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特許7560348容器詰調味用組成物及びその使用並びに容器詰加工食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】容器詰調味用組成物及びその使用並びに容器詰加工食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20240925BHJP
   A23L 5/20 20160101ALI20240925BHJP
   A23L 27/50 20160101ALN20240925BHJP
【FI】
A23L27/00 D
A23L5/20
A23L27/50 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020211514
(22)【出願日】2020-12-21
(62)【分割の表示】P 2020089844の分割
【原出願日】2020-05-22
(65)【公開番号】P2021182904
(43)【公開日】2021-12-02
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】岡村 岳
(72)【発明者】
【氏名】井ノ本 也寸志
(72)【発明者】
【氏名】國武 友里
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-168458(JP,A)
【文献】特表2019-526228(JP,A)
【文献】特開平02-200161(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110547441(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110331102(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
しょうゆ及び10ppb以上1,000ppb未満のフェネチルアセテートを含む、密封容器詰調味用組成物。
【請求項2】
1.0質量%以上であるしょうゆ及び1.0ppb以上1,000ppb未満のフェネチルアセテートを含む、密封容器詰調味用組成物。
【請求項3】
しょうゆ及び1.0ppb以上1,000ppb未満のフェネチルアセテートからなる、密封容器詰調味用組成物。
【請求項4】
前記密封容器は、パウチ、ボトル、缶及び瓶からなる群から選ばれる包装容器を密封した密封容器である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記密封容器は、0.00126以上のFo値で加熱された密封容器である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器詰調味用組成物、該組成物を使用した加工食品、該加工食品の製造方法及び容器詰加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
食品又は調味料を、パウチなどの耐熱性容器に充填及び密封し、レトルト装置でレトルト殺菌処理する方法が広く用いられている。レトルト殺菌法は、100℃を超える高い温度で加圧加熱して殺菌する方法である。一般的なレトルト殺菌法として、容器をレトルト槽内に並べ、レトルト槽の温度を蒸気及び熱水などの熱媒体により120℃程度まで上昇させて、容器内部の食品中央部において120℃で4分間又はそれと同等以上の熱がかかる状態に加圧加熱して殺菌する方法が挙げられる。
【0003】
レトルト殺菌処理に供すると、容器内の食品及び調味料を常温で保存可能なものとすることができる。しかし、レトルト殺菌処理に供した食品及び調味料は、独特なレトルト臭が発生することがあり製品の品質が低下するという問題がある。レトルト臭を抑制するために、種々の手段が研究開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、イソブチルアルコール、n-ブチルアルコール、及びイソアミルアルコールの合計含有量が2ppm未満で、かつ、マルトールの含有量が2ppm以上であることを特徴とする畜肉加熱調理用組成物、及び該組成物で調理した畜肉を含有していることを特徴とする畜肉入りレトルト食品が記載されている。
【0005】
また、例えば、特許文献2には、青唐辛子の抽出物を0.001~0.3重量%含有し、かつ、大豆たんぱくを0.1~10重量%含有することを特徴とするレトルトカレーが記載されている。特許文献3には、茶類より抽出されたポリフェノール類を添加することを特徴とする風味の改善された大豆たんぱく含有食品が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-121633号公報
【文献】特許第6040278号
【文献】特許第3432614号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の畜肉加熱調理用組成物は、マルトールを含む調味料として、減圧濃縮醤油を用いている。それに対して、濃口醤油は、イソブチルアルコール、n-ブチルアルコール及びイソアミルアルコールの含有量が大きく、レトルト臭の原因となることから、使用できないという問題がある。
【0008】
また、特許文献2及び3に記載の食品に採用されている青唐辛子の抽出物及び茶抽出物は、辛味、苦味といった異味及び着色をもたらし得るという問題がある。
【0009】
さらに、濃口醤油などのしょうゆの種類に限らず、しょうゆを含みつつも、レトルト臭が低減されたレトルト調味料については、これまでにほとんど知られていない。
【0010】
そこで、本発明は、含有するしょうゆ、肉類、大豆たんぱく(以下、しょうゆ、肉類及び大豆たんぱくを総称して「しょうゆ等」とよぶ。)といった食品素材(食材)に基づくレトルト臭といった加熱劣化臭が低減された容器詰調味用組成物、該組成物を利用した加工食品及び該加工食品の製造方法を提供することを、本発明が解決しようとする第1の課題とする。また、本発明は、それ自体で喫食することができる容器詰加工食品を提供することを、本発明が解決しようとする第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を積み重ね、数多くの成分を適宜組み合せて、加熱殺菌後であっても、含有するしょうゆ等の食材に基づく加熱劣化臭がほとんど感じられないような食品及び調味料を得ようと試行錯誤した。
【0012】
そして、数々の失敗を重ねた結果、驚くべきことに、しょうゆ等の食材とともに、所定量のフェネチルアセテートを含有させることにより、しょうゆ等の食材に基づく加熱劣化臭が抑制されることを本発明者らは見出した。さらに驚くべきことに、後述する実施例の表2B及び表2Cに記載があるように、レトルト殺菌のみならず、100℃以下(例えば、Fo値が0.00126以上の温度)にて常圧で加熱殺菌(以下、ノンレト殺菌ともよぶ。)に供した場合でも、加熱劣化臭が抑制された。このような知見の下で、本発明者らは、しょうゆ等の食材と、フェネチルアセテートとを含む、容器詰調味用組成物;該組成物を利用した加工食品;該加工食品の製造方法;及び容器詰加工食品を創作することに成功した。本発明はこのような知見や成功例に基づいて完成するに至った発明である。
【0013】
したがって、本発明の各一態様によれば、以下の第I群~第IV群のものが提供される:
第I群
[1]1.0ppb以上1,000ppb未満のフェネチルアセテートを含む、容器詰調味用組成物。
[2]調味料成分、野菜類、肉類及び魚介類からなる群から選ばれる少なくとも1種の食材をさらに含む、[1]に記載の組成物。
[3]前記食材は、しょうゆ、牛肉、豚肉、鶏肉及び大豆たんぱくからなる群から選ばれる少なくとも1種の食材である、[1]~[2]のいずれか1項に記載の組成物。
[4]前記組成物は、前記食材に基づく加熱劣化臭を抑制するための組成物である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の組成物。
[5]前記組成物は、レトルト殺菌に供された組成物である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の組成物。
[6][1]~[5]のいずれか1項に記載の組成物と食材とを原料として含む、加工食品。
[7][1]~[5]のいずれか1項に記載の組成物と食材とを混合したものを、加熱調理することにより、加熱調理食品を得る工程を含む、加熱調理食品の製造方法。
[8]1.0ppb以上1,000ppb未満のフェネチルアセテートを含む、容器詰加工食品。
[9]調味料成分、野菜類、肉類及び魚介類からなる群から選ばれる少なくとも1種の食材をさらに含む、[8]に記載の容器詰加工食品。
[10]前記食材は、しょうゆ、牛肉、豚肉、鶏肉及び大豆たんぱくからなる群から選ばれる少なくとも1種の食材である、[8]~[9]のいずれか1項に記載の容器詰加工食品。
第II群
[1]しょうゆ及び0.5ppb以上1,000ppb未満のフェネチルアセテートを含む、容器詰調味用組成物。
[2]前記組成物は、レトルト臭を抑制するための組成物である、[1]に記載の組成物。
[3]前記組成物は、レトルト殺菌に供された組成物である、[1]~[2]のいずれか1項に記載の組成物。
[4]前記組成物は、前記しょうゆに対する前記フェネチルアセテートの含有量が5ppb以上1,000ppb未満である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の組成物。
[5][1]~[4]のいずれか1項に記載の組成物と食材とを原料として含む、加工食品。
[6][1]~[4]のいずれか1項に記載の組成物と食材とを混合することにより、加工食品を得る工程を含む、加工食品の製造方法。
[7][1]~[4]のいずれか1項に記載の組成物と食材とを混合したものを、加熱調理することにより、加熱調理食品を得る工程を含む、加熱調理食品の製造方法。
[8]しょうゆ及び0.5ppb以上1,000ppb未満のフェネチルアセテートを含む、容器詰加工食品。
[9]前記容器詰加工食品は、レトルト臭を抑制するための前記容器詰加工食品である、[8]に記載の容器詰加工食品。
[10]前記容器詰加工食品は、レトルト殺菌に供された容器詰加工食品である、[8]~[9]のいずれか1項に記載の容器詰加工食品。
第III群
[1]肉類及び1ppb以上2,000ppb未満のフェネチルアセテートを含む、容器詰調味用組成物。
[2]前記組成物は、レトルト殺菌による肉加熱臭を抑制するための組成物である、[1]に記載の組成物。
[3]前記組成物は、レトルト殺菌に供された組成物である、[1]~[2]のいずれか1項に記載の組成物。
[4]前記組成物は、前記肉類に対する前記フェネチルアセテートの含有量が5ppb以上10,000ppb未満である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の組成物。
[5]前記組成物は、しょうゆを含む、[1]~[4]のいずれか1項に記載の組成物。
[6]前記組成物は、前記しょうゆに対する前記フェネチルアセテートの含有量が10ppb以上20,000ppb未満である、[5]に記載の組成物。
