(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】磁気マーカ及び磁気マーカの作製方法
(51)【国際特許分類】
G06K 19/07 20060101AFI20240926BHJP
E01F 11/00 20060101ALI20240926BHJP
G06K 19/077 20060101ALI20240926BHJP
G08G 1/00 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
G06K19/07 230
E01F11/00
G06K19/077 296
G08G1/00 X
(21)【出願番号】P 2021561427
(86)(22)【出願日】2020-11-24
(86)【国際出願番号】 JP2020043689
(87)【国際公開番号】W WO2021106880
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2019213747
(32)【優先日】2019-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129654
【氏名又は名称】大池 達也
(72)【発明者】
【氏名】山本 道治
(72)【発明者】
【氏名】長尾 知彦
(72)【発明者】
【氏名】中田 正明
(72)【発明者】
【氏名】藤村 亮太
【審査官】北村 学
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/124196(WO,A1)
【文献】特開2002-063683(JP,A)
【文献】国際公開第2017/187879(WO,A1)
【文献】特許第5096862(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K 19/07
G06K 19/077
G08G 1/00
E01F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に取り付けられた磁気センサで検出できるように路面に敷設され、運転者による車両の運転操作の支援、あるいは運転者の操作に依らない自動運転を実現するための車両側の制御を実現するためのシート状の磁気マーカであって、
磁気発生源である磁石シートと、無線通信により情報を車両側に出力する無線タグと、を有し、
当該無線タグの全部または一部が前記磁石シートの内部に収容されていることを特徴とする磁気マーカ。
【請求項2】
請求項1において、前記磁石シートは、磁性材料の粉末である磁粉が基材中に分散する中間シートを少なくとも2枚貼り合わせて形成され、前記無線タグは、貼り合わせた前記中間シートと前記中間シートとの間に配置されていることを特徴とする磁気マーカ。
【請求項3】
請求項2において、前記無線タグは、情報を処理するための処理回路と、当該処理回路と電気的に接続されて情報が重畳された電波を送受する1次アンテナと、を含み、
該1次アンテナと電気的に非接触の状態で、該1次アンテナが送受する電波を増幅するための2次アンテナとして機能する導電性材料よりなる層を有する磁気マーカ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項において、連続的あるいは断続的な切れ目によって少なくとも2つの領域に区画され、該領域のうちのいずれかひとつの領域の内側に前記無線タグが配置されていることを特徴とする磁気マーカ。
【請求項5】
車両に取り付けられた磁気センサで検出できるように路面に敷設され、運転者による車両の運転操作の支援、あるいは運転者の操作に依らない自動運転を実現するための車両側の制御を実現するための磁気マーカの作製方法であって、
磁性材料の粉末である磁粉が基材中に分散する層を備えるシート状の中間加工品である中間シートを作製する工程と、
無線通信により情報を出力する無線タグを挟んで第1の前記中間シートと第2の前記中間シートとを貼り合わせる工程と、を含む磁気マーカの作製方法。
【請求項6】
請求項5において、前記無線タグは、情報を処理するための処理回路と、当該処理回路と電気的に接続されて情報が重畳された電波を送受する1次アンテナと、を含み、
