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特許7560302発電プラントの性能評価方法及び発電プラントの性能評価プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】発電プラントの性能評価方法及び発電プラントの性能評価プログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20240925BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20240925BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
G05B23/02 G
F01D25/00 W
F02C7/00 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020155555
(22)【出願日】2020-09-16
(65)【公開番号】P2022049376
(43)【公開日】2022-03-29
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 徹
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 泰
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 晃純
【審査官】渡邊 捷太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-119067(JP,A)
【文献】特開2009-163507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
F01D 25/00
F02C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも発電プラントを構成する機器の性能を表す機器性能を入力値とし、少なくとも前記機器を流通する流体の状態を表す状態量及び前記発電プラントの発電出力を出力値とする前記発電プラントの動作を表す数式群からなる動特性モデルを作成し、
前記動特性モデルを計算して得られる前記発電出力及び前記状態量が前記発電出力及び前記状態量の実データと一致するまで前記機器性能を変化させ、
前記動特性モデルを計算して得られた前記発電出力及び前記状態量が前記実データに一致したときの前記機器性能を前記実データの取得時期における前記機器性能であるとして出力し、
前記動特性モデルは、大気及び海水の状態量、前記発電プラントで用いられる燃料の燃料組成並びに前記発電プラントに与えられた発電出力の指令値を入力値とし、
前記動特性モデルを計算して得られた前記発電出力及び前記状態量が前記実データに一致したときの前記機器性能を前記実データの取得時期における前記機器性能であるとして出力する
ことを特徴とする発電プラントの性能評価方法。
【請求項2】
請求項に記載の発電プラントの性能評価方法において、
得られた前記機器性能、及び前記発電出力に影響を与える外的条件を用いて、任意の発電出力まで運転を行ったとするシミュレーションにより、前記発電出力における熱効率を出力させる
ことを特徴とする発電プラントの性能評価方法。
【請求項3】
請求項に記載する発電プラントの性能評価方法において、
前記動特性モデルを計算して得られた前記状態量、前記発電出力及び前記機器性能、前記動特性モデルに入力した前記大気や海水の状態量、前記燃料組成から選ばれた2つの関係を出力する
ことを特徴とする発電プラントの性能評価方法。
【請求項4】
請求項に記載する発電プラントの性能評価方法において、
前記実データを取得した時期のなかから当該時期よりも短い所定範囲を少なくとも2つ以上定め、前記所定範囲ごとに前記関係を出力する
ことを特徴とする発電プラントの性能評価方法。
【請求項5】
コンピューターに、
少なくとも発電プラントを構成する機器の性能を表す機器性能を入力値とし、少なくとも前記機器を流通する流体の状態を表す状態量及び発電プラントの発電出力を出力値とする前記発電プラントの動作を表す数式群からなる動特性モデルを作成する機能と、
前記動特性モデルを計算して得られる前記発電出力及び前記状態量が前記発電出力及び前記状態量の実データと一致するまで前記機器性能を変化させる機能と、
前記動特性モデルを計算して得られた前記発電出力及び前記状態量が前記実データに一致したときの前記機器性能を前記実データの取得時期における前記機器性能であるとして出力させる機能と、を実現させ、
前記動特性モデルは、大気及び海水の状態量、前記発電プラントで用いられる燃料の燃料組成並びに前記発電プラントに与えられた発電出力の指令値を入力値とし、
