(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】推定装置、推定方法、および、推定プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20240925BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20240925BHJP
A61B 5/16 20060101ALI20240925BHJP
A61B 3/11 20060101ALN20240925BHJP
【FI】
A61B5/00 A
A61B5/11
A61B5/16
A61B3/11
(21)【出願番号】P 2023503338
(86)(22)【出願日】2021-03-05
(86)【国際出願番号】 JP2021008837
(87)【国際公開番号】W WO2022185550
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 純平
(72)【発明者】
【氏名】片岡 明
(72)【発明者】
【氏名】小矢 英毅
【審査官】増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-99249(JP,A)
【文献】特開2016-151849(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0279935(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/01
A61B 5/06-5/22
A61B 3/00-3/18
G05B 19/418
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業パフォーマンスの推定の対象者の作業時における瞳孔径の時系列データを取得する取得部と、
前記対象者の瞳孔径の時系列データを第1の時間窓により平滑化する第1の平滑化処理部と、
当該瞳孔径の時系列データを、前記第1の時間窓より大きな時間窓である第2の時間窓により平滑化する第2の平滑化処理部と、
前記第1の時間窓により平滑化された瞳孔径の時系列データと、前記第2の時間窓により平滑化された前記瞳孔径の時系列データとの差分を算出する算出部と、
前記第1の時間窓により平滑化された瞳孔径の時系列データと、前記第2の時間窓により平滑化された前記瞳孔径の時系列データとの差分の大きさに基づき、当該対象者の作業パフォーマンスの高さを推定し、前記推定の結果を出力する推定部と
を備えることを特徴とする推定装置。
【請求項2】
前記推定部は、
前記第1の時間窓により平滑化された瞳孔径の時系列データと、前記第2の時間窓により平滑化された瞳孔径の時系列データとの差分が大きいほど、当該対象者の作業パフォーマンスが低いと推定する
ことを特徴とする請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記推定部は、
前記第1の時間窓により平滑化された瞳孔径の時系列データと、前記第2の時間窓により平滑化された瞳孔径の時系列データとの差分が小さいほど、当該対象者の作業パフォーマンスが高いと推定する
ことを特徴とする請求項1に記載の推定装置。
【請求項4】
前記対象者の作業時における瞳孔径は、赤外線カメラ、または、可視光カメラにより計測された瞳孔径である
ことを特徴とする請求項1に記載の推定装置。
【請求項5】
前記算出部は、
前記第1の時間窓により平滑化された瞳孔径の時系列データを1階微分した値の絶対値の平均値である第1の値を算出し、前記第2の時間窓により平滑化された瞳孔径の時系列データを1階微分した値の絶対値の平均値である第2の値を算出し、前記第1の値と前記第2の値との差の絶対値を、前記差分とする
ことを特徴とする請求項1に記載の推定装置。
【請求項6】
前記算出部は、
前記第1の時間窓により平滑化された瞳孔径の時系列データと、前記第2の時間窓により平滑化された瞳孔径の時系列データとの、各時間における差分の絶対値の平均値を、前記差分とする
ことを特徴とする請求項1に記載の推定装置。
【請求項7】
前記取得部は、
前記瞳孔径の時系列データのうち、前記瞳孔径の値が所定の閾値以下である期間における瞳孔径の時系列データを除外する
ことを特徴とする請求項1に記載の推定装置。
【請求項8】
推定装置により実行される推定方法であって、
作業パフォーマンスの推定の対象者の作業時における瞳孔径の時系列データを取得する工程と、
前記対象者の瞳孔径の時系列データを第1の時間窓により平滑化する工程と、
当該瞳孔径の時系列データを、前記第1の時間窓より大きな時間窓である第2の時間窓により平滑化する工程と、
