分散性をより高めるだけでなく、それから形成される成形物の接着性が向上しやすい。つまり、かかるPI類は、本分散液(2)において分散剤としても、ポリマー層における接着成分としても機能しやすい。
【0070】
芳香族テトラカルボン酸の酸二無水物は、下式AN1~AN6で表される化合物が好ましい。
【化1】
【0071】
上記芳香族ジアミンが有する上記構造は、2~4個のアリーレン基が連結された構造が好ましい。この場合、PI類の極性がバランスして、上記傾向を一層示しやすい。
アリーレン基は、フェニレン基が好ましい。なお、アリーレン基の水素原子は、水酸基、フッ素原子又はトリフルオロメチル基で置換されていてもよい。
上記芳香族ジアミンにおける連結基は、エーテル性酸素原子、プロパン-2,2-ジイル基又はペルフルオロプロパン-2,2-ジイル基が好ましい。連結基は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよく、エーテル性酸素原子を必須とするのがより好ましい。この場合、PI類は、その立体効果により、上記傾向を一層示しやすい。
【0072】
上記芳香族ジアミンは、下式DA1~DA6で表される化合物が好ましい。
【化2】
【0073】
脂肪族ジアミンとしては、脂環式ジアミン(1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン等)が挙げられる。
【0074】
ARポリマーは、液晶ポリマー(上述した液晶ポリエステル等)であるのが好ましい。
3成分を緻密に含む本分散液(2)から形成される成形物は、3成分が高い含有量で、かつ均質に充填されやすく、液晶ポリマー本来の物性(強度、弾性、振動吸収性等の機械物性や、誘電特性等の電気物性)を具備しつつ、その異方性に起因する引張強度や熱膨張性の低下が抑制されやすい。特に、Fポリマー(2)が、上述したポリマー(1)又は(2)である場合は、その密着性により、かかる傾向が亢進しやすい。
【0075】
ARポリマーは、液状分散媒に溶解して溶液を形成するポリマーであってもよく、液状分散媒に分散して分散液を形成するポリマーであってもよい。後者の場合、ARポリマーの粒子のD50は、1~40μmであるのが好ましく、5~20μmであるのがより好ましい。
ARポリマーの25℃における溶解度は、100gの液状分散媒に対して10g以下であるのが好ましく、5g以下であるのがより好ましい。上記溶解度は、1g以上であるのが好ましい。
かかるARポリマーを使用すれば、室温等の低温域にて行われる本分散液(2)の調製や保管に際して、ARポリマーが部分的に粒子状に分散して存在するため、3成分の粒子間相互作用が亢進して、本分散液(2)の分散安定性と液物性とがより向上しやすい。
【0076】
ARポリマーの液状分散媒の沸点における溶解度は、100gの液状分散媒に対して20g以上であるのが好ましく、25g以上であるのがより好ましい。上記溶解度は、10g以下であるのが好ましい。具体的には、沸点が150℃超の液状分散媒を用いる場合、ARポリマーの150℃における溶解度は、100gの液状分散媒に対して20g以上であるのが好ましく、25g以上であるのがより好ましい。
かかるARポリマーを使用すれば、後述する積層体の製造方法等において、本分散液(2)を加熱する際に、ARポリマーが高度に溶解してFポリマー(2)とのマトリックスの形成が亢進されて、電気特性(誘電率、誘電正接等)に優れた成形物をより効率よく得やすい。
【0077】
本分散液(2)におけるフィラー(2)は、本分散液(2)から形成される成形物に付与する物性に応じて決定すればよい。
フィラー(2)の定義及び範囲は、好適な態様も含めて、フィラー(1)のそれらと同様である。
なお、フィラー(2)の誘電正接は、0.005以下であり、0.003以下が好ましく、0.001以下がより好ましい。
フィラー(2)としては、シリカフィラーが好ましい。
【0078】
フィラー(2)の形状は、粒状(顆粒状、球状)であってもよく、非粒状(鱗片状、層状)であってもよく、繊維状であってもよい。
球状のフィラー(2)のD50は、0.01~10μmが好ましい。この場合、フィラー(2)は、本分散液(2)中の分散性により優れ、成形物中においてより均一に分布しやすい。
繊維状のフィラー(2)において、長さは繊維長であり、径は繊維径である。繊維長は、1~10μmが好ましい。繊維径は、0.01~1μmが好ましい。
本分散液(2)から形成される成形物のUV加工性を一層向上させつつ、その反りの発生を高度に抑制する場合、フィラー(2)は、球状のフィラーが好ましい。
本分散液(2)に含まれる液状分散媒の定義及び範囲は、好適な態様も含めて、本分散液(1)に含まれる液状分散媒のそれらと同様である。
本分散液(2)は、分散安定性を向上する観点から、界面活性剤を含むのが好ましい。
本分散液(2)に含まれる界面活性剤の定義及び範囲は、好適な態様も含めて、本分散液(1)に含まれる界面活性剤のそれらと同様である。
【0079】
本分散液(2)は、水を50ppm以上で含有するのが好ましい。少量の水は、本分散液(2)に含まれる各成分同士の間での親和性を高める作用が期待できる。水の含有量は、100ppm以上がより好ましい。なお、本分散液(2)における水の含有量(割合)の上限は、5000ppm以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましい。
