(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】ロータリパンチユニット
(51)【国際特許分類】
B26F 1/20 20060101AFI20240925BHJP
B26F 1/08 20060101ALI20240925BHJP
B26D 7/18 20060101ALN20240925BHJP
【FI】
B26F1/20
B26F1/08 A
B26D7/18 F
(21)【出願番号】P 2023112312
(22)【出願日】2023-07-07
【審査請求日】2024-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(73)【特許権者】
【識別番号】305022598
【氏名又は名称】株式会社プロテリアルプレシジョン
(72)【発明者】
【氏名】橋本 秀一
【審査官】飯田 義久
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-048663(JP,A)
【文献】特開昭63-028597(JP,A)
【文献】特開2003-136482(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第114180162(CN,A)
【文献】特開平06-079697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26F 1/20
B26F 1/08
B26D 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に回転する第1軸に備わるダイスの切刃と、前記第1軸の軸方向に対して平行かつ前記第1軸とは逆方向に同期回転する第2軸に備わるパンチの切刃とで構成される噛み合い部が、噛み合い始点から噛み合い終点まで移動する間に、一方回りの半円状の第1切断線と他方回りの半円状の第2切断線とを形成し、前記ダイスと前記パンチとの間に供給された平状材から切屑を切り出して円孔を形成するロータリパンチユニットであって、
前記ダイスの切刃または前記パンチの切刃のいずれか一方に設けられた1乃至3箇所の凹部に対応する位置で、前記平状材に対して1乃至3箇所が繋がる前記切屑を切り出
し、下記(1-1)(1-2)(1-3)のうちのいずれか1箇所に設けられた前記凹部に対応する位置で、前記平状材に対して1箇所が繋がる前記切屑を切り出すロータリパンチユニット。
(1-1)前記ダイスの切刃または前記パンチの切刃のいずれか一方の噛み合い終点に対応する箇所
(1-2)前記ダイスの切刃または前記パンチの切刃のいずれか一方の噛み合い始点から噛み合い終点に向かって前記円孔の中心点の一方回りに30度以上100度以下の角度の範囲内の前記第1切断線上の任意の1点に対応する箇所
(1-3)前記ダイスの切刃または前記パンチの切刃のいずれか一方の噛み合い始点から噛み合い終点に向かって前記円孔の中心点の他方回りに30度以上100度以下の角度の範囲内の前記第2切断線上の任意の1点に対応する箇所
【請求項2】
請求項1に記載のロータリパンチユニットであって、
下記(2-1)(2-2)(2-3)のうちのいずれか1つにより、2箇所に設けられた前記凹部に対応する位置で、前記平状材に対して2箇所が繋がる前記切屑を切り出す。(2-1)前記ダイスの切刃または前記パンチの切刃のいずれか一方の噛み合い終点に対応する箇所と、前記ダイスの切刃または前記パンチの切刃のいずれか一方の噛み合い始点から噛み合い終点に向かって前記円孔の中心点の一方回りに30度以上100度以下の角度の範囲内の前記第1切断線上の任意の1点に対応する箇所との組み合わせ
(2-2)前記ダイスの切刃または前記パンチの切刃のいずれか一方の噛み合い終点に対応する箇所と、前記ダイスの切刃または前記パンチの切刃のいずれか一方の噛み合い始点から噛み合い終点に向かって前記円孔の中心点の他方回りに30度以上100度以下の角度の範囲内の前記第2切断線上の任意の1点に対応する箇所との組み合わせ
(2-3)前記ダイスの切刃または前記パンチの切刃のいずれか一方の噛み合い始点から噛み合い終点に向かって前記円孔の中心点の一方回りに30度以上100度以下の角度の範囲内の前記第1切断線上の任意の1点に対応する箇所と、前記ダイスの切刃または前記パンチの切刃のいずれか一方の噛み合い始点から噛み合い終点に向かって前記円孔の中心点の他方回りに30度以上100度以下の角度の範囲内の前記第2切断線上の任意の1点に対応する箇所との組み合わせ
【請求項3】
請求項1に記載のロータリパンチユニットであって、
下記(3-1)により、3箇所に設けられた前記凹部に対応する位置で、前記平状材に対して3箇所が繋がる前記切屑を切り出す。
(3-1)前記ダイスの切刃または前記パンチの切刃のいずれか一方の噛み合い終点に対応する箇所と、前記ダイスの切刃または前記パンチの切刃のいずれか一方の噛み合い始点から噛み合い終点に向かって前記円孔の中心点の一方回りに30度以上100度以下の角度の範囲内の前記第1切断線上の任意の1点に対応する箇所と、前記ダイスの切刃または前記パンチの切刃のいずれか一方の噛み合い始点から噛み合い終点に向かって前記円孔の中心点の他方回りに30度以上100度以下の角度の範囲内の前記第2切断線上の任意の1点に対応する箇所との組み合わせ
【請求項4】
請求項1に記載のロータリパンチユニットであって、
前記ダイスの切刃の内径をDdとし、前記パンチの切刃の外径をDpとするとき、0mm≦Dd-Dp≦0.005mmの関係を満たすとともに、前記ダイスの切刃と前記パンチの切刃とが噛み合い始点において圧接するように構成され、
前記ダイスの切刃の回転半径をRdとし、前記パンチの切刃の回転半径をRpとするとき、Rd-Rp>0mmの関係を満たすとともに、前記ダイスの切刃と前記パンチの切刃とが噛み合い終点において圧接するように構成される。
【請求項5】
請求項
4に記載のロータリパンチユニットであって、
0.10mm≦(Rd-Rp)≦0.40mmの関係を満たすように構成される。
【請求項6】
請求項
4または5に記載のロータリパンチユニットであって、
前記ダイスの切刃と前記パンチの切刃とが噛み合い始点において圧接する状態にしたときに、前記ダイスの切刃の噛み合い始点と前記ダイスの回転中心とを結んだ線分と、前記ダイスの回転中心と前記パンチの回転中心とを結んだ線分とがなす角をαとするとき、0度<α≦15度の関係を満たすように構成される。
【請求項7】
請求項
4または5に記載のロータリパンチユニットであって、
前記ダイスの切刃において、噛み合い始点と噛み合い終点とが、前記ダイスの回転中心に対してなす角をβ(ラジアン)とするとき、0.02mm≦(Rd-Rp)・β≦0.10mmの関係を満たすように構成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータリパンチユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、搬送中の平状材(被穿孔材)に円孔を穿孔するために、ロータリパンチユニットが使用されている。たとえば、特許文献1に開示されるロータリパンチユニットは、一方向に回転する第1軸に備わるダイスと、第1軸の軸方向に対して平行かつ第1軸とは逆方向に回転する第2軸に備わるパンチとの間に供給された平状材に、円孔を穿孔することができる。このロータリパンチユニットは、ダイスの切刃とパンチの切刃とが同期回転しながら噛み合い部を構成し、その噛み合い部が円孔の穿孔始点(噛み合い始点)から穿孔終点(噛み合い終点)まで移動する。この噛み合い部の移動により、平状材から円形状の切屑(穿孔片)が切り出され、その切屑に対応する円孔が平状材に形成される。平状材から切り出されて離間した切屑は、ダイスの切刃から下方に向かって設けられた排出孔を通って脱落して行く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したように、ロータリパンチユニットで平状材に円孔を形成すると切屑が発生し、その切屑はダイスの切刃から下方に続く排出孔から脱落して行く。通常、脱落した切屑は、そのまま装置外に排出されるか、装置内の専用スペースに一旦貯留された後に纏めて排出される。しかし、ダイスの切刃から下方に向かって滑らかに脱落しない切屑もある。滑らかに脱落しなかった一部の切屑は、搬送途中などに脱落し、平状材の表面に付着することがある。その場合、平状材に付着した切屑に起因して、平状材または平状材を用いた製品の品質問題が誘発されることがある。また、排出孔から脱落しなかった一部の切屑は、ロータリパンチユニットや付帯装置内へ侵入し、設備故障を誘発することがある。
【0005】
この発明の目的は、相応の実用性を有し、切屑(穿孔片)の平状材(被穿孔材)への付着およびロータリパンチユニットや付帯装置内への侵入が抑制される、ロータリパンチユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者は、平状材から切り出される円形状の切屑の形成過程を詳細に観察し、ダイスの切刃とパンチの切刃とで構成される噛み合い部が、円孔の穿孔始点(噛み合い始点)から穿孔終点(噛み合い終点)まで移動する際の挙動の微細な変化について精査・検討した。そして、切屑を平状材からの切り離しが容易な形態に形成して平状材とともに装置外に搬出するという発想を得て、その後の工夫により、切屑を平状材に安定かつ確実に繋げるための構成を見出し、この発明に想到することができた。
【0007】
この発明は、一方向に回転する第1軸に備わるダイスの切刃と、前記第1軸の軸方向に対して平行かつ前記第1軸とは逆方向に同期回転する第2軸に備わるパンチの切刃とで構成される噛み合い部が、噛み合い始点から終点まで移動する間に、一方回りの半円状の第1切断線と他方回りの半円状の第2切断線とを形成し、前記ダイスと前記パンチとの間に供給された平状材から切屑を切り出して円孔を形成するロータリパンチユニットであって、前記ダイスの切刃または前記パンチの切刃のいずれか一方に設けられた1乃至3箇所の凹部に対応する位置で、前記平状材に対して1乃至3箇所が繋がる前記切屑を切り出す、ロータリパンチユニットである。
【0008】
この発明に係るロータリパンチユニットは、下記(1-1)(1-2)(1-3)のうちのいずれか1箇所に設けられた前記凹部に対応する位置で、前記平状材に対して1箇所が繋がる前記切屑を切り出すことができる。
(1-1)前記ダイスの切刃または前記パンチの切刃のいずれか一方の噛み合い終点に対応する箇所
(1-2)前記ダイスの切刃または前記パンチの切刃のいずれか一方の噛み合い始点から噛み合い終点に向かって前記円孔の中心点の一方回りに、好ましくは30度以上100度以下、より好ましくは30度以上90度以下の角度の範囲内の前記第1切断線上の任意の1点に対応する箇所
(1-3)前記ダイスの切刃または前記パンチの切刃のいずれか一方の噛み合い始点から噛み合い終点に向かって前記円孔の中心点の他方回りに、好ましくは30度以上100度以下、より好ましくは30度以上90度以下の角度の範囲内の前記第2切断線上の任意の1点に対応する箇所
【0009】
この発明に係るロータリパンチユニットは、下記(2-1)(2-2)(2-3)のうちのいずれか1つにより、2箇所に設けられた前記凹部に対応する位置で、前記平状材に対して2箇所が繋がる前記切屑を切り出すことができる。
(2-1)前記ダイスの切刃または前記パンチの切刃のいずれか一方の噛み合い終点に対応する箇所と、前記ダイスの切刃または前記パンチの切刃のいずれか一方の噛み合い始点から噛み合い終点に向かって前記円孔の中心点の一方回りに、好ましくは30度以上100度以下、より好ましくは30度以上90度以下の角度の範囲内の前記第1切断線上の任意の1点に対応する箇所との組み合わせ
(2-2)前記ダイスの切刃または前記パンチの切刃のいずれか一方の噛み合い終点に対応する箇所と、前記ダイスの切刃または前記パンチの切刃のいずれか一方の噛み合い始点から噛み合い終点に向かって前記円孔の中心点の他方回りに、好ましくは30度以上100度以下、より好ましくは30度以上90度以下の角度の範囲内の前記第2切断線上の任意の1点に対応する箇所との組み合わせ
(2-3)前記ダイスの切刃または前記パンチの切刃のいずれか一方の噛み合い始点から噛み合い終点に向かって前記円孔の中心点の一方回りに、好ましくは30度以上100度以下、より好ましくは30度以上90度以下の角度の範囲内の前記第1切断線上の任意の1点に対応する箇所と、前記ダイスの切刃または前記パンチの切刃のいずれか一方の噛み合い始点から噛み合い終点に向かって前記円孔の中心点の他方回りに、好ましくは30度以上100度以下、より好ましくは30度以上90度以下の角度の範囲内の前記第2切断線上の任意の1点に対応する箇所との組み合わせ
【0010】
この発明に係るロータリパンチユニットは、下記(3-1)により、3箇所に設けられた前記凹部に対応する位置で、前記平状材に対して3箇所が繋がる前記切屑を切り出すことができる。
(3-1)前記ダイスの切刃または前記パンチの切刃のいずれか一方の噛み合い終点に対応する箇所と、前記ダイスの切刃または前記パンチの切刃のいずれか一方の噛み合い始点から噛み合い終点に向かって前記円孔の中心点の一方回りに、好ましくは30度以上100度以下、より好ましくは30度以上90度以下の角度の範囲内の前記第1切断線上の任意の1点に対応する箇所と、前記ダイスの切刃または前記パンチの切刃のいずれか一方の噛み合い始点から噛み合い終点に向かって前記円孔の中心点の他方回りに、好ましくは30度以上100度以下、より好ましくは30度以上90度以下の角度の範囲内の前記第2切断線上の任意の1点に対応する箇所との組み合わせ
【0011】
