(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】ペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集サンプラー
(51)【国際特許分類】
G01N 1/22 20060101AFI20240925BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20240925BHJP
B01D 45/08 20060101ALI20240925BHJP
B01J 20/20 20060101ALI20240925BHJP
G01N 1/02 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
G01N1/22 L
B01J20/28 Z
B01D45/08 Z
B01J20/20 A
G01N1/02 D ZAB
G01N1/02 B
(21)【出願番号】P 2020193453
(22)【出願日】2020-11-20
【審査請求日】2023-09-04
(31)【優先権主張番号】P 2019220421
(32)【優先日】2019-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】山下 信義
(72)【発明者】
【氏名】谷保 佐知
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼阪 務
(72)【発明者】
【氏名】横井 誠
(72)【発明者】
【氏名】堀 千春
(72)【発明者】
【氏名】島村 紘大
(72)【発明者】
【氏名】浅野 拓也
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-189025(JP,A)
【文献】米国特許第06431014(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第107843463(CN,A)
【文献】特開2019-064869(JP,A)
【文献】特表2017-538568(JP,A)
【文献】特開2019-107642(JP,A)
【文献】国際公開第2009/031562(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105445061(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106053152(CN,A)
【文献】上堀美知子 他,大気環境中における有機フッ素化合物の挙動について,第38回環境保全・公害防止研究発表会講演要旨集,2011年11月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/02; 1/22
B01J 20/28;45/08
B01J 20/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料大気中のペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集するサンプラーであって、
前記試料大気を吸引する吸気部と、
前記吸気部に接続され、前記大気中の粒子吸着性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集する慣性インパクター部を備えた粒子吸着性化合物捕集エリアと、
前記粒子吸着性化合物捕集エリアに接続され、前記大気中の半揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集するウレタンフォームフィルター部を備えた半揮発性化合物捕集エリアと、
前記半揮発性化合物捕集エリアに接続され、前記大気中の揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集するBET比表面積が900m
2/g以上である吸着活性炭よりなるフィルター部を備えた揮発性化合物捕集エリアと、
前記揮発性化合物捕集エリアに接続され、前記各エリアを通気した前記大気が排気される排気部とを備える
ことを特徴とするペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集サンプラー。
【請求項2】
前記粒子吸着性化合物捕集エリアが、前記大気中の粒子吸着性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を、その粒子径の大きい順に複数の粒子サイズごとに順次捕集する複数層の前記慣性インパクター部よりなる請求項1に記載のペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集サンプラー。
【請求項3】
前記吸着活性炭の表面酸化物量が0.10meq/g以上である請求項1又は2に記載のペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集サンプラー。
【請求項4】
前記吸着活性炭の1nm以下のミクロ孔容積の和(V
mic)が0.35cm
3/g以上である請求項1ないし3のいずれか1項に記載のペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集サンプラー。
【請求項5】
前記吸着活性炭の2~60nmのメソ孔容積の和(V
met)が0.02cm
3/g以上である請求項1ないし
3のいずれか1項に記載のペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集サンプラー。
【請求項6】
前記吸着活性炭の2~60nmのメソ孔容積の和(V
met
)が0.02cm
3
/g以上である請求項4に記載のペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集サンプラー。
【請求項7】
前記吸着活性炭の下記の(i)式に規定する前記ミクロ孔容積の和(V
mic)と前記メソ孔容積の和(V
met)との容積差(V
s)が0.45以上である請求項
6に記載のペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集サンプラー。
【数1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中に存在する様々な形態のペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集するペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集サンプラーに関する。
【背景技術】
【0002】
ペル及びポリフルオロアルキル化合物は、高い熱安定性、高い化学的安定性、高い表面修飾活性を有するフッ素置換された脂肪族化合物類である。ペル及びポリフルオロアルキル化合物は、前記特性を生かし表面処理剤や包装材、液体消火剤等の工業用途及び化学用途等幅広く使用されている。
【0003】
ペル及びポリフルオロアルキル化合物の一部は、非常に安定性の高い化学物質であることから、環境中に放出後、自然条件下では分解されにくい。このため、近年では、ペル及びポリフルオロアルキル化合物は残留性有機汚染物質(POPs)として認識され、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)(IUPAC名:1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ヘプタデカフルオロオクタン-1-スルホン酸)が2010年より残留性有機物汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)において、製造や使用が規制されることとなった。
【0004】
なお、ペルフルオロアルキル化合物は完全にフッ素化された直鎖アルキル基を有しており、化学式(ii)で示される物質である。例えば、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)やペルフルオロオクタン酸(PFOA)(IUPAC名:2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ペンタデカフロオロオクタン酸)等がある。
【0005】
【0006】
ポリフルオロアルキル化合物はアルキル基の水素の一部がフッ素に置き換わったものを示し、化学式(iii)で示される物質である。例えば、フルオロテロマーアルコール等がある。
【0007】
【0008】
このように、ペル及びポリフルオロアルキル化合物は自然界(水中、土壌中、大気中)に残存し続けることから、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量試験方法の確立が検討されている。定量試験方法の検討の課題は、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の高い捕集、吸着及び脱離性能を有するサンプラーの開発である。微量なペル及びポリフルオロアルキル化合物を含有する試料である空気を通気させ、試料空気中に含まれる様々な形態(粒子吸着性、半揮発性、揮発性)のペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集ないし吸着し、捕集剤や吸着剤から該化合物を抽出工程によって抽出液中に脱離させ、濃縮する。濃縮後、LC-MSやGC-MS等の測定装置で定量測定し、試料中に含まれるペル及びポリフルオロアルキル化合物の濃度測定を行うことが可能となる。
【0009】
大気中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の測定には、ハイボリュームエアサンプラーを用いる方法が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。この方法においては、ハイボリュームエアサンプラー内部に石英繊維ろ紙等の微細繊維からなるろ紙等を装着し、該サンプラーに一定時間通気させ、大気中浮遊粒子を採取することで大気中浮遊粒子中に含まれるPFOSを測定する。
【0010】
