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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】圧着体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/256 20060101AFI20240925BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20240925BHJP
   D04H 1/4318 20120101ALI20240925BHJP
   D06M 11/76 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
D06M15/256
C08J7/04 Z
D04H1/4318
D06M11/76
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021536929
(86)(22)【出願日】2020-07-16
(86)【国際出願番号】 JP2020027680
(87)【国際公開番号】W WO2021020147
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2019141881
(32)【優先日】2019-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229564
【氏名又は名称】株式会社バルカー
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 理美
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸口 善宏
(72)【発明者】
【氏名】相澤 崇史
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/021167(WO,A1)
【文献】特開2012-188774(JP,A)
【文献】特表2016-513191(JP,A)
【文献】特表2002-511907(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106928744(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 - 43/00
C08J 5/12
C08J 7/04 - 7/06
D04H 1/00 - 18/04
D06M 10/00 - 16/00
D06M 19/00 - 23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布、延伸多孔質膜および繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種の基材の圧着体であって、
前記基材が、ポリテトラフルオロエチレン以外の、-CF2-基の含有量が85質量%以上であるフッ素樹脂を含む基材であり、
前記基材を構成する繊維間をポリテトラフルオロエチレンのフィブリルが結合しており、かつ、該フィブリルの全体に対する、前記基材を構成する繊維方向に対し45~90°に配向したフィブリルの本数の割合が50%以上である、
圧着体。
【請求項2】
前記基材100質量%に対する、前記ポリテトラフルオロエチレンの含有量が0.2~12質量%である、請求項1に記載の圧着体。
【請求項3】
前記フィブリルの平均繊維径が10nm~1μmである、請求項1または2に記載の圧着体。
【請求項4】
前記基材が、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フルオロエチレン-ビニルエーテル共重合体およびポリ(クロロトリフルオロエチレン)からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の圧着体。
【請求項5】
不織布、延伸多孔質膜および繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種の基材を、
ポリテトラフルオロエチレン粒子と、
液体、気液混合状態または液体に近い状態の二酸化炭素と
の存在下で圧着する工程1を含む、圧着体の製造方法。
【請求項6】
前記工程1が、
不織布、延伸多孔質膜および繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種の基材、ならびに、ポリテトラフルオロエチレンディスパージョンと、液体または気体の二酸化炭素とを接触させて、圧力をかける工程1a、または、
不織布、延伸多孔質膜および繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種と、ポリテトラフルオロエチレンディスパージョンとを接触させ、次いで、乾燥させた乾燥体と、液体または気体の二酸化炭素とを接触させて、圧力をかける工程1b
である、請求項5に記載の圧着体の製造方法。
【請求項7】
前記圧着体が、前記基材をポリテトラフルオロエチレンのフィブリルが結合している構造を有する、請求項5または6に記載の圧着体の製造方法。
【請求項8】
前記フィブリルの全体に対する、前記圧着方向に対し0~45°に配向したフィブリルの本数の割合が50%以上である、請求項7に記載の圧着体の製造方法。
【請求項9】
