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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】分散液
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/18 20060101AFI20240925BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20240925BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240925BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20240925BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20240925BHJP
   C08K 7/24 20060101ALI20240925BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
C08L27/18
C08L79/08 B
C08L79/08 Z
C08K3/013
C08K3/36
C08K5/20
C08K7/24
B32B27/30 D
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021567381
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(86)【国際出願番号】 JP2020047359
(87)【国際公開番号】W WO2021132055
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2019234714
(32)【優先日】2019-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】光永 敦美
(72)【発明者】
【氏名】笠井 渉
(72)【発明者】
【氏名】結城 創太
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/159102(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/235439(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/131809(WO,A1)
【文献】特開2017-066327(JP,A)
【文献】国際公開第2012/002038(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/00-27/24
C08L 79/00-79/08
C08K 3/013
C08K 3/36
C08K 5/20
C08K 7/24
B32B 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと、無機フィラーと、熱可塑性の芳香族ポリイミド又は熱硬化性のマレイミド化合物である化合物Pと、N-メチル-2-ピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N-ジメチルアセトアミド又はジメチルホルムアミドである液状アミドと、ケトン、エステル及び芳香族炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種の液状化合物とを含む、分散液。
【請求項2】
前記液状アミドの含有量が前記液状化合物の含有量より多い、請求項1に記載の分散液。
【請求項3】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量が、5質量%以上である、請求項1又は2に記載の分散液。
【請求項4】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量に対する前記無機フィラーの含有量の質量での比が、0.5~2.0である、請求項1~3のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項5】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含量量に対する前記化合物Pの含有量の質量での比が、0.4以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項6】
前記無機フィラーが、シリカを含む無機フィラーである、請求項1~5のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項7】
前記無機フィラーが、中空状の無機フィラーである、請求項1~6のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項8】
前記無機フィラーの平均粒子径が、1μm以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項9】
記液状化合物がシクロヘキサノン、シクロペンタノン、γ-ブチロラクトン又はトルエンである、請求項1~8のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項10】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位又はヘキサフルオロプロペンに基づく単位を含むテトラフルオロエチレン系ポリマー、又は数平均分子量が20万以下のポリテトラフルオロエチレンである、請求項1~9のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項11】
さらに、界面活性剤を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の分散液の製造方法であって、前記化合物P、前記無機フィラー、前記液状アミド及び前記液状化合物を含む液状組成物と、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダー及び前記液状アミドを含む液状組成物とを混合して前記分散液を得る、分散液の製造方法。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか1項に記載の分散液を基材の表面に塗布し、加熱して、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを含むポリマー層を形成して、前記基材で構成される基材層と前記ポリマー層とを有する積層体を得る、積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと、無機フィラーと、エステル結合、イミド結合又はアミド結合を有するポリマー又はかかるポリマーの前駆体からなる化合物Pと、所定の液状分散媒とを含む分散液及びその製造方法、並びにかかる分散液から形成されるポリマー層を有する積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンとペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)とのコポリマー(PFA)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマー(FEP)等のテトラフルオロエチレン系ポリマーは、離型性、電気特性、撥水撥油性、耐薬品性、耐候性、耐熱性等の物性に優れており、種々の産業用途に利用されている。
