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特許7560114光合成に関する学習データ作成装置、機械学習装置、推定装置、方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】光合成に関する学習データ作成装置、機械学習装置、推定装置、方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20240925BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
A01G7/00 603
G01N21/17 A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021019532
(22)【出願日】2021-02-10
(65)【公開番号】P2022122358
(43)【公開日】2022-08-23
【審査請求日】2024-01-29
(73)【特許権者】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北野 雅治
(72)【発明者】
【氏名】野村 浩一
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-156431(JP,A)
【文献】特開2019-170247(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0007288(US,A1)
【文献】特開平8-172913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
G01N 21/17
G01N 33/48
G06Q 50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の光合成速度を推定する推定用アルゴリズムの学習に用いる学習データを作成するための学習データ作成装置であって、
圃場における環境データに基づいて個葉光合成速度を算出する個葉光合成速度算出部と、
前記圃場において栽培されている植物の葉を含む画像に基づいて、前記葉に関する指標を算出する指標算出部と、
前記圃場において測定される前記植物の光合成速度を、前記個葉光合成速度と前記葉に関する前記指標とに関連付けて、学習データを作成する学習データ作成部と、
を備える、学習データ作成装置。
【請求項2】
前記指標算出部は、人工知能を用いた画像解析により、前記画像において前記葉の領域を抽出する葉領域抽出部を備える、請求項1に記載の学習データ作成装置。
【請求項3】
前記葉に関する前記指標は、前記葉の葉面積指数と、前記葉の受光効率指数との少なくともいずれかを含む、請求項1または2のいずれかに記載の学習データ作成装置。
【請求項4】
前記指標算出部は、前記画像を二値化することにより得られる、前記画像において前記葉以外の領域が占める割合を用いて、前記葉面積指数を算出する葉面積指数算出部を備える、請求項3に記載の学習データ作成装置。
【請求項5】
前記指標算出部は、前記画像について前記葉の領域の相対輝度を積算することにより、前記受光効率指数を算出する受光効率指数算出部を備える、請求項3または4に記載の学習データ作成装置。
【請求項6】
前記個葉光合成速度算出部は、前記環境データと、植物生理生態モデルとに基づいて、前記個葉光合成速度を算出する、請求項1から5のいずれか一項に記載の学習データ作成装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の学習データ作成装置によって作成された学習データに基づいて、前記植物の光合成速度を推定する推定用アルゴリズムを学習する学習部、
を備える、機械学習装置。
【請求項8】
前記推定用アルゴリズムは、人工ニューラルネットワークを用いて構成されている、請求項7に記載の機械学習装置。
【請求項9】
圃場における環境データを取得する環境データ取得部と、
前記圃場において栽培されている植物の葉を含む画像を取得する植物画像取得部と、
前記環境データに基づいて、個葉光合成速度を算出する個葉光合成速度算出部と、
前記画像に基づいて、前記葉に関する指標を算出する指標算出部と、
請求項7または8に記載の機械学習装置によって学習された推定用アルゴリズムに従って、前記個葉光合成速度と前記葉に関する前記指標とに基づいて、前記植物の光合成速度を推定する光合成速度推定部と、
を備える、推定装置。
【請求項10】
植物の光合成速度を推定する推定用アルゴリズムの学習に用いる学習データを作成するための学習データ作成方法であって、
圃場における環境データに基づいて、個葉光合成速度を算出する個葉光合成速度算出ステップと、
前記圃場において栽培されている植物の葉を含む画像に基づいて、前記葉に関する指標を算出する指標算出ステップと、
前記圃場において測定される前記植物の光合成速度を、前記個葉光合成速度と前記葉に関する前記指標とに関連付けて、学習データを作成する学習データ作成ステップと、
を含む、学習データ作成方法。
【請求項11】
請求項10に記載の学習データ作成方法によって作成された学習データに基づいて、前記植物の光合成速度を推定する推定用アルゴリズムを学習する学習ステップ、
を含む、機械学習方法。
【請求項12】
圃場における環境データを取得する環境データ取得ステップと、
前記圃場において栽培されている植物の葉を含む画像を取得する植物画像取得ステップと、
前記環境データに基づいて、個葉光合成速度を算出する個葉光合成速度算出ステップと、
前記画像に基づいて、前記葉に関する指標を算出する指標算出ステップと、
請求項11に記載の機械学習方法によって学習された推定用アルゴリズムに従って、前記個葉光合成速度と前記葉に関する前記指標とに基づいて、前記植物の光合成速度を推定する光合成速度推定ステップと、
を含む、推定方法。
【請求項13】
コンピュータに、
請求項10に記載の学習データ作成方法の各ステップを実行させるためのプログラム。
【請求項14】
コンピュータに、
請求項11に記載の機械学習方法の各ステップを実行させるためのプログラム。
【請求項15】
コンピュータに、
請求項12に記載の推定方法の各ステップを実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の光合成速度を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の成長は光合成による炭素同化により進行する。植物において光合成による反応が進行している程度を示す光合成速度や、植物の葉から水分が蒸散する程度を示す蒸散速度は、植物の生育状況や収穫量を大きく左右する要因として知られている。作物を圃場に定植してから収穫するまでの間の長期に渡って連続的に、作物の光合成速度や蒸散速度を定量的に把握することは、農業の効率化を進めている営農現場にとって重要となっている。
【0003】
営農現場において、作物の光合成速度は、作物を囲う透明な開放型のチャンバーを圃場に設置することにより測定されている。圃場に植えられている作物を測定用の透明な開放型のチャンバーで囲い、チャンバーに外気を通気する。チャンバー内のCO濃度は、外気がチャンバー内を通る間に作物による光合成により変化する。作物の光合成速度は、チャンバーに設けられている吸気口と排気口との間のCOの濃度差に基づいて、ガス分析装置および流量計を用いて測定することができる。作物の蒸散速度についても光合成速度と同様に、吸気口と排気口との間のHOの濃度差に基づいて測定することができる。
【0004】
また近年では、営農現場においても情報通信技術(ICT)や人工知能(AI)を導入する取り組みが進められている。例えば下記特許文献1に記載の生産管理システムによると、気温に対する農作物の光合成量を示すモデルと、気温に対する農作物の生育量を示すモデルとに基づいて、農作物の収量予測を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-24703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