本分散液(2)の粘度は、10000mPa・s以下が好ましく、10~1000mPa・sがより好ましい。
本分散液(2)のチキソ比は、1~2が好ましい。
【0080】
本分散液(2)は、本発明の効果を損なわない範囲で、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、本分散液(1)に含まれていてもよい添加剤と同様のものが挙げられる。
【0081】
本分散液(2)におけるFポリマー(2)の含有量は、5質量%超であり、10質量%以上が好ましく、12質量%以上がより好ましい。Fポリマー(2)の含有量の上限は、30質量%が好ましい。
本分散液(2)におけるARポリマーの含有量は、5質量%超であり、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。ARポリマーの含有量の上限は、40質量%が好ましい。
本分散液(2)におけるフィラー(2)の含有量は、5質量%超であり、10質量%以上が好ましく、12質量%以上がより好ましい。フィラー(2)の含有量の上限は、30質量%が好ましい。
【0082】
また、本分散液(2)におけるFポリマー(2)、ARポリマー及びフィラー(2)の合計での含有量は、30~75質量%が好ましく、30~60質量%がより好ましい。この場合、本分散液(2)の分散安定性がより向上するとともに、形成される成形物において3成分に基づく特性がよりバランスしやすい。
さらに、ARポリマーの含有量に対するFポリマー(2)の含有量の比は、0.25~1.0が好ましく、ARポリマーの含有量に対するフィラー(2)の含有量の比は、0.25~1.0が好ましい。
本分散液(2)における液状分散媒の含有量は、10~70質量%が好ましく、30~70質量%がより好ましい。
本分散液(2)が界面活性剤を含む場合、その含有量は、1~15質量%が好ましい。この場合、成形物においてFポリマー(2)の元来の物性がより向上しやすい。
【0083】
本分散液(2)の具体的な態様としては、Fポリマー(2)の含有量がARポリマーの含有量より少ない態様、Fポリマー(2)の含有量がARポリマーの含有量より多い態様が挙げられる。
前者の態様におけるFポリマー(2)、ARポリマー、フィラー(2)及び液状分散媒それぞれの含有量は、この順に、5質量%超30質量%以下、10質量%以上40質量%以下、5質量%超30質量%以下、0質量%超80質量%未満であるのが好ましい。
後者の態様におけるFポリマー(2)、ARポリマー、フィラー(2)及び液状分散媒それぞれの含有量は、この順に、10質量%以上30質量%以下、5質量%超20質量%以下、5質量%超30質量%以下、20質量%以上80質量%未満であるのが好ましい。
【0084】
本分散液(2)の製造方法としては、上述した、ARポリマーを含む場合の本分散液(1)の製造方法と同様の方法が挙げられる。
【0085】
本発明の製造方法(以下、「本法」とも記す。)は、本分散液を、基材の表面に塗布し加熱して、成形物としてのポリマー層を形成し、基材とポリマー層とを、この順で有する積層体を得る方法である。
本法では、基材の表面に本分散液を塗布して液状被膜を形成し、この液状被膜を加熱して乾燥した後、さらに焼成して、ポリマー層を形成する。つまり、ポリマー層は、少なくともFポリマーと無機フィラーとを含む層である。ポリマー層がさらにARポリマーを含む場合、ポリマー層におけるARポリマーは、本分散液に含まれるARポリマー自体であってもよく、ポリマー層の形成における加熱によって、イミド化反応が進行したARポリマーであってもよい。
塗布方法としては、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、グラビアオフセット法、ナイフコート法、キスコート法、バーコート法、ダイコート法、ファウンテンメイヤーバー法、スロットダイコート法、コンマコート法が挙げられる。
【0086】
本法における液状被膜を乾燥する際の加熱温度(雰囲気の温度)は、Fポリマーの溶融温度未満で、本分散液に含まれる溶媒の沸点等に応じて設定すればよく、90~250℃が好ましく、100~200℃がより好ましい。
また、加熱時間は、0.1~10分間が好ましく、0.5~5分間がより好ましい。
なお、乾燥における加熱は、1段階で実施してもよく、異なる温度にて2段階以上で実施してもよい。また、乾燥被膜中には、極性溶媒の一部が残留していてもよい。
【0087】
本法における乾燥被膜を焼成する際の温度(雰囲気の温度)は、Fポリマーの溶融温度以上で、Fポリマーの種類に応じて設定すればよく、300~400℃が好ましく、320~390℃がより好ましく、340~380℃がさらに好ましい。
また、加熱時間は、30秒間~5分間が好ましい。
また、焼成における加熱は、1段階で実施してもよく、異なる温度にて2段階以上で実施してもよい。
【0088】
上記乾燥及び焼成の際の加熱手段としては、通風乾燥炉を用いる方法、赤外線等の熱線照射炉を用いる方法が挙げられる。
その際の雰囲気の状態は、常圧下、減圧下のいずれであってよい。
その際の雰囲気は、酸化性ガス(酸素ガス等)雰囲気、還元性ガス(水素ガス等)雰囲気、不活性ガス(ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、窒素ガス等)雰囲気のいずれであってもよい。
【0089】