これらの物性を基材の表面に付与するためのコーティング剤として、テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーを含む分散液が知られている。特許文献1には、その状態安定性を向上させる観点から、PTFEのパウダーに加えて、Al、SiO、CaCO、ZrO、SiC、Si及びZnOからなる群から選ばれる少なくとも1種のセラミックス(無機化合物)からなる無機フィラーがブレンドされた非水系分散液が記載されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-194017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、テトラフルオロエチレン系ポリマーの分散液が無機フィラーを含むと、それから充分な特性を備える成形物を得にくいという課題がある。かかる課題は、分散液に、さらに他の成分(特許文献1の段落0019に記載の各種成分等)をブレンドした場合に顕著である。本発明者らの検討によれば、他の成分としてエステル結合、イミド結合又はアミド結合を有するポリマー又はかかるポリマーの前駆体からなる化合物Pをブレンドした場合に、分散液の状態安定性が顕著に低下した。具体的には、分散液の泡立ちと分散性の低下とにより、表面の平滑性に優れた成形物が得られなかった。
【0005】
本発明者らは、鋭意検討の結果、テトラフルオロエチレン系ポリマーと、無機フィラーと、前記化合物Pと、液状アミドと、所定の液状化合物とを含む分散液であれば、その状態安定性が優れており、泡立ちにくい点、表面の平滑性に優れた成形物を形成できる点を知見した。また、かかる成形物は、それぞれの成分の物性を高度に具備する点も知見した。
本発明の目的は、かかる分散液及びその製造方法と、かかる分散液から形成されるポリマー層を有する積層体の製造方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと、無機フィラーと、エステル結合、イミド結合又はアミド結合を有するポリマー又はかかるポリマーの前駆体からなる、化合物Pと、液状アミドと、ケトン、エステル及び芳香族炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種の液状化合物とを含む、分散液。
[2] 前記液状アミドの含有量が前記液状化合物の含有量より多い、[1]の分散液。
[3] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量が、5質量%以上である、[1]又は[2]の分散液。
[4] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量に対する前記無機フィラーの含有量の質量での比が、0.5~2.0である、[1]~[3]のいずれかの分散液。
[5] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含量量に対する前記化合物Pの含有量の質量での比が、0.4以下である、[1]~[4]のいずれかの分散液。
【0007】
[6] 前記無機フィラーが、シリカを含む無機フィラーである、[1]~[5]のいずれかの分散液。
[7] 前記無機フィラーが、中空状の無機フィラーである、[1]~[6]のいずれかの分散液。
[8] 前記無機フィラーの平均粒子径が、1μm以下である、[1]~[7]のいずれかの分散液。
[9] 前記液状アミドが、N-メチル-2-ピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N-ジメチルアセトアミド又はジメチルホルムアミドであり、前記液状化合物がシクロヘキサノン、シクロペンタノン、γ―ブチロラクトン又はトルエンである、[1]~[8]のいずれかの分散液。
[10] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位又はヘキサフルオロプロペンに基づく単位を含むテトラフルオロエチレン系ポリマー、又は数平均分子量が20万以下のポリテトラフルオロエチレンである、[1]~[9]のいずれかの分散液。
【0008】
[11] 前記化合物Pが、芳香族ポリエステル、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミック酸又はマレイミド化合物である、[1]~[10]のいずれかの分散液。
[12] 前記化合物Pが、液晶性の芳香族ポリエステル、熱可塑性の芳香族ポリイミド又は熱硬化性のマレイミド化合物である、[1]~[11]のいずれかの分散液。
[13] さらに、界面活性剤を含む、[1]~[12]のいずれかの分散液。
[14] [1]~[13]のいずれかの分散液の製造方法であって、前記化合物P、前記無機フィラー、前記液状アミド及び前記液状化合物を含む液状組成物と、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダー及び前記液状アミドを含む液状組成物とを混合して前記分散液を得る、分散液の製造方法。
[15] [1]~[13]のいずれかの分散液を基材の表面に塗布し、加熱して、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを含むポリマー層を形成して、前記基材で構成される基材層と前記ポリマー層とを有する積層体を得る、積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと無機フィラーと前記化合物Pとを含み、状態安定性に優れる分散液が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の用語は、以下の意味を有する。
「平均粒子径(D50)」は、レーザー回折・散乱法によって求められる対象物(パウダー又はフィラー)の体積基準累積50%径である。すなわち、レーザー回折・散乱法によって対象物の粒度分布を測定し、対象物の粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
「D90」は、同様にして測定される、対象物の体積基準累積90%径である。
「比表面積」は、ガス吸着法(BET法)によって無機フィラーを分析して求められる値である。