この発明に係るロータリパンチユニットは、前記ダイスの切刃の内径をDdとし、前記パンチの切刃の外径をDpとするとき、0mm≦Dd-Dp≦0.005mmの関係を満たすとともに、前記ダイスの切刃と前記パンチの切刃とが噛み合い始点において圧接するように構成され、前記ダイスの切刃の回転半径をRdとし、前記パンチの切刃の回転半径をRpとするとき、Rd-Rp>0mmの関係を満たすとともに、前記ダイスの切刃と前記パンチの切刃とが噛み合い終点において圧接するように構成されてよい。
【0012】
この発明に係るロータリパンチユニットは、0.10mm≦(Rd-Rp)≦0.40mmの関係を満たすように構成されてよい。
【0013】
この発明に係るロータリパンチユニットは、前記ダイスの切刃と前記パンチの切刃とが噛み合い始点において圧接する状態にしたときに、前記ダイスの切刃の噛み合い始点と前記ダイスの回転中心とを結んだ線分と、前記ダイスの回転中心と前記パンチの回転中心とを結んだ線分とがなす角をαとするとき、0度<α≦15度の関係を満たすように構成されてよい。
【0014】
この発明に係るロータリパンチユニットは、前記ダイスの切刃において、噛み合い始点と噛み合い終点とが、前記ダイスの回転中心に対してなす角をβ(ラジアン)とするとき、0.02mm≦(Rd-Rp)・β≦0.10mmの関係を満たすように構成されてよい。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、相応の実用性を有し、切屑(穿孔片)の平状材(被穿孔材)への付着およびロータリパンチユニットや付帯装置内への侵入が抑制される、ロータリパンチユニットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】この発明の利用に適するロータリパンチユニットの構成例を模式的に示す図(正面図)である。
【
図2】この発明の利用に適するロータリパンチユニットの構成例を模式的に示す図(部分断面を含む側面図)である。
【
図3】この発明の利用に適するロータリパンチユニットの構成例において、ダイスおよびパンチと平状材(被穿孔材)との位置関係などについて説明するために模式的に示す図である。
【
図4】この発明の利用に適するロータリパンチユニットの構成例において、ダイスの切刃とパンチの切刃との噛み合いなどについて説明するために模式的に示す図である。
【
図5】この発明の利用に適するロータリパンチユニットの構成例において、ダイスの切刃とパンチの切刃との噛み合い始点について説明するために模式的に示す図である。
【
図6】
図5に示す噛み合い始点の近傍を拡大して模式的に示す図である。
【
図7】この発明の利用に適するロータリパンチユニットの構成例において、ダイスとパンチの噛み合い終点について説明するために模式的に示す図である。
【
図8】
図7に示すダイスとパンチの噛み合い終点の近傍を拡大して模式的に示す図である。
【
図9】噛み合い終点の構成に関し、
図8に示す構成との違いを説明するために模式的に示す参考図である。なお、
図8に示す構成との対比を簡明にするため、各部の呼称および各部に付す符号を
図8と共有する。
【
図10】この発明に係るロータリパンチユニットにおけるダイスの切刃(孔)の部分構成例であって、ダイスの切刃(孔)に対向する側に視点をおいて、ダイスの切刃(孔)を模式的に示す図である。
【
図11】この発明に係るロータリパンチユニットにおけるパンチの切刃(凸部)の部分構成例であって、パンチの切刃(凸部)に対向する側に視点をおいて、パンチの切刃(凸部)を模式的に示す図である。
【
図12】この発明に係るロータリパンチユニットにより円孔(切屑)が形成されたときの平状材の部分構成例であって、ダイスの切刃に対応するパンチ側に視点をおいて、平状材の円孔(切屑)を模式的に示す図である。
【
図13】凹部を設ける適切な位置(角度)を設定するために行ったシミュレーションの幾何学的モデルを示す図である。
【
図14】評価条件1~18に対する差分Xdp<i>を示す図(グラフ)である。
【
図15】評価条件1~18に対する差分Ydp<i>を示す図(グラフ)である。
【
図16】評価条件1~9について、回転角θp<i>に対する差分Ydp<i>を示す図(グラフ)である。
【
図17】評価条件10~18について、回転角θp<i>に対する差分Ydp<i>を示す図(グラフ)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明に係るロータリパンチユニットの実施形態についての説明に先立ち、まず、この発明の利用に適するロータリパンチユニットの構成例を挙げて、適宜図面を参照して説明する。次に、この発明に係るロータリパンチユニットの実施形態について、上記構成例に利用する場合を例に挙げて、適宜図面を参照して説明する。なお、この発明に係るロータリパンチユニットの構成は、ここに例示する実施形態の構成に限定するものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれると解することが相当である。なお、ロータリパンチユニットを構成する各部の呼称・符号・記号について、特段の断りがない限り、明細書および図面の記載において共用することがある。たとえば、穿孔始点に対応する噛み合い始点の記号をP1と表記して穿孔始点と共用し、穿孔終点に対応する噛み合い終点の記号をP2と表記して穿孔終点と共用することなどである。
【0018】
まず、この発明の利用に適するロータリパンチユニットの代表的な構成例を挙げて、適宜、
図1から
図8を参照して説明する。
【0019】
図1から
図8に示すロータリパンチユニット1(パンチユニット1)は、後述するように、0mm≦Dd-Dp≦0.005mmの関係を満たすように構成される。この構成により、パンチユニット1は、紙または樹脂に限らず、不織布、金属箔またはゴムから成る被穿孔材(平状材S)に対して、円孔を形成することができる。パンチユニット1は、たとえば、普通紙や印画紙などの厚さが0.01mm以上2mm以下の紙類、X線撮像用フィルムなどの厚さが0.02mm以上2mm以下の軟質樹脂類、不織布、布地およびフェルトなどの厚さが0.01mm以上2mm以下の布地類、導電性シートなどの厚さが0.02mm以上2mm以下の軟質ゴム類など、比較的軟質な材料から成る被穿孔材(平状材S)に円孔を形成することができる。パンチユニット1は、たとえば、銅箔やアルミニウム箔などの厚さが0.01mm以上1mm以下の比較的軟質な金属箔類、導電性基板および半導体基板などの厚さが0.01mm以上1mm以下の硬質樹脂類など、比較的硬質の材料から成る被穿孔材(平状材S)に円孔を形成することができる。
【0020】
パンチユニット1は、
図1および
図2に示すように、平状材Sの下側(Z2側)に配置されるダイス10と、平状材Sの上側(Z1側)に配置されるパンチ20と、を有する。また、ダイス10を備えて一方向(Q1方向)に回転する第1軸11と、パンチ20を備えて第1軸11の軸方向(Y方向)に対して平行かつ第1軸11とは逆方向(Q2方向)に回転する第2軸21と、を有する。このパンチユニット1に対して、
図2に示すように、被穿孔材である平状材SがX方向に沿って供給され、X1側に向かって移動する。
【0021】
パンチユニット1において、第1軸11および第2軸21は、フレーム14によって回転自在に支持され、互いにY方向に沿って平行に、
図3に示す軸間距離Ldpを保って、構成される。第1軸11の一端側(Y1側)には、ギヤ12およびシザースギヤ13を備える。第2軸21の一端側(Y1側)には、ギヤ22を備える。ギヤ12およびシザースギヤ13と、ギヤ22とは、バックラッシが可能な限りなくなるように、連結される。第1軸11の他端側(Y2側)には、駆動源(図示略)が連結される。駆動源は、第2軸21の他端側(Y2側)に連結することもできる。
【0022】
図3に示すように、穿孔動作中、ダイス10を備える第1軸11は、パンチ20を備える第2軸21と同期しながら一方向(Q1方向)に回転している。一方、パンチ20を備える第2軸21は、ダイス10を備える第1軸11と同期しながら第1軸11とは逆方向(Q2方向)に回転している。したがって、穿孔動作中、ダイス10を備える第1軸11とパンチ20を備える第2軸21とは、互いに逆方向に同期回転している。
【0023】
ここで、穿孔動作とは、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとで構成される噛み合い部が、噛み合い始点P1から噛み合い終点P2まで移動して平状材Sに円孔を形成する間の動作、または、その間の状態、を意図する。噛み合い始点P1とは、先行動作により平状材Sへの穿孔(切り込み)が開始される前進側(X1側)であって、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとの最初の近接点(
図5にP1で示す点)またはその近傍(
図6にP1で示す二点鎖線で囲んだ内部)を意図する。また、噛み合い終点P2とは、穿孔動作により平状材Sへの穿孔(切り込み)が終了される後進側(X2側)であって、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとの最後の近接点(
図7にP2で示す点)またはその近傍(
図8にP2で示す二点鎖線で囲んだ内部)を意図する。
【0024】
ダイス10とパンチ20とが互いに逆方向に同期回転する間、
図4から
図8に示すように、1回転(360度)中の一定の角度範囲において、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが噛み合い部を構成する。噛み合い部がその一定の角度範囲に対応して噛み合い始点P1から噛み合い終点P2まで移動する間に、ダイス10とパンチ20との間に供給された平状材Sに対して円孔を形成することができる。
【0025】
ここで、噛み合いとは、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが互いに接して構成された噛み合い部が、噛み合い始点P1から噛み合い終点P2まで移動する間の動作、または、その間の状態を意図する。噛み合い中、噛み合い部は、噛み合い始点P1から平状材Sを切り込む(
図5、
図6を参照)。その直後、二手に分かれた噛み合い部は、パンチ20の凸部がダイス10の孔部に進入(
図4を参照)してオーバーラップ(
図4に示すLzを参照)する間に、円孔の中心点の一方回りに半円状の軌跡を描きながら平状材Sを切り込んで第1切断線を形成するとともに、円孔の中心点の他方回りに半円状の軌跡を描きながら平状材Sを切り込んで第2切断線を形成する。その直後、二手に分かれていた噛み合い部が噛み合い終点P2で合流し、平状材Sへの切り込みが終了する。噛み合い部が噛み合い終点P2に達した直後、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが離間し、噛み合い部は解消される。また、噛み合い中、噛み合い部の移動に対応して、見掛け上、平状材S上を噛み合い点Pが移動する。噛み合い点Pは、噛み合い始点P1を出発した直後、円孔の中心点の一方回りに移動する噛み合い点PAと他方回りに移動する噛み合い点PBとの2点に分れ、噛み合い終点P2に到着したときに1点に戻る。上記した噛み合い部および噛み合い点Pの動作によって、平状材Sから円形状の切屑が切り出され、平状材Sに円孔が形成される。
【0026】
詳しくは、噛み合い始点P1において、パンチ20の切刃20aが、ダイス10の切刃10aがZ2側から支持する平状材Sに対してZ1側から切り込む。そして、瞬時に平状材Sの厚みを切り抜けたパンチ20の切刃20aが、ダイス10の切刃10aに接触する。このときに、平状材Sに切り込んだパンチ20の切刃20aと平状材Sを支持するダイス10の切刃10aとが相応の噛み合い角(剪断角)を構成しながら接触し、接触部を構成する。この接触部が噛み合い部である。この接触部および接触状態が噛み合い始点P1から噛み合い終点P2まで維持される間、パンチ20の切刃20aは、ダイス10の切刃10aに対して相応の噛み合い角(剪断角)を有しながらZ1側から平状材Sの厚みを切り込む。そして、噛み合い終点P2において、パンチ20の切刃20aがダイス10の刃先10aとの接触を解いて平状材Sの厚みを超えてZ1側に離間することにより、ダイス10の切刃10aとで構成されていた接触部および接触状態が解消される。
【0027】
ダイス10は、
図4に示すように、第1軸11の軸方向(Y方向)に対して直交方向(Z方向)に延在する孔、または、その孔を備える部品である。ダイス10の孔は、その孔の延在方向(Z方向)が、第1軸11の軸方向に対して直交するように配置されている。ダイス10の孔は、少なくともその開口側において、その孔の延在方向に対する直交断面が円形状に形成されている。たとえば、同期回転中のダイス10とパンチ20とが互いの軸方向が合致する位置関係(
図4を参照)にある場合、第1軸11の軸方向に対する直交方向およびダイス10の孔の延在方向はZ方向に対応し、ダイス10の孔の開口側はZ1側に対応し、ダイス10の孔の延在方向に対する直交断面はX-Y断面に対応する。なお、
図4に示す、切刃10a、切刃20a、円周面15、隙間C1、隙間C2およびオーバーラップ量Lzなどについて、その形状や位置関係を、簡明のために模式的かつ大げさに表示していることに留意いただきたい。
【0028】
ダイス10の孔の開口周りの最外面は、ダイス10の切刃10aが第1軸11の軸心Odを中心として回転半径Rdで回転したときのダイス10の切刃10aの最外の回転軌跡円上に位置する円周面の一部(以下、円周面15という。)である。この回転半径Rdをダイス10(孔)の回転半径とする。なお、各図に示す円周面15は、簡明のため、略直線で作画している。ダイス10の切刃10aの円周面15は、たとえば、軸心Odを中心とする円筒研削、円筒研磨などにより機械的に高精度に形成することができる。ダイス10の円周面15の孔の角部の縁10b(
図6および
