(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】分離方法及び液体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 15/00 20060101AFI20240925BHJP
B01J 20/26 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
B01D15/00 J
B01J20/26 E
(21)【出願番号】P 2024508718
(86)(22)【出願日】2023-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2023034216
【審査請求日】2024-02-13
(31)【優先権主張番号】P 2022190126
(32)【優先日】2022-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】茨木 拓
(72)【発明者】
【氏名】池田 まい
(72)【発明者】
【氏名】古沢 高志
【審査官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-061607(JP,A)
【文献】特許第7006854(JP,B1)
【文献】中国特許出願公開第103319667(CN,A)
【文献】特開2017-110222(JP,A)
【文献】ZHANG,Chao-Zhi et al.,An efficient and health-friendly adsorbent N-[4-morpholinecarboximidamidoyl]carboximidamidoylmethyla,Journal of Molecular Liquids,NL,Elsevier B.V.,2019年,Vol. 296, No. 111860,p. 1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 15/00
B01J 20/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド樹脂粒子を用いて分離対象物質と有機溶媒とを含む液体から前記分離対象物質を分離する方法であって、
分離対象物質と有機溶媒とを含む液体と、ポリアリーレンスルフィド樹脂粒子とを接触させて、前記液体に含まれる前記分離対象物質を選択的に前記ポリアリーレンスルフィド樹脂粒子に吸着させて、前記液体から除去する工程を有し、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂粒子及び液体が水を含まないものであること、
前記分離対象物質が金属原子(ただし、該金属原子はポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応の未反応原料及び副生成物であるものを除く)を含む化合物であること、
分離対象物質と有機溶媒とを含む液体と、ポリアリーレンスルフィド樹脂粒子との接触が、界面活性剤の非存在下であること、
を特徴とする分離方法。
【請求項2】
前記分離対象物質が遷移金属原子である、請求項1記載の分離方法。
【請求項3】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂粒子のゼータ電位が-50mV以上である、請求項1又は2記載の分離方法。
(ただし、流動電位法によりpH7.8~8.2の条件下で測定した値である。)
【請求項4】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂粒子が、ポリアリーレンスルフィド樹脂粒子に対する外添剤成分として界面活性剤を含まないものであることを特徴とする、請求項1又は2記載の分離方法。
【請求項5】
前記分離対象物質が正方平面型の金属錯体である、請求項1又は2記載の分離方法。
【請求項6】
前記金属錯体の分子量が2000以下である、請求項5記載の分離方法。
【請求項7】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂粒子が、さらに有機溶媒を含むものである、請求項1又は2記載の分離方法。
【請求項8】
ポリアリーレンスルフィド樹脂粒子を用いて、分離対象物質と有機溶媒とを含む液体から前記分離対象物質と有機溶媒とを分離する工程を含む、前記分離対象物質の低減された液体の製造方法であって、
分離対象物質を含む液体と、ポリアリーレンスルフィド樹脂粒子とを接触させて、前記液体に含まれる前記分離対象物質を選択的に前記ポリアリーレンスルフィド樹脂粒子に吸着させて、前記液体から除去する工程を有し、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂粒子及び液体が水を含まないものであること、
前記分離対象物質が、金属原子(ただし、該金属原子はポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応の未反応原料及び副生成物であるものを除く)を含む化合物であること、を特徴とする液体の製造方法。
【請求項9】