しかし、ろ紙に通気することで捕集される物質は、大気中浮遊粒子に吸着するペルフルオロアルキル化合物であるPFOS、PFOA等の不揮発性のイオン性化合物に限定される。該サンプラーで捕集ができないペル及びポリフルオロアルキル化合物は、揮発性のものが挙げられる。揮発性のペル及びポリフルオロアルキル化合物は、ろ紙を通過してしまうため定量測定を行うことができない。
【0011】
このため、該サンプラーでは捕集できない大気中浮遊粒子に含有されない揮発性のポリフルオロアルキル化合物等、他の形態で存在するペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集可能な捕集サンプラーが所望されていた。
【0012】
また、揮発性のペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集剤としては、シリカゲル系捕集剤等が使用されている。例えば、シクロデキストリンポリマーからなる有機フッ素系化合物吸着剤が提案されている(特許文献1)。この吸着剤は、吸着のみに特化し、該化合物の脱離はできないことから定量測定に用いられる捕集材として使用には適していない。また、シクロデキストリンポリマーは粉状又は微粒子状であり、ハンドリングが悪く、通液ないし通気時の抵抗が高く微粉末の2次側への流出リスク等の問題がある。このように、既存の吸着剤では揮発性のペル及びポリフルオロアルキル化合物を十分に捕集することができず、正確に定量測定ができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【非特許文献】
【0014】
【文献】小谷野道子ほか著、「都市大気中のペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)濃度の週間変化」大気環境学会誌 第45巻 第6号 2010年11月10日、p.279-282
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、様々な形態で大気中に存在するペル及びポリフルオロアルキル化合物を、効率よく総合的に捕集可能なペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集サンプラーを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
すなわち、第1の発明は、試料大気中のペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集するサンプラーであって、前記試料大気を吸引する吸気部と、前記吸気部に接続され、前記大気中の粒子吸着性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集する慣性インパクター部を備えた粒子吸着性化合物捕集エリアと、前記粒子吸着性化合物捕集エリアに接続され、前記大気中の半揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集するウレタンフォームフィルター部を備えた半揮発性化合物捕集エリアと、前記半揮発性化合物捕集エリアに接続され、前記大気中の揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集するBET比表面積が900m2/g以上である吸着活性炭よりなるフィルター部を備えた揮発性化合物捕集エリアと、前記揮発性化合物捕集エリアに接続され、前記各エリアを通気した前記大気が排気される排気部とを備えることを特徴とするペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集サンプラーに係る。
【0017】
第2の発明は、第1の発明において、前記粒子吸着性化合物捕集エリアが、前記大気中の微粒子状ペル及びポリフルオロアルキル化合物を、その粒子径の大きい順に複数の粒子サイズごとに順次捕集する複数層の前記慣性インパクター部よりなるペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集サンプラーに係る。
【0018】
第3の発明は、第1または2の発明において、前記吸着活性炭の表面酸化物量が0.10meq/g以上であるペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集サンプラーに係る。
【0019】
第4の発明は、第1ないし3の発明のいずれかにおいて、前記吸着活性炭の1nm以下のミクロ孔容積の和(Vmic)が0.35cm3/g以上であるペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集サンプラーに係る。
【0020】
第5の発明は、第1ないし3の発明のいずれかにおいて、前記吸着活性炭の2~60nmのメソ孔容積の和(Vmet)が0.02cm3/g以上であるペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集サンプラーに係る。
【0021】
第6の発明は、第4の発明において、前記吸着活性炭の2~60nmのメソ孔容積の和(V
met
)が0.02cm
3
/g以上であるペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集サンプラーに係る。
【0022】
第7の発明は、第6の発明において、前記吸着活性炭の下記の(i)式に規定する前記ミクロ孔容積の和(Vmic)と前記メソ孔容積の和(Vmet)との容積差(Vs)が0.45以上であるペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集サンプラーに係る。
【0023】
【発明の効果】
【0024】
第1の発明にペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集サンプラーによると、試料大気中のペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集するサンプラーであって、前記試料大気を吸引する吸気部と、前記吸気部に接続され、前記大気中の粒子吸着性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集する慣性インパクター部を備えた粒子吸着性化合物捕集エリアと、前記粒子吸着性化合物捕集エリアに接続され、前記大気中の半揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集するウレタンフォームフィルター部を備えた半揮発性化合物捕集エリアと、前記半揮発性化合物捕集エリアに接続され、前記大気中の揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集するBET比表面積が900m2/g以上である吸着活性炭よりなるフィルター部を備えた揮発性化合物捕集エリアと、前記揮発性化合物捕集エリアに接続され、前記各エリアを通気した前記大気が排気される排気部とを備えることから、様々な形態で大気中に存在するペル及びポリフルオロアルキル化合物を、効率よく総合的に捕集可能とすることができる。また、様々な形態ごとにそれぞれのエリアでペル及びポリフルオロアルキル化合物を選択的に捕集することから、他の形態のペル及びポリフルオロアルキル化合物と分別して捕集することによって、測定装置での共溶出現象による分析誤差を最小化し、精度の高い定量測定が可能となる。
【0025】
第2の発明に係るペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集サンプラーによると、第1の発明において、前記粒子吸着性化合物捕集エリアが、前記大気中の微粒子状ペル及びポリフルオロアルキル化合物を、その粒子径の大きい順に複数の粒子サイズごとに順次捕集する複数層の前記慣性インパクター部よりなることから、大気中の微粒子状ペル及びポリフルオロアルキル化合物を、効率よく任意の粒子サイズごとに捕集することができる。
【0026】
第3の発明に係るペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集サンプラーによると、第1または2の発明において、前記吸着活性炭の表面酸化物量が0.10meq/g以上であることから、活性炭の細孔による吸着性能だけでなく、化学的な吸着能力も備え、よりペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能を向上させることができる。
【0027】
第4の発明に係るペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集サンプラーによると、第1ないし3の発明のいずれかにおいて、前記吸着活性炭の1nm以下のミクロ孔容積の和(Vmic)が0.35cm3/g以上であることから、吸着活性炭の細孔によるペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能を向上させることができる。
【0028】
第5の発明に係るペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集サンプラーによると、第1ないし3の発明のいずれかにおいて、前記吸着活性炭の2~60nmのメソ孔容積の和(Vmet)が0.02cm3/g以上であることから、吸着活性炭の細孔によるペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能を向上させることができる。
【0029】
第6の発明に係るペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集サンプラーによると、第4の発明において、前記吸着活性炭の2~60nmのメソ孔容積の和(V
met
)が0.02cm
3
/g以上であることから、吸着活性炭の細孔によるペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能を向上させることができる。
【0030】