図8を参照)は、略90度のバリのない鋭利な角形に形成されている。ダイス10の円周面15の孔の鋭利な縁10bは、平状材Sに切り込んだパンチ20の切刃20aが噛み合いを行う切刃10aとなる。ダイス10の切刃10aは、穿孔動作中、特定のタイミングで、パンチ20の切刃20aと噛み合いを行うことができるように構成されている。
【0029】
パンチ20は、
図4に示すように、第2軸21の軸方向(Y方向)に対して直交方向(Z方向)に延在する丸棒状の凸部、または、その丸棒状の凸部を備える部品である。パンチ20の凸部は、その凸部の突出方向(Z方向)が、第2軸21の軸方向に対して直交するように配置されている。パンチ20の凸部は、少なくともその先端側において、その凸部の突出方向に対する直交断面が円形状に形成されている。たとえば、同期回転中のダイス10とパンチ20とが互いの軸方向が合致する位置関係(
図4を参照)にある場合、第2軸21の軸方向に対する直交方向およびパンチ20の凸部の突出方向はZ方向に対応し、パンチ20の凸部の先端側はZ2側に対応し、パンチ20の凸部の突出方向に対する直交断面はX-Y断面に対応する。
【0030】
パンチ20の丸棒状の凸部の最先端面は、パンチ20の切刃20aが第2軸21の軸心Opを中心として回転半径Rpで回転したときのパンチ20の切刃20aの最外の回転軌跡円上に位置する円周面の一部(以下、円周面25という。)である。この回転半径Rpをパンチ20(凸部)の回転半径とする。なお、各図に示す円周面25は、簡明のため、略直線で作画している場合がある。パンチ20の切刃20aの円周面25は、たとえば、軸心Opを中心とする円筒研削、円筒研磨などにより機械的に高精度に形成することができる。パンチ20の凸部の円周面25の角部の縁20bは、略90度のバリのない鋭利な角形に形成されている。パンチ20の凸部の円周面25の鋭利な縁20bは、平状材Sに切り込む切刃20aとなる。パンチ20の切刃20aは、穿孔動作中、特定のタイミングで、ダイス10の切刃10aと噛み合いを行うことができるように構成されている。
【0031】
穿孔動作中、噛み合い始点P1(X1側)から噛み合い終点P2(X2側)に移行する途中のダイス10の切刃10aおよびパンチ20の切刃20aは、
図4に示すような位置関係になる。この場合、
図4に示すように、切刃10aと切刃20aとの間には隙間C1、C2が画成される。この隙間C1、C2が画成されるのは、ダイス10の切刃10a(孔)の内径をDdとし、パンチ20の切刃20a(凸部)の外径をDpとするとき、Dd-Dp≧0mmの関係を満たすように構成されるためである。この隙間C1、C2は、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとの噛み合いを円滑にするために必要である。
【0032】
パンチユニット1は、穿孔動作中、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとの径差に起因して、隙間C1、C2が画成される可能性を十分に考慮し、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが適切な噛み合い状態になるように構成することが重要である。そのためには、特に、噛み合い始点P1と噛み合い終点P2とにおいて、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとの位置関係を適切に構成することが重要である。
【0033】
具体的には、ダイス10の切刃10aの内径をDdとし、パンチ20の切刃20aの外径をDpとするとき、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが、0mm≦Dd-Dp≦0.005mmの関係を満たすとともに、噛み合い始点P1において、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが圧接するように構成する。
【0034】
加えて、ダイス10の切刃10aの回転半径をRdとし、パンチ20の切刃20aの回転半径をRpとするとき、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが、Rd-Rp>0mmの関係を満たすとともに、噛み合い終点P2において、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが圧接するように構成する。
【0035】
このとき、好ましくは、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが、0.10mm≦(Rd-Rp)≦0.40mmの関係を満たすように構成する。
【0036】
また、好ましくは、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが噛み合い始点P1において圧接する状態になるときに、ダイス10の切刃10aの噛み合い始点P1とダイス10の回転中心になる第1軸11の軸心Odとを結んだ線分と、この軸心Odとパンチ20の回転中心になる第2軸21の軸心Opとを結んだ線分とがなす角をαとするとき、0度<α≦15度の関係を満たすように構成する。
【0037】
また、好ましくは、ダイス10の切刃10aにおいて、噛み合い始点P1と噛み合い終点P2とが、ダイス10の回転中心になる第1軸11の軸心Odに対してなす角をβ(単位:ラジアン)とするとき、0.02mm≦(Rd-Rp)・β≦0.10mmの関係を満たすように構成する。
【0038】
ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが、0mm≦Dd-Dp≦0.005mmの関係を満たすように構成することにより、噛み合いを行うダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとのカジリを抑制することができる。この関係を満たさないパンチユニットは、たとえば、Dd-Dp<0mmの場合、一般的にいう締り嵌めの状態で噛み合いが行われることになり、特に、噛み合い始点P1において、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとのカジリが発生しやすくなる。そのため、噛み合いに影響を与える各部品の機械加工、組立および調整を極めて高精度に行わなければならず、パンチユニットの生産性および廉価性などの観点で好ましくない場合がある。また、Dd-Dp>0.005mmの場合、噛み合い始点P1におけるカジリの発生が抑制されやすいが、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとの隙間C1がより大きくなる。そのため、噛み合い始点P1に限らず、噛み合い始点P1から噛み合い終点P2に到るまで平状材Sの折れ込みや千切れなどの不具合が生じやすくなり、平状材Sへの穿孔の確実性や平状材Sに形成された円孔の品位などの観点で、好ましくない場合がある。
【0039】
加えて、噛み合い始点P1において、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが圧接するように構成することにより、噛み合い始点P1における平状材Sの折れ込みなどの不具合の発生原因になる隙間C1の画成を確実に抑制することができる。これにより、噛み合い始点P1における平状材Sの折れ込みなどの不具合の発生を容易に抑制することができる。噛み合い始点P1においてダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが圧接するように構成するには、パンチユニット1を組み立てる際に、噛み合い始点P1においてダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが圧接するように調整すればよい。
【0040】
なお、Dd-Dp=0mmの場合、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが噛み合い始点P1で圧接しなくても、設計上、隙間C1が画成されない。しかし、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aに限らず、ダイス10とパンチ20との同期回転に係る回転機構系および回転制御系には、加工寸法、機械的剛性、組立精度および制御精度などに、バラツキが生じる。そのため、このようなバラツキの影響を受けて、噛み合いを行うときにダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aの一方または両方が相手から逃げて、隙間C1が画成される可能性がある。そこで、噛み合い始点P1における隙間C1の画成を確実に抑制するため、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが噛み合い始点P1において圧接するように構成する。
【0041】
平状材Sに対する穿孔(切り込み)は、互いに逆方向に同期回転するダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとの噛み合いによる。平状材Sがパンチユニット1に供給されると、ダイス10の円周面15がZ1側から平状材Sを支持する。この状態で、Q1方向に回転するダイス10の切刃10a(孔)がZ1側から平状材Sに近接し、同時に、Q2方向に回転するパンチ20の切刃20aがZ2側から平状材Sに近接する。そして、ダイス10の切刃10aになる孔の縁10bと、パンチ20の切刃20aになる凸部の縁20bとが、噛み合い始点P1(近傍)に達し、厚さ方向(Z方向)から挟み込んだ平状材Sに接し、
図5に示す噛み合い始点P1において、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとの噛み合いが始まる。
【0042】
ここで、噛み合い始点に関し、参考として、特許文献1が開示するロータリパンチユニットの場合について説明する。特許文献1が開示するロータリパンチユニットでは、ダイスの切刃(孔)とパンチの切刃との径差が「0mm~パンチの切刃の外径×0.005mm(0mmを含まず)」に設定されるとともに、噛み合い始点におけるダイスの切刃とパンチの切刃とのクリアランスが「0mm~パンチの切刃の外径×(-0.005mm)(0mmを含まず)」に設定される。そのため、噛み合い始点側では、ダイスの切刃とパンチの切刃との重なりが発生する。この重なり量は、0mmよりも大きく、パンチの切刃の外径をDpとしたときに、最大「-0.005mm×Dp」になる。この重なりの発生により、噛み合い始点における隙間の画成が抑制され、ダイスの切刃とパンチの切刃とが圧接される。
【0043】
この発明に係るパンチユニット1は、噛み合い始点P1において、ダイス10の切刃10a(孔の縁10bがある円周面15)がZ2側から平状材Sを支持し、同時に、パンチ20の切刃20a(凸部の円周面25の縁20b)がZ1側から平状材Sを押圧し、切り込む。そして、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが適度なオーバーラップ(
図4に示すLzを参照)を伴うため、パンチ20の切刃20a(凸部の円周面25の縁20b)は平状材Sを貫通し、
図6に示すように、ダイス10の切刃20a(円周面15の縁10bがある孔)の中に入り込む。このとき、パンチユニット1は、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが0mm≦Dd-Dp≦0.005mmの関係を満たすように構成されるとともに、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが噛み合い始点P1において圧接するように構成される。これにより、パンチユニット1は、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとの噛み合い始点P1における位置関係が適切に構成され、パンチ20の切刃20aが、ダイス10の切刃10a(円周面15の孔の縁10b)に対して隙間C1を画成することなく接し、さらに互いに圧接し合う。このように、噛み合い始点P1において、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとを圧接状態にすることにより、隙間C1の画成を確実に抑制することができる。
【0044】
パンチユニット1におけるダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとの噛み合い部は、上記したように、
図5および
図6に示す噛み合い始点P1(X1側)から、
図7および
図8に示す噛み合い終点P2(X2側)に向かって移動する。その間、ダイス10の切刃10aになる孔の縁10bと、パンチ20の切刃20aになる凸部の縁20bとがオーバーラップ(Lz)を伴う噛み合いによって噛み合い角(剪断角)を構成し、その噛み合い角(剪断角)によって生じた剪断力により平状材SをY2側に向かって切り込んで行く。そして、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとの噛み合い部は、上記したように、
図7および
図8に示す噛み合い終点P2に到り、その直後に解消される。
【0045】
ここで、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとのオーバーラップ(Lz)について説明する。オーバーラップ(Lz)は、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとの噛み合いを可能にするために必要であり、オーバーラップ(Lz)を伴う構成にする点は、従来と同様である。