前記圧着体中のポリテトラフルオロエチレンの含有量が、前記圧着体中の基材100質量%に対し、0.2~12質量%である、請求項5~8のいずれか1項に記載の圧着体の製造方法。
【請求項10】
前記フィブリルの平均繊維径が10nm~1μmである、請求項7または8に記載の圧着体の製造方法。
【請求項11】
前記基材が、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フルオロエチレン-ビニルエーテル共重合体およびポリ(クロロトリフルオロエチレン)からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂を含む、請求項5~10のいずれか1項に記載の圧着体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、圧着体またはその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、耐熱性、耐薬品性、耐候性および電気的諸特性に優れ、表面が非粘着性で摩擦係数が小さいことなど、優れた特性を多く有する機能性ポリマーである。
【0003】
このようなフッ素樹脂製の、不織布、多孔質膜および繊維から選ばれる少なくとも1種を含む基材は、特に、その耐薬品性が良いことや、電気的特性が良いこと等により、医療用分野や精密電気機器の分野で注目されている。しかし、フッ素樹脂製の基材は、その構成するポリマーが非粘着性であり、また、摩擦係数が小さいため、基材全体としての機械的強度に劣り、基材を構成する繊維等の脱落等が多かった。
【0004】
このような問題に対し、特許文献1には、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)微粒子を多数含む、PFA製フィラメント群からなるPFA多孔質シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2011/105414号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者が確認したところ、従来のフッ素樹脂製多孔質シート、特に、従来の不織布、多孔質膜および繊維から選ばれる少なくとも1種の圧着体は、機械的強度の点で改良の余地があった。
なお、機械的強度や繊維等の脱落等を防ぐために、前記基材をその融点以上の高温で熱融着(熱圧着)することも考えられるが、この場合には、融着前の基材が有していた空隙が消失し、単なるシートとなるため、不織布、多孔質膜、繊維等の基材を用いる意味が失われていた。
【0007】
本発明の一実施形態は、機械的強度に優れ、繊維のほつれや基材間の剥離等が起こり難い所望の形状を有する圧着体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
下記構成例によれば、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
本発明の構成例は以下の通りである。
【0009】
[1] 不織布、延伸多孔質膜および繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種の基材の圧着体であって、
前記基材が、-CF2-基の含有量が85質量%以上のフッ素樹脂(但し、ポリテトラフルオロエチレンを除く)を含む基材であり、
前記基材を構成する繊維間をポリテトラフルオロエチレンのフィブリルが結合しており、かつ、該フィブリルの全体に対する、前記基材を構成する繊維方向に対し45~90°に配向したフィブリルの本数の割合が50%以上である、
圧着体。
【0010】
[2] 前記基材100質量%に対する、前記ポリテトラフルオロエチレンの含有量が0.2~12質量%である、[1]に記載の圧着体。
[3] 前記フィブリルの平均繊維径が10nm~1μmである、[1]または[2]に記載の圧着体。
【0011】
[4] 前記基材が、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(EPE)、フルオロエチレン-ビニルエーテル共重合体(FEVE)およびポリ(クロロトリフルオロエチレン)(PCTFE)からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の圧着体。
【0012】
[5] 不織布、延伸多孔質膜および繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種の基材を、
ポリテトラフルオロエチレン粒子と、
液体、気液混合状態または液体に近い状態の二酸化炭素と
の存在下で圧着する工程1を含む、圧着体の製造方法。
【0013】
[6] 前記工程1が、
不織布、延伸多孔質膜および繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種の基材、ならびに、ポリテトラフルオロエチレンディスパージョンと、液体または気体の二酸化炭素とを接触させて、圧力をかける工程1a、または、
不織布、延伸多孔質膜および繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種と、ポリテトラフルオロエチレンディスパージョンとを接触させ、次いで、乾燥させた乾燥体と、液体または気体の二酸化炭素とを接触させて、圧力をかける工程1b
である、[5]に記載の圧着体の製造方法。
【0014】