第7の発明に係るペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集サンプラーによると、第6の発明において、前記吸着活性炭の上記の(i)式に規定する前記ミクロ孔容積の和(Vmic)と前記メソ孔容積の和(Vmet)との容積差(Vs)が0.45以上であることから、吸着活性炭の細孔によるペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明のペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集サンプラーの一実施例を示す斜視図である。
【
図4】インパクタープレートの形状例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
ペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集サンプラーは、大気中に様々な形態で存在するペル及びポリフルオロアルキル化合物を総合的に捕集することを目的とする。大気中に存在するペル及びポリフルオロアルキル化合物は、おおよそ3つに分類される。一つは、大気中に浮遊する微小粒子(例えば、花粉や土壌粒子のような粉塵等)の表面に付着した粒子吸着性ペル及びポリフルオロアルキル化合物であり、その多くはイオン性化合物である。
【0033】
二つ目は、N-エチルペルフルオロオクタンスルホン酸アミドエタノール(以降「N-EtFOSE」と表記する。)やN-メチルペルフルオロオクタンスルホン酸アミドエタノール(以降、「N-MeFOSE」と表記する。)等の半揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物である。半揮発性有機化合物は、世界保健機関(WHO)の定義によれば、沸点260~380℃の化合物をいう。半揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が分解することによってPFOSやPFOAが生じることが知られている。N-EtFOSEは以下の化学式(iv)に、N-MeFOSEは化学式(v)に表される物質である。
【0034】
【0035】
【0036】
そして、三つ目は、前出の化学式(iii)に示されるようなフルオロテロマーアルコール(以降「FTOHs」と表記する。)に代表される大気中に気体として存在する揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物である。揮発性有機化合物は、世界保健機関(WHO)の定義によれば、沸点50~160℃の化合物をいう。
【0037】
本発明の目的物であるペル及びポリフルオロアルキル化合物は、前述の通り主に3つの形態で大気中に存在している。このことから、本発明のサンプラーは、
図1及び2に示されるように、それぞれの形態ごとのペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集するエリアに分割されて形成される。
【0038】
本発明のサンプラー10は、試料大気が吸引される上流から該大気が排出される下流にかけて、粒子吸着性化合物捕集エリア20、半揮発性化合物捕集エリア30、揮発性化合物捕集エリア40の順に配置されて形成される。試料大気は、サンプラーの下流側に配置された吸引ポンプ等により吸気部12から吸引され、粒子吸着性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集する粒子吸着性化合物捕集エリア20を通過し、次に、半揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集する半揮発性化合物捕集エリア30を通過し、そして、揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集する揮発性化合物捕集エリア40を通過して排出部13から排出される。
【0039】
まず、粒子吸着性化合物捕集エリア20について
図3及び
図4を用いて説明する。粒子吸着性化合物捕集エリア20は、大気中の粒子吸着性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集する慣性インパクター部21を備える。
【0040】
慣性インパクターとは、気体中に浮遊する微粒子(エアロゾル)の捕集のために使用されるものであって、ノズルから粒子をインパクタープレート(捕集板)に向かって通過させ、慣性力により粒子をインパクタープレートに衝突させて該インパクタープレート上において捕集するものである。また、ノズル径の異なる慣性インパクターを多段に連結させることによって、異なる粒子径の粒子を各段のインパクタープレート上に捕集することが可能となる。
【0041】
慣性インパクター部21は、円板状物の中央に捕集ろ紙22を備え、その外周縁に複数の貫通孔24が形成されたインパクタープレート23と、インパクタープレート23の上流側にはクリアランス部25と、下流側には連結孔27とを備える。慣性インパクター部21は、慣性力を利用して微粒子(エアロゾル)を分級し採取する。上流側から流入した試料大気の気流の進行方向を急激に変更することによって、微粒子の慣性運動の粒径依存性を利用して、一定の粒径以上の粒子を捕集ろ紙を衝突させて微粒子を捕集する。慣性インパクター部において、微粒子とガスはろ紙を通過しないため、ろ紙を通過する既存の方法で懸念されるろ紙上の捕集粒子と通気されるガスとの物質交換は最小限に抑えられる。
【0042】
また、慣性インパクター部21は複数層並べられるのがよい。インパクタープレート23に形成される貫通孔24の形状、直径サイズや下段のプレートまでの距離等により、捕集可能な微粒子のサイズが適宜調整できる。インパクタープレート23に形成される貫通孔24の形状は、例えば、
図4に示されるような形状が挙げられる。このため、それぞれの層において、異なる粒子サイズの微粒子を捕集することが可能となる。このとき、上流側から下流側にかけて微粒子の粒子径の大きい順に順次捕集するように複数層の慣性インパクター部21を配置すると、捕集効率が高くなる。さらに、インパクタープレート23の下流側には、下流側に向かってテーパー上に形成された気流を加速させる加速ノズル26を有するのがよい。
【0043】
上流側からクリアランス部に流入した試料大気は、インパクタープレート23に形成された貫通孔24へ向かって流れる。インパクタープレート23の貫通孔24は大気の流入方向から直線状に配置されないため、気体の流路は貫通孔24のある外側へと曲がる。一定以上の粒子は慣性によって外側へと曲がった気流に乗ることができずに捕集ろ紙22に衝突して捕集される。貫通孔の形状等をそれぞれ変更した慣性インパクター部を複数層接続することによって、任意の粒子サイズごとに微粒子を捕集することが可能となる。慣性インパクター部21は公知のものを使用することができる。
【0044】
本実施例の粒子吸着性化合物捕集エリア20においては、3段又は4段の慣性インパクター21を備え、上流から粒子径が10μm以上、2.5~10μm、1.0~2.5μmの粒子吸着性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を各層の慣性インパクター部により捕集する。そして、最下層には1.0μmよりも小さい粒子吸着性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集するために、複数の貫通孔24を有する円板状物28の上面に捕集ろ紙22を備えた極小微粒子捕集部29を形成した。なお、目的に応じて極小微粒子捕集部29は省略される場合がある。
【0045】
次に、粒子吸着性化合物捕集エリア20に接続される半揮発性化合物捕集エリア30について説明する。
図5に示されるように、半揮発性化合物捕集エリア30は、半揮発性のペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集するウレタンフォーム32よりなるウレタンフォームフィルター部31を備える。本実施例において、該ウレタンフォーム32は、直径47mm、長さ50mmの円筒形状のポリウレタンフォームをサンプラー円筒内に充填した。
【0046】
そして、半揮発性化合物捕集エリア30に接続される揮発性化合物捕集エリア40について説明する。揮発性化合物捕集エリア40は、
図5に示されるように、大気中に気体の状態で存在する揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集する吸着活性炭Cよりなるフィルター部41を備える。フィルター部41は複数層にして配置されてもよい。
【0047】
半揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を、揮発性化合物捕集エリア40よりも前段に配置される半揮発性化合物捕集エリア30で捕集することによって、揮発性化合物捕集エリア40に備えられたフィルター部41の吸着活性炭Cのミクロ孔が塞がれることを防止し、吸着性能の劣化の低減が期待できる。また、ウレタンフォームフィルター部31によって、粒子吸着性化合物捕集エリア20をすり抜けた微粒子を除去することができるため、揮発性化合物捕集エリア40のフィルター部41の性能劣化はさらに抑制される。
【0048】
このように、粒子(に吸着した化合物)、半揮発性化合物、揮発性化合物をそれぞれ異なるエリアで捕集することによって、粒子吸着性ペル及びポリフルオロアルキル化合物、半揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物、揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物のそれぞれを分別して捕集することができるため、それぞれの形態ごとのペル及びポリフルオロアルキル化合物を独立して分析することが可能になるとともに、共溶出現象を防ぎ測定装置における分析誤差を小さくし、測定精度を向上させることが可能となる。
【0049】
ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭は、繊維状活性炭又は粉末状活性炭よりなる。繊維状活性炭は、適宜の繊維を炭化し賦活して得た活性炭であり、例えばフェノール樹脂系、アクリル樹脂系、セルロール系、石炭ピッチ系等がある。繊維長や断面径等は適宜である。繊維断面径が大きすぎる場合は表面積が少なくなり、接触効率が低下するため吸着能力向上の点から、繊維断面径は30μm以下とすることが好ましい。
【0050】