前記貼り合わせる工程では、前記1次アンテナと電気的に非接触の状態で、該1次アンテナが送受する電波を増幅するための2次アンテナとして機能する導電性材料よりなる層を、前記第1の中間シートと前記第2の中間シートとの間に形成する磁気マーカの作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運転を支援するために道路に敷設される磁気マーカに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両側の磁気センサにより検出可能に道路に敷設される磁気マーカが知られている(例えば、特許文献1参照。)。磁気マーカを利用すれば、例えば車線に沿って敷設された磁気マーカを利用する自動操舵制御や車線逸脱警報などの各種の運転支援のほか、自動運転を実現できる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、磁気マーカの検出により取得できる情報は、磁気マーカの有無や、磁気マーカに対する車両の幅方向のずれ量や、磁極性がN極であるかS極であるか等の情報であり、磁気マーカ側から取得できる情報の量や種類が十分とは言えないという問題がある。
【0005】
本発明は、前記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、より多くの情報を提供可能な磁気マーカを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、車両に取り付けられた磁気センサで検出できるように路面に敷設され、運転者による車両の運転操作の支援、あるいは運転者の操作に依らない自動運転を実現するための車両側の制御を実現するためのシート状の磁気マーカであって、
磁気発生源である磁石シートと、無線通信により情報を車両側に出力する無線タグと、を有し、
当該無線タグの全部または一部が前記磁石シートの内部に収容されている磁気マーカにある。
【発明の効果】
【0007】
本発明の磁気マーカは、無線通信により情報を出力する無線タグを備えている。そして、この磁気マーカでは、磁石シートの内部に無線タグの一部または全部が収容されている。無線タグを備える磁気マーカによれば、磁気マーカの所在のほか、無線通信により、より多くの情報を車両側に出力できる。また、無線タグの一部または全部が磁石シートの内部に収容される構成を採用する場合、例えば無線タグの全部が磁石シートの外表面に貼付される構成との比較において、無線タグの耐久性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図4】磁石シートを構成するシート(接地側)の正面図。
【
図12】シート状のライナーによって保持された磁気マーカを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施例1)
本例は、車両に取り付けられた磁気センサで検出できるように路面に敷設されるシート状の磁気マーカ1の例である。この磁気マーカ1は、運転者による車両の運転操作の支援、あるいは運転者の操作に依らない自動運転を実現するための車両側の制御を実現するために利用される。この内容について、
図1~
図17を参照して説明する。
【0010】
図1に例示する磁気マーカ1は、直径100mmの扁平な円形状を呈し、路面への接着接合等が可能な道路用のマーカである。磁気マーカ1の表面には、格子状をなす切れ目1Cが設けられている。この切れ目1Cは、路面に対する磁気マーカ1の接合面に剥離が生じたとき、剥離が生じた領域を分離し、剥離の拡大を防止するために役立つ。
【0011】
磁気マーカ1は、
図2のごとく、直径100mm、厚さ2mmの扁平な磁石シート11の両面に、舗装材料を含む層を設けたマーカである。磁気マーカ1を敷設した際の接地側の層は、舗装材料であるアスファルトを接着材料として利用する接着層185である。敷設時に上面を向くおもて側の層は、舗装材料であるアスファルトに骨材を混入させた防滑層181である。接着層185の厚さは、1mm程度である。防滑層181の厚さは、1mm程度である。