[7] 前記圧着体が、前記基材をポリテトラフルオロエチレンのフィブリルが結合している構造を有する、[5]または[6]に記載の圧着体の製造方法。
[8] 前記フィブリルの全体に対する、前記圧着方向に対し0~45°に配向したフィブリルの本数の割合が50%以上である、[7]に記載の圧着体の製造方法。
【0015】
[9] 前記圧着体中のポリテトラフルオロエチレンの含有量が、前記圧着体中の基材100質量%に対し、0.2~12質量%である、[5]~[8]のいずれかに記載の圧着体の製造方法。
【0016】
[10] 前記フィブリルの平均繊維径が10nm~1μmである、[7]または[8]に記載の圧着体の製造方法。
【0017】
[11] 前記基材が、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(EPE)、フルオロエチレン-ビニルエーテル共重合体(FEVE)およびポリ(クロロトリフルオロエチレン)(PCTFE)からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂を含む、[5]~[10]のいずれかに記載の圧着体の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一実施形態によれば、機械的強度に優れ、繊維のほつれや基材間の剥離等が起こり難い所望の形状を有する圧着体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施例2の圧着体における、PFA繊維間のSEM画像である。
図2図2は、比較例2の圧着体における、PFA繊維間のSEM画像である。
図3図3は、実施例1の圧着体における、PFA繊維間のSEM画像である。
図4図4は、比較例1の圧着体における、PFA繊維間のSEM画像である。
図5図5は、比較例5の圧着体の断面のSEM画像である。
図6図6は、実施例2の圧着体の外観写真である。
図7図7は、比較例2の圧着体の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
≪圧着体≫
本発明の一実施形態に係る圧着体(以下「本圧着体」ともいう。)は、不織布、延伸多孔質膜および繊維(以下、この繊維を「繊維A」ともいう。)からなる群より選ばれる少なくとも1種の基材の圧着体であって、
前記基材が、-CF2-基の含有量が85質量%以上のフッ素樹脂(但し、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を除く)を含む基材であり、
前記基材を構成する繊維間をポリテトラフルオロエチレンのフィブリルが結合しており、かつ、該フィブリルの全体に対する、前記基材を構成する繊維方向に対し45~90°に配向したフィブリルの本数の割合が50%以上であることを特徴とする。
【0021】
本圧着体としては、例えば、前記基材として不織布を用いる場合、1枚の不織布の圧着体、1種または2種以上の不織布を2枚以上用い、これら不織布同士を圧着した圧着体、1種または2種以上の不織布と、延伸多孔質膜および繊維Aからなる群より選ばれる少なくとも1種とを圧着した圧着体が挙げられる。
前記1枚の不織布の圧着体としては、不織布が有する空隙を減少させたものが挙げられるが、この場合であっても、本発明の一実施形態、特に下記本方法によれば、不織布が有する空隙が完全に失われて単なるフィルムにはならず、空隙を残したまま体積を減少させた圧着体を得ることができる。
前記基材として延伸多孔質膜や繊維Aを用いる場合の圧着体の例も、前記不織布を用いる場合と同様である。なお、前記基材として、1種の繊維Aを用いる場合は、折れ曲がった1本の繊維A間をPTFEのフィブリルが結合することで圧着体を得ることができるが、通常は、2本以上の繊維Aを用いる。
【0022】
本圧着体としては、本発明の効果がより発揮される等の点から、これらの中でも、2枚以上の不織布の圧着体が好ましい。従来、前記フッ素樹脂を含む2枚以上の不織布を圧着させることは、容易ではないか、または、融着により不織布の有する空隙をなくして圧着させることはできたが、本発明の一実施形態、特に下記本方法によれば、不織布が有する空隙を残したまま(ふわふわの状態)で、2枚以上の不織布を圧着させることができる。
【0023】
前記「基材を構成する繊維間をPTFEのフィブリルが結合している」とは、例えば、前記基材として不織布を用いる場合、不織布を構成する繊維同士、不織布を構成する繊維と延伸多孔質膜を構成する繊維、不織布を構成する繊維と繊維Aを、PTFEのフィブリルが結合している(架橋している、または、繋いでいる)ことをいう。なお、この場合、通常、基材を構成する繊維のうち、隣接する繊維間をPTFEのフィブリルが結合する。
前記基材として延伸多孔質膜や繊維Aを用いる場合も同様である。
【0024】
また、前記「フィブリルの全体に対する、前記基材を構成する繊維方向に対し45~90°に配向したフィブリルの本数の割合が50%以上である」とは、圧着体を構成するフィブリルの全体に対する、基材を構成する繊維方向に対し略垂直方向に配向しているフィブリルの本数の割合が50%以上であることを意味する。なお、前記45°は、角度の測る方向を変えれば、135°と同義である。つまり、45~90°は、90~135°と同義である。
本圧着体は、基材を構成する繊維方向に対し、多くのPTFEフィブリルが略垂直方向に配向しているため、機械的強度に優れ、繊維のほつれや基材間の剥離等が起こり難い所望の形状を有する圧着体となる。
【0025】
