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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】着火方法及びプラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/46 20060101AFI20240925BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20240925BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20240925BHJP
   H01L 21/318 20060101ALI20240925BHJP
   C23C 16/505 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
H05H1/46 R
H01L21/31 C
H01L21/316 X
H01L21/318 B
H05H1/46 M
C23C16/505
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021039651
(22)【出願日】2021-03-11
(65)【公開番号】P2022139328
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2023-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 健
(72)【発明者】
【氏名】安藤 武
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 一将
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-064696(JP,A)
【文献】国際公開第2005/031839(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/002590(WO,A1)
【文献】特表2016-528667(JP,A)
【文献】特開2013-182966(JP,A)
【文献】米国特許第05997687(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00-1/54
H01L 21/3065
H01L 21/31
H01L 21/316
H01L 21/318
C23C 16/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変に制御された周波数の高周波を印加する高周波電源と、前記高周波が印加される電極を有し、ガスからプラズマを生成するプラズマ生成部と、前記高周波電源と前記電極との間に設けられた整合器と、を有するプラズマ処理装置における着火方法であって、
前記高周波電源から第1周波数の高周波を前記電極に印加し、前記プラズマ生成部にてプラズマを着火する工程と、
前記高周波電源から前記第1周波数の高周波を印加してから所定時間後、前記第1周波数の高周波と異なる第2周波数の高周波を印加する工程と、
を含み、
予め設定された条件テーブルを参照して、異なるプロセス条件の複数のプロセスを順に実行する場合、前記プラズマを着火する工程は、プロセス毎に前記条件テーブルに設定された動作開始周波数に前記第1周波数を可変に制御し、プラズマを着火し、
特定のプロセス条件のプロセスにおける反射波の検出値と、前記条件テーブルに保存されている前記特定のプロセス条件の反射波の更新値とを比較し、前記反射波の検出値が前記反射波の更新値よりも小さい場合、前記反射波の更新値に対応づけて前記条件テーブルに保存している可変コンデンサのプリセット位置と前記反射波の更新値を、前記プロセスにおける前記整合器内の可変コンデンサの整合位置と前記反射波の検出値により更新する、着火方法。
【請求項2】
前記第2周波数は、前記第1周波数よりも低い、
請求項1に記載された着火方法。
【請求項3】
前記所定時間は、1msec以上100msec以下である、
請求項1又は2に記載された着火方法。
【請求項4】
前記条件テーブルに保存している可変コンデンサのプリセット位置と前記プロセスにおける前記整合器の可変コンデンサの整合位置との差分が予め設定された閾値よりも大きい場合、前記条件テーブルに保存している可変コンデンサのプリセット位置と前記反射波の更新値を更新しない、
請求項に記載された着火方法。
【請求項5】
前記差分が前記閾値よりも大きい場合、警告を出力する、
請求項に記載された着火方法。
【請求項6】
可変に制御された周波数の高周波を印加する高周波電源と、
前記高周波が印加される電極を有し、ガスからプラズマを生成するプラズマ生成部と、