前記第1の時間窓により平滑化された瞳孔径の時系列データと、前記第2の時間窓により平滑化された前記瞳孔径の時系列データとの差分を算出する工程と、
前記第1の時間窓により平滑化された瞳孔径の時系列データと、前記第2の時間窓により平滑化された前記瞳孔径の時系列データとの差分の大きさに基づき、当該対象者の作業パフォーマンスの高さを推定し、前記推定の結果を出力する工程と
を含むことを特徴とする推定方法。
【請求項9】
作業パフォーマンスの推定の対象者の作業時における瞳孔径の時系列データを取得する工程と、
前記対象者の瞳孔径の時系列データを第1の時間窓により平滑化する工程と、
当該瞳孔径の時系列データを、前記第1の時間窓より大きな時間窓である第2の時間窓により平滑化する工程と、
前記第1の時間窓により平滑化された瞳孔径の時系列データと、前記第2の時間窓により平滑化された前記瞳孔径の時系列データとの差分を算出する工程と、
前記第1の時間窓により平滑化された瞳孔径の時系列データと、前記第2の時間窓により平滑化された前記瞳孔径の時系列データとの差分の大きさに基づき、当該対象者の作業パフォーマンスの高さを推定し、前記推定の結果を出力する工程と
をコンピュータに実行させるための推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推定装置、推定方法、および、推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
人間が目視で何かを確認しながら作業を行う(認知的な課題を行う)際、課題を行う際のパフォーマンスがよい時もあれば悪い時もある。ここで課題を行う際のパフォーマンスを推定する方法として、作業者の瞳孔径の変動量を用いる方法がある。
【0003】
上記の作業者の瞳孔径の変動量を用いる方法により、作業者が課題を行う際のパフォーマンス(以下、適宜「課題パフォーマンス」と称す)を推定する際には、作業者を所定時間、暗所に置き、当該作業者の瞳孔径の変動量を計測する。
【0004】
ここで、例えば、作業者が睡眠を長時間妨げられるなど、作業者の課題パフォーマンスが低下している状態にある場合、作業者の瞳孔径の変動量に大きな波が現れることが知られている(非特許文献1,2参照)。
【0005】
したがって、暗所中の作業者の瞳孔径の変動量が多い場合には、当該作業者の課題パフォーマンスは低く、瞳孔径の変動量が少ない場合には、当該作業者の課題パフォーマンスは高いと推定される。
【0006】
作業者の課題パフォーマンスを推定する際に、作業者を所定時間暗所に置くのは、作業者が注視している場所の明るさが変化すると、明/暗順応により瞳孔径に一過性の変動が生じることが知られており、この変動の影響を除去するためである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Pupillographic Assessment of Sleepiness in Sleep-deprived Healthy Subjects. Sleep, 21, 258-265.,[2021年2月19日検索]、インターネット<URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9595604/>
【文献】B.S. Okena,b, M.C. Salinskya, and S.M. Elsasa, Vigilance, alertness, or sustained attention: physiological basis and measurement, Clin Neurophysiol. (2006) September ; 117(9): 1885-1901
【文献】Oliver Bergamin, Randy H. Kardon, Latency of the Pupil Light Reflex: Sample Rate, Stimulus Intensity, and Variation in Normal Subjects, Investigative Ophthalmology & Visual Science April 2003, Vol.44, 1546-1554. [2021年2月19日検索]、インターネット<URL:https://iovs.arvojournals.org/article.aspx?articleid=2123928>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来技術において、作業者が作業中に注視している場所の明るさを正確に取得するためには、作業者の視線位置計測装置と、作業者が注視している場所の明るさを計測する装置とが必要である。