前記機器性能を出力させる機能は、前記動特性モデルを計算して得られた前記発電出力及び前記状態量が前記実データに一致したときの前記機器性能を前記実データの取得時期における機器性能であるとして出力する
とを特徴とする発電プラントの性能評価プログラム。
【請求項6】
請求項に記載の発電プラントの性能評価プログラムにおいて、
得られた前記機器性能、及び前記発電出力に影響を与える外的条件を用いて、任意の発電出力まで運転を行ったとするシミュレーションにより、前記発電出力における熱効率を出力させる機能
を実現させることを特徴とする発電プラントの性能評価プログラム。
【請求項7】
請求項に記載する発電プラントの性能評価プログラムにおいて、
前記動特性モデルを計算して得られた前記状態量、前記発電出力及び前記機器性能、前記動特性モデルに入力した前記大気及び海水の状態量、前記燃料組成から選ばれた2つの関係を出力する機能を備える
ことを特徴とする発電プラントの性能評価プログラム。
【請求項8】
請求項に記載する発電プラントの性能評価プログラムにおいて、
前記実データを取得した時期のなかから当該時期よりも短い所定範囲を少なくとも2つ以上定め、前記所定範囲ごとに前記関係を出力する機能を備える
ことを特徴とする発電プラントの性能評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電プラントの性能評価方法及び発電プラントの性能評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電プラント、地熱発電プラント、原子力発電プラントなどの発電プラントにおいては、燃料節約・発電コスト低減の観点から、熱効率を維持・向上することが重要な課題となっている。そのために、発電プラントの熱効率や発電プラントを構成する各機器の性能を把握することが行われている。
【0003】
このような機器性能を把握する一つの手法として特許文献1の解析方法が知られている。この解析方法は、発電プラントに関する静特性モデルを作成し、定常運転を行っている発電プラントにおける流体の状態量の実データを取得し、静特性モデルにその実データを入力して計算することで機器性能を得ている。
【0004】
昨今では、再生可能エネルギーを用いた電源が増加しているため、発電プラントは電力需要の増減に加え、それら再生可能エネルギーを用いた電源による電力供給の増減に合わせた発電出力変動運転が多くなっている。したがって、発電出力が変動するとき、すなわち、発電プラントが非定常運転や過渡状態にあるとき(以下、非定常運転を行っている場合や過渡状態にあるときを「非定常時」と称する。)における実データを用いて発電プラントの熱効率や機器性能を把握することが重要になっている。
【0005】
このような状況下において、特許文献1の解析方法は、静特性モデルを対象とし、発電プラントが定常運転を行っているときの実データを用いるものであるので、非定常時の実データを用いて機器性能を把握することができない。また、非定常時では、各機器の熱容量や体積などを要因とする時間遅れがある。このような時間遅れがあるので非定常時の実データを用いて発電プラントの熱効率や機器性能を計算することは容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-21487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、定常時のみならず、非定常時の実データを用いても機器性
能を得ることができる発電プラントの性能評価方法及び発電プラントの性能評価プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の第1の態様は、少なくともシステムを構成する機器の性能を表す機器性能を入力値とし、少なくとも前記機器を流通する流体の状態を表す状態量を出力値とする前記システムの動作を表す数式群からなる動特性モデルを作成し、前記動特性モデルを計算して得られる前記状態量が前記状態量の実データと一致するまで前記機器性能を変化させ、前記動特性モデルを計算して得られた前記状態量が前記実データに一致したときの前記機器性能を前記実データの取得時期における前記機器性能であるとして出力することを特徴とするシステムの性能評価方法にある。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載するシステムの性能評価方法において、得られた前記機器性能、及びシステムの出力に影響を与える外的条件を用いて、任意の出力まで運転を行ったとするシミュレーションにより、その出力における熱効率を算出することを特徴とするシステムの性能評価方法にある。
【0010】
