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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】光学フィルタおよび撮像装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/22 20060101AFI20240925BHJP
   H04N 23/55 20230101ALI20240925BHJP
【FI】
G02B5/22
H04N23/55
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2023139991
(22)【出願日】2023-08-30
(62)【分割の表示】P 2021545510の分割
【原出願日】2020-09-04
(65)【公開番号】P2023160876
(43)【公開日】2023-11-02
【審査請求日】2023-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2019165682
(32)【優先日】2019-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩野 和彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 さゆり
(72)【発明者】
【氏名】山森 弥生
【審査官】内村 駿介
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-008532(JP,A)
【文献】国際公開第2019/022069(WO,A1)
【文献】特開2016-166320(JP,A)
【文献】特開2017-146506(JP,A)
【文献】特開2019-012121(JP,A)
【文献】国際公開第2016/181987(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/151348(WO,A1)
【文献】特開2013-029708(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20-5/28
H04N 23/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外線吸収色素と樹脂とを含む吸収層を備える光学フィルタであって、前記近赤外線吸収色素は下記特性(i-1)~(i-2)を全て満たすスクアリリウム色素を含み、下記特性(iii-4)、(iii-7)、(iii-8)、(iii-9)を全て満たす光学フィルタ。
(i-1)前記スクアリリウム色素をジクロロメタンに溶解して分光透過率を測定したときに650~780nmに最大吸収波長を有する。
(i-2)前記スクアリリウム色素の熱分解温度が265℃以上である。
(iii-4)430~500nmの波長領域の光の平均透過率が82%以上である。
(iii-7)750~1100nmの波長領域の光の平均透過率が3%以下である。
(iii-8)600~800nmの波長領域における透過率が50%のときの波長をIR50としたとき、入射角30度でのIR50(IR5030deg)と入射角0度でのIR50(IR500deg)の差の絶対値が11nm以下である。
(iii-9)380~440nmの波長領域における透過率が50%のときの波長をUV50としたときに、入射角30度でのUV50(UV50 30deg )と入射角0度でのUV50(UV50 0deg )の差の絶対値が3nm以下である。
【請求項2】
前記スクアリリウム色素の熱分解温度が280℃以上である、請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項3】
前記スクアリリウム色素の熱分解温度が300℃以上である、請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
前記近赤外線吸収色素は2種以上の色素を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項5】
他の吸収層をさらに備える、請求項1~4のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項6】
前記樹脂のガラス転移温度が390℃以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項7】
600~800nmの波長領域における透過率が50%のときの波長をIR50とし、600~800nmの波長領域における透過率が20%のときの波長をIR20とし、380~440nmの波長領域における透過率が50%のときの波長をUV50としたときに、下記特性(iii-1)~(iii-3)を全て満たす、請求項1~6のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
(iii-1)入射角0度でのIR50(IR500deg)が640~760nmの範囲にある。
(iii-2)入射角0度でのIR20(IR200deg)が660~780nmの範囲にある。
(iii-3)入射角0度でのUV50(UV500deg)が390~430nmの範囲にある。
【請求項8】
下記特性(iii-5)および(iii-6)を満たす、請求項1~のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
(iii-5)640~660nmの波長領域の光の平均透過率が65%以上である。
(iii-6)640~660nmの波長領域の光の最小透過率が60%以上である。
【請求項9】
さらに透明基板を備え、前記吸収層は前記透明基板の主面上に設けられる、請求項1~のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項10】
前記透明基板がガラスまたは吸収ガラスである、請求項に記載の光学フィルタ。
【請求項11】
前記樹脂が、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテル、エポキシ樹脂、及びシクロオレフィン樹脂からなる群より選ばれる1種以上を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項12】
前記樹脂がポリイミド樹脂を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項13】
前記吸収層が、ケイ素化合物をさらに含み、前記ケイ素化合物の前記吸収層における含有量が15質量%以下である、請求項1~12のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項14】
前記吸収層が、ジクロロメタンに溶解して分光透過率を測定したときに350~450nmに最大吸収波長を有する化合物をさらに有する、請求項1~13のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項15】
前記吸収層が、ジクロロメタンに溶解して分光透過率を測定したときに800~1200nmに最大吸収波長を有する化合物をさらに有する、請求項1~14のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載の光学フィルタを備える撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視波長領域の光を透過し、近赤外線波長領域の光を遮断する光学フィルタおよび該光学フィルタを備えた撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固体撮像素子を用いた撮像装置には、色調を良好に再現し鮮明な画像を得るため、可視域の光(以下「可視光」ともいう)を透過し近赤外域の光(以下「近赤外光」ともいう)を遮断する光学フィルタが用いられる。該光学フィルタとしては、透明基板上に、近赤外線吸収色素と樹脂を含む吸収層と、近赤外光を遮断する誘電体反射層からなる反射層とを設けた近赤外カットフィルタが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
ここで、光学フィルタを実装する際には、はんだ付けが行われる。近年、撮像装置の小型化や軽量化に伴い、また、作業がオートメーション化できることから、リフロー方式によるはんだ付けが採用されるようになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開2012-103340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リフロー方式によるはんだ付けは、実装基板上にはんだペーストを印刷し、その上に実装する部品を載せてから加熱し、はんだを溶解する方法である。光学フィルタでは、光学フィルタと実装基板とがはんだ付けにより接合される際に、色素と樹脂を含む吸収層にも熱が間接的に伝搬し、その温度は260℃以上となる。かかる高温下では、有機物である色素が熱劣化するおそれがある。また、樹脂が熱分解して気泡が発生したり、透明基板との密着性が低下する等の外観異常が生じるおそれがある。
特許文献1に記載の光学フィルタでは、耐熱性の点で改善の余地がある。
【0006】
したがって、本発明は、近赤外光の遮光性に優れ、かつ、リフロー方式によるはんだ付けを行っても熱劣化や外観異常が生じにくい、耐熱性に優れる光学フィルタの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は下記光学フィルタおよび撮像装置に関する。
