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特許7560028被処理水の浄化方法、不透水層の発生を抑制する方法
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  • 特許-被処理水の浄化方法、不透水層の発生を抑制する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】被処理水の浄化方法、不透水層の発生を抑制する方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/34 20230101AFI20240925BHJP
   C02F 3/28 20230101ALI20240925BHJP
   C02F 3/00 20230101ALI20240925BHJP
   C02F 1/62 20230101ALI20240925BHJP
【FI】
C02F3/34 Z
C02F3/28 A
C02F3/00 G
C02F1/62 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020137999
(22)【出願日】2020-08-18
(65)【公開番号】P2021037509
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2019159489
(32)【優先日】2019-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504117958
【氏名又は名称】独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】濱井 昂弥
(72)【発明者】
【氏名】岸井 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 竜也
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-221872(JP,A)
【文献】特開2017-221873(JP,A)
【文献】特開2017-221874(JP,A)
【文献】特許第5761884(JP,B1)
【文献】特許第5773541(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00- 3/34
C02F 1/58- 1/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸還元菌を付着させた担体を含む層に対して、予め、金属イオン及び硫酸イオンを含有する被処理水によって水封して水封層を形成し、該硫酸還元菌を嫌気状態で培養し、その後、前記担体を含む層に前記被処理水を嫌気状態で連続的に通水することにより、該被処理水中の金属イオンを硫化物として析出させて該金属イオンを除去する、処理を有する被処理水から金属イオンを除去する浄化方法であって、
断面積と同程度の開口部を少なくとも2か所備え、側面に複数の孔を所定の間隔で有する有孔管の内部に、米糠を含む充填物を充填して得られる充填体を、前記水封層を形成する前記被処理水中に投入して、前記処理を行
前記有孔管に充填する前記充填物は、前記米糠と、該有孔管からの該米糠の放出を制御する制御材と、を含む混合物を圧密して得られる成形体である、
被処理水の浄化方法。
【請求項2】
前記制御材は、中性の砂利であり、
前記充填物を構成する混合物中において、前記米糠40質量部に対して前記砂利を40質量部~120質量部の割合で含有する、
請求項に記載の被処理水の浄化方法。
【請求項3】
前記米糠は、生糠を含む、
請求項1又は2に記載の被処理水の浄化方法。
【請求項4】
前記有孔管の内部の空間において該有孔管の内壁との間に隙間が形成されるように前記充填物を充填して充填体とする、
請求項1乃至のいずれかに記載の被処理水の浄化方法。
【請求項5】
前記充填体を、抗菌性を有する金属を含む網状材料の上に載置した状態で、前記水封層を形成する前記被処理水中に投入する、
請求項1乃至のいずれかに記載の被処理水の浄化方法。
【請求項6】
前記網状材料は、前記抗菌性を有する金属を含むかご状容器であり、
前記充填体を、前記かご状容器に収納した状態で、前記水封層を形成する前記被処理水中に投入する、
請求項に記載の被処理水の浄化方法。
【請求項7】
前記抗菌性を有する金属は、ステンレスである、
請求項又はに記載の被処理水の浄化方法。
【請求項8】
金属イオン及び硫酸イオンを含有する被処理水から該金属イオンを除去するための硫酸還元菌を付着させた担体を含む層と、該担体と含む層に対して該被処理水により水封することで形成される水封層と、の間に生じる不透水層の発生を抑制する方法であって、
断面積と同程度の開口部を少なくとも2か所備え、側面に複数の孔を所定の間隔で有する有孔管の内部に、米糠を含む充填物を充填して得られる充填体を、前記水封層を形成する前記被処理水中に投入
前記有孔管に充填する前記充填物は、前記米糠と、該有孔管からの該米糠の放出を制御する制御材と、を含む混合物を圧密して得られる成形体である、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、坑廃水等の被処理水の浄化方法に関する。より詳しくは、金属イオン及び硫酸イオンを含有する坑廃水等の被処理水からその金属イオンを除去して浄化する方法において、処理過程で発生し、処理の障害となる不透水層の発生を抑制して、効果的に金属イオンを除去して浄化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉱山由来の廃水(坑廃水)の処理において、特に市街地から遠く離れた休廃止鉱山では、冬季の水温低下だけでなく、電力や処理資材の安定供給が難しく、作業員の訪問も容易ではないといった点等から、一般的に、技術的な困難性を有する。
