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特許7560260液体クロマトグラフ、および液体クロマトグラフの制御方法
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  • 特許-液体クロマトグラフ、および液体クロマトグラフの制御方法 図1
  • 特許-液体クロマトグラフ、および液体クロマトグラフの制御方法 図2
  • 特許-液体クロマトグラフ、および液体クロマトグラフの制御方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】液体クロマトグラフ、および液体クロマトグラフの制御方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/32 20060101AFI20240925BHJP
   G01N 30/34 20060101ALI20240925BHJP
   G01N 30/54 20060101ALI20240925BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
G01N30/32 A
G01N30/34 E
G01N30/34 A
G01N30/54 F
G01N30/88 F
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020040420
(22)【出願日】2020-03-10
(65)【公開番号】P2021139862
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正人
(72)【発明者】
【氏名】宝泉 雄介
(72)【発明者】
【氏名】源 法雅
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-005730(JP,A)
【文献】特開2018-173302(JP,A)
【文献】特開平04-331369(JP,A)
【文献】特開2014-145675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00-30/96
B01J 20/281-20/292
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上の溶離液を混合比を変化させながら混合し送液して計測を行う液体クロマトグラフの制御方法であって、
標準試料を注入して計測を行うとともに、カラム圧力の測定を行う工程と、
上記標準試料による計測結果に基づいて上記溶離液の混合比および混合比の変化タイミングの設定を調整する工程と、
上記測定されたカラム圧力に応じて溶離液の流速の設定を調整する工程と、
を有し、
上記標準試料による計測結果が、適切な保持時間または分離度が得られているかの判定結果であることを特徴とする液体クロマトグラフの制御方法。
【請求項2】
請求項1の液体クロマトグラフの制御方法であって、
上記測定されたカラム圧力に応じて、上記溶離液の所定の圧力範囲を満足するように、上記溶離液の流速の設定を調整することを特徴とする液体クロマトグラフの制御方法。
【請求項3】
請求項2の液体クロマトグラフの制御方法であって、
上記標準試料の注入、計測、および上記カラム圧力の測定を行う工程、溶離液の混合比および混合比の変化タイミングの設定を調整する工程、ならびに上記溶離液の流速の設定を調整する工程が繰り返し行われることを特徴とする液体クロマトグラフの制御方法。
【請求項4】
請求項1の液体クロマトグラフの制御方法であって、
上記標準試料による計測結果に基づいてカラム温度およびカラム温度の変化タイミングの設定を調整する工程と、
を有することを特徴とする液体クロマトグラフの制御方法。
【請求項5】
液体クロマトグラフであって、
2種類以上の溶離液の混合比率を変化させながら溶離液を送液するポンプと、
上記ポンプから送液された溶離液中に試料を注入する試料注入部と、
上記試料注入部により試料が注入された溶離液が供給され、試料中の目的成分を分離する分離カラムと、
上記分離カラムにより分離された目的成分を分析する検出器と、
上記ポンプ、上記試料注入部、上記分離カラム、および上記検出器の測定動作を制御するとともに、データの処理をする制御部と、
を備え、
上記制御部は、上記溶離液の混合比、および混合比の変化タイミングに応じて、上記溶離液の所定の上限圧力を満足するように、上記溶離液の流速を調整する流速調整と、上記流速調整が行われる際に標準試料による測定を行い、上記標準試料による測定により適切な保持時間または分離度が得られているかの判定を行う測定制御とを行うことを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項6】
請求項5の液体クロマトグラフであって、
さらに、上記分離カラムの温度を一定に保つカラム恒温装置を備えるとともに、
上記制御部は、さらに、