図4に示すLzは、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとのオーバーラップ量である。オーバーラップ量Lzは、ダイス10の孔に侵入する向き(Z2側)を正方向とし、平状材Sの材質、厚さおよび硬さ(柔軟性)の他、穿孔径、ダイス10の回転半径Rd、パンチ20の回転半径Rp、第1軸11の軸心Odと第1軸21の軸心Opとの離間長さ(軸間距離Ldp)、および、ダイス10とパンチ20の同期回転速度などを、必要に応じて、考慮して設定する。オーバーラップ量Lzは、Lz>0mmの関係を満たすように設定し、好ましくは、0mm<Lx≦1.0mmの関係を満たすように設定する。なお、Lz>0mmの関係を満たし、オーバーラップを伴うパンチユニット1は、Ldp<Rd+Rpの関係を満たす。
【0046】
たとえば、Lz=0mmの場合、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとのオーバーラップが生じない。そのため、ダイス10の孔(切刃10a)の中にパンチ20の凸部(切刃20a)が侵入しないので、平状材Sに切り込んだパンチ20の切刃20aが十分に貫通せず、平状材Sに貫通孔(円孔)が形成されにくい。なお、Lz<0mmの場合、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとの噛み合いが全く生じないので、平状材Sに穿孔することができない。また、Lz>1mmの場合、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとのカジリが発生しやすくなるので、過度なオーバーラップ量Lzは無駄である。ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとのカジリは、ダイス10の切刃10a(孔)の内径Dd、パンチ20の切刃20a(凸部)の外径Dp、ダイス10とパンチ20の同期回転速度、および、ダイス10の切刃10aおよびパンチ20の切刃20aが噛み合い始点P1に侵入する角度などに起因すると考えられる。
【0047】
また、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが適度なオーバーラップ(Lz)を伴うことにより、
図6に示す噛み合い始点P1および
図8に示す噛み合い終点P2のように、ダイス10の切刃10a(孔の円周面15の縁10b)に対して接触して圧接するパンチ20の切刃20aの部位を、凸部の円周面25の側面20cにすることができる。ダイス10の切刃10aに対して、パンチ20の凸部の円周面25の縁20bが接触して圧接する構成は、パンチ20の凸部の円周面25の縁20bが接触して圧接する構成に比べて、十分かつ確実な圧接状態を得ることができる。
【0048】
ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとの噛み合いが、噛み合い始点P1(X1側)から
図7および
図8に示す噛み合い終点P2に到るとき、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとの位置関係を適切に構成することが重要である。
【0049】
具体的には、上記したように、ダイス10の切刃10aの回転半径をRdとし、パンチ20の切刃20aの回転半径をRpとするとき、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが、Rd-Rp>0mmの関係を満たすとともに、噛み合い終点P2において、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが圧接するように構成する。このとき、好ましくは、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが、0.10mm≦(Rd-Rp)≦0.40mmの関係を満たすように構成する。
【0050】
ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが、Rd-Rp>0mmの関係を満たすように構成することにより、同期回転して噛み合いを行うダイス10の切刃10aを、パンチ20の切刃20aよりも早く回転移動させることができる。この構成においてダイス10の切刃10aが位置する円周面15は最外の回転軌跡円上に位置し、回転半径がRdのダイス10の切刃10aの最外の回転軌跡円の半径はRdになる。また、ダイス10の切刃10a噛み合い始点P1と、ダイス10の切刃10aの噛み合い終点P2とが、ダイス10の回転中心になる第1軸11の軸心Odに対してなす角をβd(単位:ラジアン)とするとき、ダイス10の切刃10aの最外の回転軌跡円上におけるダイス10の切刃10aの回転移動距離は、Rd・βdになる。なお、このβdは、
図4に示すβに対応する。一方、パンチ20の切刃20aが位置する円周面25は最外の回転軌跡円上に位置し、回転半径がRpのパンチ20の切刃20aの最外の回転軌跡円の半径はRpになる。また、パンチ20の切刃20a噛み合い始点P1と、パンチ20の切刃20aの噛み合い終点P2とが、パンチ20の回転中心になる第2軸21の軸心Opに対してなす角をβp(単位:ラジアン)とするとき、パンチ20の切刃20aの最外の回転軌跡円上におけるパンチ20の切刃20aの回転移動距離は、Rp・βpになる。
【0051】
これにより、Rd-Rp>0mmの関係を満たす場合、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが噛み合い始点P1から噛み合い終点P2まで同期回転して移動する間に、ダイス10の切刃10aをパンチ20の切刃20aよりもRd・βd-Rp・βpだけ長く回転移動させることができる。そして、ダイス10の切刃10aを、噛み合い終点P2において隙間C2を画成させることなく、パンチ20の切刃20aに対して圧接させることが可能になる。
【0052】
別の観点から、Rd-Rp>0mmの関係を満たすように構成されたダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとは、ダイス10の切刃10aの円周面15(最外の回転軌跡円)上のQ1方向を正方向とする周速をVdとし、パンチ20の切刃20aの円周面25(最外の回転軌跡円)上のQ2方向を正方向とする周速をVpとするとき、Vd>Vp(>0)の関係を満たす。これにより、Q1方向に回転して噛み合いを行うダイス10の切刃10aの円周面15の周速Vdが、Q2方向に回転して噛み合いを行うパンチ20の切刃20aの円周面25の周速Vpよりも大きくなり、ダイス10の切刃10aをパンチ20の切刃20aよりも早く回転移動させることができる。
【0053】
これにより、Rd-Rp>0mmの関係を満たす場合、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが噛み合い始点P1から噛み合い終点P2まで同期回転して移動する間に、ダイス10の切刃10aをパンチ20の切刃20aよりもVd-Vpだけ早く回転移動させることができる。そして、ダイス10の切刃10aを、噛み合い終点P2において隙間C2を画成させることなく、パンチ20の切刃20aに対して圧接させることが可能になる。
【0054】
噛み合い始点P1では、上記したように、ダイス10とパンチ20の互いの切刃10a、20a同士が圧接するため、隙間C1が画成されていない。たとえば、Vd=Vpの場合、隙間C1が画成されていない噛み合い状態から噛み合いが進行しても、噛み合い状態にあるダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとの相対の位置関係は変化せず、噛み合い終点P2(X2側)に隙間C2が画成されることになる。これに対して、Vd>Vp(>0)の関係を満たすパンチユニット1は、噛み合い始点P1において隙間C1が画成されていない噛み合い状態から噛み合いが進行するに連れて、ダイス10の切刃10a(孔の縁10b)がパンチ20の切刃20aよりも早く回転移動し、ダイス10の切刃10a(孔の縁10b)がパンチ20の切刃20a(凸部の側面10c)から離間して圧接状態が解消される。この後、Vd>Vpの関係を満たすダイス10の切刃10aは、パンチ20の切刃20aとの周速差(Vd-Vp)によりパンチ20の切刃20aとの径差(Dd-Dp)に対応する距離を埋めながらパンチ20の切刃20aとの噛み合いを行って、やがて、
図7および
図8に示す噛み合い終点P2に到る。
【0055】
ここで、噛み合い終点P2に関し、参考として、特許文献1が開示するロータリパンチユニットの場合について説明する。特許文献1が開示するロータリパンチユニットでは、ダイスの切刃(孔)とパンチの切刃との径差が「0mm~パンチの切刃の外径×0.005mm(0mmを含まず)」に設定されるとともに、噛み合い始点におけるダイスの切刃とパンチの切刃とのクリアランスが「0mm~パンチの切刃の外径×(-0.005mm)(0mmを含まず)」に設定される。そのため、上記したように、噛み合い始点では、ダイスの切刃とパンチの切刃との重なりが発生し、噛み合い始点における隙間の画成が抑制され、ダイスの切刃とパンチの切刃とが圧接される。しかし、
図9に示すように、噛み合い終点P2では、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとの重なりが発生しない。これは、噛み合い始点で重なったダイスの切刃とパンチの切刃とが、噛み合い始点から噛み合い終点に向かって移動する間、ダイスの切刃とパンチの切刃とが同じ回転移動を行うように構成されているからである。
【0056】
したがって、特許文献1が開示するロータリパンチユニットの場合、噛み合い終点P2に画成される隙間を埋めるという発想がなく、必然として、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとの径差に対応する最大「0.005mm×Dp」の隙間C2が発生する。そのため、特許文献1が開示するロータリパンチユニットの場合、噛み合い終点P2において、
図9に示すように、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが接触せず、圧接することがない。それゆえ、
図9に示す隙間C2の画成に起因して、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとの接触が妨げられ、必要かつ重要と考えるダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとの圧接状態が生じないので、噛み合い終点P2においてバラツキが大きい不安定な噛み合い状態になることに起因して、折れ込みなどの不具合が発生しやすくなると考えられる。
【0057】
この発明に係るパンチユニット1は、上記したように、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが、0mm≦Dd-Dp≦0.005mmの関係を満たすように構成される。この構成において、噛み合い状態にあるダイス10の切刃10aが、パンチ20の切刃20aとの周速差(Vd-Vp)によってパンチ20の切刃20aよりも先行することが可能な距離は、パンチ20の切刃20aとの径差(Dd-Dp)に対応する。したがって、噛み合い始点P1から噛み合い終点P2までの間に、ダイス10の切刃10aが最大で0.005mm先行するように、周速差(Vd-Vp)を構成すればよい。この観点で、パンチユニット1は、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとの噛み合い終点P2における位置関係を適切に構成するために、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが、Rd-Rp>0mmの関係を満たすように構成され、好ましくは、0.02mm≦Rd-Rp≦0.40mmの関係を満たすように構成される。
【0058】
ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが0.02mm≦Rd-Rp≦0.40mmの関係を満たす場合、平状材Sの材質、厚さおよび硬さ(柔軟性)などに起因する抵抗力や噛み合いによる抵抗力の影響を受けてもダイス10の切刃10aの最大0.005mmの先行が確実になって、噛み合い終点P2において、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとの安定な圧接状態を確実に構成することができる。なお、Rd-Rp>0.40mmの場合、噛み合い終点P2において、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとの圧接がより強固になるが、圧接が強固になり過ぎるとカジリが発生する可能性が高まる。
【0059】
図5に示す噛み合い始点P1(X1側)から
図7に示す噛み合い終点P2(X2側)に到る間、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとは、ダイス10の切刃10a(孔の縁10bがある円周面15)がZ2側から平状材Sを支持し、同時に、パンチ20の切刃20a(凸部の円周面25の縁20b)がZ1側から平状材Sを押圧し、ダイス10の切刃10a(孔の縁10b)と噛み合いを進めながら平状材Sを切り込む。このとき、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが適度なオーバーラップ(Lz)を伴うため、平状材Sを切り込むパンチ20の切刃20a(凸部の円周面25の縁20b)は、
図6に示す状態から
図4に示す状態を経て
図8に示す状態に到る間、ダイス10の切刃20a(円周面15の縁10bがある孔)の中に入り込んだ状態になる。そして、噛み合い終点P2において、