<1>近赤外線吸収色素と樹脂とを含む吸収層を備える光学フィルタであって、前記近赤外線吸収色素は下記特性(i-1)~(i-3)を全て満たすスクアリリウム色素を含み、前記樹脂のガラス転移温度が390℃以上である、光学フィルタ。
(i-1)前記スクアリリウム色素をジクロロメタンに溶解して分光透過率を測定したときに650~780nmに最大吸収波長を有する。
(i-2)前記スクアリリウム色素の熱分解温度が265℃以上である。
(i-3)最大吸収波長における透過率が10%となるように前記スクアリリウム色素をジクロロメタンに溶解して測定される分光透過率曲線において、600~800nmの波長領域における透過率が80%のときの波長をIR80とし、600~800nmの波長領域における透過率が20%のときの波長をIR20としたときに、IR20-IR80<65nmを示す。
<2>前記スクアリリウム色素は、最大吸収波長における透過率が10%となるように前記スクアリリウム色素をジクロロメタンに溶解して測定される分光透過率曲線において、
下記特性(i-4)~(i-6)を全て満たす、<1>に記載の光学フィルタ。
(i-4)IR20-IR80<60nmを示す。
(i-5)400~500nmの波長領域の光の平均透過率が96%以上である。
(i-6)400~500nmの波長領域の光の最小透過率が93%以上である。
<3>前記スクアリリウム色素は、最大吸収波長における透過率が10%となるように前記スクアリリウム色素を樹脂に溶解して測定される分光透過率曲線において、下記特性(i-7)~(i-11)を全て満たす、<1>または<2>に記載の光学フィルタ。
(i-7)最大吸収波長が650~790nmの範囲にある。
(i-8)IR20が630~770nmの範囲にある。
(i-9)IR20-IR80<80nmを示す。
(i-10)400~500nmの波長領域の光の平均透過率が90%以上である。
(i-11)400~500nmの波長領域の光の最小透過率が85%以上である。
<4>前記スクアリリウム色素が、下記式(I)または(II)に示す化合物である、<1>~<3>のいずれか1に記載の光学フィルタ。
【0008】
【化1】
【0009】
ただし、式(I)中の記号は以下のとおりである。
24およびR26は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1~6のアルキル基もしくはアルコキシ基、炭素数1~10のアシルオキシ基、-NR2728(R27およびR28は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、-C(=O)-R29(R29は、水素原子、置換基を有していてもよく、炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよい炭素数1~25の炭化水素基)、-NHR30、または、-SO-R30(R30は、それぞれ1つ以上の水素原子がハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、またはシアノ基で置換されていてもよく、炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよい炭素数1~25の炭化水素基)を示す。)、または、下記式(S)で示される基(R41、R42は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~10のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。kは2または3である。)を示す。
【0010】
【化2】
【0011】
21とR22、R22とR25、およびR21とR23は、互いに連結して窒素原子と共に員数が5または6のそれぞれ複素環A、複素環B、および複素環Cを形成してもよい。
複素環Aが形成される場合のR21とR22は、これらが結合した2価の基-Q-として、水素原子が炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~10のアリール基または置換基を有していてもよい炭素数1~10のアシルオキシ基で置換されてもよいアルキレン基、またはアルキレンオキシ基を示す。
複素環Bが形成される場合のR22とR25、および複素環Cが形成される場合のR21とR23は、これらが結合したそれぞれ2価の基-X-Y-および-X-Y-(窒素に結合する側がXおよびX)として、XおよびXがそれぞれ下記式(1x)または(2x)で示される基であり、YおよびYがそれぞれ下記式(1y)~(5y)から選ばれるいずれかで示される基である。XおよびXが、それぞれ下記式(2x)で示される基の場合、YおよびYはそれぞれ単結合であってもよく、その場合、炭素原子間に酸素原子を有してもよい。
【0012】
【化3】
【0013】
式(1x)中、4個のZは、それぞれ独立して水素原子、水酸基、炭素数1~6のアルキル基もしくはアルコキシ基、または-NR3839(R38およびR39は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~20のアルキル基を示す)を示す。R31~R36はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~6のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を、R37は炭素数1~6のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を示す。
27、R28、R29、R31~R37、複素環を形成していない場合のR21~R23、およびR25は、これらのうちの他のいずれかと互いに結合して5員環または6員環を形成してもよい。R31とR36、R31とR37は直接結合してもよい。
複素環を形成していない場合の、R21およびR22は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基もしくはアリル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~11のアリール基もしくはアルアリール基を示す。複素環を形成していない場合の、R23およびR25は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1~6のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。
【0014】
【化4】
【0015】
ただし、式(II)中の記号は以下のとおりである。
環Zは、それぞれ独立して、ヘテロ原子を環中に0~3個有する5員環または6員環であり、環Zが有する水素原子は置換されていてもよい。
とR、RとR、およびRと環Zを構成する炭素原子またはヘテロ原子は、互いに連結して窒素原子とともにそれぞれヘテロ環A1、ヘテロ環B1およびヘテロ環C1を形成していてもよく、その場合、ヘテロ環A1、ヘテロ環B1およびヘテロ環C1が有する水素原子は置換されていてもよい。ヘテロ環を形成していない場合のRおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素原子間に不飽和結合、ヘテロ原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよく、置換基を有してもよい炭化水素基を示す。Rおよびヘテロ環を形成していない場合のRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素原子間にヘテロ原子を含んでもよく、置換基を有してもよいアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。
<5>さらに透明基板を備え、前記吸収層は前記透明基板の主面上に設けられる、<1>~<4>のいずれか1に記載の光学フィルタ。
<6>前記透明基板がガラスまたは吸収ガラスである、<5>に記載の光学フィルタ。
<7>前記樹脂が、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテル、エポキシ樹脂、及びシクロオレフィン樹脂からなる群より選ばれる1種以上を含む、<1>~<6>のいずれか1に記載の光学フィルタ。
<8>前記樹脂がポリイミド樹脂を含む、<1>~<7>のいずれか1に記載の光学フィルタ。
<9>前記吸収層が、ケイ素化合物をさらに含み、前記ケイ素化合物の前記吸収層における含有量が15質量%以下である、<1>~<8>のいずれか1に記載の光学フィルタ。
<10>前記吸収層が、ジクロロメタンに溶解して分光透過率を測定したときに350~450nmに最大吸収波長を有する化合物をさらに有する、<1>~<9>のいずれか1に記載の光学フィルタ。
<11>前記吸収層が、ジクロロメタンに溶解して分光透過率を測定したときに800~1200nmに最大吸収波長を有する化合物をさらに有する、<1>~<10>のいずれか1に記載の光学フィルタ。
<12>さらに反射層を備え、前記反射層は、
600~800nmの波長領域における透過率が50%のときの波長をIR50とし、600~800nmの波長領域における透過率が20%のときの波長をIR20としたときに、下記特性(ii-1)~(ii-6)を全て満たす、<1>~<11>のいずれか1に記載の光学フィルタ。
(ii-1)入射角0度でのIR50(IR500deg)が680~800nmの範囲にある。
(ii-2)入射角0度でのIR20(IR200deg)が700~820nmの範囲にある。