【0003】
例えば特許文献1には、硫酸還元菌を利用し、水温が15℃以下の低温環境下においても、金属イオン及び硫酸イオンを含有する坑廃水(被処理水)中の金属イオンを長期間にわたって除去できる生物学的浄化剤、生物学的浄化方法、及び生物学的浄化システムについての技術(パッシブトリートメント)が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、処理後水の有機物汚染を十分に抑制するために、硫酸還元菌を付着させた担体(穀物殻)を、坑廃水によって水封及び静置して、硫酸還元菌を嫌気状態で培養する技術が提案されている(本願明細書に添付の図5を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5761884号公報
【文献】特許第5773541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したとおり、特許文献1及び2に記載の技術は、水温が15℃以下の低温環境下においても、金属イオン及び硫酸イオンを含有する坑廃水中の金属イオンを長期間にわたって除去するだけでなく、処理後水中の有機物汚染を十分に抑制できる優れた技術である。
【0007】
ここで、図5を参照しながら、特許文献1及び2に記載の技術の一例についてより詳しくは説明する。
【0008】
図5は、嫌気反応槽を用いて被処理水(坑廃水)を浄化処理する方法を説明するための模式図である。被処理水(坑廃水)の処理槽である嫌気反応槽2において、槽2の下部には硫酸還元菌を付着させた担体層21が形成され、槽2の上部には坑廃水による水封層22が形成されており、下部の担体層21は嫌気状態に維持されている。坑廃水は、上方から槽2内に装入されると、担体層21に浸透し、担体層21内の硫酸還元菌によって坑廃水中の重金属イオンが硫化物となって処理後水となり、槽底部からオーバーフロー方式で抜き出される。
【0009】
この嫌気反応槽2を用いた処理では、担体層21に付着した硫酸還元菌を培養するために、栄養源となる米糠が担体層の直上に配置されており(米糠配置層23)、坑廃水の担体層21への浸透と共に米糠の分解物が担体層21に浸透し、硫酸還元菌に供給される。
【0010】
また、嫌気反応槽2において、坑廃水は槽2の処理能力に見合った流量で装入され、具体的には水封層22の水面が波立たない程度の僅かな流量とされることが一般的である。
【0011】
特許文献1及び2に記載の技術では、上述したような構成の嫌気反応槽2により処理を行っているため、金属イオン及び硫酸イオンを含有する坑廃水中の金属イオンを長期間にわたって除去できるだけでなく、処理後水の有機物汚染を十分に抑制できる。
【0012】
しかしながら、上述した嫌気反応槽2においては、水封層22と担体層21との間(担体層21の上面(図5中Xで示す))に不透水層が形成されることがある。不透水層が形成されると、坑廃水が担体層21内に浸透する際の障害となり、放置すれば金属イオンが除去されることなく坑廃水が槽2の上部から溢れ、坑廃水の処理が中断してしまう。また、担体層21に付着した硫酸還元菌への栄養源供給が不十分となり、硫酸還元菌を必要量確保できなくなる。
【0013】
そのため、不透水層が形成された場合には、これを除去する必要があるが、特に市街地から遠く離れた休廃止鉱山においては、作業員の確保や処理資材の供給の点等から、十分な処置を行うことが困難であり、大きな問題となっている。
【0014】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたもので、硫酸還元菌を用いた坑廃水等の被処理水の浄化方法において、不透水層が発生することを抑制して、被処理水に含まれる金属イオンを効果的に除去する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、金属イオン及び硫酸イオンを含有する被処理水から金属イオンを除去するための硫酸還元菌を付着させた担体層と、その担体層に対して被処理水により水封することで形成される水封層との間に生じる不透水層の発生原因について調査した結果から、所定の有孔管の内部に米糠を含む充填物を充填して得られる充填体を、その水封層を形成する被処理水中に投入して処理することで、不透水層の発生を抑制して、被処理水に含まれる金属イオンを効果的に除去できることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
(1)本発明の第1の発明は、硫酸還元菌を付着させた担体を含む層に対して、予め、金属イオン及び硫酸イオンを含有する被処理水によって水封して水封層を形成し、該硫酸還元菌を嫌気状態で培養し、その後、前記担体を含む層に前記被処理水を嫌気状態で連続的に通水することにより、該被処理水中の金属イオンを硫化物として析出させて該金属イオンを除去する、処理を有する被処理水から金属イオンを除去する浄化方法であって、断面積と同程度の開口部を少なくとも2か所備え、側面に複数の孔を所定の間隔で有する有孔管の内部に、米糠を含む充填物を充填して得られる充填体を、前記水封層を形成する前記被処理水中に投入して、前記処理を行う、被処理水の浄化方法である。