【0012】
防滑層181は、タイヤがスリップするおそれを低減する滑り止めの機能のほか、磁石シート11を保護する保護層としての機能を有している。防滑層181は、滑り止め機能を有する接着テープであるノンスリップテープによる層であっても良い。また、防滑層181に代えて、滑り止めの機能のない保護層を採用しても良い。このような保護層としては、例えば、PET(PolyEthylene Terephthalate)フィルム等がある。また、接着層185に対して離型紙を貼付しておくことも良い。施工の際、離型紙を剥がせて路面に貼り付けることができる。離型紙を採用すれば、保管中や運搬中や施工作業中などにおいて、接着層181の接着力が低下するおそれを抑制できる。
【0013】
磁石シート11は、直径100mm、厚さ1mmのシート11A・Bを貼り合わせて形成されている(
図3参照。)。詳細には、シート11Aとシート11Bとの間には、接着材料等よりなる粘着層が形成されている。シート11A・Bは、中間加工品である中間シートの一例である。シート11A・Bは、磁性材料である酸化鉄の磁粉を基材である高分子材料(非導電性材料)中に分散させた等方性フェライトラバーマグネットを、シート状に形成して得られる。シート11A・Bは、非導電性の高分子材料中に磁粉を分散させたものであるため、電気伝導率が低いという電気的特性を備える。また、シート11A・Bは、最大エネルギー積(BHmax)=6.4kJ/立方mという磁気的特性を備えている。
【0014】
ここで、磁気発生源である磁石シート11の磁気的な特性について簡単に説明する。磁石シート11の表面の磁束密度Gsは45mT(ミリテスラ)である。例えばオフィス等のホワイトボードや家庭の冷蔵庫の扉等に貼り付けて使用されるマグネットシートや、車両ボディに貼り付ける初心者マーク等のマグネットシート等は、表面の磁束密度が20~40ミリテスラ程度である。これらのマグネットシートとの対比によれば、本例の磁気マーカ1が発生する磁力について、金属物を吸着する一般的な磁石としては機能できない程の微弱な磁力であることを直感的に把握できる。
【0015】
車両側の磁気センサの取付高さとしては、路面を基準とした高さ100~250mm程度の範囲が想定される。磁場解析シミュレーションや実測試験等によれば、最も高い250mmの位置に磁気マーカ1が作用する磁気の大きさは、40μT(マイクロテスラ)以上である。40μT程度の磁気は、例えば、MIセンサなどの高感度の磁気センサで確実性高く検出できる。なお、MIセンサは、アモルファスワイヤなどの感磁体のインピーダンスが外部磁界に応じて敏感に変化するというMI(Magneto Impedance)効果を利用する磁気センサである。
【0016】
磁石シート11を構成するシート11Aは、接地側のシートであり、シート11Bは、前記おもて側のシートである。磁石シート11では、無線通信により車両側に情報を提供するためのRFIDタグ(RadioFrequency IDentification、無線タグ)2が、2枚のシート11A・Bの間に挟まれて配設されている。
【0017】
シート11Aの表面には、RFIDタグ2が貼付されていると共に、このRFIDタグ2と電気的に導通しない導電層112が形成されている。本例の導電層112は、導電性インク(導電性材料の一例)である銀ペーストを塗布して形成された銀ペースト層である。導電性インクとしては、銀ペーストのほか、黒鉛ペースト、塩化銀ペースト、銅ペースト、ニッケルペースト等を利用することができる。さらに、スパッタリングや蒸着などにより金属材料よりなる薄い導電層を形成することも良い。
【0018】
導電層112は、スリット窓113を残してシート11Aの表面の全域に亘って設けられている(
図4参照。)。スリット窓113は、幅2.5mm、長さ70mmの隙間である。このスリット窓113は、円形状のシート11Aの径方向に沿って形成されている。なお、スリット窓113の長さを60mmとしても良い。スリット窓113の長さは、60mm~70mm程度とすると良い。RFIDタグ2は、導電層112と電気的に接触しないようにスリット窓113の内側に配置されている。本例では、スリット窓113の端部近くにRFIDタグ2が位置している。導電層112は、RFIDタグ2が送受信する電波を増幅するブースターアンテナ(2次アンテナの一例)として機能する。