(ii-3)入射角30度でのIR50(IR5030deg)と入射角0度でのIR50(IR500deg)の差の絶対値が11nm以上である。
(ii-4)435~500nmの波長領域の光の平均透過率が88%以上である。
(ii-5)640~660nmの波長領域の光の平均透過率が70%以上である。
(ii-6)750~1100nmの波長領域の光の平均透過率が10%以下である。
<13>600~800nmの波長領域における透過率が50%のときの波長をIR50とし、600~800nmの波長領域における透過率が20%のときの波長をIR20とし、380~440nmの波長領域における透過率が50%のときの波長をUV50としたときに、下記特性(iii-1)~(iii-7)を全て満たす、<1>~<12>のいずれか1に記載の光学フィルタ。
(iii-1)入射角0度でのIR50(IR500deg)が640~760nmの範囲にある。
(iii-2)入射角0度でのIR20(IR200deg)が660~780nmの範囲にある。
(iii-3)入射角0度でのUV50(UV500deg)が390~430nmの範囲にある。
(iii-4)430~500nmの波長領域の光の平均透過率が82%以上である。
(iii-5)640~660nmの波長領域の光の平均透過率が65%以上である。
(iii-6)640~660nmの波長領域の光の最小透過率が60%以上である。
(iii-7)750~1100nmの波長領域の光の平均透過率が3%以下である。
<14>600~800nmの波長領域における透過率が50%のときの波長をIR50としたときに、下記特性(iii-8)を満たす、<1>~<13>のいずれか1に記載の光学フィルタ。
(iii-8)入射角30度でのIR50(IR5030deg)と入射角0度でのIR50(IR500deg)の差の絶対値が11nm以下である。
<15>380~440nmの波長領域における透過率が50%のときの波長をUV50としたときに、下記特性(iii-9)を満たす、<1>~<14>のいずれか1に記載の光学フィルタ。
(iii-9)入射角30度でのUV50(UV5030deg)と入射角0度でのUV50(UV500deg)の差の絶対値が3nm以下である。
<16><1>~<15>のいずれか1に記載の光学フィルタを備える撮像装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、近赤外線吸収色素として、熱分解温度が高いスクアリリウム色素を用い、かつ、樹脂として、ガラス転移温度が高い樹脂を用いることで、熱劣化や外観異常が生じにくい、耐熱性に優れた光学フィルタを得ることができる。
さらに、近赤外線吸収色素として、600~800nmの波長領域すなわち近赤外光と可視光の境界付近において、透過率が急峻に変化するスクアリリウム色素を用いることで、近赤外光の遮光性に優れた光学フィルタを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は本発明の光学フィルタの一実施形態を概略的に示す断面図である。
図2図2は本発明の光学フィルタの一実施形態を概略的に示す断面図である。
図3図3は本発明の光学フィルタの一実施形態を概略的に示す断面図である。
図4図4は例6-1で作製した光学フィルタの分光透過率曲線を示す図である。
図5図5は例6-4で作製した光学フィルタの分光透過率曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本明細書において、近赤外線吸収色素を「NIR色素」、紫外線吸収色素を「UV色素」と略記することもある。
本明細書において、式(1)で表される化合物を「化合物(1)」と略記し、式(I)で示される化合物からなる色素を「色素(I)」と略記することもある。他の式についても同様である。
本明細書において、特定の波長領域について、透過率が例えば90%以上とは、その全波長領域において透過率が90%を下回らないことをいい、同様に透過率が例えば1%以下とは、その全波長領域において透過率が1%を超えないことをいう。特定の波長領域における平均透過率は、該波長領域の1nm毎の透過率の相加平均である。
本明細書において、数値範囲を表す「~」では、上下限を含む。
【0019】
本発明の光学フィルタは、近赤外線吸収色素と樹脂とを含む吸収層を備える。以下、図面を用いて本発明の光学フィルタの構成例について説明する。
図1は、透明基板12と透明基板12の一方の主面上に配置された吸収層11を有する光学フィルタ10Aの断面図である。なお、「透明基板12の一方の主面(上)に、吸収層11を備える」とは、透明基板12に接触して吸収層11が備わる場合に限らず、透明基板12と吸収層11との間に、別の機能層が備わる場合も含む。後述する、透明基板12の他方の主面(上)に、反射層13を備える構成も同様であり、以下の構成も同様である。
なお、吸収層自体が基板(透明基板)として機能する場合は透明基板12を省略できる。
【0020】
図2は、透明基板12と、透明基板12の一方の主面上に配置された吸収層11と、透明基板12の他方の主面上に設けられた反射層13を有する光学フィルタ10Bの断面図である。
【0021】
図3は、吸収層11の主面上に反射防止層14を備えた光学フィルタ10Cの断面図である。吸収層が最表面の構成をとる場合には、吸収層上に反射防止層を設けるとよい。なお、反射防止層は、吸収層の最表面だけでなく、吸収層の側面全体も覆う構成でもよい。反射防止層が吸収層の側面を覆うことで酸素バリア性が高まる結果、吸収層における色素の耐光性を高めることができる。
【0022】
以下、吸収層、反射層、透明基板および反射防止層について説明する。
【0023】
〔吸収層〕
<近赤外線吸収色素>
本発明の光学フィルタにおいて、近赤外線吸収色素はスクアリリウム色素を含む。
スクアリリウム色素は、下記特性(i-1)~(i-3)を全て満たす。
なお、IR80、IR20の意味は下記のとおりである。
IR80:600~800nmの波長領域における透過率が80%のときの波長
IR20:600~800nmの波長領域における透過率が20%のときの波長
【0024】
(i-1)スクアリリウム色素をジクロロメタンに溶解して分光透過率を測定したときに650~780nmに最大吸収波長を有する。かかる範囲に最大吸収波長を有することで、近赤外線領域の光を吸収できる。
【0025】
(i-2)スクアリリウム色素の熱分解温度が265℃以上であり、280℃以上であることがより好ましく、300℃以上であることがさらに好ましい。熱分解温度がかかる範囲であることで、リフロー方式によるはんだ付けに供しても色素が熱劣化することなく、耐熱性に優れた光学フィルタを得ることができる。
【0026】
(i-3)スクアリリウム色素は、IR20-IR80<65nmを示す。IR20-IR80は、600~800nmの波長領域すなわち近赤外光と可視光の境界付近における、透過率の変化を示す指標であり、値が小さいほど分光透過率曲線が急峻であり、透過率が急峻に変化することを意味する。近赤外光を遮断する光学フィルタに求められる特性を鑑みると、可視光の透過率は100%であり、近赤外光の透過率は0%であることが理想とされる。したがって、IR20-IR80は小さいほど好ましい。
【0027】
スクアリリウム色素は、さらに、最大吸収波長における透過率が10%となるようにジクロロメタンに溶解して測定される分光透過率曲線において、次の特性(i-4)~(i-6)を全て満たすことが好ましい。
【0028】
(i-4)IR20-IR80は小さいほど好ましいことから、スクアリリウム色素は、IR20-IR80<60nmを示すことが好ましい。
(i-5)スクアリリウム色素は、400~500nmの波長領域の光の平均透過率が96%以上であることが好ましく、97%以上であることがより好ましい。
(i-6)スクアリリウム色素は、400~500nmの波長領域の光の最小透過率が93%以上であることが好ましく、94%以上であることがより好ましい。
【0029】
400~500nmのいわゆる可視光領域の一部において、上記特性を満たすことで可視光を多く取り入れることができ、色再現性に優れた光学フィルタを得ることができる。
【0030】
スクアリリウム色素は、最大吸収波長における透過率が10%となるように樹脂に溶解して測定される分光透過率曲線において、次の特性(i-7)~(i-11)を全て満たすことが好ましい。
特性(i-7)~(i-11)は、光学フィルタの吸収層にスクアリリウム色素が実際に含有された場合の特性を規定したものである。したがって、スクアリリウム色素を溶解する樹脂としては、吸収層に用いられる樹脂が好ましい。
【0031】
また、樹脂中の分光特性は、色素と樹脂を含む溶液を基板に塗布して測定する。ここで空気界面と基板界面での反射の影響を回避するため、内部透過率で評価する。
内部透過率={実測透過率/(100-実測反射率)}×100
【0032】
(i-7)スクアリリウム色素は、最大吸収波長が650~790nmの範囲にある。スクアリリウム色素がかかる範囲に最大吸収波長を有することで、近赤外線領域の光を吸収できる。
【0033】
(i-8)スクアリリウム色素は、IR20が630~770nmの範囲にある。IR20がかかる範囲にあることで、可視光を多く取り入れ、赤外光を効率的にカットできる。また、IR20は、赤外のカット波長にあわせて調整できる。
【0034】
(i-9)スクアリリウム色素は、IR20-IR80<80nmを示すことが好ましく、IR20-IR80<75nmを示すことがより好ましく、IR20-IR80<60nmを示すことが特に好ましい。IR20-IR80がかかる範囲であることで、光学フィルタの吸収層にスクアリリウム色素が実際に含有された場合でも、近赤外線波長領域において急峻な分光特性を有する。