前記高周波電源と前記電極との間に設けられた整合器と、
制御部と、を有し、
前記制御部は、
前記高周波電源から第1周波数の高周波を前記電極に印加し、前記プラズマ生成部にてプラズマを着火する工程と、
前記高周波電源から前記第1周波数の高周波を印加してから所定時間後、前記第1周波数の高周波と異なる第2周波数の高周波を印加する工程と、
を含む処理を実行
予め設定された条件テーブルを参照して、異なるプロセス条件の複数のプロセスを順に実行する場合、前記プラズマを着火する工程は、プロセス毎に前記条件テーブルに設定された動作開始周波数に前記第1周波数を可変に制御し、プラズマを着火し、
特定のプロセス条件のプロセスにおける反射波の検出値と、前記条件テーブルに保存されている前記特定のプロセス条件の反射波の更新値とを比較し、前記反射波の検出値が前記反射波の更新値よりも小さい場合、前記反射波の更新値に対応づけて前記条件テーブルに保存している可変コンデンサのプリセット位置と前記反射波の更新値を、前記プロセスにおける前記整合器内の可変コンデンサの整合位置と前記反射波の検出値により更新する、プラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、着火方法及びプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1は、対向配置される上部電極とサセプタとの間においてプラズマを発生させ、確実に維持することができるプラズマ処理方法を開示する。特許文献1は、プラズマの着火前後にVF電源から発せられる高周波電流が流れる第1の経路Lの反射最小周波数Fと、第2の経路Lの反射最小周波数Fとの差を減少させる補助回路を設け、プラズマを着火し、維持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-122150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、安定したプラズマ着火を実現できる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一の態様によれば、可変に制御された周波数の高周波を印加する高周波電源と、前記高周波が印加される電極を有し、ガスからプラズマを生成するプラズマ生成部と、前記高周波電源と前記電極との間に設けられた整合器と、を有するプラズマ処理装置における着火方法であって、前記高周波電源から第1周波数の高周波を前記電極に印加し、前記プラズマ生成部にてプラズマを着火する工程と、前記高周波電源から前記第1周波数の高周波を印加してから所定時間後、前記第1周波数の高周波と異なる第2周波数の高周波を印加する工程と、を含み、予め設定された条件テーブルを参照して、異なるプロセス条件の複数のプロセスを順に実行する場合、前記プラズマを着火する工程は、プロセス毎に前記条件テーブルに設定された動作開始周波数に前記第1周波数を可変に制御し、プラズマを着火し、特定のプロセス条件のプロセスにおける反射波の検出値と、前記条件テーブルに保存されている前記特定のプロセス条件の反射波の更新値とを比較し、前記反射波の検出値が前記反射波の更新値よりも小さい場合、前記反射波の更新値に対応づけて前記条件テーブルに保存している可変コンデンサのプリセット位置と前記反射波の更新値を、前記プロセスにおける前記整合器内の可変コンデンサの整合位置と前記反射波の検出値により更新する、着火方法が提供される。
【発明の効果】
【0006】
一の側面によれば、安定したプラズマ着火を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】一実施形態に係るプラズマ処理装置の縦断面図。
図2】一実施形態に係るプラズマ処理装置の横断面図。
図3】一実施形態に係るRF電源及び整合器の内部構成図。
図4】一実施形態に係る制御部のハードウェア構成図。
図5】一実施形態に係る条件テーブルの一例を示す図。
図6】RF電源の周波数と電極間電圧との相関を示すグラフ。
図7】一実施形態に係る成膜方法を示すフローチャート。
図8】一実施形態に係る成膜方法を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本開示を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0009】
[プラズマ処理装置]
はじめに、本開示におけるプラズマ処理装置100の構成の一例について、図1及び図2を参照しながら説明する。図1は、一実施形態に係るプラズマ処理装置100の縦断面図である。図2は、一実施形態に係るプラズマ処理装置100の横断面図である
プラズマ処理装置100は、下端が開口された有天井の円筒体状の処理容器1を有する。処理容器1の全体は、例えば石英により形成されている。処理容器1内の上端近傍には、石英により形成された天井板2が設けられており、天井板2の下側の領域が封止されている。処理容器1の下端の開口には、円筒体状に成形された金属製のマニホールド3がOリング等のシール部材4を介して連結されている。