本法における基材は、金属箔又は耐熱性樹脂フィルムが好ましい。
金属箔の表面の十点平均粗さは、0.5μm以下が好ましく、0.1μm未満がより好ましい。金属箔の表面の十点平均粗さは、0.01μm以上が好ましい。この場合、ポリマー層と金属箔とがより高度に密着する。
このため、積層体(ポリマー層付金属箔)又はそれを加工して得られるプリント基板において、誘電正接(Df)がより顕著に低下しやすい。
具体的には、本法における基材が金属箔である場合、積層体の周波数10GHzでの誘電正接は、0.0020以下が好ましく、0.0015以下がより好ましい。上記誘電正接は、0.0001以上が好ましい。
金属箔の材質としては、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金(42合金も含む)、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金等が挙げられる。
金属箔は、圧延銅箔又は電解銅箔が好ましい。
【0090】
金属箔の表面は、防錆処理(クロメート等の酸化物皮膜等の形成)がされていてもよい。また、金属箔の表面は、シランカップリング剤により処理されていてもよい。その際の処理範囲は、金属箔の表面の一部であってもよく、表面の全部であってもよい。
金属箔の厚さは、0.1~20μmが好ましく、0.5~10μmがより好ましい。
ポリマー層の厚さは、1~20μmが好ましく、2~18μmがより好ましく、5~15μmがさらに好ましい。この場合、加熱によるポリマー層と金属箔との界面の膨れが抑えられるとともに、高周波領域における伝送損失が大幅に改善される。
【0091】
また、金属箔として、2層以上の金属箔を含むキャリア付金属箔を使用してもよい。キャリア付金属箔としては、キャリア銅箔(厚さ:10~35μm)と、剥離層を介してキャリア銅箔上に積層された極薄銅箔(厚さ:2~5μm)とからなるキャリア付銅箔が挙げられる。かかるキャリア付銅箔を使用すれば、MSAP(モディファイドセミアディティブ)プロセスによるファインパターンの形成が可能である。上記剥離層としては、ニッケル又はクロムを含む金属層か、この金属層を積層した多層金属層が好ましい。
キャリア付金属箔の具体例としては、福田金属箔粉工業株式会社製の商品名「FUTF-5DAF-2」が挙げられる。
【0092】
耐熱性樹脂フィルムは、耐熱性樹脂の1種以上を含むフィルムであり、単層フィルムであっても多層フィルムであってもよい。耐熱性樹脂フィルムには、ガラス繊維又は炭素繊維等が埋設されていてもよい。
基材が耐熱性樹脂フィルムである場合は、基材の両面にポリマー層を形成するのが好ましい。この場合、ポリマー層が耐熱性樹脂フィルムの両面に形成されるため、積層体の線膨張係数が顕著に低下し、反りが生じにくい。具体的には、かかる態様における積層体の線膨張係数の絶対値は、1~25ppm/℃が好ましい。
【0093】
耐熱性樹脂としては、ポリイミド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリアリルスルホン、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリルエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステルアミドが挙げられ、ポリイミド(特に、芳香族性ポリイミド)が好ましい。
この場合、ポリマー層のARポリマーが有する芳香族環及び耐熱性樹脂フィルム(基材)の芳香族性ポリイミドが有する芳香族環がスタックするため、ポリマー層の耐熱性樹脂フィルムに対する密着性が向上すると考えられる。また、この場合、ポリマー層と耐熱性樹脂フィルムとが相溶した一体化物でなく、互いに独立した層として存在する。このため、Fポリマーの低い吸水性がARポリマーの高い吸水性を補完して、積層体は、低い吸水性(高い水バリア性)を発揮すると考えられる。
【0094】
両面にポリマー層を有する耐熱性樹脂フィルムである積層体において、その厚さ(総厚)は、25μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましい。上記厚さは、150μm以下が好ましい。
かかる構成において、耐熱性樹脂フィルムの厚さに対する2つのポリマー層の合計での厚さの比は、0.5以上が好ましく、0.8以上がより好ましい。上記比は、5以下が好ましい。
この場合、耐熱性樹脂フィルムの特性(高い降伏強度、難塑性変形性)とポリマー層の特性(低い吸水性)とがバランスよく発揮される。
【0095】
本法による積層体であり、基材が耐熱性樹脂フィルムである積層体の好適な態様としては、耐熱性樹脂フィルムが厚さ20~100μmのポリイミドフィルムであり、ポリマー層、ポリイミドフィルム、ポリマー層がこの順に直接接触して積層された3層構成のフィルムが挙げられる。かかる態様における、2つのポリマー層の厚さは、同じであり、15~50μmであるのが好ましい。また、ポリイミドフィルムの厚さに対する2つのポリマー層の合計での厚さの比は、0.5~5が好ましい。かかる態様の積層体が、上述した積層体の効果を最も発現しやすい。
【0096】
積層体のポリマー層の最表面は、その線膨張性や接着性を一層向上させるために、さらに、アニール処理、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、エキシマ処理、シランカップリング処理をしてもよい。
