(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】プロジェクトの進捗予測方法、進捗予測装置、及び進捗予測プログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/0639 20230101AFI20240925BHJP
【FI】
G06Q10/0639
(21)【出願番号】P 2024529433
(86)(22)【出願日】2022-12-09
(86)【国際出願番号】 JP2022045443
【審査請求日】2024-05-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古市 和也
(72)【発明者】
【氏名】大木 英介
(72)【発明者】
【氏名】安井 威公
【審査官】上田 威
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-131745(JP,A)
【文献】特開2000-322252(JP,A)
【文献】特開2007-018163(JP,A)
【文献】特開2020-098424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロジェクトの進捗予測方法であって、
前記プロジェクトは、少なくとも1つの工程を含み、
コンピュータが、
前記工程の進捗度およびそれに対応する実行時期を含む進捗計画のデータを取得し、
前記進捗計画における完了済みの部分の進捗度およびそれに対応する実行時期を含む進捗実績のデータを取得し、
前記進捗実績のデータに基づき、前記工程の基準時点から所定の進捗度を達成した所定時点までの実績期間を算出し、
前記進捗計画のデータに基づき、前記工程の前記基準時点から前記所定の進捗度と同一の進捗度が達成される時点までの計画期間を算出し、
前記実績期間および前記計画期間に基づき、前記工程の進捗に関する進捗評価指標を算出し、
前記進捗評価指標に基づき、前記所定時点以降におけ
る進捗実
績を予測して、前記所定時点以降における進捗実績に基づくデータを生成する、プロジェクトの進捗予測方法。
【請求項2】
前記進捗評価指標は、前記実績期間に対する前記計画期間の比である、請求項1に記載のプロジェクトの進捗予測方法。
【請求項3】
前記進捗評価指標として、一定の値が用いられる、請求項2に記載のプロジェクトの進捗予測方法。
【請求項4】
前記進捗計画のデータは、第1の機械学習モデルによって決定され、
前記第1の機械学習モデルは、過去のプロジェクトにおける工程の進捗度と、それに対応する実行時期を含む進捗実績との関係を学習したモデルである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記進捗実
績の予測には、前記プロジェクトの完了日の予測が含まれ、
前記プロジェクトの完了日が予め設定された基準完了日を超える場合、前記所定時点以降の前記工程の実行に必要なリソースの設定を変更し、
前記変更されたリソースに基づき前記進捗評価指標を修正した修正評価指標を算出し、
前記進捗実
績の予測は、前記修正評価指標に基づき行われる、請求項1に記載のプロジェクトの進捗予測方法。
【請求項6】
前記工程の実行に必要なリソースは、第2の機械学習モデルによって決定され、
前記第2の機械学習モデルは、過去のプロジェクトにおいて前記工程に投入されたリソースと、前記リソースが投入された後の前記工程の工期との関係を学習したモデルである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記プロジェクトは、前記少なくとも1つの工程として、先行する第1工程および後続の第2工程を含み、
前記第1工程における少なくとも1つの第1のマイルストンの情報と、前記第2工程において、前記第1のマイルストンの各々に時期的に対応する第2のマイルストンの情報と、を取得し、
前記第1工程の前記進捗実績のデータにおける前記各第1のマイルストンに関するデータと、前記第2工程の前記進捗実績のデータにおける対応する前記第2のマイルストンに関するデータとの関係が、前記第2工程の前記進捗評価指標に及ぼす影響を表す影響評価モデルを取得し、
前記所定時点において前記影響評価モデルに基づき前記第2工程の前記進捗評価指標を修正した修正評価指標を算出し、
前記第2工程に関する前記進捗実
績の予測では、前記修正評価指標に基づき、前記第2工程における前記所定時点以降
の進捗実
績を予測する、請求項1に記載のプロジェクトの進捗予測方法。
【請求項8】
完了済みの複数のプロジェクトについて、それぞれ前記進捗実績のデータを蓄積し、
前記第1のマイルストンおよび前記第2のマイルストンは、前記蓄積された進捗実績のデータに基づき決定される、請求項7に記載のプロジェクトの進捗予測方法。
【請求項9】
前記各第1のマイルストンおよび前記各第2のマイルストンは、前記完了済みの複数のプロジェクトのうち、前記第2工程の工期が最も短いプロジェクトの前記進捗実績のデータに基づき決定される、請求項8に記載のプロジェクトの進捗予測方法。
【請求項10】
完了済みの複数のプロジェクトについて、それぞれ前記進捗実績のデータを蓄積し、
前記影響評価モデルは、前記蓄積された進捗実績のデータに基づき決定される、請求項7に記載のプロジェクトの進捗予測方法。
【請求項11】
前記影響評価モデルは、前記蓄積された進捗実績のデータと第2工程の前記進捗評価指標との関係を学習した第3の機械学習モデルである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記修正評価指標は、
基準時点から前記各第1のマイルストンまでの第1マイルストン期間と、
前記基準時点から前記各第2のマイルストンまでの第2マイルストン期間と、
前記各第1マイルストン期間およびそれに対応する前記各第2マイルストン期間の差分と、に基づき算出される、請求項7に記載のプロジェクトの進捗予測方法。
【請求項13】
前記第1工程の前記進捗実績のデータにおいて、前記第1
のマイルストンの時期に遅れが生じた場合、前記第2工程の前記進捗計画のデータにおいて対応する前記第2
のマイルストンの時期を、前記遅れが生じた前記第1
のマイルストンの時期以降に変更する、請求項7に記載のプロジェクトの進捗予測方法。
【請求項14】
プロジェクトの進捗予測の処理を実行するプロセッサを備えた進捗予測装置であって、
前記プロジェクトは、少なくとも1つの工程を含み、
前記プロセッサは、