このため、作業者の課題パフォーマンスを推定する際のコストが高くなったり、利便性に欠けたりするという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、前記した問題を解決し、作業者の課題パフォーマンスの推定を容易にすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した課題を解決するため、本発明は、作業パフォーマンスの推定の対象者の作業時における瞳孔径の時系列データを取得する取得部と、前記対象者の瞳孔径の時系列データを第1の時間窓により平滑化する第1の平滑化処理部と、当該瞳孔径の時系列データを、前記第1の時間窓より大きな時間窓である第2の時間窓により平滑化する第2の平滑化処理部と、前記第1の時間窓により平滑化された瞳孔径の時系列データと、前記第2の時間窓により平滑化された前記瞳孔径の時系列データとの差分を算出する算出部と、前記第1の時間窓により平滑化された瞳孔径の時系列データと、前記第2の時間窓により平滑化された前記瞳孔径の時系列データとの差分の大きさに基づき、当該対象者の作業パフォーマンスの高さを推定し、前記推定の結果を出力する推定部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、作業者の課題パフォーマンスの推定を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、各実施形態におけるマクロな変動とミクロな変動とを説明するための図である。
【
図2】
図2は、各実施形態の推定装置の構成例を示す図である。
【
図3】
図3は、
図2の推定装置の処理手順の例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、対象者の瞳孔径の時系列データとその時系列データにおける無効区間を説明するための図である。
【
図5】
図5は、推定プログラムを実行するコンピュータの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態(実施形態)を第1の実施形態および第2の実施形態に分けて説明する。本発明は、以下に説明する各実施形態に限定されない。
【0014】
[各実施形態の概要]
まず、各実施形態の推定装置の動作概要を説明する。推定装置は、作業者の課題遂行中における作業パフォーマンス(課題パフォーマンス)を推定する。
【0015】
まず、推定装置は、作業者(課題パフォーマンスの推定の対象者)の課題遂行中における、瞳孔径の時系列データに基づき、対象者の課題パフォーマンスの推定を行う。ここで、対象者の瞳孔径は、注視している場所の明るさの変化に依存して変化する。
【0016】
しかしながら、対象者が注視している場所の明るさの変化に依存した瞳孔径の変動は、比較的長いタイムスケールで生じるものである。例えば、対象者が注視している場所の明るさの変化に依存した瞳孔径の変動は、100ms以上の時間をかけて発生することが知られている(非特許文献3参照)。つまり、対象者が注視している場所の明るさの変化に依存した瞳孔径の変動は、マクロな変動と考えることができる。
【0017】
そこで、推定装置は、対象者の瞳孔径の時系列データから、上記のマクロな変動を除去した変動(以下、適宜、ミクロな変動と呼ぶ)を得る。そして、推定装置は、対象者の瞳孔径の時系列データのミクロな変動に基づき、当該対象者の課題パフォーマンスの高さを推定する。
【0018】
図1は、対象者の瞳孔径の時系列データにおけるミクロな変動を説明するための図である。例えば、推定装置は、
図1に示すように、対象者の瞳孔径の時系列データを小さな時間窓で平滑化したデータと、当該瞳孔径の時系列データを大きな時間窓で平滑化したデータ(マクロな変動)とを算出する。次に、推定装置は、これらのデータの差分の平均値を、当該瞳孔径の時系列データのミクロな変動とする。そして、推定装置は、瞳孔径の時系列データのミクロな変動に基づき、対象者の課題パフォーマンスの高さを推定する。
【0019】
例えば、推定装置は、対象者の瞳孔径の時系列データのミクロな変動が大きいほど、当該対象者の課題パフォーマンスは低いと推定し、ミクロな変動が小さいほど、当該対象者の課題パフォーマンスは高いと推定する。
【0020】
つまり、推定装置は、対象者が注視している位置(注視対象)の光量変化による一過性のマクロな瞳孔径の変動から、課題パフォーマンスに相関するミクロな瞳孔径変動を分離して、課題パフォーマンスの高さを推定する。これにより、推定装置は、対象者が注視している位置の明るさを測定しなくても、当該対象者の課題パフォーマンスの高さを推定することができる。
【0021】
[第1の実施形態]
[構成例]
次に、