積層体のポリマー層の最表面には、さらに他の基板を積層してもよい。
他の基板としては、耐熱性樹脂フィルム、繊維強化樹脂板の前駆体であるプリプレグ、耐熱性樹脂フィルム層を有する積層体、プリプレグ層を有する積層体が挙げられる。
なお、プリプレグは、強化繊維(ガラス繊維、炭素繊維等)の基材(トウ、織布等)に熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を含浸させたシート状の基板である。
耐熱性樹脂フィルムとしては、上述した耐熱性樹脂フィルムが挙げられる。
【0097】
積層の方法としては、積層体と他の基板とを熱プレスする方法が挙げられる。
他の基板がプリプレグである場合の熱プレスの条件は、温度を120~300℃とし、雰囲気の圧力を20kPa以下の真空とし、プレス圧力を0.2~10MPaとするのが好ましい。他の基板が耐熱性樹脂フィルムである場合の熱プレスの条件は、この内の温度を310~400℃とするのが好ましい。
本発明の積層体は、電気特性に優れるポリマー層を有するため、プリント基板材料として好適である。具体的には、本発明の積層体は、フレキシブル金属張積層板やリジッド金属張積層板としてプリント基板の製造に使用でき、特に、フレキシブル金属張積層板としてフレキシブルプリント基板の製造に好適に使用できる。
【0098】
基材が金属箔である積層体(ポリマー層付金属箔)の金属箔をエッチング加工し、伝送回路を形成してプリント基板が得られる。具体的には、金属箔をエッチング処理して所定の伝送回路に加工する方法や、金属箔を電解めっき法(セミアディティブ法(SAP法)、MSAP法等)によって所定の伝送回路に加工する方法によって、プリント基板を製造できる。
ポリマー層付金属箔から製造されたプリント基板は、金属箔から形成された伝送回路とポリマー層とをこの順に有する。プリント基板の構成の具体例としては、伝送回路/ポリマー層/プリプレグ層、伝送回路/ポリマー層/プリプレグ層/ポリマー層/伝送回路が挙げられる。
かかるプリント基板の製造においては、伝送回路上に層間絶縁膜を形成してもよく、伝送回路上にソルダーレジストを積層してもよく、伝送回路上にカバーレイフィルムを積層してもよい。これらの層間絶縁膜、ソルダーレジスト及びカバーレイフィルムの材料として、本分散液を使用してもよい。
【0099】
プリント基板の具体的な態様としては、プリント基板を多層化した多層プリント回路基板が挙げられる。
多層プリント回路基板の好適な態様としては、多層プリント回路基板の最外層がポリマー層であり、金属箔又は伝送回路とポリマー層とプリプレグ層とがこの順に積層された構成を1以上有する態様が挙げられる。なお、上記構成の数は複数(2以上)が好ましい。また、ポリマー層とプリプレグ層との間に、伝送回路がさらに配置されていてもよい。
かかる態様の多層プリント回路基板は、最外層のポリマー層により、耐熱加工性に特に優れている。具体的には、288℃においても、ポリマー層とプリプレグ層との界面膨れや、金属箔(伝送回路)とポリマー層との界面剥離が発生しにくい。特に、金属箔が伝送回路を形成している場合でも、ポリマー層が金属箔(伝送回路)と強固に密着しているため、反りが発生しにくく耐熱加工性に優れている。
【0100】
多層プリント回路基板の好適な態様としては、多層プリント回路基板の最外層がプリプレグ層であり、金属箔又は伝送回路とポリマー層とプリプレグ層とがこの順に積層された構成を1以上有する態様も挙げられる。なお、上記構成の数は複数(2以上)が好ましい。また、ポリマー層とプリプレグ層との間に、伝送回路がさらに配置されていてもよい。
かかる態様の多層プリント回路基板は、最外層にプリプレグ層を有していても、耐熱加工性に優れている。具体的には、300℃においても、ポリマー層とプリプレグ層との界面膨れや金属箔(伝送回路)とポリマー層との界面剥離が発生しにくい。特に、金属箔が伝送回路を形成している場合でも、ポリマー層が金属箔(伝送回路)と強固に密着しているため、反りにくく、耐熱加工性に優れている。
つまり、本発明によれば、各種表面処理を施さずとも、それぞれの界面が強固に密着し、加熱における界面膨れや界面剥離、特に、最外層における膨れや剥離が抑制された、種々の構成を有するプリント基板が容易に得られる。
【0101】
本発明の成形物(以下、「本成形物」とも記す。)は、Fポリマーと、平均粒子径が0.10μm超である無機フィラーとを含み、空隙率が5体積%以下である。
本成形物は、Fポリマーをマトリックスポリマーとするポリマー層に、無機フィラーが高度に充填されている、緻密(中実)な成形物であるとも言える。
本成形物の好適な態様としては、Fポリマー(1)と、フィラー(11)と、異なるフィラーとを含み、空隙率が5体積%以下である態様が挙げられる。かかる態様においては、ポリマー層の空隙に、異なるフィラーが充填され、空隙率が一層低減しやすい。
本成形物の形態としては、層状、フィルム状、板状、塊状が挙げられる。
【0102】
本成形物における、Fポリマー及び無機フィラーのそれぞれの定義及び範囲は、好適な態様も含めて、本分散液(1)及び本分散液(2)におけるそれらの定義及び範囲と同様である。