「溶融温度(融点)」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定したポリマーの融解ピークの最大値に対応する温度である。
「ガラス転移点」は、動的粘弾性測定(DMA)法でポリマーを分析して測定される値である。
ポリマーにおける「単位」は、重合反応によってモノマー1分子から直接形成された原子団であり、さらに重合反応によって得られたポリマーを所定の方法で処理して、その構造の一部が変換された原子団であってもよい。ポリマーに含まれる、モノマーAに基づく単位を、単に「モノマーA単位」とも記す。
【0011】
本発明の分散液(以下、「本分散液」とも記す。)は、テトラフルオロエチレン系ポリマー(以下、「Fポリマー」とも記す。)のパウダー(以下、「Fパウダー」とも記す。)と、無機フィラーと、エステル結合、イミド結合又はアミド結合を有するポリマー又はかかるポリマーの前駆体からなる化合物Pと、液状アミドと、ケトン、エステル及び芳香族炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種の液状化合物とを含む。以下、ケトン、エステル及び芳香族炭化水素からなる群から選ばれる液状化合物を、「液状化合物Q」とも記す。
なお、Fポリマーと化合物Pは異なる化合物であり、かつ、化合物Pは液状アミド及び液状化合物Qのいずれとも異なる化合物である。
本分散液は、液状アミドと液状化合物Qとを含む液状分散媒に、Fパウダー及び無機フィラーが分散し、化合物Pが高度に溶解した、分散液である。
本分散液は、状態安定性に優れる。本分散液からは、Fポリマー、無機フィラー及び化合物P(以下、「3成分」とも記す。)のそれぞれの物性を高度に具備した成形物を形成しやすい。その理由は必ずしも明確ではないが、以下の様に考えられる。
【0012】
液状アミドは、3成分のいずれとも濡れ性が高く、分散液中で3成分の良好な分散媒又は溶媒として機能する。この機能により、液状アミドを含む分散液中においては、液状アミドと表面張力の低いFポリマーとが高度に濡れるため、他の2成分、特に化合物Pの、みかけ上の濃度は高まると考えられる。その結果、化合物Pの相互作用が過度に亢進し、分散液の高粘度化や、3成分の凝集や沈降が誘引されて、分散液全体の状態安定性が却って低下すると考えられる。
本分散液は、上記液状アミドに加えて、液状化合物Qをさらに含む。この液状化合物Qは、化合物Pに対する溶解性は液状アミド並みである反面、無機フィラー及びFポリマー、特にFポリマーに対する濡れ性は液状アミドより低い。そのため、分散液に、さらに液状化合物Qが含まれれば、それが化合物Pの溶媒として選択的に機能して、その状態を安定化させると考えられる。
【0013】
つまり、本分散液は、2種の液状分散媒の含有によって、3成分の分散性又は溶解性がバランスするため、泡立ち等の状態安定性と均質性とに優れていると考えられる。その結果、本分散液からは、表面の平滑性に優れ、3成分の物性を高度に具備する成形物が形成されやすいと考えられる。
【0014】
本分散液におけるFパウダーは、Fポリマーを含む。FパウダーにおけるFポリマーの含有量は、80質量%以上が好ましく、100質量%がより好ましい。
Fパウダーに含まれ得る他の成分としては、Fポリマーとは異なるポリマーや無機物が挙げられる。Fポリマーとは異なるポリマーとしては、芳香族ポリエステル、ポリアミドイミド、熱可塑性ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシドが挙げられる。無機物としては、酸化ケイ素(シリカ)、金属酸化物(酸化ベリリウム、酸化セリウム、アルミナ、ソーダアルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン等)、窒化ホウ素、メタ珪酸マグネシウム(ステアタイト)が挙げられる。
前記他の成分を含むFパウダーは、Fポリマーをコアとし前記他の成分をシェルに有するコアシェル構造を有するか、Fポリマーをシェルとし、前記他の成分をコアに有するコアシェル構造を有するのが好ましい。かかるFパウダーは、例えば、Fポリマーのパウダーと、前記他の成分のパウダーとを合着(衝突、凝集等)させて得られる。
【0015】
FパウダーのD50は、10μm以下が好ましく、6μm以下がより好ましく、4μm以下がさらに好ましい。FパウダーのD50は、0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。また、FパウダーのD90は、10μm以下がより好ましい。
本分散液におけるFポリマーの含有量は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、25質量%以上がさらに好ましい。Fポリマーの含有量は、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。上述した作用機構により、本分散液は、Fポリマーの含有量が高い場合でも、状態安定性に優れやすい。
【0016】
本分散液におけるFポリマーは、テトラフルオロエチレン(TFE)に基づく単位(TFE単位)を含むポリマーである。
Fポリマーとしては、数平均分子量が20万以下のポリテトラフルオロエチレン(以下、「低分子量PTFE」とも記す。)、及び、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)に基づく単位(PAVE単位)又はヘキサフルオロプロペン(HFP)に基づく単位(HFP単位)を含むポリマーが好ましい。後者のFポリマーは、PAVE単位及びHFP単位の両方を含んでいてもよい。
【0017】
低分子量PTFEの数平均分子量は、10万以下が好ましく、5万以下がより好ましい。上記PTFEの数平均分子量は、1万以上が好ましい。なお、数平均分子量は、下式(1)に基づいて算出される値である。
Mn=2.1×1010×ΔHc-5.16 ・・・ (1)
式(1)中、Mnは、低分子量PTFEの数平均分子量を、ΔHcは、示差走査熱量分析法により測定される低分子量PTFEの結晶化熱量(cal/g)を、それぞれ示す。
PAVEは、CF=CFOCF、CF=CFOCFCF又はCF=CFOCFCFCF(PPVE)が好ましく、PPVEがより好ましい。
【0018】
Fポリマーの溶融温度(融点)は、200℃以上が好ましく、260℃以上がより好ましく、280~325℃がさらに好ましく、285~320℃が特に好ましい。
Fポリマーのガラス転移点は、75~125℃が好ましく、80~100℃がより好ましい。
Fポリマーは、極性官能基を有するのが好ましい。極性官能基は、Fポリマー中の単位に含まれていてもよく、ポリマーの主鎖の末端基に含まれていてもよい。後者の態様としては、重合開始剤、連鎖移動剤等に由来する末端基として極性官能基を有するFポリマー、Fポリマーをプラズマ処理や電離線処理して得られる極性官能基を有するFポリマーが挙げられる。
【0019】
極性官能基は、水酸基含有基又はカルボニル基含有基が好ましく、本分散液の状態安定性を高める観点から、カルボニル基含有基がより好ましい。