粉末状活性炭の原料としては、木材(廃材、間伐材、オガコ)、コーヒー豆の絞りかす、籾殻、椰子殻、樹皮、果物の実等の原料がある。これらの天然由来の原料は炭化、賦活により細孔が発達しやすくなる。また廃棄物の二次的利用であるため安価に調達可能である。他にもタイヤ、石油ピッチ、ウレタン樹脂、フェノール樹脂等の合成樹脂由来の焼成物、さらには、石炭等も原料として使用することができる。活性炭の粒径が小さいとフィルター体とした時の密度は高くなり、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能が向上する。一方で、粒径が大きくなるとフィルター体とした時の密度は小さくなり、通気性が向上する。これらのことから、粉末状活性炭の平均粒子径は使用条件に応じて適宜調整され、通気性を確保しつつ、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能を向上させることができる。
【0051】
活性炭原料は、必要に応じて200℃~600℃の温度域で加熱炭化されることにより微細孔が形成される。続いて、活性炭原料は600℃~1200℃の温度域で水蒸気、炭酸ガスに曝露されて賦活処理される。この結果、各種の細孔が発達した活性炭は出来上がる。なお、賦活に際しては、他に塩化亜鉛賦活等もある。また、逐次の洗浄も行われる。
【0052】
こうして出来上がる活性炭の物性により、被吸着物質の吸着性能が規定される。本願発明の目的被吸着物質であるペル及びポリフルオロアルキル化合物を吸着する活性炭の吸着性能は、活性炭に形成された細孔の量を示す指標となる比表面積により規定される。なお、本明細書中、各試作例の比表面積はBET法(Brunauer,Emmett及びTeller法)による測定である。
【0053】
活性炭は細孔の孔径によっても規定される。活性炭のような吸着材の場合、ミクロ孔、メソ孔、マクロ孔のいずれの細孔も存在している。その中で、いずれの範囲の細孔をより多く発達させるかにより、活性炭の吸着対象、性能は変化する。本発明において所望される活性炭は、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分子を脱離可能に効果的に吸着することである。
【0054】
また、活性炭の表面に酸性官能基が存在する。活性炭の表面酸化により増加する酸性官能基は、主にカルボキシル基、フェノール性水酸基等の親水性基である。活性炭表面の酸性官能基は、捕集能力に影響を与える。これらの酸性官能基量については、表面酸化物量として把握することができる。活性炭の表面酸化物量が増加すると、活性炭表面の親水性が高まり、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の中でも、特に親水性基を有するフルオロテロマー化合物類の捕集性能が向上すると考えられる。
【0055】
活性炭の表面酸化物を増加させる手法としては、以下の手法が挙げられる。一つは、再度加熱工程を経ることで表面残基の酸化を促進させ、酸性官能基を増加させる手法である。すなわち空気または酸素雰囲気化における酸化である。あるいは、同時に空気雰囲気下にて温度25~40℃、湿度60~90%の空気も導入される。そこで、150~900℃にて1~10時間かけて加熱され、表面酸化物量が増加された活性炭を得ることができる。湿潤な空気を伴った加熱により活性炭表面に存在したアルキル基等の炭化水素基が酸化されたり、水の水酸基が表面に導入されたりして酸性官能基は増加すると考えられる。
【0056】
他には、酸化剤によって活性炭の表面を酸化させ、表面酸化物を増加させる手法である。酸化剤は、次亜塩素酸、過酸化水素等が挙げられる。これらの酸化剤を含む液に活性炭を浸漬後、乾燥することで、表面酸化物量を増加させた活性炭を得ることができる。当該活性炭の表面における酸性官能基の量は後記の各試作例のとおり、表面酸化物量として測定可能である。
【0057】
揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を脱離可能に吸着する活性炭の吸着性能は、後述の実施例により導き出されるように、比表面積を900m2/g以上とすることにより発揮される。活性炭の細孔が一定以上形成されることにより、該化合物の吸着性能が確保される。
【0058】
そして、揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着においては、活性炭に形成された細孔分布も寄与することがわかった。本明細書において、ミクロ孔は細孔直径が1nm以下の細孔を指し、後述の実施例により導き出されるように、ミクロ孔の細孔容積(Vmic)の合計が0.35cm3/g以上とすると、揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能が向上する。なお、本明細書中、各試作例の1nm以下のミクロ孔容積はMP法(Micropore法)による測定である。ミクロ孔が一定以上形成されることにより、該化合物が細孔中に捕集されやすくなると考えられる。
【0059】
また、本明細書において、メソ孔は細孔直径が2~60nmの範囲である細孔を指し、後述の実施例により導き出されるように、メソ孔の細孔容積(Vmet)の合計が0.02cm3/g以上とすると、揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能が向上する。なお、本明細書中、各試作例の2~60nmの範囲のメソ孔容積はDH法(Dollimore-Heal法)による測定である。DH法の測定によるため、測定対象は2.43~59.72nmの細孔とした。メソ孔が一定以上形成されることにより、該化合物がミクロ孔にまで容易に侵入可能となると考えられる。
【0060】
加えて、ミクロ孔の細孔容積とメソ孔の細孔容積の差も効率的なペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着に寄与していると考えられる。後述の実施例により導き出されるように、ミクロ孔容積の和(Vmic)とメソ孔容積の和(Vmet)との容積差(Vs)を0.45以上とすることにより、揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を効率的に脱離可能に吸着することができる。メソ孔を発達させすぎないことに加え、ミクロ孔を良好に発達させた活性炭とすることにより、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能を向上させつつ、後の抽出操作時において、該化合物がスムーズに脱離可能とされることにより、定量測定が良好に行われることができると考えられる。
【0061】
次に、表面酸化物量は0.10meq/g以上とすることにより、活性炭表面の親水性を高め、ペル及びポリフルオロアルキル化合物を効率的に吸着することができる。
【実施例】
【0062】
〔大気中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集性能の検討1〕
[サンプラーの作成]
発明者らは、ペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集サンプラーを作成するため、下記の構成でポリプロピレン樹脂を用いてサンプラーを作成した。
【0063】
・吸気部
吸気孔:内径11.0mm
・粒子吸着性化合物捕集エリア
1段目:10μm以上の微粒子を捕集する粒子吸着性化合物捕集エリア
クリアランス部:内径(直径)40mm
捕集ろ紙:石英繊維フィルター、直径25mm
インパクタープレート:
図4(a)の形状、直径47mm
連結孔:内径(直径)4.3mm
2段目:2.5~10μmの微粒子を捕集する粒子吸着性化合物捕集エリア
クリアランス部:内径(直径)40mm
捕集ろ紙:石英繊維フィルター、直径25mm
インパクタープレート:
図4(a)の形状、直径47mm
連結孔:内径(直径)2.2mm
3段目:1.0~2.5μmの微粒子を捕集する粒子吸着性化合物捕集エリア
クリアランス部:内径(直径)40mm
捕集ろ紙:石英繊維フィルター、直径25mm
インパクタープレート:
図4(a)の形状、直径47mm
連結孔:内径(直径)40mm
4段目:1.0μm以下の微粒子を捕集する粒子吸着性化合物捕集エリア
クリアランス部:内径(直径)40mm
捕集ろ紙:石英繊維フィルター、直径47mm
インパクタープレート:
図4(b)の形状、直径47mm
連結孔:内径(直径)40mm
【0064】
各粒子吸着性化合物捕集エリアの捕集ろ紙には、柴田科学株式会社製の石英繊維フィルターを使用した。
【0065】
・半揮発性化合物捕集エリア
ウレタンフォームフィルター部:ポリウレタンフォーム(柴田科学株式会社製)、直径47mm、高さ50mm
【0066】
・揮発性化合物エリア
下記の吸着活性炭の試作例1~5を使用して円形シート(直径47mm、厚み2mm)を作成し、フィルター部とし、2枚重ねて配置した。
【0067】
[使用活性炭吸着材]
発明者らは、ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭を作成するため、下記の原料を使用した。
・繊維状活性炭
フタムラ化学株式会社製:繊維状活性炭「CF」(平均繊維径:15μm)
{以降、C1と表記する。}
フタムラ化学株式会社製:繊維状活性炭「FE3010」(平均繊維径:15μm)
{以降、C2と表記する。}
フタムラ化学株式会社製:繊維状活性炭「FE3012」(平均繊維径:15μm)
{以降、C3と表記する。}
フタムラ化学株式会社製:繊維状活性炭「FE3013」(平均繊維径:15μm)
{以降、C4と表記する。}
フタムラ化学株式会社製:繊維状活性炭「FE3015」(平均繊維径:15μm)
{以降、C5と表記する。}
フタムラ化学株式会社製:繊維状活性炭「FE3018」(平均繊維径:15μm)
{以降、C6と表記する。}
・粒状活性炭
フタムラ化学株式会社製:ヤシ殻活性炭「CW480SZ」(平均粒径:250μm)
{以降、C7と表記する。}
フタムラ化学株式会社製:フェノール樹脂活性炭「QW250」(平均粒径:250μm)
{以降、C8と表記する。}
【0068】
[活性炭の処理]
<試作例1>
FE3010と同原料であるフェノール樹脂繊維を600℃で炭化した繊維状活性炭「CF」(C1)を試作例1の活性炭とした。
【0069】