【0010】
マニホールド3は、処理容器1の下端を支持しており、マニホールド3の下方から多数枚(例えば、25枚~150枚)の基板Wを多段に載置したボート5が処理容器1内に挿入される。このように処理容器1内には、上下方向に沿って間隔を有して多数枚の基板Wが略水平に収容される。ボート5は、例えば石英により形成されている。ボート5は、3本のロッド6を有し、ロッド6に形成された溝(図示せず)により多数枚の基板Wが支持される。基板Wは、例えば半導体ウエハであってよい。
【0011】
ボート5は、石英により形成された保温筒7を介してテーブル8上に載置されている。テーブル8は、回転軸10上に支持される。回転軸10は、マニホールド3の下端の開口を開閉する金属(ステンレス)製の蓋体9を貫通する。
【0012】
回転軸10の貫通部には、磁性流体シール11が設けられており、回転軸10を気密に封止し、且つ回転可能に支持している。蓋体9の周辺部とマニホールド3の下端との間には、処理容器1内の気密性を保持するためのシール部材12が設けられている。
【0013】
回転軸10は、例えばボートエレベータ等の昇降機構(図示せず)に支持されたアーム13の先端に取り付けられており、ボート5と蓋体9とは一体として昇降し、処理容器1内に対して挿脱される。なお、テーブル8を蓋体9側へ固定して設け、ボート5を回転させることなく基板Wの処理を行うようにしてもよい。
【0014】
プラズマ処理装置100は、処理容器1内へ処理ガス、パージガス等の所定のガスを供給するガス供給部20を有する。ガス供給部20は、ガス供給管21~23を有する。
【0015】
ガス供給管21~23は、例えば石英により形成されており、マニホールド3の側壁を内側へ貫通して上方へ屈曲されて垂直に延びる。ガス供給管21~23の垂直部分には、ボート5の基板支持範囲に対応する上下方向の長さに亘って、それぞれ複数のガス孔21a~23aが所定間隔で形成されている(図2参照)。各ガス孔21a~23aは、水平方向にガスを吐出する。ガス供給管24は、例えば石英により形成されており、マニホールド3の側壁を貫通して設けられた短い石英管からなる。
【0016】
ガス供給管21は、その垂直部分が処理容器1内に設けられている。ガス供給管21には、ガス配管を介してガス供給源から原料ガスが供給される。ガス配管には、流量制御器及び開閉弁が設けられている。これにより、原料ガスは、ガス供給源からガス配管及びガス供給管21を介して、所定の流量で処理容器1内に供給される。
【0017】
ガス供給管22は、その垂直部分がプラズマ生成空間Sに設けられている。ガス供給管22には、ガス配管を介してガス供給源から窒化ガス又は酸化ガスが供給される。ガス配管には、流量制御器及び開閉弁が設けられている。これにより、窒化ガス又は酸化ガスは、ガス供給源からガス配管及びガス供給管22を介して、所定の流量でプラズマ生成空間Sに供給され、プラズマ生成空間Sにおいてプラズマ化されて処理容器1内に供給される。
【0018】
ALD(Atomic Layer Deposition)法を用いてSiO膜を成膜する場合、原料ガスの一例であるジプロピルアミノシラン(DPAS)をガス供給管21から供給し、酸素(O)ガスをガス供給管22から供給してもよい。ALD法を用いてSiN膜を成膜する場合、原料ガスの一例であるトリシリルアミン(TSA:(SiHN)をガス供給管21から供給し、アンモニア(NH)ガスをガス供給管22から供給してもよい。
【0019】
NHガスを供給した後、TSAを吸着させる前に、サイクルレートを上げるために、水素プラズマ及び塩素プラズマに曝露してもよい。一例では、ガス供給管21はTSAを処理容器1内に供給する。ガス供給管22は、アンモニア(NH)ガスを供給する。また、ガス供給管22は、水素ガス(H)ガスを供給する。
【0020】
ガス供給管23は、その垂直部分がプラズマ生成空間Sに設けられている。ガス供給管23には、ガス配管を介してガス供給源から塩素(Cl)ガスが供給される。ガス配管には、流量制御器及び開閉弁が設けられている。これにより、塩素ガスは、ガス供給源からガス配管及びガス供給管23を介して、所定の流量でプラズマ生成空間Sに供給され、プラズマ生成空間Sにおいてプラズマ化されて処理容器1内に供給される。
【0021】
ガス供給管24には、ガス配管を介してパージガス供給源からパージガスが供給される。ガス配管には、流量制御器及び開閉弁が設けられている。これにより、パージガスは、パージガス供給源からガス配管及びガス供給管24を介して、所定の流量で処理容器1内に供給される。パージガスとしては、例えば窒素(N)、アルゴン(Ar)等の不活性ガスを利用できる。なお、パージガスは、ガス供給管21~23の少なくとも1つから供給されるようにしてもよい。