【0017】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記有孔管に充填する前記充填物は、前記米糠と、該有孔管からの該米糠の放出を制御する制御材と、を含む混合物を圧密して得られる成形体である、被処理水の浄化方法である。
【0018】
(3)本発明の第3の発明は、第2の発明において、前記制御材は、中性の砂利であり、前記充填物を構成する混合物中において、前記米糠40質量部に対して前記砂利を40質量部~120質量部の割合で含有する、被処理水の浄化方法である。
【0019】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記米糠は、生糠を含む、被処理水の浄化方法である。
【0020】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記有孔管の内部の空間において該有孔管の内壁との間に隙間が形成されるように前記充填物を充填して充填体とする、被処理水の浄化方法である。
【0021】
(6)本発明の第6の発明は、第1乃至第5のいずれかの発明において、前記充填体を、抗菌性を有する金属を含む網状材料の上に載置した状態で、前記水封層を形成する前記被処理水中に投入する、被処理水の浄化方法である。
【0022】
(7)本発明の第7の発明は、第6の発明において、前記網状材料は、前記抗菌性を有する金属を含むかご状容器であり、前記充填体を、前記かご状容器に収納した状態で、前記水封層を形成する前記被処理水中に投入する、被処理水の浄化方法である。
【0023】
(8)本発明の第8の発明は、第6又は第7の発明において、前記抗菌性を有する金属は、ステンレスである、被処理水の浄化方法である。
【0024】
(9)本発明の第9の発明は、金属イオン及び硫酸イオンを含有する被処理水から該金属イオンを除去するための硫酸還元菌を付着させた担体を含む層と、該担体と含む層に対して該被処理水により水封することで形成される水封層と、の間に生じる不透水層の発生を抑制する方法であって、断面積と同程度の開口部を少なくとも2か所備え、側面に複数の孔を所定の間隔で有する有孔管の内部に、米糠を含む充填物を充填して得られる充填体を、前記水封層を形成する前記被処理水中に投入する、方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、硫酸還元菌を用いた坑廃水等の被処理水の浄化方法において、不透水層が発生することを抑制でき、これにより、被処理水に含まれる金属イオンをより効果的に除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】有孔管の構成の一例を示す模式図であり、(a)は側面及び端部を示す図であり、(b)は側面における孔の形状を示す図である。
図2】有孔管に米糠を含む充填物を充填して得られる充填体を、水封層を形成する被処理水中に投入したときの様子を示す図である。
図3】金網を含むかご状容器の一例を示すものであり、そのかご状容器に充填体を収納したときの様子を示す模式図である。
図4】充填体を、かご状容器に収納した状態で、水封層を形成する被処理水中に投入したときの様子を示す図である。
図5】嫌気反応槽を用い被処理水を浄化処理する方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」であることを意味する。
【0028】
≪1.被処理水の浄化方法≫
<1-1.被処理水中の金属イオンを除去する浄化方法について>
本発明に係る被処理水の浄化方法は、金属イオン及び硫酸イオンを含有する被処理水から金属イオンを除去して浄化する方法であり、硫酸還元菌による還元活性を利用して、金属イオンを硫化物として析出させて除去する生物学的浄化方法である。
【0029】
被処理水としては、金属イオン及び硫酸イオンを含有するものであれば特に限定されず、金属鉱山の坑廃水のような鉱山由来の廃水や工業廃水等が挙げられる。例えば、金属鉱山の坑廃水には、一般的に、Fe、Zn、Cu、Pb、Cd、As等の金属イオンが含まれ、さらに、硫酸イオン(SO 2-)も50~3000mg/L程度含まれている。なお、「被処理水」とは、浄化方法における処理、すなわち金属イオンの除去処理を施す前のものを意味し、「処理後水」とは、浄化処理後のものを意味する。被処理水のpHは、通常3.0~8.0程度である。
【0030】
より具体的に、この浄化方法においては以下のような処理を行う。すなわち、硫酸還元菌を付着させた担体を含む層(以下、「担体層」ともいう)に対し、予め、金属イオン及び硫酸イオンを含有する被処理水によって水封して水封層を形成して、その硫酸還元菌を嫌気状態で培養する。その後、担体層に被処理水を嫌気状態で連続的に通水することにより、被処理水中の金属イオンを硫化物として析出させることで金属イオンを除去する。
【0031】
硫酸還元菌(SRB)は、硫酸イオンの存在下で有機物を呼吸基質として活動する従属栄養細菌であり、以下に示す反応式[1]のように、有機物と硫酸イオンを取り込んで硫酸イオンを還元することにより、硫化水素イオンを生成させる。
2CHO+SO 2- → 2HCO3-+HS+H ・・・[1]
(ただし、CHOは有機物を示す)
【0032】