開放型のチャンバーを用いる、圃場に設置するタイプの測定システムは、高価であり要求される測定技術も高度であることから、主に学術的な研究を目的として利用されている。研究者が使用するこのような測定システムを、営農現場において、特に小規模の生産者が圃場に設置して日常的に運用することは現実的ではない。
【0007】
特許文献1に記載の生産管理システムは、農作物の収量予測を行うシステムではあっても、農作物の光合成速度を予測するシステムではない。特許文献1の生産管理システムでは、気温に対する農作物の光合成量を示すモデルを用いてはいるものの、このモデルは光合成速度を予測するモデルではない。
【0008】
このような事情から、営農現場においては、特に小規模の圃場においては、作物の生育状況は依然として生産者の経験や勘に基づいて把握されており、作物の光合成速度を測定して定量的に把握する取り組みは進んでいない。作物の生育状況を適切に把握して農業の効率化を進めるために、営農現場において作物の光合成速度をより手軽に定量的に把握することが求められている。農作物に限らず、例えば生花についても同様である。
【0009】
本発明は、植物の光合成速度を定量的に把握することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明は、例えば以下に示す態様を含む。
(項1)
植物の光合成速度を推定する推定用アルゴリズムの学習に用いる学習データを作成するための学習データ作成装置であって、
圃場における環境データに基づいて個葉光合成速度を算出する個葉光合成速度算出部と、
前記圃場において栽培されている植物の葉を含む画像に基づいて、前記葉に関する指標を算出する指標算出部と、
前記圃場において測定される前記植物の光合成速度を、前記個葉光合成速度と前記葉に関する前記指標とに関連付けて、学習データを作成する学習データ作成部と、
を備える、学習データ作成装置。
(項2)
前記指標算出部は、人工知能を用いた画像解析により、前記画像において前記葉の領域を抽出する葉領域抽出部を備える、項1に記載の学習データ作成装置。
(項3)
前記葉に関する前記指標は、前記葉の葉面積指数と、前記葉の受光効率指数との少なくともいずれかを含む、項1または2のいずれかに記載の学習データ作成装置。
(項4)
前記指標算出部は、前記画像を二値化することにより得られる、前記画像において前記葉以外の領域が占める割合を用いて、前記葉面積指数を算出する葉面積指数算出部を備える、項3に記載の学習データ作成装置。
(項5)
前記指標算出部は、前記画像について前記葉の領域の相対輝度を積算することにより、前記受光効率指数を算出する受光効率指数算出部を備える、項3または4に記載の学習データ作成装置。
(項6)
前記個葉光合成速度算出部は、前記環境データと、植物生理生態モデルとに基づいて、前記個葉光合成速度を算出する、項1から5のいずれか一項に記載の学習データ作成装置。
(項7)
項1から6のいずれかに記載の学習データ作成装置によって作成された学習データに基づいて、前記植物の光合成速度を推定する推定用アルゴリズムを学習する学習部、
を備える、機械学習装置。
(項8)
前記推定用アルゴリズムは、人工ニューラルネットワークを用いて構成されている、項7に記載の機械学習装置。
(項9)
圃場における環境データを取得する環境データ取得部と、
前記圃場において栽培されている植物の葉を含む画像を取得する植物画像取得部と、
前記環境データに基づいて、個葉光合成速度を算出する個葉光合成速度算出部と、
前記画像に基づいて、前記葉に関する指標を算出する指標算出部と、
項7または8に記載の機械学習装置によって学習された推定用アルゴリズムに従って、前記個葉光合成速度と前記葉に関する前記指標とに基づいて、前記植物の光合成速度を推定する光合成速度推定部と、
を備える、推定装置。
(項10)
植物の光合成速度を推定する推定用アルゴリズムの学習に用いる学習データを作成するための学習データ作成方法であって、
圃場における環境データに基づいて、個葉光合成速度を算出する個葉光合成速度算出ステップと、
前記圃場において栽培されている植物の葉を含む画像に基づいて、前記葉に関する指標を算出する指標算出ステップと、
前記圃場において測定される前記植物の光合成速度を、前記個葉光合成速度と前記葉に関する前記指標とに関連付けて、学習データを作成する学習データ作成ステップと、
を含む、学習データ作成方法。
(項11)
項10に記載の学習データ作成方法によって作成された学習データに基づいて、前記植物の光合成速度を推定する推定用アルゴリズムを学習する学習ステップ、
を含む、機械学習方法。
(項12)
圃場における環境データを取得する環境データ取得ステップと、
前記圃場において栽培されている植物の葉を含む画像を取得する植物画像取得ステップと、
前記環境データに基づいて、個葉光合成速度を算出する個葉光合成速度算出ステップと、
前記画像に基づいて、前記葉に関する指標を算出する指標算出ステップと、
項11に記載の機械学習方法によって学習された推定用アルゴリズムに従って、前記個葉光合成速度と前記葉に関する前記指標とに基づいて、前記植物の光合成速度を推定する光合成速度推定ステップと、
を含む、推定方法。
(項13)
コンピュータに、
項10に記載の学習データ作成方法の各ステップを実行させるためのプログラム。
(項14)
コンピュータに、
項11に記載の機械学習方法の各ステップを実行させるためのプログラム。
(項15)
コンピュータに、
項12に記載の推定方法の各ステップを実行させるためのプログラム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、植物の光合成速度を定量的に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る光合成速度推定支援システムの概略的な構成を模式的に示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る学習データ作成装置および機械学習装置の機能を説明するためのブロック図である。
図3】本発明において導入する植物生理生態モデルを説明するための模式的な図である。
図4】人工知能を用いた画像解析により葉の領域を抽出した一例を示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係る推定用アルゴリズムに用いる人工ニューラルネットワークを説明するための模式的な図である。
図6】本発明の一実施形態に係る推定装置の機能を説明するためのブロック図である。
図7】本発明の一実施形態に係る機械学習装置を用いて推定用アルゴリズムの機械学習を行う手順を説明するためのフローチャートである。
図8】本発明の一実施形態に係る機械学習装置を用いて推定用アルゴリズムの機械学習を行う手順を説明するためのフローチャートである。
図9】本発明の一実施形態に係る推定装置と学習済の推定用アルゴリズムとを用いて光合成速度を推定する手順を説明するためのフローチャートである。
図10】本発明の一実施形態に係る推定装置と学習済の推定用アルゴリズムとを用いて光合成速度を推定する手順を説明するためのフローチャートである。
図11】推定装置により推定された株当たりの光合成速度の妥当性を検証するためのグラフである。
図12】葉面積指数の季節毎の変動と花数および果実数の季節毎の変動とを同じ時間軸で並べて示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明および図面において、同じ符号は同じまたは類似の構成要素を示すこととし、よって、同じまたは類似の構成要素に関する重複した説明を省略する。
[推定支援システム]
<システムの概要>
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る光合成速度推定支援システムの概略的な構成を模式的に示す図である。
【0015】
本発明の一実施形態に係る光合成速度推定支援システム100(以下、単に推定支援システム100とも記載する)は、学習データ作成装置1と、機械学習装置2と、推定装置3とを備える。推定支援システム100は、小規模な圃場80における生産者が、植物を囲う透明な開放型のチャンバーのような、高度な測定技術が要求される高価な測定システムを用いることなく、生産者が運営する圃場80における植物81の株当たりの光合成速度を定量的に把握することを可能にする。