【0022】
処理容器1の側壁の一部には、プラズマ生成部30が形成されている。プラズマ生成部30は、NHガスをプラズマ化して窒化のための活性種を生成する。プラズマ生成部30は、Hガスをプラズマ化して水素(H)ラジカルを生成する。プラズマ生成部30は、Clガスをプラズマ化して塩素(Cl)ラジカルを生成する。
【0023】
プラズマ生成部30は、プラズマ区画壁32、一対のプラズマ電極33、給電ライン34、整合器35、同軸ケーブル36、RF電源37及び絶縁保護カバー38を有する。プラズマ区画壁32は、処理容器1の外壁に気密に溶接されている。プラズマ区画壁32は、例えば石英により形成される。プラズマ区画壁32は上面視したときの断面が凹状をなし、処理容器1の側壁に形成された開口31を覆う。開口31は、ボート5に支持されている全ての基板Wを上下方向にカバーできるように、上下方向に細長く形成される。プラズマ区画壁32により規定されると共に処理容器1内と連通する内側空間、すなわち、プラズマ生成空間Sには、ガス供給管22,23が配置されている。ガス供給管21は、プラズマ生成空間Sの外の処理容器1の内側壁に沿った基板Wに近い位置に設けられている。
【0024】
一対のプラズマ電極33は、それぞれ細長い形状を有し、図2に示すようにプラズマ区画壁32の凹状の対向する両壁の外面に、上下方向に沿って対向配置されている。各プラズマ電極33には給電ライン34が接続されている。
【0025】
給電ライン34は、各プラズマ電極33と整合器35とを電気的に接続する。整合器35は同軸ケーブル36を介してRF電源37に接続される。各プラズマ電極33にはRF電源37からRF電力が供給される。これにより、例えばガス供給管22から吐出されたNHガスは、RF電力が印加されたプラズマ生成空間S内においてプラズマ化され、これにより生成された窒化のための活性種が開口31を介して処理容器1の内部へと供給される。また、例えば次にガス供給管22から吐出されたHガスは、RF電力が印加されたプラズマ生成空間S内においてプラズマ化され、これにより生成された水素ラジカルが開口31を介して処理容器1の内部へと供給される。また、例えば次にガス供給管23から吐出されたClガスは、RF電力が印加されたプラズマ生成空間内においてプラズマ化され、これにより生成された塩素ラジカルが開口31を介して処理容器1の内部へと供給される。
【0026】
絶縁保護カバー38は、プラズマ区画壁32の外側に、該プラズマ区画壁32を覆うようにして取り付けられている。絶縁保護カバー38の内側部分には、冷媒通路(図示せず)が設けられており、冷媒通路に冷却されたNガス等の冷媒を流すことによりプラズマ電極33が冷却される。
【0027】
開口31に対向する処理容器1の側壁部分には、処理容器1内を真空排気するための排気口40が設けられている。排気口40は、ボート5に対応して上下に細長く形成されている。処理容器1の排気口40に対応する部分には、排気口40を覆うように断面U字状に成形された排気口カバー部材41が取り付けられている。排気口カバー部材41は、処理容器1の側壁に沿って上方に延びている。排気口カバー部材41の下部には、排気口40を介して処理容器1を排気するための排気配管42が接続されている。排気配管42には、処理容器1内の圧力を制御する圧力制御バルブ43及び真空ポンプ等を含む排気装置44が接続されており、排気装置44により排気配管42を介して処理容器1内が排気される。処理容器1の周囲には、円筒体状の加熱機構50が設けられている。加熱機構50は、処理容器1及びその内部の基板Wを加熱する。
【0028】
プラズマ処理装置100は、制御部60を有する。制御部60は、例えばプラズマ処理装置100の各部の動作の制御することにより、成膜方法を実施する。
【0029】
[RF電源/整合器]
図3を参照しながら、RF電源37及び整合器35の内部構成について説明する。RF電源37は、RF(高周波)の周波数を可変にできる機能を有する可変周波数RF電源として実現可能である。RF電源37は、電源37a、周波数制御回路37b及びセンサ37cを有する。RF電源37は、可変に制御された周波数の高周波を印加する高周波電源の一例である。
【0030】
整合器35は、インダクタL、固定コンデンサC、可変コンデンサVC1、VC2を有する。更に、整合器35は、センサ35aを有する。インダクタLは、給電ライン34のうちの一方の給電ライン34a及び一方のプラズマ電極33に直列に接続される。固定コンデンサCは、他方の給電ライン34b及び他方のプラズマ電極33に直列に接続される。センサ35aは、給電ライン34a及びインダクタLに直列に接続され、同軸ケーブル36を介してRF電源37に接続される。可変コンデンサVC1、VC2は、給電ライン34a、34bを跨いでプラズマ電極33に並列に接続される。可変コンデンサVC1、VC2は、インダクタL及び固定コンデンサCを挟んで、可変コンデンサVC1がセンサ35aに接続され、可変コンデンサVC2がプラズマ電極33(つまり負荷側)に接続される。