そして、反応式[1]の還元反応が進むことにより生成する硫化水素イオン(HS)が被処理水中の金属イオンと化合して、以下に示す反応式[2]のように、金属イオンの硫化物が析出し、被処理水から金属イオンが除去される。
Me2++HS → MeS↓+H ・・・[2]
(ただし、Meは金属を示す)
【0033】
ここで、硫酸還元菌は、主に中性域(pH5~8)で活動する嫌気性細菌である。硫酸還元菌としては、硫酸を還元する菌であればよく、例えば、Desulfovibrio vulgaris、Desulfovibrio magneticus,Desulfarrculus baariss,Desulfotomaculum acetoxidans,Desulfobulbus propionicus等が挙げられる。
【0034】
上述したように、硫酸還元菌は嫌気性細菌であることから、その硫酸還元菌を付着させた担体層に対し、予め、金属イオン及び硫酸イオンを含有する被処理水によって水封して水封層を形成することで、硫酸還元菌を嫌気状態で培養(馴養)するようにしている。
【0035】
ところが、従来の方法では(図5を参照)、嫌気反応槽2において水封層22と担体層21との間(担体層21の上面(図5中Xで示す))に不透水層が発生することがあった。不透水層が発生すると、坑廃水が担体層21内に浸透する際の障害となり、金属イオンが除去されることなく坑廃水が槽外部に流出してしまうことになる。また、硫酸還元菌への栄養源の供給も不十分となり、金属イオンの除去効率を低下させる原因にもなる。
【0036】
<1-2.不透水層の発生原因と不透水層の発生抑制について>
本発明者らは、不透水層の発生原因について調査したところ、金属イオンを除去するための硫酸還元菌以外の細菌として好気性の細菌類が環境中に存在しており、その硫酸還元菌を付着させた担体層を水封して嫌気状態とする水封層を形成する被処理水中の溶存酸素や過剰な栄養分に基づき、その水封層中で好気性の細菌類が増殖することでコロニーが形成されることがわかった。そして、それがフィルム状に成長して担体層表面に沈着することによって不透水層(以下、「バイオフィルム」ともいう)となることを発見した。
【0037】
不透水層が好気性細菌類により構成されるとの知見から、不透水層の発生を抑制する方法として、例えば被処理水中の溶存酸素を低減する手段が考えられる。しかしながら、溶存酸素を低減するには、その被処理水を別途煮沸する等の操作が必要になる。また、水封層は広く大気に接しているために、容易に酸素が取り込まれてしまう。このことから、溶存酸素を低減する手段は不確実であってコストが高くなる可能性がある。
【0038】
そこで、本発明者らは、上述した不透水層の発生原因についての調査結果から、担体層に付着する硫酸還元菌への栄養源の供給を制御する手段を検討し、所定の有孔管を介して栄養源となる米糠を供給する方法を見出した。
【0039】
具体的に、本発明に係る浄化方法では、断面積と同程度の開口部を少なくとも2か所備え、側面に複数の孔を所定の間隔で有する有孔管を用い、その有孔管の内部に米糠を含む充填物を充填して充填体とし、その充填体を、担体層を水封する水封層を形成する被処理水中に投入して処理を行うことを特徴としている。
【0040】
すなわち、本発明に係る浄化方法では、図5に示す従来の方法のような、担体層21の直上に硫酸還元菌の栄養源となる米糠が配置されず(米糠配置層23を有さず)、有孔管の内部に米糠を含む充填物を充填した充填体を、水封層を形成する被処理水中に投入することで担体層上に載置されるようにしている。
【0041】
このような方法によれば、硫酸還元菌の栄養源となる米糠が、有孔管の孔から徐々に放出されるように制御されるため、その栄養源が過剰に供給されることを防ぐことができる。これにより、水封層中に存在する好気性細菌類が栄養源を捕食することによる増殖を抑え、不透水層の発生を効果的に抑制できる。そしてその結果、硫酸還元菌が付着した担体層への被処理水の移動が阻害されずに良好に進行し、効率的に被処理水の浄化処理を行うことができる。また、不透水層の発生が抑制されることから、担体層へ必要十分な栄養源が供給されるようになり、浄化処理において必要量の硫酸還元菌を培養して確保できる。
【0042】
<1-3.有孔管とその有孔管を介した栄養源の供給について>
(有孔管の構成)
図1は、有孔管5の構成の一例を示す模式図であり、(a)は側面5s及び端部5a,5bを示す図であり、(b)は側面5sにおける孔51の具体的形状を示す図である。また、図2は、有孔管5に米糠を含む充填物を充填して得られる充填体5Fを、水封層12を形成する被処理水中に投入したときの様子を示す図である。
【0043】
図1に示すように、有孔管5は、円筒形状(パイプ形状)の部材であって、両端部5a,5bが開口しており、その内部に米糠を含む充填物が充填されるケース部材である。また、有孔管5の側面5sには、複数の孔51で設けられ、有孔管5の内容物が外部へと放出されるようになっている。その複数の孔51は、有孔管5を側面視したときの長辺方向(円筒形状の有孔管5の軸方向)、及び、円周方向のそれぞれにおいて所定の間隔で設けられている。なお、円周方向においては、有孔管5を孔51が設けられた箇所で断面視したとき、例えば45度の角度(図1中「A」)の間隔で設けられる。
【0044】