【0016】
学習データ作成装置1、機械学習装置2、および推定装置3は、例えばネットワーク10を介してデータの送受信が可能な態様で、有線または無線により直接的または間接的に接続されている。
【0017】
本実施形態では、学習データ作成装置1および機械学習装置2は、例えば試験研究用の圃場90を管理する組織または者(以下、単に管理者とも記載する)によって使用される。推定装置3は、例えば小規模な圃場80における生産者(以下、単に生産者とも記載する)によって使用される。圃場90の管理者は、例えば国や県の農業試験場や、国公立または私立の研究機関および大学等、並びにそれら組織における研究者等である。管理者は、圃場90に設置されている開放型のチャンバーを用いて、後述するデータ41,42,43を測定することが可能な測定技術を有している。
【0018】
圃場90、80において栽培される植物91,81について説明する。株当たりの光合成速度を定量的に把握しようとする対象である、生産者の圃場80において栽培されている植物81の種類は、管理者の圃場90において栽培されている植物91の種類と同じである。圃場90,80において栽培される植物は、茄子やニラ等の食用の作物に限らず、例えば生花とすることができる。すなわち圃場90,80において栽培する植物91,81は、光合成を行う植物であればよい。
【0019】
学習データ4の作成に用いる環境データ41、植物91の葉を含む画像42、および植物91の株当たりの光合成速度の測定データ43は、植物91を囲う透明な開放型のチャンバーが設置されている圃場90において取得される。取得されたデータ41,42,43は学習データ作成装置1に入力され記録される。圃場90におけるデータ41,42,43の取得については後述する。
【0020】
学習データ作成装置1は、植物の株当たりの光合成速度を推定する推定用アルゴリズム5の学習に用いる学習データ4を作成する。学習データ4は、試験研究用の圃場90において測定されるデータ41,42,43に基づいて作成される。作成された学習データ4は、機械学習装置2に提供される。学習データ4および推定用アルゴリズム5は植物の種類毎に作成される。
【0021】
機械学習装置2は、学習データ作成装置1によって作成された学習データ4に基づいて、推定用アルゴリズム5を学習する。学習された推定用アルゴリズム5は、推定装置3に提供される。
【0022】
生産者の圃場80では、圃場80における環境データおよび植物81の葉を含む画像が、感知装置6および撮像装置7を用いて取得される。
【0023】
推定装置3は、機械学習装置2によって学習された推定用アルゴリズム5に従って、個葉光合成速度と葉に関する指標とに基づいて、植物81の株当たりの光合成速度を推定する。個葉光合成速度および葉に関する指標は、生産者の圃場80において取得された環境データおよび植物81の葉を含む画像に基づいて算出される。
【0024】
これにより、小規模な圃場80における生産者は、植物を囲う透明な開放型のチャンバーのような、高度な測定技術が要求される高価な測定システムを用いることなく、生産者が運営する圃場80において、植物81の株当たりの光合成速度を定量的に把握することが可能になる。
【0025】
試験研究用の圃場90において、植物91は、光合成速度を測定するための、透明な開放型のチャンバー92で囲われている。チャンバー92には吸気口93と排気口94とが設けられており、チャンバー92内に外気が通気される。チャンバー92内のCO濃度は、外気がチャンバー92内を通る間に、植物91による光合成により変化する。ガス分析装置95は、COの濃度および水蒸気の濃度を、吸気口93および排気口94のそれぞれについて測定することができる。吸気口93に設けられた流量計96は、チャンバー92内に流入する外気の流量を測定することができる。
【0026】
圃場90におけるデータ41,42,43の取得について説明する。本実施形態では、環境データ41として、光合成光量子束密度(photosynthetic photon flux density; PPFD)(単位[μmol・m-2・s-1])、雰囲気のCO濃度C(単位[μmol・mol-1])、雰囲気の気温T(単位[℃])、および雰囲気の湿度VPD(vapor pressure deficit)(単位[kPa])の4つを用いる。
【0027】
本実施形態では、光合成光量子束密度PPFDはPPFDセンサ97を用いて測定される。COの濃度はガス分析装置95を用いて測定される。気温は熱電対98a,98bを用いて測定される。湿度は、ガス分析装置95によって測定される水蒸気の濃度と、熱電対98a,98bを用いて測定される気温とから算出される。
【0028】
本実施形態では、圃場90において栽培されている植物91の葉を含む画像42は、チャンバー92の天井面に取り付けられた撮像装置99(デジタルカメラ99)を用いて撮像され、画像データが取得される。画像42は、植物91を天井面から地面(土壌)に向かって見下ろした直下視(nadir view)画像であり、撮像範囲に植物91の葉が含まれている画像である。撮像装置99により撮像される画像42の色空間はRGB形式である。
【0029】
本実施形態では、植物91の株当たりの光合成速度43は、吸気口93と排気口94との間のCOの濃度差と、チャンバー92内に流入する外気の流量との積から算出される。
【0030】
チャンバー92を用いて測定したデータから算出される光合成速度43は、チャンバー92内において栽培されている植物91の複数の株に関する光合成速度であり、このような光合成速度は群落(canopy)の光合成速度と呼ばれている。群落が複数の株で構成されている場合、群落の光合成速度は、複数の株それぞれについての株当たりの光合成速度の和である。チャンバー92が設置されている圃場90においては、群落の光合成速度の値は、チャンバー92が囲う植物91の複数の株について、それぞれの株当たりの光合成速度の値を積算した値である。よって、植物91の株当たりの光合成速度は、チャンバー92を用いて測定した光合成速度を、チャンバー92が囲う植物91の株の数で除算することにより取得することができる。
【0031】
なお、農業栽培においては、作物の収量などを土地面積当たりで比較するケースが多い。土地面積当たりの光合成速度は、株当たりの光合成速度に植栽密度(株数/m)を乗じることにより算出することができる。
<ハードウェア構成>
【0032】
学習データ作成装置1、機械学習装置2、および推定装置3は、例えば汎用コンピュータやタブレットPC、スマートフォン等を用いて構成することができる。これら学習データ作成装置1、機械学習装置2、および推定装置3のすべてを汎用コンピュータで構成することができるし、一部をタブレットPCやスマートフォンで構成することもできる。
【0033】
例えばスマートフォンを用いると、推定装置3と、後述する撮像装置7と表示装置8と入力装置9とが一体化された統合型の推定装置を構成することができる。スマートフォンを用いたこのような統合型の推定装置に、さらに別体の感知装置6を例えばWi-Fi(登録商標)やBluetooth(登録商標)等の無線通信方式を用いて通信可能に接続することにより、営農現場において生産者が手軽に使用することが可能なユーザ端末を提供することができる。
【0034】
学習データ作成装置1、機械学習装置2、および推定装置3のそれぞれは、ハードウェアの構成として、データ処理を行うCPU等のプロセッサ(図示せず)と、プロセッサがデータ処理の作業領域に使用する主記憶装置(図示せず)と、データの一時保存に使用する補助記憶装置19,29,39とを備えている。それぞれの補助記憶装置19,29,39には、データ41,42,43、学習データ4、推定用アルゴリズム5、学習データ作成プログラム、機械学習プログラム、推定プログラム等が適宜記憶されている。
【0035】
推定装置3には、ハードウェアの構成として、感知装置6と撮像装置7とが接続されている。感知装置6および撮像装置7は、推定装置3のユーザである生産者が、圃場80における環境データと植物81の葉を含む画像とを取得するために用いられる。