図2を用いて、第1の実施形態の推定装置10の構成例を説明する。推定装置10は、入出力部11と、記憶部12と、制御部13とを備える。
【0022】
入出力部11は、各種データの入出力を司り、例えば、課題パフォーマンスの推定の対象者が、課題を遂行している際の瞳孔径の時系列データの入力を受け付ける。なお、対象者の瞳孔径は、例えば、赤外線カメラあるいは可視光カメラを利用した光学デバイスによって取得される。
【0023】
また、入出力部11は、制御部13により推定された、対象者の課題パフォーマンスの高さを出力する。記憶部12は、制御部13が処理を実行する際に参照する各種データを記憶する。
【0024】
制御部13は、推定装置10全体の制御を行う。この制御部13は、例えば、データ取得部(取得部)131と、第1の平滑化処理部132と、第2の平滑化処理部133と、算出部134と、推定部135とを備える。
【0025】
データ取得部131は、入出力部11経由で対象者の作業時における瞳孔径の時系列データを取得する。例えば、データ取得部131は、推定装置10に接続された光学デバイスにより、対象者の作業時における瞳孔径の時系列データを取得する。データ取得部131は、取得した瞳孔径の時系列データを第1の平滑化処理部132および第2の平滑化処理部133に出力する。
【0026】
第1の平滑化処理部132は、データ取得部131から出力された瞳孔径の時系列データを第1の時間窓(小さな時間窓)により平滑化する。また、第2の平滑化処理部133は、当該瞳孔径の時系列データを第2の時間窓(大きな時間窓)により平滑化する。なお、第1の時間窓は、第2の時間窓よりも小さい時間窓である。第1の時間窓は、例えば、長さ50msの時間窓である。また、第2の時間窓は、例えば、長さ100msの時間窓である。
【0027】
例えば、第1の平滑化処理部132は、
図1に示す瞳孔径の時系列データを小さな時間窓で平滑化し、符号101に示す時系列データを作成する。また、第2の平滑化処理部133は、
図1に示す瞳孔径の時系列データを大きな時間窓で平滑化し、符号102に示す時系列データを作成する。
【0028】
図2の説明に戻る。算出部134は、第1の平滑化処理部132により平滑化された瞳孔径の時系列データと、第2の平滑化処理部133により平滑化された当該瞳孔径の時系列データとの差分を算出する。
【0029】
例えば、算出部134は、第1の平滑化処理部132により平滑化された瞳孔径の時系列データを1階微分した値の絶対値を算出し、算出した絶対値の平均値を算出する。例えば、算出部134は、第1の平滑化処理部132により平滑化された瞳孔径の時系列データを1階微分した値の絶対値を合算した後、当該瞳孔径の時系列データの時間区間(Time Length)で割った値を算出する。例えば、算出部134は、以下の式(1)に基づき、上記の値(小さな時間窓における瞳孔径の変動量)を算出する。
【0030】
【0031】
また、例えば、算出部134は、第2の平滑化処理部133により平滑化された瞳孔径の時系列データについても、同様に、1階微分した値の絶対値を算出し、算出した絶対値の平均値を算出する。例えば、算出部134は、第2の平滑化処理部133により平滑化された瞳孔径の時系列データを1階微分した値を合算した後、当該瞳孔径の時系列データの時間区間で割った値を算出する。例えば、算出部134は、以下の式(2)に基づき、上記の値(マクロの瞳孔径の変動量)を算出する。
【0032】
【0033】
そして、算出部134は、算出した小さな時間窓における瞳孔径の変動量とマクロの瞳孔径の変動量との差分(ミクロの瞳孔径の変動量)を算出する。
【0034】
上記のようにして算出されたミクロの瞳孔径の変動量は、概ね、小さな時間窓で平滑化されたデータ(例えば、
図1の符号101参照)の長さと、大きな時間窓で平滑化されたデータ(例えば、
図1の符号102参照)の長さとの差が大きいほど大きな値となる。
【0035】
図2の説明に戻る。推定部135は、算出部134により算出された、小さな時間窓における瞳孔径の変動量とマクロの瞳孔径の変動量との差分(ミクロの瞳孔径の変動量)に基づき、対象者の作業パフォーマンスの高さを推定する。
【0036】
例えば、推定部135は、ミクロの瞳孔径の変動量が大きいほど、当該対象者の作業パフォーマンスが低いと推定する。また、推定部135は、ミクロの瞳孔径の変動量が小さいほど、当該対象者の作業パフォーマンスが高いと推定する。そして、推定部135は、対象者の課題パフォーマンスの推定の結果を出力する。
【0037】
このようにすることで、推定装置10は、対象者が注視している位置(注視対象)の明るさを測定しなくても、当該対象者の課題パフォーマンスの高さを推定することができる。
【0038】