【0019】
RFIDタグ2(
図5)は、シート状部材であるタグシート20の表面にIC(Integrated Circuit)チップ27が実装された電子部品である。RFIDタグ2は、外部から無線伝送により供給された電力により動作し、ICチップ27が記憶する情報を無線で送信するように構成されている。RFIDタグ2は、2mm角の大きさで、厚さ0.7mmの正方形のシート状を呈する。RFIDタグ2は、導電層112と電気的に接触しない状態で、スリット窓113(
図3)の端部近くに配置される。
【0020】
タグシート20は、PET(PolyEthylene Terephthalate)フィルムから切り出したシート状部材である。タグシート20の表面には、銀ペーストよりなる導電性インクの印刷パターンであるアンテナパターン231が形成されている。アンテナパターン231は、切り欠きを有する環状を呈し、ICチップ27を配設するためのチップ配設領域(図示略)が切り欠き部分に形成されている。このチップ配設領域にICチップ27を接合すると、アンテナパターン231がICチップ27と電気的に接続される。ICチップ27は、無線通信により送受する情報の処理回路をなしている。アンテナパターン231がなすアンテナ23は、ICチップ27と電気的に接続された状態で、情報が重畳された電波を送受する。
【0021】
アンテナパターン231がなすアンテナ23は、外部からの電磁誘導によって励磁電流が発生する給電用のアンテナとしての役割と、情報を無線送信する通信用のアンテナとしての役割と、を併せ持っている。なお、アンテナパターン231を印刷するための導電性インクとしては、銀ペーストのほか、黒鉛ペースト、塩化銀ペースト、銅ペースト、ニッケルペースト等を利用することができる。さらに、銅エッチング等によりアンテナパターン231を形成することも可能である。なお、上記のブースターアンテナとしての導電層112は、1次アンテナの一例であるアンテナ23と電気的に非接触の状態で、このアンテナ23が送受する電波を増幅するための2次アンテナとして機能する。
【0022】
ICチップ27(
図5)は、メモリ手段であるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を含む半導体素子がシート状の基材の表面に実装された電子部品である。ICチップ27は、車両側に提供する情報を処理する処理回路を含んでいる。RFIDタグ2は、上記のごとく、このICチップ27を上記のタグシート20の表面に貼り付けて作製される。図示しない電極を設けたインターポーザ型のICチップ27の貼り付けには、導電性の接着材のほか、超音波接合やカシメ接合など様々な接合方法を採用できる。
【0023】
なお、タグシート20やICチップ27の基材としては、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂フィルムや、紙などを採用できる。さらにまた、上記ICチップ27としては、半導体素子そのものであっても良く、半導体素子をプラスチック樹脂等によりパッケージングしたチップであっても良い。また、RFIDタグは、本例の構成のものに限定されない。アンテナの形状やICチップの形態やICチップの配置などが異なる各種のRFIDタグを採用できる。
【0024】
本例の磁気マーカ1は、
図1、
図6及び
図7のごとく、格子状の切れ目1Cによって複数の領域に区画されている。切れ目1Cは、接着層185を残して、防滑層181及び磁石シート11を切断するように設けられている。格子状の切れ目1Cのうち、互いに平行をなす切れ目1Cの間隔は14.3mmである。切れ目1Cは、磁石シート11の内部(シート11A・Bの間)に収容されたRFIDタグ2を避けて設けられている。つまり、RFIDタグ2は、格子状の切れ目1Cによって区画されたマス目状の領域のうちのいずれかの領域の内側に配置されている。
【0025】
以上のような構成の磁気マーカ1は、工程P1~P3を含む