分離対象物質と有機溶媒とを含む液体と、ポリアリーレンスルフィド樹脂粒子との接触が、界面活性剤の非存在下である、請求項8の液体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド(以下、PASと略すことがある)樹脂粒子を吸着剤として用いて、分離対象物質を含む有機溶媒から前記分離対象物質と有機溶媒とを分離する、分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、持続可能な開発に向けた有価資源の有効利用や環境汚染防止の観点から、有価資源である金属原子を含む溶液から当該金属原子の効率的な回収技術が注目されている。特に、白金族系金属や金、銀等の貴金属は価値が高く、また、産出国が偏在している事から、工業用触媒や金属メッキ用溶液等の廃液から貴金属を回収する競争が盛んになりつつある。
【0003】
廃液から貴金属を回収する方法として溶媒抽出法が実用化されているが、処理工程が煩雑であり、また、設備の大型化や大量に発生する貴金属を含まない廃液の処理が問題となっている。その他、活性炭やイオン交換樹脂等の吸着剤を廃液と接触させる方法も既に実用化されている方法である。しかしながら、活性炭は貴金属の選択性が低い。また、イオン交換樹脂は側鎖の官能基によって選択性は高いが、そのほとんどが使用環境が水系に限定されていたり、溶媒に対する膨潤収縮性が大きいといった課題があった。
【0004】
一方、耐熱性、耐薬品性に優れる特性を利用してPAS樹脂からなる多孔質体を吸着剤として用いる提案が近年なされている。例えば、特許文献1では、リサイクルしたPAS樹脂の比表面積が大きくなることを利用して、吸着剤として、特にオゾン及びNO2の除去における濾過材として用いることが開示されている。また、例えば、特許文献2では、3次元溶解度パラメーターの水素結合力の成分δhが1~5(cal1/2cm-3/2)となる微多孔質重合体組成物からなる吸着剤として、ポリフェニレンスルフィドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特願平8-512891号公報
【文献】特開平6-327970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非水環境下において高い金属選択性及び吸着能を満たす吸着剤を用いた分離方法に関する開示は少ない。また、従来のイオン交換樹脂等では構造の設計で耐有機溶媒性や耐膨潤収縮性を向上させるとイオン交換速度が低下して吸着能に劣る傾向にあった。以上から、非水環境下に適用可能な吸着材料及び分離方法の開発が求められていた。
【0007】
そこで本発明が解決しようとする課題は、分離対象物質と有機溶媒とを含む液体から、分離対象物質である金属原子を効率よく分離する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは種々の検討を行った結果、PAS樹脂粒子を吸着剤として用いると、非水環境下においても優れた吸着能を示すこと、さらに、PAS樹脂は耐薬品性に優れることから、吸着剤が溶媒による劣化や膨潤収縮を生じにくく、連続的な使用やリサイクル性に優れること見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本開示の分離する方法は、PAS樹脂粒子を用いて分離対象物質と有機溶媒とを含む液体から前記分離対象物質を分離する方法であって、
分離対象物質と有機溶媒とを含む液体と、PAS樹脂粒子とを接触させて、前記液体に含まれる前記分離対象物質を選択的に前記PAS樹脂粒子に吸着させて、前記液体から除去する工程を有し、
前記PAS樹脂粒子及び液体が水を含まないものであること、
前記分離対象物質が金属原子(ただし、該金属原子はPAS樹脂の重合反応の未反応原料及び副生成物であるものを除く)を含む化合物であること、を特徴とする分離方法に関する。
【0010】
また、本開示の液体の製造方法は、PAS樹脂粒子を用いて、分離対象物質と有機溶媒とを含む液体から前記分離対象物質と有機溶媒とを分離する工程を含む、前記分離対象物質の低減された液体の製造方法であって、
分離対象物質を含む液体と、PAS樹脂粒子とを接触させて、前記液体に含まれる前記分離対象物質を選択的に前記PAS樹脂粒子に吸着させて、前記液体から除去する工程を有し、
前記PAS樹脂粒子及び液体が水を含まないものであること、を特徴とする液体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、分離対象物質と有機溶媒とを含む液体から、分離対象物質を分離する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の一実施形態について詳細に説明するが、本開示の範囲はここで説明する一実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更ができる。また、特定のパラメータについて、複数の上限値及び下限値が記載されている場合、これらの上限値及び下限値の内、任意の上限値と下限値とを組合せて好適な数値範囲とすることができる。
【0013】
本実施形態に係る分離方法は、
PAS樹脂粒子を用いて分離対象物質を含む有機溶媒から前記分離対象物質と有機溶媒とを分離する方法であって、分離対象物質を含む液体と、PAS樹脂粒子とを接触させて、前記有機溶媒に含まれる前記分離対象物質を選択的に前記PAS樹脂粒子に吸着させて、前記有機溶媒から除去する工程を有し、前記PAS樹脂粒子及び有機溶媒が水を含まないものであること、を特徴とする。以下、詳述する。
【0014】
<PAS樹脂粒子>
本開示ではPAS樹脂粒子を吸着剤として使用する。なお、PAS樹脂粒子は、PAS樹脂から実質的になる粒子、ないし、粒子状のPAS樹脂を意味するものとする。本開示で用いるPAS樹脂は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有するものであり、具体的には、下記式(1)