上記分離カラムの温度、および分離カラムの温度の変化タイミングに応じて、上記溶離液の所定の上限圧力を満足するように、上記溶離液の流速を調整することを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項7】
請求項6の液体クロマトグラフであって、
上記制御部は、上記分離カラムの温度の変化開始タイミングに対して、上記分離カラムの過渡応答時間に応じたタイミングで、上記溶離液の流速を調整することを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項8】
請求項5から請求項7のうち何れか1項の液体クロマトグラフであって、
さらに、誘導体化試薬を送液する誘導体化試薬ポンプ、および上記誘導体化試薬を試料と反応させる反応装置を備えてアミノ酸を分析するように構成され、
上記制御部は、上記溶離液の流速、および上記溶離液の混合比率の少なくとも一方に応じて、上記誘導体化試薬の流速を調整することを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項9】
請求項5から請求項8のうち何れか1項の液体クロマトグラフであって、 上記制御部は、請求項5から請求項8における上記溶離液の流速、または請求項8における上記誘導体化試薬の流速を所定の時間内に傾斜変化させることを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項10】
請求項5から請求項9のうち何れか1項の液体クロマトグラフであって、
上記流速調整の結果に応じたタイムプログラムを生成するように構成されたことを特徴とする液体クロマトグラフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラジエント溶離法を使用する液体クロマトグラフに関するものである。
【背景技術】
【0002】
クロマトグラフでは、測定時間を短縮するなどのために、定速グラジエントプログラムが定圧グラジエントプログラムに変換され、変換された定圧グラジエントプログラムに従って送液ポンプが制御されるようにする技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-179962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のように定速グラジエントプログラムから変換された定圧グラジエントプログラムを用いると、測定内容は種々の測定条件による影響を受けやすいため、適切な保持時間を得られない場合があることが判明した。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑み、液体クロマトグラフによる測定の高速化を図りつつ、適切な保持時間を容易に得られるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明は、
液体クロマトグラフであって、
2種類以上の溶離液の混合比率を変化させながら溶離液を送液するポンプと、
上記ポンプから送液された溶離液中に試料を注入する試料注入部と、
上記試料注入部により試料が注入された溶離液が供給され、試料中の目的成分を分離する分離カラムと、
上記分離カラムにより分離された目的成分を分析する検出器と、
上記ポンプ、上記試料注入部、上記分離カラム、および上記検出器の測定動作を制御するとともに、データの処理をする制御部と、
を備え、
上記制御部は、上記溶離液の混合比率、および混合比率の変化タイミングに応じて、上記溶離液の所定の上限圧力を満足するように、上記溶離液の流速(flow rate)を制御することを特徴とする。なお、流量は流速と同義である。
【0007】
これにより、溶離液の混合比率や混合比率の変化タイミングが適切に保たれつつ、これらに応じた溶離液の流速が制御されるので、所定の上限圧力を満足させた、高速な分析を可能にしつつ、保持時間を適切に保つことが容易にできる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、液体クロマトグラフによる測定の高速化を図りつつ、保持時間または分離度を適切に保つことが容易にできる。分離度は2つのピークの分離の程度、良し悪しを数値化する指標である。本明細書で適切な保持時間と表現する意味は、良好な分離度が得られることを指す。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】液体クロマトグラフのシステムの概略構成図である。
図2】グラジエント溶離プログラム生成過程の例を示す説明図である。
図3】グラジエント溶離プログラムの例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
(クロマトグラフの概略構成)
液体クロマトグラフは、例えば図1に示すように、複数の溶離液101…を備え、そのうちの1つ以上が選択されて、送液ポンプ102によりオートサンプラ103(試料注入部)へ送液され、試料が注入されるようになっている。注入された試料は、温度を一定に保つためのカラム恒温装置104内に設置された図示しない分離カラムで目的成分が分離される。
【0012】