水酸基含有基は、アルコール性水酸基を含有する基が好ましく、-CFCHOH又は-C(CFOHが好ましい。
カルボニル基含有基は、カルボニル基(>C(O))を含む基であり、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、イソシアネート基、カルバメート基(-OC(O)NH)、酸無水物残基(-C(O)OC(O)-)、イミド残基(-C(O)NHC(O)-等)又はカーボネート基(-OC(O)O-)が好ましい。
Fポリマーにおけるカルボニル基含有基の数は、主鎖炭素数1×10個あたり、10~5000個が好ましく、100~3000個がより好ましく、50~1500個がさらに好ましい。なお、Fポリマーにおけるカルボニル基含有基の数は、ポリマーの組成又は国際公開2020/145133号に記載の方法によって定量できる。
【0020】
Fポリマーとしては、TFE単位及びPAVE単位を含み、全単位に対してPAVE単位を1.5~5.0モル%含む、溶融温度が285~320℃のポリマーが好ましく、TFE単位、PAVE単位及び極性官能基を有するモノマーに基づく単位を含む、極性官能基を有するポリマー(1)、及び、TFE単位及びPAVE単位を含み全単位に対してPAVE単位を2.0~5.0モル%含む、極性官能基を有さないポリマー(2)がより好ましい。
これらのFポリマーは、そのパウダーが状態安定性に優れるだけでなく、本分散液から形成される成形物中において、より緻密かつ均一に分布しやすい。さらに、成形物中において微小球晶を形成しやすく、他の成分との密着性が高まりやすい。その結果、3成分の物性を高度に具備した成形物が、より得られやすい。
【0021】
ポリマー(1)としては、全単位に対して、TFE単位を90~98モル%、PAVE単位を1.5~9.97モル%及び極性官能基を有するモノマーに基づく単位を0.01~3モル%、それぞれ含有するのが好ましい。
また、極性官能基を有するモノマーとしては、無水イタコン酸、無水シトラコン酸及び5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(別称:無水ハイミック酸;以下、「NAH」とも記す。)が好ましい。
ポリマー(1)の具体例としては、国際公開第2018/16644号に記載されるポリマーが挙げられる。
【0022】
ポリマー(2)としては、TFE単位及びPAVE単位のみからなり、全単位に対して、TFE単位を95.0~98.0モル%、PAVE単位を2.0~5.0モル%含有するのが好ましい。
ポリマー(2)におけるPAVE単位の含有量は、全単位に対して、2.1モル%以上が好ましく、2.2モル%以上がより好ましい。
なお、ポリマー(2)が極性官能基を有さないとは、ポリマー主鎖を構成する炭素原子数の1×10個あたりに対して、ポリマーが有する極性官能基の数が、500個未満であることを意味する。上記極性官能基の数は、100個以下が好ましく、50個未満がより好ましい。上記極性官能基の数の下限は、通常、0個である。
ポリマー(2)は、ポリマー鎖の末端基として極性官能基を生じない、重合開始剤や連鎖移動剤等を使用して製造してもよく、極性官能基を有するFポリマー(重合開始剤に由来する極性官能基をポリマーの主鎖の末端基に有するFポリマー等)をフッ素化処理して製造してもよい。フッ素化処理の方法としては、フッ素ガスを使用する方法(特開2019-194314号公報等を参照)が挙げられる。
【0023】
本分散液における無機フィラーの含有量は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましい。無機フィラーの含有量は、40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。
本分散液におけるFポリマーの含有量に対する無機フィラーの含有量の質量での比(質量比)は、0.5以上が好ましく、0.8以上がより好ましく、1.0以上がさらに好ましい。上記比は、2.0以下が好ましく、1.8以下がより好ましく、1.6以下がさらに好ましい。
上述した作用機構により、本分散液は、無機フィラーを高濃度に含む場合でも、状態安定性に優れやすい。
【0024】
無機フィラーとしては、窒化物フィラー及び無機酸化物フィラーが好ましく、窒化ホウ素フィラー、ベリリアフィラー(ベリリウムの酸化物のフィラー)、ケイ酸塩フィラー(シリカフィラー、ウォラストナイトフィラー、タルクフィラー)、及び金属酸化物(酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン等)フィラーがより好ましい。かかる無機フィラーは、成分間の相互作用がバランスしやすく、分散液の状態安定性をより向上させやすい。また、その成形物において、その物性が顕著に発現しやすい。
無機フィラーは、本分散液の状態安定性がより向上する観点から、シリカを含むのが好ましい。
シリカを含む無機フィラーにおける、シリカの含有量は、50質量%以上が好ましく、75質量%がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましい。シリカの含有量の上限は、100質量%である。
【0025】
無機フィラーは、その表面の少なくとも一部が、表面処理されているのが好ましい。かかる表面処理に用いられる表面処理剤としては、多価アルコール(トリメチロールエタン、ペンタエリストール、プロピレングリコール等)、飽和脂肪酸(ステアリン酸、ラウリン酸等)、そのエステル、アルカノールアミン、アミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン等)、パラフィンワックス、シランカップリング剤、シリコーン、ポリシロキサンが挙げられる。
シランカップリング剤は、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン又は3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0026】
無機フィラーの平均粒子径は、20μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましく、0.8μm以下がさらに好ましく、0.6μm以下が特に好ましい。平均粒子径は、0.01μm以上が好ましく、0.05μm以上がより好ましく、0.1μm以上がさらに好ましい。本分散液は、比表面積が大きく濡れ易いともいえる、かかる無機フィラーを含む場合でも、上述した作用機構により、状態安定性に優れやすい。なお、無機フィラーが中空状の無機フィラーである場合は、後述の平均粒子径が好ましい。
かかる無機フィラーの具体例としては、シリカフィラー(アドマテックス社製の「アドマファイン」シリーズ等)、ジカプリン酸プロピレングリコール等のエステルで表面処理された酸化亜鉛(堺化学工業株式会社製の「FINEX」シリーズ等)、球状溶融シリカ(デンカ社製の「SFP」シリーズ等)、多価アルコール及び無機物で被覆処理された(石原産業社製の「タイペーク」シリーズ等)、アルキルシランで表面処理されたルチル型酸化チタン(テイカ社製の「JMT」シリーズ等)、タルクフィラー(日本タルク社製の「SG」シリーズ等)、ステアタイトフィラー(日本タルク社製の「BST」シリーズ等)、窒化ホウ素フィラー(昭和電工社製の「UHP」シリーズ、デンカ社製の「デンカボロンナイトライド」シリーズ(「GP」、「HGP」グレード)等)が挙げられる。