図8に示すような噛み合い状態になる。これは、上記したように、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが、Rd-Rp>0mmの関係を満たすことでVd>Vpになることにより、噛み合い終点P2においてダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが隙間C2を画成することなく圧接状態になるように構成されているからである。なお、パンチユニット1は、Rd-Rp>0mmの関係を満たしてオーバーラップ(Lz)を伴うため、Ldp<Rd+Rpの関係を満たす。
【0060】
噛み合い終点P2において、平状材Sを貫通したパンチ20の切刃20a(凸部の円周面25の縁20b)は、
図8に示すように、ダイス10の切刃20a(円周面15の縁10bがある孔)の中に入り込んでいる。このとき、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが、0mm≦Dd-Dp≦0.005mmの関係を満たすとともに、噛み合い始点P1において圧接するように構成されていることにより、パンチ20の切刃20aが、ダイス10の切刃10a(円周面15の孔の縁10b)に対して接し、さらに互いに圧接し合う。これにより、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとの噛み合い終点P2における位置関係が適切に構成され、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが噛み合い終点P2において圧接状態になり、隙間C2の画成を確実に抑制することができる。
【0061】
なお、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが適度なオーバーラップ(Lz)を伴う場合、噛み合い終点P2においても、ダイス10の切刃10a(円周面15の孔の縁10b)に対して接触して圧接するパンチ20の切刃20aの部位が、凸部の円周面25の縁20bよりもむしろ凸部の円周面25の側面20cになる。このように、噛み合い終点P2において、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとを圧接状態にすることにより、隙間C2の画成を確実に抑制することができる。
【0062】
パンチユニット1は、上記したように、好ましくは、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが噛み合い始点P1において圧接する状態になるときに、
図5に示すように、ダイス10の切刃10aの噛み合い始点P1とダイス10の回転中心(軸心Od)とを結んだ線分と、ダイス10の回転中心(軸心Od)とパンチ20の回転中心(軸心Op)とを結んだ線分とがなす角αが、0度<α≦15度の関係を満たすように構成される。この場合、ダイス10の切刃10a噛み合い始点P1は、
図5に示すように、ダイス10の切刃10aになる円周面15のY1側の縁10bに対応させる。
【0063】
この角度αは、噛み合い始点P1に侵入するダイス10の切刃10a(縁10b)およびパンチ20の切刃20a(縁20b)が、平状材Sの表面(X-Y平面)に対してなす角度と、略同じ角度になる。この角度αを、便宜上、噛み合い角と呼ぶ。なお、ロータリパンチユニットは、オーバーラップ(Lz)を伴うダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが噛み合い始点P1において噛み合いを行う場合、少なくとも、0度≦α<90度の関係を満たす。
【0064】
α=0度の関係を満たす場合、噛み合い始点P1において、設計上、ダイス10の切刃10a(孔)の内周面とパンチ20の切刃20a(凸部)の側面20cとが接触して圧接する位置関係になる。この位置関係では、設計上、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが、互いに面による圧接状態になる。一方、
図6に示すダイス10の切刃10aの鋭利な縁10bとパンチ20の切刃20aの側面20cとが接触して圧接する位置関係では、鋭利な角部(縁10b)と面による圧接状態になる。この観点で、面による圧接になるα=0度の構成よりも、鋭利な角部と面による圧接になる
図6に示す構成(α>0度)の方が、より安定な圧接状態を得ることができる。
【0065】
α>15度の関係を満たす場合、噛み合い始点P1に侵入するダイス10の切刃10a(縁10b)およびパンチ20の切刃20a(縁20b)が平状材Sに対してなす角度(αと略同じ角度)がより大きくなって、パンチ20の切刃20a(側面20c)がZ方向に対してなす角度(90度-αと略同じ角度)がより大きくなる。したがって、Z2側から近接して平状材SのZ2側の表面(X-Y平面)に切り込む、パンチ20の切刃20a(縁20b)の切り込み角(噛み合い角)が、より大きくなる。パンチ20の切刃20aの平状材Sに対する切り込み角が大きくなるほど、パンチ20の切刃20aの側面20cが平状材Sの表面に接触する割合が増すため、切り込み時の平状材Sからの反発が大きくなる。
【0066】
上記の観点により、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが噛み合い始点P1において圧接する状態になるときに、好ましくは、0度<α≦15度の関係を満たすように構成される。
【0067】
パンチユニット1は、上記したように、好ましくは、ダイス10の切刃10a噛み合い始点P1と、ダイス10の切刃10aの噛み合い終点P2とが、ダイス10の回転中心になる第1軸11の軸心Odに対してなす角β(単位:ラジアン)が、0.02mm≦(Rd-Rp)・β≦0.10mmの関係を満たすように構成される。この場合、ダイス10の切刃10a噛み合い始点P1は、
図4に示すように、ダイス10の切刃10aになる円周面15のY1側の縁10bに対応させる。また、ダイス10の切刃10aの噛み合い終点P2は、
図4に示すように、ダイス10の切刃」10aになる円周面15のY2側の縁20bに対応させる。
【0068】
0.02mm≦(Rd-Rp)・β≦0.10mmの関係において、(Rd-Rp)・βの項は、Rd・β-Rp・βと表わすことができる。Rd・βの項は、Q1方向に回転移動するダイス10の切刃10aの円周面15の孔の縁10bが、噛み合い始点P1から噛み合い終点P2まで回転移動する軌跡(円弧)の長さを表わす。Rp・βの項は、Q2方向に回転移動するパンチ20の切刃20aの凸部の円周面25の縁20bが、噛み合い始点P1から噛み合い終点P2まで回転移動する軌跡(円弧)の長さを表わす。したがって、(Rd-Rp)・βの項は、同期回転するダイス10の切刃10a(縁10b)とパンチ20の切刃20a(縁20b)とが、噛み合い始点P1から噛み合い終点P2まで回転移動するときの、回転移動距離の差を表わす。この回転移動距離の差分だけ、ダイス10の切刃10aがパンチ20の切刃20aよりも先進することにより、ダイス10の切刃10a(孔)の内径Ddとパンチ20の切刃20a(凸部)の外径Dpとの差(Dd-Dp)を埋めることができる。
【0069】
ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとは、上記したように、0mm≦Dd-Dp≦0.005mmの関係を満たすとともに、噛み合い始点P1において圧接するように構成される。そのため、(Rd-Rp)・βの項は、少なくとも、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとの径差(Dd-Dp)が解消するように設定する。また、噛み合い始点P1における圧接状態の解消に回転移動距離の差は必要ない(0mm)が、微視的な弾性変形を伴って重なり合う可能性、各部品の寸法精度および組立精度などを考慮して設定する。したがって、(Rd-Rp)・βの項は、噛み合い終点P2において隙間C2が画成されずに圧接状態を構成するように、少なくとも、(Rd-Rp)・β>0.005mmの関係を満たすように設定する。好ましくは、噛み合い終点P2において確実に圧接状態を構成するように、(Rd-Rp)・β≧0.01mmの関係を満たすように設定する。より好ましくは、噛み合い終点P2において確実に圧接状態を構成し、十分な圧接力が得られるように、(Rd-Rp)・β≧0.02mmの関係を満たすように設定する。なお、(Rd-Rp)・β≦0.10mmの関係を満たすことが好ましく、(Rd-Rp)・β>0.10mmの場合、噛み合い終点P2においてカジリの発生が懸念されるような過度な圧接状態になる可能性がある。
【0070】
次に、この発明に係るロータリパンチユニットの実施形態を説明する。具体的には、この発明を上記した
図1~
図8に示すロータリパンチ1に利用する場合を例に挙げて、適宜図面を用いて説明する。なお、この発明に係るロータリパンチユニットの構成例の説明に際して、上記した
図1~
図8を援用するとともに、
図10~
図12を参照する。また、
図10~
図12に示す各部の呼称・符号・記号について、特段の断りがない限り、
図1~
図8に示すロータリパンチ1と共用する。また、この発明に係るロータリパンチユニットは、
図1~
図8に示すロータリパンチ1と区別する場合、「パーシャルパンチ1」と表記する。
【0071】
この発明に係るロータリパンチユニット(パーシャルパンチ1)は、たとえば、
図1~
図8に示すパンチユニット1を利用して構成することができる。パンチユニット1は、ダイス10およびパンチ20の加工・組立・回転制御などの高精度な設定・調整が可能であって、上記したように、0mm≦Dd-Dp≦0.005mmの関係を満たすとともに、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが噛み合い始点P1において圧接するように構成され、Rd-Rp>0mmの関係を満たすとともに、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが噛み合い終点P2において圧接するように構成される。そのため、パンチユニット1は、穿孔動作中の噛み合い部のクリアランスおよび圧接状態の設定・調整を容易かつ高精度に行うことが可能である。したがって、パンチユニット1の構成を利用することにより、噛み合い始点P1から噛み合い終点P2まで移動する間の噛み合い部を構成するダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとの位置関係の設定・調整を容易かつ高精度に行うことができる、好ましいパーシャルパンチ1を得ることができる。なお、パーシャルパンチ1は、Rd-Rp>0mmの関係を満たすパンチユニット1の構成を利用することに限られない。パーシャルパンチ1は、Rd-Rp=0mmの関係を満たすロータリパンチユニットの構成を利用することもできる。
【0072】
この発明に係るパーシャルパンチ1は、ダイス10の切刃10aまたはパンチ20の切刃20aのいずれか一方に1乃至3箇所の凹部(
図10、
図11を参照)を有する以外は、
図1~
図8に示すパンチユニット1と同様な構成を有する。具体的には、パーシャルパンチ1は、
図2に矢印Q1で示す一方向に回転する第1軸11に備わるダイス10の切刃10a(
図4参照)と、第1軸11の軸方向(Y方向)に対して平行で、かつ、
図2に矢印Q2で示す第1軸11とは逆方向に同期回転する第2軸21に備わるパンチ20の切刃20a(
図4参照)とを有する。そして、パーシャルパンチ1は、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが、
図1~
図8に示すパンチユニット1と同様に、噛み合い部および噛み合い点Pを構成する。そして、パーシャルパンチ1では、噛み合い部が、ダイス10とパンチ20との間に供給された平状材Sを切り込みながら穿孔始点から穿孔終点まで移動することにより、平状材Sに円孔を形成する。このとき、パーシャルパンチ1では、噛み合い点Pが、平状材S上において、噛み合い始点P1から噛み合い終点P2まで移動し、
図12に示す一方回りの半円状の第1切断線SAと他方回りの半円状の第2切断線SBとを形成して切屑Swを切り出し、平状材Sに円孔(符号Swを援用)を形成する。
【0073】
パーシャルパンチ1では、
図12に示すように、平状材Sにおいて、一方の半円状の第1切断線SAが、噛み合い始点P1から噛み合い終点P2まで、矢印ZAで示す方向に移動した噛み合い点PAにより形成される。また、パーシャルパンチ1では、他方の半円状の第2切断線SBが、噛み合い始点P1から噛み合い終点P2まで、矢印ZBで示す方向に移動した噛み合い点PBにより形成される。その結果、平状材Sが噛み合い始点P1から噛み合い終点P2まで切り込まれ、平状材Sから切屑Swが切り出され、その切屑Swに対応する円孔が平状材Sに形成される。なお、噛み合い点PAおよび噛み合い点PBは、噛み合い始点P1と噛み合い終点P2とを結ぶ線分に対して、線対称となる軌道上を同時に移動する一対の点である。また、第1切断線SAおよび第2切断線SBは、噛み合い始点P1と噛み合い終点P2とを結ぶ線分に対して、線対称となる一対の半円状の切断線である。
【0074】
図10に示すように、パーシャルパンチ1は、ダイス10の切刃10a(角部の縁10b)に1乃至3箇所の凹部101、102、103を有することにより、その1乃至3箇所の凹部101、102、103に対応する位置で、平状材Sに対して1乃至3箇所が繋がる切残し部S1、S2、S3を形成しながら切屑Swを切り出すことができる。あるいは、
図11に示すように、パーシャルパンチ1は、パンチ20の切刃20a(角部の縁20b)に1乃至3箇所の凹部201、202、203を有することにより、その1乃至3箇所の凹部201、202、203に対応する位置で、平状材Sに対して1乃至3箇所が繋がる切残し部S1、S2、S3を形成しながら切屑Swを切り出すことができる。なお、平状材Sの搬送後、平状材Sに1乃至3箇所が繋がって残っている切屑Swを、平状材Sに繋げたまま残すか、平状材Sから切り離して除去するかは、実用上の事情に応じて適宜選択すればよい。