前記工程の進捗度およびそれに対応する実行時期を含む進捗計画のデータを取得し、
前記進捗計画における完了済みの部分の進捗度およびそれに対応する実行時期を含む進捗実績のデータを取得し、
前記進捗実績のデータに基づき、前記工程の基準時点から所定の進捗度を達成した所定時点までの実績期間を算出し、
前記進捗計画のデータに基づき、前記工程の前記基準時点から前記所定の進捗度と同一の進捗度が達成される時点までの計画期間を算出し、
前記実績期間および前記計画期間に基づき、前記工程の進捗に関する進捗評価指標を算出し、
前記進捗評価指標に基づき、前記所定時点以降におけ
る進捗実
績を予測して、前記所定時点以降における進捗実績に基づくデータを生成する、プロジェクトの進捗予測装置。
【請求項15】
プロジェクトの進捗予測の処理をコンピュータに実行させる進捗予測プログラムであって、
前記プロジェクトは、少なくとも1つの工程を含み、
前記コンピュータに、
前記工程の進捗度およびそれに対応する実行時期を含む進捗計画のデータを取得させ、
前記進捗計画における完了済みの部分の進捗度およびそれに対応する実行時期を含む進捗実績のデータを取得させ、
前記進捗実績のデータに基づき、前記工程の基準時点から所定の進捗度を達成した所定時点までの実績期間を算出させ、
前記進捗計画のデータに基づき、前記工程の前記基準時点から前記所定の進捗度と同一の進捗度が達成される時点までの計画期間を算出させ、
前記実績期間および前記計画期間に基づき、前記工程の進捗に関する進捗評価指標を算出させ、
前記進捗評価指標に基づき、前記所定時点以降におけ
る進捗実
績を予測させ、前記所定時点以降における進捗実績に基づくデータを生成させる、プロジェクトの進捗予測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実行中のプロジェクトについて、今後の進捗を予測するプロジェクトの進捗予測方法、進捗予測装置、及び進捗予測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にプロジェクトの実行時には、当初の計画に対する遅延(すなわち、進捗計画と進捗実績との乖離)が生じる場合がある。その場合、プロジェクトの管理者は、その遅延状況を適切に把握し、それを解消するための対策を講ずる必要がある。
【0003】
従来、プロジェクトの進捗管理精度を高めるために、任意の時点毎にプロジェクトの進捗情報管理ファイルから遅延工数の算出に必要な情報を抽出し、作業予定および作業実績を元に算出した遅延工数を格納し、その遅延工数の履歴を可視化する装置が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
また、プロジェクトの予定計画の策定を支援するために、作業工程毎に予定情報および実績情報を管理する作業工程情報と、それら予定情報と実績情報との差(各作業工程の予定と実績との差)を生じさせた理由を示す乖離情報とを関連付けて管理し、作業工程で生成される成果物ファイルが格納されている格納先情報を有する成果物ファイル情報を、上記作業工程情報と関連付けて管理し、上記作業工程情報および乖離情報と、上記成果物ファイル情報とを表示手段に表示させる装置が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-204098号公報
【文献】特開2002-32225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1、2に記載された従来技術では、プロジェクトの進捗状況は工数(例えば、計画に対する遅延工数)によって把握される。したがって、それらの従来技術では、実行中のプロジェクトにおいて、今後の期日(例えば、プロジェクトにおける処理対象の工程の中間地点や完了日など)を含む進捗状況(例えば、当初計画における所定の期日とそれに対応する実績の期日とにどれくらいの乖離が生じるか)を簡易に予測することは困難である。
【0007】
そこで、本願発明者らは、鋭意検討した結果、建設プロジェクト等の中間地点(今後の進捗を予測する時点)における計画期間と実績期間との関係を考慮することにより、今後の進捗状況を簡易な処理によって予測できることを見出した。
【0008】
本発明は、以上の背景に鑑み、実行中のプロジェクトにおける工程の中間地点において、その後の期日を含む進捗を簡易な処理によって予測できるプロジェクトの進捗予測方法、進捗予測装置、及び進捗予測プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、プロジェクトの進捗予測方法であって、前記プロジェクトは、少なくとも1つの工程を含み、前記工程の進捗度およびそれに対応する実行時期を含む進捗計画のデータを取得し、前記進捗計画における完了済みの部分の進捗度およびそれに対応する実行時期を含む進捗実績のデータを取得し、前記進捗実績のデータに基づき、前記工程の基準時点から所定の進捗度を達成した所定時点までの実績期間を算出し、前記進捗計画のデータに基づき、前記工程の前記基準時点から前記所定の進捗度と同一の進捗度が達成される時点までの計画期間を算出し、前記実績期間および前記計画期間に基づき、前記工程の進捗に関する進捗評価指標を算出し、前記進捗評価指標に基づき、前記所定時点以降における前記進捗実績のデータを予測する構成とする。
【0010】
この態様によれば、実行中のプロジェクトにおける工程の所定時点(すなわち、中間地点)において、所定時点以降の進捗実績のデータ(すなわち、期日を含む進捗)を簡易な処理によって予測することができる。
【0011】
上記の態様において、前記進捗評価指標は、前記実績期間に対する前記計画期間の比であるとよい。
【0012】
この態様によれば、実績期間に対する計画期間の比に基づき、簡易な処理によって進捗評価指標を算出することができる。
【0013】
上記の態様において、前記進捗評価指標として、一定の値が用いられるとよい。
【0014】
この態様によれば、進捗評価指標として一定の値を用いることにより、所定時点以降の進捗実績のデータをより簡易な処理によって予測することができる。
【0015】
上記の態様において、前記進捗計画のデータは、第1の機械学習モデルによって決定され、前記第1の機械学習モデルは、過去のプロジェクトにおける工程の進捗度と、それに対応する実行時期を含む進捗実績との関係を学習したモデルであるとよい。
【0016】