【0031】
可変コンデンサVC1は、負荷側のインピーダンス制御を行い、可変コンデンサVC2は、位相制御を行う。可変コンデンサVC1、VC2は、RF電源37からプラズマ電極33へ供給されるRF電力が使用時(プラズマ生成時)に最大となるようにインピーダンスが調整されるように機械的に整合位置を自動調整する。つまり、センサ37aが検出する反射波が最小となるように可変コンデンサVC1、VC2の整合位置を合わせることで、RF電力が使用時(プラズマ生成時)に最大となるようにインピーダンスが調整される。可変コンデンサVC1、VC2の整合位置は、センサ35aにて確認できるようになっている。
【0032】
RF電源37は、電源37a、周波数制御回路37b、センサ37cを有する。電源37aは、周波数制御回路37bにより可変に制御された周波数の高周波(RF)を出力する。センサ37cは、プラズマ電極33に印加したRF電力に対して負荷側からの反射波を検出する。このようにRF電源37内のセンサ37cによって反射波の状態がモニタされる。
【0033】
整合器35の制御では、RFをオンする際に可変コンデンサVC1、VC2を所定の容量に設定(以下、プリセットという。)する。プリセットされた整合位置でRF電力を印加した場合、プラズマ電極33間の電圧が低くなるときにプラズマ着火しない場合がある。このため、従来、プリセットされた整合位置から整合位置を変更し、プラズマ電極33間の電圧が、プラズマ着火が可能な電圧となるように制御していた。しかしながら、可変コンデンサVC1,VC2はモータ制御なので、可変コンデンサVC1,VC2の整合位置が初期位置から変更後の位置まで移動するのに時間がかかる。このため、ALDプロセスにおいてRF電源37からRF電力でRFをオン(プラズマ電極33に印加)するタイミングで反射波が発生する課題があった。
【0034】
この課題を解決するために、本開示の制御部60は、プラズマを生成するためにRFをオンする際、モータ制御のために整合位置までの移動が遅い可変コンデンサVC1、VC2はプリセットされた位置を整合位置として制御する。一方、電子制御のために周波数の高速可変が可能なRF電源37は、RFをオンしてから数msec程度はプラズマ電極33間の電圧が高くなるようにRFの周波数を13.56MHzよりも高く制御する。パッシェンの法則により電極間の電圧を高くすることでプラズマ着火を容易にすることができる。RFのオンから数msecの短時間でプラズマ着火させた後、直ちにRF電源37から出力するRFの周波数を13.56MHzに変更する。
【0035】
可変コンデンサVC1,VC2が、数msec程度の周波数可変制御に追従すると反射波が大きくなる懸念がある。しかし、可変コンデンサVC1,VC2は、モータ制御であるため、数msec程度の周波数可変制御に追従できない。これにより、RF電源37の電子制御と整合器35の機械制御の速度差を利用して安定したプラズマ着火と、反射波の抑制とを両立できる。なお、RFをオンしてから数msecの時間は、13.56MHzよりも高い周波数を印加してから所定時間の一例である。所定時間は、例えば1msec以上100msec以下であってもよい。また、13.56MHzよりも高い周波数は、第1周波数の高周波の一例であり、13.56MHzの周波数は、第2周波数の高周波の一例である。以下、係る制御を行う制御部60の構成及び具体的制御について説明する。
【0036】
[制御部]
制御部60は、図4に示すように、CPU(Central Processing Unit)101、ROM(Read Only Memory)102、RAM(Random Access Memory)103、I/Oポート104、操作パネル105、HDD106(Hard Disk Drive)を有する。各部はバスBによって接続されている。
【0037】
CPU101は、RAM103に読み込まれた各種のプログラムや、成膜処理、クリーニング処理等の処理の手順を規定した情報であるレシピに基づき、プラズマ処理装置100が実行する成膜処理等の基板処理、クリーニング処理等を制御する。レシピには、本開示の着火方法を含む成膜方法の処理手順を定義したレシピが含まれる。CPU101は、RAM103に読み込まれたレシピ又はプログラムに基づき、着火方法を含む成膜方法等を実行する。
【0038】
ROM102は、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)、フラッシュメモリ、ハードディスク等により構成され、CPU101のプログラムやレシピ等を記憶する記憶媒体である。RAM103は、CPU101のワークエリア等として機能する。