【0035】
(i-10)スクアリリウム色素は、400~500nmの波長領域の光の平均透過率が90%以上であることが好ましく、94%以上であることがより好ましい。
(i-11)スクアリリウム色素は、400~500nmの波長領域の光の最小透過率が85%以上であることが好ましく、92%以上であることがより好ましい。
400~500nmのいわゆる可視光領域の一部において、上記特性が満たされることで可視光を多く取り入れることができ、色再現性に優れる光学フィルタとなる。
【0036】
スクアリリウム色素としては、下記式(I)または(II)に示す化合物が好ましい。
【0037】
【化5】
【0038】
ただし、式(I)中の記号は以下のとおりである。
24およびR26は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1~6のアルキル基もしくはアルコキシ基、炭素数1~10のアシルオキシ基、-NR2728(R27およびR28は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、-C(=O)-R29(R29は、水素原子、置換基を有していてもよく、炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよい炭素数1~25の炭化水素基)、-NHR30、または、-SO-R30(R30は、それぞれ1つ以上の水素原子がハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、またはシアノ基で置換されていてもよく、炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよい炭素数1~25の炭化水素基)を示す。)、または、下記式(S)で示される基(R41、R42は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~10のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。kは2または3である。)を示す。
【0039】
【化6】
【0040】
21とR22、R22とR25、およびR21とR23は、互いに連結して窒素原子と共に員数が5または6のそれぞれ複素環A、複素環B、および複素環Cを形成してもよい。
【0041】
複素環Aが形成される場合のR21とR22は、これらが結合した2価の基-Q-として、水素原子が炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~10のアリール基または置換基を有していてもよい炭素数1~10のアシルオキシ基で置換されてもよいアルキレン基、またはアルキレンオキシ基を示す。
【0042】
複素環Bが形成される場合のR22とR25、および複素環Cが形成される場合のR21とR23は、これらが結合したそれぞれ2価の基-X-Y-および-X-Y-(窒素に結合する側がXおよびX)として、XおよびXがそれぞれ下記式(1x)または(2x)で示される基であり、YおよびYがそれぞれ下記式(1y)~(5y)から選ばれるいずれかで示される基である。XおよびXが、それぞれ下記式(2x)で示される基の場合、YおよびYはそれぞれ単結合であってもよく、その場合、炭素原子間に酸素原子を有してもよい。
【0043】
【化7】
【0044】
式(1x)中、4個のZは、それぞれ独立して水素原子、水酸基、炭素数1~6のアルキル基もしくはアルコキシ基、または-NR3839(R38およびR39は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~20のアルキル基を示す)を示す。R31~R36はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~6のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を、R37は炭素数1~6のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を示す。
【0045】
27、R28、R29、R31~R37、複素環を形成していない場合のR21~R23、およびR25は、これらのうちの他のいずれかと互いに結合して5員環または6員環を形成してもよい。R31とR36、R31とR37は直接結合してもよい。
【0046】
複素環を形成していない場合の、R21およびR22は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基もしくはアリル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~11のアリール基もしくはアルアリール基を示す。複素環を形成していない場合の、R23およびR25は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1~6のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。
【0047】
なお、式(I)において、特に断りのない限り、炭化水素基はアルキル基、アリール基、またはアルアリール基である。特に断りのない限り、アルキル基および、アルコキシ基、アリール基またはアルアリール基におけるアルキル部分は、直鎖状、分岐鎖状、環状またはこれらの構造を組み合わせた構造でもよい。以下の他の式における炭化水素基、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アルアリール基においても、同様である。
【0048】
式(I)において、R29における置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、シアノ基、炭素数1~6のアシルオキシ基が挙げられる。R29を除いて「置換基を有してもよい」という場合の置換基としては、ハロゲン原子または炭素数1~15のアルコキシ基が例示できる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、フッ素原子および塩素原子が好ましい。
【0049】
【化8】
【0050】
ただし、式(II)中の記号は以下のとおりである。
環Zは、それぞれ独立して、ヘテロ原子を環中に0~3個有する5員環または6員環であり、環Zが有する水素原子は置換されていてもよい。
【0051】
とR、RとR、およびRと環Zを構成する炭素原子またはヘテロ原子は、互いに連結して窒素原子とともにそれぞれヘテロ環A1、ヘテロ環B1およびヘテロ環C1を形成していてもよく、その場合、ヘテロ環A1、ヘテロ環B1およびヘテロ環C1が有する水素原子は置換されていてもよい。水素原子が置換される場合、置換基としては、ハロゲン原子、または、置換基を有してもよい炭素数1~15のアルキル基が挙げられる。
【0052】
ヘテロ環を形成していない場合のRおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素原子間に不飽和結合、ヘテロ原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよく、置換基を有してもよい炭化水素基を示す。Rおよびヘテロ環を形成していない場合のRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素原子間にヘテロ原子を含んでもよく、置換基を有してもよいアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。
【0053】
式(II)において、炭化水素基の炭素数は1~15が挙げられる。アルキル基もしくはアルコキシ基の炭素数は1~10が挙げられる。式(II)において、「置換基を有してもよい」という場合の置換基としては、ハロゲン原子または炭素数1~10のアルコキシ基が例示できる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、フッ素原子および塩素原子が好ましい。
【0054】
化合物(I)としては、例えば、式(I-1)で示される化合物が挙げられる。スクアリリウム骨格の両側にベンゼン環が結合し、さらにベンゼン環が5員環の縮合環を形成することで、構造が安定し、耐熱性に優れた色素とすることができる。
【0055】
【化9】
【0056】
式(I-1)中の記号は、式(I)における同記号の各規定と同じであり、好ましい態様も同様である。
【0057】
化合物(I-1)において、Xとしては、基(2x)が好ましく、Yとしては、単結合または基(1y)が好ましい。この場合、R31~R36としては、水素原子または炭素数1~3のアルキル基が好ましく、水素原子またはメチル基がより好ましい。なお、
-Y-X-として、具体的には、式(11-1)~(12-3)で示される2価の有機基が挙げられる。
【0058】
-C(CH-CH(CH)- …(11-1)
-C(CH-CH- …(11-2)
-C(CH-CH(C)- …(11-3)
-C(CH-C(CH)(nC)- …(11-4)
-C(CH-CH-CH- …(12-1)
-C(CH-CH-CH(CH)- …(12-2)
-C(CH-CH(CH)-CH- …(12-3)
【0059】
また、化合物(I-1)において、R21は、溶解性、耐熱性、さらに分光透過率曲線における可視域と近赤外域の境界付近の変化の急峻性の観点から、それぞれ独立して、式(4-1)または式(4-2)で示される基がより好ましい。
【0060】
【化10】