図8の手順により作製できる。工程P1は、等方性フェライトラバーマグネットをシート状に形成してシート11A・B(中間シート)を作製する工程である。工程P2は、RFIDタグ2を挟んでシート11A・Bを貼り合わせる工程である。工程P3は、切れ目1Cを形成する工程である。シート11Aには、スリット窓113を設けた導電層112が全面近くに亘って形成されていると共に、スリット窓113の内側に当たるシート11Aの表面にRFIDタグ2が貼付されている。したがって、工程P2を実施すれば、RFIDタグ2が送受する電波を増幅する導電層112を、シート11A・Bの層間に形成できる。
【0026】
工程P3では、例えば、
図9のトムソン型30を利用して切れ目1Cを形成できる。同図のトムソン型30は、直線状のトムソン刃31を、14.3mm間隔で複数並列して設けた型である。磁気マーカ1の載置面(図示略)に対して1mmの隙間となるまで、トムソン型30を近接させる第1のカット工程を実施すると、
図10のごとく、1mm厚の接着層185を残して磁気マーカ1を切断でき、これにより磁気マーカ1を短冊状の領域に区画できる。その後、磁気マーカ1に相対してトムソン型30を90度回転させて第2のカット工程を実施すると、
図11のごとく、上記の第1のカット工程で設けた切れ目1Cに対して直交する切れ目1Cを形成できる。磁気マーカ1の格子状の切れ目1C(
図7参照。)は、例えば、上記のような2回のカット工程によって形成できる。
【0027】
次に、切れ目1Cを設けた磁気マーカ1の利点について説明する。
道路に敷設された磁気マーカは、風雨にさらされ、タイヤに踏まれることもある。磁気マーカ1の使用期間が長期に亘れば、路面に対する接合力が低下し、路面との間に隙間が生じて路面からの剥離が発生するおそれがある。接合面の1カ所に剥離が発生すると、その後、剥離した領域が拡大する可能性が高い。剥離した領域は、加速度的に拡大して磁気マーカ全体の剥がれに至ることもある。
【0028】
一方、本例の磁気マーカ1は、格子状の切れ目1Cによって複数のマス目に区画されている。例えば、接合面の一部に剥離が生じた場合、その一部が属する領域を切れ目1Cによって分離できる。それ故、磁気マーカ1の剥離が拡大する可能性が少なく、一部の剥離が全体の剥がれに至るおそれが少ない。また、マス目状に区画された領域のひとつが分離しても、残った他の領域によって磁気マーカ1の磁気的特性をある程度、維持でき、車両側の磁気マーカ1の利用が不可能になるおそれが少ない。上記のごとく、本例の磁気マーカ1は、路面を基準とした高さ250mmの位置に40μT(マイクロテスラ)以上を作用する。剥離に応じて外周側から分離が生じて磁気マーカが小さくなったとしても、高さ250mmの位置に10μT以上の磁気を作用する状態であれば、車両側で検出可能である。
【0029】
切れ目1Cによって区画された領域は、厚さ3mm程度で14.3mm角程度の薄く小さな片状である。このような薄く小さい角片状の剥離物であれば、塊状の飛散物とは異なり、空気の抵抗によって回転しながら直ちに勢いを失い、遠くまで飛ばない可能性が高い。それ故、磁気マーカ1からの剥離物が車両や人に当たるおそれは極めて少ない。仮にこの剥離物が当たったとしても、その影響度合いは、道路において不可避の飛び石などによる影響よりも軽微である。例えば、大小様々な骨材を混入させた防滑層181を採用することも良い。この場合には、防滑層181の表面を凸凹にでき、これにより、剥離物が回転する際の空気抵抗を大きくできる。剥離物が回転し難くなれば、磁気マーカ1から分離した際に飛散する距離を抑えることができる。層厚にばらつきのある防滑層を採用することも良い。この場合には、防滑層の表面の起伏により剥離物が回転する際の空気抵抗を大きくできると共に、剥離物の重心を偏心させることができ、これにより、剥離物を回転し難くできる。回転し難い剥離物であれば、遠くへ飛散するおそれが少なくなる。
【0030】