なお、データ取得部131が、第1の平滑化処理部132および第2の平滑化処理部133に、瞳孔径の時系列データを出力する際、光学デバイス等から取得した対象者の瞳孔径の時系列データのうち、瞬目発生中とその前後を無効区間として除外した瞳孔径の時系列データを、有効データとして出力してもよい。
【0039】
ここでデータ取得部131が瞬目発生の検知をする際、瞳孔径を制御する生体システムの性質を考慮すると、瞼が閉じられた状態でなければ算出され得ないような小さな瞳孔径が計測されている場合(例えば、
図4に示す瞳孔径が所定の閾値以下になった場合)に、瞬目発生とみなすアルゴリズムを用いてもよい。
【0040】
例えば、対象者の瞳孔径の時系列データが、
図4に示す値である場合を考える。この場合、データ取得部131は、
図4に示すように、瞳孔径の値が所定の閾値以下になった区間とその前後の区間を無効空間とする。そして、データ取得部131は、対象者の瞳孔径の時系列データから当該無効空間のデータを除外した瞳孔径の時系列データを出力する。
【0041】
このようにすることで、第1の平滑化処理部132および第2の平滑化処理部133は、対象者の瞳孔径の時系列データの平滑化を精度よく行うことができる。その結果、算出部134は、対象者のミクロの瞳孔径の変動量の算出を精度よく行うことができる。
【0042】
[処理手順の例]
次に、
図3を用いて、推定装置10の処理手順の例を説明する。まず、推定装置10のデータ取得部131は、対象者の瞳孔径の時系列データを取得する(S11)。
【0043】
ここで、瞳孔径の時系列データに閾値以下の大きさの時系列データが含まれない場合(S12でNo)、データ取得部131はS11で取得した全てのデータを有効データとし(S13)、第1の平滑化処理部132および第2の平滑化処理部133に出力する。そして、S15へ進む。
【0044】
一方、瞳孔径の時系列データに閾値以下の大きさが含まれる場合(S12でYes)、データ取得部131は、瞳孔径の時系列データのうち、閾値以下の値を含む部分を瞬目中として無効データとし、それ以外を有効データとする(S14)。そして、データ取得部131は、有効データを第1の平滑化処理部132および第2の平滑化処理部133に出力する。そして、S15へ進む。
【0045】
第1の平滑化処理部132は、データ取得部131から出力された有効データ(有効な瞳孔径の時系列データ)を大きな時間窓で平滑化する(S15)。また、第2の平滑化処理部133は、データ取得部131から出力された有効データ(有効な瞳孔径の時系列データ)を小さな時間窓で平滑化する(S16)。
【0046】
そして、算出部134は、2つの平滑化されたデータ(S15で平滑化されたデータとS16で平滑化されたデータ)の差分を取得し(S17)、S17で取得した差分の絶対値を取得し(S18)、S18で取得した絶対値を有効データの長さで割る(S19)。なお、ここでの有効データの長さは、対象者の課題パフォーマンスの推定対象とする時間区間のうち、瞬目期間として除外されなかった時間区間の長さである。
【0047】
S19の後、推定部135は、S19で得られた値の大きさから、対象者の課題パフォーマンスの高さを推定する(S20)。例えば、推定部135は、S19で得られた値(つまり、対象者の瞳孔径のミクロな変動量)が大きいほど、当該対象者の課題パフォーマンスが低いと推定する。そして、推定部135は、当該対象者の課題パフォーマンスの高さの推定結果を出力する。
【0048】
このようにすることで、推定装置10は、対象者が注視している位置(注視対象)の明るさを測定しなくても、当該対象者の課題パフォーマンスの高さを推定することができる。
【0049】
[第2の実施形態]
なお、前記した算出部134は、小さな時間窓により平滑化された瞳孔径の時系列データと、大きな時間窓により平滑化された瞳孔径の時系列データとの、各時間における差分の絶対値の平均値を、ミクロの瞳孔径の変動量として算出してもよい。例えば、算出部134は、以下の式(3)に基づき、ミクロの瞳孔径の変動量を算出してもよい。
【0050】
【0051】
上記のようにして算出されたミクロの瞳孔径の変動量は、概ね、小さな時間窓で平滑化されたデータ(例えば、
図1の符号101参照)と、大きな時間窓で平滑化されたデータ(例えば、
図1の符号102参照)との間にある領域(例えば、
図1のハッチング部分)の面積が増えるほど大きくなる。
【0052】
[方法Aおよび方法Bについて]
推定装置10は、対象者の瞳孔径の計測を行う計測装置(例えば、光学デバイス)の時間解像度の高さに応じて、ミクロの瞳孔径の変動量の算出に、第1の実施形態で述べた算出方法(方法A)を用いるか、第2の実施形態で述べた算出方法(方法B)を用いるかを選択してもよい。
【0053】