この態様によれば、第1の機械学習モデルを用いることにより、進捗計画のデータを簡易な処理によって取得することができる。
【0017】
上記の態様において、前記進捗実績のデータの予測には、前記プロジェクトの完了日の予測が含まれ、前記プロジェクトの完了日が予め設定された基準完了日を超える場合、前記所定時点以降の前記工程の実行に必要なリソースの設定を変更し、前記変更されたリソースに基づき前記進捗評価指標を修正した修正評価指標を算出し、前記進捗実績のデータの予測は、前記修正評価指標に基づき行われるとよい。
【0018】
この態様によれば、実行中のプロジェクトにおける工程の所定時点において各工程に投入されるリソースが変更された場合でも、完了日を含む所定時点以降の進捗実績のデータを簡易な処理によって予測することができる。
【0019】
上記の態様において、前記工程の実行に必要なリソースは、第2の機械学習モデルによって決定され、前記第2の機械学習モデルは、過去のプロジェクトにおいて前記工程に投入されたリソースと、前記リソースが投入された後の前記工程の工期との関係を学習したモデルであるとよい。
【0020】
この態様によれば、第2の機械学習モデルを用いることにより、各工程に必要なリソース(すなわち、変更後のリソース)を簡易な処理によって取得することができる。
【0021】
上記の態様において、前記プロジェクトは、前記少なくとも1つの工程として、先行する第1工程および後続の第2工程を含み、前記第1工程における少なくとも1つの第1のマイルストンの情報と、前記第2工程において、前記第1のマイルストンの各々に時期的に対応する第2のマイルストンの情報と、を取得し、前記第1工程の前記進捗実績のデータにおける前記各第1のマイルストンに関するデータと、前記第2工程の前記進捗実績のデータにおける対応する前記第2のマイルストンに関するデータとの関係が、前記第2工程の前記進捗評価指標に及ぼす影響を表す影響評価モデルを取得し、前記所定時点において前記影響評価モデルに基づき前記第2工程の前記進捗評価指標を修正した修正評価指標を算出し、前記第2工程に関する前記進捗実績のデータの予測では、前記修正評価指標に基づき、前記第2工程における前記所定時点以降の前記進捗実績のデータを予測するとよい。
【0022】
この態様によれば、プロジェクトに複数の工程(第1工程、第2工程)が含まれる場合に、工程間の影響を表す影響評価モデルに基づき修正された修正評価指標に基づき、第2工程の所定時点(中間地点)以降におけるデータを予測するため、先行する第1工程の進捗実績の影響を受ける後続の第2工程において、所定時点以降の進捗実績のデータを簡易な処理によって予測することができる。
【0023】
上記の態様において、完了済みの複数のプロジェクトについて、それぞれ前記進捗実績のデータを蓄積し、前記第1のマイルストンおよび前記第2のマイルストンは、前記蓄積された進捗実績のデータに基づき決定されるとよい。
【0024】
この態様によれば、完了済みの複数のプロジェクトにおける工程の進捗実績のデータを用いることにより、第1及び第2のマイルストンを簡易な処理によって決定することができる。
【0025】
上記の態様において、前記各第1のマイルストンおよび前記各第2のマイルストンは、前記完了済みの複数のプロジェクトのうち、前記第2工程の工期が最も短いプロジェクトの前記進捗実績のデータに基づき決定されるとよい。
【0026】
この態様によれば、適切な第1及び第2のマイルストンを簡易な処理によって決定することができる。
【0027】
上記の態様において、完了済みの複数のプロジェクトについて、それぞれ前記進捗実績のデータを蓄積し、前記影響評価モデルは、前記蓄積された進捗実績のデータに基づき決定されるとよい。
【0028】
この態様によれば、完了済みの複数のプロジェクトにおける工程の進捗実績のデータに基づき、先行する第1工程の進捗が後続の第2工程の進捗評価指標に及ぼす影響を表すモデルを容易に取得することができる。
【0029】
上記の態様において、前記影響評価モデルは、前記蓄積された進捗実績のデータと第2工程の前記進捗評価指標との関係を学習した第3の機械学習モデルであるとよい。
【0030】
この態様によれば、第3の機械学習モデルを用いることにより、第2工程の修正評価指標を簡易な処理によって算出することができる。
【0031】
上記の態様において、前記修正評価指標は、基準時点から前記各第1のマイルストンまでの第1マイルストン期間と、前記基準時点から前記各第2のマイルストンまでの第2マイルストン期間と、前記各第1マイルストン期間およびそれに対応する前記各第2マイルストン期間の差分と、に基づき算出されるとよい。
【0032】
この態様によれば、各第1マイルストン期間および各第2マイルストン期間ならびにそれらの差分に基づき、簡易な処理によって修正評価指標を算出することができる。
【0033】
上記の態様において、前記第1工程の前記進捗実績のデータにおいて、前記第1マイルストンの時期に遅れが生じた場合、前記第2工程の前記進捗計画のデータにおいて対応する前記第2マイルストンの時期を、前記遅れが生じた前記第1マイルストンの時期以降に変更するとよい。
【0034】
この態様によれば、第1工程における第1マイルストンに遅れが生じた場合に、第2工程における第2マイルストンの第1マイルストンに対する相対的な実行時期が不必要に早まることを回避することができる。
【0035】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、プロジェクトの進捗予測の処理を実行するプロセッサを備えた進捗予測装置であって、前記プロジェクトは、少なくとも1つの工程を含み、前記プロセッサは、前記工程の進捗度およびそれに対応する実行時期を含む進捗計画のデータを取得し、前記進捗計画における完了済みの部分の進捗度およびそれに対応する実行時期を含む進捗実績のデータを取得し、前記進捗実績のデータに基づき、前記工程の基準時点から所定の進捗度を達成した所定時点までの実績期間を算出し、前記進捗計画のデータに基づき、前記工程の前記基準時点から前記所定の進捗度と同一の進捗度が達成される時点までの計画期間を算出し、前記実績期間および前記計画期間に基づき、前記工程の進捗に関する進捗評価指標を算出し、前記進捗評価指標に基づき、前記所定時点以降における前記進捗実績のデータを予測する構成とする。
【0036】
この態様によれば、実行中のプロジェクトにおける工程の所定時点(すなわち、中間地点)において、所定時点以降の進捗実績のデータ(すなわち、期日を含む進捗)を簡易な処理によって予測することができる。