【0039】
I/Oポート104は、温度、圧力、ガス流量等を検出する各種センサの値をプラズマ処理装置100に取り付けられた各種センサから取得し、CPU101に送信する。また、I/Oポート104は、CPU101が出力する制御信号をプラズマ処理装置100の各部へ出力する。また、I/Oポート104には、操作者がプラズマ処理装置100を操作する操作パネル105が接続されている。HDD106には、補助記憶装置であり、レシピやプログラム等が格納されてもよい。また、HDD106又はRAM103には、条件テーブル110が記憶されている。
【0040】
図5は、一実施形態に係る条件テーブル110の一例を示す。一実施形態に係る条件テーブル110は、プロセス条件A~Eに対するプリセット、閾値、動作開始条件、設定電力の各種情報が設定され、プロセス実行前に用意されている。例えば、プロセス条件A~Eは、プラズマ処理装置100にてALDプロセスを実行する際の各工程(NHガスのプラズマ生成工程等)における整合器35及びRF電源37の制御に関する条件が予め設定されている。
【0041】
プリセット情報には、可変コンデンサVC1、VC2がプリセットされる位置VC1p、VC2p(%)と、センサ37cが検出した反射波Pr(W)の値(以下、更新Pr値という。)が保存される。閾値ΔVC1、ΔVC2(%)は、可変コンデンサVC1、VC2がプリセットされる位置の更新判定に使用される。なお、可変コンデンサVC1、VC2がプリセットされる位置及び閾値ΔVC1、ΔVC2の単位が%表示されているのは、可変容量範囲の0%~100%を示す。
【0042】
動作開始条件には、プロセス条件毎のRF電源37の動作開始時の周波数(MHz)及び時間(msec)が予め設定されている。設定電力には、RF電源37から出力する動作開始時のRF電力を示す進行波Pr(W)の値が予め設定されている。
【0043】
図6は、横軸に示すRFの周波数と、縦軸に示すプラズマ電極33間の電圧の相関を示すグラフである。RFの周波数が13.56MHzの場合、プラズマ電極33間の電圧が600(Vpp)よりも低く、ガスの種類や圧力によってはプラズマ着火しない。これに対して、RFの周波数が13.56MHzよりも大きい場合、例えばRFの周波数を14.06~14.56(MHz)に変更した場合、プラズマ電極33間の電圧を800~1600(Vpp)に上げることができ、確実にプラズマ着火を実現できる。そこで、本開示に係る着火方法では、プロセス開始の数msec程度、RF電源37から出力するRFの周波数を瞬間的に高くし、確実にプラズマ着火させる。
【0044】
[成膜方法]
次に、図7及び図8を参照しながら着火方法を含む成膜方法について説明する。図7は、一実施形態に係る成膜方法を示すフローチャートである。図8は、一実施形態に係る成膜方法を説明するための図である。
【0045】
図7は、本開示の成膜方法の一例であるALD法により、プロセス条件A→プロセス条件B→プロセス条件C→・・・の各処理(各工程)をサイクリックに繰り返す成膜処理を示す。例えば、ALD法を用いてSiN膜を成膜する場合、NHガスを供給した後、TSAを吸着させる前に、サイクルレートを上げるために、基板Wを水素プラズマ及び塩素プラズマに曝露する場合がある。この場合、図7の成膜方法を使用してプロセス条件Aではガス供給管22からNHガスを処理容器1内に供給し、NHガスのプラズマを生成する。プロセス条件Bではガス供給管22からHガスを処理容器1内に供給し、Hガスのプラズマを生成する。プロセス条件Cではガス供給管23からClガスを処理容器1内に供給し、Clガスのプラズマを生成する。その後、ガス供給管21からTSAを処理容器1内に供給する。そして、この処理の順番でサイクリックに原子層の成膜処理を繰り返す。
【0046】
なお、本開示の成膜処理の前提として、反射波Prは、RF電源37内のセンサ37cにて常にモニタされており、反射波Prの状態に応じて整合器35内のセンサ35aにて反射を小さくするように可変コンデンサVC1、VC2の整合位置が自動制御される。
【0047】
本処理が開始されると、制御部60は、図5の条件テーブル110を参照してプロセス条件Aを読み込む(ステップS1)。制御部60は、プロセス条件A中のプリセット(プリセットA)の位置C1a、C2aを設定し、可変コンデンサVC1,VC2の整合位置を位置C1a、C2aに制御する(ステップS2)。
【0048】
次に、制御部60は、条件テーブル110を参照してプロセス条件Aに定められた動作開始条件の周波数(動作開始周波数fa)にRF電源37の周波数を制御し、プロセス条件Aに定められた設定電力PfaのRFをオン(印加)する(ステップS3)。ステップS2及びS3は同時に行われてよい。これにより、図8に示すアイドル時間Ta経過後、RF電源37の周波数を動作開始周波数に制御し、プロセス条件Aに定められた設定電力PfaでRFがオンされる。