【0061】
式(4-1)および式(4-2)中、R71~R75は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~4のアルキル基を示す。
【0062】
化合物(I-1)において、R24は-NR2728が好ましい。
-NR2728としては、樹脂や吸収層を形成する際に用いる溶媒(以下、「ホスト溶媒」ともいう)への溶解性の観点から、-NH-C(=O)-R29が好ましい。スクアリリウム骨格の酸素原子と、R24における水素原子とが水素結合を形成することで、化合物の安定性が高まり、耐熱性に優れた色素とすることができる。
【0063】
化合物(I-1)において、R24が-NH-C(=O)-R29の化合物を式(I-11)に示す。
【0064】
【化11】
【0065】
化合物(I-11)における、R23およびR26は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~6のアルキル基もしくはアルコキシ基が好ましく、いずれも水素原子がより好ましい。
【0066】
化合物(I-11)において、R29としては、置換基を有していてもよく炭素原子間に酸素原子を有していてもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6~10のアリール基、または置換基を有していてもよく、炭素原子間に酸素原子を有していてもよい炭素数7~18のアルアリール基が好ましい。置換基としては、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、シアノ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のフロロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアシルオキシ基等が挙げられる。
【0067】
29としては、耐熱性の観点から、炭素原子間に酸素原子を有していてもよい、直鎖状、分岐鎖状、または環状の、炭素数1~17のアルキル基、または、置換基を有していてもよい炭素数6~10のアリール基が好ましい。
【0068】
化合物(I-11)としては、より具体的には以下の表に示す化合物が挙げられる。また、以下の表に示す化合物は、スクアリリウム骨格の左右において各記号の意味は同一である。
【0069】
【表1】
【0070】
化合物(I-1)において、R24は、可視光の透過率、特に波長430~550nmの光の透過率を高める観点からは、-NH-SO-R30が好ましい。化合物(I-1)において、R24が-NH-SO-R30の化合物を式(I-12)に示す。
【0071】
【化12】
【0072】
化合物(I-12)における、R23およびR26は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~6のアルキル基もしくはアルコキシ基が好ましく、いずれも水素原子がより好ましい。
【0073】
化合物(I-12)において、R30は耐熱性の観点から、それぞれ独立して、炭素原子間に酸素原子を有していてもよい、直鎖状、分岐鎖状、または環状の、炭素数1~17のアルキル基、または、置換基を有していてもよい炭素数6~10のアリール基が好ましい。
【0074】
化合物(I-12)としては、より具体的には以下の表に示す化合物が挙げられる。また、以下の表に示す化合物は、スクアリリウム骨格の左右において各記号の意味は同一である。
【0075】
【表2】
【0076】
上記表中、Ph-C3およびPh-C5はそれぞれ下記に示す構造である。
【0077】
【化13】
【0078】
化合物(II)としては、例えば、式(II-3)で示される化合物が挙げられる。
【0079】
【化14】
【0080】
式(II-3)中、R、R、およびR~R12は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、または、置換基を有してもよい炭素数1~15のアルキル基を示し、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、または、置換基を有してもよい炭素数1~5のアルキル基を示す。
【0081】
は、樹脂への溶解性、可視光透過性等の観点から、それぞれ独立して、炭素数1~15のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましく、エチル基、イソプロピル基が特に好ましい。
は、可視光透過性、合成容易性の観点から、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子が好ましく、水素原子が特に好ましい。
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基が好ましく、水素原子、ハロゲン原子、メチル基がより好ましい。
【0082】
~R12は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基が好ましい。
【0083】
-CR10-CR1112-として、下記基(13-1)~(13-5)で示される2価の有機基が挙げられる。
【0084】
-CH(CH)-C(CH- …(13-1)
-C(CH-CH(CH)- …(13-2)
-C(CH-CH- …(13-3)
-C(CH-CH(C)- …(13-4)
-C(CH)(CH-CH(CH)-CH(CH)-…(13-5)
【0085】
化合物(II-3)としては、より具体的には以下の表に示す化合物が挙げられる。また、以下の表に示す化合物は、スクアリリウム骨格の左右において各記号の意味は同一である。
【0086】
【表3】
【0087】
色素(I)及び色素(II)は、1種を用いてもよく2種以上を混合して用いてもよい。
【0088】
吸収層におけるNIR色素の含有量は、光学フィルタの設計に応じて、例えば、後述の反射層との関係において(ii-1)~(ii-6)の特性や、後述の光学フィルタとしての(iii-1)~(iii-9)の特性を満足するように適宜選択される。吸収層におけるNIR色素の含有量は、可視光、特に青色光の透過率を確保しつつ、近赤外光を遮光し、樹脂全体のガラス転移温度(Tg)を下げすぎない観点から、樹脂100質量部に対して0.01~20質量部が好ましい。
【0089】
<その他の色素>
吸収層はさらに、本発明の効果を損なわない範囲で、近赤外線吸収色素以外のその他の色素を含んでもよい。その他の色素としては、紫外線吸収色素、800~1200nmに最大吸収波長を有する赤外線吸収色素が挙げられる。
【0090】
紫外線吸収色素(UV色素)としては、ジクロロメタンに溶解して分光透過率を測定したときに350~450nmに最大吸収波長を有する化合物が好ましい。吸収層が紫外線吸収色素を含むことでUV側の斜入射特性を改善できる。
【0091】
UV色素は、具体例に、オキサゾール系、メロシアニン系、シアニン系、ナフタルイミド系、オキサジアゾール系、オキサジン系、オキサゾリジン系、ナフタル酸系、スチリル系、アントラセン系、環状カルボニル系、トリアゾール系等の色素が挙げられる。この中でも、オキサゾール系、メロシアニン系の色素が好ましい。また、UV色素は、吸収層に1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
吸収層におけるUV色素の含有量は、吸収層のTgを下げすぎない観点から0.01~20質量%が好ましい。
【0092】
800~1200nmに最大吸収波長を有する赤外線吸収色素としては、ジクロロメタンに溶解して分光透過率を測定したときに800~1200nmに最大吸収波長を有する化合物が好ましい。吸収層が赤外線吸収色素を含むことで800~1200nmの波長領域の光を吸収によっても落とすことができ、フレアやゴーストを抑制できる。
【0093】
かかる赤外線吸収色素は、具体例に、スクアリリウム色素、フタロシアニン色素、シアニン色素、ジケトピロロピロール色素等の800~1200nmに吸収を有する色素が挙げられる。この中でも、可視光透過率が優れるスクアリリウム色素が、効率よく所望の波長領域の光を吸収でカットしてかつ可視光透過率を高く維持できる観点で好ましい。また、赤外線吸収色素は、吸収層に1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
吸収層における赤外線吸収色素の含有量は、樹脂全体のTgを下げすぎない観点から0.01~20質量%が好ましい。
【0094】
<樹脂>
吸収層に用いる樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が390℃以上であり、400℃以上であることが好ましい。樹脂のガラス転移温度がかかる範囲であることにより、リフロー方式によるはんだ付けに供しても樹脂が熱分解して気泡が発生したり、透明基板との密着性が低下する等の外観異常が生じにくく、耐熱性に優れた光学フィルタを得ることができる。また、NIR色素の熱分解温度が高く耐熱性に優れていても、樹脂のガラス転移温度が低い場合、熱衝突しやすくなり、色素の熱分解が促進されてしまうおそれがある。したがって、耐熱性に優れた光学フィルタとするためには、樹脂のガラス転移温度が高いことが重要である。
【0095】
樹脂としては、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテル、エポキシ樹脂、及びシクロオレフィン樹脂等が挙げられ、中でも、ガラス転移温度が特に高い観点から、ポリイミド樹脂が好ましい。これらの樹脂は1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0096】