本発明の第3の態様は、少なくとも発電プラントを構成する機器の性能を表す機器性能を入力値とし、少なくとも前記機器を流通する流体の状態を表す状態量及び前記発電プラントの発電出力を出力値とする前記発電プラントの動作を表す数式群からなる動特性モデルを作成し、前記動特性モデルを計算して得られる前記発電出力及び前記状態量が前記発電出力及び前記状態量の実データと一致するまで前記機器性能を変化させ、前記動特性モデルを計算して得られた前記発電出力及び前記状態量が前記実データに一致したときの前記機器性能を前記実データの取得時期における前記機器性能であるとして出力することを特徴とする発電プラントの性能評価方法にある。
【0011】
本発明の第4の態様は、第3の態様に記載の発電プラントの性能評価方法において、得られた前記機器性能、及び前記発電出力に影響を与える外的条件を用いて、任意の発電出力まで運転を行ったとするシミュレーションにより、前記発電出力における熱効率を出力させることを特徴とする発電プラントの性能評価方法にある。
【0012】
本発明の第5の態様は、第3又は第4の態様に記載する発電プラントの性能評価方法において、前記動特性モデルは、大気及び海水の状態量、前記発電プラントで用いられる燃料の燃料組成並びに前記発電プラントに与えられた発電出力の指令を入力値とし、前記動特性モデルを計算して得られた前記発電出力及び前記状態量が前記実データに一致したときの前記機器性能を前記実データの取得時期における前記機器性能であるとして出力することを特徴とする発電プラントの性能評価方法にある。
【0013】
本発明の第6の態様は、第5の態様に記載する発電プラントの性能評価方法において、前記動特性モデルを計算して得られた前記状態量、前記発電出力及び前記機器性能、前記動特性モデルに入力した前記大気や海水の状態量、前記燃料組成から選ばれた2つの関係を出力することを特徴とする発電プラントの性能評価方法にある。
【0014】
本発明の第7の態様は、第6の態様に記載する発電プラントの性能評価方法において、前記実データを取得した時期のなかから当該時期よりも短い所定範囲を少なくとも2つ以上定め、前記所定範囲ごとに前記関係を出力することを特徴とする発電プラントの性能評価方法にある。
【0015】
本発明の第8の態様は、コンピューターに、少なくともシステムを構成する機器の性能を表す機器性能を入力値とし、少なくとも前記機器を流通する流体の状態を表す状態量を出力値とする前記システムの動作を表す数式群からなる動特性モデルを作成する機能と、前記動特性モデルを計算して得られる前記状態量が前記状態量の実データと一致するまで前記機器性能を変化させる機能と、前記動特性モデルを計算して得られた前記状態量が前記実データに一致したときの前記機器性能を前記実データの取得時期における前記機器性能であるとして出力する機能と、を実現させることを特徴とするシステムの性能評価プログラムにある。
【0016】
本発明の第9の態様は、第8の態様に記載するシステムの性能評価プログラムにおいて、得られた前記機器性能、及びシステムの出力に影響を与える外的条件を用いて、任意の出力まで運転を行ったとするシミュレーションにより、前記出力における熱効率を算出する機能を実現させることを特徴とするシステムの性能評価プログラムにある。
【0017】
本発明の第10の態様は、コンピューターに、少なくとも発電プラントを構成する機器の性能を表す機器性能を入力値とし、少なくとも前記機器を流通する流体の状態を表す状態量及び発電プラントの発電出力を出力値とする前記発電プラントの動作を表す数式群からなる動特性モデルを作成する機能と、前記動特性モデルを計算して得られる前記発電出力及び前記状態量が前記発電出力及び前記状態量の実データと一致するまで前記機器性能を変化させる機能と、前記動特性モデルを計算して得られた前記発電出力及び前記状態量が前記実データに一致したときの前記機器性能を前記実データの取得時期における前記機器性能であるとして出力させる機能と、を実現させることを特徴とする発電プラントの性能評価プログラムにある。
【0018】
本発明の第11の態様は、第10の態様に記載する発電プラントの性能評価プログラムにおいて、得られた前記機器性能、及び前記発電出力に影響を与える外的条件を用いて、任意の発電出力まで運転を行ったとするシミュレーションにより、前記発電出力における熱効率を出力させる機能を実現させることを特徴とする発電プラントの性能評価プログラムにある。
【0019】
本発明の第12の態様は、第10又は第11の態様に記載する発電プラントの性能評価プログラムにおいて、前記動特性モデルは、大気及び海水の状態量、前記発電プラントで用いられる燃料の燃料組成並びに前記発電プラントに与えられた発電出力の指令値を入力値とし、前記機器性能を出力させる機能は、前記動特性モデルを計算して得られた前記発電出力及び前記状態量が前記実データに一致したときの前記機器性能を前記実データの取得時期における機器性能であるとして出力することを特徴とする発電プラントの性能評価プログラムにある。
【0020】