[7][1]~[6]のいずれか1項に記載の組成物と食材とを原料として含む、加工食品。
[8][1]~[6]のいずれか1項に記載の組成物と食材とを混合することにより、加工食品を得る工程を含む、加工食品の製造方法。
[9][1]~[6]のいずれか1項に記載の組成物と食材とを混合したものを、加熱調理することにより、加熱調理食品を得る工程を含む、加熱調理食品の製造方法。
[10]肉類及び1ppb以上2,000ppb未満のフェネチルアセテートを含む、容器詰加工食品。
[11]前記容器詰加工食品は、レトルト殺菌による肉加熱臭を抑制するための前記容器詰加工食品である、[10]に記載の容器詰加工食品。
[12]前記容器詰加工食品は、レトルト殺菌に供された容器詰加工食品である、[10]~[11]のいずれか1項に記載の容器詰加工食品。
第IV群
[1]大豆たんぱく及び1ppb以上1,000ppb未満のフェネチルアセテートを含む、容器詰調味用組成物。
[2]前記組成物は、レトルト殺菌による大豆ムレ臭を抑制するための組成物である、[1]に記載の組成物。
[3]前記組成物は、レトルト殺菌に供された組成物である、[1]~[2]のいずれか1項に記載の組成物。
[4]前記組成物は、前記大豆たんぱくに対する前記フェネチルアセテートの含有量が10ppb以上10,000ppb未満である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の組成物。
[5]前記組成物は、しょうゆを含む、[1]~[4]のいずれか1項に記載の組成物。
[6]前記組成物は、前記しょうゆに対する前記フェネチルアセテートの含有量が10ppb以上10,000ppb未満である、[5]に記載の組成物。
[7][1]~[6]のいずれか1項に記載の組成物と食材とを原料として含む、加工食品。
[8][1]~[6]のいずれか1項に記載の組成物と食材とを混合することにより、加工食品を得る工程を含む、加工食品の製造方法。
[9][1]~[6]のいずれか1項に記載の組成物と食材とを混合したものを、加熱調理することにより、加熱調理食品を得る工程を含む、加熱調理食品の製造方法。
[10]大豆たんぱく及び1ppb以上1,000ppb未満のフェネチルアセテートを含む、容器詰加工食品。
[11]前記容器詰加工食品は、レトルト殺菌による大豆ムレ臭を抑制するための前記容器詰加工食品である、[10]に記載の容器詰加工食品。
[12]前記容器詰加工食品は、レトルト殺菌に供された容器詰加工食品である、[10]~[11]のいずれか1項に記載の容器詰加工食品。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様である組成物、加工食品及び加工食品の製造方法によれば、レトルト臭、肉加熱臭、大豆ムレ臭などの加熱劣化臭が抑えられた調味用組成物として利用することにより、加熱殺菌によって生じる異臭を付与することなく、所望の優れた風味を有するしょうゆ等の食材を含む加工食品、例えば、加熱調理食品を調理することが可能である。また、本発明の一態様である容器詰加工食品は、従前の加工食品に代えて、家庭内で簡便に喫食することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一態様である組成物、加工食品、加工食品の製造方法及び容器詰加工食品の詳細について説明するが、本発明は、本項目の事項によってのみに限定されず、本発明の目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0016】
本明細書における各用語は、別段の定めがない限り、当業者により通常用いられている意味で使用され、不当に限定的な意味を有するものとして解釈されるべきではない。また、本明細書においてなされている推測及び理論は、本発明者らのこれまでの知見及び経験によってなされたものであることから、本発明はこのような推測及び理論のみによって拘泥されるものではない。
【0017】
「組成物」は、通常用いられている意味のものとして特に限定されないが、例えば、2種以上の成分が組み合わさってなる物である。
「ppb」は、通常知られている意味のとおりの単位であり、具体的には1ppbは1/10であり、グラム換算では1ng/gである。
「及び/又は」との用語は、列記した複数の関連項目のいずれか1つ、又は2つ以上の任意の組み合わせ若しくは全ての組み合わせを意味する。
「含有量」は、濃度と同義であり、組成物の全体量に対する成分の量の割合を意味する。本明細書では、別段の定めがない限り、含有量の単位は「質量%(wt%)」を意味する。ただし、成分の含有量の総量は、100質量%を超えることはない。
数値範囲の「~」は、その前後の数値を含む範囲であり、例えば、「0質量%~100質量%」は、0質量%以上であり、かつ、100質量%以下である範囲を意味する。
「含む」は、含まれるものとして明示されている要素以外の要素を付加できることを意味する(「少なくとも含む」と同義である)が、「からなる」及び「から本質的になる」を包含する。すなわち、「含む」は、明示されている要素及び任意の1種若しくは2種以上の要素を含み、明示されている要素からなり、又は明示されている要素から本質的になることを意味し得る。要素としては、成分、工程、条件、パラメーターなどの制限事項などが挙げられる。
「F値」は、食品が基準温度で加熱されたのに相当する時間(分)を表わす。「F値」は基準温度及び微生物の耐熱性のパラメーターZ値により変わるため、基準温度121.1℃,Z値10℃のときのF値を「Fo値」で表示し、殺菌の評価に用いている。
【0018】
整数値の桁数と有効数字の桁数とは一致する。例えば、1の有効数字は1桁であり、10の有効数字は2桁である。また、小数値は小数点以降の桁数と有効数字の桁数は一致する。例えば、0.1の有効数字は1桁であり、0.10の有効数字は2桁である。
【0019】
本発明の一態様の組成物は、食材及びフェネチルアセテートを含む、容器詰調味用組成物である。本発明の一態様の組成物は、食材とともに、フェネチルアセテートを含むことにより、加熱劣化臭を抑制するための組成物として利用できる。すなわち、本発明の一態様の組成物は、食材に基づく加熱劣化臭を抑制するための組成物である。フェネチルアセテートの含有量は、1.0ppb以上1,000ppb未満である。
【0020】
本発明の一態様の組成物は、しょうゆ及びフェネチルアセテートを含む、容器詰調味用組成物である。本発明の一態様の容器詰加工食品は、しょうゆ及びフェネチルアセテートを含む、容器詰加工食品である。本発明の一態様の組成物及び容器詰加工食品は、それ自体で、レトルト臭が抑制された組成物及び加工食品である。「レトルト臭」とは、レトルトパウチに封入した、しょうゆを含む食品及び調味料をレトルト殺菌処理に供した際に感じる不快な劣化臭をいう。「レトルト殺菌によるレトルト臭を抑制する」とは、レトルト殺菌によって発生したレトルト臭を感じにくくすることをいうが、レトルト臭が発生することを阻止する可能性を妨げない。
【0021】
本発明の一態様の組成物は、肉類及びフェネチルアセテートを含む、容器詰調味用組成物である。本発明の一態様の容器詰加工食品は、肉類及びフェネチルアセテートを含む、容器詰加工食品である。本発明の一態様の組成物及び容器詰加工食品は、それ自体で、レトルト殺菌による肉加熱臭が抑制された組成物及び加工食品である。「レトルト殺菌による肉加熱臭」とは、レトルトパウチに封入した、肉類を含む食品及び調味料をレトルト殺菌処理に供した際に感じる不快な劣化臭をいう。具体的には、肉中の脂質の動物特有の獣臭と、warmed―over flavor(wof)と呼ばれている加熱による肉の脂質酸化によって生じる不快臭の複合的な臭いをいう。「レトルト殺菌による肉加熱臭を抑制する」とは、レトルト殺菌により発生した肉加熱臭を感じにくくすることをいうが、レトルト殺菌により肉加熱臭が発生することを妨げる可能性を妨げない。
【0022】
本発明の一態様の組成物は、大豆たんぱく及びフェネチルアセテートを含む、容器詰調味用組成物である。本発明の一態様の容器詰加工食品は、大豆たんぱく及びフェネチルアセテートを含む、容器詰加工食品である。本発明の一態様の組成物及び容器詰加工食品は、それ自体で、レトルト殺菌による大豆ムレ臭が抑制された組成物及び加工食品である。「レトルト殺菌による大豆ムレ臭」とは、レトルトパウチに封入した、大豆たんぱくを含む食品及び調味料をレトルト殺菌処理に供した際に感じる不快な劣化臭をいう。具体的には、大豆の青臭さ、きな粉様の臭い及び大豆を密閉系で加熱した際に生成する特有の好ましくない臭いの複合的な異臭であり、喫食時に口腔内から鼻へ抜ける時に感じるものを意味する。なお、加熱した際に生成する特有の好ましくない臭いとは、詳しくは大豆中のメチオニンなど硫黄を含んだアミノ酸が加熱されることで発生する含硫化合物の由来の臭いである。「レトルト殺菌による大豆ムレ臭を抑制する」とは、レトルト殺菌により発生した大豆ムレ臭を感じにくくすることをいうが、レトルト殺菌により大豆ムレ臭が発生することを妨げる可能性を妨げない。
【0023】
本発明の一態様の組成物と本発明の一態様の加工食品とは、本発明の一態様の組成物が調味の用に供されることに対して、本発明の一態様の加工食品はそれ自体で喫食可能である点において相違し、その他の構成については共通する。そこで、以下では、本発明の一態様の組成物を例にとって説明することとし、本発明の一態様の加工食品については、本発明の一態様の組成物に関する説明を参照することができる。
【0024】
以下では、本発明について、しょうゆ及びフェネチルアセテートを主として含む態様、肉類及びフェネチルアセテートを主として含む態様、及び大豆たんぱく及びフェネチルアセテートを主として含む態様に分けて、詳細に説明する。
【0025】
[1.しょうゆ及びフェネチルアセテートを主として含む態様]
通常、しょうゆを含む食品及び調味料をレトルト殺菌に供すると、レトルト臭が生じる。しかし、しょうゆとともに、フェネチルアセテートを含むものは、レトルト臭が感じられにくくなる。したがって、本発明の一態様の組成物は、しょうゆとともに、フェネチルアセテートを含むことにより、レトルト臭を抑制するための組成物として利用できる。また、本発明の一態様の組成物は、保存性を考慮すれば、殺菌処理などの腐敗防止処理に供されたものであることが好ましい。本発明の一態様の組成物は、食品及び調味料を殺菌する際に通常採用されている条件での殺菌処理に供された組成物であることが好ましく、例えば、100℃以下で加熱殺菌した組成物であってもよいが、レトルト殺菌に供された組成物であることが好ましい。なお、後述する実施例に記載があるとおり、85℃、5分間(Fo値0.00126)で加熱しても、フェネチルアセテートによるレトルト臭抑制効果は発揮され得る。
【0026】