【0027】
無機フィラーの形状は、粒状、針状(繊維状)、板状のいずれであってもよい。無機フィラーの具体的な形状としては、球状、鱗片状、層状、葉片状、杏仁状、柱状、鶏冠状、等軸状、葉状、雲母状、ブロック状、平板状、楔状、ロゼット状、網目状、角柱状が挙げられる。
無機フィラーの形状は、中空状であるのが好ましい。本分散液は、比表面積が大きく濡れ易いともいえる、かかる無機フィラーを含む場合でも、上述した作用機構により、状態安定性に優れやすい。
【0028】
中空状の無機フィラーの平均粒子径は、0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましい。平均粒子径は、100μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。かかる場合、本分散液から成形される成形物において、無機フィラーが互いに接して充填されやすく、成形物が電気絶縁性に優れやすい。
無機フィラーの比表面積(BET法)は、10~250m/gが好ましく、40~100m/gがより好ましい。
上述した作用機構により、本分散液は、平均粒子径の大きく、比表面積の大きな無機フィラーを含む場合でも状態安定性に優れやすい。
【0029】
中空状の無機フィラーの空孔の平均孔径は、10~1000nmが好ましく、50~100nmがより好ましい。上記平均孔径は、走査型電子顕微鏡(SEM)等による直接観測によって複数の空孔(100個)の孔径を求め、その平均値を平均孔径とする。なお、不定形の空孔の場合は空孔の最大径を孔径とする。
中空状の無機フィラーの見かけ比重は、気孔率を充分に高める点から、100g/L以下が好ましく、30~60g/Lがより好ましい。中空状の無機フィラーの見かけ比重は、メスシリンダー(容量250mL)に無機フィラーを投入した際の、その質量と容積とから求められる。
中空状の無機フィラーの嵩密度は、5g/cm以下が好ましく、1g/cm以下より好ましい。上記嵩密度の下限は、0.1以上が好ましい。
中空状の無機フィラーとしては、中空シリカフィラーが好ましい。中空シリカフィラーの具体例としては、疎水性AEROSILシリーズ「RX200」(日本アエロジル社製)、E-SPHERESシリーズ(太平洋セメント社製)、シリナックスシリーズ(日鉄鉱業社製)、エココスフイヤーシリーズ(エマーソン・アンド・カミング社製)等が挙げられる。
【0030】
本分散液における化合物Pは、エステル結合、イミド結合又はアミド結合を有するポリマー又はかかるポリマーの前駆体である。ポリマーの前駆体とは、重合や架橋等によりポリマーとなる、オリゴマーや非ポリマー状の化合物をいう。
化合物Pとしては、イミド結合又はアミド結合を有する化合物Pが好ましく、イミド結合を含む単位を有するポリマー、アミド結合を含む単位を有するポリマー、及び、N-置換マレイミド構造、コハク酸イミド構造又はフタルイミド構造を有する前駆体がより好ましい。さらには、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミック酸、及びN-置換マレイミド構造を有する化合物(マレイミド化合物)が好ましく、ポリイミド及びマレイミド化合物が特に好ましい。
なお、ポリマー状の化合物Pは、Fポリマーとは異なるポリマーである。また、化合物Pがポリマー前駆体である場合、本分散液は、このポリマー前駆体を重合させる重合開始剤やこのポリマー前駆体を硬化させる硬化剤をポリマー前駆体とともに含有することが好ましい。
【0031】
化合物Pは、芳香族性であるのが好ましい。芳香族性の化合物Pは、成形物を形成する際に、平面性の高い芳香族環同士が積層した状態となりやすいため、成形物の機械的強度や耐熱性が向上しやすい。また、芳香族性の化合物は、UVレーザーにおいて一般的な波長355nmの紫外線に対する吸収性を有するため、得られる成形物のUV加工性もより向上しやすい。
ポリイミドは、芳香族ポリイミドが好ましく、熱可塑性の芳香族ポリイミドがより好ましい。
化合物Pが熱可塑性の芳香族ポリイミドであれば、その可塑性により、本分散液から形成される成形物における芳香族ポリイミドの均一性がより向上し、緻密な成形物が形成されやすい。その結果、成形物において芳香族ポリイミドの物性が高度に発現しやすく、成形物の密着性にも優れやすい。
【0032】
芳香族ポリイミドとしては、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの一方が芳香族環を有する半芳香族ポリイミド、又は、両方が芳香族環を有する全芳香族ポリイミドがより好ましい。
芳香族ポリイミドの具体例としては、「ネオプリム」シリーズ(三菱ガス化学社製)、「スピクセリア」シリーズ(ソマール社製)、「Q-PILON」シリーズ(ピーアイ技術研究所製)、「WINGO」シリーズ(ウィンゴーテクノロジー社製)、「トーマイド」シリーズ(T&K TOKA社製)、「KPI-MX」シリーズ(河村産業社製)が挙げられる。
【0033】
化合物Pがマレイミド化合物であれば、本分散液から形成される成形物において、マレイミド化合物が均一かつ緻密に分布しやすくなり、マレイミド化合物の物性が高度に発現しやすく、成形物の電気特性、難燃性及び密着性が一層向上しやすい。なお、この場合、本分散液は、マレイミド化合物の反応を更に促進する成分(ラジカル重合開始剤、イミダゾール系硬化剤、カチオン系硬化剤や、共重合性の他の架橋性モノマー等)をさらに含むのが好ましい。
マレイミド化合物としては、ビスマレイミド化合物がより好ましい。ビスマレイミド化合物は、末端基にのみにN-置換マレイミド構造を有していてもよく、末端基及び側鎖の両方にN-置換マレイミド構造を有していてもよい。
【0034】
マレイミド化合物としては、4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、フェニルメタンマレイミド、m-フェニレンビスマレイミド、ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、1,6’-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサンが挙げられる。
マレイミド化合物としては、ダイマージアミン、脂環構造を有するジアミン等のジアミンと、芳香環を有するテトラカルボン酸二無水物との反応物であり、末端基がアミノ基であるポリイミドに、無水マレイン酸を反応させて得られるビスマレイミド化合物が挙げられる。
これらのマレイミド化合物は、DESIGNER MOLECULES Inc製のBMIシリーズとして、市販品を入手できる。
【0035】