【0075】
パーシャルパンチ1において、上記した凹部は、
図10に示すようにダイス10側に有する構成にもできるし、
図11に示すようにパンチ20側に有する構成にもできる。パーシャルパンチ1において、好ましくは、ダイス10側に凹部を有する構成である。パンチ20の切刃20aは、噛み合い始点P1において、ダイス10の切刃10aがZ2側から支持する平状材SにZ1側から切り込み、平状材Sの厚みを切り抜けた直後にダイス10の切刃10aと接触し、相応の噛み合い角(剪断角)を有して噛み合い部を構成する。そして、パンチ20の切刃20aは、噛み合い始点P1から噛み合い終点P2まで、ダイス10の切刃10aとの相応の噛み合い角(剪断角)を維持しながらZ1側から平状材Sの厚みを切り込み続けている。したがって、パンチ20側に凹部を有する場合、平状材Sの厚みを切り込みながら移動する凹部の角部の縁が平状材Sを引っ掻いて傷付けるリスクや平状材Sに引っ掛かり穿孔を停止させるリスクがあるため、使用条件等によっては不利になることがある。これに対して、ダイス10の切刃10aは、噛み合い始点P1から噛み合い終点P2まで、平状材SをZ2側から支持し続けている。したがって、ダイス10側に凹部を有する場合、ダイス10の切刃10a(角部の縁10b)がパンチ20の切刃20aのように平状材Sの厚みに切り込む状態になりにくく、凹部の角部の縁が平状材Sを引っ掻くリスクや平状材Sに引っ掛かるリスクがかなり小さくなるため好ましい。
【0076】
図10に示すZ1側から見た凹部および
図11に示すZ2側から見た凹部は、その凹み形状が略四角形状であるが、凹み形状は略四角形状に限定されない。凹部の凹み形状は、たとえば、略半円形状や略楕円形状、略三角形状や略五角形状などの多角形状などであってよい。凹部の凹み形状は、好ましくは、より大きな凹みスペースを容易に確保しやすい略四角形状や略半円形状などである。凹部の深さ(凹み量)は、好ましくは、平状材Sの厚みよりも大きく設定する。凹部の深さとは、凹部をダイス10側に設ける場合は切刃10a(孔)の内周面から径方向の外側に向かう凹部の長さを意味し、凹部をパンチ20側に設ける場合は切刃20a(凸部)の外周面から径方向の内側に向かう凹部の長さを意味する。凹部の長さは、凹部の深さと同様に、好ましくは、平状材Sの厚みよりも大きく設定する。凹部の長さとは、凹部をダイス10側に設ける場合は切刃10a(角部の縁10b)からZ2側に向かう凹部の長さを意味し、凹部をパンチ20側に設ける場合は切刃20a(角部の縁20b)からZ1側に向かう凹部の長さを意味する。なお、凹部の幅は、所望の切残し部の大きさ(幅)に相応しく、適宜設定すればよい。
【0077】
噛み合い点Pにおいて、平状材Sは、パンチ20の切刃20aに押されてダイス10の切刃10aに押し付けられ、互いの切刃10a、20aに挟まれながら切り込まれる。このとき、噛み合い部の微細な変動に起因して、平状材Sを鋭利に切り裂くような状態にならず、平状材Sを圧潰して千切るような状態になって、切残し部が千切れてしまうリスクがある。このような場合、凹部の深さ(凹み量)および凹み部の長さを平状材Sの厚みよりも大きく設定しておくことにより、平状材Sが凹部に嵌まり込むスペースを十分に確保することができる。その結果、平状材Sが圧潰されるような状態になったとしても、凹部を有さない一方の切刃に押された平状材Sが他方の切刃の凹部に嵌まり込むため、その嵌まり込んだ部分を切残し部として残すことができる。
【0078】
上記したように、パーシャルパンチ1の場合、ダイス10の切刃10aまたはパンチ20の切刃20aのいずれか一方に凹部を有することにより、切り出された切屑Swが1乃至3箇所の切残し部S1、S2、S3により円孔の位置で平状材Sに繋がっている。そのため、切屑Swは、平状材Sの円孔の位置から容易に脱落することなく、平状材Sとともにロータリパンチユニットや付帯装置内から搬出される。これに対して、
図1~
図8に示すパンチユニット1の場合、ダイス10の切刃10aまたはパンチ20の切刃20aのいずれか一方に凹部を有さないことにより、平状材Sから切り出された切屑Swが円孔の位置で平状材Sに繋がっていない。そのため、切屑Swは、平状材Sの円孔の位置から容易に離脱し、正常に脱落するもの、平状材Sの表面に付着するもの、あるいは、ロータリパンチユニットや付帯装置内に侵入するものなど、様々な挙動を起こすリスクがある。このような観点で、この発明に係るパーシャルパンチ1は、相応の実用性を有し、切屑Sw(穿孔片)の平状材S(被穿孔材)への付着およびロータリパンチユニットや付帯装置内への侵入を抑制することができると考えられる。
【0079】
<1点残しパンチ>
パーシャルパンチ1は、
(1-1)ダイス10の切刃10aまたはパンチ20の切刃20aのいずれか一方の噛み合い終点P2に対応する箇所、
(1-2)ダイス10の切刃10aまたはパンチ20の切刃20aのいずれか一方の噛み合い始点P1から噛み合い終点P2に向かって円孔(切屑Sw)の中心点Hcの矢印ZAで示す一方回りに角度θAが、好ましくは30度以上100度以下、より好ましくは30度以上90度以下となる範囲内の第1切断線SA上の任意の1点(噛み合い点PA)に対応する箇所、
(1-3)ダイス10の切刃10aまたはパンチ20の切刃20aのいずれか一方の噛み合い始点P1から噛み合い終点P2に向かって円孔(切屑Sw)の中心Hc点の矢印ZBで示す他方回りに角度θBが、好ましくは30度以上100度以下、より好ましくは30度以上90度以下となる範囲内の第2切断線SB上の任意の1点(噛み合い点PB)に対応する箇所、
のうちのいずれか1箇所に設けられた凹部に対応する位置で、平状材Sに対して1箇所が繋がる切屑Swを切り出す構成にすることができる。平状材Sに対して1箇所が繋がる切屑Swを切り出すパーシャルパンチ1を、簡便のため、1点残しパンチ1という。なお、
図12に示す平状材Sの円孔(切屑Sw)の中心点Hcは、
図10に示すダイス10の径方向の中心点Dcおよび
図11に示すパンチ20の径方向の中心点Pcに対応しており、Z方向において中心点Dcおよび中心点Pcと重なる。また、角度θA、θBが、好ましくは30度以上100度以下、より好ましくは30度以上90度以下となる範囲内に凹部を設ける構成が好ましいことについては、後述する。
【0080】
上記(1-1)の構成を有する1点残しパンチ1は、
図10に示す1つの凹部101に対応する位置で、あるいは、
図11に示す1つの凹部201に対応する位置で、平状材Sに対して
図12に示す切残し部S1の1箇所で繋がる切屑Swを切り出すことができる。また、上記(1-2)の構成を有する1点残しパンチ1は、
図10に示す1つの凹部102に対応する位置で、あるいは、
図11に示す1つの凹部202に対応する位置で、平状材Sに対して
図12に示す切残し部S2の1箇所で繋がる切屑Swを切り出すことができる。また、上記(1-3)の構成を有する1点残しパンチ1は、
図10に示す1つの凹部103に対応する位置で、あるいは、
図11に示す1つの凹部203に対応する位置で、平状材Sに対して
図12に示す切残し部S3の1箇所で繋がる切屑Swを切り出すことができる。
【0081】
上記した1点残しパンチ1で切り出される切屑Swは、
図12に示す3つの切残し部S1、S2、S3のうちのいずれか1箇所で、平状材Sに繋がっている。切屑Swを平状材Sに1箇所で繋げて円孔の位置に留めることにより、切屑Swの平状材Sからの脱落を抑制することができる。その結果、切屑Swは平状材Sとともに搬出されて、切屑Swが脱落してロータリパンチユニット内や付帯装置内に侵入するのを抑制することができる。
【0082】
1点残しパンチ1は、好ましくは、上記(1-1)の構成とし、凹部を噛み合い終点P2に対応する位置に設ける。これにより、噛み合い始点P1から噛み合い終点P2の直前まで、互いの切刃が滑らかに接触して噛み合いの異常が発生しにくくなるため、噛み合い終点P2の位置で平状材Sに繋がる切残し部S1の両端まで同時に滑らかに切り込むことができる。その結果、切残し部S1の平状材Sに繋がる部分の千切れが抑制されやすくなり、切屑Swの脱落抑制の効果がより高いものになる。
【0083】
<2点残しパンチ>
パーシャルパンチ1は、
(2-1)ダイス10の切刃10aまたはパンチ20の切刃20aのいずれか一方の噛み合い終点P2に対応する箇所と、ダイス10の切刃10aまたはパンチ20の切刃20aのいずれか一方の噛み合い始点P1から噛み合い終点P2に向かって円孔(切屑Sw)の中心点Hcの矢印ZAで示す一方回りに角度θAが、好ましくは30度以上100度以下、より好ましくは30度以上90度以下の範囲内となる第1切断線SA上の任意の1点(噛み合い点PA)に対応する箇所との組み合わせ、
(2-2)ダイス10の切刃10aまたはパンチ20の切刃20aのいずれか一方の噛み合い終点P2に対応する箇所と、ダイス10の切刃10aまたはパンチ20の切刃20aのいずれか一方の噛み合い始点P1から噛み合い終点P2に向かって円孔(切屑Sw)の中心点Hcの矢印ZBで示す他方回りに角度θBが、好ましくは30度以上100度以下、より好ましくは30度以上90度以下の範囲内となる第2切断線SB上の任意の1点(噛み合い点PB)に対応する箇所との組み合わせ、
(2-3)ダイス10の切刃10aまたはパンチ20の切刃20aのいずれか一方の噛み合い始点P1から噛み合い終点P2に向かって円孔(切屑Sw)の中心点Hcの矢印ZAで示す一方回りに角度θAが、好ましくは30度以上100度以下、より好ましくは30度以上90度以下となる範囲内の第1切断線SA上の任意の1点(噛み合い点PA)に対応する箇所と、ダイス10の切刃10aまたはパンチ20の切刃20aのいずれか一方の噛み合い始点P1から噛み合い終点P2に向かって円孔(切屑Sw)の中心点Hcの矢印ZBで示す他方回りに30度以上100度以下となる範囲内となる第2切断線SB上の任意の1点(噛み合い点PB)に対応する箇所との組み合わせ、
のうちのいずれか1つの組み合わせにより2箇所に設けられた凹部に対応する位置で、平状材Sに対して2箇所が繋がる切屑Swを切り出す構成にすることができる。平状材Sに対して2箇所が繋がる切屑Swを切り出す構成のパーシャルパンチ1を、簡便のため、2点残しパンチ1という。なお、中心点Hc、中心点Dcおよび中心点Pcとの関係は、1点残しパンチ1の場合と同じである。また、角度θA、θBが、好ましくは30度以上100度以下、より好ましくは30度以上90度以下となる範囲内に凹部を設ける構成が好ましいことについては、後述する。
【0084】
上記(2-1)の構成を有する2点残しパンチ1は、
図10に示す2つの凹部101、102に対応する位置で、あるいは、
図11に示す2つの凹部201、202に対応する位置で、平状材Sに対して
図12に示す切残し部S1、S2の2箇所で繋がる切屑Swを切り出すことができる。また、上記(2-2)の構成を有する2点残しパンチ1は、
図10に示す2つの凹部101、103に対応する位置で、あるいは、
図11に示す2つの凹部201、203に対応する位置で、平状材Sに対して
図12に示す切残し部S1、S2の2箇所で繋がる切屑Swを切り出すことができる。また、上記(2-3)の構成を有する2点残しパンチ1は、
図10に示す2つの凹部102、103に対応する位置で、あるいは、
図11に示す2つの凹部202、203に対応する位置で、平状材Sに対して
図12に示す切残し部S2、S3の2箇所で繋がる切屑Swを切り出すことができる。
【0085】
上記した2点残しパンチ1で切り出される切屑Swは、
図12に示す3つの切残し部S1、S2、S3のうちのいずれか2箇所で、平状材Sに繋がっている。切屑Swを平状材Sに2箇所で繋げて円孔の位置に留めることにより、1箇所で繋げた場合と比べて、切屑Swの平状材Sからの脱落抑制の効果を高めることができる。その結果、切屑Swは平状材Sとともに確実に搬出されて、切屑Swが脱落してロータリパンチユニット内や付帯装置内に侵入するのを確実に抑制することができる。
【0086】
2点残しパンチ1は、好ましくは、上記(2-3)の構成とし、2箇所の凹部を、角度θAが30度以上100度以下となる範囲内の第1切断線SA上の任意の1点(噛み合い点PA)に対応する箇所と、角度θBが、好ましくは30度以上100度以下、より好ましくは30度以上90度以下となる範囲内の第2切断線SB上の任意の1点(噛み合い点PB)に対応する箇所とに設ける。これにより、線対称となる軌道上を同時に移動する互いの切刃が互いの凹部を同時に通過させて、噛み合い点PA、PBの位置で平状材Sに繋がる切残し部S2、S3の一端で同時に切り込みを中断させて、切残し部S2、S3の他端から同時に切り込みを再開させることができる。その結果、噛み合い中に、噛み合い点PAと噛み合い点PBとの噛み合いのバランスが崩れるのが抑制されて、切残し部S2、S3が千切れるなどの不具合の発生を抑制することができる。
【0087】
<3点残しパンチ>
パーシャルパンチ1は、
(3-1)ダイス10の切刃10aまたはパンチ20の切刃20aのいずれか一方の噛み合い終点P2に対応する箇所と、ダイス10の切刃10aまたはパンチ20の切刃20aのいずれか一方の噛み合い始点P1から噛み合い終点P2に向かって円孔(切屑Sw)の中心点Hcの矢印ZAで示す一方回りに角度θAが、好ましくは30度以上100度以下、より好ましくは30度以上90度以下の範囲内となる第1切断線SA上の任意の1点(噛み合い点PA)に対応する箇所と、ダイス10の切刃10aまたはパンチ20の切刃20aのいずれか一方の噛み合い始点P1から噛み合い終点P2に向かって円孔(切屑Sw)の中心点Hcの矢印ZBで示す他方回りに角度θBが、好ましくは30度以上100度以下、より好ましくは30度以上90度以下の範囲内となる第2切断線SB上の任意の1点(噛み合い点PB)に対応する箇所との組み合わせにより、3箇所に設けられた凹部に対応する位置で、平状材Sに対して3箇所が繋がる切屑Swを切り出す構成にすることができる。平状材Sに対して3箇所が繋がる切屑Swを切り出す構成のパーシャルパンチ1を、簡便のため、3点残しパンチ1という。なお、中心点Hc、中心点Dcおよび中心点Pcとの関係は、1点残しパンチ1の場合と同じである。角度θA、θBが、好ましくは30度以上100度以下、より好ましくは30度以上90度以下となる範囲内に凹部を設ける構成が好ましいことについては、後述する。