【0036】
本実施形態では、感知装置6は、圃場80における環境データとして、光合成光量子束密度PPFDと、雰囲気のCOの濃度と、雰囲気の気温と、雰囲気の湿度とを測定する。感知装置6は、これら環境データのそれぞれを測定するための各種のセンサを備えている。例えば、光合成光量子束密度PPFDを測定するセンサには、公知のPPFDセンサを用いることができる。COの濃度を測定するセンサには公知のCOセンサを用いることができ、気温および湿度を測定するセンサには公知の温湿度センサを用いることができる。これらセンサはすべて手持ち型の機器で実現することができ、感知装置6は手軽に使用することが可能である。
【0037】
撮像装置7は、圃場80において栽培されている植物81の葉を含む画像を撮像し、画像データを取得する。圃場90において取得される画像42と同様に、本実施形態では、撮像装置7が撮像する画像は植物81の直下視画像であり、撮像範囲に一株の植物81の葉が概ね全て含まれている画像である。撮像装置7にはデジタルカメラ7を用いることができる。
【0038】
なお、後述する図6に示すように、本実施形態では、推定装置3は表示装置8を備えている。表示装置8には、例えば液晶モニタを用いることができ、推定装置3のユーザである生産者に情報を表示する。また、推定装置3には、任意の構成として、入力装置9を接続することができる。入力装置9には、例えばキーボード、タッチパネル、マウス等を用いることができ、ユーザからの入力操作を受け付ける。推定装置3は、例えばユーザが感知装置6を用いて測定した環境データの値を、入力装置9を介して取得することもできる。表示装置8と入力装置9とが一体化されたタッチパネルを、推定装置3に接続してもよい。
[学習データ作成装置]
【0039】
図2は、本発明の一実施形態に係る学習データ作成装置および機械学習装置の機能を説明するためのブロック図である。
【0040】
学習データ作成装置1は、機能ブロックとして、個葉光合成速度算出部11と、指標算出部12と、学習データ作成部13とを備えている。指標算出部12は、機能ブロックとして、葉領域抽出部121と、葉面積指数算出部122と、受光効率指数算出部123とを備えている。これらの機能ブロックは、集積回路等を用いてハードウェアとして実装することができる。或いは、これらの機能ブロックは、学習データ作成装置1のプロセッサが、学習データ作成プログラムを学習データ作成装置1の主記憶装置に読み出して実行することにより、ソフトウェアとして実装することもできる。
【0041】
個葉光合成速度算出部11は、圃場90における環境データ41に基づいて個葉光合成速度を算出する。本実施形態では、個葉光合成速度算出部11は、環境データ41と、植物生理生態モデル(plant physio-ecological model)とに基づいて、個葉光合成速度(single-leaf photosynthetic rate)を算出する。
【0042】
図3は、本発明において導入する植物生理生態モデルを説明するための模式的な図である。(A)は葉緑体を示しており、(B)は葉の断面図を示している。
【0043】
本実施形態では、植物生理生態モデルは、光合成生化学モデル(biochemical model of photosynthetic)と、輸送方程式と、気孔コンダクタンスモデルと、熱収支モデルとを含む。光合成生化学モデルは、(A)に示す葉緑体における作用に関連する。輸送方程式、気孔コンダクタンスモデル、および熱収支モデルは、(B)に示す葉における作用に関連する。本実施形態では、これら4つのモデルを表す以下のそれぞれの数式に環境データ41の値を代入して、連立方程式を解くことにより、個葉光合成速度Aを算出する。
【0044】
光合成生化学モデルは次の式1~式4で表される。
【数1】
【0045】
光合成生化学モデルでは、光合成速度を、CO濃度に律速されるRubisco-limited段階における光合成速度AL,cと、光量により主に律速されるRuBP-limited段階における光合成速度AL,jとの2つの律速段階における2つの光合成速度に分けて、これら2つの光合成速度AL,c,AL,jのうち、速度が低い方を個葉光合成速度Aとしている。
【0046】
なお、図3の(B)に示す葉肉コンダクタンスgは実測が困難である。そのため、本実施形態において導入する光合成生化学モデルでは、葉緑体内のCO濃度Cと葉内細胞間のCO濃度Cとの間にほとんど差が無いと仮定して、C=Cとしている。
【0047】
輸送方程式は次の式5および式6で表される。
【数2】
【0048】
気孔コンダクタンスモデルは次の式7で表される。
【数3】
【0049】
熱収支モデルは次の式8で表される。
【数4】
【0050】
式1~式8および図3中に表されている変数について説明する。
【0051】
PPFD、C、T、およびVPDはそれぞれ、光合成光量子束密度PPFD、雰囲気のCO濃度、雰囲気の気温、および雰囲気の湿度であり、圃場90,80において環境データとして取得される。
【0052】
L,AL,c,AL,jは光合成速度(単位[μmol・m-2・s-1])を意味する。ALは個葉光合成速度である。AL,cはRubisco-limited段階における光合成速度である。AL,jはRuBP-limited段階における光合成速度である。
【0053】
cmaxは、カルボキシル化の最大速度(単位[μmol・m-2・s-1])であり、植物の種類毎に定める値である。Rは、日中の呼吸数(day respiration rate)(単位[μmol・m-2・s-1])である。Γは、日中の呼吸数Rが無い場合のCO同化のCO補償点(単位[μmol・m-2・s-1])である。
【0054】
,C,Cは葉のCO濃度(単位[μmol・mol-1])を意味する。Cは葉内細胞間のCO濃度である。Cは葉緑体内のCO濃度である。Cは葉の表面のCO濃度である。Oは葉内細胞間のO濃度(単位[mol・mol-1])である。
【0055】
,KはMichaelis-Menten定数(単位[μmol・mol-1])である。Kはカルボキシル化のMichaelis-Menten定数である。Kはカルボキシル化酸素化のMichaelis-Menten定数である。
【0056】
Jは電子伝達速度(単位[μmol・m-2・s-1])であり、植物の種類毎に定める値である。Jmaxは電子伝達速度Jの最大値である。θはJ-PPFD曲線のコンベクシティ(convexity)である。φはJ-PPFD曲線の初期勾配(initial slope)である。
【0057】
,g,gは葉のコンダクタンス(単位[mol・m-2・s-1])を意味する。gは気孔コンダクタンスである。gは葉面境界層コンダクタンスである。gは葉肉コンダクタンスである。g,gは、気孔コンダクタンスgのフィッティング・パラメータである。VPDは葉面と雰囲気との飽差(単位[Pa])である.
【0058】
ρは空気の密度(1.204kg・m-3)である。Cは定圧力での空気の比熱(1010J・kg-1・K-1)である。
【0059】
L,γ,Rni,s,gHR,gLWは熱収支モデルを記述する変数である。TLは葉温(単位[K])である。γは乾湿計定数(単位[Pa・K-1])である。Rniは等温純放射(単位[W・m-2・s-1])である。sは温度に対する飽和水蒸気圧の傾き(単位[Pa・K-1])である。gHRは放射と葉面境界層における顕熱輸送との合計コンダクタンス(単位[m・s-1])である。gLWは葉面境界層と気孔における水分子輸送の合成コンダクタンス(単位[m・s-1])である。
【0060】
式1~式8中に表されている変数のうち、別の測定により予め値を決定しておく変数およびその値を以下に示す。以下に示す値はすべて葉温が25℃における値である。
cmax=90.58[μmol・m-2・s-1
max=154.99[μmol・m-2・s-1
=1.39[μmol・m-2・s-1
=404.9[μmol・mol-1
=278.4[μmol・mol-1
Γ=42.75[μmol・mol-1
θ=0.7
φ=0.36
=0.034[mol・m-2・s-1
=4.43
【0061】
