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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】カルボン酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/055 20060101AFI20240925BHJP
   C07C 69/54 20060101ALI20240925BHJP
   C07C 69/24 20060101ALI20240925BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20240925BHJP
   B01J 27/13 20060101ALI20240925BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240925BHJP
【FI】
C07C67/055
C07C69/54 Z
C07C69/24
B01J31/22 Z
B01J27/13 Z
C07B61/00 300
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021002387
(22)【出願日】2021-01-08
(65)【公開番号】P2022107437
(43)【公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-10-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】永村 裕生
(72)【発明者】
【氏名】富永 健一
(72)【発明者】
【氏名】畑中 雅隆
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-156790(JP,A)
【文献】米国特許第08697909(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 67/055
C07C 69/54
C07C 69/24
B01J 31/22
B01J 27/13
C07B 61/00
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルケンと炭酸エステルとを金属触媒の存在下で反応させる工程を含み、
前記アルケンがエチレンを含み、
前記金属触媒がPdおよびNiから選択される少なくとも1種を含む、カルボン酸エステルの製造方法。
【請求項2】
前記金属触媒が遷移金属錯体触媒である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記工程において、反応系に酸をさらに存在させる、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記酸がルイス酸である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記工程において、反応系にさらに塩基を存在させる、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記工程において、反応系にさらに炭酸ガスを導入する、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
二酸化炭素を原料として前記炭酸エステルを製造する工程をさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカルボン酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸は典型的なα,β-不飽和カルボン酸であり、高吸水性樹脂、繊維改質剤、凝集剤の材料として非常に有用である。アクリル酸の誘導体であるアクリル酸エステルも、アクリル繊維、粘接着剤、塗料、繊維加工、皮革、建築用材等の材料として広く用いられている。また、アクリル酸エステルの水素化物であるプロピオン酸エステルは、溶剤、塗料、香料の材料や、(メタ)アクリル酸エステル等の化合物の原料として利用できる。
【0003】
従来、アクリル酸は、石油から得られるプロピレン等の接触気相酸化反応によって製造されてきた。しかしながら、近年、地球温暖化の原因物質である二酸化炭素を原料として有用化合物を生み出す反応が注目されており、アクリル酸およびその誘導体(以下、「アクリル酸等」とも称する)の製造方法についても検討が進められている。
【0004】
特許文献1には、a)遷移金属-アルケン錯体をCOと反応させてメタララクトンを生じさせ、b)メタララクトンを塩基と反応させて、α,β-不飽和カルボン酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩と遷移金属錯体との付加体を生じさせ、c)付加体をアルケンと反応させて、α,β-不飽和カルボン酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を生成しつつ、遷移金属-アルケン錯体を再生する方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献2では、上記特許文献1に記載された反応において、塩基の消費を抑制しつつ、α,β-不飽和カルボン酸の生成量を向上するために、ルイス酸および共役酸の酸解離定数(pKa)がα,β-不飽和カルボン酸よりも低い(すなわち強酸性)塩基を用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第8697909号明細書
【文献】特開2019-156790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された製造方法により得られる化合物は、α,β-不飽和カルボン酸のアルカリ(土類)金属塩であるため、反応後に触媒との分離が困難であったり、当該化合物の用途が限定されたりするといった問題点があった。
【0008】
また、特許文献2に記載された製造方法により得られる化合物はα,β-不飽和カルボン酸であるが、収率が低いという問題点があった。
【0009】