また例えば、剥離物の形状を、正方形状よりも慣性モーメントが大きな形状とすることも良い。慣性モーメントの大きな形状であれば、磁気マーカから分離した剥離物が回転し難くなり、遠くまで飛散し難くできる。正方形状よりも慣性モーメントが大きい形状としては、長方形状や平行四辺形状や台形状などが考えられる。剥離物の形状が、対称形状ではなく非対称形状となるように切れ目を設けることも良い。この場合には、剥離物を回転し難くできる。例えば正方形状は、上下に対称であると共に左右にも対称である。左右に対称であるが、上下に非対称な台形であれば、正方形状よりも慣性モーメントが大きくなる。さらに、左右にも上下にも非対称な台形であればさらに慣性モーメントが大きくなる。
【0031】
なお、発明者らは、切れ目1Cが磁気的な特性に与える影響について、実証実験や磁場解析シミュレーションを行っている。その結果として、磁石シート11を区画する切れ目1Cが磁気的特性に与える影響は極めて軽微であって、無視できるレベルにあるという結果が得られている。また同様に、発明者らは、実証実験を通じて、導電層112のアンテナ機能に対して切れ目1Cが与える影響も軽微であり、無視できるレベルにあることを確認している。
【0032】
本例では、接着層185を残して、磁石シート11及び防滑層181を切断する連続状の切れ目1Cを例示している。防滑層181を残して、磁石シート11及び接着層185を切断する切れ目であっても良い。磁石シート11のみを切断する切れ目であっても良い。また例えば、磁石シート11に切れ目を形成して複数の領域に区画した後、両面に防滑層181と接着層185とを形成することも良い。なお、1mm厚の接着層185の半分(0.5mm)を残して、接着層185の残りの半分(0.5mm)、磁石シート11、防滑層181を切断する切れ目を採用することも良い。
【0033】
なお、磁気マーカ1を保持するシート状のライナー100を採用しても良い(
図12)。この場合には、厚さ方向に貫通する切れ目1Cを設けた場合であっても磁気マーカ1が分離することがない。片面をライナー100によって保持された状態の磁気マーカ1を路面に押し付けて接合等したのち、ライナー100を剥がすことで磁気マーカ1を路面に移載できる。この場合には、路面に移載されて接合された状態であれば、磁気マーカ1が分離することなく一体をなす。ライナー100は、磁気マーカ1の防滑層181側の表面を保持すると良い。この場合には、ライナー100ごと、磁気マーカ1を路面に押し付けることができる。なお、ライナー100は、磁気マーカ1を個別に保持する個片状のものであっても良く、複数の磁気マーカ1を保持する連続テープ状のものであっても良い。2枚のシート状のライナーによって挟み込むように磁気マーカを保持しても良い。この場合には、接着層185側のライナーを剥がした後、路面に対して磁気マーカを押し付けると良い。
【0034】
例示した連続的な切れ目1Cに代えて、切断部分1Kと、未切断の部分1Pと、の繰り返しが連なるミシン目のような断続的な切れ目を設けることも良い(
図13)。ミシン目の切断部分1Kは、厚さ方向に貫通していても良いが、防滑層181及び磁石シート11のみを切断しても良く、接着層185及び磁石シート11のみを切断しても良く、磁石シート11のみを切断しても良い。切断部分1Kの長さは、例えば2~5mmで、未切断の部分1Pの長さは例えば1~2mmとしても良い。
【0035】
また、格子状に設けた切れ目1Cに代えて、径が異なる複数の同心円状の切れ目と、複数の同心円状の切れ目によって区画される環状領域を周方向において区画する切れ目(例えば径方向の放射状の切れ目)と、を組み合わせても良い(
図14)。あるいは、
図15のように、渦巻き状の切れ目に対して、径方向の放射状の切れ目を組み合わせることも良い。複数の同心円状の切れ目、あるいは渦巻き状の切れ目のみであっても良い。複数の同心円状の切れ目、あるいは渦巻き状の切れ目の場合、外周側から剥離していく可能性が高い。磁気マーカ1の剥離が生じたとき、磁気マーカ1の外周側から分離でき、その円形状を維持できる。元形状が円形状である磁気マーカ1の形状を維持できれば、磁気マーカ1が周囲に作用する磁気分布の形状的な特性を維持できる。磁気分布の形状的な特性を維持できれば、磁気分布の形状と、磁気マーカの位置と、の関係が一定に近くなる。例えば、磁気センサによる磁気計測値の分布に基づいて磁気マーカの位置を特定する運用がある。磁気マーカに剥離が生じた場合であっても、磁気マーカが周囲に作用する磁気分布の形状の変化が少なければ、磁気センサの位置の特定精度が大きく低下するおそれが少ない。