また、樹脂としては、波長400~900nmの光、すなわち可視光を透過することが好ましい。
【0097】
<ケイ素化合物>
吸収層はさらに、ケイ素化合物を含むことが好ましい。吸収層がケイ素化合物を含むことで、透明基板と吸収層との密着性を高めることができる。
【0098】
ケイ素化合物の配合量は、多すぎると樹脂の耐熱性を低下させ、吸収層を製膜する際に揮発して気泡を形成し、外観不良を生じる恐れがある。かかる観点から吸収層におけるケイ素化合物の含有量は15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0099】
ケイ素化合物は、具体例に、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、アクリル基、ウレイド基等の官能基をもつシランカップリング剤等が挙げられる。この中でも、色素を劣化させない観点と基材又は誘電体多層膜との密着性の観点から、エポキシ基を含むシランカップリング剤が好ましい。また、ケイ素化合物は、吸収層に1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0100】
吸収層は、さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、密着性付与剤、色調補正色素、レベリング剤、帯電防止剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、分散剤、難燃剤、滑剤、可塑剤等の任意成分を有してもよい。
【0101】
本発明の光学フィルタにおいて、吸収層の厚さは、0.1~100μmが好ましい。吸収層が複数層からなる場合、各層の合計の厚さは、0.1~100μmが好ましい。厚さが0.1μm未満では、所望の光学特性を十分に発現できないおそれがあり、厚さが100μm超では、吸収層の平坦性が低下し、吸収率の面内バラツキが生じるおそれがある。吸収層の厚さは、0.3~50μmがより好ましい。また、本発明の光学フィルタが、反射層や、反射防止層等の他の機能層を備えた場合、その材質によっては、吸収層が厚すぎると割れ等が生ずるおそれがある。そのため、吸収層の厚さは、0.3~10μmがより好ましい。
【0102】
吸収層は、例えば、NIR色素と、樹脂または樹脂の原料成分と、必要に応じて配合される各成分とを、溶媒に溶解または分散させて塗工液を調製し、これを基材に塗工し乾燥させ、さらに必要に応じて硬化させて形成できる。上記基材は、本発明の光学フィルタに含まれる透明基板でもよいし、吸収層を形成する際にのみ使用する剥離性の基材でもよい。また、溶媒は、安定に分散できる分散媒または溶解できる溶媒であればよい。
【0103】
また、塗工液は、微小な泡によるボイド、異物等の付着による凹み、乾燥工程でのはじき等の改善のため界面活性剤を含んでもよい。さらに、塗工液の塗工には、例えば、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、またはスピンコート法等を使用できる。上記塗工液を基材上に塗工後、乾燥させることにより吸収層が形成される。また、塗工液が透明樹脂の原料成分を含有する場合、さらに熱硬化、光硬化等の硬化処理を行う。
【0104】
また、吸収層は、押出成形によりフィルム状に製造可能でもあり、このフィルムを他の部材に積層し熱圧着等により一体化させてもよい。例えば、光学フィルタが透明基板を含む場合、このフィルムを透明基板上に貼着してもよい。
【0105】
吸収層は、光学フィルタの中に1層含まれていてもよく、2層以上含まれていてもよい。光学フィルタが吸収層を2層以上有する場合、各吸収層は同じ構成であっても異なってもよい。例として、一方の吸収層を、NIR色素と樹脂を含む近赤外吸収層とし、もう一方の層を、UV色素と樹脂を含む近紫外吸収層としてもよい。
また、吸収層は、それ自体が基板(透明基板)として機能するものでもよい。
【0106】
〔透明基板〕
透明基板は、略400~700nmの可視光を透過すれば、構成する材料は特に制限されず、近赤外光や近紫外光を吸収する材料でもよい。例えば、ガラスや結晶等の無機材料や、透明樹脂等の有機材料が挙げられる。吸収層自体が透明基板としても機能するものでもよいが、リフローの高温で熱変形しにくい観点から、吸収層は透明基板の主面上に設けられ、透明基板はガラスまたは吸収ガラスであることが好ましい。
【0107】
透明基板に使用できるガラスとしては、フツリン酸塩系ガラスやリン酸塩系ガラス等に銅イオンを含む吸収型のガラス(近赤外線吸収ガラス)、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等が挙げられる。ガラスとしては、目的に応じて吸収ガラスが好ましく、赤外光を吸収する観点ではリン酸塩系ガラス、フツリン酸塩系ガラスが好ましい。赤色光(600~700nm)を多く取り込みたい際は、アルカリガラス、無アルカリガラス、石英ガラスが好ましい。なお、「リン酸塩系ガラス」は、ガラスの骨格の一部がSiOで構成されるケイリン酸塩ガラスも含む。
【0108】
ガラスとしては、ガラス転移点以下の温度で、イオン交換により、ガラス板主面に存在するイオン半径が小さいアルカリ金属イオン(例えば、Liイオン、Naイオン)を、イオン半径のより大きいアルカリイオン(例えば、Liイオンに対してはNaイオンまたはKイオンであり、Naイオンに対してはKイオンである。)に交換して得られる化学強化ガラスを使用してもよい。
【0109】
透明基板として使用できる透明樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン樹脂、ノルボルネン樹脂、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0110】
また、透明基板に使用できる結晶材料としては、水晶、ニオブ酸リチウム、サファイア等の複屈折性結晶が挙げられる。透明基板の光学特性は、上記吸収層、反射層等と積層して得られる光学フィルタとして、前述した光学特性を有するとよい。結晶材料としてはサファイアが好ましい。
【0111】
透明基板は、光学フィルタとしての光学特性、機械特性等の長期にわたる信頼性に係る形状安定性の観点、フィルタ製造時のハンドリング性の観点等から、無機材料が好ましく、特にガラス、サファイアが好ましい。
【0112】
透明基板の形状は特に限定されず、ブロック状、板状、フィルム状でもよく、その厚さは、例えば、0.03~5mmが好ましく、薄型化の観点からは、0.03~0.5mmがより好ましい。加工性の観点から言えば、板状のガラスからなる板厚0.05~0.5mmの透明基板が好ましい。
【0113】
〔反射層〕
本発明の光学フィルタはさらに、反射層を備えることが好ましい。
反射層は、誘電体多層膜からなり、特定の波長領域の光を遮蔽する機能を有する。反射層としては、例えば、可視光を透過し、吸収層の遮光域以外の波長の光を主に反射する波長選択性を有するものが挙げられる。反射層は、近赤外光を反射する反射領域を有することが好ましい。この場合、反射層の反射領域は、吸収層の近赤外域における遮光領域を含んでもよい。反射層は、上記特性に限らず、所定の波長領域の光、例えば、近紫外域をさらに遮断する仕様に適宜設計してよい。
【0114】
反射層は、低屈折率の誘電体膜(低屈折率膜)と高屈折率の誘電体膜(高屈折率膜)とを交互に積層した誘電体多層膜から構成される。高屈折率膜は、好ましくは、屈折率が1.6以上であり、より好ましくは2.2~2.5である。高屈折率膜の材料としては、例えばTa、TiO、Nbが挙げられる。これらのうち、成膜性、屈折率等における再現性、安定性等の点から、TiOが好ましい。
【0115】
一方、低屈折率膜は、好ましくは、屈折率が1.6未満であり、より好ましくは1.45以上1.55未満である。低屈折率膜の材料としては、例えばSiO、SiO等が挙げられる。成膜性における再現性、安定性、経済性等の点から、SiOが好ましい。
【0116】
反射層は、以下の各特性(ii-1)~(ii-6)を全て満たすことが好ましい。
ここで、IR50、IR20の意味は下記のとおりである。
IR50:600~800nmの波長領域における透過率が50%のときの波長
IR20:600~800nmの波長領域における透過率が20%のときの波長
【0117】
(ii-1)入射角0度でのIR50(IR500deg)が680~800nmの範囲にあることが好ましく、680~770nmの範囲にあることがより好ましい。反射層がかかる特性を有することで赤外光のカット波長を調整できる。
【0118】
(ii-2)入射角0度でのIR20(IR200deg)が700~820nmの範囲にあることが好ましく、670~760nmの範囲にあることがより好ましい。反射層がかかる特性を有することで赤外光のカット波長を調整できる。
【0119】
(ii-3)入射角30度でのIR50(IR5030deg)と入射角0度でのIR50(IR500deg)との差(IR5030deg-IR500deg)の絶対値が11nm以上であることが好ましい。
【0120】
(ii-4)435~500nmの波長領域の光の平均透過率が88%以上であることが好ましく、92%以上であることがより好ましい。反射層がかかる特性を有することで可視光を多く取り込むことができ、色再現性の観点で好ましい。
また、かかる特性を満たすためには、例えば可視光透過率の高いスクアリリウム色素を用いることが好ましい。
【0121】