前記基材を構成する繊維方向に対し45~90°に配向したフィブリルの本数は、好ましくは、前記基材を構成する繊維方向に対し70~90°に配向したフィブリルの本数であり、より好ましくは、前記基材を構成する繊維方向に対し80~90°に配向したフィブリルの本数である。
圧着体を構成するフィブリルの全体に対する、基材を構成する繊維方向に対し略垂直方向に配向しているフィブリルの本数の割合は、前記効果により優れる圧着体となる等の点から、好ましくは75~100%、より好ましくは85~100%である。
前記フィブリルの配向方向は、圧着体の断面のSEM画像における、任意の40本のフィブリルの、基材を構成する繊維方向に対する配向方向を確認することで判断でき、前記割合は、該40本のフィブリルに対する、基材を構成する繊維方向に対し、略垂直方向に配向しているフィブリルの本数から算出した値である。
【0026】
本圧着体の形状および大きさは特に制限されず、所望の用途等に応じて適宜選択すればよい。
本圧着体の厚さも特に制限されず、用いる用途に応じて適宜選択すればよいが、不織布や延伸多孔質膜の圧着体の場合、通常10μm以上、好ましくは50μm以上であり、通常30mm以下、好ましくは25mm以下である。
【0027】
本圧着体は、フッ素樹脂を含む不織布、延伸多孔質膜または繊維Aが用いられてきた用途に好適に用いることができ、特に、医療分野や電気機器分野、半導体分野等に好適に用いることができ、具体的には、フィルター、各種セパレータ、衣類等として好適に使用される。
【0028】
本圧着体は、所望の用途に応じて、該用途に要求される機能材料を1種以上含んでいてもよい。該機能材料としては、具体的には、例えば、食材、薬剤(医薬、農業、工業用)、色素、吸着剤、消臭剤、芳香剤、防虫剤、電子デバイス材料、酵素、触媒が挙げられる。
本圧着体がこのような機能材料を含む場合、特に、該機能材料が耐熱性に劣る材料であっても、その機能材料が有する機能、性質等を生かした圧着体を得ることができる。
例えば、薬剤等を含む場合、その徐放性等が制御された圧着体を得ることもできる。
【0029】
<基材>
前記基材は、-CF2-基の含有量が85質量%以上のフッ素樹脂(但し、PTFEを除く)を含む基材であり、該フッ素樹脂からなる基材が好ましい。
フッ素樹脂中の-CF2-基の含有量は、固体核磁気共鳴法(NMR)または質量分析法(MSスペクトル法)等により、測定・算出することができる。
【0030】
前記フッ素樹脂としては、該樹脂の構成中、-CF2-基の含有量が85質量%以上である樹脂であり、かつ、PTFE以外の樹脂であれば特に制限されないが、具体的には、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(EPE)、フルオロエチレン-ビニルエーテル共重合体(FEVE)およびポリ(クロロトリフルオロエチレン)(PCTFE)が挙げられる。
前記基材中に含まれるフッ素樹脂は、2種以上であってもよいが、通常1種である。
【0031】
これらのフッ素樹脂の中では、機械的強度、耐熱性、耐薬品性、耐候性、電気絶縁性に優れる等の点から、PFA、FEPが好ましく、下記本方法において、二酸化炭素により可塑化しやすい等の点から、PFAがより好ましい。
なお、PFAは、非粘着性であり、摩擦係数が小さいため、PFA不織布、PFA延伸多孔質膜およびPFA繊維Aから選ばれる少なくとも1種の圧着体としては、従来、機械的強度に優れるものを得ることができなかったが、本発明の一実施形態によれば、このようなPFAを含む圧着体であっても、機械的強度に優れ、繊維のほつれや基材間の剥離等が起こり難い所望の形状を有する圧着体を容易に得ることができる。
【0032】
前記不織布、延伸多孔質膜および繊維Aとしては特に制限されず、従来公知の不織布、延伸多孔質膜および繊維Aを用いることができる。
【0033】
前記不織布を構成する繊維や、前記繊維Aの平均繊維径は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは10μm以上であり、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは80μm以下である。
平均繊維径が前記範囲内にあると、繊維表面積が大きくなることで、PTFEのフィブリルをより多く形成でき、機械的強度に優れ、繊維のほつれや基材間の剥離等が起こり難い所望の形状を有する圧着体を得ることができる等の点で好ましい。
【0034】
前記平均繊維径は、測定対象となる繊維(群)を走査型電子顕微鏡(SEM)観察し、得られたSEM画像から無作為に20本の繊維を選び、これらの各繊維の繊維径(長径)を測定し、この測定結果に基づいて算出される平均値である。
【0035】
前記不織布を構成する繊維や、前記繊維Aの、下記式で算出される繊維径変動係数は、好ましくは0.7以下であり、より好ましくは0.01以上、より好ましくは0.5以下である。繊維径変動係数が前記範囲内にあると、繊維径が均一となり、機械的強度に優れ、繊維のほつれや基材間の剥離等が起こり難い所望の形状を有する圧着体を容易に得ることができる。
繊維径変動係数=標準偏差/平均繊維径
(なお、「標準偏差」とは、前記20本の繊維の繊維径の標準偏差である。)
【0036】
前記不織布を構成する繊維や、前記繊維Aの繊維長は特に制限されないが、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは1mm以上であり、好ましくは100mm以下、より好ましくは50mm以下である。