分離カラムで分離された成分は、検出器108で検出されることにより、目的分析種の分析が行われるようになっている。ポストカラム誘導体化法の場合、分離カラムで分離された成分は、送液ポンプ106によって送液される誘導体化試薬105と混合され、反応装置107を通過する際に反応して呈色し、検出器108で検出されることにより、アミノ酸など分析種の分析が行われるようになっている。アミノ酸分析の場合、例えば、誘導体化試薬にニンヒドリンが使用される。
【0013】
制御部121は、測定動作制御部121a、演算部121b、記憶部121c、処理部121d、および表示部121eを備え、液体クロマトグラフの各部の動作制御や、検出結果の処理をするようになっている。また、特に限定はされないが、例えば、分析動作のためのプログラム(溶離液のグラジエント溶離プログラム)を生成(生成装置として機能)して、これに基づいて上記各部の動作を制御したりするようになっている。より詳しくは、例えば、測定動作制御部121aは、液体クロマトグラムの各部ハードウエアをメソッドに従って設定・制御するようになっている。演算部121bは、理論式(流速、温度関数としての粘度、システムディレイボリューム)による圧力プロファイルの演算処理、標準試料の保持予測、それらのクローズドループ演算等をするようになっている。記憶部121cは、過去の圧力プロファイル、標準試料クロマトグラム、タイムプログラムの保存等をするようになっている。処理部121dは、取得した標準および未知試料のクロマトグラムの波形処理をするようになっている。また、制御部121の表示部121eには種々の情報が表示されるようになっている。
【0014】
(用語の説明)
本明細書で使用される用語の主な意味について説明する。なお、この説明は主として理解の容易化のためのものであり、必ずしも厳密に限定解釈するためのものとは限らない。
【0015】
「グラジエント溶離」 移動相(溶離液101)の組成を連続的に変化させながら溶質を溶出させる一般的な操作である。
【0016】
「温度グラジエント溶離」 タイムプログラムを用いてカラム温度を変化させる操作である。基本的にはvan’t Hoofの式に従い、保持時間が温度変化に伴い変化する。
【0017】
「流量グラジエント溶離」 同様にタイムプログラムを用いて流量を変化させる操作である。流量が変化する場合、理想的には保持容量は変化しないが、保持時間は変化する。
【0018】
「温度流量グラジエント溶離」 タイムプログラムを用いて移動相の組成のみならず、カラム温度、流量の三者を総合的に変化させる操作である。ただし本発明の用語として、三者のいずれも変化することが必須ということではなく、移動相組成でも温度でも流量でも一つでも変数が時間変化すれば広義の「温度流量グラジエント溶離」という用語として使用することもある。
【0019】
(タイムプログラムの生成例1)
以下、制御部121でクロマトグラフの動作制御が行われながら、タイムプログラムが生成される例について、図2を参照して説明する。なお、以下の動作は、必ずしも全て制御部121で行われるのに限らず、タイムプログラムが外部から読み込まれたり、一部が手動で設定されたりしてもよい。
【0020】
(S101) まず、目的とする各分析種の分離状態に応じて、移動相(溶離液101)の切替えのタイムプログラムが装置にセットされる。すなわち、いわゆる一般的なグラジエント溶離プログラムがセットされる。これはステップワイズ(階段状)溶離が行われるものでもグラジエント溶離が行われるものでもよい。また、このタイムプログラムには、やはり目的とする各分析種の分離状態に応じて、カラム温度の制御が含まれるようにして、温度グラジエント溶離が行われ得るようにしてもよい。
【0021】
(S102) 上記タイムプログラムに基づいて、計測動作が実行される。この計測動作では、標準試料の注入が行われるとともに、カラム圧力の測定が行われる。
【0022】
(S103) 注入された標準試料によるクロマトグラムが生成される。
【0023】
(S104) 上記クロマトグラムに基づいて、適切な保持時間または分離度が得られているかが判定される。
【0024】
(S105) 保持時間が適切でなければ、溶離液の混合比(混合比の変化タイミング)、カラム温度が調整されるように、タイムプログラムが調整され、装置にセットされる。これらの調整等は、人手で行われてもよいし、ナレッジデータベースなどに基づいた所定のアルゴリズムなどが用いられて自動的に行われてもよい。
【0025】
上記のようにして調整されたタイムプログラムに基づいて、上記(S102)以降の処理が繰り返される。
【0026】
(S106) 上記(S104)で保持時間が適切であった場合には、上記標準試料による計測の際に併せて測定されたカラム圧力が適切かどうか、すなわち、カラム圧力が上限圧力を超えず、かつ、計測の高速化を図るために設定された所定の下限圧力よりも高い所定の圧力範囲に収まっているかが判定される。ここで、上記カラム圧力の上限圧力は、現実的には、カラム恒温装置104に設置されるカラム、あるいはポンプ102等の実際の上限圧力に対して、90%や80%などの一定の裕度を持って設定されることが好ましい。これはカラムの流動抵抗が少なからずばらつくことなどを考慮するためである。また通常は、流量一定の時間帯も存在してもよい。上記カラム圧力が適切であると判定されると、そのタイムプログラムが保存や出力され、以後、実際の分析のための計測動作が行われる。