エステル結合を有する化合物Pとしては、芳香族ポリエステルが好ましく、液晶性の芳香族ポリエステル(液晶ポリエステル)がより好ましい。なお、芳香族ポリエステルには、アミド結合がさらに導入された芳香族ポリエステルアミドや、さらにイミド結合、カーボネート結合、カルボジイミド結合、イソシアヌレート結合等のイソシアネート由来の結合等が導入された芳香族ポリエステルも包含される。
液晶ポリエステルの具体例としては、ジカルボン酸(テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルエーテル-4,4’-ジカルボン酸、無水酢酸等)、ジヒドロキシ化合物(4,4’-ビフェノール等)、芳香族ヒドロキシカルボン酸(4-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸等)、芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族アミノカルボン酸等の重合物、4-ヒドロキシ安息香酸と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸との反応物、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸とテレフタル酸とアセトアミノフェンとの反応物、4-ヒドロキシ安息香酸とテレフタル酸と4,4’-ビフェノールとの反応物、2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸と4,4’-ジヒドロキシビフェニルとテレフタル酸と2,6-ナフタレンジカルボン酸との反応物が挙げられる。
液晶ポリエステルは、溶剤可溶型であってもよく、溶剤不溶型であってもよい。
液晶ポリエステルの融点は、280~340℃であるのが好ましい。
【0036】
本分散液における化合物Pの含有量は、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。化合物Pの含有量は、5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
本分散液におけるFポリマーの含有量に対する化合物Pの含有量の質量での比(質量比)は、0.001以上が好ましく、0.01以上がより好ましい。上記比は、0.4以下が好ましく、0.2以下がより好ましい。かかる比で化合物Pを含む場合でも、本分散液は、上述した作用機構により、状態安定性に優れる。
【0037】
本分散液における液状アミドは、3成分の分散媒又は溶媒として機能する、25℃で不活性な液状化合物である。液状アミドは、液状化合物Qと相溶するアミドであるのが好ましい。
液状アミドは、その2種以上を混合して使用してもよい。
液状アミドの沸点は、125~250℃が好ましい。この場合、本分散液から成形物を形成する際に、成形物が均質性に優れやすい。
液状アミドとしては、3成分との濡れやすさの観点から、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N-ジメチルアセトアミド及びジメチルホルムアミドが好ましく、NMPがより好ましい。
本分散液における液状アミドの含有量は、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましい。液状アミドの含有量は、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。
【0038】
本分散液における液状化合物Qは、ケトン、エステル及び芳香族炭化水素からなる群から選ばれる液状化合物であり、25℃で不活性な液状化合物である。液状化合物Qは、液状アミドと相溶する化合物であるのが好ましい。また、液状化合物Qはその2種以上を併用してもよい。
液状化合物Qとしては、本分散液の状態安定性を高める観点から、4-メチル-2-ペンタノン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、γ-ブチロラクトン、シクロペンタノン、酢酸ブチル及びメチルイソプロピルケトンが好ましく、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、γ-ブチロラクトン及びトルエンがより好ましい。また、化合物Pがポリイミドである場合の液状化合物Qとしては、シクロヘキサノン、シクロペンタノン及びγ-ブチロラクトンがより好ましく、化合物Pがマレイミド化合物である場合の液状化合物Qとしては、トルエンがより好ましい。
【0039】
本分散液における液状化合物Qの含有量は、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。液状化合物Qの含有量は、40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。
本分散液における液状アミドの含有量は、液状化合物Qの含有量より多いのが好ましい。この場合、上述した作用機構により、3成分(特にFポリマー)自体の分散性を低下させることなく、3成分同士の間(特に、無機フィラーと化合物Pとの間)の親和性をバランスさせて、本分散液の状態安定性をより向上させやすい。
液状アミドの含有量に対する液状化合物Qの含有量の質量での比(質量比)は、0.8以下が好ましく、0.5以下がより好ましい。上記比は、0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましい。両者の比が、かかる範囲にあれば、上述した作用機構により、3成分(特に、Fポリマー)自体の分散性を低下させることなく、3成分同士の間(特に、無機フィラーと化合物Pとの間)の親和性をバランスさせて、本分散液の状態安定性をより向上させやすい。
【0040】
本分散液は、状態安定性とハンドリング性とを向上させる観点から、さらに、界面活性剤を含むのが好ましい。
界面活性剤は、ノニオン性であるのが好ましい。
界面活性剤の親水部位は、オキシアルキレン基又はアルコール性水酸基を有するのが好ましい。
オキシアルキレン基は、1種から構成されていてもよく、2種以上から構成されていてもよい。後者の場合、種類の違うオキシアルキレン基は、ランダム状に配置されていてもよく、ブロック状に配置されていてもよい。
オキシアルキレン基としては、オキシエチレン基が好ましい。
界面活性剤の疎水部位は、アセチレン基、ポリシロキサン基、ペルフルオロアルキル基又はペルフルオロアルケニル基を有するのが好ましい。換言すれば、界面活性剤は、アセチレン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤又はフッ素系界面活性剤が好ましく、シリコーン系界面活性剤がより好ましい。
【0041】
フッ素系界面活性剤としては、水酸基(特に、アルコール性水酸基)又はオキシアルキレン基と、ペルフルオロアルキル基又はペルフルオロアルケニル基とを有するフッ素系界面活性剤が好ましい。