【0015】
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1~4の範囲のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表す。)で表される構造部位と、必要に応じてさらに下記一般式(2)
【0016】
【化2】
で表される3官能性の構造部位と、を繰り返し単位とする樹脂である。式(2)で表される3官能性の構造部位は、他の構造部位との合計モル数に対して0.001~3モル%の範囲が好ましく、特に0.01~1モル%の範囲であることが好ましい。
【0017】
ここで、前記一般式(1)で表される構造部位は、特に該式中のR1及びR2は、前記PAS樹脂の機械的強度の点から水素原子であることが好ましく、その場合、下記式(3)で表されるパラ位で結合するもの、及び下記式(4)で表されるメタ位で結合するものが挙げられる。
【0018】
【化3】
これらの中でも、特に繰り返し単位中の芳香族環に対する硫黄原子の結合は前記一般式(3)で表されるパラ位で結合した構造であることが前記PAS樹脂の耐熱性や結晶性の面で好ましい。
【0019】
また、前記PAS樹脂は、前記一般式(1)や(2)で表される構造部位のみならず、下記の構造式(5)~(8)
【0020】
【化4】
で表される構造部位を、前記一般式(1)と一般式(2)で表される構造部位との合計の30モル%以下で含んでいてもよい。特に本開示では上記一般式(5)~(8)で表される構造部位は10モル%以下であることが、PAS樹脂の耐熱性、機械的強度の点から好ましい。前記PAS樹脂中に、上記一般式(5)~(8)で表される構造部位を含む場合、それらの結合様式としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体の何れであってもよい。
【0021】
また、前記PAS樹脂は、その分子構造中に、ナフチルスルフィド結合などを有していてもよいが、他の構造部位との合計モル数に対して、3モル%以下が好ましく、特に1モル%以下であることが好ましい。
【0022】
前記PAS樹脂の重合方法としては、公知の方法であれば特に限定されないが、例えば(重合方法1)硫黄と炭酸ソーダの存在下でジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、(重合方法2)極性溶媒中でスルフィド化剤等の存在下にジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、(重合方法3)p-クロルチオフェノールを、必要ならばその他の共重合成分を加えて、自己縮合させる方法、(製造法4)ジヨード芳香族化合物と単体硫黄を、カルボキシ基やアミノ基等の官能基を有していてもよい重合禁止剤の存在下、減圧させながら溶融重合させる方法、等の重合方法が挙げられる。これらの重合方法のなかで、(重合方法2)の方法が汎用的であり好ましい。反応の際に、重合度を調節するためにカルボン酸やスルホン酸のアルカリ金属塩を添加したり、水酸化アルカリを添加しても良い。上記(重合方法2)方法のなかでも、加熱した有機極性溶媒とジハロゲノ芳香族化合物とを含む混合物に含水スルフィド化剤を水が反応混合物から除去され得る速度で導入し、有機極性溶媒中でジハロゲノ芳香族化合物とスルフィド化剤とを、必要に応じてポリハロゲノ芳香族化合物と加え、反応させること、及び反応系内の水分量を該有機極性溶媒1モルに対して0.02~0.5モルの範囲にコントロールすることによりPAS樹脂を製造する方法(特開平07-228699号公報参照。)や、固形のアルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下でジハロゲノ芳香族化合物と必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加え、アルカリ金属水硫化物及び有機酸アルカリ金属塩を、硫黄源1モルに対して0.01~0.9モルの有機酸アルカリ金属塩及び反応系内の水分量を非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モルの範囲にコントロールしながら反応させる方法(WO2010/058713号パンフレット参照。)で得られるものが特に好ましい。
【0023】
ジハロゲノ芳香族化合物の具体的な例としては、p-ジハロベンゼン、m-ジハロベンゼン、o-ジハロベンゼン、2,5-ジハロトルエン、1,4-ジハロナフタレン、1-メトキシ-2,5-ジハロベンゼン、4,4’-ジハロビフェニル、3,5-ジハロ安息香酸、2,4-ジハロ安息香酸、2,5-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロアニソール、p,p’-ジハロジフェニルエーテル、4,4’-ジハロベンゾフェノン、4,4’-ジハロジフェニルスルホン、4,4’-ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’-ジハロジフェニルスルフィド、及び、上記各化合物の芳香環に炭素原子数1~18のアルキル基を核置換基として有する化合物が挙げられ、ポリハロゲノ芳香族化合物としては1,2,3-トリハロベンゼン、1,2,4-トリハロベンゼン、1,3,5-トリハロベンゼン、1,2,3,5-テトラハロベンゼン、1,2,4,5-テトラハロベンゼン、1,4,6-トリハロナフタレンなどが挙げられる。また、上記各化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0024】