本発明の第13の態様は、第12の態様に記載する発電プラントの性能評価プログラムにおいて、前記動特性モデルを計算して得られた前記状態量、前記発電出力及び前記機器性能、前記動特性モデルに入力した前記大気及び海水の状態量、前記燃料組成から選ばれた2つの関係を出力する機能を備えることを特徴とする発電プラントの性能評価プログラムにある。
【0021】
本発明の第14の態様は、第13の態様に記載する発電プラントの性能評価プログラムにおいて、前記実データを取得した時期のなかから当該時期よりも短い所定範囲を少なくとも2つ以上定め、前記所定範囲ごとに前記関係を出力する機能を備えることを特徴とする発電プラントの性能評価プログラムにある。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、定常時のみならず、非定常時の実データを用いても機器性能を得ることができる発電プラントの性能評価方法及び発電プラントの性能評価プログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】コンバインドサイクル発電プラントの概略構成図である。
図2】ガスタービンに関する動特性モデルを説明するための図である。
図3】高圧過熱器に関する動特性モデルを説明するための図である。
図4】動特性モデルを計算して得られた温度Tと実データである。
図5】動特性モデルを計算して得られた発電出力と実データである。
図6】ガスタービンの発電出力と断熱効率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1に基づいて、本発明の実施形態に係る発電プラントの性能評価プログラムの解析対象となるコンバインドサイクル発電プラントの構成を説明する。
【0025】
図示するように、発電プラントの一例であるコンバインドサイクル発電プラント1(以下、「プラント1」と記載する。)は、燃焼器2を備えている。燃焼器2は、燃料(例えば液化天然ガス)及び空気圧縮機3で加圧された空気が供給され、燃料と空気とが混合燃焼されて燃焼ガスとなる。燃焼ガスは、ガスタービン4に送られて膨張され、発電動力が得られる。
【0026】
ガスタービン4で仕事を終えた排気ガスは、排熱回収ボイラ5により熱回収される。排熱回収ボイラ5は、高圧蒸発器6、中圧蒸発器7、低圧蒸発器8を備えており、これらの蒸発器で排気ガスから熱回収され、水蒸気が発生する。
【0027】
高圧蒸発器6で生じた水蒸気は、高圧ドラム23を経て、高圧過熱器9により排気ガスの熱でさらに加熱され、高圧タービン12に送られる。中圧蒸発器7で生じた水蒸気は、中圧ドラム24を経て、中圧過熱器10にて加熱されたのち、高圧タービン12を通過した蒸気とともに再熱器14で加熱され、中低圧タービン13に送られる。低圧蒸発器8で生じた水蒸気は、低圧ドラム25を経て、低圧過熱器11で加熱され、中低圧タービン13に送られる。
【0028】
ガスタービン4、空気圧縮機3、高圧タービン12、中低圧タービン13及び発電機15は、直列に同軸で接続されている。高圧タービン12及び中低圧タービン13は、各蒸発器から供給された水蒸気を膨張させ、発電動力を発生させる。この発電動力により発電機15は発電を行う。
【0029】
中低圧タービン13で仕事を終えた排気蒸気は、復水器16により復水となり、復水ポンプ17で低圧節炭器22及び給水ポンプ18にそれぞれ圧送される。低圧節炭器22にて予熱された復水は低圧蒸発器8へ送られる。給水ポンプ18に圧送された復水は、高圧節炭器19及び中圧節炭器20にそれぞれ圧送される。高圧節炭器19にて予熱された給水は高圧蒸発器6へ、また、中圧節炭器20にて予熱された給水は低圧蒸発器8及び中圧蒸発器7へとそれぞれ送られる。
【0030】
なお、排熱回収ボイラ5で熱回収された排気ガスは、脱硝装置21により窒素酸化物が除去され、煙突に送られて外部に排出される。
【0031】
また、特に図示しないが、各機器には、例えば発電機の発電出力や流体の状態量を計測する各種センサーが配置されている。各種センサーで計測された流体の実データは、性能評価プログラムの入力データとして用いられる。また、プラント1には、発電出力や各部の温度、圧力、流量などを制御する制御器が設置されている。例として、ガスタービン4では発電出力の指令値に応じて燃料流量を調整する燃料制御、ガスタービン排ガス温度が目標値になるよう空気流量を調整する空気圧縮機3の入口案内翼の開度制御、排熱回収ボイラでは高圧ドラム23、中圧ドラム24、低圧ドラム25のそれぞれの水位を目標値に保つため、各ドラムへの給水流量を調整するドラム水位制御等が設置されている。このような制御器としてPI制御器が使われる場合は、各目標値や制御器の制御パラメータ(比例ゲイン、積分ゲイン)を入力値に用いる。
【0032】