側面5sに複数の孔51を有する有孔管5を用い、その内部に米糠を含む充填物を充填して充填体5Fとすると、充填物に含まれる米糠は有孔管5の孔51を介して徐々に放出されていく。有孔管5から放出された米糠の分解物は、担体層11に浸透していき、そして硫酸還元菌の栄養源として有効に供給されるようになる。一方で、米糠は、充填物として有孔管5の内部に充填されており直接的には担体層11や水封層12に接しない。そのため、嫌気反応槽1内において過剰な栄養源の供給とはならず、水封層12に存在する好気性細菌類の増殖を抑えることができる。
【0045】
このように、有孔管5の内部に米糠を含む充填物を充填して充填体5Fとし、水封層12を形成する被処理水にその充填体5Fを投入して処理することで、担体層11に付着している硫酸還元菌への栄養源の供給(供給速度)を効果的に制御でき、従来の方法のように過剰な栄養源供給に起因する好気性細菌類の増殖を抑えることができる。
【0046】
このような方法により、好気性細菌類が増殖して形成されるバイオフィルム、すなわち不透水層の発生を効果的に抑制でき、被処理水の担体層11への浸透を良好にすることができる。また、不透水層の発生を抑制することで、担体層11に付着した硫酸還元菌への栄養源供給が不十分となる事態の発生も防ぎ、金属イオンの除去に必要な量の硫酸還元菌を培養して確保できる。そしてその結果、従来に比して、被処理水から金属イオンを除去する浄化処理をより効果的に行うことができる。
【0047】
ここで、有孔管5においては、両端部5a,5bが開口している。このように、有孔管5においては、断面積と同程度の開口面積を有する開口部を少なくとも2か所備えている。これにより、その開口端部(5a,5b)からも内部に充填した米糠が放出されることになる。有孔管5の両端部5a,5bの開口は、側面5sに設けられた孔51より大きいことから、充填体5Fを被処理水中に投入した初期においては、孔51からの米糠の放出量よりも両端部5a,5bの開口からの米糠の放出量の方が多くなる。したがって、このことにより、特に被処理水の浄化処理の初期において、担体層に付着した硫酸還元菌を馴養する際にも、十分な栄養源を効果的に供給できるようになる。
【0048】
しかも、有孔管5の内部に米糠を含む充填物を充填するに際しては、好ましくは、その内部の空間において有孔管5の内壁と充填物との間にわずかな隙間が形成されるようにその充填物を充填する。また、有孔管5の両端部5a,5bにおいては、例えば有孔管5の一方の端部5aから他方の端部5bまで充填物を満たして、その充填物によって両端部5a,5bが塞がれるように(断面積と同程度の開口面積を有する開口部が充填物によって蓋がされるように)充填する。これにより、充填物を充填した有孔管5からなる充填体5Fを被処理水に投入したときに、その有孔管5の両端部5a,5bから素早く米糠が放出されるようになり、米糠の分解物が良好に担体層に浸透していき、浄化処理の初期において硫酸還元菌の馴養を促進させることができる。なお、充填物を充填する際に、有孔管5の内壁との間に隙間なく充填物を充填すると、得られる充填体5Fを被処理水に投入した直後は、両端部5a,5bの開口部を除き、有孔管5の側面5sに設けられた複数の孔51の部分にしか被処理水と接触することが難しくなり、その結果、初期における米糠の放出量が十分ではなくなる可能性がある。
【0049】
断面積と同程度の開口面積を有する開口部としては、図1の有孔管5にて例示する両端部5a,5bの開口に限られず、有孔管のいずれかの箇所に備えられていればよい。またこのように、有孔管のいずれかの箇所に断面積と同程度の開口部が備えられていればよいため、その有孔管において両端部が必ずしも開口していなくてもよい。
【0050】
また、有孔管5は、特に限定されないが、図1に示すようにその側面5sにおいて所定のピッチで凹部52と凸部53とが交互に配置され、蛇腹様の形状を構成している。このとき、蛇腹様形状における凹部52の位置に内部と連通する孔51が設けられている。なお、隣接する凸部53間を1ピッチとしたとき、その1ピッチの領域における円周方向に所定の間隔で孔51が複数設けられる。
【0051】
このような蛇腹様形状の有孔管5であることで、例えば担体層11の表面に載置したときに、その凸部53が担体層表面に直接接する部位となり、凹部52に設けられた孔51から放出される米糠を含む充填物は直接的には担体層11表面に接しなくなる。また、内部に充填した米糠が孔51から放出される際にも、凹部52の両側にある凸部53の間隙を通って放出される。このことから、孔51からの米糠の放出を、より効率的に制御でき、必要な量の栄養源供給を確保しながら過剰な供給をより効果的に防ぐことができる。
【0052】
また、蛇腹様形状の有孔管5であることで、有孔管5を伸縮させることが容易となり、例えば折り曲げて載置させる等、限られた空間における載置形態の自由度を高められる。
【0053】
なお、有孔管5のサイズ(各部位の寸法)は、特に限定されず、反応槽の大きさや被処理水の処理量、米糠の供給量等に応じて適宜設定できる。例えば、有孔管5の軸方向(長辺方向)の長さLが300mm~700mm程度、内径D1が50mm~80mm程度であって断面積が1900mm~5000mm程度のものを用いることができる。また、図1のように蛇腹様形状のものの場合、その外径D2は内径に対して10%~20%程度大きいものを用いることができる。
【0054】
また、有孔管5の側面5sに設けられる孔51の大きさとしては、例えば、幅Wが5mm~10mm程度、高さHが1mm~4mm程度とすることができる。また、有孔管5全体における孔51による開口率(有孔管5の側面の表面積に対するすべての孔51の開口合計面積)としては、4.0%~7.0%程度とすることができる。このような開口率とすることで、硫酸還元菌を付着させた担体層11への栄養源となる米糠の供給速度をより最適化できる。