【0037】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、プロジェクトの進捗予測の処理をコンピュータに実行させる進捗予測プログラムであって、前記プロジェクトは、少なくとも1つの工程を含み、前記コンピュータに、前記工程の進捗度およびそれに対応する実行時期を含む進捗計画のデータを取得させ、前記進捗計画における完了済みの部分の進捗度およびそれに対応する実行時期を含む進捗実績のデータを取得させ、前記進捗実績のデータに基づき、前記工程の基準時点から所定の進捗度を達成した所定時点までの実績期間を算出させ、前記進捗計画のデータに基づき、前記工程の前記基準時点から前記所定の進捗度と同一の進捗度が達成される時点までの計画期間を算出させ、前記実績期間および前記計画期間に基づき、前記工程の進捗に関する進捗評価指標を算出させ、前記進捗評価指標に基づき、前記所定時点以降における前記進捗実績のデータを予測させる構成とする。
【0038】
この態様によれば、実行中のプロジェクトにおける工程の所定時点(すなわち、中間地点)において、所定時点以降の進捗実績のデータ(すなわち、期日を含む進捗)を簡易な処理によって予測することができる。
【発明の効果】
【0039】
以上の態様によれば、実行中のプロジェクトにおける工程の中間地点において、その後の期日を含む進捗を簡易な処理によって予測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】第1実施形態に係るプロジェクトの進捗予測システムの全体構成図
【
図2】第1実施形態に係る進捗予測サーバの機能ブロック図
【
図3】プロジェクトにおける1つの工程に関する進捗計画の一例を示す説明図
【
図6】第1実施形態に係る工程のリソース変更後の進捗実績のデータに関する説明図
【
図7】第1実施形態に係る進捗予測サーバによる進捗予測処理の流れを示すフロー図
【
図8】第2実施形態に係る進捗予測サーバの機能ブロック図
【
図9】プロジェクトに含まれる2つの工程の進捗計画におけるマイルストンの対応づけ処理を示す説明図
【
図10】先行するプロジェクトが後続のプロジェクトに及ぼす影響を示す説明図
【
図11】第2実施形態に係る工程のリソース変更後の進捗実績のデータに関する説明図
【
図12】第2実施形態に係る進捗予測サーバによる進捗予測処理の流れを示すフロー図
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るプロジェクトの進捗予測方法、進捗予測装置、及び進捗予測プログラムについて説明する。
【0042】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係るプロジェクトの進捗予測システム1の全体構成図である。
図2は、
図1に示した進捗予測サーバ2の機能ブロック図である。
図3は、プロジェクトにおける1つの工程に関する進捗計画の一例を示す説明図である。
図4は、SPI値の算出に関する説明図である。
図5は、進捗実績のデータの予測に関する説明図である。
図6は、リソース変更後の進捗実績のデータに関する説明図である。
【0043】
なお、
図3-
図6のグラフに示された各データの値(すなわち、データの集合によって表される直線または曲線の形状)は、本実施形態の理解を容易とする目的で示されたものであり、実際のプロジェクトにおけるデータの値(直線または曲線の形状)とは必ずしも整合しない。
【0044】
図1に示すように、進捗予測システム1は、実行中のプロジェクトの今後の進捗を予測する処理を行う進捗予測サーバ2(進捗予測装置の一例)と、プロジェクトの管理者等のユーザによって使用される複数のユーザ端末3とを備える。各ユーザ端末3は、インターネット等のネットワーク4を介して進捗予測サーバ2と通信可能である。各ユーザ端末3は、PC、タブレット端末、及びスマートフォンなどのコンピュータから構成される。
【0045】
本実施形態では、進捗予測システム1が建設プロジェクトに適用された例について説明する。ただし、進捗予測システム1(または進捗予測サーバ2)は、他の任意のプロジェクトに適用され得る。また、本実施形態については、プロジェクトに含まれる1つの工程に注目して説明する。
【0046】
進捗予測サーバ2は、
図2に示すように、制御部11、記憶部12、及び通信部13を有する。
【0047】
制御部11において、進捗計画データ取得部21は、プロジェクトに含まれる工程の進捗計画のデータを取得する。
【0048】
例えば
図3に示すように、進捗計画のデータには、処理対象の工程の進捗度(縦軸を参照)およびそれに対応する実行時期(横軸を参照)のデータが含まれる。本実施形態において、実行時期は、対応する進捗度を達成した時点における基準時点(例えば、プロジェクト開始日)からの経過日数である。
図3では、プロジェクトの開始日(期間=0日、進捗度=0%)から完了日(期間=X
E日、進捗度=100%)までの進捗計画のデータが示されている。建設プロジェクトにおいて、基準時点は、例えば、設計完了日、顧客による設計図の確認完了日、又は建設に必要な資材が建設現場に到達した日であり得る。
【0049】
建設プロジェクトにおいて、工程の進捗度は、例えば、できあがった建設物(部分的に完成した建設物を含む)に関する重量、長さ、または容積などによって表すことができる。例えば、基礎工事に関する工程では、使用予定のコンクリートの全容量に対する実際に使用されたコンクリートの容量(使用量の割合)によって進捗度を決定することができる。なお、建設プロジェクト以外のプロジェクトについても同様に、数値化された進捗の指標を用いて工程の進捗度を決定することができる。
【0050】
進捗計画データ取得部21は、進捗計画のデータを、過去に実施された複数のプロジェクトの実績データ(以下、「過去実績データ」という。)に基づき取得することができる。それら過去のプロジェクトとしては、処理対象のプロジェクトと同一または類似のプロジェクトであって、許容範囲を超える遅延が生じていない正常に実行されたプロジェクトが選定されるとよい。特に、それら過去のプロジェクトとしては、リソースの追加なしにプロジェクトの開始から完了まで(工期)が最短であった実績データであるとよい。進捗計画のデータは、過去のプロジェクトの実績データと同一であってもよいし、ユーザによって実績データの一部が修正されたものであってもよい。過去実績データは、プロジェクトデータ28の一部として記憶部12に予め格納(または蓄積)される。