<試作例2>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3015」(C5)を試作例2の活性炭とした。
【0070】
<試作例3>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3010」(C2)10gを、過酸化水素濃度6%溶液500mlに浸漬させ、150時間静置後、取り出して乾燥させ試作例3の活性炭とした。
【0071】
<試作例4>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3015」(C5)10gを、過酸化水素濃度6%溶液500mlに浸漬させ、70時間静置後、取り出して乾燥させ試作例4の活性炭とした。
【0072】
<試作例5>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3018」(C6)10gを、過酸化水素濃度6%溶液500mlに浸漬させ、50時間静置後、取り出して乾燥させ試作例5の活性炭とした。
【0073】
[吸着活性炭の測定]
表面酸化物量(meq/g)は、Boehmの方法を適用し、0.05N水酸化ナトリウム水溶液中において各例の吸着活性炭を振とうした後に濾過し、その濾液を0.05N塩酸で中和滴定した際の水酸化ナトリウム量とした。
【0074】
比表面積(m2/g)は、マイクロトラック・ベル株式会社製、自動比表面積/細孔分布測定装置「BELSORP-miniII」を使用して77Kにおける窒素吸着等温線を測定し、BET法により求めた(BET比表面積)。
【0075】
平均細孔直径(nm)は、細孔の形状を円筒形と仮定し、前述の測定から得た細孔容積(ml/g)及び比表面積(m2/g)の値を用いて数式(vi)より求めた。
【0076】
【0077】
各試作例の吸着活性炭の物性は表1のとおりである。表1の上から順に、表面酸化物量(meq/g)、BET比表面積(m2/g)、平均細孔直径(nm)、平均繊維径(μm)である。
【0078】
【0079】
[大気中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集効率の測定1]
粒子吸着性化合物捕集エリアにおける大気中の粒子吸着性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集実験と、半揮発性化合物捕集エリアにおける半揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物及び揮発性化合物捕集エリアにおける揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集実験をそれぞれ行った。
【0080】
[粒子吸着性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集実験1]
実施例に記載の粒子吸着性化合物捕集エリアで構成されたサンプラーを屋外に設置し、通気量20l/minで48時間通気し、粒子吸着性化合物捕集エリアの各段の捕集ろ紙上に捕集された微粒子量を測定した。表2に測定月とそれぞれの粒子サイズごと(各段)の捕集量(μg/m3)を示す。
【0081】
【0082】
微粒子量を算出した後、2017年11月に捕集した微粒子に付着したPFOS量とPFOA量を以下の手順で定量評価を行った。
【0083】
通気後、各段の捕集ろ紙を15mlのジクロロメタンと酢酸エチルを主成分とする混合溶媒を用いて十分に接触撹拌させた後に、遠心分離を行い固液分離し、抽出液を採取した。
【0084】
該抽出液を、GC-MS/MS(Waters社製QuatrimicroGC)を用いてMRMモードで定量測定を行い、捕集性能を確認した。
【0085】
表3に、粒子径ごと(各段)の微粒子に付着したPFOS及びPFOAの回収量(pg/m3)を示した。定量測定は4回行った。
【0086】
【0087】
[粒子吸着性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集実験の結果と考察1]
表2及び表3に示される通り、粒子吸着性化合物捕集エリアにおいて大気中の微粒子の捕集性能が確認され、さらに該微粒子に吸着したPFOS及びPFOAを定量することが可能であることが確認された。
【0088】
[半揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集実験1及び揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集実験1]
上述の半揮発性化合物捕集エリア及び各試作例の活性炭よりなるフィルター部を備えた揮発性化合物捕集エリアを用いて、半揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物及び揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を対象に捕集実験を行った。
【0089】
ペル及びポリフルオロアルキル化合物として、今回はFTOHs及びエチルペルフルオロオクタンスルホアミド(IUPAC名:N-エチル-1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ヘプタデカフルオロオクタン-1-スルホアミド)(以降「N-EtFOSA」と表記する。)を用いて評価を行った。FTOHsは、炭素数によって物質名が異なる。例えば、C8F17CH2CH2OHの場合は、8:2FTOH(IUPAC名:3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10-ヘプタデカフルオロ-1-デカノール)と命名される。N-EtFOSAは以下の化学式(vii)に表される物質である。
【0090】
【0091】
各標準物質(4:2FTOH(IUPAC名:3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロ-1-ヘキサノール)、6:2FTOH(IUPAC名:3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロ-1-オクタノール)、8:2FTOH、10:2FTOH(IUPAC名:3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,12,12,12-ヘンイコサフルオロ-1-ドデカノール)、N-EtFOSAとN-EtFOSE)をメタノールで100ppbに希釈したものを、半揮発性化合物捕集エリアのウレタンフォームフィルター部に100μl添加した。続いて、22~24℃の空気を20l/minの速度で、半揮発性化合物捕集エリア及び揮発性化合物捕集エリアに48時間通気した。
【0092】
通気後、ウレタンフォームフィルター部及び各試作例の活性炭よりなるフィルター部を取り出し、15mlのジクロロメタンと酢酸エチルを主成分とする混合溶媒を用いて充分に接触撹拌させた後に、遠心分離を行い固液分離し、抽出液を採取した。
【0093】
該抽出液を、GC-MS/MS(Waters社製QuatrimicroGC)を用いてMRMモードで定量測定を行い、捕集性能を確認した。
【0094】
表4に、ウレタンフォームフィルター部の対象物質ごとの回収率(%)を示した。定量測定は4回行った。なお、表中、「ND」とは、定量下限値以下であることを示している。
【0095】
【0096】
表5に各試作例の活性炭よりなるフィルター部の対象物質ごとの回収率(%)を示した。定量測定は4回行った。
【0097】
なお、表中、「ND」とは、定量下限値以下であることを示している。また、質量数が同一フラグメントに影響する共溶出現象により150%以上の回収率となる場合がみられた。
【0098】
【0099】
[半揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物及び揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集実験の結果と考察1]
表4に示されるように、半揮発性化合物捕集エリアのウレタンフォームフィルター部においては、N-EtFOSEが特異的に捕集され、どの試作例のサンプラーにおいても回収率がおおよそ100%を示した。また、ウレタンフォームフィルター部において、すべてのフルオロテロマーアルコール類が検出限界以下であり、半揮発性化合物捕集エリアと揮発性化合物捕集エリアは物性ごとに選択的捕集が可能であることがわかった。
【0100】
そして、表5に示されるように、試作例3~5については、いずれのFTOHsの捕集率においても良好な結果であった。試作例1では、4:2FTOHと10:2FTOHが検出限界以下という結果であり、吸着ができていなかった。また、6:2FTOHおよび8:2FTOHについてもいずれも10%に満たない捕集率であり、十分な捕集性能を備えていないことがわかった。また、試作例2では10:2FTOHの捕集性能は十分であったが、4:2FTOH、6:2FTOH、8:2FTOHについては50%を下回る捕集性能であり、十分な捕集性能を備えていないことがわかった。
【0101】
試作例1は対象物質の捕集をする為に必要な細孔および比表面積を有していないため、捕集性能が十分に発揮されなかったと推察される。また、試作例2については、比表面積は十分であった可能性はあるが、表面が疎水性であったため、親水性である各種FTOHsが十分に捕集できなかったと推察される。
【0102】
試作例3~5については、4:2FTOH、6:2FTOH、8:2FTOH、10:2FTOHのいずれの捕集率も50%以上の捕集性能を有しており、優れた捕集性能を有していた。これらは全て活性炭表面に酸化処理を行った試験例であり、酸化処理の有無、すなわち活性炭の表面酸化物量が大きいことが、高捕集性能が得られた要因と推察される。
【0103】
中でも試作例4については、4:2FTOH、6:2FTOH、8:2FTOH、10:2FTOHのいずれの捕集率も70%以上の高捕集率を有しており、最も良好な捕集性能が確認された。
【0104】
N-EtFOSAの捕集率については、試作例1の捕集率は50%を下回っており十分な捕集性能を備えていないことがわかった。試作例2は50%は上回っているものの、まだまだ十分な捕集性能とはいえない。
【0105】