【0055】
(有孔管に充填する米糠を含む充填物)
ここで、上述のように、有孔管5に充填する充填物は、米糠を含むものである。米糠としては、生糠を含むものが好ましい。生糠とは、発酵させていない状態の米糠であり、発酵させて得られる米糠よりも細菌類の活性効果が高い。したがって、生糠を含む米糠を充填物に含有させることで、有孔管5からの放出により栄養源である米糠の供給量を制御する場合でも、硫酸還元菌を効果的に活性化させ、増殖させることができる。
【0056】
なお、米糠は、水稲を収穫して脱穀等の処理後に得られる玄米を精米する際に玄米から粉末状の生糠として除去されるものであり、玄米の表皮と胚芽等が含まれ、例えば下記表1に示すような、水分及びミネラルの成分例が知られている。
【0057】
【表1】
【0058】
また、有孔管5に充填する充填物は、米糠と、有孔管5からの米糠の放出を制御する制御材と、を含む混合物を圧密して得られる成形体(圧密成形体)であることが好ましい。
【0059】
制御材は、米糠と共に混合されることで、その制御材が物理的な障害となって有孔管5からの米糠の放出を抑制するように作用する。このように、米糠と、制御材とを含む混合物とすることで、その充填物(成形体)のすべての表面から米糠が流出するのではなくなるため、流出速度を抑制でき、有孔管5の孔51から放出される米糠の放出量をより精密に制御できる。
【0060】
例えば、制御材としては、例えば1mm~10mm程度の大きさの砂利を挙げることができる。砂利は、硫酸還元菌の活性に、またバイオフィルムを形成する細菌の活性に、影響を与えないものが好ましく、例えば中性のものであることが好ましい。また、砂利を混合して混合物にするに際して、その混合量としては、米糠40質量部に対して40質量部~120質量部の割合とすることが好ましい。このような範囲の混合量であることで、均一な混合を可能にし、効率的に後述する圧密による成形体とすることができ、また、より効果的に米糠の放出制御を行うことができる。
【0061】
さらに、混合物を圧密して成形体(圧密体)とすることが好ましく、得られた成形体を有孔管5の内部に充填する。このように、混合物のままの形態ではなく、混合物に所定の圧力をかけて成形して圧密体とすることで、その圧密体からの米糠の流出制御を行うことができ、有孔管5の孔51から放出される米糠の放出量をより精密に制御できる。
【0062】
米糠と、制御材とを混合するに際しては、所定量の水分を適宜添加しながら全体を均一に混合することが好ましい。これにより、得られる混合物を容易に圧密して成形体とすることができる。なお、表1にて示したように米糠には一般的に水分が含まれている。そのため、混合時に水分を添加するにあたっては、混合操作を行いながら定期的に操作者の手で握り込み、水分が浮き出てこない程度で水分添加量を調整するとよく、これにより容易に圧密して成形体にすることができる。
【0063】
参考までに、例えば、制御材である砂利を、米糠40質量部に対して40質量部~120質量部の割合となるように混合して圧密する場合、水分を添加しながら圧密したときの体積比としては、下記表2のようになる。このような体積比であれば、容易に圧密できる。例えば、米糠40質量部に対して、制御材である砂利を80質量部の割合で混合する場合、水を25質量部の割合とすることが適切な水分添加量となり、このような量の水分を徐々に添加して全体が均一となるように混合すればよい。
【0064】
【表2】
【0065】
<1-4.嫌気反応槽における連通管の設置について>
上述したように、有孔管5の内部に米糠を含む充填物を充填して充填体5Fとし、水封層12を形成する被処理水中にその充填体5Fを投入することで、硫酸還元菌の栄養源となる米糠の供給を効果的に制御でき、不透水層の発生を効果的に抑制できる。
【0066】
ところが、このように有孔管5を用いて米糠の供給量を制御した場合でも、大気と接触している水封層には酸素が取り込まれ、また、細菌にとっての栄養源となる米糠が存在している状況においては、好気性細菌類に基づくバイオフィルム(不透水層)が少なからず発生することもある。また、有孔管5からの米糠の放出量が過剰な方向にずれる可能性もゼロではなく、さらに不透水層の発生は硫酸還元菌への栄養源の必要十分な供給が行われていることの証左ともなり得るため、場合によっては意図的に供給量を増加させることも考えられ、その場合には不透水層の発生が予想される。なお、硫酸還元菌の培養効率を促進させる観点から、意図的に米糠の供給量を増加させることもある。
【0067】
そこで、必須の態様ではないが、嫌気反応槽1において、水封層12と担体層11とを連通させる連通管を設置するようにしてもよい。このような連通管を設置することで、水封層12を形成する被処理水を担体層11へ直接的に移行させることができ、仮に不透水層がわずかに形成された場合でも、被処理水の担体層11への有効な浸透を確保できる。
【0068】
これにより、被処理水中の金属イオンの除去作用を効率的に進行させることができる。
【0069】
なお、連通管を設置させるにあたっては、不透水層の影響を受けない水位レベルで、水封層12と担体層11とが連通されるようにすればよい。また、連通管としては、特に限定されず、両端部が開口されている円筒形状の配管等であればよく、その連通管を介して被処理水を担体層11に移行させ、浸透させることができればよい。
【0070】
<1-5.嫌気反応槽における金属製部材の設置について>