例えば、計測装置の瞳孔径の計測における時間解像度が比較的高い場合、推定装置10は、ミクロの瞳孔径の変動量の算出方法として、方法Aを用いる。一方、計測装置の瞳孔径の計測における時間解像度が比較的低い場合、推定装置10は、ミクロの瞳孔径の変動量を算出方法として、方法Bを用いる。
【0054】
以下に理由を説明する。一般に、瞳孔径の計測結果の生データには、計測ノイズが存在する。ここでは、瞳孔径の計測結果の生データに、時刻ポイントごとに小刻みな瞳孔径の計測値の振動(例えば、真値と比べ、計測値がタイムポイントごとに±にほぼ交互にばらつく等)が観測される場合を想定する。
【0055】
上記のとおり、瞳孔径の計測結果の生データには計測ノイズが存在するので、生データを所定の長さの時間窓で平滑化した時系列データを用いることが望ましい。したがって、推定装置10が、ミクロの瞳孔径の変動量を算出するにあたっては、例えば、瞳孔径の計測結果を、50ms程度の時間窓で平滑化した時系列データを用いることが望ましい。
【0056】
ここで、計測装置ごとに瞳孔径の計測における時間解像度は異なっている。そのため、例えば、時間解像度の高い計測装置は、1秒間に1000回の計測を行えるが、時間解像度の低い計測装置は、1秒間に20回しか計測を行えない等の状況がありうる。
【0057】
ここで、もし、計測装置の時間解像度が高い場合には(例えば、計測頻度=1000Hz等)、瞳孔径の時系列データを50msの時間窓(長さ50ポイントの時間窓)で平滑化することが可能である。よって、推定装置10は、50msの時間窓で平滑化した時系列データを「小さい時間窓で平滑化したデータ」とし、それ以上の時間窓(例えば、100ms等))で平滑化した時系列データを「大きな時間窓で平滑化したデータ」とし、ミクロの瞳孔径の変動量を方法Aにより算出することができる。
【0058】
一方、計測装置の時間解像度が低い場合(例えば、計測頻度=20Hz等)、推定装置10は、瞳孔径の時系列データを50msの時間窓(長さ50ポイントの時間窓)で平滑化することができない。
【0059】
よって、推定装置10は、「小さい時間窓で平滑化したデータ」として生データを用い、それ以上の時間窓(例えば、100ms等)で平滑化した時系列データを「大きな時間窓で平滑化したデータ」とする。ここで、推定装置10が「小さい時間窓で平滑化したデータ」として生データを用いる場合、「小さい時間窓で平滑化したデータ」の変動量にはノイズの影響が大きいため信頼性を欠く。よって、推定装置10は、ミクロの瞳孔径の変動量の算出には、方法Aよりも、方法Bを適用することが好ましい。
【0060】
これは、方法Bは、瞳孔径の変動量そのものではなく、面積の差を算出する方法であるので、「小さい時間窓で平滑化したデータ」にノイズとして小刻みな振動(真値と比べ、計測値がタイムポイントごとに±にほぼ交互にばらつく等)が含まれていたとしても、ノイズに対し頑健であるためである。
【0061】
また、そこまで極端でなくとも、瞳孔径の計測装置の時間解像度が比較的低い場合(例えば、計測頻度=40Hz等)、推定装置10が、瞳孔径データを50msの時間窓(長さ50ポイントの時間窓)で平滑化するには、たった2つのデータ点で平滑化することになる。このため、「小さい時間窓で平滑化したデータ」の変動量にはノイズの影響が大きく、信頼性を欠くと考えられる。よって、このような場合にも、推定装置10は、ミクロの瞳孔径の変動量の算出に、方法Aよりも、方法Bを適用することが好ましいと考えられる。
【0062】
なお、推定装置10は、ミクロの瞳孔径の変動量を算出する際、方法Aで算出した値と方法Bで算出した値の両方の値を算出し、これらの値の平均値またはこれらの値に重み付けした値の平均値をミクロの瞳孔径の変動量としてもよい。
【0063】
[システム構成等]
また、図示した各部の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示のように構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を、各種の負荷や使用状況等に応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。さらに、各装置にて行われる各処理機能は、その全部又は任意の一部が、CPU及び当該CPUにて実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0064】
また、前記した実施形態において説明した処理のうち、自動的に行われるものとして説明した処理の全部又は一部を手動的に行うこともでき、あるいは、手動的に行われるものとして説明した処理の全部又は一部を公知の方法で自動的に行うこともできる。この他、上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0065】