本実施形態に係る発電プラントの性能評価プログラムは、プラント1を構成する各機器の性能(以下、機器性能)を求めるための諸機能をコンピューターに実現させるものである。性能評価プログラムは、コンピューターで実行可能な命令からなり、後述する各処理が実現される。なお、コンピューターは、CPU、RAM、ROM、記憶装置、マウスやキーボード等の入力装置、ディスプレイ、プリンタ等の出力装置、外部の機器との接続インタフェース、通信手段などを備えた一般的な情報処理装置である。
【0033】
まず、性能評価プログラムは、プラント1の動特性モデルを作成する。動特性モデルとは、プラント1の動作を表す数式群、すなわち、プラント系統と制御系統の動作を表す数式群、及び各機器を流通する流体の状態量の変化を表す数式群からなる。プラント系統とは、各機器および各機器間の配管による繋がりからなり、制御系統とは、プラント系統における各制御器と各機器との制御線による繋がりからなる。このような動特性モデルは、プラント1の発電出力や状態量の動特性を模擬したものである。
【0034】
動特性モデルの入力値としては、次のものが挙げられる。
・機器仕様
・機器性能
・計算開始時における各機器を流通する流体の状態量
・大気や海水の状態量、燃料組成(以下、外的条件)
・制御パラメータ
・発電出力の指令値
【0035】
動特性モデルの出力値としては、次のものが挙げられる。
・発電出力
・機器を流通する流体の状態量
【0036】
なお、動特性モデルは、性能評価プログラムが提供するユーザーインタフェースを介してユーザーにより作成される。動特性モデル自体は公知技術により作成することができるものであるので、詳細な説明は省略する。
【0037】
動特性モデルの一部としてガスタービン4と高圧過熱器9について例示する。数1はガスタービンを流通する流体の熱物質収支式、及び断熱効率に関する動特性モデルであり、図2はその動特性モデルの説明するための図である。
【0038】
【数1】
【0039】
数1に示した動特性モデルは、ガスタービン4の機器仕様、ガスタービン4の機器性能及びガスタービン4の状態量から構成されている。また、各記号に付された添え字は、以下の通りである。
数字:位置
ad:断熱変化
Tout:ガスタービン出口
なお、Func1は、比エンタルピと圧力から温度を算出する関数を示す。
【0040】
機器仕様とは、プラント1を構成する各機器の仕様を表す情報であり、例えば、機器の流体が流通する部分の体積や重量(熱容量)、配管などの流量係数などである。このような機器仕様は実際の機器から得られるものである。ガスタービン4の機器仕様の具体例としては、以下のものが挙げられる。
V:体積
K:流量係数
これらに添え字が付くので、Vはガスタービン4の入口における流体の体積、Vはガスタービン4の出口における体積を表す。
【0041】
機器性能とは、プラント1を構成する機器の性能を表す情報である。機器性能は、入力値である一方、動特性モデルによる解析結果から逆解析的に求めたいパラメータであり、ガスタービン4については断熱効率ηadである。
【0042】
状態量は、動特性モデルの出力値となるものであり、プラント1を構成する機器を通過する流体の状態を表す情報である。また、ある機器についての動特性モデルを計算した結果として得られた状態量は、他の機器についての動特性モデルの計算に用いられる。ガスタービン4における状態量の具体例としては以下のとおりである。
G:質量流量
:位置0における流体の質量流量(※)
:位置1(ガスタービン4の入口)における流体の質量流量
Tout:ガスタービン4の出口における流体の質量流量
:位置3における流体の質量流量
p:圧力
:位置0における流体の圧力(※)
:位置1(ガスタービン4の入口)における流体の圧力
:位置2における流体の圧力
h:比エンタルピ
:位置0における流体の比エンタルピ(※)
:位置1(ガスタービン4の入口)における流体の比エンタルピ
Tout:ガスタービン4の出口における流体の比エンタルピ
:位置2における流体の比エンタルピ
ad:断熱変化した場合のガスタービン出口における流体の比エンタルピ
s:比エントロピ
:位置1(ガスタービン4の入口)における流体の比エントロピ
T:温度
:位置0における流体の温度(※)
:位置2における流体の温度
v:比体積
:位置1における流体の比体積
:位置2における流体の比体積
【0043】
ガスタービン4の例では、※印が付された状態量が実データ又は他の機器についての動特性モデルを解くことにより得られるものである。このような※印が付された状態量を「入力状態量」とも称する。※印が付されていない他の状態量は、数1の動特性モデルを計算することによって得られるものである。このような※印が付されていない状態量を「出力状態量」とも称する。
【0044】
数2は高圧過熱器9を流通する流体の熱物質収支式、及び断熱効率に関する動特性モデルであり、図3はその動特性モデルを説明するための図である。
【0045】
【数2】