しょうゆは、醤油、しょう油などと表記して通常知られているとおりのものであれば特に限定されず、例えば、農林水産省により示されている「しょうゆ品質表示基準」において定義付けされているものなどを挙げることができる。しょうゆの具体例としては、例えば、濃口醤油、淡口醤油、たまり醤油、再仕込醤油、白醤油、だし醤油、照り醤油、生揚げ醤油、生醤油などが挙げられるが、食材に対してしっかりとしたしょうゆ風味を付与するために濃口醤油であることが好ましい。しょうゆの形態は特に限定されず、液体状であっても、粉末状及び顆粒状などの固形状であっても、どちらでもよい。しょうゆは、上記したものの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。しょうゆは、しょうゆ本来の風味を有するために、例えば、HEMFの含有量は、20ppm以上であることが好ましく、30ppm以上であることがより好ましい。なお、本醸造方式により得られるしょうゆは、通常、20ppm以上のHEMFを含む。例えば、淡口醤油のHEMF含有量は20ppm以上であり、濃口醤油のHEMFの含有量は30ppm以上である。
【0027】
フェネチルアセテートは、通常知られているとおりの、下記式(I)
【化1】
(I)
で示される構造からなる化合物である。
【0028】
本発明の一態様の組成物は、しょうゆを含みつつも、フェネチルアセテートを含むことにより、レトルト臭が抑制されたものである。そこで、本発明の一態様の組成物におけるフェネチルアセテートの含有量は、レトルト臭を抑制し得る量であればよい。後述する実施例に記載があるとおり、本発明者らが調べたところによれば、しょうゆを含む調味液において、0.5ppb以上のフェネチルアセテートを含む場合、レトルト臭が抑制される。そこで、本発明の一態様の組成物におけるフェネチルアセテートの含有量の下限は、組成物の全体量に対して、0.5ppb以上である。
【0029】
しょうゆを含む調味用組成物において、0.5ppb以上のフェネチルアセテートを含めば、レトルト臭が抑制される。しかし、フェネチルアセテートはそれ自体でバラの香りを有し、香りの閾値は3000ppb~3800ppbであることから、フェネチルアセテートの含有量が多い場合、具体的には1,000ppb以上のフェネチルアセテートを含む場合、調味用組成物に対して食した時に感じる所望としない異質な香りが付与されて好ましくない。そこで、本発明の一態様の組成物におけるフェネチルアセテートの含有量の上限は、組成物の全体量に対して、1,000ppb未満である。
【0030】
上記のとおり、本発明の一態様の組成物におけるフェネチルアセテートの含有量は、0.5ppb以上1,000ppb未満であるが、レトルト臭をより抑制するためには、好ましくは1ppb以上1,000ppb未満であり、より好ましくは2ppb以上500ppb以下である。なお、「0.5ppb以上1,000ppb未満のフェネチルアセテート」とは、例えば、調味用組成物 100gに対して、50ng以上100,000ng(=100μg)未満のフェネチルアセテートを意味する。
【0031】
また、後述する実施例に記載があるとおり、しょうゆを含む調味液は、しょうゆに対してフェネチルアセテートを5ppb以上含む場合、レトルト臭が抑制される。そこで、本発明の一態様の組成物におけるフェネチルアセテートの含有量は、しょうゆに対して5ppb以上1,000ppb未満であることが好ましく、レトルト臭をより抑制するためには、しょうゆに対して10ppb以上1,000ppb未満であることがより好ましく、しょうゆに対して20ppb以上500ppb以下であることが更に好ましく、しょうゆに対して30ppb以上500ppb以下であることがなお更に好ましい。
【0032】
しょうゆの含有量は特に限定されず、所望の風味に合わせて適宜設定できる。本発明の一態様の組成物を使用して食材を調理して得られる加工食品にしっかりとしたしょうゆの食感及び風味を付与したい場合は、しょうゆの含有量は、例えば、本発明の一態様の組成物の全体量に対して、好ましくは1.0質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上であり、更に好ましくは10質量%以上である。しょうゆの含有量の上限は特に限定されないが、例えば、本発明の一態様の組成物の全体量に対して、95質量%以下程度である。
【0033】
フェネチルアセテートは、フェネチルアセテート自体を使用してもよいし、フェネチルアセテートを含むフェネチルアセテート含有物を用いてもよい。フェネチルアセテート自体を使用する場合は、香料として市販されているものを使用することができる。
【0034】
フェネチルアセテート含有物は、フェネチルアセテートを含む限り特に限定されないが、例えば、特許第6343710号に記載の方法で製造されるしょうゆなどが挙げられる。すなわち、通常のしょうゆの製造方法によって乳酸発酵を行った後に得られるしょうゆ諸味を固液分離し、さらに液体部分を珪藻土などのろ過材、UF膜及びMF膜などの各種透過膜などを用いたろ過処理に供してしょうゆ諸味液汁を得て、次いで該しょうゆ諸味液汁をしょうゆ酵母により酵母発酵に供することを含む方法により製造されるしょうゆである。このようなしょうゆはフェネチルアセテートを含むものであることから、フェネチルアセテート含有しょうゆとして使用可能である。
【0035】
フェネチルアセテート含有しょうゆを用いる場合、本発明の一態様の組成物におけるしょうゆをフェネチルアセテート含有しょうゆとしてもよく、通常のしょうゆとフェネチルアセテート含有しょうゆとの混合しょうゆとしてもよい。
【0036】
本発明の一態様の組成物は、しょうゆ及びフェネチルアセテートに加えて、その他の成分を含むことができる。その他の成分は特に限定されないが、例えば、食品及び調味料に使用される成分であり、具体的には、固形成分としては、食塩、糖類(砂糖、ぶどう糖、果糖、水飴、異性化液糖など)、穀類成分(パン粉、小麦粉、オートミールなど)、香辛料(生姜、唐辛子、こしょう、バジル、オレガノ、ジンジャー、ミックススパイスなど)、増粘剤(カラギーナンなどの増粘多糖類、でん粉、加工でん粉、ガム類など)、食肉加工成分(チキンパウダー、ミートパウダー、フィッシュパウダーなど)、化学調味料(グルタミン酸ナトリウム、グリシン、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウムなど)、フレーバー、味噌、カレー粉などが挙げられ;液体成分としては、水、アルコール、甘味成分(みりん、液糖、水飴など)、酸味成分(食酢、りんご、ゆず、レモンといった香酸柑橘など)、油脂成分(ごま油、オリーブオイル、サラダ油、大豆油、ラー油、バター、牛脂、ラードなど)、酒類成分(ワイン、清酒など)、果汁(りんご果汁など)などが挙げられる。
【0037】
本発明の一態様の組成物は、エキス、ダシ汁及び食材などを含んでもよい。
【0038】
エキスとしては、例えば、鰹、鰹節、ホタテなどから得られる魚介類エキス;昆布などから得られる海藻エキス;鶏、豚、牛などの肉類から得られる肉エキス;ニンニク、生姜、椎茸などの野菜から得られる野菜エキス;酵母エキス;タンパク質加水分解物などが挙げられる。
【0039】
ダシ汁としては、例えば、鰹節、宗田節、鯖節、鮪節、鰯節などの魚節類の粉砕物及び削り節、鰯、鯖、鯵、エビなどを干して乾燥した煮干し類の粉砕物、昆布、ワカメなどの海藻類、椎茸などのキノコ類などを、熱水、エタノールなどの溶媒で抽出して得られるダシ汁などが挙げられる。
【0040】
食材としては、例えば、大根、玉ネギ、長ネギ、人参、牛蒡、れんこん、生姜、ニンニク、キャベツ、ピーマン、トマト、コーン、タケノコなどの野菜類;シソ、パセリ、セロリ、ニラ、ミツバなどの香辛野菜類;椎茸、マッシュルーム、エノキ、シメジなどのキノコ類;リンゴ、ナシ、キウイ、パイナップル、梅などの果実類;ゴマ、ナッツ、栗などの種実類;牛、豚、鶏、馬、羊などの肉類;ツナ、イカ、ホタテ、カニ、鮭などの魚介類;ひじき、昆布、ワカメなどの海藻類;卵、豆腐、油揚げ、こんにゃく、大豆たんぱくなどの加工食品などが挙げられる。これらの食材は、すりおろしたり、ペースト状にしたり、粉砕したり、細切りしたり、ダイス状、短冊状などの形状にカットしたりして、用いてもよい。
【0041】
その他の成分は、上記したものなどの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。その他の成分の含有量は、本発明の課題を解決し得る限り、適宜設定することができる。その他の成分の具体例としては、例えば、本発明の一態様の組成物を肉豆腐を調理するために用いる場合には、本発明の一態様の組成物に甘味、粘性などを付与するために、具材である牛ひき肉とともに、砂糖、みりん、加工でん粉、牛脂、酵母エキス、昆布エキスなどが好ましく用いられる。
【0042】
本発明の一態様の組成物は、その形態については特に限定されないが、例えば、容器詰調味用組成物という観点から、液状、懸濁状、ペースト状などの液性の組成物及び具の入った液性の
組成物であることが好ましい。
【0043】
本発明の一態様の組成物は、容器に充填して封止することにより密封した容器詰組成物である。容器は密封できる素材及び形状のものであれば特に限定されないが、例えば、アルミなどの金属、PETやPTPなどのプラスチック、1層又は積層(ラミネート)のフィルム、ガラスなどを素材とするパウチ、小袋、ボトル、缶、瓶などの包装容器が挙げられる。具体的には、内側にポリプロピレン、ポリエチレンなどのオレフィン系樹脂からなる熱溶着可能な樹脂層を設け、外側にポリエステル、ポリアミドなどのガスバリア性の高い樹脂及び/又はアルミ箔などからなる層を設けて、積層加工(ラミネート加工)したフィルムでできた容器などが挙げられる。
【0044】
レトルト殺菌は、長期保存が可能な状態に殺菌できる温度、圧力及び時間で行えばよく、特に限定されないが、例えば、加圧下で、100℃~130℃、好ましくは約121.1℃で、0.5分間~30分間、好ましくは4分間~30分間で行い、加熱殺菌効果の指標であるFo値としては0.5以上、好ましくは4~30である。
【0045】
本発明の一態様の組成物が有するレトルト臭の抑制作用は、同量のしょうゆを含みつつも、フェネチルアセテートを含まない組成物をレトルト殺菌した場合に感じられるレトルト臭を完全若しくは部分的に抑制する作用をいう。本発明の一態様の組成物が有するレトルト臭の抑制作用は、後述する実施例に記載の方法により確認できる。
【0046】
本発明の一態様の組成物の使用量は、本発明の一態様の組成物が供すべき食材及び加工食品の種類などに応じて適宜設定でき、特に限定されない。例えば、本発明の一態様の組成物を肉豆腐を調理するために用いる場合は、豆腐 1丁(約350g)に対して、本発明の一態様の組成物 100g~200gで使用すればよい。
【0047】
本発明の一態様の組成物を製造する方法は特に限定されず、例えば、通常知られているとおりの各成分を混ぜ合わせて調味料を製造する方法などが挙げられ、具体的にはしょうゆ、しょうゆ及びフェネチルアセテート、並びに必要に応じてその他の成分を、室温下又は加温下で撹拌処理などの混合手段に供して混合することを含む方法などを挙げることができる。しょうゆ及びその他の成分は、細断すること、粉砕すること、膨潤すること、加熱することなどの処理に供して、前処理したものであってもよい。
【0048】
本発明の一態様の組成物は、例えば、所望の加工食品を得るために、野菜類、香辛野菜類、キノコ類、果実類、種実類、肉類、魚介類、海藻類、卵、食肉加工品、加工食品などの食材と混合して、常温にて、又は加熱して、調理するように使用できる。本発明の一態様の組成物とともに用いられる食材は、一口サイズに切断すること、焼くこと、炒めることなどの加熱することなどして、前処理したものであることが好ましい。本発明の一態様の組成物は、レトルト臭のみならず、加熱調理による加熱劣化臭も抑制し得ることから、加熱調理食品を得るために用いられることが好ましい。以下では、本発明の一態様の組成物を利用して得られる加工食品について、加熱調理食品を例にとって説明するが、加工食品は加熱調理食品に限定されない。