【0037】
前記延伸多孔質膜としては特に制限されず、一軸延伸多孔質膜であってもよく、二軸延伸多孔質膜であってもよい。
【0038】
前記不織布や延伸多孔質膜の空隙率は特に制限されないが、例えば0.1体積%以上、好ましくは1体積%以上であり、例えば70体積%以下、好ましくは60体積%以下である。
該空隙率は、不織布や延伸多孔質膜を構成する樹脂の比重と、不織布や延伸多孔質膜の質量実測値とから、空隙がないものとして算出された理論体積と、同不織布や延伸多孔質膜の寸法を測定することにより算出された実測体積との差から下記式により算出することができる。
空隙率(体積%)=(1-(理論体積/実測体積))×100
【0039】
前記不織布や延伸多孔質膜の目付は、好ましくは100g/m2以下であり、より好ましくは1g/m2以上、より好ましくは80g/m2以下である。
【0040】
前記不織布や延伸多孔質膜の厚さは、通常10μm以上、好ましくは50μm以上であり、通常1mm以下、好ましくは500μm以下である。
【0041】
<PTFEのフィブリル>
本圧着体は、前記基材を構成する繊維を、PTFEのフィブリルが結合している。
該PTFEのフィブリルは、好ましくはPTFE粒子(PTFEディスパージョンに含まれる粒子)から形成され、通常、結節(ノード)を有さない。つまり、本圧着体に含まれるフィブリルは、延伸により形成されるフィブリルとは異なる。
【0042】
前記フィブリルの平均繊維径は、基材をしっかり結合することができ、機械的強度に優れ、繊維のほつれや基材間の剥離等が起こり難い所望の形状を有する圧着体を容易に得ることができる等の点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは50nm以上、特に好ましくは80nm以上であり、好ましくは1μm以下、より好ましくは800nm以下、特に好ましくは500nm以下である。
フィブリルの平均繊維径は、前記繊維の平均繊維径と同様にして算出できる。
【0043】
前記フィブリルの平均繊維長は特に制限されず、得られる圧着体において、基材を構成する(隣接する)繊維間を結合できる長さであればよいが、通常1μm以上、好ましくは10μm以上であり、通常100μm以下、好ましくは40μm以下である。
前記平均繊維長は、測定対象となるフィブリル(群)を走査型電子顕微鏡(SEM)観察し、得られたSEM画像から無作為に20本のフィブリルを選び、これらの各フィブリルの繊維長を測定し、この測定結果に基づいて算出される平均値である。
【0044】
本圧着体において、前記基材100質量%に対する、前記フィブリルの含有量(PTFEの含有量)は、基材をしっかり結合することができ、機械的強度に優れ、繊維のほつれや基材間の剥離等が起こり難い所望の形状を有する圧着体を容易に得ることができる等の点から、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは1質量%以上、特に好ましくは2質量%以上であり、好ましくは12質量%以下、より好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下である。
【0045】
<圧着体の製造方法>
本発明の一実施形態に係る圧着体の製造方法(以下「本方法」ともいう。)は、不織布、延伸多孔質膜および繊維Aからなる群より選ばれる少なくとも1種の基材を、
PTFE粒子と、
液体、気液混合状態または液体に近い状態の二酸化炭素と
の存在下で圧着する工程1を含む。
なお、前記基材としては、-CF2-基の含有量が85質量%以上のフッ素樹脂(但し、ポリテトラフルオロエチレンを除く)を含む基材であることが好ましく、この場合、本方法は、加工が難しいフッ素樹脂の不織布、延伸多孔質膜および繊維Aから選ばれる少なくとも1種の新規な加工方法ということもできる。
【0046】
このような本方法によれば、基材を構成する樹脂を溶融するような高温の熱をかけることなく、50℃程度以下の温度で、短時間に低コストで圧着体を製造できる。また、得られる圧着体には、基本的に二酸化炭素は残留しないため、安全性、制御性および生産性に優れ、クリーンな圧着体を容易に得ることができ、機械的強度に優れ、繊維のほつれや基材間の剥離等が起こり難い所望の形状を有する圧着体を容易に得ることができる。特に、基材が有する特性(例:不織布が有する空隙、繊維形状)を生かしたまま、圧着体を得ることができる。
さらに、本方法によれば、前記所望の用途に応じて用いられる機能材料を含む圧着体を製造する際に、該機能材料が耐熱性に劣る材料であっても、その機能材料が有する機能、性質等を生かした圧着体を得ることができる。
【0047】
前記本圧着体は、本方法で得られた圧着体であることが好ましく、該本方法によれば、基材を構成する繊維間をPTFEのフィブリルが結合している圧着体を容易に得ることができる。
この場合、基材をしっかり結合することができ、機械的強度に優れ、繊維のほつれや基材間の剥離等が起こり難い所望の形状を有する圧着体を容易に得ることができる等の点から、本方法で得られる圧着体は、前記フィブリルの全体に対する、前記圧着方向に対し0~45°に配向したフィブリルの本数の割合が50%以上であることが好ましい。