また、必須の態様ではないが、嫌気反応槽1において、担体層11の表面に例えば金網等の金属製部材を設置するようにしてもよい。
【0071】
上述のように、例えば意図的に米糠の供給量を増加させた結果として不透水層がわずかに発生した場合でも、その不透水層が担体層11の表面を被覆するように生じなければ、被処理水の担体層11への浸透は阻害されない。このことから、不透水層を構成する好気性細菌類が忌避する成分を含む材料を担体層11の表面に設置しておくことで、不透水層が担体層11の表面全面に形成され、被覆されることを防ぐことができる。
【0072】
好気性細菌類が忌避する成分としては、抗菌性を有する金属材料を含む部材(金属製部材)が挙げられ、例えば、SUS304等のステンレス製の金網にもその効果があるという知見が得られている。またそのほか、一般的に除菌効果のあるとされる銅製の金属材料で構成される金網を用いることもできる。
【0073】
具体的には、上述した有孔管5の内部に米糠を含む充填物を充填して得られる充填体5Fを、抗菌性を有する金属を含む網状材料(金網)の上に載置した状態で、水封層12を形成する被処理水中に投入する。このようにすることで、例えば意図的に米糠の供給量を増加させることにより不透水層が充填体5Fの周辺に形成されるような場合であっても、その不透水層を構成する好気性細菌類が金網の範囲から担体層11側に移動することを抑えることができ、不透水層の拡大を防ぐことができる。これにより、不透水層が担体層11の表面全体に形成されて担体層11が被覆されるようになってしまうことを防ぐことができる。
【0074】
また、上述した網状材料としては、抗菌性を有する金属を含むかご状容器であることが好ましく、充填体5Fを、金網を含むかご状容器に収納した状態で、水封層12を形成する被処理水中に投入することが好ましい。
【0075】
図3は、金網を含むかご状容器の一例を示すものであり、そのかご状容器に充填体5Fを収納したときの様子を示す模式図である。また、図4は、充填体5を、かご状容器に収納した状態で水封層12を形成する被処理水中に投入したときの様子を示す図である。
【0076】
図3に示すように、かご状容器6は、所定の大きさの網目(メッシュ)を有する金網を含むバスケット(バット)を用いることができる。また、かご状容器6は、上述したように、SUS304といったステンレス等から構成される抗菌性を有する金属により構成される。なお、「抗菌性を有する金属」とは、一般的に抗菌作用が知られている金属をいい、例えば標準的な抗菌評価方法において一定値以上の抗菌性を有するものをいう。
【0077】
かご状容器6においては、少なくとも底面6bが所定の大きさの網目を有していればよく、例えばその底面6bから立ち上がった側壁(側面6s)は同様の金属を含む板状であってもよい。また、その網目のサイズは、特に限定されないが、好気性細菌の移動の抑制効果をより高める観点から、有孔管5の側面5sの孔51のサイズと同様かそれよりも小さいことが好ましい。また、かご状容器6は、充填体5を収納するのに十分な容積を有し、充填体5を複数本収納できる容積を有することが好ましい。
【0078】
そして、図3図4に示すように、かご状容器6内に、例えば2~3本の複数本の充填体5Fを載置して収納し、この状態(かご状容器6に充填体5Fを収納したままの状態)で、水封層12を形成する被処理水中に投入する。これによれば、例えば米糠の供給量を意図的に増加させたような場合に、かご状容器の底面のメッシュを介して供給される米糠に基づいてその底面6bの範囲において不透水層が形成されたとしても、かご状容器を構成する抗菌性の金属による好気性細菌の増殖の抑止効果により、その底面6bの範囲を超えるかご状容器6の外側の領域ヘの好気性細菌の移動を効果的に抑制でき、不透水層の拡大を防ぐことができる。また、このように、好気性細菌の移動を抑制して不透水層の拡大を有効に防げることから、例えば、有孔管5のサイズを大きくして硫酸還元菌の培養効率をより向上させることも可能となり、浄化処理の適用範囲を拡げることもできる。
【0079】
また、このようにかご状の形態であることにより、かご状容器6の内部に充填体5Fを収納して被処理水中に投入できるため、その投入作業が簡易となる。さらに、充填体5Fの交換作業においても、かご状容器6ごとの作業となるため、負担を軽減できる。またさらに、被処理水中に投入した後も、かご状容器6内に収納した充填体5Fを安定的に保持でき、不透水層の形成範囲を最小限度に抑えることができる。
【0080】
かご状容器6を用いる場合、そのかご状容器6の高さ(かごの底面6bから、側面6sに沿って立ち上がった上端であるかごの上辺部6eまでの長さ)としては、水封層12を形成する被処理水中に投入したときに、その上辺部6eが水封層12表面(液面)の上方の気相部分に露出されるような高さであることが好ましい。つまり、図4に示すように、充填体5Fを収納したかご状容器6の全体が水封層12の内部に完全に浸漬するのではなく、かご状容器6のすべての上辺部6e(図3の例では、4つの上辺部6e,6e,6e,6e)が水封層12の液面よりも上側に露出するようにすることが好ましい。
【0081】
ここで、水封層12においては、水(液相)の動きが小さくなるように保たれているが、液相の対流等が生じることもある。このようなとき、かご状容器6が完全に水封層12内に浸漬された状態であると、内部で発生した好気性細菌が水中においてかご状容器6の上辺部6eを超えて流出する可能性もある。そうすると、かご状容器6の設置範囲を超える外側の領域にも好気性細菌による不透水層が形成されてしまい、不透水層形成の抑制効果が不十分となるおそれもある。