【0088】
上記(3-1)の構成を有する3点残しパンチ1は、
図10に示す3つの凹部101、102、103に対応する位置で、あるいは、
図11に示す3つの凹部201、202、203に対応する位置で、平状材Sに対して
図12に示す切残し部S1、S2、S3の3箇所で繋がる切屑Swを切り出すことができる。上記した3点残しパンチ1で切り出される切屑Swは、切残し部S1、S2、S3の3箇所で、平状材Sに繋がっている。切屑Swを平状材Sに3箇所で繋げて円孔の位置に留めることにより、2箇所で繋げた場合と比べて、切屑Swの平状材Sからの脱落抑制の効果を十分に高めることができる。その結果、切屑Swは平状材Sとともに安全かつ確実に搬出されて、切屑Swが脱落してロータリパンチユニット内や付帯装置内に侵入するのを安全かつ確実に抑制することができる。
【0089】
パーシャルパンチ1は、好ましくは、上記(3-1)の構成とし、3箇所の凹部を、噛み合い終点P2に対応する箇所と、角度θAが、好ましくは30度以上100度以下、より好ましくは30度以上90度以下となる範囲内の第1切断線SA上の任意の1点(噛み合い点PA)に対応する箇所と、角度θBが、好ましくは30度以上100度以下、より好ましくは30度以上90度以下となる範囲内の第2切断線SB上の任意の1点(噛み合い点PB)に対応する箇所とに設ける。これにより、線対称となる軌道上を同時に移動する互いの切刃が互いの凹部を同時に通過させて、噛み合い点PA、PBの位置で平状材Sに繋がる切残し部S2、S3の一端で同時に切り込みを中断させて、切残し部S2、S3の他端から同時に切り込みを再開させることができる。そして、噛み合い終点P2の位置で平状材Sに繋がる切残し部S1の両端まで同時に滑らかに切り込むことができる。その結果、噛み合い中に、噛み合い点PAと噛み合い点PBとの噛み合いのバランスが崩れるのが抑制されるとともに、切残し部S1の平状材Sに繋がる部分の千切れが抑制されやすくなり、切残し部S1、S2、S3が千切れるなどの不具合の発生を抑制することができる。
【0090】
<角度θA、θBの範囲>
パーシャルパンチ1において、ダイス10側またはパンチ20側に設ける凹部を、上記した角度θA、θBが、好ましくは30度以上100度以下となる範囲内に設ける構成とし、より好ましくは30度以上90度以下となる範囲内に設ける構成とする。上記凹部を設ける角度θA、θBの適切な範囲は、ロータリパンチユニットを幾何学的にモデル化してシミュレーションを行い、その結果に基づいて設定している。以下、シミュレーションの内容を挙げて、上記凹部を角度θA、θBが、好ましくは30度以上100度以下、より好ましくは30度以上90度以下となる範囲内に設ける構成の有効性について説明する。
【0091】
シミュレーションでは、ロータリパンチユニットの幾何学的なモデル化を行うために、モデル化の前提条件を設定した。モデル化の前提条件は、下記1~5である。
[1]直径(外径)Dpのパンチ20の刃先20aが回転半径RpでX-Z平面上(
図4を参照)を回転移動(回転角ωp、軌跡円弧の長さRp・ωp、最大回転角ωpN)し、パンチ20と同期して直径(孔径)Ddのダイス10の刃先10aが回転半径RdでX-Z平面上を回転移動(回転角ωp、軌跡円弧の長さRp・ωp)することにより、互いの軌跡円弧の交点がX-Y平面上において噛み合い点Pを構成しながら移動する。
[2]噛み合い点Pは、噛み合い始点P1(原点)を出発し、X-Z平面上では軌跡円弧上を回転角ωp=0から最大回転角ωpNまで移動し、X-Y平面上では噛み合い点PAと噛み合い点PBとに分かれて互いに反対の向き(
図11、
図12を参照)に回転移動(回転角θ、最大回転角θpN)し、その後に噛み合い終点P2で合流する間に、平状材Sにパンチ20の刃先20aと同じ直径の円孔(切屑Sw)が形成される。
[3]噛み合い点PのX-Y平面上の位置(座標)は、噛み合い始点P1から噛み合い点Pに向かうベクトル(線分P1-P)で表わされ、そのベクトルのX方向成分(X座標)は円弧と弦との幾何学的関係から、Y方向成分(Y座標)は直角三角形の三平方の定理から、それぞれ求めることができる。
[4]クリアランスCは、ダイス10の切刃10aの直径(孔径)Ddに付加することで設定され、噛み合い始点P1側では噛み合いの始動を滑らかにするために零(C=0)に調整される。
[5]ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとの圧接状態は、ダイス10の回転軸Odとパンチ20の回転軸Odとの軸間距離Ldpおよび回転半径Rd、Rpとで決定されるZ方向のオーバーラップ量Lzを圧接代(Lz=0では圧接状態にならない)として、予め設定する噛み合い始点P1側の圧接配分(P1.pre)に応じて、ダイス10の噛み合い始点P1からのX方向の遅れ量PREを付加することにより調整される。
【0092】
シミュレーションでは、上記の前提条件1~5を考慮し、
図13に示す幾何学的モデルを構築した。また、
図13に示す幾何学的モデルを具体化するために、表1に示すパラメータおよび評価条件1~18を設定した。なお、シミュレーションでは、幾何学的モデルにおける角度θA、θBの対称性を考慮し、噛み合い点P(PA)の角度θA側の回転移動(回転角θp<i>、i=0~180、最大回転角θpN=180度)を評価対象とした。
【0093】
【0094】
シミュレーションでは、表1に示す評価条件1~18について、表2に示す各計算式を用いて各項目を計算し、その計算結果に基づいて精査・検討した。なお、表1に示すRp、Rd、Ldp、Lz、Dp、DdおよびCは、ロータリパンチユニットの設計段階で決定される固定値である。また、RdとRpとの差分Rd-Rp(=Rdpとする)も固定値である。しかし、Cは、Y方向において、噛み合い始点P1側で組立時にC1(=0)に調整され(前提条件4参照)、その結果として噛み合い終点P2側でC2(=C)に調整される。また、C1と同時に、表1に示す噛み合い始点P1側の圧接配分P1.preも組立時に調整される(前提条件5参照)。よって、設計段階で決定されず、組立時に調整されるC1およびP1.preは、人為的なバラツキを含む変動値と見做すことができる。
【0095】
【0096】
表1に示すように、評価条件1~18に対する変化傾向は、ダイスの直径DdとクリアランスCとが対応し、噛み合い始点P1の圧接配分P1.PREとダイスのX方向の遅れ量PREとが対応する。なお、表1に示すダイスの切刃の回転半径Rdとパンチの切刃の回転半径Rpとの差分Rdp=Rd-Rpを求めると、評価条件1~9ではRdpが0mm、評価条件10~18ではRdpが0.15mmとなる。
【0097】
評価条件1~18について求めた、X-Y平面上の回転角θp<i>に対する差分Xdp<i>および差分Ydp<i>の最小値、平均値および最大値を、表3に示す。また、表3に基づいて作成した、評価条件1~18に対する差分Xdp<i>のグラフを
図14に示し、評価条件1~18に対する差分Ydp<i>のグラフを
図15に示す。
【0098】
【0099】
[差分Xdp<i>]
表3および
図14に示すように、評価条件1~9(Rdp=0)および評価条件10~18(Rdp=0.15)のそれぞれに対して、差分Xdp<i>の平均値が階段状に減少する傾向を示すことが分かる。また、その数値は異なっているが、差分Xdp<i>の最小値および最大値も同様に、それぞれ、平均値と同様な階段状の変化傾向を示すことが分かる。たとえば、差分Xdp<i>の平均値は、評価条件1~3では0.000000で一定となり、評価条件4~6では-0.007500で一定となり、評価条件7~9では-0.015000で一定となり、評価条件10~12では0.022467で一定となり、評価条件13~15では0.014967で一定となり、評価条件16~18では0.007467で一定となっている。この差分Xdp<i>が示す階段状の変化傾向は、表1を参照すれば、ダイスのX方向の遅れ量PREの変化に対応し、クリアランスCの変化に対応しないことが分かる。また、差分Xdp<i>の平均値の水準(中央値)を観ると、評価条件1~9では-0.0075程度であり、評価条件10~18では0.0150程度であり、両者の水準には0.0225程度の違いがある。この差分Xdp<i>の平均値の水準(中央値)の違いは、表1を参照すれば、回転半径の差分Rdpの違いに対応すると考えられる。
【0100】
[差分Ydp<i>]
表3および
図15に示すように、評価条件1~9(Rdp=0)に対して、差分Ydp<i>の最大値が順次増大する傾向を示ことが分かる。そして、評価条件10~18(Rdp=0.15)に対して、差分Ydp<i>の最小値が順次増大する傾向を示すことが分かる。この差分Ydp<i>の最大値および最小値が示す順次増大する変化傾向は、表1を参照すれば、ダイスのX方向の遅れ量PREとクリアランスCとの和(PRE+C)の変化に対応することが分かる。
【0101】
また、評価条件1~9に対して、差分Ydp<i>の最小値が階段状に減少する傾向を示すことが分かる。そして、評価条件10~18に対して、差分Ydp<i>の最大値が階段状に減少する傾向を示すことが分かる。詳しくは、差分Ydp<i>の最小値は、評価条件1~3から評価条件4~6へ、評価条件4~6から評価条件7~9へと、順次階段状に減少する傾向を示すことが分かる。そして、差分Ydp<i>の最大値は、評価条件10~12から評価条件13~15へ、評価条件13~15から評価条件16~18へと、順次階段状に減少する傾向を示すことが分かる。この差分Ydp<i>の最大値および最小値が示す階段状に順次減少する変化傾向は、表1を参照すれば、ダイスのX方向の遅れ量PREの変化に対して反比例するように対応し、回転半径の差分Rdpの変化に対応しないことが分かる。
【0102】
また、評価条件4~6および評価条件7~9のそれぞれに対して、差分Ydp<i>の最小値が順次増大する傾向を示すことが分かる。なお、表3では小数点第7位以下の記載を略しているが、評価条件1~3に対しても、差分Ydp<i>の最小値が順次増大する傾向を示す。そして、評価条件10~12、評価条件13~15および評価条件16~18のそれぞれに対して、差分Ydp<i>の最大値が順次増大する傾向を示すことが分かる。この差分Ydp<i>の最小値および最大値が示す階段状に順次増大する変化傾向は、表1を参照すれば、ダイスのX方向の遅れ量PREの変化に対して反比例するように対応し、クリアランスCの変化に対して比例するように対応し、回転半径の差分Rdpの変化に対応しないことが分かる。
【0103】
また、差分Ydp<i>の平均値の水準(中央値)を観ると、評価条件1~9では0.0031程度であり、評価条件10~18では-0.0143程度であり、両者の水準には0.0174程度の違いがある。この差分Ydp<i>の平均値の水準(中央値)の違いは、表1を参照すれば、回転半径の差分Rdpの違いに対応すると考えられる。
【0104】
上記したシミュレーションおよびその結果から、差分Xdp<i>はPREおよびRdpの影響を受け、差分Ydp<i>はPRE、CおよびRdpの影響を受けることが分かった。なお、組立時に調整される噛み合い始点P1側のC1およびP1.preは、上記したように人為的なバラツキを含む変動値であるから、C1に係るCおよびP1.preに係るPREはバラツキを含むパラメータである。また、設計段階で決定される回転半径Rd、Rpは人為的なバラツキを含まない固定値であるから、その差分Rdpはバラツキを含まない一定値である。パーシャルパンチ1において、ダイス10側またはパンチ20側に設ける凹部を設ける角度θA(θB)の適切な範囲を決める場合、より多くのパラメータの影響を受ける指標に基づくことが望ましいと考えられる。この観点から、凹部を設ける角度θA(θB)の範囲の有効性を評価する指標として、PREおよびRdpの影響に加えて、Cの影響を受ける差分Ydp<i>の方が、差分Xdp<i>よりも適切であると判断した。
【0105】
ここで、噛み合い点P(PA、PB)を構成するダイス側の噛み合い点をPdとし、パンチ側の噛み合い点をPpとして、ダイス側の点Pdとパンチ側の点Ppとの位置関係と、表2の項目5に示す差分Xdp<i>および項目6に示す差分Ydp<i>との関係について説明する。
【0106】
X方向において、差分Xdp<i>が正値の場合、パンチ側の点Ppがダイス側の点Pdよりも0(原点)に近い。そのため、パンチ側の点Ppがダイス側の点Pdに接して、噛み合い点Pに圧接力を生じることになる。一方、差分Xdp<i>が負値の場合、ダイス側の点Pdがパンチ側の点Ppよりも0(原点)に近い。そのため、パンチ側の点Ppがダイス側の点Pdから離れて、噛み合い点Pに隙間を生じることになる。なお、差分Xdp<i>が0(零)の場合、パンチ側の点Ppがダイス側の点Pdに接して噛み合い点Pに圧接力を生じる可能性も、パンチ側の点Ppがダイス側の点Pdから離れて噛み合い点Pに隙間を生じる可能性もある。その場合、差分Ydp<i>が0(零)でなければ、噛み合い点Pには圧接力または隙間が生じることになる。
【0107】