【0049】
本発明の一態様の組成物を利用して加熱調理する方法は特に限定されず、使用する食材の種類及び量、加熱調理食品の種類などに応じて適宜設定することができる。加熱調理としては、炒める、揚げる、焼く、蒸す、電子レンジを用いて加熱する、熱風により加熱する、熱水中で加熱するなどの通常の加熱調理方法が挙げられ、これらの加熱調理方法を適宜組合せて実施してもよい。加熱調理による加熱劣化臭は、より高温で加熱されることになる炒め調理において問題になる傾向があることから、本発明の一態様の組成物は炒め調理に使用されることが好ましい。
【0050】
本発明の一態様の組成物を利用して得られる加熱調理食品は特に限定されないが、例えば、肉豆腐、豚キムチ、鶏大根、肉じゃが、そぼろあんかけ、みぞれ炒め、みぞれ煮、オムレツ、肉野菜炒め、煮物、ゴーヤチャンプルなどが挙げられる。
【0051】
本発明の一態様の組成物の具体的な使用方法としては、例えば、加熱調理食品が肉豆腐である場合は、サラダ油などの油をひいて熱したフライパンに豆腐を加えて焼き色がつく程度に炒め、次いで所望の野菜を加えて少し炒めた後、又は野菜を加えずに、本発明の一態様の組成物を加えて、数十秒~数分間炒めることを含む方法などが挙げられる。
【0052】
本発明の一態様の加工食品は、本発明の一態様の組成物と、野菜類、香辛野菜類、キノコ類、果実類、種実類、肉類、魚介類、海藻類、卵、食肉加工品、加工食品などの食材とを原料として含む。本発明の一態様の加工食品は、本発明の一態様の組成物を用いて調理されたものであることにより、しょうゆに由来するレトルト臭が抑制された、風味が優れたものである。
【0053】
本発明の一態様の加工食品の製造方法は、本発明の一態様の組成物と食材とを混合することにより、加工食品を得る工程を含む。本発明の一態様の加熱調理食品の製造方法は、本発明の一態様の組成物と食材とを混合したものを、加熱調理することにより、加熱調理食品を得る工程を含む。加熱調理食品の製造方法では、本発明の一態様の組成物と混合する前に、食材をあらかじめ炒めるなどして加熱しておくことが好ましい。本発明の一態様の加熱調理食品の製造方法によって得られる加熱調理食品は、本発明の一態様の組成物による加熱調理食品に対する調味作用を発揮せしめるために、加熱調理後速やかに、又は室温下に数分間おいた後に喫食することが好ましい。
【0054】
加熱調理食品の製造方法の具体的態様としては、例えば、豆腐を用いた以下の方法などが挙げられるが、これに限定されない。すなわち、豆腐を一口大に切る。次いで、フライパンに適量の油を熱し、中火で豆腐を両面に焼き色がつくまで数分間炒め、さらに野菜類を加えて、中火で数分間炒める。次いで、本発明の一態様の組成物を加えて数十秒間~数分間炒めることにより、肉豆腐として加熱調理食品を得る。
【0055】
本発明の別の側面によれば、フェネチルアセテートがレトルト臭を抑制することに着眼して、0.5ppb以上1,000ppb未満のフェネチルアセテートを有効成分として含有する、しょうゆに由来するレトルト臭の抑制用組成物;しょうゆを含む調味用組成物に、0.5ppb以上1,000ppb未満のフェネチルアセテートを添加する工程を含む、しょうゆを含む調味用組成物のレトルト臭の抑制方法などが提供される。
【0056】
本発明の一態様の容器詰加工食品の具体例としては、上記した本発明の一態様の組成物を利用して得られる加熱調理食品を容器に詰めたものに加えて、その他の容器入りの惣菜、弁当などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
[2.肉類及びフェネチルアセテートを主として含む態様]
通常、肉類を含む食品及び調味料をレトルト殺菌に供すると、レトルト殺菌による肉加熱臭が生じる。しかし、肉類とともに、フェネチルアセテートを含むものは、レトルト殺菌による肉加熱臭が感じられにくくなる。したがって、本発明の一態様の組成物は、肉類とともに、フェネチルアセテートを含むことにより、レトルト殺菌による肉加熱臭を抑制するための容器詰調味用組成物として利用できる。また、本発明の一態様の組成物は、保存性を考慮すれば、殺菌処理などの腐敗防止処理に供されたものであることが好ましい。本発明の一態様の組成物は、食品及び調味料を殺菌する際に通常採用されている条件での殺菌処理に供された組成物であることが好ましく、例えば、100℃以下で加熱殺菌した組成物であってもよいが、レトルト殺菌に供された組成物であることが好ましい。なお、後述する実施例に記載があるとおり、85℃、5分間(Fo値0.00126)で加熱しても、フェネチルアセテートによる肉加熱臭抑制効果は発揮され得る。
【0058】
肉類は食用可能な肉であれば特に限定されないが、例えば、牛、豚、鶏、羊、山羊、馬、トナカイ、スイギュウ、ヤク、ラクダ、ロバ、ラバ、ウサギ、アヒル、七面鳥、ホロホロチョウ、ガチョウ、ウズラ、カワラバトなどの動物の肉が挙げられるが、日本国において常用されている牛や豚などの畜肉及び鶏などの家禽肉が好ましく、レトルト殺菌による肉加熱臭が発生し易い牛肉、豚肉および鶏肉がより好ましい。肉類の保存条件は特に限定されず、生肉、冷蔵肉、冷凍肉、乾燥肉など、いずれのものも用いることができる。また、肉類はこれらを炒める、焼く、煮るなどの加熱加工したものであってもよい。肉類の形態は特に限定されず、ひき肉、薄切り肉、塊肉など、いずれのものも用いることができる。肉類は、上記したものの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0059】
フェネチルアセテートは、通常知られているとおりの、上記式(I)で示される構造からなる化合物である。
【0060】
本発明の一態様の組成物は、肉類を含みつつも、フェネチルアセテートを含むことにより、レトルト殺菌による肉加熱臭が抑制されたものである。そこで、本発明の一態様の組成物におけるフェネチルアセテートの含有量は、レトルト殺菌による肉加熱臭を抑制し得る量であればよい。後述する実施例に記載があるとおり、本発明者らが調べたところによれば、肉類を含む調味液において、1ppb以上のフェネチルアセテートを含む場合、レトルト殺菌による肉加熱臭が抑制される。そこで、本発明の一態様の組成物におけるフェネチルアセテートの含有量の下限は、組成物の全体量に対して、1ppb以上である。
【0061】
肉類を含む調味用組成物において、1ppb以上のフェネチルアセテートを含めば、レトルト殺菌による肉加熱臭が抑制される。しかし、フェネチルアセテートはそれ自体でバラの香りを有し、香りの閾値は3000ppb~3800ppbであることから、フェネチルアセテートの含有量が多い場合、具体的には2,000ppb以上のフェネチルアセテートを含む場合、調味用組成物に対して食した時に感じる所望としない異質な香りが付与されて好ましくない。そこで、本発明の一態様の組成物におけるフェネチルアセテートの含有量の上限は、組成物の全体量に対して、1,000ppb未満である。
【0062】
上記のとおり、本発明の一態様の組成物におけるフェネチルアセテートの含有量は、1ppb以上1,000ppb未満であるが、レトルト殺菌による肉加熱臭をより抑制するためには、好ましくは2ppb以上1,000ppb未満であり、より好ましくは5ppb以上1,000ppb未満である。なお、「1ppb以上1,000ppb未満のフェネチルアセテート」とは、例えば、調味用組成物 100gに対して、100ng以上100,000ng(=100μg)未満のフェネチルアセテートを意味する。
【0063】
また、後述する実施例に記載があるとおり、肉類を含む調味液は、肉類に対してフェネチルアセテートを5ppb以上含む場合、レトルト殺菌による肉加熱臭が抑制される。そこで、本発明の一態様の組成物におけるフェネチルアセテートの含有量は、肉類に対して5ppb以上5,000ppb未満であることが好ましく、レトルト殺菌による肉加熱臭をより抑制するためには、肉類に対して10ppb以上5,000ppb未満であることがより好ましく、肉類に対して25ppb以上5,000ppb未満であることが更に好ましい。
【0064】
肉類の含有量は特に限定されず、所望の風味に合わせて適宜設定できる。本発明の一態様の組成物を使用して食材を調理して得られる加工食品にしっかりとした肉類の食感及び風味を付与したい場合は、肉類の含有量は、例えば、本発明の一態様の組成物の全体量に対して、好ましくは1.0質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上であり、更に好ましくは15質量%以上である。肉類の含有量の上限は特に限定されないが、例えば、本発明の一態様の組成物の全体量に対して、95質量%以下程度である。
【0065】
本発明の一態様の組成物は、肉類とともにしょうゆを含む場合であっても、フェネチルアセテートを含むことにより、レトルト殺菌による肉加熱臭を抑制することができる。しょうゆは様々な料理及び食品の調味に利用できることから、本発明の一態様の組成物は、しょうゆを含むことが好ましい。
【0066】
また、後述する実施例に記載があるとおり、しょうゆ及び肉類を含む調味液は、しょうゆに対してフェネチルアセテートを10ppb以上含む場合、レトルト殺菌による肉加熱臭が抑制される。そこで、本発明の一態様の組成物におけるフェネチルアセテートの含有量は、しょうゆに対して10ppb以上20,000ppb未満であることが好ましく、レトルト殺菌による肉加熱臭をより抑制するためには、しょうゆに対して20ppb以上20,000ppb未満であることがより好ましく、しょうゆに対して50ppb以上10,000ppb以下であることが更に好ましい。
【0067】
しょうゆの含有量は特に限定されず、所望の風味に合わせて適宜設定できる。本発明の一態様の組成物を使用して食材を調理して得られる加工食品にしっかりとしたしょうゆの風味を付与したい場合は、しょうゆの含有量は、例えば、本発明の一態様の組成物の全体量に対して、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは1.0質量%以上であり、更に好ましくは5質量%以上であり、なお更に好ましくは10質量%以上である。しょうゆの含有量の上限は特に限定されないが、例えば、本発明の一態様の組成物の全体量に対して、90質量%以下程度である。
【0068】
以下では、本発明の一態様の組成物の好適な態様である、肉類、しょうゆ及びフェネチルアセテートを含む組成物を例にとって説明する。
【0069】
本発明の一態様の組成物は、肉類、しょうゆ及びフェネチルアセテートに加えて、その他の成分を含むことができる。その他の成分は、上記のしょうゆ及びフェネチルアセテートを主として含む態様におけるその他の成分の記載を参照すればよい。ただし、食材のうち、肉類を除く。
【0070】