また、重合工程により得られたPAS樹脂を含む粗反応混合物は、後処理を行ってもよい。その場合、後処理方法についても、特に制限されるものではない。例えば、(後処理1)重合反応終了後、先ず反応混合物をそのまま、あるいは酸又は塩基を加えた後、減圧下若しくは常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を、水、反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類等の溶媒で、1回若しくは2回以上洗浄し、さらに中和、水洗、濾過及び乾燥する方法;(後処理2)重合反応終了後、反応混合物に、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エチル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素等の溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、かつ少なくともPASに対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、PASや無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、洗浄、乾燥する方法;(後処理3)重合反応終了後、反応混合物に、反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて撹拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類等の溶媒で、1回若しくは2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過及び乾燥をする方法;(後処理4)重合反応終了後、反応混合物に水を加えて水洗浄、濾過、必要に応じて水洗浄の時に酸を加えて酸処理し、乾燥をする方法;又は;(後処理5)重合反応終了後、反応混合物を濾過し、必要に応じ、反応溶媒で1回若しくは2回以上洗浄し、更に水洗浄、濾過及び乾燥する方法、(後処理6)重合反応終了後、反応混合物を脱溶媒させることにより、粗PASを含むスラリー状物を得、さらに粗PASを含むスラリー状物を、水及び炭素原子数1~3の酸素原子含有溶媒と接触させて前記粗PASを多孔質粒子とし、得られた多孔質粒子を炭酸水で洗浄及びろ過する方法、等が挙げられる。
【0025】
上記(後処理6)に例示したような後処理方法において適用できる炭素原子数1~3の酸素原子含有溶媒としては、例えば、アルコール類及びケトン類からなる群から選ばれる少なくとも一つが挙げられる。なお、アルコール類(アルコール系溶媒ないしアルコール溶媒ともいう)としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、2-メトキシエチルアルコール等が例示される。また、ケトン類(ケトン系溶媒ないしケトン溶媒ともいう)としては、アセトン等が例示される。本開示において、炭素原子数3以下の一価アルコールを用いることが、残留する前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を効率的に除去可能なことから好ましい。
【0026】
なお、上記(後処理1)~(後処理6)に例示したような後処理方法において、PAS樹脂の乾燥は真空中で行なってもよいし、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。
【0027】
(溶融粘度)
本実施形態に用いるPAS樹脂粒子を構成するPAS樹脂の溶融粘度は特に限定されるものではないが、300℃で測定した溶融粘度(V6)が、好ましくは1〔Pa・s〕以上、より好ましくは3〔Pa・s〕以上、さらに好ましくは5〔Pa・s〕以上から、好ましくは800〔Pa・s〕以下、より好ましくは500〔Pa・s〕以下、さらに好ましくは200〔Pa・s〕以下までの範囲である。ただし、溶融粘度(V6)の測定は、PAS樹脂を島津製作所製フローテスター、CFT-500Dを用いて行い、300℃、荷重:1.96×106Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持した後に測定した溶融粘度の測定値とする。
【0028】
(非ニュートン指数)
本実施形態に用いるPAS樹脂粒子を構成するPAS樹脂の非ニュートン指数は特に限定されるものではないが、好ましくは0.90以上、より好ましくは0.95以上から、好ましくは1.25以下、より好ましくは1.20以下までの範囲である。ただし、本開示において非ニュートン指数(N値)は、キャピラリーレオメーターを用いて融点+20℃、オリフィス長(L)とオリフィス径(D)の比、L/D=40の条件下で、剪断速度(SR)及び剪断応力(SS)を測定し、下記式を用いて算出した値である。非ニュートン指数(N値)が1に近いほど線状に近い構造であり、非ニュートン指数(N値)が高いほど分岐が進んだ構造であることを示す。
【0029】
【数1】
[ただし、SRは剪断速度(秒
-1)、SSは剪断応力(ダイン/cm
2)、そしてKは定数を示す。]
【0030】
(ゼータ電位)