そこで本発明は、工業的に有用なα,β-不飽和カルボン酸エステルまたはその水素化物である飽和カルボン酸エステル(以下、単に「カルボン酸エステル」とも称する)の新規な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明者らは鋭意検討を行った。その結果、原料としてのアルケンおよび炭酸エステルを金属触媒存在下で反応させることにより、カルボン酸エステルが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明の一形態に係るカルボン酸エステルの製造方法は、アルケンと炭酸エステルとを金属触媒存在下で反応させる工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、α,β-不飽和カルボン酸エステルまたはその水素化物である飽和カルボン酸エステルの新規な製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0014】
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下の範囲)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で測定する。
【0015】
本発明に係るカルボン酸エステルの製造方法は、アルケンと炭酸エステルとを金属触媒の存在下で反応させる工程(以下、「本工程」とも称する)を含むことを特徴とする。以下、本工程の反応の一例を下記式1を参照しながら説明する。
【0016】
【化1】
【0017】
なお、上記反応によりα,β-不飽和カルボン酸エステルの水素化物である飽和カルボン酸エステルが生成しうる。この理由は定かではないが、反応系内の水分や、場合によって副生するアルコールが水素源となり、α,β-不飽和カルボン酸エステルが水素化させることによって、飽和カルボン酸エステルが生成すると推察される。
【0018】
[アルケン]
本発明において、アルケンは、炭素-炭素二重結合を1つ有する化合物であれば特に制限されない。
【0019】
本発明の一形態によると、式1中、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~20の直鎖または分岐鎖のアルキル基、炭素数3~16のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基、環形成原子数3~20のヘテロアリール基、炭素数1~20のアルキルオキシカルボニル基、アミド基(-C(=O)-NH、-C(=O)-NHR、-C(=O)-NR;この際、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1~20の直鎖または分岐鎖のアルキル基を表す)、アミノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、ボロン酸(-B(OH))、トリアルキルシリル基(-Si(R)(R)R;この際、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~20の直鎖または分岐鎖のアルキル基を表す)であることが好ましく、水素原子または炭素数1~6の直鎖または分岐鎖のアルキル基がより好ましく、水素原子がさらに好ましい。二重結合が末端の位置にあると、立体障害が小さいため、反応物の反応性がより向上しうる。また、本発明の好ましい実施形態では、R~Rはすべて同一である。
【0020】
[炭酸エステル]
本発明において、炭酸エステルは特に制限されない。
【0021】
本発明の一形態によると、式1中、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1~6の直鎖または分岐鎖のアルキル基または炭素数6~20のアリール基であることが好ましく、炭素数1~3の直鎖または分岐鎖のアルキル基であることがより好ましく、メチル基であることがさらに好ましい。RおよびRが互いに結合して環状構造となっていてもよい(炭酸エステルが環状カーボネートであってもよい)。環状構造(環状カーボネート)の例としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられる。RおよびRが上記の原子または基であると、立体障害が小さいため、反応物の反応性がより向上しうる。また、本発明の好ましい実施形態では、RおよびRが互いに結合して環状構造となっているか、または、RおよびRが互いに結合しておらず、かつ、互いに同一であり、本発明のさらに好ましい実施形態では、RおよびRが互いに結合しておらず、かつ、互いに同一である。
【0022】
炭酸エステルは二酸化炭素を原料として製造されたものであることが好ましい。すなわち、本発明の好ましい一形態によると、二酸化炭素を原料として前記炭酸エステルを製造する工程をさらに含む、カルボン酸エステルの製造方法が提供される。二酸化炭素を原料として炭酸エステルを製造することにより、地球温暖化の原因物質である二酸化炭素の削減が可能となる。なお、二酸化炭素を原料として前記炭酸エステルを製造する工程は、特に制限されず、公知の技術(例えば、特開昭57-31682号公報、特開平5-78284号公報、特開2012-162523号公報、特開2008-24593号公報、特開平7-224011号公報に記載の技術)を適宜採用することにより行うことができる。
【0023】
[金属触媒]
本発明において、金属触媒は、金属元素を含む限りにおいて特に制限されない。
【0024】
本発明の一形態によると、金属触媒は、遷移金属を含むことが好ましく、Pd、Ni、Rh、Ru、Pt、Cr、Mo、W、Re、FeおよびCoから選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、Pd、Ni、Rh、Ru、Ptから選択される少なくとも1種を含むことがさらに好ましく、PdおよびNiの少なくとも1種を含むことが特に好ましい。金属触媒が上記金属を含むことにより、反応効率がより向上しうる。
【0025】
本発明の一形態によると、金属触媒は、遷移金属錯体触媒であることが好ましい。遷移金属錯体触媒を用いることにより、反応効率が向上しうる。本工程の反応において、遷移金属錯体触媒を用いることによりアルケンが活性化され、炭酸エステルと反応しやすくなり、その結果、反応効率が向上すると考えられる。
【0026】
遷移金属錯体触媒に含まれる配位子において、遷移金属に配位する原子または原子団は、リン原子、窒素原子、酸素原子およびカルベンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リン原子、窒素原子およびカルベンからなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リン原子であることがさらに好ましい。
【0027】