本発明の一態様の組成物が有するレトルト殺菌による肉加熱臭の抑制作用は、同量のしょうゆ及び肉類を含みつつも、フェネチルアセテートを含まない組成物をレトルト殺菌した場合に感じられるレトルト臭を完全若しくは部分的に抑制する作用をいう。本発明の一態様の組成物が有するレトルト殺菌による肉加熱臭の抑制作用は、後述する実施例に記載の方法により確認できる。
【0071】
本発明の一態様の組成物を製造する方法は特に限定されず、例えば、通常知られているとおりの各成分を混ぜ合わせて調味料を製造する方法などが挙げられ、具体的には肉類、しょうゆ及びフェネチルアセテート、並びに必要に応じてその他の成分を、室温下又は加温下で撹拌処理などの混合手段に供して混合することを含む方法などを挙げることができる。肉類及びその他の成分は、細断すること、粉砕すること、膨潤すること、加熱することなどの処理に供して、前処理したものであってもよい。
【0072】
本発明の一態様の加工食品は、本発明の一態様の組成物と、野菜類、香辛野菜類、キノコ類、果実類、種実類、魚介類、海藻類、卵、食肉加工品、加工食品などの食材とを原料として含む。本発明の一態様の加工食品は、本発明の一態様の組成物を用いて調理されたものであることにより、肉類及びしょうゆに由来するレトルト殺菌による肉加熱臭が抑制された、風味が優れたものである。
【0073】
本発明の別の側面によれば、フェネチルアセテートがレトルト殺菌による肉加熱臭を抑制することに着眼して、1ppb以上2,000ppb未満のフェネチルアセテートを有効成分として含有する、しょうゆ及び肉類に由来するレトルト殺菌による肉加熱臭の抑制用組成物;しょうゆ及び肉類を含む調味用組成物に、1ppb以上2,000ppb未満のフェネチルアセテートを添加する工程を含む、しょうゆ及び肉類を含む調味用組成物のレトルト殺菌による肉加熱臭の抑制方法などが提供される。
【0074】
肉類及びフェネチルアセテートを主として含む態様のその他の項目については、しょうゆ及びフェネチルアセテートを主として含む態様における各項目の記載を参照すればよい。
【0075】
[3.大豆たんぱく及びフェネチルアセテートを主として含む態様]
通常、大豆たんぱくを含む食品及び調味料をレトルト殺菌に供すると、レトルト殺菌による大豆ムレ臭が生じる。しかし、大豆たんぱくとともに、フェネチルアセテートを含むものは、レトルト殺菌による大豆ムレ臭が感じられにくくなる。したがって、本発明の一態様の組成物は、大豆たんぱくとともに、フェネチルアセテートを含むことにより、レトルト殺菌による大豆ムレ臭を抑制するための組成物として利用できる。また、本発明の一態様の組成物は、保存性を考慮すれば、殺菌処理などの腐敗防止処理に供されたものであることが好ましい。本発明の一態様の組成物は、食品及び調味料を殺菌する際に通常採用されている条件での殺菌処理に供された組成物であることが好ましく、例えば、100℃以下で加熱殺菌した組成物であってもよいが、レトルト殺菌に供された組成物であることが好ましい。なお、後述する実施例に記載があるとおり、85℃、5分間(Fo値0.00126)で加熱しても、フェネチルアセテートによる大豆ムレ臭抑制効果は発揮され得る。
【0076】
大豆たんぱくは大豆に由来するタンパク質であれば特に限定されないが、例えば、大豆から大豆油を抽出した後の脱脂大豆を濃縮処理及び精製処理などの処理に供して製造されるものなどが挙げられる。また、豆乳及びその濃縮物は、タンパク質以外の成分も含まれるが、これらを精製などせずに、大豆たんぱくとして用いてもよい。
【0077】
大豆たんぱくの形態は特に限定されず、例えば、粒状、粉末状、塊状、フレーク状、棒状、サイコロ状、液体状などが挙げられるが、食品及び調味料としてよく用いられる粒状及び粉状であることが好ましい。大豆たんぱくの大きさは限定されず、例えば長径約5mm~約20mmである。大豆たんぱくは、市販されているものを用いてもよく、公知の方法により製造されたものを用いてもよい。大豆たんぱくとして市販されているのものとして、「ニューソイミーF 2010」、「ニューソイミーS10」、「ニューソイミーS11」、「ニューソイミーS20F」、「ニューソイミーS21F」、「ニューソイミーS22F」、「ニューソイミーS31B」、「ニューソイミーS50」、「ニューコミテックスA-301」、「ニューコミテックスA-302」、「ニューコミテックスA-318」、「ニューコミテックスA-320」(それぞれ、日清オイリオグループ社製)、「ニューフジニック58」、「ニューフジニック59」、「ニューフジニックAR」、「ニューフジニック61N」、「ニューフジニックBSN」(それぞれ、不二製油社製)などが挙げられる。例えば、粒状大豆たんぱくは、大豆の抽出液を組織化及び粒状化して乾燥組織状にすることにより製造できる。また、粉状大豆たんぱくは、大豆の抽出液を分離及び殺菌して噴霧乾燥して粉状にすることにより製造することができる。大豆たんぱくは、上記したものの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。なお、粒状及び粉状の大豆たんぱくは、揚げ、がんもどき、ソーセージ、かまぼこの安定剤として、及び肉類の代替物としてハンバーグ、ミンチボール、餃子、焼売などの調理に使用されている。
【0078】
フェネチルアセテートは、通常知られているとおりの、上記式(I)で示される構造からなる化合物である。
【0079】
本発明の一態様の組成物は、大豆たんぱくを含みつつも、フェネチルアセテートを含むことにより、レトルト殺菌による大豆ムレ臭が抑制されたものである。そこで、本発明の一態様の組成物におけるフェネチルアセテートの含有量は、レトルト殺菌による大豆ムレ臭を抑制し得る量であればよい。後述する実施例に記載があるとおり、本発明者らが調べたところによれば、大豆たんぱくを含む調味液において、1ppb以上のフェネチルアセテートを含む場合、レトルト殺菌による大豆ムレ臭が抑制される。そこで、本発明の一態様の組成物におけるフェネチルアセテートの含有量の下限は、組成物の全体量に対して、1ppb以上である。
【0080】
大豆たんぱくを含む調味用組成物において、1ppb以上のフェネチルアセテートを含めば、レトルト殺菌による大豆ムレ臭が抑制される。しかし、フェネチルアセテートはそれ自体でバラの香りを有し、香りの閾値は3000ppb~3800ppbであることから、フェネチルアセテートの含有量が多い場合、具体的には1,000ppb以上のフェネチルアセテートを含む場合、調味用組成物に対して食した時に感じる所望としない異質な香りが付与されて好ましくない。そこで、本発明の一態様の組成物におけるフェネチルアセテートの含有量の上限は、組成物の全体量に対して、1,000ppb未満である。
【0081】
上記のとおり、本発明の一態様の組成物におけるフェネチルアセテートの含有量は、1ppb以上1,000ppb未満であるが、レトルト殺菌による大豆ムレ臭をより抑制するためには、好ましくは2ppb以上1,000ppb未満であり、より好ましくは5ppb以上500ppb以下である。なお、「1ppb以上1,000ppb未満のフェネチルアセテート」とは、例えば、調味用組成物 100gに対して、100ng以上100,000ng(=100μg)未満のフェネチルアセテートを意味する。
【0082】
また、後述する実施例に記載があるとおり、大豆たんぱくを含む調味液は、大豆たんぱくに対してフェネチルアセテートを10ppb以上含む場合、レトルト殺菌による大豆ムレ臭が抑制される。そこで、本発明の一態様の組成物におけるフェネチルアセテートの含有量は、大豆たんぱくに対して10ppb以上10,000ppb未満であることが好ましく、レトルト殺菌による大豆ムレ臭をより抑制するためには、大豆たんぱくに対して20ppb以上10,000ppb未満であることがより好ましく、大豆たんぱくに対して50ppb以上5,000ppb以下であることが更に好ましい。
【0083】
大豆たんぱくの含有量は特に限定されず、所望の風味に合わせて適宜設定できる。本発明の一態様の組成物を使用して食材を調理して得られる加工食品にしっかりとした肉様の食感を付与したい場合は、大豆たんぱくの含有量は、例えば、本発明の一態様の組成物の全体量に対して、好ましくは1.0質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上であり、更に好ましくは10質量%以上である。大豆たんぱくの含有量の上限は特に限定されないが、例えば、本発明の一態様の組成物の全体量に対して、95質量%以下程度である。
【0084】
本発明の一態様の組成物は、大豆たんぱくとともにしょうゆを含む場合であっても、フェネチルアセテートを含むことにより、レトルト殺菌による大豆ムレ臭を抑制することができる。しょうゆは様々な料理及び食品の調味に利用できることから、本発明の一態様の組成物は、しょうゆを含むことが好ましい。
【0085】
また、後述する実施例に記載があるとおり、しょうゆ及び大豆たんぱくを含む調味液は、しょうゆに対してフェネチルアセテートを10ppb以上含む場合、レトルト殺菌による大豆ムレ臭が抑制される。そこで、本発明の一態様の組成物におけるフェネチルアセテートの含有量は、しょうゆに対して10ppb以上10,000ppb未満であることが好ましく、レトルト殺菌による大豆ムレ臭をより抑制するためには、しょうゆに対して20ppb以上10,000ppb未満であることがより好ましく、しょうゆに対して50ppb以上5,000ppb以下であることが更に好ましい。
【0086】
しょうゆの含有量は特に限定されず、所望の風味に合わせて適宜設定できる。本発明の一態様の組成物を使用して食材を調理して得られる加工食品にしっかりとしたしょうゆの風味を付与したい場合は、しょうゆの含有量は、例えば、本発明の一態様の組成物の全体量に対して、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは1.0質量%以上であり、更に好ましくは5質量%以上であり、なお更に好ましくは10質量%以上である。しょうゆの含有量の上限は特に限定されないが、例えば、本発明の一態様の組成物の全体量に対して、90質量%以下程度である。
【0087】
以下では、本発明の一態様の組成物の好適な態様である、大豆たんぱく、しょうゆ及びフェネチルアセテートを含む組成物を例にとって説明する。
【0088】
本発明の一態様の組成物は、大豆たんぱく、しょうゆ及びフェネチルアセテートに加えて、その他の成分を含むことができる。その他の成分は、上記のしょうゆ及びフェネチルアセテートを主として含む態様におけるその他の成分の記載を参照すればよい。ただし、食材のうち、大豆たんぱくを除く。
【0089】
本発明の一態様の組成物が有するレトルト殺菌による大豆ムレ臭の抑制作用は、同量のしょうゆ及び大豆たんぱくを含みつつも、フェネチルアセテートを含まない組成物をレトルト殺菌した場合に感じられるレトルト臭を完全若しくは部分的に抑制する作用をいう。本発明の一態様の組成物が有するレトルト殺菌による大豆ムレ臭の抑制作用は、後述する実施例に記載の方法により確認できる。
【0090】
本発明の一態様の組成物を製造する方法は特に限定されず、例えば、通常知られているとおりの各成分を混ぜ合わせて調味料を製造する方法などが挙げられ、具体的には大豆たんぱく、しょうゆ及びフェネチルアセテート、並びに必要に応じてその他の成分を、室温下又は加温下で撹拌処理などの混合手段に供して混合することを含む方法などを挙げることができる。大豆たんぱく及びその他の成分は、細断すること、粉砕すること、膨潤すること、加熱することなどの処理に供して、前処理したものであってもよい。