本実施形態に用いるPAS樹脂粒子を構成するPAS樹脂は、流動電位法によりpH7.8~8.2の条件下で測定したゼータ電位が-50mV以上であることが好ましく、-30mV以上であることがより好ましい。PAS樹脂のゼータ電位は、PAS樹脂粒子を100mg程度シリンダーセルに詰めて、SurPASS3(Anton Paar社)を用いて電解液:1mmol/LのKCl水溶液中、測定温度22~26℃で樹脂粒子表面のゼータ電位を3回測定したときの平均値を言うものとする。なお、測定値を安定させるために、PAS樹脂を篩い分けて0.05~1.0mmの粒子径のPAS樹脂を選別して用いることが好ましい。
【0031】
(比表面積)
本実施形態に用いるPAS樹脂粒子を構成するPAS樹脂の比表面積は、好ましくは1m2/g以上、より好ましくは10m2/g以上、さらに好ましくは50m2/g以上から、好ましくは300m2/g以下、より好ましくは250m2/g以下、さらに好ましくは200m2/g以下、特に好ましくは150m2/g以下までの範囲の多孔質粒子である。なお、PAS樹脂の比表面積は、実施例に記載の方法で測定することができる。なお、前記PAS樹脂の比表面積は、PAS樹脂粒子を60℃真空下で4時間かけて前処理を実施した後、株式会社島津製作所製「トライスターII3020」を用いて測定したBET比表面積である。
【0032】
(粒子径)
本実施形態に用いるPAS樹脂粒子を構成するPAS樹脂は粒子であることが好ましい。PAS樹脂の粒子径は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されないが、吸着特性に優れる観点から、その上限値が2mm程度であることが好ましく、500μm程度であることがより好ましく、300μm程度であることがさらに好ましい。一方、ハンドリング性やカラム等に充填した際の送液性に優れる観点から、その下限値は10μmであることが好ましく、20μm程度であることがより好ましく、30μm程度であることがさらに好ましい。なお、前記PAS樹脂の平均粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定機(Microtrac MT3300EXII)を用いて常法に従って測定した粒度分布に基づき求められる平均粒子径(D50)である。
【0033】
なお、前記PAS樹脂粒子は表面が有機溶媒に濡れているものであることが好ましいことから、本実施形態のPAS樹脂粒子は有機溶媒を含むものであることが好ましい。特に、分離対象物質を含む液体に含まれている有機溶媒であることが、分離する際の親和性の観点から好ましい。PAS樹脂粒子中の有機溶媒の割合は特に限定されないが、輸送コスト低減の観点から、PAS樹脂粒子100質量部に対して500質量部以下が好ましく、250質量部以下がより好ましく、150質量部以下がさらに好ましい。下限値は特に限定されるものではなく、0質量部(乾燥品)あっても良いが、使用開始時の吸着速度に優れる観点から、1質量部以上が好ましく、さらに、10質量部以上がより好ましい。
【0034】
本実施形態に使用するPAS樹脂粒子は、該PAS樹脂粒子に対する外添剤(PAS樹脂粒子の外部に存在する成分、主に、PAS樹脂粒子と液の界面に存在する成分)成分として、前記PAS樹脂粒子以外の他の成分(ただし、PAS樹脂の重合反応由来の不可避成分及び水を除く)、例えば、界面活性剤(分散剤)、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤、防錆剤、離型剤及びカップリング剤等の公知慣用の添加剤が不存在のものであることが好ましい。なお、該PAS樹脂粒子を構成する成分として、前記PAS樹脂粒子以外の他の成分が不存在とは、すなわち、該粒子中のPAS樹脂の含有率が、前記不可避成分及び水分を除き、好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上、さらに好ましくは99.9質量%以上の範囲であることをいう。当該含有率の上限値は特に限定されないが、100質量%以下の範囲であることをいう。
【0035】
さらに、前記PAS樹脂粒子は、該粒子を構成する内添剤(溶融混錬によってPAS樹脂粒子の内部に存在する成分)成分として、該PAS樹脂以外の他の成分(ただし、PAS樹脂の重合反応由来の不可避成分を除く)、例えば、界面活性剤(分散剤)、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤、防錆剤、離型剤及びカップリング剤等の公知慣用の添加剤が不存在であるものが好ましい。前記該粒子を構成する成分として、該PAS樹脂以外の他の成分が不存在であるとは、すなわち、PAS樹脂粒子中に含まれるPAS樹脂の含有率が、前記不可避成分を除き、好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上、さらに好ましくは99.9質量%以上の範囲であることをいう。当該含有率の上限値は特に限定されないが、100質量%以下の範囲である
ことをいう。
【0036】
なお、PAS樹脂の重合反応由来の不可避成分とは、当該重合反応に使用する未反応原料及び副生成物、特にそのうちの金属原子含有成分である、スルフィド化剤(アルカリ金属硫化物ないしアルカリ金属水硫化物)及びアルカリ金属ハロゲン化物、下記一般式(1)
【0037】
【化5】
(式中、nは0~2であり、Y
1はハロゲン原子を、Y
2は水素原子又はハロゲン原子を、R
1は水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基又はシクロヘキシル基を表し、R
2は炭素原子数3~5のアルキレン基を、Xはアルカリ金属原子を表す。)に代表されるカルボキシアルキルアミノ基含有化合物等が挙げられる。
【0038】