変数Vcmax,Jmax,R,K,K,Γは温度依存性を有するパラメータである。変数Vcmax,R,K,K,Γの値は、葉温が25℃のときの値をもとにアレニウス式により求める。変数Jmaxは葉温が25℃のときの値をもとに修正アレニウス式により求める。アレニウス式は公知であるので本明細書における詳細な説明は省略する。
【0062】
再び図2を参照する。指標算出部12は、圃場90において栽培されている植物91の葉を含む画像42に基づいて、葉に関する指標を算出する。本実施形態では、葉に関する指標として、葉面積指数(Leaf Area Index; LAI)と、葉の受光効率指数とを算出する。これら指標の算出に先立って、葉領域抽出部121が葉の領域を抽出する。
【0063】
葉領域抽出部121は、人工知能を用いた画像解析により、植物91の葉を含む画像42において葉の領域を抽出する。本実施形態では、葉領域抽出部121は、人工知能の一例である深層学習を用いた公知の画像認識の手法に基づいて、画像42において葉の領域を抽出する。葉領域抽出部121は、葉以外の領域であると判別した領域を黒色に置き換える。後述するように、黒色の領域は相対輝度Lの値がゼロである。
【0064】
図4は、人工知能を用いた画像解析により葉の領域を抽出した一例を示す図である。(A)は葉の領域を抽出する前の画像であり、(B)は人工知能により葉の領域を抽出した後の画像である。
【0065】
(A)および(B)において、符号101で示す領域は植物の葉の領域である。(A)において符号102で示す領域は、植物を栽培する土壌を覆うビニールシートである。例えば葉領域抽出部121は、人工知能を用いた画像解析により、(A)において符号102で示すこのようなビニールシートの領域を、葉以外の領域であると判別する。このビニールシートの領域のように、葉以外の領域であると判別された領域は、(B)において符号103で示すように黒色で表示されている。
【0066】
再び図2を参照する。葉面積指数算出部122は、植物91の葉を含む画像42を二値化することにより得られる、画像42において葉以外の領域が占める割合を用いて、葉面積指数LAIを算出する。例示的には、画像の二値化とは画像の白黒化を意味する。本実施形態では、植物91の葉を含む画像42は、植物91を天井面から地面に向かって見下ろした直下視画像である。このような直下視画像を二値化(すなわち白黒化)することにより、葉を含む画像42を葉の領域aと葉以外の領域aNLとに二分すると、葉以外の領域が占める割合Pは、P=aNL/(aNL+a)と表される。Pを用いると、葉面積指数LAIは、次の式9に基づいて算出することができる。
【数5】
【0067】
葉面積指数LAIの算出について詳述する。植物の株を天井面から地面に向かって見下ろした直下視画像を考える。このような直下視画像において、大きさがLの葉面積指数を有する株を、鉛直方向下向きに株の表面から底面にかけて十分に大きな数のN個の層に分割することを考える。分割したそれぞれの層内には、株が有する葉の一部が含まれていることとする。このとき以下の4つの事項を仮定する。
【0068】
仮定1:葉は方位的に均一かつ空間的にランダムに分布している。
仮定2:各層が有する葉面積指数は等しい。すなわちL/N=ΔLである。
仮定3:光線は鉛直下向きに照射され、各層において光線が葉に複数回接触する確率は、光線が葉に一回のみ接触する確率よりも極めて小さくゼロである。
仮定4:各層において光線が葉に接触する確率は、仮定1に基づいてすべての層において等しい。その確率は、各層が有する葉面積指数を水平投影した値に等しく、係数をGとするとGΔLと表すことができ、光線が葉に接触しない確率は(1-GΔL)と表すことができる。
【0069】
光線が株の表面から底面にかけてN個の層を通過する際に、すべての層において葉と接触しない確率Pは、組合せの記号Cを用いて次の式10のように記述される。
【数6】
【0070】
ここでNを無限に大きくすると、式10は次の式11のように変形することができる。
【数7】
【0071】
式11は、確率Pが葉面積指数の大きさLのポアソン分布の関係にあることを示している。ここで、葉の傾斜角が球面分布していると仮定すると、係数G=0.5と近似することができる。この近似により式11を変形することにより、次の式12を得ることができる。
【数8】
【0072】
式12により、植物の株の直下視画像において葉以外の領域が占める割合(P)から、葉面積指数LAIを算出することができる。
【0073】
受光効率指数算出部123は、植物91の葉を含む画像42について、葉の領域の相対輝度を積算することにより受光効率指数を算出する。
【0074】
相対輝度は、基準白色に対して正規化された値である。RGB形式の画像において或る画素のRGB値をそれぞれR,G,Bで表すと、その画素の相対輝度Lは例えば次の式13によって計算することができる。
【0075】
相対輝度L=0.2126×R+0.7152×G+0.0722×B (式13)
【0076】
受光効率指数算出部123は、RGB形式の画像42を輝度画像に変換し、変換した輝度画像において、葉の領域に含まれるそれぞれの画素について相対輝度を算出し、画像42内の全ての画素について算出したそれら相対輝度を積算する。画像42について算出される相対輝度Lの積算値を、植物91の直上で計測された光合成光量子束密度PPFDの値で除算したものが、受光効率指数である。受光効率指数は次の式14によって計算することができる。
【数9】
【0077】
なお、本実施形態では、RGB形式の画像42は、葉領域抽出部121により葉以外の領域は既に黒色に置き換えられている。黒色のRGB値は、R=0、G=0、B=0である。すなわち、黒色の領域については相対輝度Lの値がゼロとなり、RGB形式の画像42において黒色に置き換えられている葉以外の領域については、相対輝度Lの積算値に寄与しない。
【0078】
学習データ作成部13は、圃場90において測定される植物91の株当たりの光合成速度43を、個葉光合成速度と葉に関する指標とに関連付けて、学習データ4を作成する。学習データ4は、推定用アルゴリズム5の学習に用いるデータセットであり、入力層51に設定されるデータと出力層53に設定されるデータとがセットにされたデータである。作成した学習データ4は例えば補助記憶装置19に記憶される。
【0079】
作成した学習データ4は、学習データ作成装置1から機械学習装置2へ送信されて、機械学習装置2の補助記憶装置29に記憶される。機械学習装置2は、受信した学習データ4を用いて、推定用アルゴリズム5の機械学習を行う。
[機械学習装置]
【0080】
再び図2を参照する。機械学習装置2は、機能ブロックとして学習部21を備えている。学習部21は、集積回路等を用いてハードウェアとして実装することができる。或いは、学習部21は、機械学習装置2のプロセッサが、機械学習プログラムを機械学習装置2の主記憶装置に読み出して実行することにより、ソフトウェアとして実装することもできる。
【0081】
学習部21は、学習データ作成装置1によって作成された学習データ4に基づいて、植物の株当たりの光合成速度を推定する推定用アルゴリズム5を学習する。
【0082】
図5は、本発明の一実施形態に係る推定用アルゴリズムに用いる人工ニューラルネットワークを説明するための模式的な図である。
【0083】
本実施形態では、推定用アルゴリズム5は、人工ニューラルネットワーク(Artificial Neural Network; ANN)を用いて構成されている。推定用アルゴリズム5は、ニューラルネットワークを構成する層として、入力層51と、中間層52と、出力層53とを含んでいる。学習データ4は、それぞれが互いに関連付けられた、植物91の株当たりの光合成速度43と、個葉光合成速度と、葉に関する指標とから構成されている。学習部21は、個葉光合成速度と葉に関する指標とを入力層に設定し、株当たりの光合成速度43を出力層に設定して、推定用アルゴリズム5を学習する。学習済の推定用アルゴリズム5は補助記憶装置29に記憶される。
【0084】
なお、推定用アルゴリズムの学習を行う際に、出力層53に対する説明性が高い学習データを入力層51に設定することにより、学習データ4の量が従来よりも少量であっても、高い精度での推定が可能になる。すなわち、入力層51に設定するデータと、出力層53に設定するデータとの間の論理的な因果関係が向上するほど、より少ない量の学習データで推定用アルゴリズム5の学習を行うことができる。