[プログラム]
前記した推定装置10は、パッケージソフトウェアやオンラインソフトウェアとしてプログラムを所望のコンピュータにインストールさせることによって実装できる。例えば、上記のプログラムを情報処理装置に実行させることにより、情報処理装置を推定装置10として機能させることができる。ここで言う情報処理装置には、デスクトップ型又はノート型のパーソナルコンピュータが含まれる。また、その他にも、情報処理装置にはスマートフォン、携帯電話機やPHS(Personal Handyphone System)等の移動体通信端末、さらには、PDA(Personal Digital Assistant)等の端末等がその範疇に含まれる。
【0066】
また、推定装置10は、ユーザが使用する端末装置をクライアントとし、当該クライアントに上記の処理に関するサービスを提供するサーバ装置として実装することもできる。この場合、サーバ装置は、Webサーバとして実装することとしてもよいし、アウトソーシングによって上記の処理に関するサービスを提供するクラウドとして実装することとしてもかまわない。
【0067】
図5は、推定プログラムを実行するコンピュータの一例を示す図である。コンピュータ1000は、例えば、メモリ1010、CPU1020を有する。また、コンピュータ1000は、ハードディスクドライブインタフェース1030、ディスクドライブインタフェース1040、シリアルポートインタフェース1050、ビデオアダプタ1060、ネットワークインタフェース1070を有する。これらの各部は、バス1080によって接続される。
【0068】
メモリ1010は、ROM(Read Only Memory)1011及びRAM(Random Access Memory)1012を含む。ROM1011は、例えば、BIOS(Basic Input Output System)等のブートプログラムを記憶する。ハードディスクドライブインタフェース1030は、ハードディスクドライブ1090に接続される。ディスクドライブインタフェース1040は、ディスクドライブ1100に接続される。例えば磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能な記憶媒体が、ディスクドライブ1100に挿入される。シリアルポートインタフェース1050は、例えばマウス1110、キーボード1120に接続される。ビデオアダプタ1060は、例えばディスプレイ1130に接続される。
【0069】
ハードディスクドライブ1090は、例えば、OS1091、アプリケーションプログラム1092、プログラムモジュール1093、プログラムデータ1094を記憶する。すなわち、上記の推定装置10が実行する各処理を規定するプログラムは、コンピュータにより実行可能なコードが記述されたプログラムモジュール1093として実装される。プログラムモジュール1093は、例えばハードディスクドライブ1090に記憶される。例えば、推定装置10における機能構成と同様の処理を実行するためのプログラムモジュール1093が、ハードディスクドライブ1090に記憶される。なお、ハードディスクドライブ1090は、SSD(Solid State Drive)により代替されてもよい。
【0070】
また、上述した各実施形態の処理で用いられるデータは、プログラムデータ1094として、例えばメモリ1010やハードディスクドライブ1090に記憶される。そして、CPU1020が、メモリ1010やハードディスクドライブ1090に記憶されたプログラムモジュール1093やプログラムデータ1094を必要に応じてRAM1012に読み出して実行する。
【0071】
なお、プログラムモジュール1093やプログラムデータ1094は、ハードディスクドライブ1090に記憶される場合に限らず、例えば着脱可能な記憶媒体に記憶され、ディスクドライブ1100等を介してCPU1020によって読み出されてもよい。あるいは、プログラムモジュール1093及びプログラムデータ1094は、ネットワーク(LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)等)を介して接続される他のコンピュータに記憶されてもよい。そして、プログラムモジュール1093及びプログラムデータ1094は、他のコンピュータから、ネットワークインタフェース1070を介してCPU1020によって読み出されてもよい。
【符号の説明】
【0072】
10 推定装置
11 入出力部
12 記憶部
13 制御部
131 データ取得部
132 第1の平滑化処理部
133 第2の平滑化処理部
134 算出部
135 推定部