(ii-5)640~660nmの波長領域の光の平均透過率が70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。反射層がかかる特性を有することで可視光、特に600~700nmの波長領域の光を多く取り込むことができ、色再現性の観点で好ましい。
また、かかる特性を満たすためには、例えば700~760nmに最大吸収波長をもつ色素が好ましく、さらに急峻性に優れるスクアリリウム色素を用いることが好ましい。
【0122】
(ii-6)750~1100nmの波長領域の光の平均透過率が10%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましい。反射層がかかる特性を有することで750~1100nmの波長領域の赤外光を遮光することができ、フレアやゴーストを抑制できる。
【0123】
さらに、反射層は、透過域と遮光域の境界波長領域で透過率が急峻に変化することが好ましい。この目的のためには、反射層を構成する誘電体多層膜の合計積層数は、15層以上が好ましく、25層以上がより好ましく、30層以上がさらに好ましい。ただし、合計積層数が多くなると、反り等が発生したり、膜厚が増加したりするため、合計積層数は100層以下が好ましく、75層以下がより好ましく、60層以下がより一層好ましい。また、誘電体多層膜の膜厚は、2~10μmが好ましい。
【0124】
誘電体多層膜の合計積層数や膜厚が上記範囲内であれば、反射層は小型化の要件を満たし、高い生産性を維持しながら、透過域と遮光域の境界波長領域での透過率の急峻性を満足できる。また、誘電体多層膜の形成には、例えば、CVD法、スパッタリング法、真空蒸着法等の真空成膜プロセスや、スプレー法、ディップ法等の湿式成膜プロセス等を使用できる。
【0125】
反射層は、1層(1群の誘電体多層膜)で所定の光学特性を与えたり、2層で所定の光学特性を与えたりしてもよい。本発明の光学フィルタが反射層を2層以上有する場合、各反射層は同じ構成でも異なる構成でもよい。本発明の光学フィルタが反射層を2層以上有する場合、通常、反射層は反射領域の異なる複数の層で構成される。
【0126】
例として、2層の反射層を設ける場合、一方を、近赤外域のうち短波長領域の光を遮蔽する近赤外反射層とし、他方を、該近赤外域の長波長領域および近紫外域の両領域の光を遮蔽する近赤外・近紫外反射層としてもよい。また、例えば、本発明の光学フィルタが透明基板を有する場合に、2層以上の反射層を設ける際には、全ての反射層を透明基板の一方の主面上に設けてもよく、各反射層を、透明基板を挟んでその両主面上に設けてもよい。
【0127】
〔反射防止層〕
本発明の光学フィルタはさらに、反射防止層を備えてもよい。
反射防止層としては、誘電体多層膜や中間屈折率媒体、屈折率が漸次的に変化するモスアイ構造などが挙げられる。中でも光学的効率、生産性の観点から誘電体多層膜が好ましい。反射防止層は、反射層と同様に誘電体膜を交互に積層して得られる。
【0128】
〔他の構成要素〕
本発明の光学フィルタは、他の構成要素として、例えば、特定の波長領域の光の透過と吸収を制御する無機微粒子等による吸収を与える構成要素(層)などを備えてもよい。無機微粒子の具体例としては、ITO(Indium Tin Oxides)、ATO(Antimony-doped Tin Oxides)、タングステン酸セシウム、ホウ化ランタン等が挙げられる。ITO微粒子、タングステン酸セシウム微粒子は、可視光の透過率が高く、かつ1200nmを超える赤外波長領域の広範囲に光吸収性を有するため、かかる赤外光の遮蔽性を必要とする場合に使用できる。
【0129】
〔光学フィルタ〕
本発明の光学フィルタは、特定の特性を満たす近赤外線吸収色素と、ガラス転移温度が高い樹脂とを含む吸収層を備えることで、近赤外光の遮光性と耐熱性に優れる。
ここで、本発明の光学フィルタは、以下の(iii-1)~(iii-7)、(iii-8)、(iii-9)の各特性を満たすことが好ましい。
【0130】
ここで、IR50、IR20、UV50の意味は下記のとおりである。
IR50:600~800nmの波長領域における透過率が50%のときの波長
IR20:600~800nmの波長領域における透過率が20%のときの波長
UV50:380~440nmの波長領域における透過率が50%のときの波長
【0131】
(iii-1)入射角0度でのIR50(IR500deg)が640~760nmの範囲にあることが好ましく、640~730nmの範囲にあることがより好ましい。光学フィルタがかかる特性を有することで可視光を取り入れ、700nm以降の赤外光を効率よくカットできる。
【0132】
(iii-2)入射角0度でのIR20(IR200deg)が660~780nmの範囲にあることが好ましく、650~740nmの範囲にあることがより好ましい。光学フィルタがかかる特性を有することで可視光を取り入れ、700nm以降の赤外光を効率よくカットできる。
【0133】
(iii-3)入射角0度でのUV50(UV500deg)が390~430nmの範囲にあることが好ましく、390~420nmの範囲にあることがより好ましい。光学フィルタがかかる特性を有することでUV側の斜入射特性を改善して可視光を多く取り入れることができる。
【0134】
(iii-4)430~500nmの波長領域の光の平均透過率が82%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましい。光学フィルタがかかる特性を有することで赤色帯域(600~700nm)の光を多く取り入れて色再現性に優れる。
【0135】
(iii-5)640~660nmの波長領域の光の平均透過率が65%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。光学フィルタがかかる特性を有することで赤色帯域(600~700nm)の光を多く取り入れて色再現性に優れる。
また、かかる特性を満たすためには、例えば700~760nmに最大吸収波長をもつ色素を用いること、好ましくは急峻性に優れるスクアリリウム色素を用いることが挙げられる。
【0136】
(iii-6)640~660nmの波長領域の光の最小透過率が60%以上であることが好ましく、65%以上であることがより好ましい。光学フィルタがかかる特性を有することで赤色帯域(600~700nm)の光を多く取り入れて色再現性に優れる。
また、かかる特性を満たすためには、例えば700~760nmに最大吸収波長をもつ色素を用いること、好ましくは急峻性に優れるスクアリリウム色素を用いることが挙げられる。
【0137】
(iii-7)750~1100nmの波長領域の光の平均透過率が3%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。光学フィルタがかかる特性を有することでフレアやゴースト起因の750~1100nmの光を遮光できる。
【0138】
(iii-8)入射角30度でのIR50(IR5030deg)と入射角0度でのIR50(IR500deg)と差(IR5030deg-IR500deg)の絶対値が11nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましい。光学フィルタがかかる特性を有することで斜入射特性に優れる。
また、かかる特性を満たすためには、例えば多層膜のシフト帯域を色素の吸収に合わせることが挙げられる。
【0139】
(iii-9)入射角30度でのUV50(UV5030deg)と入射角0度でのUV50(UV500deg)の差(UV500deg-UV5030deg)の絶対値が3nm以下であることが好ましく、2nm以下であることがより好ましい。光学フィルタがかかる特性を有することでUV側の斜入射特性に優れる。
また、かかる特性を満たすためには、例えば多層膜のUV側のシフトをUV色素の吸収領域に合わせることが挙げられる。
【0140】
本発明の光学フィルタは、例えば、デジタルスチルカメラ等の撮像装置に使用した場合に、色再現性に優れる撮像装置を提供できる。かかる撮像装置は、固体撮像素子と、撮像レンズと、本発明の光学フィルタとを備える。本発明の光学フィルタは、例えば、撮像レンズと固体撮像素子との間に配置されたり、撮像装置の固体撮像素子、撮像レンズ等に粘着剤層を介して直接貼着されたりして使用できる。
【実施例
【0141】
以下に本発明の実施例を説明する。
【0142】
分光特性は日立ハイテクサイエンス製紫外可視近赤外分光光度計UH4150を用いた。
また、各例で用いた色素の構造と、合成方法または入手先を下記に示す。化合物1~12はNIR色素、化合物13はUV色素である。
【0143】
化合物1および化合物5:国際公開第2014/088063号および国際公開第2016/133099号に基づき合成した。
化合物2:国際公開第2017/135359号に基づき合成した。
化合物3:国際公開第2016/133099号に基づき合成した。
化合物4:日本国特開2018-95798号公報に基づき合成した。
化合物6、化合物7、化合物10:国際公開第2014/088063号に基づき合成した。
化合物8:国際公開第2017/094858号に基づき合成した。
化合物9:日本国特開2014-59550号公報に基づき合成した。
化合物11:国際公開第2012/169447号に基づき合成した。
化合物12:山田化学製 FDR003(フタロシアニン色素)
化合物13:DE 10109243に基づき合成した。
【0144】
【化15】
【0145】
【化16】
【0146】
【化17】
【0147】
<例1-1~例1-12>
NIR色素(化合物1~化合物12)をそれぞれジクロロメタンに均一に溶解した。色素の添加量は、最大吸収波長での光の透過率が10%になるように調整した。得られた各溶液について、分光光度計を用い、表4に示す各光学特性を測定した。