【0051】
また、進捗計画データ取得部21は、機械学習によって得られた学習モデルである進捗計画取得モデル31(第1の機械学習モデルの一例)を利用して進捗計画のデータを取得してもよい。進捗計画取得モデル31は、過去実績データにおける各工程の進捗度と、それに対応する実行時期との関係を示す教師データを用いて機械学習を行うことによって得られる。進捗計画取得モデル31は、進捗予測サーバ2が利用可能な学習モデル30の1つとして予め記憶部12に格納される。
【0052】
なお、処理対象のプロジェクトと同一または類似のプロジェクトに関する過去実績データが存在しない場合には、進捗計画データは、処理対象のプロジェクトのために新たに作成されるデータであってもよい。この場合、進捗計画データは、処理対象のプロジェクトに含まれる工程について、予測される進捗及びそれに対応する実行時期に基づいて作成され得る。
【0053】
進捗計画データ取得部21は、ユーザ端末3からのリクエストに応じて、
図3に示したような進捗計画に関する画面データをユーザ端末3に送信することができる。これにより、ユーザは、ユーザ端末3のディスプレイに表示された進捗計画に関する画面によってプロジェクトの進捗計画を確認することができる。また、進捗予測サーバ2からユーザ端末3に対して複数の進捗計画の候補に関する画面データが送信され、ユーザが、ユーザ端末3の操作によりそれら進捗計画の候補から進捗計画データを決定してもよい。
【0054】
進捗実績データ取得部22は、実行中のプロジェクトに関し、処理対象の工程の進捗計画における完了済みの部分の進捗実績のデータを順次取得する。進捗実績のデータには、進捗計画データと同様に、処理対象の工程の進捗度およびそれに対応する実行時期の実績に関するデータが含まれる。取得された進捗実績のデータは、プロジェクトデータ28の一部として記憶部12に順次格納される。なお、進捗実績のデータの少なくとも一部は、ユーザによって入力されたデータであってもよい。
【0055】
実績SPI(Schedule Performance Index)算出部23は、処理対象の工程の進捗に関する評価指標としてSPI値(進捗評価指標の一例)を算出する。
【0056】
ここで、例えば
図3に示した上述の進捗計画に対して、工程の中間地点で進捗実績に遅れが生じている場合を考える。このとき、実績SPI算出部23は、例えば
図4に示すように、中間地点(期間=X2の時点)において、進捗実績のデータ(実線を参照)に基づき、工程の基準時点(ここでは、プロジェクト開始日)から所定の進捗度(ここでは、Y1)を達成した時点(プロジェクトにおける工程の中間地点)までの実績期間(ここでは、X2)を算出する。実績期間は、進捗実績における進捗度Y1に対応する実行時期に相当する。
【0057】
また、実績SPI算出部23は、進捗計画のデータ(
図3中の破線を参照)に基づき、その実績期間に対応する進捗度(ここでは、Y1)と同一の進捗度が達成される時点までの計画期間(ここでは、X1)を算出する。計画期間は、進捗計画における進捗度Y1に対応する実行時期に相当する。
【0058】
さらに、実績SPI算出部23は、それら実績期間および計画期間に基づき、その中間地点におけるSPI値を算出する。
【0059】
実績SPI算出部23は、例えば、次の式(1)に基づき、実績期間に対する計画期間の比としてSPI値を算出することができる。
SPI値=X1/X2 ・・・(1)
X1:計画期間
X2:実績期間
【0060】
プロジェクトにおける工程の中間地点(SPI値の算出時)において当該工程が計画通りに進んでいる場合、実績期間は計画期間と等しくなり、SPI値=1となる。また、中間地点において工程が計画よりも早く進んでいる場合には、SPI値>1となり、
図4に示すように工程に遅延が生じている場合には、SPI値<1となる。
【0061】
進捗予測部24は、SPI値に基づき、中間地点以降における進捗実績を予測することにより、予測された進捗実績のデータを生成する。例えば、進捗予測部24は、中間地点において算出されたSPI値が今後も一定であると仮定することにより、中間地点以降の進捗実績(工程の進捗度およびそれに対応する実行時期)を予測することができる。
【0062】
進捗予測部24は、上述の
図4においてSPI値を算出した中間地点(ここでは、期間=X2)以降の進捗実績を、例えば
図5(一点鎖線を参照)に示すように予測できる。
【0063】
さらに、進捗予測部24は、予測した中間地点以降の進捗実績のデータに基づき、プロジェクト(工程)に遅延が生じているか否かを判定する。プロジェクトの遅延は、例えば、予測された進捗実績における工程の完了日が予め設定された基準完了日を超えているか否かによって判断できる。そのような基準完了日としては、進捗計画における処理対象の工程の完了日が用いられるか、或いは、進捗計画における処理対象の工程の完了日に所定の予備期間(遅延が許容される期間)を加算して得られた日が用いられ得る。
【0064】
進捗予測部24は、プロジェクトの遅延が生じていると判定した場合、さらにプロジェクトのプロダクティビティ(生産性)を算出する。プロダクティビティは、中間地点における処理対象の工程への入力に対する出力の比(プロダクティビティ=出力/入力)である。入力としては、工程に投入された工数(人員×労働時間)を用いることができる。また、出力としては、できあがった建設物(部分的に完成した建設物を含む)に関する重量、長さ、または容積などを工数に換算したものを用いることができる。
【0065】
進捗予測部24は、算出したプロダクティビティが1(またはその近似値)の場合、SPI値を大きくするように、プロジェクトに必要なリソースを追加する必要があると判定する。建設プロジェクトの場合、リソースには、例えば、作業員や建設機械の数などが含まれる。一方、進捗予測部24は、算出したプロダクティビティが1未満の場合、進捗計画の見直し(施工方法の変更を含む)を検討する必要があると判定する。進捗予測部24は、プロジェクトの遅延が生じているか否かの判定結果および算出したプロダクティビティの値をユーザ端末3に送信することができる。これにより、ユーザは、リソースの追加や、進捗計画の見直しが必要であることを認識することができる。
【0066】
リソース算出部25は、進捗予測部24によってリソースの追加が必要であると判定された場合に、中間地点以降の工程に必要なリソース(すなわち、遅延を修正するためのリソース)を算出し、進捗計画において設定されていたリソースを変更する(すなわち、リソースの追加投入を設定する)。