試作例3~5については、いずれにおいてもN-EtFOSAの捕集率は100%を上回っており十分な捕集性能を有していた。試作例2と同比表面積である試作例4は、活性炭表面が酸化されることにより大幅に捕集性能が向上することを示唆している。つまり、N-EtFOSAに対しては、試作例3の比表面積が必要であり、かつ活性炭表面の酸性基が増加されていることで十分な捕集性能を備えさせることが可能となる。
【0106】
各試作例を総合的にみると、試作例1においては、4:2FTOH、6:2FTOH、8:2FTOH、10:2FTOHのいずれの捕集性能も十分とはいえず、捕集材としては適していない。試作例2は10:2FTOHの捕集性能は優れており、10:2FTOH専用の捕集材としては使用できる可能性がある。しかし、4:2FTOH、6:2FTOH、8:2FTOH、10:2FTOH、及びN-EtFOSAを全てバランスよく捕集するという観点においては、試作例3~5がペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集性能に優れているといえる。
【0107】
以上述べたように、半揮発性化合物捕集エリアにおいては半揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物であるN-EtFOSAが効率よく捕集され、該化合物の回収率はほぼ100%であった。そして、揮発性化合物捕集エリアのフィルター部においては該化合物は検出されなかったことから、それぞれの捕集エリアにおいて、半揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物と揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が分別されて効率的に捕集されることが可能であることが判明した。
【0108】
半揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が揮発性化合物捕集エリアの前段に配置される半揮発性化合物捕集エリアにおいて分別捕集されることによって、揮発性化合物捕集エリアのフィルター部の吸着活性炭のミクロ孔の閉塞が防止され、吸着性能の劣化の低減が期待できる。また、分別して捕集によって、測定時の共溶出現象を防ぎ、測定装置における分析誤差を小さくし、測定精度を向上させることが可能となる。
【0109】
このように、粒子に吸着したペル及びポリフルオロアルキル化合物、半揮発性のペル及びポリフルオロアルキル化合物及び揮発性のペル及びポリフルオロアルキル化合物をそれぞれ異なる捕集エリアにおいて捕集することによって、それぞれの化合物を分別して捕集することが可能となり、すべての形態のペル及びポリフルオロアルキル化合物が良好に測定することが可能となることが判明した。
【0110】
〔揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集性能の検討2〕
次に、発明者らは下記の活性炭の試作例6~21を用いて、GC-MS/MS(「GCMS―TQ8050」、株式会社島津製作所製)のMRMモードの最適なトランジションとコリジョンエネルギーを再検討し、より精度の高い分析条件の下、大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集実験2を行った。
【0111】
[活性炭の処理2]
<試作例6>
フタムラ化学製繊維状活性炭「CF」(C1)10gを試作例6の活性炭とした。
【0112】
<試作例7>
フタムラ化学製繊維状活性炭「CF」(C1)10gを過酸化水素濃度4.2%溶液500mlに浸漬させ、220時間静置後、取り出して乾燥させ試作例7の活性炭とした。
【0113】
<試作例8>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3010」(C2)10gを試作例8の活性炭とした。
【0114】
<試作例9>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3010」(C2)10gを過酸化水素濃度4.2%溶液500mlに浸漬させ、150時間静置後、取り出して乾燥させ試作例9の活性炭とした。
【0115】
<試作例10>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3012」(C3)10gを試作例10の活性炭とした。
【0116】
<試作例11>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3012」(C3)10gを過酸化水素濃度4.2%溶液500mlに浸漬させ、100時間静置後、取り出して乾燥させ試作例11の活性炭とした。
【0117】
<試作例12>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3013」(C4)10gを過酸化水素濃度1.5%溶液500mlに浸漬させ、70時間静置後、取り出して乾燥させ試作例12の活性炭とした。
【0118】
<試作例13>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3015」(C5)10gを試作例13の活性炭とした。
【0119】
<試作例14>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3015」(C5)10gを過酸化水素濃度1.5%溶液500mlに浸漬させ、40時間静置後、取り出して乾燥させ試作例14の活性炭とした。
【0120】
<試作例15>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3015」(C5)10gを過酸化水素濃度4.2%溶液500mlに浸漬させ、70時間静置後、取り出して乾燥させ試作例15の活性炭とした。
【0121】
<試作例16>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3015」(C5)10gを過酸化水素濃度14.0%溶液500mlに浸漬させ、350時間静置後、取り出して乾燥させ試作例16の活性炭とした。
【0122】
<試作例17>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3015」(C5)10gを過酸化水素濃度18.9%溶液500mlに浸漬させ、480時間静置後、取り出して乾燥させ試作例17の活性炭とした。
【0123】
<試作例18>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3018」(C6)10gを試作例18の活性炭とした。
【0124】
<試作例19>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3018」(C6)10gを過酸化水素濃度4.2%溶液500mlに浸漬させ、50時間静置後、取り出して乾燥させ試作例19の活性炭とした。
【0125】
<試作例20>
フタムラ化学製ヤシ殻活性炭「CW480SZ」(C7)10gを過酸化水素濃度4.2%溶液500mlに浸漬させ、70時間静置後、取り出して乾燥させ試作例20の活性炭とした。
【0126】
<試作例21>
フタムラ化学製フェノール樹脂活性炭「QW250」(C8)10gを過酸化水素濃度4.2%溶液500mlに浸漬させ、70時間静置後、取り出して乾燥させ試作例21の活性炭とした。
【0127】
[吸着活性炭の測定2]
試作例6~21の表面酸化物、比表面積及び平均細孔直径は上記「吸着活性炭の測定1」と同様に求めた。
【0128】
〔ミクロ孔容積〕
細孔容積については、自動比表面積/細孔分布測定装置(「BELSORP-miniII」、マイクロトラック・ベル株式会社製)を使用し、窒素吸着により測定した。試作例6~21の細孔直径1nm以下の範囲の細孔容積であるミクロ孔容積の和(Vmic)(cm3/g)は、細孔直径1nm以下の範囲におけるdV/dDの値を窒素ガスの吸着等温線のt-plotからMP法により解析して求めた。
【0129】
〔メソ孔容積〕
細孔直径が2~60nmの範囲におけるdV/dDの値は、窒素ガスの吸着等温線からDH法により解析した。なお、解析ソフトにおける細孔直径2~60nmの直径範囲は2.43~59.72nmである。この解析結果より、試作例6~21細孔直径2~60nmの範囲の細孔容積であるメソ孔容積の和(Vmet)(cm3/g)を求めた。
【0130】
〔容積差〕
試作例6~21の容積差(Vs)は、ミクロ孔容積の和(Vmic)(cm3/g)からメソ孔容積の和(Vmet)(cm3/g)を引いた値であって、上記(i)式から算出した。
【0131】
試作例6~21の活性炭の物性は表6~8のとおりである。表6の上から順に、表面酸化物量(meq/g)、BET比表面積(m2/g)、平均細孔直径(nm)、ミクロ孔容積(Vmic)(cm3/g)、メソ孔容積(Vmet)(cm3/g)、容積差(Vs)(cm3/g)である。
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
[揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集実験2]
ペル及びポリフルオロアルキル化合物として、上記捕集実験1と同様にFTOHsを用いて試作例6~21について評価を行った。
【0136】
各標準物質をメタノールで100ng/ml(100ppb)に希釈したものを軟質ポリウレタンフォーム(PUF)に100μl添加し、1段目にセットした。続いて、2段目に47mmφのケースに充填時の厚みが約2mmになるよう試作例の活性炭を充填し、20l/minの速度で22~24℃の空気を1段目のPUF及び2段目の吸着活性炭に48時間通気した。
【0137】
通気後、試作例の活性炭をPP製の遠沈管(容量15ml)に移し、ジクロロメタンと酢酸エチルを主成分とする混合溶媒10mlを加えた。遠沈管を225rpmで10分間振とうした後、抽出液を採取した。この抽出液の採取工程を続けて2回繰り返し行い、合計30mlの抽出液を採取した。
【0138】
採取した抽出液を窒素吹き付け濃縮装置により1mlまで濃縮した後、該抽出液をGC-MS/MS(「GCMS―TQ8050」、株式会社島津製作所製)を用いてMRMモードで定量測定を行い、捕集性能を確認した。