【0091】
本発明の一態様の組成物を利用して得られる加熱調理食品は特に限定されないが、例えば、大豆たんぱくを肉類の代わりに用いて調理される肉豆腐、豚キムチ、鶏大根、肉じゃが、そぼろあんかけ、みぞれ炒め、みぞれ煮、オムレツ、肉野菜炒め、煮物、ゴーヤチャンプルなどが挙げられる。
【0092】
本発明の一態様の加工食品は、本発明の一態様の組成物と、野菜類、香辛野菜類、キノコ類、果実類、種実類、肉類、魚介類、海藻類、卵、食肉加工品、加工食品などの食材とを原料として含む。本発明の一態様の加工食品は、本発明の一態様の組成物を用いて調理されたものであることにより、大豆たんぱく及びしょうゆに由来するレトルト殺菌による大豆ムレ臭が抑制された、風味が優れたものである。
【0093】
本発明の別の側面によれば、フェネチルアセテートがレトルト殺菌による大豆ムレ臭を抑制することに着眼して、1ppb以上1,000ppb未満のフェネチルアセテートを有効成分として含有する、しょうゆ及び大豆たんぱくに由来するレトルト殺菌による大豆ムレ臭の抑制用組成物;しょうゆ及び大豆たんぱくを含む調味用組成物に、1ppb以上1,000ppb未満のフェネチルアセテートを添加する工程を含む、しょうゆ及び大豆たんぱくを含む調味用組成物のレトルト殺菌による大豆ムレ臭の抑制方法などが提供される。
【0094】
大豆たんぱく及びフェネチルアセテートを主として含む態様のその他の項目については、しょうゆ及びフェネチルアセテートを主として含む態様における各項目の記載を参照すればよい。
【0095】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例1】
【0096】
例1 フェネチルアセテートによるレトルト臭抑制評価(1)
[1-1.液体調味料の調製]
100ml容メスフラスコに純度98%フェネチルアセテート(シグマアルドリッチ社) 1gを入れ、95%エタノールでメスアップして、フェネチルアセテート原液を調製した(1g/100ml)。次いで、各試験調味料に添加するフェネチルアセテート溶液を100μlに統一し、かつしょうゆに対するフェネチルアセテート含有量が所定の濃度になるように、フェネチルアセテート原液を水で希釈して、各フェネチルアセテート溶液を調製した。
【0097】
下記表1Aに示す配合量で、しょうゆ及びフェネチルアセテート溶液を混ぜ合わせて、各試験調味液を調製した。なお、しょうゆはフェネチルアセテートが検出されなかった「キッコーマン 特選丸大豆しょうゆ」(HEMF 30ppm以上;キッコーマン社)を用いた。
【0098】
調製した試験調味液 100gをアルミパウチに充填した。これをレトルト殺菌(121.1℃、10分間(Fo値10))に供した。
【0099】
【表1A】
【0100】
[1-2.官能評価方法]
レトルト殺菌に供した試験調味液1~9について、レトルト臭の嗅ぎ分けに秀でたパネル(A~Cの3名)に常温で調味液の状態で匙にとって喫食させて、下記のとおりに喫食時に口腔内から鼻へぬけるレトルト臭(レトルトパウチに封入したしょうゆを加圧加熱殺菌処理に供した際に顕著に生じる加熱臭や酸化臭などの不快臭)の強度を5段階で評価した。この際、評価基準として、レトルト殺菌に供した試験調味液1のレトルト臭を1とし、85℃に達温して加熱処理した後の試験調味液1のレトルト臭を5として提示した。なお、官能試験を実施するにあたり、該パネル(訓練期間:10~20年)に対して、レトルト臭の討議と評価訓練を行った。具体的には、レトルト臭の特性に対しては、パネル間で討議して、すり合わせを行うことで、各パネリストが共通認識を持つようにした。また、官能試験の妥当性を担保するために、いくつかの試験調味液を用いて、該パネルに評価訓練をさせ、各パネリストにおける評価の再現性を確認した。これらを行った後、該パネルを用いて、各試験調味液についてレトルト臭の評価を行った。
1:非常に強く感じる
2:感じる
3:やや感じる
4:ほぼ感じない
5:感じない
【0101】
[1-3.官能評価結果]
フェネチルアセテートを含む試験調味液1~9について、レトルト殺菌後に官能評価を実施した。結果を表2Aに示す。
【0102】
【表2A】
【0103】
表2Aに示すように、フェネチルアセテートを含有していない試験調味液1は、レトルト臭を非常に強く感じた。しかし、フェネチルアセテートを含むことにより、濃度依存的にレトルト臭を抑制できることがわかった。表2Aに記載の結果によれば、フェネチルアセテートを5ppb以上含むことによりレトルト臭を抑制でき、20ppb以上含むことによりさらにレトルト臭を抑制でき、フェネチルアセテートを50ppb以上含むことにより顕著にレトルト臭を抑制できることがわかった。
【0104】
ただし、フェネチルアセテートは、それ自体でバラの香りを有する。フェネチルアセテートを1,000ppbで含む試験調味液9を用いた場合、レトルト臭を抑制し得るものの、若干の異質な風味が感じられた。そこで、フェネチルアセテートの含有量は1,000ppb未満が好ましいことがわかった。
【0105】
以上の結果より、レトルト臭を抑制しつつ、フェネチルアセテートの香りに由来する異質な風味を液体調味料に付与しないためには、しょうゆを含むレトルト液体調味料において、フェネチルアセテートの濃度は、5ppb以上1,000ppb未満の範囲内にあることが好ましいことがわかった。
【0106】
例2 フェネチルアセテートによるレトルト臭抑制評価(2)
[2-1.液体調味料の調製]
例1と同様にして、下記表3Aに示す配合量で、しょうゆ、砂糖、昆布エキス及びフェネチルアセテート溶液を混ぜ合わせて、全体で100gになるように水で調整することにより各試験調味液を調製し、レトルト殺菌(121.1℃、10分間(Fo値10))した。なお、昆布エキスは、「コブコン日高P」(キッコーマン食品社)を用いた。
【0107】
【表3A】
【0108】
[2-2.官能評価結果]
例1と同様にして、試験調味液10~12について、レトルト殺菌後に官能評価を実施した。結果を表4Aに示す。
【0109】
【表4A】
【0110】
表4Aに示すように、しょうゆに加えて、砂糖、昆布エキス、水といったその他の調味料成分を含む場合でも、フェネチルアセテートを含むことにより、レトルト臭を抑制できることがわかった。
【0111】
また、調味液におけるフェネチルアセテートの含有量は、しょうゆの含有量に応じて、小さくすることができることがわかった。例1の結果を踏まえれば、調味液全体に対するフェネチルアセテートの含有量は、0.5ppb以上であればよいことがわかった。
【0112】
例3 試験調味液を用いた加熱調理試験
[3-1.液体調味料の調製]
例1と同様にして、下記表5Aに示す配合量で、牛ひき肉、砂糖、水、しょうゆ及びフェネチルアセテート溶液を混ぜ合わせて、各試験調味液を調製した。ただし、試験調味液13は全ての成分を混ぜ合わせてアルミパウチに充填してレトルト殺菌((121.1℃、10分間(Fo値10))に供した。試験調味液14~17は牛ひき肉、砂糖及び水からなる具惣菜と、しょうゆ及びフェネチルアセテート溶液とを2個のアルミパウチに別々に充填した。試験調味液17のしょうゆ及びフェネチルアセテート溶液を充填したアルミパウチをノンレト殺菌(85℃、5分間(Fo値0.00126))に供し、その他の試験調味液14~17のアルミパウチはレトルト殺菌に供した。
【0113】
【表5A】
【0114】
[3-2.液体調味料を用いた加熱調理]
試験調味液13~17を用いて、肉豆腐を調理した。具体的には、豆腐を、水を切った上で一口大の大きさに切った。次いでサラダ油 小さじ1をひいたフライパンを熱し、豆腐の両面を中火で3~4分焼いた。このフライパンの中に、試験調味液を加え、中火で1分間炒め合わせて、肉豆腐を得た。
【0115】
[3-3.官能評価方法]
得られた肉豆腐について、上記1-2と同様に肉豆腐を喫食した際のレトルト臭の強度を5段階で評価した。この際、評価基準として、試験調味液17を用いて得られた肉豆腐のレトルト臭を5とし、試験調味液16を用いて得られた肉豆腐のレトルト臭を1として提示した。なお、肉豆腐のレトルト臭の評価にあたり、その特性や強度については、例1と同様にして、事前に各パネル間ですり合わせを行い、評価の再現性を確認した上で実施した。
【0116】
[3-4.官能評価結果]
試験調味液13~17を用いて加熱調理した肉豆腐の官能評価を実施した。結果を表6Aに示す。
【0117】
【表6A】
【0118】
表6Aに示すように、しょうゆを含みつつ、フェネチルアセテートを含まないアルミパウチをレトルト殺菌に供したものを用いる試験調味液13及び16を用いた場合、得られる肉豆腐はレトルト臭により肉豆腐としての品質が劣るものであった。それに対して、しょうゆとともにフェネチルアセテートを含むアルミパウチをレトルト殺菌に供したものを用いる試験調味液14及び15を用いて得られた肉豆腐は、レトルト臭は感じられず、苦味がなく、肉本来の香りが感じられ、すっきりとした醤油感が相俟って美味しく感じられた。
【0119】
したがって、レトルト臭が抑制された液体調味料を使用して得られる加熱調理品においてもレトルト臭は感じられず調理品としての香味に優れ、品質が良好になることがわかった。
【0120】
例4 フェネチルアセテートによるレトルト臭抑制評価(3)
[4-1.液体調味料の調製]
例1と同様にして、下記表7Aに示す配合量で、しょうゆ及びフェネチルアセテート溶液を混ぜ合わせて、各試験調味液を調製した。得られた試験調味液を、下記表8Aに示すとおりの温度、時間及びFo値である6種類の加熱殺菌条件により殺菌した。
【0121】
【表7A】
【0122】
[4-2.官能評価結果]
例1と同様にして、試験調味液18~24について、加熱殺菌後に官能評価を実施した。結果を表8Aに示す。
【0123】
【表8A】
【0124】
表8Aに示すように、加熱殺菌条件(1)及び(4)~(6)のレトルト殺菌条件において、フェネチルアセテートを含むことにより、レトルト臭を抑制できることがわかった。また、加熱殺菌条件(2)及び(3)のノンレト殺菌条件においても、フェネチルアセテートを含むことにより、加熱劣化臭を抑制できることがわかった。結果として、フェネチルアセテートによるしょうゆの加熱劣化臭の抑制作用は、Fo値が0.00126以上である加熱殺菌条件に供したしょうゆにおいて認められることがわかった。
【0125】
ただし、Fo値が30である加熱殺菌条件では、しょうゆの焦げ臭がやや感じられた。また、フェネチルアセテートの含有量が1,000ppbである試験調味液24は、異質な香りがやや感じられ、甘さが強く出ている印象を受けた。
【実施例2】
【0126】
例1 フェネチルアセテートによる肉加熱臭抑制評価(1)
[1-1.液体調味料の調製]
100ml容メスフラスコに純度98%フェネチルアセテート(シグマアルドリッチ社) 1gを入れ、95%エタノールでメスアップして、フェネチルアセテート原液を調製した(1g/100ml)。次いで、各試験調味料に添加するフェネチルアセテート溶液を100μlに統一し、かつ各試験調味料に対するフェネチルアセテート含有量が所定の濃度になるように、フェネチルアセテート原液を水で希釈して、各フェネチルアセテート溶液を調製した。