界面活性剤の具体例としては、「フタージェント」シリーズ(ネオス社製)、「サーフロン」シリーズ(AGCセイミケミカル社製)、「メガファック」シリーズ(DIC社製)、「ユニダイン」シリーズ(ダイキン工業社製)、「BYK-347」、「BYK-349」、「BYK-378」、「BYK-3450」、「BYK-3451」、「BYK-3455」、「BYK-3456」(ビックケミー・ジャパン株式会社社製)、「KF-6011」、「KF-6043」(信越化学工業株式会社製)が挙げられる。
本分散液における界面活性剤の含有量は、1~15質量%が好ましい。この場合、成分同士の間の親和性が亢進して、本分散液の状態安定性がより向上しやすい。
【0042】
本分散液の粘度は、50mPa・s以上が好ましく、100mPa・s以上がより好ましい。本分散液の粘度は、10000mPa・s以下が好ましく、1000mPa・s以下がより好ましく、800mPa・s以下がさらに好ましい。
本分散液のチキソ比は、1.0以上が好ましい。本分散液のチキソ比は、3.0以下が好ましく、2.0以下がより好ましい。
本分散液は、かかる範囲の粘度又はチキソ性に調整しやすく、ハンドリング性に優れている。
【0043】
本分散液は、さらに、Fポリマーや化合物Pと異なる樹脂(ポリマー)を含んでもよい。他の樹脂は、熱硬化性樹脂であってもよく、熱可塑性樹脂であってもよい。
他の樹脂としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、エラストマー、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシド、Fポリマー以外のフルオロポリマーが挙げられる。
本分散液は、上述した成分以外にも、チキソ性付与剤、消泡剤、シランカップリング剤、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、表面処理剤、粘度調節剤、難燃剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0044】
本分散液は、液状化合物Qに溶解した化合物P、液状アミド、及び無機フィラーを混合して液状組成物(以下、「液状組成物N」とも記す。)を調製し、液状組成物Nと、Fパウダー及び液状アミドを含む液状組成物(以下、「液状組成物F」とも記す。)とを混合する方法(以下、「方法1」とも記す。)によって製造するのが好ましい。液状組成物Nの調製においては、さらに、液状化合物Qを別途混合して、その状態安定性を調整してもよい。
液状組成物Nにおける化合物Pの含有量は、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。上記含有量は、10質量%以下が好ましい。
液状組成物Nにおける無機フィラーの含有量は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。上記含有量は、50質量%以下が好ましい。
【0045】
液状組成物Nにおける液状アミドの含有量は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましい。上記含有量は、90質量%以下が好ましい。
液状組成物Nにおける液状化合物Qの含有量は、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。上記含有量は、40質量%以下が好ましい。
液状組成物Nは、さらに分散剤を含むのが好ましい。液状組成物Nにおける分散剤の態様は、好適な態様も含めて、本分散液における分散剤の態様と同様である。
液状組成物Nは、さらに、Fポリマー及び化合物Pと異なる樹脂(ポリマー)や、無機フィラー以外の他の成分を含んでもよい。
【0046】
液状組成物FにおけるFポリマーの含有量は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。上記含有量は、60質量%以下が好ましい。
液状組成物Fにおける液状アミドの含有量は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましい。上記含有量は、90質量%以下が好ましい。
液状組成物Fは、さらに分散剤を含むのが好ましい。液状組成物Fにおける分散剤の態様は、好適な態様も含めて、本分散液における分散剤の態様と同様である。
液状組成物Fは、さらに、Fポリマー及び化合物Pと異なる樹脂(ポリマー)や、他の成分を含んでもよい。
【0047】
本分散液は、3成分の物性を高度に具備した成形物の形成に使用できる。
本分散液を基材の表面に塗布し、加熱して、Fポリマーを含むポリマー層を形成する方法によって、上記基材で構成される基材層と上記ポリマー層とを有する積層体が得られる。
このポリマー層は、Fポリマー及び無機フィラーと、化合物P又はその反応物とを含む層であり、それぞれの成分が均一かつ緻密に分布した層である。
基材としては、金属基材(銅、ニッケル、アルミニウム、チタン、それらの合金等の金属箔等)、樹脂フィルム(ポリイミド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリアリルスルホン、ポリアミド、ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリルエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステルアミド等のフィルム)、プリプレグ(繊維強化樹脂基材の前駆体)が挙げられる。
【0048】
本分散液の塗布は、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、グラビアオフセット法、ナイフコート法、キスコート法、バーコート法、ダイコート法、ファウンテンメイヤーバー法、スロットダイコート法によって行える。
塗膜後の加熱は、液状分散媒(液状アミド、液状化合物Q)を除去し乾燥する加熱と、Fポリマーを溶融焼成させる加熱とによって行うのが好ましい。前者の加熱温度は、120℃~200℃が好ましい。後者の加熱温度は、250℃~400℃が好ましく、300~380℃がより好ましい。また、化合物Pがポリマー前駆体の場合は、通常、後者の加熱によりポリマーとなる。
加熱は、オーブンを用いる方法、通風乾燥炉を用いる方法、赤外線等の熱線を照射する方法によって行える。
【0049】
形成されるポリマー層の厚さは、0.1~150μmが好ましい。具体的には、基材が金属箔であれば、ポリマー層の厚さは、1~30μmが好ましい。基材が樹脂フィルムであれば、ポリマー層の厚さは、1~150μmが好ましく、10~50μmがより好ましい。
ポリマー層は、基材の一方の表面にのみ形成してもよく、基材の両面に形成してもよい。前者においては、基材層と、基材層の片方の表面にポリマー層を有する積層体が得られ、後者においては、基材層と、基材層の両方の表面にポリマー層を有する積層体が得られる。後者の積層体は、反りが発生しにくいため、加工に際するハンドリング性に優れる。
【0050】