【0148】
また、NIR色素5%減熱分解温度(℃)は以下の方法により測定した。
NIR色素5%減熱分解温度:色素を10mg用いて窒素フロー下で1分あたり10℃昇温させて熱分解温度を測定した。初期の重量の95%になった温度を5%減熱分解温度とした。熱分解温度の測定には、示差熱/熱重量同時測定装置 SDT Q600(ティーエイ インスルメント ジャパン製)を用いた。
結果を表4に示す。
【0149】
なお、化合物1~7は、上記特性(i-1)~(i-3)を全て満たす色素である。
【0150】
【表4】
【0151】
表4の結果より、化合物1~7は、耐熱性、可視域と近赤外域の境界付近の透過率変化の急峻性(IR20-IR80)、可視光透過率に優れていることが分かる。
また、化合物9~11は、耐熱性の点で劣る。化合物8及び12は、透過率変化の急峻性の点で劣る。
このように、耐熱性、透過率変化の急峻性、可視光透過率を両立するのは特定のスクアリリウム色素であることが分かる。
【0152】
<例2-1>
ポリイミド樹脂(三菱瓦斯化学製ポリイミドワニスH520)をシクロヘキサノンに希釈させ、NIR色素として化合物1を樹脂に対して2.68質量%、シラン化合物としてシランカップリング剤(信越化学社製KBM403)を樹脂に対して10質量%溶解させた。得られた調合液をSCHOTT製D263ガラスにスピンコートしておよそ膜厚1.0μmになるようにスピン成膜し、吸収層を形成した。得られた吸収層を分光光度計で波長350nm~1200nmの波長範囲で入射方向に対してサンプルを5度に傾けて透過率と反射率を測定した。
【0153】
樹脂中の分光特性は、空気界面とガラス界面での反射の影響を回避するため、内部透過率で評価した。
内部透過率={実測透過率/(100-実測反射率)}×100
【0154】
得られたデータを波長800~1200nmの最小透過率が10%になるように規格化した。
また、得られた吸収層付き基板を260℃に加熱して5分後の色素の残存率を換算した。
残存率の換算としては、最大吸収波長での色素のABS=-log10(T/100)の変化量をABS(加熱後)/ABS(加熱後)で算出した。
【0155】
<例2-2、例2-3>
ポリイミド樹脂の種類と化合物1の配合量を表5のとおりとした以外は例2-1と同様に評価した。
【0156】
<例2-4>
NIR色素を化合物2とし、配合量を表5のとおりとした以外は例2-1と同様に評価した。
【0157】
<例2-5、例2-6>
ポリイミド樹脂の種類と化合物2の配合量を表5のとおりとした以外は例2-4と同様に評価した。
【0158】
<例2-7>
NIR色素を化合物3とした以外は例2-6と同様に評価した。
【0159】
<例2-8>
NIR色素を化合物8とした以外は例2-6と同様に評価した。
【0160】
各例で得られた分光特性と残存率を表5に示す。
【0161】
【表5】
【0162】
上記結果より、ガラス転移温度が高い樹脂と、例1-1等で確認した耐熱性と特定の分光特性を満たすスクアリリウム化合物とを組み合わせて形成した、例2-1~例2-7の吸収層では、熱劣化しにくく、かつ、透過率変化の急峻性、可視光透過率も両立していることが分かる。
また、NIR色素として化合物8(シアニン色素)を用いた例2-8の吸収層では、ガラス転移温度が高い樹脂と組み合わせても耐熱性が低い結果となった。
【0163】
<例3-1、例3-2>
SiO/TiOからなる誘電体多層膜を蒸着により形成することで反射層を作製した。
【0164】
例3-1及び例3-2で得られた反射層の光学特性を表6に示す。
【0165】
【表6】
【0166】
<例4-1>
例3-2に示した反射層をSCHOTT製D263ガラス板(76mm角)に蒸着した。
ポリイミド樹脂(三菱瓦斯化学製ポリイミドワニスH550)をシクロヘキサノンに希釈させ、NIR色素として化合物1を樹脂に対して7.5質量%、UV色素として化合物13を樹脂に対して3.6質量%、シラン化合物としてシランカップリング剤(信越化学社製KBM403)を樹脂に対して3質量%溶解させた。得られた調合液を、反射膜付きガラス基板の反射膜が形成されていない面にスピンコートして、およそ膜厚1.0μmになるようにスピン成膜し、吸収層を形成した。
【0167】
吸収層が形成された面に、材質として7層のSiO/TiOを交互に蒸着することにより反射防止層を形成し、光学フィルタを得た。
【0168】
得られた光学フィルタを100マスにカットで切りテープ剥がれ試験(ピール試験)を確認した。
同様に光学フィルタを100マスにカットしたのち、沸騰している水に沈めた後テープ剥がれ試験(煮沸ピール試験)を実施した。
【0169】
ピール試験および煮沸ピール試験の指標を下記に示す。
剥がれが10個未満:〇
剥がれが10個以上:×
【0170】
また、加熱試験として、260℃で光学フィルタを5分加熱して、外観異常を確認した。
【0171】
<例4-2>
化合物1の濃度を表7のとおりに変え、UV色素を添加しなかった以外は例4-1と同様の評価を実施した。
【0172】
<例4-3>
シラン化合物の濃度を表7のとおりに変えた以外は例4-2と同様の評価を実施した。
【0173】
<例4-4>
NIR色素として化合物2を用い、濃度を表7のとおりに変えた以外は例4-2と同様の評価を実施した。
【0174】
<例4-5>
シラン化合物の濃度を表7のとおりに変えた以外は例4-4と同様の評価を実施した。
【0175】
<例4-6>
ポリイミド樹脂の種類を表7のとおりとした以外は例4-1と同様に評価した。
【0176】
<例4-7>
シラン化合物を配合しなった以外は例4-6と同様の評価を実施した。
【0177】
各例で得られたピール試験、煮沸ピール試験、加熱試験の結果を表7に示す。
なお、例4-1~例4-5は実施例、例4-6~例4-7は比較例である。
【0178】
【表7】
【0179】
上記結果より、シラン化合物を含む例4-1~4-5の光学フィルタでは、ピール試験および煮沸ピール試験が良好な結果となった。これより、吸収層がシラン化合物を含むことで基板との密着性が高まることが分かる。
【0180】
一方、熱分解温度が低い樹脂を用いた例4-6の光学フィルタでは、ピール試験および煮沸ピール試験は良好な結果であったが、加熱試験において気泡が発生した。これより、吸収層がシラン化合物を含んでいても、樹脂の耐熱性が低いとシラン化合物が揮発して外観異常を発生することが分かる。
【0181】
さらに、熱分解温度が低い樹脂を用い、シラン化合物を含まない例4-7の光学フィルタでは、加熱試験及び煮沸ピール試験において良好でない結果となった。
【0182】
<例5-1~例5-3>
表8に示す構成とした以外は、例4-1と同様に作製した光学フィルタについて、波長350nm~1200nmの波長範囲で入射角0degと30degの透過率を、分光光度計を用いてそれぞれ測定した。なお、入射角0degとは、基板面に対して垂直方向に入射する光の入射角を意味する。
【0183】
例5-1~例5-3の光学フィルタの光学特性を表8に示す。
なお、例5-1~例5-3は実施例である。
【0184】
【表8】
【0185】
上記結果より、例5-1~例5-3の光学フィルタはいずれも、T435-500nmの可視光透過率を高く維持しつつ、T640-660nmの赤色光透過率の高い光学フィルタとすることができた。
【0186】
<例6-1~例6-4>
表9に示す構成とした以外は、例4-1と同様に光学フィルタを作製した。
得られた各光学フィルタについて、分光光度計を用いて波長350nm~1200nmの波長範囲で入射角0degの透過率を測定した。
【0187】
得られた各光学フィルタを、ホットプレートで260℃及び5分間の条件で加熱して、はんだリフロー工程を模した熱劣化試験を行い、熱劣化の程度を評価した。評価指標としてはリフロー前後のIR50、IR20の変動量を用いた。IR50の変動量、IR20の変動量ともに、0.8nm以下であることが好ましい。また、リフロー後の外観を確認して気泡の有無を評価した。
【0188】
光学特性と熱劣化試験の結果を表9に示す。
また、例6-1と例6-4の光学フィルタの分光透過率曲線を、それぞれ図4および図5に示す。
なお、例6-1、例6-3は実施例、例6-2、例6-4は比較例である。
【0189】
【表9】
【0190】
上記結果より、ガラス転移温度が高い樹脂と熱分解温度が高いNIR色素を組み合わせて吸収層を形成した例6-1と例6-3の光学フィルタでは、リフロー工程においても気泡が発生せず、IR20、IR50もほとんど変動しなかった。
【0191】
一方、例6-2及び例6-4に示すように、熱分解温度が高いNIR色素を用いても樹脂のガラス転移温度が低い場合は、リフロー工程において気泡が発生し、IR20、IR50も変動した。これは、色素の熱分解温度が高くても、ガラス転移温度が低い樹脂中では熱衝突しやすくなり、色素の熱分解が促進されたためと考えられる。
【0192】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2019年9月11日出願の日本特許出願(特願2019-165682)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0193】
本発明の光学フィルタは、可視光の透過性、特には赤色の透過性を良好に維持しながら、近赤外光の遮蔽性に優れ、さらに、優れた耐熱性を有する。近年、高性能化が進む、例えば、輸送機用のカメラやセンサ等の情報取得装置の用途に有用である。
【符号の説明】
【0194】
10A,10B,10C…光学フィルタ
11…吸収層
12…透明基板
13…反射層
14…反射防止層
図1
図2
図3
図4
図5