【0027】
(S107) 上記(S106)でカラム圧力が適切でないと判定されると、溶離液の流速が調整されるようにタイムプログラムが調整され、装置にセットされる。すなわち、例えば下限圧力よりも低い場合には、上限圧力に近づくように溶離液の流速を速くすることによって、計測時間を短くすることができる。ここで、上記流速は、具体的には、例えば、溶離液101を分離カラムに送液する際の上限圧力をΔPmax(Pa)として、以下のように求めることができる。
【0028】
すなわち、演算部121bによって、溶離液101の流速、正確には線速度u0(mm/s)の時間変化を示す流速プログラムが求められる。具体的には、Kozeny Carmanの式、 ΔP=(η・u0・L)/Kvに基づいて、
u0=(ΔPmax・Kv)/(L・η)として求めることができる。
【0029】
ここで、
Kv(m^2)は、カラムパーミアビリティ、
L(mm)は、カラム長さ、
η(Pa・s)は、溶離液101の混合比の時間変化に応じた混合液の粘度を示す。なお、分離カラム(溶離液101)の温度プログラムに基づいて、時間変化する粘度を用いて流速が求められるようにしてもよい。すなわち、例えば水溶液と有機溶媒などを溶離液としてグラジエント溶離法を行った場合、それぞれの液体の粘性が異なり、またその粘性は温度依存性があるので、測定中は混合比率や温度によって圧力値が変化することに基づいて上記流速u0が求められる。
【0030】
ここで、流速u0に代えて、単位時間当たりの流量F=Seff・u0が用いられるなど、種々の換算された値や等価な値などが用いられてもよい。この点に関しては、他の値についても同じである。ここで、上記Seffは通液可能な有効断面積である。
【0031】
また、実際に測定されたカラム圧力と、そのときの流速とに基づいて上記のように算出された流速が補正されるようにしてもよい。
【0032】
なお、実際の圧力プロファイルはタイムプログラムから一定の遅れ時間が存在する。移動相の切替えについては、移動相のミキシングポイントからカラムまでの内部体積であり、システムディレイボリューム、またはデュエルボリュームと呼ばれている。流量は、デュエルボリューム分遅らせて切り替えることになる。
【0033】
また、カラム温度の切替えに伴う遅れ時間も存在する。これは例えばペルチエ素子からカラムへ熱伝導する場合などの過渡応答のような現象である。一方、流量の変化に際しては、通常、前の2つの変数(移動相組成とカラム温度)とは異なり、圧力が概ね即応答するため遅れ時間は無視できる。
【0034】
(S108) 上記のようにして調整されたタイムプログラムに基づいて、上記(S102)と同様に標準試料の導入およびカラム圧力の測定が行われつつ、計測動作が行われる。
【0035】
(S109) 上記計測動作でのカラム圧力が適切かどうかが上記(S106)と同様に判定され、適切でないと判定されると、上記(S107)以降が繰り返されて、溶離液の流速の調整が行われる。
【0036】
(S110) 上記(S109)でカラム圧力が適切であると判定されると、(S108)での計測動作で注入された標準試料によるクロマトグラムが生成される。
【0037】
(S111) 上記クロマトグラムに基づいて、上記(S104)と同様に、適切な保持時間が得られているかが判定される。適切であれば、そのタイムプログラムが保存や出力され、以降、実際の分析のための計測動作が行われる。
【0038】
(S112) 一方、保持時間が適切でなければ、上記(S105)と同様に、溶離液の混合比(混合比の変化タイミング)、カラム温度が調整されるように、タイムプログラムが調整され、装置にセットされ、(S102)以降が繰り返される。すなわち、溶離液の流速の調整によって保持時間が適切でなくなった場合、再度調整されて、標準試料による計測動作等が繰り返され、測定の高速化と図りつつ、保持時間が適切に保たれるようにされる。
【0039】
(タイムプログラムの生成例2)
上記のような溶離液101の切り替えに加えて、アミノ酸の分析の場合に用いられる誘導体化試薬105の流量を連動させるようなタイムプログラムが生成されるようにしてもよい。
【0040】
すなわち、例えばアミノ酸の分析は、分離カラムで分離された各アミノ酸が、誘導体化試薬105と混合されて、反応装置107を通過する際に反応して呈色し、検出器108で検出されることにより行われる。誘導体化試薬中のニンヒドリン分子は分析種のアミノ酸分子の数よりも過剰なので、多少反応させる側のニンヒドリン分子数が変動しても、原理的には反応生成物であるルーエマンズパープルの分子数は変化せず、ピーク高さは変化しないと考えられる。
【0041】
ところが、前記のように流速プログラムや混合比プログラムによって流速や混合比が時々刻々変化すると、これに伴って反応生成物質の方ではなく、混合液自体の吸光度や蛍光強度などが影響を受けるため、吸光度検出や蛍光検出の検出結果が変動する。これによってベースラインの変動が生じ得る。