本成形物において、Fポリマーの含有量及び無機フィラーの含有量は、この順に、30~70質量%、30~70質量%が好ましい。本成形物における、Fポリマーの含有量に対する無機フィラーの含有量の質量比は、1.5以下が好ましく、1以下がより好ましい。換言すれば、本成形物における無機フィラーの含有量は、Fポリマーの含有量以下であるのが好ましい。上記比は、0.1以上が好ましく、0.5以上がより好ましい。
本成形物が異なるフィラーを含む場合、フィラー(11)の含有量に対する、異なるフィラーの含有量の質量比は、0.1~1が好ましい。
本成形物が他の樹脂を含む場合、他の樹脂の含有量は、1~10質量%が好ましい。なお、他の樹脂の定義及び範囲は、その好適な態様も含めて、本分散液(1)における他の樹脂のそれらと同様である。なお、他の樹脂は芳香族性ポリマーが好ましく、芳香族性ポリイミドがより好ましい。他の樹脂が芳香族性ポリイミドである場合、Fポリマーの含有量に対する芳香族性ポリイミドの含有量の質量比は、1.0以下が好ましく、0.1~0.7がより好ましい。
【0103】
本成形物における空隙は、Fポリマーと無機フィラーとの界面に存在しているのが好ましい。
本成形物における空隙率は、5体積%以下であり、4体積%以下が好ましく、3体積%以下がより好ましい。本成形物の空隙率は、0.01体積%以上が好ましく、0.1体積%以上がより好ましい。
本成形物における空隙の配置及び空隙率が、それぞれ上記状態及び範囲であれば、空隙により、Fポリマー及び無機フィラーの物性が、成形物において、顕著に発現しやすい。具体的には、Fポリマーによる諸物性(耐熱性、電気特性等)と無機フィラーによる諸物性(低線膨張率、誘電特性等)とを高度に具備した成形物を形成しやすく、かかる成形物は、プリント基板材料として好適に使用できる。
【0104】
本成形物は、本分散液から形成するのが好ましい。本分散液から本成形物を形成する方法としては、上述の本法が挙げられる。かかる場合、基材の表面に、ポリマー層である本成形物を容易に形成できる。基材の表面に本成形物を有する積層体の定義及び範囲は、好適な態様も含めて、本法における積層体のそれらと同様である。
【実施例
【0105】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
1.分散液及び成形物の製造例(その1)
1-1.各成分の準備
[パウダー]
パウダー11:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に98.0モル%、0.1モル%、1.9モル%含み、酸素含有極性基を有するポリマー11(溶融温度:300℃)からなるパウダー(D50:2.0μm、98%粒径:4.9μm)
パウダー12:TFE単位及びPPVE単位を、この順に98.7モル%、1.3モル%含み、酸素含有極性基を有しないポリマー12(溶融温度:305℃)からなるパウダー(D50:2.4μm、98%粒径:5.8μm)
パウダー13:ポリマー12からなり、粒子径10μm以上の粒子を含むパウダー(D50:2.6μm、D98:10.5μm)
パウダー14:PTFEからなるパウダー(D50:2.4μm、98%粒径:6.3μm)
なお、ポリマー11及びポリマー12の、380℃における溶融粘度は、それぞれ1×10Pa・s以下である。
【0106】
[フィラー]
フィラー11:酸化ケイ素からなり、比表面積7m/gである、略真球状のシリカフィラー(D50:0.4μm、98%粒径:1.0μm)
フィラー12:酸化ケイ素からなり、比表面積5m/gである、略真球状のシリカフィラー(D50:0.9μm、98%粒径:3.1μm)
フィラー13:酸化ケイ素からなり、比表面積14m/gである、略真球状のシリカフィラー(D50:0.08μm、98%粒径:0.2μm)
フィラー14:鱗片状のステアタイトフィラー(D50:4.8μm、平均長径:5.7μm、平均短径:0.3μm、アスペクト比:20、日本タルク社製「BST」)
フィラー15:酸化ケイ素からなり、比表面積3m/gである、略真球状のシリカフィラー(D50:1.5μm、98%粒径:3.3μm)
なお、それぞれのフィラーの表面はビニルトリメトキシシランで表面処理されている。
【0107】
[非水系溶媒]
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
[界面活性剤]
界面活性剤11:CH=C(CH)C(O)OCHCH(CFFとCH=C(CH)C(O)(OCHCH23OHとのコポリマーであり、フッ素含有量が35質量%であり、アルコール性水酸基とオキシアルキレン基とを有するノニオン性ポリマー
[他のポリマーのワニス]
ワニス11:熱可塑性ポリイミド(PI11)がNMPに溶解したワニス
【0108】
1-2.分散液の製造例
(例1-1)
まず、パウダー11とワニス11と界面活性剤11とNMPとをポットに投入した後、ポット内にジルコニアボールを投入した。その後、150rpmにて1時間、ポットをころがして、液状組成物を調製した。
次に、フィラー11と界面活性剤11とNMPとをポットに投入した後、ポット内にジルコニアボールを投入した。その後、150rpmにて1時間、ポットをころがして、液状組成物を調製した。
その後、両者の液状組成物をポットに投入した後、ポット内にジルコニアボールを投入した。その後、150rpmにて1時間、ポットをころがして、パウダー11(11質量部)、フィラー11(11質量部)、PI11(7質量部)、界面活性剤11(4質量部)及びNMP(67質量部)を含む分散液1-1(粘度:400mPa・s)を得た。