Y方向において、Ydp<i>が正値の場合、パンチ側の点Ppがダイス側の点Pdよりも0(原点)に近い。そのため、パンチ側の点Ppがダイス側の点Pdから離れて、噛み合い点Pに隙間を生じることになる。一方、Ydp<i>が負値の場合、ダイス側の点Pdがパンチ側の点Ppよりも0(原点)に近い。そのため、パンチ側の点Ppがダイス側の点Pdに接して、噛み合い点Pに圧接力を生じることになる。なお、差分Ydp<i>が0(零)の場合、パンチ側の点Ppがダイス側の点Pdに接して噛み合い点Pに圧接力を生じる可能性も、パンチ側の点Ppがダイス側の点Pdから離れて噛み合い点Pに隙間を生じる可能性もある。その場合、差分Xdp<i>が0(零)でなければ、噛み合い点Pには圧接力または隙間が生じることになる。
【0108】
噛み合い点Pの隙間が適切な場合、切り込み力(剪断力)が安定して平状材への切り込みが滑らかになるとともに、凹部における切刃の引っ掛かりが緩和される。しかし、噛み合い点Pの隙間が過大な場合、切り込み力(剪断力)が分散されて平状材の切り込みが不安定になる。また、噛み合い点Pの圧接力が適切な場合、切り込み力(剪断力)に圧接力が加わって平状材への切り込みがより安定かつ滑らかになる。しかし、噛み合い点Pの圧接力が過大な場合、圧接力が同期回転による噛み合い点Pの推進力を上回って切刃にカジリが発生する可能性がある。
【0109】
上記したように、平状材への好適な切り込み状態を得るためには、0mm≦Dd-Dp≦0.005mmの関係を満たすことが好ましい。この観点から、設計条件などの適切な選定により評価条件1~18のいずれかの構成を有するパーシャルパンチ1を実現可能な角度θp(θA、θB)を設定することにした。具体的には、噛み合い点Pに隙間を生じる可能性がある差分Ydp<i>が正値の場合、0.005mm程度の隙間を許容可能と考えて、差分Ydp<i>の適切な上限値を0.005mmとした。また、噛み合い点Pに圧接力を生じる可能性がある差分Ydp<i>が負値の場合、幾何学的に凹部の端部に対して圧接力が生じない0mmを理想として、差分Ydp<i>の適切な下限値を0mmとした。すなわち、差分Ydp<i>が0mm以上0.005mm以下の範囲になる角度θp<i>であって、設計条件などの適切な選定により評価条件1~18のいずれかの構成を有するパーシャルパンチ1を実現可能な角度θp<i>を、凹部を設けるのに好ましい適切な位置と判断することにした。また、噛み合い始点P1からの角度θp(θA、θB)が90度を超える位置に凹部を設けた場合、Y方向において、凹部の終端部の位置が始端部の位置よりも原点(0)に近くなる。そのため、凹部を通過する噛み合い点Pは、角度θpが大きくなるに連れて、凹部の終端部に接触する可能性がより大きくなる。この観点から、差分Ydp<i>が0.005mm以下になる角度θp<i>であっても、設計条件などの適切な選定により評価条件1~18のいずれかの構成を有するパーシャルパンチ1を実現可能で、噛み合い点Pが凹部の終端部に接触する可能性がより小さくなる角度θpを、より適切で好ましい構成とした。
【0110】
図16に、評価条件1~9(Rdp=0)について、回転角θp<i>に対する差分Ydp<i>のグラフ(プロット値の記載は略す)を示す。なお、図示は略すが、差分Xdp<i>のグラフは、X軸(θp)に平行な直線(Y=aの形)を示し、評価条件1~3ではa=0、評価条件4~6ではa=-0.0075、評価条件7~9ではa=-0.015となる。また、
図17に、評価条件10~18(Rdp=0.15)について、回転角θpに対する差分Ydp<i>のグラフ(プロット値の記載は略す)を示す。なお、図示は略すが、差分Xdp<i>のグラフは、X軸(θp)に対して一定の勾配の直線(Y=aX+bの形)を示し、評価条件10~12ではa=0.0002、b=0.00003となり、評価条件13~15ではa=0.0002、b=-0.0075となり、評価条件16~18ではa=0.0002、b=-0.015となる。また、表4に、差分Ydp<i>が0mm以上0.005mm以下の範囲になる角度θp<i>、すなわち、0mm≦Ydp<i>≦0.005mmを満たすθp<i>の最小値、中央値および最大値を示す。
【0111】
【0112】
角度θp<i>の噛み合い始点P1に近い側の適切な位置は、
図16、
図17および表4に示すように、評価条件1~3では、最小値が1度であることから、特段の制限がない(約1度以上)と考えられる。評価条件4~6では、最小値が68度~90度であることから、噛み合い始点P1から90度(約90度以上)が好ましいと考えられる。評価条件7~9では、最小値が78度~90度であることから、噛み合い始点P1から90度(約90度以上)が好ましいと考えられる。評価条件10~12では、最小値が63度~77度であることから、噛み合い始点P1から77度(約80度以上)が好ましいと考えられる。評価条件13~15では、最小値が26度~30度であることから、噛み合い始点P1から30度(約30以上)が好ましいと考えられる。評価条件16~18では、最小値が49度~60度であることから、噛み合い始点P1から60度(約60度以上)が好ましいと考えられる。
【0113】
また、角度θp<i>の噛み合い終点P2に近い側の適切な位置は、
図16、
図17および表4に示すように、評価条件1~3では、最大値が143度~179度であることから、噛み合い始点P1から143度(約140度以下)が好ましいと考えられる。評価条件4~6では、最大値が111度~139度であることから、噛み合い始点P1から111度(約110度以下)が好ましいと考えられる。評価条件7~9では、最大値が102度~118度であることから、噛み合い始点P1から102度(約100度以下)が好ましいと考えられる。評価条件10~12では、最大値が89度~99度であることから、噛み合い始点P1から89度(約85度以下)が好ましいと考えられる。評価条件13~15では、最大値が89度~103度であることから、噛み合い始点P1から89度(約85度以下)が好ましいと考えられる。評価条件16~18では、最大値が89度~111度であることから、噛み合い始点P1から89度(約85度以下)が好ましいと考えられる。
【0114】
上記したシミュレーション結果から、表4に示すように、評価条件1~3の場合、角度θp<i>の噛み合い始点P1に近い側に有効と考えられる位置が存在せず、角度θp<i>の噛み合い終点P2に近い側には有効と考えられる位置が存在し、その有効範囲が1度~143度(約140度以下)であることが分かった。評価条件4~6の場合、角度θp<i>の噛み合い始点P1に近い側および噛み合い終点P2に近い側の両方に有効と考えられる位置が存在し、その有効範囲が90度~111度(約90度以上約110度以下)であることが分かった。評価条件7~9の場合、角度θp<i>の噛み合い始点P1に近い側および噛み合い終点P2に近い側の両方に有効と考えられる位置が存在し、その有効範囲が90度~102度(約90度以上約100度以下)であることが分かった。評価条件10~12の場合、角度θp<i>の噛み合い始点P1に近い側および噛み合い終点P2に近い側の両方に有効と考えられる位置が存在し、その有効範囲が77度~89度(約80度以上約85度以下)であることが分かった。評価条件13~15の場合、角度θp<i>の噛み合い始点P1に近い側および噛み合い終点P2に近い側の両方に有効と考えられる位置が存在し、その有効範囲が30度~89度(約30度以上約85度以下)であることが分かった。評価条件16~18の場合、角度θp<i>の噛み合い始点P1に近い側および噛み合い終点P2に近い側の両方に有効と考えられる位置が存在し、その有効範囲が60度~89度(約60度以上約85度以下)であることが分かった。
【0115】
ここで、ダイス側またはパンチ側に設ける凹部の位置、すなわち上記した角度θA、θBの範囲について、補足する。たとえば、平状材Sから切屑Swを切り出す際に、平状材Sを切残すための凹部がθp<i>の0度を超えて90度までの範囲内にある場合、噛み合い点Pの切り込みが噛み合い始点P1(θp<i>が0度)からθp<i>が90度の位置に向かって進むに連れて、ダイス10の切刃10aのY方向の長さ(ダイス10の開口幅)が次第に大きくなる。そのため、パンチ20の切刃20aと凹部の終端側(切終り側)との間の相対的な距離が次第に大きくなる。したがって、噛み合い点Pがθp<i>の0度を超えて90度までの範囲内に位置するときは、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが次第に遠ざかるため引っ掛かりにくくなる。一方、平状材Sを切残すための凹部がθp<i>の90度を超えて180度までの範囲内にある場合、噛み合い点Pの切り込みがθp<i>が90度を超えた位置から噛み合い終点P2(θp<i>が180度)に向かって進むに連れて、ダイス10の切刃10aのY方向の長さ(ダイス10の開口幅)は次第に小さくなる。そのため、パンチ20の切刃20aと凹部の終端側(切終り側)との間の相対的な距離が次第に小さくなる。したがって、噛み合い点Pがθp<i>の90度を超えて180度までの範囲内に位置するときは、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが次第に近づくため引っ掛かりやすくなる。この観点で凹部を設ける位置を選択するのであれば、ダイス10の切刃10aとパンチ20の切刃20aとが引っ掛かりにくい、θp<i>が0度を超えて90度までの範囲内で選択すればよい。
【0116】
上記より、角度θp<i>の噛み合い始点P1に近い側の適切な位置は、設計条件などの適切な選定により評価条件1~18のいずれかの構成を有するパーシャルパンチ1を実現可能角度θp<i>に設定することを考慮して、好ましくは30度以上、より好ましくは40度以上、より一層好ましくは50度以上に設定する構成が適切であると判断した。また、角度θp<i>の噛み合い終点P2に近い側の適切な位置は、設計条件などの適切な選定により評価条件1~18のいずれかの構成を有するパーシャルパンチ1を実現可能角度θp<i>に設定することに加えて、噛み合い点Pが凹部の終端部に接触する可能性をより小さくするために110度を超えないように考慮して、好ましくは100度以下、より好ましくは95度以下、より一層好ましくは90度以下に設定する構成が適切であると判断した。
【0117】
よって、パーシャルパンチ1において、ダイス側またはパンチ側に設ける凹部は、上記した角度θA、θBが、好ましくは30度以上100度以下となる範囲内に設ける構成とし、より好ましくは30度以上90度以下となる範囲内に設ける構成とするのが適切であると判断した。また、ダイス側またはパンチ側に設ける凹部は、上記した角度θA、θBの下限を、40度以上とするのがより好ましく、50度以上とするのがより一層好ましいと判断した。また、ダイス側またはパンチ側に設ける凹部は、上記した角度θA、θBの上限を、95度以下とするのがより好ましく、90度以下とするのがより一層好ましいと判断した。
【0118】
以上より、凹部を設ける位置に対応する角度θA、θBは、平状材(材質、厚さ、切残し幅など)や凹部(個数、形状など)などの諸条件に応じて、たとえば、30度以上100度以下、30度以上95度以下、30度以上90度以下、40度以上100度以下、40度以上95度以下、40度以上90度以下、50度以上100度以下、50度以上95度以下、50度以上90度以下などの範囲で設定可能であることを確認することができた。
【0119】
上記したように、この発明によれば、上記した構成を有するパーシャルパンチ1を提供することができる。上記した構成を有するパーシャルパンチ1は、相応の実用性を有し、切屑(穿孔片)の平状材(被穿孔材)への付着およびロータリパンチユニットや付帯装置内への侵入が抑制される、ロータリパンチユニットとなる。
【符号の説明】
【0120】
1:パンチユニット、パーシャルパンチ
<ダイス関係>
10:ダイス、10a:切刃、10b:縁(角部の縁)、11:第1軸、12:ギヤ、13:シザースギヤ、14:フレーム、15:円周面(ダイスの最外の回転軌跡円)、101、102、103:凹部、Dd:ダイス(孔)の内径、Rd:ダイスの回転半径、Od:軸心(ダイスの回転中心)、Vd:ダイスの最外の周速
<パンチ関係>
20:パンチ、20a:切刃、20b:縁(角部の縁)、20c:側面(角部の縁の近傍)、21:第2軸、22:ギヤ、25:円周面(パンチの最外の回転軌跡円)、201、202、203:凹部、Dp:パンチ(凸部)の外径、Rp:パンチの回転半径、Op:軸心(パンチの回転中心)、Vp:パンチの最外の周速
<平状材関係>
S:平状材(被穿孔材)、Sw:切屑(円孔にも援用)、S1:切残し部、S2:切残し部、S3:切残し部、SA:第1切断線、SB:第2切断線
<噛み合い関係>
P:噛み合い点(穿孔点)、P1:噛み合い始点(穿孔始点)、P2:噛み合い終点(穿孔終点)、PA、PB:噛み合い点(P1からP2まで同時かつ対称な軌道で移動する一対の点)
<その他>
PL:パスライン、Ldp:軸間距離、Lz:オーバーラップ量、C1:隙間(噛み込み始点側)、C2:隙間(噛み込み終点側)、α:噛み合い角、ZA:矢印、ZB:矢印
【要約】
【課題】 相応の実用性を有し、切屑の平状材(被穿孔材)への付着およびロータリパンチユニットや付帯装置内への侵入が抑制される、ロータリパンチユニットを提供する。
【解決手段】 一方向に回転する第1軸に備わるダイスの切刃と、前記第1軸の軸方向に対して平行かつ前記第1軸とは逆方向に同期回転する第2軸に備わるパンチの切刃とで構成される噛み合い部が、噛み合い始点から噛み合い終点まで移動する間に、一方回りの半円状の第1切断線と他方回りの半円状の第2切断線とを形成し、前記ダイスと前記パンチとの間に供給された平状材から切屑を切り出して円孔を形成するロータリパンチユニットであって、前記ダイスの切刃または前記パンチの切刃のいずれか一方に設けられた1乃至3箇所の凹部に対応する位置で、前記平状材に対して1乃至3箇所が繋がる前記切屑を切り出す、ロータリパンチユニットとする。
【選択図】
図10