【0046】
数2に示した動特性モデルは、高圧過熱器9の機器仕様、高圧過熱器9の機器性能及び高圧過熱器9を流通する流体の状態量から構成されている。また、各記号に付された添え字は、以下の通りである。
1:加熱側流体1(ガスタービン4から排出された排気)
2:被加熱側流体2(高圧蒸発器6から排出された高圧飽和蒸気)
m:伝熱面材料
i:高圧過熱器9の入口
o:高圧過熱器9の出口
【0047】
高圧過熱器9の機器仕様の具体例としては、以下のものが挙げられる。
V:体積
:熱容量
M:質量
A:面積
K:流量係数
これらに添え字が付くので、Vは加熱側流体1の体積、Vは被加熱側流体2の体積を表す。同様に、Cpmは伝熱面材料の熱容量、Mは伝熱面材料の質量、Tは伝熱面材料の温度、Am1は加熱側流体1に面した面積、Am2は被加熱側流体2に面した面積、Kは加熱側流体1の流量係数、Kは被加熱側流体2の流量係数である。なお、Func1は、比エンタルピと圧力から温度を算出する関数を示す。
【0048】
高圧過熱器9の機器性能は、数2の動特性モデルから求めたいパラメータであり、高圧過熱器9については熱貫流率Uである。
【0049】
高圧過熱器9の状態量の具体例としては以下のとおりである。
G:質量流量
1,i:入口側における加熱側流体1の質量流量(※)
1,o:出口側における加熱側流体1の質量流量
2,i:入口側における被加熱側流体2の質量流量(※)
2,o:出口側における被加熱側流体2の質量流量
p:圧力
:高圧過熱器9内における加熱側流体1の圧力
:高圧過熱器9内における被加熱側流体2の圧力
1,i:入口側における加熱側流体1の圧力(※)
1,o:出口側における加熱側流体1の圧力(※)
2,i:入口側における被加熱側流体2の圧力(※)
2,o:出口側における被加熱側流体2の圧力(※)
h:比エンタルピ
1,i:入口側における加熱側流体1の比エンタルピ(※)
1,o:出口側における加熱側流体1の比エンタルピ
2,i:入口側における被加熱側流体2の比エンタルピ(※)
2,o:出口側における被加熱側流体2の比エンタルピ
T:温度
1,i:入口側における加熱側流体1の温度(※)
1,o:出口側における加熱側流体1の温度
2,i:入口側における被加熱側流体2の温度(※)
2,o:出口側における被加熱側流体2の温度
v:比体積
:高圧過熱器9内における加熱側流体1の比体積
:高圧過熱器9内における被加熱側流体2の比体積
Q:伝熱量
:高圧過熱器9内における加熱側流体1の伝熱量
:高圧過熱器9内における被加熱側流体2の伝熱量
【0050】
高圧過熱器9の例では、※印が付された状態量が実データ又は他の機器についての動特性モデルを解くことにより得られるものである。このような※印が付された状態量を「入力状態量」とも称する。※印が付されていない他の状態量は、数2の動特性モデルを計算することによって得られるものである。このような※印が付されていない状態量を「出力状態量」とも称する。
【0051】
このようにガスタービン4及び高圧過熱器9について動特性モデルの一部を例示したが、プラント1を構成する他の機器についても同様に動特性モデルを作成する。
【0052】
上述したような動特性モデルに、機器仕様、機器性能、及び入力状態量を用いて計算することにより出力状態量及びプラント1の発電出力を得ることができる。機器性能は未知のものであるので、次のようにして機器性能を特定する。
1.初期の機器性能を適宜定める
2.動特性モデルを計算して出力状態量及び発電出力を得る
3.2の出力状態量及び発電出力を実データと比較する
4.一致しなければ、機器性能を変化させ2から再実行する
5.3で一致すれば、そのときの機器性能を出力する
【0053】
つまり、機器性能に仮の値を入れて動特性モデルを計算し、その計算により得られた出力状態量が実データと一致するならば、その仮の値の機器性能は実際の機器性能であると推定するのである。なお、出力状態量と実データとの一致は厳密に一致している必要はなく、一定の範囲内(例えば±数%以内)にあれば一致していると判定してもよい。
【0054】
ガスタービン4の場合、ガスタービン4の動特性モデルについて、機器仕様及び入力状態量を用いるとともに、機器性能である断熱効率ηadを適当な範囲で振って出力状態量を計算する。この例では、出力状態量のうち温度Tについて、実際にガスタービン4から得られた流体の温度に関する実データと比較する。
【0055】
高圧過熱器9の場合、高圧過熱器9の動特性モデルについて、機器仕様及び入力状態量を用いるとともに、機器性能である熱貫流率Uを適当な範囲で振って出力状態量を計算する。この例では、出力状態量のうち温度T1,o、T2,oについて、実際に高圧過熱器9から得られた流体の温度に関する実データと比較する。
【0056】
また、プラント1の全体の発電出力についても、動特性モデルを計算して得られるものと実データとしての発電出力とを比較する。