前記本方法で製造される圧着体では、基材を構成する繊維は圧着方向と略垂直方向に配向しやすく、そして、PTFEのフィブリルは、その繊維間をつなぐように略圧着方向に配向しやすい。従って、「フィブリルの全体に対する、前記圧着方向に対し0~45°に配向したフィブリルの本数の割合が50%以上であること」は、本圧着体における、「フィブリルの全体に対する、前記基材を構成する繊維方向に対し45~90°に配向したフィブリルの本数の割合が50%以上であること」に相当する。
【0048】
前記「フィブリルの全体に対する、前記圧着方向に対し0~45°に配向したフィブリルの本数の割合が50%以上である」とは、圧着体を構成するフィブリルの全体に対する、前記圧着方向(圧力をかける方向)に対し略平行方向に配向しているフィブリルの本数の割合が50%以上であることを意味する。
前記と同様に、45°は、角度の測る方向を変えれば、315°と同義である。つまり、0~45°は、315~360°と同義である。
【0049】
前記圧着方向に対し0~45°に配向したフィブリルの本数は、好ましくは、前記圧着方向に対し0~20°に配向したフィブリルの本数であり、より好ましくは、前記圧着方向に対し0~10°に配向したフィブリルの本数である。
圧着体を構成するフィブリルの全体に対する、前記圧着方向に対し略平行方向に配向しているフィブリルの本数の割合は、機械的強度により優れ、繊維のほつれや基材間の剥離等がより起こり難い所望の形状を有する圧着体を容易に得ることができる等の点から、好ましくは75~100%、より好ましくは85~100%である。
前記フィブリルの配向方向は、圧着体の断面のSEM画像における、任意の40本のフィブリルの圧着方向に対する配向方向を確認することで判断でき、前記割合は、該40本のフィブリルに対する、圧着方向に対し略平行方向に配向しているフィブリルの本数から算出した値である。
【0050】
本方法により、機械的強度に優れ、繊維のほつれや基材間の剥離等が起こり難い所望の形状を有する圧着体を得ることができる理由は必ずしも明らかではないが、液体、気液混合状態または液体に近い状態の二酸化炭素の存在下で圧力をかけることで、その二酸化炭素により基材表面が可塑化し、可塑化した状態で圧力をかけることで、基材がかみ合った状態で形状を固定して接着、接合できることによると考えられる。
【0051】
<工程1>
前記工程1は、基材を、PTFE粒子と、液体、気液混合状態または液体に近い状態の二酸化炭素との存在下で圧着する工程であれば特に制限されず、この圧着の際に、所望の用途に応じて、該用途に要求される機能材料を1種以上含んでいてもよい。該機能材料としては、前記圧着体の欄に記載した機能材料と同様の材料が挙げられる。
該機能材料が耐熱性に劣る材料であっても、本方法によれば、その機能材料が有する機能、性質等を生かした圧着体を得ることができる。
【0052】
工程1で用いるPTFE粒子としては特に制限されず、従来公知のPTFE粒子を用いることができる。また、平均粒径等の異なる2種以上のPTFE粒子を用いてもよい。
工程1では、所望の圧着体を容易に形成することができる等の点から、PTFEディスパージョンを用いることが好ましい。この場合、基材を圧着する際にPTFE粒子が存在していればよく、基材とPTFEディスパージョンとを接触させた接触体と、二酸化炭素とを接触させて圧着を行ってもよく、予め、基材とPTFEディスパージョンとを接触させた後、乾燥させることで得られた乾燥体と二酸化炭素とを接触させて圧着を行ってもよい。
【0053】
前記PTFE粒子の平均粒径としては、より基材をしっかり結合することができ、機械的強度に優れ、繊維のほつれや基材間の剥離等が起こり難い所望の形状を有する圧着体を容易に得ることができる等の点から、好ましくは0.15~0.35μmである。
該平均粒径は、光散乱法により測定することができる。
【0054】
前記PTFEディスパージョンとしては特に制限されず、従来公知のディスパージョンを用いることができるが、PTFE粒子の濃度が10~60質量%であるディスパージョンを用いることが、所望の圧着体を容易に形成することができる等の点から好ましい。
なお、前記PTFEディスパージョンには、安定剤等の従来公知の添加剤が含まれていてもよい。
【0055】
工程1で用いる基材100質量%に対する、前記PTFE粒子の使用量は、基材をしっかり結合することができ、機械的強度に優れ、繊維のほつれや基材間の剥離等が起こり難い所望の形状を有する圧着体を容易に得ることができる等の点から、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは1質量%以上、特に好ましくは2質量%以上であり、好ましくは12質量%以下、より好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下である。
【0056】
工程1では、液体、気液混合状態または液体に近い状態の二酸化炭素の存在下で、基材を圧着する。液体、気液混合状態または液体に近い状態の二酸化炭素を基材と接触させると、基材に二酸化炭素が含浸され、基材を可塑化することができると考えられ、加熱しなくても圧着体を製造することができる。
なお、工程1では、亜臨界または超臨界状態の二酸化炭素を使用してもよいが、プレス力を低減することができ、加温機構等を有する装置などを用いなくても圧着できる等の点から、液体または気液混合状態の二酸化炭素が好ましい。また、気体状態の二酸化炭素は、基材をほとんど可塑化しないか、可塑化にかなりの時間が必要であると考えられるため、基材を迅速に可塑化できると考えられる等の点から、液体または気液混合状態の二酸化炭素が好ましい。
【0057】