【0049】
次に、制御部60は、条件テーブル110を参照してプロセス条件Aに定められた動作開始条件の時間A(条件テーブル110では時間ta)を設定し、RFをオンしてから時間Aが経過したかを判定する(ステップS4)。制御部60は、RFをオンしてから時間Aが経過したと判定すると、RF電源37の周波数を予め設定されたプロセス周波数である13.56MHzへ変更し(ステップS5)、設定電力PfaでRFの出力を続ける。これにより、図8に示す着火時間Tb(=時間A)の経過後にRF電源37の周波数がプロセス周波数に制御される。
【0050】
プロセス条件Aの工程では、プロセス条件Aに設定されたガスAからプラズマを生成する。本開示において処理容器1内にガスAを供給するとともにRF電源37からプラズマ電極33に数msecの間、動作開始周波数のRF電力を印加する。着火時間Tbは、数msecの短時間である。動作開始周波数は、13.56MHzよりも高く、例えば、14.06MHz~14.56MHzである。これにより、Aガスを確実にプラズマ化してAガスの活性種を生成して基板Wに供給する。
【0051】
これにより、着火時間Tbの間、13.56MHzよりも高い動作開始周波数のRF電力を印加することで、プラズマ電極33間電圧を高め、プラズマ着火を確実に行うことができる。加えて、RFをオンしてから1msec以上100msec以下、例えば数msec~約10msecの短時間に発生していた反射波Prの発生を抑制できる。
【0052】
次に、制御部60は、所定時間経過後の反射波の検出値が異常であるかを判定する(ステップS6)。例えば、センサ37cが着火時間Tb後(図8では時刻ts)に検出した反射波の検出値が異常判定用の閾値よりも大きい場合、制御部60は、反射波の値が異常であると判定する。この場合、制御部60は、プロセス終了処理を行い(ステップS7)、本処理を終了する。なお、異常判定用の閾値には、周波数が13.56MHzのRFに対する異常値が予め設定されており、例えば図5の条件テーブル110又は別テーブルに記憶されている。
【0053】
制御部60は、所定時間経過後の反射波の検出値が異常判定用の閾値以下であれば、反射波の値は正常であると判定し、反射波の値が更新Pr値よりも小さいかを判定する(ステップS8)。制御部60は、反射波の値が更新Pr値以上と判定した場合、条件テーブル110のプリセットの更新は行わないと判断し、ステップS12に進む。
【0054】
制御部60は、反射波の値が更新Pr値よりも小さい場合、条件テーブル110に記憶されている可変コンデンサVC1、VC2のプリセット位置VC1、VC2と現在の可変コンデンサVC1、VC2の整合位置との差分を算出する。制御部60は、その差分と閾値ΔVC1、ΔVC2とを比較する(ステップS9)。図5の条件テーブルのプロセス条件Aの場合、制御部60は、閾値ΔVC1、ΔVC2として閾値ΔS1a、ΔS2aを使用する。
【0055】
制御部60は、可変コンデンサVC1のプリセット位置VC1と現在の整合位置の差分が閾値ΔS1aよりも大きい、又は可変コンデンサVC2のプリセット位置と現在の整合位置の差分が閾値ΔS2aよりも大きい場合、警告を出力する(ステップS11)。そして、ステップS12に進む。なお、警告の出力は、表示による警告でもよいし、音声による警告でもよい。
【0056】
制御部60は、可変コンデンサVC1のプリセット位置VC1と現在の整合位置の差分が閾値ΔS1a以上、又は可変コンデンサVC2のプリセット位置と現在の整合位置の差分が閾値ΔS2a以上の場合、プリセットAを更新する(ステップS10)。そして、ステップS12に進む。このとき、図5の条件テーブルのプロセス条件Aのプリセットの値VC1p、VC2p、更新Pr値のうち、プリセットAに対応するC1a、C2a、Praが更新される。これにより、次のプロセスにおいて反射波がより小さい整合位置を可変コンデンサVC1、VC2のプリセット位置とすることができ、より反射波の発生を抑制できる。
【0057】
ステップS12において、制御部60は、RF電源37から出力されるRFがオフされたかを判定する。制御部60は、RFがオフされるまでステップS6~S12の処理を繰り返す。制御部60は、RFがオフされたと判定したとき、次のプロセス条件Bの処理に進み、条件テーブル110からプロセス条件Bを読み込み(ステップS13)、プロセス条件Bに従いステップS14~S24の処理を実行する。なお、ステップS14~S24の処理は、ステップS2~S12の処理に対応し、プロセス条件が条件テーブル110に設定されたプロセス条件Aからプロセス条件Bに変わった点のみ異なる。よって、ステップS14~S24の各処理の説明は省略する。
【0058】