【0085】
本実施形態では、推定用アルゴリズム5に順伝播型ニューラルネットワーク(Feedforward Neural Network)を用いる。推定用アルゴリズム5のニューラルネットワークは、中間層52に複数の層を含んでいる。ニューラルネットワークの学習アルゴリズムとして、推定用アルゴリズム5における重みパラメータ(シナプスウェイト)の調整には、誤差逆伝播法(back propagation)法を用いる。
【0086】
学習済の推定用アルゴリズム5は、機械学習装置2から推定装置3へ送信されて、推定装置3の補助記憶装置39に記憶される。推定装置3は、受信した学習済の推定用アルゴリズム5を用いて、生産者の圃場80における植物81の株当たりの光合成速度を推定する。
[推定装置]
【0087】
図6は、本発明の一実施形態に係る推定装置の機能を説明するためのブロック図である。
【0088】
推定装置3は、機能ブロックとして、環境データ取得部31と、植物画像取得部32と、個葉光合成速度算出部33と、指標算出部34と、光合成速度推定部35とを備えている。指標算出部34は、機能ブロックとして、葉領域抽出部341と、葉面積指数算出部342と、受光効率指数算出部343とを備えている。これらの機能ブロックは、集積回路等を用いてハードウェアとして実装することができる。或いは、これらの機能ブロックは、推定装置3のプロセッサが、推定プログラムを推定装置3の主記憶装置に読み出して実行することにより、ソフトウェアとして実装することもできる。
【0089】
推定装置3には、感知装置6と撮像装置7とが接続されている。推定装置3のユーザは、感知装置6および撮像装置7を用いて、圃場80における環境データと植物81の葉を含む画像とを取得する。
【0090】
環境データ取得部31は、圃場80における環境データを感知装置6から取得する。取得する環境データの種類は、学習データ作成装置1において学習データ4の作成に用いた環境データ41と同じである。本実施形態では、感知装置6および撮像装置7を用いて、圃場80における環境データとして、光合成光量子束密度PPFDと、雰囲気のCO濃度Cと、雰囲気の気温Tと、雰囲気の湿度VPDとを取得する。
【0091】
植物画像取得部32は、圃場80において栽培されている植物81の葉を含む画像を撮像装置7から取得する。本実施形態では、植物81の葉を含む画像を取得する方法は、圃場90において植物91の葉を含む画像を取得する方法と同じである。すなわち、撮像される植物81の葉を含む画像は、撮像装置7を用いて撮像され、画像データが取得される。取得された画像は、植物81を上方から地面に向かって見下ろした直下視画像であり、撮像範囲に一株の植物81の葉が概ね全て含まれている画像である。撮像装置7により撮像される画像の色空間はRGB形式である。
【0092】
個葉光合成速度算出部33は、図2に示す学習データ作成装置1の個葉光合成速度算出部11と同一の機能を有している。個葉光合成速度算出部33は、環境データ取得部31により取得した、圃場80における環境データに基づいて、個葉光合成速度を算出する。
【0093】
指標算出部34は、図2に示す学習データ作成装置1の指標算出部12と同一の機能を有している。すなわち、指標算出部34が備える葉領域抽出部341、葉面積指数算出部342、および受光効率指数算出部343は、指標算出部12が備える葉領域抽出部121、葉面積指数算出部122、および受光効率指数算出部123と同一の機能を有している。
【0094】
指標算出部34は、植物画像取得部32により取得した、圃場80において栽培されている植物81の葉を含む画像に基づいて、葉に関する指標を算出する。葉領域抽出部341は、人工知能を用いた画像解析により、植物81の葉を含む画像において葉の領域を抽出する。葉面積指数算出部342は、植物81の葉を含む画像を二値化することにより得られる、画像において葉以外の領域が占める割合を用いて、葉面積指数LAIを算出する。受光効率指数算出部343は、植物81の葉を含む画像について、葉の領域の相対輝度を積算することにより、受光効率指数を算出する。
【0095】
光合成速度推定部35は、機械学習装置2によって学習された推定用アルゴリズム5に従って、個葉光合成速度と葉に関する指標とに基づいて、植物81の株当たりの光合成速度を推定する。
【0096】
補助記憶装置39には、学習済の推定用アルゴリズム5が記憶されている。光合成速度推定部35は、個葉光合成速度算出部33により算出した個葉光合成速度と、指標算出部34により算出した葉に関する指標とを、学習済の推定用アルゴリズム5の入力層51に入力することにより、植物81の株当たりの光合成速度の推定値が出力層53から出力される。本実施形態では、出力層53から出力される、得られた推定値は、表示装置8に表示され、推定装置3のユーザである生産者に提示される。
【0097】
これにより、小規模な圃場80における生産者は、植物を囲う透明な開放型のチャンバーのような、高度な測定技術が要求される高価な測定システムを用いることなく、生産者が運営する圃場80において、植物81の株当たりの光合成速度を定量的に把握することが可能になる。
[機械学習の手順]
【0098】
図7および図8は、本発明の一実施形態に係る機械学習装置を用いて推定用アルゴリズムの機械学習を行う手順を説明するためのフローチャートである。
【0099】
機械学習の手順は、例えば試験研究用の圃場90の管理者である農業試験場の研究者により、学習データ作成装置1および機械学習装置2を用いて行われる。
【0100】
機械学習の手順は、推定用アルゴリズム5の学習に用いる学習データ4を作成するステップS1~ステップS7と、作成された学習データ4に基づいて推定用アルゴリズム5を学習するステップS8とを含む。ステップS1~ステップS7の手順は、学習データ作成装置1を用いて行われ、ステップS8の手順は機械学習装置2を用いて行われる。
【0101】
ステップS1において、圃場90における環境データ41を取得する。ステップS2において、圃場90において栽培されている植物91の葉を含む画像42を取得する。ステップS3において、圃場90における植物91の株当たりの光合成速度の測定データ43を取得する。例示的には、環境データ41および光合成速度の測定データ43は、30分毎に測定をし、合計3日分の144セットを取得する。葉を含む画像42は、1日毎に撮像をし合計3日分を取得する。なお、葉を含む画像42において、式12で計算される葉面積指数Lの値の変化は、一日のうちでは無視できる程度に小さい。よって、同じ日に測定した環境データ41および光合成速度の測定データ43のセットについて、これらデータ41,43を測定した日と同じ日に撮像した画像42を使いまわす(reuse)ことができる。
【0102】
図1に示すように、環境データ41は、例えば農業試験場の研究者が、圃場90に設置されている開放型のチャンバー92を用いて取得する。植物91の葉を含む画像42は、チャンバー92の天井面に取り付けられた撮像装置99を用いて取得される。株当たりの光合成速度43は、吸気口93と排気口94との間のCOの濃度差と、チャンバー92内に流入する外気の流量との積から算出する。これら取得した環境データ41、植物91の葉を含む画像データ42、および株当たりの光合成速度43の測定データ43は、学習データ作成装置1の補助記憶装置19に記憶される。
【0103】
ステップS4(個葉光合成速度算出ステップ)において、個葉光合成速度算出部11は、取得した環境データ41に基づいて個葉光合成速度を算出する。
【0104】
ステップS5(指標算出ステップ)において、指標算出部12は、取得した植物91の葉を含む画像データ42に基づいて、葉に関する指標を算出する。ステップS5では、次に説明するステップS5a~ステップS5cの手順を行う。
【0105】
ステップS5a(葉領域抽出ステップ)において、葉領域抽出部121は、人工知能を用いた画像解析により、植物91の葉を含む画像42において葉の領域を抽出する。
【0106】