なお、前記「液体に近い状態の二酸化炭素」とは、具体的には、密度が0.4g/mL(液体の二酸化炭素の密度の約半分)以上の状態にある二酸化炭素のことをいう。
【0058】
前記工程1は、具体的には、系に液体または気体の二酸化炭素を導入することで行うことが好ましい。つまり、前記工程1としては、具体的には、下記工程1aまたは1bが好ましい。
工程1a:不織布、延伸多孔質膜および繊維Aからなる群より選ばれる少なくとも1種の基材、ならびに、ポリテトラフルオロエチレンディスパージョンと、液体または気体の二酸化炭素とを接触させて、圧力をかける工程
工程1b:不織布、延伸多孔質膜および繊維Aからなる群より選ばれる少なくとも1種の基材と、ポリテトラフルオロエチレンディスパージョンとを接触させ、次いで、乾燥させた乾燥体と、液体または気体の二酸化炭素とを接触させて、圧力をかける工程
【0059】
系に液体または気体の二酸化炭素を導入する際には、該系に導入する、基材、PTFE粒子および二酸化炭素の順番は特に制限されず、例えば、二酸化炭素を充満させた系に、基材およびPTFE粒子を導入してもよいが、基材およびPTFE粒子を導入した系に、二酸化炭素を導入することが好ましい。
液体の二酸化炭素を導入する場合、気体の二酸化炭素を導入する場合と比べ、液化のための圧縮工程を省略することができ、このため、圧着体を短時間で製造できる。
一方、気体の二酸化炭素を導入する場合、液体の二酸化炭素を導入する場合と比べ、プロセスが容易であり、加圧ポンプを不要とすることもでき、装置を簡略化することができる。なお、気体の二酸化炭素を導入する場合、通常、導入した二酸化炭素を加圧することで、二酸化炭素を液化する。この場合、導入したすべての二酸化炭素を液化する必要はなく、少なくとも一部を液化させればよい。
【0060】
二酸化炭素の導入量は特に制限されないが、気体の二酸化炭素を導入し、圧着を31℃(二酸化炭素の臨界温度)以上の温度で行う場合には、圧着の際の二酸化炭素の密度が0.4g/mL(液体の二酸化炭素の密度の約半分)以上となるように二酸化炭素を導入する。
【0061】
工程1における圧着の際の面圧は、用いる基材の種類や量、所望の圧着体の形状等に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは4MPa以上、より好ましくは5MPa以上であり、上限は特に制限されないが、例えば50MPa以下である。
なお、前記面圧は、系に導入した二酸化炭素の圧力とプレス圧との和である。
【0062】
工程1における圧着の際のプレス時間は、用いる基材の種類や量、圧着の際の面圧や温度等に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは0.2秒以上、より好ましくは1秒以上であり、好ましくは15分以下、より好ましくは5分以下である。
【0063】
工程1における圧着の際の温度は、用いる基材の種類や量、所望の圧着体の形状等に応じて適宜選択すればよいが、本方法によれば、温度をかけなくても所望の圧着体を得ることができるため、この効果がより発揮される等の点から、通常0℃以上、より好ましくは20℃以上であり、通常40℃以下、より好ましくは30℃以下である。
【0064】
工程1は、体積を減少させることが可能な密閉容器中で行ってもよいし、開放系のプレス装置を用いて行ってもよい。
該密閉容器としては、例えば、前記密閉空間への液体または気体の二酸化炭素の導入部と、二酸化炭素の排出部とを有し、ピストン等の密閉容器の体積を減少させて基材をプレスできる部材を有する容器が挙げられる。
【0065】
開放系のプレス装置を用いて行う方法としては、例えば、ピストン等のプレス部材の間に、前記基材をPTFEディスパージョンに接触させた接触体または乾燥体を配置し、そこに液体の二酸化炭素を導入しながら、プレスする方法が挙げられる。
開放系のプレス装置を用いる場合、処理対象の基材全体を覆うような大きな処理容器を用いずに、処理対象物をスポット的に処理でき、例えば、基材を送り出しては位置を変えてプレスを繰り返す方法や、ピストンの代りにローラーでプレスする方法により、連続的に圧着体を製造することもできる。
【実施例
【0066】
次に、本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0067】
[実施例1]
ピストン、二酸化炭素導入部および二酸化炭素排出部を有する密閉可能な容器(口径:φ20mm)に、平均繊維径が60μmのPFA短繊維0.5gと、PTFEディスパージョン(ダイキン工業(株)製、ポリフロンPTFE-D D-210C、固形分60質量%の水性分散液、PTFE粒子の平均粒径:0.22μm)0.03g(PFA質量に対するPTFE量が3.6質量%)とを添加した。そこに、室温(25℃)で、二酸化炭素の蒸気圧(ボンベ圧:6MPa)に相当する二酸化炭素を導入し、ピストンを下げて容器内の体積を減少させて(二酸化炭素を液化させながら)、加重100N(面圧:6.3MPa)の圧力を10秒間かけることで、PFA繊維同士を圧着した。その後、その圧力のまま、二酸化炭素を瞬時に排出し、次いで、圧力を開放した後、圧着体(φ20mm)を容器から取り出した。
【0068】
[実施例2]
実施例1において、圧着の際の圧力を、加重3000N(面圧:18MPa)に変更した以外は、実施例1と同様にして、圧着体を作製した。
【0069】
[実施例3]
実施例1において、圧着の際の圧力を、加重5000N(面圧:22MPa)に変更した以外は、実施例1と同様にして、圧着体を作製した。