ALD法による成膜処理において、プロセス条件A→プロセス条件B→プロセス条件C→・・・の処理をサイクリックに繰り返す。例えば、SiN膜を成膜する場合、プロセス条件AではNHガスのプラズマ、プロセス条件Bでは水素プラズマ、プロセス条件Cでは塩素プラズマを生成する場合がある。この場合、各プラズマの着火を確実に行うことができる。なお、プロセス条件Cの処理の後、原料ガス(例えばTSA)が供給される。
【0059】
以上に説明した成膜方法によれば、プラズマを生成するためにRFをオンする際、機械制御のために電子制御と比較して整合位置までの移動が遅い可変コンデンサVC1、VC2は予め設定されたプリセット位置を整合位置として制御する。また、電子制御のために周波数の高速可変が可能なRF電源37は、RFをオンしてから数msecはプラズマ電極33間の電圧が高くなるようにRFの周波数を13.56MHzよりも高く制御する。これにより、パッシェンの法則により電極間の電圧を高くすることで安定したプラズマ着火を実現することができる。RFをオンしてから数msec後、RF電源37から出力されるRFの周波数を13.56MHzに変更する。
【0060】
本開示の制御では、RFのオン時から数msecだけ瞬間的にRFの周波数を13.56MHzよりも大きい周波数に制御し、数msec後には13.56MHzに変更する。可変コンデンサVC1,VC2が、数msec程度の周波数可変制御に追従すると反射波が大きくなる懸念がある。しかし、可変コンデンサVC1,VC2は、モータ制御であるため、数msec程度の周波数可変制御に追従できない。このため、可変コンデンサVC1,VC2の整合動作に影響を与えず、反射波が大きくなる懸念がない。以上から、RF電源37の電子制御と整合器35の機械制御の制御スピードの差を利用して安定したプラズマ着火と、反射波の抑制とを実現できる。
【0061】
更に、成膜処理により処理容器1に膜が堆積した場合やクリーニング処理により堆積した膜を除去した場合に可変コンデンサVC1,VC2のプリセット位置が変化する。この変化を、条件テーブル110のプリセット(VC1p、VC2p、更新Pr)を更新することにより次のRFのオン時のプリセット位置にフィードバックすることができる。これにより、更に安定したプラズマ着火と反射波の抑制とを実現できる。
【0062】
以上では、図1に示す構成の複数枚の同時成膜を可能とするバッチ式のプラズマ処理装置100において、複数のプラズマガス及び圧力条件で実行するALDプロセスについて説明した。しかし、これに限らず、枚葉式のプラズマ処理装置又は数枚の同時成膜を可能とするセミバッチ式のプラズマ処理装置にて実行するALDプロセスにも使用できる。さらにALDプロセスに限らず、これらのプラズマ処理装置にて実行するALEプロセス、CVDプロセス等のプラズマプロセスに使用できる。プラズマプロセスには、各種のガスをプラズマ化して使用するエッチングプロセス、成膜プロセス、クリーニングプロセスが含まれる。本開示の着火方法では、これらのプラズマプロセスにおいて安定したプラズマ着火を実現し、かつ、RFの反射波の発生を抑制できる。
【0063】
なお、枚葉式のプラズマ処理装置を使用する場合、RF電源からのRFは上部電極に印加してもよい、下部電極に印加してもよいし、上部電極と下部電極とに印加してもよいし、下部電極に2つの周波数のRFを印加してもよい。いずれの場合も本開示の着火方法により安定したプラズマ着火を実現できる。プラズマ処理装置は、Atomic Layer Deposition(ALD)装置、Capacitively Coupled Plasma(CCP)、Inductively Coupled Plasma(ICP)、Radial Line Slot Antenna(RLSA)、Electron Cyclotron Resonance Plasma(ECR)、Helicon Wave Plasma(HWP)のいずれのタイプの装置でも適用可能である。
【0064】
以上に説明したように、本開示に係る着火方法及び当該着火方法を実行するプラズマ処理装置によれば、安定したプラズマ着火制御を実現しつつ、高周波の反射波の発生を抑制することができる。
【0065】
今回開示された実施形態に係る着火方法及びプラズマ処理装置は、すべての点において例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で変形及び改良が可能である。上記複数の実施形態に記載された事項は、矛盾しない範囲で他の構成も取り得ることができ、また、矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0066】
1 処理容器
20 ガス供給部
30 プラズマ生成部
35 整合器
36 同軸ケーブル
37 RF電源
60 制御部
100 プラズマ処理装置
110 条件テーブル
W 基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8