ステップS5b(葉面積指数算出ステップ)において、葉面積指数算出部122は、植物91の葉を含む画像42を二値化することにより得られる、画像42において葉以外の領域が占める割合を用いて、葉面積指数を算出する。
【0107】
ステップS5c(受光効率指数算出ステップ)において、受光効率指数算出部123は、植物91の葉を含む画像42について、葉の領域の相対輝度を積算することにより、受光効率指数を算出する。
【0108】
ステップS6(学習データ作成ステップ)において、学習データ作成部13は、圃場90において測定される植物91の株当たりの光合成速度43を、ステップS4において算出した個葉光合成速度と、ステップS5において算出した葉に関する指標とに関連付けて、学習データ4を作成する。作成した学習データ4は補助記憶装置19に記憶される。
【0109】
また、学習データ4は、学習データ作成装置1から機械学習装置2へ送信されて、機械学習装置2の補助記憶装置29に記憶される。機械学習装置2は、受信した学習データ4を用いて、推定用アルゴリズム5の機械学習を行う。
【0110】
ステップS7において、学習データ4の数が十分であるか否かを、例えば学習データ作成装置1自身が判定する。学習データ4の数が十分ではない場合は、ステップS1~ステップS6の手順を繰り返す。学習データ4の数が十分である場合は、ステップS8の手順を行う。例示的には、ステップS8の手順を行うために必要な学習データ4の数は、約144セット程度である。
【0111】
ステップS8(学習ステップ)において、学習部21は、学習データ作成装置1において作成された学習データ4に基づいて、植物の株当たりの光合成速度を推定する推定用アルゴリズム5を学習する。学習済の推定用アルゴリズム5は補助記憶装置29に記憶される。
【0112】
また、学習済の推定用アルゴリズム5は、機械学習装置2から推定装置3へ送信されて、推定装置3の補助記憶装置39に記憶される。推定装置3は、受信した学習済の推定用アルゴリズム5を用いて、生産者の圃場80における植物81の株当たりの光合成速度を推定する。
[推定の手順]
【0113】
図9および図10は、本発明の一実施形態に係る推定装置と学習済の推定用アルゴリズムとを用いて光合成速度を推定する手順を説明するためのフローチャートである。
【0114】
推定の手順は、例えば小規模な圃場80における生産者により、推定装置3を用いて行われる。推定の手順は、次のステップS11~ステップS15を含む。
【0115】
ステップS11(環境データ取得ステップ)において、圃場80における環境データを取得する。ステップS12(植物画像取得ステップ)において、圃場80において栽培されている植物81の葉を含む画像を取得する。
【0116】
図1に示すように、環境データおよび植物81の葉を含む画像は、例えば植物81を栽培する農家における生産者が、圃場80において感知装置6および撮像装置7を用いて取得する。
【0117】
ステップS13(個葉光合成速度算出ステップ)において、個葉光合成速度算出部33は、取得した環境データに基づいて個葉光合成速度を算出する。
【0118】
ステップS14(指標算出ステップ)において、指標算出部34は、取得した植物81の葉を含む画像に基づいて、葉に関する指標を算出する。ステップS14では、次に説明するステップS14a~ステップS14cの手順を行う。
【0119】
ステップS14a(葉領域抽出ステップ)において、葉領域抽出部341は、人工知能を用いた画像解析により、植物81の葉を含む画像において葉の領域を抽出する。
【0120】
ステップS14b(葉面積指数算出ステップ)において、葉面積指数算出部342は、植物81の葉を含む画像を二値化することにより得られる、画像において葉以外の領域が占める割合を用いて、葉面積指数を算出する。
【0121】
ステップS14c(受光効率指数算出ステップ)において、受光効率指数算出部343は、植物81の葉を含む画像について、葉の領域の相対輝度を積算することにより、受光効率指数を算出する。
【0122】
ステップS15(光合成速度推定ステップ)において、光合成速度推定部35は、機械学習方法によって学習された推定用アルゴリズム5に従って、ステップS13において算出した個葉光合成速度と、ステップS14において算出した葉に関する指標とに基づいて、植物81の株当たりの光合成速度を推定する。得られた推定値は、例えば表示装置8に表示され、推定装置3のユーザである生産者に提示される。
【0123】
これにより、小規模な圃場80における生産者は、植物を囲う透明な開放型のチャンバーのような、高度な測定技術が要求される高価な測定システムを用いることなく、生産者が運営する圃場80において、植物81の株当たりの光合成速度を定量的に把握することが可能になる。
[効果]
【0124】
以上、本発明の一実施形態に係る学習データ作成装置、機械学習装置、および推定装置、並びに学習データ作成方法、機械学習方法、および推定方法によると、植物の光合成速度を定量的に把握することができる。
【0125】
これにより、小規模な圃場80における生産者は、植物を囲う透明な開放型のチャンバーのような、高度な測定技術が要求される高価な測定システムを用いることなく、生産者が運営する圃場80において、植物81の株当たりの光合成速度を定量的に把握することが可能になる。
【0126】
生産者が、圃場80において植物81の株当たりの光合成速度を定量的に把握することが可能になると、営農現場において、植物81の生育状況や収穫量を生産者の経験や勘に頼らずに把握することが可能になる。これにより、例えば施肥や潅水、補光およびCO施用のタイミングを、営農現場において適切に判断することが可能になり、農業の効率化が促進される。
【0127】
営農現場において生産者が推定に用いる推定装置3には、タブレットPCやスマートフォン等の機器を用いることができ、さらに手持ち型の感知装置6をこのような推定装置3に通信可能に接続することにより、生産者は株当たりの光合成速度の推定を手軽に行うことが可能になる。
【0128】
また、生産者は、このような光合成速度の推定を営農現場において日々行うことにより、植物生産の基本原資である株当たりの光合成速度に関する情報を、時系列で把握することも可能になる。これにより、例えば上記した施肥や潅水のタイミングを、営農現場においてより適切に判断することが可能になり、農業の効率化がより促進される。
[その他の形態]
【0129】
以上、本発明を特定の実施形態によって説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されるものではない。
【0130】
上記実施形態では、株当たりの光合成速度の測定データ43を用いて推定用アルゴリズム5の学習を行い、学習済の推定用アルゴリズム5に従って、株当たりの光合成速度を推定しているが、学習に用いる光合成速度や推定しようとする光合成速度は、株当たりの光合成速度に限定されない。群落の光合成速度の測定データを用いて推定用アルゴリズム5の学習を行い、この学習済の推定用アルゴリズム5に従って、群落の光合成速度を推定することもできる。群落が複数の株で構成されている場合、群落の光合成速度は、複数の株それぞれについての株当たりの光合成速度の和である。よって、群落を構成する株の数を把握することができると、群落の光合成速度から株当たりの光合成速度を算出することができるし、これとは逆に、株当たりの光合成速度から群落の光合成速度を算出することができる。
【0131】
上記実施形態では、推定用アルゴリズム5の構成に人工ニューラルネットワークを用いているが、推定用アルゴリズム5は人工ニューラルネットワークに限定されない。学習データを用いて推定用アルゴリズムを学習することができる限り、推定用アルゴリズムには種々の機械学習アルゴリズムを用いることができる。
【0132】
上記実施形態では、指標算出部12は、葉に関する指標として、葉面積指数および葉の受光効率指数の両方を算出しているが、学習データ4の作成に用いられる、葉に関する指標として算出する指標は、葉面積指数および葉の受光効率指数の少なくともいずれかとすることができる。
【0133】
上記実施形態では、学習データ作成装置1と機械学習装置2とはそれぞれ別の装置として構成されているが、これら学習データ作成装置1および機械学習装置2を一体化して一つの装置として構成することができる。