【0042】
一方、混合液の吸光度等は、誘導体化試薬105の量によっても変動する。例えば、誘導体化試薬105の流量が減少すれば、吸光度は低くなり、誘導体化試薬105の流量が増大すれば吸光度は高くなる。
【0043】
そこで、誘導体化試薬105の最適混合量として許容できる範囲で、溶離液101の流速、および混合比率の少なくとも一方に応じて、誘導体化試薬105の流速を制御することによって、より詳しくは例えば送液ポンプ102・106の流量を流量比率が一定になるように連動させるなどして、混合液の吸光度の変化を相殺し、検出器108のベースラインを安定させることができる。
【0044】
(生成されるタイムプログラム例)
上記のようにして生成されるタイムプログラムの例を図3に基づいて説明する。
【0045】
図3のB1、B2など移動相の切り替えは、0.1minの時間差をつけて設定することによりステップワイズ溶離法が使用される。すなわち、20.0minまでB1が100%で、20.1minからB1が50%、B2が50%に階段状に切り替えられている。
【0046】
送液ポンプ102の流量をFlow1と表記したが、ここでシステムディレイボリュームを考慮し、移動相組成を20.0minに切り替えても流量は遅れて35.0minに切り替える工夫がされている。ここは35.0minから37.0minへ2分間の流量リニアグラジエント溶離がなされている。勾配的なリニアグラジエント溶離であることを示すために*が付されている。40.0から40.1minのステップワイズ移動相組成変化も同様に60.0minから62.0minへの流量リニアグラジエント溶離に反映されている。ここにも*が付されている。
【0047】
タイムプログラム上の温度については、階段状に切り替えられる。最初の0.0minに40℃の流量0.5mL/minでスタートし、2.0minで30℃に切り替わる。ただし、実際の温度は過渡応答のような温度プロファイルを呈する。このため、この温度変化に追従する流量変化とするため5.0minに切り出し、7.0minの0.45mL/minに向けて流量をリニアグラジエント溶離的に低下させる。そのためここにも勾配を示す*が付されている。ここではカラム温度が下がることにより溶離液の粘度が上昇するため、流量を下げないと圧力が上昇してしまうことを防止しているわけである。20.0min時点のカラム温度50℃も階段状に切り替わっているが、これに伴う流量変化は特に設定されていない。このような場合もあってもよい。
【0048】
本発明では、一定圧力を基準とする、即ち概ね定圧基準に基づいて分析法を変換することが要求される。いわゆる定圧化するためのメソッドトランスファーである。この変換の前後、特に流速可変域で概ね保存される指標は、保持時間ではなく保持容量になる。例えば、時々刻々と変化する流速は時間軸に沿って積分することにより容積が計算できる。保持時間の原点と保持容積の原点を同期させれば、保持容積も時々刻々と積分値として変化する。
【0049】
さて、ここでの課題は、変換前はタイムテーブルにより、グラジエント溶離の混合比や、カラム温度の切替え時間を指定していたわけだが、流速が可変になると時間軸が絶対的な基準ではなくなる。したがって変換後はタイムテーブルの替わりに、積分値である保持容積に基づくボリュームテーブルとも呼べるようなプログラムにより混合比やカラム温度、あるいは流速も指定しなければならないことになる。このような時間ではなく容積で指定せざるをえないような事情もあり、標準物質を注入する実際のクロマトグラムをもってして、分析法を調整することが望ましい。よく考えてみれば、グラジエント溶離法の混合比変化の時間プロファイルも、カラム温度の過渡応答的な時間プロファイルも時間軸をもって理解できている。このため時間軸が容積軸に取って替わることは、その理解への影響度も大きく、時間応答的な現象は実測することが望ましい理由にもなっている。ただし、混合比や流速などのタイムプログラムが、時間を変数とする多項式関数で記述できるならば、容易に時間に沿って積分可能であることは付けくわえておく。
【0050】
上記のように、移動相(溶離液)の圧力は、粘度に比例し、流速にも比例する。そして、移動相の粘度は、移動相の組成に依存し、かつカラム温度の関数でもある。さらに、移動相の切り替え等に応じた時間変化も生じる。そこで、これらが考慮された流速制御がなされることによって、圧力に対するカラム保護が図られつつ、高速な分析が可能となる。
【0051】
しかも、そのような流速制御の調整によって生じる保持時間の変動を確認し、混合比やカラム温度をさらに調整することによって、より高精度に分析を行うことなどが可能になる。
【符号の説明】
【0052】
101 溶離液
102 送液ポンプ
103 オートサンプラ
104 カラム恒温装置
105 誘導体化試薬
106 送液ポンプ
107 反応装置
108 検出器
121 制御部
121a 測定動作制御部
121b 演算部
121c 記憶部
121d 処理部
121e 表示部
図1
図2
図3