【0082】
この点、かご状容器6を用い、図4に示すように、充填体5Fを収納したかご状容器6のすべての上辺部6e(上辺部6e,6e,6e,6e)が水封層12の液面よりも上側に露出するようにすることで、その上辺部6eを介した好気性細菌のかご状容器6外への移動も効果的に抑えることができる。これにより、より効果的に、不透水層が担体層11の表面全体に形成されて被覆されてしまうことを防ぐことができる。
【0083】
なお、金属を含む網状材料(金網)ではなく、金属板を用いることも考えられるが、被処理水の担体層11への浸透を阻害しない材料であることが条件となり、その観点から、所定の間隔で孔(メッシュ)が設けられている金属製の網状材料であることが好ましい。例えば、上述した金網や、パンチングメタル等であることが好ましい。
【0084】
≪2.不透水層の発生を抑制する方法≫
上述したように、本発明に係る浄化方法は、硫酸還元菌を付着させた担体層11に、予め、金属イオン及び硫酸イオンを含有する被処理水によって水封して水封層12を形成し、硫酸還元菌を嫌気状態で培養し、その後、担体層11に被処理水を嫌気状態で連続的に通水することで、被処理水中の金属イオンを硫化物として析出させて金属イオンを除去する、処理を有する浄化方法である。そして、この方法では、断面積と同程度の開口部を少なくとも2か所(両端部5a,5bの開口)備え、側面に複数の孔51を有する有孔管5の内部に、米糠を含む充填物を充填して得られる充填体5Fを、水封層12を形成する被処理水中に投入して処理を行うことを特徴としている。
【0085】
このような浄化方法によれば、硫酸還元菌の栄養源となる米糠が、有孔管5の孔51から徐々に放出されるように制御(放出制御)されるため、その栄養源が過剰に供給されることを防ぐことができる。これにより、水封層12中に存在する好気性細菌類が栄養源を捕食することによる増殖を抑え、不透水層の発生を効果的に抑制できる。
【0086】
したがって、上述した具体的手段は、不透水層の発生を抑制する方法として定義できる。具体的には、金属イオン及び硫酸イオンを含有する被処理水から金属イオンを除去するための硫酸還元菌を付着させた担体層11と、その担体層11に対して被処理水により水封することで形成される水封層12と、の間に生じる不透水層の発生を抑制する方法において、両端が開口しており側面に複数の孔51を有する有孔管5の内部に、米糠を含む充填物を充填して得られる充填体5Fを、水封層12を形成する被処理水中に投入する方法として定義できる。
【実施例
【0087】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0088】
[実施例1]
金属イオン及び硫酸イオンを含有する坑廃水(被処理水)から金属イオンを除去するために、パッシブトリートメントによる技術を用いて浄化処理を行った。具体的には、硫酸還元菌を付着させた担体層に対して、予め、金属イオン及び硫酸イオンを含有する坑廃水によって水封して水封層を形成し、硫酸還元菌を嫌気状態で培養し、その後、担体層に坑廃水を嫌気状態で連続的に通水することで、坑廃水中の金属イオンを硫化物として析出させて除去する処理を行った。
【0089】
このとき、実施例1では、図1に示すような有孔管を用い、その内部に、生糠を含む米糠とサイズ2mm~5mm程度の中性の砂利(制御材)との混合物を圧密することで得られる充填物(圧密成形体)を充填して充填体(9個)を作製し、それを、水封層を形成する坑廃水中に充填体を投入して、担体層の上面に載置させるようにした。
【0090】
ここで、有孔管としては、デンカ株式会社製のトヨドレンダブル管TDW60を用いた。この有孔管は、側面に2mm×8mmの孔が設けられ、また図1に示す1ピッチ(9mm)の領域における円周方向に合計8つ設けられているものであった。したがって、この有孔管における1ピッチ単位での孔の開口率はおよそ5%であった。
【0091】
そしてその状態で、水封層の水面が波立たない程度の僅かな流量で被処理水である坑廃水を連続的に通水して、浄化処理を行った。
【0092】
このような方法による浄化処理を行った結果、処理開始から1週間が経過しても、担体層の上面には不透水層、すなわち好気性細菌類により形成されるバイオフィルムの発生は認められず、あるいは大幅に抑制され、処理プロセスが停止することはなかった。また、硫酸還元菌の栄養源となる米糠を新たに供給することなく、15週間以上にわたり、坑廃水の処理を継続できた。
【0093】
[比較例1]
比較例1では、図5に示す従来方法のように、硫酸還元菌を付着した担体層の上に、米糠を配置(米糠配置層を形成)し、その上に、被処理水である坑廃水による水封層を形成して、パッシブトリートメントによる技術を用いて浄化処理を行った。
【0094】
このような方法により浄化処理を行った結果、処理開始から1週間で、担体層の上面にバイオフィルムの発生が確認され、水封層から担体層への被処理水の浸透が遮断されたため、処理プロセスが停止し、坑廃水の処理を継続することができなかった。
【符号の説明】
【0095】
1,2 嫌気反応槽
11,21 担体層
12,22 水封層
23 米糠配置層
5 有孔管
5F 充填体
5a,5b 端部
5s 側面
51 孔
52 凹部
53 凸部
6 かご状容器
6b 底面
6s 側面
6e,6e,6e,6e,6e 上辺部
図1
図2
図3
図4
図5