【0127】
下記表1Bに示す配合量で、牛ひき肉、しょうゆ、砂糖及びフェネチルアセテート溶液を混ぜ合わせて、全体で100gになるように水で調整することにより各試験調味液を調製した。なお、しょうゆは、フェネチルアセテートが検出されなかった「キッコーマン 特選丸大豆しょうゆ」(HEMF 30ppm以上;キッコーマン社)を用いた。
【0128】
調製した試験調味液 100gをアルミパウチに充填した。これをそれぞれ2個用意し、一方はレトルト殺菌(121.1℃、10分間(Fo値10))に供し、他方はノンレト殺菌(85℃、5分間(Fo値0.00126))に供した。
【0129】
【表1B】
【0130】
[1-2.官能評価方法]
レトルト殺菌又はノンレト殺菌に供した試験調味液1~3について、肉加熱臭の嗅ぎ分けに秀でたパネル(A~Cの3名)に常温で調味液の状態で匙にとって喫食させて、下記のとおりに喫食時に口腔内から鼻へぬける肉加熱臭(肉を加熱した際に生じる劣化臭)の強度を5段階で評価した。この際、評価基準として、レトルト殺菌に供した試験調味液1の肉加熱臭を1とし、85℃に達温して殺菌した後の試験調味液1の肉加熱臭を5として提示した。なお、官能試験を実施するにあたり、該パネル(訓練期間:10~20年)に対して、肉加熱臭の討議と評価訓練を行った。具体的には、肉加熱臭の特性に対しては、パネル間で討議して、すり合わせを行うことで、各パネリストが共通認識を持つようにした。また、官能試験の妥当性を担保するために、いくつかの試験調味液を用いて、該パネルに評価訓練をさせ、各パネリストにおける評価の再現性を確認した。これらを行った後、該パネルを用いて、各試験調味液について肉加熱臭の評価を行った。
1:非常に強く感じる
2:感じる
3:やや感じる
4:ほぼ感じない
5:感じない
【0131】
[1-3.官能評価結果]
フェネチルアセテートを含む試験調味液1~3について、レトルト殺菌後又はノンレト殺菌後に官能評価を実施した。結果を表2Bに示す。
【0132】
【表2B】
【0133】
表2Bに示すように、フェネチルアセテートを含有していない試験調味液1は、ノンレト殺菌でやや感じていた肉加熱臭が、レトルト殺菌により非常に強く感じた。しかし、フェネチルアセテートを含むことにより肉加熱臭が抑制された。
【0134】
以上の結果より、肉類を含む調味液に、フェネチルアセテートを加えることにより、レトルト殺菌により発生し得る肉加熱臭を抑制できることがわかった。
【0135】
例2 フェネチルアセテートによる肉加熱臭抑制評価(2)
[2-1.液体調味料の調製]
例1と同様にして、下記表3Bに示す配合量で、牛ひき肉、しょうゆ、砂糖、昆布エキス、水及びフェネチルアセテート溶液を混ぜ合わせて、各試験調味液を調製し、レトルト殺菌(121.1℃、10分間(Fo値10))した。なお、昆布エキスは、「コブコン日高P」(キッコーマン食品社)を用いた。
【0136】
【表3B】
【0137】
[2-2.官能評価結果]
例1と同様にして、フェネチルアセテートの配合量を変えた試験調味液4~15について、レトルト殺菌後に官能評価を実施した。結果を表4Bに示す。
【0138】
【表4B】
【0139】
表4Bに示すように、フェネチルアセテートを含むことにより、濃度依存的にレトルト殺菌により生じる肉加熱臭を抑制できることがわかった。表4Bに記載の結果によれば、フェネチルアセテートを1ppb以上含むことによりレトルト殺菌による肉加熱臭を抑制でき、さらにフェネチルアセテートを5ppb以上含むことにより顕著にレトルト殺菌による肉加熱臭を抑制できることがわかった。
【0140】
ただし、フェネチルアセテートは、それ自体でバラの香りを有する。フェネチルアセテートを2,000ppbで含む試験調味液15を用いた場合、レトルト殺菌による肉加熱臭を抑制し得るものの、若干の異質な風味が感じられた。そこで、フェネチルアセテートの含有量は2,000ppb未満が好ましいことがわかった。
【0141】
以上の結果より、レトルト殺菌による肉加熱臭を抑制しつつ、フェネチルアセテートの香りに由来する異質な風味を液体調味料に付与しないためには、肉類を含む、レトルト液体調味料において、フェネチルアセテートの濃度は、1ppb以上2,000ppb未満の範囲内にあることが好ましいことがわかった。
【0142】
例3 試験調味液を用いた加熱調理試験
[3-1.液体調味料の調製]
例1と同様にして、下記表5Bに示す配合量で、牛ひき肉、砂糖、水、しょうゆ及びフェネチルアセテート溶液を混ぜ合わせて、各試験調味液を調製し、レトルト殺菌した。ただし、試験調味液19及び20については、しょうゆ 10.0gを他の食材と混ぜずに、単独でアルミパウチに充填した。また、しょうゆを充填したアルミパウチについて、試験調味液19はレトルト殺菌(121.1℃10分間(Fo値10))に供し、試験調味液20はノンレト殺菌(85℃、5分間(Fo値0.00126))に供した。
【0143】
【表5B】
【0144】
[3-2.液体調味料を用いた加熱調理]
試験調味液16~20を用いて、肉豆腐を調理した。具体的には、豆腐を、水を切った上で一口大の大きさに切った。次いでサラダ油 小さじ1をひいたフライパンを熱し、豆腐の両面を中火で3~4分焼いた。このフライパンの中に、試験調味液を加え、中火で1分間炒め合わせて、肉豆腐を得た。
【0145】
[3-3.官能評価方法]
得られた肉豆腐について、上記1-2と同様に肉豆腐を喫食した際の肉加熱臭の強度を5段階で評価した。この際、評価基準として、試験調味液20を用いて得られた肉豆腐の肉加熱臭を5とし、試験調味液19を用いて得られた肉豆腐の肉加熱臭を1として提示した。
【0146】
[3-4.官能評価結果]
試験調味液16~20を用いて加熱調理した肉豆腐の肉加熱臭の官能評価を実施した。結果を表6Bに示す。
【0147】
【表6B】
【0148】
表6Bに示すように、しょうゆ及び肉類を含有し、レトルト殺菌に供した試験調味液16を用いて得られる肉豆腐は肉加熱劣化臭により肉豆腐としての品質が劣るものであった。それに対して、フェネチルアセテートを含む試験調味液17及び18を用いて得られる肉豆腐は、肉加熱臭が感じられず、肉本来の香りが感じられ、苦味がなく、すっきりとした醤油感が相俟って美味しく感じられた。
【0149】
したがって、肉加熱臭が抑制された液体調味料を使用して得られる加熱調理品においても肉加熱臭は感じられず調理品としての香味に優れ、品質が良好になることがわかった。
【0150】
例4 フェネチルアセテートによる肉加熱臭抑制評価(3)
例1と同様にして、下記表7Bに示す配合量で、牛ひき肉、しょうゆ、砂糖、昆布エキス、水及びフェネチルアセテート溶液を混ぜ合わせて、各試験調味液を調製し、レトルト殺菌(121.1℃、10分間(Fo値10))した。
【0151】
【表7B】
【0152】
例1と同様にして、牛ひき肉又はしょうゆの配合量を変えた試験調味液21~25について、レトルト殺菌後に官能評価を実施した。ただし、試験調味液6の肉加熱臭と対比することによって評価した。その結果、パネリストA~Cのいずれも、試験調味液21~25の肉加熱臭は試験調味液6と同等であると評価した。
【0153】
例5 フェネチルアセテートによる肉加熱臭抑制評価(4)
[5-1.液体調味料の調製]
例1と同様にして、下記表8Bに示す配合量で、豚ひき肉(挽目サイズ 5mm)、しょうゆ、砂糖、昆布エキス、水及びフェネチルアセテート溶液を混ぜ合わせて、各試験調味液を調製した。得られた試験調味液を、下記表9Bに示すとおりの温度、時間及びFo値である2種類の加熱殺菌条件によりレトルト殺菌した。
【0154】
【表8B】
【0155】
[5-2.官能評価結果]
例1と同様にして、フェネチルアセテートの配合量を変えた試験調味液26~30について、レトルト殺菌後に官能評価を実施した。結果を表9Bに示す。
【0156】
【表9B】
【0157】
表9Bに示すように、フェネチルアセテートを含むことにより、濃度依存的にレトルト殺菌により生じる肉加熱臭を抑制できることがわかった。表9Bに記載の結果によれば、フェネチルアセテートを1ppb以上含むことによりレトルト殺菌による肉加熱臭を抑制でき、さらにフェネチルアセテートを20ppb以上含むことにより顕著にレトルト殺菌による肉加熱臭を抑制できることがわかった。
【0158】
例6 フェネチルアセテートによる肉加熱臭抑制評価(5)
[6-1.液体調味料の調製]
例1と同様にして、下記表10Bに示す配合量で、鶏ひき肉(挽目サイズ 9mm)、しょうゆ、砂糖、昆布エキス、水及びフェネチルアセテート溶液を混ぜ合わせて、各試験調味液を調製した。得られた試験調味液を、下記表10Bに示すとおりの温度、時間及びFo値である2種類の加熱殺菌条件によりレトルト殺菌した。
【0159】
【表10B】
【0160】
[6-2.官能評価結果]
例1と同様にして、フェネチルアセテートの配合量を変えた試験調味液31~35について、レトルト殺菌後に官能評価を実施した。結果を表11Bに示す。
【0161】
【表11B】
【0162】
表11Bに示すように、フェネチルアセテートを含むことにより、レトルト殺菌条件に依らずに、濃度依存的にレトルト殺菌により生じる肉加熱臭を抑制できることがわかった。表11Bに記載の結果によれば、フェネチルアセテートを1ppb以上含むことによりレトルト殺菌による肉加熱臭を抑制でき、さらにフェネチルアセテートを20ppb以上含むことにより顕著にレトルト殺菌による肉加熱臭を抑制できることがわかった。
【実施例3】
【0163】
例1 フェネチルアセテートによる大豆ムレ臭抑制評価(1)
[1-1.液体調味料の調製]
100ml容メスフラスコに純度98%フェネチルアセテート(シグマアルドリッチ社) 1gを入れ、95%エタノールでメスアップして、フェネチルアセテート原液を調製した(1g/100ml)。次いで、各試験調味料に添加するフェネチルアセテート溶液を100μlに統一し、かつ各試験調味料に対するフェネチルアセテート含有量が所定の濃度になるように、フェネチルアセテート原液を水で希釈して、各フェネチルアセテート溶液を調製した。
【0164】
下記表1Cに示す配合量で、粒状大豆たんぱく、しょうゆ、砂糖及びフェネチルアセテート溶液を混ぜ合わせて、全体で100gになるように水で調整することにより各試験調味液を調製した。なお、粒状大豆たんぱくは「ニューソイミーF 2010」(日清オイリオグループ社製)を用い、しょうゆはフェネチルアセテートが検出されなかった「キッコーマン 特選丸大豆しょうゆ」(HEMF 30ppm以上;キッコーマン社)を用いた。
【0165】
調製した試験調味液 100gをアルミパウチに充填した。これをそれぞれ2個用意し、一方はレトルト殺菌(121.1℃、10分間(Fo値10))に供し、他方はノンレト殺菌(85℃、5分間(Fo値0.00126))に供した。
【0166】
【表1C】
【0167】
[1-2.官能評価方法]