リン原子を含む配位子の例としては、単座配位子として、トリメチルホスフィン等のトリアルキルホスフィン;トリシクロヘキシルホスフィン等のトリシクロアルキルホスフィン;トリフェニルホスフィン等のトリアリールホスフィン;トリ-2-フラニルホスフィン等のトリヘテロアリールホスフィン;トリフェニルホスフィンオキシド等のホスホラン配位子等が挙げられる。2座配位子としては、ビス(ジメチルホスフィノ)メタン、1,2-ビス(ジメチルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジメチルホスフィノ)プロパン、1,4-ビス(ジメチルホスフィノ)ブタン、1,5-ビス(ジメチルホスフィノ)ペンタン、1,6-ビス(ジメチルホスフィノ)ヘキサン、ビス(ジ-t-ブチルホスフィノ)メタン、1,2-ビス(ジ-t-ブチルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジ-t-ブチルホスフィノ)プロパン、1,4-ビス(ジ-t-ブチルホスフィノ)ブタン、1,5-ビス(ジ-t-ブチルホスフィノ)ペンタン、1,6-ビス(ジ-t-ブチルホスフィノ)ヘキサン、ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)メタン、1,2-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)プロパン、1,4-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)ブタン、1,5-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)ペンタン、1,6-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)ヘキサン、ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)ペンタン、1,6-ビス(ジフェニルホスフィノ)ヘキサン、1,2-ビス(ジメチルホスフィノ)ベンゼン、1,2-ビス(ジ-t-ブチルホスフィノ)ベンゼン、1,2-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)ベンゼン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)ベンゼン等が挙げられる。なかでも2座配位子であることが好ましく、さらに1,2-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)エタン、1,2-ビス(ジ-t-ブチルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)プロパンがより好ましい。これらは、1種のみが単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0028】
[酸]
本発明の一形態によると、本工程の反応において、反応系にさらに酸を存在させることが好ましい。反応系に酸を存在させることにより、炭酸エステルが活性化され、反応効率が向上しうる。中でも、上記酸はルイス酸であることが好ましく、プロトン供与体以外のルイス酸であることがさら好ましい。なお、本明細書において「ルイス酸」とは、電子対を受け取る物質を指す。
【0029】
プロトン供与体以外のルイス酸としては、亜鉛、銅、スズ、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ビスマスのハロゲン化物塩(フッ化物塩、塩化物塩、臭化物塩、ヨウ化物塩);亜鉛、銅、スズ、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ビスマス、セリウム、イットリウム、サマリウム、スカンジウムのトリフルオロスルホン酸塩が挙げられる。これらは、1種のみが単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。中でも、反応効率を向上させる観点から、プロトン供与体以外のルイス酸は、塩化亜鉛、塩化スズ、トリフルオロメタンスルホン酸アルミニウム、トリフルオロメタンスルホン酸亜鉛から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0030】
[塩基]
本発明の一形態によると、本工程の反応において、反応系にさらに塩基を存在させることが好ましい。反応系に塩基を存在させることにより、触媒金属が活性化され、反応効率が向上しうる。
【0031】
塩基としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等の無機塩基;ナトリウムt-ブトキシド、カリウムt-ブトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド等の有機塩基が挙げられる。これらは、1種のみが単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。中でも、反応効率を向上させる観点から、塩基は、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、ナトリウムt-ブトキシドから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0032】
[炭酸ガス]
本発明の一形態によると、本工程の反応において、反応系にさらに炭酸ガスを導入することが好ましい。反応系に炭酸ガスを導入することにより、反応効率が向上しうる。これは、炭酸ガスによりメタラサイクル化合物を経由する反応機構がよりスムーズにためであると考えられる。また、反応系に炭酸ガスを導入することにより、α,β-不飽和カルボン酸エステルの選択率(α,β-不飽和カルボン酸エステルおよびその水素化物である飽和カルボン酸エステルの合計量に対するα,β-不飽和カルボン酸エステルの割合)が向上しうる。これは、炭酸ガスによりα,β-不飽和カルボン酸エステルの水素化が抑制されるためであると考えられる。
【0033】
[反応条件]
本工程の反応は、原料の一つである炭酸エステルを溶媒として用いることができるが、溶媒の存在下で行うことが好ましい。
【0034】
溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等が挙げられる。中でも、配位子や塩基に対する溶解度の観点から、ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルピロリドン(NMP)が好ましい。これらは1種のみが単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0035】