前記PAS樹脂の粒子が、上述の外添剤や内添剤を含む場合、吸着能に寄与する粒子表面の硫黄成分の割合が低下することや、溶液に対する粒子の親和性が低下することによって、吸着特性が低下することがある。
【0039】
本開示のPAS樹脂は耐薬品性に優れるため、有機溶媒に接触させたときの耐膨潤収縮性に優れる。また、有機溶媒による分解等の材料劣化が生じづらい。このことから、吸着剤として用いた際に、分離対象物質を含む液体に、分解物等が溶出することがなく二次汚染しづらい。また、連続使用時に性能が劣化せず、さらに再生処理の際も処理環境が限定されない。
【0040】
<液体>
本実施形態でPAS樹脂粒子と接触させる液体は、分離対象物質と有機溶媒とを必須成分として配合する。また、前記液体は水を実質的に含まないものである。さらに、前記液体は界面活性剤を実質的に含まないものである。
【0041】
<分離対象物質>
【0042】
本実施形態に適応できる分離対象物質としては、金属原子又は金属原子を含む化合物が挙げられる(ただし、金属原子としてPAS樹脂の重合反応の未反応原料及び副生成物であるものを除く)。該金属原子としては、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、遷移金属原子、ランタノイド原子及びアクチノイド原子からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、これらは金属原子単独で存在していてもよいし、他の原子と結合して化合物や合金として存在していてもよい。これらの中でも遷移金属が好ましく、HSAB則における柔らかい酸に分類される金属原子がさらに好ましい。これは、吸着剤であるPAS樹脂が、HSAB則において柔らかい塩基に分類される硫黄原子を主成分としている為であると考えられる。
【0043】
前記分離対象物質の金属原子又は金属原子を含む化合物(金属塩)としては、特に限定されないが、例えば、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウム等のアルカリ金属原子;カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム等のアルカリ土類金属原子;スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、ランタノイド、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀などの遷移金属原子;アルミニウム、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、インジウム、スズ、アンチモン、水銀、タリウム、鉛、ビスマス、ポロニウム等の卑金属原子並びにそれらを含む塩が挙げられる。ランタノイドとしては、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムなどが挙げられる。また、アクチノイドとしてはアクチニウム、トリウム、プロトアクチニウム、ウラン、ネプツニウム、プルトニウム、アメリシウム、キュリウム、バークリウム、カリホルニウム、アインスタニウム、フェルミウム、メンデレビウム、ノーベリウム、ローレンシウム等が挙げられる。なかでも、HSAB則において、柔らかい酸に分類される金属原子又は該金属原子を含む化合物が、PAS樹脂に吸着されやすいため好ましい。例えば、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、オスミニウム、イリジウム、白金、金、水銀、タリウム、及び鉛、並びにそれらの金属塩が好ましく、金、白金、及びパラジウム、並びにそれらの金属塩が特に好ましい。
【0044】
前記分離対象物質の金属原子は、酸や塩基、有機物等の配位子が配位した金属錯体でもよい。立体構造については、本発明の効果を損ねない限り特に限定されず、例えば、正四面体型、正方平面型、三角両錐型、四角錐型、正八面体型等が挙げられ、特に正方平面型が好ましい。また、配位数についても特に限定されないが、安定性の観点から4~7配位が好ましい。金属錯体の分子量は、特に限定されないが、2000以下が吸着性の観点から好ましい。なお、金属錯体を分離対象物質とする場合は、配位子交換速度の速い錯体が好ましく、パラジウム(II)を含む金属錯体がより好ましい。
【0045】
<有機溶媒>
本実施形態に適応できる有機溶媒としては、特に限定されず、例えばトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、1,2-ジクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6-ジクロロトルエン等のハロゲン系溶媒、メタノールやエタノール等のアルコール系、アセトン等のケトン系、アセトニトリル等のニトリル系、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、ホルムアミド、アセトアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸などのアミド、尿素及びラクタム類、ジメチルスルホキシド、トリメチルリン酸、N,N-ジメチルイミダゾリジノン、メチルエチルケトンなどの極性溶媒を例示できる。このうち、誘電率ε(20℃)が2以上から35以下の範囲の溶媒が好ましい。
【0046】
本実施形態でPAS樹脂粒子と接触させる液体が含む、分離対象物質の量は特に限定されないが、液体中における分離対象物質の金属濃度が1000ppm以下が好ましく、200ppm以下がより好ましく、20ppm以下がさらに好ましい。かかる範囲において、効率的に分離対象物質をPAS樹脂粒子に吸着させることができる。