【0057】
このようにして、動特性モデルを計算して得られた比較対象の出力状態量とその実データが一致し、かつ動特性モデルを計算して得られた発電出力とその実データが一致すれば、そのときの断熱効率ηadや熱貫流率Uなどを実データの取得時期における機器性能であるとしてこれらを出力する。動特性モデルを計算して得られた出力状態量又は発電出力が実データと一致しなければ、断熱効率ηadや熱貫流率Uなど各機器性能を変えて出力状態量を再計算する。
【0058】
動特性モデルは微分項を含んでおり、定常状態のみならず非定常状態の発電プラントにおける状態量の時間遅れを含む変動を表している。したがって、動特性モデルを計算することで、機器性能や各種の状態量の変動を得ることができる。機器性能や各種の状態量の変動は、秒単位毎など任意の時間毎に得ることができる。本実施形態では機器性能や各種の状態量の変動を秒単位毎に計算したが、表1及び表2には、動特性モデルを計算して得られた結果の内、例として10分毎の数値を示す。
【表1】


【表2】
【0059】
表1には運開当初、表2には運開5年後の所定範囲について、プラント1の発電出力、温度T、ガスタービン4の断熱効率が示されている。運開当初とは、発電プラントを運用開始して間もないある一時期のことである。運開5年後とは、発電プラントを運用開始してから5年が経過したある一時期のことである。実データを取得した時期は少なくとも運転当初から5年以上分あるが、5年よりも短い所定範囲(ここでは60分)を2つ定めてある。所定範囲の一つは、運開当初から間もないある日の60分であり、もう一つは、運開5年後のある日の60分である。
【0060】
図4に動特性モデルを計算して得られた温度Tと実データを図示する。図4(a)は運開当初の温度Tの変動を図示したものであり、図4(b)は運開5年後の温度Tの変動を図示したものである。
【0061】
図4(a)及び図4(b)の実線は温度Tの実データを表し、点線は動特性モデルを計算して得られた温度Tの解析結果である。動特性モデルを計算することにより得られた温度Tは、その実データと非常に精度良く一致している。
【0062】
図5に動特性モデルを計算して得られたプラント1の発電出力と実データを示す。図5(a)は運開当初の発電出力の変動を図示したものであり、図5(b)は運開5年後の発電出力の変動を図示したものである。
【0063】
図5(a)及び図5(b)の実線は発電出力の実データを表し、点線は動特性モデルを計算して得られた発電出力の解析結果である。動特性モデルを計算することにより得られた発電出力は、その実データと非常に精度良く一致している。
【0064】
また、表1及び表2に示した計算結果のうち、発電出力(2列目)と断熱効率(4列目)の関係を出力してもよい。例えば、図6に示すように横軸に発電出力、縦軸に断熱効率をプロットして両者の関係を出力する。図中のAは運開当初、Bは運開5年後における発電出力と断熱効率の関係を示している。
【0065】
このように発電出力と、断熱効率との関係を出力することで、発電出力の変化にともなう機器性能の変化を把握することができる。さらに、運開当初と運開5年後の双方の関係を出力することで、運開当初から5年経つとどのように機器性能が変化したかを把握することができる。例えば、図6において発電出力が20%のときには、運開当初では断熱効率が約45%であったものが運開5年後では約33%に低下していることが把握できる。
【0066】
以上に説明したように、本実施形態に係る性能評価プログラムは、発電プラントを構成する機器の機器性能を含んだ動特性モデルを作成する。そして、動特性モデルを計算して得られた状態量(出力状態量)が実際のプラント1から得られた実データと一致するように機器性能を計算する。
【0067】
この実データは、定常時のみならず、非定常時のものも用いることができる。これにより、図4図5に示したように、状態量が変動している部分(非定常時)であっても実データに精度よく一致するような機器性能を求めることができる。なお、特許文献1では、状態量が変動している部分は、各機器の熱容量や体積などを要因とする時間遅れがあるため、実データから直接に機器性能を計算することができなかった。
【0068】
このような性能評価プログラムにより、断熱効率ηadや熱貫流率Uなどを実データの取得時期における機器性能であるとしてこれらを得ることができる。本実施形態の例では、運開当初や運開5年後における非定常時の実データを用いて機器性能が得られる。
【0069】