本工程の反応は、回分式、半回分式、連続式のいずれで行ってもよいが、回分式、半回分式であることが好ましく、回分式で行うことがより好ましい。
【0036】
反応温度は、50~250℃であることが好ましく、80~200℃であることがより好ましい。
【0037】
反応圧力は、1~10MPaであることが好ましく、2~8MPaであることがより好ましい。
【0038】
反応時間は、0.5~48時間であることが好ましく、1~20時間であることがより好ましく、3~12時間であることがさらに好ましい。
【0039】
反応器にアルケン(例えば、エチレン)と炭酸ガスとを供給する場合における、炭酸ガスに対するアルケンのモル比(アルケン/炭酸ガス)は、0.5~8であることが好ましく、1~4であることがより好ましい。
【0040】
金属触媒に対する炭酸エステルのモル比は(アルケン/炭酸ガス)は、1~10000であることが好ましく、10~1000であることがより好ましい。
【0041】
反応系にさらに酸を存在させる場合における、金属触媒に対する酸のモル比(酸/金属触媒)は、0.1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。
【0042】
反応系にさらに塩基を存在させる場合における、金属触媒に対する塩基のモル比(塩基/金属触媒)は、0,1~1000であることが好ましく、10~200であることがより好ましい。
【0043】
反応後、反応液から公知の手法により後処理、精製を行うことにより、生成物であるα,β-不飽和カルボン酸エステルおよび/またはその水素化物である飽和カルボン酸エステルを得ることができる。
【実施例
【0044】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0045】
[実施例1]
【0046】
【化2】
【0047】
スターラーバーを入れた内容積30mLのステンレス(SUS316)製オートクレーブにビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)(Pd(dba))を0.05mmol、1,2-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)エタン(dcpe)を0.10mmol、トリフルオロメタンスルホン酸アルミニウム(Al(OTf))を0.10mmol、ナトリウムtert-ブトキシド(tBuONa)を5.0mmol、炭酸ジメチル(DMC)を20.0mmol、溶媒としてジメチルホルムアミド(DMF)10mlを加え、エチレンガスを3.0MPa、炭酸ガスを1MPaとなるように充填して加圧した。有機合成装置(柴田科学株式会社製 ケミストプラザ CC-200)を用いて、200℃、800rpmで10時間反応させた。
【0048】
反応後の溶液をガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製 GC-14B、ジーエルサイエンス株式会社製 ガスクロマトグラフィー用カラム Inert Cap FFAP(I.D0.25mm×Length30m)で、エチルベンゼンを内部標準として定量したところ、アクリル酸メチル(MA)が0.289mmol(ターンオーバー数(TON)=5.77)で、プロピオン酸メチル(MP)が0.0395mmol(ターンオーバー数(TON)=0.79)で得られた。なお、ターンオーバー数(TON)とは、触媒1molに対する生成物のmol数の割合を指す。値が大きいほど反応において触媒が不活性化しにくいことを意味する。アクリル酸メチルの選択率(アクリル酸メチルおよびプロピオン酸メチルの合計量に対するアクリル酸メチルの割合)は、87.9%であった。
【0049】
[実施例2~27、比較例1~4]
実施例1において、反応系内に加える物質の種類および量ならびに反応時間を下記表1および表2に記載の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で反応を行った。結果を下記表1および表2に示す。
【0050】
なお、表中で用いた化合物名や略号の意味は下記のとおりである。
Pd(dba):ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)
Ni(acac):ニッケル(II)アセチルアセトナート二水和物
Pd(OAc):酢酸パラジウム(II)
PdCl:塩化パラジウム(II)
dcpe:1,2-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)エタン
PCy:トリシクロヘキシルホスフィン
Al(OTf):トリフルオロメタンスルホン酸アルミニウム
ZnCl:塩化亜鉛
Zn(OTf):トリフルオロメタンスルホン酸亜鉛(II)
SnCl:塩化スズ(II)
InCl:塩化インジウム(III)
In(OTf):トリフルオロメタンスルホン酸インジウム(III)
CuCl:塩化銅(II)
Ce(OTf):トリフルオロメタンスルホン酸セリウム
Cu(OTf):トリフルオロメタンスルホン酸銅(II)
Y(OTf):トリフルオロメタンスルホン酸イットリウム(III)
Sm(OTf):トリフルオロメタンスルホン酸サマリウム(III)
Sc(OTf):トリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム(III)
LiCO:炭酸リチウム
tBuONa:ナトリウムtert-ブトキシド
表中の「-」は添加していないことを表す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
表1および表2の結果から、アルケンと炭酸エステルとを金属触媒の存在下で反応させることにより、カルボン酸エステルが得られることが示された。
【0054】
反応系にさらに酸(特に、ルイス酸)を存在させた例では、カルボン酸エステルのTONが有意に向上することが示された。
【0055】
反応系にさらに塩基を存在させた例では、カルボン酸エステルのTONが有意に向上することが示された。
【0056】
反応系にさらに炭酸ガスを導入した例では、カルボン酸エステルのTONが有意に向上することが示された。また、当該例ではアクリル酸メチルの生成量が増加し、プロピオン酸メチルの生成量が減少することにより、アクリル酸メチルの選択率が向上することが示された。