【0036】
本例では、2枚のシート11A・Bを貼り合わせることで、磁石シート11の内部にRFIDタグ2が収容された磁気マーカ1を作製している。磁石シート11の内部にRFIDタグ2が収容されている磁気マーカ1では、磁石シート11の表面にRFIDタグ2を貼付したり、磁気マーカ1自体の表面にRFIDタグ2を貼付する構成と比べて、RFIDタグ2の耐久性を向上できる。磁石シート11を構成するシート11A・Bが、RFIDタグ2の保護シートとして機能できるからである。
【0037】
本例では、RFIDタグ2が貼付されていると共に導電層112が表面に形成された接地側のシート11Aに対して、おもて側のシート11Bを貼り合わせている。これに代えて、シート11A・Bの一方に導電層を設け、他方にRFIDタグ2を貼付しても良い。シート11A・Bを貼り合わせたとき、導電層に形成されたスリット窓の内側にRFIDタグが位置するよう、スリット窓とRFIDタグとが位置合わせされていれば良い。さらに、内部にRFIDタグ2が収容されている磁石シート11の外表面に導電層112を設けることも良い。なお、導電層112とRFIDタグ2が異なる層に配置される場合、導電層112を磁石シート11の全面に亘って形成しても良い。
【0038】
なお、本例では、導電層112のスリット窓113の端部近くに、RFIDタグ2を配置している。スリット窓113におけるRFIDタグ2の位置については、適宜調整可能である。スリット窓113の長手方向の寸法と、RFIDタグ2が送受信する電波の波長と、の関係により、スリット窓113におけるRFIDタグ2の最適な位置が異なってくる。スリット窓113の寸法と波長との関係を考慮し、スリット窓113の端部近く、スリット窓113の中央付近など、RFIDタグ2の位置を適宜調整すると良い。
【0039】
なお、路面からの剥離に応じて外周側から分離され得るように切れ目1Cを設けた本例の磁気マーカ1の場合、RFIDタグ2の位置は磁気マーカ1の中央近くであると良い。スリット窓の端部近くにRFIDタグ2を配置する際、スリット窓113を円弧状、渦巻き状、あるいは屈曲状に形成し、その端部にRFIDタグ2を配置することも良い(
図16)。この場合には、スリット窓におけるRFIDタグ2の位置的な要件を満たしながら、磁気マーカ1の中央近くにRFIDタグ2を位置させることができる。この場合には、磁気マーカ1の外周側が分離されても、RFIDタグ2に影響が及ぶおそれを低減でき、RFIDタグ2が確実性高く電波を送信できる。円形状の磁気マーカ1の径方向に延設されたスリット窓の長手方向における中央付近にRFIDタグ2を配置することも良い。
【0040】
図17に例示するスリット窓113を、
図3、
図4等で例示したスリット窓113に代えて採用することも良い。同図に例示するスリット窓113の本体部分は、RFIDタグ2よりも幅が狭くなっている。そして、RFIDタグ2を配置するためのタグスペース113Sがスリット窓113の端部に設けられている。このタグスペース113Sは、正方形状のRFIDタグ2よりもひと回り大きい正方形状のスペースである。タグスペース113SにRFIDタグ2を配置すれば、正方形状のRFIDタグ2の外周と、導電層112と、の間に略一定の隙間Gを形成できる。RFIDタグ2と導電層112との隙間Gの寸法を適切に設定すれば、RFIDタグ2の内部のアンテナ23と、導電層112がなす2次アンテナと、の電磁気的な結合度合いを高め、RFIDタグ2による電波の送受信の感度を向上できる。なお、隙間Gの寸法としては、例えば、0.25mm~0.5mm、あるいは0.1mm~1mm程度の寸法を設定できる。特に、
図17のような正方形状のタグスペース113Sであれば、四角形状(正方形状)のRFIDタグ2の4辺全てに面して略一定の隙間Gを配置できる。このように隙間Gを配置すれば、RFIDタグ2の内部のアンテナ23と、導電層112がなす2次アンテナと、の電磁気的な結合度合いをさらに高め、RFIDタグ2による電波の送受信の感度をさらに向上できる。
【0041】