【0109】
(例1-2)
パウダー11に加えてパウダー14を使用した以外は、例1-1と同様にして、パウダー11(7質量部)、パウダー14(4質量部)、フィラー11(11質量部)、PI11(7質量部)、界面活性剤11(4質量部)及びNMP(67質量部)を含む分散液1-2を得た。
(例1-3)
パウダー11に代えてパウダー12を使用した以外は、例1-1と同様にして、パウダー12(11質量部)、フィラー11(11質量部)、PI11(7質量部)、界面活性剤1(4質量部)及びNMP(67質量部)を含む分散液1-3を得た。
【0110】
(例1-4)
まず、パウダー12とワニス11と界面活性剤11とNMPとをポットに投入した後、ポット内にジルコニアボールを投入した。その後、150rpmにて1時間、ポットをころがして、液状組成物を得た。
次に、この液状組成物にフィラー11を加え、150rpmにて1時間、ポットをころがして、パウダー12(11質量部)、フィラー11(11質量部)、PI11(7質量部)、界面活性剤11(4質量部)及びNMP(67質量部)を含む分散液1-4を得た。
(例1-5)
パウダー11に代えてパウダー13を使用した以外は、例1-1と同様にして、分散液1-5を得た。
【0111】
(例1-6)
パウダー11に代えてパウダー12を、フィラー11に代えてフィラー12を使用した以外は、例1-1と同様にして、分散液1-6を得た。
(例1-7)
パウダー11に代えてパウダー14を使用した以外は、例11と同様にして、分散液17を得た。
(例1-8)
パウダー11に代えてパウダー12を、フィラー11に代えてフィラー13を使用した以外は、例1-1と同様にして、分散液1-8を得た。
【0112】
(例1-9)
パウダー11に代えてパウダー14を使用し、フィラー11及びNMPの使用量をそれぞれ変更した以外は、例1-1と同様にして、パウダー14(11質量部)、フィラー11(3質量部)、PI11(7質量部)、界面活性剤11(4質量部)及びNMP(75質量部)を含む分散液1-9を得た。
(例1-10)
ワニス11及びNMPの使用量をそれぞれ変更した以外は、例1-1と同様にして、パウダー11(11質量部)、フィラー11(11質量部)、PI11(1質量部)、界面活性剤11(4質量部)及びNMP(73質量部)を含む分散液1-10を得た。
(例1-11)
フィラー11に代えてフィラー14を使用した以外は、例1-1と同様にして、分散液1-11を得た。
(例1-12)
11質量部のフィラー11に代えて、3質量部のフィラー11と、8質量部のフィラー15を使用した以外は、例1-1と同様にして、分散液1-12を得た。
それぞれの分散液における、パウダー、ポリマー及びフィラーのそれぞれの種類を、下表1にまとめて示す。
【0113】
【表1】
【0114】
1-3.積層体の製造例
長尺の銅箔(厚さ:18μm)の表面に、バーコーターを用いて分散液1-1を塗布して、ウェット膜を形成した。次いで、このウェット膜が形成された金属箔を、120℃にて5分間、乾燥炉に通し、加熱により乾燥させて、ドライ膜を得た。その後、窒素オーブン中で、ドライ膜を380℃にて3分間、加熱した。これにより、金属箔と、その表面にパウダー1の溶融焼成物及びフィラー1を含む、成形物としてのポリマー層(厚さ:5μm)とを有する積層体1-1を製造した。
【0115】
分散液1-1に代えて、分散液1-2~1-12を使用した以外は、積層体1-1と同様にして、それぞれ積層体1-2~1-12を得た。なお、積層体1-1及び積層体1-10のそれぞれのポリマー層の空隙率は5%以下であり、積層体1-1のポリマー層の空隙率は、積層体1-10の空隙率より低かった。
【0116】
1-4.評価
1-4-1.分散液の分散安定性
各分散液1-1~1-10を容器中に25℃にて1週間保管保存後、その分散性を目視にて確認し、下記の基準に従って分散安定性を評価した。
[分散安定性]
◎:凝集物が視認されない。
〇:容器側壁に細かな凝集物の付着が視認される。軽く撹拌すると均一に再分散した。
△:容器底部にも凝集物の沈殿が視認される。せん断をかけて撹拌すると均一に再分散する。
×:容器底部にも凝集物の沈殿が視認される。せん断をかけて撹拌しても再分散が困難である。
【0117】
1-4-2.ポリマー層(成形物)の表面平滑性
各積層体1-1~1-10のポリマー層の表面を目視にて確認し、下記の基準に従って表面平滑性を評価した。
〇:ポリマー層の表面全体が平滑である。
△:ポリマー又はフィラーの欠落が、ポリマー層の表面縁部に視認される。
×:ポリマー又はフィラーの欠落による凹凸が、ポリマー層の表面全体に視認される。
【0118】
1-4-3.ポリマー層(成形物)の線膨張係数
各積層体1-1、1-2、1-3及び1-9について、その銅箔を塩化第二鉄水溶液でエッチングして除去して単独のポリマー層を作製し、180mm角の四角い試験片を切り出し、JIS C 6471:1995に規定される測定方法にしたがって、25~260℃の範囲における、試験片の線膨張係数を測定した。
〇:30ppm/℃以下である。
×:30ppm/℃超である。
【0119】
1-4-4.ポリマー層(成形物)の誘電正接
各積層体1-1、1-2、1-3及び1-9について、その銅箔を塩化第二鉄水溶液でエッチングして除去して単独のポリマー層を作製し、SPDR(スプリットポスト誘電体共振)法にて、上記ポリマー層の誘電正接(測定周波数:10GHz)を測定した。