【0047】
<工程>
本開示のPAS樹脂粒子を用いた分離方法は、分離対象物質と有機溶媒とを含む液体と、PAS樹脂粒子とを接触させて、前記有機溶媒に含まれる前記分離対象物質を選択的に前記PAS樹脂粒子に吸着させて、前記液体から除去する工程を有する。当該工程において、前記液体と、前記PAS樹脂粒子との接触は、例えば、前記PAS樹脂粒子を、前記液体に添加することにより、前記液体に含まれる前記分離対象物質を選択的に前記PAS樹脂粒子に吸着させて、前記液体から除去することができる。その際、PAS樹脂粒子の粒子同士の凝集を抑制するため、攪拌、振動、超音波照射等、機械的せん断力を作用させることができる。
【0048】
前記PAS樹脂粒子の使用割合は、分離対象物質を含む液体に対して特に限定されるものではないが、事前に分離対象物質の濃度を測定等した上で、分離対象物質が金属の場合、分離対象物質に対して、PAS樹脂粒子は、重量比で好ましくは1倍以上、より好ましくは5倍以上、さらに好ましくは10倍以上から、好ましくは1000倍以下、より好ましくは500倍以下、さらに好ましくは100倍以下までの範囲となる様に使用することが出来る。
【0049】
さらに、本開示のPAS樹脂粒子を用いた分離方法では、PAS樹脂粒子と液体との固液分離工程を有していてもよい。固液分離は沈降分離、浮上分離、砂ろ過、遠心分離、精密膜ろ過、限外膜ろ過を例示できる。これにより、固液分離後、分離対象物質を吸着したPAS樹脂粒子を取り出して、吸着した分離対象物質を取り除く再生処理を容易に行うことができ、これによりPAS樹脂粒子を再利用することも容易にできる。
【0050】
また、本実施形態のPAS樹脂粒子と分離対象物質を含む液体との接触は、例えば、前記PAS樹脂粒子をカラムに充填したり、繊維や膜に担持したりすることで固定化させておき、そこへ対象物質を含む液体を供給することにより、前記液体に含まれる前記分離対象物質を選択的に前記PAS樹脂粒子に吸着させて、前記液体から除去することもできる。その際、バッチ式で分離処理する場合には、前記PAS樹脂粒子を固定化した容器に分離対象物質を含む液体を供給する方法等が挙げられ、連続式で分離処理する場合には、流路内に前記PAS樹脂粒子を固定化しておき、当該流路内に分離対象物質を含む液体を供給する方法等が挙げられる。固定化は、液体は通過できるが、PAS樹脂粒子は通過できない大きさ(サイズ)の孔を有する壁でPAS樹脂粒子を仕切ることで液体と分離できれば公知の方法を用いることができる。PAS樹脂粒子を固定化させることで、PAS樹脂粒子と液体との固液分離が容易にできるが、固液分離後の液体中に粒子径の小さなPAS樹脂粒子が混入する可能性もあるため、これを避ける必要がある場合には、別途、固液分離は沈降分離、浮上分離、砂ろ過、遠心分離、精密膜ろ過又は限外膜ろ過といった固液分離工程を行うこともできる。
【0051】
また、上述のような連続式で分離処理する場合には、分離対象物質を含む液体の流路における空間速度(SV)が1000以下であることが好ましく、また100以下であることが好ましい。かかる範囲において、分離処理の効率に優れる。
【0052】
なお、本実施形態のPAS樹脂粒子と、分離対象物質を含む液体との接触は、界面活性剤の非存在下、すなわち存在しない環境で行うものである。
【0053】
本願の分離方法が分離対象物質の分離に優れ、かつ、有機溶媒耐性を有するため連続的な使用や吸着剤のリサイクル性に優れる理由は必ずしも明らかではないが、以下のメカニズムによるものと推測される。すなわち、従来技術であるイオン交換樹脂やキレート樹脂は、側鎖の極性官能基が分離対象物質とイオン交換又は配位する事で目的物を分離するのに対して、本願で吸着剤として用いるPAS樹脂は、側鎖に極性官能基を有しておらず、主鎖の硫黄原子が分離対象物質と配位する事で目的物を分離していると考えられていること、また、PAS鎖は結晶化して耐薬品性を有しつつ、表面に露出した硫黄原子との配位によって目的物を分離していること、が上述の効果を呈すると推測する。なお、上記メカニズムはあくまで推測のものであり、他の理由により本発明の効果が奏される場合であっても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0054】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。なお、以下、特に断りが無い場合「%」や「部」は質量基準とする。
【0055】
<合成例1>
(PAS樹脂の重合工程)
圧力計、温度計、コンデンサー、デカンター、精留塔を付けた撹拌翼付き150Lオートクレーブにp-ジクロロベンゼン(以下、DCBと略す)33.222kg(226mol)、NMP2.280kg(23mol)、47.23質量%水硫化ソーダ27.300kg(230mol)、及び49.21質量%苛性ソーダ18.533kg(228mol)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水27.3kgを留出させた後、釜を密閉した。脱水時に共沸により留出したDCBはデカンターで分離して随時釜内に戻し、脱水終了後の釜内は無水硫化ナトリウム組成物がDCB中に分散した状態であった。更に、内温を160℃に冷却し、NMP47.492kg(479mol)を仕込み、185℃まで昇温した。圧力が0.00MPaに到達した時点で、精留塔を連結したバルブを開放し、内温200℃まで1時間掛けて昇温した。この際、精留塔出口温度が110℃以下になる様に冷却とバルブ開度で制御した。留出したDCBと水の混合蒸気はコンデンサーで凝縮し、デカンターで分離して、DCBは釜へ戻した。留出水量は179gであった。次に、内温200℃から230℃まで3時間かけて昇温し、1時間撹拌した後、250℃まで昇温し1時間撹拌して反応終わり了後、オートクレーブの内温を250℃から235℃に冷却し、到達後にオートクレープの底弁を開いて減圧状態のまま撹拌翼付き150リットル真空撹拌乾燥機(脱溶媒機ジャケット温度120度)にフラッシュさせてN-メチル-2-ピロリドンを抜き取り、室温まで冷却し、サンプリングした結果、N.V.55%のPPS混合物を得た。