【0067】
リソース算出部25は、機械学習によって得られた学習モデルであるリソース算出モデル32(第2の機械学習モデルの一例)を利用して必要なリソースを算出することができる。リソース算出モデル32は、過去実績データにおける各工程に投入されたリソースと、そのリソースが投入された後の工程の工期(リソースの投入によって実行時期が前倒しされた日数を含む)との関係を示す教師データを用いて機械学習を行うことによって得られる。リソース算出モデル32は、進捗予測サーバ2が利用可能な学習モデル30の1つとして予め記憶部12に格納される。
【0068】
進捗予測部24は、リソース算出部25によって変更されたリソースに基づき、修正されたSPI値(修正評価指標の一例)を算出することができる。さらに、進捗予測部24は、修正したSPI値に基づき、中間地点以降における進捗実績のデータを再予測することにより、修正された進捗実績の予測データを生成することができる。これにより、修正後の進捗実績のデータは、
図6(太い実線を参照)に示すように、上述の
図5において予想された進捗実績のデータ(一点鎖線を参照)から、より工期(完了日までの期間)が短縮されるように推移する。その結果、プロジェクトの管理者は、中間地点においてリソースを変更(追加投入)することにより、予め設定されたプロジェクトの基準完了日までに工程を完了させることが可能となる。また、リソース算出部25は、プロジェクトの基準完了日までに工程を完了させるために必要となる追加リソースと併せて、追加リソースを投入するために必要となる追加コストを算出するようにも構成され得る。この場合、ユーザは、必要となる追加リソースに必要となるコストと、プロジェクトの完了日が遅れることによるリスクとを比較考慮し、追加リソースを投入してプロジェクト進捗を修正するか否かを選択することができる。
【0069】
リソース算出部25は、実際のリソースの変更をユーザに促すために、必要なリソースに関する情報をユーザ端末3に送信することができる。このとき、リソース算出部25は、
図6に示されたような修正された進捗実績の予測データに関する画面データをユーザ端末3に送信することができる。これにより、ユーザは、ユーザ端末3のディスプレイに表示されたその予測データに関する画面により、リソースの追加の有用性を確認することができる。その後、ユーザが、リソースの変更(必要なリソースの追加)を速やかに実行することにより、
図6に示された修正後の進捗実績と同様の進捗実績が得られる。
【0070】
記憶部12は、進捗予測サーバ2の処理に必要なデータや情報を記憶するためのストレージ等のハードウェアによって構成され得る。
【0071】
通信部13は、ネットワーク4を介して進捗予測サーバ2がユーザ端末3等と通信を行うためのアンテナや通信回路等を含むハードウェアによって構成され得る。制御部11は、通信部13によるユーザ端末3等との通信を制御する通信制御部としても機能し得る。
【0072】
進捗予測サーバ2は、公知のハードウェアを備えたコンピュータから構成される。進捗予測サーバ2は、1以上のプロセッサ、メモリ、ディスプレイ、入力機器、ネットワークインタフェース、及びストレージ等の公知のハードウェアを適宜備える。制御部11における各部21-25の機能の少なくとも一部は、プロセッサが所定の制御プログラム(進捗予測プログラムの一例)を実行することにより実現可能である。なお、進捗予測システム1では、上述の進捗予測サーバ2の機能の少なくとも一部を、複数のコンピュータが協働することにより実現してもよい。
【0073】
進捗予測システム1において、ユーザは、ユーザ端末3を介して進捗予測サーバ2を操作することが可能である。ただし、進捗予測サーバ2は、ユーザによって直接操作されてもよい。その場合、進捗予測サーバ2は、スタンドアロン方式であってもよく、また、ユーザ端末3は省略されてもよい。
【0074】
図7は、第1実施形態に係る進捗予測サーバ2による進捗予測処理の流れを示すフロー図である。
【0075】
進捗予測処理では、まず、進捗予測サーバ2は、処理対象の工程に関する進捗計画のデータおよび現時点(中間地点)での進捗実績のデータをそれぞれ取得する(ST101、ST102)。
【0076】
次に、進捗予測サーバ2は、進捗実績のデータに基づき算出した実績期間と、進捗計画のデータに基づき算出した計画期間とに基づき、現時点でのSPI値を算出する(ST103)。
【0077】
続いて、進捗予測サーバ2は、進捗計画のデータおよびSPI値に基づき、今後(中間地点以降)の進捗実績を予測する(ST104)。さらに、進捗予測サーバ2は、今後の進捗実績の予測結果に基づき、リソースの変更(リソースの追加)が必要か否かを判定する(ST105)。
【0078】
そこで、リソースの変更の必要がない場合(ST105でNo)、進捗予測処理は終了する。一方、リソースの変更が必要である場合(ST105でYes)、進捗予測サーバ2は、必要なリソースを算出し(ST106)、ユーザ(ユーザ端末3)に対してリソースの追加を指示する。これにより、ユーザは、プロジェクトにおけるリソースの変更を実行する。
【0079】
このような第1実施形態に係る進捗予測システム1によれば、実行中のプロジェクトにおける工程の所定時点(すなわち、中間地点)において、所定時点以降の進捗実績のデータ(すなわち、期日を含む進捗)を簡易な処理によって予測することができる。
【0080】
(第2実施形態)
図8は、第2実施形態に係る進捗予測サーバ2の機能ブロック図である。
図9は、プロジェクトに含まれる2つの工程の進捗計画におけるマイルストンの対応づけ処理を示す説明図である。
図10は、先行するプロジェクトが後続のプロジェクトに及ぼす影響を示す説明図である。
図11は、工程のリソース変更後の進捗実績のデータに関する説明図である。
【0081】
なお、第2実施形態に係る進捗予測システム1に関し、第1実施形態と同様の構成要素については、同一の符号を付すことにより詳細な説明を省略する。また、第2実施形態に係る進捗予測システム1について、以下で特に言及しない事項については、第1実施形態の場合と同様である。
【0082】
上述の第1実施形態では、プロジェクトに含まれる工程の1つに注目したが、プロジェクトに複数の工程(ここでは、2つの工程)が含まれる場合、先行するA工程(第1工程の一例)の進捗が後続のB工程(第2工程の一例)の進捗に影響を及ぼす場合がある。そこで、第2実施形態に係る進捗予測システム1は、そのような複数の工程を含むプロジェクトに適用される。