また、等方性フェライトラバーマグネットよりなる円形状の中間シートの表面に、径方向に沿う幅2.5mm、長さ70mmの細長い窪みを設け、その後、窪みを除く表面に導電層112を形成することでスリット窓113を形成することも良い。あるいは、スリット窓113を有する導電層112が形成されたシート11Aにつき、スリット窓113の内側を窪ませる加工を実施することも良い。窪ませる加工としては、例えば、プレス加工や、ざぐり加工などがある。スリット窓113の内側の窪みは、シート11A・Bの間にRFIDタグ2の収容空間を確保するために有用である。
【0042】
また、2枚のシート11A・Bの貼り合わせに代えて、RFIDタグ2をインサート成形することで、RFIDタグ2を内部に収容する磁石シートを作製することも良い。このとき、銅箔などの導電箔をRFIDタグ2と共にインサート成形することも良い。あるいは、RFIDタグ2をインサート成形した磁石シートの表面に導電層を形成することも良い。
【0043】
本例では、ICチップ27とアンテナ23とがタグシート20の表面に配設された一体型のRFIDタグ2を例示し、RFIDタグ2の全部が磁石シート11の内部に収容された構成例を示している。処理回路をなすICチップに対して外部アンテナ(1次アンテナ)が電気的に接続されたRFIDタグの場合であれば、ICチップを磁石シート11の内部に収容する一方、アンテナを磁石シート11の表面等に設けることも良い。あるいは、アンテナを磁石シート11の内部に収容する一方、ICチップを磁石シートの表面等に配置することも良い。このようにRFIDタグの全部ではなく、その一部を磁石シート11の内部に収容することも良い。RFIDタグの一部を磁石シート11の内部に収容する場合、磁石シート11を構成するシート11A・Bによって、そのRFIDタグの一部を保護できる。この場合、RFIDタグの全部を磁石シートの表面に貼付等する場合と比べて、RFIDタグの耐久性を向上できる。
【0044】
本例のシート11A・Bは、電気伝導率が低いという電気的特性を備えている。このようなシート11A・Bの電気的特性は、RFIDタグ2の動作にとって非常に有効に作用する。例えば電磁誘導等によりRFIDタグ2の動作に必要な電力を無線伝送する際、シート11A・Bの内部で渦電流が発生すると電力送信の効率が著しく損なわれる。磁粉を成形したシート11A・Bであれば電気的な内部抵抗が高いので渦電流を抑制でき、効率良く電力を伝送できる。同様に、RFIDタグ2が送信する電波がシート11A・Bの内部で減衰する度合いが低いので、RFIDタグ2の送信電波を車両側で確実性高く受信できる。
【0045】
本例の磁気マーカ1は、磁石シート11の裏面に接着層185を設け、おもて面に防滑層181を設けた磁気マーカである。接着層185あるいは防滑層181に代えて、樹脂材料よりなる樹脂層を設けることも良い。ガラス繊維等に樹脂材料を含浸させた複合材料よりなる層であっても良い。磁気マーカの外周側面に樹脂層を形成することも良い。防滑層185に代えて、屋外環境下での変形、変色、劣化等の変質の度合いが少ない耐候シートを採用することも良い。耐候シートとしては、例えば、紫外線吸収剤を混ぜた樹脂材料よりなるシートを採用しても良い。
【0046】
なお、本例では、切れ目1Cを設けた磁気マーカ1を例示したが、切れ目1Cは必須の構成ではない。切れ目1Cが未形成の磁気マーカ1の場合であれば、磁石シート11におけるRFIDタグ2の位置的な設計自由度は高くなる。
【0047】
以上、実施例のごとく本発明の具体例を詳細に説明したが、これらの具体例は、特許請求の範囲に包含される技術の一例を開示しているにすぎない。言うまでもなく、具体例の構成や数値等によって、特許請求の範囲が限定的に解釈されるべきではない。特許請求の範囲は、公知技術や当業者の知識等を利用して前記具体例を多様に変形、変更あるいは適宜組み合わせた技術を包含している。
【符号の説明】
【0048】
1 磁気マーカ
1C 切れ目
11 磁石シート
11A・B シート(中間シート)
112 導電層(2次アンテナ)
113 スリット窓
181 防滑層
185 接着層
2 RFIDタグ(無線タグ)
20 タグシート
23 アンテナ(1次アンテナ)
27 ICチップ(処理回路)