【0056】
(PAS樹脂の精製工程)
合成例1で得たPPS混合物400gとメタノール317gをフラスコに入れ、40℃で30分間撹拌混合し、そのスラリーを桐山ロートで減圧濾過し、上から押し固め、さらに上からメタノール634gを数回に分けて注ぎろ過した。更に、そのろ過して作製したケーキをビーカーに移して薬さじで粉末状に砕き、そこに70℃の水を634g注ぎ、30分間攪拌混合した。そのスラリーを桐山ロートで減圧ろ過し、上から押し固め、更に上から70℃の水845gを数回に分けて注ぎろ過した。上記ケーキをビーカーに移して、そこに636gの炭酸水を注ぎ、1時間攪拌混合した。そのスラリーを桐山ロートで減圧ろ過し、上から押し固め、更に上から炭酸水848gを数回に分けて注ぎろ過し、ウェットケーキを得た。ウェットケーキの含水率は45wt%であった。
【0057】
(PAS樹脂/エタノールケーキの作成)
PAS樹脂精製工程で得たPPS樹脂ウェットケーキ10gとエタノール30mLをフラスコに入れ、室温で10分間攪拌し、そのスラリーを桐山ロートで減圧濾過し、上から押し固め、20mLのエタノールを注ぎ、ケーキろ過した。この操作を3回繰返し、水ケーキをエタノールケーキへ完全に置換した。得られたPPS樹脂のエタノールケーキの含液率は56.0wt%であった。吸着材(1)とする。
【0058】
<合成例2>
(PAS樹脂/アセトンケーキの作成)
エタノールをアセトンに変更した点以外は、合成例1に準じて実施した。得られたPPS樹脂のアセトンケーキの含液率は43.2wt%であった。吸着材(2)とする。
【0059】
<合成例3>
(PAS樹脂/DMFケーキの作成)
エタノールをDMFに変更した点以外は、合成例1に準じて実施した。得られたPPS樹脂のDMFケーキの含液率は52.0wt%であった。吸着材(3)とする。
【0060】
<合成例4>
(PAS樹脂/クロロホルムケーキの作成)
エタノールをクロロホルムに変更した点以外は、合成例1に準じて実施した。得られたPPS樹脂のクロロホルムケーキの含液率は75.1wt%であった。吸着材(4)とする。
【0061】
<製造例1>
(分離対象物質と有機溶媒を含む液体の調整)
金属濃度が2mmol/Lとなる様に分離対象物質と有機溶媒を混合し、室温で1時間攪拌させた。得られた液をろ過してから、ろ液の金属濃度を原子吸光分光光度計(株式会社島津製作所製「AA-7000」)で定量し、結果を表1に示した。
【0062】
<実施例1~6、比較例1~6>
【0063】
(1)吸着率の評価
表1、2に記載の成分で上記製造例1により作成した溶液5mLと、各吸着材を含まれる樹脂が0.025gとなる様に試験管に仕込んだ。これを、振とう機(ヤマト科学株式会社製「SA300」)を用いて液温30℃、200rpmで水平方向に3時間振とう攪拌した。その後、濾別して、液相成分と吸着剤をそれぞれ得た。該液相成分中の分離対象物質の濃度を原子吸光分光光度計で定量し、吸着前後の濃度差を吸着率(%)として算出した。結果を表1及び2に示す。
なお、表1において吸着率は、50%以上を「〇」、10%以上50%未満を「△」、10%未満を「×」と表す。
【0064】
(2)耐有機溶媒性(溶出率)の評価
表1、2に記載の各吸着材について、溶媒を含んでいる場合は60℃で8時間かけて真空乾燥して有機溶媒を除去し、それぞれ樹脂のみを得た。200mLナスフラスコに得られた樹脂を1.5g分取し、さらに除去した有機溶媒と同種の有機溶媒50mLと、沸石とを添加した。該ナスフラスコにヒーターと冷却管を取り付けて、各溶媒の沸点で3時間還流させた後、室温まで冷却し、ろ過した。残差から沸石を取り除いたものを60℃で8時間かけて真空乾燥させ、樹脂のみを回収し、重量を測定し、下記式より溶出率(%)を算出した。
溶出率(%)={(1.5g-還流後の重量)/1.5g}×100
【0065】
【0066】
【0067】
表1及び表2より、PAS樹脂は水を含まない有機溶媒に溶解した金属原子を含む化合物の吸着率に優れることが示された。また、溶出率が小さいことから、吸着剤が耐有機溶媒性に優れ、劣化や膨潤収縮を抑制できることが示された。以上より、実施例の分離方法は、非水環境下で高い吸着能と有機溶媒性を両立する分離方法であることが認められた。
【要約】
分離対象物質と有機溶媒とを含む液体から、分離対象物質である金属原子を効率よく分離する方法を提供すること。さらに詳しくは、ポリアリーレンスルフィド樹脂(PAS)粒子を用いて分離対象物質と有機溶媒とを含む液体から前記分離対象物質を分離する方法であって、分離対象物質と有機溶媒とを含む液体と、PAS粒子とを接触させて、前記液体に含まれる前記分離対象物質を選択的に前記PAS粒子に吸着させて、前記液体から除去する工程を有し、前記PAS粒子及び液体が水を含まないものであること、前記分離対象物質が金属原子(ただし、該金属原子はPASの重合反応の未反応原料及び副生成物であるものを除く)を含む化合物であることを特徴とする分離方法。
【選択図】なし