【0139】
表9~11に、試作例6~21の活性炭について対象物質ごとにフルオロテロマーアルコール類(FTOHs)の回収率(%)を示した。対象物質は、4:2FTOH(IUPAC名:3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロ-1-ヘキサノール)、6:2FTOH(IUPAC名:3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロ-1-オクタノール)、8:2FTOH、10:2FTOH(IUPAC名:3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,12,12,12-ヘンイコサフルオロ-1-ドデカノール)である。
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
なお、表中、「ND」とは、定量下限値以下であることを示している。捕集実験1と比較して、各数値は、質量分析の測定値のバラつきを抑えることができた。
【0144】
[揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集実験の結果と考察2]
試作例6~9は、いずれのFTOHにおいても回収率は定量下限値以下であり、対象物質の吸着が不十分であった。対象物質の吸着に必要な細孔ないし比表面積を有していないため、吸着性能が発揮されなかったと推察される。
【0145】
試作例10~21は、いずれのFTOHについても回収可能であった。BET比表面積が900m2/g以上とすると、対象物質の吸着が可能であることが示された。活性炭の比表面積のパラメータが各FTOHの吸着性能に一定の影響があることが推察される。また、特に繊維状活性炭である試作例10~19はいずれのFTOHの回収率において50%以上の良好な結果であった。対象物質と活性炭との接触効率の観点から、繊維状活性炭とするとより効率よくFTOHの吸着が可能であると考えられる。
【0146】
さらに、ミクロ孔とメソ孔が発達した活性炭とすると、いずれのFTOHについての吸着性能が高くなることも示された。試作例6,7は、ミクロ孔及びメソ孔がともに発達しておらず、いずれのFTOHも吸着されなかったと考えられる。試作例8,9はミクロ孔の発達はみられるがメソ孔が発達していないため、活性炭の細孔の入り口側に存在するメソ孔が少なく、ミクロ孔内にFTOHの分子がスムーズに導入されず、吸着されなかったと考えられる。
【0147】
試作例10~21はミクロ孔及びメソ孔いずれの細孔容積も大きく、どちらの細孔も十分に発達していると考えられるため、FTOHの分子が活性炭の細孔内にスムーズに導入され、優れた吸着性能が示されたと推察できる。試作例12~19は、特に優れたFTOHの回収性能を示した。試作例12~19はいずれもミクロ孔の細孔容積が大きく、かつメソ孔の細孔の発達がみられるもののメソ孔の細孔容積がそれほど大きくないことが特徴である。ミクロ孔内にFTOHの分子を吸着後、抽出操作時においてスムーズに細孔外へと脱離されやすいため、特に良好な回収率が示されたと考えられる。
【0148】
対して、試作例20,21は、ミクロ孔及びメソ孔の細孔容積がともに大きいことから、大きな細孔から小さな細孔まで複雑に発達した細孔を有する活性炭であるといえる。複雑に発達した細孔内に吸着されたFTOHの分子は、抽出操作時において、スムーズに脱離されにくくなり、試作例12~19に比してFTOHの回収率に若干劣ることとなったと推察される。これらの結果を鑑みると、活性炭のミクロ孔の細孔容積の和(Vmic)、メソ孔の細孔容積の和(Vmet)及びこれらの差分である容積差(Vs)がFTOHの回収率に影響があることが理解される。
【0149】
また、活性炭の細孔条件に加え、表面酸化物量を向上させることにより、親水性基を有するFTOHとの親和性を向上させてFTOHの吸着性能が向上するか検討したところ、同じ活性炭原料の試作例13と試作例14~17とでは、表面酸化物量を増加させた試作例14~17の方が良好な吸着性能が示された。同様に、試作例18と試作例19においても表面酸化物量の多い試作例19の方がより良い吸着性能が示された。よって、活性炭の表面酸化物量を増加させることにより、FTOHの吸着性能をより向上させることが可能であることが理解される。
【0150】
以上揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集実験1及び2示されたように、吸着活性炭のBET比表面積や細孔条件、表面酸化物量を一定以上とすることにより、揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能が大きく向上することが理解された。これにより揮発性化合物捕集エリアのフィルター部の吸着活性炭の揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着を効果的に行うことができるため、すべての形態のペル及びポリフルオロアルキル化合物の包括的な定量分析の精度をさらに向上させることができることが示された。
【0151】
〔大気中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集性能の検討2〕
発明者らは上記実験の結果、大気中のすべての形態のペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集が可能であることが示されたため、実環境下におけるペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量評価実験を行った。
【0152】
[サンプラーの作成2]
発明者らは、ペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集サンプラーを作成するため、下記の構成でポリプロピレン樹脂を用いてサンプラーを作成した。
【0153】
・吸気部
吸気孔:内径11.0mm
・粒子吸着性化合物捕集エリア
1段目:10μm以上の微粒子を捕集する粒子吸着性化合物捕集エリア
クリアランス部:内径(直径)40mm
捕集ろ紙:石英繊維フィルター、直径25mm
インパクタープレート:
図4(a)の形状、直径47mm
連結孔:内径(直径)4.3mm
2段目:2.5~10μmの微粒子を捕集する粒子吸着性化合物捕集エリア
クリアランス部:内径(直径)40mm
捕集ろ紙:石英繊維フィルター、直径25mm
インパクタープレート:
図4(a)の形状、直径47mm
連結孔:内径(直径)2.2mm
3段目:1.0~2.5μmの微粒子を捕集する粒子吸着性化合物捕集エリア
クリアランス部:内径(直径)40mm
捕集ろ紙:石英繊維フィルター、直径25mm
インパクタープレート:
図4(a)の形状、直径47mm
連結孔:内径(直径)40mm
【0154】
各粒子吸着性化合物捕集エリアの捕集ろ紙には、柴田科学株式会社製の石英繊維フィルターを使用した。
【0155】
・半揮発性化合物捕集エリア
ウレタンフォームフィルター部:ポリウレタンフォーム(柴田科学株式会社製)、直径47mm、高さ50mm
【0156】
・揮発性化合物エリア
吸着活性炭の試作例10を使用して円形シート(直径47mm、厚み2mm)を作成し、フィルター部とし、2枚重ねて配置した。
【0157】
[実環境下でのペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集実験]
上記構成のサンプラーを茨城県つくば市(2020年4月)及び岐阜県美濃加茂市内(2020年5月)の屋外に設置し、通気量20l/minで72時間通気して、実環境下での大気中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集実験を行った。
【0158】
まず、茨城県つくば市内における捕集実験は気温2~21℃(平均11℃)、相対湿度31~100%(平均71%)の条件下であって、実験結果を表12~15に示す。次に、岐阜県美濃加茂市内における捕集実験は気温16~27℃(平均22℃)、相対湿度43~88%(平均65%)の条件下であって、実験結果を表16~19に示す。
【0159】
ペル及びポリフルオロアルキル化合物として、粒子吸着性化合物捕集エリアでは、ペルフルオロカルボン酸類(以降、「PFCAs」と表記する。)として、6:2FTUCA(IUPAC名:3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ドデカフルオロ-2-オクテン酸),PFBA,PFPeA,PFHxA,PFOA,PFNA,PFUnDA,PFDoDA,PFTrDA,PFTeDA,PFHxDA,8:2diPAP,HFPODAと、ペルフルオロ酸類(以降、「PFSAs」と表記する。)として、PFBS,PFOS,PFDS,6:2FTSA(以上、ISO21675:2019より)の計測を行った。
【0160】
半揮発性化合物捕集エリアでは、前出のPFCAsとPFSAsに加え、ペルフルオロオクタン酸類(以降、「FOSAs」と表記する。)としてのFOSA,N-MeFOSA(以上、ISO21675:2019より)と、ペルフルオロオクタンスルホン酸類(以降、「FOSEs」と表記する。)としてのN-MeFOSE,N-EtFOSEの計測を行った。なお、サロゲートとしてN-MeFOSE,N-EtFOSEを用い、回収率(%)の測定も行った。
【0161】
揮発性化合物捕集エリアでは、FTOHsとしての4:2FTOH,6:2FTOH,8:2FTOH,10:2FTOHを用い、フッ素テロマーヨード類(以降、「FTIs」と表記する。)としての6:2FTI,8:2FTI,10:2FTIの計測を行った。FTIは以下の化学式(viii)に表される物質である。なお、サロゲートとして4:2FTOH,6:2FTOH,8:2FTOH,10:2FTOHを用い、回収率(%)の測定も行った。
【0162】
【0163】
通気後のサンプラーを回収し、粒子吸着性化合物捕集エリアの各段の捕集ろ紙をPP製試験管に入れてメタノールを4ml加え20分振とうした後、別のPP製試験管に浸透液を移す作業を3回繰り返し抽出液を採取した。該抽出液に窒素吹付濃縮を行い1mlに定容し、LC-MS/MS(「LCMS―8030」、株式会社島津製作所製)を用いてMRMモードで粒子吸着性化合物捕集エリアで捕集されたペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量測定を行った。