◎:その誘電正接が0.0010未満である。
〇:その誘電正接が0.0010以上0.0019以下である。
△:その誘電正接が0.0019超0.0025以下である。
×:その誘電正接が0.0025超である。
それぞれの評価結果を、下表2にまとめて示す。
【0120】
【表2】
【0121】
分散液1-11を、上記分散液と同様にして評価した結果、その分散安定性は「◎」であった。また、積層体1-11を、上記積層体と同様にして評価した結果、表面平滑性は「〇」、線膨張係数は26ppm/℃、誘電率は2.2、誘電正接は0.0015であった。積層体1-11のポリマー層の空隙率は5%以下であり、積層体1-1のポリマー層の空隙率は、積層体1-11の空隙率より低かった。なお、誘電率は誘電正接と同様の装置及び条件にて測定した。
【0122】
分散液1-12を、上記分散液と同様にして評価した結果、その分散安定性は「◎」であった。また、積層体1-12を、上記積層体と同様にして評価した結果、その表面平滑性は「〇」、線膨張係数は25ppm/℃、誘電率は2.2であった。さらに、積層体1-12のポリマー層の空隙率は5%以下であり、積層体1-1のポリマー層の空隙率より低かった。
【0123】
2.分散液及び成形物の製造例(その2)
2-1.各成分の準備
[パウダー]
・パウダー21:低分子量PTFE(数平均分子量:20000)のパウダー(D50:2μm)
・パウダー22:TFE単位及びPPVE単位を、この順に97.5モル%、2.5モル%で含有し、極性官能基を有さないポリマー(溶融温度:305℃)のパウダー(D50:2μm)
・パウダー23:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に98.0モル%、0.1モル%、1.9モル%で含有し、極性官能基を有するポリマー(溶融温度:300℃)のパウダー(D50:2μm)
なお、いずれのポリマーも、380℃における溶融粘度は、1×10Pa・s以下である。
【0124】
[ARポリマー]
・PI21前駆体溶液(ポリアミック酸溶液21)
まず、反応容器の中に、ジメチルアセトアミド(DMAc)と、2.3gのパラフェニレンジアミン(p-PDA)、1.5gの4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(TFMB)及び0.7gの1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)とを添加した後、25℃にて撹拌して溶液を得た。
次に、得られた溶液に、6.4gのビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボン酸)1,4-フェニレン(TAHQ)と4.1gのs-3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物(s-BPDA)とを徐々に添加した。その後、この溶液を、25℃にて3時間撹拌して、PI21前駆体溶液を得た。
【0125】
次に、PI21前駆体溶液を、銅箔の粗化処理面にイミド化した後の樹脂膜の厚さが25μmになるように、バーコーターを用いて塗布し、130℃で10分間乾燥させた。さらに、銅箔を、25℃まで冷却した後、段階的に360℃(物温)まで加熱して、PI21の膜を得た。360℃で2時間保持した後、25℃に自然冷却した後、銅箔をエッチングして除去し、膜単体を作成し、その誘電正接を測定した結果、0.0037であった。
【0126】
・PI22前駆体溶液(ポリアミック酸溶液22)
モノマーとして、p-PDA及びs-BPDAのみを使用した以外は、PI21前駆体溶液と同様にして、PI22前駆体溶液を得た。そして、PI21と同様にして、PI22を含む樹脂膜を形成し、その誘電正接を測定した結果、0.0075であった。
【0127】
・PES21(液晶性芳香族ポリエステル21)
まず、窒素雰囲気下の反応器内に、84.7gの2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸、41.6gの4-ヒドロキシアセトアニリド、5.8gのイソフタル酸、62.0gのジフェニルエーテル-4,4’-ジカルボン酸及び81.7gの無水酢酸を仕込んだ。
次に、反応器内温を15分間かけて150℃まで昇温し、3時間還流させた後、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、170分間かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められるまで反応を継続した。
次に、反応器の内容物を回収し、25℃まで冷却し粉砕した後、窒素雰囲気下にて240℃で3時間保持し、固相反応させてPES1のパウダーを得た。100gのPES1を、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に加え、140℃に加熱して溶解させて、褐色透明なPES21溶液を得た。
PES21溶液を、銅箔の上にフィルムアプリケーターを用いてキャストした後、100℃に加熱し、さらに250℃から12分間かけて350℃まで昇温した後、放冷してフィルムを形成した。エッチングにより銅箔を除去し、厚さ25μmのPES21のフィルムを得て、その誘電正接を測定した結果、0.0027であった。
【0128】