【0083】
後続のB工程は、A工程が開始された後(すなわち、A工程がある程度進んだ後)に開始される必要がある。建設プロジェクトにおいて、例えば、A工程は、基礎工事に関する工程であり、また、B工程は、基礎工事で設けられた基礎の上に設置される鉄骨の工事に関する工程である。また例えば、A工程が、鉄骨工事に関する工程であり、また、B工程が、鉄骨工事で設置された鉄骨に支持される配管の工事に関する工程であってもよい。
【0084】
進捗予測システム1(進捗予測サーバ2)において、先行するA工程の進捗予測処理については、上述の第1実施形態の場合と同様に実行することができる。一方、B工程の進捗予測処理については、A工程の進捗実績の影響を受けるため、その影響を考慮して実行される必要がある。
【0085】
図8に示すように、第2実施形態に係る進捗予測サーバ2は、第1実施形態の場合と同様に、制御部11、記憶部12、及び通信部13を有する。
【0086】
制御部11において、進捗計画データ取得部21、進捗実績データ取得部22、及び実績SPI算出部23は、A工程およびB工程ついて、それぞれ第1実施形態と同様の処理を順次実行する。また、進捗予測部24は、A工程について、第1実施形態と同様の処理を実行する。
【0087】
進捗予測部24は、A工程の進捗がB工程に及ぼす影響を表すモデルである影響評価モデル35(第3の機械学習モデルの一例)と、進捗予測部24によるA工程に関する進捗実績の予測データに基づき、B工程のSPI値を修正し、その修正されたSPI値に基づきB工程の進捗実績を予測することができる。
【0088】
進捗予測システム1では、進捗予測処理の前に、影響評価モデル35を取得するための準備フェーズが実行される。その準備フェーズでは、例えば、A工程およびB工程の進捗計画における1以上のマイルストン(工程における所定の地点)の対応づけ処理が実行される。
【0089】
マイルストンの対応付け処理では、
図9に示すように、例えば、B工程の開始時点(期間=X1、進捗度=Y(B1))のマイルストンB1と、それに対応する(すなわち、実行時期が重なる)A工程の中間地点(期間=X1、進捗度=Y(A1))におけるマイルストンA1とが対応づけられる。また、例えば、B工程の進捗度の推移(曲線)における変曲点に相当する中間地点(期間=X2、進捗度=Y(B2))におけるマイルストンB2と、それに対応するA工程の中間地点(期間=X2、進捗度=Y(A2))におけるマイルストンA2とが対応づけられる。
【0090】
このようなマイルストンの対応付けは、例えば、過去の同一または類似のプロジェクトにおいて採用されたマイルストンの対応付けに従って実行することができる。特に、マイルストンの対応付けは、許容範囲を超える遅延が生じていない正常に実行された過去のプロジェクトにおいて採用されたマイルストンの対応付けに従って実行するとよい。特に、そのような過去のプロジェクトとしては、プロジェクトの開始から完了まで(工期)が最短であったプロジェクトであるとよい。
【0091】
次に、準備フェーズでは、A工程におけるマイルストンA1、A2(第1のマイルストンの一例)における進捗実績の変化(期日の遅延等)が、それぞれ対応づけられたB工程におけるマイルストンB1、B2(第2のマイルストンの一例)に及ぼす影響を表す影響評価モデル35が生成される。影響評価モデル35は、いわば、先行のA工程のSPI値が後続のB工程のSPI値にどのように伝播するかを算出するSPI値の伝播の程度を同定するモデルとも理解される。影響評価モデル35は、進捗予測サーバ2が利用可能な学習モデル30の1つとして記憶部12に格納される。
【0092】
影響評価モデル35は、数理モデルであってもよいし、機械学習モデルであってもよい。例えば、影響評価モデル35は、数理モデルから構成されてもよい。そのような数理モデルでは、例えば、評価対象のマイルストンに関するB工程(すなわち、後続工程)のSPI値は、B工程と同時並行で進められているA工程(すなわち、先行工程)で得られたSPI値に基づき算出され得る。その場合、B工程のSPI値は、A工程のSPI値に所定の係数を掛けた値や、A工程のSPI値の平方根等であってもよい。或いは、数理モデルでは、A工程が遅れているにもかかわらず、対応するA工程のマイルストンを待たずして(すなわち、予定された開始日よりも早く)B工程が着工された場合には、B工程のSPI値は、B工程の計画期間とその早まった期間とに基づき算出され得る。その場合、B工程のSPI値は、B工程の計画期間にその早まった期間を加算した値に対するB工程の計画期間の比として算出されてもよい。
【0093】
また、影響評価モデル35は、例えば、過去実績データにおける先行工程(A工程に相当)の各マイルストンに関するデータ(進捗計画及び進捗実績における進捗度およびそれに対応する実行時期のデータ)と、後続工程(B工程に相当)の対応する各マイルストンに関するデータとの関係を示す教師データを用いて機械学習を行うことによって得られる。より詳細には、影響評価モデル35は、次のように取得することができる。
【0094】
例えば
図10に示すように、進捗計画においてA工程のマイルストンA1(期間=X1)に対応するB工程のマイルストンB1が、進捗実績において計画よりも早く開始(期間=X1(B)で開始)された場合について考える。
図10におけるA工程およびB工程の進捗計画のデータは、
図9に示したデータと同様である。
【0095】
図10において、B工程の開始時点(期間=X1(B)(第2マイルストン期間の一例))では、A工程がマイルストンA1(期間=X1(A)(第1マイルストン期間の一例))に到達していないため(例えば、B工程の鉄骨工事を行うための基礎が完成していないため)、B工程における作業の進行が阻害される。その結果、B工程に進捗計画以上の時間を要し、余計なリソースがかかってしまったり、B工程の進捗の実績に大きな遅れが生じたりすることになる。
【0096】
この場合、A工程およびB工程における各マイルストンA1、A2、B1、B2に関するSPI値は以下のように算出される。
SPI値(マイルストンA1)=X1/X1(A)
SPI値(マイルストンA2)=X2/X2(A)
SPI値(マイルストンB1)=X1/X1(B)
SPI値(マイルストンB2)=X2/X2(B)
【0097】
影響評価モデル35は、上記のようなA工程のマイルストンA1、A2に関するSPI値と、B工程の対応するマイルストンB1、B2に関するSPI値との関係を示す教師データを用いて機械学習を行うことによって得ることが可能である。