【0134】
上記実施形態では、学習データ作成装置1、機械学習装置2、および推定装置3は、ネットワーク10を介して互いに通信可能に接続されているが、これら学習データ作成装置1、機械学習装置2、および推定装置3は、例えばDVD-ROMやメモリカード等の記録媒体を介してデータ交換可能に接続することができる。
【0135】
上記実施形態では、圃場90の管理者が学習データ作成装置1および機械学習装置2を使用しているが、学習データ作成装置1および機械学習装置2を取り扱う者は圃場90の管理者に限定されない。例えば、圃場90におけるデータ41,42,43の取得を圃場90の管理者が行い、学習データの作成および推定用アルゴリズムの機械学習を、機械学習の技術に精通した、例えばデータサイエンティストが行うこともできる。
【0136】
上記実施形態では、学習データ作成装置1は一体の装置として実現されているが、学習データ作成装置1は一体の装置である必要はなく、プロセッサ、主記憶装置、補助記憶装置19等が別所に配置され、これらが互いにネットワークで通信可能に接続されていてもよい。機械学習装置2および推定装置3についても、学習データ作成装置1と同様である。また、推定装置3に接続される感知装置6、撮像装置7、表示装置8、および入力装置9についても、これらが一箇所に配置される必要はなく、それぞれが別所に配置されて互いにネットワークで通信可能に接続されていてもよい。
【0137】
上記実施形態では、学習データ作成装置1の各機能ブロックは、単一のプロセッサで実行されているが、これら各機能ブロックは単一のプロセッサで実行される必要はなく、複数のプロセッサで分散して実行されてもよい。機械学習装置2および推定装置3についても、学習データ作成装置1と同様である。
【0138】
学習データ作成装置1、機械学習装置2、および推定装置3の各機能ブロックは、一部または全部が、ネットワーク10を介して接続されるサーバ装置(図示せず)においてクラウド化されていてもよい。
[実施例]
【0139】
以下に本発明の実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【実施例1】
【0140】
実施例1では、推定装置により推定される株当たりの光合成速度の妥当性を検証した。検証に用いるデータは全て試験研究用の圃場において取得した。試験研究用の圃場において栽培した植物は、本実施例では茄子であった。
【0141】
検証は次の手順で行った。まず、試験研究用の圃場に設置した透明な開放型のチャンバー一式を用いて、妥当性の検証に用いる種々のデータを取得した。取得したデータは、圃場の環境データ、圃場において栽培されている植物(茄子)の直下視画像データ、および植物の株当たりの光合成速度の実際の測定値であった。これら種々のデータは、上記した実施形態のステップS1~ステップS3に示した態様に沿って、試験研究用の圃場において合計13日間にわたって取得した。以後、取得した環境データと、直下視画像データと、株当たりの光合成速度の実際の測定値との組み合わせを、データセットとして管理した。
【0142】
次に、取得した合計13日分の複数のデータセットを所定の割合でランダムに分割した。本実施例では、取得した複数のデータセットを、トレーニング用:バリデーション用:テスト用=0.4:0.1:0.5の割合でランダムに分割した。
【0143】
次に、トレーニング用のデータセットおよびバリデーション用のデータセットに含まれる環境データと植物の直下視画像データとを用いて、学習データ作成装置により学習データを作成した。この学習データは、上記した実施形態のステップS3~ステップS7に示した態様に沿って作成した。次に、このように作成した学習データを用いて、上記した実施形態のステップS8に示した態様に沿って、機械学習装置により推定用アルゴリズムを学習させた。学習データの作成および推定用アルゴリズムの学習に用いたトレーニング用のデータセットおよびバリデーション用のデータセットは、取得したデータセットの約50%に相当した。
【0144】
次に、推定装置により得られる推定値の妥当性を検証するために、この学習済の推定用アルゴリズムと推定装置とを用いて、テスト用のデータセットを推定装置が再現できるか否かを検証した。テスト用のデータセットは、取得したデータセットの残りの約50%に相当した。
【0145】
まず、テスト用のデータセットに含まれる環境データと植物の直下視画像データとを用いて、株当たりの光合成速度を推定装置により推定した。この推定は、上記した実施形態のステップS13~ステップS15に示した態様に沿って行った。次に、推定装置により得られた株当たりの光合成速度の推定値と、その推定値の推定に用いたテスト用のデータセットに含まれる、株当たりの光合成速度の実際の測定値とを比較することにより、推定装置による推定値の再現性を確認した。
【0146】
図11は、推定装置により推定された株当たりの光合成速度の妥当性を検証するためのグラフである。(A)は、推定された株当たりの光合成速度の変動を、測定値と共に天候毎に示すグラフである。(B)は、株当たりの光合成速度の推定値と測定値との相関を示すグラフである。
【0147】
(A)に示すように、推定値と測定値とは概ね一致していた。また、推定値と測定値との相関については、(B)に示すように、決定係数RはR=0.94であり、平均平方二乗誤差(Root Mean Square Error; RMSE)はRMSE=2.14であった。
【0148】
これにより、推定装置による推定値は、天候による影響を忠実に再現しており、妥当性が高い値であることが確認された。
【実施例2】
【0149】
実施例2では、本発明において葉に関する指標として導入している葉面積指数LAIの妥当性を検証した。
【0150】
検証は次の手順で行った。圃場では、植物を収穫する際に整枝作業または摘葉作業が行われる。圃場においてこのような整枝作業または摘葉作業をする度に、植物の株について葉面積指数LAIを算出した。またその際に、葉面積指数LAIを算出した株について、植物の花数および果実数を記録した。記録した花数および果実数を、直下視において植物の株が占める地面の面積で除算することにより、単位面積あたりの花数および果実数を算出した。圃場において栽培した植物は、本実施例では茄子であった。
【0151】
図12は、葉面積指数の季節毎の変動と、花数および果実数の季節毎の変動とを同じ時間軸で並べて示すグラフである。
【0152】
図12に示すように、上段のグラフに示す葉面積指数の変動は、下段のグラフに示す花数および果実数の変動を概ね再現していた。すなわち、葉面積指数は、収穫に伴う整枝作業または摘葉作業による葉面積の変化を概ね再現することができていた。これにより、本発明において、葉に関する指標として推定用アルゴリズムの入力層に導入している葉面積指数が、出力層に対する説明性が高い入力データであることが確認された。
【符号の説明】
【0153】
1 学習データ作成装置
2 機械学習装置
3 推定装置
4 学習データ
5 推定用アルゴリズム
6 感知装置(センサ)
7 撮像装置(デジタルカメラ)
8 表示装置
9 入力装置
10 ネットワーク
11 個葉光合成速度算出部
12 指標算出部
121 葉領域抽出部
122 葉面積指数算出部
123 受光効率指数算出部
13 学習データ作成部
19 補助記憶装置
21 学習部
29 補助記憶装置
31 環境データ取得部
32 植物画像取得部
33 個葉光合成速度算出部
34 指標算出部
341 葉領域抽出部
342 葉面積指数算出部
343 受光効率指数算出部
35 光合成速度推定部
39 補助記憶装置
41 環境データ
42 画像データ
43 株当たりの光合成速度の測定データ
51 入力層
52 中間層
53 出力層
80 生産者の圃場
81 植物
90 試験研究用の圃場
91 植物
92 チャンバー
93 吸気口
94 排気口
95 ガス分析装置
96 流量計
97 PPFDセンサ
98a,98b 熱電対
99 撮像装置(デジタルカメラ)
100 光合成速度推定支援システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12