・PES22(液晶性芳香族ポリエステル22)
2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸と、4,4’-ジヒドロキシビフェニルと、テレフタル酸と、2,6-ナフタレンジカルボン酸とを、この順に、60モル%、20モル%、15.5モル%、4.5モル%の割合で反応させて得られたPES22を粉砕し、PES22のパウダー(D50:16μm)を得た。100gのPES22のパウダーをN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に加え、PES22のパウダーが分散したPES22の分散液を得た。
PES22の分散液を、銅箔の上にフィルムアプリケーターを用いてキャストした後、100℃に加熱し、さらに250℃から12分間かけて350℃まで昇温した後、放冷してフィルムを形成した。エッチングにより銅箔を除去し、厚さ25μmのPES22のフィルムを得て、その誘電正接を測定した結果、0.0007であった。
なお、PES22のDMAc(沸点:165℃)に対する溶解度は、25℃において10g以下であり、150℃において20g以上であった。また、パウダー形状のPES22を使用した。
【0129】
・PPE21(ポリフェニレンエーテル21)
ポリフェニレンエーテル樹脂(SABIC社製、「Noryl1640」)をトルエンに溶解させてPPE21溶液を調製した。PPE21溶液を銅箔の表面にフィルムアプリケーターを用いてキャストした後、100℃に加熱し、放冷してPPE21のフィルムを形成した。エッチングにより銅箔を除去し、厚さ25μmのPPE21のフィルムを得て、その誘電正接を測定した結果、0.0040であった。
【0130】
[無機フィラー]
・フィラー21:アミノシランカップリング剤で表面処理されたシリカフィラー(平均粒子径:5μm;デンカ社製、「FB-7SDC」)
[界面活性剤]
・界面活性剤21:CH=C(CH)C(O)OCHCH(CFFとCH=C(CH)C(O)(OCHCH23OHのコポリマー
【0131】
2-2.分散液の製造
ポットに、PI21前駆体溶液に、DMAcとパウダー21とフィラー21と界面活性剤21とを加えて混合し、ホモディスパーにて2000回転で1時間撹拌して、PI21前駆体を25質量%、パウダー21を13質量%、フィラー21を13質量%、界面活性剤21を1質量%、それぞれ含む、分散液2-1を得た。
パウダーとARポリマーと非水系分散媒の、種類又は量を、下表3に示す通りに変更した以外は、分散液2-1と同様にして、分散液2-2~2-9を得た。
【0132】
【表3】
【0133】
2-3.分散液の再分散性の評価
各分散液を1か月静置した後、沈降させた後、旋回型振盪器(ヤマト科学社製、「SA-320」)を使用して、100rpmで1時間振とうした。その後、分散液を100μmメッシュでろ過して、以下の基準に従って評価した。
〇(可) :メッシュに凝集物はない。
×(不可):メッシュに凝集物がみられる。
結果を、以下の表4に示す。
【0134】
【表4】
【0135】
2-4.樹脂膜(成形物)の作製
各分散液を使用して、上記樹脂膜の作製条件と同じ条件で、厚さ100μmの樹脂膜を作製した。
2-5.樹脂膜(成形物)の評価
2-5-1.線膨張係数
各樹脂膜を23℃、50%RHの雰囲気下に24時間以上静置した後、幅5mm、長さ15mmのサンプルを切り出した。その後、このサンプルについて、熱機械分析装置(島津製作所社製、「TMA-60」を使用して、荷重5N、昇温速度2℃/minで加熱した。そして、30℃から200℃までのサンプルの寸法変化を測定し、線膨張係数(ppm/℃)を求めた。
【0136】
2-5-2.耐折性
JIS P 8115に準拠して、各樹脂膜の耐折性(MIT)を測定した。
装置には、MIT耐折疲労試験機 D型(東洋精機製作所社製)を使用して、試験速度を175cpm、折り曲げ角度を135°、荷重を1kg、クランプのRを0.38mmとした。そして、各樹脂膜が破断した回数を測定した。
2-5-3.誘電正接
各樹脂膜を23℃、50%RHの雰囲気下に24時間以上静置した。その後、各樹脂膜についてSPDR法(10GHz)に従って、ネットワークアナライザを使用して、その誘電正接を測定した。
これらの結果を、以下の表5に示す。
【0137】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明の非水系分散液は、分散安定性に優れ、Fポリマーに基づく物性と無機フィラーに基づく特性とを具備した成形物(フィルム、プリプレグ等の含浸物、積層板等)の製造に使用できる。本発明の成形物は、アンテナ部品、プリント基板、航空機用部品、自動車用部品、スポーツ用具、食品工業用品、塗料、化粧品等として有用であり、具体的には、電線被覆材(航空機用電線等)、電気絶縁性テープ、石油掘削用絶縁テープ、プリント基板用材料、分離膜(精密濾過膜、限外濾過膜、逆浸透膜、イオン交換膜、透析膜、気体分離膜等)、電極バインダー(リチウム二次電池用、燃料電池用等)、コピーロール、家具、自動車ダッシュボート、家電製品等のカバー、摺動部材(荷重軸受、すべり軸、バルブ、ベアリング、歯車、カム、ベルトコンベア、食品搬送用ベルト等)、工具(シャベル、やすり、きり、のこぎり等)、ボイラー、ホッパー、パイプ、オーブン、焼き型、シュート、ダイス、便器、コンテナ被覆材として有用である。