【0098】
また、
図10において、A工程の進捗実績におけるマイルストンA1、A2の実行時期と、対応するB工程の進捗実績におけるマイルストンB1、B2の実行時期との差分ΔX(計画と実績の乖離)は以下のように算出される。
ΔX(マイルストンA1、B1)=X1(B)-X1(A)
ΔX(マイルストンA2、B2)=X2(B)-X2(A)
【0099】
影響評価モデル35は、上記のようなA工程のマイルストンA1、A2およびB工程のマイルストンB1、B2の実行時期の差分ΔXと、B工程の対応するマイルストンB1、B2におけるSPI値との関係を示す教師データを用いて機械学習を行うことによって得ることも可能である。
【0100】
また、機械学習を行うための過去実績データについては、各マイルストンの設定の妥当性も考慮され得る(すなわち、マイルストンが適切に設定された過去実績データのみが学習の対象となり得る)。
【0101】
進捗予測部24は、A工程に関する進捗実績のデータ(予測された進捗実績のデータを含む)と、影響評価モデル35とによってB工程のSPI値を修正することができる。さらに、進捗予測部24は、その修正したSPI値に基づき、B工程の中間地点以降における進捗実績を予測することにより、予測された進捗実績のデータを生成することができる。これにより、修正後の進捗実績のデータは、
図11(太い実線を参照)に示すように、B工程の中間地点(期間=X2(B))の以降において、より工期(完了日までの期間)が短縮されるように推移する。その結果、進捗予測システム1では、B工程を基準完了日までに工程を完了させることが可能となる。
【0102】
図11に示した例では、A工程の進捗実績は修正されていないが、A工程の進捗実績が修正された場合(すなわち、リソースが追加投入された場合)には、その進捗実績の修正にともない、影響評価モデル35によって修正されるB工程のSPI値も変化する。
【0103】
なお、第2実施形態に係る進捗予測システム1では、進捗計画データ取得部21によるB工程に関する進捗計画のデータの取得時には、A工程が既に開始され、かつ、A工程に遅れが生じている場合がある。そのような場合、B工程の進捗計画のデータにおける工程の開始時期(第2マイルストン)は、対応するA工程の第1マイルストンよりも早い時期に設定されることになる。
【0104】
そこで、進捗計画データ取得部21は、A工程の進捗実績のデータに基づき、A工程に遅れが生じており、かつ、A工程が第1マイルストンに到達していないと判定した場合には、B工程の開始時期(第2マイルストン)が、対応するA工程の第1マイルスト以降となるように、取得したB工程に関する進捗計画のデータを修正することができる。この場合、B工程の開始時期を遅らせることになり、プロジェクト全体の完了予定日は当初の計画よりも遅れることになり得るが、B工程を修正後の進捗計画に合わせて実行する(すなわち、B工程のSPI値を一定に保つ)ことにより、B工程自体に要する工期の延長を抑え、過剰なコストの出費を防ぐことができる。
【0105】
図12は、第2実施形態に係る進捗予測サーバ2による進捗予測処理の流れを示すフロー図である。
【0106】
進捗予測処理では、進捗予測サーバ2は、
図7に示したステップST101-ST103とそれぞれ同様の処理であるST201-ST203を実行する。
【0107】
次に、進捗予測サーバ2は、処理対象が後続工程であるか(先行工程の影響を受けるか)否かを判定する(ST204)。そこで、処理対象が後続工程である場合には、進捗予測サーバ2は、ステップST203で算出したSPI値を、先行工程について予測された進捗実績のデータと、影響評価モデル35とに基づき修正する(ST205)。一方、処理対象が後続工程でない(先行工程の影響を受けない)場合には、進捗予測サーバ2は、ステップST203で算出したSPI値をそのまま用いる。
【0108】
その後、進捗予測サーバ2は、
図7に示したステップST105-ST107とそれぞれ同様の処理であるST207-209を実行する。
【0109】
このような第2実施形態に係る進捗予測システム1によれば、プロジェクトに複数の工程(ここでは、A工程、B工程)が含まれる場合に、工程間の影響を表す影響評価モデルに基づき修正されたSPI値に基づき、B工程の所定時点(中間地点)以降におけるデータを予測するため、先行するA工程の進捗実績の影響を受ける後続のB工程において、所定時点以降の進捗実績のデータを簡易な処理によって予測することができる。
【0110】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態や変形例に限定されることなく、幅広く変形実施することができる。上述の実施形態に示したプロジェクトの進捗予測方法、進捗予測装置、及び進捗予測プログラムの各構成要素は、必ずしも全てが必須ではなく、少なくとも当業者であれば本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。
【符号の説明】
【0111】
1 :進捗予測システム
2 :進捗予測サーバ(進捗予測装置の一例)
3 :ユーザ端末
4 :ネットワーク
11:制御部
12:記憶部
13:通信部
21:進捗計画データ取得部
22:進捗実績データ取得部
23:実績SPI算出部
24:進捗予測部
25:リソース算出部
28:プロジェクトデータ
30:学習モデル
31:進捗計画取得モデル(第1の機械学習モデルの一例)
32:リソース算出モデル(第2の機械学習モデルの一例)
35:影響評価モデル(第3の機械学習モデルの一例)
【要約】
【課題】実行中のプロジェクトにおける工程の中間地点において、その後の期日を含む進捗を簡易な処理によって予測可能とする。
【解決手段】少なくとも1つの工程を含むプロジェクトの進捗予測方法において、工程の進捗度およびそれに対応する実行時期を含む進捗計画のデータを取得し、その進捗計画における完了済みの部分の進捗度およびそれに対応する実行時期を含む進捗実績のデータを取得し、その進捗実績のデータに基づき、工程の基準時点から所定の進捗度を達成した所定時点までの実績期間を算出し、進捗計画のデータに基づき、工程の基準時点から所定の進捗度と同一の進捗度が達成される時点までの計画期間を算出し、実績期間および計画期間に基づき、工程の進捗に関する進捗評価指標を算出し、進捗評価指標に基づき、所定時点以降における進捗実績のデータを予測する構成とする。