積層体の具体例としては、金属箔層と、その金属箔層の少なくとも一方の表面にポリマー層を有する金属張積層体、ポリイミドフィルム層と、そのポリイミドフィルム層の両方の表面にポリマー層を有する多層フィルムが挙げられる。
これらの積層体は、3成分の物性を高度に具備し、特に電気特性に優れるため、プリント基材材料等として好適である。具体的には、かかる積層体は、フレキシブルプリント基材やリジッドプリント基材の製造に使用できる。
【実施例
【0051】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
1.各成分の準備
[Fポリマー・Fパウダー]
パウダー1:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に97.9モル%、0.1モル%、2.0モル%含み、カルボニル基を主鎖炭素数1×10個あたり1000個有するポリマー(溶融温度:300℃、Fポリマー1)からなるパウダー(D50:2.1μm)
パウダー2:TFE単位及びPPVE単位を、この順に98.7モル%、1.3モル%含み、カルボニル基を主鎖炭素数1×10個あたり40個有するポリマー2(溶融温度:305℃、Fポリマー2)からなるパウダー(D50:1.8μm)
【0052】
[無機フィラー]
フィラー1:中空状のシリカフィラー(D50:0.5μm、嵩比重:0.10g/cm
フィラー2:破砕状の酸化チタンフィラー(D50:2~6μm、嵩比重:0.25~0.75g/cm
[化合物P]
PI1:熱可塑性の芳香族ポリイミド
BM1:ビスマレイミド化合物(DESIGNER MOLECULES社製「BMI-3000」)。なお、BM1には、さらにそれを熱硬化させるための、熱感応性のラジカル重合開始剤が含まれる。
【0053】
[液状分散媒]
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
CHN:シクロヘキサノン
Tol:トルエン
[界面活性剤]
界面活性剤1:CH=C(CH)C(O)OCHCH(CFFとCH=C(CH)C(O)(OCHCH23OHとのコポリマー
【0054】
2.分散液の製造例
(例1)
まず、ポットに、PI1がCHNに溶解したワニスとNMPとを投入し、次に、ジルコニアボールを投入し、150rpmにて1時間、ポットを転がした。続いて、界面活性剤1を投入し、150rpmにて1時間、ポットを転がし、さらに、フィラー1を投入し、150rpmにて1時間、ポットを転がし、液状組成物N1を調製した。
別のポットに、パウダー1と界面活性剤1とNMPとを投入し、ジルコニアボールを投入した。その後、150rpmにて1時間、ポットを転がし、液状組成物F1を調製した。
【0055】
さらに別のポットに、両者の液状組成物を投入し、ジルコニアボールを投入した。その後、150rpmにて1時間、ポットを転がし、パウダー1(8質量部)と、フィラー1(12質量部)と、PI1(0.1質量部)と、界面活性剤1(1質量部)と、NMP(49質量部)と、CHN(27質量部)とを含む分散液1(粘度:700mPa・s)を得た。
分散液1における液状アミドの含有量に対する液状化合物Qの含有量の質量での比は0.6であり、PI1の含有量に対するFポリマーの含有量の質量での比は0.01であり、無機フィラーの含有量に対するFポリマーの含有量の質量での比は1.5であった。
【0056】
(例2~7)
液状分散媒の種類及び量を、下表1に示す通りに変更した以外は、例1と同様にして、分散液2~7を得た。
【表1】
【0057】
3.積層体(銅張積層体)の製造例
長尺の銅箔(厚さ:18μm)の表面に、バーコーターを用いて分散液1を塗布して、ウェット膜を形成した。次いで、このウェット膜が形成された銅箔を、120℃にて5分間、乾燥炉に通し、加熱により乾燥させて、乾燥被膜を得た。その後、窒素ガス雰囲気下のオーブン中で、乾燥被膜を380℃にて3分間、加熱した。これにより、銅箔と、Fポリマー1、PI1及びフィラー1を含むポリマー層(厚さ:5μm)とを有する積層体1を製造した。
分散液1を、分散液2~7のそれぞれに変更した以外は、積層体1と同様にして、積層体2~4をそれぞれ製造した。
【0058】
4.評価
4-1.分散液の状態安定性
それぞれの分散液について、調製直後の状態と、容器中に25℃にて保管保存後の状態とを目視にて確認し、下記の基準に従って状態安定性を評価した。
[評価基準]
〇:調製直後に泡立ちが少なく、保管後も良好に分散している。
△:調製直後は泡立つものの分散している。保管後には凝集物が壁面に付着している。
×:調製直後に泡立っており直ぐにムース状になる。保管後は凝集物が多く沈殿している。
【0059】
4-2.積層体の表面平滑性
それぞれの積層体のポリマー層について、その表面の平滑性を目視にて確認し、下記の基準に従って表面平滑性を評価した。
[評価基準]
〇:ポリマー層の表面全体が平滑である。
△:ポリマー層の縁が盛り上がっており、中央部が窪んでいる。
×:ポリマー層の縁が盛り上がっており、中央部が窪んでおり、ポリマー又は無機フィラーの欠落による凹凸も確認される。
それぞれの評価結果を、下表2にまとめて示す。
【0060】
【表2】
【0061】
4-3.積層体の電気特性及び寸法安定性
積層体1、3及び7のそれぞれについて、積層体の銅箔を塩化第二鉄水溶液でエッチングにより除去して単独のポリマー層を作製し、SPDR(スプリットポスト誘電体共振)法にて、上記ポリマー層の誘電率と誘電正接(測定周波数:10GHz)とを測定した。
さらに、積層体1、3及び7のそれぞれについて、180mm角の四角い試験片を切り出し、JIS C 6471:1995に規定される測定方法にしたがって、25℃以上260℃以下の範囲における、試験片の線膨張係数を測定した。
それぞれの結果を、下表3にまとめて示す。
【0062】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0063】
本分散液は、状態安定性に優れ、Fポリマー、無機フィラー及び化合物Pに基づく物性を高度に具備した成形物(フィルム、プリプレグ等の含浸物、積層板等)の製造に使用できる。本発明の成形物は、アンテナ部品、プリント基板、航空機用部品、自動車用部品、スポーツ用具、食品工業用品、塗料、化粧品等として有用であり、具体的には、電線被覆材(航空機用電線等)、電気絶縁性テープ、石油掘削用絶縁テープ、プリント基板用材料、分離膜(精密濾過膜、限外濾過膜、逆浸透膜、イオン交換膜、透析膜、気体分離膜等)、電極バインダー(リチウム二次電池用、燃料電池用等)、コピーロール、家具、自動車ダッシュボート、家電製品等のカバー、摺動部材(荷重軸受、すべり軸、バルブ、ベアリング、歯車、カム、ベルトコンベア、食品搬送用ベルト等)、工具(シャベル、やすり、きり、のこぎり等)、ボイラー、ホッパー、パイプ、オーブン、焼き型、シュート、ダイス、便器、コンテナ被覆材として有用である。
なお、2019年12月25日に出願された日本特許出願2019-234714号の明細書、特許請求の範囲および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。