レトルト殺菌又はノンレト殺菌に供した試験調味液1~3について、大豆ムレ臭の嗅ぎ分けに秀でたパネル(A~Cの3名)に常温で調味液の状態で匙にとって喫食させて、下記のとおりに喫食時に口腔内から鼻へぬける大豆ムレ臭(大豆たんぱくを加熱した際に生じる劣化臭)の強度を5段階で評価した。この際、評価基準として、レトルト殺菌に供した試験調味液1の大豆ムレ臭を1とし、85℃に達温して殺菌した試験調味液1の大豆ムレ臭を5として提示した。なお、官能試験を実施するにあたり、該パネル(訓練期間:10~20年)に対して、肉加熱臭の討議と評価訓練を行った。具体的には、肉加熱臭の特性に対しては、パネル間で討議して、すり合わせを行うことで、各パネリストが共通認識を持つようにした。また、官能試験の妥当性を担保するために、いくつかの試験調味液を用いて、該パネルに評価訓練をさせ、各パネリストにおける評価の再現性を確認した。これらを行った後、該パネルを用いて、各試験調味液について肉加熱臭の評価を行った。
1:非常に強く感じる
2:感じる
3:やや感じる
4:ほぼ感じない
5:感じない
【0168】
[1-3.官能評価結果]
フェネチルアセテートを含む試験調味液1~3について、レトルト殺菌後又はノンレト殺菌後に官能評価を実施した。結果を表2Cに示す。
【0169】
【表2C】
【0170】
表2Cに示すように、フェネチルアセテートを含有していない試験調味液1は、ノンレト殺菌で感じていた大豆ムレ臭が、レトルト殺菌により非常に強く感じた。しかし、フェネチルアセテートを含むことにより大豆ムレ臭が抑制された。
【0171】
以上の結果より、大豆たんぱくを含む調味液に、フェネチルアセテートを加えることにより、レトルト殺菌により発生し得る大豆ムレ臭を抑制できることがわかった。
【0172】
例2 フェネチルアセテートによる大豆ムレ臭抑制評価(2)
[2-1.液体調味料の調製]
例1と同様にして、下記表3Cに示す配合量で、粒状大豆たんぱく、しょうゆ、砂糖、昆布エキス、水及びフェネチルアセテート溶液を混ぜ合わせて、各試験調味液を調製し、レトルト殺菌(121.1℃、10分間(Fo値10))した。なお、昆布エキスは、「コブコン日高P」(キッコーマン食品社)を用いた。
【0173】
【表3C】
【0174】
[2-2.官能評価結果]
例1と同様にして、フェネチルアセテートの配合量を変えた試験調味液4~14について、レトルト殺菌後に官能評価を実施した。結果を表4Cに示す。
【0175】
【表4C】
【0176】
表4Cに示すように、フェネチルアセテートを含むことにより、濃度依存的にレトルト殺菌により生じる大豆ムレ臭を抑制できることがわかった。表4Cに記載の結果によれば、フェネチルアセテートを1ppb以上含むことによりレトルト殺菌による大豆ムレ臭を抑制でき、さらにフェネチルアセテートを5ppb以上含むことにより顕著にレトルト殺菌による大豆ムレ臭を抑制できることがわかった。なお、試験調味液6について、大豆たんぱくをニューソイミーF 2010からニューフジニック59(不二製油社製)に替えた試験を行ったところ、同様の大豆ムレ臭抑制効果が認められた。
【0177】
ただし、フェネチルアセテートは、それ自体でバラの香りを有する。フェネチルアセテートを1,000ppbで含む試験調味液14を用いた場合、レトルト殺菌による大豆ムレ臭を抑制し得るものの、若干の異質な風味が感じられた。そこで、フェネチルアセテートの含有量は1,000ppb未満が好ましいことがわかった。
【0178】
以上の結果より、レトルト殺菌による大豆ムレ臭を抑制しつつ、フェネチルアセテートの香りに由来する異質な風味を液体調味料に付与しないためには、大豆たんぱくを含む、レトルト液体調味料において、フェネチルアセテートの濃度は、1ppb以上1,000ppb未満の範囲内にあることが好ましいことがわかった。
【0179】
例3 試験調味液を用いた加熱調理試験
[3-1.液体調味料の調製]
例1と同様にして、下記表5Cに示す配合量で、大豆たんぱく、砂糖、水、しょうゆ及びフェネチルアセテート溶液を混ぜ合わせて、各試験調味液を調製し、レトルト殺菌した。ただし、試験調味液18及び19については、しょうゆ 10.0gを他の食材と混ぜずに、単独でアルミパウチに充填した。また、しょうゆを充填したアルミパウチについて、試験調味液18はレトルト殺菌(121.1℃、10分間(Fo値10))に供し、試験調味液19はノンレト殺菌(85℃、5分間(Fo値0.00126))に供した。
【0180】
【表5C】
【0181】
[3-2.液体調味料を用いた加熱調理]
試験調味液15~19を用いて、牛ひき肉の代わりに大豆たんぱくを用いた肉豆腐を調理した。具体的には、豆腐を、水を切った上で一口大の大きさに切った。次いでサラダ油 小さじ1をひいたフライパンを熱し、豆腐の両面を中火で3~4分焼いた。このフライパンの中に、試験調味液を加え、中火で1分間炒め合わせて、肉豆腐を得た。
【0182】
[3-3.官能評価方法]
得られた肉豆腐について、上記1-2と同様に肉豆腐を喫食した際の大豆ムレ臭の強度を5段階で評価した。この際、評価基準として、試験調味液19を用いて得られた肉豆腐の大豆ムレ臭を5とし、試験調味液18を用いて得られた肉豆腐の大豆ムレ臭を1として提示した。
【0183】
[3-4.官能評価結果]
試験調味液15~19を用いて加熱調理した肉豆腐の官能評価を実施した。結果を表6Cに示す。
【0184】
【表6C】
【0185】
表6Cに示すように、大豆たんぱくを含有し、レトルト殺菌に供した試験調味液15を用いて得られる肉豆腐は大豆ムレ臭により肉豆腐としての品質が劣るものであった。それに対して、フェネチルアセテートを含む試験調味液16及び17を用いて得られる肉豆腐は、大豆ムレ臭がなく、すっきりとした醤油感が相俟って美味しく感じられた。
【0186】
したがって、大豆ムレ臭が抑制された容器詰調味用組成物を使用して得られる加熱調理品は風味が良好になることがわかった。
【0187】
例4 フェネチルアセテートによる大豆ムレ臭抑制評価(3)
例1と同様にして、下記表7Cに示す配合量で、粒状大豆たんぱく、しょうゆ、砂糖、昆布エキス、水及びフェネチルアセテート溶液を混ぜ合わせて、各試験調味液を調製し、レトルト殺菌(121.1℃、10分間(Fo値10))した。
【0188】
【表7C】
【0189】
例1と同様にして、粒状大豆たんぱく又はしょうゆの配合量を変えた試験調味液20~24について、レトルト殺菌後に官能評価を実施した。ただし、試験調味液6の大豆ムレ臭と対比することによって評価した。その結果、パネリストA~Cのいずれも、試験調味液20~24の大豆ムレ臭は試験調味液6と同等であると評価した。
【実施例4】
【0190】
例1 フェネチルアセテートによる食品素材に基づく加熱劣化臭抑制評価
[1-1.液体調味料の調製]
例1と同様にして、100ppmフェネチルアセテート溶液を調製した(0.001mg/10μl)。各試験調味料に添加するフェネチルアセテート溶液の量を20μlとした。
【0191】
下記表1Dに示す配合量で、食材及びフェネチルアセテート溶液を混ぜ合わせて、各試験調味液を調製した。なお、かつお節としては「鰹削り節破砕(大)」(マルハチ村松社)を用い、みりんとしては「マンジョウ 本みりん」(キッコーマン社)を用い、みそとしては「プロ用赤」(マルコメ社)を用いた。また、にんじんは15mm角に、しょうがは2mm角に、まぐろ赤身は20mm×20mm×5mm角にそれぞれ細断したものを用いた。
【0192】
調製した試験調味液 100gをアルミパウチに充填した。これをレトルト殺菌(121.1℃、10分間(Fo値10))に供した。
【0193】
【表1D】
【0194】
[1-2.官能評価方法]
レトルト殺菌に供した試験調味液1~7及び試験調味液8~14について、加熱劣化臭の嗅ぎ分けに秀でたパネル(A~Cの3名)に常温で調味液の状態で匙にとって喫食させて、喫食時に口腔内から鼻へぬける加熱劣化臭を嗅ぎ分けさせて評価した。この際、試験調味液1~7で生じた加熱劣化臭が、それぞれ試験調味液8~14で抑制されたか否か(有無)により評価した。なお、官能試験を実施するにあたり、該パネル(訓練期間:10~20年)に対して、加熱劣化臭の討議と評価訓練を行った。具体的には、加熱劣化臭の特性に対しては、パネル間で討議して、すり合わせを行うことで、各パネリストが共通認識を持つようにした。また、官能試験の妥当性を担保するために、いくつかの試験調味液を用いて、該パネルに評価訓練をさせ、各パネリストにおける評価の再現性を確認した。これらを行った後、該パネルを用いて、各試験調味液について加熱劣化臭の評価を行った。
【0195】
[1-3.官能評価結果]
フェネチルアセテートを含む試験調味液8~14について、レトルト殺菌後の官能評価結果を表2Dに示す。
【0196】
【表2D】
【0197】
フェネチルアセテートを含有していない試験調味液1~7は、総じて加熱劣化臭を非常に強く感じた。しかし、表2Dに示すように、フェネチルアセテートを含む試験調味液8~14は、試験調味液1~7で感じた加熱劣化臭が抑制されたものであった。
【0198】
具体的には、試験調味液1では、レトルト殺菌後に、土臭い香りが強く感じられた。それに対して、試験調味液8では、このような加熱劣化臭が感じられず、新鮮なにんじんの甘い風味が感じられた。
【0199】
試験調味液2では、レトルト殺菌後に、蒸れた香り及び苦みを伴うピリピリした辛味が強く感じられた。それに対して、試験調味液9では、このような加熱劣化臭が感じられず、新鮮なしょうがのさわやかな風味が感じられた。
【0200】
試験調味液3では、レトルト殺菌後に、魚の生臭い香り、カラメル様の焦げ甘い香り及び苦味が強く感じられた。それに対して、試験調味液10では、このような加熱劣化臭が感じられず、新鮮なかつお節の風味が感じられた。
【0201】
試験調味液4では、レトルト殺菌後に、魚の生臭い香り、蒸れた香り及び油の酸化した香りが強く感じられた。それに対して、試験調味液11では、このような加熱劣化臭が感じられず、調理直後の煮魚の風味が感じられた。
【0202】
試験調味液5では、レトルト殺菌後に、魚の生臭い香り、内臓由来のえぐみ、及び苦味が強く感じられた。それに対して、試験調味液12では、このような加熱劣化臭が感じられず、新鮮なちりめんじゃこの風味が感じられた。
【0203】
試験調味液6では、レトルト殺菌後に、カラメル様の焦げ甘い香り、苦味及び蒸れた香りが強く感じられた。それに対して、試験調味液13では、このような加熱劣化臭が感じられず、新鮮なみりんの甘い風味が感じられた。
【0204】
試験調味液7では、レトルト殺菌後に、カラメル様の焦げ甘い香り及び大豆の蒸れた香りが強く感じられた。それに対して、試験調味液14では、このような加熱劣化臭が感じられず、新鮮なみその風味が感じられた。
【0205】
表2Dに記載の結果によれば、フェネチルアセテートを含むことにより、食材に基づく加熱劣化臭を抑制できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0206】
本発明の一態様の組成物は、レトルト臭並びにレトルト殺菌による肉加熱臭及び大豆ムレ臭といった加熱劣化臭を付与することなく、所望の優れた風味を有する加熱調理食品などの加工食品を調理する際に利用できるものであることから、食品の食材に由来する人体に好適な栄養素から、広く人々の健康に貢献できるものである。また、本発明の一態様の食品及び本発明の一態様の製造方法によって得られる食品は、工業的生産が可能なものであり、かつ、飲食店での提供が可能なものであることから、様々なシーンで利用される食品として有用なものである。本発明の一態様の容器詰加工食品は、それ自体で食事の利用に供される。