このような機器性能は、運開当初や運開5年後などの時点におけるプラント1のシミュレーションに用いることができる。例えば、運開当初と運開5年後のそれぞれの機器性能を用いて、また、同じ大気及び海水の状態量及び燃料組成などの外的条件として定格出力又は任意の発電出力まで出力上昇を行ったとするシミュレーションを行うことができる。これにより、運開当初と運開5年後において定格出力等、任意の発電出力で運転したら得られたであろう熱効率を算出し、同一の外的条件下で比較することができる。上述したように機器性能は、実データに合わせて計算されたものであるから、実際の機器性能に非常に近いものである。したがって、上記シミュレーションによりその発電出力における熱効率を精度よく計算することができる。なお、外的条件とは、プラント1の熱効率に対して影響を与える外的な条件のことであり、大気及び海水の状態量及び燃料組成は外的条件の一例にすぎない。
【0070】
また、本実施形態に係る性能評価プログラムは、外的条件の一例として大気及び海水の状態量並びに燃料組成についても入力値とすることができる。そして、動特性モデルを計算して得られた発電出力及び状態量が実データに一致したときの機器性能を実データの取得時期における機器性能であるとして出力する。これにより、季節や燃料組成の影響による機器性能や熱効率の変化も考慮した機器の性能評価が可能となる。
【0071】
また、本実施形態に係る性能評価プログラムは、動特性モデルを計算して得られた状態量(出力状態量)、発電出力、及び機器性能(例えば、表1、2の各列)、入力値の大気や海水の状態量、燃料組成のうちから選ばれた2つ(図6の例では、断熱効率と発電出力)の関係を出力する。これにより、発電出力、状態量、機器性能の関係を把握することができる。
【0072】
さらに、本実施形態に係る性能評価プログラムは、実データを取得した時期のなかから当該時期よりも短い所定範囲を少なくとも2つ以上定め(例えば、運開当初、運開5年後)、それらの所定範囲ごとに関係を出力する。これにより、図4から図6に示したように、時間が経過するとどのように機器性能が変化したかを把握することができる。
【0073】
なお、上述したように、コンピューターにより性能評価プログラムを実行させる場合に限らず、以下の性能評価方法を実行することによっても同様の効果を得ることができる。すなわち、プラント1の発電出力、プラント1の機器性能、及び機器を流通する流体の状態量の動特性を模擬した動特性モデルを作成する。次に、動特性モデルを計算して得られる発電出力及び状態量が発電出力及び状態量の実データと一致するまで機器性能を変化させる。そして、動特性モデルを計算して得られた発電出力及び状態量が実データに一致したときの断熱効率ηadや熱貫流率Uなどを実データの取得時期における機器性能であるとしてこれらを出力する。
【0074】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、勿論、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
【0075】
例えば、発電プラントとしてコンバインドサイクル発電プラントを例示したがこれに限定されず、任意の方式の発電プラントに本発明は適用できる。また、本発明は、発電プラントのみならず、化学プラントや産業プロセス、ヒートポンプ給湯機やエアコンなど、あらゆるシステムについて適用可能である。
【0076】
つまり、本発明によれば、各種機器からなるシステムについても、機器性能を入力値とし、機器を流通する流体の状態を表す状態量を出力値とするシステムの動作を表す数式群からなる動特性モデルを作成し、動特性モデルを計算して得られる状態量が状態量の実データと一致するまで機器性能を変化させ、動特性モデルを計算して得られた状態量が実データに一致したときの機器性能を出力する。これにより、任意のシステムについても、定常時のみならず、非定常時における実データを用いて機器性能を把握することができる。
【0077】
さらに、本発明は、得られた機器性能を用いて、システムを任意の大気及び海水の状態量及び燃料組成などの外的条件、並びに出力で運転させるシミュレーションを行い、その出力における熱効率を算出させる場合についても適用できる。これにより、任意のシステムについて、シミュレーションにより外的条件や出力における熱効率を精度よく計算することができる。
【0078】
図4図6では、運開当初と運開5年後の解析結果を例示したがそれら2つに限定されない。また、3つ以上の時期を採用してもよい。
【0079】
図6には、発電出力と断熱効率との関係を例示したがこれに限定されない。発電出力、断熱効率以外の様々な機器性能、温度Tなど様々な状態量、さらには大気や海水の状態量、燃料組成などの入力値のなかから任意に2つを選択して関係を出力してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0080】
発電プラントを設計、構築、運用、保守、点検等を行う産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0081】
1…プラント,4…ガスタービン,9…高圧過熱器
図1
図2
図3
図4
図5
図6