【0164】
また、半揮発性化合物捕集エリアのウレタンフォームフィルター部をPP製シリンジに詰めてジクロロメタンと酢酸エチルの混合溶媒18mlを1滴/秒(1drop/second)の速度で通液し、PP製試験管で抽出液A-1を得た。さらにメタノールを15mlを1滴/秒(1drop/second)の速度で通液し、PP製試験管で抽出液Bを得た。抽出液A-1及びBに窒素吹付濃縮を行い1mlに定容した。抽出液A-1から別のPP製試験管に300μl分取し、溶媒をメタノールに置換して抽出液A-2を得た。抽出液A-1はGS-MS/MS、抽出液A-2及びBはLC-MS/MSを用いてMRMモードで半揮発性化合物捕集エリアで捕集されたペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量分析を行い全ての値を合算して算出した。
【0165】
揮発性化合物捕集エリアの吸着活性炭からなるフィルター部をPP製試験管に入れ、ジクロロメタンと酢酸エチルの混合溶媒を10ml加え、10分間振とうした後、別のPP製試験管に浸透液を移す作業を2回繰り返し、抽出液を採取した。該抽出液に窒素吹付濃縮を行い1mlに定容し、GS-MS/MSを用いてMEMモードで揮発性化合物捕集エリアで捕集されたペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量分析を行った。
【0166】
表12,16は粒子吸着性化合物捕集エリアにおける試料大気に対するペル及びポリフルオロアルキル化合物の濃度(pg/m3)を示し、表13,17は、粒子吸着性化合物捕集エリアにおいて捕集した粒子の、捕集量(mg)、粒子濃度(μg/m3)、粒子中ペル及びポリフルオロアルキル化合物濃度(μg/g)を示し、表14,18は半揮発性化合物捕集エリアにおける試料大気に対するペル及びポリフルオロアルキル化合物の濃度(pg/m3)を示し、表15,19は、揮発性化合物捕集エリアにおける試料大気に対する揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の濃度(pg/m3)を示す。
【0167】
〔試料大気に対するペル及びポリフルオロアルキル化合物の濃度〕
表12,14~16,18,19は、試料大気に対するペル及びポリフルオロアルキル化合物の濃度(pg/m3)を示す。ペル及びポリフルオロアルキル化合物の濃度は、各捕集エリアにおいて捕集されたペル及びポリフルオロアルキル化合物(対象物質)の捕集量(pg)をサンプラーを通気した積算流量(m3)で除して求めた値であって、下記の数式(ix)より求めた。なお、表中「BLANK」は、実験を行う前の捕集ろ紙、ウレタンフォームフィルター部、フィルター部に同様の測定を行い検出された数値であり、「LOQ」は、測定装置の各物質の定量測定が可能な下限値を示す。「-」は、定量下限値以下であることを示している。
【0168】
【0169】
〔捕集量〕
表13,17は、粒子吸着性化合物捕集エリアで捕集された粒子と粒子吸着性ペル及びポリフルオロアルキル化合物について示す。粒子の捕集量(mg)は、実験後のフィルター重量と捕集実験を行う前のフィルターの重量の差として算出した。フィルターの重量は、精密天秤(株式会社エー・アンド・デイ製、マイクロ電子天秤「BM-20」)を使用し、温度25±1℃、湿度35~40%に調整された空間で1μgまで秤量した。
【0170】
〔粒子濃度〕
粒子濃度(μg/m3)は、上記した捕集量(mg)をサンプラーを通気した積算流量(m3)で除して求めた値であって、下記の数式(x)より求めた。
【0171】
【0172】
〔捕集粒子中のペル及びポリフルオロアルキル化合物濃度〕
捕集された粒子中に付着したペル及びポリフルオロアルキル化合物の濃度を表13及び17中、PFAS濃度と表記する。PFAS濃度(μg/g)は、粒子の捕集量に対する検出されたペル及びポリフルオロアルキル化合物(PFAS)の割合を示す値である。粒子吸着性化合物捕集エリアでのペル及びポリフルオロアルキル化合物の濃度の総和(pg/m3)を粒子濃度(μg/m3)で除して求めた値であって、下記の数式(xi)より求めた。
【0173】
【0174】
【0175】
【0176】
【0177】
【0178】
【0179】
【0180】
【0181】
【0182】
[実環境下でのペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集実験の結果と考察]
図12~19に示されるように、異なる地域での実環境下における捕集実験においても、各捕集エリアにおいて、目的の形態のペル及びポリフルオロアルキル化合物をそれぞれ良好に捕集することが可能であることが示された。
【0183】
表12,13,16及び17に示される粒子吸着性化合物捕集エリアにおいては、粒子吸着性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が検出され、良好な捕集が実現されたといえる。また、検出された粒子吸着性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の種類はそれぞれの地域において似た傾向で検出されたものの、異なる種類の粒子吸着性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が捕集されたり、ペル及びポリフルオロアルキル化合物が付着している粒子の粒子径が異なっているほか、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の濃度や量にも特徴がみられるなどの差異が判明し、粒子吸着性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量測定に用いられるサンプラーとしての有意性が示されたといえる。
【0184】
また、表14及び18に示される半揮発性化合物捕集エリアにおいても、半揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が良好に捕集されたといえる。なお、粒子吸着性ペル及びポリフルオロアルキル化合物がそれぞれの地域でも半揮発性化合物捕集エリアにおいて検出されていることから、粒子吸着性化合物捕集エリアにおいて、より小さい粒子径の粒子を捕集可能な粒子吸着性化合物捕集エリアをセットすることにより形態ごとのペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集の精度をさらに向上させることができると考えられる。
【0185】
粒子吸着性化合物捕集エリアと同様に、それぞれの地域ごとに検出される半揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の種類や量等の差異がみられることから、半揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量測定に用いられるサンプラーとしての有意性が示されたといえる。なお、サロゲートとして用いたN-MeFOSE及びN-EtFoseが良好に測定されていることから、半揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物のサンプラーとしての精度が高いことも示されている。
【0186】
表15及び19に示される揮発性化合物捕集エリアにおいても、揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物は良好に捕集された。前掲の他の形態のペル及びポリフルオロアルキル化合物と同様に、捕集されたペル及びポリフルオロアルキル化合物には地域差がみられ、揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量測定に用いられるサンプラーとしての有意性が示された。サロゲートとして用いたFTOHsの回収も良好であることから、揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物のサンプラーとしての精度が高いことも示されている。
【0187】
上述したように、本発明に係るサンプラーを用いることによって、各捕集エリアで形態ごとに良好なペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集結果が得られた。つまり、本発明に係るペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集サンプラーは、大気中に存在するペル及びポリフルオロアルキル化合物を、効率よく総合的に捕集可能であって、さらには、形態ごとに分別して捕集可能であるとともに精度の高い定量測定が可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0188】
本発明のペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集サンプラーは、様々な形態で大気中に存在するペル及びポリフルオロアルキル化合物を、該化合物の形態ごとに総合的に捕集することができるため、既存の捕集剤では不可能であった該化合物の定量測定を可能とするとともに、捕集材としての活性炭の物性をコントロールすることにより、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能を高め、より精度の高い効果的な定量測定を可能とした。このことから、規制対象となりうる環境残留性有機汚染物質としてのペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量評価に貢献が可能となった。
【符号の説明】
【0189】
10 サンプラー
20 粒子吸着性化合物捕集エリア
21 慣性インパクター部
22 捕集ろ紙
23 インパクタープレート
24 貫通孔
25 クリアランス部
26 加速ノズル
27 連結孔
28 円板状物
29 極小粒子捕集部
30 半揮発性化合物捕集エリア
31 ウレタンフォームフィルター部
32 ウレタンフォーム
40 揮発性化合物捕集エリア
41 フィルター部
C 吸着活性炭