【0070】
[比較例1]
実施例1において、二酸化炭素を導入しない以外は、実施例1と同様にして、圧着体を作製した。
【0071】
[比較例2]
実施例2において、二酸化炭素を導入しない以外は、実施例2と同様にして、圧着体を作製した。
【0072】
[比較例3]
実施例3において、二酸化炭素を導入しない以外は、実施例3と同様にして、圧着体を作製した。
【0073】
[比較例4]
平均繊維径が60μmのPFA短繊維0.5gを、ハンドプレス機(Mini Test Press MP-WCH[(株)東洋精機製作所製])を用いて、温度:260℃、面圧:12MPaの条件で、5分間プレスすることで圧着体(厚み:1.5mm)を作製した。
【0074】
[比較例5]
比較例4において、温度を320℃に変更した以外は、比較例4と同様にして、圧着体(厚み:1.0mm)を作製した。
【0075】
実施例および比較例で得られた圧着体を用い、下記評価を行った。
【0076】
1.構造観察
SEM(S-3400N、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用い、PFA繊維間の構造を、倍率500倍または1000倍で観察し、PTFEのフィブリルの有無、該フィブリルの向き等を確認した。
なお、実施例1~3および比較例1~4の圧着体それぞれのSEM画像の代表例として、実施例2および比較例2の圧着体における、倍率500倍のSEM画像を、それぞれ図1および2に示し、実施例1および比較例1の圧着体における、倍率1000倍のSEM画像を、それぞれ図3および4に示す。
【0077】
得られたSEM画像より、PTFEフィブリルの平均繊維径を測定した。なお、平均繊維径は、得られたSEM画像から無作為に20本のフィブリルを選び、これら各フィブリルの繊維径を測定し、この測定結果から算出した平均値である。結果を表1に示す。
また、得られたSEM画像から無作為に40本のフィブリルを選び、これら各フィブリルの、PFA繊維方向に対する角度を測定し、該40本のフィブリルに対する、PFA繊維方向に対し45~90°に配向したフィブリルの本数の割合(基材繊維に略垂直方向のフィブリルの割合)を算出した。これらの結果を表1に示す。
【0078】
実施例1~3で得られた圧着体は、隣接するPFA繊維同士を、該繊維の方向に対し略垂直方向にPTFEのフィブリルが結合しており、PFA繊維同士が一体化されていた。具体的には、実施例1で得られた圧着体は、数十nm程度(最小繊維径:40nm、平均繊維径:80nm)のPTFEのフィブリルがPFA繊維間を繋ぐように結合していた。また、実施例2および3では、繊維径0.2~0.3μm程度のフィブリルも生じていた。なお、実施例1~3で得られた圧着体では、PFA繊維方向に対し、45~90°に配向したフィブリルの本数と、80~90°に配向したフィブリルの本数とはほぼ同じであった。
一方、比較例1~4で得られた圧着体は、PTFEのフィブリルがPFA繊維間を繋ぐように結合しておらず、図4のように、PTFEディスパージョン由来の平均粒径が0.2μm程度のPTFEの1次粒子がPFA繊維上や繊維間の隙間に堆積している様子が確認された。
【0079】
なお、前記と同様のSEMを用い、比較例5で得られた圧着体の断面の構造を、倍率500倍で観察した画像を図5に示す。
比較例5で得られた圧着体は、繊維が熱融着して空隙がなくなり、フィルム化しており、繊維を用いる意味がなくなった圧着体(フィルム)であった。
【0080】
2.厚みの測定
作製した圧着体の厚みを、マイクロメータ(LITEMATIC VL-50、(株)ミツトヨ製)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0081】
3.最大圧入抵抗値の測定
作製した圧着体の機械物性として、万能引張試験機(EZ-test、(株)島津製作所製)を用いて突き刺し試験を行った。
具体的には、φ20mmの圧着体を、φ12mmの穴の開いた専用の突き刺し台に取り付け、その圧着体を、φ1mmで先端Rが0.5mmの突き刺し棒で、1mm/sの速度で突き刺した時の最大圧入抵抗値を求めた。結果を表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
実施例で得られた圧着体は、PTFEのフィブリルにより、隣接するPFA繊維同士が一体化されるため、突き差し時の抵抗値が大きくなり、本発明の一実施形態によれば、機械的強度に優れ、強固な圧着体を容易に得ることができた。
【0084】
4.圧着体の熱による寸法変化測定
作製した圧着体の熱による繊維間の剥がれ度合いを確認するために、260℃に設定した電気炉で1時間圧着体を加熱した前後の圧着体の厚みを、前記2.と同様にして測定した。結果を表2に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
実施例で得られた圧着体は、260℃で加熱しても、PTFEのフィブリルにより、隣接するPFA繊維同士が一体化されるため、熱膨張によるPFA繊維同士の剥がれが抑制されたと推測される。
なお、実施例1~3および比較例1~4の圧着体の代表例として、実施例2および比較例2の圧着体自体の外観写真を、それぞれ図6および7に示す。これらの図から、実施例では、繊維のほつれ等が抑制された所望の形状を有する圧着体が得られたことが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7